糞スレ創作at MITEMITE
糞スレ創作 - 暇つぶし2ch50:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:37:02 DkebLmrh

不意に炎が揺らめくと、輸送部隊の動きが止まり、その場で反転し始める、
それを見たフェルダーの表情に焦りの色が浮かぶ。

「くっ、動きが急すぎる、まだ前列は俺達の所まで届いてないってのに、
仕方がない、このまま突っ込むぞ」

最後尾で待機していた傭兵達が前列の動きを待たずして、攻撃を始めると
ようやく正規兵が合図を出した、フェルダーが口元に手をやり、頭を低くして腕を振り上げる、
俺達は取り外していた銅柱を接続し稼動すると、静かに輸送隊へと近付いていく。

「何だ、一体どうした?」

「後続の馬車が襲われ……かッ!!」

ヒュゾッ!

報告を伝えに来た伝令にルロワの放った槍が食い込むと、
馬から投げ出されるようにその場から崩れ落ちる、ルロワは後方に待機していた、
マルケスの頭を小突くと催促を加えた。

「早く装填しろよ……ノロマッ!」

「て、手が震えて巧く入らないよ、あっ、敵が出てきたっ!?」

前列の馬車の荷台から兵士達が次々と降りて来るとルロワ達に向かって弓矢を放つ、
シュタインが装甲で鏃を弾きながら間に割って入ると、降りてきた敵兵士を次々と斬り伏せる。

「シュタイン!」

「フェルダーがお前等を援護しろってよ、ここから先は俺が一人で食い止める
お前等はそこで御飯事でもしてな……」

「くっ、早くしろマルケスッ!」

マルケスから装填された射出槍を受け取り、的を絞り発射すると
シュタインの脇をすり抜けるように戦線を離脱しようとしていた、敵兵の頭蓋を吹き飛ばした。

フェルダーと俺は併走しながら兵員輸送車を捜していた、一両の荷台の脇につくと、
突然の停車に状況を把握できていない敵兵が荷台から顔を出す、フェルダーが俺の顔を見て小さく頷くと、
車輪の手前に取り外した装甲板を敷き剣を滑り込ませ、梃子の原理で荷台を持ち上げていく。


51:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:37:49 DkebLmrh

両者の力で荷台を横転させると、荷台から慌てて抜け出す敵兵を出会い頭に斬り伏せ
荷台の中へと進入する、一人の兵士に歩み寄ると、負傷した足を抱え後退りながら懇願するかのように命乞いをしている。
俺はそのまま敵の喉下に剣を突き立てると、横に振りながら首を刎ねた。

「こっちだ……敵がいたぞ!」

「!?」

荷台から出て来た所に敵の鉄装歩兵が現れる、フェルダーは片膝立ちに射出槍を構え、
飛び道具を持っている敵に向かい槍を放つ、命中した敵歩兵は、軽装の兵士を巻き込みながらその場で爆散する。


俺は不意をつくように敵の元へと走り抜け、敵鉄装歩兵と斬り合いになる、剣と剣が宙空で克ち合い火花を散らす、
こいつも俺と同じ剣奴なのだろうか?しかし俺の剣に迷いはない……例え他人を地獄の釜に突き堕としてでも。
斬戟の衝撃で敵がその場で倒れ込むと、上から覆い被さるように剣を突き立て、柄に接続された銅柱を捻る。

「あがぁぁッ!!」

突き立てた剣先が高速で発射され相手の装甲をベニヤのように貫く、俺が素早くその場から飛び退くと、
何かが漏れ出すような音が周囲に響き、見る間に敵兵は激しい爆発を起こし、衝撃で馬車を横転させた。
フェルダーが身を前に乗り出し、俺に停止するよう手を下げる。

「後は先行した他の剣奴と傭兵連中に任せよう、しかし大した腕だなカルロ、
傭兵でもそこまで動ける奴は滅多にいない……」

「慣れてるからな」

その言葉を聞いたフェルダーの体が揺れる、周囲は次第に静まり返り、待機していたシュタイン達も駆けつける、
俺達は形を変え徐々に広がっていく炎を遠巻きに見ながら、その場で立ち尽くしていた。
俺は今日も誰かに生贄を捧げ懇願する、せめて明日だけでも生きていられるようにと……


52:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:38:37 DkebLmrh

俺達は掘っていた穴を元に戻し、本体の到着を待ち兵車の中で待機していた、マルケスは敵の補給物資を物色し、
他の剣奴達も賢くなったのか、金目の物には手をつけず、日持ちのいい食物や水を優先的に奪取する。
やがて袋をパンパンにして抱えたマルケスが、満足げな表情を浮かべ戻ってきた。

「沢山盗ってきたよ、みんなで食べよう」

ルロワが目を細めマルケスを睨みつけると、警告を促した。

「こういう時だけは調子良いな、お前は……
昨日も戦闘が終わるまで動かなかっただろ?あんな調子じゃ、こっちが足引っ張られるよ」

「マルケスは昨日、砲撃を脚に食らって負傷してたのさ、無理を言うもんじゃないよ」

肩を落とすマルケスを慰めるようにフェルダーが庇うと、マルケスは頬を赤く染めて、フェルダーの傍に腰を落とす。
ルロワは釈然としない様子で配られてきたパンに噛り付くと、水で喉奥まで流し込んだ。
シュタインが干し肉を奥歯で噛み千切りながら、フェルダーに向かい話しかける。

「いよいよ、明日は敵陣へ突入って訳か、俺らはどうやって動けばいいんだ、
今日みたいに、一日中地面に転がってるのは御免だぜ?」

「ん……そうだな、今度は敵の中継拠点を攻め落とす訳だから、恐らく昨日と同じように、槍や砲弾で敵は反撃してくるだろう。
だが、攻撃を一方向へと絞らせず、挟撃を仕掛ける手筈なら、恐らく俺達は斥候として……」

俺はフェルダーの続く言葉を遮るように、話の間に割ってはいる。

「つまり、俺達は敵の攻撃を引き付ける囮役か?」

「そうだな、そう考えていいだろう、無理に前へ進む必要はない、もう一方の部隊が攻撃を開始するまで
敵に射線を絞らせないように動き回りながら、何とか膠着状態へと持ち込むんだ」

シュタインが溜め息を付きつつその場で横になる、勝利して待遇が改善される訳ではない、
今日を生き延びたとしても、俺達はただの消耗品に過ぎないのだから。

各々が頭をもたげ、マルケスはフェルダーの傍に寄り添うように静かに眠っている。
今日一日を戦い、皆は僅かばかりの安息の時を手に入れ、俺は水袋に入った水を呷るように一口だけ口に含んだ。


53:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/18 20:39:33 +6LXbosP


54:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:39:58 DkebLmrh

轍を踏み走る馬車の音、木々のざわめく音と共に俺は目覚める、
顔を上げると、皆は各々準備に取り掛かかり、フェルダーとマルケスは装備の点検をしているようだ。
使えなくなった装甲板から銅柱を取り外し、石を細かく磨り潰した砂と水を入れると釘で孔を塞ぐ。

「あぁ、起こしちゃったかな、余った銅管を使って、手投げ弾を作ってた所なんだ」

「そんな材料が良く手に入ったな」

マルケスが袋一杯の小石を取り出して俺に見せてくる、どうやら先日の略奪品の一部のようだが、
その石がどんな物であるのかはよく分からない。

「臙脂石だよ、こうやって水に触れると蒸発しちゃうんだ、
この石をこうやって密封した容器に入れて水を注いで釘で蓋をする、中で充満したら
釘を抜いてこうやって投げる……」

マルケスが実演しながら投げた銅柱が、窓枠から車外に放り出されると、
小さな爆発音が聞こえた、恐らく鉄鎧の駆動方式もこの石の応用技術なのだろう。
フェルダーが作業を続けながら思いがけないことを口にする。

「石の量と水の配合比率で爆発の力は制御できるからな、鉄装歩兵相手には効かないが、
軽装歩兵を倒すくらいの威力はある、それに……この石があれば、あの鎧の稼働時間を引き延ばすことも可能だ」

「そいつぁいい、これで脱走の手筈が整ったって訳だ」

シュタインがマルケスの私物を漁りながら小声で冗談交じりに答える、彼としてはこのまま剣奴として朽ちる気はないという事か、
俺が黙々と作業を続けるフェルダーに目を向けると、否定することもなく口を吊り上げて笑い、俺もそれに答えるように笑った。
仮に脱出したとしても、戦時の最中、追手も深追いしては来ないだろう。

「ん、マルケス……なんだこりゃ、ヘッドドレスか?どこのお嬢様の私物漁ってきたんだ」

シュタインが笑いながら女物のフリルのついたヘッドドレスを取り出すと、
未だに眠り扱けているルロワを見て、にやりと笑みを浮かべ、寝入っている隙に取り付け始める。

「見ろよマルケス、結構似合ってるぜ、ハハッ!」

「あはは、本当だ」

「こうやって澄ましてる時は綺麗なんだけどなこいつは…てゆうかよ、干し肉切れちまったのか?」

ルロワの体がピクリと揺れると見る間に顔が紅潮していく、シュタインは目当ての物を探しながら荷物を漁り続ける。
不意に前との敷居戸が開くと、前方の兵士から現場到着を伝える声が聞こえてきた。

「間もなく到着だ!戦闘態勢に入れ!!」


55:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:41:39 DkebLmrh

【アルメンテ奪還作戦】



馬から切り離された兵車が坂を緩やかに下っていく、『棺桶』の蓋が開き俺達は側面から兵車を飛び降りると、
その場で左右の方向へと散開した。友軍の旗を立てていた俺達の偽装を見破った敵陣から弓と槍が降り注ぐ。
右手へと展開したシュタインに向かい槍が放たれると、俺は射線を塞ぐように盾を斜めに構え、槍の軌道を逸らす。

「シュタイン、反撃を頼む…弓は後回しにして槍と砲台を狙え」

「了解……こ、これで良いのか」


シュタインの放った射出槍が見当違いの方向へと飛んでいく、俺がシュタインの方に顔を向けると、
入れ替わりに盾を持たせた。

「俺ァ、こういうの苦手なんだよ……」

「何、誰でも一つくらいは不得手はあるさ」

俺は筒に槍を装填し軽く捻る、射出槍を構えた軽装歩兵に照準を合わせ引き金を引くと
槍の先端が見張り台の上に立つ敵の胸元を捉え、敵はバランスを崩しながらそのまま地面へと落下した。

「カルロ、シュタイン!敵の砲台が動き始めたぞ、気を付けろ!!」

フェルダーの警告の後、後方に展開していた剣奴達に一発の砲弾が浴びせられる、
直撃を受けた盾役はその場で潰され爆発すると、周辺に立っていた剣奴が誘爆し粉々に砕け散った。


「まず、あの砲台を何とかしないことには埒があかない、ルロワいけそうか?」

「無理言うなよフェルダー、この槍じゃ……砲座は壊せない」

後方に待機していたマルケスが射出槍を銅管の付いたものに取り替えると、ルロワにその槍を手渡す、
ルロワは受け取った槍を肩につけ照準を合わせ、即座に砲台に向かい引き金を引くと、
飛来した槍が砲座へと飛び込み、銅管が爆発した。

「一発じゃ無理だ、マルケス急げッ!!」

こちら側の行動を察知した、もう一台の砲台がフェルダーのいる場所へと砲撃を加えると、
三人のいた場所の脇に被弾し、フェルダー達が吹き飛ばされる。


56:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/18 20:42:54 +6LXbosP


57:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:43:46 DkebLmrh

「フェルダーッ!…シュタイン、援護に向かってくれ!」

「何?盾はどうすんだ?」

「俺は必要ない、こっちで何とかする」

「だ、だがよ……」

シュタインの肩を叩くと、俺はそのまま両手に剣を持ち、坂を駆け下り始める。

「死ぬんじゃねぇぞ、カルロ!」

後方から呼びかけるシュタインの言葉を聞きながら、俺は身を低くして敵陣内へと飛び込んだ、
丸太と板を組んだ柵の隙間から槍の攻撃がつぶさに飛んでくると俺は身を翻し剣先を隙間へと向け剣先を射出する。


剣先が隙間から狙っていた歩兵を捉えると半身を切断し、俺は崩れ落ちた兵車の後ろへと一旦身を隠す、
しかし、この程度の強度では砲弾の攻撃は防げないだろう、敵が射角を変え砲塔をこちらに向けた瞬間。
後方からルロワの放った槍が砲座を捉えた。

喜ぶのも束の間、敵が次々と柵を乗り越え攻撃を開始する、直接数で押した方が有利と踏んだのだろうか。
次々と斬りかかってくる軽装歩兵を斬り伏せてゆく中、鉄装歩兵の姿を探し、
脇に下げていた銅管の釘を抜き敵集団に目眩まし代わりに投げ込む。

「フンッ……」

「!?」

炸裂する爆風と粉塵の中、鉄装歩兵が斬りかかってくる、敵の放つ剣を受ける手が痺れる、
やはり軽装歩兵とは違い一筋縄ではいかない、俺は一方の手で振り下ろされる剣を受け止め。
もう一方の剣先を敵の脚に向けて放つと、敵兵の鉄の具足を突き抜け、脚が弾けるように吹き飛んだ。

「悪いな……」

翻す剣で敵の首を切り落とすと、シュタインとフェルダーが戦線に加わる、
飛び道具を構えた軽装歩兵はルロワの狙撃により討たれ、次第に敵の反撃の勢いも弱まり壊走を始める。


58:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:44:37 DkebLmrh

坂の上方で待機していた騎士団から、馬上のヨハンが歩み出ると、目の前で繰り広げられる信じ難い光景に目を見張った。

「これは一体……どういうことなんだ?」

たかが罪人、たかが剣奴が、柵を張る百数十人を超える軍勢に退く事もなく戦い、尚且つ圧し始めている。
自軍が勝つのは喜ぶべき事だが、ヨハンはその剣奴達の姿に恐怖と畏怖の念を抱いた。
本来、この作戦は敵が剣奴を打ち倒した後の虚を突き、挟撃を開始する手筈だったが、
この状態では兵を動かすことも出来ない、やがて敵軍が後退を始めると、剣奴達も柵の中へと踏み込み膠着状態となった。

戦地では、焦りを見せるフェルダーが射出槍を構えながら、俺達にその場で待機するように指示を出す。

「どうも様子がおかしい、挟撃するんじゃないのか?」

「予想が外れることもあるわな、それより大将、これからどうすんだ?
もう、稼働時間ギリギリだぜ、動ける内にここから撤退しちまおう」

フェルダーが膝を突き射出槍を落とすと、装甲の間から血が溢れ出してくる、それを見た俺は
彼の元へと駆け寄るとシュタインに指示を出す。

「この出血は拙い、シュタイン…ありったけの銅管を敵に向かって投げた後に坂を上るぞ
ここは他の連中に任せよう」

「大将には以前の借りもあるしな、よし行くぞ!」

投げた銅管が炸裂し、俺とシュタインは両側からフェルダーを抱えながら撤退した、
どこをどう逃げたのかはよく覚えてはいない、次々と敵陣営から飛んでくる弓矢を掻い潜り。
ルロワ達の待つ後方へと辿り着くと、急激な疲労と痛みにより意識を失い、奈落の底へ転がり落ちるように俺は眠りについた。


59:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/18 20:45:48 +6LXbosP


60:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/18 20:47:42 +6LXbosP
  

61:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:48:20 Gdwd8BJM

再び目を覚ました時には俺は薄暗い地下室の中にいた、
周囲を見渡すと腕に布を巻いたルロワがこちらに気付いたのか、俺の方へと近付き水を手渡す。

「ルロワ、その傷はどうした?フェルダーは無事か?」

「俺は腕だけさ……フェルダーも飛んできた破片が関節に刺さっただけで
ちゃんと摘出できたよ、いまマルケスが着きっきりで様子を看てる、それより自分のなりを視てみな」

手渡された水を受け取り、体を見渡すと俺の脚には簡単な添え木を当てられ、首や腕には布が巻かれている。
体を動かすと軋むような音を立て、体中に鈍い痛みが走った。

「やれやれ……」

「今さっき兵隊に呼ばれてシュタインが出てった所だよ、最初の兵車が五十人、
昨日の時点で十七人、んで、今動けるのが俺達も含めて九人だ」

「随分と減ったな、だが砦との道は開いたんだろう?」

「あぁ、補充人員を当てて再編成するんだってさ、全部で百十九人、俺達は兵車一つで六人」

ルロワがそう言いつつ親指で後方を指すと、見慣れない一人の男が床の上で胡坐をかき座り込んでいる、
どうやら座ったまま眠っているようだ。

その夜、俺達は再び兵車へと乗せられ次の戦地へと赴く、
平和の安らぎは眠りの中に、しかし眠りは瞬く間に終わり、目覚めれば其処にはまた新しい戦場が待っている。
いつになったら終わるのか、飽くことなく続く戦火の中に身を委ね、俺はただ今を眠り続けた。




62:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:50:38 Gdwd8BJM
以上(L-3)より(N-4)地点への侵攻作戦でした。

63:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:52:03 C2RvC9PE
>>39
一体何の番外編なの?

64:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/18 20:52:42 +6LXbosP
投下乙
意外と長編だったな

もうこのスレで思う存分創作しちゃえ

65:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:53:03 Gdwd8BJM
これの
スレリンク(mitemite板:88番)

66:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:55:37 C2RvC9PE
ふーん
あまりよくわからんが乙

67:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/18 20:57:36 +ok+1Cen
まぁ、いちいちこの調子で書いてたら大長編になるわな

68:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 15:04:30 1n49JG9c


【ヴィジランテ旅団:パルミナ湾】


海の上を風がなびき、夕日に照らされた海が眼前には広がっている
最初の内は物珍しかった光景も今では慣れ切ってしまったけれど、彼女に限ってはそうでもないらしい。
私は彼女との距離を詰めると気配を察知したのか、ちらりとこちらに目を向け私の姿を確認したのち
再び眼前の海へと目を移した、こういう性格は猫によく似ていると思う。

「セリミアの具合はどう?」

「残念ながらこの国の外科技術では完治は難しいようです、
もう戦場に立つことは叶わぬかと……」

「彼女には申し訳ないことをした」

「皆、覚悟の上でここに来ています」

大陸よりきた旅団というのは表向きの話、島に潜入し武装蜂起を促し内乱を誘発させる、
それが私たちに与えられた任務。作戦の可否はさしたる意味も持たず、
ヒルデが先陣を切り戦う意図が、私にはいまだに掴めないままでいた。

「聖職者が人殺しの手伝いをする必要はないでしょ?
ヨハンナ、今ならまだ……」

「教会から放り出された私に、行き場などありませんわ」

リューゲル家の息女が、このような辺鄙な島に流されてきたのにも訳があると聞いた、
”爵位を持った人物の求愛を拒否した”たったそれだけのことで男は彼女を死地へと追いやったのだ。

「ヒルデ、もっと自重なさって下さいな
昨日の様なことがありませぬよう」

「赤い鉄装歩兵、いや胴の鎧かな?」

「おおよそ金で雇われた傭兵でしょう、
類稀な結束力と戦列保持で名高い傭兵集団、赤銅の盾……」

「こちらも兵の数を揃えないと対抗は難しいね
ヨハンナ、この街の有力者にもう一度話をしてみよう」

彼女は大きく伸びをすると腰を上げ、私に微笑みかける。

ヒルデ……貴女は貴女の思っている以上に罪作りなお人です。
貴女のその微笑で語りかけられては私は従属以外の意思を失ってしまう。
私は聖職者としてばかりでもなく人としての道をも違えてしまった。

願わくばこの身が地獄へ落ちようとも、貴女のお傍にいられることを今は神に祈るばかりです。


69:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 15:05:12 1n49JG9c


【傭兵団 赤銅の盾:ベアトリス城 南西の砦】


不愉快な雑音で目覚めると、兵舎の外から響いてくる子供達と1人の阿呆の声が聞こえてくる。
軽く身支度を整え帯剣すると、ボウフラのわいた手桶の水で顔を洗い外へと歩き出す。
強烈な日差しで照り返す森の緑に目が眩む……時間は昼頃だろうか。

「そしてこの俺、アデニオンが港に到着してきた頃には
敵に囲まれていた我らが赤銅の盾は大ピンチに陥ったのだ!」

「……」

外では昨日の戦果を誇らしげに語る阿呆の周りを、子供達が取り囲んでいる。
とはいえ、こいつの話は大概お決まりのパターンで締め括る訳だが。

「ついに敵の大将が現れると俺達仲間を逃がす為、
ユリウス団長が殿を買ってでたッ!」

「やった! ユリウス団長だ!!」

団長の登場を聞いた途端、待ってましたとばかりに子供たちの表情が輝く、
何故だかその表情を見ると俺自身も嬉しくなってくる、子供達にとっても、阿呆にとっても。
無論、この俺にとってもユリウス団長は今を生きる”英雄”だからだ。

「次々と並み居る敵を薙ぎ倒すと、
敵の大将に向かい必殺の一撃を放つ……」

「”狂犬殲滅”!!」

「そう! 必殺の一撃を受けた、敵はあえなく壊走
腰を抜かして逃げていったぞ!!」

「あはははは!」


まぁ、この辺は脚色のつもりなんだろうが、この阿呆の場合本気でそう思ってそうだから困る。
被害状況を報告する為に、団長の宿舎へと向かう途中、小奇麗な礼装に身を包んだ参謀のバティアトゥスと顔を合わせた。
学の無い俺達傭兵団が文字の読み書きが出来るようになったのもこの男のおかげだ、
しかし、俺にはどうもこの優男が気に食わない。

70:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 15:05:44 1n49JG9c

「これはお早いお目覚めだな」

「嫌味のつもりか? 団長はどこに?」

「訓練場の方へいかれたようなので今から向かう所だ
あぁそれと、この間の報告書、間違った文字が多かったので直しておいたぞ」

「そりゃ、お手数おかけしましたね」

差し出された本を無言で受け取る、読めということらしい。
団長の考えにより教養を身につけることが団員の勤めということになっている。
『学問を学び、常に向上せよ』とは優男の弁だ。

訓練場では兵の者達が立ち木に向かい、それぞれの型で剣を打ち込んでいる、
装甲に身を包んだ団長の元へと歩み寄ると、こちらに気付いた団長は兜のつばをあげた。

「よぉ、バティアにトリか?」

「団長、報告書上がりました」

「ご苦労さん、トリフォンもだいぶ板についてきたな」

「礼節には事欠きますがね」

一言多い奴の足を無言で踏むと、お返しとばかりに肘で俺の腹を突き返してくる、
やはりこの優男とは気が合わない。

「私の方からは口頭でご報告します、
環境に慣れないせいか宿舎内で病に伏せる子供の数が多いようです」

「薬か……金は足りそうか?」

「資金の幾分かを切り崩して薬品の購入に当てています、
やはり、ここは教育に当てる分を削ぐべきかと……」

「駄目だ、ベアトリスの軍師に話を通して、雇用を延長してもらえるよう伝えてくれ」

困窮により子を捨てる農民、商品にならず打ち捨てられた奴隷、生まれながらに親を持たぬ浮浪児達。
なかにはどうしようもない者も居るが、みな団長を慕い集って来た者達ばかりだ。
赤銅に輝く胴の鎧をその身に纏い、その者達を守る盾となる。

「団長―」

「ん、なんだトリフォン?」

お偉方の騎士連中は笑うかもしれないが、俺にとってはそれがとても誇りに思えるんだ。

「後退中の殿は俺がやりますんで、あまり無茶はしないでくださいよ」

俺の言葉を聞くなり団長は豪快に笑うと、隣にいた優男もつられるように笑いだした。


71:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 15:06:19 1n49JG9c


【ベアトリス城】


城下を一望できる展望で、私はただぼんやりと空を飛ぶ鷹の動きを目で追っていた。
きっとあの鳥にも帰る巣があり、待っている子供たちがいるのだろう。
不意に強い風に煽られ金色の髪が風にはためく。

父と母が亡くなり6年の歳月が流れ、私はその王女としてその王位を引き継いだ。
それはおおよそ形ばかりに近いものであり、私は半ば幽閉される形でこの城での日々を安穏と過ごしていた。
しかし歳を経るごとに周りからの視線が変わってきたのがわかる。

無能な君主であれば、この城で実権を握る軍師リュゲルの反感を買うことも無いだろう、
私はただ城下で燃え上がる、戦災の炎や巻き起こる殺戮の噴煙を眺めることしか出来ないのだから。

「ベアトリス様、こちらにおられましたか」

「ドルバトゥール……帰ってたの?」

「はい、アルメンテの街は落ち、海戦能力を失ったパルミナも
すぐに陥落するものと思われます」

「国庫の半分を費やした和平交渉も無駄に終わったみたいね……
この島の全てを掌握して、次は大陸に攻め込むの?」

私のその問いかけに彼は困惑の表情を浮かべる、1対1で話すのならば道化を演じる必要もない、
彼は周囲に人がいないことを確かめると重い口を開いた。

「リュゲルの考えではそうなるでしょう、
貴女が王位についた際、叛意を翻した各地の領主達を掌握すれば
いずれは国の外へと目が向くことになります……」

「そして大陸統一が叶えば功罪の全てを私1人に押し付けて、私の首を刎ねる
それとも島が統一されてから、始末するのかしら?」

「そのようなことは……」

「私を馬鹿な女だとは思わないで、もう16だもの……それくらいの予測は出来るわ」

私が目を見つめると彼は目を背け視線を床に落とした、彼は嘘をつくと私の目を直視できない。
だからこそ私は彼を信頼できるのかもしれない、最もそれすら不確かなものであるのだけども。


72:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 15:06:51 1n49JG9c

「えぇ、そうなる可能性は否定できないでしょう、
しかしそうなる前に、私が先んじて奴の首を落とすまでです」

「家臣の多くは奴に懐柔されてるわ、
他に裏で手を引いてるものもいるかもしれない……それに」

「他にも何か……?」

「奴は貴方が戦死するのを待ち望んでいるわ、心の底から」

彼の黒い甲冑に触れると、ひんやりとした感触が手の平を伝わってくる。
私の心中を察したのか彼は微笑みながら私の手を取り握り締めた。

「貴女の許可なく死ぬことは御座いません、御心配なく」

彼はそういうと展望の部屋の外へと歩みを向ける。
私は高鳴る胸を押さえ込むように彼の後姿へと声をかけた。

「ドルバトゥール、貴方を信じていいのね?」

「騎士は二君に仕えぬもの、そして私が仕えるのは
ベアトリス様……ただ御一人です」

鉄の具足が石床に触れ、次第に遠ざかっていくのが聞こえる。
1人になった私は展望から景色に目を移すと、先ほどの鷹がまだ青い空の上を周回しているのが目に留まった。

「貴方も……きっと独りぼっちなのね」


73:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 20:09:31 t8chIg0/
age

74:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/19 23:01:19 1qTN+oa8
5分で考えた中世騎士道風物語

国内異変編

王国がおかしい・・

そう思った主人公が国内調査

やがて国内の権力者の中にシャド-と呼ばれる化け物にすり変わっている者がいる事が判明

シャドーは誰だ、、、

75:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 03:48:34 pG3u7Ood
おおやってるか
頑張れ
たまにだけど読むぞよ

76:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 17:59:08 oMKnTBFG
内部告発により明るみに出たシャドーの存在

かくして、王国にシャドーブームが到来

シャドーグッズが山のように売れ、「オレ人間~、お前シャドー」といったギャグが一世を風靡し、

「シャドー」が流行語大賞に輝き、今年の一文字が「影」になるなど、

世の中はシャドー一色に染まった

王国内部に潜伏していたシャドーもこのブームに便乗し、正体を暴露

その勇気をたたえられ、国民の人気ものに

かくして、国王の権威は失墜し、ここにシャドー共和国が成立する

大陸歴567年のことである

77:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:00:13 JEvqk5ts


【ヴィジランテ旅団:パルミナ領主の館】


貿易都市パルミナを統括する領主ヒエロニムスの邸宅に私達一行が辿りついた頃、
慌しく伝令の者達が早馬を駆け、半ば狂乱状態という有様だった。
私が小さく咳払いをし喉の調子を整えると、側近と思われる男性に声をかける。

「お忙しい中、申し訳ありません、私旅団の……」

「今はそれどころじゃないんだ、後にしてくれ!!」

男が私の肩を撥ねつけるように腕で押すと、よろけながら尻餅をつく寸前
私の体をヒルデが支えあげる。どうやらみな殺気立っていて話が出来る状況ではない様子だ。
男の態度に憤然とした表情で従者のキアラが不満を漏らす。

「何かしら、あの態度」

「生きるか死ぬかの瀬戸際なのよキアラ、殺気だっていても無理はないわ、
ともあれ困ったわね……これでは話もできない」

「すみません、もしや大陸からこられた旅団の方ですか?」

玄関口で困惑していると、後ろから帯剣した青年から声をかけられる。
栗色の髪に碧眼の瞳、私と顔が合うと若干当惑した表情を浮かべたが
剣に刻まれた紋章を見せると、男は自らの身分を明かした。

「私はここパルミナで、民団の兵士長を務めております、
レオニウスと申します、よければ時間を頂けますか?」

「旅団の団長ヒルデガルド、こちらは聖堂の派遣員ヨハンナ
それと従者のキアラです」

「こちらで立ち話でもなんですので、お部屋を一つお借りしましょう」

そういうなり彼は屋敷の部屋の1つを無造作に開け私達を招き入れると、
中央のテーブルに向かい合う形で会話を始める。

「宜しいんですか?」

「パルミナ領主は幼少の頃、同じ私塾で学んだ仲で
幼馴染のような物でして」

「……それで私たちにお話とは?」

「貴女方がパルミナ北西部でベアトリス軍を翻弄したことは
噂で聞き及んでおります、それに貴女方が敵傭兵団の後方を突くことがなければ
海戦能力だけに及ばず、この街自体が陥落していたことでしょう」

突然に青年の口から忌憚のない意見が飛び出し、私達は困惑の表情を浮かべる。
”助けがなければ負けていた”と民兵を纏める兵長が認めてしまうことは
これまでの対応にはなかったことだ。

78:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:00:43 JEvqk5ts

「領主は領民を守るのが責務であるゆえに
我々は防衛が主な任務であり、他の町や村と連携が取れているわけでは有りません。
つまりベアトリスへの対抗軍として、これまでそれらしい進攻作戦を行ったことがないのです」

「では、これから?」

「はい、受け手に回っていては敵の進軍が一点に集中することになります、
そこで我々は兵力を二分、進攻と防衛を二手に分けることで敵の兵力も分断する作戦を計画しました」

「表立っての反抗作戦となっては
ベアトリス軍に察知される恐れがありますわね」

私の予測では私達の旅団を別働隊として侵攻作戦に駆りだし、敵の進攻速度を削ぐ作戦なのだろう。
仮にパルミナが敗れたとあっても、進攻した意図を我々旅団の名で隠すことができる。
しかし、それは言うなれば”捨て石”である。

「実は今回の件で、私は兵士長としての身分を解任されることになりました。
現在では兵力の増員の手筈を整え、詳しい数は申し上げられませんが防衛側の兵力は揃っています、
そこで残り500ほどの兵を貴女方の編成に加えていただきたい」

「そのお言葉は有難いことですが、連携もままならぬようでは……」

「もちろん、その兵を率いるのは私です、
ヒエロニムスはゴネましたが、その為に解任の許可を貰いました」

その言葉にヒルデの表情に動揺が見える、彼女もこれが”捨て石”としての
侵攻作戦であることは見抜いていただろう、そこに加えこの男が参加したいと言い出したのだから
動揺するのも無理はない。男が椅子から立ち上がると団長に向かい頭を下げる。

「身勝手な発言とは重々承知の上でお願い致します、
それでも信用が得られないのならば、我々を戦列の前衛に配置されても結構です」

「……何故、そこまで?」

「このままではこのパルミナが落ちるのは必定、
そうなればヒエロニムスは―私は、友を守りたい」

彼らの間で何があったかは知ることはできないが、まず受けることは出来ない話である、
今まで我々旅団が上げてきた戦功は、最大戦力で最小戦力に当たる戦法。
真正面からぶつかることは、烏合の衆である我々旅団には自殺行為に等しい。

「わかりました、お引き受け致します」

「……!? ヒルデッ!!」

理解しがたい作戦を許諾するヒルデに私は思わず声を荒げる、ヒルデは手を上げ私の声を遮ると
頭を下げたレオニウスの肩に手を当て、顔を上げるように促し、あの笑顔で微笑みかける。
この私の怒りは無謀な作戦を承諾したヒルデに対しての物なのだろうか……

それとも。


79:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:01:15 JEvqk5ts


【パルミナ山越作戦】


今現在、私達はパルミナ領の東西を分断する山岳地帯を東へと向かい、登りつめている。
馬車内では、レオニウスとヒルデがせわしなく軍議を交わしながら、話し込んでいる。
私は地図を広げ、到達地点であるパルミナ坑道の裏手の位置(F-3)を座標で確認した。

「先行した斥候からの報告はどう、レオニウス?」

「はい、山頂には見張りの兵力は居ないようです、
多少足を取られますが、この進路を選択したのは正解だったようですね」

「このまま山道を渡り裏をつけば、敵の坑山を制圧することが出来る
しかし問題は防衛に展開されている兵力ね」

旅団の兵力は1300ではあるが、負傷した兵力を除くと実戦に参加できるのは1000程度。
絶望的とはいえないまでも楽観できる数字ではない、大してベアトリス軍の兵力は
現時点の総数は傭兵も含め8000前後には膨れ上がっているだろう。

「北東のアルメンテ、北西のパルミナ、南西のガセルダ、
すでにアルメンテに展開していた兵力は、引き返し始めていることでしょう」

「最低でも2000以上の兵力が拠点防衛についていることは確実ですわね」

「いいえ、アルメンテから北方の砦(L-3)に兵力をまとめ、未だ落ちていないガセルダへと兵力を向ける筈、
パルミナへの侵攻も陸路より海路を優先する筈よ」

「最良とも言えないまでも、現時点で考えられられる方法で
最も堅実な作戦ですわ」

作戦を立案したのは私ではあるが、無謀な作戦であることに変わりはない、
しかし旅団の勝利の為、ここは彼の覚悟を十二分に利用させてもらうことにしよう。
敵の後方に戦列を展開すると、前衛にレオニウスの鉄装歩兵が歩み出る。

眼下では労働者達が鉱物の採掘作業に没頭し、防衛についた兵達は背を向けて展開している。
敵の数は予想を反し、800前後といった所、ヒルデの勘が的中した形となった。
私は脇に用意させた別働隊のフランチェスカに手信号で合図を上げると、
ヒルデの号令と共に一斉攻撃が開始された。


80:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:01:49 JEvqk5ts

「全軍前進! 上空から鉄の雨を降らせろッ!!」

前もって用意した次々と放たれる弓矢の雨に次々と敵が倒れていく、
私はたちまち屍の山と血の海を築くと、私は戦域を見渡しながら鉄装歩兵の姿を探す。

「前列の友軍に矢は通らないッ! 矢を放つ手を休めるな!」

継続して頭上から振り続ける友軍の矢の雨を掻い潜りながらも、レオニウスの軍は
次々と敵兵を打ち倒していく、敵の鉄装歩兵が姿を現すと私の指揮する散兵隊は
弓矢から射出槍へと兵装を取り替え一斉射撃にて制圧射撃を開始した。
鉄の装甲をを撃ち抜かれ、密集していた敵兵は次々と爆散してゆく。

「神の御加護があらんことを……」

戦場で散っていく魂に形ばかりの祈りを捧げると、砦に向かい撤退してゆく敗残兵を追う
レオニウスの兵士達の姿が目に入る。

「ヒルデ、もういいわ! 兵を引かせて、追撃は無用よ!!」

「わかった……集合の合図を鳴らせ!!」

私は馬の背に飛び乗り、付近を哨戒しながら集合地点へと向かう、
到着した頃には他の者達は既に到達しており、なにやら揉めている。
どうやら、追走を止めたヒルデにレオニウスの兵達が反発しているようだ。

「レオニウス隊長、何故追走を行わないのですか!? 
これでは敵の反撃を許すことになります!」

「落ち着け、ヒルデガルド様にも訳があっての事だ……」

「ヨハンナ、言われた通り物資の収奪を行ってるわ、これからどうするの?」

「物資の搬入が済み次第パルミナへと輸送を行ってください、
身軽な者は負傷者を運びこの戦域から撤退、レオニウス隊は周囲の残党を掃討しつつ
施設の内側に部隊を展開し、ベアトリス軍の反撃に備えて頂きます」

私の言葉を聞くや否や兵卒が私の目を睨みつける。
レオニウスの顔を見つめながら、私は抑揚を込めぬ声で語りかける。

「”前列に配置しても構わない”そうでしたわよね?」

「はい、その通りです……」

この坑道から砦までの距離約60ゴード、早馬で駆けても3時間はかかる距離、
敵軍が兵を集め反撃に転じ、ここに辿り着くまでには日が暮れるだろう、全てはそれからだ。
私は馬上から空を見上げ、傾いた日の光を眺めながらその場を後にした。


81:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:01:56 oMKnTBFG
他に住人もいるスレなんだからさ、
一方的な長文乱れうちは、どっか他でやってくれないかな

82:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:02:19 JEvqk5ts


【ヨハンナの罠】


残存していた敵の掃討が終わり、既に日も落ち辺りは闇と静寂に包まれる、
所々に掲げられたかがり火を頼りに、私はお供の兵士を引き連れ前線部隊の元へと向かう。
鉄装歩兵達が茂みの中に潜み、周囲には馬防柵が張り巡らされていた。
私の姿を見つけた隊長のレオニウスが歩み寄り、兜のつばを上げる。

「ヨハンナ様、何か問題でも?」

「えぇ、今すぐこの馬防柵を撤去してください、作戦遂行の邪魔になります
それと、兵達には敵の姿を見つけ次第に撤退するよう、通達を忘れないように……」

「し、しかし、騎兵を静止しないことには、陣地内への進入を許してしまうことになります」

「それでいいのです、くれぐれも通達に不備がないよう
……では私はこれで失礼します」

反論を許す間もなく、踵を返しその場を後にすると別働隊のフランチェスカの元へと向かった。
坑道内から彼女が顔を覗かせると、進行状況を報告する。

「フラン、首尾はどう?」

「あらかた坑道内は調べ上げて、臙脂石の採掘場所は特定できたよ、
今、ヒルデが手早く撤退できるよう、山道を整備してる」

「では捕らえた捕虜を逃がして、敵に情報を知らせましょう、
わかってるとは思うけど、余計なことは喋っちゃ駄目よ」

「大丈夫、大丈夫」

不意に後方からざわめきの声が聞こえるとフランは地面に耳を当て蹄の音を聞き分けると
最後の仕上げにと行動の中へと戻っていった、私はヒルデの元へと駆けつけると
撤退の号令を出すよう彼女に伝える。

「来たわよヒルデ、撤退の合図をッ!!」

「わかった……撤退準備用意ッ!
もたもたしてる奴は一緒にあの世行きよッ!!」

山道を登り眼下には群がるように展開した敵兵が陣地内へと進入を開始した。
事前に逃がした敗残兵の情報から、低く見積もっても倍近い戦力を当てに来ただろう、
我々が山頂への撤退を終了すると、工作を終えたフランと殿を務めたレオニウスが合流する。


83:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:03:58 JEvqk5ts

「炎は消しなさい、暗闇では射撃の的になるわよ……レオニウス、貴方の隊は全員揃った?」

「それが、後続が戦列に巻き込まれて、30人ほど遅れています」

「通達に不備がないよう、念を推したはずよ、
フラン、あとどの程度まで猶予はあるのかしら?」

「もう余裕はないよ!」

次々となだれ込む敵の兵団が追撃の為、山頂へと登り始めたのを確認すると
後続が全滅したのを確認し、私は号令をかけ一斉退避の号令をかける。

「一斉退避ッ! 振り向くなッ!!」

旅団が侵攻してきた山頂を逆走すると、後方から地鳴りのような怒号が響き渡る、
数度の爆音が散発すると、山を揺るがす程の巨大な爆発が敵の兵団を紙屑のように吹き飛ばす。
大混乱に陥り、岩石の直撃で下敷きになる敵を横目に眺めながら、私は作戦の成功を確信した。
併走していたレオニウスが呆気にとられた表情を浮かべると、驚嘆の言葉を漏らしている。

「何てことだ、これは一体……」

「採掘現場の臙脂石を使い、小規模の爆発を起こさせたわ。臙脂石が爆発する際に
用意しておいた水樽を破砕、狭い坑道に充満した水蒸気が次々と誘爆を繰り返し―」

轟音と共に坑道が潰れ山が崩れ始めると、逃げ遅れた敵兵は
飛来した岩盤の下敷きになり、濛々と立ち昇る土煙の中へとその姿が消えていく。

「―山をも切り崩す」

これによりベアトリス軍は鉄装歩兵の稼動燃料の不足により兵力を弱め、
我が旅団が今後の戦いにおいて、若干優位に立つことが出来るだろう。

レオニウスは私の顔を見つめながら、重苦しい表情で言葉を放った。

「ヨハンナ様、このような作戦であれば
前もって、私にも進言してくださいますよう」

「ごめんなさい……今後は気をつけるわ」

私は彼にそう言葉を返すと、空に浮かぶ月を見上げ薄く笑みを浮かべた。

84:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:06:54 Jli9kg3q
この程度の長さで長文とか

85:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:09:15 oMKnTBFG
ほれ、こことかどうだ
スレリンク(mitemite板)

86:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:16:24 VHmOT+/a
俺、全然絵とか描けないからwwwwwwwwwwwwwwwww

87:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:16:49 oMKnTBFG
こんなスレもあるな
スレリンク(mitemite板)

立て逃げ多すぎwwww

88:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 18:35:02 yOkDUHTp
設定メモスレは過疎ってるだけで
中身はちゃんとしてるな
ほんとどうしようもないスレ、他にあるかな

89:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/20 20:30:23 ePwH0CmD
大戦争と人口爆発によって行き着いた先・・

それは、富める人々と貧しい人々の二極化だった。 
富める社会は、国が管理する大都市群。異質を排除する集団的潔癖社会。

貧しい社会は、国によって追い出された人々が集まってできたスラム街。戦争によって荒れ果てた荒野に隔離された。

そんな中、砂漠地帯を拠点とする放浪集団がいた。"流れ人"ーこれは、彼らが理想郷を探す物語である。 
流れ人の伝説によると、理想郷とは見つけた者が理想とする世界像を現実に実現してくれる異世界である。
探しても決して見つける事のできない世界
理想郷の理に従う者のみに道は開くという。

流れ人は誰にも味方しない。理想郷の理に従って生きるのみ 
しかし、一人の流れ人が理想郷の真実を知った時、世界は大きく動く。

主人公・・ある事件により友をあやめた過去を持つ青年。亡き友と誓った理想郷に行くために流れ人となる。願いは友を蘇らせる事。
理想郷を目指すうちに真実を知る事になる。

90:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/21 00:09:56 JctbOoSy
【傭兵団 赤銅の盾:ベアトリス城 南西の砦】


城下町の酒場で出された干し肉に噛り付くと、アルコールでふやかし胃の中へと流し込む。
寄ってくる売春婦達を適当にあしらっていると、ベアトリス城へと向かっていた優男が酒場へと戻ってきた。
俺は手に持った銅のジョッキを抱え上げると、こちらに気付いたのか男は向かい合う形で席へと座る。

「どうだった参謀?」

「二つ返事で許可が下りたよ、色々と不味いことが起こったらしい」

「不味い? 何が不味いんだ?」

「北西にあるパルミナ鉱山が何者かの手によって爆破された。
恐らくはこの間顔を合わせた、反乱軍の仕業だろう、リュゲルは躍起になって行方を追っているようだ」

男は皿に置かれた干し肉の一つを口へと運び込むと、水で流し込みながら咀嚼する。
いまいち合点の掴めない俺は更に追求するよう言葉を加えた。

「鉱山が爆破されるとなんかあんのか?」

「パルミナ北西部は莫大な量の鉱床が眠る一大採掘地だ、
そこから運ばれてきた鉱石を城下町で加工し、南にある港(M-13)から大陸へと輸出。
この貿易によって外貨を得ている、つまり経済の要となる地域だった訳さ……」

「はっはは、雇い主に破産されちゃ、笑い話にもならねぇよ。
だが、それだけでどうにかなってるわけでもねぇだろ?」

「わからん奴だ、ベアトリス城を囲むように広げられた要塞都市の内側は豊かな穀倉地帯、
食料については問題ない。北東のアルメンテ陥落により、木材の供給は安定するだろう
しかしだ……南西ガセルダの油やパルミナ鉱床を失っていては工業全体が停止してしまう」

次々と繰り出される難解な言葉に俺の頭が混乱状態になってくる、
適当に理解した振りをしながら相槌を打つと、最後に優男がぽつりと言葉を漏らした。


91:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/21 00:10:31 JctbOoSy

「要するに、鉄装歩兵の修繕や装備の補充、下手すれば外灯の明かりすらもままならんと言う事だ」

「お、おいおい、それを先に言えよッ! 一大事じゃねぇか!!」

「城に備蓄されていた資材や大陸から足りない分を買い付け、上手いこと回してくれるだろうが、
早急にパルミナを抑えなければ、我々の立場も危ういということさ。
船を失い交易路を断たれたパルミナとて、立場は同じことだがな」

ひとしきり説明を終えると、優男は酒場の外へ目を向け立ち上がると
俺も釣られるように席を立ち、酒の代金を皿の中に投げ込む、一先ず団長の指示を仰ぐべきだろう。

「そういえば、アデニオンはどうした? 先程から姿が見えないが?」

「上で店の姉ちゃんとよろしくやってるよ、
阿呆はほっといてさっさと団長の所へ行こうぜ、これから忙しくなりそうだ」

「……随分と楽しそうだな」

「水で酔ったのか? さっさと行くぜ参謀」

俺達は酒場の玄関を潜り夜の城下町へと繰り出す、確かにこの状況を俺は楽しんでいる。
戦いの中に身を置く内に恐怖だけが麻痺しちまったのかもしれない。
明日は戦場に立てると思うと、精神が昂ぶっていてもたってもいられなくなるのさ。

餓鬼が収穫祭のお祭りを楽しみにしてる時の感覚に似てるかもな。


92:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/21 00:11:05 JctbOoSy


【傭兵団 赤銅の盾 宿舎】


団長の宿舎内に辿りついた頃には完全に酒で出来上がっている酩酊状態だったが、
優男の話を聞くにつれ酔いが冷めてきたのか、次第に真剣な顔つきになると
伸びた顎鬚を擦りながら考え込むように唸った。

「で、バティア、先方はどちらに俺達を回すと言ってきたんだ?
反乱軍討伐か?」

「いえ、どうも将軍のドルバトゥールと反乱軍は浅はかならぬ因縁があるらしく
我々はガセルダの南方攻略へ望むように、とのことです」

「砂漠地帯での戦闘か……鉄装歩兵じゃ進軍に問題がでるな。
装備を換装し、砂塵が入り込んでも問題が無いよう手を加えておけ
進軍を開始するのは明日の夜だ、気温が下がった状態であれば機動に問題はない。
それでいいな、トリ?」

「了解しました」

俺達は一礼すると団長の宿舎の外へでた、まだ就寝には時間がある。
機体の整備の為、俺が施設の方へと足を向けると後ろから優男に呼び止められる。

「こんな夜遅くに機体の整備か、トリフォン?」

「あぁ、暇なんでな、お前はどうなんだよ?」

「私は家内が待っているのでこれで失礼させてもらうよ。
最近娘がよくぐずるんだ……言うだけ無駄だとは思うが、お前も所帯でも持ったらどうだ?」

「真人間に生まれ変わったら考えとくよ」

俺が自嘲気味にそう答えると、呆れた表情を浮かべた優男は自分の宿舎へと戻っていった。
倉庫に辿りつき俺の紋章が入った銅鎧を引き摺り出すと、鎧の心臓部に印を刻む。
その傷の1本1本と名前を顔を思い起こしながら。

「ちびたれのクリグス……エノウスは借金未払いのままだったな」

無数の線で象られた、俺の紋章が月明かりに照らされ輝いている。
いずれは俺もこの線の一本になるのだろうか、最もそれを刻む奴がいればの話だが。

空を見上げると憎々しげなまでにでかい月が俺達を見下ろしている。
俺は枕代わりに鎧に頭をもたげるとそのまま眠りについた。

こんな夜も悪くない。


93:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/21 14:46:33 VWvTW3UO


【剣奴:パルミエ鉱山跡地】


頬に触れた水滴により俺の意識は目覚める、どうやら未だに生きているようだ。
歪んだ兜に剣の石突を打ち付け強引に取り外し辺りを見渡すと、周囲は霧に包まれていた。
鎧に結露した水滴を指で拭い口に含むと、口に混じった砂利が音を立てる。

その場を立ち上がり鉱山を見上げると、岩肌が大きく裂け崩れているのが視界に入った、
瓦礫の下から覗く手足、頭蓋を押し潰され地面に押し広がる赤黒い染み。
目を凝らすと前方から肩を抱えた、二人組みの男達が近付いてくるのが見える。

「……誰だ」

「その声はカルロか? 俺だよシュタインだ
無事でよかったぜ、俺達ゃよほど悪運が強いらしい」

「カルロ、フェルダーとマルケスは見かけたか?」

現れた2人組みはシュタインとルロワだった、シュタインは足を引き摺り
ルロワは両耳から血を流している、恐らく爆風の衝撃で鼓膜をやられたのだろう。
俺は首を左右に振り否定すると、残りの仲間の姿を探す、敵の罠に逸早く気付いたのはフェルダーだ。
少なくとも生きている筈なのだが。

霧の中から膝をつきその場に佇む剣奴の姿が目に入り姿を追う。
そこにいたフェルダーはマルケスの頭を膝の上に乗せ、優しくその髪を撫で上げていた。
マルケスは目を閉じたまま、ただ眠り続けている、しかし地面に広がるその血だまりが
その眠りがもう二度と覚めることがないものだということを如実に示していた。


94:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/21 14:47:04 VWvTW3UO

「……フェルダー」

「カルロ……マルケスが死んでしまった、
俺がもっと早く、敵の罠に気付いていればッ!」

「お前は悪くない、誰も悪くないんだ」

「何故こうもッ! 何故こうも上手くいかないんだッ!
俺達は必死にやってきたんだ、その仕打ちがこれかッ!!」

感情の高ぶりを抑えることが出来ないのだろう、普段見ることのないフェルダーの激しい怒りに
俺はただなだめる事しか出来ずにいた、俺自身の中にも狂気にも似た怒りが鬱積していくのがわかる。
彼が自らの怒りを感情で発露するように、俺はその怒りを殺意でしか示すことが出来ない。
不意に馬の蹄の音が聞こえてくる、爆発の際に逃れた馬が戻ってきたのだろう。

「シュタイン、荷台になるようなものを探してきてくれ、
俺は馬を捕まえる、この戦域から離脱するぞ」

「だがよ、カルロ……」

「逃げ出す好機は今しかない、北の森に紛れて東へ向かい
アルメンテまで帰還する」

周囲の霧が晴れる頃には、俺達は比較的傷の少ない装備と物資を馬車に積み込み戦場を後にした。
北の森を潜り、眼下に広がる海の見える崖の上に剣で穴を掘るとマルケスの遺体を埋葬する。
みな泣いていた、ただ一人の友の為に……

俺達は誰の為に戦うのか、国の為に、女の為に、守るべき者達の為に?
そのどれもが誤りだろう、俺達はただ傍らに肩を並べ、共に走る戦友の為に戦う。
彼は誰の為に生き、そして死んだのか……戦友達の死を無為な物にしてはならない。

俺達は馬車に乗り込むと次なる戦地を求め走り始める、血の恨みは血で洗い落とすことしか出来ないのだから。


95:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/21 14:47:38 VWvTW3UO


【ベアトリス城 軍議室】


軍議室は重苦しい雰囲気に包まれていた、私はくまのロドリゲスの耳を弄りながら、
目の合った軍師と顔を見合わせにっこりと笑う、この笑いは本心からくるものなのだが
彼はそれに気付いているのだろうか?

「部隊の建て直しは進んでいるのか、ヨハン?
一刻の猶予も許さない、直ちにパルミナ付近を掌握し
採掘再開の目処が立つよう工員を派遣してくれ」

「はい、しかしながら、これ以上兵力を分散されると防衛の要となる
北方の砦の戦力が手薄となります……」

「構うな! 財務が優先だ!
所詮は卑族郎党、これ以上の反抗は無い!」

そう断言する軍師リュゲルに、ドルバトゥールは呆れた表情を浮かべると、
庇うようにヨハンの進言を後押しする。

「アルメンテの領主を倒したが、その血族と一部の騎士団が
南の森(P-7)に潜伏し予断を許さん状況だ、東西から挟み撃ちにされかねん」

「全ては滞りなく事が進むよう、君に任せたはず。
なぜ取り逃した? わざと取り逃したのではないだろうね!?」

「言葉が過ぎるぞリュゲル、軍規の乱れで略奪行為が横行し
街が混乱に陥った隙を突かれたのだ、数合わせに安価な兵員を持ち出したのが仇になったな」

彼が目を伏せ水を口に含むと、説き伏せられ言葉を返せない軍師が唸るような声を上げる。
ヨハンと目を見合わせ私が微笑むと、若い騎士は頬を紅潮させその場で俯いた。
そのとき部屋の扉が開き、伝令が駆けつけるとリュゲルに書簡を手渡した。


96:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/21 14:48:10 VWvTW3UO

「軍議中だぞ! 何事だッ!!」

「はい、パルミナ領主ヒエロニムスを船上にて捕らえましたので
取り急ぎ御報告に挙がりました」

「おぉ! やったか、ではベアトリス様に対応をお聞きしよう
如何なさいますか?」

そういうと席を立ったリュゲルは私の眼前に立ち、私の言葉を待つ。
あくまでも命令を下すのは私であり自らの意思ではない、その為に必要な演出なのだ。
ここで否定の言葉を出そうものなら、それ相応の対応を受けることになるだろう。
私が押し出すように口を開くと、横から割り込むようにドルバトゥールが口を挟む。

「待てリュゲル、処罰に関しては俺が判断を下す
ヒエロニムスは処刑……それでいいな」

「えぇ……まぁ、いいでしょう」

「ではそのように処置いたします」

「いや、少し待て……なるだけ
人目の付かぬ場所を選び処断せよ、これは軍機扱いだ」

そう言うなり、リュゲルは礼金を受け渡すと、伝令は頬を綻ばせながら戻っていった。
扉を閉め、辺りが静寂に包まれると再びリュゲルが口を開く。

「これは好機だ、領主のヒエロニムスが、こちらと和解したという噂を流せ、
これにより反乱軍の結束を内部から揺さぶるんだ」

「成る程な……」

「ベアトリスとパルミエが和解すれば、反乱軍は双方にとっての敵となる
そうだ、反乱軍を捕らえた者には礼金を出すのはどうかな、ははは……いいぞ!
今夜中にはガセルダも落ちるだろう、ベアトリス平定の日も近い」

南東のリオニア列島は人口に乏しく、反抗するまでの手立ては有してはいない。
ガセルダが落ちれば事実上ベアトリス軍の勝利となるだろう。

その分、私の死期が近付いてくるのもわかるのだ。


97:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/21 16:42:41 T4FYo52V

【そして千年後……、現代】

「隊長~見つかっちゃいましたッス~」

発掘作業員たちの動きがいっせいに止まる。
隊長と呼ばれた男が、豪奢な天幕から姿を現し、古の王城を睥睨する。
はるか千年の昔―この城に魔王と呼ばれる存在がいたという。
強大な魔力を持ち、魔軍を配下に、世界を圧政と恐怖で支配した、邪悪なる暴君。
その野望の跡地がこの、眼下に広がる廃墟だった。

学者なら涎を垂らしそうな古代文明の英知の結晶だ。
だが、男にとっては、この熱風吹きすさぶ砂漠の地で、夜な夜な飛び回る”蚊”ほどの価値もないものだった。
滅びた文明など、捨ておけば良い。
目の前に戦うべき敵が群がっているのだ。
「今」こそが、生きる場所であり、敵は大昔に死んだひからびた死体ではない。
どんな暴君であろうと、死んでしまえば農民の死体と変わらないのだ。

……だが、歴戦の将に王が命じたのは、この寂れ果てた、大昔にくたばり果てた無能の遺跡を発掘せよという任務だった。
将軍の、ただでさえ厳めしい顔が、不満でさらに岩のように硬くなっている。
いささか不満なのは、隠しようもない。

「案内せよ」

「はいっス~」

部下の間のびした声が、瓦礫の山にこだました。
この男は喋り方が気に食わない。この仕事が終わったらぶっ殺すことにしよう。
将軍の顔に、わずかに笑みが広がる。

98:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/21 20:45:58 r1NTIrTz
現時点の兵力

ベアトリス軍10000(鉄装歩兵減少中)

赤銅の盾1400?(負傷兵除く)

ヴィジランテ旅団2000(名声向上により拡充)

パルミナ4000(相次ぐ敗北により-2000)

アルメンテ残党1500(新型鉄装歩兵開発)

ガセルダ5000(防備中)

街・村残存兵力2000(戦意0)

リオニア(1000以下)

剣奴隊4

99:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/22 19:49:14 BgQNYRBA


【ヴィジランテ旅団:パルミナ村 船宿 涼風亭】


夜の砂浜に乗り上げ、聞こえてくるさざ波を遠くに聞きながら。私は揺り椅子に腰掛けリュートを奏でていた
押す波と引く波に動きを合わせるように音の形を変え、次第に緩やかな曲調へと変化させる。
宿から戸を軋ませ、ヒルデが姿を現すと私は奏でる手を止め目を向ける。

「申し訳ありません、もう御休みになられますか?」

「いいのよヨハンナ、少し話したいことがあっただけだから。
ちょっといいかしら……」

「えぇ、私に御相談に乗れる事であれば、何なりと」

「私ね、その……子供が出来たみたいなの」

そう彼女に告げられると私は平静を装い、編んだ髪をたくし上げ、手に取ったリュートを膝に置く。
共に行動していれば、すぐに気付くことではあったが、私の心中に沸き起こる疑惑の感情は
確信へと変わり、うねるような憎悪の霧へと変化してゆく。

「御相手はレオニウス様ですね、きっと神が
我々を勝利へと導く為に遣わされた、申し子に違いありません」

「あ、ありがとう、ヨハンナ、私頑張るよ。
この子の故郷を守る為に……私にも戦う理由が出来たんだ」

「あまり無理をされてはなりませんわ、
夜風も冷たくあたります、今日は御休みになられた方が」

「うん、ごめんね苦労ばかりかけて……」

私は首を左右に振ると、彼女はにこやかに微笑み、宿の中へと姿を消していった、
リュートを床に置き傍らに置いていた剣に持ち替えると、村の東に位置する待ち合わせ場所へと向かう。
ヒルデに宛てられたはずであった、レオニウスの書簡を片手に。


100:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/22 19:49:45 BgQNYRBA

暗がりの中で2つの影が浮かび上がる、1人は待ち人の彼、そしてもう1人は迎えの船頭だろう。
手に持った洋灯で私の顔を確認すると、軽装に身を包む彼は焦燥の表情を浮かべながら語りかけてくる。
彼はヒエロニムスが捕らえられた後に間者と通じ、ベアトリスの軍門へと下ろうとしていたのだ。

「レオニウス様、ヒルデガルドは来ませんわ。
貴方には伝え辛いことでしたが、こうなっては致し方在りません」

「ヨハンナ様、何故貴女が?」

「ヒエロニムス様は処刑されました、これがそのベアトリス軍の命令書の写しです。」

「馬鹿なッ、それでは話が違う! どういうことなんだ、
ヨハンナ様のおっしゃったことは事実なのか!?」

激昂したレオニウスが船頭に食って掛かると、男は顔を左右に振り否定する、
当然そんなことをこの男が知る筈もないだろう、そもそも私の差し出した書簡さえも偽造した
まるで謂れの無い代物なのだから、私は疑心暗鬼に陥ったレオニウスに畳み掛けるように言葉を放つ。

「冷静に御考えになってください、領主であるヒエロニムス様を処刑せずにして
島の平定がなるのか? そしてこのあまりにも不自然な和平の手筈、
甘言を用いて卑劣な罠に嵌め、我々を分断する作戦なのです!」

「お、俺ァ……何も知らねぇ!!」

「逃げる気かッ!」

さざ波を駆け抜け2人の影が走る、砂に足を取られた船頭の胸にレオニウスが剣を突き立て殺害すると、
息を荒げた様子でその場に膝を突き、友の死を嘆き始める。栗色の髪が海水に塗れ
叩きつける腕が砂にまみれる。

「私は……私はッ!」

「今となっては領主を失ったパルミナの結束は揺るぎ
流言に惑わされた者が疑心暗鬼に陥り、ベアトリス軍へと下っています」

「そう……そうです、もう一度体勢を立て直し、反撃の準備を!」

「では―進言致します」

流言を断ち切るにはきっかけが必要、ベアトリス軍が我らの敵であると再認識できるような。
私は抜いた剣を布に包むと彼の脇へと抉り込む、引き裂いた肉が骨を断ち、
呆然とした表情で固まるレオニウスの肝臓を引き裂いた。

「こ……か、何故……ヨハンナ様?」

「間者の誘いを寸前で踏みとどまり、不意を突かれながらも
敵と”相打ち”……御見事な最後でしたわ」

「な、ヒ……ヒルデ……」

男が彼女の名前を口にすると私の腕に更なる力が篭る、死に際に彼女の名前を呼ぶなど
貴方には許されないこと、ですがその魂はきっと神の御許へと導かれることでしょう。
貴方の死により、パルミナはより強固な結束を生むことになるのですから。


―神の御加護があらんことを―



101:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/22 19:51:11 BgQNYRBA


【ガセルダの炎】


夜のガセルダに居並ぶ軍勢およそ6000、状況で言えば五分五分、いや攻め手に回る分不利か?
昼間あれだけ吹きつけた砂嵐は既に止み視界は良好、兜の中に篭る粉塵を掃きだし、敵の姿を探す。
誘い込むように開かれた門の前には、敵の軍勢らしいものは見当たらない。

「参謀、どういうこったこいつは?」

「街中に部隊を展開したのち地勢を活かし、
各個撃破を狙うつもりか、いや……灯りも見えぬようではどう動くのか判断出来んな」

「こいつは何かある、油断するなよ、トリ」

「こういう地味なのは、柄じゃないんですがね、
アデニオン、先駆けて先行するぜ、ついてこい」

砂防用の外套から腕を伸ばし銅柱を銅鎧の本管に接続し稼動を開始すると、
傍に置いていた長さ1mほどの槍と剣を背負い、ゆっくりと門の傍へと侵攻していく。
別働隊の奴隷部隊が俺達傭兵の前を先行し、街中へと侵入すると、射出槍を構え周囲を哨戒する。

「トリ兄貴ィ、この辺りはあばら屋にテントばっかですね」

「砂漠の街は、みんなこんなもんだ
しかし妙だな……歩哨の姿すら見えねぇのはどういう了見だ」

「傭兵隊! 何をもたもたしている、進軍せよ!」

「へいへーい、隠密行動中にガナるんじゃねぇよ、素人将校が……
アデニオン、後続を引き入れて上手く回せ、俺は上方の城壁を確保する」

小声と手信号で合図を送ると、城壁の上へと向かう階段へと差し掛かる、
素早く転進しながら射出槍を階上へと向け、一歩づつ踏みしめる、射出槍の長さや推進剤の重量は大したこと無いが
全体の重さは結構なものだ、両手でしっかりと保持して抱えると腕が攣る、芋の皮むきでもしてた方がマシだ。

「おいおい、奥に入りすぎじゃねぇのか?」

階下を見下ろすと血気はやった奴隷隊の面々が貧民街を抜け、中央の住宅街を目指し進軍しているのが見える。
ベアトリス軍の学習の成果なのか、妙なことばかり覚えが早い。
俺は階下のアデニオンに手信号を送るが、流石にこの暗闇ではどうにもならない。

「チッ、灯りがいるな……お?」

願いが通じたのか灯りが視界の中へと飛び込んでくる、正確には火矢なのだが。
俺は次々と撃ち込まれる火矢をしばらく眺め思考する、貧民街に撃ち込まれた火矢がテントへと燃え移っている。
何かあると感じた団長の勘は当たったらしい、俺は音が漏れるのにも構わず、階下へと声を送る。

「アデニオン罠だッ! テントから離れろッ!!」


102:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/22 19:51:43 BgQNYRBA

街中に1発の爆音が轟く、そこには火達磨となった鉄装歩兵とテントの中に積まれた樽、
火矢が樽に突き刺さるとジワジワと引火し、激しい爆音と共に炸裂すると、
誘爆を繰り返された階下の街はたちまち火の海に包まれる。

「自らの街に火を放つだと、正気か!?」

鉄装歩兵の駆動系は熱に弱い、気圧を密封する銅柱に気体を封入する為、熱に当たると膨張するからだ。
俺は城壁から敵の姿を探す、周囲には何時の間にかガセルダの旗が立てられ矢継ぎ早に火矢が投げ込まれる。
中央の住宅街に潜伏していた伏兵が、火を放たれ退路を失った奴隷隊に襲い掛かるのが見えた。
俺は城壁から飛び降ると撤退命令を出す。

「総員撤退! 急げ、火に巻き込まれるぞ!」

「トリ兄ィ!!」

「アデニオン! こっち―」

次の瞬間、何かが弾けるような音が響くと俺の耳に衝撃が走る、兜から覗く眼前の景色が攪拌される。
アデニオンが……俺は思考をフラットに保つよう強く瞬きをする、止まない耳鳴りが収まり始めると
見失った男の姿を探した、舞い上がった鎧の銅板が足元に突き刺さる。

「何だ? な、何がどうなった?」

「トリ! 撤退しろ!」

「待ってください、今、アデニオンの奴がいたんです
助けてやらねぇと! 団長……」

「こっちにまで火の手が回るぞ、
連中に嵌められた、この街はオトリだッ!」

俺はその場から駆け出し門から外へと飛び出す、街の外では西から押し寄せる
伏兵に隊列を崩され混戦状態に陥っている、敵の軽装歩兵がこちらに射出槍を向けると
俺は背負っていた槍と剣を抜き、背嚢に連結された銅柱を捻り推進力を下方へと吹き上げると
伸び上がるように敵集団へと飛来する。

「と、飛んだぞッ!?」

空中でに繰り出した槍が怯んだ敵の胴体を貫くと、着地際に剣を翻し次々と敵の腹部を打ち抜いてゆく。
至近距離から放たれた射出槍が銅鎧に掠めると、装甲を削られ鎧の一部が弾け飛ぶ。

「らぁぁぁッ!!」

敵の射出槍を奪い片手で保持し発射すると、至近距離で胴体を打ち抜かれた軽装歩兵の体が宙を舞う。
踏み込むように前へと歩みを進めると、横から伸びた赤銅の腕に静止される。


103:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/22 19:52:29 BgQNYRBA

「止めんなバティアッ!」

「冷静に戦局を見ろトリフォン! こいつらは死兵だッ!
大仰に旗を立ててはいるが、戦力的には僅かでしかない」

「確かに俺達を数で囲む絶好の好機だった筈……
じゃあ、ガセルダ本隊はどこに?」

「恐らくは廃棄された北の監視塔(C-11)にでも潜ませていたんだろう
連中の狙いはベアトリス南方の砦(L-13)あるいは南北を閉じる関所(H-9)だ」

ここに導入された兵力が6000、南北で兵力を分けたベアトリスの防備は2000弱、
完全に裏を掻かれた形になる……後方を見渡すと未だに逃走を続ける敵兵を追う指揮系統の混乱した
正規軍の姿が目に入る、団長の撤退命令を受け赤銅の盾は戦域を離脱し、ガセルダ本隊の追走を開始する。

俺達は馬車に乗り込むと団員に全速力で馬を走らせた、薄暗い荷台が洋灯に照らされ周囲の色を浮かばせる、
外套に塗れた赤い血は誰の物なのか……今となっては知る術が無い。


104:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/23 22:44:27 BYnhbtKi


【ガセルダ本隊:ガセルダ港】


ベアトリス統治下であったガセルダの町(F-11)から敵部隊は壊走、占領統治下からの開放に成功した。
我が主であるイフティハルは叔父の砦攻略の命に逆らったためこの場に駐留、部隊を二分しての行動となる。
私がここまでの行動を手帳に記録すると、彼が横から手帳を覗き込み語りかけてくる。

「なんで隠すのさぁ」

「また書き直すおつもりなんでしょう?
正確性に欠く情報では”伝記”にはなりません」

『そして窮地に立たされたガセルダ軍を救うべく。
稀代の王者イフティハルの指揮による、猛反撃が始まるのである』

「勝手に書き込まないでくださいッ!」

町の指導者に用意させた司令部に突如伝令が舞い込む。
なにやら重大なことが前線で起きたのだろう、私は手帳を開き筆に墨をつけると伝令の言葉に耳を傾ける。
息咳かけてその場に膝をつき倒れ込むと、前線での情報が伝えられた司令室に衝撃が駆け巡った。

「領主様が……イフティハル候が前線で討たれましたッ!」

「な、なんとッ! それは誠かッ!?」

「これは、イフティハル様の伯父様が亡くなられた?」

「伯父きが―死んだ?」

我が主は椅子に座り込むと小刻みに体を震わせながら、机に肘を突き頭を抱えた。
部隊を打ち破られ抵抗力を奪われた今、我々ガセルダ軍に残された術はない。
側近の兵士長達は頭を抱え込み絶望の表情を浮かべる、我が主は抱え込んだ頭をゆっくりとあげると……

「へっぶし!」

派手にくしゃみした。


105:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/23 22:45:04 BYnhbtKi

「あぁ、悪い悪い出そうで出なかったんだよね、さっきから
で、叔父きの連れてた4000の部隊はどれだけ残ってる?」

「領主様が亡くなられたんですぞ、そのような態度!」

「そりゃ、飛び道具でびっちり固めた堅牢な砦に騎兵当てた所で
やられんのがオチでしょ、こちとらろくな攻城兵器も持ってないんだ」

続けて我が主の直属部隊の者が司令室へと駆け込んでくる、吹けば倒れるような老兵アル・アフダル。
老人は千鳥足で扉を潜り嘆き悲しむ側近の前を通り抜けると、我が主に経過を報告した。

「坊主、パルミナ側に船舶と伝令を送っておいたぞ、
アルメンテも今日中に兵を出すそうだ、ところで何ぞあったのか?
お通夜みてぇになっとるが?」

「伯父きが死んだ、兵を回収するんで
例の騎兵を取り急ぎ召集して、追走してるベアトリスの騎馬隊を迎え撃つ
……爺さん酒臭ぇな、また飲んでんの?」

「はは、酒は百薬の長よ!
頼むぜ、ガセルダの新領主さんよ!」

「街の方は適当に逃げ回った後に降伏するよう伝えてるから
少なくとも2日は時間を稼げる、それまでにベアトリス領に侵入だ」

何を根拠とした自信であるのかいささか疑問が残るものの、この作戦を立案したのもまた彼自身である。
下手をすれば彼の伯父が討たれる事さえも計算付くであったのか?
我々は司令室を出ると、敵騎兵を迎え撃つ準備を進めた。


106:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/23 22:45:40 BYnhbtKi


【鉄装騎兵】


戦列を朝焼けの昇る小高い丘の上に揃えると、敵の馬群が駆け舞い上げる粉塵が目に飛び込んでくる。
ちらほらと壊走を続ける味方の騎兵達の姿を確認すると、迎え撃つように戦隊を組む。
彼の考案した新兵器、鉄装騎馬の初披露だ。

「馬に銅柱を注げ! 馬上の射出槍は5本!忘れもんがない様各自確認!
馬はなるだけ殺すな! 敵兵は……まぁいいや」

「おいおい坊主、普通逆なんじゃねぇか?」

「なんで私まで戦場に借り出されてるんでしょう……」

「正確性に欠く情報では伝記にならんのだしょ? 文筆家殿
逃げ回ってれば、追ってる敵を味方が撃つから心配無用」

さらりと背筋の寒くなるようなことを言われたが気のせいだろう、気のせいにしたい。
何を思ってこの人の伝記など書きたいと思ったのだろう? 今となっては後悔先に立たずだ。
歩み出る彼の号令の元、僕の初陣が切って落とされた。

「全軍突撃! 鼎足の陣で突き崩すぞ!」

丘の上から異様とも思える速度で馬が駆け抜ける、常識であれば馬の足が縺れ転げ落ちてしまう事だろう。
しかし、人間用の鉄装を馬に施し筋力を補強された堅強な騎馬は、その勢いをものともせず敵の騎馬隊へと接近する。
僕は訓練どおりに馬上で射出槍を構えると、隊長であるアフダルのしわがれ声が戦場に響き渡った。

「第1陣、撃てぇいッ!」

友軍の放つ槍が騎馬に乗る敵兵を次々と撃ち落としていく、直進性の高い射出槍の騎射だからこそ出来る芸当だ。
1陣が横に退くとすぐに第2陣の騎乗掃射が加えられ、次々と追走に現れたベアトリスの騎馬達は踵を返し
隊列が乱れ始める、横目に我が主の姿を捜すと敵に背後を取られ追われている姿が目に入った。

「イフティハル様、後ろ、後ろ!」

「え? あぁなんだ、後ろか?」

馬上の射出槍を手に取りその場で仰け反るとそのまま後方へと射撃を行い見事敵兵に命中させる。
一体どういう鍛え方をすればそんな芸当が出来るのか甚だ疑問である。

「そろそろ諦めて敵が逃げてく頃合だな、3陣に合図をだせ」

併走する味方の兵に指示を出すと、伝令は空に向かい銅管を打ち上げ空中で炸裂する音で信号を伝えた。
逃げる敵兵の退路を塞ぐように味方の騎馬隊が姿を現すと、次々と騎射を放ち残存兵力を掃討。
鼎足の陣で3つに分けた部隊の内1隊が後方へと回り込み、退路を塞いでいたのだ。


107:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/23 22:46:22 BYnhbtKi

「初陣はどうだった文筆家殿、少しは俺を見直したか、ん?」

「冗談じゃありませんよ、これ以降は
戦場に借り出されるのは、御遠慮させていただきます!」

「つれないねぇ、これだからインテリは……」

「そこらじゅう残った馬だらけですね、これ全部捕まえるんですか?」

乗り手を失った馬達は思い思いに辺りを駆けたり、足元の草を食んだりしている。
馬にとってはこの争いも文字通り人事のようなものなのだろう、我々が戦場から帰還する頃には既に日が昇りきり。
太陽がガセルダから標榜する海に浮かぶ船の姿を現し出した。

「何だ……あれ?」

島の統治権を巡る争乱は佳境を向かえ、全面会戦の火蓋が切って落とされようとしていた。


108:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/24 20:26:04 AnJROo6s


【剣奴:北の砦北部 捕虜収容所】


朝焼けの中、吹き抜ける風が兜の隙間から入り込むと、俺は目を細め手をかざす、
丘の上から見下ろす収容所では数十名の歩哨が警備に当たっている、有事の際には手薄になると思われていたが、
意外に警戒態勢は厳重なようだ、唯一幸運な事は俺たちの装備が連中と同じ物であるということか。

「……フェルダーいけるか?」

「もう大丈夫だ、各地で捕らえられた捕虜は奴隷として大陸へ売られる筈だ、
その前に俺達の手で解放する、俺達2人で先行。
残り2人は待機して後方を支援してくれ」

「飛び道具の支援は必要ない、こちらの存在がバレたら
銅管でこちらから連絡する。その後に援護してくれ」

「了解」

シュタインとルロワを残し、俺達は鉄装歩兵を稼動し丘の下へと滑り降りる、
何食わぬ様子で歩哨に立つ2人組へと近付くと、怪しむ歩哨の質問にフェルダーが答える。

「何だお前ら、どこから来た?」

「いやね、行軍中に仲間とはぐれちまったみたいで
海岸線を沿って戻ってきたんですよ」

「ち、何やってんだ……軍規懲罰もんだぞ、
まってろ、今から将校に連絡取ってやる、所属は?」

「だそうだけど、俺達どこ所属だったっけカルロ?」

俺が鞘に手をかけ抜剣と同時に敵兵の首を刎ね飛ばすと、フェルダーは肩口から敵の懐に飛び込み突きを放つ。
歩哨の死骸を見えぬよう、草むらの中に投げ込むと再び納剣し、敵の姿を捜す。
向かい側からこちらの存在に気付いた、6人の兵達が近付いてくる。

「……今度ばかりは自信が無い」

「俺が右側の4人を殺る、フェルダーは左側の2人に集中しろ」

「おい、お前ら!?」

こちらへと歩み寄る1人目の腹に全力で蹴りを打ち込むとその場で男は崩れ落ち、地面に伏せる。
抜刀と同時に繰り出された剣閃が、もう2人目の喉笛を切り裂き、発射された剣先が3人目の胸元を撃ち抜くと、
宙で翻し振り抜いた刃が4人目の頭蓋を縦に両断する。

「カルロ……君は一体何者なんだ?」

「ただの”奴隷”だ」

投げかけられる疑問の声に俺の記憶が反芻される、楽とは言えないまでも希望が満ち溢れていたあの時代。
産まれながらに親を持たぬ俺は流浪の老人に拾われる、老人は世に蔓延る魔を根絶する為に戦い続けていた。
大陸に溢れる魔物に単身立ち向かい、二振りの剣を振るい次々と屠るその姿に俺は憧れた。


109:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/24 20:26:35 AnJROo6s

双剣のディマカエリ。

しかし、その強さも老いに勝つことは敵わない、患った病と傷が元でついには息を引き取った。
……俺に伝えた剣の技だけを遺して。

その後、魔の台頭により再び大陸は混乱に陥り、
狭まれた生存圏を巡る人間同士の小競り合いが始まると、俺は捕らえられ奴隷としてこの島へと送られた。
結局、彼の犠牲を持ってしても人々は一致団結することなど無かったのだ。

「”復讐に意味は無い”」

「どうしたカルロ、急に?」

「……俺の養父の遺言だ」

「耳が痛い言葉だな、俺もその人に学べたら少しは強くなれたかな?」

敵兵達がこちらの姿に気付くと武器を手に取り距離を詰め始める、十数人は越えたか。
覚悟を決め両手に剣を握り向かい合うと、敵陣より射出された槍を身を翻し避ける。
突撃してきた敵鉄装歩兵と剣を克ち火花を散らすと、突然側面より飛来した槍が敵の脇腹を貫いた。

「あれは?」

「見覚えがある、アルメンテの鉄装歩兵だ
巻き込まれないよう後退しながら戦うぞ、アルメンテヘの警戒も怠るな!」

次々と攻め入るアルメンテ軍により戦局は一方的な展開となった。
1人の鉄装歩兵が兜のつばを上げるとこちらへと歩いてくる、どうやら敵意は無いようだ。
兜から覗く耳がちらりと覗く、どうやら彼女は亜人のようだ、大陸ではよく見かけたものだがこの島では始めてお目にかかる。

「怪我は無い?」

「えぇ、なんとか……貴女は一体」

「私はアルメンテ解放戦線の副長、名はコルトリ・ウノ、
コルネリアとお呼び下さい」


110:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/24 20:27:25 AnJROo6s


【大陸からの使者】


解放された奴隷たちが次々と収容所の中から現れると、俺達は後方の2人と合流し
制圧した屋内で顔を合わせた。これからパルミナへと向かい、ベアトリスに対する最後の反抗作戦を行うらしい。
フェルダーを除く3人は部屋の通されると先程の女がお茶を入れテーブルの上へと並べている。
シュタインは俺の袖を掴み声を潜めながら話しかける。

「おいカルロ、何だあの女……耳が尖ってるぜ?」

「亜人と呼ばれる種族だ、大陸ではさして珍しくも無い。
彼らは物珍しい目でみられるのを嫌がる、注意してくれ」

「あぁ、分かった」

「わぁ! 見ろよシュタイン、この人耳が凄ェ長いぜ!」

止めた傍から、ルロワが物珍しげに騒ぎ立てると険しい顔をしたシュタインが後ろから羽交い絞め
ルロワが外へと連れ出される、彼女は呆けた様子で俺と目が合うとくすりと笑う。

「……すいません」

「お気になさらず……慣れておりますので、それよりも先程の戦いぶり
拝見させて頂きました、お強いんですね、お名前は―」

「カルロ……ロッシです」

「では”双剣のディマカエリ”はただの字かしら」

俺は本能的に腰の剣に手をかけ相手の全身を見据える、大陸から来た者ならば知っていてもおかしくはない。
しかし彼女と俺は初対面の筈、少なくとも俺の幼少時の記憶が確かであればの話だが。
俺が警戒したのを察したのか女は距離をとり、剣の射程外へと身を退ける。

「奴隷身分に落ち、その身を死地に投げ込んでも
生きていらしたのには驚きました、流石は”神剣”に選ばれた者の業を継ぐ者」

「何の用だ?」

「人は愚かなものです、敵がいる内は結束し魔を討ち払おうと努力します。
しかし、外に敵がいなくなったと知るや、その剣を内に向け人同士で奪い合うのです」

亜人と人間の寿命の差から来る発言なのだろう、生き急ぐ人間と未来を見据える亜人とでは
根本的な思想自体が異なるのだ、彼らは人間を愚鈍と信じて止まない上に、
我々人間は彼らの長命から来る人知を超えた技術を恐れる。

「闇の深遠より這い上がる異形達の勢いは留まる事を知りません。
これでは同じ歴史が繰り返されるばかり、そのため連合の協力の下で
この騒乱の即時解決を図るよう取り決めました」

「大陸の異種族がこの島に干渉するのか?」

「いいえ、貴方達の手によって……」

女が窓の外を指すと馬車に見慣れない鉄装歩兵の鎧が積み込まれている、あの鎧が”干渉”なのだろう。
俺は彼女の目を一瞥し表へと歩みを進めると、後ろから呼び止められる。

「また大陸でお会いしましょう、”ディマカエリ”」


111:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/25 02:25:34 8SyaSLn5


【蟻の世界】


”神は持たざる者にこそ、その救いの手を差し伸べる”

誰が言った言葉だろうか、もしその言葉が真実であればそれはとても残酷なこと、
そんな救いなど誰も求めてはいないのだから。私は馬車から降りると、北西の砦へと呼び付けられた。
ベアトリスの外城の城壁へと通じる螺旋階段を上ると吹き込む風と共に空が開ける。

海上に浮かぶ船が煙を噴き上げ砲弾を発射すると、城壁が揺れ積み上げた石垣が崩れ落ちる。
他の街とは違いベアトリス領を囲う外城は倍以上の高さ(20m)を有している、
その城壁が洋上の艦砲射撃により倒壊しようとしているのだ。

「ベアトリス様、こちらです!」

「……リュゲル」

軍師であるリュゲルが青ざめた表情で私の手を引く、戦艦が西側から砲撃を加え
風穴を開けてベアトリス領内への活路を開く、そんな馬鹿げた戦略を誰が思いつくだろうか。
こうなっては最も堅牢な南北の砦は意味を成さず、洋上からの侵攻を食い止めることは出来ない。

「今こそ、今こそベアトリス様の御力を我々に示して頂きたい!」

「え?」

その言葉に最も恐れていた事態が起きたことを私は確信した。
私がその場から離れようと後ろを振り返ると兵士達に出口を阻まれ退路を失ってしまう。

「嫌、嫌ァッ! それでは約束が違うッ!!」

「ベアトリス様、ここで持ち堪えれば我々の勝利なのです
何卒、その御力を我々にお貸しください」

「何が我々の勝利よ、勝ちたいのは貴方だけでしょう!」

「宜しいのですか? わが国が……貴方の故郷である
リオニアの人々がどうなろうと、構わないと仰るのですか!?」

リュゲルが私の目を睨みつけながら髪を掴み、洋上の船へと目を向けさせる。
私に選べと、リオニアの人々の命と、あの洋上の船に乗った兵達の命とを秤にかけろとこの男は言っているのだ。
先王が亡くなり平民との間に授かった私の存在が明るみになる10歳までの間、私はリオニアの島で生活していた。

私が戴冠するのを領主達は皆一様に反対した、平民出の小娘に頭を下げろなどと誰でも御免被るだろう。
しかし、それさえもこの男の謀略の内であったのだ。


112:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/25 02:26:08 8SyaSLn5

「卑怯者ッ!!」

「この島を平定し、皆が一丸となり。大陸からの侵略に備えなくてはならないのですッ!
私は民衆の為に、全ては民を思えばこそのことッ!!」

「あの船の船員も……ベアトリスの民でしょう」

「では貴女は大陸の顔色を伺い、頭を小突かれながら謙って生きろと仰るのですか?
これは我々にとって必要なことなのですッ!」

私が頑なに要求を拒むと、彼が耳元で他の兵に聞こえぬよう囁きかける。

「ドルバトゥールにもしもの事があっても宜しいのですか?」

「な、何を言い出すの?」

「今であれば城壁の損傷は軽微、反乱軍の侵攻を最小限に食い止められます
ですが、これ以上倒壊を許してしまえば前線に立つ彼は窮地に立たされる、そういう事です
それに、もしもということも有りえますしね……」

私はその場に立ち上がり小刻みに震える手を上げると、周囲に満ちた力を収束させる。
空に雲が集い始め、黒い雨雲にも似た渦が黒い闇を覗かせる、周囲では兵達がうろたえ始め、
リュゲルの顔に笑みがこぼれる。

「素晴らしい……素晴らしい! これが魔の力かッ!
貴女は正しいのですベアトリス様、愛する者の為に戦うのは罪ではありませんッ!」

「……御免なさい」

空に浮かぶ闇の中から一筋の光条が放たれ洋上に浮かぶ船へと突き抜ける。
その瞬間、周囲に轟音が響き渡ると城壁を越えるほどの巨大な水柱が立ち上り
パルミナとガセルダ双方の港へと降りかかった。

ぱらぱらと降りしきる海水が城壁まで届き空に大きな虹を描く、何故私に……
何故私にこんな力を授けたのですか?

「はははははッ! 勝てるッ! 勝てるぞッ!
この力の前では反乱軍など蟻のようなものではないか、蟻の世界だッ!!」

私は救いなど求めてはいないのに。


113:10/26に名無し・1001投票@詳細は自治スレ
08/10/25 09:59:25 E/BrrBYv
がんばれー

114:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/25 18:38:29 VuUuVMS4
西暦20xx年・・・。

日本は高度な技術を手に入れ、一昔前では想像もできないような便利な物を発明した。

自分の頭の中のイメージを映像にできる機械。周りに誰がいるかわかる地図。ピントを合わせて、かなり遠くの物を見れる眼鏡。 

全ての人には、それぞれ与えられた仕事があり、混乱は全くなく、平和だった。

そんな中、犯罪率0の日本で殺人事件が起こった。

警察官である主人公は、犯人を捕まえた。しかし、犯人は突然どろどろした液体に変わり、消滅した。 

実は犯人は、ある生物実験所から逃げだした液状生物だったのだ。 

さらに悪いことに、なんにでも化けることができるこの生物は実は日本の中にまだ複数いる事が、研究関係者の口から伝えられた。

全ての人に役割が与えられている社会。逆に言えば、一人でも、人に化けた生物がいると、社会の秩序が壊されてしまう。 

未来社会の崩壊をくい止めるため、日本政府は上に挙げた特殊な発明品の数々を使う対液状生物ハンターを編成した。 
そして、この戦いに主人公も巻き込まれる事に


115:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/27 12:56:53 pLYwwtcV
セックス中のゲロが原因で戦争始まったって認識でおk?

116:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/27 13:05:08 vQTRcJAi
作者が違うと思うぞ

117:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/27 18:38:30 ZKg3tSc0

【歴史】*適当です

紀元300年 大陸の城郭都市がエルダードラゴン(賢竜)の襲撃により壊滅

紀元180年 時の賢者により”神剣”が作られる

紀元80年 大陸を捨て 島(現ベアトリス)への民族移動(現パルミナ)が始まる

紀元20年 シーサーペント(海竜)により移民船団の一つが沈没

紀元10年 ”英雄ベアトリス”が島に潜む魔族を掃討し 島を開放する

紀元6年  ベアトリス城の建造

王暦0年  英雄ベアトリスの死去により その夫が次期国王へと推挙される

王暦3年  大陸より流れ着いた漂着民(現ガセルダ)との紛争が起こる

王暦16年 名も無き英雄が魔族の首領を打ち倒す この際に受けた傷で両者は死亡 

王暦18年 剣闘士”ディマカエリ”(初代)の済む集落がベアトリス軍により壊滅

王暦20年 剣闘士”ドレト”王族”ルロワ”(本編の人とは別人)が国王を打倒

王暦24年 大陸へと進出”ディマカエリ”がエルダードラゴン(賢竜)を討伐する

王暦27年 ”ディマカエリ”がシーサーペント(海竜)を討伐 海上通商が再開される

王暦30年 大陸へと進出した”ドレト”が国王となり大陸を西部を制覇

王暦31年 亜人による異種族の連合が発足される 代表はベアトリス島より移民した人間族

王暦40年 連合が大陸西部を制覇 この時代より魔族が大陸北部の生存圏を脅かすようになる

王暦41年 ”不死身のドレト”死亡

王暦42年 連合の兵器工廟にて次々と新兵器が開発され 大陸や島へと輸出が開始される

王暦43年 内紛が激化 大陸から大量に採掘される金により”ベアトリス国”との経済格差が広がる

王暦50年 デーモン(悪魔)との戦闘中に受けた傷が元で”双剣のディマカエリ”死亡 

王暦55年 大陸の雇った海賊によるベアトリスに対する海上通商破壊が始まる

王暦56年 第四代ベアトリス国王が死去 娘である”ベアトリス”(現在)が戴冠

王暦57年 海上通商安全保障条約に関する取り決めをパルミナ・ガセルダ・アルメンテの領主による合意で取りまとめられる

王暦60年 大陸からベアトリス国に対する内政干渉 大陸側に有利な公約を纏めた三十三稿が出される

王暦62年 ベアトリス統一戦争勃発(現在)


118:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/27 18:40:22 ZKg3tSc0
修正

○王暦40年 連合が大陸東部を制覇 この時代より魔族が大陸北部の生存圏を脅かすようになる

119:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/27 22:12:37 KaDJSkOo

それぞれの所属の説明

・ヴィジランテ旅団
”内乱を誘発させる”の言葉通り、大陸の西側が送り込んだスパイ
領主と司令官、軍政両方の指導者を失ったパルミナを実質手中に収めた
鉱山爆破による産業破壊など西側に有利な工作を進め、既に目的は達成されている

・アルメンテ解放戦線
大陸の東側の資金支援を受けた解放軍、連合は双方の陣営に武器を販売していたが
元老院の判断により、内乱の終結を纏める政策を打ち出した
作中で撃ったり斬ったりしている武器のほとんどが連合製品

・ガセルダ本隊
かつて大陸から流れ着いた民族であり、軍により迫害された経歴が有る
領主が戦死したことで方針を転換し、内乱の早期解決によるベアトリスとの和平の道を模索中

・剣奴隊
アルメンテ解放軍の傘下に入り別働隊として行動中

・ベアトリス軍
元はベアトリスが”本国”であり西大陸は”植民地”だが、国力の逆転により内政干渉されている
また立場上、ベアトリス本国を守る為の盾として魔族と戦い続けた経歴により
西側が抱く本国への不信感と恨みも根深い、ベアトリス領はリュゲルの意志の元、開戦の意志を打ち出し
他の3領は厭戦、リオニアは中立


120:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/27 23:17:31 KaDJSkOo

登場した装備の備考

・臙脂石
火薬の換わりに使われる、特殊な溶液や水に触れると大気中に溶け出し
空気に触れると瞬間的に膨縮する、地表に出てるものはすぐに蒸発するので
山などで採掘して取り出す、水蒸気を出すが熱の発生は少ない

・鉄装鎧
装甲を厚くした鎧で総重量で30~50kg近くある、臙脂石によるサポートにより動作し
弓矢・機械弓・火薬を用いた貫通力の低い銃弾などを通さない
構造上の欠陥で間接にわずかな隙間が開く、銅と鉄をあわせた複合装甲や
裏側にキルト生地を用いた衝撃吸収、高度技術で作られたミスリル(ようはジェラルミン)製もある

・火薬
臙脂石の方が推進剤として優秀な為にあまり使われなくなった
火をつける際の爆薬としては優秀

・剣
1m前後の一般的な両刃剣、装甲を完全に撃ち抜くため、突きを加えると刃先が飛び出す仕掛けになっている
本体と刃先を止めてあるボルトを抜くと飛び道具にもなる、推進剤には臙脂石が用いられる

・弓矢
軽装歩兵用に未だに使われている弓、鉄装歩兵の導入により機械弓は大型化が進み
ハンドルを使っても人間の手では引けなくなった為、使われなくなった

・銃
火薬の取り扱いが面倒、弾丸が丸いため鉄装歩兵の装甲を撃ち抜けない
推進力の不足などにより、あまり使われない、大型化した大砲は現役

・射出槍
2m前後の槍、筒に1mほどの細長い槍を差し込んだ形になっており、臙脂石を推進剤に用いて射出する
有効射程は300m前後、鉄装を撃ち抜く場合50mの距離まで近付かなくてはならない
捕鯨銃のような物、貫通力が高く一般的な飛び道具といえばこちらになる


121:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/28 19:43:02 40k8kMAT


【ヴィジランテ旅団 ベアトリス領内】


空に淡い雨雲が広がっている、私は外套を傘代わりに小雨に打たれる小麦の穂を眺めていた。
眼前に広がる肥沃の大地、大陸の荒れ果てた風土に比べればなんと豊かなことか、
不意に後ろから呼びかけられ案内を誘導を受けると、本部となる野営内へと入る。

「旅団のヒルデガルド様ですね? お待ちしておりました」

「いえ、残念ながら団長は病に伏せておりまして、
つきましては代行として、私がこの場へと馳せ参じた次第です」

「左様ですか、ではこちらへどうぞ」

薄暗い室内に各陣営の代表が集まり、急遽ベアトリス本領に対する会議が始められる。
私は周囲を見渡すと隣にいる亜人の女性と目が合う、恐らくは連合の手の物だろう。
向かいには髪を後ろへと纏めた、覇気の見えぬ男と付き添いの男がなにやら揉めている。

「この記号はどういう意味なんです?」

「槍だよ、こうやって向きを変えて配置すんの
さっきから質問責めだな、文筆家殿」

「僕、軍議に参加するのって初めてですから」

私が小さく咳払いをすると、ガセルダの代表と思しき男が頭を下げながら室内の人を払う。
見慣れない者達を数人残し会議が始められた、おおよそこの会戦は勝つ戦、
如何にして我々パルミナが有利な位置につけるかが争点となる。

「……まさしく恵みの雨ですわね、
旅団の代行で参りましたヨハンナと申します」

「イフティハルだ、いきなし、船を真っ二つにされたときはぶったまげたが
ツキはまだ、こちらにあるようだね」

「船を破壊する為に力を使用した以上、
しばらくの間、彼女の脅威は抑え込めるでしょう
私はアルメンテ領主代行、コルネリアと申します」

加えてこの視界の悪さでは近付く我々の動きを察知するのは難しくなる、
私は懐から一枚の羊皮紙を取り出し机の上へと差し出すと、立案した作戦を提言する。

「ベアトリス領内を分断するように広がる
水路の位置を纏めた物ですわ、皆様もご存知のとおり
我々はベアトリス城へと上りながら侵攻することになります」

「まともな方法で近付いては射撃の的になるねぇ」

「そこで水路に油を流し込み、火を放つことで敵の視界を立ち
地図上で示された位置をなぞるように侵攻すれば……」

「それでは、問題があるのではなくて?
水路を畑へと開いている今の時期、油を流せば農作物に被害が出るわ」

言葉を遮るように亜人の女性が語りかけてくる、確かに農作物に被害は出るだろう。
しかしその被害も織り込んだ上での作戦なのだ、私は一先ず自らの意見を飲み込み
彼女の考える作戦に耳を傾ける。


122:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/28 19:43:37 40k8kMAT

「では、どのように?」

「敵の補給は行き届いておらず、火砲の運用すらままならない状況です
ひとまず補給を寸断する為に南の城門を押さえ、持久戦へ持ち込むのが上策かと」

「悠長に敵が降参するまで待つというの?
和議の条件は? 国王であるベアトリスの対応は如何なさるのかしら」

「アルメンテとしては助命することを和議の条件として出すつもりです」

女がそう告げると場には重苦しい空気が流れる、我々の目的は女系の女王である王家の血筋を断つこと
女王の死を持って終戦としなければ、今後の対応に不備が出るだろう。

「何を馬鹿な……」

「俺ら、ガセルダの方でも助命する方向で
和解しようと何度か使者を出してるんだけどね」

どうやら両者の間で何かしらの取り決めがあるのだろう、先日の戦艦にしろ
ガセルダ側の資金力で用意するのは困難な代物。私は下手に反論することを避け、
彼女の意見におおむね同意すると、水路の見取り図を手に取った。
直接処刑できなくとも、暗殺という手も有る……。

「現在、合同で混成した部隊をぶつけてるが
反応は相当鈍い、ベアトリス軍の大半は金で雇われた傭兵に奴隷だからな。
ガセルダ方面へ向かった部隊は砦の兵力合わせて8000、
これが指揮の混乱による脱走で5000程度にまで減少……」

「外城の城壁を利用すれば、2000程度の兵力でも防衛は可能ですわね」

「そうさね、南門に陣取り貿易港への道を塞いだ場合、
事が窮するのを待つ前にベアトリス軍は討って出てくる筈
城内の敵の規模は……まぁ多くて3000程度だな」

合同で展開されたこちらの兵力は10000を既に越え、
門の防衛に兵力を割いても8000、会戦を迎えるには十二分すぎるほどの余力がある。

「つまり、こちらの勝ちはこの時点で決定した訳だ、
この戦局がひっくり返ることはまずありえねぇ」

「油断されていると足元を掬われますわよ」

「その辺はおたくらを”信用”させてもらうよ
後ろからバッサリなんてのは御免だからねぇ、ははは
んじゃ、馬に飼い葉やる時間なんで、そろそろ失礼」

そう言うと男は2人席を立ち、本部の外へと歩きながらその場を離れる……喰えない男、
豪胆放逸な性格だと噂に聞き及んでいるが、あの目は何者も信用していない目に見える。
我々の内、いずれかが裏切る手筈を取り付けても、それも彼の予測の一つに入っているだろう。

私は連合の亜人の目を一瞥すると、軽く会釈をし後を追うように本部から外へと出る。
雨は本格的に降り始め、私の外套へと降りつける、雨の簾で塞がる視界を歩く内に
言い知れようのない不安に捕らわれてしまう。

私を”信用”出来る者などいるのだろうか?


123:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/28 19:44:32 40k8kMAT


【ベアトリス会戦】


曇り空の中から降りつける雨が俺の頭を濡らす、遠くから聞こえてくる戦場の喚声が耳に障る。
雨音を掻い潜るようにコルネリアの鉄装が姿を現す、無用心にも護衛の姿は見えない。
俺が彼女と目を合わせると、こちらへと語りかけてくる。

「カルロ、濡れるわよ」

「汚れを落とすには丁度良い……前線の様子はどうだ?」

「心配はいらないわ、連合は物資の供給を止め
備蓄していた燃料も底をついている、もはやベアトリス軍に抵抗力はない」

「それで、俺に何をさせる気だ、
案山子としてここに立たせておく訳でもないだろう?」

俺がそういうなり彼女は兜を脱ぎ雨水を顔に浴び、纏めた髪を撫で上げると、
口頭で俺に依頼を伝えた、俺は彼女の声に耳を傾ける。

「貴方に頼む依頼は3つ、1つ目は軍師リュゲルの殺害
彼はこの戦乱を起こした首謀者、生かしておけば禍根が残るわ
2つ目に執政室の書庫に火を放つこと……」

「知られては不味い連合の資料でもあるのか?」

「えぇ、秘密裏に交わされた、ベアトリス軍と連合との同盟を記した文書よ
それに加えてもう1つ、ベアトリス女王を捕らえ、私の元まで連れてくること」

「……何故そんなことを?」

俺が疑問の言葉を放つと、彼女はわずかに動揺を見せたが
恐らくは機密に当たる情報を彼女は隠すことなく話し始める。

「この戦乱で彼女が命を落とせば、西大陸は島へと派兵する口実を得るわ
”王政を打倒した謀反人を討つ”という大義名分が手に入る」

「そこで連合が”人質”としてこの国の女王を確保することで
東西の緩衝を得るという訳か……」

「そう……そうね、国は実利に伴って動くもの、
島への侵攻を許せば、西大陸の覇権はますます成長することとなる」

俺は鉄装に銅柱を差し込み鎧を始動させると、戦場へと一歩踏み出す。
人が変えることの出来ることなど些細な物だ、どれだけ地獄の底で足掻こうとも
うねる様に変化する時勢の流れを人の力で断ち切ることなど出来はしないのだから。

「カルロ、貴方には何も遺らない、例え戦いの中で命を落としても
……貴方の養父様と同じように」

「彼が遺したからこそ……俺が今ここに居る」


124:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/28 19:45:37 40k8kMAT

降りしきる雨の中、撥ね上がる泥に塗れながら俺は剣を振るうと、
次々と薙ぎ払われる敵の骸が水路を埋め尽くし、怖気づく敵兵が悲鳴を上げながら散り散りに逃げ出す。
道を塞ぐように立ちふさがる城壁に射出銃を向けると、城壁に上部へとフックをかける。

「随分と静かだな」

城壁を昇りきり数人の見張りを打ち倒すと、城壁から城の周囲を見渡す。
防衛についているのは100余名程度、俺は城壁から飛び降り警備を掻い潜るように
城へと近付き、背嚢の銅柱を捻り虚空へと舞い上がった。

城の窓枠を突き破り、城への侵入に成功すると
部屋の隅で1人の給仕が震えているのが目に入る。

「ひ……ひぃ……」

「リュゲルはどこに居るか知っているか?」

「リ、リュゲル様なら……し、執政室に篭っておられます
お願いします、命だけは……」

「安心しろ、そこまで俺は暇じゃない」

部屋から廊下へと出ると、広い通路を歩きながら執政室へと向かう、
見張りに気取られぬよう護衛の兵達を射出銃で打ち倒すと、部屋の扉を潜る。
部屋の中で頭を抱える男が物音で振り向くと俺と目を見合わせ、驚愕の表情を浮かべる。

「誰だ……お前は」

「ベアトリス軍師、リュゲルに相違ないな?」

「き、貴様は一体どうやって……
単騎でここまで攻め寄ってきたというのか!?」

「……悪いな」

俺は剣を翻し男の胸元を斬りつけると、鮮血を撒き散らしながらその場に倒れこんだ。
胸元に繋げていた胸飾りの鎖が切れ、金属音が部屋の中に響き渡る。

「こんな……こ、こんなバカなッ!
こんな所で私が……死ぬ筈がッ!!」

男は噴き出す血を押し戻すように掌を押し当てながら、落とした胸飾りを拾おうと腕を伸ばす。
俺は胸飾りを拾い上げ確認すると、そこには一人の女の胸像が描かれていた。

「か、返してくれ、マルキアを……私は」

胸飾りを伸ばした腕に掴ませると、リュゲルは描かれた胸像を見つめながら涙を流す。

「すまない、マルキア……き、君の仇は……討てなかった」

「……」

そういうと男は息が切れたように息を引き取る、この男も遺された遺志を継ぐ者だったのだろう。
俺は男の遺体を抱え上げ部屋の外へと遺体を移すと執政室へ火を放つと、
騒ぎに気付いた親衛隊が俺の前に姿を現した。

残すはベアトリスの身柄の確保のみだ。


125:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/28 19:46:08 40k8kMAT


【戦乱の終焉】


闇夜の中を雨が降り続けている、先ほどまで聞こえていた戦いの喧騒も
今となっては届くことはない、恐らくはこの城もじきに落ちる。
強大な大陸な干渉に対し我々は最後まで無力だった。

「ベアトリス様……」

「ドルバトゥール、戦況は?」

「残念ながら力及ばず会戦に敗れました、兵員の指揮の低下に
歯止めがかからず壊走を続け、最早戦列の維持は困難です」

「ドルバトゥール、最後のお願い……頼んでも良い?」

補給を寸断され篭城することも適わないとなれば降伏するより他はない
私は彼の手を取り、両の目を見つめる。

「私を斬って貴方が王になるのよ」

「!? 何を仰るのですか」

「そうでもしなければ……この戦乱により根付いた民衆の不信は断てないわ
貴方が私を斬り、彼らに私の首を差し出すの、そうすれば―」

「私の命は助かる……そうお考えですか?」

私の心を見透かすように彼が言葉を紡ぐと私の言葉が詰まる、このまま和議を結び私が助命されようとも
彼に対する責任の追及が消える訳ではない。

「既にアルメンテ側との降伏勧告を受け入れ交換条件を提示しました、
貴女のお手を煩わせる事も御座いません」

「ベアトリスの名において貴方に命じます! 私を……!」

「残念ながら、その命令に従う訳にはいきません」

その場で踵を返す男の後ろから手を伸ばすと、彼はその手を跳ね除けながら。
私の目を見据え、けして視線を外すことなく言い放った。

「ベアトリス、やはり貴女はただの田舎娘のようだ―」

「!?」

両の目から涙が零れ落ちる、この城に来て6年もの間一度として流すこともなかった涙。
彼は騎士という身分の立場でしか私を見てはおらず、彼にとって私はただの身勝手な厄介者なのだ……

しかし、それでも……私は彼を失いたくはなかった。


126:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/28 19:48:43 40k8kMAT


【騎士と奴隷】


鉄の甲冑が軋む音を立てる、この鎧を身に纏うのも恐らく今日が最後だろう。
兵には降伏を受け入れたことを通達してはいない、私は賊が来るのを待ち構えるように
通路の中央で身構える、侵入者がベアトリス様の部屋へと通るとあればこの道しか残されてはいない。

「来たか」

「……何者だ」

「私はベアトリス軍総司令、ドルバトゥール
生憎この先へ通すわけにも遺憾、貴様にはここで死んで貰う」

一気呵成の勢いで斬りかかる男の剣を篭手で弾きながら、こちらも剣を突き出し反撃を加える、
並みの手だれであればこれで勝負がつく、しかしこの男は容易に身を翻し私の剣を避けると
体を反転させながら繰り出す斬撃により私は腹部を貫かれた。

「まさか……これほどまでとはな、だが……」

私はその場で膝をつき前のめりに倒れこむ、腹部から溢れ出す血が掌を濡らす。
ベアトリス様は……まだ泣いておられるだろうか?

「これが……私の」

この城に来られた時、私は貴女に従属することを拒絶していました。
ただの平民の娘が物珍しげに部屋を荒らし、礼儀・作法などあったものではないのですから、
ほとほと手を焼いたものです。

「……」

しかしこうして死の淵に立たされた今でも、気にかかるのは貴女の事ばかり、
ベアトリス様……貴女様を遺しながら逝くことをお許しください。

叶うことならば……私は騎士としてではなく、一人の男として貴女を護りたかった。

叶うことならば……貴女と―


127:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/28 21:26:48 5xm47YVl
ほれ、死ぬまで書け

128:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/29 06:21:21 hCsO9OKU


【王暦78年 ベアトリス港】


港の大都市へと朝焼けの光が差し込む、ベアトリス統一戦争より十余年の歳月が流れ、
人々の心から忌まわしき過去の記憶は次第に忘れられようとしていた。
住宅地の一角に立つ屋敷の一室で、栗色の髪をした1人の少年がベットの上に横たわり寝息を立てている。
少年は窓を叩く小鳥に足音で目を開け、大きく伸びをすると窓の外へと目を向けた。

「ヒルデ起きなさい、朝ご飯できてるわよ」

「はぁい、今行くよ義母さん」

少年が頭を掻きながら食堂へと向かうと、義理の母であるヨハンナが食卓にスープを並べている。
彼は壁にかけられた生前の母の肖像画を眺め、口に出すことなく朝の挨拶を済ませ
彼女は席に座るように促されると、二人で食卓を囲み食事を始める。

「この間、街中でバティアトゥス先生とお会いましたわ、
ヒルデ……授業をサボってるらしいじゃないの」

「え!? ち、ちゃんと受けてるよ」

「誤魔化さないの、剣術の修練から逃げてるとお聞きしたわ
あまりご迷惑をおかけしては駄目よ、貴方は由緒ある
リューゲル家の子息としての自覚を……」

「だってトリ先生、木剣でビシバシ打って来るんだもん
それにほら、今の平和な時代、必要なのは学問だよ」

少年がその場を取り繕うように言葉を放つと、眼鏡の奥にある金色の目で睨みつけられる。
小柄な体に編み上げた髪、人目では穏やかに見える女性でも、
少年にとっては怒ると怖い義理の母なのだ。

「あ……もうこんな時間だ!
じゃぁ、義母さん、行って来ます!!」

「お待ちなさいヒルデベルト、まだお話は終わってません!」

後方に落ちる雷から逃れるように少年は脱兎の如く逃げ出すと、
朝から目覚め活気付き始める街並みの中を走り抜ける。港へ停泊しているガレー船を横目に見ながら、
歩みを止めると何者かの気配を感じ振り返った。

「キュ……」

「わ、何だ、この変な生き物、貨物船に紛れてきたのかな?」


129:名無しさん@お腹いっぱい。
08/10/29 06:24:14 hCsO9OKU

もこもことした鼬のような生き物が首を捻りながら、こちらを見つめているのが目に入る。
生物を捕まえようと手を広げ、摺り足で近付くと少年の腕を潜り抜け。
近くにいた少女の体をかけ昇り、長い髪の中へと姿を隠した。

「あ……と、ごめんその動物……君が飼ってたの?」

「……別に」

金髪に碧眼の瞳に亜人であることを示す細長い耳、細い体躯に似合わぬ無骨な防具を体に身につけ、
腰には2本を剣を指しているのが見える、亜人と言えば経済的に恵まれた者が多く、
煌びやかな衣装に身を纏っているのを少年はよく見かけていた。

しかし、その少女から感じられるそれは、非常に泥臭いものであるように感じられ、
俄然その少女に興味の湧いてきた少年は自らの名前を名乗り、彼女に質問を加えた。

「僕、ヒルデベルト・ファナ・リューゲル、君の名前は?」

「名前は……ないの」

「え? あ、そうなんだ」

出鼻を挫かれ慌てた様子を見せる少年を尻目に、少女は船宿から出てくる男に目を向け
走り寄った。古ぼけた襤褸を外套のように頭から被り、口元だけは辛うじて確認することが出来る。
少女と同じように腰に指した2本の剣、脇には銃らしきものが覗き
背嚢には大小様々な武器が詰められている。

男は少女の元へと近付くと頭上から声をかける。

「どうしたロゼ、何かあったのか?」

「……何でもない」

少女は振り返ることなく男の後を追うように着いていき、雑踏に紛れその姿は見えなくなった。

賞金稼ぎ。
依頼により害獣を駆逐し、場合によっては賞金のかかった人の首をも斬る忌業。

自分とあまり年の変わらぬ少女がそのような立場にあることに少年は憤然としたやるせなさを覚えると、
遅刻した時間を取り戻す為に通学路の道を駆け出した。


130:名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ
08/11/01 09:40:46 0hJ7X+WL


【地方警備隊 本部】


子供連れの剣士が警備隊本部の門を潜ると、物珍しげな好奇の視線が2人へと投げかけられる。
少女の風貌もさることながら、亜人と人間の二人連れという組み合わせもますます目を引く一旦となっていた。
男は近くの警備兵に話を通し、建物の奥から警備隊の隊長が姿を現す。

「カルロ? カルロか!?」

「しばらく見ない内に随分と出世したな、フェルダー
変わりないか?」

「あぁ、シュタインとルロワも街で商売を始めて
上手くやってるよ、それはそうと……」

フェルダーが男の外套の陰へと潜り込むように姿を隠すと顔だけを向け、いぶかしむ様子で警戒している。
おおよそ近隣に出没した悪魔の存在を聞きつけやってきた事の予測はついたが、少女に関しては予想外の来訪者であり。
頭を掻き何事かを尋ねるように口を開く。

「この子はどうしたんだい、見た所……
まさかコルネリアさんと?」

「お互いの長所を掛け合わせたらどうなる?」

「え?」

「その答えがこの子なんだそうだ」

そういうなり男は少女の頭に手を乗せると少女は顔を紅潮させて俯き、ぺこりと頭を下げる。
フェルダーは慌てて礼を返すと、少女の顔をまじまじと観察する、確かに双方の血を分けているようにも思え、
何故そのような子供に武装させているのか頭を捻る。

「じゃぁ、結婚したんだねカルロ、
遅ればせながらおめでとう、祝福するよ」

「いや? していないが……それはそうと
仕事の話だ、現れた魔物について詳しい話を聞かせてくれ」

「あ、あぁ……分かった」


131:名無し・1001決定投票間近@詳細は自治スレ
08/11/01 09:41:18 0hJ7X+WL

空いていた部屋の一室に通すとフェルダーはことのいきさつをカルロに告げると、
一個小隊が鎮圧に当たり、魔物が現れた山へと向かった兵達が未だ帰還していないことを告げた。

「馬車の交易で被害を受けた商工団から
突き上げを食らって、兵を出したんだが……下手をすれば」

「魔物は土塊からでも生まれることが可能だが
完全に実体化するまでは時間がかかる、まだ発見出来ていない可能性もあるさ
突然邪魔して色々とすまなかったなフェルダー」

「こちらこそ力になれなくてすまない、またねロゼ」

「……ん」

そそくさと逃げ出すようにロゼが玄関へと駆けて行くと、父親が頭を下げ娘の後を追う。
小隊の後を追うため乗り合いの馬車へと2人は乗り込むと、
少女は先程、父と話し込んでいた男について尋ねた。

「お父さん、さっきの人は?」

「昔の仲間だ……ここで戦争があった時のな」

「お父さん、沢山人を斬ったの?」

「……あぁ、斬った」

車輪が石に乗り上げ馬車が弾むと、男はかつていくとどなく乗せられた”棺桶”の様子を思い起こし
掌を見つめ鼻を撫で、懐から取り出した水筒の水を口に含んだ。

「強かったんだ」

「強弱は関係ない、重要なのは生き残ることだ
剣にしろ飛び道具にしろ、限られた間合いの範囲でしか効果はない
相手の得物を把握し、安全な位置取りを先んじて取るように心がけろ」

「へへ、私も”神剣”を使えるようになれる?」

男は少女の顔を見合わせ口元で薄く笑うと、少女は不貞腐れるように頬を膨らまし、
鉄の具足を男の具足と克ち合わせる……負けた奴は死ぬ、男はそういう世界で生きてきた。
強弱など何の慰めにもならない、一度生き残る時に、二度生き残る度に、積み重ねられる”死の確立”
何千もの死の刃を喉元に突きつけられ、無事で済む人間などいない筈だった。

神に愛されたと言うよりは、神に嫌われたと言う方が適切だろう。



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