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(日経ビジネス1995年7月17日号の記事より)
愛車のアクセル全開で憂さ晴らし
奥田碩 トヨタ自動車副社長(当時※)
※ 後にトヨタ自動車第8代社長・会長、経団連会長(現・名誉会長)他歴任
1996年藍綬褒章受章、2008年旭日大綬章受章
奥田さんが高速道路を走る時、行く手を阻むのは空気の壁だけだ。
ノロノロ走る車が前にいると、車間距離をぐっと詰め、パッシングの
連続で押しのける。走るのは当然、右端の追い越し車線。アクセル
は全開が基本だ。
愛車はトヨタのアリスト。排気量4000ccのV型8気筒エンジンは260
馬力。世界でも有数の超高速走行が可能なセダンが休日の足だ。
「羊の皮をかぶった狼」が奥田さんの野性を呼び覚ますという。
「スピードは麻薬。高速で走っていると、脳の中で気持ちを高ぶらせ、
快感に導く物質が分泌されるようだ。」
自社のテストコースを時速200km以上で走る機会がよくある奥田さん
にとって、普通の道路上の走行は苦痛に感じることすらあるという。
高速では常に右端の車線を走るのはこのためだ。
普段の通勤の足は役員専用の黒塗りの車。スピードに魅せられた
奥田さんは「トロトロ走る役員車に乗っているとイライラする」と言う。
思わず運転手を怒鳴ってしまうこともある。
イライラは今回の日米自動車交渉でも同じだったようだ。交渉は政府
間の話し合いなので、メーカーの思惑通りにはいかなかった面もある。
憂さを晴らしに、愛車のアクセルを踏み込む機会が増えたようだ。