08/04/08 00:18:40 Jmus3b5j0
Two-Thirds, the Left of Bowers 1/2
「ね、ここで、しよ?」
無邪気な笑みは昔も今も変わらない。ちょこんと少し首を傾げ、どこか不安げに相手の同意を求める姿は10年という年月が経った
今も、否、そのずっと前から見慣れたものだ。その仕草に思わず赤面しそうになるのも、ガキのように心臓の鼓動が高まるのも、今に始
まったことではない。
「ひーちゃん言ってたでしょう。ね、ライブハウスでもMSGでも、ベースだけ弾ければどこも変わらないって言ったじゃない。だからしてもい
いでしょう。ね?」
確かに言った。言ったけど、それはそういう意味じゃなくて言葉のアヤというもので…。
いきなりぐさりと胸を抉られるような痛みが襲い掛かる。
確かに、言った。その発言は紙面にも載った。遠い昔の、もう名前すら覚えていないどこかの雑誌のインタビューだったけれど、あるい
は探せば何部かはこの世にまだ残っているかもしれない。だけどそのとき一緒だったのは目の前のこの人ではない。その言葉を聞いて笑
って面白がってくれたのは、不安そうに彼を見上げている目の前のこの人ではない。
「大人しいやつだと思ったらさ、こいつとんでもない大物だったんだよ!俺らはガチガチに緊張してさ、YOSHIKIなんかこーんなガチガチに
強張ってたのに、こいつったら二日酔いできやがったんだぜ」
そう言っていつまでも面白がってからかってくれた人はもうこの世のどこにもいない。
貴方はどういう気持ちであの人の足跡を辿っていたのだろう。
「…せやな。やろっか」
震えそうになる声を隠すためにはどこかぶっきらぼうに聞こえる短い答えがやっとだった。
大切な人は失われ、残されたのは共に見ていた夢だけ。その影を幸せそうに追いかける貴方のために。貴方を置いて行かなければ
ならなかったあの人のために。
やってやろうじゃないか、マジソン・スクェア・ガーデン。