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【芸術家高本秀行、栄光の軌跡】 ■第二十二回■
叔父の秀吉が自殺したのは8月も末の27日のことであった。
かねてから自らの病を苦にしていた秀吉はその日の昼下がり、
外出をすると称して自宅を後にしてから消息を絶った。
夕方になっても帰宅しないのを心配した家族が付近を捜すと、
雑木林の中で首を吊って死んでいる秀吉を発見したのである。
秀吉は優しい叔父であった。秀行少年を音楽の世界へ
導いたのも秀吉であった。その日の夜、家族から一報を
受けた秀行少年は衝撃のあまり作曲の手を止めて床に臥した。
そして泣いた。自分の中の大きな存在が消滅した事実を
小さな心で懸命に受け止めようとしていた。
(第二十三回に続く)