08/03/03 19:43:18
「糞株買うかぁ」
定職を脱ぎ捨てると、縦じわでよれよれの四季報を整えた。PCの前に立ち口座を開く。
既に退職金を入金し、俺の買付余力は俺の愛撫を待つ。
物色対象を転々として東証一部に移すと、チャートを持ち上げて、日本ペイントがそこにあった。
「俺の仕手株一本のトレードだぜ」声に出していう。
「男はやっぱ一攫千金」
やおらトレード画面の脇から、ズルムケ状態の成り買い注文を取り出す、
買い板に資金をたっぷり取り、逆手で含み益をこね回す、
「ピコッ、ピコッ」約定音が俺の資産倍増中枢を更に刺激する。
「ボロ株たまんねぇ」株価の上昇に合わせて、血圧を上下させる。
「男のトレードにゃあこれだよ」ラッシュを吸い込む。
「スッ、スッ、スッ、スッ」顔から熱くなり、やがて頭の中が真っ白になる。
「ニッペ、ニッペ」「本尊の買い支え」
頃合いをみて最後の買付余力も投入する。俺は先月まで500円だったこの株が好きだ。
赤いストップ高だけがザラ場に残り、仕手筋の893のバックに、提灯垂らして、身銭を切り、
左手で信用枠引っ張り、右手でヌルヌルとマウスを扱く。
平均買付価格450円の俺は、日本一の含み益男になっていた。
「ちきしょう証券取引委員会に見せてやりテェよ」寄り付きが近付くと、いつもそう思った。
ラッシュをもう一度効かせ、買い板を追加すると、億の世界へ向かってまっしぐらだ。
「億万長者になってやる」「日本ペイント一本のほんまもんの男」
「うりゃ、そりゃ」「ピコッ、ピコッ」大陽線を飛ばしながら、クライマックスをめざす。
「たまんねぇよ」寄り付き直後から、激しい売り板が起こった。やがて特売りとなり、俺を悩ます。
―売りてぇ―600円までは上げてぇ―相反する気持ちがせめぎあい、俺は崖っ淵に立つ。
「きたっ」俺は膝を直角に曲げ、それに備える。売り板は値幅制限に届こうとしていた。
「ストップ安 ! 」「ぶちっ」
大引けを押し分けて、青い数字がしゃくり出される。
真っ白い時間が過ぎ、目の前が追証通知画面に戻る。