08/06/26 23:07:06 9ea3VLCx
我輩は兵士である。名前はまだない。
今日もせっせと書状を届ける。
朝だろうが、昼だろうが、夜だろうが、雨が降ろうが、槍が降ろうが、たとえ火の中水の中。これが我輩の仕事である。
だが、今日の書状は一味違う。
いつもは、オウガイとか言うふざけた輩から来る「遊戯者の気持ちを踏みにじる書状」だが、今回は・・・・・・。
それが、そのぅ。・・・・・・実は我輩が慕う戦国武将ケンシン殿に宛てた「恋文」なのだ。
だからこそ、この書状は是が非でも届けたい。この関を越えれば、城下まであとわずか・・・・・・。
???「そこの者、待たれよ」
兵士「だ、誰だ」
???「こんな夜更けの通り道をどこへ急がれる」
兵士「関を通るといえば」
???「それなりの覚悟をしていただきます」
突如、闇の中から現れた影は、無数の手裏剣をこちらに放ってきた。
その中の一本が、我輩の頬をかすめ、一筋の傷を作り出す。
この者、女忍者である。
いつも我輩の仕事を邪魔する、これまたふざけた連中だ。
女忍者「その書状、ムラサメからのものだろう。同盟締結を請う内容のものならば、こちらとて使い道がある」
兵士「これは、ち、違うのだ」
女忍者「違う? 否定するところがますます怪しいな。常日頃ならば、書状を放って一目散に逃げ出すくせにな」
そんな挑発に、我輩は刀の鯉口に手を掛けた。
女忍者「お? 抜くか? 面白い」
しかし、我輩は静かに右手を元に戻した。
女忍者「どうした? かかってこないのか」
兵士「頼む。お願いだ。今回ばかりは見逃してくれないか」
女忍者「何だと? 正気で言っているのか」
兵士「この書状は、我輩が書いたものなのだ」
女忍者「主がか? これは腹がよじれる。まさか、あのケンシンにたてつくと言うのか?」
兵士「違う! これはケンシン殿に宛てた、恋文なのだ」
女忍者「恋文? ははは、さらに腹がよじれる! 好意があるのなら、口で言えば良いだろうが」
兵士「馬鹿な! ケンシン殿に近づくことができるのは、書状を届ける間だけだ。息をする間さえもない」
一息をついたところで、女忍者は何かを放ってきた。
「虎柄」の旗・・・・・・?
女忍者「これを持って行ってくるが良い」
兵士「これは・・・・・・」
女忍者「これを持っているだけで、ケンシンの気を引くことができるだろう」
兵士「まさか、我輩を応援してくれるのか」
女忍者「まさか! そんなことはない。ま、たとえフラれても、我のところへ来れば、可愛がってやろう! ではな!!」
ひゅう、と風が吹くと、女忍者は闇の中へと消えていった。
対する我輩は満月を背に、ひたすら城下を目指すのであった。