08/04/25 15:30:11
豊洲再開発の莫大な社会的コスト
本書は、豊洲再開発に関して、著者自身の豊洲居住経験を元にして、ネットを活用
したアンケートに主に依拠して、その問題性を明きからにしたものである。それは
ただ単に、その「工業地域再開発のモルモットのような」生活実態を批判するだけ
ではなく、「資本社会のルールでは動いていない」(82頁)という、極めて本質
的な指摘を行っている。
すなわち、豊洲再開発は、企業グループ内での土地取引など不動産市場から隔離さ
れ、都による巨額の資金が注ぎ込まれ他区の収入に完全に依拠しているという意味
で、自らが価値を産み出し、発展を得るという、資本社会・市場経済の原則、すな
わち実体経済から離れた存在であるのだ。
この「実体経済からの乖離」は、いわゆる「交付金依存」に見られるさまざまな社
会問題と同様に、豊洲再開発においても、本書が完膚なきまでに指摘するように、
極めて深刻な問題を引き起こしている。その問題とは、豊洲居住者の、完全依存、
自尊心のなさ、それを隠蔽するために「豊洲を否定するコメントは妬み」といった
人間性の完全な歪みだけではなく、企業誘致、環境対策、税収で、富裕区のみなら
ず、都に完全に依存しているということである。
すなわち、社会全体が、本来造船所があるべき低利用工業地域でありながら、そこ
に居住してしまおうという多数の者を養育する、都心部にあるべき企業を誘致する
ために、恐るべき社会的コストを支払っているのである。これが財政破綻、劣悪な
居住環境による健康被害の懸念、日本の国際的競争力向上の阻害というように、問
題がさらに拡大再生産される状況になっている。
この点を考えると、豊洲の存在及び、それを「丸抱え」する社会制度は、現在の我
が国が抱えるさまざまな問題の根源ともいえるものである。この点を、実に痛快な
記述で明きからにした本書の意義は極めて大きい。
すでに我が国は、こうした多数の郊外型再開発が産み出した居住形態、勤務形態を
支えることはできないことから、市場経済の原則に立脚し、豊洲再開発にまつわる
様々な問題を解決する必要がある。