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津田大介「見直し迫られるウェブ広告の構造」〈週刊朝日〉
ウェブを使った新しいジャーナリズムの実践者として知られるジャーナリストでメディア・アクティビストの津田大介氏。最近、グーグルがウェブ広告の表示方法について改良を加えたが、その問題の根本を紐解く。
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英タイムズ紙は3月17日、グーグルが運営するユーチューブ上の人種差別や同性愛者排斥、反ユダヤ主義などの「不適切」な動画に英国の政府機関や大手企業の広告が挿入され、投稿者に利益をもたらしていたことを報じた。企業は自社の広告が過激派のプロパガンダや差別的なコンテンツに掲載されれば、ブランドイメージが毀損(きそん)される。メディアや企業、広告会社から激しい突き上げを食らったグーグルは3月21日、この件について謝罪。「今後は憎悪を煽(あお)り、他者を攻撃、侮辱するコンテンツに厳しい措置を講じる」として、企業側が広告をどの動画にどう表示させるか細かくコントロールできる新機能を発表した。
この問題が起きた背景にはウェブ広告の複雑な仕組みがある。ウェブ広告の場合、広告主がどのウェブサイト、コンテンツに自社の広告が掲載されるかわからないことが多いのだ。特定のサイトに広告を表示させないブラックリスト機能はあるのだが、ウェブにはメディアやコンテンツが膨大にあるため、一企業が不適切なコンテンツを網羅して対処することは難しく、それが今回のように意図せず広告が表示されてしまう原因になっている。
企業が望まぬウェブサイトに出稿してしまう問題は、昨年末からくすぶっていた。その中心はヘイトスピーチ、女性蔑視、白人至上主義的な記事を配信し、“オルタナ右翼のプラットフォーム”を自認する「ブライトバート・ニュース」。フェイクニュースの発信源としても知られる同メディアに企業が広告を表示していいものか、現在でも大きな議論になっている。
議論の引き金を引いたのはシリアルなどの食品製造で知られる米ケロッグ社だ。昨年11月、「当社の価値と相いれない」という理由でブライトバートをブラックリストに入れた。同様の動きは欧州にも飛び火。ドイツの広告会社ショルツ・アンド・フレンズのシニアストラテジスト、ジェラルド・ヘンセル氏は昨年12月、現在のウェブ広告の仕組みがフェイクニュースやヘイトスピーチを生み出す温床になっているとして、自身のブログで右派媒体への資金提供停止を訴える「ノー・マネー・フォー・ライト」キャンペーンを始動した。BMWやドイツテレコムなど、ドイツを代表する大手企業がこの呼び掛けに応えた。
しかし、この件がきっかけでヘンセル氏はブライトバートを支持する右派ブロガーたちの攻撃対象となり、勤務先やクライアントまで巻き込む騒動に発展した。結果、ヘンセル氏は退職を余儀なくされた。
この問題の本質は、扇情的なコンテンツでアクセスを集めるフェイクニュースやヘイトスピーチであっても広告を配信し、広告収入を供給してしまうウェブ広告の構造にある。広告業界が民主主義の危機に手を貸しているという意識を持たない限り、解決しない。一刻も早く問題の大きいサイトへの広告配信を停止するスキームを作るべきだ。
※週刊朝日 2017年4月7日号
URLリンク(headlines.yahoo.co.jp)
写真:津田大介
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