17/03/16 22:36:50.66 CAP_USER.net
現実的ではない敵基地攻撃論
北朝鮮が試射した弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下した。北朝鮮当局によると、ミサイル発射は日本国内の米軍施設を攻撃する訓練であったという。そのため、トランプ政権周辺からは、現在韓国で実施されている米韓合同軍事演習にB-52爆撃機やB-1ステルス爆撃機を派遣して北朝鮮を威圧すべきだといった声まで上がっている。
そして、日本でも北朝鮮の弾道ミサイルの脅威に対抗するため、いわゆる「敵基地攻撃論」が浮上してきた。
攻撃対象は基地ではなく「発射装置」
敵基地攻撃能力保有に関する議論(いわゆる敵基地攻撃論)は1956年に国会で論じられて以来、弾道ミサイルの脅威が取り沙汰されるたびに浮上してきた。
ただし、弾道ミサイルの性能やシステムそのものが60年前と現在では大幅に変化しているため、「敵基地攻撃能力」という表現自体が時代遅れとなっている
北朝鮮による対日弾道攻撃という文脈に限定して、敵基地攻撃論を考えてみよう。現時点において北朝鮮が日本を攻撃する際に用いる弾道ミサイルは、基本的には「TEL」と呼ばれる地上移動式発射装置から発射される。そのため、ミサイル発射基地から弾道ミサイルが発射されていた60年前と違い、北朝鮮の弾道ミサイルを破壊するには、ミサイルが装填された地上移動式発射装置を破壊しなければならない。すなわち、“敵基地”ではなく“敵発射装置”を攻撃する能力が必要となるのだ。
ミサイル発射基地の場合、強固な防御が施されている半地下サイロ式ミサイル発射装置から弾道ミサイルが発射されることになる。そのため、発射装置そのものを破壊するには強力な破壊力が必要である。とはいうものの、ミサイル発射基地は移動することがないので、その位置を特定できれば、攻撃すること自体は可能である。
一方、大型トレーラーのような車両にミサイル発射装置が搭載されているTELは、地上を動き回ることができる。大型トレーラーといっても、ミサイル基地に比べれば攻撃目標としては極めて小さい。したがって、地上を移動してさまざまな場所に隠れるTELを偵察衛星や偵察機などで発見することは至難の業とされている。
先制攻撃の厚い壁
敵基地攻撃論(現代的には敵発射装置攻撃論)の難点は、TELの発見が困難だという点だけではない。北朝鮮が弾道ミサイルを発射する以前に、攻撃準備を開始した北朝鮮軍のTELをことごとく破壊してしまわなければならない。すなわち、自衛隊による先制攻撃が不可欠となるのだ。
先制攻撃ができなければ、抑止能力としては機能しない。したがって、いわゆる“専守防衛”を基本原則とする国防方針は根本的に変更しなければならない。さらには国防システム全体を抜本的に一変しなければならないことになる。
いわゆる敵基地攻撃論は強力な先制攻撃能力を手にすることが前提であり、それだけの覚悟の上で主張しているものと思慮されるが、憲法9条を巡る議論同様に、永きにわたる神学的論争に陥りかねない。
そして、軍事技術的にも解決しなければならないハードルは高いし、北朝鮮の弾道ミサイル攻撃を抑止する先制攻撃能力を手に入れるだけでも天文学的数字にのぼる国防費が必要となる。
つづく
2017.3.16(木) 北村 淳
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