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【名村隆寛の視線】慰安婦像も盛り込み 韓国は国定教科書問題でも“反日”を手軽に利用する
2017.2.27 11:00更新
韓国の中学校や高校で、2018年度から導入される国定歴史教科書の最終版が1月末、教育省から発表されたが、その内容は昨年11月末に公開された見本版の760カ所に“修正”と加筆をしている。
そのうちソウルの日本大使館前に違法設置されている慰安婦像と、慰安婦の体験を記述した部分を紹介したい。修正、加筆されたのは『』の箇所だ。
「市民団体では1992年から毎週水曜デモを開き、継続的に日本政府に問題解決を要求しており、『水曜デモ1千回を記念し平和の少女像を建立した』。政府も被害者(元慰安婦の女性)の名誉回復のために努力している」(中学用)
「日本軍“慰安婦”被害者らは、拒否できない状況の中でむごたらしい苦痛とさげすみを味わい、人権を蹂躙(じゅうりん)された性奴隷だった。中には劣悪な環境の中で疾病、暴行、自殺で死ぬ人も多かった。『その上、戦争に敗け逃げてゆく日本軍に集団で殺害されもした』」(高校用)
こうした記述は、日本統治時代の「民族の抑圧と抵抗」を強調する韓国での“抵抗史観”に基づくものだ。ただ、教科書の最終版は、見本版に対する国民や教員、国会などの意見を受け入れ、世論を反映させている。
その結果、反日傾向が一層強められ、「慰安婦像」や「慰安婦の集団虐殺」といった客観性に欠け、事実関係の疑わしい内容が盛り込まれた。
韓国では本来、国定の歴史教科書だけが使用されていた。ところが、左派の盧武鉉(ノ・ムヒョン)政権(2003~08年)末期の07年に廃止され、検定制に移行。複数の教科書が登場し、全国の学校に採用された。
「左派的歴史観」に基づく教科書が多い状況に朴槿恵(パク・クネ)大統領が危機感を抱き、国定教科書の復活に向け、編纂(へんさん)が進められた。これに左派が反発し、15年後半以降、国定教科書をめぐっての騒動が続く。結局、昨年末の朴氏の弾劾訴追もあり、国定教科書は導入時期を1年間延期し、検定版との選択制となった。
客観性は度外視して、日本の抑圧と搾取によく耐え、頑張って解放を勝ち取ったという民族の“あるべき歴史”と抵抗史観に従う。そんな主観的な教科書は、見本版公開から最終版発表までの約2カ月間のうち、1カ月を国民らからの意見収集に割き、残りのわずか1カ月で完成させたという。
こうした経緯を見れば、いかに安易に世論に迎合して歴史教科書の修正がなされたのかがうかがえる。
歴史教科書の国定化問題は、韓国で政治、思想の争いに利用された。これまで同様、「反日」は韓国で世論を味方につけられるよう使える、お手軽なテーマなのだ。韓国政府の性急な対応に、その事情が如実に表れている。
歴史認識問題で日本に厳しい韓国だが、それに反して自らの歴史は場当たり的、拙速に色づけられている。歴史的な根拠は世論が納得する解釈に従っていれば、どう直そうが、偏っていようが構わない。“あるべき歴史”を望む世論に、簡単に合わせてしまったかのような姿勢には、奇妙な軽ささえ感じる。
日本の朝鮮半島統治は35年余り。統治から解放されて今年でその倍以上の72年を迎える。にもかかわらず、いまだに「日本に統治された過去」を克服できないのは、韓国にとって日本の存在があまりに大きいからなのかもしれない。
大騒ぎの末に最終決定した国定教科書。選択制のもとで、左傾化が指摘される韓国の教育現場でどれだけ浸透するのかは分からない。盛り込まれた史実や記述の客観性などは関係なく、あくまでも韓国の教育現場が決める。
ただ、教科書問題だけでなく、韓国での日本がからむ歴史認識は、今後も国内の状況次第で、自己都合でさらに変質していく可能性は否定できない。今回の国定教科書をめぐる一連の騒動と、大衆迎合的な最終版での決着がそれを予言している。
(ソウル支局長・名村隆寛 なむらたかひろ)
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