17/02/25 22:21:29.00 CAP_USER.net
金正男氏は気さくないい人」キャラはメディアが作った虚像 国内では放蕩に反発、チンピラとの悪評も
故金正日氏の生誕記念日翌日の2月17日の深夜。中国の丹東市から、アジアプレスのメンバーに電話がかかってきた。知人の中国朝鮮族のビジネスマンからだった。
少し酔っている様子で、「ちょっと電話替るから。向うの人だ」と言うと、平壌訛りの男性が電話に出た。この人も酔っているようだ。聞くと、金正日氏の生誕記念を祝う宴会があり、お開きの後に飲んでいる最中だという。
「金正男氏の事件があって緊張しているのでは? 」と訊くと
「90年代のあの大変な時期(大飢饉)に、外国に出てあっちこっちに女囲っていた人間ではないですか。あの家系の人間が一人消えたんだから、いいことじゃないですか?」。
酔いにまかせてのことなのか、平壌から来た貿易マンだという彼は、ひどく辛辣な言葉を吐いた。金正男氏殺害事件にはそれ以上言及しなかった。だが、彼の冷淡な言葉は、北朝鮮国内において、金正男氏が、そして金一族が、どのような存在として見られているかを示唆していると思う。
金正男氏殺害は、確かに国際的な大事件であるが、メディアの扱いは過剰と言うしかない。14日の晩に速報が流れて以降、テレビも新聞もあまりに多くの時間と紙面を割いて伝えている。
日々、新たな人物が浮上し、北朝鮮大使館とマレーシア当局が応酬を繰り広げ、北朝鮮の人間が容疑者と名指しされ、空港の防犯カメラの映像が断続的に公開された。
そして、化学兵器に使われる猛毒のVXが使われたと発表された。まるでサスペンス連続ドラマのような展開。続報が次から次に出で来る、テレビがもっとも得意とするパターンになった。
金正男氏の事件が、これほど日本で関心を集めているのは、メディアに頻繁に登場することで、一種の「ジョンナムキャラクター」が形成されてきたからだと考えている。
東京の赤坂、新橋で飲んでいたという日本との縁。世襲後継を批判し、人民生活を心配して涙を流した「開明さ」。
閉鎖国家の前最高指導者の長男の意外な一面と、カメラの前での人懐こいしゃべりによって、日本で出来上がった金正男氏のイメージは、遊び好きだが気さく、愛嬌があって、知的な「常識人」というものだった。「俺たちの正男」などとアイコン化して語る人まで現れた。
しかし、北朝鮮の人々の金正男氏の対するイメージはまったく異なる。地方都市の庶民には、秘密に付されて来た金正男氏の存在自体を知らない人が、まだまだ大勢いる。だが、平壌では実際に彼を目撃した人が結構多い。
平壌出身の脱北者の韓正植(ハン・ジョンシク)さんは、何度か金正男氏と遭遇している。
「90年代半ば頃、平壌の高麗ホテルで金正男を何度か目撃しました。集団でレストランで酒飲んで騒いでいるグループがいたので、『誰なのか?』と訊くと、連れが『あれは金正日将軍様の息子の正男だ』とひそひそ言うので驚きました。
その後も何度か目にしましたが、いつも同世代の若い取り巻きとボディガードを連れていました。金正日の長男ですから大声で騒いでいても誰も何も言えるわけがありません」
同じく平壌出身の脱北者のペク・チャンリョンさんも、「高麗ホテルのレストランやコーヒーショップ、それとホテルのそばにあったビリヤード場で見た。女性連れの時もあった」と、同様の目撃談を語る。
■石丸次郎
アジアプレス大阪事務所代表、調査報道NPOアイ・アジア発起人
1962年大阪出身。朝鮮世界の現場取材がライフワーク。北朝鮮取材は国内に3回、朝中国境地帯には1993年以来約100回。これまで900超の北朝鮮の人々を取材。2002年より北朝鮮内部にジャーナリストを育成する活動を開始。
北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」 の編集・発行人。主な作品に「北朝鮮難民」(講談社新書)、「北朝鮮に帰ったジュナ」(NHKハイビジョンスペシャル)など。メディア論なども書いてまいります。
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