14/05/17 09:05:21.03 .net
「…探している資料があるんだが、調べてもらえるか」
「あ、はい。何の資料ですか?本の名前とか、解りますか」
「本の名前、というか…ウォール時代のことが書いてある文献を探しているんだ」
漠然としたリヴァイの要求をどう受け取ったのか、図書委員は目をぱちりと瞬かせる。そうしてこてんと小首を傾げた。
その動作を困惑と受け取ったリヴァイは、遠慮なしにまた溜息を吐く。やっぱり一年坊主には荷が重たかったか。
「ああ、いい。自分で探すから」
彼に頼るのは諦めて、今の時間内で出来る限り探してみようとリヴァイは踵を返しかけて、くいと袖口を引かれる感覚に足を止める。
振り返れば、遠慮がちに、だがしっかりとリヴァイの制服のジャケットを握り締める手。
潔癖のきらいがあるリヴァイにとっては余り好ましい動作ではなくて、多少の不快感が袖口でざわめいた。
「…てめえ、何しやがる」
「先輩、ご案内します」
リヴァイがぐっと睨みつけてやっても、図書委員は小首をこてんと傾けて少しも怯まなかった。
凛とした声がはっきりと告げてきた言葉に、リヴァイはくいと片眉を上げる。
検索システムを使うような素振りはなかったし、まさか一年のくせに蔵書の場所を覚えているとでもいうのだろうか。それとも当てずっぽうか。
「…場所、わかるのか」
「はい」
リヴァイの問いにひとつ頷いてカウンターから出てきた図書委員は、迷いなく足を図書室の南側へと向けた。
そうして振り返ってこちらの様子を窺ってくるから、一瞬の戸惑いはとりあえず置いておくとして、リヴァイは彼についていくことにする。
リヴァイより少し背の高い、細身の背中。僅かに頭頂部に残った寝ぐせがひょこひょこと揺れるのを何となく眺める。柔らかそうな髪だから、寝ぐせも付きやすいんだろうか。
そんな風にとりとめもなく考えていたら、前を歩く彼はどんどんと図書室の奥の方へと進んでいく。リヴァイにとっては初めて足を踏み入れる領域だ。
ただでさえ静かな空間なのに、奥まったこの場所では更に音は遠ざかって、何だか世界から切り取られたような錯覚を抱く。
棚が並べられた間隔は狭く、譲り合ってようやく人がすれ違える程度の幅しかない。
隙間なくびっしりと並べられた本が左右から迫ってくるように感じられて、リヴァイは思わずごくりと息を飲んだ。
「先輩、ここです」