08/05/28 14:02:24
乙。
オレもセリフは最小限でいいと思うけど、そこは書き手さん次第だと思う。
401:通常の名無しさんの3倍
08/05/28 21:14:06
SSの投下は嬉しいけど職人の自分語りはちょっと………
402:通常の名無しさんの3倍
08/05/28 21:15:54
たったこれだけで自分語りとか
自重するのはお前の方だ
403:通常の名無しさんの3倍
08/05/28 21:18:55
>>402
君も自重しよう。
404:通常の名無しさんの3倍
08/05/28 22:33:20
よし、間を取って俺が自重する
だから、皆。ここは素直にヨウランが生きてることに感動しよう
…ヨウラン、でいいんだよね?
死んでるかも?はヴィーノじゃなかった…よね?
405:通常の名無しさんの3倍
08/05/28 22:42:20
>>404
あれはシンだけに見えてる幽霊かもよ?
アーサーはシンだけにしか声を掛けてなかったし
406:通常の名無しさんの3倍
08/05/28 23:01:43
いや、明確な死亡は描かれてなかったから
素直に生きてるって信じようぜ?
407:通常の名無しさんの3倍
08/05/28 23:55:10
>>405
それはそれでなんか美味しいな。NT的に考えて
どんな緊迫した場面でも隣に会話できる誰かがいるのか…
まあ、レイの立場ねーなwwwになりますがね
408:通常の名無しさんの3倍
08/05/28 23:58:00
>>407
レイは戦闘時担当なんだよ。
んで、女の子との付き合い時はステラが出て
人生に迷ったらハイネか議長辺りが。
カミーユって実際そんな感じっぽいよね。
亡霊パワーでジ・オ止めたし
409:通常の名無しさんの3倍
08/05/29 09:26:13
>>408
人選間違ってないか?w
主にステラとハイネ
410:通常の名無しさんの3倍
08/05/29 10:15:05
赤頭巾氏の作中でデュオの機体はガンダムデスサイズヘルカスタム、トロワの機体はヘビーアームズ改になってるんだが
かたやエンドレスワルツ、かたやTV版、両者混合の世界観なのだろうか?
411:通常の名無しさんの3倍
08/05/29 13:05:40
EWでもヘビーアームズの名称は「ヘビーアームズ改(EW版)」だぞ
412:通常の名無しさんの3倍
08/05/29 19:15:02
ヘビーアームズカスタムじゃなかったか?
413:通常の名無しさんの3倍
08/05/29 19:17:22
>>409
マユと艦長を入れないとバランスが悪いか。
やはり、あまり接点が無かったハイネを抜かして
議長を艦長に変えると幽霊ハーレムになる。正にカミーユ!
>>410-412
wikiだと
ガンダムヘビーアームズ改 (Endless Waltz版)
あるいは混同を避ける為
ガンダムヘビーアームズカスタムになるな。
414:通常の名無しさんの3倍
08/05/29 20:15:33
>>413
そこで議長の代わりに出て来るのが死亡フラグの立ったゼクスですよ
っていうか、こういう話してると何故か某ポエムゴルフ漫画が浮かぶw
お前、Ugasinさんとどれだけ色んな話してたんだよとww
415:通常の名無しさんの3倍
08/05/29 21:23:06
>>414
後半のネタが解らん。kwsk
416:通常の名無しさんの3倍
08/05/29 21:26:24
お前には教えてあげないw
417:通常の名無しさんの3倍
08/05/30 04:03:04
予定では今日だな。運命の歌姫最終回。
この時間から待ち切れんorz
418:通常の名無しさんの3倍
08/05/30 16:45:53
明日は土曜日で、土曜だと運命は投下しないから
今日の夜に最終回投下だろうな
419:通常の名無しさんの3倍
08/05/30 22:24:44
後、2時間(ごくりっAA略
420:通常の名無しさんの3倍
08/05/30 23:09:54
間に合わないかも知れない。
最終回だからじっくり推敲もしたいし、けれど土曜には投下できないし……
あー、時間よとまってくれー
421:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/05/30 23:12:28
>>420
書き溜めもあるし、繋ぎましょか?
こっちは5~6話溜まってるので。
422:通常の名無しさんの3倍
08/05/30 23:31:50
>>421
土曜日ってW-Dの投下日だったからねぇ。
いつでも帰ってこれるように、再開できるようにと歌姫は投下しないんだよね。
個人的な拘りに過ぎないとは思うけど。
423:通常の名無しさんの3倍
08/05/30 23:35:08
>>422
あ、そういう事情があったのですね。知らなかったとは言え、大変失礼をorz
すいませんでした。ま、その土日でも此方は投下出来るので
できるだけ納得の行く形の最終回にして下さい。
424:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 00:06:45
間に合わなかった。
今、あとがきを書いてる…… orz
>>423
個人的な拘りだから、気にしないで。
投下自体は何時行おうが、職人さんの自由ですよ。
425:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 01:00:32
>>424
いえ、其方があまり焦り過ぎて最終回が後悔の残る形にならぬ様にというつもりで
名乗り出ただけですので。では、最終回お待ちしております。
日曜辺り?
426:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 10:12:31
>>425
最後でさらっと〆切りがw
427:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 16:58:03
>>426
い、いやいやいや、そういう意味じゃない!
大体日曜辺りですかー?と聞いただけよ。うん、マジで
428:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 17:57:58
まあ、完成はしているので……
24時にでも投下しますかね。明日は休みですし。
429:通常の名無しさんの3倍
08/05/31 19:19:29
>>428
是非おながいします!!
430:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:06:15
投下します。
えー、最終回なんですが投下前に前置きを。
最終回は私がもっとも好きなある物語の影響を強く受けてます。
何とは言えないのですが、見る人が見ればパクリとも思えるほど
まんまなんで、そこはご了承下さい。
431:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:07:09
シン・アスカは、休暇を取ると地球へ訪れていた。地球へと降りるシャトル
の中には、彼のように休暇旅行に来ている者は見受けられない。地球であろう
とプラントであろうと、戦後と言われる時期にも達していない段階で旅行など
を楽しめる者は、存在しないのだ。
もっともシンにしたところで、別に楽しい地球旅行などに赴いたのわけでは
ないし、彼の目的は別にあった。
地球へと降りた後、空路の国際線を乗り継いで目的の国へと向かう。そこか
ら先は、長距離バスに乗って数十時間の長い道のりだ。しかし、他に移動手段
がないのだから仕方がない。
その病院は、海沿いにある小さな建物だった。小さくて小綺麗な、白い壁が
清潔感を見る者に感じさせていた。この地方としては珍しく、幾本かの木々も
茂っている。まるで、オーブみたいじゃないか。
シンは軽く息を吐くと、院内へと足を踏み入れた。
既に戦争が終わって、一ヵ月が過ぎようとしていた……
「体の調子はどう?」
シンは、ベッドに腰掛ける少女へと声を掛ける。
「悪くはない。一週間前からリハビリを始めたところだ。何とか歩けるように
はなったよ」
それは良かったと、シンが呟く。
「ありがとう……でも、お前には都合が悪いんじゃないか」
「歩けるように、動けるようになったら、君はまた戦うのか?」
「さあ、どうだうだろうな」
おそらく、答えは決まっているのだろう。
「好きにすればいいさ。君の思うようにすればいい」
「随分な転向だな。私は、お前は結構平和主義だと思ってたんだが。すっかり
匙を投げてしまったのか?」
意外そうだが、どこか楽しげに少女が訊いてくる。
「そうじゃない。多分、そうじゃないと思う」
僕は否定する。そして少女は、少し寂しげな声を出す。
「私がまた鉄砲に撃たれたら、お前は私をまた助けてくれるか……?」
「行くさ、何百回だって!」
だからシンは、ハッキリと答える。
「お前はプラントにいて、私は地球にいるんだぞ? 助けに来られる距離じゃ
ないだろう」
「きっと、そういう時は、何故か俺も地球に居るんだ」
「ふーん……」
少女は僕の答えに、少し考えながら、窓のほうに目をやった。
「なぁ、外に出ないか? ここからじゃ海がよく見えないし、毎日天井を眺め
ているのは、さすがに飽きてきた」
君は、海が好きなんだ―?
「海が嫌いな人が居ると思うのか? お前は時々、本当につまらないことを言
うな」
最終話「明日への道を踏みしめて」
432:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:08:12
「気持ちいいなぁ~。それに、凄く広い」
少女は車イスに乗りながら腕を伸ばし、身体に潮風を受ける。少女はまだ自
由に歩けるほど回復して居らず、シンが浜辺まで押してきた。
「この海、何か生き物とか居るのかな?」
そりゃ、魚とかヒトデなんかがいるはずである。
「でも、環境の変化とか、汚染とかで海の生物もどんどん減ってるって聞いた
ことがあるぞ」
「海の生き物は、人間よりも生命力が強いんだよ」
彼らは、どんな海でも生きていける。そこが、海である限り。
まあ、、この雑学はレイからの受け売りであるが。
「魚みたいに、何の悩みもなく海を泳げたら、楽なんだけどな」
笑う少女に、シンは少しだけ複雑な顔をする。
「それは魚に失礼だろ。案外、魚にだって悩みはあるかも知れない。家族や仲
間のことを心配している魚が居たって、不思議はないだろ」
シンや少女にしても、同じことである。特にシンは、この戦争で多くの仲間
を、永久に失った。
遠い目をしながら、水平線を眺めるシンを見つめ、少女が口を開く。
「なぁ、少しだけ私の話をしても良いか?」
「あぁ、もちろん」
拒む理由など、どこにもない。
「私は父親が好きだった。優しくて、勇敢で、仲間思いで、そんな父のことを
私はいつも誇りに思っていた」
だけど、そんな少女の最愛の父親は圧政の手先となった者たちの凶弾によっ
て倒れた。勇敢であろうと、強かろうと、不死身のヒーローではなかった。
「親を失ったのは私だけじゃない。ある子供は母親を、またはその両方を殺さ
れて、街には孤児が増えた。街の各家庭はそんな子供を引き取るだけの余裕は
なかったから、そんな子供たちを孤児院みたいな場所に集めて、まとめて面倒
をみてたんだ」
私は自活をしていたけどなと、少女は付け加える。
「施設には多くの子供がいて、連合と戦うための兵士として彼らは育成されて
いた。街のみんなが施設の支援者だったし、私を含めて彼らは待ち全体に育て
られたような物だった」
「それで、君や、そこに住む子供たちに銃を持たせてレジスタンス活動を?」
「強要されたわけじゃないさ。そんなことはしたくないって拒む子もいたし、
子供の内から人殺しの真似事をさせようなんて考える人も少数だった。でも、
私はそうすることが、銃を持ち戦うことが当然だと思ってた」
主義でも主張でもなく、少女が心の奥底に秘める信念。
それは、シンの知らない世界であり、士郎としてこなかった世界。
「でも、最近思うんだ。本当にそれが正しかったのかって。街のみんなのため
にと戦ってきたけど、私は街にとってはただの一兵士でしかなくて、兵士が傷
つき、倒れたことに悲しんでくれる人は、あの街にはいないんじゃないかって」
暴動から数ヶ月、シンは、少女をなるべく争乱のない場所で療養させたいと
考え、街から離れた場所の病院に彼女を入院させた。これには彼女の街やその
付近には重傷だった彼女を満足に治療できるだけの設備が整った病院施設が不
足していたという理由もある。
けれど、そういったシンの配慮が却って彼女に孤独感や寂しさを植え付けて
しまったのかも知れない。
433:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 00:09:06
リアルタイム保守。寿司を握って待ったかいがある
434:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:09:37
「そんなこともないだろ。みんな君のことが心配だろうし、君が怪我をしたこ
とを悲しんでたはずだ。お見舞いに来るには、ちょっと距離があるだけだ」
気安めにもならないとわかってはいたが、言わないわけにもいくまい。
「君は君の街に帰るべきだと思う。あの街には、君の帰りを待ってくれている
人がいるのだから」
シンの言葉に、少女は少しだけ悩むような仕草を見せたが、すぐに頷いた。
「そうだな。怪我が治ったらそうさせて貰うよ。そして、また銃を手に取って
戦うんだろうな。私は街や、そこに住む人を守るために戦いたいと思ってるん
だ。お前はそれを嫌がるか? また馬鹿なことをしていると……軽蔑するか?」
肯定されるのが怖いのか、少女が僅かに怯えた顔を見せる。寂しそうな声に
は、純粋な少女の気持ちと、その生き方が籠められているようにも思える。
「いや、それでいい。人は、自分の信じるように生きるべきだ。後悔しない自
身が、あるのなら」
あの男は、後悔したのだろうか。アスラン・ザラは、シンに敗れ、ロッシェ
に膝を屈した英雄は、最後の最後まで後悔せずに自分を貫くことが出来たのだ
ろうか。今となっては、誰にもわからないことだ。
「それに、危なくなったら俺が飛んでいくよ」
思考を打ち切り、少女へと向き直るシン。
「プラントにいてもか?」
「プラントにいてもだよ」
「お前、やっぱり馬鹿だろ」
言葉とは裏腹に、少女の声はどこか嬉しそうだった。
「けど、怪我が治ってちゃんと動けるようになったら……少しの間だけで良い、
俺に付き合ってくれ。連れて行きたい場所がいっぱいあるし、見せたい物があ
る。君に似合う服を買ってあげたいし、プラントに行けば遊園地だってある!」
「意外と陳腐だな。それは告白かなにかか?」
一瞬だけ面食らったような表情をするが、少女はクスリと笑いながらシンに
尋ねた。
「ま、そんな経験滅多に出来ないだろうし、私が拒む理由はないけどな」
少女が嬉しそうに笑いかける。
その笑顔は、とても可愛らしかった。
「なあ、お前はどうして……その、戦ってたんだ? もちろん、軍人は戦うの
が仕事だとは思うけど」
何故、何のために、どうしてシン・アスカは戦うのか。それは多くの人がシ
ンに問いかけ、シンが答えて来られなかった問いである。
「守りたいものが、あると思ってた。だけどそれが何なのかわからなかった」
「軍人として戦い続ければ、それがわかると思ったのか?」
「さぁ……」
「お前、優柔不断って言われないか?」
それはアスラン・ザラのことだろうとシンは言わなかった。
「まあいいか。それで? お前の求めていた答えとやらは、見つかったのか?」
「多分、ね」
少女の問いに、シンは曖昧な答えを返した。
優柔不断な、その答えを。
435:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:11:39
「……私があの時、街の暴動に参加していたときの話しなんだけど」
「あぁ」
今でもハッキリと思い出すことが出来る争乱。血煙があがり、泣き叫び、逃
げまどい、暴れ続ける人々。シンの腕の中に横たわる少女と、その手に伝わる
暖かい血の感触……
「奴らが逃げてきて、私たちは今までのお返しだと言わんばかりに迎え撃った。
銃やナイフ、棒なんかを持ってひたすらに奴らを倒して、殺して回ってた。だ
けど、私はなんだかそれが実にくだらなく思えたんだ」
「くだらなく?」
意外な言葉に、シンは思わず聞き返す。
「みんな理性が吹っ飛んでて、とにかく必死で……滑稽だったよ。それまで虐
げられてた人たちが、今度は嬉々として虐殺を行っていたんだから。別に、そ
の人たちを軽蔑してないし、共感してなかった訳じゃないんだ。私のことを棚
に上げるつもりもないしな」
「わかる気がするよ」
「その時思ったんだ。きっと、これはシンの、お前の視線なんじゃないかって。
私はお前の気持ちを感じながら、お前が嫌うありとあらゆる暴力的な光景に嫌
悪感を示したんだよ」
少女にしてみても、何故自分がそのように感じたのか、そんな風に街のみん
なが見えたのかは不思議でならない。
「それは……君がほんの僅か、俺という存在に出会ったことで感化されたから
じゃないかな」
シンにしてみても、明確な答えや意見を述べられるわけではない。
「俺はさ、世界で一番自分が不幸みたいに考えてて、世界を憎むあまり世界を
外から眺めて、全てをわかった気になってた」
間違いに気付くのに、一体どれだけの月日を必要としたのか。
まったくもって、自分の愚かしさに恥ずかしくなる。
「なんて顔してるんだよ」
苦笑するような声で、少女が喋る。
「私は驚いたんだぞ? お前の視線、お前の気持ちで見る世界はとても新鮮で、
あぁ、こんな世界もあるのかって感心したぐらいだ」
「そんな、大層な物じゃないと思うけど」
「いや、やっぱり凄いよ。お前は馬鹿だけど、お前みたいな奴こそ世界に必要
なんだ。地球でもプラントでも、どこにいたって世界を良くしていくことが、
守ることが出来るはずだ」
ほんの些細な、小さなことかも知れないけど。
誰だって、世界は守れるし、変えられることが出来るはずだ。英雄だの覇者
だのと、そんな聞こえの良いものは必要ないのだ。
例えどんなに短い平和でも、その十分の一の戦果に勝ることは違いないはず
だ。アスランは、絶望するのが早すぎたのだ。
436:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:14:01
しばらく二人は、無言で海を眺めていた。
すると、少女はなにか思いついたかのようにシンの手を掴んだ。
「少し、手を貸してくれ」
「えっ―?」
フッと少女は笑うと、掴んだ手に力を込めて、車イスから起ち上がろうとし
た。
「うわっ、と!」
突然掛かる重量に、結構重いかなと失礼なことを感じるシンであったが、相
対する少女は苦悶の表情を浮かべていた。
「痛むの?」
「当たり前だろ、怪我してんだから!」
痛みをやせ我慢しながら喋る少女は、見た目ほどに回復はしていないのかも
知れなかった。あるいは、シンを前に無理をして虚勢を張っているのかも知れ
ない。
シンが支えながらも、少女は何とか起ち上がることが出来た。
砂浜は、少女の足を優しく受け止める。
「病院の床は嫌いじゃないけど、地に足を着けているって感覚は落ち着くな」
それはシンにもわかる話だ。彼の場合、無重力という空間が落ち着かないだ
けというのもあるが。
少女は、サクリ、サクリと一歩ずつ、ゆっくりではあるが砂浜を歩いていく。
十歩も歩いただろうか? 両手を広げ、身体全体に潮風を受ける。
「私は怪我が治ったら街へ戻る予定だけど、お前はどうするんだ? プラント
へ帰るのか? それとも…………」
シンに背中を見せたまま尋ねる少女。
「君に協力をしたい、って言ったら?」
半分以上、それは正直な気持ちだったのかも知れない。あるいは少女も、そ
れに気付いて、しばし無言だったのだろうか。少女がその誘いを受けるのは簡
単だったが、少女は首を横に振った。
「悪いけど、気持ちだけ受け取っておくよ。お前には、プラントとオーブ、二
つの故郷がある。まずは、そっちのことを片付けるのが先だよ」
惜しむような声が少女の口から漏れる。だけど、シンは少女が一度口にした
ことを撤回するような性格ではないと、わかっていた。
「そうか……残念だけど、確かに言うとおりだよな。俺も、俺の居場所に帰ら
ないと」
少なくとも、シンを待ってくれている人は居るのだから。ザフトに在籍し続
けるかとか、先のことはまだ何も決めてないけど、そういったことを決めるた
めにも彼は帰るべきなのだ。
「多分、俺はまだしばらくは銃声の鳴る場所へ居ると思う」
赤く、燃え上がるように輝く海を見つめながら、シンが呟いた。
「戦争、か?」
「いや、違う。戦争に行くとか、戦いを続けるとか、そういうんじゃないんだ。
ただ……」
なんて、言えばいいのだろうか。色々な言葉が頭の中を駆けめぐるが、どれ
もしっくり来ない。
違う、それこそ違うんだ。
これは、言葉で表現できるようなことじゃないんだ。
437:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:15:49
「俺はこの戦争で、多くの人に出会った。君や、君以外にも沢山の人と会って、
その人が抱えている物や、人生を、垣間見てきた」
それはステラ・ルーシェであり、ネオ・ロアノークであり、アスラン・ザラ
でもある。
シンは戦争という日常を通して成長し、新しい目で世界を見て、新しい人た
ちと出会うことが出来た。
「俺は家族を殺されたことの恨みや、内にある復讐心を紛らわせるためにザフ
トに入った。故郷であるオーブを嫌って、指導者だったアスハを憎んで……で
も、それは所詮言い訳だったんだ。俺はあの時、家族を守れなかった自分自身
を庇うために、逃げていただけなんだ」
周囲の言葉に相づちを打ち、何をするわけでもなく、上からの命令に従って
軍務を遂行していた自分は、逃げていただけ。目の前にいる少女や、死んでし
まったステラのこと、目を反らすことが出来ない現実から目を背けて、ただ一
人、自分だけが被害者のような面をして、逃げ続けていたんだ。
俺は、世界で一番不幸なんだと、勘違いを続けながら。
「俺は、俺のやり方で、世界を救いたい。人を守りたい。それがどんな方法な
のかはわからない。でも、きっとあるんだよ」
ラクス・クラインは答えを出せず、キラ・ヤマトは答えを求めず、アスラン
・ザラは答えを出したと思っていた。
シン・アスカに、それが出来るのか。
わからない、わからないけれど…………
「きっと、そういうものがあるんだ。俺はこの世界に、確かにそれを感じてる」
つまらない話になってしまったな、とシンは感じ始めていた。折角少女と海
に来ているのだから、そろそろ話題を変えるべきだろう。
「あっ!」
突然、少女が大きな声を出した。
「どうしたんだ?」
怪訝そうに、シンは尋ねる。
「そういえば私、お前に言わなくちゃいけないことがあったんだよ」
「言わなくちゃいけないこと?」
「あんなことがあった有耶無耶で忘れてたけど……うん、今なら言っても良い
かな」
ますます不思議そうな表情をするシンに少女は、彼よりも背が低く、褐色の
肌がまぶしい少女は―
「今のお前、最高に格好いいよ」
コニール・アルメタが愛くるしい笑顔を見せながら、シン・アスカという少
年を、心の底から賞賛した。
438:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 00:15:55
所詮は(魚の)血で塗られた運命、今更後悔はしない。保守するぞ
439:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:17:23
場所は変わり、プラント首都アプリリウス郊外。
戦没者の共同墓地に、二人の男女の姿があった。レイ・ザ・バレルと、ルナ
マリア・ホークである。
墓地といっても、遺体が入っているわけでもない。地上戦ならまだしも、宇
宙での戦闘に置いて身体の一部でも残せる戦死者は、絶対数において少な過ぎ
るからだ。
「それでも、墓は墓だ」
花束を、墓石へ手向けるレイ。墓碑銘は、彼もよく知る少女の名前が、隣で
膝をついているルナマリアの妹の名前が、刻まれていた。
何といえばいいのか、わからなかった。あの戦闘の混乱に紛れ、再びメイリ
ン・ホークが脱走したことや、彼女がウルカヌスへ、アスランの元へ戻ったこ
となどを二人が知ったのは、全てが終わった後だった。ウルカヌスが爆発し、
脱出者が確認されていないことを考えれば、メイリンがどうなったかは目の前
にある墓が物語っているようなものだ。
「……私は、あの子が羨ましい」
ルナマリアが、静かな口調でそのようなことを言った。
「あの子は確かに、馬鹿なことをしたと思う。だけど、あの子は最後の最後に
好きな人を選んだのよ。好きな人となら、愛した人となら一緒に死んでも構わ
ないと、そう思ったんだわ」
愚かな行為と切り捨てるのは簡単だ。
しかし、ルナマリアにはどうしてもそれが出来なかった。
「そんな純粋で一途な恋を、あの子はしたのよ。きっとそこには、微塵の後悔
も迷いもなく、あの子は満足して運命をともにしたんでしょうね」
「ルナマリア……」
「私にはとても真似できないし、相手すら居ないもんね。あの子、いつの間に
か私よりずっと先を歩いてたんだわ」
羨ましいと、ルナマリアは思うのだ。もちろん、妹の死は悲しい。初めの頃
は泣いて泣いて泣きはらした。だけど、今では妹の、メイリンの選択が正しか
ったようにも感じられるのだ。あの時、敗北してウルカヌスとともに消えゆく
アスランを黙ってみているだけだったとしたら、メイリンはやはり後悔しただ
ろう。一生の心の傷を負ったかも知れない。
「何かをしないで後悔するぐらいなら、何かをなして後悔した方がずっとマシ
ってことかしら」
「立ち直ったのなら、それはそれで良かった」
「元気と明るさだけが取り柄だからね、私は」
空元気だろうと、悲しげな姿を他者に見せるよりは、よっぽど良い。今はま
だ悲しく、泣くこともある。けど、いつまでもそのままではないけない。
ルナマリアは、生きているのだから。生きている人間は、前に歩かなければ
行けないのだ。それが、生きるものの責任なのだ。
「そういえば、シンはいつ戻ってくるの?」
「昨日連絡があった。何とかシャトル便の手配が出来たとかで、明日には戻っ
てこれるらしい」
「そっか……あいつ、これからどうするのかな」
戦争は、終わった。戦後処理も、既に始まっている。
ミネルバ隊には待機命令が出されていたが、それが解除されてもすることな
ど無かった。戦争が終わり、戦闘が無くなれば、軍人の仕事はそれで終わるか
らだ。だからこそシンは休暇を取って地球に向かい、レイとルナマリアは墓参
りに来ているのである。
440:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:18:13
「どうするかは、あいつが決めることだ。ザフトを除隊して故郷に帰ると言っ
ても、俺達に引き留める権利はないだろう」
「でも、レイは辞めるんでしょう?」
「俺は、他にしたいことがあるからな」
レイ・ザ・バレルは、ミネルバ隊の中でいち早く除隊の意思を表明した一人
だった。彼は軍籍から退いた後は、プラントの大学で遺伝子学の勉強を始める
つもりらしい。養父たちの、彼を救い、彼に人生を与えてくれた二人の男が追
い求めたものを、息子であるレイが変わりに追い続けるのだ。
デュランダルと、そしてクルーゼが残した資産を使って、彼は小さな基金を
立ち上げた。ラウ・ギルバート基金と名付けたそれを使って、レイは彼と同じ
身の上の子供や、ナチュラルのエクステンデットにも手を差し伸べられればと
思っている。
「スウェンの奴もどっか行っちゃったしね」
ファントムペインのエース、スウェン・カル・バヤンは終戦後間もなく姿を
消した。どこにいるのかは、見当も付かない。
「ルナマリアはどうするんだ?」
「まだ決めてない。けど、誰かが残るから私も残るとか、誰かが辞めるから私
も辞めるとか、そういう安易な考えはしたくないの」
自分の人生なのだから、自分で決めなくてはいけない。メイリンだって、そ
うしたのだから。
「良い心がけですね。私も見習いたいものです」
声は、二人の背後からした。振り返ると、そこに一人の女性が立っていた。
「シホさん……そっちも終わりましたか?」
シホ・ハーネンフースもまた、墓地へと墓参りに来ている一人だった。彼女
の場合、恋し、愛し、尊敬していた上官の墓にである。イザーク・ジュールに
対して複雑な気持ちがないといえば嘘になるが、それでもイザークという男は、
シホにとって大切で、大事な存在だったのだ。
「私はこれから隊長の……いえ、イザーク・ジュールのお母様が入院されてい
る病院に行こうと思っています。二人は、このまま帰宅を?」
「その予定です」
「でしたら、出口まで歩きませんか?」
断る理由もないので、三人連れ添って歩き出した。墓地には疎らに人がおり、
思い思いの表情を浮かべながら墓石と向き合っている人がほとんどだ。
ふと、レイが一つの墓の前で足を止めた。
「レイ?」
怪訝そうに、ルナマリアが声を出し、レイが見つめるその墓石を見た。
「あっ…………」
他の墓石と同じく、簡素な墓だった。
だが、その墓の前には一輪だけ花が、薔薇の花が添えられていた。
墓碑銘にはこうある、
ハイネ・ヴェステンフルス―と。
441:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:19:10
インフィニットジャスティスの敗北と、それによる戦争終結までの流れは誰
もが予想だにしない速さで進んでいった。本来なら、インフィニットジャステ
ィスは国でも正規軍でもないテロリストなのだから、彼らが敗れたからといっ
て地球とプラントの戦争が終わるのも妙な話である。
しかし、インフィニットジャスティスとの戦闘終了後、プラント最高評議会
はすぐに世界統一国家軍へと停戦の申し込みと、和平の意思を示した。この時、
最高評議会は臨時としてアリー・カシムという評議員が評議長代行を務めてい
た。彼はデュランダルと同年代のまだ若い評議員であったが、議会内では穏健
派に属していた。にもかかわらず彼が停戦の意思を示したときに議会がどよめ
いたのは、彼がヤヌアリウスの出身だったからだろう。
ファントムペインの総大将たるロード・ジブリールが奏でたレクイエムによ
って、ヤヌアリウス傷つき、150万人もの人が犠牲となった。いくら穏健派と
いえど、徹底抗戦を唱えたって無理からぬことである。
だが、カシムはあくまで停戦を、終戦を望んだという。
「ヤヌアリウスで150万人の人々が犠牲になったのは、確かに悔しい。けど、
それ以上に悲しいことでもある。我々は冷静になるべきだ、150万人の仇を討
つためにもっと多くの血を流すか、それともこれ以上の流血は無用であるとす
るか……私は後者だと思う」
仇を討つにしても、元凶たるジブリールはインフィニットジャスティスによ
る粛正を受けた。地球側にしてみても、ジブリールもほとんどテロリストに近
い状態だったこともあって、責任を問うのはお門違いだろう。
コペルニクスにて行われた終戦協定には、いくつかの条約が盛り込まれた。
人々が驚いたのは、地球・プラントそれぞれが、現存し保有する全てのモビル
スーツを破棄することを決定したことだろう。
「武力とは自主権、自治権の象徴であるため双方持つことは当然だ。しかし、
モビルスーツはこれに含まれない」
この決定をした理由は、大まかに言えば二つあった。一つはモビルスーツを
今後製造しないことで軍事費が浮き、戦争によって悪化した経済の立て直しが
図れること、もう一つはとりあえずモビルスーツというわかりやすい戦争の道
具を排除すれば、ある程度の期間において戦争を回避することが出来るのでは
ないか、と言われている。
発案者はカガリ・ユラ・アスハだとも、ヘルマン・グルードだとも言われて
いるが、正確な資料は後世に残されていない。
話に上がったカガリ・ユラ・アスハであるが、彼女は世界統一国家の元首に
再び上がるよう提示された際、これを謝絶したという。理由は家柄だけでまだ
まだ若輩であることと、結果的に追放同然の処分となったロゴスの面々に気を
使ったのだと考えられている。
これによって世界統一国家は完全な共和制へと移行し、近日中にも大統領が
選出されることになった。まともな人間がその地位に付くことを、世界は望ん
でいることだろう。
兎にも角にも、戦争は終わった。それは、厳然たる事実なのである。
そして……………………
442:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:20:31
プラントの、といっても首都からも外れた随分と地味な場所にある宇宙港の
ロビーに、ミーア・キャンベルはいた。宇宙港は完全に人払いがされており、
彼女とその隣に立っている男以外、人っ子一人いなかった。
「そうか、自分の正体を明かしたのか」
手に持つ一輪の薔薇を弄びながら、ロッシェ・ナトゥーノは呟いた。さも、
今初めて聴いたような口調だが、彼は前々からこの事をミーアに相談されてい
たし、真実を告げるように勧めたのも彼だった。
「これであたしは、もうラクス・クラインじゃないわ。紛い物、偽物の虚像が
消えた、ただの女の子……ただのっては違うか。あたしの顔は、もう戻せない
わけだし」
どこか寂しそうに笑うミーア。
「でも、スッキリした。正直言うとね、ラクス・クラインを演じているのは楽
しかったけど、辛いって思うことも沢山あった。平和のためとか、非戦のため
だとかきれい事並べたところで、結局はみんなに嘘をついていたことに変わり
はないんだから」
幸いと言うべきか、世間の反応はそれほど大きくはなかった。決して小さく
はなかったのだが、故人となってしまったギルバート・デュランダル前プラン
ト最高評議会議長による数々の失言もあったためか、市民の大半は「あぁ、や
っぱり」と言った程度にしか感じなかったのだ。
もちろん、非難の声は上がったし、ラクスというプラント市民にとっては崇
拝の近い対象の影武者を作ったことには批判もあった。しかし、ミーアの活動
を振り返ってみれば、それは誰に恥じることもない立派なものだったはずだ。
特に、立場上強く言えるわけがないはずのデュランダルを公然と非難し、彼の
不見識を正そうとしたことすらあった。
釈然としない部分は残るが、ミーアは自己の立場を私的に利用したこともな
かったし、第一彼女は自分の役割を果たしただけ……
「はじめはね、あたしはラクス・クラインという役を貰ったんだと思うように
してたの」
「役を?」
「そう、ラクスという役を演じ、彼女の役割を果たそうとしてた。それが当然
だと思っていたし、疑問なんて持ってなかった」
あなたに、出会うまでは―
「いつの頃からか、あたしはラクスという役割の中に自分の意見を織り交ぜる
ようになった。ラクス様だったらこう考えるんじゃないか、こう思うんじゃな
いか、なんて言い訳ばかり心の中で言ってたけど、それは全部あたしの言いた
いことで、感じていることだったのよ」
「良いことじゃないか。自分の言葉で喋れない人間ほど」
「つまらない奴はいない、でしょ?」
二人は、声を出して笑いあう。
ロッシェはベンチから起ち上がると、のぞき込むようにミーアを見る。
「何はともあれ、親善大使就任おめでとう」
ミーアは、プラント・地球間を繋ぐ正式な親善大使となっていた。彼女は自
らの歌や、活動を通じて国家間の相互理解を深めていきたいと思っている。
「ありがとう。でも、今まで以上に憶えることが沢山あって、緊張したりして」
「大丈夫さ、君なら」
「根拠は?」
「ない。けど、私は大丈夫だと思う」
ロッシェの保証は、ミーアの心にチクリと刺さるものがあった。
443:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:21:30
「本物のラクス様のこととかもあるし、果たしてどうなるのか、あたしには想
像も出来ない」
ミーアが世間に一応認められたのは良いことであるが、当然の如く市民はあ
る疑問を持った。では、本物のラクス・クラインは、かつてプラントの歌姫と
呼ばれた少女は今どこにいるのか。
これに対し政府は、プライバシーの観点から本人にどうするかを尋ねようと
した。だが、それは叶わなかった。オーブ首長国連合にて隠棲していたはずの
ラクスは、忽然と、何処かにと姿を消していたのだ。それはキラが宇宙にてそ
の命を散らしてから、僅か二日後のことだったという。忙しい政務の合間を縫
って様子を見に来たカガリが、もぬけの殻となった屋敷を発見した。
万が一の事態もある。カガリは周辺の森や、海の中などを軍まで動員して探
させたが、遂にラクスを見つけることは出来なかったのだ。
事実を知ったプラント政府は対応に困った。まさか、ラクス・クラインが自
殺した可能性があるなど国民に公表できるわけもない。いや、むしろそうした
ほうがミーアという影武者を作らざるを得なかった事情に納得のいく説明が出
来るかも知れないが、今度は死者を冒涜していると言われかねない。
結果として、プラントとオーブはともにラクス・クラインの行方を捜索する
とともに、表向きは某国に隠棲中であり、表舞台に戻るつもりはないとの発表
をした。元々、ミーアがラクスとなった理由でもあるし、嘘は付いていない。
それが、どんな未来を暗示しているかはまだ誰も知らないし、知る必要もな
かった。
「ロッシェ……もう、行っちゃうのね」
ミーアの寂しげで、悲しげな声がロッシェの胸を打った。そうだ、これは最
後の、彼女との別れの挨拶。ロッシェは今日、コズミック・イラと呼ばれる彼
にとっての異世界を後にして、元いた世界へと帰るのだ。
「長居しすぎたよ。余り長居しすぎると、私の華麗な姿が人々の目に焼き付い
て離れなくなる」
「あたしはとっくの昔に、心まで焼き付けられて、奪われてるわよ」
何気なく言ったであろうミーアの言葉に、ロッシェは胸を締め付けられる思
いだった。だが、彼の中に残るという選択肢は、ない。
「きっと、私たちは一瞬すれ違うだけの、そんな関係だったんだ」
「えっ?」
「すれ違ったとき、私たちは互いの瞳を見て、見つめ合ってしまった。だが、
その一瞬が終われば、また歩き出さなくてはいけないんだ」
互いに進むべき道があり、その道が交わることは、一生ない。
ロッシェは、宇宙港の格納庫へと続く道へ一歩、また一歩と踏み出した。格
納庫には機体が、ガンダムアクエリアスがある。
444:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:23:10
「これを―!」
ミーアの手元に、ロッシェがそれまで手に持っていた一輪の薔薇を投げた。
「何も思いつかなかった。何をあげれば君が喜ぶのか、何をすれば君が笑って
くれるのか……情けない奴だな、私は」
ロッシェは、顔を俯かせる。
結局、自分はその程度の男なのだ。気障ったらしく気取ったところで、ボロ
が出る。まったく、あの男のような完璧な騎士には、まだまだほど遠い。
「ロッシェ……」
小さな声だった。あまりに小さな、聞き漏らしてしまいそうなぐらいか細い
声にロッシェが顔を上げると、ミーアの笑顔が、涙を流し、くしゃくしゃな泣
き顔で、それでも笑みを浮かべようとする少女の姿が、その目に映る。
「例え、一瞬のすれ違いでも、ほんの僅かな出会いだったんだとしても、あた
しは……」
その瞬間、ミーアは駆けた。
「あたしは、あなたが好き!」
愛する男の胸に、飛び込んだ。
「私も、君を愛してしまった」
それは許されないこと。それは許されない背徳行為。
「一緒に、ずっと一緒にいたかった!」
「それは、出来ない」
「わかってる。でも後少し、後少しだけ……このままでいさせて」
胸の中に顔を埋めるミーアの肩を、ロッシェはそっと抱き寄せる。ミーアは
ロッシェの背中に手を回し、離すまいと抱きしめた。
どれぐらい抱き合ったのか、二人は抱き合いはしても、キスはしなかった。
してしまえば、気持ちを抑えられなくなると、二人とも思っていたのだ。
最後の抱擁が、終わった。
「ミーア・キャンベル。君の未来に、祝福を。大丈夫、君には全ての幸運が、
味方しているよ」
ロッシェはミーアの手を取り、恭しくその手の甲に口づけをした。騎士とし
て、男として彼に出来た、精一杯の別れの挨拶だった。
「ロッシェ、あなたも元気で。向こうの世界であなたの帰りを待つ人を、幸せ
にしてあげてね」
そして、ロッシェ・ナトゥーノは帰って行った。
ミーアはその後ろ姿が視界から消えるまで、しっかりと見つめていた。彼は
振り返らないし、ミーアも引き留めはしない。
これで、いいのだ。
やがてガンダムアクエリアスが宇宙港を包み込むように青い粒子を舞い散ら
し、ミーアを見つめながら、飛び去っていった。
「さてと、あたしも帰ろっかな」
ロッシェと、アクエリアスがその視界から消え去ったのを確認すると、ミー
アは踵を返して、出口へと向かって歩き出した。
一歩、また一歩と踏み出すその歩みは、明日への希望。
明日からはじまる毎日。
ミーア・キャンベルとしての毎日に、ミーアは思いを馳せるのであった。
おわり
445:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/01 00:25:11
第70話です。
以上をもちまして、運命の歌姫は完結となります。
全70話、投下期間は1年と少し……
自分でもまさかここまでの長期間で、しかも完結で
きるとは思っていませんでした。
これも偏に、このスレに集まってくださった皆様の
おかげです。
で、本編はこれにて終わりなんですが……
一応続編というか外伝を考えてあります。
Wで言うところのEndless Waltzに当たる話です。
端的にして極端に言うと、
「種死の世界でEndless Waltzをやってみた」
みたいなお話しになります。
本編中に残った謎というか、唯一何もしなかった、
使わなかったキャラの決着を付けるべく思いついた、
そんな話です。
ただ、その、本編の1年後という設定で、世界観こそ
同じなんですが……クロスキャラが一切出てきません。
「ロッシェたちがいた世界」であり、「ロッシェたちがいる世界」
ではないのです。
ここはクロススレですし、クロスキャラが一人も出ないSSを
投下するのはさすがにスレ違いと言うこともあるので、投下する
かは皆様の判断に任せます。ダメなら、wikiにでも交渉しますし。
まあ、そんなこんなでひとまずは終了。
赤頭巾さんという職人さんも居られますし、後は氏の作品を楽しむ
ことにしましょう。
あぁ、後外伝の投下許可が下りなかったらただの名無しに戻る予定なので、
折角最後ですし、何か質問があったら書いてください。
答えられるものは答えます。
それでは、またの機会があれば幸いです―
運命の歌姫
446:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 00:33:21 ugG4qHB1
お疲れ様でした。 個人的にあなたの作品が掲載されていた期間は、個人的には激動の日々の中での楽しみでした。
お体に気をつけて下さい。
一ファンとして外伝は読みたいです。
後は00とのクロスも
447:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 00:38:35
楽しかったよありがとう
お疲れさま
448:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 00:38:43
やるべきだろ
エンドレスワルツまでやって完結というのなら
やるべきだろ
449:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 00:50:54
完結、お疲れ様でした、GJ!
>外伝
新作でクロスなしなら、レス違いでしょうが、
続きは大丈夫に一票。
450:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 01:13:39
まあクロス作品の延長上って分けだし、作者本人にやる気があるのなら俺らに止める権利は無いよ
451:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 01:23:57
お疲れ様でした
少し長い後日談と考えれば問題無しです。是非投下をば
452:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 09:13:36
完結お疲れ様でした。
クロスがないとはいえ新作ではなく外伝であり話が続いてるのなら投下に問題ないと思いますよ。
外伝待ってますよ。
453:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 09:59:06
同じく ノシ
454:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 11:24:50
誤字発見
>>ヤヌアリウス傷つき
455:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 11:48:03
GJ
>>454
「士郎」とか変換間違いはちらほら
もっとも気になったのはシンの一人称が「僕」
そしてオデルが完全スルーな件
456:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 12:14:55
なんか一年あっという間だった気が。
ホントに乙でした。
457:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 13:04:43
>>455
シンは家族が生きていた頃は一人称が「僕」でしたし、戦争が終わって垢抜けたと解釈するのがよいかと。
でも、確かにオデルさんにも何かしら出番が欲しかったですね。
458:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 17:18:17
長編完結お疲れ様でしたー。
まさかコニールが生きてるとは思わなかったのでちょっと驚いた。
シンとオデルの別れは見たかったかなぁ。
外伝も期待してます。マリーメイア役はどう考えてもあのキャラかな(w
459:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 17:53:35
むしろ誰がたぶらかすのかとか姿を消したあいつが再登場?とかwktkが止まらんわけなんで
ぜひ投下してもらいたいです
460:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 19:21:36
行方不明のあのキャラの動向が気になる、意味深な書かれ方をしてたしw
まさか、あんな事があったもんだからショックで乱心してたりして・・・
461:通常の名無しさんの3倍
08/06/01 20:52:06
歌姫も終わった事だし赤頭巾の投下を待つか。
462:通常の名無しさんの3倍
08/06/02 07:25:10
乙でした~。
きれいな終わり方だったなぁ。
続編は投下してもしなくてもいいかなーって気分。
個人的にEWは蛇足に思えるし……
作者さんが言ってた影響を受けている作品、ってーのがぜーんぜん見当つきませんでした。ナンジャラホイ。
463:通常の名無しさんの3倍
08/06/02 09:42:29
>>462
影響云々はどうでも良いんじゃない?ようは楽しめたかどうかでしょ
続編は嫌な方には専ブラであぼんしてもらえば良いだけじゃないか?俺は投下してもらいたいぜ
464:通常の名無しさんの3倍
08/06/02 17:00:33
続編は歓迎だが
まんまエンドレスワルツのトレースなら萎える
マリーメイアがラクスだったり
ゼクスのポジションに凸が居たりとか
465:通常の名無しさんの3倍
08/06/02 17:38:47
ああ、ゼクスポジに凸がいたら萎えるな
466:通常の名無しさんの3倍
08/06/02 17:54:02
レイがごひのポジションだったりとかw
どうせ後日談やるならオリジナルを期待する。
467:通常の名無しさんの3倍
08/06/02 18:31:23
ゼクスとトレーズ辺りは他の代役にするには余程のキャラじゃないとな。
多分、勤まるのはアニメ全般探しても中々居ない。
468:通常の名無しさんの3倍
08/06/02 19:53:30
>>466
読み手はともかく劇中人物の視点ではまだ戦局がどう転ぶかわからなかった、
いやむしろ敗色すら濃厚だった時点で統一軍のリーダーたるムウに
私闘を仕掛けて撃墜してしまったレイは只じゃ済まされないのでは?
まあインジャス党も壊滅したので結果オーライの不問なのかもしれんが…
469:通常の名無しさんの3倍
08/06/03 05:51:17
軍人が結果オーライだったとしても不問になるわけがない
470:通常の名無しさんの3倍
08/06/03 08:47:51
モビルスーツ放棄してもモビルアーマーに取って代わられるだけだから意味なくね?
471:通常の名無しさんの3倍
08/06/03 10:43:23
実際、イザーク・ジュールの例もあるからねぇ。
多分不問もしくは一応問うけど大丈夫ってオチなんじゃね?
軍に叛旗+民間人の艦船撃墜等をやっといて
評議員になるわ白服になるわで手打ちどころか
むしろ、出世してるし
472:通常の名無しさんの3倍
08/06/03 12:49:20
MS盗もうが戦艦強奪しようが一国の指導者をテロで殺害しようが
お咎めなしで最高評議会入りできる負債ワールド
473:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 08:28:49
続きは読みたいな
ラクスがどうなるのか気になるし
火消しの風のアスランだけは本気で勘弁だが
474:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 08:46:04
おれ姿を消したスウェン辺りが伍ヒってるんかと思ってたが・・・火消しの風のアスランは受け付けられんわ
475:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 08:52:38
待て、五飛は動詞にも適用されるのか
火消しのアスランはまぁ、面白ければいいんじゃないか?
ゼクスの代役は基本的に誰がやったって辛いって。
476:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 10:04:41
こうして考えるとゼクスもトレーズも大物だったんだなぁ
477:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 10:50:52
火消しの風ラクス。
キラの死とアスランとムウの戦いの結末から自らの愚かしさを知ったラクスが、覚醒してプリペンダーを結成。
自らもMSを駆って戦場の矢面に立つ。
……運命の歌姫氏のラクスだったら許せる気がするんだぜ。
478:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 11:20:05
それレディとゼクス混じってるから
479:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 11:25:33
いや、ラクスがゼクスだとレディ役が居ないんだよね……。
盲目の導師は絶対にダメだしよー。
480:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 12:49:11
レス無いが歌姫氏は大丈夫だろうか。
一応歓迎ムードっぽいがそろそろ反応無いと
予想によるネタ潰れでどれか被りそうだな
481:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 13:50:11
歌姫氏のアスランはどう見ても、ゼクスになりたくてなれなかった
「平和主義者の戦場」のビクター・ゲインツの方だろう。
器量や才覚の点でトレーズやゼクスに相当する人材がいないのが
CEの辛い所というか所以なのかもしれないが。
デキムにあたるのはやはり導s(ターン
482:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 16:15:40
トレーズはさ、反則だと思うんだよ
だって、あの人、エレガントだけで何でも出来ちゃいそうじゃん?
っていうか、あの世界の人って人間じゃねえよ
483:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 16:21:58
>>481の変わりなどまた作れば良いのだぁぁ!!11!!
484:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 16:27:24
>>482
ベクトルがあっちの方向へ逝っちゃってるだけで
スカラーはGガンの面々と堂々の兵揃いだからな
485:運命の歌姫 ◆1gwURfmbQU
08/06/04 20:57:35
では、お言葉に甘えて書かせていただきます。
といっても、プロットすら出来てないので、投下自体は
先になると思いますが……来月かな。
話数は3~6話を予定しています。
本当はそのまま置き換えるだけの話の予定だったんですが、
火消しのアスランは不味そうなので、練り直します。
まあ、本編のアスランに良い味を出せなかった私の責任だ。
486:通常の名無しさんの3倍
08/06/04 21:12:57
わっじゃあ当初はホントに火消しの凸の予定だったのか…
どう練り直されてどう転ぶにせよ楽しみにしています。
487:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 00:04:11
いやいや、歌姫のアスランは十分すぎるほどにいい味出してましたよ。
……ただ、アレがきれいなアスランに生まれ変わって颯爽と火消しの風として復活されても反応に困るというかw
とにかく続編期待しています
488:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 00:39:28
あれに火消しの風でござーいされても、死ね。とにかく死ね。としか思えんなぁ…
イザークやディアッカならまだ、ゼロシステムが~とか言えるけど…
489:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 04:06:58
いや、良い味は出してたと思うんだけど、運命の歌姫のアスランは純粋な悪役だったからねー。
アレだけやりたい放題悪行積んで、しかもそれを裏づけする確固たる理念を持って無かった奴が、火消しの風でございと出てきても……。
まあ、生き残り、死を禁じられたアスランが贖罪の為に苛烈な戦場を渡り続ける……とか、そう言う路線であれば納得も行きますから、立場だけは一緒で、名前やスタンスは異なるのであれば、問題はないですけどね。
490:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 11:19:05
髪消しの風
491:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 12:07:22
まあ火消し役としての凸復活案が頓挫したのはまだいいとして(ヒデェw
セットでの生還もありえただろうに道連れでポシャったと思われるメイリンアワレス…
……かな? いや歌姫氏の事だから何かどんでん返しの隠し球も
492:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 17:57:31
火消し役は外伝キャラになるのかな?
(個人的にはキラがやった方が、面白いんじゃないかと思ったけど
もう既にお亡くなりになってるし・・・・・)
493:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 18:29:23
カナードにやらせてみたらどう?
494:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 18:48:55
まぁ、傭兵と言いながらもずーーっと火消し風っぽい事をやってた
叢雲劾とか居るからな。外伝だと
カナードは火消しつーより、ハイオクガソリンじゃね?
495:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 18:55:51
>>494
あれだ、人為的大爆発で周囲の酸素を瞬時に消費させる消火法で
496:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 19:00:49
昔の火消しは延焼防ぐ為に火災現場の周りの家を取り壊すんだぞ? ピッタリじゃないか!
まあ、別にエンドレスワルツに火消しが絶対に必要かはまた別の話だね
あれ、絶対にゼクスを活躍させたいからって作り上げた役柄でしょ?
497:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 19:42:55
確かに6は出てなくても問題なかっただろうな
498:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 19:58:40
続編、本編で結末を迎えていないキャラに結末をってのが骨子にあるから物語的には出なくても良いけど作品的に出る必要はあるな
499:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 20:11:55
いや、明らかに本編最後のあれは結末だろう?
500:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 20:15:59
殆どのキャラは結末に辿り着いてるけど、ゴヒを筆頭に辿り着いてない奴を辿り着かせるための物語だから
501:通常の名無しさんの3倍
08/06/05 20:32:44
まあ、本編にしたところで初期プロットとまるで違う内容だし、
何とかなるなる。
アディン大活躍とか、黒幕は盟主王とか没にした案を思い返す度に
懐かしい……
502:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/06 13:13:15
経過報告と投下予告を。
ただいま、本編8話分、外伝2話分の書き溜めが終了。
半分完成途中の外伝と本編1話ずつ進行中。
今夜最終調節をして、明日の夜にでも1話目を投下したいと思ってます。
後、歌姫氏が連載は来月からと言う事なのでその間まで出来るだけ一週間ペースで
投下出来たらいいなぁっと思ってますが出来なかったすいませんorz
503:通常の名無しさんの3倍
08/06/06 22:44:54
急に人が居なくなったが何があったんだろうか。
何かブルコススレがW話題で盛り上がってるがそっちみんな行った?
504:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 10:20:30
>>502
がんばれ~
505:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/07 16:25:40
っと、ちょっと予定より早いですが早めに投下します。
以下、事前に簡単な説明と要綱を
・Wと種の世界観混同SSです。そこら辺の説明も作中でゆっくりしていくのと、それ用の話を作っています。
・一部どころか大半のキャラが自重してません。すいません。
・中盤~終盤から、一機だけアホな機体が出ます。ご容赦を
・MS戦闘は本編9話以降の予定で暫く平和モードです。その分後半は多め予定
・今回グロは禁止の方向で頑張ってみたいと思います。そういうの期待してた方すいませんorz
506:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/07 16:27:26
―月都市某レストラン 男子トイレにて
「本日はお日柄もよろしいことでぇー、って……駄目だぁ!?
良く考えたら月じゃ天気はコントロールされてるじゃないか!」
「そうですね……すいません。俺、さっきから場を和ませるギャグだと思ってたですが
ていうか、それ以前に夜のディナーにお日柄も何も無いと思うんですけど」
「え?! ずっと本気で練習してたんだけど!? 早く教えてよ!」
「帰りたくなってきた。相手に失礼だからか・え・り・ま・せ・ん・け・ど! しっかりして下さいよ艦長ぉ」
「じゃあ、何て挨拶したら良いんだろか。常套句はコレ位しか僕知らないんだけど」
「そんなの俺が知る訳ないじゃないですか」
「そうだよなぁ。うーん、難しいな意外と」
鼻歌交じりでスーツを着込んでいる元副艦長で今は俺の所属する部隊の戦艦の長である
アーサー・トレイン艦長は何度も鏡で髪型を確認しており、まるで自分の催し物の様に張り切っていた。
さっきまで何度も何度も繰り返す挨拶の言葉の練習が今更、役に立たない事に気付いたらしく
若干の焦りを顔に滲ませている中、狼狽振りを隠すかの様に手を再び、洗い直す。
怯えたアライグマみたいだと思った。アライグマが洗うのは狩りの練習らしいが何となくイメージで。
さて、それを見ている俺、シン・アスカは怪訝な顔つきで、トイレの洗面台の鏡越しにアーサー艦長を見ながら
怠惰なため息を漏らしつつも艦長が凹み過ぎない様に言葉をぶつける。正直、用を足した後だというのに実に気が重い。
陰と陽がはっきりと別れる二人の姿は、傍から見ればかなり異様に見れるのだろうか。
ため息で思わず口に挟んでいたハンカチを落としそうになる中、あまりの態度に視線も自然と冷ややかになる。
「アーサー艦長。はしゃぎ過ぎですよ。大丈夫なんですかぁ?」
「んぅ? 仕方ないだろう。君は身寄りが居ないし、同僚は君と数年しか変わらない子ばかり。
上司以外の理由は無いけど、やっぱ頼られるのは嬉しいからね。それとアテがあった?」
「はぁ……まぁ、確かに艦長は黙ってれば、大人に見えますし……そんな事、頼める大人の人居ないですけど。
見合いのえーと、仲人って奴でしたっけ? 出来るんですか?」
「なぁーに、向こうは大層な君のファンらしいじゃないか。後は若い者同士でと言う事でヘマをする事も無いさ」
「そんな無責任な。要するに丸投げじゃないですか」
「ははっ、シンは場数も踏んでるし、何とかなるだろう? ま、気に入らなかった後で断れば良いよ」
結局、何時もの調子へと戻ってしまった艦長を尻目に他に選択肢の無い現実が憂鬱さを引き立てる。
トイレを二人で出た後、艦長にパンッと背中を叩かれる手の感触は、初めてのMS搭乗訓練の時に
押された教官の手とダブって感じられた。それが勇気付けなのか奈落に落とすつもりだったかは未だに解らない。
だが、それで少し安心出来たのは事実だ。ちょっと艦長ではと思っていたが、やはり大人の手と言うのは安心する。
ふぅっと陰気さを吐き捨てる様に呼吸を整え、背筋を伸ばし案内されたVIPルームへと向かっていく。
事の発端は3日前程に突然、届いた見合い依頼の申し出を来た事から始まった。
しかも、軍と政府のお墨付き及びセッティングでその日は休んでいーよと言う事になっている。
終戦から1年も過ぎた頃で連合とザフトの人的交流が活発になったとはいえ
まさかそんな依頼というか、最初受けた時は何かの間違いかと思った。
当初は断ろうと思っていたが、艦長のあまりの盛り上がりっぷりに無碍に断る事は出来なかった。
かと言って俺は結婚などと言うのをモノを、本格的に意識して望むわけもない。
取り合えず、逢うだけ逢って見るとの事だったのだが、結構上等なレストランの予約を入れてしまったらしく
俺は場違いな雰囲気に緊張を隠しきれないでいた。いや、そもそも緊張を隠すなんて事が出来た記憶が無いか。
507:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/07 16:29:06
「しかし、ほんとに何も知らずに来るなんて、シンも度胸があると言うか何と言うか」
「だって、好みじゃなかったら来る前から憂鬱になりますし、好きそうな相手だったら何だか緊張しちゃうし
後は一回で終われないかもしれないじゃないですか。恋愛は兎も角、結婚前提で付き合うのはまだ流石に」
「なぁに、そんなのは逢った男と女が出会ったら事は勝手に進むもんさ。
ま、確かにソレの方がシンにはいいかもね」
予約をされていたVIPルームへと向かう途中、艦長は横目でもう何度も聞かされたセリフを告げられる。
艦長の言った通り、俺は写真も名前も聞かず、出来るだけ期待も面倒さも出さない為に相手の情報を遮断していた。
失礼かとも思ったが前もって色々と知ってしまったら、今日この日のスタンスを取れなかっただろう。
あくまで一回切りの慰問や軍人の現地視察程度の気持ちで行けば良い。どうせ、すぐ飽きられる。
そんな事をぼんやり考えている中、廊下を曲がれば広がるのは星空と街の夜景に中断させられる。
今日も月は街の明かりと星空の両方を照らし出して、眼下には水の惑星が存在を強調していた。
流石月都市の中でもトップクラスの高級さのあるレストランだけの事はある。廊下ですらこの夜景の豪華さだ。
その星空の中、仲人らしき女性が部屋の前で立っていた。ソレを見るとアーサーは慌てて、俺の手を引っ張っていく。
予定より15分ほど早く来ていたのだがまさか、こんなに相手が早く来ているとは思っていなかった。
「あ、失礼を! お待たせしてしまうとは。私はアーサー・トレイン。シン・アスカの仲人です」
「ご挨拶どうも。実際に逢うのは初めてですね。私はレディ・アンと申します。
彼女とは血縁関係はありませんが彼女も身寄りが無い上、不束ながら本日のお役目をさせて頂きました」
「は、はぁ。となるとお互い身寄りのない同士って事になりますね」
「艦長! って、それじゃ中で待ってるんですね。すいません。本当に」
「いえ、どうしてもと彼女が予定の時間より早く入っていかったので。では此方へ」
眼鏡を掛けて目つきのキツイ女性ではあった所為もあり、あっという間に艦長はへタレ具合を見せてしまった。
早速、連れて来た味方の堕落っぷりに頭を抱えそうになりながらも、急いで俺はその部屋を開く。
そこで待っていた女性は部屋の夜景の中に映し出される。そのしなやかなプラチナブロンドをキラキラと光らせ
アイスブルーの瞳を向けてはにっこりと微笑みながらふわりっとした足取りで抱きついてくる。
柔らかい女性の肉感と……言ったらあれだろうか。いや、いやらしい意味ではない! 断じて!
よくよく考えたら過去の女性殆どが軍人だったことから久し振りに”普通の女性”の感触を体験した気がした。
ドキッとするほどに芳しいパフュームの香りと肌の白さからは想像出来ない位に暖かいその体温を感じた。
「お待ちしておりましたわ。シン様」
「……わ、い、いえ……って、君は!」
英雄の種と次世代への翼
第一幕「ツキミアイと炒飯一番」
508:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/07 16:31:09
―6日程前、月都市の某ホテルパーティ会場にて
”時間と金の浪費こそが貴族の嗜み” 何となくそんな言葉を思い浮かんだ。
絢爛豪華なドレスや衣装、手元や首元に輝く宝石に高そうな時計。歩く金庫か宝石店の様に皆、着飾っている。
連合とプラントの戦争が終わり、その後、各方面で開かれたパーティに未だに慣れることも出来ず
首根っこ引っつかんで連れて来られた俺は、正に借りてきた猫みたいに会場の端っこに立っていた。
猫らしく煮干でも貰ってとっとと帰りたいところだったが、一応ザフトレッドな立場にある俺は
そういう訳にはいかず、俺は優雅な音楽を右から左へ聞き流している。
うむ。馬の耳に念仏、豚に真珠、元オーブの餓鬼に最新鋭試作MSという感じか。正直勿体無い気持ちで一杯だ。
そんな貧乏性な思考が過ぎる中、ふと視線を巡らせればいかにも御嬢様と言った感じの女性二人組みと目が合う。
特に好みだった訳でもなく、また女性を探す様に目をやって口説くだ、恋するだ云々と言う気分では無かったので
そのまますぐに目を逸らし宙を睨んでいる。ふと、俺のことについて話しているのがかすかに聞こえてきた。
「格好いい人だったわね。女みたいに肌も白かったし、しかも赤服! ザフトレッドよ?」
「ほんと……けど、目付き悪いわねぇ。服も軍隊の礼服のまんまだし、センス無し」
「それもそうね。……趣味悪そう。ああいうストイックそうなのはダメダメ」
「きっと、理解されないし、結婚しても勝手に財産を使われる浪費女と思われるわよ」
「あーーーそれは嫌ねぇ。やっぱ無しだわ。無し」
悪口はもっと本人から遠い所で言ってくれ。通信に慣れ過ぎた所為か、嫌な話も遠慮なくノイズ消して運んでくれる。
目付きが悪いのは生まれつきだ。というか勝手に結婚生活をシミュレートするなよ。
そもそも、一般家庭の育ちの俺にそういうお高い趣味は解らないんだよな。
本来だったら、戦災孤児のただの一平卒。アカデミーでちょっと成績が良かったからテストパイロットの赤服。
そのまま、とんとん拍子で昇進とフェイスにまでなったのは良かったが、そんなのは前議長のお膳立て。
実績はあっても人心はあのミネルバの艦内だけで、結局、将校クラスの人やソレの親族なんかとは相容れない。
ただでさえ、風足りも悪くて配属し直された部隊にだって馴染めて居ないってのにさ。
そんな風に腐って、憂鬱に夢物語の景色を傍観に徹していた俺に先輩としても気さくに話せる人物が声を掛けてくれた。
金髪に色黒で目は鋭いが何処と無く穏やかな空気の色を滲ませてくれる人、ディアッカ・エルスマンさんだ。
片手にグラスを持って……ん? コレ、アルコール入ってないか? ちょっと頬が赤いし、飲んでるのだろうか。
「よぉ、シン。何だか浮かないな。飲んでないのかぁ?」
「あ、ディアッカさん。いや、俺未成年なんで。それに何となく馴染めないというか場違いと言うか」
「ノットグゥレイトォ。そんな仏頂面だからだよ。こういうのは雰囲気だ雰囲気。
どうせ、相手も軍人相手にお高い趣味や話が通じるとは思ってないからなぁ」
「仏頂面は生まれつきです。そんなもんですか?」
「そうそう、こーいうのはな。ハードな戦争を潜り抜けた堅物のほっとして気の緩んだ表情とかのギャップ
を楽しみたい変わった御嬢様方ばかりなんだよ。後は、親のお仕着せで嫌々着てる娘さんばっかりだ。
後者が相手じゃなきゃお前は黙ってりゃ美形なんだからちょっと優しくすりゃ落ちるぜ?」
「は、はぁ。優しくですか」
「お前もMSばかりじゃなくて、女の子の一人も落として見せろよ」
509:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/07 16:34:47
完全な絡み酒。顔を少し赤らめているが、そもそもこの人もまだ未成年だった様な気がするんだけどな。
ぱーんっと指で鉄砲を作った後、俺の目の前でそれを僅かに上へとくいっと上げる。
ムードメーカー的な才覚溢から俺の心理を見抜いているのか、そもそもこの人の地なのか
良く解らないが、俺がザフト軍に残った後、他の部隊や艦の人との遣り取りが増えた中で
俺の過去にあまり気にしないで話してくれる数少ない人だ。逆に言えば、それ以外の人
主にミネルバクルー以外の連中は何処かよそよそしかったり、俺をまるで怨霊か自縛霊の様に見る。
レイも議長もタリア艦長まで死んだのに”何でお前は死んでないんだ?”と言いたそうな連中ばかりだった。
外の評判は概ね軍規違反を揉み消したり、上官や要人への態度が悪かったり、その癖やたら戦果を上げる扱い憎い奴と言う認識だ。
確かにそんな奴とは俺だって仲良く出来るかどうか怪しい。殆どの人が俺を警戒してしまい、自然と空気は刺々しくなっていた。
本人がそう自覚しているのはまだ救いなのかもしれないが結果として新しい友達など出来ず、誰とも仲良くなれない一年だった。
そして、そんな誰とも仲良く慣れてない俺の手を引きながらも、パーティー会場の淑女達を指差して
軽い女性攻略の講習会が始まった。俺は、そんな事を申し込んだ覚えは無いのだが。
「けど、やっぱ俺はどうも……それに軍人でもああいう人達も居るじゃないですか」
「ん? あー、あの人も火星から帰って来てたのか。ミリアルド・ピースクラフトとオーブのロンド・ミナ・サハクだな。
ばぁーか。ああいうのは根っからの騎士様や貴族様なんだよ。生まれも身分も違うだろ?」
「ディアッカさんも良家の出じゃないですか」
「うちは爵位なんてもってねぇよ。あくまで政治家の息子ってだけだ」
視線の先には煌びやかな衣装に身を包んだ美男美女が楽しく談笑をしていた。
其処だけ切り抜いて絵画になる位画になる二人。光り輝く光景は正に王子様の舞踏会と言った感じだった。
同じ軍人と言う括りになるのに、俺みたいな背の低いガキとはやはり世界が違う事を感じさせる。
そう、そんな二人が居るこのパーティは、地球とプラントとの友好交流をと言うお題目で定期的に開かれる舞踏会であった。
発案者は今プラントの議会を統治しているラクス・クライン議長。和平を願う歌姫らしい提案だと思う。
場所は定期的にオーブやこの月都市を中心としており、今回は諸々の事情で此方で行う事になっていた。
更に今回は特別なゲストとして、マーシャンと呼ばれる火星開拓民との特使達もパーティに参加している。
連合もプラントどちらからも会食や会合に引っ張りだこに呼ばれている人達を参加させただけに
過去に開かれたどのパーティよりも人数がごった返していた。だが、それには少しキナ臭い理由もある。
この4年に渡る二度の戦争を知らない彼らから見たプラント・地球に送られる視線は
”まだ、戦争なんぞやっていたのか?”という蔑視に近く、実際戦時中にはろくに連絡を寄越す事も無かったらしい。
幸い、早く戦争が終わったのは良かったが、この短期間で宇宙では核があちこちで降り注ぎ、地球では原子力が停止し
農業用コロニー落下でボロボロという信じられない状況が連続している。せっせと火星開拓をしてた彼等からすれば
まさに戦争狂という評価が妥当なのだろうと思う。それらの信頼回復というか、ご機嫌取りもかねて
”プラントと連合が仲良く”招いていると言う流れなので、暇そうで肩書きが偉い奴は全員駆り出されていた。
例えば、今は月の軌道で演習任務についている俺みたいな軍人でさえ招待される始末。もうちょっと人選を選んで欲しい。
「ほら、お前も少しは明るくして。スマイルスマイル♪ あ、あれかー? お前女と上手く行って無いだろ?」
「な、なんでそんな……今は関係ないじゃないですか」
「ははぁーん。図星だな。ルナマリアだっけか。あの赤服の子。
後ろめたいのか? それとも誤解でもされるのが嫌なのかぁ?」
「ち、違いますよ。別に彼女とはもう何もないですし、ていうかさっきも久し振りに逢ったし」
「……はぁぁーん、ほほーーん、、ふふぅーーーん、きゅうぅぅいいーーーん。ディアッカ・チャーハニックEYE発動!」
「な、なんですか!? 急に奇声を上げて……つか、チャーハニックEYEって何ですか」
「おぉ~、お前も戦後失恋組かぁー! うんうん、俺には解るぞ。戦争の熱に浮かされて口だなぁ?」
「何で解るんですか? はい、そうですよ。この間喧嘩別れしました……ってディアッカさんも―」
510:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/07 16:36:26
話の途中、あごに手を当てて目を光らせながら、謎の奇声を上げて俺の顔をマジマジと観察した後
なぜか的中したディアッカさんの指摘に思わず汗を滲ませ、引きつった顔でソレに答えていく。
この一年での変化。メイリンやルナはアノ戦争の後、少し俺に距離を置いている。
”遺恨”と言う奴だろうか。色々あったからやはりお互いに段々と気まずくなっていた。
ルナはあのアスランさんと対峙した時に止められなかった自分の責める気持ちもあったし、何より俺は
実の妹を殺そうとした男だ。そんな男と長続きする訳も無く、任務と職場が離れれば自然と会話も連絡も減っていった。
今ではお互いに関係が続いているとは思えない。否、それ以前に関係があった事すら無かった事になってるだろう。
そんな事情を知らないとはいえ、自分の過去の悲しみを織り交ぜて笑い飛ばしてくれるディアッカさんは強い人だと思った。
そういうタフさに甘えている事も踏まえて、この一年で俺は”弱くなってしまった”と実感する。
そんな話をしていると割り込んでくる声と共に一人俺達に近付いてきた人が居た。
銀髪の髪ときつい目付きをした俺と同じザフトの軍人であり、現在所属する部隊の長であるイザーク・ジュール隊長だった。
正直、あまり得意ではない……と言うかディアッカさん含めジュール隊の人以外
殆どが苦手と言うか扱いに困っているらしく、俺もその特例になれる訳が無い。
「なんだディアッカ? また、お前の失恋話か。もしくはどうせ、お前の事だ。シンを捕まえて変なことを吹き込んでるな?」
「あ、イザーク隊長。遅かったですね」
「よぉイザーク。まぁ、ちょっと人生の先輩として若人に色々と教えてやろうと思ってな~」
「ああ、ちょっとシホとの待ち合わせと支度が手間取ってな。
おまけに人の服装をあーしろこーしろと五月蝿くてかなわん……そして、ディアッカ。また、下らんことを」
「すっかり夫婦だな。ま、あんな奴は放っておいて独身組はきちっと明日の未来を掴まないと駄目だぜ!」
「なぁ、誰が夫婦だ、誰が! シホとはそんな関係ではないと何度言ったら!」
「はいはい。いーか? 良く聞けシン? 俺なんて戦争終わったらすぐ振られてきちまったZE!
おかげで二年で10kg痩せたからな。そんなのに比べたらお前はまだまだ健全だ」
「ははぁ……って。10kgって、ほんとですか!?」
「当たり前よ。身長180で体重が59とかどんだけ絞ったんだって周りから良く言われたもんだぜ?」
ディアッカさんは何時ものオフの時の明るい笑顔を向け、人差し指をあげながら胸を張り
自慢にもなら無そうな自慢を聞かされる。体重を聞かされて「うん、ありえないな」と思った。
ほんとにガリガリだったのだろうか? そういえば、何となく着やせしそうな感じではあるけど
軍人なんだから筋肉はそれなりに付けてないといけないだろうし、実際ディアッカさんはきちんと任務をこなしている。
俺はその現実にちょっとした異次元と神様の悪戯を垣間見た気分だった。
ふと、隣から不憫な気配がびんびんと漂ってきている。ああ、何だか空気が微妙に淀んでいると思ったら
隣から阿修羅を凌駕しそうな顔をしたさらさら銀髪の鬼が、徐々にその角と牙が生え出しているのが幻視出来る。
これは波乱の予感がするどころか、波乱確定だなと俺の本能が諦めと共にそれを察知した。
よく解らないが1年の間そういう危険察知に関してはやたらレベルが上がった気がする。
まぁ、周りから痛々しい視線ばかりぶつけられていた所為かも知れないが、悪い事じゃないと少しでも前向きになっておく。
511:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/07 16:38:19
「お前、それだけじゃなかっただろうが! 失恋した直後は二ヶ月位チャーハンしか食べてなかったし
終いには中華なべ担いで”俺は特級厨師になるんだ”って逃げようとしたのは何処の誰だったか忘れたとは言わせん。
おかげで俺はもうチャーハンを見るのも嫌になったからな」
「ディアッカさん。痩せた原因はそれですか」
「ノットグレイィトォ! そんな昔の事はもう忘れたぜ。過去の事だ。
それにお前もお袋さんが逮捕された時は血相掻いてて大変だったのを、傍に居てやったのは俺とシホだぞ?」
「きーーさーーまーー、自分の事を棚に上げおって! お前を探すのにどれだけ苦労したと思ってるんだ!
俺が折角、赤服のまま軍に戻してやろうとしてた所を、それが原因で緑服降格されたんだぞ!」
「い、イザークさん。落ち着いて。場所が場所ですよ」
「五月蝿い! この黒炒飯には今日と言う今日はびっしっとだな!?」
「きゃー、銀パツンデレが怒ったーーー♪」
「き、きしゃまぁあーーーーー、何だその呼び方はーーー!!」
僅か数回の遣り取りで顔を真赤にして怒り狂うイザークさんを見て、何だかミネルバに居た頃の自分を思い出す。
ディアッカさんも余程酒が回っているのか饒舌なのはいいが、さっきから地雷を敢えて踏む様な言葉ばかり繰り返していた。
こういう風に普段から地雷処理をしているから、戦場で居る時は撃墜率が少なかったり生き残ってるのだろうか?
俺は荒ぶる鬼と化しているイザーク隊長を止めようと間に入って、まぁまぁっとおさえようと手を取るが
隊長の振り回される腕を捉える事が出来ず、そのまま跳ね除けられてしまう。うう、この人はほんと腕っぷしは強いんだよな。
俺が止める事を考慮されて居ない力に思わず仰け反って、誰かの体へと当たってドミノ倒しの様になりそうになる。
相手の性別などを確認する前に、バランスを崩そうとする所をさっと手を差し伸べて、わき腹に支えをその場に踏み止まる。
反射的に動いてしまったのかしまったっと思ったが時、既に遅し。その女性とばっちり目があってしまった。
すぐに顔は真赤になりながらも慌てて相手から手を離して何度も頭を下げる。
その顔はまるで能面が張り付いたかの様に冷たい笑顔を掲げていた。怒って居るという気配ではない。
何か小さい蟲が当たったかの様に、微動だにすることもなく端から眼中に無いという感じですっとドレスの皺を直している。
その凍りついた表情と洗練された動作、金糸の様な髪と氷の様なの瞳の色が相俟って彫像の様な美しさを感じさせた。
「ご、ごめんなさい。 ぶつかっちゃって……その怪我はない?」
「いえ、気にしなくて結構ですわ。軍人さんは何時も元気で無ければ安心出来ませんもの。
命の危険はないお酒の席とはいえ、気をつけて下さいね?」
「あ、はい。すいません。ほんとなんか……そのいえ……」
「……? ああ、失礼を」
512:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/07 16:39:54
俺はしどろもどろになっていた。正直、今まで出会ったことの無いタイプだ。
ルナもメイリンもステラも多かれ少なかれ”動き”のある女性だった。
何かをされれば少なからずリアクションなり動きなりがある。しかし、目の前の女性は違った。
本当に彫像か蝋人形がそのまま首をもたげたかの様な動き。綺麗だが少し怖い……畏怖を感じさせる。
笑みを作っているのは解るのだがその僅かに端を上げた唇は美しい恐ろしさを醸し出していた。
暫く、品定めをされるかの様な視線。ああ、コレが世に言う蛇に睨まれた蛙という奴か。
いや、もっと踏み込んで言うなら、今までうろちょろと動き回る仔ネズミがアマゾンの奥地でアナコンダ辺りと
遭遇してしまったというのが適切か? うむ、例えがヘタレ過ぎるな。どんだけびびってるんだ俺。
しばし、そんな仔ネズミみたいな挙動の俺を見て女性は何かに気付いたのか、すっと目を閉じて軽く
こめかみを指でぐりぐりと押している。顔を揉み解して、眠っている表情筋を起こしたのだろうか?
すっと目を開きなおすとその女性が作る表情は一変した。無論、美しさはそのままだったのだが。
「失礼。少し退屈で気分が滅入ってましたの。表情が固まってましたのね。怖がらせてごめんなさい?」
「あ。いえ。そんな怖いだなんて……その何か綺麗な人だなぁっと」
「あら、お上手ですのね。こんな茶番劇の中、良い言葉を聴けましたわ」
「そ、その。えーと、茶番って……君も嫌々連れてこられた口とか?」
「ふふっ、その反応ではお世辞って感じではないのかしら?
ま、そう取って取られても構いませんわ。ただし、周りの人には内緒ですわよ?」
「う、うん。まぁ、言いふらす程、俺も馬鹿じゃないから」
「馬鹿正直は長所でもありますのよ。しかし、こういうパーティには珍しいタイプですわね。
皆、仮面を被った様に言葉を言い繕って居る方ばかりでしたから」
「ははっ、まぁそれならOK。俺は元々パーティって柄じゃないもんで、借りてきた猫みたいなもんですよ」
「それは奇遇ですわ。私、猫って好きですの。では、ちょっとわたくしに構って下さらない?」
すぐ隣で喧々と騒いでいるディアッカさんとイザーク隊長の声が段々と遠くなっていく感じがする。
氷の薄皮が解けてはがれていく様に笑みを称える女性。とても先ほどと同じ人物とは思えなかった。
目はほっそりとまるで眠りに落ちそうなほどに瞼を細めながらも、じっと俺の顔を見つめている。
宙に浮いていた手を相手に捕らえられれば、組み込まれていく指はまるで折り重なった絹の様な手触りを伝えていく。
柔らかな唇が曲線を描いて、うっすらとした桃と濡れた艶を魅せてその陶器の様な白肌の手がそっと重ねられると
俺はどきっと心臓へと血のめぐりが早くなる事が解るほどに手足へと熱を伝えられていく。
最初、それが何を意味するか解らず、ただ顔を赤くするだけだった。しばし、宙を漂うその手の甲をじっと眺めていた。
極度の緊張の中、ふとその仕草に既視感に襲われている中、パーティに流れる音楽は止まる。
そして、その手の意味と自分が丁度ダンスをしている人たちの集団の観客の人垣の近くに居ることが解った。
「んっ! 本来は殿方から誘うのが慣わしでしょうが……宜しかったら私とワルツを踊っていただけないかしら?
今夜をこのまま退屈と言う言葉で終わるのは勿体無いと思ってましたの」
「あ、はい……俺で良ければ、上手くないですけど」
「ふふっ、踊り上手な軍人さんなんて、サボっている証拠ですわ。わたくしがリードしますわね」
言葉と共にその意味を確信し、女性からの誘いを無碍に断るという選択肢が無かった。
戦後、パーティ用に少しダンスは習っていたから出来ない事はないだろう。
だが、そんなささやかで水増しされた自信すらも見抜かれてしまった。
顔はさっきから赤面しっぱなしで、俺の肌の色は元から赤なんじゃないかと思う程だ。音楽は前奏が始まり
周りの踊ろうとしている客人たちはそれぞれの女性の手を取っており、俺もその一人に入る事にした。
―そうして、俺はその夜、運命の手を握ってしまった。それが全ての始まりとは知らずに
舞台は第二幕「蜜の老熊とお花畑戦線」へ
513:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/07 16:41:22
以上です。ちょっと長過ぎたかなorz
次は一週間後投下予定でこれより短い話になる模様。では、投下失礼しました。
514:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 17:19:25
1st『GJ!』をGET!
続きがどうなるのかオラ、ワクワクしてきたぞ!
515:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 17:29:45
続きが気になる。GJ!
でもアーサーの名字ってトラインだったような。
516:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 18:57:53
GJ! (^-^)g""
シンの見合い相手は、誰なんだろう?
レディ・アンが居たから・・・ ( ・o・)ハッ
彼女か???
517:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 19:33:29
眉毛割れちゃってるお嬢様?
518:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 20:11:54
ディアッカ…
多分、特級厨師になった方が君は幸せだったと思うよ
そして、逃げて、シン。全力で逃げてー…もう手遅れかな?
GJ
アーサーはいいキャラしてるなぁ
519:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 20:56:46
アーサー、このスレでも名前が……w
520:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 22:13:56
まさか今回のヒロインはイワトビペンギンみたいな眉毛の女史か?
それはそうとアーサー……ここでも千の名前を持つ男となるのか……
521:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 22:53:42
まさか、『早く戦争にな~れ♪』のドロシー・カタロニア嬢?
522:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 23:03:01
他に眉が分かれた女なんて、小説のシスターリリーナしか知らん
523:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 23:26:23
眉が分かれているとは明言されていない罠…だよね?
しかし、よく読み返して実はらっきーすけべが発動していないことに気付いた
普通に「ああ、またシンがやってるよ」とか思ってた俺って、オワッテル…orz
524:通常の名無しさんの3倍
08/06/07 23:43:10
さすがにお嬢様っぽいキャラにまでラッキースケベをかましたら
びんたでフラグ折れちゃうだろ。
525:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 00:19:35
誰もがドロシーだと信じて疑わないところだが、
どっこいこれで実はカテ公だったりしてだな
526:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 01:09:06
文章の校正と推敲に力いれたら、もっと読み易くなるのになぁ
ともあれ意外な組み合わせの二人に期待大!
527:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 02:07:39
舞台は戦後か。戦後って言えば、スクコマ2ではごひの部下になってんだっけ
528:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 08:00:38 8OTlY7kH
えっ。ドロシーなの?てっきり、マリーかと思っていた。
529:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 08:51:21
マリーは原作だと7歳だぞ……
530:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/06/08 09:09:15
まずアーサーの名前は間違えました。
トラインですね。トレインとずっと勘違いしてましたorz
今、書き溜め分修正中。
えーと、それとWikiへの保管は申し出て大丈夫でしょうか?
クロスオーバーWiki登録された事ないので良く解らず。
>>526
む、読み辛いですか。精進します。
531:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 10:31:54
>>528
あやつの何処をどうみれば金髪に見えるのだ?
532:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 14:53:13
外見のヒントは
金糸の様な髪と氷の様な瞳の色、陶器の様な白肌の手。
しなやかなプラチナブロンドとアイスブルーの瞳。
口調と色から判断してやっぱりドロシーか?
533:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 15:08:09
正直、タイトル見た瞬間迷わず噴いたwww
だがヅラのことをさん付けしてなかったような…呼び捨てじゃね?
それにピンク教祖に従順すぎるような気がした
ただ他のとこは笑えたし次回にも機体するよ
534:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 15:09:24
シンの股間を付け狙うのはやはり女傑ばかりかw
535:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 16:36:53
黒炒飯って風景画に出て来てなかったか?
536:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 17:13:14
シンとドロシーの組み合わせは想像を絶するが、もし、ドロシーが種MSに乗るならアカツキしか思い浮かばんなw
537:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 18:04:54
>>536
ドロシーがMSに乗る筈ねーだろ。
538:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 18:11:24
スパロボでは乗ってたよーな。
539:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 19:51:57
スパ厨乙w
540:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 20:00:06
MDをゼロシステムで指揮してたのは見たが
実際に乗ってやれるかっつーと……
某ルル山の新型機みたいにキーボード操作とかならやれるかも、だが
541:通常の名無しさんの3倍
08/06/08 20:46:17
>>538
尻尾がフリフリなMAエピオンか
542:通常の名無しさんの3倍
08/06/09 01:07:03
あれ、ビルゴじゃなかったっけ?
そして、GジェネかスパロボDがやりたくなった件
543:通常の名無しさんの3倍
08/06/09 01:51:14
歌姫の話を今更していいか微妙なんだが、気になった事
メイリンどうやってアスランの所まで移動したの?