【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】13at SHAR
【ドキドキ】新人職人がSSを書いてみる【ハラハラ】13 - 暇つぶし2ch292:通常の名無しさんの3倍
08/04/27 22:04:24
>>289-291
水を吹きそうになった。GJ!
それにしてもシホとイザークは完全に夫婦漫才をしているとしか思えない。

293:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:33:54
 星空の海を漂うのは気分が良い。真っ暗な漆黒も光り輝く星々も全て自分の苦しみとは他人事で
 全てはあるがべき姿のままで美しい情景を描いていく。月に来て楽しいと思う唯一の時を満喫しながらも
 モーガン教官の厳しい指導も辛く何時も暗い月の長い夜も全ての疲れをこの色の中に溶かしていってしまう。
 黒い……えーと、あれはなんと言ったら良いんだろう? 猫が手だけを出して伸びをして居る様なシルエット。
 アークエンジェル級二番艦ドミニオン。あそこにあの三人が居るんだと思えば、自然と操縦の調子も良くなってくる。
 友どころか、記憶も家も拠り所の無い彼女にとって唯一名前を覚えている相手達。
 記憶が空っぽだったのだから、自然と思い浮かぶのがあの三人と飼い主様と暴力上官だけと言うのは
 実に悲哀に満ちたラインナップではあるがそれでもないよりましだった。欲しがりません勝つまでは。

「あいつら元気かなぁ」
「アスカ。今日は調子が良いな。そのままヘマをするなよ」
「は、え?あっ、はい!」
「巡航訓練後、ドミニオンの荷卸しと積み込みを手伝って来い。それが終わったら何時もの回避訓練を
 くたばるまでやれ。それで今日の訓練は終わりだ。解ったか?」
「……え? は、はい!」

 少女の声は十数日ぶりに凛とした声を発しながらもその言葉の端からようやく感情が覗かせていた。
 少女の乗る機体は頭が無い。人型MSと言うのは実は頭がとても壊れ易い。
 メインカメラやセンサーなどが積み込まれた頭は外部に露出しているし、何より強度的に装甲で守り切れない。
 その上、かなり高価である。また、頭だけあっても何も出来ない。レイダーなどには武装がついてはいるが
 標準機銃では対人相手以外でほとんどのMSや兵器には射程距離に対して有効打撃にならないからだ。
 なので巡航任務で月の軌道を回っている時は大抵、頭部を外されてサブカメラだけで動いている。
 また、あちこちに訓練時に壊さない様に関節や足に増加装甲が付けられていた。
 
 その姿を見てからか、中世の邪妖精の名前を担当の整備兵達が名付け、それが広まっていた。
 鎧を纏った首無しのバケモノ「死霊騎士(デュラッハーン)」と。

      機動戦士ガンダムSEED異聞 
             ~REVENGE WERWOLF GIRL
             Next to -00.27howl 「Girl's meets girl ①」

294:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:34:44
 私はザフトに拉致され、何とか救助されてから数日後、ようやく艦は月の基地へと足を下ろすことが出来た。
 3人の変なパイロット達に問い詰められるし色々尋問も受けたりする中
 ナタルさんが艦長だったのは唯一の幸いだった。泣いてしまった。格好悪かったなほんと。
 そして、私はこれからもこの艦に残る様に嘆願した。まだ戦場に立ちたいと自ら願い出たのだ。
 キラに逢って謝らなくちゃならない。その後のことは解らないけど、彼を傷つけてしまった
 自責の念だけは私の心に常に宿っていた。謝る資格とか今更彼に何が出来るかなんて解らない。
 けれど、今はそうしなければ、前に進まなければいけない。愚かな私でもそれだけは何とか理解出来ていた。
 しかし、想いだけでは世の中が動かないのもまた然り。いよいよ降りる手筈となった時も
 変なパイロットのオレンジ髪の子が開口一番、皮肉を私にぶつけてくる。

「ようやく、お荷物女も降ろせるねぇ」
「……違う」
「へ? シャニィ何を言ってるのさ? もう、こいつはおさらばだろ?」
「クロト、お前聞いてなかったのかよ? こいつ、この艦に残るらしいぜ」
「げーーー、ほんとうに? 何すんのさ」
「何って……それは、私にだって出来る仕事位!」
「……どんな仕事?」
「……え? そ、それは……えーと」
「ま、所詮小娘に出来る仕事なんて殆どねーがな。雑用でもやらせるんだろ」

 残念がる声、その声を笑う声、結局誰も私を気を使う声など一つも上がらなかった。
 当たり前だし、この人達にそんな期待をしてはいなかったがこれはこれでやっぱり寂しい。
 オルガの言葉を最後に3人は私をちゃかした後、とっとと先に基地に降りていってしまった。
 エスコートの一つも出来ないなんて最低!と思ってしまう私は多分、色々な事が足りてないのか欠けているのかしらね、ほんと。
 さて、どうしよう。……って、私仕事なんて。いや、そもそも学生だったから軍務とか全然解らないじゃない?
 そりゃ、アークエンジェルじゃ簡単な雑務位はやれてたけど。後はオペレーター?
 いや、暗号解読とかしなきゃいけないんでしょ? えー、ミリアリアみたいに噛まないで喋れるかしら。
 こんな事なら、ミリアリアやサイ達の仕事をちゃんと見ておけば良かった。そう、アノ頃は何も見てなかったのよね。
 そう考えると、嫌なリアクションを真っ向から向ける彼等は、ある種世間の本音に近いのかもしれないと改めて実感する。
 誰だって何も出来ない学生ボランティアに毛すら生えてない女が、軍艦の中でうろちょろされるのは落ち着かないだろう。
 ふと、そう考えて進んでいると、聳え立っている壁。通路のまん前に箱を何個も積み重ねたトーテムポールが
 私の目の前に立ちはだかって……あ、ぶつかった。がらがらと崩れて……え? 私の方に!?
 なだれの様に降りかかるダンボールやら色々な箱がそのまま重量と速度を経て私に襲い掛かる。

295:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:35:24
「い、いやぁあああーーーーーーっ! 変態!!!」
「んへ? あ、ちょわああっ!! いっつぅうっ!!」

 私は悲鳴とともにその手を払いのけながらも足でその軍人さんを蹴り上げ
 相手は疑問を抱いたまま、その廊下の宙を舞い壁へと叩き付けられる。
 重力が6分の1になっている基地内で私のか弱い力でも十分に相手を突き飛ばす事は出来たのだが
 次に移る光景に私は目を見開いて驚く。髪が真っ白だ。白い肌に白い髪。
 物語の妖精か何かを彷彿とさせる白い存在に思わず息を呑む。"綺麗だ" 素直に私はそう思った。
 そして、相手が後頭部を抑えているのに遅れて気付き、私は慌ててその軍人さんへと近寄る。
 元はといえば、私の不注意だったと言うのに何をやっているんだろうっと内心泣きそうだった。
 幸い、軍人さんの方は怪我は……って、多過ぎじゃないこの怪我の量!? どんだけ、ダメージ受けているの!?

「ごめんなさい! だ、大丈夫ですか? その私もぼーっとしてて」
「あーあー、平気平気。痛いのは慣れてるから。それよりそっちに怪我はない?
 後、胸大きいね、お姉さん」

 近くで見るとその軍人さんは体中傷だらけだった。青痣や唇も一部腫れている。
 眼も真赤に充血……いや、コレは元からなのかしら? その人は真紅の瞳を持っていた。
 体の埃を振り払いながらも帽子を取ってぺこりと頭を下げてくる。帽子の中には更に多くの髪の毛が
 隠されており、それはもはや腰の方まで届いて居る異常な長さ。軍隊と言うのは意外と緩いのかしら?
 まぁ、あの3人も結構奇抜な髪色をしていたけどね。それにしても傷だらけなのはイジメ?
 見るからにか弱そうには……いや、そうでもないわね。肌や髪の色素は薄い感じだけどちゃんと鍛えてるし。
 ふと、その軍人さんは頭を下げると散らばった積荷を積んでいたカートに戻していく。
 私は取り合えず出来る範囲で積荷を集めるのを手伝い始める。
 片付けは人並みに出来ているつもりだったが、あんまし重いものを持ち上げる事は出来ず
 結局、散乱した缶詰を箱に詰め直す作業に終始していた。

296:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:36:22
「あ、良いですよ。やっておきますから」
「やっ、そんなぶつかったのは私だし。ごめんなさいね……変な声上げちゃって」
「いえー、ああいう声ってボク出せなくて。すぐ手が出ちゃうから御姉さんは良い判断だったよ」
「そ、そうなの? さすが軍人さんね」

 軍人さんはにこりっと痛々しい傷だらけの顔を向けながらも微笑んでいる。
 すぐ手が出るって事は痴漢とかに対して、手を捻り上げてしまう様なタイプなのだろうか。
 もしくはそのまま速攻で殴りに掛かるって……なんだかあのパイロット達みたいね。
 地球連合ってあんな野蛮な人達しか居ないのかしら? この先、此処に所属していて大丈夫かと今更ながら不安になってくる。
 ―いや、と言う事は待って? この子は女の子だったってこと!?
 そりゃ、軍の作業用のつなぎを着てたとはいえ、女の子と男の子を間違えるなんて私ってどれだけ
 周りが見えてなかったのかしら。と言う事は蹴った分は余計? ほんと、悪い事しちゃったわ。
 私は身をつまされる感じをしながらも、一通り私はその積荷の運ぶ作業を手伝った後
 彼女に何か飲み物を奢る事にした。それで帳消しになる訳じゃないんだけど、せずには気が済まない。
 ああ、押し付けがましいかしら私って。さっきのキラの事に関してでも何にしても。
 ジレンマに陥ってどうしようもなかった。うーん、これは何とかしないと本当にダメかもしれない。
 
「有難う御座います。奢ってもらっちゃって」
「良いのよ」
「…………お姉さん僕の顔、何かついてる?」
「い、いえ。別にそんな……えーと、コーヒーなんて傷に染みないの?」
「え? ええ、まぁ少しは。けど、好きだから」
「そう。強いのね。貴女は」

 二人で荷物を積み込みの作業を終えると自然と親近感と言うかまぁ、私がココロの拠り所が無い現状の所為か
 何となく、距離は縮められたかなぁっと思いたい感じではあった。相手はどう思っているか解らなかった。
 なんだかにこにこ笑っている天然系と言うかのほほんとはしてるんだけど、真意が読めない感じがする。
 私がそれが気になってじっと相手の顔を見ていると軍人の少女の方から声を掛けてくる。
 軍人の少女は傷の痛みを時々感じさせる様に眼を細めながらもコーヒーを喉へ流し込んでいた。
 口の中にも傷がやはりあるのだろうか? という事はやっぱり殴られたりしている?
 何が彼女をそうさせているのか? 私は若干の好奇心をココロに宿していた。
 憧れの一種だろうか。強くなりとも少し思っている。けど、私に出来る事なんてほんとに何があるのか解らないけど。

「ボクは強くなんて無いよ。全然、ただ何も出来なくて今は此処に居るだけですから」
「そうなの……私も似た様なものね。助けられて連れ去られてまた助けられて」
へぇ。お姫様みたいだね。物語の」
「私はそんなに綺麗な女じゃないわ」
「訳アリって感じだね」
「貴女こそ」
「ん? バレちゃった?」
「隠してるつもりなの? そんな傷だらけで」
「「アハハハハハッ」」

297:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:39:03
 良く解らなかったが私も相手も笑いが止まらなかった。お互い何だか傷だらけで
 何でこんな苦労をしているのかと解らない位に愚かだったところが共感出来たのだろうか。
 色々と素性を話し合ってみた。”傷の舐めあいを期待していたか?”と問われれば
 そうだとしか答えるしかない。自分も相手の過去は哀しいものばかりだ。
 私はヘリオポリス崩壊に父親の死、敵に捕まって色々と連れ回されていた事。
 そして、キラの事も勿論話した。自分でも何かを纏めたかったのだろう。
 軍人の少女も自分の事を話してくれた。彼女はオーブに居たらしい。
 何でも戦災の中、肉親を全て軍人に殺されてしまい、今は此処に引き取られている。
 殴られたり蹴られたりすることを笑顔で語っている彼女のタフさには驚いた。
 同じ女としては考えられない。私なんて顔を殴られたら、三日は塞ぎこむわよ。
 外の人達は皆強かったのだと痛感する。私はヘリオポリスって箱庭で育ってただけ。
 辛い事にいざ直面したら、人に頼って、傷付けて、それでも縋っていた。

「貴女は……ほんと、強いのね」
「ん? まぁ、運が悪かっただけだよ。
 それに人間何かあったって生きていかなきゃいけないから」
「そうね。……死ぬって事も生きるって事も難しいわ」
「死ぬ事を考えるより、生きる事を考える方が生産的だよ」

 すっかり空気も落ち込ませてしまった。情けないな私って。
 こんな傷だらけになっても頑張っている子を目の前にしながらも自分の弱さを見せて
 構って欲しいって見せているのかもしれない。そういう弱い考えが大嫌い。
 そして、自分も被害者ぶって散々当たり散らしてキラに頼っていた自分も嫌い。
 だから、そんな自分を許して欲しいとも思わないけど頭を下げずには居られない。
 贖罪の気持ちというのは胸いっぱいになって頭に上ってそのまま頭を垂れる様に
 出来ているのだとこの年になって初めて解った。果てしなく情けないけど。

「あ、お姉さん。ちょっとさ。お願いがあるんだけどさ、支給品で化粧品持ってる?」
「ん? ああ、ザフトで拉致られた時にご丁寧にその時使ってたモノもくれたけど
 ……やっぱアザとか隠したい?」
「それもあるんだけどねぇ。ちょっと欲しいものがあるんだ。
 まぁ、化粧品って部類には入るか怪しいけど」

298:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:40:48
―月プトレマイオス基地、トレーニングシミュレータールーム近く廊下

 回避訓練。MSとは戦闘機の様にドックファイトをするだけにはいかない機体である。
 すぐに振り向かねばならないし、宇宙と言う空間ならより自由に上下左右へと攻撃が仕掛けられる。
 接近したら白兵武器を取り出せるし、機銃やミサイル、ビームなどあらゆる武装が想定される。
 故に回避訓練と言うのは一番重要な操作なのである。何せ、量産機と言うのは脆い。
 本来、戦車の延長としても考えられるMSは硬い装甲を盾に突破力が無くてはいけない。
 しかし、そんなモノはビームと言う高威力の兵器の前では紙にも等しいし、避けて何ぼの機動性である。
 その回避訓練と言うのは実に簡単である。
 想定されるのは50m×50m×50m空間から四方八方ビームやミサイルが飛んでくる。
 それを地上もしくは宇宙空間を想定してひたすらに避け続けなければいけない。
 何故、こんな訓練をするか? 答えは簡単だ。地球連合にMSをくず鉄にする酔狂さは無い。
 戦場では弾丸とビームの雨を掻い潜って相手に此方の武器を当てなければいけない。
 弾避けを含め、相手の倍の戦力を当てる余裕や伝統は今の所はMS戦には存在しない。
 まして、どっかのバカMSが戦場でマルチロックオンをし出して七面鳥撃ちをし始めたらしい。
 それが戦場を混乱させる為、余計に”回避”と言う行為が重要視される様になったのだ。
 避けられなければ死ぬ。所詮、量産型MSは避けて撃ってがなんぼ。それが常識へと変わりつつあった。

「右! ええぃ、そんなに飛ぶな! くっ、スロットの加減が! なんでももっと細かく動けないんだ!」

 眼を血走らせながら、何度も何度も被弾しながら、体に感覚を染み込ませている。
 操っているのは彼女にとって何処か懐かしい見覚えのある機体だった。
 連合はダガーを既に主力と考えては居なかった。量産性は確かに良い。武装もシンプルで機体も安定している。
 別の現場では一山幾らのダガーやモビルアーマー部隊の機体と中身は安定したカリキュラムで量産中である。
 じきに大規模作戦の為にごっそりと連れて行かれるだろう。だが、プレイトマス月基地……此処は違う。
 パナマやオーブでのパイロットの鍛錬不足やOSの不良などの反省を活かし
 対MS戦と対艦船戦用のシュミレーターデータとしてオルガ達が乗っていた機体の量産予定機を此処では使っている。
 其れゆえに突っ込まれているデータは素人向けではない”じゃじゃ馬”であった。
 出力を安定させるのも操縦に慣れるのも一苦労するものばかり。
 短期集中で特殊な機体への操縦を身に付けさせて、戦場の鎹になる為に適性のある機体へと集中させる。
 そういう”お高い”機体を下手に潰させない為にも専門的なカリキュラムを模索、実験している。

299:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:41:40
「ふぅっ、全くモーガンも無茶をしやがる。ボコボコだったぜ? 女の子なのに」
「アノ子達も大変そうね。あなたのレイダー制式機の方はどうだ?」
「俺ですか? 元戦闘機乗りならアノ位楽勝ですよ。宇宙の方が着いたら南アメリカ勤務だと」
「暑い所ね。熱や女に浮かされない様にね? ジェーンが泣いてしまうわ」
「はっ。そんな事、俺はさせませんよ」

 遠くの二人の歓談を他所に少女はひたすらに避ける訓練をしていく。
 彼女の乗っている機体はとても軽量化されており機動性は元々高く水面や地面をフロートする事も視野に入れられていた。
 また、高威力の武装を二種背負っており、極めてシンプルな機体である。
 故に一番重要なのは”動き”。軽いという事は装甲が薄い。威力が高いという事はそれだけ出力が高い。
 確実に相手を詰め将棋の様に追い詰めて、高威力の攻撃で一気に捻り潰していく。
 遠くの二人はそんな機体を四苦八苦しつつもを歯を軋ませ、機体を避けさせていく様を見ている。
 肌の黒い男、エドワード・ハレルソンは悲哀を隠した口調で、少しも嬉しそうに感じさせない自慢話をしている。
 白肌の黒髪の女性レナ・イメリアは冷静に少女の動きを見つめつつマイクを取る。
 凛っとした声が小さいコックピットに響いたのは丁度少女が21回目の失敗をした直後であった。
 レナには見えていたのだ。少女が被弾し、撃墜されて失敗する光景が。

「聞こえているかパイロット」
「また、失敗、もう少しあそこを……ハ、はい! 聞こえています」
「地球でMSパイロットの教官をしてた者だ。今から言うことを頭に叩き込め」
「はい!」
「機体の速さやチューンに頼るな。ミサイルは撃ち落し、ビームは点だ。
 向けられる銃口と引き金を見ていればいい。人が操縦している。その基本を忘れるな」
「は、はぁ」
「お前は機敏過ぎる。全部が全部無理に完全回避しようとするから機体がついていかんのだ。
 多少掠ってでも直撃を避ける様にしろ。戦場では2~3機落としてきちっと帰ってくる奴が優秀なんだ」
「は、はい! ご指導ありがとう御座います」

300:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:42:28
 驚きと共にレナからアドバイスを受ければ、素直にそれを受け取り再び訓練を再開し始める。
 少女の元気の良い返事に満足げに僅かに唇を上げながらも、その様子をエドワードはチャカす様に
 顔を覗き込みながらも笑っている。レナはにやついた顔をどかす様に頬を手で押し退け
 そのまま通路を進行方向へと歩いている。肌の黒い男は両手を頭の後ろに組みながらも
 懲りずに小さく口笛を吹いている。笑いを漏らしながらも女性を見ているが女性は端から眼中に無く
 かつかつと重力からなる軽い靴音を響かせつつ、歩を進めて行く。
 しばしの沈黙。少女のシミュレーションルームから大分離れた所で黒人の男の方から口を開いていく。

「珍しいな。わざわざご指導とは」
「あんな避け方をしてたらすぐ死ぬ。敵の攻撃するもの”全て”を敵対している様ではね?」
「随分お優しい事。教官様とは言え、勝手に教えて良いのか?」
「アノ機体は良い機体だからね。下手に乗られて落とす訳にはいかないわ」
「ん? 教官は砲撃と射撃が専門でしょう?」
「門外漢と言われるほど疎いつもりは無い。回避は基本だ。忘れたの?」
「まぁ、そうだが……っとさて、そろそろモーガンも非番になる時間か。出迎えとしますか?」
「エド、そのマメさを少しはジェーンに向けたらどうかしら?」
「教官。質問を質問で返すなとあなたに教わったんだが」
「今のあなたは訓練兵ではないわ」

 色黒の男は罰の悪そうな顔をしながらも唇をへの字に曲げて眉間に皺が寄る。
 小さく女性は笑った後、そのままそのポニーテールをなびかせながらも歩き出そうとしたその時
 けたたましいアラームの音が密閉された通路を韋駄天の様に駆け抜ける。
 緊張感と共に二人の雰囲気も一気に引き締まり、基地内に設置されたスピーカーやモニターは
 地球連合所属の機体の襲来を告げてくる。基地の周りを巡回していたダガーは姿を見た途端に
 弾丸の雨を降り注がれながらも大破しており、基地は強襲を受けている真っ最中だ。
 二人は顔を見合わせた後、状況確認の為にドックへと来た道を走り戻っていく。
 途中、先ほどの声を掛けたシミュレーターのカリキュラムを強制終了させる。
 今度は男の方から話しかけながらもカプセルになっているその座席を
 緊急脱出用のコックを開けて、少女を連れ出そうとする。


301:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:43:23
「おい! 敵襲だ! 敵は何処の誰だが解らんが早く出て自身の持ち場へと着くか避難を!」
「てき……し…ゅう?」
「そうだ! 敵が来たんだ! こんな所にいたら危ない! だからさっさと―」
「いや……だ」
「はぁ!?」
「敵……倒さないと……ダメじゃないか……あ、この感じ……近い。行かなきゃ
 俺が居なきゃまた マユが死んじゃう……」
「こ、こら! ちぃっ! レナ教官! ソイツを止めてくれ! 正気じゃない!」

 少女は男を突き飛ばせば、そのまま猫の様に一気に廊下へと飛び上がり
 廊下を駆けていく。途中、先ほど声を掛けたレナの横の壁を蹴りつけると
 あっという間に追い抜いてそのままドッグへと向かった。少女の目は爛々と輝きながらも
 まるで、何かに導かれる様にまっすぐに迷いの無い走りを見せている。
 門の閉まる所を滑り込んで突破していく。二人はロックを掛けたのもむなしく自らを隔離する形へとなってしまった。
 少女はその大きな本能の流れに身を任せながらも運び込まれたばかりのソレに眼を向けて歓喜する。 
 レナはそれを止める事も出来ず……否、止める事すらしようとしなかった。
 少女は歴戦の戦士であり、今は教え子を抱える教官の死線を踏み越えて奥へと掛けていく。

「あーあー、レナ教官。仔猫ちゃん一匹捕まえられないんですか? こりゃ、ロック解除しないと出れませんよ」
「あれは猫じゃない」
「あ。いや、確かに女の子でしたけど」
「あいつは、モーガンより性質が悪いぞ。狂犬ってレベルじゃない」
「へ?」
「あいつの瞳の中に狼が居た」


302:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:43:56
 抜ける先に先ほどまで月の軌道旅行を共にしていた愛機が鎮座している。
 ふと見れば、既にモーガンが乗っている愛機のガンバレルダガーの出撃した痕跡があった。
 内心焦りつつも近くに居た整備兵を呼びつける。その声は怒気と焦りと攻撃性と
 色々なものが混ぜ合わさった咆哮に近く、機体の避難などを行おうとしていた整備兵が
 びくっと背筋を震わせながらも駆け寄ってくるアスカに驚きの表情を向ける。
 そんなリアクションをお構いなしにアスカは整備兵に掴みかかりながら返事を2~3返した後
 自らの愛機へと駆けていく。重力の薄いこの空間で一つの跳躍はまるでバッタかウサギの様に
 コックピット部分へとたどり着き外部の緊急用の開閉を作動させて強引へ中へと押し入っていく。


「緊急出撃! 教官から命令は貰っている。早く俺のカナールを出してくれ!」
「は? え、あ、はい。巡航任務のままでバッテリー充電も終わっていませんが……武装は?」
「剣と盾だけあれば問題ない。充電は良いから発進準備を!」
「解りました。バッテリーはあまり残っていませんが御武運を!」
「了解(ヤーッ)! とびっきり良い首引っつかんで持って帰ってくるよ!」

 少女脳みそがどっぷりと麻薬に漬けられていく様子に、整備兵は気付くことなくハッチの扉を開ける。
 普段彼女を見下していた整備兵ですらその迫力に気圧されていた。
 狂気じみているほどに端が釣りあがる唇。眼球は普段の何倍ものスピードで機体の起動を始める。
 首無きその機体は少女の想いに応える様に、残りかけのバッテリーで自らのその装甲の色を変えてゆく。
 小さく肩を揺らし、少女の声はコックピットの中で反響し歯を軋む音、シートの擦れる音すべてが
 エコーが掛かって消えるほど、少女の心と魂は高揚して今にも果てそうになる。

「さぁ、俺のカナール! 復讐の時間だ。あいつが! ”キラ・ヤマト”がこっちへ来るぞ!」

                                      Next to -00.25howl 「DOG FIGHT」

303:赤頭巾 ◆sZZy4smj4M
08/04/28 16:48:33
以上です。今回ちょっと話の都合で普段の二話分くらいつまってます。

・シンは女体化?してもラッキースケベなのは桑島センサーでもついているのだろうかorz
・落ち込んでるフレイって扱いにくいorz
・機動戦士ガンダムSEED DESTINY ASTRAYって解る人いるかなorz

の三大不安でお送り手居ます。
途中で出てきたレナとエドは漫画のSEED DESTINY ASTRAYのキャラなんですが
えーと、Wiki等の情報で解りづらかったらなんかネタ紹介も考えますのでそこら辺もレスして下さると幸いです。
では、投下失礼しました。


304:通常の名無しさんの3倍
08/04/28 21:44:11
デストレイが出た!GJだーよ

305:SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg
08/04/29 19:47:53
1/
超一流ザフトレッドの超一流の電波だ!! 生で受信してオドロキやがれッ
ミネルバの金髪人!! レイ=ザ=バレル!!!
*トリートメントの秘訣を訊きたいザフトレッド 第一位
*寝言を寝て言わないザフトレッド 第一位

絶対領域はこの女が完成させた!!
ホーク家の切り札!! ルナマリア=ホークだ!!!
*仁王立ちの決まるザフトレッド 第一位
*絶対領域の固いザフトレッド 第一位

若き主人公が帰ってきたッ
どこへ行っていたンだッ ラッキースケベッッ
俺達は君を待っていたッッッ シン=アスカの登場だ――――ッ
*逆切れ注意の標識が必要なザフトレッド 第一位
*職務質問されそうなザフトレッド 第一位




☆(こっちは今回でません)

加えて負傷者発生に備え超豪華なリザーバーを4名御用意致しました!
七光りワカメ ユウナ=ロマ=セイラン!!
伝統派氏族 ウナト=ロマ=セイラン!!
東洋の巨娘! ロンド=ミナ=サハク!

……ッッ  迂闊なもう一名は残念ですが、到着次第ッ皆様にご紹介致しますッッ




306:SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg
08/04/29 19:50:17
2/
 CE73年八月―アーモリー・ワン ドック区画 ミネルバ

「汚さないように頑張って下さい」
 思えば、この敬語がひきつっているようだったのが、虫の知らせというやつ
だったかもしれない。
 やけに丁寧な緑服の先輩から渡された、新品の赤い制服は、袖を通した
数十分後には、ミネルバMS格納庫で汗と泥と、そしてオイルに塗れていた。

「289……290……」
 すぐ近くで、腕立て伏せを続けるレイの声がかすれて聞える。絶え絶えな呼吸の合間に、
汗の落ちる音が聞えた。シン、レイとルナマリアの汗で、小さな水溜りが出来ている。
「さて、シン君ルナマリア君は三セットが終わったね。レイ君遅いよ」
 シンを見下ろして……あるいは見下して言うショーン=マクドナルドに、レイは恨みの無い、
しかし厳しい視線を向けた。にこやかなショーンと刺々しいコントラストを作る。
 普段から険しい目つきが、プッシュアップの疲労で更に深くなっていた。

 どうして腕立て伏せか? 理由は分かるが、理屈に納得いかない。
「呼び出しから三百秒掛かったから腕立て伏せを三百回! 三人いるから三セットずつだね」
 真新しい制服に意気揚々とする三人を呼び出し、ショーンが早速言ったからだ。

「299……300!」
 鍛えてはいても体力に恵まれたレイではない。九百の反復を終えて崩れ落ち、ようやく
身を起こした赤服にはべたつくオイルの黒がついていた。

「大分汚れましたな……」
 地面に女の子座りしているルナマリアと一緒に、シンとレイはバケツ一坏の水を浴びる。
前髪から水滴を垂らすルナマリアの頭上に、空の器を掲げているのはデイル=ホッパーだった。
「今度からは"適当"に急ぐほうが良いでしょう。今度こそ『汚さないように頑張って下さい』よ?」
 泥だらけの赤服を着込むシン達に、真新しいそれを渡した時と、それは全く同じ声色だった。

「それじゃあ新しいザフトレッドを工廠の皆に宣伝してこようか。目安はまあ……三時間!
それが終わったらMSのシミュレーションだから、これに着替えてからね」
 指差されたのは、長期活動パックを装着したフル装備スーツ。全備重量で十kg超の逸品だ。
「早く帰って来ませんと、制服についた油汚れが落ちなくなりますので気をつけてください」
 プラントは直径約八キロ、迂回しながらだと一周三十キロはある。
 デイルは無理矢理語尾に引っ付けた形だけの敬語を使い、白い歯をむき出しにしてみせた。


307:SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg
08/04/29 19:52:27
3/

 ―二日後。

「お……やってるやってる。なんか昨日よりも装備増えて無いか?」
「アレ見るとさ、整備コースで良かったなって思うよ、本当」
 ヴィーノとヨウランが囁き合うその先で、よたつく三人組みが走りこみを続けている。
「ところでさ、ヴィーノ」
「んー?」
「下着だけの女の子よりもさ、靴下をプラスした方が露出度高いような気がするのは、
それって俺の頭がおかしくなったのか?」
 ヨウランの脳裏にショートカットから前髪の垂れる、パイロット少女が描かれる。
「いいや……靴下をワイシャツに替えたら心底同意するから、正常なんじゃねえ?」
 ヴィーノの目蓋の裏には、ツインテールのオペレイターが映っていた。
「そうか、やっぱお前とは仲良く出来そうにないなあ」
「いいや、好みが被ってないから大丈夫だろ?」
 整備の予習復習実習で、かれこれ三日は寝ていない二人だった。



 シンはいい加減に我慢が出来なくなった。
「くそ! どうして毎日毎日腕立てに腹筋にスクワットから、走りこみばっかりなんだ。
満足にモビルスーツ機動の訓練も出来やしない! 負けたら終わりってなんだよそれ!」
「メニューは毎日増えてるのに……それだけ話せるアンタが怖いわ」 
 やたらと重く、かさばるパイロットスーツでのろのろと走る三人だが、
それゆえに体力の差は歴然だった、レイに至っては話す気力が残って居ない。

 回るコースも三日目に至って更に長くなって居た。
 そこに追いつく小柄な影が、一つ。
「お姉ちゃん! レイ! ついでにシンも、ドリンク持って来たわよ!」
「メイリン!」
 倉庫ブロック横、若木の植樹されたグリーンゾーンにてドリンクパックを
抱えて居たのは、オペレイターの訓練が休憩中のメイリンだった。
「見つかったら大目玉だから、こっそりとね!」
「レイからだ、喉が渇くっての通り越して脱水しかけてる。時代錯誤のスパルタだよな」
 レイに向かって、立ち止まるなと注意しつつパックを渡す。
「止まっちゃったら動けなくなるからな。それからあの敬語だよ、気持ち悪い!」
「本当。余所余所しいわね。そのくせメニューは甘くないし」
「……俺達が、まだ彼らの"客"に過ぎないと、言う事だろう」
 水を含んだレイが、息も切れ切れながらに説明する。
「一度でも俺たちが勝てば、変わるだろうが、な」
 グリーンゾーンを抜けた彼らの目に、新造戦艦の巨体が見えてきた。シン達は、
その格納庫に収められているはずの新型モビルスーツの姿すら見ていない。


308:SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg
08/04/29 19:53:51
4/

「パイロット達の様子はどうだい? ミネルバの出陣までには間に合いそうかな?」
 シミュレータールームの前、着崩した制服でくつろぐデイルに訊ねたのは、
黒服で一番ヒマな副長だ。
「分かりませんよ副長。アカデミーの成績では計算が付かない部分ですからね。
グラディス艦長の仕事が増えるんでなければ、幾らでも時間を掛けられるでしょうが……」
 ややぶっきらぼうに、上官に対する最低レベルとして答える。副長は気にすまい。

 アーサーはむしろ事務的な手腕を評価されての黒服、ミネルバ副長を任されているきらいがあった。
 平時のトライン、臨時のグラディス、と言われる所以だ。
 アーサーがヒマそうに見えるのも、書類仕事が作業の多くを占める現状に関し、
その才能を発揮した結果だった。

「見てっても大丈夫ですよ。丁度……昨日よりはマシな状況で帰って来たかな?」
 格納庫に走りこんできた赤服組みに向かってショーンが更衣室を指差すと、先ずはシンとレイから
一つしかない更衣室に入って行った。這うようだった初日に比べれば大分マシだろう。
「彼らは更衣室を綺麗にしてるかな? 昨日は凄かったよね」
「あいつらがきれい好きになるなら、チンパンジーだって脱毛するな」
「……それじゃあ僕たちも着替えようか、適当にゆっくりね」



 極限までリアリティを追求して作られたシミュレーターは、仮想現実上で機体を起すのにも
現実と同じ手順をが要る。新人達にザクの使用を許し、ゲイツを使うのはそこに理由があった。
 大戦中の開発から2年。戦時中にプログラムが洗練され、戦後に構造が単純化されたゲイツRは
起動シーケンスが最新型のザクとは比較にならない程"短い"。
 それはルナマリア=ホークが彼らに倍する操作のスピードを誇ろうとも、覆せない差なのだ。
 故に、ザフトレッドの後からシミュレータールームに入ったショーンとデイルのゲイツRは、
電子スペース上でザクよりも早く動き始める。

 ザクの両眼に光が灯った瞬間には、戦闘ステータスで起動したゲイツは既に接近していた。
「遅い……」
 得物は互いにビーム兵器、ならば装甲の問題は決定的な差ではない。
 身構える時間など与えず、ゲイツがビームライフルを構え、起動したばかりのザクを狙う。
先ずは武装から。正確にバッテリー部分を狙われたザクのライフルが爆発を起した。
『相手はルナマリア君だ。どうせ接近戦だよ、気をつけて!』
「分かって居るさ、ショーン」
 デイル機はトマホークを抜いたザクから間合いを取りつつ、足元を縫うような弾幕で動きを封じる。
その間にショーンはシンとレイのザクを引き付け、デイルと戦うルナマリア機と効果的に分断していた。
「五分もかからない、な」

 疲れきって、更に先手を打たれたのだ。シン達に勝ち目は元から薄かった。


309:SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg
08/04/29 19:56:42
5/

 ―その夜、プラント標準時間02:13

「やっぱり、悔しいわよね……」
 消灯された女子用居住エリアの自室の扉をあけ、素足を晒す少女が暗がりに踏み出す。
 外の空気を数秒浴びて考えこんだかと思うと、中に取って返した。そして一分、
再び外の地面を踏む彼女の脚は、膝上までが黒のソックスに包まれていた。
「ちょっと寒かったものね」
 ズボンよりミニスカートの方が動きやすいと、信じて疑わないルナマリア=ホークであった。

 未だに作業の続いている整備ブロックを、人目につかないよう突破したルナマリアは、
照明の落されたシミュレーションルーム脇、一部屋だけの更衣室に踏み入る。
 シミュレーションルームの隣は、開かずの格納庫だ。なにやら作業中のようなので、
気付かれないに越した事はない。
 血と汗と涙とオイルの匂いが濃厚な狭苦しい更衣室は、ロッカーからパイロットスーツの袖が
はみ出して混雑している。
 ルナマリアは無言でロッカーを開け放した、三つ。

「先刻はここがごちゃごちゃしていたのが悪かったのよ。うん……」
 ヘルメットのサイズが混雑していたりして、余計な時間を掛けてしまった。急いで着込んだ
パイロットスーツに右手部分が無く、隣のロッカーに入っていたスーツから取り外した時、
ルナマリアはスーツがばらばらな理由を理解した。

 体力訓練ばかりのメニューを終えたときには疲れ果て、整理しようという気にはならなかった。
深い眠りから彼女を目覚めさせ、此処へと向かわせたのは、更衣室で着替えに手間取って居る間に
攻撃を受け、真空に放り出されるという悪夢だった。
「でも、やっぱりコレだけだと不十分よね。ちょっと覚悟しないと」
 三人分、装備を完全に揃えて更衣室を出たルナマリアは、シミュレータールームに灯る
微かな明かりを見る。
「眠れなくって……ね」
「……どうやらルナマリアも同じようだな」
 お互い、目の下に隈が出来た顔で笑い合う。レイだった。

「じゃあ、体力馬鹿シンは明日に備えて寝坊?」
 そんなはずは無いと思って、ルナマリアは問う。
「いいや、シンも既に"赤"だ。悔しいのは同じだな」
「うん、誰だって負けるときは在るけど―」
 シミュレータールームに入る人影、汗だくで空の鞄を抱えている。
「―負けっぱなしは許されない……そうだろ、レイ、ルナ」
 額を拭うシンの目は赤く、戦意にぎらぎらと光っていた。


310:SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg
08/04/29 19:59:02
6/

 ―翌日

 筋肉繊維をぶっちぎりそうな筋トレ地獄の後、赤い姿が三つ走っていた。
 装備は機能より重く、道程は昨日より長い。
「絶対にいじめよね……疲れるより、なんだか怒りが湧いて来たわ」
「喋るな、余計な体力が取られる……シンも黙って居る」
 そう、シンも黙っていた。一言も話さずに二人より先行し、ふと道の脇にしゃがみこむ。
かさばる装備の音をたて、身を起こしたシンの手にはドリンクボトルが握られていた。三本。
「昨日持って行った鞄はそれか……何処に隠してる?」
「いろんな所に、さ。どんなルートでも拾える位には隠してあるよ」
「早過ぎない?」ルナマリアはまだ喉の渇きを覚えない。
「その時にはもう脱水症状が始まってるんだよ。治すんじゃなくて、疲れない為の給水だ」
 体力馬鹿といわれたシンも、馬鹿なりに体力の事を考えていた。


 遥かに早く、そして確りとした足取りで格納庫に踏み込んできた三人に、
先任の二人とも驚きが隠せないようだった。
 何をしたのか詰問しようという気配は無い。そこまでは織り込み済みなのだろう。
 ショーンがコレまで通り、黙って更衣室を指し示す。
「意外と早かったな、去年の新人連中は二週間以上気付かなかったが……」
「赤と緑の差って奴じゃないかな? 皆色々やってたみたいだよ、昨日の内にね」
 ふらつかない三人を見たデイルとショーンは、少し急いで着替え始めた。


 駆け込み、すっかり整頓されたロッカーに驚く二人の背後でルナマリアがドアを閉める。
「はぁ……ルナ!?」「おい、ルナマリア!」
 目を皿にする二人の前で、ルナマリアはスーツの繋ぎに手を掛ける。
「何も言うなぁ! ショーンとデイルを慌てさせるの……分かった?
分かったら……二人とも後ろを向けぇ! って言うか見るなぁ!」
 剣幕に黙らされて、後を向いたシンの背後で重たい衣擦れの音がする。
「ルナマリアの言うとおりだ、更衣室が一つしかない以上仕方が無い……!」
 そして、前日にルナマリアが整理したであろうシミュレーター用のパイロットスーツは、
確かに三人のサイズ毎にまとめられていて着替え易かった。
「けど、つ……つっかえたらどうしよう?」シンがぼやく。
「何がだ!?」レイが反応した。
「聞くなよ―!」
 心の目と耳を塞ぎ、シンはスーツ着用に没頭した。
 見えず、聞こえる―特殊なシチュエーションが、余りに刺激的だった。
「自制心を誉めてやりてえよ!」
「これが終わってからにしろ、シン!」
「そこ、聞えてるわよ!」

311:SEED『†』  ◆Ry0/KnGnbg
08/04/29 20:03:32
7/7
 着替え終わった三人で、一斉にシミュレータールームに入る。
 昨日よりも明らかに早いが、それでもゲイツの起動手順は未だ早いだろう。
『―だから、使用する装備と戦闘ステータスを限定してチェック項目を減らす。
起動したらルナマリアがアタッカー、シンが近接支援、俺が間接掩護で動く、良いな!』
 モニターに手書きの起動シーケンス表が貼り付けてあった。通常の手順を
三分の二も飛ばし、モビルスーツを即席のインスタントで動かそうというのだ。
 起動後の戦闘モードは限られるが、各自が役割に専念すればいい。何より早い。
『オーケーよレイ。星二つ、貰うからね!』
 疲れはある、だが条件は互角以上だ。
「いける……!」指先まで熱い血液が走って、なおかつ頭が冷えていた。
 シミュレーター起動、画面に仮想の宇宙が映る。敵は未だいない。
 レイとルナマリアのザクに向けてライフルを振った。振り返される余裕さえがあった。
 遠くに、星と見間違えるような機影が浮かび、光が迸る。
『散開―!』
 レイの号令に合わせて、シンはスロットルを開け放った。


 ―十数分後。

「手際が良かったな。更衣室でよろしくやったか?」
 ザフトレッド三人は、デイル=ホッパーの自然で乱暴な口調を始めて聞いていた。
 シン達を過剰に敬いもしないが、認めている。ベテランの荒々しい"地"が心地よい。
「まあね、アンタら二人には、これ以上舐められたくないって話してただけだ」
 大口を叩くも、シン達は矢張りへたり込んでいた。

「今度、君の機体に星を書いておくといいよ。とても良い動きだった」
「要りません……実戦で本当に落すまでは、ね」
 開始時点では互角、ゲイツ二機とザク三機で、それでも接戦だったのだ。

「あー……こういった訓練をわざわざやったのはだな……」
 慣れない説明をしようというデイルを、ショーンが止めた。
「ネタバレはいらないけれど、タネ明かしは必要なんじゃないかな?」
「そうか、それはお前に任せる」
 デイルから受けて、ショーンは壁の通信機に呼びかけた。
「おやっさん、開けてくれ。……正直に言うとね、此処までが僕らの仕事、そして、
これからが君たちの仕事だ。この隣が何だか知っているだろう?」
 シミュレータールームの壁が、左右に開いて行く。
「こ……これは!」
 その向こうは、シン達も入った事の無い格納庫だった。ショーンが手を振ると、
薄暗い向こう側に照明が灯る。
「そう、こいつが噂のセカンドステージモビルスーツ。ZGMF-X56S―」
 照らされた灰色のPS装甲は、それを纏う機体は、炎を込められる瞬間を待っていた。

「固有名は"インパルス"。君達が育てる機体だ」

312:45  ◆Ry0/KnGnbg
08/04/29 20:10:57
 登場人物紹介にどうしてこんなに時間かけてるの? っていわれましても、
だってテンプレにあったから……としか答えられませぬ。
 元ネタは未だ残っているのですが、そろそろ十四話に入るのもありかなあと
思っています。少しずつ書いていたり。
 感想くれた方々有り難う御座います。
 それでは、また。


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