スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3at SFX
スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3 - 暇つぶし2ch350:名無しより愛をこめて
08/12/29 00:50:29 RBXYFCttO
投下&代理投下GJです!

美希さんの様子に気が付くとはさすが蒼太さん。
仲間さえ敵かも知れないと考える冷静さ、
冒険魂とスリルの区別を付けられないアンバランスさが非常な彼らしいと思いました。
相変わらずヒュプノピアスを捨てられない事がどこか危ういですね。
それにしてもロンは相変わらずw
ロンと蒼太さんの心理戦が面白かったです!


351:名無しより愛をこめて
08/12/29 01:31:17 9nz79J1MO
うぉぉぉぉっ!!!
蒼太とさくらの今後がめちゃくちゃ楽しみになってきた。
展開予想が止まらないぜ!
蒼太、本領発揮と言ったところですね。
まさしく優勝候補だw
しかしいつも本当に簡潔にすっきり纏めて読後感最高です!
面白かった、この一言では表しきれないほどGJ!でした。

352: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:07:51 4X1zzKKx0
これより投下します。

353: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:08:41 4X1zzKKx0
――僕の大きな宿業が彼女の存在を小さくしてしまった…




「具合、どうですか?」
関西弁特有の尻の上がったイントネーションで日向おぼろは西堀さくらの手を握った。
ひどく、脈が荒い。
相当過酷な局面を迎えたであろうことがそれだけでも如実に伝わってくる。
「ありがとう…ございます…わたしは西堀さくら。蒼太君と同じボウケンジャーのメンバー・ボウケンピンクです」
さくらは自分を心配そうな面持ちで見つめるおぼろに微笑みかけた。
「あたしは日向おぼろ。メカニックや。蒼太君には世話になっとる」
お互いに自分が何者であるかを確認しあう。
―他人に容易に心を許さない蒼太が行動を共にする女性。
ならば、彼女は殺し合いには乗っていないのだろう。
さくらもおぼろもお互いに同じ認識を相手に対し共有した。
「それにしても、何があったんです? さくらさんがこんな目に遭うなんて…」
それに、どうしてあんな場所にいたのか。
自分の知るさくらならばあんな無謀な真似は絶対にしない。
さくらは二人に自分がグレイに戦いを挑んだこと、そしてガイに屈服したことだけを
上手く避けて今の自分の状況を説明した。



354: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:10:04 4X1zzKKx0
「あいつ…僕らのパラレルエンジンを機能不全に出来たのか…」
知らなかったとはいえ、戦闘を避けることの出来た幸運に蒼太は胸をなでおろした。
過去に一度蒼太とおぼろはガイと遭遇している。
万が一、ガイから見て過去に位置する自分が戦っていればあっという間に殺されてしまっていただろう。
「それにしても僕らに6人目の仲間がいるなんて知りませんでしたよ。それに菜月ちゃんの正体も知ってるなんて…さくらさんは僕より相当後の時代から来たんですね」
「えぇ。でも高丘さんのことはともかく、菜月の正体については伏せておきましょう。
彼女も蒼太君のように自分の過去を知る以前から連れてこられた可能性があります。真墨のことで相当動揺しているでしょうし…無駄に混乱させるのは酷です」
蒼太との時間軸のずれを解消すべく会話を続けていく中で自然、さくらは蒼太の知らない未来の情報を幾つか伝えた。恭介の時と違い、蒼太とはできるだけ情報の伝聞を密にしておく必要がある。
自分がいなくなった後、明石を支えるのは彼なのだから。
「そうですね…彼、残念でしたね……」
「…………………………………………」
伏せ目がちに蒼太が呟いた。
場の空気が沈黙の重みに沈んでいく―

「ふ・二人とも元気だしいな! そやっ! さくらさん、喉渇いてるやろ? 今水を持ってくるからちょっと待っててや!!」

耐え切れず、おぼろが空元気に声を張り上げた。
「そんな! 待ってください!! 助けていただいたのに、貴重な水まで譲っていただくわけには!」
をさくらはあわてておぼろを押し留めた。
「何言ってんの! 困った時はお互い様やないの。すぐ取りに行って来るから待っててや!!」
静止するさくらを振り切り、おぼろは自らの支給品を取りに部屋を去った。



355: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:11:13 4X1zzKKx0

「優しい方ですね…おぼろさん」
さくらはおぼろの背中を見送りながら呟いた。
「えぇ。彼女のおかげで僕も随分助けられてますよ…それより、さくらさん、チーフからの指令なんですが…どうします?」
「そう、ですね…ガイの目的が蒼太君の話どおりだとすれば
一刻の猶予もないですね…本当はチーフが来るまで動くべきではないのでしょうけど…-」
さくらはガイとの遭遇だけは避けたかった。
「僕も出来るならチーフを待ちたいですけど…」
蒼太はここで出来た、分かれた仲間達も心配だった。
特に美希の挙動に違和感を覚える。なにやら不吉な胸騒ぎを覚えるのだ。
これが取り越し苦労ならそれに越したことはないのだが。
「さくらさんの話通りなら僕らのアクセルラーじゃガイには敵わない事になるし…その高丘映士…でしたっけ? 彼がいてくれるなら話は別ですけど…」
自分のアクセルラーにはご他聞に漏れずネオパラレルエンジンは搭載されていなかった。
やがて来るであろう明石のアクセルラーの状態は知れない。
ならば、いつ来るか分からない明石よりも早く仲間達と合流してガイを打ち滅ぼす。
それが一番の得策だと蒼太は思っていた。
「…すみません…わたしが不甲斐ないばっかりに…」
ガイを逃がしてしまったのは重ね重ね、様々な意味で痛恨事だった。
まさか、彼にそんな目的があったとは知らなかったのだ。
「さくらさんの所為じゃありませんよ! 元気出してください!!」
「ありがとう蒼太君…」
さくらは少し疲れたような微笑を浮かべた。その表情を蒼太はじっと見つめていた。
「蒼太…くん?」

「さくらさん…折り入ってお話したいことがあります」



356: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:12:17 4X1zzKKx0

§


「水♪ 水♪ 水は~っと!」
鼻歌交じりにおぼろは自らの支給品を漁った。
サバイバルの生命線ともいうべき水を他者へ譲渡することに何の躊躇いも持たない。
彼女は嬉しかった。
ずっとどこか影を引きずっていた蒼太がさくらの存在に心から安堵した表情を見せたからだ。
それはきっと、彼の本当の顔なのだろうとおぼろは思う。
「バウッ!」
おぼろの浮かれた様子につられたのか、マーフィーもどこかはしゃいだ様子で足元にじゃれ付いてくる。
「なんや、あんたも嬉しいんか? 調子いい奴やな~…待っとれ、今オイル出したるさかい」
笑顔に顔をほころばせ、上機嫌でおぼろはマーフィーを抱き上げた。
「バウッ! バウッ!!」
好物にありつけることに病み上がりもなんのその。
まるで本当に生きている犬のようにマーフィーは大きく左右に尾を振った。

§

「“ヒュプノピアス”…ですか」
蒼太から手渡されたそれを手のひらに見つめながらさくらは息を呑んだ。
「えぇ。どうやらロンが心理的な揺さぶりを参加者に…僕にかけるためによこした支給品です。
これを使えばどんな相手でも従順な操り人形にすることが可能です」
「そんなことが…」
「僕はこれを捨て去る勇気が持てなかった…恥ずかしいんですけどね、おぼろさんにも内緒にしてるんですよ…」
自嘲気味に蒼太が笑う。無意識に指輪をさするのはこういう時の彼の癖だ。
「どうして、それをわたしに?」


357:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:52:28 LHzrK3/R0
「僕がこのゲームで心から信頼できるのはたった二人。チーフと…さくらさん、あなた方だけです。
なんか厄介ごと押し付けるみたいで申し訳ないんですけど、さくらさんに持ってて欲しいんです。
人を操る悪魔の道具を、信頼の証の象徴にして欲しいんです、それとロンへの反旗の印に。
それを安心してできるのはさくらさんだけです。受け取ってくれますよね?」
縋る様な蒼太の表情に、さくらは彼もまた平静を装いながらも張り詰めていたことを悟った。
「…わかりました。これはわたしがお預かりします」
さくらは蒼太の申し出を快諾した。
「良かったぁ~…! 断られたらどうしようかと思いましたよ! さくらさん、お願いします」
「心得ました」
さくらは力強く頷いた。

§

「お水、美味しかったです」
いささか復調したのか、さくらは発見された時よりも顔色が良くなった。
「そうかぁ♪ いやぁ、さくらさんに早う元気になってもろうて皆と合流せなあかんからな。
“くえすたー”が愛を枯らすなんてけったいな企みなんて絶対阻止したる!」
無邪気に微笑むおぼろの姿にさくらは何故、蒼太が彼女と行動を共にしているか分かる気がした。
蒼太はまた偵察に出るといって場を外した。
恐らく、出会って間もないおぼろとさくらの親交を深めて欲しいという彼なりの心遣いなのだろう。
それは実に都合が良かった。
「あたしは戦闘こそからっきしやけど、メカに関しては自信があるんやで! あんたのアクセルラーとかいう道具もきっと修理してみせる!! そしたら一緒にロンを倒すんや!!!」
「ありがとうございます。おぼろさんには何から何までお世話をして頂いて…」
「なに言うてるんや! あたしらもう仲間やないの。水臭いこと言わんといてぇな」
さくらの肩をバンバンと叩きおぼろは笑った。

358:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:54:10 LHzrK3/R0
「これがアクセルラーかぁ…こうやって見るのははじめてやけど、うちの知ってる子たちが使ってるのと構造自体はそう違わんなぁ…ただ、このパラレルエンジンとかいう装置は結構曲者やな…
修理できるといいんやけど……」

初めて見る他の変身装具を手にあちこちをみつめるおぼろの背後にゆらりと影が立つ。
「なぁ、さくらさん…――」
振り返ろうと、頭を振ったおぼろが見たのは感情のかけらも感じさせない冷徹な表情をしたさくらだった。
仮にも忍風館の卒業生であるおぼろに気配を一切感じさせることもなく、一気に間合いをつめ
利き腕を強く捻る。
不意を突かれたおぼろは成す術もなくあっという間に押さえ込まれ、壁際に押し付けられた。
「な・なにするんやっ!?」
狼狽するおぼろの耳に震えた声が聞こえてくる。
「ごめんなさい……!」
さくらは右腕に掲げたヒュプノピアスをおぼろの背中に突き刺した―


359:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:55:13 LHzrK3/R0
「…――ッッ!!」
途端、全身に激痛が走る。
「痛ぃいいい!! 痛いいいい!! 痛いいいいいーーーーー!!!!!!!!」
本来、30世紀の囚人を押さえ込むための精神への拘束具として開発されたそれは対象の感情を一切無視し、完全に隷属させる。
その時生じる電磁波の奔流は直接神経を掻き毟るような凄まじい痛みを伴う。

「痛い痛いいいいぃぃい痛い痛い痛いいいいいぃぃいい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」

地面を転げまわり、激痛にのたうつおぼろをさくらは涙を流しながらみつめていた。
「ごめんなさい…これしか…これしか方法がなかったんです……」
最も惨めで無様な死に様を晒す。
明石暁は仲間を心から信頼している。
帝国の真珠の時も、ガラスの靴の時も彼はさくらを信頼してくれた。
―だから、蒼太が絆の証にしたいといったこれでそれを裏切る。
なんて浅はかで、なんて思慮のない、なんて無様な企み。
蒼太は仲間の裏切りに敏感だ。きっと、自分を許さないだろう。
それでいい。
彼の怒りが大きければ大きいだけ、惨めに敗れる自分の姿は一層無様さを増すのだから。
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
だが、そのために結果として何の関係もないおぼろを巻き込んでしまった。
彼女は愚かなまでに出会って間もない自分を信頼してくれたのに―

「痛いいいいーーーーー!!! 痛い痛い痛いーーーーーー!!!痛い痛い痛い痛いーーーーー!!!!」

なぜ、彼女がこんなことをするのか。
なぜ、あんなに悲しい顔をしているのか。


360:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:58:00 LHzrK3/R0
おぼろには何も、分からなかった。

「殺すことはしません…きっと解放しますから……少しの間だけ、わたしの言うことを聞いてください……」




そして、全てが暗闇に閉ざされた。

§

「蒼太君、やっぱり私いけません」


「何でです? やっぱりチーフを待つんですか?」
偵察から戻った蒼太に出会いがしら、さくらはそう告げた。
「はい。それもありますが、わたしにはあなた達と行動を共にする資格がないんです」
「はい? すみませんが、言ってる意味がよく分からないんですけど…」

「わたし、殺し合いに乗ったんです」

事も無げにさくらはそう言ってのけた。まるでなんでもない事の様に。
いつものように真面目な表情で。いつもの冷静な口調で。
「実際に参加者も一人、襲いました。殺しこそしていませんが、殺意があったことは事実です。
それと、わたしガイから逃れたといいましたけど…あれ、嘘です。
本当は土下座して命乞いをして、何とか生き延びたんです」
悪夢を見ているようだった

361:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:59:10 LHzrK3/R0
さくらは今の自分を包み隠さず蒼太に告げた。
危険なプレシャスと分かっていながら、保身のためになんの処置も施さなかったこと。
グレイを罠にはめようと画策した時の暗い興奮。
ガイとの舌戦で感じた侮蔑の言葉を吐いたことでの爽快感。
ざらついた砂利を舐めった舌の感覚。命を見過ごしてもらった時の安堵。
聞くに堪えない赤裸々な告白の数々に蒼太は眩暈を覚えた。
悪夢だった。
嘘だと、叫ぶことすら出来なかった。
何も出来ないままただ、その言葉に聞き入るしかできなかった。

「ですから、わたしには一緒に行く資格がないんです。今の話で理解して頂けましたよね?」

さくらの表情は変わらない。
自分がどんな話をしているか、分かっているのか。
築き上げてきた信頼が音を立てて崩れる音を蒼太は聞いた。
そして―…その視線は目の前にいつもの姿勢でたたずむさくらに釘付けにされていて、背後に迫る危機に全く気がついていなかった。
瞳の輝きを失ったおぼろが蒼太の背後に迫っていた。
彼女はイカヅチ丸を握っていた。このまま、無防備な蒼太を気絶させ捕縛する。
そうすればこの場を制するのはさくらだ。
後は、明石が来るのを待てばいい。

ゆっくりと、おぼろがイカヅチ丸を天に翳していく。
あと、少しで、全て準備が整う。


362:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:00:01 LHzrK3/R0
おぼろがイカヅチ丸を蒼太の後頭部めがけて、振り下ろそうとした。その時。
カチッ。
いつの間にか蒼太の手に握られていたスイッチが乾いた音を室内に響かせた。
「え…?」
それを合図にしたように、おぼろの動きが止まる。


「よくわかりましたよ…さくらさん。どうやら、僕ら…行く道が違っちゃったみたいですね」

ヒュプノピアスはただそれだけでは不完全な代物だ。
リモコン端末とその発信機が対になって初めてその効果を発揮する。
蒼太がさくらに預けたのは発信機の部分だけで人を操るだけの力はない。
さくらはおぼろを操っていたように思っていたがその実、蒼太がおぼろをさくらの命令に従っているように動かしていただけに過ぎなかったのだ。
「おぼろさん…変なことさせて、すいませんでした」
蒼太が振り向くこともなく、おぼろに告げる。

「なんも…あたしこそ、また助けてもらって……」

さくらがピアスを使えば、すぐに端末にその情報が伝わる。
いわば、蒼太はさくらを試したのだ。
それが、彼自身の前歴で培われた深い業であり、真の信頼を求める渇きでもあった。
「さくらさんが色々黙ってたように…僕も全部話してませんでした―…でも、これでお互い、腹を割って話すことが出来そうですね」
そう言って、蒼太は懐に手をやる。
そして、一旦は預けたはずのヒュプノピアスを取り出しさくらの眼前に掲げた。


363:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:03:59 LHzrK3/R0
「さくらさん…ヒュプノピアスを、嵌めてください…―」
振り絞るように蒼太はさくらに求めた。
「蒼太君っ! わたしは…!!」

「黙れっっ!!」

普段の彼からは想像も出来ないほどの激しい一喝にさくらは一瞬押し黙る。
「僕からの命令はこうです…“今後、一切の行動は全て明石暁の命令に従うこと”
彼になら…さくらさんも自分を預けられるでょう?」
瞳に涙を滲ませ、血の吐くような思いで蒼太は言の葉を喉の奥から搾り出した。
心から信頼する相手にむけねばならない刃は、諸刃となって蒼他の心をずたずたに引き裂いていく。
「さくらさん…お願いですから自分で嵌めてください……僕に…僕にさせないで下さいっ!!」

…―ヒントをひとつだけ。もし、首輪を外す方法を見つけたとしても、決してあなた自身で試してはいけません。 もっとも邪魔になる方で試すことをお勧めしますよ――…

脳裏に蘇る声と蒼太は必死に戦っていた。これまでにないほど、感情をあらわにして。
輻射熱と耳鳴りで今にも倒れてしまいそうだった。
蒼太の嘆願にさくらは押し黙ったまま。
今や、二人が培ってきた絆は霧散の如く消滅してしまっていた。

「蒼太くん…」
二人の今にも破られんとする均衡を見つめながら、おぼろはただ両者を交互に見やるだけだ。
永遠に続くかと思われた均衡を破ったのはさくらだった。
「………――」
そっと前へと足を進める。


364:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:04:50 LHzrK3/R0
「さくらさん…」
分かってくれた。蒼太の顔に安堵の表情が浮かぶ。
大丈夫。
まだ、彼女との絆は完全に途切れてはいない―

そうだ。

まだ、やり直せる…



このゲームが終わったら、きっと―…
「蒼太くんっっっ!!! 危ないッッ!!!!!」

希望の幻に心を奪われていた蒼太の意識が急速に現実へと引き戻される。
すぐ近くにいるはずのおぼろの声がなぜか遠く聞こえた。
「えっ…?」
すぐには分からなかった。
しかしすぐに下腹部に焼け付くような痛みが走り、喉の奥から血があふれ出していく。
ずぶり、と体内から鈍い輝きを放つナイフが引き抜かれると蒼太の体は工場の冷たい地面に沈んだ。
「…さくら……さん?」

目の前には荒い息で両手を真っ赤に濡らすさくらが佇んでいた。
「ハァ…ハァ…ハァ……―」
さくらが手にしていたのはスコープショットに含まれる幾つかのツールのうち、ナイフだけを抜き取ったものだった。
ガイとの戦闘の後、破壊されたディパックから使えそうなものがないか精査した。
望遠鏡など大方のアタッチメントは死んでいたが、唯一ナイフだけが生き残っていた。
アクセルラーを失ったさくらにとってそれが唯一の武器だった。
ガイやグレイといった強敵たちと渡り合うにはあまりに矮小な力。


365:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:07:04 LHzrK3/R0
そして、育んできた絆を断ち切るには十分すぎる力。

「蒼太くんっ!」
おぼろがさくらを突き飛ばし、蒼太へ駆け寄る。
上半身を起こし、意識が朦朧とする彼を必死に引きとめようと叫び続ける。
「蒼太くんっ! 蒼太くんっ!!」
ナイフを持った相手を背にしたまま、あまりに無防備に。
成す術もなく泣き叫ぶその姿をさくらは呆然と見つめていた。
「どうしてや…」
嗚咽の中におぼろの鋭い声が混ざる。
「どうして蒼太君を刺したんやっ! 仲間やろ、あんた!? 蒼太君はなぁっ! 蒼太君はあんたを心から信頼しとったんやで! それなのに…なんでやっ!!!」
わたしだって信頼している。
蒼太くんを心から信頼している。だからこそ、彼に最期を看取って欲しかった。
あの人と二人で見送って欲しかった。ただ、それだけなのに―…

「さくらさん…逃げて…逃げて…下さい…―」

息も絶え絶えに、それでも蒼太はさくらを赦そうとしていた。
それが、仲間への最後の温情なのか、過去の罪への償いなのか、蒼太にも分からない。
「蒼太くん!? なんで、こないなやつ庇うんやっっ!!」
おぼろが悲しみとも怒りとも取れる声で叫ぶ。
蒼太は微笑っていた。
ひどく、哀しく。
さくらはそっと、袂を分かったかつての仲間に背を向ける。
最早、ここにはいられなかった。彼女はまた居場所をなくしたのだ。



366:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:07:58 LHzrK3/R0
「…今は逃げたらえぇ…でもな、憶えときっ! あたしがあんたを必ず追い詰めたる!!
もう、あんたの居ていい場所なんてこの世界のどこにもないんやっ!!」

怒りにわななきながら、らんらんと怒りに輝く瞳に涙を一杯に溜めて。
日向おぼろはこれまで経験したことのない憎悪の感情に支配されていた。
絶対に、この女だけは、許しておけない。
このゲームで最も忌むべき行為に手を染めた彼女を。
糾弾し続ける。

追い詰めて、追い詰めて。

惨めな最期を遂げるまで。


§



どこをどのくらい走ったのか―
おぼろの最後の言葉を背に受けたまま、さくらは当て所もなく彷徨い続けていた。
―やがて、鼻を突く血の臭いに気づく。
目の前に広がる光景に、さくらは驚愕した。あたり一面に肉片と思しき破片が散乱する地獄絵図。
その中心に頭蓋が覗く首と目と目が合う。
「これは…!」


367:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:08:43 LHzrK3/R0
彼女をさくらは知っていた。
時の魔神クロノスが呼び寄せた最後の巫女―フラビージョ。
生前の彼女とは一度刃を交えた経験がある。
まさか、こんな形で再会するとは思っても見なかったが。
くまなく辺りを見回すが、彼女をこんな姿にした張本人は既にこの場を去ったらしい。
「!」
フラビージョの生首の更に奥。血塗れた剣が地面へ深々と突き刺さっている。

「ズバーン!」

やはり、彼もこの世界へ誘われていたのだと、さくらは思わず駆け寄った。
「良かった! 無事だったんですね!!」
彼の本質を知るさくらは仲間を道行きにすべくその柄へ手を、かけた。
「なっ―!!? ああああああああああああああああああああああああああ――…ッッ!!!!」
刹那、さくらの全身を電流が刺し貫いた。
立っていることすらかなわず、さくらは無様に地面へと転げた。
「ズ・ズバーン…?」
古代レムリアの宝剣は清き心の持ち主にしか従わない。
邪なる者がその手を触れれば剣はこれを、自ら、拒絶する。

「わたしは…とうとうズバーンにまで見捨てられてしまったんですね……」

どこまでも、どこまでも堕ちていく。




368:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:11:43 msKTlmIjO



369:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:11:57 LHzrK3/R0
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:瀕死の重症。2時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:おぼろと共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針: おぼろを守る。ジルフィーザと合流する。※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。

【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:西堀さくらに激しい怒り。どんな手を使っても絶対に追い詰めて見せる。
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。蒼太と共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。


370:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:12:38 LHzrK3/R0
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり) 。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)
[道具]:なし。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:チーフ(明石暁)と合流する。その後、蒼太に殺されようとしていたが失敗。
第二行動方針:夢の啓示で今の自分を再確認。裏方針が表に。(ロンの存在については気づいていません)
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
 ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。



【名前】マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:蒼太たちと一緒に行動する。


370 : ◆8ttRQi9eks:2008/12/31(水) 01:23:21
いつもすみませんが、本スレへの投下をお願いします…
私もこれが本年最後の作品になりそうです。
それでは良い、お年を。


371:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:15:07 LHzrK3/R0
以上、代理投下終了。
投下お疲れ様です。代理投下スレにて指摘させていただきました。
よろしくお願いいたします。

372:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:40:33 B2pJkZNZO



373: ◆8ttRQi9eks
09/01/02 01:06:40 ssDMhM6d0
したらばに修正版をアップしました。
重ねてご意見、ご感想をいただければ幸いです。
新年早々にお騒がせして申し訳ない。

374: ◆8ttRQi9eks
09/01/02 01:29:32 ssDMhM6d0
また、代理投下をして頂きありがとうございました。
タイトルは「シンライノアカシ」で。

375:名無しより愛をこめて
09/01/02 14:08:55 zWp+zFmT0
投下&代理投下&修正投下乙です。
決定的にすれ違う蒼太とさくら。おぼろさんの叫びが哀しいですね。


さて、新しい煽り文が出来上がりましたので投下します。
前回から大変遅くなってしまいました。どうかご容赦を。




376:名無しより愛をこめて
09/01/02 14:10:13 zWp+zFmT0
021 ワイルドスワン・クールブレイン
漆黒の夜空を焦がすのは反撃の狼煙。
  炎は確かに彼女の運命を引き寄せた。たとえそれが望まぬ運命であったとしても。

022 冥王星を継ぎし者
  少年は夜をひた走る。夜より深い闇を抱えて。

023 走・想・蒼太
  その胸を高鳴らせるのは冒険への想い。
  男はバイクを走らせる。信頼と不穏をその身に抱えて。
  
024 青い炎とレスキュー魂
  己の夢だけを見つめる少年に、遙かな未来はまだ遠く。
  ただ生きようともがく少年に男の声は届かない

025 奇縁
  邂逅を果たした男が二人。すれ違う時の矛盾を抱え、並び立つ。
  影から見つめる女が一人。時の矛盾に踊る愚か者を求め、流離う。

377:名無しより愛をこめて
09/01/02 14:11:34 zWp+zFmT0
026 最期に見た夢
  愛しい者の面影はあまりに遠く。
  少女は逝く。最後の邂逅さえ許されずに。

027 喜劇役者
  さあ喜劇の幕が上がります。
  黒き獅子と白き舞姫(エトワール)の今宵の舞台。とくとご覧あれ。

028 独白
  眠れぬ夜に思うこと。
  道化は独り、呟き、嘯き、嘲笑う。恐れる事など何もないと。
  

029 相思相愛?
  男は誓う。愛しい人を守ってみせると。
  女は願う。愛しい人にもう一度会いたいと。
  龍は嗤う。まがい物の騎士を野に放ち。

030 勘違いは狂いに変わる
  生真面目な善意が信頼を生むとは限らない。
  時には、至極真っ当な怒りを生むことだってあるのだ。

378:名無しより愛をこめて
09/01/02 14:15:08 zWp+zFmT0
まったく我ながら速さが足りないぜ。
では、失礼しました。

379:名無しより愛をこめて
09/01/02 22:07:04 ktOHnYYIO
煽り文投下GJでした。
良い煽り文は書き手の琴線を震わせる。今年も楽しみにしています!
もう一度GJ!でした~

380: ◆i1BeVxv./w
09/01/04 04:38:55 5YnKEuvf0
煽り文GJです。
いい煽り文を書いていただけるように、いい作品を書きたいと思います。
それでは、只今より投下いたします。

381:不信なんてぶっ飛ばせ! ◆i1BeVxv./w
09/01/04 04:40:29 5YnKEuvf0
 ブクラテスは東へと向かって歩いていた。
 本当なら南に進みたかったのだが―
「やれやれ、禁止エリアとはなんとも厄介じゃのぉ」
 南に進んでも、自分の走力では周りの全てが禁止エリアに囲まれる方が早いだろう。
 それに放送の主がまだうろついていないとも限らない。
「今度こそ、いい輩が見つかるといいがのう」
 江成仙一、浅見竜也、素材こそ良かったものの、片や早々に重症を負い、片や下らない感傷に牙を失った。
 もしかすると、ブクラテスの眼鏡に適う参加者はこの場にはいないのかも知れない。
 だが、それならそれでいい。ようは生き残れさえすればいいのだ。
「わしはついとるわい。これさえあれば、逃げ続けることはたやすいからのう」
 ブクラテスの手に握られた首輪探知機。これがある限り、ブクラテスが不意討ちを受ける可能性は0に等しい。
「おっ、早速反応があったわ」
 首輪探知機の上部に丸い点がふたつ灯る。
 ふたつ、つまりは二人。組んでいるのなら、殺し合いに乗っている可能性は低そうだ。
「ふむ、それではどこか物陰に隠れて様子を窺うとするかの」
 ブクラテスは手頃な隠れ場所がないか、辺りを見回す。
「おおっ、あそこがいいわい」
 ブクラテスはいくつかある建物から、ブラインドが下がった建物に眼を付けた。
 あの隙間から覗けば、気付かれずに観察できることだろう。
「さて……ん!なんじゃと!!」
 再び、首輪探知機を眼にすれば、首輪探知機の上部に灯っていたふたつの点はいつの間にか、ブクラテスからわずかな距離にまで迫っていた。
「速すぎる!速すぎるぞ!」
 首輪探知機の範囲は半径2~3kmといったところだ。
 それだけの距離があればと、余裕を持って行動していたのだが、どうやら対象の速度は並々ならぬもののようだ。
「いかん!こりゃいかんぞ!!」
 ブクラテスは慌てて建物へと向かう。

382:不信なんてぶっ飛ばせ! ◆i1BeVxv./w
09/01/04 04:41:11 5YnKEuvf0
 幸いにして、目的の建物はすぐ近く。瞬く間に手がドアノブへと届いた。

―ガチャリ―

「な、なんじゃとぉーーー!」
 だが、その建物の鍵はガッチリと閉まっていた。
「………はっ!」
 呆けている場合ではない。直ぐに身を隠さないと。
「このままだと、見つか―」
 どうやらブクラテスが台詞を言い終わるより闖入者の行動の方が速かったようだ。
 建物のガラスに、今まで映ってなかった人影が映っていた。
「ぬっ、ぐっ」
 ブクラテスはゆっくりと振り向く。
 そこには黄色のスーツを着た小柄な闖入者の姿があった。
(ぬぅう、なんとかこいつを懐柔してみるか。いや……)
 闖入者の肩には身ぐるみを剥いだ男が担がれている。どうやら反応があった二つの内の一つはこの男のようだ。
 状況から察するに、明らかにこの人物は殺し合いに乗っている。
(考えろ、考えるのじゃ)
 ブクラテスは生き残るため、必死に頭を回転させた。 



 がらんどうとなった室内を竜也はぼんやり見つめていた。
 殺し合いに連れてこられた時はどうなるかと思ったが、菜月と会い、スモーキーと会い、シグナルマンと、メレと、ブクラテスと会った。
 みんな、それぞれ癖は強かったが、殺意をもった人物はいなかった。
 それは幸運なことだったのだろうが、そのことで逆に気が緩んでいたのかもしれない。
 誰の何の力にもなれず、みんな竜也の元を去って行った。
 ひとりになった自分はいったいこれからどうするべきなのだろうか?
 目的はある。まずは放送の主からの人質の救出。そして、最終的にはシオンたちと合流し、ここから脱出する。
 だが、具体的な方法が何かあるわけでもない。しかも、仲間のドモンは殺し合いに乗ったという。

383:不信なんてぶっ飛ばせ! ◆i1BeVxv./w
09/01/04 04:41:45 5YnKEuvf0
(一体、どうすればいいんだ。ユウリ、アヤセ、ドモン、シオン、みんな教えてくれ)
 悩み苦しむ竜也。
 その時、竜也の耳に何者かの足音が届いた。
(ブクラテスさん?いや、彼が戻ってくるわけない)
 ならば一体誰なのか。 
 竜也がいる場所は病院。ここに向かっているということは目的は治療と考えるのが妥当だ。
 そして、足音はひとつ。 
(ということは怪我をしたのは当人か)
「っ」
 いつの間にか竜也は拳を握り締めていた。
 それは無意識の行動だった。竜也は殺し合いに乗ったわけではない。相手が敵だと決まったわけでもない。
 だが、竜也は何故かそうせずにはいられなかった。
 やがて、病医の扉が開く。

―ガチャ―

「……ブクラテスさん?」
「なんじゃ竜也、起きたのか」
 そこに立っていたのは、去ったはずのブクラテスだった。
「ブクラテスさん、一体どこに行ってたんですか!俺、てっきり……」
「てっきり、なんじゃ。ワシはちょーっと偵察に出とっただけじゃぞ。
 お前のディパックを持っていったのだって、ついでに中身を確認しようと思ってのことじゃ。
 ワシの占いに間違いはないとはいえ、もしもということもあるからのぉ」
 素知らぬ顔で、さも自分が竜也のことを思って、行動していたかのように言葉を紡ぐブクラテス。
「………」
 今までの竜也だったら、信じたかもしれないが、一度、不信感を持った竜也にはその言動が胡散臭く思えた。
「微妙な顔しとるのぉ。おっと、それよりじゃ。来てくれ竜也、お嬢ちゃんが帰ってきおったわい」
「菜月ちゃんが!?」
「そうじゃ、お土産を抱えての」

384:不信なんてぶっ飛ばせ! ◆i1BeVxv./w
09/01/04 04:42:24 5YnKEuvf0
 そんな台詞を吐いたブクラテスは、どことなく疲れた風に見えた。



(こりゃ、まずい、まずいぞぉ)
 ブクラテスは竜也を案内する道すがら、必死に頭を回転させていた。
 現れた人物がボウケンイエローに変身した菜月だったのはいい。
 菜月が戦力として計算できるというのはうれしい誤算だ。
 しかし、菜月が連れて来た人物がまずい。
(まさか、センを連れてくるとは。今は意識を失っとるようじゃが、ワシがセンを見捨てたことが知られたら、面倒なことになりかねん。
 とりあえずこいつらと別れるまで、誤魔化すしかないの)
 センには人を呼んでくると言って、その場を離れた。
 それが建前である以上、ブクラテスには誤魔化すか、逃げるかしか道はなかった。



「菜月ちゃん!」
「竜也さん」
 病院から、1分程度走ったところに、菜月の姿はあった。
 竜也は急ぎ駆け寄り、菜月の容姿を確認する。見たところ、菜月に外傷は見られない。
 竜也はほっと胸を撫で下ろした。
「よかった、無事だったんだね」
「うん。心配かけてごめんなさい」
 菜月はぺこりと頭を下げる。
「いや、菜月ちゃんが無事ならそれでいいよ。でも、シグナルマンとスモーキーが」
「うん、おじいちゃんに聞いた。菜月を探しに北西に行っちゃったって」
「……菜月ちゃんは北東に行ってたの?」
「うん、そうだよ」
(ブクラテスさんの占いは当たっていたってことか)
 竜也は今までは気休めと、特に気にしていなかったが、占いはそんなに当たるものなのだろうか。

385:不信なんてぶっ飛ばせ! ◇i1BeVxv./w 氏の代理投下
09/01/04 09:05:19 r20URCwW0
 勿論、宇宙人であるブクラテスには地球の常識をあてはめるのはナンセンスなのかも知れないが。 
「竜也さん?」
「あっ、ごめん。で、その人は」
 竜也は菜月の傍らで倒れ伏す、男に視線を移した。
 パッと見、下着姿のその男は変質者に見えるが―
「変態さんだよ」
 ―そのものだった。
「変態?」
「うん、息を荒くして、菜月の足を掴んだの」
「………………菜月ちゃん、それは」
 そんな奴を連れてくるのはどうなんだと、思わずツッコミを入れようとする竜也。
 だが、菜月の次の言葉に、そのツッコミは飲み込まれる。
「で、話を聞いてくれって。理央さんっていう人に伝えてくれって。そう言って、気を失っちゃったの」
「理…央……」
 竜也には聞き覚えがある名前だった。
 
―理央様を見つけて、私の元に連れてきなさい。―

 メレが竜也を踏みつけながら紡いだ言葉だ。
(この人もひょっとして、理央の関係者か?)
 よく見れば、倒れ伏す男の身体は傷だらけだ。
 息が荒かったのも、下着姿なのも、よくよく考えれば、戦いの結果なのではないか。
「とりあえず、病院まで運ぼう」
 竜也は徐に男に近づくと、担ぎあげる。
 その長身に相応しく、ずっしりと肩に重みが圧し掛かってくる。
「重い。菜月ちゃん、よくここまで運んでこれたね」
「うん、菜月じゃ運べなかったから、ボウケンイエローに変身して、運んで来たんだ。でも、突然変身が解けちゃったの」
「へぇ、菜月ちゃんも変身できるんだ」
 そういえば、お互いの戦力の確認はまるでしていなかったことに思い当たる。
 殺し合いが行われている以上、身を守る術の確認ぐらいはしておくべきなのに。


386:不信なんてぶっ飛ばせ! ◇i1BeVxv./w 氏の代理投下
09/01/04 09:06:15 r20URCwW0
(病院に着いたら、確認しよう。それにしてもイエローか。本当にドモンは……)
 またも仲間の安否に思いを馳せ、呆ける竜也。
 そんな竜也を横目に、ブクラテスは気が気ではない。
(何とか、何とかせんと。………………………まずはこいつがどうするつもりか確認せんと始まらんか)
「のぉ、竜也、どうするつもりじゃ?センはまだ起きないみたいじゃが、起きるまで待つか?」 
「そうですね………!」
 竜也は眼を見開き、ブクラテスを見た。
「な、なんじゃ?」
「……ブクラテスさん、なんでこの人の名前知っているんですか?センって、この人のことですよね」
「うぐごが!」
(しもうた。うっかりセンの名前を。ど、どうする。なにかいい言い訳は……)
 立て続けの予想外の事態に、ブクラテスはかつてないほど動揺し、混乱する。
 竜也もセンが名前だと確証があったわけではなかったが、ブクラテスの反応に、自分のカマ掛けが間違ってなかったことを悟る。
「もしかして、この人がブクラテスさんの言っていた右腕を切り落とした元仲間ですか」
(おおっ、なんというグッドアイディアじゃ、竜也。その手があったか)
 続けてのカマ掛けはブクラテスに有利に働いた。この場を打開するアイディアと、ブクラテスは竜也の提案に肯こうとする。
「そ……」
「違いますよ」
 ブクラテスの言葉を遮り、竜也でも、菜月でもない声がした。
「あっ、気がついたんだ」
「はい、まだクラクラしますけど、たぶん、もう大丈夫です」
 それは苦しげながらも、どことなく柔和な笑みを浮かべるセンだった。
 一般人なら、丸一日は眠っているはずなのだが、流石はセンといったところだろう。
「竜也さん、でしたっけ」
「はい」
「自己紹介とかしたいところだけど、それは道すがら、今は一刻を争います。北東に向かいましょう」
「そ、それは大変じゃ、ワシは行くべきだと思うぞ」
 有耶無耶にするチャンスと、ブクラテスは詳細も聞かず、センに同意する。
「でも、人質を取っている奴がいるみたいなんです」 
 メガブルーを誘い出すために人質を取った男が南にいることを、竜也は話す。

387:不信なんてぶっ飛ばせ! ◇i1BeVxv./w 氏の代理投下
09/01/04 09:07:03 r20URCwW0
「竜也、よくよく考えてみるのじゃ。あれから4時間近く経っている。奴は猶予は3時間と言っていたはずじゃ。
 もう手遅れ―いや、いかにも好戦的そうな男だったのいうのに何の連絡もないということは、誰かが救出に動いたのかも知れんな。
 とにかく、ここはセンと一緒に行くべきじゃ」
「……わかりました。俺も理央という人は気になりますし」
 竜也はブクラテスに文句はあったが、言っていることは正論だ。やむなく、ブクラテスの言葉に同意する。
 (よし)
 竜也を納得させたことにほっと胸を撫で下ろす。
 ただし―
「でも、ブクラテスさん、あとで聞かせてもらいますよ、センさんを知っていたわけ」
「ぬごぉ」
 有耶無耶にはできていなかった。



「つまり、センさんと理央さんを助けた何者かが、センさんを眠らせて、服を奪っていったと」
「迂闊だったよ。俺も聞かれるままに色々答えちゃったからね。助けられたからって、油断したのがまずかった。
 俺を殺さなかったってことは、そいつは殺し合いとは別の目的があるんだと思う。
 そして、そいつの目的には理央さんが絡んでいる」
 竜也はセンと共に理央を探すため、北東へと向かっていた。
 道すがら、センから今までの経緯と、理央を探す目的を聞く。
「たぶん、俺の服を奪ったことと、質問の内容を考えると、俺に変装して、理央さんを騙そうとしてるんだと思う」
「変装って、菜月の顔が、竜也さんになっちゃうってこと」
「そういうことになるかな」
 菜月の質問に柔和な笑みを浮かべるセン。
 これで下着姿だったらまた変質者だが、一刻を争うといってもそこは改善を行った。
 今のセンは銀色のスーツを身に纏っていた。
 メレのディパックの中にあった支給品。ネジシルバーのスーツだ。
 ネジシルバーが何者かというのを、竜也たちは知る由もないが、服を奪われたセンにとって、渡りに船だった。
「とにかく急ごう。俺は理央さんをメレさんに会わせたい」
 未だ竜也の胸の内には不信と迷いが渦巻いていた。


388:不信なんてぶっ飛ばせ! ◇i1BeVxv./w 氏の代理投下
09/01/04 09:07:37 r20URCwW0
 だが、自分の迷いを断ち切るために、誰かの力になってやりたいと思っていた。
「しかし、年寄りには堪えるわい」
 速度的な理由から竜也の背におぶさるブクラテス。
「ブクラテスさんには占いで理央さんの行方を捜してもらいますんで、少し我慢しててください」
 ブクラテスがセンと共に行動していたことは聞いた。
 ブクラテスが竜也たちにその事を一言も言わなかったということは、センを見捨てたことと同義だ。
 竜也は流石にブクラテスに怒りを覚えたが、センは刑事である自分は覚悟ができており、自分のことを伏せたブクラテスの判断は必ずしも間違っていないと、ブクラテスを庇った。 
 そう言われたら、竜也も何も言えない。 
(しかし、刑事さんか。宇宙警察地球署って、言ってたけど)
 竜也には聞き覚えのない単語だったが、警察というだけでなぜだか安心感が生まれてしまうのは日本人だからだろうか。
 だが、揺れ動く竜也にはそんなささいなことでも行動するエネルギー源となった。
「今度こそ、俺は……」
「竜也くん、何か言ったかい?」
「いえ、急ぎましょう」
 竜也は走る。自分の思いを固めるために。
 傍らでは黄色と緑色の戦士が共に歩んでいた。




389:不信なんてぶっ飛ばせ! ◇i1BeVxv./w 氏の代理投下
09/01/04 09:08:28 r20URCwW0
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:D-6 都市 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:基本支給品(メレ)
[思考]
基本行動方針:どちらを選べばいいのかわからない(全員の蘇生ために乗るor誰も殺さない)
第一行動方針:センの力になる。
第二行動方針:ドモン、ブクラテスに不信。
第三行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第四行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考
・クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。
・メレの支給品はネジシルバースーツとネジブレイザー(仮称)でした。

【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:D-6 都市 1日目 午前
[状態]:ネジシルバースーツを装着(メット未装着)。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:ネジシルバースーツ。ネジブレイザー(仮称)。SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:理央に注意を喚起する。
備考
・制限が2時間であることを知っています。
・SPDの制服はシュリケンジャーに奪われました。
・ネジシルバースーツは多少丈夫なだけで特殊な効果はありません。ただし、制限時間もありません。


390:不信なんてぶっ飛ばせ! ◇i1BeVxv./w 氏の代理投下
09/01/04 09:09:05 r20URCwW0
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:D-6 都市 1日目 午前
[状態]:健康。1時間30分変身不能。
[装備]:アクセルラー、スコープショット、
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:センと竜也のサポート。
第二行動方針:真墨の遺体を捜す。

【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:D-6 都市 1日目 午前
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機、毒薬(効能?)、タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:新たな仲間を捜す。
第二行動方針:首輪探知機のことは伏せて置く。
備考
・センと同じ着衣の者は利用できると考えています。


391:不信なんてぶっ飛ばせ! ◇i1BeVxv./w 氏の代理投下
09/01/04 09:10:03 r20URCwW0


393 : ◆i1BeVxv./w:2009/01/04(日) 05:34:24
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、指摘事項、ご感想などがありましたら、よろしくお願いします。
なお、ネジブレイザー(仮称)の件ですが、ネジシルバーの剣では、文章にしづらく、
何より味気ないかなと思って付けたもので、劇中では特に名称は付けられていません。
不都合があれば、そこは修正したいと思っております。

2008年内に投下できればと考えてましたが、年の瀬はなんだかんだとありました。。。


___________________________________________


以上代理投下終了。

392:不信なんてぶっ飛ばせ! ◇i1BeVxv./w 氏の代理投下
09/01/04 09:22:48 r20URCwW0
あけまして投下乙です!
菜月との再会にはドキドキしました。
菜月、センと共に歩き出した竜也。いよいよ始動開始ですね!
なにげに立場が危うくなってきたブクラテスも面白かったです。
新年からGJでした!

ネジブレイザーに関して……
その呼び方、とても良いと思います。

しかし祐作さんは本当にお手製品の好きなお方だw


393:名無しより愛をこめて
09/01/04 16:34:06 ounR0vhS0
あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いいたします。

投下&代理投下GJです!!
ブクラテスピーンチ!!かと思ったら、センさんがお人好しだったおかげでなんとか
当面の危機は乗り越えた模様。ジト目で竜也に睨まれてるのが目に浮かぶようですがw
ガンバレ竜也!仲間への不信をぶっとばせ!
センさんと竜也という何気に実力者の二人が揃いましたが、精神面、肉体面が本調子じゃないなか
どんな活躍を見せてくれるのか楽しみです。
新年早々から読めるとは幸せでした。面白かったです!GJ!!




394: ◆LwcaJhJVmo
09/01/07 15:45:34 1PhXHE0T0
これより、
クエスター・ガイ、ネジブルーを投下します。

395:ねじれた斧の惨劇 ◆LwcaJhJVmo
09/01/07 15:47:00 1PhXHE0T0
「ったくあのアマ!!」
 ガイは壁に向かってグレイブラスターをぶん投げた。それだけでは足らないらしく、今度は拳で壁を殴った。
 そして、そのまま壁にもたれかかって崩れ落ちる。
「ふざけんじゃねぇぞ……ボウケンピンクゥゥゥゥゥゥッ!!」
 あの時のボウケンピンクの無様な醜態……思い出すだせばストレスが溜まる一方だった。
 ボウケンジャーの中でも特に冷静に状況を判断できるボウケンピンクがあの様だ。青や黄色はもっと醜い姿を披露しているかもしれない。そんな姿を見れば、ボウケンピンクの姿と重なり、余計にイライラするだけだろう。
「だが高丘ァ……テメェなら……」
 ガイは標的として最も適切な人物の名を呟くと、グレイブラスターを拾い上げ、強く握った。

──

 ネジブルーはメガブルー─並樹瞬を求めて歩き続ける。
 だが彼の勘とは裏腹に、その付近にメガブルーはいない。禁止エリアという厄介なシステムの向こう側に、彼はいるのだ。
「いい加減出てきてくれよ、メガブルゥゥゥゥゥゥゥ!! 何か面白い作戦でもあるのかい? ヒャッハハハハハ!!!」
 人間の姿になっても、彼の考える事は今までと同じだ。メガブルーを殺す。
「ネジシルバーでもいいよぉぉぉ!! 俺も面白い作戦を考えたんだ!!」
 そのまま、彼は気が狂ったように笑い続けた。

──

396:ねじれた斧の惨劇 ◆LwcaJhJVmo
09/01/07 15:47:35 1PhXHE0T0
 ガイが叫びの塔を目指しながら、ついでに高丘を捜そうとしていたときに、近くからおかしな笑い声が聞こえてきた。
「ヒャッハハハハハ!!!」
 ボウケンピンクもある意味、そうだと言えるのだが、このバトルロワイアルというものは人を狂わせる何かがあるのだろうか。
ガイは高校生ほどの人間が五月蝿く地面を叩いている姿を見て地面につばを吐いた。
「クソガキィ!! うるせェんだよ!!」
 ストレス解消の意味も踏まえて、腹の底から大きな声でネジブルーに向かって怒声を浴びせた。ネジブルーもすぐにガイに気付く。ネジブルーは自分の快楽の一時を邪魔されたことで、玩具を取り上げられた赤子のように不機嫌な表情をする。
「なんだいお前は? 俺の楽しい時間を邪魔しようというのかい!?」
「おうよぉ! テメェみてぇにうるせぇガキはとっとと眠ってもらわねえとな!」
 ガイはグレイブラスターでネジブルーを狙撃した。弾丸が何発もネジブルーから少し離れたところに向かって放たれた。
「どこを狙ってるんだい? どうやらその身体のキズが邪魔してるようだね」
 ネジブルーは人間の擬態を解いて青いねじれたマスクの姿に変身した。
「なんだよ……バケモン仲間かよ」
 グレイブラスターをやけくそで撃ってみるが、命中する気配はなかった。距離が遠すぎるのだ。本当にただの高校生ならばこんなことにはならないのに……。ガイは自分の運命を呪った。
「まずはその傷口をズタズタに引き裂いてやるよ……!!」
 ネジブルーはネジトマホークをがっしりと握り、ガイの下へ走り出した。
 そして、ネジトマホークをガイに振り下ろそうと、その刃先を天に向けた。
「おい!! 待て待て。お前なんとかブルーを捜してたまさか放送の野郎か!!?」
 ネジブルーの手が、ガイの肩の寸前で止まった。
「知っているのかい!?」
「知らねえけどよ……オテツダイでもしようと思ってよ」
「お手伝い?」
「迷子の子猫ちゃんを一緒に捜してやろうと思ってよぉ─」
 ネジブルーの手がその真下に動いた。ガイの左肩を強烈な斧の一撃が襲った。


397:ねじれた斧の惨劇 ◆LwcaJhJVmo
09/01/07 15:48:06 1PhXHE0T0
「いてェェェェェェェェェェ!!!」
 左肩を押さえて膝をつき、断末魔が響いた。
「てぇん……めぇ……」
「そんな体の仲間なんて足手まとい。人質にする価値もなさそうだしね」
「こんの……やろう……!!」
 上目遣いになったガイに、ネジトマホークの強烈な一撃が近づいていく。
 だが、ガイはそれを右手のグレイブラスターで撃ち落した。
「痛ッ!! ……よくも俺の手に傷を……!!」
 ネジブルーは、グレイブラスターが握られているガイの右手に踵落としした。痛みに耐え切れず、その手はグレイブラスターを離してしまう。
「これでお前に武器はなくなったねぇ……お返しだよ」
 ネジブルーは再びネジトマホークを手に取ると、ガイの頭を割るように打撃を食らわした。意識なんて簡単に吹っ飛んでしまうくらいの痛みだ。
 そして、その体中の装甲にネジトマホークの刃を落としていく。─そんな猟奇的な殺し方が、彼にとって快感なのだ。
「さて、お前は誰かなぁ?」
 ネジブルーは手持ちの詳細付名簿を開いた。
「クエスター・ガイ……ずいぶんと強そうな名前じゃないか。でもまさかこんなに弱いとはねぇ……思わず笑っちゃうよ!!」
 ネジブルーは、反論することができなくなったガイを一度、軽蔑したような目で見ると、そのページを切り離し、紙くずのようにその辺りに捨てた。
「さて……お前は何かいいものを持っているのかな……?」
 そして、ネジブルーは彼の持ち物を漁りだす。
「たくさん持っているじゃないか!! こんなやつによく手に入ったねぇ……ウヒャヒャヒャヒャヒャヒャ!!」
 ネジブルーは彼の支給品全てを自分の持ち物にして、メガブルーとネジブルー─二つの標的を捜しに歩き出した。
 その顔は、再び邪悪な偽りの人間の姿へと変化していた。

【クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー 死亡】
残り29人



398:ねじれた斧の惨劇 ◆LwcaJhJVmo
09/01/07 15:51:37 1PhXHE0T0
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-5海岸 1日目 午前
[状態]:全身に打撲、傷有り。人間に擬態中。その間のスペックは能力を発揮しない限り、人間と変わりありません。二時間戦闘不可。
[装備]:ネジトマホーク@電磁戦隊メガレンジャー、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、支給品一式×3、支給品一式(ペットボトル1/2本消費)、竜也の支給品一式(ペットボトル2本消費)
詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器、クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、天空の花@魔法戦隊マジレンジャー、マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー、
何かの鍵、麗の支給品一式、魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す。
第一行動方針:メガブルーを苦しめるためにネジシルバー(早川裕作)を殺す。
※ズバーンとマシンハスキーはF-5都市に放置しています。

──

以上、投下終了します。
指摘、感想、修正点などお願いします。

399: ◆LwcaJhJVmo
09/01/07 18:56:15 1PhXHE0T0
状態表にミスがありました。申し訳ありません。

【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-7海岸 1日目 昼
[状態]:全身に打撲、傷有り。人間に擬態中。その間のスペックは能力を発揮しない限り、人間と変わりありません。二時間戦闘不可。
[装備]:ネジトマホーク@電磁戦隊メガレンジャー、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー、支給品一式×3、支給品一式(ペットボトル1/2本消費)、竜也の支給品一式(ペットボトル2本消費)
詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器、クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、天空の花@魔法戦隊マジレンジャー、マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー、
何かの鍵、麗の支給品一式、魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す。
第一行動方針:メガブルーを苦しめるためにネジシルバー(早川裕作)を殺す。
※ズバーンとマシンハスキーはF-5都市に放置しています。

400:名無しより愛をこめて
09/01/07 20:24:30 9QFjuPxc0
拝読いたしました。

正直に申しますと、ガイの行動に違和感を感じました。
ガイは自分が今まともに戦える状況では無い事を、今までの戦いの中で自覚しています。
そんな状態で、いくら苛立っているとはいえ、わざわざ戦いを挑むでしょうか?
ご回答をお願いします。

以降は避難所の議論スレでお願いします。
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

401:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:27:40 t8eDOkfD0
シグナルマン投下します。


402:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:28:19 t8eDOkfD0
「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

シグナルマン・ポリス・コバーンは絶叫を放った。
全身に嵌め込まれた信号機を燃えたぎる血潮のように赤く光らせ、己の足を完全に制止させる為に。

「本官は、本官!!!!????……がっ!!!!」
――――ドガッ!!

シグナルマンの声は激突音に掻き消された。
全速力で駆けたスピードと、群立した木々に警戒を怠った報い。
頭から大木に激突したシグナルマンは脳天を押さえその場に蹲った。

「前、前、前、前!前、前、前、前!!しっかり前見て走れよテメー!!いきニャり木に頭突きってどうなってんだ!?」
激突の衝撃で地に転がった魔法猫ことスモーキーがガラの悪い野次を飛ばす。
「な~~、何でもない!」
平静を装おうとしたが意志とは裏腹に、変に気の抜けたような裏返った声が出た。
「ニャんでもない訳ないだろ!!おい、ニャんだこりゃ。木が倒れてるじゃねぇか?!」
スモーキーのツッコミは至極当然。
哀れな森の木は、破砕機の如きシグナルマンの石頭と激突の末、僅かな根本だけを残し無惨にも薙ぎ倒されていた。

「細かいことは気にするんじゃない!ちょっと地図を確かめるために立ち止まっただけなのだ!」
「ア゛~~~~!?立ち止まっただぁ?」
不躾な視線を投げつけてくるスモーキーはガン無視。
シグナルマンはおもむろにデイバックから地図を取り出し現在地を『探るフリ』に没頭する。
探るフリ、あまりにも不自然な言い訳。
スモーキーにも脳天の痛みにも、秩序無き森林伐採にも、すべてに構うことなくシグナルマンはなぜそんな真似を始めたのか。

403:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:28:51 t8eDOkfD0
菜月と合流を果たすべく、何とか北東を目指したシグナルマンがなぜこのような行動をとったか。
それは……。

(ほ、本官としたことが!!B―5エリアからさらに北東へ進んでしまったら、菜月ちゃんに合流出来るはずが無いではないかッ!)

そう、菜月はブクラテスたちと共に居た所から北東にいるはずなのだ。
そこからスモーキーの出鱈目な指示で辿りついたのがB―5エリア。
最初の地点からかなり森を北へ進んでしまったうえ、さらにその位置から北東に進んでは、菜月と合流どころかどんどん離れてしまうことになる。

(と……とにかく、もう一度引き返えさなければ!!!)

冷静に考えればそのまま南下すれば良いだけなのだが。
シグナルマンは混乱していた上に、元々彼は何と言うか、まあ、その……。

その点に関しましては、自称『優秀なる警察官』であるシグナルマンが、チーキュなどというへんぴな地へ左遷……。
もとい、御栄転した経緯を考えてもらえばご理解頂けるかと。

おや、賢明な魔法猫スモーキーが彼の優秀さを察知したのかスッと目を細め尊敬の眼差しを向け……。
否、向けるはずが無い。

「おまえ、迷ったニャ……」
「ははははははは!!!!心配するな!本官が必ず菜月ちゃんを捜し出してみせる!」

スモーキーの言葉を遮り、ランプごとデイバックに詰め込みながら、シグナルマンは高らかに笑い、猛烈な勢いで森を引き返した。



404:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:29:15 t8eDOkfD0

§

全身全霊全速力。怒濤の勢いで森を駆け抜け、やがて息も上がり始めた時。

「ぐうおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!!」

シグナルマンは突出した木の根に足を取られ盛大にすっ転んだ。
転んだ拍子にデイバックから再び地に転がったスモーキーはピョンピョンとマジランプごと跳ね回り、底深な怒りを訴える。
「テンメェぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!今度はニャんだよぉぉぉぉぉぉ!!」
鼻は擦り剥け、マジランプは泥だらけ、スモーキーの背に黒い炎(注:CGによる演出です)が轟々と揺れる。
「す、す、す、すまん。木の根に足を取られて……」
シグナルマンは両手を前に突き出し、首を左右に振りながら必死に許しを請う。
「悪かったスモーキー!そんなに怒るんじゃない。牙を剥くなぁぁーーー!!」
「……………………んニャ~?」
ふと、牙を剥き出しシグナルマンに躙り寄っていたスモーキーの足が止まり、そのままきょろきょろと辺りを見回す。
「どうしたスモーキー?」
「おい、どこニャんだ、ここは?」
「はっ!こ……ここは?」

戻らなければ、戻らなければ、戻らなければ、戻らなければ、戻・ら・な・け・れ・ば!!!
その思いにだけに捕らわれていたシグナルマンは辺りを見て呆然とする。
(ほんの少ーーーーーーし、戻りすぎただろうか)
ぶつぶつと文句を垂れ流すスモーキーに背を向け、こそこそと地図とコンパスを片手に、走る速度と時間を思い返しながら距離を測る。
距離の計算式は『は×じ=き』だからえーっと、えーっと、えーっと……。

(省略されました・・ 続きは(ry……)

おそらく、ここはC-4エリア。

(も!戻りすぎたぁぁぁぁ!!!!)

405:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:30:22 t8eDOkfD0
口には出さず、ただ神に祈るポーズのみで心からの叫びを表現する。無論、スモーキーに余計な心配をさせまいが為の優しさである。
心では叫んだが、全力で走れば取り返せない距離ではない。
即座に立ち直ったシグナルマンは先を急ぐべく、先程からおとなしくなっていたスモーキーに手を伸ばす。
「ん?何をしているーーーー!」
「あむ」
その時スモーキーは口に何かをくわえ、ランプの中へ潜り込もうとしていた。
「こら!拾い食いするんじゃない。お腹を壊したらどうするんだ!」

ベシベシベシベシベシベシベシベシ!
ベシベシベシベシベシベシベシベシ!!
ベシベシベシベシベシベシベシベシ!!!
ランプを逆さまにし、くわえた物を吐き出させようと叩く!叩く!!叩く!!!
ベシベシベシベシベシベシベシベシ!!!
ベシベシベシベシベシベシベシベシ!!
ベシベシベシベシベシベシベシベシ!


「ニ゛ギャァァァァァーーーー!!」

雄叫びとも断末魔ともつかない声を鳴らしたスモーキーの口からポロッと何かが落ちた。
気合いもろともシグナルマンは、

「ふん!!!」
――――パリン!



406:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:30:56 t8eDOkfD0

それを踏み付け、悪食を諌めた自分の行いに思わずガッツポーズをとる。

しかし、残念ながら足の下から聞こえた音は『パリン!』でした。
明らかに食べ物を踏んだのとは違う音です。

恐る恐る足をあげると3cmほどの△、小さな鏡の破片が木っ端みじんに砕け散っていた。

(動物は光る物を集める修正がある。まさか、この破片は森の中で見つけた『キラリ☆宝物』だったとか?
待て、この猫がそ~んなに繊細だったりするだろうか。おっと、そうだ。あれは鳥だか犬の話だった。やっぱり、ただお腹が空いただけなんだろう!)

シグナルマンは自分勝手な結論を下し、ごそごそと支給品のカツサンドを取り出しスモーキーへそっと差し出した。

「これを食べればもう安心だ!正義は『カ・ツ・サンド』だ!!あははは!ははは……はは……」

……………………………しーん。

押し潰されるかと思うほどの静寂。
ある種の底知れぬ寒さが辺りを包みこんだ。

「ニャッ!」

人語で訳せば「ケッ!」といった感じだろうか。
スモーキーは呆れ果てたのか履き捨てるように鳴いた後、ランプの中へ姿を消した。

再度訪れる、静寂。

407:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:31:25 t8eDOkfD0
ランプを擦っても叩いても、スモーキーは一向に出てくる気配がない。
「おーい。スモーキー……くん」
答えは無い。
シグナルマンの声は森に吸い込まれていく。
息が詰まるほどの、静寂。
急激にものすごく悪いことをしてしまったように思えてきた。

(本官はなんということを!やはり。あれは大事な宝物だったのか?!本官にとっては不燃ゴミでもスモーキーにとっては宝石だったのだ!!!
あぁぁぁぁぁぁ!!!!!どうしたらいいんだ。
「宇宙お笑い君こそスター誕生」の4週間連続勝者である本官渾身のギャグに失笑すらできないほど、スモーキーは心を閉ざしてしまった!!!)

後悔が深く胸に突き刺さる。
初めて出会った時、メレの一件で落ち込むシグナルマンをスモーキーは元気付けてくれた。
森で迷ってしまったのも、ブクラテスに従うのが癪だっただけでスモーキーは彼なりに菜月を捜し出そうとしていただけなのに。

(本官はスモーキーの信頼を失ってしまったんではないだろうか?)

信頼。何よりも強く人を支えるであろう『盾』
このような殺し合いの場においてでは、なおのこと。

この不始末を挽回すべく、シグナルマンが取るべき道は一つ。
シグナルマンは決意を新たに、ランプの蓋を持ち上げ大声でスモーキーに呼びかけた。
「さっきのことはすまなかった。スモーキー。お詫びに本官が一刻も早く菜月ちゃんを探し出してみせる!」


誰も通らない深い森の中を、草むらを掻き分け、木々を摺り抜け、根を飛び越え……。

「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!」

限界突破で駆け抜ける。
行け!シグナルマン・ポリス・コバーン。走れ!!シグナルマン・ポリス・コバーン。

408:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:31:52 t8eDOkfD0


§

ランプの中、スモーキーはゴロンと身体を横たえた。
閉じる瞼に浮かぶのは麗、深雪、そして……ヒカル。

森に落ちていた小さな小さな鏡の破片。
スモーキーはその鏡が何であるかを知っていた。
小さな小さなその鏡が映したことが現実のものであることも。

「ダンナのヤツ。殺っちまいやがって。ニャハ、麗が死んじまってトチ狂っちまったか?それとも敵討ちかよ?
……まぁ旦那に直接聞いて見ニャきゃわかんねーけどよ」

森に落ちていた小さな小さな割れたメメの鏡の破片。
誰かが落とした物なのか。
それとも、ロンが気まぐれでばらまいた悪意だったのか。
鏡が映したのはヒカル。
ヒカルが参加者の誰かを刺し貫いた姿。

「ったくよぉ~。本気でダンナは大バカヤローだぜ……」

自分からは、遥か離れた遠い位置。そこで苦悩する飼い主に向かい、スモーキーはそっと呟いた。



409:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:32:16 t8eDOkfD0

【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:C-4森 1日目 午前
[状態]:健康。少し凹み気味。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(残数2個)、ウイングガントレッド@鳥人戦隊ジェットマン、メレの釵
 マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:強い怒りと悲しみ。菜月を探し出す(再び北東に向かう)。その後、竜也たちと合流。
第二行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第三行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。

【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:C-4 森 1日目 午前
[状態]:健康。マジランプの中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルを探す
第一行動方針:強い怒りと悲しみ。菜月を探し出す(北東に向かう)。
※落ちていたメメの鏡の破片(粉砕)によってヒカルがサーガインを刺したのを見ています。

410:『キラリ☆宝物』 ◆MGy4jd.pxY
09/01/08 19:33:34 t8eDOkfD0
以上です。
ですが議論が必要かと思う箇所があります。

場所の設定は面従腹背の時ドロップが転んだ場所と考えて、ドロップが転んだ時にメメの鏡の破片の一部を落としてしまったと仮定しております。
実際に割れた描写は書いておりませんし、行動、場所等の指摘を踏まえて意見が伺えたらと思っております。
なお、現在地の時間表記ですが、前話から2時間経過していないので午前にしております。

よろしくお願いします。



411:名無しより愛をこめて
09/01/08 20:22:15 WEeU0UFIO
投下GJ!です。
シグナルマン何やってんだwwwwww
遅ればせながら間違いに気が付いたのは良かったですが、
天然に暴走気味というか、正直おバ……いえ、なんでもありません。はいw
全て、いたって真面目にやってるのがかえって、おかしかったです。
和ませていただきました。

スモーキーは辛い現実を知ってしまいましたね。
手が届かない位置にいるだけに辛いだろうな……

ギャグと最後のシリアスのギャップが絶妙でした。
面白かったです。GJ!!

412:名無しより愛をこめて
09/01/08 20:30:16 WEeU0UFIO
っと、メメの鏡に関してですが、自分は問題ないと思います。
あの状況でしたら、割れていても不自然ではないと思いますので。

413: ◆i1BeVxv./w
09/01/10 19:00:52 zhMrERPV0
GJ!
行動指針は間違っていないのにやることなすこと裏目に出るシグナルマン。
ロワの途中だというのに、ここまで爆笑の渦を巻き起こしてしまうのは流石でした。
色々、吹かせていただき、楽しかったです。
メメの鏡については私も問題はないと思います。

それでは私も投下いたします。

414:欺瞞と寂寥の果て ◆i1BeVxv./w
09/01/10 19:02:28 zhMrERPV0
 林のように立ち並ぶビル街の一角。
 まるで隕石でも直撃したかのように瓦礫の山と化し、最早ビルとは言えないそこに、まるで悪魔の如き容姿をした男の姿があった。
 冥王ジルフィーザ。
 彼はひとり佇み、ティターンがドロップを連れて来るのを今か今かと待ち受けていた。
(ぬぅぅ、まだか)
 待ち続けること、早2時間。能力の制限も解け、天の力が身体中に漲っているのを感じる。
 本音を言えば、約束を反故にして、元来た道を戻り、自分の手で決着を着けたいと考えていた。
 だが、ジルフィーザがそれをしないのは、ただただティターンへ寄せる"信頼"、その一点につきる。
 自分と互角かそれ以上の実力を持つ男との約束だ。
 例え、愛する弟のことと言えども、彼との約束を破るということは、彼と自分の誇りに泥を塗る行為に他ならない。
 ジルフィーザは待った。
 やがて、彼の前に視線の先に、白いバイクに乗った複数人の人影が見えた。
「来たか」
 まず、見えたのは見知らぬ人間の女性の姿。
 ジルフィーザは彼女がドロップと共に人質になっていた美希ではないかと思い当たる。
 だが、誰であろうとジルフィーザにとってはどうでもいいことだ。すぐに女性の側らにいる少年へと視線を移した。
 純白の服を着たその少年は一度、タワーに昇った時に眼にしている。
 あの時はドロップではないと判断したが、ティターンの話しによれば、この少年がドロップらしい。
 ティターンを疑うわけではないが、果たして、本当なのだろうか。
 早速、当人に訪ねて見ようと口を開こうとする。しかし、ジルフィーザはそれより先に別のことが気にかかった。
「ティターンはどうした?」
 気配を探ってみたが、こちらを窺っている誰かはいるものの、ティターンと思わしき者の姿は見えない。
 わずかな時間ではあったが、ティターンの性格ならば、必ずドロップと同行して来るものとだとジルフィーザは考えていた。
 襲撃者とでも戦っているのだろうか。それともバイクのスピードに付いて来れず、遅れて来るのだろうか。
「ティターンは―」

415:欺瞞と寂寥の果て ◆i1BeVxv./w
09/01/10 19:03:24 zhMrERPV0
 女性が口を開く。だが、それを遮り、側らの少年が言葉を繋いだ。
「殺しました」
「何ぃ!?」
 驚愕の声を上げるジルフィーザ。そして、彼と同様に女性も驚愕の表情を浮かべる。
 まるで、話が違うと言わんばかりに。
 驚く二人を余所に、少年は話を続ける。いや、見た目こそ少年ではあるが、既にその声は彼の外見に似合わず、力強い青年の声に変わっていた。
「私は殺し合いに乗ったのです、兄上様。そして、殺し合いに乗った私にとって、ティターンは邪魔だった。だから、隙を見て、殺したのです。彼女と一緒にね」
「ぬぅぅっ」
 ティターンの死を聞き、愛用の杖を握るジルフィーザの手に自然と力がこもる。
 その様子を見て取ると、ドロップはジルフィーザへと駆け寄った。
「兄上様、なぜ怒っているのです?我ら災魔一族以外の者がどうなろうと構わないではありませんか」
 少年は邪悪な笑みを浮かべ、ジルフィーザの瞳を真っ直ぐに見詰める。
 対して、ジルフィーザも視線を交差させ、少年の瞳を真っ直ぐに見詰めた。
(こいつ、瞳の奥に燃え盛る炎が見える)
「貴様、本当にドロップなのか」
「兄上様が疑問に思うのも無理はありません。私は兄上様が生きていた時間より後、グランドクロスが完成した後の時間から来ています。
 既に私の身体は繭となり、後一歩で成体になれる段階まで、成長いたしました。
 ところが生命のバランスが崩れ、魂だけが繭より抜け出した。それが今の私です」
「にわかには信じ難い話だが」
 しかし、ジルフィーザは信じるしかなかった。
 タワーの屋上で見た時はわからなかったが、こうして真っ直ぐに相対してみれば、少年がドロップであることは疑いようがない。
 ジルフィーザが彼に見た炎は、紛れも無く、災魔の証。だが、それならそれで疑問がある。
「なぜ誇り高き災魔一族が、ロンなどという者の言うことを聞かねばならん」
「そのことですが、確かにグランドクロスは完成し、母上様の降臨はなされました。
 しかし、人間達の抵抗は著しく、完全な状態での降臨は叶わなかったのです」
「なんだと、母上様の身にそのようなことが」

416:欺瞞と寂寥の果て ◆i1BeVxv./w
09/01/10 19:04:04 zhMrERPV0
「はい。ですから、私は母上様の完全なる降臨のために我ら災魔一族が優勝し、彼に願いを叶えてもらおうと考えました。
 勿論、最終的には兄上様を優勝させるために、私は自らの命を断つ覚悟でしたが」
 神妙な面持ちで頭を垂れるドロップ。
 その姿にジルフィーザは怒りが急速に治まっていくのを感じた。
(ドロップはドロップなりに母上のために一生懸命だったのだろう。だが、ドロップはまだ子供。少し極端な手段に走りすぎてしまったといったところか)
 ジルフィーザはドロップの行動に納得すると、その手を彼の頭の上へと置いた。
「ドロップ、お前の覚悟はわかった。だが、やはり彼奴に従う必要性は感じん。彼奴が本当にそれほどの力を持っているのか確証はない。
 何より、母上様のことならば、我ら自身の手で成し遂げてこそ、意味がある。心配はいらん。今からはこのジルフィーザに全て任せておけばいい」
 愛おしげにドロップの頭を撫でるジルフィーザ。
 その様子を複雑な表情で見る女性。
「それで?貴様は何者だ」
 女性はジルフィーザの問いに答えようとする。だが、またしてもドロップが彼女の言葉を遮る。
「そいつは真咲美希。優勝するために私を利用しようとした人間です」
「あなた……」
「申し訳ありません。このような姿なばかりに人間などに屈することに」
「よい。それも仕方のないことだ。だが、お前が受けた屈辱、この私が晴らしてくれよう」
 ジルフィーザは美希を見ると、敵意を剥き出しにする。
 激昂する兄の後ろで、ドロップは声を出さずに口を動かした。
(バイバイ、お姉ちゃん)



 美希は自分の愚かさを嘆いていた。
 眼前には激昂し、今にも襲い掛からんとするジルフィーザの姿。
 分が悪いという言葉が陳腐に思える程、絶望的な状況だ。
 そして、この状況を引き起こしたドロップは美希に向けて微笑んでいた。
(いい気なものね)
 思えば、ドロップが子供というところに油断があったのかも知れない。
 確かに彼は、初めて会った時は脆弱で無防備な子供だった。
 だが、ティターン殺しを積極的に行った時点で気付くべきだったのだ。

417:欺瞞と寂寥の果て ◆i1BeVxv./w
09/01/10 19:04:47 zhMrERPV0
 もはや彼は最初に会った子供とは別人になっていると。
「覚悟はいいか、女?」
(来る)
 過ぎた事を悔やんでも仕方ない。
 美希は気持ちを瞬時に切り替え、ここから撤退する方法を模索する。
(ジルフィーザにはまだ油断があるはず。彼に渾身の一撃を撃ち込んで、その隙に逃げる!)
 マトモにぶつかって勝てる相手ではない。それならば、逃げるという選択肢がもっとも現実的だろう。
 ジルフィーザが美希に向かって駆けて行く。
 その様は隙だらけ。やはりジルフィーザは油断している。
「ゲキワザ・貫貫掌!」
 美希は激気を練ると、カウンター気味に拳を撃ち込んだ。
 それは見事にジルフィーザの胸へと命中する。
 だが―
(激気が出ない!?)
 美希の拳に激気は纏われていなかった。岩をも砕く必殺技も、これでは単なるパンチと違いがない。
 そして、単なるパンチでは冥王の冠を頂くジルフィーザにダメージを与えることなど、できようはずもない。
「痒いな、女」
 嘲るような声。
「何か策があるかと思ったが、買い被り過ぎだったか?」
「くっ」
 美希は激気が封じられた原因に、すぐに思い当たる。首輪による制限だ。
 制限があることは知っていた。だが、誤解があった。
 美希は制限は変身や化け物の特殊な能力に対して行われ、まさか生身である自分にも適用されるとは思っていなかったのだ。
(油断してたのは、私の方だったっていうこと)
 悔やむ美希の首をジルフィーザが掴む。そして、そのまま彼女の身体を駆軽々と持ち上げた。
 あっさりと、彼女の足は大地から離れる。
「このまま、捻り潰してくれる」
 ジルフィーザの腕に、徐々に力が込められていく。そして、それに比例して、美希の苦しみは増していく。
 美希は手足をバタつかせ、必死に抵抗するが、ジルフィーザは身動ぎひとつしない。
(こ、ここまでなの……なつめ!なつめなつめ!なつめ!!!)

418:名無しより愛をこめて
09/01/10 19:05:42 VEAvQamQ0


419:欺瞞と寂寥の果て ◆i1BeVxv./w
09/01/10 19:06:03 zhMrERPV0
 娘との日々が走馬灯のように頭をよぎった。
 なつめを救うまでは死ぬわけにはいかない。
 だが、そのような想いだけでひっくり返せるほど、ジルフィーザは甘くはない。
 次第に、意識が朦朧としてくる。
 落ちる。美希がそう思った瞬間、ジルフィーザの腕から火花が上がった。
「メガトマホーク!」
 青いスーツを装着した戦士が愛用のトマホークでジルフィーザの腕を攻撃したのだ。
 痛みに手を離すジルフィーザ。そして、崩れ落ちる美希の身体をその戦士はやさしく支える。
「何者だ貴様!」
 左腕に美希を抱え、ジルフィーザを威圧するかの如く、右腕を突き出す青の戦士。
 そして、戦士は高らかに名乗りを上げた。
「メガブルー!」
「ほぉ、貴様が噂のメガブルーか。折角だ。邪魔をすると言うのなら、貴様がどれほどのものか、その実力確かめて見るとしよう」
 メガブルーは無言のまま、地面に美希を下ろすと、ジルフィーザに向かって構えた。
 ジルフィーザもそれに合わせて、杖を構える。
「いくぞ!」
「はっ!」
 メガブルーはホルスターからメガスナイパーを抜くと、地面を撃ち、真っ向から斬りかかろうとするジルフィーザの足を止める。
 舞う土埃にジルフィーザが怯んだ隙に、メガブルーは飛び上がると、身体を高速で回転させ、トマホークを振るった。
 メガブルーの得意技、トマホークハリケーンだ。
 だが、ジルフィーザはそれをあっさり杖で防ぐと、回転を力ずくで止めさせる。
「甘い!」
 続いて、ジルフィーザは空いた方の手でメガブルーを掴むと、そのまま投げ捨てた。
 大地に背中から叩きつけられるメガブルー。すかさず、ジルフィーザは杖をメガブルーの首へと放った。
「ぐはっ!」
「どうした、貴様の力はその程度か」
 動けないメガブルーの胸を足蹴にする。何度も何度も何度も。
 だが、戦況はメガブルーの思惑通りに進んでいた。何故なら、ジルフィーザが自分に気を取られているからだ。
 ゴーグルの縁で、メガブルーは美希の様子を確認した。
 見れば、美希は悟られぬよう、ここから逃げ出そうとしている。

420:欺瞞と寂寥の果て ◆i1BeVxv./w
09/01/10 19:06:38 zhMrERPV0
 それでいい。メガブルーの目的は美希の救出にある。
「兄上様、女が逃げます!」
 しかし、メガブルーの思惑も、戦況を冷静な眼で観察できるドロップには通用しなかった。
 そして、彼の言葉を聞き、ジルフィーザは興味の対象をメガブルーから美希へと戻す。
「ぬぅ、逃がさん」
 メガブルーを抑え付けたまま、ジルフィーザが美希に杖を向けた。
「させるか。メガスナイパー!」
 杖から破壊光線が放たれるが、メガブルーのメガスナイパーから放たれた光弾が杖の方向を変え、破壊光線の軌道を逸らす。
「おのれ、余計な真似を」
 怒りに再び、杖をメガブルーに打ちつけようとするジルフィーザ。狙いは頭だ。
 だが、大振りなその攻撃をメガブルーは見切っていた。寸前で首を逸らし、避ける。
 その行動に、ほんのわずかだが、ジルフィーザが動揺したのが、脚を通して、メガブルーへと伝わる。
 その好機をメガブルーは逃さなかった。
「メガスナイパー!」
 3度目のメガスナイパーが、ジルフィーザの頭部へと命中した。
 至近距離からの攻撃に、流石のジルフィーザも痛みに顔を顰める。だが、これで攻撃を終わらせるメガブルーではない。
 メガブルーは身体を跳ね上げ、ジルフィーザを退けると、身体を回転させ、そのまま延髄切りを放った。
 技の名前通り、メガブルーの蹴りが延髄へと炸裂する。
「ごっ!」
「今だ」
 メガブルーの頭部にデジタルテレビの紋章が浮かび、そこから放たれた光線がジルフィーザを捉えた。
「ヌォォォォッ!」
 光に包まれるジルフィーザの身体。
「ええい、小賢しいわ」
 必死に光を振り払うジルフィーザ。
「ぬぅ、なんだこれは」
 数秒の後、光が治まる。だが、そこで眼にした光景は今まで見ていたものとまるで異なっていた。
 ビルはどこぞやの倉庫に変わり、いつの間にか無数の黒服の男に取り囲まれている。
「これは……幻覚だな」
 そうそれはメガブルーの能力、バーチャルビジョン。敵を仮想空間に閉じ込める技だ。

421:名無しより愛をこめて
09/01/10 19:06:43 CQEN2XVXO



422:欺瞞と寂寥の果て ◆i1BeVxv./w
09/01/10 19:08:38 zhMrERPV0
「くっ、このジルフィーザとしたことが」
 機関銃を手に襲い掛かる黒服の男たち。
 ジルフィーザは杖を振り回し、男たちを迎え撃った。



「おのれ、逃げられたか」
 仮想空間で襲い来る敵を一網打尽にし、ジルフィーザが脱出を果たした頃には、メガブルーと美希の姿はその場から消え去っていた。
 時間にして1分と満たなかったが、それだけあれば、身を隠すには充分。もう追っても無駄だろう。
「残念でした兄上様」
「うむ、すまないドロップ。この兄としたことが」
 ばつが悪そうに謝るジルフィーザ。しかし、ドロップはにこりと笑うと、言葉を返した。
「いいえ、兄上様は私のために戦ってくれました。それだけで充分です。
 それより、F-9エリアに私の身体があります。それさえ、あれば災魔の姿に戻り、成長が遂げられるはずです。
 そうすれば、兄上様の力になることも可能かと。しかし、今はこの有様。兄上様に同行していただけるとありがたいのですが」
 ドロップの申し出をジルフィーザは快諾する。
「よかろう、ドロップよ」
「ありがとうございます、兄上様」
 ドロップはジルフィーザに恭しく頭を下げると、彼に背を向け、東へと歩き出した。ジルフィーザも彼の後を追う。
(女を殺せなかったのは残念だったが、ジルフィーザに力を使わせるのには成功したな)
 道すがら、ドロップは今後について策を巡らせ始める。その胸中には恭しさの欠片もない。
 ドロップの時間軸ではジルフィーザは既に過去の存在。そして、彼が持っていた冥王の星は自分に受け継がれている。
(今更、でしゃばられても困るんだよ。天の時代は終わり、龍の時代となろうとしている)
 もはや、ドロップにとって、ジルフィーザは邪魔者でしかなかった。
 だが、ジルフィーザの強さはわかっている。もし真正面から戦えば、勝つにしても、相応のダメージを受けることは間違いない。
 そうなると、後々の行動に影響が出てしまう。ならば、制限を利用すればいい。
 そうすれば、いかに冥王といえども、物の数ではなかろう。
(冥王はふたりもいらない。俺が成長し、そして、俺の制限が解けた時、それが最期の時だ)

423:欺瞞と寂寥の果て ◆i1BeVxv./w
09/01/10 19:09:32 zhMrERPV0
 ドロップは来たるべき時に向けて、拳を力強く握り締めた。



「とりあえずここまで来れば、安心ですね」
 瞬が安堵の声を吐く。
 海岸H-7エリア。波に削られた荒々しい岩の陰、何故かぽっかりと空いたその場所に、瞬たちは腰を落ち着けた。
 メガブルーの変身が解除される直前に、この場所を見つけることが出来たのだから、中々、幸運といえる。
 美希もメガブルーに担がれて移動したおかげで、荒かった呼吸はすっかり正常な状態へと戻っていた。
「ありがとう、助かったわ」
 笑顔で礼を言う美希。対して、瞬も笑顔で返すが、すぐに神妙な面持ちへと変わる。
「どうしたの?」
 急に沈黙した瞬を、美希は訝しげに見詰める。
「……いえ。それより、なんでジルフィーザと戦うことに?」
「それが、ドロップを渡すと、途端に人間は信用できないって、襲い掛かって来たの。
 きっと、彼は最初から殺し合いに乗っていたのね。早くみんなに知らせないと」
 微塵もの動揺も見せず、美希は応えた。心配そうな表情のおまけ付きだ。
 真実を知らぬ者ならば、きっと彼女を信じてしまうだろう。
 しかし、瞬は表情を変えず、更に質問を行う。
「……ティターンはどうしたんです?」
「ティターンは、ここに来る途中に襲撃を受けて。私たちを逃がして、それっきり。無事だといいけど」
「………」
「瞬。さっきからおかしいわよ」
 俯き、何事か考えている様子の瞬。
 やがて、考えがまとまったのか、瞬は美希を真っ直ぐに見詰めると、重々しく口を開いた。 
「美希さん、嘘……ですよね」
「何が?」
「あなたが優勝を目指しているって。殺し合いに乗ったって」
 美希はその言葉を聞き、一瞬だけ俯くが、すぐに笑顔を浮かべる。
「瞬、あなた何を言って……」

424:名無しより愛をこめて
09/01/10 19:09:36 VEAvQamQ0



425:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 19:35:53 VEAvQamQ0
「聞いてたんですよ!ドロップとジルフィーザの話を!最初はドロップが口から出任せを言ってると思った。
 でも、あなたは俺の問いに、どちらとも嘘で応えた。
 違うというなら、なんで嘘を吐くんですか。俺が納得いく答えを教えてください!」
(……なんだ、聞いてたんだ)
 美希の顔が笑顔が消える。そこに騙そうしたことの罪悪感はなかった。
 既に美希は瞬の口を封じるか。そのことを考えていた。好都合なことに彼は制限の真っ最中だ。
「今ならまだ引き返せます。俺だって、一度は夢のために殺し合いに乗ろうとした。
 でも、マトイさんのおかげで戻ることができた。あなただって―」
 どうやら瞬は自分を説得しようとしているようだ。
 滑稽に見えるほど、一生懸命に説得の言葉を紡いでいる。
 無駄だ。その段階はとっくに過ぎている。
「一緒にしないで」
 底冷えのしそうな程に冷たい声。それでいて、美希はまるで子供にわかりやすく教えるように言葉を続けた。
「あなたは誰一人、殺してないでしょ。私は違うのよ。スフィンクスを殺し、ティターンを殺した。
 そして、あなたを助けたマトイさんも」
「ま……さか、あの爆発は……」
 美希は瞬の問いに頷くことで応える。
 すると、瞬は驚愕に眼を見開き、明らかに動揺を見せていた。
 拳を握り締めたかと思うと、震えながら手を開き、手を開いたかと思うと、また握り締めた。
「っっっ……あなたを拘束します」
「できるかしら?メガブルーになら兎も角、生身のあなたには負ける気はしないわ」
 年齢の差はあるとはいえ、片や普通の高校生。片や獣拳の使い手。更に蓄積された戦いの傷や疲れは瞬の方が深い。実力の差は明らかだ。
「俺にはこれがあります」
「それはゴウライチェンジャー?」
 瞬はディパックから取り出したゴウライチェンジャーを美希に見せる。
 確かに変身機器が異なれば、2時間という制限も別々にカウントされる可能性は充分にある。
 そして、変身が出来れば、戦力の差はあっという間に埋まることだろう。
 しかし、美希は余裕の笑みを崩さなかった。
「瞬、教えてあげるわ。切り札は相手に使うことが悟られちゃ、意味がないのよ!」
 一閃。美希の回し蹴りが、ゴウライチェンジャーを持つ瞬の手を強襲する。

426:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 19:37:27 VEAvQamQ0
呆気なく、地面へと転がるゴウライチェンジャー。そして、瞬はその様子を眼で追った。
(やっぱり、戦士になったとはいえ、まだまだ素人ね)
 美希はその隙を見逃さない。瞬を押し倒すと、そのまま彼の首に手を掛けた。
 瞬の首を締め上げる美希。
 だが、美希にもミスがあった。
 瞬の殺し方に絞殺を選んだことだ。鍛えてあるといっても女性の力。途端に意識が奪われることはない。
 瞬はディパックの中から、たまたま手に触れたカプセルを取り出すと、美希の頭に叩きつけた。
「ぁっ!」
 金属製の鈍器による一撃は彼女の力を弱らせる。瞬はもう一度、彼女の頭にカプセルを叩きつけた。
「うぐっ!」 
 美希の脳が揺らされ、彼女の額から血がタラリとしたたる。
 このままでは逆に殺されてしまうと判断した美希は、絞殺を諦め、一度、間合いを取った。
「はぁはぁ……もう…………やめて………もうやめてください………………美希さん!」
 息も絶え絶えながら、必死に美希を説得しようとする瞬。
 だが、美希はそれを命乞いとして受け取った。そして、彼女は命乞いを聞くつもりはない。
(ゴウライチェンジャーを奪えれば……いえ、そうだ、私のディパックにはスタッグブレイカーが)
「美希さん!!!」
 
―カポッ―

 思わず腕に力が入ったのだろう。その場にそぐわぬ間の抜けた音を立てて、瞬が手にするカプセルが開いた。
「えっ?」
 瞬は反射的にそのカプセルの中身を見た。そこにはこの世のモノとは思えない醜い虫たちが多数蠢いていた。
「うわっ、うわぁぁぁぁぁぁっ!!!」
 その声が合図になった。カプセルから飛び出した虫たちは、まず最初の1匹目は彼の頭部に張り付き、続いて、腕、脚、胸、腰へと順々に張り付いていく。
「何、これは」
 そのおぞましい光景に、美希も激しい嫌悪と恐怖を覚えた。
 瞬は懸命にそれを剥がそうとするが、四肢を抑えられ、状態では無理な話だった。
「た、たすけ……ひぃぃ……」
 助けを求め、必死に悲鳴を上げる瞬。だが、その悲鳴も数秒もしない内に聞こえなくなった。

427:名無しより愛をこめて
09/01/10 19:37:48 CQEN2XVXO
支援

428:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 19:38:27 VEAvQamQ0
そして、まるで手足を毟られたの昆虫のように身体がピクピクと痙攣を始める。
 その断末魔に美希の殺意は失せていた。もはや直接、手を下さなくとも、瞬は死ぬだろう。
 だが、美希の嫌悪と恐怖は未だ続いていた。
(ここにいてはいけない)
 美希は踵を返す。視界に一瞬、ゴウライチェンジャーが入ったが、美希はそれを無視し、その場から逃げ去った。


 
「はぁはぁはぁ」
 美希は走っていた。1メートルでも、1センチでも、瞬から離れるために。
 まだ嫌悪と恐怖は消えていない。それどころか膨れ上がっていくのを感じる。
(あれは一体……)
 疑問。そんな美希の心の声に、応えるよう、声が響き渡った。
「―次元虫ですよ」
 その声を美希が聞き間違えるはずがない。今、美希が最も怨めしく思っている男の声。
 美希はその声の主の名を叫んだ。
「ロン!」
 黄色い靄が人間の姿を形づくる。この殺し合いの主催者、ロンの姿を。
「並樹瞬に寄生したのは裏次元に生息する次元虫という生き物です。中々、面白い特性を持っていましてね。
 無機物に寄生し、その無機物を次元獣に生成するのですよ。そして、それを強化したバイオ次元虫は更に次元獣に動物の能力を付加することができます。
 でも、アレ単体ではか弱い生き物ですよ。"虫"ですからね」
「次元虫……」
 ロンは頷くと話を続ける。
「本来なら生物には寄生しないんですけど、アレはある時間、ある場所から持ってきた特別性の次元虫でして。
 いや、苦労した甲斐がありました、まさか無機物ではなく、人間に寄生するとは、私でさえ予想できませんでした」
「寄生?じゃあ、もしかして、瞬は―」
「ええ、生きていますよ。宜しければ、確認しに戻られたらいかがですか?」
「冗談じゃないわ。それより、なつめは無事なの!」
「そうそう。私の用件はそれなんですよ。まずはおめでとうと言わせていただきましょう。
 あなたには恐れ入ります。今現在、殺害数はあなたがトップですよ」

429:名無しより愛をこめて
09/01/10 19:38:44 CQEN2XVXO



430:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 19:41:33 VEAvQamQ0
 小さく拍手するとロン。
「娘さんも喜んでいました。ママが私のためにいっぱい人を殺してくれて嬉しいって」
「なつめが……なつめがそんなこと言うわけないじゃない」
「おや、本当にそう言い切れますか?誰だって命は惜しい。自分の命が他者に委ねられているのです。
 思わず応援してしまうのではないですか?」
「それは……」
 美希はロンの言葉に沈黙する。
 声高らかにロンの言葉を否定したいのは山々だったが、娘のためという名目で3人もの犠牲者を出した自分にそんなことを言う資格はない。
 そんな美希の心情を察知したロンは込み上げて来る笑いを抑えることが出来なかった。
 これから自分が語る内容を考えると、美希の想いはあまりにも可笑しい。
「クククッ、ハハハッ、なんて、冗談……ですよ。娘さんはそんなこと言っていません。というより、こんな時にどんなことを言うのか、私にはさっぱりわかりません。
 なにせ、なにせぇーーー、私はなつめさんを人質になどとっていないのですから」
「……えっ?」
「クククッ、驚きました?というか私は一言もなつめさんを人質にしたとは言っていませんよ。
 殺し合いに乗れと、強要した覚えもありません。ただ、あなたが寂しい思いをしないようなつめさんの持ち物を支給しただけです。
 それをどう勘違いしたのか、あなたはなつめさんのためという名目で殺し合いに乗ってしまった。
 私が今回、あなたの前に姿を現したのはあなたの勘違いを正すため。純粋な善意からです」
 ロンの言葉に美希は呆然とする。
 なつめが人質になっていなかったのは嬉しい。だが、もし、なつめが人質になっていなかったのなら、自分がやってきたことはどうなるのか。

431:名無しより愛をこめて
09/01/10 19:42:05 CQEN2XVXO
支援

432:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 19:42:25 VEAvQamQ0
「そ、そんな……。でも、あなたは言ったわ。なつめを失いたくなければ戦えって」
「ええ、それは確かに言いました。でも、それはあなたが死んだら、あなたとなつめさんはこの世とあの世に分かれることになる。
 あなたから見れば、それはなつめさんを失うということですよね?」
「嘘、嘘!」
 ロンの曲解を否定しようとする美希だが、今の美希には嘘という言葉だけしか呟けなかった。
 その様子を見たロンはより一層、笑みを深くする。
「おやおや、どうして信じないんですか?あなたにとってはこれ以上ない喜ばしいニュースだと思いますが。
 クククッ、まあ、そうですよね。なつめのためにやった。その免罪符が虚構だったのなら、あなたがやってきたことは一体、なんだったのか。
 ……なんだったんでしょうね?」
 息が吹きかかる距離まで、美希に近づくロン。その滑稽な顔を確認しながら、話をするためだ。
「!」


433:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 19:43:26 VEAvQamQ0
 その時、美希の拳が彼へと飛んだ。
 しかし、直前でロンの身体は靄となり、彼女の拳は空しく空を切る。
 美希は諦めず、次々と拳を繰り出すが、気体となったロンを傷つけられるはずもない。
「まったく、八つ当たりですか。気は済みましたか?」
 やがて、美希の息が切れる頃、ロンは気体から固体へと戻る。
 それでも美希は一撃を打ち込もうと機会を窺っているようロンには見えた。
「やれやれ、あなたと話すのはこの辺にしておきましょう。何はともあれ、真実はお話しましたしね。
 あなたがこの場において、今後、どういう役割をこなすかは引き続き、あなたの自由です。
 このまま殺戮を続け、優勝を目指しても結構です。勿論、その逆もね」
「!、だぁぁぁっ!!!!」
 渾身の力を込め、正拳突きを打ち込む美希。だが、またもロンは靄になると、今度はそのまま消えていった。 
「っぅぅぅぅぅぅぅぅ!!!!ろぉん!出てきなさいぃ!ろぉぉん!!!!うわぁぁぁぁっ!!!!!!」
 絶叫を上げながら、やり場のない怒りを、近場の建物にぶつける美希。
 激気が込められていれば、その拳は建物の硬度にも負けなかっただろう。
 だが、制限により、激気を封じられた美希の拳からは、皮が破け、血が噴き出す。
 しかし、それでも美希は叫び、殴り続けた。
 怒りの矛先はロンでも、美希が本当に殴りたいのは愚かな自分自身なのだから。



「ふふっ、旨くいきましたねー」
 ロンは美希とのやり取りを思い出しながら、ひとりごちる。
 ロンが美希に語った内容はほとんどが真実だ。ロンはなつめを人質になどとっていない。
 人質などわざわざとらなくても、娘の存在を散らつかせるだけで、美希は殺し合いに乗るはずだと踏んだからだ。
 もっとも、これほど積極的に動いてくれるとは、流石に予想外だった。
 だが、だからこそ、人間を使ってのゲームは面白い。
「ふふっ、さて、真実を知ったあなたは今度はどんな行動を見せてくれるのでしょうかね?
 こんなサプライズを起こしたあなたのことです。きっと、もっと、面白い見世物を私に見せてくれることでしょう」
 ロンの眼の前には並樹瞬がいた。
 いや、並樹瞬だったものがいた。

434:名無しより愛をこめて
09/01/10 19:43:58 CQEN2XVXO



435:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 19:44:39 VEAvQamQ0
「グルォォォォッ!!!」
 最早、彼に人間であったときの面影はなかった。
 眼は黒い瞳の部分が目を覆うように広がり、耳は肥大化し、口は大きく裂けていた。
 野獣の武器である牙や爪は獲物を引き裂けるほどに鋭く伸び、獲物を捕らえるためか、背中からは触手のようなものさえ生えている。
 バイラムの幹部の命令になら従う程度の知能は持っているが、残念ながら野獣と化した瞬の前にはもはや眼に映る全てのモノが獲物でしかない。
「カプセルから出たバイオ次元虫の寿命は数十秒。仮にバイオ次元獣になったとしても、数分しかこの空間には存在できない。
 これも生存本能が起こした奇跡ですかね」
 瞬の有様を満足気に見詰めると、ロンは今度こそ、その場から去っていった。

「私という糸から解き放たれたあなたたちがどう踊るか?一観客として、楽しみにしていますよ」


【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:G-8砂漠 1日目 午前
[状態]:軽傷。戦闘に支障のなし。2時間能力発揮できません
[装備]:杖
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:ドロップと協力し、ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップの身体を探すため、F-9エリアへ。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。

436:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 19:45:49 VEAvQamQ0
【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:G-8砂漠 1日目 午前
[状態]:健康。30分程度能力が発揮できません。
[装備]:なし
[道具]:メメの鏡の破片、虹の反物
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:F-9エリアへ行き、成体になる。
第二行動方針:制限を利用して、ジルフィーザを殺す。
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。

【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:H-7海岸 1日目 午前
[状態]:健康。次元獣化。
[装備]:デジタイザー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:暴れる。
[備考]
・ゴウライチェンジャー、瞬の支給品一式はH-7エリアに放置されています。

437:名無しより愛をこめて
09/01/10 19:46:03 CQEN2XVXO
支援

438:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 19:46:47 VEAvQamQ0
【名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:H-7海岸 1日目 午前
[状態]:激しい憤り。首にジルフィーザの手跡。頭部に軽傷。30分程度激気が使えません。
[装備]:スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:???
第一行動方針:???
[備考]
・時間軸のずれ、首輪の制限を知っています。
・マシンハスキーは鍵付きでG-7エリアに放置されています。

439:名無しより愛をこめて
09/01/10 19:47:47 CQEN2XVXO



440:欺瞞と寂寥の果て ◇i1BeVxv./w1氏代理
09/01/10 20:02:47 VEAvQamQ0
投下終了。
誤字、脱字、ご意見、指摘事項、ご感想がありましたら、よろしくお願いします。

瞬の処遇に関しては議論が必要かなと考えております。
三魔人ラモンにバイオ次元虫が取り付きましたので、生物も可能とは思いますが、
オリキャラになりますので、今後のリレーのことも考えて、
修正が必要ならば、次元獣化しない場合の話も考えたいと思います。

441:名無しより愛をこめて
09/01/10 20:34:33 VEAvQamQ0
投下GJ!!です。
ふー、ハードな展開にしばし言葉が出ませんでした。
ドロップに裏切られ、目的であり支えでもあったなつめの存在が偽りであった事を知らされた美希さん。
彼女の叫びが悲痛です。これから彼女はどんな道を選んでいく事になるのでしょう。
償いかそれともこのまま突き進むのか……

弟の悪意に気付かないジル兄、美希の裏切りでとんでもない目にあう羽目になった瞬。
共に今後が気になります。
バトル、心理描写どちらも秀逸の一言です。ハードな展開がたまらないw
ハラハラさせていただきました。面白かったです!GJ!!

瞬に関しては、自分は問題無いと思います。
おっしゃる通り、また劇中でロンの言っている通り、生物についた次元虫はおりますし。
確かにリレーの際には細心の注意が必要になる事と思いますが……


442:名無しより愛をこめて
09/01/10 22:48:00 lgEDMtu7O
おおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!
なんてこった瞬!次元虫怖すぎだろ!!
……失礼、思わず取り乱してしまいました。
戦闘描写にドキドキさせられ、ドロップの黒さにニヤリとさせられ、美季の絶望には自分もorz
これは半端無く名作!!
面白かったです!超GJでした!!

瞬の次元虫化については自分も構わないかと思います。


443:名無しより愛をこめて
09/01/11 00:44:19 bhBjYNtX0
グレイの言うことなら聞くのかね?
元に戻る熱い展開があるのか、それともネジブルーに次ぐマーダーになるのか?
面白かったです!

444:名無しより愛をこめて
09/01/13 19:55:32 p3vQkhjMO
当方に支援の用意あり!!!

445: ◆Z5wk4/jklI
09/01/14 00:15:56 rqgBfiQSO
>>444
申し訳ありません。しばしお待ちをー。
延長期限までには仕上げられるよう頑張りますゆえ。

446: ◆8ttRQi9eks
09/01/14 03:11:55 ZpXQwNdr0
自分も延長をお願いします。
少し風邪気味なもので…

447:名無しより愛をこめて
09/01/14 04:20:21 mCzaoEJPO
お二人とも了解致しました。
しかし、あまりご無理をなさらぬよう。

448: ◆8ttRQi9eks
09/01/15 01:41:36 NYRtQrqI0
「さて、高みの見物といこうかな…」

木陰から二人の獣拳使いの激突を眺め、シュリケンジャーは呟いた。
気配を消すのはお手の物。忍者のたしなみというものだ。
勝敗がどちらに転ぶにせよ、人は減る。それで彼の目的は十分に果たせるはずだった。
「だけど、ミーとしては、できれば理央に勝って欲しいんだよなぁ…」
情があるわけではない。時限爆弾つきの彼ならば生き延びたとしても先は知れている。
危険はサンヨよりも少ないという判断だ。今の彼をして動かすのは本来の忍びとしての冷徹さ。
権謀術数にかけては、このゲームの主催であるロンにすら匹敵するだろう。

§

「聞かせてもらおうか! “あいつ”とは誰だ、サンヨ!!!」
理央の詰問にサンヨは慌てた様子で所在無くあたふたと狼狽した様子を見せた。
「な・なんでもないヨ!…誰でもないヨ!!」
誰でもないはずはない。
彼がロンとつながっているのは確かだ。だが、ならば何故ここまで隠すのか。
他の参加者ならともかく、今更自分に対してロンとの関わりを隠す必然性はない。
ならば、ロン以外の誰かとサンヨはつながっているのだろう。
そして恐らくその『あいつ』はこのゲームに乗っている人物と見て間違いはない。
「答える気はない、か…ならば、身体に聞くとしよう――……!」
理央は自らに内在する力の根源に揺さぶりをかける。
足元の空気が逆巻き、大地が震え、木々がざわめく。
「ほぉ…大したもんだな……成る程、彼が大会有数の実力者という話は間違いないようだな…」
だが、その命運は既に尽きている。
これだけの力を持ちながら、彼は優勝することはない。
所詮、彼は獣だ。知恵ある者の都合で弄ばれる哀れなマリオネット。
それが、理央の運命なのだろう。


449: ◆8ttRQi9eks
09/01/15 01:42:17 NYRtQrqI0


「臨気凱装……!!」


黒獅子を模った鎧に身を包み、理央は獣拳使いとしての本質を顕現させる。
夜の闇より、なお冥く。臨獣ライオン拳の理央。
(や・や・や・やばいよ…! 理央本気だよ!!! サンヨ殺されちゃうよぉ!!)
既に幻獣王の力こそ打ち捨てたとはいえ、過去現在、そして恐らくは未来においても最強の称号で語られるであろう彼と、
制限の状態で戦うなど狂気の沙汰だ。
恥も外聞もなく、サンヨは背中を見せて脱兎が如く逃げ出した。
(10分逃げればサンヨの勝ちネ~~! あいつの相手なんてばかばかしくてやってらんないヨォ~~~~!!)

巨躯に似合わない俊足で見る間にリオとの距離を広げていく。
だが、リオはそれを追おうともせず、ただ黙って拳に臨気を込める。
そして、たぎる臨気を一気に解き放つ。

「剛勇…――吼波-----―!!!!!」

道なき道を獣が行くように―
百十の王の形を与えられた臨気が、両者を隔てる空間を一気に押しつぶす。
「どええええええええええええぇぇぇぇえええええーーーーーーーーー!!!!」
爪が、牙が障害となる木々を岩を次々に粉砕し、サンヨに襲い掛かった。
なんとか獅子の顎を両手で必死に押さえるが、その圧倒的勢いの前には風前の灯だ。
「んぎぎぎぎぎぎ…!!!」
相手がゲンギを使ってこないことに僅かな違和感を覚えながら、理央は獅子の幻の圧を強める。
「……無駄だ」
次の瞬間、閃光が弾け辺りを紅蓮の炎が包む。


450: ◆8ttRQi9eks
09/01/15 01:42:54 NYRtQrqI0
爆発。
小規模なクレーターの中心で血まみれになって荒い息を吐くサンヨを悠然と見下ろしながら、
理央は最後通告を行った。
「貴様…制限中か……成る程、貴様の選択は正しかったぞ。そんな状態で俺と戦うことの愚かしさは分かっていたと見える…だが、敵に背を見せるなど仮にも四幻将の一角とは思えぬ無様な醜態…恥を知れ」
「ハァ…ハァ……ハァハァ……」
息も絶え絶えに、頭上から投げかけられる言葉に反論の一つもできずに。
立ち上がる力すら失せたのか、膝をついた格好は自然、相手に頭を垂れる構図となる。
「無様だな、サンヨ。今のお前など倒す価値もない…お前が持っている情報を全て俺に伝えろ。
ロンのこと、メレのこと…そして殺し合いに乗ったお前の新たな仲間の情報についてもな」
―理央の問いかけにシュリケンジャーは、ふっと笑みをこぼす。
獣にもそれ位の知恵はあったらしい。

「全てを話せば命だけは助けてやってもいい…そして、二度と俺とメレの前に姿を現すな」
理央は悠然と立ちつくしたままサンヨの答えを待った。
「ハァ…ハァ…全て話せば…ハァハァ…命だけは見逃してくれるのか…?」
絞り出した声に理央は僅かにうなずいてみせる。
「あぁ…」

「偉そうに…落魄した王の言うことかああああああああああーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」

自らの状態よりも自身のプライドを傷つけられたことにサンヨは逆上した。
彼とてロンの操り人形に過ぎないくせに。
高みから自分を見下ろし、あろうことか助けてやる、だと。
ロンがいなければ幻獣王にすらなれなかったものを。
飛び掛るかつての側近の姿に憐憫の情を覚えながら、理央は自らを循環する臨気の流れに再び働きかける。
――だが。


451: ◆8ttRQi9eks
09/01/15 01:44:44 NYRtQrqI0
力の反動であろうか。
臨気の鎧が理央の身体能力を活性化したことに呼応したか、
体内に打ち込まれた忌まわしい死神もまたその眼を開けることとなったのだ。
「ぐぅッ!?」
かつて経験したことのない激痛にリオはその場に膝をつく。
わずかに反応が遅れたことで本来ならば避けられたはずの、サンヨの横薙ぎの
力の反動であろうか。
臨気の鎧が理央の身体能力を活性化したことに呼応したか、
体内に打ち込まれた忌まわしい死神もまたその眼を開けることとなったのだ。


452: ◆8ttRQi9eks
09/01/15 01:45:21 NYRtQrqI0
「ぐぅッ!?」
かつて経験したことのない激痛にリオはその場に膝をつく。
わずかに反応が遅れたことで本来ならば避けられたはずの、サンヨの横薙ぎの
蹴りをまともに喰らった。
「―――…ッッ!!」
体重を乗せた思い蹴りにわき腹が軋む。
倒れ付した理央の傍らにサンヨの姿が近づく。
「ふざけるんじゃないヨ! 誰のおかげでここまで来れたと思ってるんだヨ!! 貴様なんて所詮はただの操り人形じゃないかヨ!!!!」
怒りにわれを忘れ、目の前の異変にも気づくことなく、サンヨは理央の首筋を持ち上げ地面へしたたかに打ちつけた。
「お前なんて…お前なんて……ただのロンの玩具ネ!!!!」


453:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
09/01/15 10:14:56 O/i5sauc0
最早、これまでだろう―
サンヨは気づいていないのかもしれないが、既に彼はロンを信じることが出来なくなっている。
死の瀬戸際にあって、彼の中にロンに対する疑念が生まれた。
あるいは、それもロンの差し金なのかもしれないが。

「終わりだ…サンヨ。せめて、その苦しみから俺が解き放ってやろう……」
傍らの死体。
状況から見て、彼の死にサンヨは関っているのかもしれない。
よしんば関っていないとしても、彼は既に殺し合いに乗っている。
理央は最後の審判を下すべく、痛みを乗り越え力の集中を始めた――
―終わったな、とシュリケンジャーが半ばその場からの離脱を考えていたその時だった。
「な…にっ!?」
思わず気配を消していることすら忘れて声が出た。
ちらっとリオが背後を見やる。
しかし、すぐにその視線はサンヨへ注がれた。


「ロンは…ロンはサンヨを信頼してるネ!! 間違いないヨ! 絶対、そうだヨ!!」


薄ら笑いを浮かべ、自らを縛る金色の首輪に手を掛ける。
「貴様…何を…―!」
問いかけは、爆発に途切れた。
力任せに首輪を引きちぎり、サンヨは自ら起こした爆発の炎に倒れたのだ。
とめる間もないあっという間の出来事に理央は呆然と立ち尽くした。
「オ~マイゴォォッド!! まさか、自分で首輪を引きちぎるとはねぇ……」
意外な結末。
だが、彼の希望通り、人は減った。そして死神に魅入られたリオは遠からず死ぬ。
全ては計画通り。



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