スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3at SFX
スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3 - 暇つぶし2ch250:名無しより愛をこめて
08/12/17 23:54:02 z/ioPEgC0
GJーーー!!
あまりの早さに夢かと思ったw つねった頬が痛いですw

それぞれに苦い思いを抱く3人の描写が秀逸でした。
そしていよいよ仲代先生は始動ですね!
ビビデビを適度に痛めつけて洗いざらい喋らせるのが彼らしいw
ビビデビは哀れですが、これも報いかw
これからの仲代先生の動向が楽しみでwktkします。面白かった!
GJです!

251: ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 16:09:33 Bs/eMplR0
只今より
浅見竜也、ブクラテスを投下します。

252:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 16:11:28 Bs/eMplR0
申し訳ありません。改行などの問題で一時、したらばに投下します。
間違った宣言をしてしまって本当に申し訳ない限りです。

253:名無しより愛をこめて
08/12/18 16:20:46 z4dJmrEq0
>>248
投下乙です。
まさか昨夜の内に投下していたなんて、なんという最速w

怖えええええええーーー!!!!
不適な笑みが目に浮かんだぜ。
ビビデビ哀れ。いい感じに映士と菜摘をおっぱらちゃっての完全始動。
まさしくサディスティ~~ック!どSだな。仲代先生w
そして頑張れ俺様!菜摘!
最後に遠慮なく言わせていただこうGJ!!


>>252
予約ラッシュの次は投下ラッシュとキター!!!
続けて代理投下といこうか。


254:253
08/12/18 16:29:16 z4dJmrEq0
っと一時したらばにってことは、代理投下していいのだろうか?

255:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:52:58 z4dJmrEq0
「あの馬鹿者共め!」
「ん? ブクラテス、何か言った?」

 コソコソとデイパックを覗きながら何かを叫んだブクラテスに、竜也は問う。
 だが、ブクラテスはそれを「いや……」とそっけなく答える。竜也の目を見ないあたりから、それはとても怪しく見えた。

「それより竜也、この辺りにはもうすぐ禁止エリアになる場所がある。慎重に行動したほうがよいぞ」
「わかってる。……スモーキーたちはもう菜月ちゃんと合流できたかな?」
「少し気が早いと思うぞ」

 竜也の頭の中はそればかりだった。ブクラテスの不審な行動も、彼はそれほど気にならない。菜月、シグナルマン、スモーキー。三人とも気がかりだ。

「そんなに気になるなら占ってみるか?」
「いや、いいよ。占いで定められた運命も、きっと変えられるだろうから……」

 それは、竜也の不安が生み出した強がりだった。彼らが(というかスモーキーが)ブクラテスを信用していないことくらい、竜也にはわかっていた。ブクラテスが占う前後のスモーキーの態度W見れば一目瞭然だろう。

「ワシの占いは今後の運命ではない。今の奴らの動きじゃ」
「動き?」
「ワシには見えるんじゃ。どうじゃ? 占ってみるか?」

 ブクラテスはデイパックを漁り、タロットカードを取り出す。その際にチラッと首輪探知機の様子を見ることも忘れない。


256:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:53:47 z4dJmrEq0
答えを聞かずに、ブクラテスはタロットカードをシャッフルし始めた。

「まだ占えなんて言って……!」
「あくまで参考としてみておくがよい」

 ブクラテスはまた前回と同じようにカードを並べる。

「う~ん。奴ら、ワシの占いを信用していなかったようじゃ。逆方向に向かっておる」

(やっぱり……)
 竜也は心の中で呟いた。

──


257:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:54:28 z4dJmrEq0
「なかなか見つからないな……耳鼻科ならあったんだけど」
「少し疲れたわい……」

 ブクラテスがそこで腰を下ろす。これで三度目だ。年齢の問題もある。仕方がないことだろう。
 竜也はその度に二人がどうにかして菜月と合流していないか考えた。だが、結局はその期待を破り捨てる結果に終わってしまう。
 ブクラテスは座り込むたびにタロットカードを使用していた。敵が近くにいないか確認するためらしい。─だが、それは徹底した演技だ。

「この辺りには敵はおらんようじゃ。しばらく休んでいて平気じゃろう」

 首輪探知機には二つのマークしか映っていない。それは竜也とブクラテスに違いなかった。首輪を解除しているものがいなければ、参加者は近くにいない。

「……竜也、諦めろ。菜月と奴らが会う事はない。おそらく、ワシらともな……」

 認めたくなかった。彼らとは共に生きて帰りたいのだ。シオンや、ドモンも一緒に。

「予想された未来なんて、変えてみせる。俺はそうしたいんだ」
「無理じゃ。ワシの占いも奴らの正確な居場所まではわからん。近づいていくつもりが、誰かに遭遇することもある」

 それは嘘に違いない。ただブクラテスは足手まといがいらないだけだ。自分を信用していないスモーキーとシグナルマンや、仲間を置いて一人でどこかへ行ってしまう菜月のような人間はこの状況での味方として相応しくない。
 そういう人間に一緒にいてもらっては困るのだ。


258:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:55:05 z4dJmrEq0

「でも、そこで遭遇した人間が悪いヤツじゃないかもしれない!」
「お主はこの状況がどんなものなのかわかっとらんようじゃ。予想もしないやつが敵だったりするからのう。……ワシの腕を斬ったのは、ワシの仲間じゃった男じゃよ……」

 竜也はその事実に驚き、怒りと悲しみを感じた。仲間だった人間を殺そうとするなど、その男は最低だ。だが、そこまで追い詰められている人間がいると考えると、ロンがとても憎くなってきた。

「お前の仲間も、もしかすればこの戦いに乗ってるかもしれんぞ。今まではラッキーが続いただけじゃ、シグナルマンや菜月のようにいかんやつも多いんじゃ」

 思えば、ここまでの竜也は運がよすぎた。こんなにも長い間、敵といえる敵に出会わなかった。メレを除けば、完全に仲間しかいない。放送で次々と人の名前が呼ばれたときも、実感はわかなかった。

(ドモンやシオンが、殺し合いに乗る訳ない……)

 竜也は自分に言い聞かせた。

「そのうち足元をすくわれるかもしれんぞ」

 竜也は無言で地面を見つめた。ドモンやシオンが自分を殺そうとしている姿なんて想像できない。だが、彼を待つ結果は想像なんて枠に収まらないだろう。

「……さて、大分休んだ事じゃ。病院を探すとしよう」

 ブクラテスが腰を上げたが、竜也は微動だにしなかった。

──


259:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:56:26 z4dJmrEq0
 二人は小さな病院の前に立っていた。本当に小さな病院だ。

「ようやく着いたか……ずいぶん手間がかかったのう」

 ブクラテスにはそれがオアシスに見える。一時間も歩き続けてようやく辿り着いた病院だ。それがたとえ、小さくても頭の中で美化されて大きく見える。

「ワシのカンではこの病院には誰もいないようじゃ」

 竜也は聞いていない。あの会話の後から、ずっとドモンとシオンが乗っていないかという心配が募っていた。シオンが人を殺す瞬間なんて、想像もできないが……。

「竜也、この辺りには誰もいないんじゃ。ワシの言った事はしばらく忘れていろ」

 そんなことができるわけない。コンピュータじゃないんだ。一度聞いた事を忘れる事はできない。そして、その事実が次々と信頼を壊していく。

「竜也! さっさと来んか!!」

 ブクラテスが怒鳴ると、竜也は一瞬、作った笑みを見せながらブクラテスの元へ駆け寄った。

(竜也も使えなくなってきたか……余計なことは言わないほうがよかったか……)

 ブクラテスは少しずつ、竜也も見放そうと思い始めていた。無論、もっと頼もしい仲間がいればの話だが。

──



260:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:29:04 Bs/eMplR0
代理投下ありがとうございます&迷惑かけてすみませんでした。
今後このようなことがないように努めたいと思います。

これ以降の投下はなるべく自分が行いまする。

261:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:30:01 Bs/eMplR0
 病院の内装は予想していたよりも綺麗だった。どちらかというと女性向きの病院なのだろうか。小さなテディベアが飾ってある。
 だが、彼らが探しているのはそんなものではない。治療できる場所だ。これだけ時間が経っていれば、消毒は確実に必要となるだろう。腕は治らなくても、今後の心配を消し去る事が出来るだろう。

「おい竜也!! これじゃ!!」
「あ……ああ」

 ブクラテスが呆れながらも竜也に救急箱を手渡した。

「悪いがワシ一人じゃ難しい。手伝ってくれ」

 竜也は救急箱を開けて消毒液と脱脂綿でブクラテスの傷口を拭いていく。よく見てみると、かなりグロテスクな傷口だ。仲間からの攻撃による傷だということで、余計に嫌な色に見えてしまう。

「これでだいたい大丈夫かな?」

 ブクラテスの肩に包帯を巻き終えると、竜也はポンと軽くそこを叩いた。

262:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:31:26 Bs/eMplR0

「痛ッ!!」
「あ……ごめん」

 ブクラテスは肩を押さえながら竜也の背中を睨んだ。顔は笑顔をつくろうとしているが、かなり動揺している。

「竜也……少し休んだほうがよい……ワシのカンではしばらくここに誰かが来ることはない……人質のことも、お主の仲間のことも考えるな」

 ブクラテスはそう言いながら病院のソファを指差した。

(そういえば、疲れてきたな……)

 竜也は言われるままにそのソファに寝転がった。

(悪いな、竜也……ワシはもっと使える人間がほしいのじゃ)

 ブクラテスは、竜也の所持していた支給品を拾い上げるとこそこそと逃げていった。

(さて、この付近には反応はないようじゃのう……もっと遠くに行ってみるか)

──

263:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:31:56 Bs/eMplR0
 竜也は夢を見ていた。
 
─……さんは死んだ!それは、もう、どうにもならないんだ。俺が勝ち残らなきゃ……。もう、どうにもならないんだよ!─

 ドモンが女性を前に、恐ろしいことを言っている。
 勝ち残る─それは間違いなく、誰かを殺し、自分だけが頂点に立とうとしているということだ。

─ちくしょう!何が殺し合いはやめてだよ。何がタイムイエローじゃないだよ!─

 明らかに怒り狂っているドモン。

─パン!─

 場面はまた違う場所だ。ドモンは歩いている男性の肩を撃った。

─クロノチェンジャー!─

 ドモンはタイムイエローに変身し、人を傷付けていく。

(これは、悪夢に違いない……)

 そう思いたかった。

「夢ではありませんよ……」

 金色の光が一人の男性になった。─ロンだ。
 ロンは竜也に言う。

「ここは……さっきの病院? ブクラテスは……」
「あなたを裏切り、ここから逃げましたよ。見てください。メレの支給品もここにはない……ブクラテスが持って行ったのです」
「そんな……そんなわけない!! ロン!! まさかお前がッ……」

264:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:32:56 Bs/eMplR0
 竜也はロンを前に取り乱していた。本当は、ブクラテスを完全に信用していたわけじゃない。だから、ロンの言う事が少しリアルに感じた。

「今の夢は私の力であなたに直接見せた夢です。……しかし、それは別の場所で起きた現実なのです。まあ、信じるか信じないかはアナタ次第ですが」

 嘘だと信じたかった。だが、できなかった。
 自分は、今まで仲間だった人間を、ここに来て信じることができなくなったのだ。

「ですが、真実から目を背けてはいけませんよ。五色の戦士のレッドとして……」

 ロンが悪戯っぽく微笑む。

「まあ、五色の戦士のイエローは残念ながら乗ってしまったようですがね」

 竜也はロンに殴りかかりたくなった。だが、竜也は絶望と精神的な疲れでそれができない。無気力な状態だ。

265:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:34:15 Bs/eMplR0
「浅見竜也……あなたも殺し合いに乗るというのはどうです? 既に何人もの人間が犠牲になっている。それを全てなかった事に出来るのです。全員が蘇る事ができれば……。間宮菜月とスモーキーのあの様子を見たでしょう?」

─真……墨? 嘘、……こんなの、信じないよ。だって誰も犠牲にならないように……。菜月たち、これから……─

─ニャ……俺様だって、信じないぜ。麗や、あいつらが、こ……殺されただニャんて─

 菜月の悲しむ顔、スモーキーの怒る顔。頭の中ではっきりと思い出すことが出来た。

「ダメだ……俺は、乗らない! この拳は正義のためのものだ!!」
「正義ですか……ならば自分の拳を汚してでも全員に新しい命を授ける事も正義だと思いますがね」

 ロンの言い方に、竜也は腹が立った。

「お前がッ!! お前が全ての元凶じゃないか!! 真墨さんも麗さんも、お前が殺したも同然だ!! ドモンだって、お前が……!!」

 竜也はVコマンダーを使おうとまで思った。

「私を倒そうというなら今はやめたほうがいいですよ。私を倒せば、参加者の命は蘇えることはないのですから……ドモンも愛する者の命のために戦っているのです。それを無駄にしようというのですか?」

 竜也は手を止めた。

(どうすればいいんだッ……? 何が正義で何が悪なんだ!?)

 竜也にはそれがわからなくなり始めていた。正反対である二つの行動は、一見どちらも正義に見えてしまう。だが、どちらかが悪なのだ。それがどちらなのかわからない。

266:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:34:53 Bs/eMplR0
(待て……? ドモンの大切な人って……)

 ─森山ホナミ。ドモンの恋人だ。

「ロン!! お前、ホナミさんに何をした!?」

 ロンは内心笑っていた。森山ホナミ……? 関係ない。彼はそんな女の事を知らないのだから。あれだけ愛していた女の事も知らずに、別の女性のために戦っているのだから。
 つい、それが顔に出てしまう。

「ロンッ!! 何を笑っているんだ!!」
「ククッ……ちょっと面白い事を思い出しましてね……」
「面白いこと……ッ!?」
「彼は別の女性のために戦っている。彼の愛など、所詮その程度のものだったということでしょう……」

 竜也は愕然とした。ホナミはドモンが人生の中で最も愛した女なのではないかと思う。もしかしたら二人が妊娠しているんじゃないかと思うこともあった。
 ドモンが、ホナミを裏切るはずがない。

「そんなはずはない!!」
「彼が愛したのは小津深雪……広間で死んだ小津勇の妻ですよ……」

 ロンは笑いながら金の光の中へ消えてしまった。いくらドモンとはいえ、ホナミを捨てて、しかも人妻に乗り換えるなんて有り得ない。
 ロンの代わりに、テディベアが竜也を見つめている。体中が汗にまみれていて気持ちが悪い。そこに、ブクラテスはいない。人の気配はなかった。


344 :友への不信 ◆LwcaJhJVmo:2008/12/18(木) 16:20:16
─菜月はね、悲しいなって思ったの。殺し合いを始めた誰かがいるんだってことが……─

(ゴメン、それは俺の仲間かもしれない……)

 どこかで、ロンがくすっと笑ったのは言うまでもない。

267:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:36:08 Bs/eMplR0
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-5 都市(病院) 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:どちらを選べばいいのかわからない(全員の蘇生ために乗るor誰も殺さない)
第一行動方針:菜月が心配。後悔。
第二行動方針:ドモン、ブクラテスに不信。
第三行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第四行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考:クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。

【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-5 都市 1日目 午前
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機、毒薬(効能?)、タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック、メレの支給品
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:新たな仲間を捜す。
第二行動方針:竜也とシグナルマンはもう利用できそうにない。

268:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:39:41 Bs/eMplR0
以上です。何か修正点、感想等があればお願いします。

以下、自分で気がついた修正点をいくつか。

本スレに書き込む際、「長すぎる行がある」と表示されたので、>>265の文はしたらばと違いますが、こちらで収録してください。
あと、>>266の─菜月はね の上の文は完全にミスです。

申し訳ありません。


269:名無しより愛をこめて
08/12/18 19:21:02 GWJv28yH0
投下乙です。
このインチキ占い師!ブクラテス、このやろう!!
このノリノリ主催者!ロン、このやろう!!
そして素早い投下GJだ!

270:名無しより愛をこめて
08/12/18 20:30:32 hG3EYDao0
早い投下GJです。
また来やがったか!ロン!
竜也を弄ぶロンが相変わらず良い感じにヤな奴ですw
ついに一人になってしまったブクラテスもこれからどうなるのか…

271: ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 21:19:22 Bs/eMplR0
度重なる修正点、申し訳ありません。

>>267のブクラテスの状態表は間違いです。
↓修正版↓

【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-5 都市 1日目 午前
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機、毒薬(効能?)、タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック、メレの支給品
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:新たな仲間を捜す。
第二行動方針:竜也とシグナルマンはもう利用できそうにない。
第三行動方針:新たな仲間にも首輪探知機とセンのことは伏せて置く。
備考
・センと同じ着衣の者は利用できると考えています。

まとめさん、本当に申し訳ないです。

272:名無しより愛をこめて
08/12/19 00:03:05 tTHNfg5j0
GJ!
ブクラテスとロンに翻弄される竜也。
誘惑を振り切ったのは流石でしたが、心に残った疑念が後々に影響を及ぼしそうなところが、ゾクゾクしました。

ひとつ、指摘を。
竜也は愕然とした。ホナミはドモンが人生の中で最も愛した女なのではないかと思う。もしかしたら二人が妊娠しているんじゃないかと思うこともあった。>

ドモンが妊娠しているように取れるかなと。
ええ、想像して、爆笑しましたともさ。

273: ◆LwcaJhJVmo
08/12/19 14:06:01 tHY+hi9I0
>>272
確かにそうとも取れてしまいますね。
>>もしかしたら二人が妊娠しているんじゃないかと思うこともあった。

>>もしかしたらホナミがドモンの子を妊娠しているんじゃないかと思うこともあった。
こちらに修正してください。

しかし、不覚にも自分で笑ってしまいました。

274:名無しより愛をこめて
08/12/19 20:05:28 d8bUjoLbO
修正乙です。




(しかし指摘で気づいて笑ってしまったのは内緒だw)

275: ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:11:00 TnRnwi7X0
ドモンが妊娠……おおう、想像してしまったorz w

修正乙です。竜也とブクラテスの今後が気になりました。

投下ラッシュに続けとばかりに自分も投下をばw

276:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:11:57 TnRnwi7X0
「さあどこからでもかかってきなさいよ。なんだったら四人一緒にかかって来てもかまわないわよ」
フフンと鼻でせせら笑うとメレは余裕綽々といった様子で構える。
素人目には隙だらけに見えるその姿だったが、グレイやドギーにはまったく違って見えていた。
常ならまだしも今の自分達では分が悪い。じりじりと間合いを取る。
シオンも二人の様子からそれを察したのか、クロノチェンジャーに手をかけたまま後ろに下がる。
恭介は、とドギーが横目で見やると何故か姿が見えなかった。
「……思ったより馬鹿だったな」
グレイの呆れたような呟きに目線を戻したドギーの目に映ったのは、つかつかと前に進む恭介の姿だった。
止める間もなく彼女の前に立つとそのまま肩に手をかける。
メレの目が見る間に吊り上がった。
「おい、いきなり何言ってやがぁぁぁ?」
パシリと手を払い除けられ、足に衝撃を感じたと思うと恭介の視界はぐるりと空を仰いだ。
「気軽に触らないでくれるかしら」
足払いをかけて恭介を引き倒し腹を踏みつけると、その勢いのままメレは手前にいたドギーに打ちかかった。

「……グッ」

愛刀で受け止めたドギーは思いがけない重い衝撃に低く呻いた。
普段の彼であるならば弾き返せていたであろう、その斬撃が腹の傷に響く。
巻かれた包帯にじわりと血が滲んでいくのを感じた。
そのままじりじりとおされていく。
(─まずい)
ドギーが歯噛みしたその時、メレが素早く飛び退き大きく距離を取った。
その後を追う様に数発の光弾が掠める。

277:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:12:53 BRSn61cbO



278:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:13:29 TnRnwi7X0

「やめて下さい!」
ドギーが視線を向けるとそこには生身のままホーンブレイカーを構えたシオンの姿があった。
「あら、今度は貴方が相手をしてくれるの?変身しないなんて随分自信満々ね」
「何をやってる!!早く変身するんだ、シオン!」
傷の痛みを無視して叫ぶがシオンは首を振った。
「僕は出来れば貴女と……いえ、出来ることなら誰とも戦いたくないんです。
 目的が同じなら戦わない事だって……え?」
妖艶に微笑んだと思うとふいにメレの姿が掻き消える。
戸惑うシオンの前でグレイが腕を翳したかと思うと乾いた鋭い音が鳴り響いた。
「無駄だ。この女にお前の話を聞くつもりはない」

「あら随分と察しが良いのね」
「当然だ。この程度、動きを読めばおのずと分かる」
「……ふぅーん。あんたはなかなか骨がありそうね」
シオン、いやグレイからわずかに離れた位置に消えた時と同じ唐突さでメレが姿を現した。
距離にして数歩。どちらかが一歩でも進めば相手の攻撃範囲内に踏み込む、そのギリギリの位置を互いに保つ。

279:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:14:01 BRSn61cbO




280:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:14:26 TnRnwi7X0
数秒に満たない沈黙。踏み出したのはどちらが先か。
鋭い突きを辛くも躱すと相手の胴めがけて蹴りを放つ。
メレは手にした釵でグレイの蹴りをいなすと、そのまま横一文字に斬り付けた。
後ろに飛び退き避けるが、わずかに反応が遅れた為にグレイの体の表面を釵が掠める。
人間であったならば皮膚が裂けていたところだろうが、頑強な機械の体を持つグレイにその斬撃がもたらしたのはわずかな掠り傷。
だが、グレイは内心で舌打ちするような気分に駆られていた。
体が思うように動かない。
ロンの掛けた制限とやらはどうやらグレイ自身の体にも及ぶものだったらしい。
人間に比べれば遙かに強固な体。高い戦闘力を誇るその鋼鉄が今はまるで油をさし忘れたブリキの玩具の様に動かない。
せめて手元に何か得物でもあればとも思うが、今自分の手元にあるのは一丁のライフルのみ。
接近戦では使い勝手が悪すぎる。
そしてグレイが何より気に入らないのは、手を抜いている、その意志が相手の一手一手から伝わってくる事だった。
侮られている。それはグレイの高い誇りを傷付けるには充分だった。
苛立ちがグレイの体を包んでいく。
互いに決定的な一打は与えられなかったが、それでもじわじわとグレイはおされていった。

「─使えっ!!」

いったん距離をとったその時、グレイの手元に一振りの剣が飛び込んできた。
見覚えのある白銀の剣。犬の頭を象った柄を持つその剣は陽光を返して光る。
ちらりと剣の持ち主に目をやると、ドギーはシオンと恭介に支えられた格好で何も言わずに頷いた。
グレイもまた何も言わぬままに剣を持ち直す。
初めて手にする得物だというのに、不思議に馴染むそれを手にグレイは構えた。
メレの目から侮りの色が薄れる。鋭さを増したその目付きにグレイは微かな満足感を覚えた。
どうせ戦うのならば、本気を出した相手で無ければつまらない。
先に動いたのはメレだった。

281:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:14:58 TnRnwi7X0
「舌禍繚乱!」

上空に飛び上がり無数の突きを繰り出した。
アスファルトを抉り、周りの物全てを破壊する威力を持つその突きをグレイは剣の背で受け流す。
体当たりをかけてきたメレを飛び退いて躱すと、そのまま懐に飛び込んだ。
剣で掬い上げるように斬りつけるが釵で受け止められた。
弾いては打ち返し、打ち返しては弾かれ─
幾度かの拮抗の繰り返しに少しずつグレイの手傷が増えていく。
だが、機械であるグレイに痛みはない。臆すことなく斬り込み、メレの手から釵を叩き落とした。
勢いのまま、彼女の首筋に剣先を叩き込む。
メレはそれを避ける事さえせずに、鋭い突きを繰り出した──




282:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:15:19 BRSn61cbO





283:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:16:50 BRSn61cbO




284:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:17:03 TnRnwi7X0
 
 ◇

「痛ってぇー!!シオン、頼むからもうちょっと、優しくだな」
「ああ、すみません!大丈夫ですか?」
手当てされた箇所をシオンに軽く叩かれ、恭介は悲鳴を上げた。
貼られた湿布の下にはくっきりとヒールの赤い跡が付いている。

あの瞬間、獣変化の解けたメレの突きがグレイの右腕を抉り、叩き込まれる寸前だった剣先を逸らした。
結果的に剣はメレの左肩を僅かに傷付けただけに終わった。
それが制限の掛けられた状態であった為なのか、最後の最後でグレイが手加減をしたのか。
機械故に表情の読めないグレイの心情までは読みとる事は出来なかったが、シオンはなんとなく後者のような気がしている。
あれからシオンは怪我人の手当てに飛び回っていた。
幸いな事にドギーの手当てに使った消毒薬や包帯にはまだ残りがあった。
傍らで、既に手当ての終わったドギーがふて腐れた表情のメレと向き合っている。
グレイは、といえば少し離れた壁にもたれ掛かり、紫煙を燻らせていた。
後で傷の具合を見せて貰わなくてはと思いながら、ドギーとメレの方へ向かう。



285:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:17:43 BRSn61cbO



286:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:18:33 TnRnwi7X0
「では、君はロンの仲間では無いんだな?」
「あんな奴の仲間なんかじゃないわよ。忌々しい」
「だが……」
心底、忌々しいという表情でメレが吐き捨てる。
シオンの目から見ても、その表情には嘘が無いように見えた。
「じゃあ、なんで俺らを襲ったんだよ!それにあの金ピカの格好、あいつにそっくりじゃねえか」
メレは恭介を馬鹿にしたような目で見る。
「さっきも言ったじゃない。あんたちゃんと耳ついてんの?」
「付いてるに決まってんだろ!俺が言いたいのはなんで仲間になるのに襲ってくる必要があるかって意味だつーの」
問われてメレは剣呑と微笑んだ。
「あんた達になめられる訳にはいかなかったのよ。それには力を示すしかないでしょう?」
「怪我人と制限されてる奴を襲ってか?」
図星を指されたように黙り込むと、ふいっとメレは横を向いた。
「恭介も言ったが君の姿はロンにあまりに良く似ている。本当に関わりがないのか?」
今までふて腐れていたメレの表情が真剣な色を帯び、静かに目を伏せた。
「あんた達が信じるかどうかは勝手よ。私はロンの仲間なんかじゃない。
 でも、この力は確かに、かつてロンによって分け与えられたもの。
 忌々しい力だけど、今の私には必要な力」
軽蔑したいならしたら、と自嘲するように笑う。

287:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:19:30 BRSn61cbO




288:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:19:46 TnRnwi7X0
それまで静かに成り行きを見守っていたシオンがすっとメレの前に立った。
「何よ?あんたも言いたい事あるなら言えば」
「いえ、僕は…聞きたい事はドギーさんや恭介さんが全部聞いてくれましたし」
「じゃあ、何よ」
「これを」
握った手を差し出され、メレは反射的に手の中の物を受け取った。
「く…すり?」
「消毒薬と痛み止めです。肩の傷は血が出てないみたいですけど手当ては必要ですし。
 それにさっき恭介さんが肩を触った時、痛そうにしてましたから」
使って下さい。そう告げるとシオンは微笑んだ。
メレは不思議そうに手の中を見つめるとぼそりと呟いた。
「……礼は言わないわよ」
「いや、言えよ!礼ぐらい!ごめんなさいとありがとうは常識だぞ!」
「あああ、聞こえな~い」
「それじゃあ僕、グレイさんのとこへ行ってきますね」
恭介とメレ、二人のやりとりに既視感を覚え、傍らのドギーを見やると同じ感覚を覚えたのか苦笑している。
その場を彼に任せるとシオンはグレイの元へと向かった。



メレは去っていくシオンの後ろ姿を見やると、手の中の白い錠剤をコロコロと転がす。
生きている人間用の薬など飲んだところで効くとは思えない。
だが、自分でも不思議な事に捨て去ってしまう気にはなれなかった。
今、自分の感じている感情をメレは理解できなかった。
久しく感じる事のなかった感情。
ただ理央の為だけに生きる自分には必要のない感情。
遠い昔、まだ自分が本当に生きていた頃には感じていたかもしれない感情。
忘れ去っていた感情を感じながらメレは静かに手を閉じた。

289:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:20:43 TnRnwi7X0
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:右腕損傷修理中。1時間戦闘不能
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数4発) 支給品一式
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためドギー、シオン、恭介と共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。

【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す。
第一行動方針:グレイの手当てをしなくては。
第二行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。

290:代理
08/12/20 16:06:29 KAwnPvbD0
【名前】陣内恭介@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:メガレンジャーVSカーレンジャー終了後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康。腹に痣。
[装備]:アクセルチェンジャー
[道具]:芋ようかん×3
[思考]
基本行動方針:殺し合いから生き延びる。 一般市民であることを貫く。
第一行動方針:新たに出会った仲間と共闘。
第二行動方針:生意気な女だなー

【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)グレイと和解
[装備]:マスターライセンス
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、支給品一式
[思考]
基本行動方針:首輪を解除して、ロンを倒す
第一行動方針:仲間と共闘する。
第二行動方針:メレを信じていいのか戸惑い気味


291:代理 ◆8ttRQi9eks
08/12/20 16:08:50 KAwnPvbD0
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。二時間戦闘不能。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:なし
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第二行動方針:こいつら私を仲間に入れる気あるのかしら?
第三行動方針:シオンの言動に不思議な感情を感じる。
備考:リンリンシーの為、出血はありません。

以上です。指摘、つっこみ、誤字脱字、感想などありましたらお願いします。

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GJです!
本当、面白かった。こうして自分が振った展開が次に紡がれていく感覚は嬉しいものです。
個人的にメレは合流してほしいなー…と思いつつ終わらせたので尚更でした。
最高の形でバトンを繋いでくれた氏に感謝です。
もう一度、お疲れでした!!


292:名無しより愛をこめて
08/12/20 22:59:17 0yfbVMNIO
投下&代理投下乙です。
メレがいじらしいな。
そしてシオン、なんて優しいヤツなんだ!

バトルも台詞まわしも秀逸!面白かったです。

GJ!

293:名無しより愛をこめて
08/12/24 01:31:10 b5RZHKgMO
このスレ、定期的に足切りの危機にあうNE!

ってのは流石に冗談だけど、待ちがてら少しageとこうw
これだけだとなんなんで。

ロワの中でカッコよすぎる!だった人と逆にヘタレちゃってた人って誰だと思う?

294:名無しより愛をこめて
08/12/24 20:42:09 wSQn1lXZ0
カッコよすぎる 纏兄貴 グレイ 蒼太

295: ◆MGy4jd.pxY
08/12/24 22:30:03 XB+n/WOs0
かっこよすぎる   グレイ
ヘタレちゃったかな  ジルフィ……うわ!なにをするやめ(ry

いつもながら遅くなりすみません。
ただいま推敲中。日付が変わるまでには投下できると思います。
よろしくお願いします。

296:名無しより愛をこめて
08/12/24 23:11:39 b5RZHKgMO
>>295
楽しみにお待ちしております!


ついでなのでw

かっこよすぎる マトイ兄、蒼太さん、壬琴先生

297: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:10:39 PQxHz/lF0
遅くなりました。ただいまより投下します。
少々長くなります。

298: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:12:17 PQxHz/lF0
麗が朝食を作る音。
食器を運ぶ翼と槐のにぎやかな声。
ボクは何時も、その音で目が覚めた。
澄み渡った青空。
朝の眩しい太陽の光が降りそそぐ窓から外を見れば、蒔人が汗を流しながら、両手で抱え切れないほどの野菜を運んでくる。
身支度を整えたボクが食卓に付いた頃、寝ぼけ眼の芳香がようやくリビングに姿を現す。
テーブルの上には、とれたての野菜で作った兄貴サラダと麗の手作りドレッシング。
色鮮やかなスクランブルエッグと焼きたてのパンを添えたプレート。
それぞれの席に着いた6人の声が重なる。
「「「「「「いただきます!」」」」」」
野菜を育てた蒔人へ、食事を作る麗へ、食卓へ笑顔を添える三人へ、
感謝の言葉を捧げ、ボクの一日は始まる。
いつかインフェルシアとの戦いを終えたその時、ブレイジェルと深雪さんもそこで笑っているはずだった。

なのに……。
目の前でブレイジェルは惨殺され、彼に託された麗、深雪さん。
二人を守ることができなかった。
ボクは、何もできなかった。
キミたちに手を掛けた者も、こんな殺し合いを仕組んだロンも絶対に許さない。
ボクは必ずロンを倒す。裕作やサーガイン、明石と共に。
そう、拳を握り締めて立ち向かって行かなければ……。

……だけど、それでどうなるっていうんだ。
麗もいない。
ブレイジェルもいない。
深雪さんもいない。
もう二度と、幸せな朝を迎えることはない。
麗、ボクは一体どうすればいい。
これから先ずっと、この悲しみと絶望を抱いて生きて行くしかないのかい?

299: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:13:43 PQxHz/lF0
ボクに残された道は……。もう、それしかないのか。

本当にそれだけだろうか?

――残されたボクにできるのは、本当にそれだけなのだろうか?


 ▽


気を失ってから程無くドモンは意識を取り戻した。
おあつらえ向きだとばかりに、サーガインはI-4エリア外れの灰色の建物へ向かった。
そして取調室と書かれた部屋にドモンを無理やり連れて行き、怒声を上げ詰め寄った。
「言わぬか!ドモンッ!!深雪殿をどうした!深雪殿はなぜ死んだ!?お前の持っていたバックの中身は一体誰の物だ!!!」
ここは犯罪者を詰問する為の部屋。海岸近くの警察署の一室。
重苦しい室内にサーガインの怒声とドモンの姿がおかしなほどお似合いだった。
暗い灰色をしたコンクリートの壁に穿たれた窓。
窓枠に嵌められた鉄格子からは太陽の眩しい光が差し、項垂れ黙座するドモンの背に、鉄格子の影が烙印のように黒い逆十字を影映している。
部屋の中央に置かれたスチール製の粗末な椅子。その上で拘束されたままのドモン。彼の姿はさながら殺人犯だ。

「よしな、サーガイン。そんな言い方じゃ話す気になれねぇだろ」
左側に裕作、右側にサーガイン、そして机を挟む形でヒカルと、三人はドモンを取り囲む。
真正面に座るヒカルに、太陽を背に座るドモンの首から上は逆光で包まれ何も見えない。
ふてぶてしく微笑を浮かべているのか、後悔の念に囚われているのか。
彼が抱いている感情の源泉が何なのかわからなかった。
いや、わからなかったと言うよりヒカルの目は何も捕らえていなかったに近い。
意識は昨日までの、いつもの朝に飛んでいたからだ。

300:名無しより愛をこめて
08/12/25 00:14:26 2R5RRYKLO




301: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:17:06 PQxHz/lF0
「ぬるいわ!ドモンは殺し合いに乗ったのだ」
「それにしたっておまえの言い方は一方的過ぎる」
サーガインは苛立ちを押えず机の上に拳を振り下ろす。
不意に現実に引き戻されたヒカルはサーガインに冷たい視線を送った。
深雪殿深雪殿と思ってくれるのはありがたいが怒鳴り声で連呼されるのはカンにさわる。
溢れ出しそうな感情を抑えるのが精一杯の状態で、蹴散らすような怒声を聞かされるのは、やはり気分のいいものではない。
「ふん、深雪殿のためだなどほざいていたな。ふざけた話よ。どうせ貴様が守りきれなかったせいで死んだのだ!」
ヒカルの胸の内もお構い無しにサーガインは続ける。
ドモンは何一つ聞こえていないかのように身動き一つせず。
裕作は鏡の張られた壁にもたれ掛かり、ため息をついただけで言葉を繋ごうとしない。

数秒間の沈黙。
何か聞きたいことはないかと言いたげに裕作がこちらを見る。
裕作とのやり取りで、ドモンが深雪を殺したのではないかという疑念は晴れつつあった。
おそらくサーガインの言う通り、ドモンは守りきれなかった。深雪を思い生き返らせるため殺し合いに乗ったのだろう。
しかし、それは憶測に過ぎず、何も語らないドモンを手放しで受け入れる気にはなれない。
所詮、そんなものは希望に基づいた憶測なのだから。
「ドモン……」
静かにドモンの名を呼ぶ。ヒカルの声に項垂れていたドモンの頭が持ち上がる。
「ボクはブレイジェルから深雪さんを託された。二人はボクにとって、とても大切な存在だったんだ」
ヒカルはポケットから一枚のマジチケットを取り出しそっと握った。
取り出したマジチケットには後光差す天空聖者が描かれている。
「 ルーマ・ゴルド。この魔法を使えば黙っていても記憶を探り出せる。もうすぐ制限も切れる。
話す気にならないなら見せてもらうことになるよ。そうなれば、キミに黙秘権はない」
驚いた裕作とサーガインに構わずドモンの横に立った。
ドモンを上から見下ろし、チケットを翳した。
「ヒカルさんに、話したいことがある」
押し黙っていたドモンが口を開いた。

302:名無しより愛をこめて
08/12/25 00:19:17 ik/kfBYbO



303: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:20:51 PQxHz/lF0
「ヒカルさんと、二人にしてくれないか……」
ドモンは裕作とサーガインに視線を移さず、真っ直ぐにヒカルを見つめていた。
太陽に照らされたドモンの顔。
とても澄んだ瞳でヒカルを見つめていた。


 ▽


「結局ドモンは自分の口から全部話したってわけか。まぁ、さっきのドモンの様子からして嘘じゃねぇだろう。
しかし、放送で呼ばれた3人の死に様に、ドモンが関わっていたとはね」
深雪が死んだ経緯を聞いた時、裕作は全身が総毛立った。
嫌らしい笑いを浮かべドモンに近づくロンが脳裏に浮かび上がる。
今もロンはどこかで同じように誰かに囁いているのだろう。
ドモンのように、愛する人を守ることができなかった者や、放送で大切な人を失ったことを知った者。
精神的に極めて不安定な状態をつけ狙い、甘い言葉で誘う。
惑わされた者は、迷いながらもそれにすがり、失った者を取り戻そうと殺し合いに乗る。
そして、誰かが死ぬたび、それは繰り返されるのだ。
「ドモンが持っていたデイバックは深雪殿の物で、中の品はロンが直々に持ってきたブレイジェルとやらの支給品とは……。しかし深雪殿もドモン如きのために哀れな話よ」
「あぁ、ブレイジェルはウルザードとして記憶を無くし彼等の前に蘇った。おそらく呪縛転生の魔法を使ったんだろう。
だけど腑に落ちないところもあるんだ。ウルザードはン・マに忠誠を誓っている時でさえ、本能のどこかで家族を守ろうとしていた節がある。
だがドモンに聞いたウルザードからは殺意以外は感じられない」
「蘇る際にロンに唆されたのではないか?誰かのように……な。得意の魔法で探ってみたらどうだ」
「そんな魔法はないよ。ドモンの記憶を探ってみたところで、そこまではわからない」
ヒカルは魔法で記憶を確かめなかった。

304: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:21:58 PQxHz/lF0
裕作はそれでいい、と思う。ヒカルが直接、今の話を目の当りにするのはショックが大きすぎるだろう。
ただ少し気持ちに区切りがついたのか、ヒカルは幾分表情を和らげていた。

「これから、ドモンと二人で深雪さんの所へ行こうと思う。直接確かめたいんだ。しっかり現実として受け入れるためにも……」
「二人で、何故だい?!」
裕作は視線をぶつける。
なるべく口調は柔らかくしたつもりだったが、そうでもなかったらしい。
「っと、殺し合いに乗った人間を野放しにはできないだろう」
ヒカルの表情から和らぎが消えた。
眉間にシワをよせ真剣な眼差しを返してくる。
「キミたちはさっきからボクが殺し合いに乗ったような目で見ている……。ボクがドモンを殺すとでも?」
「いや、そうは言ってない」
サーガインがヒカルから見えない位置でドライガンに手をかけた。
裕作はそっとそれを制す。
嫌な緊張感が全身を包んだ。
「ドモンを殺す、ドモンの思いを尊重するならドモンは一番最後だ。聞いていたんだろう?」
ヒカルは立ち上がり、壁に引かれたカーテンを開けた。
カーテンの下は硝子張りになっていて、硝子越しにはドモンの姿がある。
隣室とこの部屋の間にあるマジックミラーとデスクの上の通信機で二人の会話はすべて裕作たちにも聞こえていた。
「そうだ、ヒカル。ドモンの言葉をはっきりとこの耳で聞いた!」
サーガインはドモンを指差し、机に身を乗り出させた。
「二人で勝ち残った暁にはヒカルが優勝すればいいと。その時ドモンは死んでも構わぬと言っていたであろう!!」
「あぁ、そしてボクはドモンに『キミの気持ちはわかった。協力しよう。少し待っていてくれ』と部屋を出た」
ヒカルは悪びれる様子もなく、笑顔さえ浮かべていた。
「そう、貴様はドモンの願いを聞き入れた。貴様は乗ったのだ!殺し合いに!!深雪殿に幸せな家族をプレゼントするためにな!!」

305: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:23:44 PQxHz/lF0
サーガインは裕作を押し退け、ヒカルの胸にドライガンを突き付ける。

「ま、まだ、わかってもらえないのかい?」
ヒカルは裕作とサーガインを交互に睨みつけてきた。
「あの場でドモンを説き伏せるのは難しいと思った。だから、どちらとも取れるような返事をしたのさ。しばらく二人で行動すればドモンを説得できるんじゃないかと思ってね」
「説得だと!?しらを切るつもり……うわ、裕作殿ッ。何を!モガッ、モガ~」
サーガインの口を押さえ、ヒカルから引き離しながら裕作は言葉を継ぐ。
「説得するって、ならヒカル。おまえは殺し合いに乗った訳じゃないんだな?信じていいんだな?!」
「一緒に勝ち残るという話も含めて、ボクがドモンから聞いた話をすべて包み隠さず伝えれば、殺し合いに乗らなかった証明になると思ったんだ。
本当はマジックミラーには、気付かないふりをするつもりだった」
ヒカルは前髪をさらりと払い、非難がましい目をサーガインに向けた。

裕作はほっと胸をなでおろしサーガインから手を離す。
「ブハッ。ぬ、ぅおっ!」
前にでようとした反動でサーガインはつんのめり、デスクの角で額をぶつけた。
今日、頭をぶつけるのは二度目らしい。痛い!痛い!!と頭を押え、のた打ち回った。
「話したことはすべて本当だっただろう。キミたちがあまり怖い顔で見ているから、種明かしをする前に殺されてしまうかと思ったよ」
「すまなかった。悪く思わないでくれ。だが、よく決断できたな」
「……誘いに乗った方が、楽なのかもしれないと思ったよ。正直、今も心が押し潰されそうだ」
苦笑するヒカルの端正な顔に疲労の色が濃くでていた。
この数時間で急に年を取ったように。

ふと裕作は、瞬が死んだら俺はこんなに思ってやれるのだろうかと思った。
そんな後悔をする前に捜してやらなければならない。
焦りに似た気持ちが裕作の胸を包む。

「だろうな。顔を見ればわかるぜ。疲れきってボロボロ。せっかくの男前が台無しだ。ってのは冗談だが……、おまえと話していたドモンも苦痛に満ちた顔だったぜ」
「ボクはその何百倍も苦しい……。だからこそ、ドモンの気持ちは痛いほどわかったよ」
「ドモンと自分の思いを重ねることで、進むべき道が見えたってところか」

306:名無しより愛をこめて
08/12/25 00:23:50 ik/kfBYbO





307: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:27:03 PQxHz/lF0
「あぁ、ドモンはまだ誰も殺していない。まだ引き返せる。ドモンに正しい道を示すのが、ボクにできることだと思うんだ。
ブレイジェルへの償いと、命がけでドモンを救った深雪さんの遺志を継ぐという意味でもね」

ヒカルがマジックミラー越しにドモンを見た。
裕作も視線を移す。ドモンは何も知らずに首を捻り太陽を仰いでいる。
ヒカルと最後の二人になり、ヒカルを優勝へ導き、深雪に幸せな家族をプレゼントする。
犠牲の上に成り立つ幸せな家族など……。悲しいけれど、ドモンの選択した道は間違っている。
同じ絶望、いや、それ以上に辛い絶望の中、ヒカルが選んだのはドモンの軌道修正。
ヒカルになら、いや、ヒカルにしかドモンを止める事はできないだろう。
そしてドモンに正しい道を示すことで、ヒカル自身も道を逸れずにすむ。
絶望から見いだした必死の答え。ヒカルの導き出した最善の選択だ。
「わかったぜ。ドモンの事はおまえに任そう。だが、ロンがしゃしゃり出てきてるとなったからには、俺たちもノンビリおまえらを待つ訳にはいかない。
その間、俺は瞬を捜す。サーガイン、おまえはどうする? 厄介な制限もあることだし一緒にこないか?」
痛みが治まったのかサーガインは椅子の上でふんぞり返っていた。
会話に入れず、さぞ機嫌が悪いだろうと思っていたが、返ってきたのは至ってまともな答えだった。
「ふむ、裕作殿。俺は明石を探してやろう。ヒカルとて、もう知り合いに死なれるのはかなわんだろうからな」
「おっ?どうしたんだ。サーガイン」
似合わない優しさにヒカルと顔を見合わせる。フッと鼻を鳴らしサーガインは自嘲気味に続けた。
「どうしたもこうしたも。残念だが、俺にはろくな知り合いがおらぬ。フラビージョしかり、シュリケンジャーしかり。
だが、明石は信頼に足る人物とみた。まだそう遠くには行っているまい。三時間ほどで戻ってくる」
そのまま出て行こうとするサーガインを裕作は慌てて止めた。
「おっと、待ちなよサーガイン。そのデイバックの中身はヒカルに渡してやれ」
「何故?」
「ウルザードって奴もヒカルの身内みたいな奴だ。ヒカルが持っておくのが筋だろう。ドモンが心を入れ替えるまでドモンの荷物もヒカルに預けよう」
「……」

けだるそうにサーガインはデイバックの中身をヒカルへ渡した。

308: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:28:02 PQxHz/lF0
「すまない、裕作。サーガイン」
「礼を言う必要はないぜ。支給品っても、役に立ちそうなのは食料ぐらいだからな」
別れて行動する方針は決まったが、ドモンにどう伝えるのだろう。
ドモンは一人殺せば後は一緒だと思っており、『二人であいつらを……』とまで言っていたぐらいだ。
あいつらとは勿論、裕作とサーガイン。
「ヒカル、俺たちと別れるのをドモンにどう説明する?」
「最初の一人、そのハードルを越えるのにずいぶん焦っているようだからね」
裕作もヒカルも顎に手をあて思案する。
「ドモンは単細胞だ。まず、怪しまれずにクロノチェンジャーを取り返し、その後、一人一人確実に殺すためとでも言えばよかろう」
「キミたちを……」
「徒を思い、嘘の一つもつけぬようでは師としては失格よ」
サーガインの奴、なかなかいいこと言う。ヒカルの目が心なしか潤んで見えた。
「わかる、わかるよ。サーガインの言葉にグッときたんだろ」
ヒカルは案外涙もろいのかもしれない。
だが男は涙を見せぬ物。裕作は最大のエールを込めて、思い切りヒカルの背中を叩いた。

デイバックを背に裕作は歩き出す。サーガインもそれに続く。
「ありがとう。出会えたのが、キミたちで良かった」
背後でヒカルのくぐもった声が聞こえた。
気障な台詞もヒカルが言うと絵になるもんだな、と。裕作は一人笑った。


 ▽


誰も居なくなった取調室でドモンは太陽を見つめていた。

309:名無しより愛をこめて
08/12/25 00:28:34 ik/kfBYbO



310: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:30:49 PQxHz/lF0
雲ひとつない青空が鉄格子の向こうに広がっているのに、湿っぽい部屋で拘束されたままヒカルを待っている自分が皮肉に思える。
足音が聞こえてきた。一人、二人分の足音が通り過ぎ、少し遅れて聞こえてきた足音はドアの前で止まった。
重い扉が開き、ヒカルが顔を覗かせた。
「ヒカルさん!」
ヒカルは静かに、とでも言うように人差し指を口へ当てる。
「あいつらは?」
「裕作は知り合いを、サーガインは明石を捜しに行ったよ」
二人とも出て行った。どういうことだろう?
ドモンはヒカルの意図がわからず眉をひそめた。
ヒカルはドアのほうを見つめながら柔らかな笑みを浮かべた。
「彼らにはキミが殺し合いを止めるよう説得すると言った。だから、しばらく二人で行動させてくれと……」
「そうか……」
「二人が戻ってくるまであまり時間がない。それまでに深雪さんの所へ案内してくれるかい?」
「深雪さんの所へ?」
都合よく一人づつ別れたってのに。まず、あいつらを殺すんじゃないのか。
意気込んでいたのは自分だけだったのか。
落胆が胸を駆け抜け、ドモンは視線を床に落とした。
「先にしっかりと目に焼き付けておきたいんだ。深雪さんの姿をね。ボクの意思が揺るがないように」
ヒカルはドモンの後に回り、拘束を解きながら答えた。
「わかったよ……」
ドモンは俯いて拘束の跡が残る手首を摩る。
この程度の拘束、本当は外そうと思えばすぐに外せた。

目が覚めた時、また殺せなかったことにドモンは愕然とした。
殺しそこねた相手から感じるのは、殺し合いに乗った理由を理解しようと言う意識。
ドモンは自己嫌悪に陥った。
同時に深雪の死が齎した悲しみと絶望と、守れなかった罪悪感が、改めて押し寄せてきた。
ドモンの目の前に打ちひしがれた男がいた。

311:名無しより愛をこめて
08/12/25 00:34:17 ik/kfBYbO
支援

312: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:34:53 PQxHz/lF0
その男、ヒカルも、自分と同じ、否、それ以上の悲しみと絶望を抱いている。
ドモンが思いを吐露するのであればヒカル以外に考えられなかった。
二人で話せる機会は無いものかと様子を窺いながら、突き放された時を想像し、気落ちと、持ち直しを繰り返した。
そうしているうちにドモンは考え至った。
二人で勝ち残り、最後にヒカルを優勝させればいい、と。
その考えは強烈にドモンの心を掴んだ。
ヒカルはドモンの告白に、協力しようと言った。思いが通じたと思ったのだが……。

「行こう。キミのクロノチェンジャーはここにある」
デイバックを軽く上に持ち上げ、急かすようにヒカルが言った。
ドモンは何も言葉が思いつかず、黙って頷いた。

考えすぎだろうか。
ヒカルの態度は肯定にも否定にも受け取れる。
なんといえばいいのだろう。
ヒカルと自分の間に共通する何かが感じられない。
殺意と言えるような何かを、ヒカルは身に纏っていないように思えた。



 ▽



「深雪さん……」
嗚咽を堪えているのか、ヒカルの肩が震えていた。
深雪の手を握り、動かないままのヒカルにドモンは呟いた。
「早く、幸せな家族をプレゼントしてやらなきゃ。最初の第一歩さ、誰か一人、誰か一人殺せば……」

「……だ。ドモン」

313:名無しより愛をこめて
08/12/25 00:36:31 ik/kfBYbO



314:支援感謝 ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:38:01 PQxHz/lF0
ヒカルが首を振った。言葉は良く聞き取れなかった。否定の言葉と受け取らずにドモンはもう一度繰り返した。
「最初の一人。それができれば……」
「本当にそう思うか?ボクにはとてもそうは思えない」
強く頭を振り、ヒカルはドモンを見据えた。
「ロンの手で蘇ったウルザードには、ブレイジェルであった頃の面影など微塵も無かった。
もし生き返ったとしても、それはロンの操り人形なんだ。それが本当に幸せな家族と呼べるだろうか?」
「ウルザードは殺し合いを進めるために蘇らせたんだ。願いを叶えるのとは訳が違う。ちゃんと生き返らせてやる。そう言ってただろ。悔しいが今はそれに縋るしかない」
「ボクたちに残された道はそれだけだろうか。ドモン。深雪さんが命を懸けてウルザードを倒した意味を考えてみてくれ」
ドモンはヒカルの言いたいことを察した。
先程から感じたヒカルとの隔たりの正体も同時に悟った。
だが、まだ認めたくはなかった。焼け焦げた深雪の顔、赤黒く変色した白い肌を、もう一度元の姿に。幸せな家族に戻さなければならない。
「ヒカルさん。何が言いたいんだ?それじゃまるで俺を説得してるように聞こえるぜ」
「その通りだよドモン。深雪さんは死んだ。静かに眠らせて……」
「嫌だね!勝ち残れば深雪さんに幸せな家族をプレゼントしてあげられるんだ」
ドモンは大声を張り上げた。自分に人が殺せるか、張り上げた声ほどの自信はまだなかった。
だが、深雪をこんな姿にしたのは、自分が弱かったからだ。
自分が深雪を守れていれば……。
なのにウメコの言葉に、ヒカルの言葉に揺れる。引き返そうとしている自分に無性に腹が立った。
「死ぬ前にキミに託した思い、残されたボクたちがその思いを受け継ぐ。本当に誰かのために戦うこと、諦めずに道を切り開く勇気を。
その思いは裕作やサーガインには伝わっている」
「だから二人と別れたのか。あいつらを逃がしたのか」
「逃がしたんじゃない。キミが生かされたんだ」
「それでいいのか?深雪さんや旦那さん、麗さんだって戻ってこないんだぜ!」
ヒカルに怒鳴っているのは八つ当たりだった。弱い自分と、守りきれなかった現実を思うと消えてしまいたい気持ちに駆られる。

315: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:41:08 PQxHz/lF0
「あんたは、あんただけは俺と同じ気持ちだと思った」
「キミにはボクの気持ちなど、ボクの苦しみなど百分の一もわからない。ブレイジェルも深雪さんも、麗もずっとずっと前から大切な存在だった。だからこそ……」
ヒカルは深雪の手をそっと地に置き、大きく息を吐いた。
「静かに、眠らせてあげるんだ」

全身から力が抜けて行くような感じがした。
深雪のスカートだった物が風に靡いている。美しかった深雪の顔は判別できないほど焼け爛れている。
深雪さんが眠るのはこんな場所じゃない。
やっとわかった。
第一歩など踏み出さなくても、もう戻れない所に来ている。

「だからこそ、取り戻してやる。あんたを優勝させるよ。そのためなら俺はどうなったっていい。命なんて惜しくない……」
「いい加減にしてくれないか!何を言ってるんだ!!
深雪さんに命を救って貰っておいて、裕作とサーガインだって命を狙ったキミを殺さなかった。
それどころかこうして引き返すチャンスをくれた!それなのに命が惜しくないだって?ならなぜ深雪さんの代わりにキミが死ななかったんだ!」
ヒカルはドモンの胸ぐらを掴み強く揺すった。
「三人の名が呼ばれた時、ボクが同じことを考えなかったと思うか?
キミの言う第一歩、どうしても殺し合いに乗せたいというなら!ボクがその一歩を踏み出すとしたら標的にキミを選ぶ!
キミのせいで深雪さんは死んだんだ!そしてブレイジェルは二度も命を絶たれた!ボクには簡単だ!彼らの命と引き替えにキミの命を奪うことなんて……」
歯を食いしばり、ドモンの胸を叩くと、ヒカルは手を放し膝を折った。
「すまない。キミを責めるつもりはなかった。本当はキミの話に心が揺れた。それを思いとどまらせてくれたのは祐作とサーガインだ」
「……あいつらが麗さんの代わりになるのか」
ヒカルと麗を話す深雪は二人を温かく祝福する思いに溢れていた。
「麗……」
その名を唱えるヒカル。固く閉じられた瞼が愛しい人を亡くした悲しみを物語っていた。
「ボクがどんな思いでキミに殺し合いを止めさせようと決断したかわかるかい?もう一度考え直してくれ」

316: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:42:38 PQxHz/lF0
「もう一度考えるのはヒカルさん、あんただ。俺の思いは変わらない。教会で待ってる」
ドモンはクロノチェンジャーをデイバックから取り出し、教会へ重い足を運ぶ。
海外沿いの遊歩道でひっそりと白い花が揺れていた。
小さな清楚な花だった。まるで深雪が笑っているように見えた。



 ▽



説得は失敗、ドモンも殺せぬとは、腑抜けが!

サーガインは、二人を着けていた。
最初から明石の所へ向かう気など無い。深雪の首輪を奪うため後をつけ、様子を一部始終見ていた。
二人は言い争い、やがてドモンは教会の方へ、ヒカルは反対の方へ歩いて行った。
「さて……」
サーガインは一息つき、嫌な笑いを浮かべると深雪の死体に近づいた。
触れた感触は冷たい。もはや一切の温もりはなく、硬直が始まっていた。
「ふんっ!!」
サーガインは深雪の腹を足で踏み付け、髪の毛を鷲づかみにし、深雪の身体を起こす。
巌流剣で首を切断すれば早いが能力を発揮した後が厄介だ。
ドライガンで死体を粉々に砕き、首輪を奪おうかとも思ったが音を聞き付け二人のどちらかが戻ってくる可能性もある。
どちらもサーガインの役には立たない。殺してしまえばすむだけの話だが。

「骨が折れるな。だが、仕方あるまい」
深雪の胸元を掴み、力任せに左右へ引いた。
ビリッ。
服が破れ薄い鎖骨と胸元があらわになった。

317:名無しより愛をこめて
08/12/25 00:43:57 ik/kfBYbO




318: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:47:09 PQxHz/lF0
「チッ」
思うようにいかない苛立ちに舌打ち、硬直の進んだ顎関節と肩に手を掛け、一気に引き裂いた。
ぶちっブチブチッ 。
さらに力を入れる。筋繊維がゴム状にのび、反動で深雪の手がびくんと動いた。
焼焦げて炭化した顔がガサガサと崩れだす。
「顔を踏み潰したほうが、早いかもしれんな」
その時、サーガインの瞼を白い物が覆った。手に取るとそれは白い花びらだった
風に乗った花びらが紙吹雪の如く顔の横を掠める。
振り返ると白い花を両手に抱えたヒカルが呆然と立ち尽くしていた。
「サーガイン……。キミは、一体何を……?」
ヒカルは酸欠状態の金魚のようにパクパクと口を動かした。
「何?見ればわかるであろう。首輪を貰うのだ。首輪を外して解析すれば深雪殿も喜ぶであろう?」
体制を変え、再び腹を踏みつけ深雪の首を捩切ろうとした。
「これは裕作どのも知ってのこと。首輪が外れれば貴様の命も助かる」
無論、祐作は知らない。そう言えば納得するとは思わなかったが、腑抜けっぷりに拍車が掛かるのは見物だと無情に言い放った。
パサリ。
風に大量の花びらが舞う。
ヒカルが花束を落とし、絶叫を迸らせながらこちらへ突進するのが見えた。
走りながらヒカルはチケットを切りマジシャインへと姿を変える。
サーガインは咄嗟に巌流剣を抜き、深雪の首を切断し首輪を抜き取った。
「もう深雪殿にようはない。おまえの好きにするがいい」
振り向きざまに向かってくるマジシャインへ深雪の頭部を放り投げた。
「なぜ、なぜ!こんなことができるんだ! 」
マジシャインは変わり果てた深雪の頭部を胸に抱き、怒りに震えている。
「深雪さんを思っているからこそ、ボクはドモンを説得しようと思った。キミたちにもボクの思いは伝わっていると思っていた!!」

319: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:51:52 PQxHz/lF0
5分で終わらせてやる。
その後は人目に付かぬところで制限をやり過ごせばいい。
サーガインは辺りに目を配る。
ドモンは教会へ向かった。下手に戦って今ドモンに戻ってこられても困る。
砂浜に続く岩場なら、身を隠す場所にもなろう。
サザザッ。
サーガインは擦り足で後へさがり、適度な間合いをとる。
両手に巌流剣を構えるサーガインを意に介さずマジシャインは深雪の頭部を身体の元へ戻した。
マジシャインはゆっくりと立ち上がり、サーガインへ近付く。
背中に携えた殺意をサーガインは鼻先で薄く笑う。
サーガインはそのままじりじりと下がりながら、背後に聳える岩場を確かめ、そこまで一気に走り寄る。

「ロンを倒すためだというのに。ヒカル、貴様俺を殺す気か?ドモンを説得するつもりが唆されたとは」
武器も持たず、マジシャインは無様に拳を振り上げる。
「やはり腑抜けか……」
体当たりするように間合いを詰め、右の一刀を横へ薙ぎ払いざま左の一刀を斜め上に切り上げる。
「ウワァァァッ!!」
火花をあげマジシャインの身体が沈んだ。
「何が起こったのかもわかっていまい。先に変身したのはヒカル、貴様だ。もう死ね!貴様如き巌流剣の錆にもならぬがな!!」
躊躇うことなく袈裟懸けに斬りつける。
刹那、マジシャインの装甲が光に包まれた。

「プロミネンスアタック!」

風が走った。
右半身に衝撃が走り、次いでサーガインは苦痛の叫びをあげた。
「グァァッ!!!」
「ボクの名前を気安く呼ぶな……。おまえは深雪さんの、ドモンの、ボクの思いを殺した!天空聖者の名に架けてボクがおまえを終わらせる!!」

320: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:53:53 PQxHz/lF0
地面を転がる屈辱。
すかさず立ち上がりサンジェル目掛け刀を伸ばす。
「その姿なら少しは相手になるかもしれんな」
サンジェルは右手を胸に、呪文の詠唱を始める。
顕在した光が太陽の如く煌めいた。

「プロミネンスシュート!」

咄嗟に左に身を交わすサーガイン。
光球は左頬を掠めた。瞬時、焼け付くような熱さがサーガインの身体を巡る。
頬を押さえ思わず片膝をついた。
「グッ!」
呻きを漏らした瞬間サンジェルの姿が消えた!?
否、後ろ―――
悟った時すでにサンジェルはサーガインを羽交い締めにし、凄まじい勢いで地を蹴り太陽に向かい跳躍した。

「プロミネンスドロップ!!!」

構える隙さえ与えられずサーガインは地に叩き付けられる。衝撃に前後不覚に陥る。
揺れる視界。ふらふらと二、三歩たたらを踏み、やっと留まったところで両手に握る巌流剣が左一刀であることに気付いた。
フッとサンジェルの幻影が視界を過ぎった。
視点を合わせると何故かサンジェルの顔が自分の胸の辺りに見えた。
「なっ!?」

321: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 01:00:33 PQxHz/lF0
身体を走る衝撃に背を弓なりに反らせば……。左肩に納まるはずの巌流剣が、サーガインの腹から背に納まりきらず突き抜けていた。



 ▽



激情、その言葉が一番近いものかもしれない。
使命でもなく、悪を倒すでもなく、敵を打つでもなく、まさしく激情に駆られ湧き上がった殺意が、身体の奥底からボクを操っていた。
サーガインを殺す。それ以外に考えることなどできなかった。
何の迷いも躊躇いもなく、巌流剣でサーガインの身体を貫いた。
深雪の側であることも、戻ってきたドモンの姿が見えたことも、すべてフィルター越しの景色のように、とても遠く不確かだった。

明確だったのはサーガインに対する殺意。
己の命を救うためなら他人に対してどれほど残酷にもなれる。
ボクはサーガインと同じだ。 深雪さんのためじゃない。 悔しくて悲しくて、それを我慢できなかったのはボクだ。

いつの間にか、ボクとドモンは砂浜の上に二人座って海を眺めていた。
どうしてきたんだ?そう聞こうとした。立ち上がったドモンの手に、ボクが摘んだのと同じ白い花が握られていた。
ドモンは深雪さんに花を供えに来たんだ。

「可笑しいかい?ドモン。キミが躊躇した第一歩をボクは簡単に越えてしまったよ」
ドモンは笑った。正確に言うと笑い飛ばした。
「あ~ぁ、ひでぇよ、ヒカルさん。先に殺っちまうなんてさ。誘ったのは俺だぜ」
ドモンは波打際で倒れたサーガインに目をやり、優しい声でボクに語りかけた。
「戻ってきてサーガインのやったことを知った時、俺はあいつを殺そうと思った。だからサ-ガインは俺が殺したのも同じだ」

322: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 01:04:22 PQxHz/lF0
「違う。キミは……。まだ戻れる」
ボクの言葉など聞こえないように、ドモンはデイバックから形の崩れたアップルパイを取り出し、二つに割ると片方をボクへ差し出した。
ボクは黙ってそれを受け取った。

「食べよう、ヒカルさん。まだ先は長いぜ。まぁ、美味いとは思えないだろうけど……」
そうだ。ボクらは生き延びなければならない。
ボクらの願いが叶うまで、後どのくらいかかるかわからない。
「「いただきます」」
二人の声が重なる。
「ククッ。ハハハ」
突然笑い出したボクを、ドモンが心配そうに見つめた。
「いただきますの意味を思いだしたんだ。
知らないのかい?食べ物に関わるすべての人への感謝の言葉だと前に薪人が教えてくれた。
そして、あなたの命をいただいて、私の命にさせていただきますという意味もあるんだ」
ボクはサーガインを見て、笑った。
「他の命を奪い亡くした者を取り戻そうとする。今のボクたちに とてもお似合いの言葉だと思わないか?」

崩れたアップルパイを一切れ口に入れた。
「なんでだろうな、こんな時なのに……」
ドモンは言葉を詰まらせた。
その先はわかる。こんな時なのに、崩れてお世辞にも美味そうには見えないアップルパイなのに……。
悔しいほど、舌が痺れるほど、美味かったから。


323:名無しより愛をこめて
08/12/25 01:08:06 ik/kfBYbO
支援…できるか!?

324: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 01:13:17 PQxHz/lF0
 ▽


「馬鹿め……。このサーガインまだ死んではいない!!!」
コックピットの中でサーガインが叫ぶ。
運よくヒカルが貫いたのは傀儡のみ 。サーガイン本体のいるコックピットに影響は無かった。
とはいえ一度能力を発揮したため傀儡を動かせぬ状態。
サーガインは波打際で俯せに倒れたままかろうじて動かせる目を駆使して辺りを伺う。

「ヌハハハハ!とんだお人よしだな。俺のデイバックをそのまま置いていくとは!
サーガインはあの時ヒカルにドモンの荷物を渡すと見せ掛け、小津勇の支給品を残し自分の基本支給品を渡したのだ。
一つ悔しいのは深雪の首輪を奪われたこと。
「まぁ、首輪はいずれ手に入ろう。ウメコとやらの死体も近くにある。……しかし 」
動けず、蛙のような格好で波打際に倒れているのは屈辱の極みだった。
俯せに倒れているのでサーガインはやはりorzの状態なのだが、体制など気にならなかった。身体の底から笑いが沸きあがるのを止められない。
「俺はロンの犯した最大の失態を握ったのだ。殺し合いの餌、ロンの宣う甘言を根底から覆す最大の失態をな!」
深雪の死に様、後からロンが持ってきた小津勇のデイバック。そしてサーガインの第六感。
デイバックの中の小津勇の支給品、サーガインの物と若干異なる状態の物の『鍵』を掴んだと思った。
おそらくドモンは気が付かなかったであろう。
偉大なる科学者、サーガインでだからこそ些細な異変を見逃さなかった。
「ロンめ、早々に俺をここに連れてきたことを後悔することになったな……。ん?」

ザッパ~ン。

「ぬお!」
サーガインが倒れていたのは岩場近くの波打ち際だった。

325:名無しより愛をこめて
08/12/25 01:17:59 ik/kfBYbO



326: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 01:22:12 PQxHz/lF0
波の穏やかな砂浜と違い、岩を叩く波は飛沫をあげ、真っ白な泡が深い蒼海に散る。
男の海、日本海さながらの波がサーガインの身体を叩きつける。
波の音はうるさく不愉快だったが別にどうというものでもない。
重い傀儡が波にさらわれる心配はまずないので身の危険の心配もいらなかった。
再び思考を巡らせようと目を瞑る。
「ヒカル、ドモン。この敵は必ず取らせて貰うぞ」
などと一人呟きながら数分。一際大きな波音が轟いた。

ザッパ~ン。チャポ。

「ぬぅ、チャポ。だと?」
爪先を冷たい物が触れた。目を開けるとコックピットに水溜りができている。
無論、設計上は浸水などするはずが無い。コックピット内の安全は自分の命に繋がるのだから。
だが見る見るうちに水溜りは大きくなる。
脱出しようと開閉ボタンを押す。
俯せで倒れているせいでフェイスマスク部分に作られたコックピットの扉が開かない。
甲虫のような細い腕では、頭部を押し上げて脱出も不可能だ。
浸水の箇所を防ごうとサーガインは夢中で手を伸ばした。
フェイスマスクの左頬の部分。サンジェルにつけられた傷が亀裂となり水の浸入を防げない。
バチバチと稲光にも似た眩しい光がコックピットに走った。途端、傀儡内部の光がシャットダウンした。
僅かにアイマスクの隙間から太陽の光が差し込む。
しかし、その光もすぐ波に消された。
暗いコックピットに水音だけがチャプチャプと不気味に響く。
「このまま、死んでたまるか!ゴブッ」
コックピットを満たす水は、もうサーガインの鼻先まで来ていた。
海水を飲み込んだ喉が、鼻が、焼けたように痛い。
「暗黒七本槍・五の槍 サーガイン。この俺が、こんな惨めな死に様などありえんっ……!ゴブオッ、ゴポッ、コポッ……コポ……」
海水がサーガインの身体を満たし、その重い体がぷかりと浮くまで、時間はそうかからなかった。


【サーガイン 死亡】
残り30人

327: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 01:27:52 PQxHz/lF0
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:I-4海岸 1日目 午前
[状態]:身体に無数の切り傷と打撲と火傷(中程度のダメージ)。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルを優勝させ、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:ヒカルと共に行動。
備考:変身に制限があることに気が付きました。 ウルザードに受けた傷はほとんど治りました。

【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:I-4海岸 1日目 午前
[状態]:左肩に銃創。応急処置済み。胸に刺傷。2時間魔法(マジシャイン、サンジェル変身不可)使用不可
[装備]:グリップフォン、シルバーマージフォン
[道具]:基本支給品×3(サーガイン、小津深雪、ヒカル)月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー、ゼニボム×3@特捜戦隊デカレンジャー
[思考]
基本方針:ドモンと共に優勝を目指す。
第一行動方針:深雪の首輪を奪おうとした祐作に不信感。
第二行動方針:ティターンに対して警戒。
第三行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
備考:サーガイン、裕作と情報交換を行いました。マジシャインの装甲(胸部)にひび割れ。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。


328: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 01:28:14 PQxHz/lF0
【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:34話後
[現在地]:I-4海岸 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:ケイタイザー
[道具]:フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー、火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、木製の台車(裕作のお手製)、他1品
[思考]
第一行動方針:瞬を捜す
第二行動方針:
備考:2時間の制限に気づきました。ヒカルと情報交換を行いました。メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
    ヒカルがドモンを殺し合いを止めるよう説得していると思っています。勇、深雪、ウメコの死に様をドモンから聞いています。
  


共通事項
※サーガインの持ち物。基本支給品一式(小津勇)、拳銃(シグザウエル)はデイバックに入ったまま、I-4海岸、岩場近くの波打際、サーガインの死体の側に放置されています。
  小津勇の支給品に関して『何か』(サーガイン曰く「俺はロンの犯した最大の失態を握ったのだ。殺し合いの餌、ロンの宣う甘言を根底から覆す最大の失態をな!」)があるようです。



329:名無しより愛をこめて
08/12/25 01:31:28 ik/kfBYbO
シ・エ・ン

330:これより至極の天罰はない ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 01:33:10 PQxHz/lF0
以上、投下終了です。
途中代理投下感謝します。
前回の破棄を含めて長々とキャラの拘束を申し訳なく思っています。
指摘点、誤字脱字等よろしくお願いします。
感想が頂ければとてもうれしいです。


自分は本年度これで最後の投下となります。
書き手、読み手の皆様とも良いお年を。
来年もよろしくお願い申し上げます。

331:これより至極の天罰はない ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 01:34:18 PQxHz/lF0
おっとタイトルは『これより至極の天罰はない』です。

332:名無しより愛をこめて
08/12/25 01:47:28 ik/kfBYbO
GJーーー!青い服のサンタさんが最高のクリスマスプレゼントを持って来たー!

さて、まずは一言、心の叫びをば。
サーガインーーー!!!!ってェェェェーーー!!??
こ、これはヒカル先生が悪い…と言えるのか!?
サーガインの自業自得はまず間違いないですがw
それにしてもまさかヒカル先生が一線を踏み越える事になるとは。
(実際には越えてないと言えるかもですが)
ヒカルとドモンの奉仕サラマンダー?コンビがこれからどうなるか楽しみです。
話の展開のさせ方、まとめ方、そしてオチwが秀逸でした。面白かったです!



333:名無しより愛をこめて
08/12/25 01:50:53 ik/kfBYbO
おっと、肝心な事を。

聖夜に良いお話を読ませて頂きました。
良いお年を。こちらこそ来年も宜しくお願いします!

334:名無しより愛をこめて
08/12/26 00:11:34 AEgtWTdt0
GJ!
揺れ動くヒカルの心の描写や、結果的にヒカルを奉仕マーダーにした挙句、自業自得の目に合うサーガインの描写が非常に秀逸な作品でした。
しかし、悲壮な空気が漂う中、サーガインが特に悲壮感が感じられないのが、彼の人徳かなと思いました。
さて、ヒカル、ドモン組みはもちろんですが、サーガインを失った裕作がどうでるかも気になりますね。

最後に、今年は鬱で面白い数多くの作品をありがとうございました。
よいお年をお迎えください。

335:名無しより愛をこめて
08/12/26 21:54:02 GV9XVgUa0
サーガイン年を越せなかったか…
遅れましたが、投下お疲れです!
ある程度安定期に入ってたグループの崩壊。
今年最後まで波乱含みのまま、真の決着は来年へ持越しですね。
さて…どうなるやら…

336:名無しより愛をこめて
08/12/27 23:38:34 ogQohrLC0
まとめ氏の作品が楽しみだ~。

337:名無しより愛をこめて
08/12/27 23:42:16 taH0K4Bo0
俺も楽しみダー!!!!
今日くるかな?

338:名無しより愛をこめて
08/12/28 03:04:59 mbjTqlnSO
wktkが止まらんとはこの事だな。
とりあえず、あれだ。正座して待ってよう。

339: ◆i1BeVxv./w
08/12/28 23:33:59 NVrI0UYs0
今回、本当に遅くなり、期待していただいた皆さんには申し訳ありません。
ただいまより投下いたします。

340:優勝候補 ◆i1BeVxv./w
08/12/28 23:34:31 NVrI0UYs0
「東よし、北よし、西よし、南よしと」
 スコープショットを覗き、四方を警戒する蒼太。
 ここは工場の屋上。マーフィーの修理が詰めの段階に入り、助手がいらなくなった頃、蒼太は偵察という建前の元、屋上への階段を上った。
(そう建前なんだよね)
 徐に蒼太は懐からメモ帳を取り出すと、ペンを握り、文章を綴り始める。
 スパイ時代からの癖で、蒼太は仕事相手のデータを調べずにはいられない。
 本来なら愛用のパソコンに入力したいところだが、ないものは仕方ない。
 勿論、ここを脱出した後に入力してもいいのだが、仲間のひとりの行動が蒼太に不信感を抱かせていた。
(真咲美希、激獣拳の使い手。要注意人物)
 美希は彼を観察していたが、彼も美希を観察していた。
 スパイである蒼太は自分に対する視線が持つ意味に聡い。
 彼女が蒼太に向ける眼は自分をスパイだと知っている眼だ。
(結構怪しいんだよね、彼女。他の人を見る眼もまるで値踏みしているような。それでいて、時折悲しそうな表情もしてたし。
 ……瞬くんを向かわせたのは早計だったかな)
 無論、考えすぎかも知れない。こんな状況だ。少し慎重な人間であれば、本当に相手が信用すべき相手かどうか、不信感を持っても仕方がない。
(と、いうより、この状況じゃあ、誰も信用するべきじゃないけど。
 ボウケンジャーの仲間たちだって、ティターンが言ってた通り、時間軸が違えば敵になる可能性があるしね。
 ただひとつだけ例外があるとすれば)
 蒼太は懐に隠した支給品を、服の上から擦った。
 ヒュプノピアス。刺した相手を自在に操れるこれを使えば、その一人は確実に"信用できる相手"になる。
(まっ、使わないけどね)

―なら、何故捨てるなり、壊すなりしないで持ち続けているのです?―
 
 ふと、ロンの言葉が頭を過ぎった。
 蒼太は思い出す。


341:優勝候補 ◆i1BeVxv./w
08/12/28 23:35:20 NVrI0UYs0
 それは蒼太がA-1エリアの地下迷宮でショットアンカーを使い、壁面を這いあがった時のこと。



「お疲れ様です」
 開口一番。這い上がった蒼太にまず掛けられた言葉がそれだった。
「ロン。ということは僕の思惑はバレバレだったわけか」
 蒼太は特に驚いた様子もなく、淡々と言葉を返す。対してロンも、同じく淡々と言葉を紡いだ。
「ええ、あなたが何の考えもなく命を捨てる人とは思えなかったもので。
 ああ、でもおぼろさんには何もしてませんよ?」
「そりゃ、どうも」
 蒼太はゆっくりと態勢を整える。その間、蒼太はわざと隙を見せたりしたが、ロンは意味ありげに笑うだけで何もしない。
(やっぱりね)
「で、目的は済んだんでしょ?わざわざ、僕を待っていた理由は?」
「ふふっ、他の方ならこのまま戻ってもよかったのですがね。折角だからあなたとお話しておこうかと思いまして」
「それは光栄だね。女性からの誘いだったら、なお良かったけど」
「変わりましょうか?」
 ロンが金色の靄に包まれると、たちまちその姿が女性の姿に変わった。
 黒髪の短髪に緑色の三つ編み。チャイナドレスがチャームポイントのメレの姿だ。
「へぇ、そんなこともできるんだ。たしか、その姿はメレさんでしたね。でも、ノーサンキュー。話すなら元の姿で」
「そうですか」
 一瞬にして、ロンは自らの姿に戻る。
「便利な能力だ。その能力でこの中の誰かを焚きつけたりしてるのかな」
「今はまだしてませんよ。今はまだ、個人の自由に任せている状態です」
「今はまだ……か」
「ええ、今はまだです。機を見計らっているのですよ。あなたがその懐にあるヒュプノピアスを使う時を見計らっているようにね」
「……お見通しってわけだ」
 蒼太は懐からヒュプノピアスを取り出す。
「おっと、私には使わないで下さいよ。折角用意した物が無駄になってしまいますから」
「元から使う気はないよ。確かに君になら、あんまり良心は痛みそうにないけどね」


342:優勝候補 ◆i1BeVxv./w
08/12/28 23:36:49 NVrI0UYs0
「良心?クククッ、いや、失礼。まさか、あなたからそんな言葉が出ようとは」
 失礼と言いながらも、堪え切れないといった様子で笑い続けるロン。
「何かおかしい?」
「いえ、なら、何故捨てるなり、壊すなりしないで持ち続けているのです?
 それはあなたのスパイとしての経験が、いつか使うときが来ると予感しているからではないのですか?」
「やっぱり、僕の経歴は知っているようだね。でも、僕はもう二度と自分がスリルに酔うために人を傷つけないと誓ったんだ」
 蒼太の決意を込めた言葉に、またも、ロンはクククッと嘲笑った。
「それは平和な世界だからこそ言える理屈だと思いますがね。
 いえいえ、責めているのではありません。むしろ、あなたには期待しているんですよ。
 なぜなら私は、あなたを優勝候補だと思っていますからね」
「優勝候補?」
「ええ、そうです。単純に強いだけでは、この殺し合いは勝ち抜けません。
 血の気の多い者は人減らしには役に立ちますが、やがて自滅するものですよ。
 それより、人心掌握に長け、攻め時、引き際を知り、相手を利用する狡賢さを持つそんな人物こそが勝ち残れる。
 その全ての条件を満たしている参加者、それがあなただと思っています」
「………」
 無言になる蒼太だったが、やがて、ロンに負けないほど顔をニヤつかせる。
「……ふふっ、ははははっ。随分と買い被ってくれたものだ。
 そうやって、皆をその気にさせているんですか?駄目ですよ。僕はひっかからない」
 ロンの顔の前で蒼太はわざわざ指を振った。
 その挑発的な態度に、ロンは不快を顕にする。と、思いきや、ロンの笑みは変わらなかった。
「やはり、あなたは期待できますね。ですが、脱出不可能とわかったとき、どういう行動をとるんでしょうね?」
 ロンは意味ありげな台詞を吐き、踵を返す。
 そして、蒼太のマネをするかのように、指を振り、言葉を紡いだ。
「ヒントをひとつだけ。もし、首輪を外す方法を見つけたとしても、決してあなた自身で試してはいけません。
 もっとも邪魔になる方で試すことをお勧めしますよ」


343:優勝候補 ◆i1BeVxv./w
08/12/28 23:37:21 NVrI0UYs0
 ロンはそれだけ言うと、金色の靄になり、そのまま消えていった。



「優勝候補……か」
 確かにこんな異常な状況においても、蒼太の胸は高鳴っている。
 それが冒険魂によるものなのか、それとも、スパイ時代にも味わったことのないスリルによるものなのか。
 蒼太にも、それははっきりわからなかった。
「いけないいけない、こんなこと考えてちゃ、ロンの思うつぼだ。
 さて、そろそろマーフィーの修理も終わった頃かな」
 蒼太はメモ帳を閉じると、それを懐に収め、立ち上がった。
「おっと、いけないいけない」
 建て前といっても、表向きは屋上に来たのは偵察のためだ。
 しっかりと役目は果たしておくべきだろう。
「何もないと思うけど」
 蒼太は再度、スコープショットを構える。
 東を見て、北を見て、西を見て、そして、蒼太は南を見た。
「!?、あれは」 
 スコープショットが南に人影を捉えた。
 蒼太は急ぎ、時計を確認する。
「8時58分。まずい!」
 蒼太が警戒を甘くしていた理由はここにある。
 西は既に禁止エリアになり、南も数十分で禁止エリアになる場所。
 そんな所に今更留まる参加者はいないと考えたのだ。
 だが、今まさに禁止エリアになろうとしている場所に誰かがいる。
「ボウケンジャー、スタートアップ!」


344:優勝候補 ◆i1BeVxv./w
08/12/28 23:43:09 NVrI0UYs0
 蒼太はボウケンブルーに変身すると、一目散に人影の方へと向かって行った。


 
「よっしゃ!マーフィーちゃんの修理、か!ん!りょ!う!やぁぁぁ!はぁぁぁ。肩凝ったぁ」
 工場内におぼろの威勢のいい声が木霊した。
 それに呼応するかのようにマーフィーがバウッと鳴く。
「いやぁ、しかし、大変やったで。見たことのないテクノロジーがふんだんに使われとったからな」
「バウッ?」
 マーフィーの内部機構には、今の地球の科学を越える技術が使われていた。
 カラクリ巨人などの技術を理解するおぼろにとっても、それは相当難解な代物だった。 
 こんなものを造れるとしたら、規格外の超天才か、ジャカンジャのような宇宙人かのどちらかだろう。
「それでも直してしまうんやけどね。まあ、うちにかかれば、ざっとこんなもんやで」
 自慢げに胸を張るおぼろ。だが、その言葉に応えるのはマーフィーしかいない。
 おぼろは胸を張ったまま、屋上へ行った蒼太を思い、天井を見上げた。
 ネジブルーを追い払ったとはいえ、ある者は人質救出のため、ある者は漁夫の利を得るため、彼の放送に惹かれてこのエリアに集まってくる可能性は未だ0ではない。
 そして、目的はどうあれ、ここから脱出するためにはいずれ接触も必要になってくるだろう。
「ほんま、蒼太くんは頼りになるわ」
 おぼろは蒼太にマーフィーの修理完了報告のため、屋上への階段を上り始める。
「それにしてもマーフィーちゃんって、戦闘用みたいやけど、一体何者なんやろうな」
「バウゥ」
 修理の過程で、おぼろはマーフィーの内部に隠された砲身やトリガーを眼にしていた。
 それはマーフィーの本来の用途は武器ということを示している。
 もっともロックを解除するためにはキーになる何かが必要で今のままでは使えそうにないが。
「まあ、それも蒼太くんと相談すればええか」
 扉が開き、新鮮な空気が部屋へと入りこんでいく。
 おぼろは軽く深呼吸を行い、灰を空気で満たすと、眼を開けた。
「……あれ?蒼太くん」
 しかし、そこに蒼太の姿はなかった。辺りを見回すが、どこにも見えない。
「おーい、蒼太くーん!どこやー!まさか、誰かに……」

345:優勝候補 ◆i1BeVxv./w
08/12/28 23:43:53 NVrI0UYs0
「バウッ!!」
 いつの間にか横にいたマーフィーが南に向って、勢いよく吠える。
 つられておぼろも南を見るが、おぼろの眼には何も見えない。
「バゥゥッッ」
 マーフィーは落ちていたスコープショットを口で掴むと、おぼろの手に握らせる。
「おっ、マーフィーちゃんも気がきくなぁ」
「バウッ♪」
 おぼろはマーフィーの頭を撫でると、スコープショットを覗いた。
 そこには―
「おっ、蒼太くん、おったわ。っと、あれ誰や?」
 おぼろの眼には蒼太に担がれる女性の姿が映っていた。



 工場の机の上に、マーフィーに代わり、女性が載せられる。
 気休めながらもベッド代わりに、蒼太のジャケットなどの服を下に敷いてだ。
 女性―西堀さくらは自分を心配する声を聞きながら、今後の行動について、考えていた。
(潜入成功ですね)
 蒼太は自分がさくらを発見したと思っているだろうが、実際は違う。
 さくらが蒼太に発見させたのだ。
 さくらは自らのスコープショットで蒼太の存在を確認していた。
 ただ会うだけなら、工場に向かえばいい。
 だが、さくらはある目的のため、賭けに出た。
 その賭けは成功した。ギリギリだったが、目論見通り、蒼太は自分の存在に気付き、変身して、自分を助けた。
 そう、変身してだ。
(今の私の戦闘手段はスコープショットに仕込まれたナイフしかありません。あとは徒手空拳。
 変身を封じなければ、私と蒼太くんとのパワーバランスはあまりに開きすぎてます)
 これでおおよそ2時間、蒼太は変身することはできない。
 それまでにチーフを探し、隙を見て、蒼太を殺そうとする。そうすれば―

346:優勝候補 ◆i1BeVxv./w
08/12/28 23:46:30 NVrI0UYs0
(チーフに見苦しく惨めな死に様を晒す。仲間を殺そうとして、逆に殺されれば、それは惨めでしょうね)
 さくらは蒼太に殺されようとしていた。


【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:良好。2時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:さくらの介抱。
第二行動方針:おぼろと共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第三行動方針:おぼろを守る。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。

【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:さくらの介抱後、蒼太と共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。

347:代理
08/12/28 23:59:32 wwAm/Dqp0
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり) 。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)、スコープショット
[道具]:なし。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:チーフ(明石暁)と合流する。その後、蒼太に殺される。
第二行動方針:夢の啓示で今の自分を再確認。裏方針が表に。(ロンの存在については気づいていません)
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
 ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。

【名前】マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:修復完了。本調子ではないが、各種機能に支障なし。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:蒼太たちと一緒に行動する。




投下乙です!
遂に顔見知りと合流を果たした姐さん。
これからどうなるかワクワクです。もう一度、お疲れでした。



348:代理
08/12/29 00:13:14 OCntz73i0
あれ? でもさくらって確かスコープショットも失ってませんでしたっけ??

349: ◆i1BeVxv./w
08/12/29 00:34:13 byL9T4bE0
失礼しました。どうやら参照先をミスしたようです。
該当箇所に関しては、修正いたします。
遅くなったうえにミスとは申し訳ないです。

350:名無しより愛をこめて
08/12/29 00:50:29 RBXYFCttO
投下&代理投下GJです!

美希さんの様子に気が付くとはさすが蒼太さん。
仲間さえ敵かも知れないと考える冷静さ、
冒険魂とスリルの区別を付けられないアンバランスさが非常な彼らしいと思いました。
相変わらずヒュプノピアスを捨てられない事がどこか危ういですね。
それにしてもロンは相変わらずw
ロンと蒼太さんの心理戦が面白かったです!


351:名無しより愛をこめて
08/12/29 01:31:17 9nz79J1MO
うぉぉぉぉっ!!!
蒼太とさくらの今後がめちゃくちゃ楽しみになってきた。
展開予想が止まらないぜ!
蒼太、本領発揮と言ったところですね。
まさしく優勝候補だw
しかしいつも本当に簡潔にすっきり纏めて読後感最高です!
面白かった、この一言では表しきれないほどGJ!でした。

352: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:07:51 4X1zzKKx0
これより投下します。

353: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:08:41 4X1zzKKx0
――僕の大きな宿業が彼女の存在を小さくしてしまった…




「具合、どうですか?」
関西弁特有の尻の上がったイントネーションで日向おぼろは西堀さくらの手を握った。
ひどく、脈が荒い。
相当過酷な局面を迎えたであろうことがそれだけでも如実に伝わってくる。
「ありがとう…ございます…わたしは西堀さくら。蒼太君と同じボウケンジャーのメンバー・ボウケンピンクです」
さくらは自分を心配そうな面持ちで見つめるおぼろに微笑みかけた。
「あたしは日向おぼろ。メカニックや。蒼太君には世話になっとる」
お互いに自分が何者であるかを確認しあう。
―他人に容易に心を許さない蒼太が行動を共にする女性。
ならば、彼女は殺し合いには乗っていないのだろう。
さくらもおぼろもお互いに同じ認識を相手に対し共有した。
「それにしても、何があったんです? さくらさんがこんな目に遭うなんて…」
それに、どうしてあんな場所にいたのか。
自分の知るさくらならばあんな無謀な真似は絶対にしない。
さくらは二人に自分がグレイに戦いを挑んだこと、そしてガイに屈服したことだけを
上手く避けて今の自分の状況を説明した。



354: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:10:04 4X1zzKKx0
「あいつ…僕らのパラレルエンジンを機能不全に出来たのか…」
知らなかったとはいえ、戦闘を避けることの出来た幸運に蒼太は胸をなでおろした。
過去に一度蒼太とおぼろはガイと遭遇している。
万が一、ガイから見て過去に位置する自分が戦っていればあっという間に殺されてしまっていただろう。
「それにしても僕らに6人目の仲間がいるなんて知りませんでしたよ。それに菜月ちゃんの正体も知ってるなんて…さくらさんは僕より相当後の時代から来たんですね」
「えぇ。でも高丘さんのことはともかく、菜月の正体については伏せておきましょう。
彼女も蒼太君のように自分の過去を知る以前から連れてこられた可能性があります。真墨のことで相当動揺しているでしょうし…無駄に混乱させるのは酷です」
蒼太との時間軸のずれを解消すべく会話を続けていく中で自然、さくらは蒼太の知らない未来の情報を幾つか伝えた。恭介の時と違い、蒼太とはできるだけ情報の伝聞を密にしておく必要がある。
自分がいなくなった後、明石を支えるのは彼なのだから。
「そうですね…彼、残念でしたね……」
「…………………………………………」
伏せ目がちに蒼太が呟いた。
場の空気が沈黙の重みに沈んでいく―

「ふ・二人とも元気だしいな! そやっ! さくらさん、喉渇いてるやろ? 今水を持ってくるからちょっと待っててや!!」

耐え切れず、おぼろが空元気に声を張り上げた。
「そんな! 待ってください!! 助けていただいたのに、貴重な水まで譲っていただくわけには!」
をさくらはあわてておぼろを押し留めた。
「何言ってんの! 困った時はお互い様やないの。すぐ取りに行って来るから待っててや!!」
静止するさくらを振り切り、おぼろは自らの支給品を取りに部屋を去った。



355: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:11:13 4X1zzKKx0

「優しい方ですね…おぼろさん」
さくらはおぼろの背中を見送りながら呟いた。
「えぇ。彼女のおかげで僕も随分助けられてますよ…それより、さくらさん、チーフからの指令なんですが…どうします?」
「そう、ですね…ガイの目的が蒼太君の話どおりだとすれば
一刻の猶予もないですね…本当はチーフが来るまで動くべきではないのでしょうけど…-」
さくらはガイとの遭遇だけは避けたかった。
「僕も出来るならチーフを待ちたいですけど…」
蒼太はここで出来た、分かれた仲間達も心配だった。
特に美希の挙動に違和感を覚える。なにやら不吉な胸騒ぎを覚えるのだ。
これが取り越し苦労ならそれに越したことはないのだが。
「さくらさんの話通りなら僕らのアクセルラーじゃガイには敵わない事になるし…その高丘映士…でしたっけ? 彼がいてくれるなら話は別ですけど…」
自分のアクセルラーにはご他聞に漏れずネオパラレルエンジンは搭載されていなかった。
やがて来るであろう明石のアクセルラーの状態は知れない。
ならば、いつ来るか分からない明石よりも早く仲間達と合流してガイを打ち滅ぼす。
それが一番の得策だと蒼太は思っていた。
「…すみません…わたしが不甲斐ないばっかりに…」
ガイを逃がしてしまったのは重ね重ね、様々な意味で痛恨事だった。
まさか、彼にそんな目的があったとは知らなかったのだ。
「さくらさんの所為じゃありませんよ! 元気出してください!!」
「ありがとう蒼太君…」
さくらは少し疲れたような微笑を浮かべた。その表情を蒼太はじっと見つめていた。
「蒼太…くん?」

「さくらさん…折り入ってお話したいことがあります」



356: ◆8ttRQi9eks
08/12/31 01:12:17 4X1zzKKx0

§


「水♪ 水♪ 水は~っと!」
鼻歌交じりにおぼろは自らの支給品を漁った。
サバイバルの生命線ともいうべき水を他者へ譲渡することに何の躊躇いも持たない。
彼女は嬉しかった。
ずっとどこか影を引きずっていた蒼太がさくらの存在に心から安堵した表情を見せたからだ。
それはきっと、彼の本当の顔なのだろうとおぼろは思う。
「バウッ!」
おぼろの浮かれた様子につられたのか、マーフィーもどこかはしゃいだ様子で足元にじゃれ付いてくる。
「なんや、あんたも嬉しいんか? 調子いい奴やな~…待っとれ、今オイル出したるさかい」
笑顔に顔をほころばせ、上機嫌でおぼろはマーフィーを抱き上げた。
「バウッ! バウッ!!」
好物にありつけることに病み上がりもなんのその。
まるで本当に生きている犬のようにマーフィーは大きく左右に尾を振った。

§

「“ヒュプノピアス”…ですか」
蒼太から手渡されたそれを手のひらに見つめながらさくらは息を呑んだ。
「えぇ。どうやらロンが心理的な揺さぶりを参加者に…僕にかけるためによこした支給品です。
これを使えばどんな相手でも従順な操り人形にすることが可能です」
「そんなことが…」
「僕はこれを捨て去る勇気が持てなかった…恥ずかしいんですけどね、おぼろさんにも内緒にしてるんですよ…」
自嘲気味に蒼太が笑う。無意識に指輪をさするのはこういう時の彼の癖だ。
「どうして、それをわたしに?」


357:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:52:28 LHzrK3/R0
「僕がこのゲームで心から信頼できるのはたった二人。チーフと…さくらさん、あなた方だけです。
なんか厄介ごと押し付けるみたいで申し訳ないんですけど、さくらさんに持ってて欲しいんです。
人を操る悪魔の道具を、信頼の証の象徴にして欲しいんです、それとロンへの反旗の印に。
それを安心してできるのはさくらさんだけです。受け取ってくれますよね?」
縋る様な蒼太の表情に、さくらは彼もまた平静を装いながらも張り詰めていたことを悟った。
「…わかりました。これはわたしがお預かりします」
さくらは蒼太の申し出を快諾した。
「良かったぁ~…! 断られたらどうしようかと思いましたよ! さくらさん、お願いします」
「心得ました」
さくらは力強く頷いた。

§

「お水、美味しかったです」
いささか復調したのか、さくらは発見された時よりも顔色が良くなった。
「そうかぁ♪ いやぁ、さくらさんに早う元気になってもろうて皆と合流せなあかんからな。
“くえすたー”が愛を枯らすなんてけったいな企みなんて絶対阻止したる!」
無邪気に微笑むおぼろの姿にさくらは何故、蒼太が彼女と行動を共にしているか分かる気がした。
蒼太はまた偵察に出るといって場を外した。
恐らく、出会って間もないおぼろとさくらの親交を深めて欲しいという彼なりの心遣いなのだろう。
それは実に都合が良かった。
「あたしは戦闘こそからっきしやけど、メカに関しては自信があるんやで! あんたのアクセルラーとかいう道具もきっと修理してみせる!! そしたら一緒にロンを倒すんや!!!」
「ありがとうございます。おぼろさんには何から何までお世話をして頂いて…」
「なに言うてるんや! あたしらもう仲間やないの。水臭いこと言わんといてぇな」
さくらの肩をバンバンと叩きおぼろは笑った。

358:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:54:10 LHzrK3/R0
「これがアクセルラーかぁ…こうやって見るのははじめてやけど、うちの知ってる子たちが使ってるのと構造自体はそう違わんなぁ…ただ、このパラレルエンジンとかいう装置は結構曲者やな…
修理できるといいんやけど……」

初めて見る他の変身装具を手にあちこちをみつめるおぼろの背後にゆらりと影が立つ。
「なぁ、さくらさん…――」
振り返ろうと、頭を振ったおぼろが見たのは感情のかけらも感じさせない冷徹な表情をしたさくらだった。
仮にも忍風館の卒業生であるおぼろに気配を一切感じさせることもなく、一気に間合いをつめ
利き腕を強く捻る。
不意を突かれたおぼろは成す術もなくあっという間に押さえ込まれ、壁際に押し付けられた。
「な・なにするんやっ!?」
狼狽するおぼろの耳に震えた声が聞こえてくる。
「ごめんなさい……!」
さくらは右腕に掲げたヒュプノピアスをおぼろの背中に突き刺した―


359:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:55:13 LHzrK3/R0
「…――ッッ!!」
途端、全身に激痛が走る。
「痛ぃいいい!! 痛いいいい!! 痛いいいいいーーーーー!!!!!!!!」
本来、30世紀の囚人を押さえ込むための精神への拘束具として開発されたそれは対象の感情を一切無視し、完全に隷属させる。
その時生じる電磁波の奔流は直接神経を掻き毟るような凄まじい痛みを伴う。

「痛い痛いいいいぃぃい痛い痛い痛いいいいいぃぃいい痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!」

地面を転げまわり、激痛にのたうつおぼろをさくらは涙を流しながらみつめていた。
「ごめんなさい…これしか…これしか方法がなかったんです……」
最も惨めで無様な死に様を晒す。
明石暁は仲間を心から信頼している。
帝国の真珠の時も、ガラスの靴の時も彼はさくらを信頼してくれた。
―だから、蒼太が絆の証にしたいといったこれでそれを裏切る。
なんて浅はかで、なんて思慮のない、なんて無様な企み。
蒼太は仲間の裏切りに敏感だ。きっと、自分を許さないだろう。
それでいい。
彼の怒りが大きければ大きいだけ、惨めに敗れる自分の姿は一層無様さを増すのだから。
「ごめんなさい…ごめんなさい……」
だが、そのために結果として何の関係もないおぼろを巻き込んでしまった。
彼女は愚かなまでに出会って間もない自分を信頼してくれたのに―

「痛いいいいーーーーー!!! 痛い痛い痛いーーーーーー!!!痛い痛い痛い痛いーーーーー!!!!」

なぜ、彼女がこんなことをするのか。
なぜ、あんなに悲しい顔をしているのか。


360:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:58:00 LHzrK3/R0
おぼろには何も、分からなかった。

「殺すことはしません…きっと解放しますから……少しの間だけ、わたしの言うことを聞いてください……」




そして、全てが暗闇に閉ざされた。

§

「蒼太君、やっぱり私いけません」


「何でです? やっぱりチーフを待つんですか?」
偵察から戻った蒼太に出会いがしら、さくらはそう告げた。
「はい。それもありますが、わたしにはあなた達と行動を共にする資格がないんです」
「はい? すみませんが、言ってる意味がよく分からないんですけど…」

「わたし、殺し合いに乗ったんです」

事も無げにさくらはそう言ってのけた。まるでなんでもない事の様に。
いつものように真面目な表情で。いつもの冷静な口調で。
「実際に参加者も一人、襲いました。殺しこそしていませんが、殺意があったことは事実です。
それと、わたしガイから逃れたといいましたけど…あれ、嘘です。
本当は土下座して命乞いをして、何とか生き延びたんです」
悪夢を見ているようだった

361:名無しより愛をこめて
08/12/31 22:59:10 LHzrK3/R0
さくらは今の自分を包み隠さず蒼太に告げた。
危険なプレシャスと分かっていながら、保身のためになんの処置も施さなかったこと。
グレイを罠にはめようと画策した時の暗い興奮。
ガイとの舌戦で感じた侮蔑の言葉を吐いたことでの爽快感。
ざらついた砂利を舐めった舌の感覚。命を見過ごしてもらった時の安堵。
聞くに堪えない赤裸々な告白の数々に蒼太は眩暈を覚えた。
悪夢だった。
嘘だと、叫ぶことすら出来なかった。
何も出来ないままただ、その言葉に聞き入るしかできなかった。

「ですから、わたしには一緒に行く資格がないんです。今の話で理解して頂けましたよね?」

さくらの表情は変わらない。
自分がどんな話をしているか、分かっているのか。
築き上げてきた信頼が音を立てて崩れる音を蒼太は聞いた。
そして―…その視線は目の前にいつもの姿勢でたたずむさくらに釘付けにされていて、背後に迫る危機に全く気がついていなかった。
瞳の輝きを失ったおぼろが蒼太の背後に迫っていた。
彼女はイカヅチ丸を握っていた。このまま、無防備な蒼太を気絶させ捕縛する。
そうすればこの場を制するのはさくらだ。
後は、明石が来るのを待てばいい。

ゆっくりと、おぼろがイカヅチ丸を天に翳していく。
あと、少しで、全て準備が整う。


362:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:00:01 LHzrK3/R0
おぼろがイカヅチ丸を蒼太の後頭部めがけて、振り下ろそうとした。その時。
カチッ。
いつの間にか蒼太の手に握られていたスイッチが乾いた音を室内に響かせた。
「え…?」
それを合図にしたように、おぼろの動きが止まる。


「よくわかりましたよ…さくらさん。どうやら、僕ら…行く道が違っちゃったみたいですね」

ヒュプノピアスはただそれだけでは不完全な代物だ。
リモコン端末とその発信機が対になって初めてその効果を発揮する。
蒼太がさくらに預けたのは発信機の部分だけで人を操るだけの力はない。
さくらはおぼろを操っていたように思っていたがその実、蒼太がおぼろをさくらの命令に従っているように動かしていただけに過ぎなかったのだ。
「おぼろさん…変なことさせて、すいませんでした」
蒼太が振り向くこともなく、おぼろに告げる。

「なんも…あたしこそ、また助けてもらって……」

さくらがピアスを使えば、すぐに端末にその情報が伝わる。
いわば、蒼太はさくらを試したのだ。
それが、彼自身の前歴で培われた深い業であり、真の信頼を求める渇きでもあった。
「さくらさんが色々黙ってたように…僕も全部話してませんでした―…でも、これでお互い、腹を割って話すことが出来そうですね」
そう言って、蒼太は懐に手をやる。
そして、一旦は預けたはずのヒュプノピアスを取り出しさくらの眼前に掲げた。


363:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:03:59 LHzrK3/R0
「さくらさん…ヒュプノピアスを、嵌めてください…―」
振り絞るように蒼太はさくらに求めた。
「蒼太君っ! わたしは…!!」

「黙れっっ!!」

普段の彼からは想像も出来ないほどの激しい一喝にさくらは一瞬押し黙る。
「僕からの命令はこうです…“今後、一切の行動は全て明石暁の命令に従うこと”
彼になら…さくらさんも自分を預けられるでょう?」
瞳に涙を滲ませ、血の吐くような思いで蒼太は言の葉を喉の奥から搾り出した。
心から信頼する相手にむけねばならない刃は、諸刃となって蒼他の心をずたずたに引き裂いていく。
「さくらさん…お願いですから自分で嵌めてください……僕に…僕にさせないで下さいっ!!」

…―ヒントをひとつだけ。もし、首輪を外す方法を見つけたとしても、決してあなた自身で試してはいけません。 もっとも邪魔になる方で試すことをお勧めしますよ――…

脳裏に蘇る声と蒼太は必死に戦っていた。これまでにないほど、感情をあらわにして。
輻射熱と耳鳴りで今にも倒れてしまいそうだった。
蒼太の嘆願にさくらは押し黙ったまま。
今や、二人が培ってきた絆は霧散の如く消滅してしまっていた。

「蒼太くん…」
二人の今にも破られんとする均衡を見つめながら、おぼろはただ両者を交互に見やるだけだ。
永遠に続くかと思われた均衡を破ったのはさくらだった。
「………――」
そっと前へと足を進める。


364:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:04:50 LHzrK3/R0
「さくらさん…」
分かってくれた。蒼太の顔に安堵の表情が浮かぶ。
大丈夫。
まだ、彼女との絆は完全に途切れてはいない―

そうだ。

まだ、やり直せる…



このゲームが終わったら、きっと―…
「蒼太くんっっっ!!! 危ないッッ!!!!!」

希望の幻に心を奪われていた蒼太の意識が急速に現実へと引き戻される。
すぐ近くにいるはずのおぼろの声がなぜか遠く聞こえた。
「えっ…?」
すぐには分からなかった。
しかしすぐに下腹部に焼け付くような痛みが走り、喉の奥から血があふれ出していく。
ずぶり、と体内から鈍い輝きを放つナイフが引き抜かれると蒼太の体は工場の冷たい地面に沈んだ。
「…さくら……さん?」

目の前には荒い息で両手を真っ赤に濡らすさくらが佇んでいた。
「ハァ…ハァ…ハァ……―」
さくらが手にしていたのはスコープショットに含まれる幾つかのツールのうち、ナイフだけを抜き取ったものだった。
ガイとの戦闘の後、破壊されたディパックから使えそうなものがないか精査した。
望遠鏡など大方のアタッチメントは死んでいたが、唯一ナイフだけが生き残っていた。
アクセルラーを失ったさくらにとってそれが唯一の武器だった。
ガイやグレイといった強敵たちと渡り合うにはあまりに矮小な力。


365:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:07:04 LHzrK3/R0
そして、育んできた絆を断ち切るには十分すぎる力。

「蒼太くんっ!」
おぼろがさくらを突き飛ばし、蒼太へ駆け寄る。
上半身を起こし、意識が朦朧とする彼を必死に引きとめようと叫び続ける。
「蒼太くんっ! 蒼太くんっ!!」
ナイフを持った相手を背にしたまま、あまりに無防備に。
成す術もなく泣き叫ぶその姿をさくらは呆然と見つめていた。
「どうしてや…」
嗚咽の中におぼろの鋭い声が混ざる。
「どうして蒼太君を刺したんやっ! 仲間やろ、あんた!? 蒼太君はなぁっ! 蒼太君はあんたを心から信頼しとったんやで! それなのに…なんでやっ!!!」
わたしだって信頼している。
蒼太くんを心から信頼している。だからこそ、彼に最期を看取って欲しかった。
あの人と二人で見送って欲しかった。ただ、それだけなのに―…

「さくらさん…逃げて…逃げて…下さい…―」

息も絶え絶えに、それでも蒼太はさくらを赦そうとしていた。
それが、仲間への最後の温情なのか、過去の罪への償いなのか、蒼太にも分からない。
「蒼太くん!? なんで、こないなやつ庇うんやっっ!!」
おぼろが悲しみとも怒りとも取れる声で叫ぶ。
蒼太は微笑っていた。
ひどく、哀しく。
さくらはそっと、袂を分かったかつての仲間に背を向ける。
最早、ここにはいられなかった。彼女はまた居場所をなくしたのだ。



366:名無しより愛をこめて
08/12/31 23:07:58 LHzrK3/R0
「…今は逃げたらえぇ…でもな、憶えときっ! あたしがあんたを必ず追い詰めたる!!
もう、あんたの居ていい場所なんてこの世界のどこにもないんやっ!!」

怒りにわななきながら、らんらんと怒りに輝く瞳に涙を一杯に溜めて。
日向おぼろはこれまで経験したことのない憎悪の感情に支配されていた。
絶対に、この女だけは、許しておけない。
このゲームで最も忌むべき行為に手を染めた彼女を。
糾弾し続ける。

追い詰めて、追い詰めて。

惨めな最期を遂げるまで。


§



どこをどのくらい走ったのか―
おぼろの最後の言葉を背に受けたまま、さくらは当て所もなく彷徨い続けていた。
―やがて、鼻を突く血の臭いに気づく。
目の前に広がる光景に、さくらは驚愕した。あたり一面に肉片と思しき破片が散乱する地獄絵図。
その中心に頭蓋が覗く首と目と目が合う。
「これは…!」



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