スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3at SFX
スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3 - 暇つぶし2ch150: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:05:01 xkwAjiuY0
体から離れた黒装束が七色の光彩を放つ。
光彩は綾をなし虹色の反物が、まるで本物の虹を描くように空に拡る。

「隠していたわけではなかったんだが。争いを出来るだけ避けるためには、人の姿の方が都合が良かったのだ。
俺もジルフィーザも人間から見れば、怪物だからな」

虹色の反物がふわりとティターンの手の中に落ちる。
黒装束を脱いだティターンの姿、畏怖されし異形の神の姿。
原子雲を彷彿させる巨大な頭部、深緑色の体躯に大蛇ような四肢。
誰もが一瞬、息を飲んだようだ。大きく目を開き言葉を発せずにいた。
美希はそれに習い、守るようにドロップを抱く手に力を込める。
その中で蒼太だけがティターンに厳しい眼を向け、アクセルラーを構えた。

「ちょっと、蒼太くん。びっくりしたんはわかるけど!」

おぼろはティターンの前へ割って入り蒼太を諌める。
瞬も蒼太を咎めるような視線を向けた。

「ええ。彼は敵じゃない。それは充分わかってます」

蒼太はすぐに穏やかな表情を作り、アクセルラーの表示をこちらに向けた。
液晶画面に赤く表示された文字をおぼろが読み上げる。

「ハザード……レベル120?」

151: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:07:00 xkwAjiuY0
「ええ、ハザードレベル120。プレシャスです。世界各地に点在する人類の秘宝。僕たちボウケンジャーが探し求めるのがプレシャス。
ティターンの支給品もその一つのようですね。ハザードレベルは価値を数値で表したと思ってもらえれば……。
だけど、ボウケンジャーである僕が知らないプレシャスを支給されるとはね」

敵意のないことを示したつもりなのか、蒼太は軽く両手を挙げる。
ティターンは安堵した様子で再び反物を纏い、黒装束姿に戻った。

「このプレシャスの存在を知る者がお前の仲間にいるのだろう。その者と同じ時間から調達したんではないか?
これは纏が言っていたんだが……。参加者は同じ時間軸から集められたんじゃない、と――」

巽纏が話したというそれぞれの時間軸の違い。
瞬とネジブルー、ドロップとジルフィーザを例えたティターンの話で、名簿の記載は事実だったと証明された。
証明されたのはいいが……。明石とヒカルに次いで、この場の面々にも知れたのだから他にも気付いたものも少なく無い筈。
ならば、それを逆手に疑心暗鬼の種として蒔くだけ。
参加者たちの団結を防ぎ、殺し合いを行わせるのが美希の役目なのだから。

「じゃあ、一概に知り合いだからと言って100パーセント信頼するのは危険かもしれないわね」
「……俺は知り合いいないけど。皆には、気をつけて欲しい。組む相手も助ける相手もしっかり見極めなきゃ、命を落とす可能性もある。
ここに来た事で、考え方が変わる場合だってあるから」

瞬が伏目がちに呟いた。

152: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:09:12 xkwAjiuY0
励ますように瞬の肩を優しく叩いたのはティターン。
おぼろも蒼太も見守るような目で瞬を見ている。
その自嘲気味な呟きで、纏たちが回りくどくメガブルーを人質とした経緯が読めた。
当初、瞬は殺し合いに乗ろうとしてたのだ。

「だが、人との触れ合いの中で考えなどいくらでも変わる。この俺のようにな」

話題を変えようとしたのだろう。
ティターンは纏のデイバックを拾い上げた。
先程、瞬が泣きながらカレーパンを取り出しただけで残りはまだ確認していなかった。
中には『F-9 繭』と書いた紙切れと、手の平ほどの大きさの、鍬形の玩具のような品。
そして、残りの食料はナツメの大好きだったエッグタルト。
それ……。言いかけた美希を遮ったのはおぼろだった。

「それ、一楸ちゃんの……」

おぼろの知り合いの縁の品。クワガライジャーに変身するためのアイテム。
その人物は参加者にはおらず、支給品だけがこの場にある。
聞けばネジブルーが使ったソニックメガホンや、蒼太とおぼろが追っていたクエスターガイが持つクエイクハンマーもそうだという。
おぼろは落胆を隠さず声に出した。

「武器だけやなく、ゴウライチェンジャーまでここにあるやなんて。さっきの時間軸の話を考えたらろくな想像が浮かばん!!」
「とにかく、ロンを倒して帰るまでは何もわからない。これはお前が使うといい。一楸という者もそれを望むだろう」
「ありがとう。でもたぶんゴウライチェンジャーは誰にでも使えるんや。『迅雷・シノビチェンジ』の掛け声で起動すると思う。
一応預らせてもらうけど……。いざとなれば使い回しが利くってのは皆覚えといて」

おぼろがゴウライチェンジャーを受け取るのを美希は横目で見ていた。

「って、うちのことばっかり言ってごめんなさい。そういえば美希さん何か言おうとしてたやろ?」

153: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:10:18 xkwAjiuY0
「いえ、私こそごめんなさいだわ。偶然見えたバックの中のエッグタルトが娘の大好物だなの。こんな時にそれを気にするなんて……」

どうかしている。
今はエッグタルトより、汎用性のあるゴウライチェンジャー。これがあれば殺し合いも楽になる。

「こっちの『繭』に誰か心辺りは無いか?」

腕の中でピクリとドロップが反応し目を開いた。
ゆっくりと視線を動かしティターンを見た。

「行かなきゃ……」

ドロップが行きたいのは繭なのだと思った。
この子が人間の姿をしているのと何か関係があるのかもしれない。

§

「バ……ウ!バ!……ガッ!!」

蒼太がバリサンダーを押しながら進む横で、じゃれるように歩いていたマーフィーに異変が起こった。
突然、壊れたデジタル音を発しマーフィーは崩折れる。
駆け寄ったおぼろはネジブルーに撃たれた箇所を見て顔をしかめた。

「ちょっと酷いな。 回線が切断されてぐちゃぐちゃや」
「修理は可能なんですか?」
「完全にというわけにはいかんやろな。まぁ歩けるぐらいには修理できると思うけど。すぐって訳には……」
「時間が必要ってことですね」

時計を確かめながら蒼太が2組に別れようと提案した。
ティターン、美希、ドロップはジルフィーザの元へ。

154: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:16:15 xkwAjiuY0
おぼろ、蒼太、瞬は向かうエリアとは反対方向に見える工場でマーフィーを修復。
終わり次第、合流場所である瞬が纏と休憩を取ったというビルへ向かう。

別れ際、瞬が美希に話しかけてきた。

「纏さんが書いてくれた手紙も気になるし、本当は一緒に行きたいんですけど……」
「しょうがないわね。ティターンの話じゃジルフィーザはちょっと気むずかしそうな感じだから。
先に行ってきちん話しておくわ。ドロップを命がけで守ったあなたたちのこと」
「ドロップ、会ったのが美希さんで良かったですよね。でも美季さん、ずっと抱いてたら重くないですか?」
「ありがとう。大丈夫よ」

礼を言うと瞬は笑顔を浮かべて軽く頷いた。

「瞬くん、高校生よね。お母さん心配してるでしょうね」
「確かにさっきまでの俺なら、きっと心配してたと思います」

美希ははっと名簿に書かれていたことを思い出す。
瞬は幼少の頃、フルート奏者だった母親を亡くしている。
美希に抱かれるドロップを、瞬がどこか懐かしむように見つめた。

「でも、もう心配させないつもりです。空で、纏さんと一緒に見てくれてるだろうから」

纏の死は彼に成長をもたらしたようだ。
仲間の死を乗り越えて強大な敵に立向かっていく。
皆の悲しみも怒りも正義の為の力となるのに、なぜ自分だけ母としての愛情を殺意に変えなければならないのだろう。

「次に会う時まで、良かったら使って。これは盾の型やけどジョイントを組み変えたら手槍にもなるし」

おぼろがイカヅチ丸を美希に差し出した。

「うちはゴウライチェンジャーも預ってるし、マーフィーを修理したらすぐそっちへ向かうから。ドロップ君をたのんます。そのために纏さんも命を懸けはったんやし」

155: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:18:22 xkwAjiuY0
「それに、僕がついてますから。っと、蒼太さんも」
「お、瞬くんなかなか言うてくれるやないの。ちょっと蒼太く~ん。今の聞いた?」
「じゃあ、僕も瞬くんに守ってもらうよ。よろしくメガブルー」

おぼろと瞬が笑いあう。
その輪に蒼太が加わった。
蒼太の素顔はもうスパイじゃない。これが彼の素顔なのだと美希は思った。
屈託なく笑う三人。
年も顔も背格好もなにひとつにていないのに、なぜかジャン、レツ、ランの笑顔と重なった。

越えてはいけない一線を踏みこえてしまった美希には、彼らがとても遠く感じる。
巽纏を救えなかったのだから、犠牲を出してしまったのだから、彼らも同じだと、そう思えば楽になれるだろうか?

美季はもう一度、ひとりひとりを見つめていった。
目が眩むほど輝いた笑顔がそこにあった。
ふと、今ならまだ戻れるような気がした。
今止めてしまえば、まだ間に合うのではないかと。
スフィンクスを殺したことも、纏を殺したことも、全部仕方の無いことだった。
でもその罪も、スフィンクスと纏ならば許してのではないかと……。

纏の墓石に目が止まる。
墓石と言うにはあまりにも不格好な岩の下で、巽纏が眠っているのだ。
言い知れない寂寥感が美希を包んだ。

あなたは私を恨んでいるでしょうね。

仕方が無いこととは言えなかった。

156: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:19:44 xkwAjiuY0
許してもらおうなどと都合の良すぎる話だった。

「次……」

腕の中でドロップが、美希以外には聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
美季はドロップの冷めた視線を追った。
ドロップの視線がティターンの背を射抜く。

結局、この中に美希が利用出来る者などいない。

わかっている。
早いほうがいい。
私が迷いを振り払うためにも……。

答える代わりに美季はドロップの頭を撫でた。

§

歩いていく美希、ドロップ、ティターン。
その姿を思い出すと瞬は少し複雑な感情に駆られた。
本当ならば自分もついて行きたかった。
行って全部終わらせてくるつもりだったのだから、何となく不完全燃焼を起こしている。
蒼太たちと共に来た鉄工所で瞬は特にすることなど無なかった。

マーフィーが心配じゃないかと言えば、あまり心配でもなかった。
なぜならここに着いた途端、おぼろはメカニックとしての本領を発揮。
テキパキと蒼太と瞬に指示を出す。
結局、プロと学生の差がでたというか、助手の仕事にあぶれた瞬は邪魔にならぬよう隅で大人しく待っているしかなかった。

157: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:21:51 xkwAjiuY0
しばらくして一段落したのか、おぼろと蒼太がペットボトルを片手にこっちへやってきた。
マーフィーはまだ作業台で寝そべっていたが鳴き声は以前よりうるさいぐらいの声に戻っていた。

「気になるかい」
「そりゃ、纏さんの残してくれた手紙のこともあるし」
「じゃ、これを持って様子を見にいくってのはどうかな?」

蒼太が渡してくれたのはゴウライチェンジャーだった。
マーフィーの修理はもう一息で終わるらしい。
ただ残念なことに材料も乏しく、予想していたよりも修復は出来ないようだ。
施せるのがあくまでも応急処置なので、あまり長い時間は歩かせられない。
そこでバリサンダーに乗せて運ぼうとなったが、押して行くには負担と時間的なロスが大きすぎる。
乗って行くには、おぼろがマーフィーを抱えることになるが。
となると瞬は一人あぶれてしまう。
続けて蒼太からクエスターガイに奪われた天空の花の話を聞いた。
仕掛けられた時間のリミットもある。
瞬にゴウライチェンジャーを託してみようと二人は思ったらしい。

「もちろん、一人になるのは危険やし。瞬くんがいややったら無理強いはせえへんで」
「行きます。もちろん」

その時、瞬はすでに立ち上がりデイバックを担いでいた。

§

幼いドロップの歩みに合わせ、ゆっくりと歩みを進める。
ドロップの歩みのせいだけではなかった。
ここはちょうど美希がテルミット弾を仕掛けたタワーの裏手。
壊れた街の残骸が、美希の最後の良心に縋り付くように歩みを遅くさせていた。

158: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:24:07 xkwAjiuY0
ティターンは誰かに話したかったのだろうか。
歩きながらする会話がいつの間にか放送で呼ばれた死者の話へ、そしてその中のティターンの知り合いへと話は自然に流れた。
小津勇、深雪、麗。そしてスフィンクス。
スフィンクスとティターンは人間界で命の大切さを学んだ。
人の絆、兄弟や家族の思い、それは今まで美希も何より大切に、どんなことより強く願う思いだった。
無意識に美希は立ち止まった。

「少し時間を貰えない?ずっとドロップを抱いていて纏さんの墓前で手を合わせてられなかったのよ」

つい口から出た言葉が、ティターンに対する演技なのか、自分の本心なのか一瞬わからなかった。

「構わないが、戻るか?」
「いいえ、ここで良いわ。ここが爆心地みたいだし、この爆発のせいで纏さんが亡くなったのだから」

美希は手を合わせてみた。
不思議に後悔も、懺悔も、何も湧き上がってこない。
感情のすべてを凍らせてしまったかのようだった。

本当に心が凍ってしまえばいいのに……。何の迷いもなく目的の為に殺戮を厭わない殺人マシーンだったら……。

ナツメを救わなければならないという思いが、溢れそうな感情を必死に凍結させていた。
長く長く、美希は手を合わせたまま動けないでいた。

「どうしたのだ」

ティターンとドロップが不思議そうに自分を見ている。
言われて始めて頬を伝う涙に気がついた。

159: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:30:47 xkwAjiuY0
出来ないの?
声にださずに呟いたドロップ。
不意に美希の両耳を引っ張っぱった。

「勇気……。出ろ、出ろ」

大丈夫よ、出来るわ……。
美希はドロップにだけ聞こえるようにそっと優しく囁いた。
始末するならなるべく早いほうが良い。
ジルフィーザど組まれ、瞬たちと合流した後でより、今。
ぐらついた気持ちと決別するにもティターンの存在は障害のように思えた。

「何でもないわ。目にゴミでも入ったみたいね」

美紀はそっと涙を拭い取り、ティターンに微笑みを帰した。
その時。
タタッ。軽い靴音を響かせてドロップがティターンに駆けていく。
それはスキップするように、まるで父親甘える子供のように。
飛び跳ねたドロップはティターンの肩へ攀じ登った。
ティターンはどこか嬉しそうに、しっかりとドロップを大きな背で受け止め、両腕で支えた。
スッと首に回されるドロップの細い両腕。
その手に持つのは幼子の玩具ではなく鏡の破片。
ナイフのように鋭い欠片が朝日を受けて煌めいた。

「マトイお兄ちゃんと皆のおかげで、大事なこと全部思い出したよ」

無垢な幼子の表情は無く冷たい殺意に満ちた目。

160:名無しより愛をこめて
08/11/13 12:39:23 jmjBVgIQ0



161:名無しより愛をこめて
08/11/13 14:57:43 V6Ltb5720
支援

162:本当にすみません。続きいきます ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:42:53 h0HNdxI80
ドロップが黒装束の肩口を強く引く、黒装束が反物に戻りふわりと落ちた。
手伝うよ。
ドロップの目が語っているようだった。

「やめないか、遊んでいる場合ではないのだ」

悪戯を咎めるティターン。
嗤いながらドロップがティターンの首を締め上げる。

「うぐぅ!」

うめき声を上げながら、ドロップを振りほどこうとする手は、どこか躊躇しているようだった。
ティターンには信じられないのだろう。
首をへし折られそうになりながらも、振りほどこうとする手を破片で切り裂かれようとも……。

グチッグギリッッ!

骨が、血管が、器官が破壊される音が響く。
深緑色のティターンの額に、ミミズがのたうつように血管が浮き立つ。
ティターンの首が見る見る捻り曲がった。
笑い声こそ上げないがドロップが狂喜しているのがわかる。

「~~~♪」

ドロップは手柄を立てた子供のように誇らしげな笑顔を美希に向ける。
タンッ。
ティターンの体を蹴って軽快にジャンプし美希の方へ駆け寄る。

「美……希……逃…げろ……」

まだティターンにはわからないのだろうか。
この手に握っているのは、手槍の型を成したスタッグブレイカー。

163:本当にすみません。続きいきます ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:44:28 h0HNdxI80
美希はありったけの力を込め、槍先をティターンの胸へ突き立てた。

「逃げろ?どこへ逃げればいいのよ……。このまま逃げてどうしろと言うの?!」

手に伝わる肉を突き破る感触。
スタッグブレイカーはティターンの胸に深々と突き刺さる。
そこで初めてティターンは何が起きたのか悟ったようだ。
抵抗するかのように美季の肩を掴む。
否、ティターンの暖かい手からは抵抗の意思でなく、改心を願う温情が伝わってきた。

不意に……。

――ドロップ君をたのんます。そのために纏さんも命を懸けはったんやし
おぼろの声を思い出す。

――お兄さん、心配してるだろうな。
蒼太の優しい笑顔が蘇る。

――空で、纏さんと一緒に見てくれてるだろうから。
悲しみを力に変えた瞬の姿が脳裏に浮かぶ。

――人の未来は地球の未来なんだ!
纏の叫びが胸を突く。

――人間の絆、そこに溢れる勇気。私は信じています。そして、もっと知りたいのです。
スフィンクスの願いが心を砕こうとする。

――ママ!
ナツメの声が頭の中で弾けた。

――あなたは戦わなければならないのです。なつめさんを失いたくなければね……。

164: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:45:12 h0HNdxI80
ロンに引き裂かれるナツメの幻が眼の前に広がる。

「あなたたちと……。こんなふうに出会いたくなかった……」

もう一度スタッグブレイカーを引き抜き再びティターンめがけ突き出した。
僅かに体を捻ったティターン。その右脇腹をスタッグブレイカーが抉り取る。

「ナツメを……守るためなの……」

美希は右手に力を込めた。
うっすらと美希の背後に浮かび上がる激獣レオパルドの巨躯。
激気が濁流如く身体を駆け巡り、右手に流れ込む。

「激技、貫貫掌……」

美季は激気を込めた掌底をティターンの脇腹へ打ち込こんだ。
その瞬間、時が止まったようにティターンの身体が静止した。

「……その……悲しい拳で……守ろ……うというのか……?」

ティターンはそっと優しく包むように美希の手に触れようとした。
だが、フッと力が抜けたようにだらりと手が下がった。
前へ崩れていくティターンの身体を美希はそっと支えた。
手に伝わるのは冷えて行く温もり。硬直した身体の感触。耳を澄ませても聞こえない息吹。
美希の腕の中で消えていく命。
これでまた一人。

165: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:45:55 h0HNdxI80
美希はティターンの身体を地へ横たえ、ゆっくりとその場を離れた。

ゴオオオオッ……。

燃え盛る火柱がティターンを包んでいた。
火柱はすぐに掻き消えた。後に残ったのは炭化した黒い塊だった。
ドロップがぎゅっと美希の手を握った。

「行きましょう。あの子たちが来る前に、ジルフィーザのところへ。
お兄さんにはあの子たちの始末を手伝ってもらった後、死んで貰うわ……。それでいいわね」

ドロップは力強く頷いた。

§

「っと、美季……さん?まだ、こんな所にいたんだ」

瞬は、追い付いた美季に一瞬声をかけて良いのか戸惑った。
タワー付近で追い付いたが、そこにティターンの姿はなく。
少し怖い顔をした美季がドロップの手を引きF-7エリアの方角へ向かっていた。

「ティターンは、どうしたんだ?」

美季が出てきたのはタワー裏手、爆発の中心あたり。
爆発の原因でも調べていたのだろうか? 
もしかしたら、人質だった美季は自分たちより纏の死に責任を感じているのかもしれない。

166: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:47:42 h0HNdxI80
ティターンの姿がないのは瞬の位置からティターンが見えなかっただけかもしれないのだし。
だが、何となく美季の表情が気になる 。

「何もないんだろうけど」

行く先はわかっているのだから確かめてから合流しても遅くない。
瞬は爆心地へ近づいた。

溶けて曲がった鉄骨も、黒ずんだコンクリートも、爆発の酷さを物語っていた。
瞬はいたたまれない気持ちになった。
こんなところで何をしようっていうのだ。
確かめたところで何もない。
それよりも早く追い付いて美季たちの護衛にでも回ったほうがいい。

ティターンがいないということ。
最悪の想像をすればネジブルーの声に集まった誰かから、自ら囮となって美季たちを逃がしたとも考えられる。
やはり早く美季に確かめてみなければならない。

「行こう」

瞬は、デイバックを担ぎ直し瞬はタワーに背を向け走り出した。
ガサガサとバックの中身が揺れる。

「あぁ、支給品の変なカプセル。別れる前に、蒼太さんに見て貰えば良かった。案外これもプレシャスってヤツかもしれないな」



167:名無しより愛をこめて
08/11/13 16:50:28 E12C3MJvO
支援

168: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:51:57 h0HNdxI80



§

ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。

デイバックから聞こえるのは不規則に、僅かに歩調と異なる音。

ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。……ガサッ!

§




169:名無しより愛をこめて
08/11/13 16:57:40 E12C3MJvO



170: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:57:44 h0HNdxI80


……ィ…ターン。ティターン。

深い闇の底に沈んだティターンを呼ぶ声がする。
その声にティターンの頬が緩む。

……相変わらず、人とは興味深いものです。
勇気と絆の力で闇に打ち勝つのも人間なら、子の為に修羅に堕ちるのもまた人間。
もう私たちに出来ることは見守ることだけのようですね。

闇の底に一筋の光が差し込んだ。

……さぁ、行きましょう。
そして、あなたに何から話しましょうか。
あなたが眠った後のインフェルシアと人間界のしましょうか?
それともここで出会った者の話にしましょうか?

光の中から声の主がティターンに手を差し伸べる。
 
あぁ、行ったらゆっくり聞かせてくれ。
俺たちに時間は充分にあるのだから……。


【冥府神ティターン 死亡】
 残り32人


171:名無しより愛をこめて
08/11/13 16:57:52 V6Ltb5720



172: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:02:18 E12C3MJvO
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:良好。1時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:マーフィー修理後、おぼろと共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:おぼろを守る。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。

【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:マーフィー修理後、蒼太と共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。


173: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:03:09 h0HNdxI80
【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲火傷、応急処置済。1時間メガブルーに変身できません。
[装備]:デジタイザー。ゴウライチェンジャー。
[道具]:支給品一式、カプセル(次元虫)その他確認済み
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って夢を叶える前にこのゲームを終わらせる。
第一行動方針:纏の死に深い悲しみと強い決意。確実に成長。美希とドロップを追う。
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
 変身制限があることを知りました。
※時間軸のずれを知っています。


【名前】マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:銃弾によりかなり破損、修復中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:修理を受ける

174: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:03:51 h0HNdxI80
【名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:健康
[装備]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー(鍵のみ、タワーの損壊で壊れている可能性があります。ネジブルーの物とすり替えました)スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:なつめを救うために勝ち残る 。
第一行動方針:ジルフィーザを利用して瞬、おぼろ、蒼太の殺害。
※時間軸のずれを知っています。

【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:健康。二時間能力発揮できません。
[装備]:不明
[道具]:メメの鏡の破片、虹の反物
[思考]
第一行動方針:不明
※時間軸のずれを知っています。



175:腕の中で眠るあなたが大好きだった ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:08:00 h0HNdxI80
以上遅くなり申し訳ありませんでした。

指摘、問題点、感想等、お願いいたします。

一点、修正させてください。
>>154
おぼろがイカヅチ丸を美希に差し出した。

おぼろがスタッグブレイカーを美希に差し出した。

でした。

路しくお願いします。


176: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:17:12 E12C3MJvO
大事なことを書き忘れていました。

ラストのスフィンクスのせりふは死者すれから引用させてもらっています。
作者氏にことわりなく引用しているので不快であれば書き換えます。


177: ◆8ttRQi9eks
08/11/13 19:40:56 NqDwPy7v0
◆MGy4jd.pxY さん、投下お疲れです。
いつも代理投下していただいている私は恥ずかしい限りです。
サブタイトルが良いですね。最悪の目覚め方をしたドロップ、ぶれはじめた美希の対比が面白かったです。
そして…ティターン散ってしまいましたね。マジレン勢で残るはヒカル先生だけ。
この先、ジルフィーザとドロップの邂逅が何をもたらすか? 引きの鮮やかさが印象深いですね。参考にしたいです。


また、大変遅くなりましたが、代理投下していただき真にありがとうございました。
感想は本当に励みになります。次回作も頑張ります。
つきましては纏めの際、以下の部分を修正していただけませんでしょうか?
申し訳ありません。
>>131
>ただし、メレは全員の人とな理央知っているわけではない。
は誤りで人となり、でした。
>>134
>「…今からする話を信じる、信じないはお前達の勝手だ…もしも信じられないなら俺を倒すなり、なんなり好きにしろ……―」
一人称は私です。

178:名無しより愛をこめて
08/11/13 20:01:18 Leicw479O
投下GJです!

ティターン死す……
彼はロワで生き残るには優し過ぎたのかもしれませんね。

前半のどこか穏やかな光景から、一転の悲劇。
美希の迷いとティターンの優しさが哀しかったです。
タイトルが胸に刺さる……

そして、いよいよ目覚め始めた次元虫にドキドキw

死者スレを投下したのは自分ですが、不快などという事はまったくないです。
むしろ光栄でした!
面白かったです!GJ!

179:名無しより愛をこめて
08/11/15 23:29:23 E+JcO7VRO
保守

180:名無しより愛をこめて
08/11/17 01:16:30 rQAm2tmcO
遅くなりましたがGJです!面白かった!

マジレンジャーは全滅までいよいよリーチか……負けるな!ヒカル先生!w

181:名無しより愛をこめて
08/11/18 11:52:08 yGVLl6sR0
それでもスモーキーなら、スモーキーなら、きっとなんとかしてくれる。

182:名無しより愛をこめて
08/11/21 00:43:31 WX/tXRSCO
正義の保守を突っ走る。
パロロワ戦隊保守レンジャー

183:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:45:36 QlF1XhgH0
「映士! 映士なのね!! 良かった、無事だったのね!!」
目の前に現れた意外な人物に高丘映士は呆気に取られた。
銀色の髪の毛はちじれ、白い装束は土に汚れ、酷く消耗した様子でふらふらと彼に近づいてくるのは、
母であり、西のアシュ-ケイだ。
「お・おふくろ!? なんでこんなとこに!!!」
動揺する映士はしかし、すぐに冷静さを取り戻す。
「お袋…」
彼女が映士の前に憔悴しきった姿で現れたのは映士がウメコの死を確認してすぐ後のこと。
放送後に仲代と菜摘と合流すべく歩みだしてすぐ後のことだった。
「映士! 無事だったのね! 怖かったわ!! 怖かった!!!」
ケイは崩れるように映士へその身を預ける。その唇は真っ青だ。
「お、おいおい…大丈夫かよ!?」
「えぇ…もう、大丈夫よ…あなたがいてくれるもの…―」

「そうか…だったらもう、離れろよ。気色悪くて仕方ねぇ…女装なんていい趣味とは思えねぇな」

映士の乾いた言葉にケイは素早く身をはがし、間合いを取る。
「そんなんで俺が騙されると思ってんのか!? そのネタはもうオウガが手をつけちまってんだよ、舐めんじゃねぇぞっっ!!」
ケイは大袈裟に両手を広げ、やれやれという様に肩を竦めてみせる。
次の瞬間、金色の煙に全身が包まれ人の形をした邪な竜が姿を現した。
「てめぇ…どういうつもりだ!!」
目の前に立つは金色の衣を纏った怪人。この馬鹿げた宴の主催者―ロン。
「流石にガイを下した後のあなたにこんな手は通用しませんでしたか…」
ロンは不敵な笑みを浮かべたまま、映士と対峙した。
「別にたいした用事ではありませんよ。ちょっとしたお願いと運動を兼ねてあなたの前にお邪魔したと言うわけですよ…
お手間は取らせません。そして、損もさせません。」
「何言ってんだ、てめぇ…!」
怒気を強める映士の拳に力が篭る。手に持ったサガスナイパーが震えた。



184:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:46:25 QlF1XhgH0
「ですから、私とちょっとしたゲームをしていただきたいんです…余興ついでの余興? ね、いいでしょう? 絶対に損はさせませんから」

「あなたが、もしもただの一箇所だけでも私に傷をつけることが出来たなら、あなたの願い事を何でもかなえて差し上げましょう…
なんでも結構ですよ。両親を蘇らせたい、伊能真墨を蘇らせたい…何でも結構です」
映士はしばし沈黙し、一つの質問を投げかけた。
「…今すぐ殺し合いを止めさせたいといってもか?」
「無論、構いません」
「ふざけんじゃねぇ!! てめぇどこまで人をバカにしたら気が済むんだ!!!!」
激昂し、サガスナイパーの切っ先をロンの眼前に突きつけた。
この距離からなら、例え首輪の爆発と刺し違えてもロンの首を落とせる。
互いの制空圏が色濃く交わった近接の緊張が走る。
「私は本気ですよ…最近、皆さん何を言っても誰も信じてくれないんですよ…必ず嘘だの裏があるだの…
私は誠心誠意、他者を尊重しているつもりなんですがねぇ…皆さん、随分疑り深くていけません」
「自業自得だろ」
互いの視線が深く交わる。
しかし、きつく目を凝らしてみても龍の瞳の奥の真実は見通せなかった。
「…本当に信じて欲しいなら、まずはこの首輪を外して見せろよ…それができたらお前の戯言に付き合ってやる」
映士は低い声でそう言い放った。

「いいですよ」

事も無げにロンはそういうと指を軽くこすり合わせた。
パチン。
乾いた音を合図に映士の首から金色の戒めが地面に落下した。
「―――…!」
あまりにも呆気ない解放に映士はいうべき言葉も見つからず、しばし首をさすった。
「さぁ、これでいいでしょう。しばらくは首輪を外していても大丈夫。これで気兼ねなく戦えるのではありませんか?」
余裕の表情でロンが言う。
「…何のつもりかしらねーが、てめぇ相手の殺し合いなら喜んで乗ってやるぜ! 真墨のことやらウメコのことやら気にくわねぇことだらけだからな!!!」
ロンの言葉の不自然さを気にも留めず、映士は右腕のブレスのカバーを勢いよく開いた。



185:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:48:32 QlF1XhgH0
「ゴーゴーチェンジャー!!」

刹那、目もくらむほどの眩い輝きと共に一瞬で白銀の戦士が誕生した。
肩に担いだ専用のボウケンアームズ<サガスナイパー>を身体の前面へ旋回させると同時に折りたたみ変形させる。
無駄のない一連の動作で素早くトリガーを引く。
映士の怒りを反映する様な断罪の光が連なって丸腰のロンを襲った。

「フフ…どこを狙っているんです??」

ロンはまるで意に介す様子もなく、ただのらりくらりと弾道の軌跡を読んでいるように弾雨を避けていく。
「これでは運動不足の解消にはなりませんよ…もっと頑張ってほしいですねぇ……」
括る事、裂くことの通じぬ流水がごとき動きに標的が一定しない。
オリンピック候補であったさくらならともかく、元々白兵戦を主体とする映士には分が悪い。
「あぁ、そうそう…言うのを忘れていましたが、この戦いは殺し合いの外の出来事。私自らあなたの命を奪うことはありませんし、
今後のあなたの行動に差し支えるような肉体的外傷や制限を負わせる真似もしませんからご安心を。
勝っても負けてもリスクは一切なしです。外れなしのクジみたいなものですよ」
龍が微笑む。顔一杯に笑顔を浮かべて。
「うるせぇっっ!!」
あたらぬなら当たりに行くまで。
リーチの長さを生かした豪快な槍捌きこそ、高丘流の真骨頂だ。
今滅の錫杖に見立てたサガスナイパーをまるで身体の一部のように軽々と振り回し、悪辣な龍を追撃する。
しかし、数々の危難を払ってきた、父から受け継いだ高丘流が通じない。
「あぁ…お願いの方ですがね…高丘さん、あなたに殺し合いに乗ってほしいんですよ」


186:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:49:44 QlF1XhgH0
思い出したようにロンが言う。
「俺が他人を殺す!? 夢見てんじゃねぇぞ!! 皆が皆お前の思い通りになると思ったら大間違いだぜ!!」
感情の大きなうねりに獲物を振り回す動きが鋭さを増す。
しかし、ロンはひらひらと紙のように舞うだけで、全くそれを意に介さない。
「そうなんです、問題はそこなんですよ。絆の力があなたを人に留めている。
父から受け継いだ誇りと、母であるケイの注いだ愛情。仲間達からの信頼。
わたしはね、高丘さん…今回、そうした規格外の力に挑戦しようとこのゲームを企画したんです」
「なに…!?」
「わたしはかつて、一度人に敗れました。その時にね、あなたに良く似た境遇の男を使って私の敵をかく乱しようと目論んだことがあるんです…
しかし、彼は予想に反して私の仕掛けた呪縛を打ち破った…このゲームに参加しているある男もそうです…彼らは私の手のひらで踊る操り人形に過ぎなかったのに……」
「ようするにてめぇは人の力を見くびったってことだろ! 無様な話じゃねぇか!!」
ボウケンシルバーは一旦、間合いを開くと大きく獲物を真横に薙いだ。

「サガスラッシュ!!!!!!!!」

白銀の閃光がロンを激しく打ち据える。
しかし、彼は微動だにしなかった。
そっと手をかざす。
次の瞬間、断罪の輝きは竜の手のひらで四散した。
「ですがね…人の心など脆いもの………あなたはこのゲームで既にそれを一度目撃しているはずです」
頭が砕け、無残な死を遂げた胡堂小梅の姿が脳裏によぎる。
「彼女は宇宙警察に所属する優秀なSPDでした…常人より体力的にも精神的にも勝る人物でありながら、
彼女は己の心の弱さに打ち勝てなかった…そしてあんな形で最期を迎える羽目になってしまった」


187:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:50:32 QlF1XhgH0
「…………!!」
「そして、それはあなたの仲間とて例外はありません」
「なに!? どういうことだ、そりゃ!!」
「こういうことですよ」
ロンの体が解ける様に煙となってあたり一面を黄金色に染め上げる。
「くそっ! 逃げるつもりかよ!! 勝負は終わってねぇぞ!! ロン!!!」
煙の中にまぎれたロンの姿を探して映士は煙の只中へ飛び込んでいく。
しかし、もうもうと立ち込める煙の中では居場所は定かではない。
頼みのサガスナイパーも反応を掴めないでいる。

「出てこいっ!! 出てこい、ロン!!!!」

激昂し、闇雲に突き進む映士の眼前が急に開けてくる。
その先の光景に映士は言葉を失った。


『…殺さ…ないで……ください…お願い…します…―…』


これは、誰だ。
姿形は映士のよく知る女性に似ているが、彼女はこんなことはしない。
地に膝をつき、宿敵の足を懸命に舐める。
彼女なら、こんなことは絶対にしない。
「おいっ! ロン!! てめぇ、こんなまやかし見せてどういうつもりだ!!」
そうだ。
これはロンが見せた悪夢に違いない。こんな無様な女が彼女であるはずがない。
現に、彼女は瀕死になった自分を庇って戦ってくれたではないか。
…―人の心など脆いもの。そして、それはあなたの仲間とて例外はありません―…
「聞こえてるんだろ!!! 返事をしやがれッッ!!!」



188:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:51:20 QlF1XhgH0
『私の完全な負けです…あなたにはもう、逆らいません…どんなことでも言うことを聞きます!
…ですから…命だけは助けて下さい!!』

どれだけ大声を張り上げても飛び込んでくる声に映士は胸を掻き毟られる思いだった。
これは現実ではない。断じて、現実などではない。
「出てこい!!! ロン!!!! 出てこいっっっ!!!!!」
ガイを倒したことで過去と決別したはずだった。仲間との新しい冒険を歩んでいけるはずだった。
だが、沸き起こる裏切りへの怒りは彼のもう半分の血を否応もなく駆り立てる。
アシュとしての、血を。

「ロン!!! ロンッッ!!! ロンッッ!!! ロンッッッッ!!!!! ロン!!!!!!!!!!!!!!」

映士は喉が破れるほどに叫び続けた。
ロンは何も応えなかった。


……――――――――――――――――――……




189:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:52:59 QlF1XhgH0

全ては白昼の悪夢だったのか―
高丘映士は意識の混乱にしばし、立ち尽くしていた。首輪は元のとおり、しっかりと彼の生殺与奪を統括している。腕のゴーゴーチェンジャーにも制限の後は見られない。
「なんだってんだ、全く…」
全てを映士は夢だと思うことにした。
さくらがあんな行動を取るはずがない。
あるいはロンが映士の引き込みを計ったのかもしれないが、それは失敗に終わったようだ。
「俺様が言いなりになってたまるかってんだ!!」
腕をぶんぶんと振り回し、映士は仲代たちと合流すべく再び歩み始めた。
(あんなの…嘘に決まってらぁ!)
そう、全ては偽りだったのだと彼は無理に思い込もうとしていた。
脳裏にはさくらの卑屈な表情が張り付いたまま。
クエスターを倒し、確固たる物となったはずの信頼に微妙な揺らぎが生まれたことを彼は自覚するのを避けていた。
信頼と疑心の間で揺らめく様はそのまま、アシュと人との間で揺れ動くことへと直結する。
「あんなの…嘘に決まってらぁ…」
自身の迷いを打ち消すように、映士は言葉を発した。


【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:スコープショット、ボウケンチップ、ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:壬琴たちと合流し、ビビデビの処遇を決める。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。



190: ◆8ttRQi9eks
08/11/22 22:56:03 QlF1XhgH0
遅くなって申し訳ありません。タイトルは「白昼夢」で。
それとこっちが正しいステータス表です。

【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:スコープショット、ボウケンチップ、ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:壬琴たちと合流し、ビビデビの処遇を決める。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。
西堀さくらに僅かな信頼の揺らぎ。場合によってアシュへ傾く恐れあり。

191:名無しより愛をこめて
08/11/23 14:47:02 A3dbwaoEO
>>190
投下乙です。
揺らがない映士に動揺を誘いに来たロン。
相変わらず行動が卑劣です。

さあ、今後どうなっていくのか…

GJでした。

192:名無しより愛をこめて
08/11/23 21:05:01 HwXkLclvO
投下乙です。
ロンが見せた白昼夢、映士の心に波紋を投げかけたようですね。
感想が遅くなり申し分なかったです。
GJでした。

193:名無しより愛をこめて
08/11/25 13:19:54 SlyidLYU0
保守

194: ◆MGy4jd.pxY
08/11/26 02:53:15 o1pFqH+9O
予約スレにも書き込みましたが……。
たびたび申し分ないのです。延長を申請いたします。

195:名無しより愛をこめて
08/11/26 10:19:07 56OMFh89O
>>194
了解しました。
楽しみにお待ちしてますね。

196:名無しより愛をこめて
08/11/26 22:05:59 IzL1B/uc0
陽気なアコちゃんがまだ出てこないのが意外。

個人的にはぬぎぬぎビームガンを早く出してほしい。

197:名無しより愛をこめて
08/11/26 23:01:49 4RjK7bWh0
全部の話を実写で見たいなw
のっけから頭潰される真墨とか、どんどん狂ってくスワンさんとかトラウマもんだろうけどw
グレイVSボスとか普通に見たい。

198:名無しより愛をこめて
08/11/27 00:39:51 tfJuMkG0O
精神壊されてくドモンとかさくら姉さんも自分にはトラウマになりそうだな。
でも確かに見てみたい。
調子狂わされてたアバレキラーには笑うと思う。

199:名無しより愛をこめて
08/11/27 00:52:54 SyISsirk0
>>197
スーツアクターが……w

200:名無しより愛をこめて
08/11/27 08:17:27 zLc8UsbqO
>>199
そこはほら、ウルトラマンみたいに人形で吹き替えを…無理?w

201:名無しより愛をこめて
08/11/27 15:30:39 H4XeHQYU0
想像するのが小説だ。

……でも見てみたい。

202:名無しより愛をこめて
08/11/27 19:11:30 Y9lQaZ9B0
見てみたいねー……MADって手もあるな……

203:名無しより愛をこめて
08/11/28 20:42:40 osqvnpHU0
っても、土下座する姐さんや黒焦げになった深雪ママの画像なんてないからなぁw
まぁ、前者は31話を編集すればそれっぽくは出来そうだが。

204:名無しより愛をこめて
08/11/30 11:29:24 ClGZ6vsF0
深雪ママの人形をレンジでチンする。

205:名無しより愛をこめて
08/11/30 22:40:10 ClGZ6vsF0
そういや、ロンがいるのになつめが全然でないけど、本当になつめは誘拐されてるの?

206:名無しより愛をこめて
08/11/30 22:43:54 aFcXWqPg0
それを知るのは神もといロンのみw
個人的にはどっちであってもロンらしいと思う。

207:名無しより愛をこめて
08/12/02 00:21:22 HkMr6zWU0
最近、更新ないなぁ…管理人さんの元気なんだろうか?
まぁ、年末だしお仕事がお忙しいのかも分からんが。

208:名無しより愛をこめて
08/12/02 01:27:13 kIfSmNdvO
お任せしてばかりだからねえ。
何かお手伝い出来ないものか…

209:名無しより愛をこめて
08/12/05 08:58:38 +7vvhv5p0
◆L3kdlaSWMo氏と◆8ttRQi9eks氏って同じ人だろうか?

210:名無しより愛をこめて
08/12/05 12:37:51 VXo8PoRv0
wikiでもう一つまとめ用意する?

211:名無しより愛をこめて
08/12/05 14:07:59 Kk2Fpt7nO
>>210
そういう話題は議論スレにてトリ付きでするべきではないでしょうか?


212: ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:28:59 THDhXJGl0
シグナルマン
投下します。

213:北東へ ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:30:08 THDhXJGl0
 既にブクラテスの叫びは届かなくなった森の中、シグナルマンはスモーキーの出鱈目な勘を頼りにただ歩き続けていた。
 スモーキーは根拠のない自信を胸に、シグナルマンにあっち行けこっち行けと無茶苦茶な指示をする。
 最初は従っていたものの、何もないところに何度も向かわされているシグナルマンはスモーキーに対する不信を抱き始めていた。

「スモーキー、やっぱり北東に向かわないか? 今からでも……」
「あんなヤツのいったこと、信用できるかニャー!!」

 シグナルマンはただ黙ってスモーキーを見ている。
 スモーキーには、それが呆れ果てた表情に見えてならない。

「何だその目はニャー!!」

 スモーキーは憤怒する。

「さっきから思っていたんだが……スモーキー、君は出鱈目を言ってるんじゃないか?」

 その言葉はスモーキーの胸に刺さる。まさにその通りだ。
 だがその様子を隠してスモーキーはシグナルマンを見つめた。

「君は本当に菜月ちゃんを捜す気があるのか? ブクラテスの指示に従わなかったのも気に食わないから……そう見えるんだが」
「そ……そんなワケないニャー!!」

 シグナルマンがゆっくりとスモーキーを地面に置いた。
 しゃがんだままシグナルマンはスモーキーに問う。

「君はさっきから『あんなヤツの言った事』、『あんな奴の言う事』と全てブクラテスの言う事に従おうとしていないだけに見える。スモーキーがまだそんなことを言うようならば本官は君の意見を無視して北東へ進む」
「……!?」

214:北東へ ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:31:00 THDhXJGl0
 スモーキーはあせりを感じ始める。
 シグナルマンの顔がどんどん近づいてきているように錯覚してしまう。

「……北東ニャ。北東に行けばいいニャ。ブクラテスの占いを信じてみるニャ」

 スモーキーが本心とは裏腹な返事を口に出す。
 だがブクラテスのあの謎の自信もずっと頭の中で微かにでも信じていたのだ。
 いや、そうではないのかもしれない。
 それは自分の対する不信だったのかもしれない。

 シグナルマンはまたスモーキーを手に取った。

「わかった。……ところでここはどこだ?」

 シグナルマンはマップとコンパスを見ながら首を傾げだした。
 スモーキーが出鱈目にシグナルマンを動かしたせいで、現在地がうまく把握できなくなっていたのだ。

「聞かれても困るニャ」
「と……とにかく、北東に向かおう」

 シグナルマンが手持ちのコンパスで方角を合わせた。
 だが彼らはまだ気付いていない。既に菜月は彼らから見て南東の位置にいることに。
 そう、また菜月と彼らの距離は広がろうとしているのだ。

215:北東へ ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:33:19 THDhXJGl0
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:B-5 森 1日目 午前
[状態]:健康。少し凹み気味。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(残数2個)、ウイングガントレッド@鳥人戦隊ジェットマン、メレの釵
 マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:強い怒りと悲しみ。菜月を探し出す(北東に向かう)。その後、竜也たちと合流。
第二行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第三行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。

【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:B-5 森 1日目 午前
[状態]:健康。マジランプの中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルを探す
第一行動方針:強い怒りと悲しみ。菜月を探し出す(北東に向かう)。


216:北東へ ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:35:33 THDhXJGl0
超短文になってしまいましたが、投下終了です。

修正箇所や問題点などの指摘があればお願いします。

217: ◆MGy4jd.pxY
08/12/07 13:00:26 gisHXfwX0
遅くなりましたが投下乙でした。
はたして菜月と無事に合流できるのか?
無理だろうなw

中々中々筆が進まないので気分転換に作ってみました。

URLリンク(takukyon.hp.infoseek.co.jp)

元ネタはパロロワ戦記戦隊国より
ちなみに>>209は自分です。名前を入れようかとも思ったので……

218:名無しより愛をこめて
08/12/07 17:00:11 EBqGC1tAO
>>216
同じく遅くなりました。投下乙です。

やっとスモーキーが正直になれたと思ったらまたもや、裏目にw
負けるな!シグナルマンw

>>217
おお、かっこいい!自分も早く煽り文仕上げねばw

執筆頑張って下さい。楽しみにしてます!

219: ◆8ttRQi9eks
08/12/07 17:31:38 ImvGq61e0
>>216
あーあぁー…まぁーたはなれちゃったw
この辺ももっとぐちゃぐちゃしてくるんでしょうかね?
投下乙です。


>>217
違いますけど、どうしてそう思ったんですか?


220: ◆MGy4jd.pxY
08/12/07 20:00:53 unjNlU2uO
おう、申し訳ありません。
なんとなくさくらさんの描写の辺りが似ているかなと思ってorz

しかし発言自体が軽はずみでした。
大変失礼いたしました。


221: ◆LwcaJhJVmo
08/12/08 15:14:39 mogx4bRV0
>>217-219
感想ありがとうございます。

222:名無しより愛をこめて
08/12/10 21:13:13 aAkOUU3n0
書き手紹介が格好良すぎて痺れた!
投下してくれた人GJ!
気付くの遅くてごめんね。

223:名無しより愛をこめて
08/12/12 22:41:46 YuoyJq4vO
書き手紹介てどこでやってるんだろう。
知らなかった。

224:名無しより愛をこめて
08/12/13 09:26:39 n49TGfEpO
>>223
したらばの書き手交流スレに転記してある。

225:名無しより愛をこめて
08/12/13 11:31:53 pOlWfL6L0
>>224
おう、気付いてなかった。thx

226:名無しより愛をこめて
08/12/13 18:13:36 8vBa/cHhO
下がり過ぎで足切りに引っかかりそう。
ところで、現状一番活躍してる人と、逆に一番カワイソスな人って誰だろう?

227:名無しより愛をこめて
08/12/13 21:04:42 J832eTvsO
一番活躍は多分ガイ

228:名無しより愛をこめて
08/12/13 23:59:47 UGvbdv3b0
>>224
>>223じゃないけどサンキュ。

一番活躍は個人的にはネジブルーとブドー。
ネジブルーは狂気じみててある種活躍してる。ブドーは殺害数二位だけど一番活躍してる気がする。
あえて美希は触れない。
可哀想なのはさくらだな。

229:名無しより愛をこめて
08/12/14 00:27:10 MCkoWsSLO
さくらは可哀想か?

230:名無しより愛をこめて
08/12/14 00:55:56 j/Z0MLcOO
>>229
さくらさんはこれからどんどん悲劇に向かっていきそうなイメージあるな。
いや、まださきは分からんけどねw

231:名無しより愛をこめて
08/12/14 02:20:59 MCkoWsSLO
でも今年はもう新規の予約や更新はなさそうだなぁ・・・・・・

232:名無しより愛をこめて
08/12/14 19:42:46 j/Z0MLcOO
>>231
年末年始は忙しいからねー。
ゆっくりwktkして待とうよw

233:名無しより愛をこめて
08/12/15 15:34:50 3JCzOelq0
ガイ戦のときはある意味可哀想だった。

234:名無しより愛をこめて
08/12/15 17:43:29 94UfdtV1O
予約キター!!!!

235: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 02:35:57 kgE3KI570
まとめサイト更新しました。
大変時間を空けてしまい申し訳ない。
言い訳を並べても仕方ありませんので、今後の行動で示したいと思います。

差しあたって、1点。
>>120でネジブルーがG-5エリアからH-5エリアに移ったのが10時となっておりましたが、G-5エリアが禁止エリアになるのは9時ですので、
まとめサイトに反映するにあたり、9時に修正を行い、状態表もそれに合わせて更新しました。
他、まとめサイトに反映するにあたって、勝手ながら、誤字脱字はいくつか修正をかけております。
お暇があれば、ご確認をお願いします。


236:名無しより愛をこめて
08/12/17 10:42:01 SnQkJBp+0
>>235
おかえりなさいです!
そしてまとめ更新乙でした!!

237:名無しより愛をこめて
08/12/17 15:46:58 /EqHi2Ji0
>>235
ありがとうございました。
更新乙!

238:名無しより愛をこめて
08/12/17 18:48:26 +cTdt2/SO
>>235
おかえりなさい!
更新お疲れ様です。

239: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:20:25 kgE3KI570
あたたかいお言葉、ありがとうございます。
これからも頑張りたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。

それでは投下いたします。

240: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:21:05 kgE3KI570
 時計の短針が8の数字を指す。
 約束の合流時間をわずかに過ぎた頃、映士はJ-6エリアの公園へと辿り着いた。
 見れば、白いコートをたゆらせた壬琴の隣には、ビビデビに転送され、行方不明になっていた菜摘の姿があった。
 菜摘が無事に戻ってきていたことにホッと胸を撫で下ろすと、映士はふたりの元へと駆け寄る。
「菜摘!無事だったんだな」
 映士の呼びかけに、顔を向ける壬琴と菜摘。
 しかし、どことなく重苦しい雰囲気がふたりからは漂っていた。
「どうした、しけた面して」
「アンキロベイルスが死んだそうだ」
「なに!?」
 壬琴は菜摘に代わり、彼女が体験したことを淡々と語った。
 菜摘が転送された先にアンキロベイルスがいたこと。
 しかし、それはロンの罠で危うく溺れかけたところをアンキロベイルスに助けられたこと。
 そして、首輪が外れたがためにアンキロベイルスが死んでしまったこと。
「ちっ」
 憤慨し、思わず舌打ちをする映士。ここに来る前に見た夢といい、ロンへの怒りは上限を知らない。
「まさか、首輪を外しても死ぬような細工をしているとはな。罠もさることながら、こちらの行動に対して、二重三重の手を打っている。大したゲームマスターだ」
「っ!てめぇはどっちの味方なんだよ!!」
「どちらの味方にもなった覚えはない。俺は奴のゲームに乗らないと決めただけだ。こいつを使ってな」
 壬琴は自分の運命を決めた、コインをちらつかせる。
 その挑発的な行動が映士を更に猛らせた。
 思わず壬琴に掴みかかろうとする映士。
 だが、その動きを察した菜摘がふたりの間へと入る。
「菜摘、どけ!こういう奴は一発ぶん殴らねぇとわかんね」
「駄目。壬琴も、映士も、殺し合いに乗る気はない。それなら、ふたりが争う必要はないじゃない。違う?」
「そりゃあそうだが―」
「映士の方でも何かあったみたいね。イライラしてるのがわかる。でも、それは私も壬琴も同じ。
 だからといって、それを他の誰かにぶつけちゃ、それこそロンの思うツボ。
 その怒りをぶつける先はロン。そうでしょ」

241: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:22:42 kgE3KI570
 懸命に説得する菜摘を見て、映士は最初に感じた重苦しい雰囲気の原因がわかった。
 眼の前にいる菜摘だ。
 3人で行動していた時はわずかだったが、菜摘からは明るさが見て取れた。それが今はないのだ。
 冷静になって観察すれば、彼女の握った拳にはかなりの力が込められているのがわかる。
 彼女も懸命に耐えているのだ。
(そうだ、苦しいのは俺様だけじゃねぇ)
 それに気付いた映士は拳を治めた。
「ありがとう」
 菜摘の言葉にさざ波が立っていた映士の心が緩やかになっていく。
「それで、そっちの方は何か収穫があったのか?」
 相変わらず、横柄な壬琴の態度に多少辟易しながらも、人のことは言えないと気を取り直し、映士は話を進めるため、ディパックに手を入れた。
「ああ、収穫はあったぜ。こいつだ」
 映士はスコープショットでぐるぐる巻きになったビビデビを取り出すと、地面へと放り投げる。
 ビビデビは受身を取れぬまま、地面にゴツンと当たり、悲鳴を上げた。
「痛いデビ!」
「人形がしゃべった。この人形って、生きてるの?」
「ああ、そうだ。そして、こいつが菜摘やウメコを飛ばした張本人だ」
「ほぉ」
 興味深げに眺める壬琴と、不思議そうに見詰める菜摘に、映士はビビデビの事と、彼に聞いた全ての事柄を説明する。
「正直、こいつの言ってることがどこまで真実か、はっきりとはわからねぇ。
 だが、もし、全ての事柄が真実なら、あと1時間もすれば、ロンの野郎の元へ行くことができるはずだ」
「確かにな。しかし、そのためにはどちらにしろ、首輪の解析が必要不可欠だ。
 何しろ、ただ首輪を外すだけじゃあ、死ぬことがわかった。
 こいつをどうにかしない限り、ロンを倒すことは俺でさえ不可能だ。
 ―映士、ウメコはどうした?」
「い、いきなりなんだってんだ」
 突然の話の転換。
 ウメコの死に様が、映士の脳裏を掠める。
 ビビデビのことを話す際、映士はウメコのことは一切、説明しなかった。 
 いや、説明したくなかったと言うべきか。

242: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:23:47 kgE3KI570
 明るい彼女の死に様は、映士にとって、そう何度も口にしたくはないものだった。
「ウメコは……死んだ」
 意を決して、映士はその言葉を口にするが、壬琴は首を振る。
「死んでいるのは知っている。放送を聞いたからな。
 俺が聞きたいのは、お前がその死体を見つけているのかということと、その死体には首輪が残っているかどうかということだ」
「そんなこと聞いて、どうしようってんだ」
「決まっている。首輪を手に入れるのさ。ウメコの首を落としてな」
「なに!?」
 壬琴の言葉に、抑えられた彼の感情が、再び、揺らぎを見せる。
「さあ、早く教えろ」
 映士も馬鹿ではない。壬琴が何のために、そんなことを言っているかはわかる。
 ロンを倒すためには首輪を解析しなければいけない。
 そのためには誰かから首輪を入手しなければならない。だが、それはその誰かから命を奪うことに繋がる。
 それならば、既に死んでしまった誰かから手に入れるのは道理だ。
 だが―
「やなこった。これ以上、ウメコを傷つけることは俺様には出来ねぇ」
「その口振りだと、お前はウメコの場所を知ってて、首輪も残っているらしいな。とっとと教えろ。
 誰もお前にやれとは言っていない。俺がやる。これでも医者だからな。そういったことには慣れてる」
「誰がやるとかそういう問題じゃねぇ!」
「だったら、どうする?お前が自殺して、その首輪を差し出すとでも言うのか?」
「っ!」
 映士は言い返そうとするが、言葉に詰まる。
 理屈の上では壬琴に分がある。だが、映士は諦めたくはなかった。
(考えろ俺様。ウメコをこれ以上、傷つけたくなかったら、考えるんだ)
 映士は考えて、考えて、考える。
 怒りとは別の熱が頭を沸騰させた。
 そこで、ふと、心配そうにこちらを見る菜摘の姿が眼に入った。
「そうだ!アンキロベイルスだ。アンキロベイルスの着けていた首輪がある。
 アンキロベイルスの首輪なら、外れて、どっかに落ちてるはずだ。だろ?」


243: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:24:43 kgE3KI570
「ふっ、確かにな。だが、どこに落ちているかまではわからない。お前はそんな無駄なことに時間を費やすつもりか?」
「無駄じゃねぇ。俺にはサガスナイパーがある。こいつがあれば、首輪を見つけ出すことだってできるはずだ」
 映士は左手に付けたゴーゴーチェンジャーを壬琴へとかざした。
 サガスナイパー―ビームガン型のスナイパーモードと金属探知機型のサガスモードのふたつの姿を持つボウケンシルバー専用のボウケンアームズ。
 通常は遠近両用の武器として使用するが、その真骨頂はサガスモードでの探査能力。
 金属探知はもちろん、標的のあらゆるエネルギーを探知することが出来る。
 映士の自信に、壬琴はどうしたものかと、わずかに迷いを見せた。
「壬琴、私もあなたの言っていることはわかるわ。でも、映士の言っていることもわかるの。
 非常事態だからといって、人間らしさを失ったら、殺し合いに乗っている人たちと何ら変わりないじゃない」
 菜摘だって、首輪を外しても待つのが死というのがわかった時、人を蹴落としても生き残りたいとわずかでも思わなかった問われれば、答えはNOだ。
 蹴落とさないまでも、死んだ人間を自分が生きるために傷つけるのは、非常事態である今なら許されるかも知れない。
 だが、だからこそ、死体とはいえ、傷つけたくないという映士の思いを、菜摘は大切にしたかった。
「人間らしさか―ふっ、まあ、そういうゲームも悪くないか」
 壬琴は右手の人差し指と中指と薬指を上げる。
「3時間やる。それまでにここまで戻って来い。もしそれまでに戻って来なかったら、ウメコの首輪を取りにいく。それでいいな?」
「壬琴……」
 菜摘は、壬琴の判断に、感嘆の声を漏らす。
「ああ、きっと見つけ出してやるぜ」
 そして、映士はわずかに笑顔を浮かべ、力強く頷いた。
「そうと決まれば、さっさと探しに行け。もうカウントダウンは始まっている。
 菜摘、お前もだ。ひとりよりふたりの方が見つかる可能性も高い」
「ええ、わかったわ」
「俺はそれまで―」
 壬琴は言い争っている隙に逃げ出そうとしていたのか、大地を這っていたビビデビを思いっきり踏みつける。
「ぐぇ」
「こいつを相手に遊んでるさ」


244: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:25:49 kgE3KI570
 壬琴はサディスティックな笑みを浮かべ、映士たちを見送った。



「これでお前の知っていることは全部か?」
「ぜ、全部デビ。だ、だから、もう勘弁するビビ~」
 映士たちが東に向かって、数分後の公園。映士たちがいなくなる前と異なる点がひとつだけある。
 ビビデビがボロボロになっていることだ。
「どうだかな。実際、映士には言ってなかった情報もあったようだが」
「そうビビけど、お前―いや、壬琴様には全部答えたデビ。それに今後も壬琴様に協力するって約束したデビ」
 壬琴は映士から聞いた情報を、ビビデビの口から再度、説明させた。
 甘ちゃんの映士では引き出せなかった情報があるのではないかと推測してのことだったが、結果は予想通り。
 適度な拷問と脅迫で、壬琴はビビデビが持っている情報のほぼ全てを正確に取得していた。
 首輪の制限時間は3時間ではなく2時間であることや、メガブルー、メガシルバー、ネジブルーの情報などなど。
 だが、ビビデビはひとつだけ、首輪に盗聴機能があることだけはなんとか口を噤むことに成功した。
 流石に自らの命が掛かった情報を公にするわけにはいかない。
 ビビデビにとって、それを誤魔化せたのは自画自賛するほどのファインプレーだったのだが、それは―
(まだ、何か知ってそうだが……あまり核心に迫ることを喋らせてもつまらんしな。今、ここで消されても困る)
 壬琴が譲歩したに過ぎない。
「それでこれからどうするビビ。ただ、待つデビか?」
「いや、時間を無駄にするつもりはない。ウメコの死体がある場所へ行く」
「流石、壬琴様ビビ~、アイツラを出し抜くつもりデビね―ぐはっ」
 ヨイショするビビデビを、壬琴は自らのディパックへと押し込み、黙らせた。
 そして、そのディパックを担ぐと、西に向かって歩き出す。

245: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:26:39 kgE3KI570
「ゲームのルールは守るさ。ただ、ウメコがなぜ自殺したのか。それを調べるのは面白そうだと思ってな」
 壬琴の考えでは、こんな場所で自殺する奴は大抵、自分が置かれている状況に絶望する奴だ。
 だが、伝え聞いた状況から推測する限り、少なくとも映士と一緒にいた時のウメコはそのような素振りはなかったように思える。
 ならば、映士と離れてから、死ぬまでの間に何かあったと考えるのが普通だ。そして、その何かは第三者が関係している可能性が高い。
「ふっ、ときめくぜ」
 菜摘と出会ってから調子の出なかった壬琴は、来たるべき戦いの予感に、ようやく本来の調子を取り戻そうとしていた。

246: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:28:12 kgE3KI570
【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-6海岸 1日目 午前
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:菜摘と一緒に首輪探し。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。

【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:J-6海岸 1日目 午前
[状態]:軽い打撲
[装備]:アクセルブレス(アクセルキー紛失)
[道具]:ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー、キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。 ロンに負けない。
第一行動方針:映士と一緒に首輪探し。
第二行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラックへの変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。
 アクセルキーは水中に沈んでいます。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。


247: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:29:00 kgE3KI570
【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:J-6海岸 1日目 午前
[状態]:健康。本来の調子を取り戻しつつある。
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:ウメコの死に方に興味。原因を探る。
※ビビデビが知る情報のほとんどを得ました。
※首輪をただ外すだけでは駄目だということに気付きました。首輪によって設けられた制限時間の情報も得ています。

【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:壬琴のディパックの中。
[状態]:ボロボロ。命には別状はない。スコープショットのアンカーロープによってぐるぐる巻き。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまでおとなしくしておく。


248: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:36:44 kgE3KI570
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想など、指摘事項があればお願いします。
あと、タイトルを入れ忘れましたが、「クロスロード」にします。

249:名無しより愛をこめて
08/12/17 22:44:20 /g3wSHPe0
早速行動で示してきたぁーーーーーーー!!
まさか、こんなに早いとはw
上で今年は~ってぼやいてた者だが、このロワの底力を見たよ!
素晴らしい!! ようやく仲代先生発進か。
本編中だと主催者側でおかしくない人だからなぁ。ダークヒーローっプリに大期待だ!

250:名無しより愛をこめて
08/12/17 23:54:02 z/ioPEgC0
GJーーー!!
あまりの早さに夢かと思ったw つねった頬が痛いですw

それぞれに苦い思いを抱く3人の描写が秀逸でした。
そしていよいよ仲代先生は始動ですね!
ビビデビを適度に痛めつけて洗いざらい喋らせるのが彼らしいw
ビビデビは哀れですが、これも報いかw
これからの仲代先生の動向が楽しみでwktkします。面白かった!
GJです!

251: ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 16:09:33 Bs/eMplR0
只今より
浅見竜也、ブクラテスを投下します。

252:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 16:11:28 Bs/eMplR0
申し訳ありません。改行などの問題で一時、したらばに投下します。
間違った宣言をしてしまって本当に申し訳ない限りです。

253:名無しより愛をこめて
08/12/18 16:20:46 z4dJmrEq0
>>248
投下乙です。
まさか昨夜の内に投下していたなんて、なんという最速w

怖えええええええーーー!!!!
不適な笑みが目に浮かんだぜ。
ビビデビ哀れ。いい感じに映士と菜摘をおっぱらちゃっての完全始動。
まさしくサディスティ~~ック!どSだな。仲代先生w
そして頑張れ俺様!菜摘!
最後に遠慮なく言わせていただこうGJ!!


>>252
予約ラッシュの次は投下ラッシュとキター!!!
続けて代理投下といこうか。


254:253
08/12/18 16:29:16 z4dJmrEq0
っと一時したらばにってことは、代理投下していいのだろうか?

255:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:52:58 z4dJmrEq0
「あの馬鹿者共め!」
「ん? ブクラテス、何か言った?」

 コソコソとデイパックを覗きながら何かを叫んだブクラテスに、竜也は問う。
 だが、ブクラテスはそれを「いや……」とそっけなく答える。竜也の目を見ないあたりから、それはとても怪しく見えた。

「それより竜也、この辺りにはもうすぐ禁止エリアになる場所がある。慎重に行動したほうがよいぞ」
「わかってる。……スモーキーたちはもう菜月ちゃんと合流できたかな?」
「少し気が早いと思うぞ」

 竜也の頭の中はそればかりだった。ブクラテスの不審な行動も、彼はそれほど気にならない。菜月、シグナルマン、スモーキー。三人とも気がかりだ。

「そんなに気になるなら占ってみるか?」
「いや、いいよ。占いで定められた運命も、きっと変えられるだろうから……」

 それは、竜也の不安が生み出した強がりだった。彼らが(というかスモーキーが)ブクラテスを信用していないことくらい、竜也にはわかっていた。ブクラテスが占う前後のスモーキーの態度W見れば一目瞭然だろう。

「ワシの占いは今後の運命ではない。今の奴らの動きじゃ」
「動き?」
「ワシには見えるんじゃ。どうじゃ? 占ってみるか?」

 ブクラテスはデイパックを漁り、タロットカードを取り出す。その際にチラッと首輪探知機の様子を見ることも忘れない。


256:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:53:47 z4dJmrEq0
答えを聞かずに、ブクラテスはタロットカードをシャッフルし始めた。

「まだ占えなんて言って……!」
「あくまで参考としてみておくがよい」

 ブクラテスはまた前回と同じようにカードを並べる。

「う~ん。奴ら、ワシの占いを信用していなかったようじゃ。逆方向に向かっておる」

(やっぱり……)
 竜也は心の中で呟いた。

──


257:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:54:28 z4dJmrEq0
「なかなか見つからないな……耳鼻科ならあったんだけど」
「少し疲れたわい……」

 ブクラテスがそこで腰を下ろす。これで三度目だ。年齢の問題もある。仕方がないことだろう。
 竜也はその度に二人がどうにかして菜月と合流していないか考えた。だが、結局はその期待を破り捨てる結果に終わってしまう。
 ブクラテスは座り込むたびにタロットカードを使用していた。敵が近くにいないか確認するためらしい。─だが、それは徹底した演技だ。

「この辺りには敵はおらんようじゃ。しばらく休んでいて平気じゃろう」

 首輪探知機には二つのマークしか映っていない。それは竜也とブクラテスに違いなかった。首輪を解除しているものがいなければ、参加者は近くにいない。

「……竜也、諦めろ。菜月と奴らが会う事はない。おそらく、ワシらともな……」

 認めたくなかった。彼らとは共に生きて帰りたいのだ。シオンや、ドモンも一緒に。

「予想された未来なんて、変えてみせる。俺はそうしたいんだ」
「無理じゃ。ワシの占いも奴らの正確な居場所まではわからん。近づいていくつもりが、誰かに遭遇することもある」

 それは嘘に違いない。ただブクラテスは足手まといがいらないだけだ。自分を信用していないスモーキーとシグナルマンや、仲間を置いて一人でどこかへ行ってしまう菜月のような人間はこの状況での味方として相応しくない。
 そういう人間に一緒にいてもらっては困るのだ。


258:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:55:05 z4dJmrEq0

「でも、そこで遭遇した人間が悪いヤツじゃないかもしれない!」
「お主はこの状況がどんなものなのかわかっとらんようじゃ。予想もしないやつが敵だったりするからのう。……ワシの腕を斬ったのは、ワシの仲間じゃった男じゃよ……」

 竜也はその事実に驚き、怒りと悲しみを感じた。仲間だった人間を殺そうとするなど、その男は最低だ。だが、そこまで追い詰められている人間がいると考えると、ロンがとても憎くなってきた。

「お前の仲間も、もしかすればこの戦いに乗ってるかもしれんぞ。今まではラッキーが続いただけじゃ、シグナルマンや菜月のようにいかんやつも多いんじゃ」

 思えば、ここまでの竜也は運がよすぎた。こんなにも長い間、敵といえる敵に出会わなかった。メレを除けば、完全に仲間しかいない。放送で次々と人の名前が呼ばれたときも、実感はわかなかった。

(ドモンやシオンが、殺し合いに乗る訳ない……)

 竜也は自分に言い聞かせた。

「そのうち足元をすくわれるかもしれんぞ」

 竜也は無言で地面を見つめた。ドモンやシオンが自分を殺そうとしている姿なんて想像できない。だが、彼を待つ結果は想像なんて枠に収まらないだろう。

「……さて、大分休んだ事じゃ。病院を探すとしよう」

 ブクラテスが腰を上げたが、竜也は微動だにしなかった。

──


259:友への不信 ◇LwcaJhJVmo士の代理投下
08/12/18 16:56:26 z4dJmrEq0
 二人は小さな病院の前に立っていた。本当に小さな病院だ。

「ようやく着いたか……ずいぶん手間がかかったのう」

 ブクラテスにはそれがオアシスに見える。一時間も歩き続けてようやく辿り着いた病院だ。それがたとえ、小さくても頭の中で美化されて大きく見える。

「ワシのカンではこの病院には誰もいないようじゃ」

 竜也は聞いていない。あの会話の後から、ずっとドモンとシオンが乗っていないかという心配が募っていた。シオンが人を殺す瞬間なんて、想像もできないが……。

「竜也、この辺りには誰もいないんじゃ。ワシの言った事はしばらく忘れていろ」

 そんなことができるわけない。コンピュータじゃないんだ。一度聞いた事を忘れる事はできない。そして、その事実が次々と信頼を壊していく。

「竜也! さっさと来んか!!」

 ブクラテスが怒鳴ると、竜也は一瞬、作った笑みを見せながらブクラテスの元へ駆け寄った。

(竜也も使えなくなってきたか……余計なことは言わないほうがよかったか……)

 ブクラテスは少しずつ、竜也も見放そうと思い始めていた。無論、もっと頼もしい仲間がいればの話だが。

──



260:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:29:04 Bs/eMplR0
代理投下ありがとうございます&迷惑かけてすみませんでした。
今後このようなことがないように努めたいと思います。

これ以降の投下はなるべく自分が行いまする。

261:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:30:01 Bs/eMplR0
 病院の内装は予想していたよりも綺麗だった。どちらかというと女性向きの病院なのだろうか。小さなテディベアが飾ってある。
 だが、彼らが探しているのはそんなものではない。治療できる場所だ。これだけ時間が経っていれば、消毒は確実に必要となるだろう。腕は治らなくても、今後の心配を消し去る事が出来るだろう。

「おい竜也!! これじゃ!!」
「あ……ああ」

 ブクラテスが呆れながらも竜也に救急箱を手渡した。

「悪いがワシ一人じゃ難しい。手伝ってくれ」

 竜也は救急箱を開けて消毒液と脱脂綿でブクラテスの傷口を拭いていく。よく見てみると、かなりグロテスクな傷口だ。仲間からの攻撃による傷だということで、余計に嫌な色に見えてしまう。

「これでだいたい大丈夫かな?」

 ブクラテスの肩に包帯を巻き終えると、竜也はポンと軽くそこを叩いた。

262:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:31:26 Bs/eMplR0

「痛ッ!!」
「あ……ごめん」

 ブクラテスは肩を押さえながら竜也の背中を睨んだ。顔は笑顔をつくろうとしているが、かなり動揺している。

「竜也……少し休んだほうがよい……ワシのカンではしばらくここに誰かが来ることはない……人質のことも、お主の仲間のことも考えるな」

 ブクラテスはそう言いながら病院のソファを指差した。

(そういえば、疲れてきたな……)

 竜也は言われるままにそのソファに寝転がった。

(悪いな、竜也……ワシはもっと使える人間がほしいのじゃ)

 ブクラテスは、竜也の所持していた支給品を拾い上げるとこそこそと逃げていった。

(さて、この付近には反応はないようじゃのう……もっと遠くに行ってみるか)

──

263:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:31:56 Bs/eMplR0
 竜也は夢を見ていた。
 
─……さんは死んだ!それは、もう、どうにもならないんだ。俺が勝ち残らなきゃ……。もう、どうにもならないんだよ!─

 ドモンが女性を前に、恐ろしいことを言っている。
 勝ち残る─それは間違いなく、誰かを殺し、自分だけが頂点に立とうとしているということだ。

─ちくしょう!何が殺し合いはやめてだよ。何がタイムイエローじゃないだよ!─

 明らかに怒り狂っているドモン。

─パン!─

 場面はまた違う場所だ。ドモンは歩いている男性の肩を撃った。

─クロノチェンジャー!─

 ドモンはタイムイエローに変身し、人を傷付けていく。

(これは、悪夢に違いない……)

 そう思いたかった。

「夢ではありませんよ……」

 金色の光が一人の男性になった。─ロンだ。
 ロンは竜也に言う。

「ここは……さっきの病院? ブクラテスは……」
「あなたを裏切り、ここから逃げましたよ。見てください。メレの支給品もここにはない……ブクラテスが持って行ったのです」
「そんな……そんなわけない!! ロン!! まさかお前がッ……」

264:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:32:56 Bs/eMplR0
 竜也はロンを前に取り乱していた。本当は、ブクラテスを完全に信用していたわけじゃない。だから、ロンの言う事が少しリアルに感じた。

「今の夢は私の力であなたに直接見せた夢です。……しかし、それは別の場所で起きた現実なのです。まあ、信じるか信じないかはアナタ次第ですが」

 嘘だと信じたかった。だが、できなかった。
 自分は、今まで仲間だった人間を、ここに来て信じることができなくなったのだ。

「ですが、真実から目を背けてはいけませんよ。五色の戦士のレッドとして……」

 ロンが悪戯っぽく微笑む。

「まあ、五色の戦士のイエローは残念ながら乗ってしまったようですがね」

 竜也はロンに殴りかかりたくなった。だが、竜也は絶望と精神的な疲れでそれができない。無気力な状態だ。

265:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:34:15 Bs/eMplR0
「浅見竜也……あなたも殺し合いに乗るというのはどうです? 既に何人もの人間が犠牲になっている。それを全てなかった事に出来るのです。全員が蘇る事ができれば……。間宮菜月とスモーキーのあの様子を見たでしょう?」

─真……墨? 嘘、……こんなの、信じないよ。だって誰も犠牲にならないように……。菜月たち、これから……─

─ニャ……俺様だって、信じないぜ。麗や、あいつらが、こ……殺されただニャんて─

 菜月の悲しむ顔、スモーキーの怒る顔。頭の中ではっきりと思い出すことが出来た。

「ダメだ……俺は、乗らない! この拳は正義のためのものだ!!」
「正義ですか……ならば自分の拳を汚してでも全員に新しい命を授ける事も正義だと思いますがね」

 ロンの言い方に、竜也は腹が立った。

「お前がッ!! お前が全ての元凶じゃないか!! 真墨さんも麗さんも、お前が殺したも同然だ!! ドモンだって、お前が……!!」

 竜也はVコマンダーを使おうとまで思った。

「私を倒そうというなら今はやめたほうがいいですよ。私を倒せば、参加者の命は蘇えることはないのですから……ドモンも愛する者の命のために戦っているのです。それを無駄にしようというのですか?」

 竜也は手を止めた。

(どうすればいいんだッ……? 何が正義で何が悪なんだ!?)

 竜也にはそれがわからなくなり始めていた。正反対である二つの行動は、一見どちらも正義に見えてしまう。だが、どちらかが悪なのだ。それがどちらなのかわからない。

266:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:34:53 Bs/eMplR0
(待て……? ドモンの大切な人って……)

 ─森山ホナミ。ドモンの恋人だ。

「ロン!! お前、ホナミさんに何をした!?」

 ロンは内心笑っていた。森山ホナミ……? 関係ない。彼はそんな女の事を知らないのだから。あれだけ愛していた女の事も知らずに、別の女性のために戦っているのだから。
 つい、それが顔に出てしまう。

「ロンッ!! 何を笑っているんだ!!」
「ククッ……ちょっと面白い事を思い出しましてね……」
「面白いこと……ッ!?」
「彼は別の女性のために戦っている。彼の愛など、所詮その程度のものだったということでしょう……」

 竜也は愕然とした。ホナミはドモンが人生の中で最も愛した女なのではないかと思う。もしかしたら二人が妊娠しているんじゃないかと思うこともあった。
 ドモンが、ホナミを裏切るはずがない。

「そんなはずはない!!」
「彼が愛したのは小津深雪……広間で死んだ小津勇の妻ですよ……」

 ロンは笑いながら金の光の中へ消えてしまった。いくらドモンとはいえ、ホナミを捨てて、しかも人妻に乗り換えるなんて有り得ない。
 ロンの代わりに、テディベアが竜也を見つめている。体中が汗にまみれていて気持ちが悪い。そこに、ブクラテスはいない。人の気配はなかった。


344 :友への不信 ◆LwcaJhJVmo:2008/12/18(木) 16:20:16
─菜月はね、悲しいなって思ったの。殺し合いを始めた誰かがいるんだってことが……─

(ゴメン、それは俺の仲間かもしれない……)

 どこかで、ロンがくすっと笑ったのは言うまでもない。

267:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:36:08 Bs/eMplR0
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:E-5 都市(病院) 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:どちらを選べばいいのかわからない(全員の蘇生ために乗るor誰も殺さない)
第一行動方針:菜月が心配。後悔。
第二行動方針:ドモン、ブクラテスに不信。
第三行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第四行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考:クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。

【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-5 都市 1日目 午前
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機、毒薬(効能?)、タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック、メレの支給品
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:新たな仲間を捜す。
第二行動方針:竜也とシグナルマンはもう利用できそうにない。

268:友への不信 ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 18:39:41 Bs/eMplR0
以上です。何か修正点、感想等があればお願いします。

以下、自分で気がついた修正点をいくつか。

本スレに書き込む際、「長すぎる行がある」と表示されたので、>>265の文はしたらばと違いますが、こちらで収録してください。
あと、>>266の─菜月はね の上の文は完全にミスです。

申し訳ありません。


269:名無しより愛をこめて
08/12/18 19:21:02 GWJv28yH0
投下乙です。
このインチキ占い師!ブクラテス、このやろう!!
このノリノリ主催者!ロン、このやろう!!
そして素早い投下GJだ!

270:名無しより愛をこめて
08/12/18 20:30:32 hG3EYDao0
早い投下GJです。
また来やがったか!ロン!
竜也を弄ぶロンが相変わらず良い感じにヤな奴ですw
ついに一人になってしまったブクラテスもこれからどうなるのか…

271: ◆LwcaJhJVmo
08/12/18 21:19:22 Bs/eMplR0
度重なる修正点、申し訳ありません。

>>267のブクラテスの状態表は間違いです。
↓修正版↓

【名前】ブクラテス@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第12章(サンバッシュ敗北)後
[現在地]:E-5 都市 1日目 午前
[状態]:右腕切断 簡単な応急処置、消毒済み
[装備]:めがね
[道具]:首輪探知機、毒薬(効能?)、タロットカード@鳥人戦隊ジェットマン、切断された右腕、基本支給品とディパック、メレの支給品
[思考]
基本行動方針:とにかく生き残る。
第一行動方針:新たな仲間を捜す。
第二行動方針:竜也とシグナルマンはもう利用できそうにない。
第三行動方針:新たな仲間にも首輪探知機とセンのことは伏せて置く。
備考
・センと同じ着衣の者は利用できると考えています。

まとめさん、本当に申し訳ないです。

272:名無しより愛をこめて
08/12/19 00:03:05 tTHNfg5j0
GJ!
ブクラテスとロンに翻弄される竜也。
誘惑を振り切ったのは流石でしたが、心に残った疑念が後々に影響を及ぼしそうなところが、ゾクゾクしました。

ひとつ、指摘を。
竜也は愕然とした。ホナミはドモンが人生の中で最も愛した女なのではないかと思う。もしかしたら二人が妊娠しているんじゃないかと思うこともあった。>

ドモンが妊娠しているように取れるかなと。
ええ、想像して、爆笑しましたともさ。

273: ◆LwcaJhJVmo
08/12/19 14:06:01 tHY+hi9I0
>>272
確かにそうとも取れてしまいますね。
>>もしかしたら二人が妊娠しているんじゃないかと思うこともあった。

>>もしかしたらホナミがドモンの子を妊娠しているんじゃないかと思うこともあった。
こちらに修正してください。

しかし、不覚にも自分で笑ってしまいました。

274:名無しより愛をこめて
08/12/19 20:05:28 d8bUjoLbO
修正乙です。




(しかし指摘で気づいて笑ってしまったのは内緒だw)

275: ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:11:00 TnRnwi7X0
ドモンが妊娠……おおう、想像してしまったorz w

修正乙です。竜也とブクラテスの今後が気になりました。

投下ラッシュに続けとばかりに自分も投下をばw

276:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:11:57 TnRnwi7X0
「さあどこからでもかかってきなさいよ。なんだったら四人一緒にかかって来てもかまわないわよ」
フフンと鼻でせせら笑うとメレは余裕綽々といった様子で構える。
素人目には隙だらけに見えるその姿だったが、グレイやドギーにはまったく違って見えていた。
常ならまだしも今の自分達では分が悪い。じりじりと間合いを取る。
シオンも二人の様子からそれを察したのか、クロノチェンジャーに手をかけたまま後ろに下がる。
恭介は、とドギーが横目で見やると何故か姿が見えなかった。
「……思ったより馬鹿だったな」
グレイの呆れたような呟きに目線を戻したドギーの目に映ったのは、つかつかと前に進む恭介の姿だった。
止める間もなく彼女の前に立つとそのまま肩に手をかける。
メレの目が見る間に吊り上がった。
「おい、いきなり何言ってやがぁぁぁ?」
パシリと手を払い除けられ、足に衝撃を感じたと思うと恭介の視界はぐるりと空を仰いだ。
「気軽に触らないでくれるかしら」
足払いをかけて恭介を引き倒し腹を踏みつけると、その勢いのままメレは手前にいたドギーに打ちかかった。

「……グッ」

愛刀で受け止めたドギーは思いがけない重い衝撃に低く呻いた。
普段の彼であるならば弾き返せていたであろう、その斬撃が腹の傷に響く。
巻かれた包帯にじわりと血が滲んでいくのを感じた。
そのままじりじりとおされていく。
(─まずい)
ドギーが歯噛みしたその時、メレが素早く飛び退き大きく距離を取った。
その後を追う様に数発の光弾が掠める。

277:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:12:53 BRSn61cbO



278:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:13:29 TnRnwi7X0

「やめて下さい!」
ドギーが視線を向けるとそこには生身のままホーンブレイカーを構えたシオンの姿があった。
「あら、今度は貴方が相手をしてくれるの?変身しないなんて随分自信満々ね」
「何をやってる!!早く変身するんだ、シオン!」
傷の痛みを無視して叫ぶがシオンは首を振った。
「僕は出来れば貴女と……いえ、出来ることなら誰とも戦いたくないんです。
 目的が同じなら戦わない事だって……え?」
妖艶に微笑んだと思うとふいにメレの姿が掻き消える。
戸惑うシオンの前でグレイが腕を翳したかと思うと乾いた鋭い音が鳴り響いた。
「無駄だ。この女にお前の話を聞くつもりはない」

「あら随分と察しが良いのね」
「当然だ。この程度、動きを読めばおのずと分かる」
「……ふぅーん。あんたはなかなか骨がありそうね」
シオン、いやグレイからわずかに離れた位置に消えた時と同じ唐突さでメレが姿を現した。
距離にして数歩。どちらかが一歩でも進めば相手の攻撃範囲内に踏み込む、そのギリギリの位置を互いに保つ。

279:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:14:01 BRSn61cbO




280:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:14:26 TnRnwi7X0
数秒に満たない沈黙。踏み出したのはどちらが先か。
鋭い突きを辛くも躱すと相手の胴めがけて蹴りを放つ。
メレは手にした釵でグレイの蹴りをいなすと、そのまま横一文字に斬り付けた。
後ろに飛び退き避けるが、わずかに反応が遅れた為にグレイの体の表面を釵が掠める。
人間であったならば皮膚が裂けていたところだろうが、頑強な機械の体を持つグレイにその斬撃がもたらしたのはわずかな掠り傷。
だが、グレイは内心で舌打ちするような気分に駆られていた。
体が思うように動かない。
ロンの掛けた制限とやらはどうやらグレイ自身の体にも及ぶものだったらしい。
人間に比べれば遙かに強固な体。高い戦闘力を誇るその鋼鉄が今はまるで油をさし忘れたブリキの玩具の様に動かない。
せめて手元に何か得物でもあればとも思うが、今自分の手元にあるのは一丁のライフルのみ。
接近戦では使い勝手が悪すぎる。
そしてグレイが何より気に入らないのは、手を抜いている、その意志が相手の一手一手から伝わってくる事だった。
侮られている。それはグレイの高い誇りを傷付けるには充分だった。
苛立ちがグレイの体を包んでいく。
互いに決定的な一打は与えられなかったが、それでもじわじわとグレイはおされていった。

「─使えっ!!」

いったん距離をとったその時、グレイの手元に一振りの剣が飛び込んできた。
見覚えのある白銀の剣。犬の頭を象った柄を持つその剣は陽光を返して光る。
ちらりと剣の持ち主に目をやると、ドギーはシオンと恭介に支えられた格好で何も言わずに頷いた。
グレイもまた何も言わぬままに剣を持ち直す。
初めて手にする得物だというのに、不思議に馴染むそれを手にグレイは構えた。
メレの目から侮りの色が薄れる。鋭さを増したその目付きにグレイは微かな満足感を覚えた。
どうせ戦うのならば、本気を出した相手で無ければつまらない。
先に動いたのはメレだった。

281:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:14:58 TnRnwi7X0
「舌禍繚乱!」

上空に飛び上がり無数の突きを繰り出した。
アスファルトを抉り、周りの物全てを破壊する威力を持つその突きをグレイは剣の背で受け流す。
体当たりをかけてきたメレを飛び退いて躱すと、そのまま懐に飛び込んだ。
剣で掬い上げるように斬りつけるが釵で受け止められた。
弾いては打ち返し、打ち返しては弾かれ─
幾度かの拮抗の繰り返しに少しずつグレイの手傷が増えていく。
だが、機械であるグレイに痛みはない。臆すことなく斬り込み、メレの手から釵を叩き落とした。
勢いのまま、彼女の首筋に剣先を叩き込む。
メレはそれを避ける事さえせずに、鋭い突きを繰り出した──




282:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:15:19 BRSn61cbO





283:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:16:50 BRSn61cbO




284:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:17:03 TnRnwi7X0
 
 ◇

「痛ってぇー!!シオン、頼むからもうちょっと、優しくだな」
「ああ、すみません!大丈夫ですか?」
手当てされた箇所をシオンに軽く叩かれ、恭介は悲鳴を上げた。
貼られた湿布の下にはくっきりとヒールの赤い跡が付いている。

あの瞬間、獣変化の解けたメレの突きがグレイの右腕を抉り、叩き込まれる寸前だった剣先を逸らした。
結果的に剣はメレの左肩を僅かに傷付けただけに終わった。
それが制限の掛けられた状態であった為なのか、最後の最後でグレイが手加減をしたのか。
機械故に表情の読めないグレイの心情までは読みとる事は出来なかったが、シオンはなんとなく後者のような気がしている。
あれからシオンは怪我人の手当てに飛び回っていた。
幸いな事にドギーの手当てに使った消毒薬や包帯にはまだ残りがあった。
傍らで、既に手当ての終わったドギーがふて腐れた表情のメレと向き合っている。
グレイは、といえば少し離れた壁にもたれ掛かり、紫煙を燻らせていた。
後で傷の具合を見せて貰わなくてはと思いながら、ドギーとメレの方へ向かう。



285:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:17:43 BRSn61cbO



286:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:18:33 TnRnwi7X0
「では、君はロンの仲間では無いんだな?」
「あんな奴の仲間なんかじゃないわよ。忌々しい」
「だが……」
心底、忌々しいという表情でメレが吐き捨てる。
シオンの目から見ても、その表情には嘘が無いように見えた。
「じゃあ、なんで俺らを襲ったんだよ!それにあの金ピカの格好、あいつにそっくりじゃねえか」
メレは恭介を馬鹿にしたような目で見る。
「さっきも言ったじゃない。あんたちゃんと耳ついてんの?」
「付いてるに決まってんだろ!俺が言いたいのはなんで仲間になるのに襲ってくる必要があるかって意味だつーの」
問われてメレは剣呑と微笑んだ。
「あんた達になめられる訳にはいかなかったのよ。それには力を示すしかないでしょう?」
「怪我人と制限されてる奴を襲ってか?」
図星を指されたように黙り込むと、ふいっとメレは横を向いた。
「恭介も言ったが君の姿はロンにあまりに良く似ている。本当に関わりがないのか?」
今までふて腐れていたメレの表情が真剣な色を帯び、静かに目を伏せた。
「あんた達が信じるかどうかは勝手よ。私はロンの仲間なんかじゃない。
 でも、この力は確かに、かつてロンによって分け与えられたもの。
 忌々しい力だけど、今の私には必要な力」
軽蔑したいならしたら、と自嘲するように笑う。

287:名無しより愛をこめて
08/12/20 15:19:30 BRSn61cbO




288:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:19:46 TnRnwi7X0
それまで静かに成り行きを見守っていたシオンがすっとメレの前に立った。
「何よ?あんたも言いたい事あるなら言えば」
「いえ、僕は…聞きたい事はドギーさんや恭介さんが全部聞いてくれましたし」
「じゃあ、何よ」
「これを」
握った手を差し出され、メレは反射的に手の中の物を受け取った。
「く…すり?」
「消毒薬と痛み止めです。肩の傷は血が出てないみたいですけど手当ては必要ですし。
 それにさっき恭介さんが肩を触った時、痛そうにしてましたから」
使って下さい。そう告げるとシオンは微笑んだ。
メレは不思議そうに手の中を見つめるとぼそりと呟いた。
「……礼は言わないわよ」
「いや、言えよ!礼ぐらい!ごめんなさいとありがとうは常識だぞ!」
「あああ、聞こえな~い」
「それじゃあ僕、グレイさんのとこへ行ってきますね」
恭介とメレ、二人のやりとりに既視感を覚え、傍らのドギーを見やると同じ感覚を覚えたのか苦笑している。
その場を彼に任せるとシオンはグレイの元へと向かった。



メレは去っていくシオンの後ろ姿を見やると、手の中の白い錠剤をコロコロと転がす。
生きている人間用の薬など飲んだところで効くとは思えない。
だが、自分でも不思議な事に捨て去ってしまう気にはなれなかった。
今、自分の感じている感情をメレは理解できなかった。
久しく感じる事のなかった感情。
ただ理央の為だけに生きる自分には必要のない感情。
遠い昔、まだ自分が本当に生きていた頃には感じていたかもしれない感情。
忘れ去っていた感情を感じながらメレは静かに手を閉じた。

289:Beautiful fighter ◆Z5wk4/jklI
08/12/20 15:20:43 TnRnwi7X0
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:右腕損傷修理中。1時間戦闘不能
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数4発) 支給品一式
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためドギー、シオン、恭介と共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。

【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す。
第一行動方針:グレイの手当てをしなくては。
第二行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。

290:代理
08/12/20 16:06:29 KAwnPvbD0
【名前】陣内恭介@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:メガレンジャーVSカーレンジャー終了後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康。腹に痣。
[装備]:アクセルチェンジャー
[道具]:芋ようかん×3
[思考]
基本行動方針:殺し合いから生き延びる。 一般市民であることを貫く。
第一行動方針:新たに出会った仲間と共闘。
第二行動方針:生意気な女だなー

【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)グレイと和解
[装備]:マスターライセンス
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、支給品一式
[思考]
基本行動方針:首輪を解除して、ロンを倒す
第一行動方針:仲間と共闘する。
第二行動方針:メレを信じていいのか戸惑い気味


291:代理 ◆8ttRQi9eks
08/12/20 16:08:50 KAwnPvbD0
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷と掠り傷。両足に軽めの裂傷。二時間戦闘不能。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:なし
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第二行動方針:こいつら私を仲間に入れる気あるのかしら?
第三行動方針:シオンの言動に不思議な感情を感じる。
備考:リンリンシーの為、出血はありません。

以上です。指摘、つっこみ、誤字脱字、感想などありましたらお願いします。

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GJです!
本当、面白かった。こうして自分が振った展開が次に紡がれていく感覚は嬉しいものです。
個人的にメレは合流してほしいなー…と思いつつ終わらせたので尚更でした。
最高の形でバトンを繋いでくれた氏に感謝です。
もう一度、お疲れでした!!


292:名無しより愛をこめて
08/12/20 22:59:17 0yfbVMNIO
投下&代理投下乙です。
メレがいじらしいな。
そしてシオン、なんて優しいヤツなんだ!

バトルも台詞まわしも秀逸!面白かったです。

GJ!

293:名無しより愛をこめて
08/12/24 01:31:10 b5RZHKgMO
このスレ、定期的に足切りの危機にあうNE!

ってのは流石に冗談だけど、待ちがてら少しageとこうw
これだけだとなんなんで。

ロワの中でカッコよすぎる!だった人と逆にヘタレちゃってた人って誰だと思う?

294:名無しより愛をこめて
08/12/24 20:42:09 wSQn1lXZ0
カッコよすぎる 纏兄貴 グレイ 蒼太

295: ◆MGy4jd.pxY
08/12/24 22:30:03 XB+n/WOs0
かっこよすぎる   グレイ
ヘタレちゃったかな  ジルフィ……うわ!なにをするやめ(ry

いつもながら遅くなりすみません。
ただいま推敲中。日付が変わるまでには投下できると思います。
よろしくお願いします。

296:名無しより愛をこめて
08/12/24 23:11:39 b5RZHKgMO
>>295
楽しみにお待ちしております!


ついでなのでw

かっこよすぎる マトイ兄、蒼太さん、壬琴先生

297: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:10:39 PQxHz/lF0
遅くなりました。ただいまより投下します。
少々長くなります。

298: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:12:17 PQxHz/lF0
麗が朝食を作る音。
食器を運ぶ翼と槐のにぎやかな声。
ボクは何時も、その音で目が覚めた。
澄み渡った青空。
朝の眩しい太陽の光が降りそそぐ窓から外を見れば、蒔人が汗を流しながら、両手で抱え切れないほどの野菜を運んでくる。
身支度を整えたボクが食卓に付いた頃、寝ぼけ眼の芳香がようやくリビングに姿を現す。
テーブルの上には、とれたての野菜で作った兄貴サラダと麗の手作りドレッシング。
色鮮やかなスクランブルエッグと焼きたてのパンを添えたプレート。
それぞれの席に着いた6人の声が重なる。
「「「「「「いただきます!」」」」」」
野菜を育てた蒔人へ、食事を作る麗へ、食卓へ笑顔を添える三人へ、
感謝の言葉を捧げ、ボクの一日は始まる。
いつかインフェルシアとの戦いを終えたその時、ブレイジェルと深雪さんもそこで笑っているはずだった。

なのに……。
目の前でブレイジェルは惨殺され、彼に託された麗、深雪さん。
二人を守ることができなかった。
ボクは、何もできなかった。
キミたちに手を掛けた者も、こんな殺し合いを仕組んだロンも絶対に許さない。
ボクは必ずロンを倒す。裕作やサーガイン、明石と共に。
そう、拳を握り締めて立ち向かって行かなければ……。

……だけど、それでどうなるっていうんだ。
麗もいない。
ブレイジェルもいない。
深雪さんもいない。
もう二度と、幸せな朝を迎えることはない。
麗、ボクは一体どうすればいい。
これから先ずっと、この悲しみと絶望を抱いて生きて行くしかないのかい?

299: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:13:43 PQxHz/lF0
ボクに残された道は……。もう、それしかないのか。

本当にそれだけだろうか?

――残されたボクにできるのは、本当にそれだけなのだろうか?


 ▽


気を失ってから程無くドモンは意識を取り戻した。
おあつらえ向きだとばかりに、サーガインはI-4エリア外れの灰色の建物へ向かった。
そして取調室と書かれた部屋にドモンを無理やり連れて行き、怒声を上げ詰め寄った。
「言わぬか!ドモンッ!!深雪殿をどうした!深雪殿はなぜ死んだ!?お前の持っていたバックの中身は一体誰の物だ!!!」
ここは犯罪者を詰問する為の部屋。海岸近くの警察署の一室。
重苦しい室内にサーガインの怒声とドモンの姿がおかしなほどお似合いだった。
暗い灰色をしたコンクリートの壁に穿たれた窓。
窓枠に嵌められた鉄格子からは太陽の眩しい光が差し、項垂れ黙座するドモンの背に、鉄格子の影が烙印のように黒い逆十字を影映している。
部屋の中央に置かれたスチール製の粗末な椅子。その上で拘束されたままのドモン。彼の姿はさながら殺人犯だ。

「よしな、サーガイン。そんな言い方じゃ話す気になれねぇだろ」
左側に裕作、右側にサーガイン、そして机を挟む形でヒカルと、三人はドモンを取り囲む。
真正面に座るヒカルに、太陽を背に座るドモンの首から上は逆光で包まれ何も見えない。
ふてぶてしく微笑を浮かべているのか、後悔の念に囚われているのか。
彼が抱いている感情の源泉が何なのかわからなかった。
いや、わからなかったと言うよりヒカルの目は何も捕らえていなかったに近い。
意識は昨日までの、いつもの朝に飛んでいたからだ。

300:名無しより愛をこめて
08/12/25 00:14:26 2R5RRYKLO




301: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:17:06 PQxHz/lF0
「ぬるいわ!ドモンは殺し合いに乗ったのだ」
「それにしたっておまえの言い方は一方的過ぎる」
サーガインは苛立ちを押えず机の上に拳を振り下ろす。
不意に現実に引き戻されたヒカルはサーガインに冷たい視線を送った。
深雪殿深雪殿と思ってくれるのはありがたいが怒鳴り声で連呼されるのはカンにさわる。
溢れ出しそうな感情を抑えるのが精一杯の状態で、蹴散らすような怒声を聞かされるのは、やはり気分のいいものではない。
「ふん、深雪殿のためだなどほざいていたな。ふざけた話よ。どうせ貴様が守りきれなかったせいで死んだのだ!」
ヒカルの胸の内もお構い無しにサーガインは続ける。
ドモンは何一つ聞こえていないかのように身動き一つせず。
裕作は鏡の張られた壁にもたれ掛かり、ため息をついただけで言葉を繋ごうとしない。

数秒間の沈黙。
何か聞きたいことはないかと言いたげに裕作がこちらを見る。
裕作とのやり取りで、ドモンが深雪を殺したのではないかという疑念は晴れつつあった。
おそらくサーガインの言う通り、ドモンは守りきれなかった。深雪を思い生き返らせるため殺し合いに乗ったのだろう。
しかし、それは憶測に過ぎず、何も語らないドモンを手放しで受け入れる気にはなれない。
所詮、そんなものは希望に基づいた憶測なのだから。
「ドモン……」
静かにドモンの名を呼ぶ。ヒカルの声に項垂れていたドモンの頭が持ち上がる。
「ボクはブレイジェルから深雪さんを託された。二人はボクにとって、とても大切な存在だったんだ」
ヒカルはポケットから一枚のマジチケットを取り出しそっと握った。
取り出したマジチケットには後光差す天空聖者が描かれている。
「 ルーマ・ゴルド。この魔法を使えば黙っていても記憶を探り出せる。もうすぐ制限も切れる。
話す気にならないなら見せてもらうことになるよ。そうなれば、キミに黙秘権はない」
驚いた裕作とサーガインに構わずドモンの横に立った。
ドモンを上から見下ろし、チケットを翳した。
「ヒカルさんに、話したいことがある」
押し黙っていたドモンが口を開いた。

302:名無しより愛をこめて
08/12/25 00:19:17 ik/kfBYbO



303: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:20:51 PQxHz/lF0
「ヒカルさんと、二人にしてくれないか……」
ドモンは裕作とサーガインに視線を移さず、真っ直ぐにヒカルを見つめていた。
太陽に照らされたドモンの顔。
とても澄んだ瞳でヒカルを見つめていた。


 ▽


「結局ドモンは自分の口から全部話したってわけか。まぁ、さっきのドモンの様子からして嘘じゃねぇだろう。
しかし、放送で呼ばれた3人の死に様に、ドモンが関わっていたとはね」
深雪が死んだ経緯を聞いた時、裕作は全身が総毛立った。
嫌らしい笑いを浮かべドモンに近づくロンが脳裏に浮かび上がる。
今もロンはどこかで同じように誰かに囁いているのだろう。
ドモンのように、愛する人を守ることができなかった者や、放送で大切な人を失ったことを知った者。
精神的に極めて不安定な状態をつけ狙い、甘い言葉で誘う。
惑わされた者は、迷いながらもそれにすがり、失った者を取り戻そうと殺し合いに乗る。
そして、誰かが死ぬたび、それは繰り返されるのだ。
「ドモンが持っていたデイバックは深雪殿の物で、中の品はロンが直々に持ってきたブレイジェルとやらの支給品とは……。しかし深雪殿もドモン如きのために哀れな話よ」
「あぁ、ブレイジェルはウルザードとして記憶を無くし彼等の前に蘇った。おそらく呪縛転生の魔法を使ったんだろう。
だけど腑に落ちないところもあるんだ。ウルザードはン・マに忠誠を誓っている時でさえ、本能のどこかで家族を守ろうとしていた節がある。
だがドモンに聞いたウルザードからは殺意以外は感じられない」
「蘇る際にロンに唆されたのではないか?誰かのように……な。得意の魔法で探ってみたらどうだ」
「そんな魔法はないよ。ドモンの記憶を探ってみたところで、そこまではわからない」
ヒカルは魔法で記憶を確かめなかった。

304: ◆MGy4jd.pxY
08/12/25 00:21:58 PQxHz/lF0
裕作はそれでいい、と思う。ヒカルが直接、今の話を目の当りにするのはショックが大きすぎるだろう。
ただ少し気持ちに区切りがついたのか、ヒカルは幾分表情を和らげていた。

「これから、ドモンと二人で深雪さんの所へ行こうと思う。直接確かめたいんだ。しっかり現実として受け入れるためにも……」
「二人で、何故だい?!」
裕作は視線をぶつける。
なるべく口調は柔らかくしたつもりだったが、そうでもなかったらしい。
「っと、殺し合いに乗った人間を野放しにはできないだろう」
ヒカルの表情から和らぎが消えた。
眉間にシワをよせ真剣な眼差しを返してくる。
「キミたちはさっきからボクが殺し合いに乗ったような目で見ている……。ボクがドモンを殺すとでも?」
「いや、そうは言ってない」
サーガインがヒカルから見えない位置でドライガンに手をかけた。
裕作はそっとそれを制す。
嫌な緊張感が全身を包んだ。
「ドモンを殺す、ドモンの思いを尊重するならドモンは一番最後だ。聞いていたんだろう?」
ヒカルは立ち上がり、壁に引かれたカーテンを開けた。
カーテンの下は硝子張りになっていて、硝子越しにはドモンの姿がある。
隣室とこの部屋の間にあるマジックミラーとデスクの上の通信機で二人の会話はすべて裕作たちにも聞こえていた。
「そうだ、ヒカル。ドモンの言葉をはっきりとこの耳で聞いた!」
サーガインはドモンを指差し、机に身を乗り出させた。
「二人で勝ち残った暁にはヒカルが優勝すればいいと。その時ドモンは死んでも構わぬと言っていたであろう!!」
「あぁ、そしてボクはドモンに『キミの気持ちはわかった。協力しよう。少し待っていてくれ』と部屋を出た」
ヒカルは悪びれる様子もなく、笑顔さえ浮かべていた。
「そう、貴様はドモンの願いを聞き入れた。貴様は乗ったのだ!殺し合いに!!深雪殿に幸せな家族をプレゼントするためにな!!」


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