スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3at SFX
スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3 - 暇つぶし2ch100:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 03:17:12 Ikf0SyM30
(そうか、俺はあいつを庇って……)
 理央は反射的に自らの左胸を見る。
 どこからか調達したのか、包帯が巻かれ、しっかりとした応急処置が行われていた。
 そのおかげか、左胸に痛みはない。
「世話になったようだな」
「いいんですよ。元々、俺を庇って受けた傷です」
 理央は改めてお礼を言おうと、身を起こし、そこで始めてセンの姿を確認した。
「お前」
 そこには木に身を持たれかけたセンがいた。
「良かったです。理央さんだけでも助けることができて。もう俺は駄目みたいですけど」
 だが、センの制服は血にまみれ、大きな染みを作っている。顔もどことなく青白かった。
「銃の奴にやられたのか!?」
 理央の問いにセンは首を振る。
「いえ、何故か銃撃はあれっきりでした。俺がやられたのはロンと一緒にいた怪物です」
「ロンと一緒にいた怪物……サンヨのことか」
「そういえば、そんな名前を名乗っていた気が……ゴホッ、グハッ」
 咳き込むセン。彼の口からは紫色をした血が吐き出されていた。
「理央……さん、お願いがあります。俺の代わりにサンヨを倒してください。まだ、俺たちが襲われた場所にいるはずです。
 あいつを放っておいたら、きっとまた犠牲者が出る。死ぬのは俺一人で終わらせたいんです」
 迷うべくもなかった。ロンとサンヨはこの殺し合いを開いた張本人。倒さないという選択肢はありえない。
 理央は無言で頷くと、踵を返す。
「セン、最後に、誰かに伝えたいことはあるか?」
「……それじゃあ、ドギー・クルーガーに宜しくとだけ」
「わかった。必ず伝えよう」
 理央はそのまま振り返らず、駆け出していった。



「大丈夫、菜月は強き冒険者だもん。大丈夫大丈夫」
 森に弱々しい女性の声が響く。

101:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 03:18:47 Ikf0SyM30
 まるで呪文のように、大丈夫という言葉を繰り返しながら森を進むその女性の名は間宮菜月。強き冒険者、ボウケンイエローだ。
 真墨に会うため、精一杯の勇気を振り絞り、進んできたが、真墨を思い出せば、彼女の脳裏によぎるのは頭を潰される真墨の姿。
 竜也たちのおかげで癒されていた恐怖が鎌首をもたげ、自然とその声は大きくなった。
「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈―な、なに?」
 歩く菜月の視界に入る人影。
 それはまるで死ぬ前の真墨のように倒れ伏していた。背格好から男性のようだが、顔はうつ伏せでわからない。
「ま…すみ?」
 おずおずとその倒れ伏した誰かに近づき、顔を確認しようと、菜月はしゃがみこむ。
 その時、突然男が動き出し、菜月の足が掴んだ。
「きゃっ!やっ、離して」
 振りほどこうと、足を激しく動かす菜月。その勢いで手はあっさりと剥がされる。
 よく見ると、その男性のシャツとパンツ一枚という格好だった。よく聞けば、呼吸も荒い。
「変態さん?」
 菜月は急ぎ立ち上がると、その場から逃げ出そうと大地を蹴った。
「ま…って」
 男が言葉を紡ぐ。
「いか……ないで………俺の話を…聞いて……」
 次の言葉で菜月の足は止まった。
「だい……じょうぶ?」
 自分への危機感より、相手への心配が買った。
 先程まで、自分に使っていた言葉で相手へと問いかける。
 男は菜月が耳を傾けていることがわかると、少しだけ表情をやわらかくすると、懸命に言葉を繋げた。
「頼む……理央さんに……つたえて……あいつは利用しようと」
 だが、そこまでだった。男の意識は闇へと沈み、最初に菜月が見た時と同じように大地へと倒れ伏す。
「ちょっと、しっかりして!」
 残された菜月は涙を浮かべながら、男の身体を揺らす。


102:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:47:25 Ikf0SyM30
 だが、菜月の必死の介抱にも関わらず、男の意識は戻らなかった。



「はぁ、もういないよネ」
 一時、ブドーから逃げ出したサンヨだったが、また同じ場所へと舞い戻っていた。
 頭を砕かれた迅き冒険者が目印の場所。
 理由は、それがシュリケンジャーの命令だったからだ。
 シュリケンジャーが理央とセンを逃げるまでの時間を稼ぎ、その後、この場にて合流する。
 簡単だろとシュリケンジャーは言ったが、結果は散々なものだ。
 体中を切り刻まれ、危うく、殺られるところだった。死なないけど。
「あれ、なんか死体の位置が変わっているような気がするヨ~。まあ、そんなことはいいかヨ」
 真墨の死体はうつ伏せから、仰向けに変わり、その服は乱れていた。
 だが、サンヨは特に関心を持つことはなく、ただ、シュリケンジャーへの愚痴を吐き出した。
「あいつ、ロンより人使い荒いヨ」
「あいつとは誰のことだ」
 サンヨの身が固まる。
 それは今サンヨがもっとも会いたくない相手の声だ。
 自分の予想が外れていることを祈りながら、恐る恐るサンヨは振り返る。
「げっ、理央」
「見つけたぞ、サンヨ。センの仇、とらせてもらうぞ」
(な、な、な、なんのことだヨ。そ、そ、そ、それより、サンヨ、今は制限中だヨ。や、や、や、ヤバイヨ)
 怒りに身を焦がす理央。
 恐れに身を振るわせるサンヨ。
 そんなふたりを遠くから見詰めている男がいた。
(さーて、見せてもらおうか。黒獅子の力と、サンヨの末路を)
 男は江成仙一の顔で、笑みを浮かべた。

 数分前―

「冷凍剣、プリーズ!」

103:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:48:15 Ikf0SyM30
 シュリケンズバットから発せられた凍気が理央の身体をたちまち凍らせた。
「さてと」
 シュリケンジャーは凍らせた理央の身体からたちまち銃弾を取り出す。
 ハリケンジャーたちの身体から宇宙サソリを取り出した時に比べれば、簡単な作業だ。
「宇宙サソリ……あの時、ロンはディパックをランダムに渡していたようだけど、意図的に渡していたのかも知れないね」
 シュリケンジャーは取り出した銃弾をその辺に捨てると、ディパックから支給品を取り出し、今度はそれを理央の傷口に埋め込んでいく。
「説明書もないのに、これを判別して、使える参加者なんて、ミーぐらいだからな」
 全てを終えたシュリケンジャーは理央を解凍し、傷を隠すように包帯を巻くと、理央の目覚めを、木に身体をもたれかけ待つ。
 変身を解いたその姿は既に柿生太郎のものではなく、血まみれのジャケットを着た江成仙一に変わっていた。 
 勿論、顔も血もシュリケンジャーのものではない。純然たるフェイクだ。
 制服と顔をいただいた本物の江成仙一は催眠術で眠らせ、匂いや色で判別されないように血は転がっていた死体から新鮮(?)なものを調達した。
 ついでに死体が着ていた防弾チョッキも下に着込んでいる。
 準備は万端だ。
(サンヨが殺せるようなら、その力、利用させてもらうよ。理央、サンヨの話では、ユーは今回の参加者の中でトップクラスの実力者らしいからね)
 理央の力を利用して、他の参加者を殲滅させる準備はこれで整った。罪悪感はない。理央は報いを受けるべきことをして来ている。
(精々、働いてくれよ。君の中の宇宙サソリが君を殺すまでね)

104:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:49:17 Ikf0SyM30
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:健康。顔は江成仙一です。1時間30分変身不可
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー、SPD隊員服(セン)
[道具]:包帯、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る(一時的に保留)
第一行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第二行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。
第三行動方針:サンヨが殺せるか試す。その後、方針を再決定。
備考
・サンヨと江成仙一から一通りの情報を得ました。具体的な制限時間も知っています。
・シュリケンジャーはロンが何らかの方法で監視していることに気づきました。
・炎の騎馬はC-7エリアに隠しています。
・シュリケンジャーの支給品は宇宙サソリ@忍風戦隊ハリケンジャーと包帯でした。

【名前】サンヨ@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:ロンと一緒
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:全身打撲、無数の刺し傷と切り傷、右腕切断。1時間ゲンギ使用不能
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンの指示に従う。
第一行動方針:理央から逃げる。
第二行動方針:ロンの指示に従い、シュリケンジャーに協力する。
備考
・制限が2時間であることを知っています。


105:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:51:13 Ikf0SyM30
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:左胸に銃創。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンとサンヨへの怒り。宇宙サソリを植えつけられました。
[装備]:自在剣・機刃
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:サンヨを倒す。
第二行動方針:ナイとメアを探す(どちらかは死んだと思っています)。
第三行動方針:メレと合流する。
※大体の制限時間に気付きました。

【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-7森 1日目 午前
[状態]:催眠術により気絶中。制服を奪われアンダーシャツとパンツのみ。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:理央に注意を喚起する。
備考
・制限が2時間であることを知っています。
・SPDの制服はシュリケンジャーに奪われました。


106:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:53:01 Ikf0SyM30
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:C-7森 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:アクセルラー、スコープショット、
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:変態さん(仙一)を介抱する。
第二行動方針:真墨の遺体を捜す。

【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:B-9森 1日目 午前
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。肩に銃弾による傷。1時間戦闘不能
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー。予備弾装(銃弾5発、催涙弾5発)。支給品一式(ブドー&バンキュリア)。真墨の首輪。
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:リオを倒せるほどに強くなる。
第二行動方針:優勝を目指す。
※首輪の制限に気が付きました。

107: ◆i1BeVxv./w
08/11/02 05:25:10 Ikf0SyM30
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想などあれば、お願いします。

108:名無しより愛をこめて
08/11/02 12:14:31 jLhBiTjx0
GJ!
シュリケンが思った以上に黒い…
リオ様はロンへの有効打なのに…時限爆弾抱えちゃった……
次回の話でサンヨは生き残れるのか非常に気になります。
面白かったです。

109:名無しより愛をこめて
08/11/02 16:16:25 HdPBCs4fO
投下GJ!です。
リ、リオ様ピーンチっ!
センさんがー!!と思いきや…シュリケンジャーが変装していたとは。
シュリケンジャー、ステルスとして、かなり優秀ですね。流石、忍者だ。
リオVSサンヨの戦いの行方もかなり気になります。

それにしても、シュリケンジャーがやったとバレたら、彼女が大暴れしそうなw
今後の展開が楽しみです!GJでした!

110:名無しより愛をこめて
08/11/02 16:22:20 V1sabhqOO
シュリケンジャー手強いマーダーになったな。
策略が凄いですね。面白かったです。

菜月の「変態さん?」に吹いたw


111:名無しより愛をこめて
08/11/03 14:10:14 IWFDbtazO
まとめ更新乙です。
いつもありがとうごさいます。

112:名無しより愛をこめて
08/11/04 16:05:47 Gv7tjpL10
まとめ更新お疲れ様です。いつもありがとうございます。

遅くなってしまいましたが、次の煽り文ができましたので投下します。

113:名無しより愛をこめて
08/11/04 16:06:48 Gv7tjpL10
011.献身と勘違い
世の中色んな人がいるものです。
  例えば、芋ようかんで巨大化する人とか、命を二つ持ってくる人とか、脈が無くても生きてる人とか。

012.黒獅子の誇り
  男の想いはすれ違う。ただその誇り高さゆえに。

013.地獄から来た恐竜野郎
  運命を決めるコイン。そのコインさえ些細なきっかけで変わるもの。
  弾かれたコインを手に男は夜風の中を不敵にときめく。

014.オールド・ジェネレーションズ
  油断大敵、怪我一生。
  仲間だからって安心してはいけません。悲しいけどこれ殺し合いなのよね。

015.夢×命×未来
  少年はまだ知らない。戦う意味を。生命の未来を。
  それゆえに引いた引き鉄は少年に出会いをもたらした。

114:名無しより愛をこめて
08/11/04 16:07:32 Gv7tjpL10
016.冒険者達、西へ
  腕に着けるは戦友(とも)の形見、胸に秘めるは小さな強がり。
  青年と少女は西へと旅立つ。ただ仲間の姿を追い求めて。

017.太陽と不滅の牙
  禍々しき遺跡の只中に男が二人。
  彼らを待つのは邂逅か、血塗れた未来か……

018.阿修羅の如く
  抗う事が勇気でも。貫く事が正義でも。
  今はただ血塗れた道を進み続ける。その思い、阿修羅の如く。

019.龍の陰謀(はかりごと)
  さあ、箱庭は閉じられた。
  光も救いも希望さえ、今は届かぬ彼方へと。
  悪意の道をいざ進め。

020.サーガイン Is murder?
  目と目があったその日から恋に花咲く事がある。
  目と目があったその日から誤解に花咲く事もある。

115:名無しより愛をこめて
08/11/04 16:08:54 Gv7tjpL10
では、失礼しました。

116:名無しより愛をこめて
08/11/04 19:11:45 tH/vDpJJ0
乙!
相変わらずセンスいいな。
いずれこの煽りもまとめサイトで見れるようになったらいいな。
続きもよろしく!

117:名無しより愛をこめて
08/11/04 19:49:46 nvY7WKmuO
GJ!
良い煽り文をつけてもらえると燃えてくる。
これからも楽しみにしてます。
もう一度GJ!

118: ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:24:40 9A3ycarF0
煽りGJです。
次回更新の折はまとめサイトにも組み入れさせていただければと思います。

それではただいまより投下いたします。

119:ネジレてキレてツイてる男 ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:25:42 9A3ycarF0
 無数に飛び散った肉片の中心で血まみれの怪物は恍惚の笑みを浮かべていた。
 自分の肉体を押し込めていたスーツが破壊されたことで、怪物―ネジビザールは一種の開放感を味わっていたのだ。
 ネジトマホークという武器ではなく、自らの爪と牙を使って相手を引き裂くのはやはり快感が段違いだ。
「彼女を引き裂いただけでこれだけ気持ちいいんだ~。メガブルー、君だったらもっと気持ちいいんだろうね~、ヒャハハ」
 30分ほどそうしていただろうか。身体に付いた血が液体から固体へと変わり、多少の不快感を与える。
「そろそろ邪魔になってきたね、コレ」
 ネジビザールは身体に力を込める。
 彼は氷の怪物。物体を凍らせるのはお手のものだ。
 ネジビザールは凍らせることで、血を身体から剥がそうと考えた。
 しかし、いくら力を込めようとも、血が凍ることはない。聡いネジビザールはすぐにその原因を思いつく。
「なるほどねぇ~、これが制限ってやつか。中々面白いことを考え付くよ」
 ミンチになった女がピーチクパーチク騒いでいたのはこのことだったのだろう。
 だが、ネジビザールにとっては狩りを面白くするための単なるカンフル剤だ。
 女ももうちょっと楽しむ心があれば、もう少し長生きできたのにと、ネジビザールはまた笑う。
「さて、凍らせることができないんなら、ふき取らないとね」
 女の服は彼女と一緒にバラバラになり、血にまみれてしまった。
 ならばと、ネジビザールは女のディパックを手にする。引き裂いて、タオル代わりに使おうと考えたのだ。
 しかし、その必要はなかったようだ。女のディパックにはどこからか調達したのか、好都合なことにタオルが入っていた。
「あの女は最初から最後まで役に立ってくれるね。それともオレがツイてるのかな~。どっちが正しいかはアレを確認すればわかるか」
 ネジビザールはタオルで血を拭いつつ、自分のディパックに眼を向ける。
 彼はキレてはいるが、頭の切れも決して悪い男ではない。メガブルーへの執着を除けば、割と冷静な方だ。

120:ネジレてキレてツイてる男 ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:26:31 9A3ycarF0
 ネジビザールは自分のディパックの中身が美希の手によって、すり替えられていることに気付いていた。
 美希がテルミット弾を使って、爆発を引き起こしたのも知っている。美希が自分とメガブルーたちとの同士討ちを狙って、協力したこともだ。
 にも関わらず彼が美希を自由にさせておいたのは、面白そうだったからの一言につきる。
 策士を気取っている奴の鼻っ柱を叩き折るのは中々の快感だ。今回もここぞというタイミングで種明かしをし、美希を切り刻んでやるつもりだった。
 ただ残念なことに美希はどこかに言ってしまったが。
「まあそれはいいや~。さて、バイクの代わりに何を入れてくれたのかな?」
 一頻り、身体を拭き終えたネジビザールは自らのディパックの確認を始めた。
 中には血の付いた忍者刀と首輪。そして―
「名簿?……………へぇ~、これはこれは。ヒャハハハハッ!いいね~、バイクと交換にしては充分過ぎるものだよ」
 その名簿には参加者たちの写真や性格、思考が詳細に書かれていた。勿論、自分のものもある。
 なるほど、これを見ていたから、自分と交渉しようと思ったわけだ。
 だが、そんなことがどうでもよくなるほど、あることが記載された名簿の1ページはネジビザールを激しく興奮させた。
「こいつが、こいつが、こいつが、メガブルー、メガブルー、メガブルゥゥゥゥーーーーーなんだねぇぇぇぇ!」
 参加者の一人、並木瞬のページ。
 そこには彼の写真と共に、はっきりと彼がメガブルーであることが書かれていた。
「フフフフフフフフフフフフッ!!!ヒャハハハハハハハッ!!!意外と二枚目じゃないか。この綺麗な顔が苦痛に歪むと思うと………フヒャハハハハッ!フヒャハハハハッ!ゲヒャッ!」
 ネジビザールは笑った。それこそ、呼吸ができなくなるほどに。笑い死にしそうなほど。
「ウヒャハハッハハッハハッ!ウヒャハハッハハッハハッ!」
 笑って
「フヒフヒウヒヒヒヒヒヒッ!グヒフヒウヒヒヒヒヒヒッ!」
 笑って
「GYAHAHAHAHAHAHAHHAHARAHAHHAAAAAAAAAAAAA!!!」
 笑った。



「10時ピッタリだね」
 ネジビザールは今しがた禁止エリアになったG-5エリアを抜け、H-5エリアへと入った。
「笑いすぎて危うく間に合わないところだったよ」


121:ネジレてキレてツイてる男 ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:28:26 9A3ycarF0
 一歩間違えば、首輪が爆発し、死が待っているというのに、ネジビザールに慌てた様子は見られない。
                                                  ・・・・・・
「さて、オレの勘だと、ヤツはこの辺りにいるはずなんだけど。どうかな~?ねぇ、ネジシルバー?」
 詳細付き名簿を見たネジビザールはメガブルー以外に知り合いがいることにようやく気が付いた。
 それが他の誰かだったら、寄り道はしなかったかも知れない。
 しかし、そいつはメガブルーとは比べるべくもないが、ほんのちょっぴり、ネジビザールがメガブルー以外に殺したいと思える人間だった。
「北西は大体見て回ったし、拡声器の届く範囲だったら、あいつも来るはずだからね~。
 東ならメガブルーと合流するといい~。もっと楽しくなるから。でも、できれば先に会いたいな~、ネジシルバー。
 君の首を持っていた時のメガブルーの顔から楽しみたいからね」
 ネジビザールはまた笑いそうになるのを、グッと堪える。いつ誰と会うかも知れない。しばらくは善良そうな顔をしているのがいいだろう。
 なぜなら、今、彼は人間の姿になっているのだから。
 肌の色はうっすらと赤みを帯びた黄色。髪と瞳の色は黒く、唇に閉ざされた歯を外面から覗き見ることはできない。
 ネジレンジャーの共通の能力に人間への擬態がある。自らを弱体化する能力は制限の対象にならないのか、彼は制限中にも関わらず人間への擬態に成功した。
 その姿は誰かを真似るものではない。ただ、その個人にあった人間の姿へと擬態するだけだ。
 だが、彼の姿は何故か並木瞬に似たものになっていた。
「待ってろよ、ネジシルバー。君にされたことと同じことを君にしてあげるよ」
 彼の顔はどことなく並木瞬に似ていた。彼をよく知らない者ならば、彼を並木瞬と誤解するかも知れない。
 しかし、本物の彼を知るものなら、気付くことだろう。
 彼はこれほどまでに邪悪には笑わないと。


122:ネジレてキレてツイてる男 ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:29:30 9A3ycarF0
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-5海岸 1日目 昼
[状態]:全身に打撲、傷有り。人間に擬態中。その間のスペックは能力を発揮しない限り、人間と変わりありません。
[装備]:ネジトマホーク、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:支給品一式×3、詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器。
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す。
第一行動方針:メガブルーを苦しめるためにネジシルバー(早川裕作)を殺す。
※ズバーンとマシンハスキーはF-5都市に放置しています。


123: ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:42:38 9A3ycarF0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想などあれば、お願いします。

セルフ議論スレ行きな点が一点。
制限期間中の人間への変身は制限に引っかからないのか?
自己解釈だと、バンキュリアやヒカルは本来の姿ではないのに、人間態時は能力制限に引っかかっていないので、その状態下で能力を発揮しない限りはありなのかなと。
あと擬態中の姿は他のネジレンジャーは各々適当な姿だったので、似てなくても良かったのですが、双子ネタがあったので似せてみました。
問題があるようでしたら、修正いたしますので、議論スレにて。

124:名無しより愛をこめて
08/11/05 17:18:58 l2sb+M0OO
素早い投下!そして心からGJ!!
キレてるくせに冷静なネジビザールはまさに脅威。
シルバー。逃げて、逃げてぇー!


個人的には変身は問題無いかと思います。
首輪も幻気で出来ているので機械仕掛けとは違い、その辺りの制限はランダムで良いのでは無いでしょうか?


125:名無しより愛をこめて
08/11/05 19:46:57 1nI2jC7F0
時間軸のずれの問題で瞬は裕作さんを知らないよな。
それはそれとしても美希にとってアキレス腱かも>ネジブルー

126:名無しより愛をこめて
08/11/05 20:31:30 m37EeZNxO
相変わらず早い投下GJ!です。
ネジブルーもといネジビザール怖い、怖いよw
裕作さんもただ騙されるたまではないでしょうがどうなることやら…
ステルスする気満々なのがかなり怖いです。
ネジビザールの狂気が伝わってくる作品でした。GJ!

制限期間中の人間への変身ですが、自分はありだと思います。
おっしゃる通り、ヒカル先生やナイメアの事がありますし。

127: ◆MGy4jd.pxY
08/11/07 20:55:21 S6diC9PBO
したらばにも書きこみましたが間に合わないかもしれませんので延長をお願いします。

128:名無しより愛をこめて
08/11/08 11:05:59 9UqzPLOV0
了解です。楽しみにお待ちしております。

129:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:36:18 4EPfqI6D0
歩くたび、身体が揺れるたび、左肩の刺し傷が疼く。
屍と化した身体から失われたのは熱と血液で、痛覚は生前のまま。
メレは当て所もない歩みに疲労の色を濃くしていた。
…-理央もまた、かつてはこのような深い絶望に沈んでいたのであろうか-…
「少し…疲れたわね……」
道の脇に腰を落とし、ディバッグからペットボトルを取り出したが、既に水は尽きている。
これでは顔も洗えないではないか。
「理央様…」
益々重くなる気持ちを抱えながら、縋る様に愛しいその名を呼ぶ。
そっと、右手で傷口を隠すように肩を抱く。
そうしているとあの時の温もりが蘇ってくるような気がしたのだ。

始まりの空間でロンが自らを指名したその時。
普段の寡黙な彼からは想像も出来ない熱い眼差しで見つめられ、面食らったのを覚えている。

『大丈夫だ、メレ…どれだけの距離を隔てようと、ロンが何を策していようと、
必ず、お前を守る! だから…生き残れ、どんな手段を使っても!!』

他の参加者の目を全く意に介さず、メレの身体を掻き抱き、彼は耳元でそう告げたのだ。
冷たい身体に彼の熱が伝わるのが心地よかった。
この瞬間がいつまでも続けばいいと、埒でもない事を本気で願った。
すぐに別離が訪れるのを知らないではないのに―…


「あんな理央様…初めてだった……」
メレは知る術もないが、彼と理央の微妙な時間軸のずれが新鮮な驚きを与えていた。
放送の中に幸いにして理央の名はなかった。
実力者たる彼がそうやすやすと首をとられはしないことは承知している。
しかし、これはロンの仕掛けたゲーム。


130:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:37:39 4EPfqI6D0
幻技の件と言い、不透明なルールの中でどんな不測の事態が起こるか知れない。
自分達は他の参加者よりも主催との縁が悪い意味で深い。
ロンが何かしら仕掛けてくるのは確実なのだから。
「…理央様…会いたい……」
口を突いて出るのは彼の名ばかり。このゲームでメレが心から信用できるのは彼だけだ。
しかし、同時にメレは一人でいることの限界を感じ始めていた。
既にゲームが始まって6時間あまりが経過し、参加者達は各々の思惑の下にいくつかのグループを
結成している。
メレ自身もそうした連中をいくつか見てきた。
だが、下手な相手と組めば寝首をかかれる恐れがある。人選は慎重に行わなければならないだろう。
自然、知り合いを回想する形になる。
「え~と…私の知り合いは―…」
まずは、理央。
彼は完全にメレの味方だ。
しかも、嬉しい誤算でこのゲームに参加させられている彼はメレに対し親愛の情が深い。
あの熱い眼差しは恋人を見るそれだ。
自然と口角が緩んでいく。メレにとっては、理央こそ生きる糧。
彼のためなら命も惜しみはしない。大袈裟でもなんでもなくメレは本気でそう思っている。
死への恐怖は既に死人であるメレにはない。
怖いのは彼を失うことだ。

二人目はサンヨ。
こいつは話にならない。自分と同じ四幻将の一角だが、彼は元々ロンに近い。
今回も彼に追随して動いていると観るのが自然だ。
どうみても敵。出会い次第、消しておいた方が無難だろう。


131:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:38:50 4EPfqI6D0
そして-…真咲美希。
彼女は名前と来歴を知るくらいで直接相対した経験は殆どない。
メレが知っているのは彼女が激獣拳時代の理央の修行仲間であるということ。
そして、今はゲキレンジャーを支援するスクラッチの重役に収まっているという事くらいだ。
過去の理央を知ると言う点で羨ましさを感じることはあるが、彼女がどんな女性なのか
あまり過去を語りたがらない理央に聞くのは憚られてメレは殆ど知らない。
死んではいないようだが、理央と違い実戦から離れて久しい彼女を戦力とするのは少々不安が残る。
メレとしてはもっと頼りになる戦力がほしかった。

「…理央様以外ろくな奴がいないわね…後は…こいつらか-…」

轟轟戦隊ボウケンジャー。
宇宙拳法使いパチャカマック12世との戦いで成り行きとはいえ、共に戦った経験がある。
ただし、メレは全員の人とな理央知っているわけではない。
メレが知っているのは大胆にも直接臨獣殿に乗り込んできた
ボウケンレッド=明石暁
ボウケンピンク=西堀さくら
この両名だけだ。
しかもさくらはあの時、パチャカマックに憑依されていたことを加味すれば実質的に
メレが面識を持つのは明石暁だけだ。
結論からいえば、明石暁の印象はメレの中でそう悪いものではない。
獣拳使い以外で理央と生身で戦える人間が存在していようとは思ってもみなかったからだ。
マクによる撹乱の後が癒えていなかったとはいえ、臨獣殿に乗り込む度胸もある。
加えて、仲間のために敢えて黒をとるその人間性にも惹かれるものを感じた。
常に傍らに自身を慕う女性が控えているという理央との共通項が、
明石暁へのシンパシーにも似た感情になっているのかもしれなかった。
自身よりも仲間を第一に考える男。それが、メレの中で確立した明石暁の人物像だ。
味方に出来れば彼ほど頼もしい人物はいない。
始まりの空間での一件を見る限りでは彼が殺し合いに乗っていない可能性は高い。



132:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:39:54 4EPfqI6D0
西堀さくらに関して言えば、パチャカマックの憑依と言う点を除外しても腕はメレと互角に立つ。
直接拳を交えたメレの感触は悪くない。
しかし、彼らが自分に対しどういうスタンスで臨んで来るかは想像がつかない。
あまり信用するのは考え物だ。
考え物ではあるが、同時にロンに対し戦いを挑むのに彼らの助けは、癪ではあるが是非とも必要だ。
無論、最後を締めるのは自分と理央であろうという根拠のない自信がメレにはあったのだが…

「決めた! こいつらを従えて理央様の下へはせ参じる!! そしてロンを倒すっ!!」

勢いよくその場に立ち上がり、拳を天に突き上げ、叫ぶ。
メレの中では既に崩壊した臨獣殿に代わり、ボウケンジャーを下僕とした理央(と自分)の組織プランが出来上がっている。
素敵な将来の青写真の完成にすっかり気を良くしたメレは意気揚々と歩き出した。
「ふん、ふふ~~ん♪ 待っててくださいね、理央様ぁ?」
ただ、そのプランをどう実現するかは全くの白紙であるのだが-
今のメレに必要なのは自らを突き動かす動機の方だった。

§

…―自分はよくよく、死神に嫌われているらしい―…
殺し合いの只中にあって、グレイは相反するその事実にため息をついた。
廃墟と化したタワーが陽光を背に影に溶け入る様は余計にうらぶれて見える。
まるで今の自分を見ているようで、内心酷く不快な思いがした。
F5エリア-兵どもが夢の跡。



133:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:40:44 4EPfqI6D0
辺りを白く消し飛ばすほどの閃光と割れんばかりの爆音が轟いたのは、さくらとあんな形で分かれてからすぐ後のことだった。
既に戦いが始まっていることを察知し、駆けつけたのだがすでにそこはもぬけの殻。
ほんの僅かな時間のずれで彼はガイともすれ違っている。
本来なら幸運なのだが、本人はそれがちっとも愉快ではない。
「あんな小競り合いがなければ…今頃は戦いの只中に在れたものを」
グレイは紫煙を燻らせながら、瞑想する。
確かにさくらの行動は異様だった。
仲間の死を見せ付けられて心に闇が生まれたか。元々あぁするつもりだったのか。
「それにしては行動が極端すぎる…」
あるいは―思い至った一つの答にグレイは思考を更に深める。
さくらは何らかの意思により傀儡にされていて自分でも分からないままに動かされている。
「だが、何のためだ?」
自分のようにロンに魅入られたマーダーか。それにしては先ほどの行動は無謀すぎた。
あまりに計画性に欠ける上、戦力差を埋める智恵が全く見当たらない。
彼女の全てを知るわけではないが、そんな無計画なタイプではないはず。
ならば、このゲームでさくらが司る役割はなんだというのか―そして、
…―自分が果たすべき役割はなんなのか―…
思考という名の無限の宇宙から帰還した彼は、確かな一つの答えを胸に歩き出した。


§


職業柄、同僚の死はそう珍しいものではない。
今の地位に至るまで多くの仲間の死を見てきた。
肩書きに重みを感じるのは、それだけ多くの死を経た先に今の自分がいるからだ。
だから、彼女たちの死も決して特別ではない。
けれど胸に沸き起こる慟哭をドギークルーガーは抑え切れずにいた。


134:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:48:54 4EPfqI6D0
「スワン…! ウメコ…!!」
その二人の名を喉の奥から搾り出す。
守れなかった。大切な女性(ひと)を。掛け替えのない部下を。
もう二度と戻らない笑顔を想った。
もう二度と聞けない声を必死に思い止めようともがいた。
傍らのシオンと恭介は掛ける言葉も見つからずに立ち尽くすドギーを見つめている。
たった数時間で最愛の女性と部下を失ってしまった彼に言えることなど、何もなかった。
「元気を出してくださ――…」
それでもシオンが声を上げたその瞬間。

「見るに耐えんな、ドギークルーガー…戦士の女々しい有様など無様以外の何者でもない…」

「お前…!」
我を失っていたドギーは不意に叩きつけられた侮蔑の言葉に現実への帰還を果たした。
低くくぐもった声の先に、グレイがいた。
ここを発つ前と比べ、やや傷ついた姿で。
「お前! 少しは気遣いってもんがねーのかよ!! この人は今なぁ!…あれ、さくらさんはどうしたんだ、姿が見えないけど??」
当然その傍らに存在するべき人物の不在に恭介は疑問を投げかけた。
「まさか…お前―! さくらさんを!!」
考え付く結論は唯一つ。恭介は激情に突き動かされるまま、アクセルチェンジャーを構える。
「慌てるな、阿呆が…シオン、無事で何よりだ」
今にも飛び掛らんとする恭介を尻目にグレイはシオンへと向き直る。
「グレイさん…何があったんです?」
シオンの目にも恭介ほどではないが、困惑の表情が浮かんでいる。
「…今からする話を信じる、信じないはお前達の勝手だ…もしも信じられないなら俺を倒すなり、なんなり好きにしろ……―」


135:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:49:30 4EPfqI6D0


グレイは事の顛末を語った。
放送を境にさくらが豹変したこと。
彼女が殺し合いに乗ったこと。そして自分が彼女を殺していないこと、全てを。
「そんな…! さくらさんが…そんなことするなんて…!!」
「…………………………………………」
シオンは告げられた事実に困惑の色合いを深めた。
ドギーは貝の様に押し黙ったまま、何事か思案している。
「俺は信じねぇぞ! そんな下手な作り話で俺たちを動揺させようなんて随分セコイ真似してくれるじゃねぇか!!」
いきり立つ恭介は先ほどから臨戦態勢の構えを解いてはいない。
人よりも大きな瞳はきつくグレイを睨んだまま。
彼の脳裏には暴虐な殺戮マシーンに無残な仕打ちを受けるさくらの姿がありありと浮かんでいた。
「…止めるんだ、恭介君。こいつは恐らく嘘を言っていない」
すっと水平に伸ばした右腕で恭介とグレイの間にドギーが割ってはいる。
「ドギーさん! あんた、こんな奴のいうことを信じるってのか!?」
非難の声を上げる恭介に向き直り、ドギーは告げた。
「こいつがさくら君を殺したなら、わざわざ偽ってまで言い訳する必要はない。
俺たちを殺したいなら問答無用で強襲すればいいだけの話だ。作り話なんて必要ない」
「だ・だけど…!!」
「恭介さん…僕もドギーさんの意見に賛成です」
更にシオンが間に入る。
「シオン! お前までこんなやつのいうことを信じるってのか!?」
「…恭介さん、僕だってさくらさんが殺し合いに乗ったなんてこと信じたくはないけど…グレイさんは、嘘は言ってはいないと思う。だって…グレイさん制限中でしょ?」
「なに…!?」
今度は恭介がグレイの方へ向き直った。
「あぁ…今の私は武装一切を使えない…今、お前達と交戦すればまず勝ち目はないだろうな…」
「丸腰でわざわざ戻ってきたわけか…目的はなんだ?」


136:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:50:21 4EPfqI6D0
「…その前にお前達に確認しておきたい…6時の放送…あれを聞いてまだ、人を信じられるか?」
ドギーの問いかけにグレイは問いかけで答えた。
「これから先も人は死ぬ。恐らく…シオン、恭介、お前達の仲間も名を連ねて行くだろう…それでも他人を信用できるか?」
全員が言葉を失った。
「これから先に待つのはそういう世界だ。あるいはあの女のように殺し合いに乗るか、場合によってはこの場で命を絶つ方が楽かもしれん…それでも他人を信用できるか? 
ここにいる連中と生死を共に出来るか!?」
グレイは本心を明かす前に答えを聞きたかった。
彼らがどの様な選択をしようと、彼の成すべきことは決まっていたのだが。

「…随分とキャラに合わない言動をしてくるじゃないか…俺はSPD…それも地球署の署長だぞ? 警察官として成すべきことをなす! ただ、それだけだ」
立場を違えども、意見を違えども二人は戦士であるお互いの人格は認めている。
同じ愛する者を喪失したことが皮肉にも彼らの絆を深めたのかもしれない。
だから、どちらかが堕ちるときはもう一方がそれを死と言う形で押し留めるだろう。
「僕も…例え竜也さんやドモンさんに会えなくなっても…僕は皆さんと戦うなんて事は絶対にしない!!! …ロンの思い通りになんて絶対にならない!!!!!」
彼が橋渡しをしなければ、自分達はここに集ってはいないであろう。
グレイは闇に沈んでいたままだったかもしれない。彼はグレイの恩人だった。
「恭介…お前はどうだ?」
最後に。恭介の視線とグレイの赤い視線が交わる。
恭介は言葉を選びながらゆっくりと心底の思いを紡いでいく。
「…俺は…ドギーさんほど強い信念があるわけじゃない…シオンほど、会って間もないやつを信じきれるほど純粋でもない…俺は一般市民だからな…」
恭介の言葉にグレイは何も言わずじっと耳を傾けていた。
「…………………………………………」
「……俺は…一般市民なんだよ……」




137:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:38:30 4EPfqI6D0
彼はそう繰り返した。偽らざる、恭介の気持ちだった。
「だけどよ…俺は…一般市民であることを貫くぜ。どこまでも普通であってみせる-! 
俺は瞬が心配だ。裕作さんが心配だ。菜摘が心配だ。シグナルマンが心配だ。あいつらが殺されたら…きっとわけわかんなくなっちまう…だけど、それで他人を襲うことなんてことだけはしない!! そんなこと絶対にしない!!!」
肩を震わせ、恭介は言い切った。胸の動悸が激しい。
そっと、恭介の肩に手が置かれた。ドギークルーガーの大きな手だった。
「これだけのことを言わせたんだ…お前の心底も聞かせてもらおうか…」
ドギーの視線とグレイの視線が深く交わる。

「私は…戦う」


掛け替えのない仲間の命を奪われ、我を失った女の悲しみを見た。
愛する人と信頼する部下を失った男の慟哭を聞いた。
もう、奪い奪われる光景は沢山だった。
―――竜…――――
腕の中で崩れた人の言葉が脳裏に木霊する。
あの絶望を、慟哭を、もう味わいたくはなかった。
目の当たりに、したくなかった。
「本来なら…私はバイラムと共に滅び去るべきだった…だから、私は生ける屍も同じだった…
ドギークルーガー…私はお前との戦いで全て終わりに出来ると思った…宿敵との決着を奪われ、死に場所を失った憐れなガラクタ…だが、そんなガラクタにもしなければならないことがある―…」
彼は戦う。そう、今まで彼は戦ってきた。
戦うために生まれた。幾多の戦場を駆けた。
バイラムの幹部達は仲間と呼べるほどの絆を結んではいなかった。
個々が強くなりすぎた彼らは仲間と言うものを必要としなくなっていた。
だから、裏次元人に体力も知力も圧倒的に劣るはずの男が、たかだか肉体を十数倍に高める程度の強化服を纏っただけで自分と対等に渡り合うことに驚愕を覚えた。


138:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:39:18 4EPfqI6D0
彼の強さの源を知りたくなった。
それが愛ゆえに、だと言うことをグレイは身をもって知ることとなる。
自分が永遠にそれを喪失した瞬間に。
「私達は同士だ。個々の力ならば私達に力及ばないはずの人間がバイラムを打倒したように…人の絆は何よりも脆く、何よりも強い―…私はそれに賭けてみたいのだ…お前達と一緒に」
何度叩き落されても、立ち上がり、羽ばたいて見せた漆黒の翼が脳裏に鮮明に蘇る。
あの不敵な笑みがありありと浮かんでいく。
彼はこんな自分を笑うだろうか。
グレイは知らない。彼もまた、愛ゆえに死んだ事を。
かつての彼のように自分は何かを守るために戦えるだろうか―
誰ともなく腕が伸びる。
時代も立場も異なる者達の手が垣根を越えて交差する。
そして、重なった。
「しかし、お前の口からそんな提案を聞くとは思わなかったな…」
「全くだぜ…俺たちは即席戦隊だな!」
「恭介さん、なんかカップ麺みたいですよ、それ…どうせなら“ドリーム戦隊”とか言えませんか?」
「おっ! そりゃあいい!! えーと、赤は俺。緑はシオン。ブルーはドギーさん。ブラックはグレイだな!」
「…私がブラックか……」
「なんだ? 嫌なの?」
「…いや、別に……」
「でも、やっぱ女の子がほしいよなー…さくらさんの穴は痛いって言うか…」


「だったらあたしがその穴を埋めてあげようじゃない…た・だ・し…あんたら全員あたしと理央様のために働いてもらうわ!! ロンを倒すためにね! ありがたく思いなさい!!」


139:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:40:09 4EPfqI6D0
「お前は…!!」
驚愕する一堂の眼前に緑色のチャイナ服に身を包んだ女性拳士が佇んでいた。
「この女…」
制限中とはいえグレイにも、そしてドギーにすらその接近を感じさせず、彼女は近接に姿を現したのだ。
そのまま、メレは余裕の表情で腕を組んだまま一同を見回す。
どうやら知り合いは混じっていないようだが、彼らは殺し合いには乗っていないらしい。
彼女が欲しいのは、理央の戦力になりうる兵隊だった。
「ふざけんなっ! 緑はもう、シオンがいるんだよ! せめて黄色だろ、そこは!!」
「…恭介さん、論点ずれてます…そうじゃなくて―…」
シオンと恭介の掛け合いを前に、メレは自らの中に宿る力を揺り動かす。
「生憎ねぇ…猿顔の一般市民さん…あたしは緑色じゃなくて…金色よっ!!」
閃光が弾け、逆巻く風が周囲の大気を震わせた。
「これは…!!」
輝く羽根が舞い散るその中心に光り輝く金人の姿があった。

「幻獣フェニックス拳のメレ…!」

他者と交わらなかったことでメレはこのゲームにおけるルールを殆ど把握していない。
しかし、重要なのは今自分が力を発揮できると言う事実だ。
「その趣味の悪い成金武装はあの男と同じ匂いを感じるな…女…貴様何者だ?」
グレイが動じる様子もなく、メレに詰問する。

「あんなのと一緒にしてほしくないわね…わたしはわたし! あんたらは格の違いわかれば十分よ!!!」

新たなる戦いが始まった。




140:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:40:46 4EPfqI6D0
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康だが多少の傷(ダメージ軽微、戦闘に支障なし)。2時間戦闘不能
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数4発) 支給品一式
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためドギー、シオン、恭介と共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借理央返す。
第二行動方針:西堀さくらに違和感。

【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す。
第一行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。

【名前】陣内恭介@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:メガレンジャーVSカーレンジャー終了後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:アクセルチェンジャー
[道具]:芋ようかん×3
[思考]
基本行動方針:殺し合いから生き延びる。 一般市民であることを貫く。
第一行動方針:新たに出会った仲間と共闘。



141:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:45:41 4EPfqI6D0
【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)グレイと和解
[装備]:マスターライセンス
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、支給品一式
[思考]
基本行動方針:首輪を解除して、ロンを倒す
第一行動方針:仲間と共闘する。

【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷。両足に軽めの裂傷。獣人形態となり能力を発揮中。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:なし
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:目の前の連中を力で従わせる。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第二行動方針:ゲンギが使えない原因を調べる。
第三行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。
備考:リンリンシーの為、出血はありません。

タイトルは「即席戦隊」で

――――――――――――――――――――

遅くなりましたが、代理投下終了。
いろんな意味で羽ばたいたな。メレ。
GJでした。



142:名無しより愛をこめて
08/11/10 19:30:26 +xoIldUWO
投下&代理投下GJです!
即席戦隊結成!
メレがイエローなら、ゴーオンジャーなのにと、ちょっと惜しかったりw

それにしても相変わらずメレは不敵というか向こう見ずというかw
果たして手負いと制限状態がいるとはいえ、4人がかりに勝てるのか!?
グレイも相変わらずハードボイルドでかっこよく、ボスの嘆きは胸をうちました。
面白かったですGJ!

143:名無しより愛をこめて
08/11/12 19:37:07 VFBnv8MrO



144: ◆MGy4jd.pxY
08/11/12 23:22:03 DeVgSUoyO
ただ今推敲中なのですが、自宅PCがアクセス規制に巻き込まれています。
代理投下していただくのも申し訳ないですし、明日の朝、自宅以外の場所で投下しようかと思うのですがいかがなものでしょう。
朝一もしくは昼休憩中になるのですが……。

145:名無しより愛をこめて
08/11/13 00:49:56 Leicw479O
>>144
了解しました。
自分が代理投下できれば良いのですが、何分携帯なもので……
申し訳ないです

146: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 10:43:05 xkwAjiuY0
>>145
ありがとうございます。
お言葉に甘えて只今より投下します。

猿さん回避のため少々時間を掛けて投下しようか思います。


147: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 10:44:28 xkwAjiuY0
ナツメをこんな風に抱いて寝かしつけたのは、いつが最後だっただろう。

美季の腕の中でドロップは健やかに眠りながら、時折『ママ……』と寝言を繰り返す。
手に伝わる暖かい温もり。柔らかな頬の感触。耳に掛かる穏やかな寝息。
母の手に委ねられる幼子の命の息吹。
久しぶりの感触はしばし眠っていた母性本能を目覚めさせたようで、とても満ち足りて幸せな気分に浸らせてくれた。
ほんの数分だけ、殺し合いを忘れさせるほどに……。

「行こう。F-7エリアでジルフィーザが待っている」

ティターンの声が美希を温もりの中から美希を現実へ引き戻した。
ジルフィーザが待っている……?
いいえ。待っているのは、ナツメだわ。
行かなければならないのは、急がなければならないのは、誰のためでもなくナツメのため。
取り戻さなければならないのは、ナツメと紡ぐ満ち足りた時間。

―― 殺し合いはまだ序盤、気を緩めるには早すぎる。

仄かに生まれた温もり。胸に蘇った幼いナツメと過ごした陽だまりのような時間。
少しだけ、それを名残惜しみながら胸の奥へ押しやった。
そして美希は、ティターンの呼びかけに力強く頷いた。

§

「ひどい爆発だったし。お兄さん、心配してるだろうな」

148: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 10:45:33 xkwAjiuY0


そう言ってドロップの顔を覗きこんだのは最上蒼太だった。
遺跡で出会った明石暁と同じボウケンジャーの一員。
誰が見ても好感を持つ笑顔を振り撒きながら、それでいてさりげなく周囲を気遣う。
人材として蒼太を推し量るとしたなら美季は高い評価を与えると思う。
戦闘においても申し分ない。
とっさに機転を利かせられる柔軟な頭脳と高い身体能力。その両方を兼ねそなえている。 
もっとも、ネジブルーに渡した名簿にあった蒼太の経歴を考えれば当然の話ではあるが。
元を辿れば彼はスパイ。
人を懐柔する術など心得たもの。
磨き上げられた戦闘力と、冷酷な心。
今、笑顔の奥にある彼の素顔がスパイのそれならば。
フェミニストのように振る舞いおぼろを守っているのは、裏を返せば美希と同じ発想なのかもしれない。

「せやな、さぁ。はよいってお兄さんにドロップ君の元気な姿を見せたらな。なっ!」

纏の墓石の前で、そっと手を合わせていた日向おぼろが答える。
茶番だった救出劇で、戦闘の間に美希とドロップをタワーから連れ出したのが彼女だった。
震える手で美季とドロップの手を握り、もう大丈夫だと仕切にドロップを励ましていた。
その際に交わした僅かな会話からでも、おぼろの強い正義感と聡明さを感じ取れた。
だが同時に感じたのが戦闘能力の低さ。戦場において、自力で勝ち残る確率など皆無に等しい彼女の非力さを感じた。

「バウ!バウ!バウ!」
「マーフィー。あまり騒ぐな、お前も傷ついているのだ」

おぼろに答えるようにマーフィーが吼えた。

149: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 10:53:38 xkwAjiuY0
その横でマーフィーの頭をティターンが優しく撫でている。
黒装束に身を包んだティターンのその姿は、美希が名簿で見た『冥府神ティターン』のそれとは違う。
支給品が姿を変えられる品だったのか、あるいはティターン生来の能力なのかはわからない。
けれど、人の姿に衣を借るあたり、争い事は好まないのだろう。
『命を守りたい』というティターンの根底に流れる思いは、この手で斬首したスフィンクスと同じ。
人間の絆と勇気を信じ、そして知ろうと願った愚かなる賢者『冥府神スフィンクス』と同じだった。

「ドロップの兄さんなら、俺と同じくらいかな?」

まだまだあどけなさをその顔に残しながらも、少し大人びた口調で並樹瞬が言った。
纏を弔った事で幾分落ち尽きを取り戻した瞬。ジルフィーザの元へ向かうにあたり、ふと湧いた疑問だったのだろう。

「うむ……。そうだな。美季とドロップ以外はジルフィーザを知らないんだったな……」

返答にティターンは詰まったようだ。
外見上ジルフィーザの年齢は判別しがたい。
しかし言葉に詰まった原因は年齢というよりも、童鬼ドロップの兄、冥王ジルフィーザの姿だろう。
角を生やした半獣の顔と、蝙蝠のような羽根、冥王の冠に相応しい異形の姿をしている。
ティターンが人外の姿を隠していることも含めてどう答えるつもりだろう?
美季はティターンの顔を見遣る。
押し黙っていたティターンが黒装束の肩に手を掛けた。

「ドロップの兄、そして、俺についても話しておきたい……。話すと言うより見てもらった方が解りやすいだろう。驚かないでくれ」

ティターンは脱ぎ捨てるように勢い良く黒装束を剥ぎ取った。

150: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:05:01 xkwAjiuY0
体から離れた黒装束が七色の光彩を放つ。
光彩は綾をなし虹色の反物が、まるで本物の虹を描くように空に拡る。

「隠していたわけではなかったんだが。争いを出来るだけ避けるためには、人の姿の方が都合が良かったのだ。
俺もジルフィーザも人間から見れば、怪物だからな」

虹色の反物がふわりとティターンの手の中に落ちる。
黒装束を脱いだティターンの姿、畏怖されし異形の神の姿。
原子雲を彷彿させる巨大な頭部、深緑色の体躯に大蛇ような四肢。
誰もが一瞬、息を飲んだようだ。大きく目を開き言葉を発せずにいた。
美希はそれに習い、守るようにドロップを抱く手に力を込める。
その中で蒼太だけがティターンに厳しい眼を向け、アクセルラーを構えた。

「ちょっと、蒼太くん。びっくりしたんはわかるけど!」

おぼろはティターンの前へ割って入り蒼太を諌める。
瞬も蒼太を咎めるような視線を向けた。

「ええ。彼は敵じゃない。それは充分わかってます」

蒼太はすぐに穏やかな表情を作り、アクセルラーの表示をこちらに向けた。
液晶画面に赤く表示された文字をおぼろが読み上げる。

「ハザード……レベル120?」

151: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:07:00 xkwAjiuY0
「ええ、ハザードレベル120。プレシャスです。世界各地に点在する人類の秘宝。僕たちボウケンジャーが探し求めるのがプレシャス。
ティターンの支給品もその一つのようですね。ハザードレベルは価値を数値で表したと思ってもらえれば……。
だけど、ボウケンジャーである僕が知らないプレシャスを支給されるとはね」

敵意のないことを示したつもりなのか、蒼太は軽く両手を挙げる。
ティターンは安堵した様子で再び反物を纏い、黒装束姿に戻った。

「このプレシャスの存在を知る者がお前の仲間にいるのだろう。その者と同じ時間から調達したんではないか?
これは纏が言っていたんだが……。参加者は同じ時間軸から集められたんじゃない、と――」

巽纏が話したというそれぞれの時間軸の違い。
瞬とネジブルー、ドロップとジルフィーザを例えたティターンの話で、名簿の記載は事実だったと証明された。
証明されたのはいいが……。明石とヒカルに次いで、この場の面々にも知れたのだから他にも気付いたものも少なく無い筈。
ならば、それを逆手に疑心暗鬼の種として蒔くだけ。
参加者たちの団結を防ぎ、殺し合いを行わせるのが美希の役目なのだから。

「じゃあ、一概に知り合いだからと言って100パーセント信頼するのは危険かもしれないわね」
「……俺は知り合いいないけど。皆には、気をつけて欲しい。組む相手も助ける相手もしっかり見極めなきゃ、命を落とす可能性もある。
ここに来た事で、考え方が変わる場合だってあるから」

瞬が伏目がちに呟いた。

152: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:09:12 xkwAjiuY0
励ますように瞬の肩を優しく叩いたのはティターン。
おぼろも蒼太も見守るような目で瞬を見ている。
その自嘲気味な呟きで、纏たちが回りくどくメガブルーを人質とした経緯が読めた。
当初、瞬は殺し合いに乗ろうとしてたのだ。

「だが、人との触れ合いの中で考えなどいくらでも変わる。この俺のようにな」

話題を変えようとしたのだろう。
ティターンは纏のデイバックを拾い上げた。
先程、瞬が泣きながらカレーパンを取り出しただけで残りはまだ確認していなかった。
中には『F-9 繭』と書いた紙切れと、手の平ほどの大きさの、鍬形の玩具のような品。
そして、残りの食料はナツメの大好きだったエッグタルト。
それ……。言いかけた美希を遮ったのはおぼろだった。

「それ、一楸ちゃんの……」

おぼろの知り合いの縁の品。クワガライジャーに変身するためのアイテム。
その人物は参加者にはおらず、支給品だけがこの場にある。
聞けばネジブルーが使ったソニックメガホンや、蒼太とおぼろが追っていたクエスターガイが持つクエイクハンマーもそうだという。
おぼろは落胆を隠さず声に出した。

「武器だけやなく、ゴウライチェンジャーまでここにあるやなんて。さっきの時間軸の話を考えたらろくな想像が浮かばん!!」
「とにかく、ロンを倒して帰るまでは何もわからない。これはお前が使うといい。一楸という者もそれを望むだろう」
「ありがとう。でもたぶんゴウライチェンジャーは誰にでも使えるんや。『迅雷・シノビチェンジ』の掛け声で起動すると思う。
一応預らせてもらうけど……。いざとなれば使い回しが利くってのは皆覚えといて」

おぼろがゴウライチェンジャーを受け取るのを美希は横目で見ていた。

「って、うちのことばっかり言ってごめんなさい。そういえば美希さん何か言おうとしてたやろ?」

153: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:10:18 xkwAjiuY0
「いえ、私こそごめんなさいだわ。偶然見えたバックの中のエッグタルトが娘の大好物だなの。こんな時にそれを気にするなんて……」

どうかしている。
今はエッグタルトより、汎用性のあるゴウライチェンジャー。これがあれば殺し合いも楽になる。

「こっちの『繭』に誰か心辺りは無いか?」

腕の中でピクリとドロップが反応し目を開いた。
ゆっくりと視線を動かしティターンを見た。

「行かなきゃ……」

ドロップが行きたいのは繭なのだと思った。
この子が人間の姿をしているのと何か関係があるのかもしれない。

§

「バ……ウ!バ!……ガッ!!」

蒼太がバリサンダーを押しながら進む横で、じゃれるように歩いていたマーフィーに異変が起こった。
突然、壊れたデジタル音を発しマーフィーは崩折れる。
駆け寄ったおぼろはネジブルーに撃たれた箇所を見て顔をしかめた。

「ちょっと酷いな。 回線が切断されてぐちゃぐちゃや」
「修理は可能なんですか?」
「完全にというわけにはいかんやろな。まぁ歩けるぐらいには修理できると思うけど。すぐって訳には……」
「時間が必要ってことですね」

時計を確かめながら蒼太が2組に別れようと提案した。
ティターン、美希、ドロップはジルフィーザの元へ。

154: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:16:15 xkwAjiuY0
おぼろ、蒼太、瞬は向かうエリアとは反対方向に見える工場でマーフィーを修復。
終わり次第、合流場所である瞬が纏と休憩を取ったというビルへ向かう。

別れ際、瞬が美希に話しかけてきた。

「纏さんが書いてくれた手紙も気になるし、本当は一緒に行きたいんですけど……」
「しょうがないわね。ティターンの話じゃジルフィーザはちょっと気むずかしそうな感じだから。
先に行ってきちん話しておくわ。ドロップを命がけで守ったあなたたちのこと」
「ドロップ、会ったのが美希さんで良かったですよね。でも美季さん、ずっと抱いてたら重くないですか?」
「ありがとう。大丈夫よ」

礼を言うと瞬は笑顔を浮かべて軽く頷いた。

「瞬くん、高校生よね。お母さん心配してるでしょうね」
「確かにさっきまでの俺なら、きっと心配してたと思います」

美希ははっと名簿に書かれていたことを思い出す。
瞬は幼少の頃、フルート奏者だった母親を亡くしている。
美希に抱かれるドロップを、瞬がどこか懐かしむように見つめた。

「でも、もう心配させないつもりです。空で、纏さんと一緒に見てくれてるだろうから」

纏の死は彼に成長をもたらしたようだ。
仲間の死を乗り越えて強大な敵に立向かっていく。
皆の悲しみも怒りも正義の為の力となるのに、なぜ自分だけ母としての愛情を殺意に変えなければならないのだろう。

「次に会う時まで、良かったら使って。これは盾の型やけどジョイントを組み変えたら手槍にもなるし」

おぼろがイカヅチ丸を美希に差し出した。

「うちはゴウライチェンジャーも預ってるし、マーフィーを修理したらすぐそっちへ向かうから。ドロップ君をたのんます。そのために纏さんも命を懸けはったんやし」

155: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:18:22 xkwAjiuY0
「それに、僕がついてますから。っと、蒼太さんも」
「お、瞬くんなかなか言うてくれるやないの。ちょっと蒼太く~ん。今の聞いた?」
「じゃあ、僕も瞬くんに守ってもらうよ。よろしくメガブルー」

おぼろと瞬が笑いあう。
その輪に蒼太が加わった。
蒼太の素顔はもうスパイじゃない。これが彼の素顔なのだと美希は思った。
屈託なく笑う三人。
年も顔も背格好もなにひとつにていないのに、なぜかジャン、レツ、ランの笑顔と重なった。

越えてはいけない一線を踏みこえてしまった美希には、彼らがとても遠く感じる。
巽纏を救えなかったのだから、犠牲を出してしまったのだから、彼らも同じだと、そう思えば楽になれるだろうか?

美季はもう一度、ひとりひとりを見つめていった。
目が眩むほど輝いた笑顔がそこにあった。
ふと、今ならまだ戻れるような気がした。
今止めてしまえば、まだ間に合うのではないかと。
スフィンクスを殺したことも、纏を殺したことも、全部仕方の無いことだった。
でもその罪も、スフィンクスと纏ならば許してのではないかと……。

纏の墓石に目が止まる。
墓石と言うにはあまりにも不格好な岩の下で、巽纏が眠っているのだ。
言い知れない寂寥感が美希を包んだ。

あなたは私を恨んでいるでしょうね。

仕方が無いこととは言えなかった。

156: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:19:44 xkwAjiuY0
許してもらおうなどと都合の良すぎる話だった。

「次……」

腕の中でドロップが、美希以外には聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
美季はドロップの冷めた視線を追った。
ドロップの視線がティターンの背を射抜く。

結局、この中に美希が利用出来る者などいない。

わかっている。
早いほうがいい。
私が迷いを振り払うためにも……。

答える代わりに美季はドロップの頭を撫でた。

§

歩いていく美希、ドロップ、ティターン。
その姿を思い出すと瞬は少し複雑な感情に駆られた。
本当ならば自分もついて行きたかった。
行って全部終わらせてくるつもりだったのだから、何となく不完全燃焼を起こしている。
蒼太たちと共に来た鉄工所で瞬は特にすることなど無なかった。

マーフィーが心配じゃないかと言えば、あまり心配でもなかった。
なぜならここに着いた途端、おぼろはメカニックとしての本領を発揮。
テキパキと蒼太と瞬に指示を出す。
結局、プロと学生の差がでたというか、助手の仕事にあぶれた瞬は邪魔にならぬよう隅で大人しく待っているしかなかった。

157: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:21:51 xkwAjiuY0
しばらくして一段落したのか、おぼろと蒼太がペットボトルを片手にこっちへやってきた。
マーフィーはまだ作業台で寝そべっていたが鳴き声は以前よりうるさいぐらいの声に戻っていた。

「気になるかい」
「そりゃ、纏さんの残してくれた手紙のこともあるし」
「じゃ、これを持って様子を見にいくってのはどうかな?」

蒼太が渡してくれたのはゴウライチェンジャーだった。
マーフィーの修理はもう一息で終わるらしい。
ただ残念なことに材料も乏しく、予想していたよりも修復は出来ないようだ。
施せるのがあくまでも応急処置なので、あまり長い時間は歩かせられない。
そこでバリサンダーに乗せて運ぼうとなったが、押して行くには負担と時間的なロスが大きすぎる。
乗って行くには、おぼろがマーフィーを抱えることになるが。
となると瞬は一人あぶれてしまう。
続けて蒼太からクエスターガイに奪われた天空の花の話を聞いた。
仕掛けられた時間のリミットもある。
瞬にゴウライチェンジャーを託してみようと二人は思ったらしい。

「もちろん、一人になるのは危険やし。瞬くんがいややったら無理強いはせえへんで」
「行きます。もちろん」

その時、瞬はすでに立ち上がりデイバックを担いでいた。

§

幼いドロップの歩みに合わせ、ゆっくりと歩みを進める。
ドロップの歩みのせいだけではなかった。
ここはちょうど美希がテルミット弾を仕掛けたタワーの裏手。
壊れた街の残骸が、美希の最後の良心に縋り付くように歩みを遅くさせていた。

158: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:24:07 xkwAjiuY0
ティターンは誰かに話したかったのだろうか。
歩きながらする会話がいつの間にか放送で呼ばれた死者の話へ、そしてその中のティターンの知り合いへと話は自然に流れた。
小津勇、深雪、麗。そしてスフィンクス。
スフィンクスとティターンは人間界で命の大切さを学んだ。
人の絆、兄弟や家族の思い、それは今まで美希も何より大切に、どんなことより強く願う思いだった。
無意識に美希は立ち止まった。

「少し時間を貰えない?ずっとドロップを抱いていて纏さんの墓前で手を合わせてられなかったのよ」

つい口から出た言葉が、ティターンに対する演技なのか、自分の本心なのか一瞬わからなかった。

「構わないが、戻るか?」
「いいえ、ここで良いわ。ここが爆心地みたいだし、この爆発のせいで纏さんが亡くなったのだから」

美希は手を合わせてみた。
不思議に後悔も、懺悔も、何も湧き上がってこない。
感情のすべてを凍らせてしまったかのようだった。

本当に心が凍ってしまえばいいのに……。何の迷いもなく目的の為に殺戮を厭わない殺人マシーンだったら……。

ナツメを救わなければならないという思いが、溢れそうな感情を必死に凍結させていた。
長く長く、美希は手を合わせたまま動けないでいた。

「どうしたのだ」

ティターンとドロップが不思議そうに自分を見ている。
言われて始めて頬を伝う涙に気がついた。

159: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:30:47 xkwAjiuY0
出来ないの?
声にださずに呟いたドロップ。
不意に美希の両耳を引っ張っぱった。

「勇気……。出ろ、出ろ」

大丈夫よ、出来るわ……。
美希はドロップにだけ聞こえるようにそっと優しく囁いた。
始末するならなるべく早いほうが良い。
ジルフィーザど組まれ、瞬たちと合流した後でより、今。
ぐらついた気持ちと決別するにもティターンの存在は障害のように思えた。

「何でもないわ。目にゴミでも入ったみたいね」

美紀はそっと涙を拭い取り、ティターンに微笑みを帰した。
その時。
タタッ。軽い靴音を響かせてドロップがティターンに駆けていく。
それはスキップするように、まるで父親甘える子供のように。
飛び跳ねたドロップはティターンの肩へ攀じ登った。
ティターンはどこか嬉しそうに、しっかりとドロップを大きな背で受け止め、両腕で支えた。
スッと首に回されるドロップの細い両腕。
その手に持つのは幼子の玩具ではなく鏡の破片。
ナイフのように鋭い欠片が朝日を受けて煌めいた。

「マトイお兄ちゃんと皆のおかげで、大事なこと全部思い出したよ」

無垢な幼子の表情は無く冷たい殺意に満ちた目。

160:名無しより愛をこめて
08/11/13 12:39:23 jmjBVgIQ0



161:名無しより愛をこめて
08/11/13 14:57:43 V6Ltb5720
支援

162:本当にすみません。続きいきます ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:42:53 h0HNdxI80
ドロップが黒装束の肩口を強く引く、黒装束が反物に戻りふわりと落ちた。
手伝うよ。
ドロップの目が語っているようだった。

「やめないか、遊んでいる場合ではないのだ」

悪戯を咎めるティターン。
嗤いながらドロップがティターンの首を締め上げる。

「うぐぅ!」

うめき声を上げながら、ドロップを振りほどこうとする手は、どこか躊躇しているようだった。
ティターンには信じられないのだろう。
首をへし折られそうになりながらも、振りほどこうとする手を破片で切り裂かれようとも……。

グチッグギリッッ!

骨が、血管が、器官が破壊される音が響く。
深緑色のティターンの額に、ミミズがのたうつように血管が浮き立つ。
ティターンの首が見る見る捻り曲がった。
笑い声こそ上げないがドロップが狂喜しているのがわかる。

「~~~♪」

ドロップは手柄を立てた子供のように誇らしげな笑顔を美希に向ける。
タンッ。
ティターンの体を蹴って軽快にジャンプし美希の方へ駆け寄る。

「美……希……逃…げろ……」

まだティターンにはわからないのだろうか。
この手に握っているのは、手槍の型を成したスタッグブレイカー。

163:本当にすみません。続きいきます ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:44:28 h0HNdxI80
美希はありったけの力を込め、槍先をティターンの胸へ突き立てた。

「逃げろ?どこへ逃げればいいのよ……。このまま逃げてどうしろと言うの?!」

手に伝わる肉を突き破る感触。
スタッグブレイカーはティターンの胸に深々と突き刺さる。
そこで初めてティターンは何が起きたのか悟ったようだ。
抵抗するかのように美季の肩を掴む。
否、ティターンの暖かい手からは抵抗の意思でなく、改心を願う温情が伝わってきた。

不意に……。

――ドロップ君をたのんます。そのために纏さんも命を懸けはったんやし
おぼろの声を思い出す。

――お兄さん、心配してるだろうな。
蒼太の優しい笑顔が蘇る。

――空で、纏さんと一緒に見てくれてるだろうから。
悲しみを力に変えた瞬の姿が脳裏に浮かぶ。

――人の未来は地球の未来なんだ!
纏の叫びが胸を突く。

――人間の絆、そこに溢れる勇気。私は信じています。そして、もっと知りたいのです。
スフィンクスの願いが心を砕こうとする。

――ママ!
ナツメの声が頭の中で弾けた。

――あなたは戦わなければならないのです。なつめさんを失いたくなければね……。

164: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:45:12 h0HNdxI80
ロンに引き裂かれるナツメの幻が眼の前に広がる。

「あなたたちと……。こんなふうに出会いたくなかった……」

もう一度スタッグブレイカーを引き抜き再びティターンめがけ突き出した。
僅かに体を捻ったティターン。その右脇腹をスタッグブレイカーが抉り取る。

「ナツメを……守るためなの……」

美希は右手に力を込めた。
うっすらと美希の背後に浮かび上がる激獣レオパルドの巨躯。
激気が濁流如く身体を駆け巡り、右手に流れ込む。

「激技、貫貫掌……」

美季は激気を込めた掌底をティターンの脇腹へ打ち込こんだ。
その瞬間、時が止まったようにティターンの身体が静止した。

「……その……悲しい拳で……守ろ……うというのか……?」

ティターンはそっと優しく包むように美希の手に触れようとした。
だが、フッと力が抜けたようにだらりと手が下がった。
前へ崩れていくティターンの身体を美希はそっと支えた。
手に伝わるのは冷えて行く温もり。硬直した身体の感触。耳を澄ませても聞こえない息吹。
美希の腕の中で消えていく命。
これでまた一人。

165: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:45:55 h0HNdxI80
美希はティターンの身体を地へ横たえ、ゆっくりとその場を離れた。

ゴオオオオッ……。

燃え盛る火柱がティターンを包んでいた。
火柱はすぐに掻き消えた。後に残ったのは炭化した黒い塊だった。
ドロップがぎゅっと美希の手を握った。

「行きましょう。あの子たちが来る前に、ジルフィーザのところへ。
お兄さんにはあの子たちの始末を手伝ってもらった後、死んで貰うわ……。それでいいわね」

ドロップは力強く頷いた。

§

「っと、美季……さん?まだ、こんな所にいたんだ」

瞬は、追い付いた美季に一瞬声をかけて良いのか戸惑った。
タワー付近で追い付いたが、そこにティターンの姿はなく。
少し怖い顔をした美季がドロップの手を引きF-7エリアの方角へ向かっていた。

「ティターンは、どうしたんだ?」

美季が出てきたのはタワー裏手、爆発の中心あたり。
爆発の原因でも調べていたのだろうか? 
もしかしたら、人質だった美季は自分たちより纏の死に責任を感じているのかもしれない。

166: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:47:42 h0HNdxI80
ティターンの姿がないのは瞬の位置からティターンが見えなかっただけかもしれないのだし。
だが、何となく美季の表情が気になる 。

「何もないんだろうけど」

行く先はわかっているのだから確かめてから合流しても遅くない。
瞬は爆心地へ近づいた。

溶けて曲がった鉄骨も、黒ずんだコンクリートも、爆発の酷さを物語っていた。
瞬はいたたまれない気持ちになった。
こんなところで何をしようっていうのだ。
確かめたところで何もない。
それよりも早く追い付いて美季たちの護衛にでも回ったほうがいい。

ティターンがいないということ。
最悪の想像をすればネジブルーの声に集まった誰かから、自ら囮となって美季たちを逃がしたとも考えられる。
やはり早く美季に確かめてみなければならない。

「行こう」

瞬は、デイバックを担ぎ直し瞬はタワーに背を向け走り出した。
ガサガサとバックの中身が揺れる。

「あぁ、支給品の変なカプセル。別れる前に、蒼太さんに見て貰えば良かった。案外これもプレシャスってヤツかもしれないな」



167:名無しより愛をこめて
08/11/13 16:50:28 E12C3MJvO
支援

168: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:51:57 h0HNdxI80



§

ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。

デイバックから聞こえるのは不規則に、僅かに歩調と異なる音。

ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。……ガサッ!

§




169:名無しより愛をこめて
08/11/13 16:57:40 E12C3MJvO



170: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:57:44 h0HNdxI80


……ィ…ターン。ティターン。

深い闇の底に沈んだティターンを呼ぶ声がする。
その声にティターンの頬が緩む。

……相変わらず、人とは興味深いものです。
勇気と絆の力で闇に打ち勝つのも人間なら、子の為に修羅に堕ちるのもまた人間。
もう私たちに出来ることは見守ることだけのようですね。

闇の底に一筋の光が差し込んだ。

……さぁ、行きましょう。
そして、あなたに何から話しましょうか。
あなたが眠った後のインフェルシアと人間界のしましょうか?
それともここで出会った者の話にしましょうか?

光の中から声の主がティターンに手を差し伸べる。
 
あぁ、行ったらゆっくり聞かせてくれ。
俺たちに時間は充分にあるのだから……。


【冥府神ティターン 死亡】
 残り32人


171:名無しより愛をこめて
08/11/13 16:57:52 V6Ltb5720



172: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:02:18 E12C3MJvO
【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:良好。1時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:マーフィー修理後、おぼろと共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:おぼろを守る。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。

【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:マーフィー修理後、蒼太と共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。
※時間軸のずれを知っています。


173: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:03:09 h0HNdxI80
【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲火傷、応急処置済。1時間メガブルーに変身できません。
[装備]:デジタイザー。ゴウライチェンジャー。
[道具]:支給品一式、カプセル(次元虫)その他確認済み
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って夢を叶える前にこのゲームを終わらせる。
第一行動方針:纏の死に深い悲しみと強い決意。確実に成長。美希とドロップを追う。
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
 変身制限があることを知りました。
※時間軸のずれを知っています。


【名前】マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:銃弾によりかなり破損、修復中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:修理を受ける

174: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:03:51 h0HNdxI80
【名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:健康
[装備]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー(鍵のみ、タワーの損壊で壊れている可能性があります。ネジブルーの物とすり替えました)スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:なつめを救うために勝ち残る 。
第一行動方針:ジルフィーザを利用して瞬、おぼろ、蒼太の殺害。
※時間軸のずれを知っています。

【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-5都市 1日目 午前
[状態]:健康。二時間能力発揮できません。
[装備]:不明
[道具]:メメの鏡の破片、虹の反物
[思考]
第一行動方針:不明
※時間軸のずれを知っています。



175:腕の中で眠るあなたが大好きだった ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:08:00 h0HNdxI80
以上遅くなり申し訳ありませんでした。

指摘、問題点、感想等、お願いいたします。

一点、修正させてください。
>>154
おぼろがイカヅチ丸を美希に差し出した。

おぼろがスタッグブレイカーを美希に差し出した。

でした。

路しくお願いします。


176: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 17:17:12 E12C3MJvO
大事なことを書き忘れていました。

ラストのスフィンクスのせりふは死者すれから引用させてもらっています。
作者氏にことわりなく引用しているので不快であれば書き換えます。


177: ◆8ttRQi9eks
08/11/13 19:40:56 NqDwPy7v0
◆MGy4jd.pxY さん、投下お疲れです。
いつも代理投下していただいている私は恥ずかしい限りです。
サブタイトルが良いですね。最悪の目覚め方をしたドロップ、ぶれはじめた美希の対比が面白かったです。
そして…ティターン散ってしまいましたね。マジレン勢で残るはヒカル先生だけ。
この先、ジルフィーザとドロップの邂逅が何をもたらすか? 引きの鮮やかさが印象深いですね。参考にしたいです。


また、大変遅くなりましたが、代理投下していただき真にありがとうございました。
感想は本当に励みになります。次回作も頑張ります。
つきましては纏めの際、以下の部分を修正していただけませんでしょうか?
申し訳ありません。
>>131
>ただし、メレは全員の人とな理央知っているわけではない。
は誤りで人となり、でした。
>>134
>「…今からする話を信じる、信じないはお前達の勝手だ…もしも信じられないなら俺を倒すなり、なんなり好きにしろ……―」
一人称は私です。

178:名無しより愛をこめて
08/11/13 20:01:18 Leicw479O
投下GJです!

ティターン死す……
彼はロワで生き残るには優し過ぎたのかもしれませんね。

前半のどこか穏やかな光景から、一転の悲劇。
美希の迷いとティターンの優しさが哀しかったです。
タイトルが胸に刺さる……

そして、いよいよ目覚め始めた次元虫にドキドキw

死者スレを投下したのは自分ですが、不快などという事はまったくないです。
むしろ光栄でした!
面白かったです!GJ!

179:名無しより愛をこめて
08/11/15 23:29:23 E+JcO7VRO
保守

180:名無しより愛をこめて
08/11/17 01:16:30 rQAm2tmcO
遅くなりましたがGJです!面白かった!

マジレンジャーは全滅までいよいよリーチか……負けるな!ヒカル先生!w

181:名無しより愛をこめて
08/11/18 11:52:08 yGVLl6sR0
それでもスモーキーなら、スモーキーなら、きっとなんとかしてくれる。

182:名無しより愛をこめて
08/11/21 00:43:31 WX/tXRSCO
正義の保守を突っ走る。
パロロワ戦隊保守レンジャー

183:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:45:36 QlF1XhgH0
「映士! 映士なのね!! 良かった、無事だったのね!!」
目の前に現れた意外な人物に高丘映士は呆気に取られた。
銀色の髪の毛はちじれ、白い装束は土に汚れ、酷く消耗した様子でふらふらと彼に近づいてくるのは、
母であり、西のアシュ-ケイだ。
「お・おふくろ!? なんでこんなとこに!!!」
動揺する映士はしかし、すぐに冷静さを取り戻す。
「お袋…」
彼女が映士の前に憔悴しきった姿で現れたのは映士がウメコの死を確認してすぐ後のこと。
放送後に仲代と菜摘と合流すべく歩みだしてすぐ後のことだった。
「映士! 無事だったのね! 怖かったわ!! 怖かった!!!」
ケイは崩れるように映士へその身を預ける。その唇は真っ青だ。
「お、おいおい…大丈夫かよ!?」
「えぇ…もう、大丈夫よ…あなたがいてくれるもの…―」

「そうか…だったらもう、離れろよ。気色悪くて仕方ねぇ…女装なんていい趣味とは思えねぇな」

映士の乾いた言葉にケイは素早く身をはがし、間合いを取る。
「そんなんで俺が騙されると思ってんのか!? そのネタはもうオウガが手をつけちまってんだよ、舐めんじゃねぇぞっっ!!」
ケイは大袈裟に両手を広げ、やれやれという様に肩を竦めてみせる。
次の瞬間、金色の煙に全身が包まれ人の形をした邪な竜が姿を現した。
「てめぇ…どういうつもりだ!!」
目の前に立つは金色の衣を纏った怪人。この馬鹿げた宴の主催者―ロン。
「流石にガイを下した後のあなたにこんな手は通用しませんでしたか…」
ロンは不敵な笑みを浮かべたまま、映士と対峙した。
「別にたいした用事ではありませんよ。ちょっとしたお願いと運動を兼ねてあなたの前にお邪魔したと言うわけですよ…
お手間は取らせません。そして、損もさせません。」
「何言ってんだ、てめぇ…!」
怒気を強める映士の拳に力が篭る。手に持ったサガスナイパーが震えた。



184:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:46:25 QlF1XhgH0
「ですから、私とちょっとしたゲームをしていただきたいんです…余興ついでの余興? ね、いいでしょう? 絶対に損はさせませんから」

「あなたが、もしもただの一箇所だけでも私に傷をつけることが出来たなら、あなたの願い事を何でもかなえて差し上げましょう…
なんでも結構ですよ。両親を蘇らせたい、伊能真墨を蘇らせたい…何でも結構です」
映士はしばし沈黙し、一つの質問を投げかけた。
「…今すぐ殺し合いを止めさせたいといってもか?」
「無論、構いません」
「ふざけんじゃねぇ!! てめぇどこまで人をバカにしたら気が済むんだ!!!!」
激昂し、サガスナイパーの切っ先をロンの眼前に突きつけた。
この距離からなら、例え首輪の爆発と刺し違えてもロンの首を落とせる。
互いの制空圏が色濃く交わった近接の緊張が走る。
「私は本気ですよ…最近、皆さん何を言っても誰も信じてくれないんですよ…必ず嘘だの裏があるだの…
私は誠心誠意、他者を尊重しているつもりなんですがねぇ…皆さん、随分疑り深くていけません」
「自業自得だろ」
互いの視線が深く交わる。
しかし、きつく目を凝らしてみても龍の瞳の奥の真実は見通せなかった。
「…本当に信じて欲しいなら、まずはこの首輪を外して見せろよ…それができたらお前の戯言に付き合ってやる」
映士は低い声でそう言い放った。

「いいですよ」

事も無げにロンはそういうと指を軽くこすり合わせた。
パチン。
乾いた音を合図に映士の首から金色の戒めが地面に落下した。
「―――…!」
あまりにも呆気ない解放に映士はいうべき言葉も見つからず、しばし首をさすった。
「さぁ、これでいいでしょう。しばらくは首輪を外していても大丈夫。これで気兼ねなく戦えるのではありませんか?」
余裕の表情でロンが言う。
「…何のつもりかしらねーが、てめぇ相手の殺し合いなら喜んで乗ってやるぜ! 真墨のことやらウメコのことやら気にくわねぇことだらけだからな!!!」
ロンの言葉の不自然さを気にも留めず、映士は右腕のブレスのカバーを勢いよく開いた。



185:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:48:32 QlF1XhgH0
「ゴーゴーチェンジャー!!」

刹那、目もくらむほどの眩い輝きと共に一瞬で白銀の戦士が誕生した。
肩に担いだ専用のボウケンアームズ<サガスナイパー>を身体の前面へ旋回させると同時に折りたたみ変形させる。
無駄のない一連の動作で素早くトリガーを引く。
映士の怒りを反映する様な断罪の光が連なって丸腰のロンを襲った。

「フフ…どこを狙っているんです??」

ロンはまるで意に介す様子もなく、ただのらりくらりと弾道の軌跡を読んでいるように弾雨を避けていく。
「これでは運動不足の解消にはなりませんよ…もっと頑張ってほしいですねぇ……」
括る事、裂くことの通じぬ流水がごとき動きに標的が一定しない。
オリンピック候補であったさくらならともかく、元々白兵戦を主体とする映士には分が悪い。
「あぁ、そうそう…言うのを忘れていましたが、この戦いは殺し合いの外の出来事。私自らあなたの命を奪うことはありませんし、
今後のあなたの行動に差し支えるような肉体的外傷や制限を負わせる真似もしませんからご安心を。
勝っても負けてもリスクは一切なしです。外れなしのクジみたいなものですよ」
龍が微笑む。顔一杯に笑顔を浮かべて。
「うるせぇっっ!!」
あたらぬなら当たりに行くまで。
リーチの長さを生かした豪快な槍捌きこそ、高丘流の真骨頂だ。
今滅の錫杖に見立てたサガスナイパーをまるで身体の一部のように軽々と振り回し、悪辣な龍を追撃する。
しかし、数々の危難を払ってきた、父から受け継いだ高丘流が通じない。
「あぁ…お願いの方ですがね…高丘さん、あなたに殺し合いに乗ってほしいんですよ」


186:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:49:44 QlF1XhgH0
思い出したようにロンが言う。
「俺が他人を殺す!? 夢見てんじゃねぇぞ!! 皆が皆お前の思い通りになると思ったら大間違いだぜ!!」
感情の大きなうねりに獲物を振り回す動きが鋭さを増す。
しかし、ロンはひらひらと紙のように舞うだけで、全くそれを意に介さない。
「そうなんです、問題はそこなんですよ。絆の力があなたを人に留めている。
父から受け継いだ誇りと、母であるケイの注いだ愛情。仲間達からの信頼。
わたしはね、高丘さん…今回、そうした規格外の力に挑戦しようとこのゲームを企画したんです」
「なに…!?」
「わたしはかつて、一度人に敗れました。その時にね、あなたに良く似た境遇の男を使って私の敵をかく乱しようと目論んだことがあるんです…
しかし、彼は予想に反して私の仕掛けた呪縛を打ち破った…このゲームに参加しているある男もそうです…彼らは私の手のひらで踊る操り人形に過ぎなかったのに……」
「ようするにてめぇは人の力を見くびったってことだろ! 無様な話じゃねぇか!!」
ボウケンシルバーは一旦、間合いを開くと大きく獲物を真横に薙いだ。

「サガスラッシュ!!!!!!!!」

白銀の閃光がロンを激しく打ち据える。
しかし、彼は微動だにしなかった。
そっと手をかざす。
次の瞬間、断罪の輝きは竜の手のひらで四散した。
「ですがね…人の心など脆いもの………あなたはこのゲームで既にそれを一度目撃しているはずです」
頭が砕け、無残な死を遂げた胡堂小梅の姿が脳裏によぎる。
「彼女は宇宙警察に所属する優秀なSPDでした…常人より体力的にも精神的にも勝る人物でありながら、
彼女は己の心の弱さに打ち勝てなかった…そしてあんな形で最期を迎える羽目になってしまった」


187:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:50:32 QlF1XhgH0
「…………!!」
「そして、それはあなたの仲間とて例外はありません」
「なに!? どういうことだ、そりゃ!!」
「こういうことですよ」
ロンの体が解ける様に煙となってあたり一面を黄金色に染め上げる。
「くそっ! 逃げるつもりかよ!! 勝負は終わってねぇぞ!! ロン!!!」
煙の中にまぎれたロンの姿を探して映士は煙の只中へ飛び込んでいく。
しかし、もうもうと立ち込める煙の中では居場所は定かではない。
頼みのサガスナイパーも反応を掴めないでいる。

「出てこいっ!! 出てこい、ロン!!!!」

激昂し、闇雲に突き進む映士の眼前が急に開けてくる。
その先の光景に映士は言葉を失った。


『…殺さ…ないで……ください…お願い…します…―…』


これは、誰だ。
姿形は映士のよく知る女性に似ているが、彼女はこんなことはしない。
地に膝をつき、宿敵の足を懸命に舐める。
彼女なら、こんなことは絶対にしない。
「おいっ! ロン!! てめぇ、こんなまやかし見せてどういうつもりだ!!」
そうだ。
これはロンが見せた悪夢に違いない。こんな無様な女が彼女であるはずがない。
現に、彼女は瀕死になった自分を庇って戦ってくれたではないか。
…―人の心など脆いもの。そして、それはあなたの仲間とて例外はありません―…
「聞こえてるんだろ!!! 返事をしやがれッッ!!!」



188:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:51:20 QlF1XhgH0
『私の完全な負けです…あなたにはもう、逆らいません…どんなことでも言うことを聞きます!
…ですから…命だけは助けて下さい!!』

どれだけ大声を張り上げても飛び込んでくる声に映士は胸を掻き毟られる思いだった。
これは現実ではない。断じて、現実などではない。
「出てこい!!! ロン!!!! 出てこいっっっ!!!!!」
ガイを倒したことで過去と決別したはずだった。仲間との新しい冒険を歩んでいけるはずだった。
だが、沸き起こる裏切りへの怒りは彼のもう半分の血を否応もなく駆り立てる。
アシュとしての、血を。

「ロン!!! ロンッッ!!! ロンッッ!!! ロンッッッッ!!!!! ロン!!!!!!!!!!!!!!」

映士は喉が破れるほどに叫び続けた。
ロンは何も応えなかった。


……――――――――――――――――――……




189:名無しより愛をこめて
08/11/22 22:52:59 QlF1XhgH0

全ては白昼の悪夢だったのか―
高丘映士は意識の混乱にしばし、立ち尽くしていた。首輪は元のとおり、しっかりと彼の生殺与奪を統括している。腕のゴーゴーチェンジャーにも制限の後は見られない。
「なんだってんだ、全く…」
全てを映士は夢だと思うことにした。
さくらがあんな行動を取るはずがない。
あるいはロンが映士の引き込みを計ったのかもしれないが、それは失敗に終わったようだ。
「俺様が言いなりになってたまるかってんだ!!」
腕をぶんぶんと振り回し、映士は仲代たちと合流すべく再び歩み始めた。
(あんなの…嘘に決まってらぁ!)
そう、全ては偽りだったのだと彼は無理に思い込もうとしていた。
脳裏にはさくらの卑屈な表情が張り付いたまま。
クエスターを倒し、確固たる物となったはずの信頼に微妙な揺らぎが生まれたことを彼は自覚するのを避けていた。
信頼と疑心の間で揺らめく様はそのまま、アシュと人との間で揺れ動くことへと直結する。
「あんなの…嘘に決まってらぁ…」
自身の迷いを打ち消すように、映士は言葉を発した。


【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:スコープショット、ボウケンチップ、ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:壬琴たちと合流し、ビビデビの処遇を決める。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。



190: ◆8ttRQi9eks
08/11/22 22:56:03 QlF1XhgH0
遅くなって申し訳ありません。タイトルは「白昼夢」で。
それとこっちが正しいステータス表です。

【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:スコープショット、ボウケンチップ、ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:壬琴たちと合流し、ビビデビの処遇を決める。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。
西堀さくらに僅かな信頼の揺らぎ。場合によってアシュへ傾く恐れあり。

191:名無しより愛をこめて
08/11/23 14:47:02 A3dbwaoEO
>>190
投下乙です。
揺らがない映士に動揺を誘いに来たロン。
相変わらず行動が卑劣です。

さあ、今後どうなっていくのか…

GJでした。

192:名無しより愛をこめて
08/11/23 21:05:01 HwXkLclvO
投下乙です。
ロンが見せた白昼夢、映士の心に波紋を投げかけたようですね。
感想が遅くなり申し分なかったです。
GJでした。

193:名無しより愛をこめて
08/11/25 13:19:54 SlyidLYU0
保守

194: ◆MGy4jd.pxY
08/11/26 02:53:15 o1pFqH+9O
予約スレにも書き込みましたが……。
たびたび申し分ないのです。延長を申請いたします。

195:名無しより愛をこめて
08/11/26 10:19:07 56OMFh89O
>>194
了解しました。
楽しみにお待ちしてますね。

196:名無しより愛をこめて
08/11/26 22:05:59 IzL1B/uc0
陽気なアコちゃんがまだ出てこないのが意外。

個人的にはぬぎぬぎビームガンを早く出してほしい。

197:名無しより愛をこめて
08/11/26 23:01:49 4RjK7bWh0
全部の話を実写で見たいなw
のっけから頭潰される真墨とか、どんどん狂ってくスワンさんとかトラウマもんだろうけどw
グレイVSボスとか普通に見たい。

198:名無しより愛をこめて
08/11/27 00:39:51 tfJuMkG0O
精神壊されてくドモンとかさくら姉さんも自分にはトラウマになりそうだな。
でも確かに見てみたい。
調子狂わされてたアバレキラーには笑うと思う。

199:名無しより愛をこめて
08/11/27 00:52:54 SyISsirk0
>>197
スーツアクターが……w

200:名無しより愛をこめて
08/11/27 08:17:27 zLc8UsbqO
>>199
そこはほら、ウルトラマンみたいに人形で吹き替えを…無理?w

201:名無しより愛をこめて
08/11/27 15:30:39 H4XeHQYU0
想像するのが小説だ。

……でも見てみたい。

202:名無しより愛をこめて
08/11/27 19:11:30 Y9lQaZ9B0
見てみたいねー……MADって手もあるな……

203:名無しより愛をこめて
08/11/28 20:42:40 osqvnpHU0
っても、土下座する姐さんや黒焦げになった深雪ママの画像なんてないからなぁw
まぁ、前者は31話を編集すればそれっぽくは出来そうだが。

204:名無しより愛をこめて
08/11/30 11:29:24 ClGZ6vsF0
深雪ママの人形をレンジでチンする。

205:名無しより愛をこめて
08/11/30 22:40:10 ClGZ6vsF0
そういや、ロンがいるのになつめが全然でないけど、本当になつめは誘拐されてるの?

206:名無しより愛をこめて
08/11/30 22:43:54 aFcXWqPg0
それを知るのは神もといロンのみw
個人的にはどっちであってもロンらしいと思う。

207:名無しより愛をこめて
08/12/02 00:21:22 HkMr6zWU0
最近、更新ないなぁ…管理人さんの元気なんだろうか?
まぁ、年末だしお仕事がお忙しいのかも分からんが。

208:名無しより愛をこめて
08/12/02 01:27:13 kIfSmNdvO
お任せしてばかりだからねえ。
何かお手伝い出来ないものか…

209:名無しより愛をこめて
08/12/05 08:58:38 +7vvhv5p0
◆L3kdlaSWMo氏と◆8ttRQi9eks氏って同じ人だろうか?

210:名無しより愛をこめて
08/12/05 12:37:51 VXo8PoRv0
wikiでもう一つまとめ用意する?

211:名無しより愛をこめて
08/12/05 14:07:59 Kk2Fpt7nO
>>210
そういう話題は議論スレにてトリ付きでするべきではないでしょうか?


212: ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:28:59 THDhXJGl0
シグナルマン
投下します。

213:北東へ ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:30:08 THDhXJGl0
 既にブクラテスの叫びは届かなくなった森の中、シグナルマンはスモーキーの出鱈目な勘を頼りにただ歩き続けていた。
 スモーキーは根拠のない自信を胸に、シグナルマンにあっち行けこっち行けと無茶苦茶な指示をする。
 最初は従っていたものの、何もないところに何度も向かわされているシグナルマンはスモーキーに対する不信を抱き始めていた。

「スモーキー、やっぱり北東に向かわないか? 今からでも……」
「あんなヤツのいったこと、信用できるかニャー!!」

 シグナルマンはただ黙ってスモーキーを見ている。
 スモーキーには、それが呆れ果てた表情に見えてならない。

「何だその目はニャー!!」

 スモーキーは憤怒する。

「さっきから思っていたんだが……スモーキー、君は出鱈目を言ってるんじゃないか?」

 その言葉はスモーキーの胸に刺さる。まさにその通りだ。
 だがその様子を隠してスモーキーはシグナルマンを見つめた。

「君は本当に菜月ちゃんを捜す気があるのか? ブクラテスの指示に従わなかったのも気に食わないから……そう見えるんだが」
「そ……そんなワケないニャー!!」

 シグナルマンがゆっくりとスモーキーを地面に置いた。
 しゃがんだままシグナルマンはスモーキーに問う。

「君はさっきから『あんなヤツの言った事』、『あんな奴の言う事』と全てブクラテスの言う事に従おうとしていないだけに見える。スモーキーがまだそんなことを言うようならば本官は君の意見を無視して北東へ進む」
「……!?」

214:北東へ ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:31:00 THDhXJGl0
 スモーキーはあせりを感じ始める。
 シグナルマンの顔がどんどん近づいてきているように錯覚してしまう。

「……北東ニャ。北東に行けばいいニャ。ブクラテスの占いを信じてみるニャ」

 スモーキーが本心とは裏腹な返事を口に出す。
 だがブクラテスのあの謎の自信もずっと頭の中で微かにでも信じていたのだ。
 いや、そうではないのかもしれない。
 それは自分の対する不信だったのかもしれない。

 シグナルマンはまたスモーキーを手に取った。

「わかった。……ところでここはどこだ?」

 シグナルマンはマップとコンパスを見ながら首を傾げだした。
 スモーキーが出鱈目にシグナルマンを動かしたせいで、現在地がうまく把握できなくなっていたのだ。

「聞かれても困るニャ」
「と……とにかく、北東に向かおう」

 シグナルマンが手持ちのコンパスで方角を合わせた。
 だが彼らはまだ気付いていない。既に菜月は彼らから見て南東の位置にいることに。
 そう、また菜月と彼らの距離は広がろうとしているのだ。

215:北東へ ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:33:19 THDhXJGl0
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:B-5 森 1日目 午前
[状態]:健康。少し凹み気味。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(残数2個)、ウイングガントレッド@鳥人戦隊ジェットマン、メレの釵
 マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー、基本支給品とディパック
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:強い怒りと悲しみ。菜月を探し出す(北東に向かう)。その後、竜也たちと合流。
第二行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第三行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。

【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:B-5 森 1日目 午前
[状態]:健康。マジランプの中。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルを探す
第一行動方針:強い怒りと悲しみ。菜月を探し出す(北東に向かう)。


216:北東へ ◆LwcaJhJVmo
08/12/05 20:35:33 THDhXJGl0
超短文になってしまいましたが、投下終了です。

修正箇所や問題点などの指摘があればお願いします。

217: ◆MGy4jd.pxY
08/12/07 13:00:26 gisHXfwX0
遅くなりましたが投下乙でした。
はたして菜月と無事に合流できるのか?
無理だろうなw

中々中々筆が進まないので気分転換に作ってみました。

URLリンク(takukyon.hp.infoseek.co.jp)

元ネタはパロロワ戦記戦隊国より
ちなみに>>209は自分です。名前を入れようかとも思ったので……

218:名無しより愛をこめて
08/12/07 17:00:11 EBqGC1tAO
>>216
同じく遅くなりました。投下乙です。

やっとスモーキーが正直になれたと思ったらまたもや、裏目にw
負けるな!シグナルマンw

>>217
おお、かっこいい!自分も早く煽り文仕上げねばw

執筆頑張って下さい。楽しみにしてます!

219: ◆8ttRQi9eks
08/12/07 17:31:38 ImvGq61e0
>>216
あーあぁー…まぁーたはなれちゃったw
この辺ももっとぐちゃぐちゃしてくるんでしょうかね?
投下乙です。


>>217
違いますけど、どうしてそう思ったんですか?


220: ◆MGy4jd.pxY
08/12/07 20:00:53 unjNlU2uO
おう、申し訳ありません。
なんとなくさくらさんの描写の辺りが似ているかなと思ってorz

しかし発言自体が軽はずみでした。
大変失礼いたしました。


221: ◆LwcaJhJVmo
08/12/08 15:14:39 mogx4bRV0
>>217-219
感想ありがとうございます。

222:名無しより愛をこめて
08/12/10 21:13:13 aAkOUU3n0
書き手紹介が格好良すぎて痺れた!
投下してくれた人GJ!
気付くの遅くてごめんね。

223:名無しより愛をこめて
08/12/12 22:41:46 YuoyJq4vO
書き手紹介てどこでやってるんだろう。
知らなかった。

224:名無しより愛をこめて
08/12/13 09:26:39 n49TGfEpO
>>223
したらばの書き手交流スレに転記してある。

225:名無しより愛をこめて
08/12/13 11:31:53 pOlWfL6L0
>>224
おう、気付いてなかった。thx

226:名無しより愛をこめて
08/12/13 18:13:36 8vBa/cHhO
下がり過ぎで足切りに引っかかりそう。
ところで、現状一番活躍してる人と、逆に一番カワイソスな人って誰だろう?

227:名無しより愛をこめて
08/12/13 21:04:42 J832eTvsO
一番活躍は多分ガイ

228:名無しより愛をこめて
08/12/13 23:59:47 UGvbdv3b0
>>224
>>223じゃないけどサンキュ。

一番活躍は個人的にはネジブルーとブドー。
ネジブルーは狂気じみててある種活躍してる。ブドーは殺害数二位だけど一番活躍してる気がする。
あえて美希は触れない。
可哀想なのはさくらだな。

229:名無しより愛をこめて
08/12/14 00:27:10 MCkoWsSLO
さくらは可哀想か?

230:名無しより愛をこめて
08/12/14 00:55:56 j/Z0MLcOO
>>229
さくらさんはこれからどんどん悲劇に向かっていきそうなイメージあるな。
いや、まださきは分からんけどねw

231:名無しより愛をこめて
08/12/14 02:20:59 MCkoWsSLO
でも今年はもう新規の予約や更新はなさそうだなぁ・・・・・・

232:名無しより愛をこめて
08/12/14 19:42:46 j/Z0MLcOO
>>231
年末年始は忙しいからねー。
ゆっくりwktkして待とうよw

233:名無しより愛をこめて
08/12/15 15:34:50 3JCzOelq0
ガイ戦のときはある意味可哀想だった。

234:名無しより愛をこめて
08/12/15 17:43:29 94UfdtV1O
予約キター!!!!

235: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 02:35:57 kgE3KI570
まとめサイト更新しました。
大変時間を空けてしまい申し訳ない。
言い訳を並べても仕方ありませんので、今後の行動で示したいと思います。

差しあたって、1点。
>>120でネジブルーがG-5エリアからH-5エリアに移ったのが10時となっておりましたが、G-5エリアが禁止エリアになるのは9時ですので、
まとめサイトに反映するにあたり、9時に修正を行い、状態表もそれに合わせて更新しました。
他、まとめサイトに反映するにあたって、勝手ながら、誤字脱字はいくつか修正をかけております。
お暇があれば、ご確認をお願いします。


236:名無しより愛をこめて
08/12/17 10:42:01 SnQkJBp+0
>>235
おかえりなさいです!
そしてまとめ更新乙でした!!

237:名無しより愛をこめて
08/12/17 15:46:58 /EqHi2Ji0
>>235
ありがとうございました。
更新乙!

238:名無しより愛をこめて
08/12/17 18:48:26 +cTdt2/SO
>>235
おかえりなさい!
更新お疲れ様です。

239: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:20:25 kgE3KI570
あたたかいお言葉、ありがとうございます。
これからも頑張りたいと思っていますので、今後ともよろしくお願いします。

それでは投下いたします。

240: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:21:05 kgE3KI570
 時計の短針が8の数字を指す。
 約束の合流時間をわずかに過ぎた頃、映士はJ-6エリアの公園へと辿り着いた。
 見れば、白いコートをたゆらせた壬琴の隣には、ビビデビに転送され、行方不明になっていた菜摘の姿があった。
 菜摘が無事に戻ってきていたことにホッと胸を撫で下ろすと、映士はふたりの元へと駆け寄る。
「菜摘!無事だったんだな」
 映士の呼びかけに、顔を向ける壬琴と菜摘。
 しかし、どことなく重苦しい雰囲気がふたりからは漂っていた。
「どうした、しけた面して」
「アンキロベイルスが死んだそうだ」
「なに!?」
 壬琴は菜摘に代わり、彼女が体験したことを淡々と語った。
 菜摘が転送された先にアンキロベイルスがいたこと。
 しかし、それはロンの罠で危うく溺れかけたところをアンキロベイルスに助けられたこと。
 そして、首輪が外れたがためにアンキロベイルスが死んでしまったこと。
「ちっ」
 憤慨し、思わず舌打ちをする映士。ここに来る前に見た夢といい、ロンへの怒りは上限を知らない。
「まさか、首輪を外しても死ぬような細工をしているとはな。罠もさることながら、こちらの行動に対して、二重三重の手を打っている。大したゲームマスターだ」
「っ!てめぇはどっちの味方なんだよ!!」
「どちらの味方にもなった覚えはない。俺は奴のゲームに乗らないと決めただけだ。こいつを使ってな」
 壬琴は自分の運命を決めた、コインをちらつかせる。
 その挑発的な行動が映士を更に猛らせた。
 思わず壬琴に掴みかかろうとする映士。
 だが、その動きを察した菜摘がふたりの間へと入る。
「菜摘、どけ!こういう奴は一発ぶん殴らねぇとわかんね」
「駄目。壬琴も、映士も、殺し合いに乗る気はない。それなら、ふたりが争う必要はないじゃない。違う?」
「そりゃあそうだが―」
「映士の方でも何かあったみたいね。イライラしてるのがわかる。でも、それは私も壬琴も同じ。
 だからといって、それを他の誰かにぶつけちゃ、それこそロンの思うツボ。
 その怒りをぶつける先はロン。そうでしょ」

241: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:22:42 kgE3KI570
 懸命に説得する菜摘を見て、映士は最初に感じた重苦しい雰囲気の原因がわかった。
 眼の前にいる菜摘だ。
 3人で行動していた時はわずかだったが、菜摘からは明るさが見て取れた。それが今はないのだ。
 冷静になって観察すれば、彼女の握った拳にはかなりの力が込められているのがわかる。
 彼女も懸命に耐えているのだ。
(そうだ、苦しいのは俺様だけじゃねぇ)
 それに気付いた映士は拳を治めた。
「ありがとう」
 菜摘の言葉にさざ波が立っていた映士の心が緩やかになっていく。
「それで、そっちの方は何か収穫があったのか?」
 相変わらず、横柄な壬琴の態度に多少辟易しながらも、人のことは言えないと気を取り直し、映士は話を進めるため、ディパックに手を入れた。
「ああ、収穫はあったぜ。こいつだ」
 映士はスコープショットでぐるぐる巻きになったビビデビを取り出すと、地面へと放り投げる。
 ビビデビは受身を取れぬまま、地面にゴツンと当たり、悲鳴を上げた。
「痛いデビ!」
「人形がしゃべった。この人形って、生きてるの?」
「ああ、そうだ。そして、こいつが菜摘やウメコを飛ばした張本人だ」
「ほぉ」
 興味深げに眺める壬琴と、不思議そうに見詰める菜摘に、映士はビビデビの事と、彼に聞いた全ての事柄を説明する。
「正直、こいつの言ってることがどこまで真実か、はっきりとはわからねぇ。
 だが、もし、全ての事柄が真実なら、あと1時間もすれば、ロンの野郎の元へ行くことができるはずだ」
「確かにな。しかし、そのためにはどちらにしろ、首輪の解析が必要不可欠だ。
 何しろ、ただ首輪を外すだけじゃあ、死ぬことがわかった。
 こいつをどうにかしない限り、ロンを倒すことは俺でさえ不可能だ。
 ―映士、ウメコはどうした?」
「い、いきなりなんだってんだ」
 突然の話の転換。
 ウメコの死に様が、映士の脳裏を掠める。
 ビビデビのことを話す際、映士はウメコのことは一切、説明しなかった。 
 いや、説明したくなかったと言うべきか。

242: ◆i1BeVxv./w
08/12/17 20:23:47 kgE3KI570
 明るい彼女の死に様は、映士にとって、そう何度も口にしたくはないものだった。
「ウメコは……死んだ」
 意を決して、映士はその言葉を口にするが、壬琴は首を振る。
「死んでいるのは知っている。放送を聞いたからな。
 俺が聞きたいのは、お前がその死体を見つけているのかということと、その死体には首輪が残っているかどうかということだ」
「そんなこと聞いて、どうしようってんだ」
「決まっている。首輪を手に入れるのさ。ウメコの首を落としてな」
「なに!?」
 壬琴の言葉に、抑えられた彼の感情が、再び、揺らぎを見せる。
「さあ、早く教えろ」
 映士も馬鹿ではない。壬琴が何のために、そんなことを言っているかはわかる。
 ロンを倒すためには首輪を解析しなければいけない。
 そのためには誰かから首輪を入手しなければならない。だが、それはその誰かから命を奪うことに繋がる。
 それならば、既に死んでしまった誰かから手に入れるのは道理だ。
 だが―
「やなこった。これ以上、ウメコを傷つけることは俺様には出来ねぇ」
「その口振りだと、お前はウメコの場所を知ってて、首輪も残っているらしいな。とっとと教えろ。
 誰もお前にやれとは言っていない。俺がやる。これでも医者だからな。そういったことには慣れてる」
「誰がやるとかそういう問題じゃねぇ!」
「だったら、どうする?お前が自殺して、その首輪を差し出すとでも言うのか?」
「っ!」
 映士は言い返そうとするが、言葉に詰まる。
 理屈の上では壬琴に分がある。だが、映士は諦めたくはなかった。
(考えろ俺様。ウメコをこれ以上、傷つけたくなかったら、考えるんだ)
 映士は考えて、考えて、考える。
 怒りとは別の熱が頭を沸騰させた。
 そこで、ふと、心配そうにこちらを見る菜摘の姿が眼に入った。
「そうだ!アンキロベイルスだ。アンキロベイルスの着けていた首輪がある。
 アンキロベイルスの首輪なら、外れて、どっかに落ちてるはずだ。だろ?」



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