スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3at SFX
スーパー戦隊 バトルロワイヤル Part3 - 暇つぶし2ch50:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 11:58:15 IdSIG4u40
ガイはやにわにクエイクハンマーを取り出し空気の壁で攻撃を押しつぶす。
―水の攻撃はもう、懲り懲りだった。既にその手の攻撃に有効な防御手段は確保してある。
「そんな…!」
記憶の中のガイはそんな攻撃方法を持ってはいなかったはずだった。
「お前の攻撃なんざ屁でもないぜ、ボウケンピンク。妙な術を使うねーちゃんの方がよっぽど骨があったぜぇ~~!!」
こいつは、既に人を殺している。
さくらはガイの立ち振る舞いからその事実を読み取った。この空間で経験をつんだことが過去のガイに力を与えているのだ。
戦慄するさくらを更なる悲劇が襲った。
「!?」
ガイの戦闘意欲の高揚を反映して体内のゴードムエンジンがフル稼働を始める。
途端に呼応するようにアクセルスーツのあちこちから火花が上がり、システムがダウンを始めた。
「そんな…!? 制限時間はまだ…!」
しかし、それは制限時間ではなくゴードムエンジンの干渉によるパラレルエンジンのパワー供給が遮断されているために起こった異常だ。
「おんやぁ~~?」
ガイは飛びかかろうとした矢先の出来事に首を捻っている。
「パラレルエンジンは既にネオパラレルエンジンへの換装が行われたはず! それなのに…まさか!?」
―さくらの脳裏にアクセルテクターからサラマンダーの鱗が抜き取られていたことがよぎる。
「いい格好だなぁ~ボウケンピンク! なんだかしらねぇが…無様だぜぇ、お・ま・え」
スーツが鉛の様に重たい。強化スーツは本来の意義を失い、今はただ自由を縛る拘束具に等しい。
既に立っていることすら出来ず、両膝を地面へついたボウケンピンクにガイは容赦ない足蹴りを加えた。
ボウケンピンクは抵抗することも出来ずに地面へ手足を投げ出し、仰向けに倒れた。
鼻歌交じりにガイはクエイクハンマーを両腕で高々と掲げた。
「これでボウケンピンクもジ・エンドだな! さぁ~いこうだぜぇ~~!!」
何度も、何度もクエイクハンマーを仰向けのボウケンピンク目掛けて振り下ろす。
「うああああああああぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
巨大な衝撃が走る度、さくらの絶叫が辺りに轟いた―


51:名無しより愛をこめて
08/10/26 12:00:07 9WhByfx2O
支援

52:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:01:08 IdSIG4u40
装着者の肉体をあらゆる事象から防護する―強化服がこの場合仇となった。
衝撃を緩和することでさくらの身体には骨折も裂傷もない。
代償に、彼女は気絶することも絶命することも出来ないまま嬲りものになった。
限界値を越えた衝撃を吸収しきれず各部がショートし、白煙が上がる。
「そぉ~ら! もう一発!!」
ガイは一際大きく両腕を天高く振り上げると力任せに槌を振り下ろした。
「ああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!」
光の粒子と共にスーツが弾け飛び、ボウケンピンクは西堀さくらへとその姿を還元する。
苦悶の表情で悶えるさくらはスーツの飛散が衝撃との対消滅となり、致命傷を免れたものの
生身の身体ではどうすることもできない。
(チーフ…すみません……菜月…約束…守れそうもありません……)
―約束。
こんなところで死ぬわけには行かない。自分は大切な約束を守らなければならないのに。

菜月との約束。

チーフとの約束。


しかし―…それ以上に大切な約束があったはず―-―


大事な、大事な、とても大事な約束が―――…


53:名無しより愛をこめて
08/10/26 12:01:37 9WhByfx2O



54:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:01:59 IdSIG4u40




「なにそれ……あんた一体…―何者なのよ……」
戦慄。
仮にも暗黒七本槍の一柱を担う自分には似つかわしくないその感情にフラビージョの精神は支配されていた。
先ほどまでネジブルーだったはずの存在は禍々しい姿へ変貌を遂げていた。
鋭い爪。両肩から突き出した結晶体。
耳まで避けた真っ赤な顎【あぎと】からは鋸の様な牙が覗いている。
「これじゃまるで…まるで……」
恐怖に唇が震えた。一つの言葉が脳裏に浮かぶ。
「怪物じゃない…!」
「おやおや…寒いのかい? 震えているよ?? 無理ないよねぇ…僕は氷をイメージして作られたようだから…でも、安心して…すぐになんにもわかんなくなるよ…なぁぁ~~~んにもね……―」
容姿と異なり、ネジブルーの声は変わっていない。それが余計に不気味だった。
「嘘よ…あたしが見てんのはあんたの無様に飛び散った死体のはずなのに…なのになんで…!?」
既に決着はついているはずなのだ。
ネジブルーは既に10分の制限の中にあるはず。
黄金の剣の一撃は確かにネジブルーの頭を切り裂き、粉砕したはずだ。
そのはず、だったのだ。
「ふぅ~~ん…バラバラに飛び散りたいのかぁ…派手好きなんだねぇ……いいよぉ~…君のお願い聞いてあげる……君は僕を解き放ってくれた人だから」
フラビージョは決して開けてはならないパンドラの箱を開けてしまったのだ。

ネジレジアを統べる高次のエネルギー生命体ジャビウスⅠ世。
その細胞から天才Dr.ヒネラーによって創造されたのがメガレンジャーの影ネジレンジャー

55:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:04:10 IdSIG4u40
彼らは一様にヒネラーこと鮫島博士の歪んだ心のままに、その醜い容姿を鎧に包んでいる。
特筆すべきは彼らが装着されるスーツではなく、装着者そのものを強化すると言う理論体系で生み出されている点だ。
このゲームでは確かに参加者の力の発揮に10分と言う制限が設けられてはいる。
しかし、それは固有の武装や変身能力に限ったことだ。
クエスターガイの生来備わったアシュとしての悪魔の身体能力は失われることがなかったのと同様に、ネジブルーもまたその真の姿を晒すことは能力の発揮外の事象として扱われる。

かつての彼らの行動には制限が存在していた。
力の源であるジャビウスとヒネラーの間で密かに行われていた駆け引きの按配により、彼らの戦闘は半ば強制的に引き上げられていてしまっていたのだ。
だが、今はもう違う。
ヒネラーという枷をなくなった彼は檻から放たれた獣そのものだ。
ネジブルー、いやネジビザールは自らを解き放った馬鹿な小娘に向けて満面の笑みを返した。




「そろそろおネンネしなちゃいっ☆ ボウケンピンクぅ♪」
小銃グレイブラスターの照準をさくらの頭部に合わせ、ガイは引き金に指を掛ける。
万事休すだった。
傍らに転がったアクセルラーは黒煙を上げている。
恐らく、負荷に耐え切れず損壊してしまったのだろう。―もうボウケンピンクにはなれない。
ガイに生殺与奪を握られ、完膚なきまでに敗北したさくらに残された手段はただ一つしかなかった。
まずは一匹。湧き上がる歓喜の衝動を必死で抑えながらガイは引き金を引く指に力を込める。
「…さないで……く…だ…さい…―…」


56:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:05:40 IdSIG4u40
消え入るような声に引き金を引く指が止まる。
「あぁん?」
首を傾げるガイの目に信じられない光景が飛び込んできた。

「…殺さ…ないで……ください…お願い…します…―…」

さくらは命乞いをしていた。
「――!!」
憎むべきネガティブであり、仲間の仇敵であるクエスターに。
「私の完全な負けです…あなたにはもう、逆らいません…どんなことでも言うことを聞きます…ですから…命だけは助けて下さい!」
しばし呆気に取られていたガイは我に返ると、声を荒げた。
「なっ…何、言ってんだてめぇ!!!」
あまりの自体にむしろガイの方が動揺していた。思わず銃を持つ手が激昂に震える。
「お願いします。死にたくはないんです。命以外なら、支給品も食料も全てお渡しします…ですから…どうか! どうか!!…どうか命だけは取らないでください!!…お願いします!!!!」
ボウケンジャーのサブチーフという肩書きをかなぐり捨て、さくらは地面へ這いつくばった。
地面に平伏し、額を土に擦り付けて支給品が納まったディパックを、まるで神への供物が如く恭しく両手で捧げた。
「ふざけんなっ!! プライドないのか、てめぇはッッ!!!!!!」
ガイは嬲られた思いだった。こんな奴にヒョウガは殺されたと言うのか。
少なくとも、彼の宿敵であるアシュの監視者高丘の一族は例え絶命の瞬間でもこんな醜態は晒さない。あの高丘映士ならば間違いなく死を選ぶだろう。
「お願いします! どうか、命だけは―!!」
さくらは必死で叫び続けた。ここで死ぬわけには行かない。
…―こんなありきたりで、地味な死に様を晒すわけにはいかない―…
さくらは組織の命令に絶対服従だ。
それは特殊部隊時代からの刷り込みによるもので、ボウケンジャーとなった今も変わらない。
今の異常な状況下もさくらにとっては“ミッションを忠実に遂行しているだけ”なのだ。


57:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:07:01 IdSIG4u40
いつの間にか、命令する頭がすげ変わっていることに今のさくらは気づかない。

「舐めろ」

動揺から一転、ガイは抑えた声色で一言だけ呟いた。
その意味するところに考えが至るや、さくらの行動は素早かった。
掲げていたディパックを地面へ下ろすと即座にガイの足元にうずくまり、その足を両手で包むとその端正な顔を近づけていった。
「―――…」
ガイの足についた泥を舌で懸命に丁寧に舐め取り、上目遣いに瞳を潤ませ必死に訴えかける。
そんなさくらの姿をガイはその黄金の瞳で冷ややかに見つめていた。
ややあって。ガイは徐にグレイブラスターを取り出し、躊躇わずに引き金を――引いた。
パン。パン。パン。
乾いた音が朝の静寂を劈いて響いた。
弾は全てさくらの傍らに置かれたディパックを貫いていた。硝煙がゆっくりと立ち上っていく。
「失せろ」
ガイは先程と同じ、感情を読ませない低い声で言った。
もう、沢山だった。こんな無様な醜態が見たかったわけじゃない。
「助けて…下さるんですか……?」
さくらはガイの意思を汲み取れず、聞き返した。
「失せろっていってんだよ!! 何度も言わせんじゃねぇっっっ!!!!」
耐え切れず、ガイは地面へ向けて引き金を引く。
制限の中にないことが幸いだった。さくらに言い放った言葉とは裏腹にガイは
アシュの術で空間転移し、その場から逃げるように立ち去った。
最悪の気分だった。ほんの数分の戦いが、ガイの中から戦いへの高揚感を奪い去ってしまっていた。

「…ありがとうございます…ありがとう…ございます……」

見逃して頂いた。命が助かった。
安堵の気持ちとは裏腹にさくらの瞳からは涙が止まらなかった。
―自分が自分でなくなってしまった。
とめどなく流れる涙を流したまま、さくらはその場に仰向けに倒れた。


58:名無しより愛をこめて
08/10/26 12:08:23 9WhByfx2O
支援

59:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:10:32 IdSIG4u40



変貌したネジブルー、いやネジビザールがゆっくりとこちらへ近づいてくる。
「どうしたんだい…すぐに終わるさ…君が抵抗しなければねぇ~~~…」
落ち着くんだ。
剣が持つ手が震えるのをフラビージョは必死で堪えた。
相手が幾ら化け物でも今は制限の中。
特異な能力の全ては封殺されている。ゆえに彼が取れる攻撃手段は直接近づいてその鋭利な牙や爪で引き裂くと言う原始的な手段に限定される。
ならば、同じ制限下にあっても武器を持つ自分の方が有利なはず。
無論、身体能力は向こうの方が上だろうが、捕まらなければどうと言うことはない。
柄を握る手に力が篭る。
やれる-。自分はこんなところでは死なない。
「おりゃぁあ!!」
気合を込めたわりにいまいち緊張感のない声はいつもどおりだが、その声は僅かに上ずっていた。
剣の一撃が直にネジビザール型を袈裟懸けに切り裂いた-はずだった。
「え…なんで……??」
刃はネジビザールの身体を滑るように太刀筋が狂う。
「なんで! なんで!?」
二の太刀は首を掠め、三の太刀は胸を掠めた。
「あれれぇぇ? どうしたんだい?? さっきの痛いやつはもうしてこないのかい!?」
フラビージョは知らなかったが、古代レムリアの聖剣ズバーンは人間の想いの力をトリガーに
力を発動する。ゆえに、本来ならば邪な気持ちを抱いた者が扱える代物ではないのだ。
「どうして!! どうして斬れないのよぉぉっっ!!!」
狂乱するフラビージョが必死で剣を振り回せば振り回すほど、剣に埋め込まれたエメラルドグリーンの宝石は輝きを失い、黒ずんでいく。
今まではフラビージョが持つ暗黒七本槍の力で無理やりズバーンの力を歪めて引き出していたに過ぎないのだ。
その残り香ともいうべき力を、先程の一撃で消費したズバーンは既に深く沈黙していた。
「なんでなのよぉ!!!! なんで! なんで! なんで!!なんでぇぇぇぇ!!!!!!!!!!」


60:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:12:25 IdSIG4u40
最後には癇癪を起こした子供のように剣をネジビザールへ投げつけた。
「くれるのかい? でも…いらないよぉ…こんな鈍ら刀…」
ネジビザールは怪訝な目つきで受け止めたズバーンをみやると、ぽいっと背後へ捨ててしまった。
地面に突き刺さったまま、ズバーンは動かない。
「いや…いや…!…来ないでよぉっっ!!!」

必ず、生き延びてボウケンブルーも、おぼろも、ハリケンジャーもみんな殺す。
楽しそうだから戦いに乗った。
宇宙忍郡ジャカンジャに参加したのも楽しそうだったから。
現に、地球を腐らせるという背徳的な行為にフラビージョは無邪気な喜びを見出していた。

早く、こいつを殺して―また楽しむんだ……人々が、敵が苦しむ姿を――…


「終わりだよ…君はここで死ぬんだ…さよなら、僕を解き放ってくれた人…」



混濁の意識が急速に光を取り戻していく。
その先にあったのは柔らかな女性の笑顔だった。
「あなたは…?」
まだ、かすかにけだるさの残る口調でさくらは目の前の女性に問いかけた。
「私は真咲美希。スクラッチ日本支社の責任者よ。でもって獣拳使い…今は引退してお母さんしてるけどね」
そういって微笑んだ顔は、今のさくらが失ってしまった最高の笑顔だった。
「真咲美希…人質にされていたんじゃ…?」
「えぇ…わたしはネジブルーってやつに人質にされて、そこから逃げてきたの。さっきの爆発聞いたでしょ? 間一髪だったわ。そうしたら、こんなところに人が倒れていたから。驚いたわ」
さくらは消え入りたいような恥ずかしさを感じた。
本来なら、自分が彼女を救うはずであったのに。これでは逆ではないか。
「お水、飲む? 喉渇いたでしょ」
そういって、自らのディパックを漁る美希をさくらはあわてて押し留めた。



61:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:14:18 IdSIG4u40
「待ってください! 助けていただいたのに、貴重な水まで譲っていただくわけには!」
「でも…あなたのは…」
そういって美希が指し示した先を視線の先には、銃創が走る無残なさくらのディパックが転がっていた。
「何があったか知らないけど、あなたの支給品はもう駄目ね。悪いとは思ったけど、調べさせてもらったわ」
そう言って、美希はさくらのアクセルラーを取り出した。
「これもあなたのでしょ? もう、壊れてしまっているようだけど…」

さくらは美希を知らなかったが、美希はさくらを知っていた。
世界に名だたる西堀財閥の令嬢にして、元自衛隊特殊部隊の射撃オリンピック候補。
そして、ボウケンジャーのサブチーフ。
同じキャリアウーマンとして美希には、さくらに通ずるものがあったのは確かだ。
しかし、先程の無様な醜態は彼女を深く失望させた。
ボウケンジャーやゲキレンジャーの面々から伝え聞いていたさくらの印象とは180度異なる醜聞。
今の自分は決して正しい白の中にいるとは言えないが、彼女の様に自分の命惜しさにやっていることではない。
娘を、なつめを守る。その為にこそ生き残る。
美希の行動は全てそこに集約されている。
―あなたはいつだって、明石暁のお荷物よ…西堀さくら―
あの時も、彼女は宇宙拳法使いパチャカマック12世に憑依され、結果的にではあるが地球を危機に追い込んだ。
そして、今もまたガイに敗れ、あろうことか命乞いをして生き延びた-
「あなた…SGSの人でしょ? だったら明石暁の関係者よね?」
「…はい。私達はプレシャス保護を目的として創設されたチームなんです……」
美希から渡されたアクセルラーを受け取り、さくらは応えた。
「そう…心配よね、彼……」
「はい……」
美希がさくらを助けたのは幾つか理由があった。
一つは、彼女がロンにとって最大の障壁であろう明石暁の関係者であったこと。
そして、さくらこそ美希が捜し求めていた愚者であろう確信を持ったからだ。
-惨めで最高に無様な死に様をあなたに-
「大丈夫。私がついてるわ…一緒に行動しましょう? 丁度、人からはぐれて心細かったの。


62:名無しより愛をこめて
08/10/26 12:14:42 9WhByfx2O



63:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:15:33 IdSIG4u40
あなたが一緒なら心強いわ」
美希は心底の思いをおくびにも出さず、笑顔でさくらに同行を申し出た。



<SIGN>

青かったはずの身体は鮮血に染まっていた。
かつてフラビージョであった肉片がそこら中に散らばっている。
最早、原形をとどめないその死肉を貪りながらネジビザールは自らを照らす日差しに手をかざした。

「美味しい、美味しい朝ごはんご馳走様。とてもお腹一杯だよ…爽やかな朝だねぇ…―」

一つの死が一つの命を成長させ、新たな悲劇を巻き起こしていく-…
惨劇の果てに何が待つかは、誰も知らない。


64:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:16:29 IdSIG4u40
【フラビージョ 死亡】
残り32人



【最上蒼太@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.3、後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:良好。2時間ボウケンブルーに変身できません。
[装備]:アクセルラー@轟轟戦隊ボウケンジャー、スコープショット@轟轟戦隊ボウケンジャー、バリサンダー@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:ヒュプノピアス@未来戦隊タイムレンジャー、スタッグブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:おぼろと共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:おぼろを守る。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。

【日向おぼろ@忍風戦隊ハリケンジャー】
[時間軸]:巻之三十、後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身に軽い火傷、打撲。応急処置済み
[装備]:イカヅチ丸@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:支給品一式
[思考]
基本行動方針:ミッションの達成(首輪解除・脱出・ロンの打倒)
第一行動方針:蒼太と共にJ-10エリア『叫びの塔』へ(ガイは手負いだと思っています)
第二行動方針:首輪を何とかする。ジルフィーザと合流する。
※首輪の制限に気が付きました。



65:名無しより愛をこめて
08/10/26 12:17:44 QDTdMSuC0



66:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:21:08 IdSIG4u40
名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲火傷、応急処置済。2時間メガブルーに変身できません。
[装備]:デジタイザー。
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)纏のデイバック
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って夢を叶える前にこのゲームを終わらせる。
第一行動方針:纏の死に深い悲しみと強い決意。確実に成長。ジルフィーザと合流。
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
 変身制限があることを知りました。

【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身打撲。火傷。2時間能力発揮できません。
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:ジルフィーザと合流する。
第二行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。首輪の制限があることに気が付きました。
   :纏からタイムレンジャー、サイマの情報を得ました。



67:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 12:22:42 IdSIG4u40
【名前】マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:銃弾によりかなり破損しています。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:ティターンと行動する。
第二行動方針:知り合いを探す。

【名前】ドロップ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:26話、サラマンデス覚醒前
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:健康。熟睡中。
[装備]:不明
[道具]:メメの鏡の破片、
[思考]
第一行動方針:不明

【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:F-5都市 1日目 朝
[状態]:全身に打撲、傷有り。2時間能力発揮出来ません。ネジビザールの本性を現しました。
[装備]:ネジトマホーク
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー(マシンハスキーの鍵は美希が持っています)
[道具]:支給品一式×2、詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器。
[思考]
第一行動方針:メガブルーを殺す。 邪魔なヤツも殺す。一人殺しました。
※ズバーンとフラビージョの支給品はF-5都市に放置しています。


68:名無しより愛をこめて
08/10/26 12:23:42 9WhByfx2O
支援

69:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 13:02:46 IdSIG4u40
【クエスター・ガイ@轟轟戦隊ボウケンジャー】
[時間軸]:Task.23以降
[現在地]:G-6都市 1日目 早朝
[状態]:全身に裂傷。かなりの重症のため時間制限に関わらず戦闘不能。要回復アイテム。
気分は最悪。興を削がれています。二時間の制限中。
[装備]:グレイブラスター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:クエイクハンマー@忍風戦隊ハリケンジャー、支給品一式(ペットボトル1/2本消費)、 天空の花@魔法戦隊マジレンジャー
 マージフォン@魔法戦隊マジレンジャー、操獣刀@獣拳戦隊ゲキレンジャー、何かの鍵、麗の支給品一式
 魔人マグダスの杖@星獣戦隊ギンガマン、3枚のメモ(杖の説明書、アイテムの隠し場所×2)、竜也の支給品一式(ペットボトル2本消費)
[思考]
基本行動方針:ロンやボウケンジャーを倒すついでにゲームに乗る
第一行動方針:使えそうな道具を作る。
第二行動方針:アイテムの確保。天空の花を持って、J-10エリア『叫びの塔』へ
第三行動方針:気に入らない奴を殺す。一人殺しました。

【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G-6都市 1日目 朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり) 。
[装備]:アクセルラー(損壊、要修理)、スコープショット
[道具]:なし。一切を失いました。
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:チーフ(明石暁)と合流する。
第二行動方針:美希と行動を共にする。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
 ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。



70:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/10/26 13:04:56 IdSIG4u40
名前】真咲美希@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:物語中盤
[現在地]:G-6都市 1日目 朝
[状態]:健康
[装備]:マシンハスキー@特捜戦隊デカレンジャー(鍵のみ、タワーの損壊で壊れている可能性があります。ネジブルーの物とすり替えました)
[道具]:支給品一式
[思考]
基本方針:なつめを救うために勝ち残る 。
第一行動方針:利用できる者は利用する、そうでない者は殺す。
第二行動方針:上記の遂行のために西堀さくらを利用する。




以上代理投下終了。

71:名無しより愛をこめて
08/10/26 13:14:34 IdSIG4u40
哀れ、フラビ!
だがフラビ以上に哀れにみえるのはさくらだ。
そして相変わらず怖いな~ネジブルー。
だけど『ネジビザール=死亡フラグ!?』と思ったのは俺だけじゃないはずw


指摘として。美希は前話でドロップと共に救出され瞬たちと合流しているようです。
もう一点は質問ですが。
ネジブルーの捕食にはかなり驚きました。
原作等で何かそういった設定があったのでしょうか?

72:名無しより愛をこめて
08/10/26 13:36:04 EOS2S9Hc0
美希については救出される前に逃亡、の方が正しいですね。
後で修正します。
また、ネジブルーの捕食行動はノリですw やつが普通に朝ごはん取るとは思えないので。
不快でしたら美希の部分と合わせて差し替えます。

73:名無しより愛をこめて
08/10/26 14:43:46 9WhByfx2O
投下&代理投下GJです。
さくら姐さん、堕ちるとこまで堕ちたな…
誇りも強さも使命感も逆にロンに利用されているのが哀しいです。

美希に関しては、前作でドロップと共にいる事が利用価値があると思っているようなので、
一緒にいる方が自然かな?とは思いました。

74: ◆8ttRQi9eks
08/10/26 23:19:37 EOS2S9Hc0
したらばに修正版を掲載しました。
皆さん、ご指摘ありがとうございました。
他にご感想&ご指摘ありましたらよろしくお願いします。

75:名無しより愛をこめて
08/10/27 10:32:41 J7GtiPHU0
重箱の隅で恐縮ですが、ガイが重症にも関わらず戦闘に積極的なのが気になりました。


76:名無しより愛をこめて
08/10/27 11:08:36 3qe+MO8p0
出会ったら戦うんじゃね?
基本、ボウケンジャー殺したい人だし。

77:名無しより愛をこめて
08/10/27 12:53:52 J7GtiPHU0
vs蒼太やvsメレを見る限り、戦いたいけど戦えないようだったから。

78:名無しより愛をこめて
08/10/27 13:04:47 YZrwegnrO
状況が不利なら、戦略的撤退もできる奴だからねぇ。
しゃべり方のせいでそうは見えないかもだけど。

79:名無しより愛をこめて
08/10/27 17:01:18 eRYGj2nx0
前作を読む限り、騒動に乗じて何か事を起こそうとはしてるんですよね。
ただガイの性格的に有利に戦えない状況で戦うタイプとは思えないので、そこが不自然と言えば不自然かな?
火事場泥棒とか不意打ちならやりそうですが。

後は、戦闘不能状態でもゴードムエンジンが稼動できるかどうかが若干疑問ではあります。

早いうちに指摘できなくて申し訳ありません。

80:名無しより愛をこめて
08/10/27 19:39:20 3qe+MO8p0
SS廃棄してもらったほうがいいかな?
個人的には制限下にないなら戦うようにも見えるけど。


81:名無しより愛をこめて
08/10/27 19:49:48 YZrwegnrO
っと、ちょっとたんま。

このままバラバラに意見を出しても◆8ttRQi9eks氏も行動を取りづらいでしょうし、議論スレに場所移しませんか?

82:名無しより愛をこめて
08/10/27 20:15:57 TnPCKqZYO
議論も無く破棄は行き過ぎでは?
続きは議論スレでよろしくお願いします。

83:名無しより愛をこめて
08/10/27 20:18:36 3qe+MO8p0
でも流れ的に指摘受けたら修正するか廃棄の二択だしな。今回は話の根幹部分だし。
指摘受けて訂正して、また突っ込みうけて訂正して…って地獄の行脚だよ?
これ以降は議論スレで。


84:名無しより愛をこめて
08/10/27 20:27:17 +rpjSIH70
ネジブルー(ネジビザール)の一人称って「俺」じゃなかったっけ?

85:名無しより愛をこめて
08/10/27 21:02:35 TnPCKqZYO
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

続きは議論スレにてお願いできませんでしょうか?


86:名無しより愛をこめて
08/10/28 01:47:27 5lOlat5B0
遅ればせながら、感想を。
さくらとガイ、ネジブルーとフラビの対比が見事でした。
特にさくらが足を舐める悲惨さとフラビの無邪気さゆえの自滅っぷりがよかったです。


87:名無しより愛をこめて
08/10/28 23:18:49 byGX3p1rO
議論スレにて作者氏より指摘箇所を修正の上再投下との返答がありました。

以上報告まで。

88:名無しより愛をこめて
08/10/29 14:41:05 j+uVXtqZ0
板違いです
バトルロワイヤル・二次創作は以下の板でどうぞ
見苦しい叩きあいも以下の板でお願いします
下記の板にはバトルロワイヤルスレッドが多数ありますので早急に移転してください
URLリンク(namidame.2ch.net)

89:名無しより愛をこめて
08/10/29 15:36:57 Ng0Ppp99O
ご意見のある方は議論スレまでどうぞ
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

90: ◆8ttRQi9eks
08/10/30 00:08:51 4XR9ZLoJ0
修正版をアップしました。
たびたびの修正申し訳ないです。

91:名無しより愛をこめて
08/10/30 16:37:47 b9+ftLUp0
志村ー!タイトル、タイトル。

92:名無しより愛をこめて
08/10/30 17:42:01 bUevqWLs0
遅くなりましたが、読了です。
修正版投下お疲れ様でした。
自分は問題ないと思います。
亡国の炎との対比の効いた良作でした。GJです!

それにしてもさくら姐さん、言い過ぎだw



93: ◆8ttRQi9eks
08/10/31 21:35:02 GMv5l3d30
ありがとうございます。
タイトルは「堕落」で。
それと申し訳ないのですが、さくらの支給品からスコープショットも外して下さい。
消し忘れました。

94:名無しより愛をこめて
08/10/31 23:18:52 6+ceuHVk0
さくら姐さんが可哀想過ぎて興奮する

95: ◆i1BeVxv./w
08/11/02 02:54:34 Ikf0SyM30
ただいまより投下いたします。

96:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 02:55:59 Ikf0SyM30
「某、拙者の邪魔をするつもりか」
「そういう命令だから仕方ないネ」
 深い森の中、対峙する二人の怪人。
「拙者は剣将ブドー。一応、名を聞いておこう」
 一人は宇宙海賊バルバンの魔人。まるで日本の時代劇に出てきそうな武士の風貌をした男―剣将ブドー。
「幻獣バジリスク拳のサンヨ」
 一人は幻獣バジリスク拳使い。こちらは中国戦国時代の武将のような甲冑を身に纏った大男―四幻将サンヨ。
 互いに将の名を頂く二人は敵意をむき出しにし、相手の出方を窺っていた。
「いくヨ!」
 先に動いたのはサンヨだった。左掌に幻気の塊を作り出し、それを投げつける。
 ブドー目掛け、一直線に飛ぶ、幻気の塊。
「甘い」
 身体を反らし、あっさりと避けるブドー。しかし、サンヨも一発で終わるとは思っていない。
 質より量。下手な鉄砲数撃ちゃ当たると言わんばかりに、二発目、三発目を次々と撃ち出していく。
 だが、一発たりともブドーに命中することはなかった。
 ディパックからゲキセイバーを取り出したブドーは、ゲキセイバーを構えると、空中へと飛び上がる。
 逞しき匠の技を托す薬によって、手に入れたゲキワザ―ゲキセイバー翔翔斬。
 ブドーは滑空し、サンヨの懐へと飛び込むと、ゲキセイバーを振るった。
「てぇい!てぇい!てぇーい!」
「ぐぅ、げっ、痛い、痛いヨ」
 苦痛のあまり悲鳴を上げるサンヨ。しかし、それで攻撃の手を緩めるほど、ブドーはお人好しではない。
 むしろ、その攻撃は激しさを増し、サンヨの身体をバラバラにする勢いで切り刻んでいく。
「ゲンギ・大重鈍化!」
 苦し紛れにサンヨはゲンギを放つ。
 ゲンギ・大重鈍化―重力を操り、敵を何十倍もの重さにする技だ。
 ブドーに襲い掛かる不可視の攻撃。
「っ!」
 だが、それすらもブドーには通じなかった。
 第六感の赴くままに、攻撃の手を止め、身をかわす。
 刹那、地面に大きな凹みが生まれる。そして、その凹みはブドーの草履の先で止まっていた。

97:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 02:57:00 Ikf0SyM30
「これをかわすかヨー!?」
 サンヨの技は実質、これで打ち止めのようなものだった。本来なら、サンヨにはまだまだ強力なゲンギはある。しかし―
(殺しちゃ駄目どころか、できるだけ傷つけるなとか、訳わからないヨ)
 一応、ブドーに使っていない技で殺傷力のばい小軽鋭化という技が残されているが、大重鈍化を避けたブドーに到底通用するとは思えない。
「うん?小軽鋭―ぐげっ!」
 呆けたサンヨに突き刺さる追撃の手裏剣。
「お、お前、相当やるヨ」
「ふん、当然だ。―双剣合身」
 一対のゲキセイバーを合わせ、一振りの剣とするブドー。
(と、とどめを刺すつもりだヨー。考えている暇はない。こ、こうなったら一か八かだヨ)
「シュリケンジャー!!まだかヨー!!!」
 サンヨは大声を張り上げ、その名前を呼ぶ。
 自分にブドーと戦うように命じた男の名前を。理央を助けるための時間稼ぎを命じた男の名前を。
「シュリケンジャー?」
 
―ブルルルル!!

 その言葉を合図にしたかのように、森に突如としてエンジン音が響き渡る。
(そういえば、センと理央の近くにはバイクが……)
「い、今の内だヨ」
 サンヨはエンジン音を聞くや否や、ブドーの気を引けたと思ったのだろう。一目散に逃げ出そうと踵を返す。
「逃がさん!」
 しかし、それを見逃すブドーではない。背中目掛け、ゲキセイバーを一閃する。
「なに!?」
 だが、それは止めの一撃とはならなかった。サンヨはその一撃を浴びると、高く、遠くへと飛んでいく。
「ひっ…か……か………っ…………た……………ヨ………………~!」
 次第に遠ざかっていくサンヨの声。
 ブドーは自分がまたも策略にはまったことに気付いた。
「ぬぅ、してやられたか」
 ゲンギ・小軽鋭化―大重鈍化とは逆に対象を何十倍もの軽さにする技。

98:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 02:58:29 Ikf0SyM30
 サンヨはそれを自らに使うことで、ブドーからの逃走に成功したのだった。



 サンヨを逃がしたブドーは、エンジン音が聞こえた方向へと歩を進めた。
 案の定、そこからはセンの姿も、理央の姿も消えている。
 しかし、妙なことにバイクだけは残されていた。
「ふむ、バイクを使わなかったのか。ならば、サンヨのことなど放っておき、早急に追うべきであったか」
 何気ない風を装いながら、ブドーは辺りを注意深く確認する。
 一度、センには一杯食わされている。
 今回も逃げたと見せかけて、自分が去るのを待っているのではないかと。
 ブドーは五感を研ぎ澄ます。視覚、聴覚、嗅覚、味覚、触覚の全てを使って、ここにいる何者かの気配を探る。
「………そこだ!」
 ブドーは一本の木目掛け、手裏剣を投げつける。
 予想通り、手裏剣が命中する瞬間、木から飛び出してくる一陣の風。
 それは残されたバイクへと降り立った。
「やれやれ、ミーの気配を察知するとは、中々やるね」
「お主がサンヨの言っていたシュリケンジャーか」
「そう、人呼んで、緑の光弾。天空忍者シュリケンジャーさ。変身はしてないけどね」
 ブドーはシュリケンジャーを観察する。
 見た目は髪をオールバックにまとめ、黒服で固めた軽そうな男だが、佇まいでかなりの腕であることがわかる。
 大体、察知した気配もわずかなもので、センとのことがなければ、見逃していたことだろう。
「ふん。理央とセンはどうした?」
「あの二人かい?あの二人なら逃げてもらったよ。北か、南か、東か、西か、どこかにね」
「そうか」
 予想通りの言葉だったが、ブドーはシュリケンジャーから明確に聞いた逃げたという言葉に何故か安堵を覚えた。
 幸か不幸か、センを狙った弾丸は理央へと命中した。命中した場所は左胸、心臓の位置、致命傷の可能性も充分ある。
 しかし、それでは真の意味で理央を倒したとはいえない。
 彼らが逃げ、そして、それを治療して、再び、自分の前に立ちはだかるのなら、それがもっとも望ましい。
(信念など不要。手段は選ばぬ。されど、我が未練、今だ消えずか)

99:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 02:59:32 Ikf0SyM30
「それじゃあ、ミーはこれで失礼させてもらうよ」
 シュリケンジャーはバイクに跨ると、改めてエンジン音を轟かせる。
「待て、拙者がこのままお主を逃がすと思うのか?」
 制限時間が間近に迫っていることは承知していたが、ブドーは半ば反射的にゲキセイバーを突きつける。
 だが、シュリケンジャーは驚いた表情すら見せず、言葉を返した。
「Wait、今は戦うつもりはない。このまま、逃がしてくれないかな?」
「笑止」
「……いいのかい?そろそろ10分経つ。今、戦ったら、負けるのはユーだよ」
 その言葉にブドーの手が止まる。
「お主、制限を知っていたのか」
「当然だろ。今、ユーの相手をして、殺すのは簡単だよ。でも、ミーにはこの後、やることがあるからね。できれば、戦いたくないんだ。
 どうしてもと言うなら相手にならなくはないけど?」
 シュリケンジャーとブドーの視線が交錯する。
 ブドーはそのまま、一刻ほど考えると、静々とゲキセイバーを下ろした。
 今、シュリケンジャーと戦うことがどれほど自分にとって危険なのかは元より承知の上。
(それとも……見透かされていたか?)
「Don't worry、心配しなくても、その内、戦う機会はあるさ。ミーもMurderだからね。Murder同士は生き残っている限り、いつか戦うことになる。そうだろ?」
 シュリケンジャーは軽く手を振ると、エンジン音を響かせ、去っていった。
 バイクの上でシュリケンジャーはボソリと呟いた。
「サンヨとの戦いを見てれば、ユーが殺し合いに乗っていることはわかる。Murder減らしは自重しないとね」



「……………ここは」
 理央が眼を開けると、木々に囲まれた青い空がそこにはあった。
 太陽から発せられる光が、理央の眼を焼く。
「気が付きましたか」
 聞き覚えのある声に、急激に意識が覚醒していく。

100:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 03:17:12 Ikf0SyM30
(そうか、俺はあいつを庇って……)
 理央は反射的に自らの左胸を見る。
 どこからか調達したのか、包帯が巻かれ、しっかりとした応急処置が行われていた。
 そのおかげか、左胸に痛みはない。
「世話になったようだな」
「いいんですよ。元々、俺を庇って受けた傷です」
 理央は改めてお礼を言おうと、身を起こし、そこで始めてセンの姿を確認した。
「お前」
 そこには木に身を持たれかけたセンがいた。
「良かったです。理央さんだけでも助けることができて。もう俺は駄目みたいですけど」
 だが、センの制服は血にまみれ、大きな染みを作っている。顔もどことなく青白かった。
「銃の奴にやられたのか!?」
 理央の問いにセンは首を振る。
「いえ、何故か銃撃はあれっきりでした。俺がやられたのはロンと一緒にいた怪物です」
「ロンと一緒にいた怪物……サンヨのことか」
「そういえば、そんな名前を名乗っていた気が……ゴホッ、グハッ」
 咳き込むセン。彼の口からは紫色をした血が吐き出されていた。
「理央……さん、お願いがあります。俺の代わりにサンヨを倒してください。まだ、俺たちが襲われた場所にいるはずです。
 あいつを放っておいたら、きっとまた犠牲者が出る。死ぬのは俺一人で終わらせたいんです」
 迷うべくもなかった。ロンとサンヨはこの殺し合いを開いた張本人。倒さないという選択肢はありえない。
 理央は無言で頷くと、踵を返す。
「セン、最後に、誰かに伝えたいことはあるか?」
「……それじゃあ、ドギー・クルーガーに宜しくとだけ」
「わかった。必ず伝えよう」
 理央はそのまま振り返らず、駆け出していった。



「大丈夫、菜月は強き冒険者だもん。大丈夫大丈夫」
 森に弱々しい女性の声が響く。

101:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 03:18:47 Ikf0SyM30
 まるで呪文のように、大丈夫という言葉を繰り返しながら森を進むその女性の名は間宮菜月。強き冒険者、ボウケンイエローだ。
 真墨に会うため、精一杯の勇気を振り絞り、進んできたが、真墨を思い出せば、彼女の脳裏によぎるのは頭を潰される真墨の姿。
 竜也たちのおかげで癒されていた恐怖が鎌首をもたげ、自然とその声は大きくなった。
「大丈夫大丈夫大丈夫大丈夫大丈―な、なに?」
 歩く菜月の視界に入る人影。
 それはまるで死ぬ前の真墨のように倒れ伏していた。背格好から男性のようだが、顔はうつ伏せでわからない。
「ま…すみ?」
 おずおずとその倒れ伏した誰かに近づき、顔を確認しようと、菜月はしゃがみこむ。
 その時、突然男が動き出し、菜月の足が掴んだ。
「きゃっ!やっ、離して」
 振りほどこうと、足を激しく動かす菜月。その勢いで手はあっさりと剥がされる。
 よく見ると、その男性のシャツとパンツ一枚という格好だった。よく聞けば、呼吸も荒い。
「変態さん?」
 菜月は急ぎ立ち上がると、その場から逃げ出そうと大地を蹴った。
「ま…って」
 男が言葉を紡ぐ。
「いか……ないで………俺の話を…聞いて……」
 次の言葉で菜月の足は止まった。
「だい……じょうぶ?」
 自分への危機感より、相手への心配が買った。
 先程まで、自分に使っていた言葉で相手へと問いかける。
 男は菜月が耳を傾けていることがわかると、少しだけ表情をやわらかくすると、懸命に言葉を繋げた。
「頼む……理央さんに……つたえて……あいつは利用しようと」
 だが、そこまでだった。男の意識は闇へと沈み、最初に菜月が見た時と同じように大地へと倒れ伏す。
「ちょっと、しっかりして!」
 残された菜月は涙を浮かべながら、男の身体を揺らす。


102:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:47:25 Ikf0SyM30
 だが、菜月の必死の介抱にも関わらず、男の意識は戻らなかった。



「はぁ、もういないよネ」
 一時、ブドーから逃げ出したサンヨだったが、また同じ場所へと舞い戻っていた。
 頭を砕かれた迅き冒険者が目印の場所。
 理由は、それがシュリケンジャーの命令だったからだ。
 シュリケンジャーが理央とセンを逃げるまでの時間を稼ぎ、その後、この場にて合流する。
 簡単だろとシュリケンジャーは言ったが、結果は散々なものだ。
 体中を切り刻まれ、危うく、殺られるところだった。死なないけど。
「あれ、なんか死体の位置が変わっているような気がするヨ~。まあ、そんなことはいいかヨ」
 真墨の死体はうつ伏せから、仰向けに変わり、その服は乱れていた。
 だが、サンヨは特に関心を持つことはなく、ただ、シュリケンジャーへの愚痴を吐き出した。
「あいつ、ロンより人使い荒いヨ」
「あいつとは誰のことだ」
 サンヨの身が固まる。
 それは今サンヨがもっとも会いたくない相手の声だ。
 自分の予想が外れていることを祈りながら、恐る恐るサンヨは振り返る。
「げっ、理央」
「見つけたぞ、サンヨ。センの仇、とらせてもらうぞ」
(な、な、な、なんのことだヨ。そ、そ、そ、それより、サンヨ、今は制限中だヨ。や、や、や、ヤバイヨ)
 怒りに身を焦がす理央。
 恐れに身を振るわせるサンヨ。
 そんなふたりを遠くから見詰めている男がいた。
(さーて、見せてもらおうか。黒獅子の力と、サンヨの末路を)
 男は江成仙一の顔で、笑みを浮かべた。

 数分前―

「冷凍剣、プリーズ!」

103:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:48:15 Ikf0SyM30
 シュリケンズバットから発せられた凍気が理央の身体をたちまち凍らせた。
「さてと」
 シュリケンジャーは凍らせた理央の身体からたちまち銃弾を取り出す。
 ハリケンジャーたちの身体から宇宙サソリを取り出した時に比べれば、簡単な作業だ。
「宇宙サソリ……あの時、ロンはディパックをランダムに渡していたようだけど、意図的に渡していたのかも知れないね」
 シュリケンジャーは取り出した銃弾をその辺に捨てると、ディパックから支給品を取り出し、今度はそれを理央の傷口に埋め込んでいく。
「説明書もないのに、これを判別して、使える参加者なんて、ミーぐらいだからな」
 全てを終えたシュリケンジャーは理央を解凍し、傷を隠すように包帯を巻くと、理央の目覚めを、木に身体をもたれかけ待つ。
 変身を解いたその姿は既に柿生太郎のものではなく、血まみれのジャケットを着た江成仙一に変わっていた。 
 勿論、顔も血もシュリケンジャーのものではない。純然たるフェイクだ。
 制服と顔をいただいた本物の江成仙一は催眠術で眠らせ、匂いや色で判別されないように血は転がっていた死体から新鮮(?)なものを調達した。
 ついでに死体が着ていた防弾チョッキも下に着込んでいる。
 準備は万端だ。
(サンヨが殺せるようなら、その力、利用させてもらうよ。理央、サンヨの話では、ユーは今回の参加者の中でトップクラスの実力者らしいからね)
 理央の力を利用して、他の参加者を殲滅させる準備はこれで整った。罪悪感はない。理央は報いを受けるべきことをして来ている。
(精々、働いてくれよ。君の中の宇宙サソリが君を殺すまでね)

104:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:49:17 Ikf0SyM30
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:健康。顔は江成仙一です。1時間30分変身不可
[装備]:シュリケンボール、スワン製防弾チョッキ@特捜戦隊デカレンジャー、SPD隊員服(セン)
[道具]:包帯、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る(一時的に保留)
第一行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第二行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。
第三行動方針:サンヨが殺せるか試す。その後、方針を再決定。
備考
・サンヨと江成仙一から一通りの情報を得ました。具体的な制限時間も知っています。
・シュリケンジャーはロンが何らかの方法で監視していることに気づきました。
・炎の騎馬はC-7エリアに隠しています。
・シュリケンジャーの支給品は宇宙サソリ@忍風戦隊ハリケンジャーと包帯でした。

【名前】サンヨ@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:ロンと一緒
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:全身打撲、無数の刺し傷と切り傷、右腕切断。1時間ゲンギ使用不能
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンの指示に従う。
第一行動方針:理央から逃げる。
第二行動方針:ロンの指示に従い、シュリケンジャーに協力する。
備考
・制限が2時間であることを知っています。


105:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:51:13 Ikf0SyM30
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 午前
[状態]:左胸に銃創。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンとサンヨへの怒り。宇宙サソリを植えつけられました。
[装備]:自在剣・機刃
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:サンヨを倒す。
第二行動方針:ナイとメアを探す(どちらかは死んだと思っています)。
第三行動方針:メレと合流する。
※大体の制限時間に気付きました。

【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-7森 1日目 午前
[状態]:催眠術により気絶中。制服を奪われアンダーシャツとパンツのみ。左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。
[装備]:SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:理央に注意を喚起する。
備考
・制限が2時間であることを知っています。
・SPDの制服はシュリケンジャーに奪われました。


106:みどり色の罠 ◆i1BeVxv./w
08/11/02 04:53:01 Ikf0SyM30
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:C-7森 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:アクセルラー、スコープショット、
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:変態さん(仙一)を介抱する。
第二行動方針:真墨の遺体を捜す。

【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:B-9森 1日目 午前
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。肩に銃弾による傷。1時間戦闘不能
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー。予備弾装(銃弾5発、催涙弾5発)。支給品一式(ブドー&バンキュリア)。真墨の首輪。
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:リオを倒せるほどに強くなる。
第二行動方針:優勝を目指す。
※首輪の制限に気が付きました。

107: ◆i1BeVxv./w
08/11/02 05:25:10 Ikf0SyM30
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想などあれば、お願いします。

108:名無しより愛をこめて
08/11/02 12:14:31 jLhBiTjx0
GJ!
シュリケンが思った以上に黒い…
リオ様はロンへの有効打なのに…時限爆弾抱えちゃった……
次回の話でサンヨは生き残れるのか非常に気になります。
面白かったです。

109:名無しより愛をこめて
08/11/02 16:16:25 HdPBCs4fO
投下GJ!です。
リ、リオ様ピーンチっ!
センさんがー!!と思いきや…シュリケンジャーが変装していたとは。
シュリケンジャー、ステルスとして、かなり優秀ですね。流石、忍者だ。
リオVSサンヨの戦いの行方もかなり気になります。

それにしても、シュリケンジャーがやったとバレたら、彼女が大暴れしそうなw
今後の展開が楽しみです!GJでした!

110:名無しより愛をこめて
08/11/02 16:22:20 V1sabhqOO
シュリケンジャー手強いマーダーになったな。
策略が凄いですね。面白かったです。

菜月の「変態さん?」に吹いたw


111:名無しより愛をこめて
08/11/03 14:10:14 IWFDbtazO
まとめ更新乙です。
いつもありがとうごさいます。

112:名無しより愛をこめて
08/11/04 16:05:47 Gv7tjpL10
まとめ更新お疲れ様です。いつもありがとうございます。

遅くなってしまいましたが、次の煽り文ができましたので投下します。

113:名無しより愛をこめて
08/11/04 16:06:48 Gv7tjpL10
011.献身と勘違い
世の中色んな人がいるものです。
  例えば、芋ようかんで巨大化する人とか、命を二つ持ってくる人とか、脈が無くても生きてる人とか。

012.黒獅子の誇り
  男の想いはすれ違う。ただその誇り高さゆえに。

013.地獄から来た恐竜野郎
  運命を決めるコイン。そのコインさえ些細なきっかけで変わるもの。
  弾かれたコインを手に男は夜風の中を不敵にときめく。

014.オールド・ジェネレーションズ
  油断大敵、怪我一生。
  仲間だからって安心してはいけません。悲しいけどこれ殺し合いなのよね。

015.夢×命×未来
  少年はまだ知らない。戦う意味を。生命の未来を。
  それゆえに引いた引き鉄は少年に出会いをもたらした。

114:名無しより愛をこめて
08/11/04 16:07:32 Gv7tjpL10
016.冒険者達、西へ
  腕に着けるは戦友(とも)の形見、胸に秘めるは小さな強がり。
  青年と少女は西へと旅立つ。ただ仲間の姿を追い求めて。

017.太陽と不滅の牙
  禍々しき遺跡の只中に男が二人。
  彼らを待つのは邂逅か、血塗れた未来か……

018.阿修羅の如く
  抗う事が勇気でも。貫く事が正義でも。
  今はただ血塗れた道を進み続ける。その思い、阿修羅の如く。

019.龍の陰謀(はかりごと)
  さあ、箱庭は閉じられた。
  光も救いも希望さえ、今は届かぬ彼方へと。
  悪意の道をいざ進め。

020.サーガイン Is murder?
  目と目があったその日から恋に花咲く事がある。
  目と目があったその日から誤解に花咲く事もある。

115:名無しより愛をこめて
08/11/04 16:08:54 Gv7tjpL10
では、失礼しました。

116:名無しより愛をこめて
08/11/04 19:11:45 tH/vDpJJ0
乙!
相変わらずセンスいいな。
いずれこの煽りもまとめサイトで見れるようになったらいいな。
続きもよろしく!

117:名無しより愛をこめて
08/11/04 19:49:46 nvY7WKmuO
GJ!
良い煽り文をつけてもらえると燃えてくる。
これからも楽しみにしてます。
もう一度GJ!

118: ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:24:40 9A3ycarF0
煽りGJです。
次回更新の折はまとめサイトにも組み入れさせていただければと思います。

それではただいまより投下いたします。

119:ネジレてキレてツイてる男 ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:25:42 9A3ycarF0
 無数に飛び散った肉片の中心で血まみれの怪物は恍惚の笑みを浮かべていた。
 自分の肉体を押し込めていたスーツが破壊されたことで、怪物―ネジビザールは一種の開放感を味わっていたのだ。
 ネジトマホークという武器ではなく、自らの爪と牙を使って相手を引き裂くのはやはり快感が段違いだ。
「彼女を引き裂いただけでこれだけ気持ちいいんだ~。メガブルー、君だったらもっと気持ちいいんだろうね~、ヒャハハ」
 30分ほどそうしていただろうか。身体に付いた血が液体から固体へと変わり、多少の不快感を与える。
「そろそろ邪魔になってきたね、コレ」
 ネジビザールは身体に力を込める。
 彼は氷の怪物。物体を凍らせるのはお手のものだ。
 ネジビザールは凍らせることで、血を身体から剥がそうと考えた。
 しかし、いくら力を込めようとも、血が凍ることはない。聡いネジビザールはすぐにその原因を思いつく。
「なるほどねぇ~、これが制限ってやつか。中々面白いことを考え付くよ」
 ミンチになった女がピーチクパーチク騒いでいたのはこのことだったのだろう。
 だが、ネジビザールにとっては狩りを面白くするための単なるカンフル剤だ。
 女ももうちょっと楽しむ心があれば、もう少し長生きできたのにと、ネジビザールはまた笑う。
「さて、凍らせることができないんなら、ふき取らないとね」
 女の服は彼女と一緒にバラバラになり、血にまみれてしまった。
 ならばと、ネジビザールは女のディパックを手にする。引き裂いて、タオル代わりに使おうと考えたのだ。
 しかし、その必要はなかったようだ。女のディパックにはどこからか調達したのか、好都合なことにタオルが入っていた。
「あの女は最初から最後まで役に立ってくれるね。それともオレがツイてるのかな~。どっちが正しいかはアレを確認すればわかるか」
 ネジビザールはタオルで血を拭いつつ、自分のディパックに眼を向ける。
 彼はキレてはいるが、頭の切れも決して悪い男ではない。メガブルーへの執着を除けば、割と冷静な方だ。

120:ネジレてキレてツイてる男 ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:26:31 9A3ycarF0
 ネジビザールは自分のディパックの中身が美希の手によって、すり替えられていることに気付いていた。
 美希がテルミット弾を使って、爆発を引き起こしたのも知っている。美希が自分とメガブルーたちとの同士討ちを狙って、協力したこともだ。
 にも関わらず彼が美希を自由にさせておいたのは、面白そうだったからの一言につきる。
 策士を気取っている奴の鼻っ柱を叩き折るのは中々の快感だ。今回もここぞというタイミングで種明かしをし、美希を切り刻んでやるつもりだった。
 ただ残念なことに美希はどこかに言ってしまったが。
「まあそれはいいや~。さて、バイクの代わりに何を入れてくれたのかな?」
 一頻り、身体を拭き終えたネジビザールは自らのディパックの確認を始めた。
 中には血の付いた忍者刀と首輪。そして―
「名簿?……………へぇ~、これはこれは。ヒャハハハハッ!いいね~、バイクと交換にしては充分過ぎるものだよ」
 その名簿には参加者たちの写真や性格、思考が詳細に書かれていた。勿論、自分のものもある。
 なるほど、これを見ていたから、自分と交渉しようと思ったわけだ。
 だが、そんなことがどうでもよくなるほど、あることが記載された名簿の1ページはネジビザールを激しく興奮させた。
「こいつが、こいつが、こいつが、メガブルー、メガブルー、メガブルゥゥゥゥーーーーーなんだねぇぇぇぇ!」
 参加者の一人、並木瞬のページ。
 そこには彼の写真と共に、はっきりと彼がメガブルーであることが書かれていた。
「フフフフフフフフフフフフッ!!!ヒャハハハハハハハッ!!!意外と二枚目じゃないか。この綺麗な顔が苦痛に歪むと思うと………フヒャハハハハッ!フヒャハハハハッ!ゲヒャッ!」
 ネジビザールは笑った。それこそ、呼吸ができなくなるほどに。笑い死にしそうなほど。
「ウヒャハハッハハッハハッ!ウヒャハハッハハッハハッ!」
 笑って
「フヒフヒウヒヒヒヒヒヒッ!グヒフヒウヒヒヒヒヒヒッ!」
 笑って
「GYAHAHAHAHAHAHAHHAHARAHAHHAAAAAAAAAAAAA!!!」
 笑った。



「10時ピッタリだね」
 ネジビザールは今しがた禁止エリアになったG-5エリアを抜け、H-5エリアへと入った。
「笑いすぎて危うく間に合わないところだったよ」


121:ネジレてキレてツイてる男 ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:28:26 9A3ycarF0
 一歩間違えば、首輪が爆発し、死が待っているというのに、ネジビザールに慌てた様子は見られない。
                                                  ・・・・・・
「さて、オレの勘だと、ヤツはこの辺りにいるはずなんだけど。どうかな~?ねぇ、ネジシルバー?」
 詳細付き名簿を見たネジビザールはメガブルー以外に知り合いがいることにようやく気が付いた。
 それが他の誰かだったら、寄り道はしなかったかも知れない。
 しかし、そいつはメガブルーとは比べるべくもないが、ほんのちょっぴり、ネジビザールがメガブルー以外に殺したいと思える人間だった。
「北西は大体見て回ったし、拡声器の届く範囲だったら、あいつも来るはずだからね~。
 東ならメガブルーと合流するといい~。もっと楽しくなるから。でも、できれば先に会いたいな~、ネジシルバー。
 君の首を持っていた時のメガブルーの顔から楽しみたいからね」
 ネジビザールはまた笑いそうになるのを、グッと堪える。いつ誰と会うかも知れない。しばらくは善良そうな顔をしているのがいいだろう。
 なぜなら、今、彼は人間の姿になっているのだから。
 肌の色はうっすらと赤みを帯びた黄色。髪と瞳の色は黒く、唇に閉ざされた歯を外面から覗き見ることはできない。
 ネジレンジャーの共通の能力に人間への擬態がある。自らを弱体化する能力は制限の対象にならないのか、彼は制限中にも関わらず人間への擬態に成功した。
 その姿は誰かを真似るものではない。ただ、その個人にあった人間の姿へと擬態するだけだ。
 だが、彼の姿は何故か並木瞬に似たものになっていた。
「待ってろよ、ネジシルバー。君にされたことと同じことを君にしてあげるよ」
 彼の顔はどことなく並木瞬に似ていた。彼をよく知らない者ならば、彼を並木瞬と誤解するかも知れない。
 しかし、本物の彼を知るものなら、気付くことだろう。
 彼はこれほどまでに邪悪には笑わないと。


122:ネジレてキレてツイてる男 ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:29:30 9A3ycarF0
【名前】ネジブルー@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:41話(ネジビザールとして敗れた後)
[現在地]:H-5海岸 1日目 昼
[状態]:全身に打撲、傷有り。人間に擬態中。その間のスペックは能力を発揮しない限り、人間と変わりありません。
[装備]:ネジトマホーク、クロノチェンジャー@未来戦隊タイムレンジャー
[道具]:ソニックメガホン@忍風戦隊ハリケンジャー、闇のヤイバの忍者刀@轟轟戦隊ボウケンジャー
[道具]:支給品一式×3、詳細付名簿、スフィンクスの首輪、拡声器。
[思考]
基本行動方針:メガブルーを殺す。
第一行動方針:メガブルーを苦しめるためにネジシルバー(早川裕作)を殺す。
※ズバーンとマシンハスキーはF-5都市に放置しています。


123: ◆i1BeVxv./w
08/11/05 04:42:38 9A3ycarF0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想などあれば、お願いします。

セルフ議論スレ行きな点が一点。
制限期間中の人間への変身は制限に引っかからないのか?
自己解釈だと、バンキュリアやヒカルは本来の姿ではないのに、人間態時は能力制限に引っかかっていないので、その状態下で能力を発揮しない限りはありなのかなと。
あと擬態中の姿は他のネジレンジャーは各々適当な姿だったので、似てなくても良かったのですが、双子ネタがあったので似せてみました。
問題があるようでしたら、修正いたしますので、議論スレにて。

124:名無しより愛をこめて
08/11/05 17:18:58 l2sb+M0OO
素早い投下!そして心からGJ!!
キレてるくせに冷静なネジビザールはまさに脅威。
シルバー。逃げて、逃げてぇー!


個人的には変身は問題無いかと思います。
首輪も幻気で出来ているので機械仕掛けとは違い、その辺りの制限はランダムで良いのでは無いでしょうか?


125:名無しより愛をこめて
08/11/05 19:46:57 1nI2jC7F0
時間軸のずれの問題で瞬は裕作さんを知らないよな。
それはそれとしても美希にとってアキレス腱かも>ネジブルー

126:名無しより愛をこめて
08/11/05 20:31:30 m37EeZNxO
相変わらず早い投下GJ!です。
ネジブルーもといネジビザール怖い、怖いよw
裕作さんもただ騙されるたまではないでしょうがどうなることやら…
ステルスする気満々なのがかなり怖いです。
ネジビザールの狂気が伝わってくる作品でした。GJ!

制限期間中の人間への変身ですが、自分はありだと思います。
おっしゃる通り、ヒカル先生やナイメアの事がありますし。

127: ◆MGy4jd.pxY
08/11/07 20:55:21 S6diC9PBO
したらばにも書きこみましたが間に合わないかもしれませんので延長をお願いします。

128:名無しより愛をこめて
08/11/08 11:05:59 9UqzPLOV0
了解です。楽しみにお待ちしております。

129:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:36:18 4EPfqI6D0
歩くたび、身体が揺れるたび、左肩の刺し傷が疼く。
屍と化した身体から失われたのは熱と血液で、痛覚は生前のまま。
メレは当て所もない歩みに疲労の色を濃くしていた。
…-理央もまた、かつてはこのような深い絶望に沈んでいたのであろうか-…
「少し…疲れたわね……」
道の脇に腰を落とし、ディバッグからペットボトルを取り出したが、既に水は尽きている。
これでは顔も洗えないではないか。
「理央様…」
益々重くなる気持ちを抱えながら、縋る様に愛しいその名を呼ぶ。
そっと、右手で傷口を隠すように肩を抱く。
そうしているとあの時の温もりが蘇ってくるような気がしたのだ。

始まりの空間でロンが自らを指名したその時。
普段の寡黙な彼からは想像も出来ない熱い眼差しで見つめられ、面食らったのを覚えている。

『大丈夫だ、メレ…どれだけの距離を隔てようと、ロンが何を策していようと、
必ず、お前を守る! だから…生き残れ、どんな手段を使っても!!』

他の参加者の目を全く意に介さず、メレの身体を掻き抱き、彼は耳元でそう告げたのだ。
冷たい身体に彼の熱が伝わるのが心地よかった。
この瞬間がいつまでも続けばいいと、埒でもない事を本気で願った。
すぐに別離が訪れるのを知らないではないのに―…


「あんな理央様…初めてだった……」
メレは知る術もないが、彼と理央の微妙な時間軸のずれが新鮮な驚きを与えていた。
放送の中に幸いにして理央の名はなかった。
実力者たる彼がそうやすやすと首をとられはしないことは承知している。
しかし、これはロンの仕掛けたゲーム。


130:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:37:39 4EPfqI6D0
幻技の件と言い、不透明なルールの中でどんな不測の事態が起こるか知れない。
自分達は他の参加者よりも主催との縁が悪い意味で深い。
ロンが何かしら仕掛けてくるのは確実なのだから。
「…理央様…会いたい……」
口を突いて出るのは彼の名ばかり。このゲームでメレが心から信用できるのは彼だけだ。
しかし、同時にメレは一人でいることの限界を感じ始めていた。
既にゲームが始まって6時間あまりが経過し、参加者達は各々の思惑の下にいくつかのグループを
結成している。
メレ自身もそうした連中をいくつか見てきた。
だが、下手な相手と組めば寝首をかかれる恐れがある。人選は慎重に行わなければならないだろう。
自然、知り合いを回想する形になる。
「え~と…私の知り合いは―…」
まずは、理央。
彼は完全にメレの味方だ。
しかも、嬉しい誤算でこのゲームに参加させられている彼はメレに対し親愛の情が深い。
あの熱い眼差しは恋人を見るそれだ。
自然と口角が緩んでいく。メレにとっては、理央こそ生きる糧。
彼のためなら命も惜しみはしない。大袈裟でもなんでもなくメレは本気でそう思っている。
死への恐怖は既に死人であるメレにはない。
怖いのは彼を失うことだ。

二人目はサンヨ。
こいつは話にならない。自分と同じ四幻将の一角だが、彼は元々ロンに近い。
今回も彼に追随して動いていると観るのが自然だ。
どうみても敵。出会い次第、消しておいた方が無難だろう。


131:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:38:50 4EPfqI6D0
そして-…真咲美希。
彼女は名前と来歴を知るくらいで直接相対した経験は殆どない。
メレが知っているのは彼女が激獣拳時代の理央の修行仲間であるということ。
そして、今はゲキレンジャーを支援するスクラッチの重役に収まっているという事くらいだ。
過去の理央を知ると言う点で羨ましさを感じることはあるが、彼女がどんな女性なのか
あまり過去を語りたがらない理央に聞くのは憚られてメレは殆ど知らない。
死んではいないようだが、理央と違い実戦から離れて久しい彼女を戦力とするのは少々不安が残る。
メレとしてはもっと頼りになる戦力がほしかった。

「…理央様以外ろくな奴がいないわね…後は…こいつらか-…」

轟轟戦隊ボウケンジャー。
宇宙拳法使いパチャカマック12世との戦いで成り行きとはいえ、共に戦った経験がある。
ただし、メレは全員の人とな理央知っているわけではない。
メレが知っているのは大胆にも直接臨獣殿に乗り込んできた
ボウケンレッド=明石暁
ボウケンピンク=西堀さくら
この両名だけだ。
しかもさくらはあの時、パチャカマックに憑依されていたことを加味すれば実質的に
メレが面識を持つのは明石暁だけだ。
結論からいえば、明石暁の印象はメレの中でそう悪いものではない。
獣拳使い以外で理央と生身で戦える人間が存在していようとは思ってもみなかったからだ。
マクによる撹乱の後が癒えていなかったとはいえ、臨獣殿に乗り込む度胸もある。
加えて、仲間のために敢えて黒をとるその人間性にも惹かれるものを感じた。
常に傍らに自身を慕う女性が控えているという理央との共通項が、
明石暁へのシンパシーにも似た感情になっているのかもしれなかった。
自身よりも仲間を第一に考える男。それが、メレの中で確立した明石暁の人物像だ。
味方に出来れば彼ほど頼もしい人物はいない。
始まりの空間での一件を見る限りでは彼が殺し合いに乗っていない可能性は高い。



132:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:39:54 4EPfqI6D0
西堀さくらに関して言えば、パチャカマックの憑依と言う点を除外しても腕はメレと互角に立つ。
直接拳を交えたメレの感触は悪くない。
しかし、彼らが自分に対しどういうスタンスで臨んで来るかは想像がつかない。
あまり信用するのは考え物だ。
考え物ではあるが、同時にロンに対し戦いを挑むのに彼らの助けは、癪ではあるが是非とも必要だ。
無論、最後を締めるのは自分と理央であろうという根拠のない自信がメレにはあったのだが…

「決めた! こいつらを従えて理央様の下へはせ参じる!! そしてロンを倒すっ!!」

勢いよくその場に立ち上がり、拳を天に突き上げ、叫ぶ。
メレの中では既に崩壊した臨獣殿に代わり、ボウケンジャーを下僕とした理央(と自分)の組織プランが出来上がっている。
素敵な将来の青写真の完成にすっかり気を良くしたメレは意気揚々と歩き出した。
「ふん、ふふ~~ん♪ 待っててくださいね、理央様ぁ?」
ただ、そのプランをどう実現するかは全くの白紙であるのだが-
今のメレに必要なのは自らを突き動かす動機の方だった。

§

…―自分はよくよく、死神に嫌われているらしい―…
殺し合いの只中にあって、グレイは相反するその事実にため息をついた。
廃墟と化したタワーが陽光を背に影に溶け入る様は余計にうらぶれて見える。
まるで今の自分を見ているようで、内心酷く不快な思いがした。
F5エリア-兵どもが夢の跡。



133:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:40:44 4EPfqI6D0
辺りを白く消し飛ばすほどの閃光と割れんばかりの爆音が轟いたのは、さくらとあんな形で分かれてからすぐ後のことだった。
既に戦いが始まっていることを察知し、駆けつけたのだがすでにそこはもぬけの殻。
ほんの僅かな時間のずれで彼はガイともすれ違っている。
本来なら幸運なのだが、本人はそれがちっとも愉快ではない。
「あんな小競り合いがなければ…今頃は戦いの只中に在れたものを」
グレイは紫煙を燻らせながら、瞑想する。
確かにさくらの行動は異様だった。
仲間の死を見せ付けられて心に闇が生まれたか。元々あぁするつもりだったのか。
「それにしては行動が極端すぎる…」
あるいは―思い至った一つの答にグレイは思考を更に深める。
さくらは何らかの意思により傀儡にされていて自分でも分からないままに動かされている。
「だが、何のためだ?」
自分のようにロンに魅入られたマーダーか。それにしては先ほどの行動は無謀すぎた。
あまりに計画性に欠ける上、戦力差を埋める智恵が全く見当たらない。
彼女の全てを知るわけではないが、そんな無計画なタイプではないはず。
ならば、このゲームでさくらが司る役割はなんだというのか―そして、
…―自分が果たすべき役割はなんなのか―…
思考という名の無限の宇宙から帰還した彼は、確かな一つの答えを胸に歩き出した。


§


職業柄、同僚の死はそう珍しいものではない。
今の地位に至るまで多くの仲間の死を見てきた。
肩書きに重みを感じるのは、それだけ多くの死を経た先に今の自分がいるからだ。
だから、彼女たちの死も決して特別ではない。
けれど胸に沸き起こる慟哭をドギークルーガーは抑え切れずにいた。


134:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:48:54 4EPfqI6D0
「スワン…! ウメコ…!!」
その二人の名を喉の奥から搾り出す。
守れなかった。大切な女性(ひと)を。掛け替えのない部下を。
もう二度と戻らない笑顔を想った。
もう二度と聞けない声を必死に思い止めようともがいた。
傍らのシオンと恭介は掛ける言葉も見つからずに立ち尽くすドギーを見つめている。
たった数時間で最愛の女性と部下を失ってしまった彼に言えることなど、何もなかった。
「元気を出してくださ――…」
それでもシオンが声を上げたその瞬間。

「見るに耐えんな、ドギークルーガー…戦士の女々しい有様など無様以外の何者でもない…」

「お前…!」
我を失っていたドギーは不意に叩きつけられた侮蔑の言葉に現実への帰還を果たした。
低くくぐもった声の先に、グレイがいた。
ここを発つ前と比べ、やや傷ついた姿で。
「お前! 少しは気遣いってもんがねーのかよ!! この人は今なぁ!…あれ、さくらさんはどうしたんだ、姿が見えないけど??」
当然その傍らに存在するべき人物の不在に恭介は疑問を投げかけた。
「まさか…お前―! さくらさんを!!」
考え付く結論は唯一つ。恭介は激情に突き動かされるまま、アクセルチェンジャーを構える。
「慌てるな、阿呆が…シオン、無事で何よりだ」
今にも飛び掛らんとする恭介を尻目にグレイはシオンへと向き直る。
「グレイさん…何があったんです?」
シオンの目にも恭介ほどではないが、困惑の表情が浮かんでいる。
「…今からする話を信じる、信じないはお前達の勝手だ…もしも信じられないなら俺を倒すなり、なんなり好きにしろ……―」


135:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:49:30 4EPfqI6D0


グレイは事の顛末を語った。
放送を境にさくらが豹変したこと。
彼女が殺し合いに乗ったこと。そして自分が彼女を殺していないこと、全てを。
「そんな…! さくらさんが…そんなことするなんて…!!」
「…………………………………………」
シオンは告げられた事実に困惑の色合いを深めた。
ドギーは貝の様に押し黙ったまま、何事か思案している。
「俺は信じねぇぞ! そんな下手な作り話で俺たちを動揺させようなんて随分セコイ真似してくれるじゃねぇか!!」
いきり立つ恭介は先ほどから臨戦態勢の構えを解いてはいない。
人よりも大きな瞳はきつくグレイを睨んだまま。
彼の脳裏には暴虐な殺戮マシーンに無残な仕打ちを受けるさくらの姿がありありと浮かんでいた。
「…止めるんだ、恭介君。こいつは恐らく嘘を言っていない」
すっと水平に伸ばした右腕で恭介とグレイの間にドギーが割ってはいる。
「ドギーさん! あんた、こんな奴のいうことを信じるってのか!?」
非難の声を上げる恭介に向き直り、ドギーは告げた。
「こいつがさくら君を殺したなら、わざわざ偽ってまで言い訳する必要はない。
俺たちを殺したいなら問答無用で強襲すればいいだけの話だ。作り話なんて必要ない」
「だ・だけど…!!」
「恭介さん…僕もドギーさんの意見に賛成です」
更にシオンが間に入る。
「シオン! お前までこんなやつのいうことを信じるってのか!?」
「…恭介さん、僕だってさくらさんが殺し合いに乗ったなんてこと信じたくはないけど…グレイさんは、嘘は言ってはいないと思う。だって…グレイさん制限中でしょ?」
「なに…!?」
今度は恭介がグレイの方へ向き直った。
「あぁ…今の私は武装一切を使えない…今、お前達と交戦すればまず勝ち目はないだろうな…」
「丸腰でわざわざ戻ってきたわけか…目的はなんだ?」


136:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 10:50:21 4EPfqI6D0
「…その前にお前達に確認しておきたい…6時の放送…あれを聞いてまだ、人を信じられるか?」
ドギーの問いかけにグレイは問いかけで答えた。
「これから先も人は死ぬ。恐らく…シオン、恭介、お前達の仲間も名を連ねて行くだろう…それでも他人を信用できるか?」
全員が言葉を失った。
「これから先に待つのはそういう世界だ。あるいはあの女のように殺し合いに乗るか、場合によってはこの場で命を絶つ方が楽かもしれん…それでも他人を信用できるか? 
ここにいる連中と生死を共に出来るか!?」
グレイは本心を明かす前に答えを聞きたかった。
彼らがどの様な選択をしようと、彼の成すべきことは決まっていたのだが。

「…随分とキャラに合わない言動をしてくるじゃないか…俺はSPD…それも地球署の署長だぞ? 警察官として成すべきことをなす! ただ、それだけだ」
立場を違えども、意見を違えども二人は戦士であるお互いの人格は認めている。
同じ愛する者を喪失したことが皮肉にも彼らの絆を深めたのかもしれない。
だから、どちらかが堕ちるときはもう一方がそれを死と言う形で押し留めるだろう。
「僕も…例え竜也さんやドモンさんに会えなくなっても…僕は皆さんと戦うなんて事は絶対にしない!!! …ロンの思い通りになんて絶対にならない!!!!!」
彼が橋渡しをしなければ、自分達はここに集ってはいないであろう。
グレイは闇に沈んでいたままだったかもしれない。彼はグレイの恩人だった。
「恭介…お前はどうだ?」
最後に。恭介の視線とグレイの赤い視線が交わる。
恭介は言葉を選びながらゆっくりと心底の思いを紡いでいく。
「…俺は…ドギーさんほど強い信念があるわけじゃない…シオンほど、会って間もないやつを信じきれるほど純粋でもない…俺は一般市民だからな…」
恭介の言葉にグレイは何も言わずじっと耳を傾けていた。
「…………………………………………」
「……俺は…一般市民なんだよ……」




137:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:38:30 4EPfqI6D0
彼はそう繰り返した。偽らざる、恭介の気持ちだった。
「だけどよ…俺は…一般市民であることを貫くぜ。どこまでも普通であってみせる-! 
俺は瞬が心配だ。裕作さんが心配だ。菜摘が心配だ。シグナルマンが心配だ。あいつらが殺されたら…きっとわけわかんなくなっちまう…だけど、それで他人を襲うことなんてことだけはしない!! そんなこと絶対にしない!!!」
肩を震わせ、恭介は言い切った。胸の動悸が激しい。
そっと、恭介の肩に手が置かれた。ドギークルーガーの大きな手だった。
「これだけのことを言わせたんだ…お前の心底も聞かせてもらおうか…」
ドギーの視線とグレイの視線が深く交わる。

「私は…戦う」


掛け替えのない仲間の命を奪われ、我を失った女の悲しみを見た。
愛する人と信頼する部下を失った男の慟哭を聞いた。
もう、奪い奪われる光景は沢山だった。
―――竜…――――
腕の中で崩れた人の言葉が脳裏に木霊する。
あの絶望を、慟哭を、もう味わいたくはなかった。
目の当たりに、したくなかった。
「本来なら…私はバイラムと共に滅び去るべきだった…だから、私は生ける屍も同じだった…
ドギークルーガー…私はお前との戦いで全て終わりに出来ると思った…宿敵との決着を奪われ、死に場所を失った憐れなガラクタ…だが、そんなガラクタにもしなければならないことがある―…」
彼は戦う。そう、今まで彼は戦ってきた。
戦うために生まれた。幾多の戦場を駆けた。
バイラムの幹部達は仲間と呼べるほどの絆を結んではいなかった。
個々が強くなりすぎた彼らは仲間と言うものを必要としなくなっていた。
だから、裏次元人に体力も知力も圧倒的に劣るはずの男が、たかだか肉体を十数倍に高める程度の強化服を纏っただけで自分と対等に渡り合うことに驚愕を覚えた。


138:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:39:18 4EPfqI6D0
彼の強さの源を知りたくなった。
それが愛ゆえに、だと言うことをグレイは身をもって知ることとなる。
自分が永遠にそれを喪失した瞬間に。
「私達は同士だ。個々の力ならば私達に力及ばないはずの人間がバイラムを打倒したように…人の絆は何よりも脆く、何よりも強い―…私はそれに賭けてみたいのだ…お前達と一緒に」
何度叩き落されても、立ち上がり、羽ばたいて見せた漆黒の翼が脳裏に鮮明に蘇る。
あの不敵な笑みがありありと浮かんでいく。
彼はこんな自分を笑うだろうか。
グレイは知らない。彼もまた、愛ゆえに死んだ事を。
かつての彼のように自分は何かを守るために戦えるだろうか―
誰ともなく腕が伸びる。
時代も立場も異なる者達の手が垣根を越えて交差する。
そして、重なった。
「しかし、お前の口からそんな提案を聞くとは思わなかったな…」
「全くだぜ…俺たちは即席戦隊だな!」
「恭介さん、なんかカップ麺みたいですよ、それ…どうせなら“ドリーム戦隊”とか言えませんか?」
「おっ! そりゃあいい!! えーと、赤は俺。緑はシオン。ブルーはドギーさん。ブラックはグレイだな!」
「…私がブラックか……」
「なんだ? 嫌なの?」
「…いや、別に……」
「でも、やっぱ女の子がほしいよなー…さくらさんの穴は痛いって言うか…」


「だったらあたしがその穴を埋めてあげようじゃない…た・だ・し…あんたら全員あたしと理央様のために働いてもらうわ!! ロンを倒すためにね! ありがたく思いなさい!!」


139:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:40:09 4EPfqI6D0
「お前は…!!」
驚愕する一堂の眼前に緑色のチャイナ服に身を包んだ女性拳士が佇んでいた。
「この女…」
制限中とはいえグレイにも、そしてドギーにすらその接近を感じさせず、彼女は近接に姿を現したのだ。
そのまま、メレは余裕の表情で腕を組んだまま一同を見回す。
どうやら知り合いは混じっていないようだが、彼らは殺し合いには乗っていないらしい。
彼女が欲しいのは、理央の戦力になりうる兵隊だった。
「ふざけんなっ! 緑はもう、シオンがいるんだよ! せめて黄色だろ、そこは!!」
「…恭介さん、論点ずれてます…そうじゃなくて―…」
シオンと恭介の掛け合いを前に、メレは自らの中に宿る力を揺り動かす。
「生憎ねぇ…猿顔の一般市民さん…あたしは緑色じゃなくて…金色よっ!!」
閃光が弾け、逆巻く風が周囲の大気を震わせた。
「これは…!!」
輝く羽根が舞い散るその中心に光り輝く金人の姿があった。

「幻獣フェニックス拳のメレ…!」

他者と交わらなかったことでメレはこのゲームにおけるルールを殆ど把握していない。
しかし、重要なのは今自分が力を発揮できると言う事実だ。
「その趣味の悪い成金武装はあの男と同じ匂いを感じるな…女…貴様何者だ?」
グレイが動じる様子もなく、メレに詰問する。

「あんなのと一緒にしてほしくないわね…わたしはわたし! あんたらは格の違いわかれば十分よ!!!」

新たなる戦いが始まった。




140:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:40:46 4EPfqI6D0
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡後)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康だが多少の傷(ダメージ軽微、戦闘に支障なし)。2時間戦闘不能
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数4発) 支給品一式
[思考]
基本行動方針:戦いを終わらせるためドギー、シオン、恭介と共闘
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借理央返す。
第二行動方針:西堀さくらに違和感。

【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー@忍風戦隊ハリケンジャー、鬼の石@星獣戦隊ギンガマン、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す。
第一行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。

【名前】陣内恭介@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:メガレンジャーVSカーレンジャー終了後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:健康。
[装備]:アクセルチェンジャー
[道具]:芋ようかん×3
[思考]
基本行動方針:殺し合いから生き延びる。 一般市民であることを貫く。
第一行動方針:新たに出会った仲間と共闘。



141:◇8ttRQi9eksの代理投下
08/11/10 11:45:41 4EPfqI6D0
【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)グレイと和解
[装備]:マスターライセンス
[道具]:ライフバード@救急戦隊ゴーゴーファイブ、支給品一式
[思考]
基本行動方針:首輪を解除して、ロンを倒す
第一行動方針:仲間と共闘する。

【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:G-4都市 1日目 午前
[状態]:鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷。両足に軽めの裂傷。獣人形態となり能力を発揮中。
[装備]:釵一本@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:なし
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:目の前の連中を力で従わせる。ガイの仲間(蒼太とおぼろ)を撃退する。
第二行動方針:ゲンギが使えない原因を調べる。
第三行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。
備考:リンリンシーの為、出血はありません。

タイトルは「即席戦隊」で

――――――――――――――――――――

遅くなりましたが、代理投下終了。
いろんな意味で羽ばたいたな。メレ。
GJでした。



142:名無しより愛をこめて
08/11/10 19:30:26 +xoIldUWO
投下&代理投下GJです!
即席戦隊結成!
メレがイエローなら、ゴーオンジャーなのにと、ちょっと惜しかったりw

それにしても相変わらずメレは不敵というか向こう見ずというかw
果たして手負いと制限状態がいるとはいえ、4人がかりに勝てるのか!?
グレイも相変わらずハードボイルドでかっこよく、ボスの嘆きは胸をうちました。
面白かったですGJ!

143:名無しより愛をこめて
08/11/12 19:37:07 VFBnv8MrO



144: ◆MGy4jd.pxY
08/11/12 23:22:03 DeVgSUoyO
ただ今推敲中なのですが、自宅PCがアクセス規制に巻き込まれています。
代理投下していただくのも申し訳ないですし、明日の朝、自宅以外の場所で投下しようかと思うのですがいかがなものでしょう。
朝一もしくは昼休憩中になるのですが……。

145:名無しより愛をこめて
08/11/13 00:49:56 Leicw479O
>>144
了解しました。
自分が代理投下できれば良いのですが、何分携帯なもので……
申し訳ないです

146: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 10:43:05 xkwAjiuY0
>>145
ありがとうございます。
お言葉に甘えて只今より投下します。

猿さん回避のため少々時間を掛けて投下しようか思います。


147: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 10:44:28 xkwAjiuY0
ナツメをこんな風に抱いて寝かしつけたのは、いつが最後だっただろう。

美季の腕の中でドロップは健やかに眠りながら、時折『ママ……』と寝言を繰り返す。
手に伝わる暖かい温もり。柔らかな頬の感触。耳に掛かる穏やかな寝息。
母の手に委ねられる幼子の命の息吹。
久しぶりの感触はしばし眠っていた母性本能を目覚めさせたようで、とても満ち足りて幸せな気分に浸らせてくれた。
ほんの数分だけ、殺し合いを忘れさせるほどに……。

「行こう。F-7エリアでジルフィーザが待っている」

ティターンの声が美希を温もりの中から美希を現実へ引き戻した。
ジルフィーザが待っている……?
いいえ。待っているのは、ナツメだわ。
行かなければならないのは、急がなければならないのは、誰のためでもなくナツメのため。
取り戻さなければならないのは、ナツメと紡ぐ満ち足りた時間。

―― 殺し合いはまだ序盤、気を緩めるには早すぎる。

仄かに生まれた温もり。胸に蘇った幼いナツメと過ごした陽だまりのような時間。
少しだけ、それを名残惜しみながら胸の奥へ押しやった。
そして美希は、ティターンの呼びかけに力強く頷いた。

§

「ひどい爆発だったし。お兄さん、心配してるだろうな」

148: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 10:45:33 xkwAjiuY0


そう言ってドロップの顔を覗きこんだのは最上蒼太だった。
遺跡で出会った明石暁と同じボウケンジャーの一員。
誰が見ても好感を持つ笑顔を振り撒きながら、それでいてさりげなく周囲を気遣う。
人材として蒼太を推し量るとしたなら美季は高い評価を与えると思う。
戦闘においても申し分ない。
とっさに機転を利かせられる柔軟な頭脳と高い身体能力。その両方を兼ねそなえている。 
もっとも、ネジブルーに渡した名簿にあった蒼太の経歴を考えれば当然の話ではあるが。
元を辿れば彼はスパイ。
人を懐柔する術など心得たもの。
磨き上げられた戦闘力と、冷酷な心。
今、笑顔の奥にある彼の素顔がスパイのそれならば。
フェミニストのように振る舞いおぼろを守っているのは、裏を返せば美希と同じ発想なのかもしれない。

「せやな、さぁ。はよいってお兄さんにドロップ君の元気な姿を見せたらな。なっ!」

纏の墓石の前で、そっと手を合わせていた日向おぼろが答える。
茶番だった救出劇で、戦闘の間に美希とドロップをタワーから連れ出したのが彼女だった。
震える手で美季とドロップの手を握り、もう大丈夫だと仕切にドロップを励ましていた。
その際に交わした僅かな会話からでも、おぼろの強い正義感と聡明さを感じ取れた。
だが同時に感じたのが戦闘能力の低さ。戦場において、自力で勝ち残る確率など皆無に等しい彼女の非力さを感じた。

「バウ!バウ!バウ!」
「マーフィー。あまり騒ぐな、お前も傷ついているのだ」

おぼろに答えるようにマーフィーが吼えた。

149: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 10:53:38 xkwAjiuY0
その横でマーフィーの頭をティターンが優しく撫でている。
黒装束に身を包んだティターンのその姿は、美希が名簿で見た『冥府神ティターン』のそれとは違う。
支給品が姿を変えられる品だったのか、あるいはティターン生来の能力なのかはわからない。
けれど、人の姿に衣を借るあたり、争い事は好まないのだろう。
『命を守りたい』というティターンの根底に流れる思いは、この手で斬首したスフィンクスと同じ。
人間の絆と勇気を信じ、そして知ろうと願った愚かなる賢者『冥府神スフィンクス』と同じだった。

「ドロップの兄さんなら、俺と同じくらいかな?」

まだまだあどけなさをその顔に残しながらも、少し大人びた口調で並樹瞬が言った。
纏を弔った事で幾分落ち尽きを取り戻した瞬。ジルフィーザの元へ向かうにあたり、ふと湧いた疑問だったのだろう。

「うむ……。そうだな。美季とドロップ以外はジルフィーザを知らないんだったな……」

返答にティターンは詰まったようだ。
外見上ジルフィーザの年齢は判別しがたい。
しかし言葉に詰まった原因は年齢というよりも、童鬼ドロップの兄、冥王ジルフィーザの姿だろう。
角を生やした半獣の顔と、蝙蝠のような羽根、冥王の冠に相応しい異形の姿をしている。
ティターンが人外の姿を隠していることも含めてどう答えるつもりだろう?
美季はティターンの顔を見遣る。
押し黙っていたティターンが黒装束の肩に手を掛けた。

「ドロップの兄、そして、俺についても話しておきたい……。話すと言うより見てもらった方が解りやすいだろう。驚かないでくれ」

ティターンは脱ぎ捨てるように勢い良く黒装束を剥ぎ取った。

150: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:05:01 xkwAjiuY0
体から離れた黒装束が七色の光彩を放つ。
光彩は綾をなし虹色の反物が、まるで本物の虹を描くように空に拡る。

「隠していたわけではなかったんだが。争いを出来るだけ避けるためには、人の姿の方が都合が良かったのだ。
俺もジルフィーザも人間から見れば、怪物だからな」

虹色の反物がふわりとティターンの手の中に落ちる。
黒装束を脱いだティターンの姿、畏怖されし異形の神の姿。
原子雲を彷彿させる巨大な頭部、深緑色の体躯に大蛇ような四肢。
誰もが一瞬、息を飲んだようだ。大きく目を開き言葉を発せずにいた。
美希はそれに習い、守るようにドロップを抱く手に力を込める。
その中で蒼太だけがティターンに厳しい眼を向け、アクセルラーを構えた。

「ちょっと、蒼太くん。びっくりしたんはわかるけど!」

おぼろはティターンの前へ割って入り蒼太を諌める。
瞬も蒼太を咎めるような視線を向けた。

「ええ。彼は敵じゃない。それは充分わかってます」

蒼太はすぐに穏やかな表情を作り、アクセルラーの表示をこちらに向けた。
液晶画面に赤く表示された文字をおぼろが読み上げる。

「ハザード……レベル120?」

151: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:07:00 xkwAjiuY0
「ええ、ハザードレベル120。プレシャスです。世界各地に点在する人類の秘宝。僕たちボウケンジャーが探し求めるのがプレシャス。
ティターンの支給品もその一つのようですね。ハザードレベルは価値を数値で表したと思ってもらえれば……。
だけど、ボウケンジャーである僕が知らないプレシャスを支給されるとはね」

敵意のないことを示したつもりなのか、蒼太は軽く両手を挙げる。
ティターンは安堵した様子で再び反物を纏い、黒装束姿に戻った。

「このプレシャスの存在を知る者がお前の仲間にいるのだろう。その者と同じ時間から調達したんではないか?
これは纏が言っていたんだが……。参加者は同じ時間軸から集められたんじゃない、と――」

巽纏が話したというそれぞれの時間軸の違い。
瞬とネジブルー、ドロップとジルフィーザを例えたティターンの話で、名簿の記載は事実だったと証明された。
証明されたのはいいが……。明石とヒカルに次いで、この場の面々にも知れたのだから他にも気付いたものも少なく無い筈。
ならば、それを逆手に疑心暗鬼の種として蒔くだけ。
参加者たちの団結を防ぎ、殺し合いを行わせるのが美希の役目なのだから。

「じゃあ、一概に知り合いだからと言って100パーセント信頼するのは危険かもしれないわね」
「……俺は知り合いいないけど。皆には、気をつけて欲しい。組む相手も助ける相手もしっかり見極めなきゃ、命を落とす可能性もある。
ここに来た事で、考え方が変わる場合だってあるから」

瞬が伏目がちに呟いた。

152: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:09:12 xkwAjiuY0
励ますように瞬の肩を優しく叩いたのはティターン。
おぼろも蒼太も見守るような目で瞬を見ている。
その自嘲気味な呟きで、纏たちが回りくどくメガブルーを人質とした経緯が読めた。
当初、瞬は殺し合いに乗ろうとしてたのだ。

「だが、人との触れ合いの中で考えなどいくらでも変わる。この俺のようにな」

話題を変えようとしたのだろう。
ティターンは纏のデイバックを拾い上げた。
先程、瞬が泣きながらカレーパンを取り出しただけで残りはまだ確認していなかった。
中には『F-9 繭』と書いた紙切れと、手の平ほどの大きさの、鍬形の玩具のような品。
そして、残りの食料はナツメの大好きだったエッグタルト。
それ……。言いかけた美希を遮ったのはおぼろだった。

「それ、一楸ちゃんの……」

おぼろの知り合いの縁の品。クワガライジャーに変身するためのアイテム。
その人物は参加者にはおらず、支給品だけがこの場にある。
聞けばネジブルーが使ったソニックメガホンや、蒼太とおぼろが追っていたクエスターガイが持つクエイクハンマーもそうだという。
おぼろは落胆を隠さず声に出した。

「武器だけやなく、ゴウライチェンジャーまでここにあるやなんて。さっきの時間軸の話を考えたらろくな想像が浮かばん!!」
「とにかく、ロンを倒して帰るまでは何もわからない。これはお前が使うといい。一楸という者もそれを望むだろう」
「ありがとう。でもたぶんゴウライチェンジャーは誰にでも使えるんや。『迅雷・シノビチェンジ』の掛け声で起動すると思う。
一応預らせてもらうけど……。いざとなれば使い回しが利くってのは皆覚えといて」

おぼろがゴウライチェンジャーを受け取るのを美希は横目で見ていた。

「って、うちのことばっかり言ってごめんなさい。そういえば美希さん何か言おうとしてたやろ?」

153: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:10:18 xkwAjiuY0
「いえ、私こそごめんなさいだわ。偶然見えたバックの中のエッグタルトが娘の大好物だなの。こんな時にそれを気にするなんて……」

どうかしている。
今はエッグタルトより、汎用性のあるゴウライチェンジャー。これがあれば殺し合いも楽になる。

「こっちの『繭』に誰か心辺りは無いか?」

腕の中でピクリとドロップが反応し目を開いた。
ゆっくりと視線を動かしティターンを見た。

「行かなきゃ……」

ドロップが行きたいのは繭なのだと思った。
この子が人間の姿をしているのと何か関係があるのかもしれない。

§

「バ……ウ!バ!……ガッ!!」

蒼太がバリサンダーを押しながら進む横で、じゃれるように歩いていたマーフィーに異変が起こった。
突然、壊れたデジタル音を発しマーフィーは崩折れる。
駆け寄ったおぼろはネジブルーに撃たれた箇所を見て顔をしかめた。

「ちょっと酷いな。 回線が切断されてぐちゃぐちゃや」
「修理は可能なんですか?」
「完全にというわけにはいかんやろな。まぁ歩けるぐらいには修理できると思うけど。すぐって訳には……」
「時間が必要ってことですね」

時計を確かめながら蒼太が2組に別れようと提案した。
ティターン、美希、ドロップはジルフィーザの元へ。

154: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:16:15 xkwAjiuY0
おぼろ、蒼太、瞬は向かうエリアとは反対方向に見える工場でマーフィーを修復。
終わり次第、合流場所である瞬が纏と休憩を取ったというビルへ向かう。

別れ際、瞬が美希に話しかけてきた。

「纏さんが書いてくれた手紙も気になるし、本当は一緒に行きたいんですけど……」
「しょうがないわね。ティターンの話じゃジルフィーザはちょっと気むずかしそうな感じだから。
先に行ってきちん話しておくわ。ドロップを命がけで守ったあなたたちのこと」
「ドロップ、会ったのが美希さんで良かったですよね。でも美季さん、ずっと抱いてたら重くないですか?」
「ありがとう。大丈夫よ」

礼を言うと瞬は笑顔を浮かべて軽く頷いた。

「瞬くん、高校生よね。お母さん心配してるでしょうね」
「確かにさっきまでの俺なら、きっと心配してたと思います」

美希ははっと名簿に書かれていたことを思い出す。
瞬は幼少の頃、フルート奏者だった母親を亡くしている。
美希に抱かれるドロップを、瞬がどこか懐かしむように見つめた。

「でも、もう心配させないつもりです。空で、纏さんと一緒に見てくれてるだろうから」

纏の死は彼に成長をもたらしたようだ。
仲間の死を乗り越えて強大な敵に立向かっていく。
皆の悲しみも怒りも正義の為の力となるのに、なぜ自分だけ母としての愛情を殺意に変えなければならないのだろう。

「次に会う時まで、良かったら使って。これは盾の型やけどジョイントを組み変えたら手槍にもなるし」

おぼろがイカヅチ丸を美希に差し出した。

「うちはゴウライチェンジャーも預ってるし、マーフィーを修理したらすぐそっちへ向かうから。ドロップ君をたのんます。そのために纏さんも命を懸けはったんやし」

155: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:18:22 xkwAjiuY0
「それに、僕がついてますから。っと、蒼太さんも」
「お、瞬くんなかなか言うてくれるやないの。ちょっと蒼太く~ん。今の聞いた?」
「じゃあ、僕も瞬くんに守ってもらうよ。よろしくメガブルー」

おぼろと瞬が笑いあう。
その輪に蒼太が加わった。
蒼太の素顔はもうスパイじゃない。これが彼の素顔なのだと美希は思った。
屈託なく笑う三人。
年も顔も背格好もなにひとつにていないのに、なぜかジャン、レツ、ランの笑顔と重なった。

越えてはいけない一線を踏みこえてしまった美希には、彼らがとても遠く感じる。
巽纏を救えなかったのだから、犠牲を出してしまったのだから、彼らも同じだと、そう思えば楽になれるだろうか?

美季はもう一度、ひとりひとりを見つめていった。
目が眩むほど輝いた笑顔がそこにあった。
ふと、今ならまだ戻れるような気がした。
今止めてしまえば、まだ間に合うのではないかと。
スフィンクスを殺したことも、纏を殺したことも、全部仕方の無いことだった。
でもその罪も、スフィンクスと纏ならば許してのではないかと……。

纏の墓石に目が止まる。
墓石と言うにはあまりにも不格好な岩の下で、巽纏が眠っているのだ。
言い知れない寂寥感が美希を包んだ。

あなたは私を恨んでいるでしょうね。

仕方が無いこととは言えなかった。

156: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:19:44 xkwAjiuY0
許してもらおうなどと都合の良すぎる話だった。

「次……」

腕の中でドロップが、美希以外には聞こえないくらいの小さな声で呟いた。
美季はドロップの冷めた視線を追った。
ドロップの視線がティターンの背を射抜く。

結局、この中に美希が利用出来る者などいない。

わかっている。
早いほうがいい。
私が迷いを振り払うためにも……。

答える代わりに美季はドロップの頭を撫でた。

§

歩いていく美希、ドロップ、ティターン。
その姿を思い出すと瞬は少し複雑な感情に駆られた。
本当ならば自分もついて行きたかった。
行って全部終わらせてくるつもりだったのだから、何となく不完全燃焼を起こしている。
蒼太たちと共に来た鉄工所で瞬は特にすることなど無なかった。

マーフィーが心配じゃないかと言えば、あまり心配でもなかった。
なぜならここに着いた途端、おぼろはメカニックとしての本領を発揮。
テキパキと蒼太と瞬に指示を出す。
結局、プロと学生の差がでたというか、助手の仕事にあぶれた瞬は邪魔にならぬよう隅で大人しく待っているしかなかった。

157: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:21:51 xkwAjiuY0
しばらくして一段落したのか、おぼろと蒼太がペットボトルを片手にこっちへやってきた。
マーフィーはまだ作業台で寝そべっていたが鳴き声は以前よりうるさいぐらいの声に戻っていた。

「気になるかい」
「そりゃ、纏さんの残してくれた手紙のこともあるし」
「じゃ、これを持って様子を見にいくってのはどうかな?」

蒼太が渡してくれたのはゴウライチェンジャーだった。
マーフィーの修理はもう一息で終わるらしい。
ただ残念なことに材料も乏しく、予想していたよりも修復は出来ないようだ。
施せるのがあくまでも応急処置なので、あまり長い時間は歩かせられない。
そこでバリサンダーに乗せて運ぼうとなったが、押して行くには負担と時間的なロスが大きすぎる。
乗って行くには、おぼろがマーフィーを抱えることになるが。
となると瞬は一人あぶれてしまう。
続けて蒼太からクエスターガイに奪われた天空の花の話を聞いた。
仕掛けられた時間のリミットもある。
瞬にゴウライチェンジャーを託してみようと二人は思ったらしい。

「もちろん、一人になるのは危険やし。瞬くんがいややったら無理強いはせえへんで」
「行きます。もちろん」

その時、瞬はすでに立ち上がりデイバックを担いでいた。

§

幼いドロップの歩みに合わせ、ゆっくりと歩みを進める。
ドロップの歩みのせいだけではなかった。
ここはちょうど美希がテルミット弾を仕掛けたタワーの裏手。
壊れた街の残骸が、美希の最後の良心に縋り付くように歩みを遅くさせていた。

158: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:24:07 xkwAjiuY0
ティターンは誰かに話したかったのだろうか。
歩きながらする会話がいつの間にか放送で呼ばれた死者の話へ、そしてその中のティターンの知り合いへと話は自然に流れた。
小津勇、深雪、麗。そしてスフィンクス。
スフィンクスとティターンは人間界で命の大切さを学んだ。
人の絆、兄弟や家族の思い、それは今まで美希も何より大切に、どんなことより強く願う思いだった。
無意識に美希は立ち止まった。

「少し時間を貰えない?ずっとドロップを抱いていて纏さんの墓前で手を合わせてられなかったのよ」

つい口から出た言葉が、ティターンに対する演技なのか、自分の本心なのか一瞬わからなかった。

「構わないが、戻るか?」
「いいえ、ここで良いわ。ここが爆心地みたいだし、この爆発のせいで纏さんが亡くなったのだから」

美希は手を合わせてみた。
不思議に後悔も、懺悔も、何も湧き上がってこない。
感情のすべてを凍らせてしまったかのようだった。

本当に心が凍ってしまえばいいのに……。何の迷いもなく目的の為に殺戮を厭わない殺人マシーンだったら……。

ナツメを救わなければならないという思いが、溢れそうな感情を必死に凍結させていた。
長く長く、美希は手を合わせたまま動けないでいた。

「どうしたのだ」

ティターンとドロップが不思議そうに自分を見ている。
言われて始めて頬を伝う涙に気がついた。

159: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 11:30:47 xkwAjiuY0
出来ないの?
声にださずに呟いたドロップ。
不意に美希の両耳を引っ張っぱった。

「勇気……。出ろ、出ろ」

大丈夫よ、出来るわ……。
美希はドロップにだけ聞こえるようにそっと優しく囁いた。
始末するならなるべく早いほうが良い。
ジルフィーザど組まれ、瞬たちと合流した後でより、今。
ぐらついた気持ちと決別するにもティターンの存在は障害のように思えた。

「何でもないわ。目にゴミでも入ったみたいね」

美紀はそっと涙を拭い取り、ティターンに微笑みを帰した。
その時。
タタッ。軽い靴音を響かせてドロップがティターンに駆けていく。
それはスキップするように、まるで父親甘える子供のように。
飛び跳ねたドロップはティターンの肩へ攀じ登った。
ティターンはどこか嬉しそうに、しっかりとドロップを大きな背で受け止め、両腕で支えた。
スッと首に回されるドロップの細い両腕。
その手に持つのは幼子の玩具ではなく鏡の破片。
ナイフのように鋭い欠片が朝日を受けて煌めいた。

「マトイお兄ちゃんと皆のおかげで、大事なこと全部思い出したよ」

無垢な幼子の表情は無く冷たい殺意に満ちた目。

160:名無しより愛をこめて
08/11/13 12:39:23 jmjBVgIQ0



161:名無しより愛をこめて
08/11/13 14:57:43 V6Ltb5720
支援

162:本当にすみません。続きいきます ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:42:53 h0HNdxI80
ドロップが黒装束の肩口を強く引く、黒装束が反物に戻りふわりと落ちた。
手伝うよ。
ドロップの目が語っているようだった。

「やめないか、遊んでいる場合ではないのだ」

悪戯を咎めるティターン。
嗤いながらドロップがティターンの首を締め上げる。

「うぐぅ!」

うめき声を上げながら、ドロップを振りほどこうとする手は、どこか躊躇しているようだった。
ティターンには信じられないのだろう。
首をへし折られそうになりながらも、振りほどこうとする手を破片で切り裂かれようとも……。

グチッグギリッッ!

骨が、血管が、器官が破壊される音が響く。
深緑色のティターンの額に、ミミズがのたうつように血管が浮き立つ。
ティターンの首が見る見る捻り曲がった。
笑い声こそ上げないがドロップが狂喜しているのがわかる。

「~~~♪」

ドロップは手柄を立てた子供のように誇らしげな笑顔を美希に向ける。
タンッ。
ティターンの体を蹴って軽快にジャンプし美希の方へ駆け寄る。

「美……希……逃…げろ……」

まだティターンにはわからないのだろうか。
この手に握っているのは、手槍の型を成したスタッグブレイカー。

163:本当にすみません。続きいきます ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:44:28 h0HNdxI80
美希はありったけの力を込め、槍先をティターンの胸へ突き立てた。

「逃げろ?どこへ逃げればいいのよ……。このまま逃げてどうしろと言うの?!」

手に伝わる肉を突き破る感触。
スタッグブレイカーはティターンの胸に深々と突き刺さる。
そこで初めてティターンは何が起きたのか悟ったようだ。
抵抗するかのように美季の肩を掴む。
否、ティターンの暖かい手からは抵抗の意思でなく、改心を願う温情が伝わってきた。

不意に……。

――ドロップ君をたのんます。そのために纏さんも命を懸けはったんやし
おぼろの声を思い出す。

――お兄さん、心配してるだろうな。
蒼太の優しい笑顔が蘇る。

――空で、纏さんと一緒に見てくれてるだろうから。
悲しみを力に変えた瞬の姿が脳裏に浮かぶ。

――人の未来は地球の未来なんだ!
纏の叫びが胸を突く。

――人間の絆、そこに溢れる勇気。私は信じています。そして、もっと知りたいのです。
スフィンクスの願いが心を砕こうとする。

――ママ!
ナツメの声が頭の中で弾けた。

――あなたは戦わなければならないのです。なつめさんを失いたくなければね……。

164: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:45:12 h0HNdxI80
ロンに引き裂かれるナツメの幻が眼の前に広がる。

「あなたたちと……。こんなふうに出会いたくなかった……」

もう一度スタッグブレイカーを引き抜き再びティターンめがけ突き出した。
僅かに体を捻ったティターン。その右脇腹をスタッグブレイカーが抉り取る。

「ナツメを……守るためなの……」

美希は右手に力を込めた。
うっすらと美希の背後に浮かび上がる激獣レオパルドの巨躯。
激気が濁流如く身体を駆け巡り、右手に流れ込む。

「激技、貫貫掌……」

美季は激気を込めた掌底をティターンの脇腹へ打ち込こんだ。
その瞬間、時が止まったようにティターンの身体が静止した。

「……その……悲しい拳で……守ろ……うというのか……?」

ティターンはそっと優しく包むように美希の手に触れようとした。
だが、フッと力が抜けたようにだらりと手が下がった。
前へ崩れていくティターンの身体を美希はそっと支えた。
手に伝わるのは冷えて行く温もり。硬直した身体の感触。耳を澄ませても聞こえない息吹。
美希の腕の中で消えていく命。
これでまた一人。

165: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:45:55 h0HNdxI80
美希はティターンの身体を地へ横たえ、ゆっくりとその場を離れた。

ゴオオオオッ……。

燃え盛る火柱がティターンを包んでいた。
火柱はすぐに掻き消えた。後に残ったのは炭化した黒い塊だった。
ドロップがぎゅっと美希の手を握った。

「行きましょう。あの子たちが来る前に、ジルフィーザのところへ。
お兄さんにはあの子たちの始末を手伝ってもらった後、死んで貰うわ……。それでいいわね」

ドロップは力強く頷いた。

§

「っと、美季……さん?まだ、こんな所にいたんだ」

瞬は、追い付いた美季に一瞬声をかけて良いのか戸惑った。
タワー付近で追い付いたが、そこにティターンの姿はなく。
少し怖い顔をした美季がドロップの手を引きF-7エリアの方角へ向かっていた。

「ティターンは、どうしたんだ?」

美季が出てきたのはタワー裏手、爆発の中心あたり。
爆発の原因でも調べていたのだろうか? 
もしかしたら、人質だった美季は自分たちより纏の死に責任を感じているのかもしれない。

166: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:47:42 h0HNdxI80
ティターンの姿がないのは瞬の位置からティターンが見えなかっただけかもしれないのだし。
だが、何となく美季の表情が気になる 。

「何もないんだろうけど」

行く先はわかっているのだから確かめてから合流しても遅くない。
瞬は爆心地へ近づいた。

溶けて曲がった鉄骨も、黒ずんだコンクリートも、爆発の酷さを物語っていた。
瞬はいたたまれない気持ちになった。
こんなところで何をしようっていうのだ。
確かめたところで何もない。
それよりも早く追い付いて美季たちの護衛にでも回ったほうがいい。

ティターンがいないということ。
最悪の想像をすればネジブルーの声に集まった誰かから、自ら囮となって美季たちを逃がしたとも考えられる。
やはり早く美季に確かめてみなければならない。

「行こう」

瞬は、デイバックを担ぎ直し瞬はタワーに背を向け走り出した。
ガサガサとバックの中身が揺れる。

「あぁ、支給品の変なカプセル。別れる前に、蒼太さんに見て貰えば良かった。案外これもプレシャスってヤツかもしれないな」



167:名無しより愛をこめて
08/11/13 16:50:28 E12C3MJvO
支援

168: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:51:57 h0HNdxI80



§

ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。

デイバックから聞こえるのは不規則に、僅かに歩調と異なる音。

ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。ガサガサッ。ガサッ。ガサッ。……ガサッ!

§




169:名無しより愛をこめて
08/11/13 16:57:40 E12C3MJvO



170: ◆MGy4jd.pxY
08/11/13 16:57:44 h0HNdxI80


……ィ…ターン。ティターン。

深い闇の底に沈んだティターンを呼ぶ声がする。
その声にティターンの頬が緩む。

……相変わらず、人とは興味深いものです。
勇気と絆の力で闇に打ち勝つのも人間なら、子の為に修羅に堕ちるのもまた人間。
もう私たちに出来ることは見守ることだけのようですね。

闇の底に一筋の光が差し込んだ。

……さぁ、行きましょう。
そして、あなたに何から話しましょうか。
あなたが眠った後のインフェルシアと人間界のしましょうか?
それともここで出会った者の話にしましょうか?

光の中から声の主がティターンに手を差し伸べる。
 
あぁ、行ったらゆっくり聞かせてくれ。
俺たちに時間は充分にあるのだから……。


【冥府神ティターン 死亡】
 残り32人



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