スーパー戦隊 バトルロワイアル Part2at SFX
スーパー戦隊 バトルロワイアル Part2 - 暇つぶし2ch450:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:15:04 lJnQFy6y0
 だが、マーフィーはその言葉に反応し、顔を北西へと向け、吠えた。
「もしかして、お前、あの二人がどこにいるのかわかるのか?」
「バウ!」
 小気味よい返事。
 ジルフィーザも気になる。怪物の姿をした自分からは届けたとしても受け取ってもらえないかも知れない。
 だが、マーフィーの返事がティターンに勇気をくれた。
「よし、案内してくれ」



 とあるビルの一室。瞬とマトイの二人はそれぞれソファーの上に身を横たえていた。
 鋭気を養うための休憩だったが、それは瞬には逆効果だった。
(眠れない)
 仮初めとはいえ、マトイという仲間を得たことで、瞬は落ち着きを取り戻した。
 だが―
 瞬は隣でぐうすかと眠るマトイを見る。
(こんな状況だっていうのに、よく眠れるもんだ)
 レスキュー隊員であるマトイにとって、どんな状況下でも眠れるのは必須スキルなのだが、瞬は知る由もない。
(こいつ、本当に信用していいのか?) 
 冷静になった瞬はマトイに疑惑を持つ。
 レスキュー隊と思わしき服と、自分を助けたことで疑いもなく信用してしまったが、マトイが殺し合いに乗っていないという保障はない。
 確かに助けられはしたが、後々利用するために生かしているのかも知れない。手負いの参加者なら、もし自分の仲間にならなかった場合の処理も簡単に終わる。
 大体、黒装束との経緯も不可解だ。マトイは黒装束に手当てを頼むと言われたと瞬に説明した。
 だが、そんな奴が、生きていたことが奇跡と思えるほどの攻撃を行うだろうか?身を案じるなら、同行するのが筋ではないのか?
(本当はこいつと黒装束はグルなんじゃないか?片方が適当に痛めつけて、片方が甘い言葉で篭絡する。ありえる手だ)
 時間は瞬にマトイに対する疑心暗鬼を育てていく。
 瞬はデジタイザーを見た。考えてみれば、やたらむやみに変身するなというのも下手に反抗されるのを恐れているからかも知れない。
 首輪のせいとは言っていたが、自分で直接確認したわけでもない。
(やっぱりこいつはここで……)

451:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:15:51 lJnQFy6y0
 瞬は決意し、デジタイザーのキーに手を添えた。

―ガチャ!

 押そうと瞬間、耳に届く、不審な物音。
「誰だ!」
 思わず、瞬は大声を上げ、音のした方向を見た。その声にマトイも身を起こした。
「どうした」
「今、誰かいたんだ。窓の方から物音が聞こえて」
 一瞬だが、瞬は窓に映る人影を見ていた。身の丈2mはある大男の影を。
「ホントか。……よし」
 マトイは瞬が示した先へと、レスキューロープを手に、慎重に近づいていく。
「瞬、もしもの時は俺を置いて逃げろ。いいな」
(言われなくても、そうするさ)
 本音は口には出さず、瞬は頷くことで返答する。
 マトイはそれを確認して、ゆっくりと窓を開け、外の様子を確認した。
「……おい、ちょっと来て見ろ」
「何ですか、何があったんですか」
「いいから来い!」
 罠かと警戒しながらも、渋々マトイに従い、移動する瞬。
「これを見ろ」
 マトイは窓の外にあったものを手に取り、瞬に押し付ける。
「見覚えはあるか?」
 已む得ず手に取り、恐る恐る中身を確認すると、以前確認したものとまったく同じものが入っていた。
「……たぶん、俺のディパックです」
「なら、あいつが見つけて返しに来たのかも知れねぇなぁ」
「あいつって、黒装束の奴ですか」
「ああ。おっと、こうしちゃいられねぇ。おい!まだ近くにいるんだろ!出て来いよ!!」
 エリア全体に届きそうなほどの大声を上げるマトイ。
「ちょっと、大声を上げるなんて、何考えてるんですか!」

452:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:16:46 lJnQFy6y0
「瞬が聞こえた物音があいつなら、まだ遠くには行ってないはずだろ。もしかしたら、ちゃんと受け取るか、様子を見てるかも知れねぇしな。合流するなら絶好のチャンスってやつだ」
 瞬に意図を伝えると、再び大声を上げるマトイ。
(ふざけるなよ。あいつが友好的な奴とも知れないし、他の奴に気づかれるかも知れない)
 マトイの警戒心のなさに危機感を覚える瞬。その時、マトイを超える大声がエリア全体に響き渡った。
「メガブルウゥゥゥゥッ~!どこにいるんだ?早く出て来いよ~」
「な、なんだこれ……」
 瞬は呆気にとられていた。内容は理解できる。
 どっかのイカレタ殺戮者が人質をとって、自分の最も殺したい相手を誘き寄せようとしている。
 それは瞬にとって、別にどうでもいい。見知らぬ誰かが、人質を捕られようが、殺されようが、それはテレビで見るニュースと同じでどうでもいいこと。
 問題は殺戮者が呼び出しているのが自分ということ。
「おい、瞬!このメガブルーって、お前のことだよな!!」
「………」
「おい、瞬!」
「知らない……俺は知らない!」
 瞬は部屋のドアを開けると、一目散にその場から逃げ出した。
 マトイが制止の声を上げるが、関係ない。とにかく誰の声も聞こえないところまで、逃げ出したかった。
 傷の痛みも気にせずに瞬は走って走って走った。
 やがて、身体が限界を向かえた頃、瞬は足をもつれさせて転んだ。
「っわ!」
 頭から大地へと突っ込む瞬。幸いにして、転んだ場所は砂地だったため、身体へのダメージは少ない。
 だが、例え転んだ場所がコンクリートの上だったとしても、今の瞬には関係なかっただろう。
「わけがわからねぇよ。俺がメガブルーになって、まだ数週間しか経っていない。戦ったのだって、たったの二回じゃないか。
 なんで、なんで俺だけこんな目に合うんだよ。メガレンジャーは他にもいる。なんで、俺なんだよ」
 瞬は声に出して、自分の身に起きた不条理を嘆き、呪い、そして、俯きながら涙を流した。



 部屋にひとり残されたマトイは、自分の対応を後悔していた。
「戦士としての心構えを説くより、要救助者として守ってやった方が良かったかも知れねぇな」

453:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:17:43 lJnQFy6y0
 メガブルーという戦士に変身できることから、この場から脱出するための仲間としてマトイは瞬を見てしまった。
 しかし、瞬との話の内容を顧みれば、瞬はメガブルーを辞めたがっていた。戦いも数える程度しかしていない。
 そんな奴に、こんな切迫した状況で、いきなり戦えというのは酷な話だ。
「危険な場所に飛び込むんだ。誰だって、最初の頃は怖ぇし、信念とか、守りたいものがはっきりしてない時は勇気だって出せねぇからな」
 マトイは自分の失敗をひとりごちつつも、これからの行動に思いを馳せていた。
 瞬を追いたいのは山々だが、メガブルーを呼び出す声もマトイの興味を引いた。人質として名前を連ねたドロップの名前。しかも聞き間違いじゃなければ、子供と言っていた。
 名簿を確認した時から気になっていたことだが、ドロップは成長してサラマンデスと名乗っていたはずだ。
 それなのになぜドロップとなっているのか。それにそもそもサラマンデスは死んだはず。
「同姓同名の別人って線もありえるかもな」
 マトイは自分のディパックを担ぐ頃には、声のした方へと向かうことを決めていた。
 もし、人質に捕られたのが自分の知っているドロップなら罠という可能性も充分ある。
 だが、もし1%でも要救助者がいる可能性があるのなら、向かうべきだ。
 それに、メガブルーはいつまで待っても現れることはない。ならば、それを知る自分がメガブルーの代わりに向かうべきだ。
 そして、声の主を倒し、瞬にもう安心だと伝えてやれば、瞬も安心して戻ってくるはずだ。
「待ってろよ、瞬」
 瞬が戻ってきたときのために、簡単なメモを記し、マトイは外へと出た。
 そんなマトイにふと影が差す。マトイが振り向くとそこには銀色の犬を引き連れた黒装束の男が立っていた。
「お前は……まあ、いいや。今は一刻を争う。進みながら話すぞ」
 黒装束の男は肯くと、マトイと共に走り出した。



「待っていろ、ドロップ」
 ティターンと別れた後、当てもなく彷徨っていたジルフィーザにもメガブルーを呼ぶ殺戮者の声は届いていた。
 最初は血に飢えた殺戮者の戯言と気にも留めなかったが、ドロップの名前が聞こえた途端、彼の瞳は怒りに染まった。

454:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:18:49 lJnQFy6y0
 本来なら翼を広げ、一刻も早く駆けつけたかったが、小癪な能力制限がある。
 抑えられていた力が身体の中に戻っているのはわかるが、今その力を発揮することは本末転倒だ。
 血が滲みそうなほど歯を食い縛り、ジルフィーザは愛する弟のために走った。


 
 太陽が昇る。
 冷たい夜は終わりを告げ、温かい朝が来る。
 だが、降り注ぐ太陽の光はある参加者にとって、導火線へ火を点ける行為であった。
 ディパックの奥底でそれは蠢き始める。
 密閉されたカプセルの中、それは凍らせられながらも恐るべき生命力を見せていた。
 それはロンが戯れに入れた支給品。一度暴れだせば、何者の命令も聞かず、ただ殺戮のみを行う存在。
 裏次元よりもたらされし虫がゆっくりと目覚めようとしていた。


【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:F-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康。怒り心頭。
[装備]:杖
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:ドロップを探し、ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップの救出と、人質に捕った相手の殺害。
備考:首輪の制限があることに気が付きました。


455:蠢くモノ ◇i1BeVxv./w:代理
08/08/19 00:25:00 sQtFlk5f0
【名前】巽マトイ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:未来戦隊タイムレンジャーvsゴーゴーファイブ後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーブレス、レスキューロープ
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:みんなを救う、気合いで乗り切る
第一行動方針:メガブルーの代わりに人質を助ける。
第二行動方針:仲間を見付けてロンを倒す
備考:変身制限があることに気が付きました。

【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:マトイと行動する。
第二行動方針:ジルフィーザと合流する。
第三行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。首輪の制限があることに気が付きました。

456:蠢くモノ ◇i1BeVxv./w:代理
08/08/19 00:26:08 sQtFlk5f0
【名前】マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:ティターンと行動する。
第二行動方針:知り合いを探す。

【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:G-8砂漠 1日目 早朝
[状態]:全身打撲、応急処置済。どうしようもない恐怖。
[装備]:デジタイザー
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って、夢を叶える
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
 変身制限があることを知りました。

備考:冥王ジルフィーザ、巽マトイ、並樹瞬のいずれかの支給品にバイオ次元虫入りカプセルが含まれています。

457:蠢くモノ ◇i1BeVxv./w:代理
08/08/19 00:26:53 sQtFlk5f0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などがあれば、ご指摘宜しくお願いします。



458:名無しより愛をこめて
08/08/19 05:39:04 YAJtg14dO
保守したあと寝てしまったorz

GJ!
マトイの思い、瞬の恐怖、ティターンの優しさ、ジルフィーザの怒り……
そして誰かのバックの中でひっそりとうごめく次元虫。
それぞれの丁寧な心理描写と展開の練り上げ、おかしな言い方かもしれませんが「手に汗握る繋ぎ」でした。
もう一度GJ!


459:名無しより愛をこめて
08/08/19 17:02:57 Kdb40E5T0
投下&代理投下GJです!
疑心暗鬼と恐怖に駆られる瞬の姿が哀れでした。
ジルフィーザは果たしてドロップを救う事ができるのか・・・
レスキューとしてのマトイ兄さんの想いが熱かったです。
最後の次元虫には得体の知れない恐ろしさを感じました。
相変わらず描写が秀逸で、思わずハラハラしました。
重ねてGJです!

460:名無しより愛をこめて
08/08/19 17:14:40 ekDXHqw10 BE:163438823-2BP(1)
投下及び代理投下乙!

各人動き出し、放送後の動きが期待持てます。
ティターンとマーフィに期待ですが、ネジブルーの拡声器が物語のキーとなって興味深いです。
次元虫……誰につくのか、どちらにしろ波乱が……

GJ!

461: ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:44:45 GPP7HuUn0
ただいまより投下いたします。

462:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:45:32 GPP7HuUn0
「これは」
 理央は森の中、首と胴が分かれた死体と対峙していた。
 トイレに行ったナイとメアの帰りがあまりに遅く、探しに出た結果、見つけたものだ。
「鋭利な刃物で落とされたか」
 切り口を見れば、どのような方法で殺されたかは一目瞭然。
 だが、ただ刃物を使っただけではこうも見事には切れない。
 それなりの腕を持ったものが迷いを持たず、鋭利な刃物を振り下ろした。
 その切り口は殺し合いに乗った者が確実に潜んでいることを示していた。
「ブドーの仕業か?いや、奴は心も刀も折れていた。それに、いかに奴の腕が立つとはいえ、ゲキセイバーを瞬時に扱えるとは思えん」
 実際、手を下したのはブドーなのだが、理央はそのことには気づかない。
 ブドーの支給品も、その後の顛末も知らぬ理央がそう結論付けるのは無理からぬことだが。
「それにしてもこの姿……」
 理央は死体にまったく見覚えがなかった。
 ロンから送り出された参加者全員を事細かに覚えているわけではない。だが、こんな参加者はいなかったことは断言できる。
 しかし、どことなく雰囲気が似ている参加者は知っている。
「ナイとメア、どちらかの正体といったところか。だとすれば、もう一方は襲われ、逃げたか」
 用心深く周りを観察する理央。やがて、理央は東の方角へと歩み始めた。
 その方角の木に擦ったような切り傷がいくつか見て取れたからだ。殺戮者か、ナイとメアが移動する時に擦ったものだろう。
「すまない、メレ。お前と合流するのはもう少し先になる」
 理央はナイとメアを助け、殺戮者を倒すため、森の奥へと進んで行った。



 漆黒の暗闇の中、ふと眩しい光が灯る。その光の中には、いつも明るく元気な女の子の姿があった。
「一つ、非道な悪事を恨み。二つ、不思議な事件を追って。
 ……三つ、未来の科学で捜査。四つ、よからぬ宇宙の悪を。五つ、一気にスピード退治。六つ、無敵が何かいい……」
 女の子はお馴染みの口上を述べる。だが、その口調はいつもの彼女とは違い、どことなく覇気がない。
 そのことを疑問に思っていると、彼女はどことなく湿った声で呟いた。
「さよなら、デカレンジャー」
 その言葉と同時に、溶ける様に光へと女の子は消えていく。


463:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:46:38 GPP7HuUn0
「ウメコー!」
 センは思わず、大声を張り上げていた。



「はっ!」
 センが眼を開けると、そこには光に照らされた木々たち。
 意識が急速に覚醒する。思い出されるブクラテスとの邂逅、サンヨとの戦い。
 センは自分が夢を見ていたことを自覚した。
「夢か……それにしてもなんて夢だ」
 自分の仲間であるウメコがデカレンジャーに別れを告げる夢。
 いつもなら笑い飛ばせなくもないが、今、この場で見る夢としてはこれ以上ない悪夢だ。
 センは上体を起こし、首を振って、嫌な考えを振り払う。
 そこでふと、自分の身体に施された処置に気づいた。
 打撲は水を含ませた布が当てられ、左肘の骨折は副え木で固定されている。
「気がついた?」
 聞き覚えのある女性の声に、センは視線を向けた。
 そこにはセンの思った通りの姿があった。
「スワンさん。無事……というわけじゃないみたいですね」
 一瞬、安堵の表情を見せたセンの顔がたちまち曇る。
 スワンのトレードマークと言うべき白衣は真っ黒に染まり、身体のいたるところに応急処置の後が見られた。
 この数時間、自分と会うまで、スワンがどれほど苦難の道を歩んだか、想像に難しくない。
「でも、スワンさんと会えてよかったです」
 自分の正直な気持ちを語るセン。まだまだ油断は出来ないが、これからは自分が守ればいい。
「私もセンちゃんに会えてよかった」
 だが、スワンの表情はどことなく沈んでいた。セン以外の誰かなら、傷を負った痛みのせいと思ったかも知れない。
 しかし、センはスワンの瞳から光さえ消えていることを見抜く。まるで死人のような眼だ。
(何かおかしい)
「……ねぇ、センちゃん。私を殺してくれないかしら」
「なっ!なにを言ってるんですかスワンさん!!」

464:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:47:39 GPP7HuUn0
「大丈夫よ。私にはきっとデリート許可が出るわ。だって私、人を殺してしまったんですもの」
 スワンは今までの経緯をセンにポツリポツリと語り始めた。
 人間香水を支給されたこと。それをロンへの反撃の狼煙として燃やしたこと。
 理央に殺人者と罵られ、殺されかけたこと。その後、シュリケンジャーと出会い、人間香水の意味を教えられたこと。
 耳を塞ぎたくなる事実にセンは苦悶の表情を浮かべた。
 だが、センは冷静さを失わなかった。
 事情はわかった。センは言葉を慎重に選び、スワンの説得を試みる。
「スワンさん。亡くなられた方には残酷かも知れませんが、あなたのせいじゃない。
 過失致死には問われるかも知れませんが、デリート許可は下りないでしょう」
「でも、殺してしまったことには変わりないでしょ」
「……っぅ…………そうですけど……裁かれる時は今じゃない。ここから脱出した後です」
「………」
「とにかく、俺はスワンさんを殺すつもりはありませんし、誰かに殺させるつもりもありません。だから、スワンさん、死んじゃ駄目です」
「そう。……じゃあ、仕方ないわね」
 うな垂れるスワンを見て、センはとりあえず死ぬことは諦めてくれたと思い、胸を撫で下ろす。
 しかし、スワンはボソリと呟いた。
「エマージェンシー」
 デカメタルに包まれ、一瞬の内にデカスワンへと変身したスワンはセンを突き飛ばした。
 そして、大地に転がっていた剣、デュエルボンドソードを手に取ると、それをセンに向けた。
「何をするんですか、スワンさん!」
「仕方ないの。私を殺してくれないなら、私は優勝するしかないの」
 センが疑問に思っている暇もなく、振り下ろされる剣。センは地面に転がり、紙一重でそれを避ける。
(スワンさんは本気だ。本気で俺を殺そうとしている)
 殺気は感じなかったが、迷いもなく振り下ろされた剣に、スワンが本気であることを悟るセン。
 考えている間にもデカスワンはセンへと次々と斬撃を放って来る。
 センはそれをなんとかそれを避け続けるが、満身創痍の状態で、変身している相手に対応するのは不可能に近い。
 已む得ず、センは自らのSPライセンスを握り締めた。
「エマージェンシー!デカレンジャー!!」

465:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:48:52 GPP7HuUn0
 センのコールを受け、転送されたデカメタルがセンの身体に装着し、センをデカグリーンへと変える。
 デカグリーンは左腰に装備されたディーロッドを手に取り、デュエルボンドソードを受け止めた。
 盛大に飛び散る火花。デカグリーンは力を込め、デュエルボンドソードを跳ね除けると、そのまま後方転回し、デカスワンと距離をとった。
「スワンさん、やめてください!」
 デカグリーンの制止の声に、前へ出ようとしていたデカスワンの動きが止まる。
「デカグリーンになったのね、センちゃん。いいわよ、やめてあげるわ」
 デカスワンはデュエルボンドソードから手を放す。カランと音を経て、地面へと転がるデュエルボンドソード。
 だが、デカグリーンが安堵したのも束の間、デカスワンはまるで白鳥が羽根を広げるように手を広げると、デカグリーンに言い放った。
「さあ、センちゃん、私を殺しなさい」
 そのまま、ゆっくりとデカスワンは前へと進む。
 隙だらけのその様は、ハッタリでもなんでもなく、スワンが死を求めていることを明確に語っている。
 確かに前へと進み、ディーロッドをその胸に突き立てれば、殺すことは容易だろう。 
 だが、デカグリーンにそんなことが出来ようはずもない。
 前へ進むデカスワンとは対照的に、デカグリーンは威圧されたかのように後ろへと下がる。
 だが、やがてデカグリーンは屹立する木に邪魔され、後ろに下がれなくなった。
 二人の距離が間近に迫った時、デカスワンはディーロッドを手に取り、自分の心臓へと導く。
「センちゃん、さあ」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
 荒くなるデカグリーンの呼吸。
 子供の頃、古井戸に落ち、暗闇に閉じ込められた時もここまでの恐怖を感じたことはなかった。
 だが、恐怖に溺れている暇はない。デカグリーンは勇気を振り絞り、右手を引く。
「そう、できないのね」
「ハァ、ハァ、ハァ、できません。スワンさんもわかるはずです。俺たちに人を殺すことは―」
 デカグリーンの言葉は、頭部を襲ったデカスワンの蹴りによって遮られた。脳を揺らされ、大地へと倒れこむデカグリーン。
「もういいわ。ドゥギーならきっと私を殺してくれる。センちゃんを殺せば、私は立派な犯罪者ですもの。デリートの対象にだってなるわよね」

466:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:49:42 GPP7HuUn0
 罪を償うために人を殺す。矛盾した台詞を吐きながら、デカスワンは再び、デュエルボンドソードに手を伸ばした。
「きゃっ!」
 手元から火花が飛び散り、デカスワンはデュエルボンドソードを取り落とす。
 何者かがデカスワンを攻撃したのだ。
「誰!?」
 デカグリーンではない。光弾はまったく別の方向から飛んできた。
「しぶとい奴だ。まさか生きていたとはな」
「あなたは!」
「今度こそ……止めを刺してやる」
 デカスワンの傷が疼く。太陽の光を背にして佇むのは、自分の身体にいくつもの傷を刻み込んだ男―理央。
 デカスワンは本能的に後ずさった。以前、戦った時にはまったく歯が立たなかったのだ、当然だろう。
「いくぞ」
 理央は手に持った武器、自在剣・機刃をキバショットからキバクローへと変え、デカスワンに迫る。
「っ!」
 デカスワンは理央の頭部へと向けて、ハイキックを放った。
 怯えているというのに、その蹴りは鋭く、理央でさえ昏倒させるほどの威力が込められていた。
 無論、当たればだが。
「ぐ……っぁ」
 変身している者と変身していない者には歴然とした能力の差がある。
 だが、理央の獣拳使いとしての経験はその差を埋めて有り余るものだった。
 理央はデカスワンの蹴りを身体を捻ることで避け、そのままその回転を利用し、キバクローの一撃を腹にめり込ませた。
 スーツに隠されて外観からはわからないが、デカスワンの口からは赤黒い血が吐かれる。
「ふっ」
 理央が手を離すと、デカスワンの身体は崩れ落ち、大地へと突っ伏した。
 理央はその姿を見遣り、機刃を再び、キバショットに変形させ、彼女の首輪に狙いを定める。
「同じ愚は犯さん」
「させるか!」
 理央が撃つより早く、意識を取り戻したデカグリーンが、彼を後ろから羽交い絞めにし、動きを封じた。
 先程まで、デカスワンに殺されかけていたというのに邪魔をするとは、理央にとっては予想外の行動。
 力を込めるが、流石に変身中のデカグリーンを振りほどくほどの力は、今の理央にはない。

467:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:51:07 GPP7HuUn0
「なぜ邪魔をする?あいつはロンのスパイ。助ける価値はない」
「違う!スワンさんは俺たちの仲間だ。確かにスワンさんは人を殺してしまった。それが誰かにとって、大事な人だったかも知れない。
 だけど、それはスワンさんの意思じゃない。真に裁かれるべきはスワンさんをそんな状況に陥れた人物……ロンだ!」
 振りほどこうとしていた理央の動きが止まる。
「スワンはロンに利用されていたということか」
「そうだ。スワンさんの支給品は人間香水と亡国の炎。スワンさんはこれを使うことをよしとせず、その場で破壊した。
 だけど、人間香水はその名の通り人間で作られた香水で、作られてから24時間以内なら復活は可能だったんだ。
 スワンさんはそれに気づかず、人間香水にされた人を結果的に殺してしまった」
「………」
「あなた、理央さんですよね。あなたと会ったとき、スワンさんはまだそのことに気づいていなかった。
 でも、あなたに襲われた後、スワンさんは確認に行き、そのことに気づいた。そして、後悔し、錯乱してしまった」
 理央はデカスワンを見た。先程までの厳しいものではなく、憐れみをもった視線で。
(こいつも俺と同じ……か)
 理央は自分の方が罪は深いことは承知している。だが、理央はスワンに親近感を持ち始めていた。
「……離せ。もうスワンに危害は加えない」
 デカグリーンは理央の言葉に安心し、力を緩めようとした。
「離さないで!」
 怒号が響き渡る。
 ぬるりと、まるでゾンビのように立ち上がるデカスワン。
 いつの間に拾ったのか、三度、その手にはデュエルボンドソードが握られていた。
「うん。あなたがいいわ。私を虐めたあなたなら、罪悪感なんてなさそうだもん」
 デュエルボンドソードを脇に構え、理央目掛け、身体ごと突っ込んでいくデカスワン。
 理央はデカグリーンに拘束され、動けなかった。デカグリーンも反応が遅れ、動けなかった。
 その場で動けたのはデカスワンひとり。


468:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:51:59 GPP7HuUn0
 だが、その時、不思議なことが起こった。
 唐突に無数の赤く丸い光を放ち出すデカスワンの身体。
 いや、いつの間にかその変身は解け、白鳥スワンの姿へと戻っていた。
 そして、剣が理央の身体に届こうとした頃、スワンの身体はまるで溶けるように―虚空へと消え去った。
 それは一瞬の出来事。理央もセンも何が起こったのかわからない。
 ただ、ひとつの事実として、白鳥スワンはこのバトルロワイヤルから脱落した。



「ふむ、やはりライフルは勝手が違うな。当たるには当たったが狙った箇所からは程遠い」
 理央たちから離れること数m。そこに剣将ブドーの姿はあった。忍び足で少しずつ、理央たちとの距離を離している。
 バンキュリアを殺した後、ブドーはライフルの鍛錬を行っていた。
 手裏剣や弓矢なら心得があるが、ライフルを扱うのは初めて。使い方は理解したが、果たしてどれほどの精度で撃てるものか。
 試し撃ちできるものはないかとスコープを覗いて辺りを見回していた時、思わぬものが視界に入ってきた。
「これはなんたる僥倖」
 その時、スコープに見えたのは宿敵と見定めたセンの姿。しかも、しばらく様子を窺っていれば、理央も姿を現した。
 ブドーはどちらかを仕留める絶好のチャンスと消滅の緋色をライフルに込める。
 これならば、未熟な腕でも当てさえすれば、確実に相手を仕留めることが可能。
「弾は一発。さて、どちらを狙ったものか」
 二兎を追うものは一兎をも得ない。制限もある。
 ここは確実に一人を仕留め、その後、深追いせずに撤退するのが賢い考えであろう。
 ブドーはスコープを覗き、チャンスを待った。
 すると、理央がセンに羽交い絞めにされ、動きを封じられた。しかも、ブドーの位置からは丁度正面。
 ブドーは引き金に指を掛ける。
 しかし、そこで邪魔が入る。女が理央とセンに向けて、剣を握った。このままでは理央もセンも女の犠牲になるのは明らかだった。
 そして、ブドーは引き金を引いた。
「未練よな。この歳にもなれば、性格はそう簡単には変えられぬか」
 信念など不要。手段など選ばぬ。
 そう誓ったばかりだというのに、自分以外の手で理央とセンが死ぬのが我慢ならなかった。


469:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:53:05 GPP7HuUn0
「まあよかろう。優勝に近づいたのは確かなこと。理央とセンの居場所も知れた。今は制限が終わるまで、ゆるりと待つとしよう」
 理央とセンから充分離れたと判断すると、ブドーはその場に腰を据える。
 そして、腹ごしらえと、支給されたライスバーガーを食べ始めた。
「うむ。中々である」
 残された理央やセンの気も知らず、ブドーは舌鼓を打った。

【白鳥スワン 消滅】
残り34名


【名前】江成仙一@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:Episode.12後
[現在地]:C-8森 1日目 早朝
[状態]:左肘複雑骨折、全身打撲(応急処置済)。デカグリーンに変身中。
[装備]:SPライセンス
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間たちと合流して脱出。
第一行動方針:スワンさんはどうなった?
備考
・制限が2時間であることを知っています。
・スワンの装備は消滅の緋色により消滅しました。基本支給品はB-9のどこかに散らばって置き去りにされています。
 炎の騎馬はセンと理央が確認できる距離に置かれています。


470:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:54:00 GPP7HuUn0
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:C-8森 1日目 早朝
[状態]:健康。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンへの怒り。1時間強変身不能。
[装備]:自在剣・機刃
[道具]:支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:スワンはどうなった?
第二行動方針:ナイとメアを探す(どちらかは死んだと思っています)。
第三行動方針:メレと合流する。
※大体の制限時間に気付きました。

【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:C-8森 1日目 早朝
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。肩に銃弾による傷。能力発揮済。1時間強戦闘不能。
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー。予備弾装(銃弾7発、催涙弾5発)。支給品一式(ブドー&バンキュリア)。真墨の首輪。
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:休憩しつつ、理央とセンの様子を窺う。
第二行動方針:リオを倒せるほどに強くなる。
第三行動方針:優勝を目指す。
※首輪の制限に気が付きました。


471:贖罪 ◇i1BeVxv./w代理
08/08/20 23:31:15 mPU0QBOlO
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などがあれば、ご指摘宜しくお願いします。
最後の最後で投下できなかったorz

472:名無しより愛をこめて
08/08/20 23:37:15 TplPGwcZ0 BE:490315436-2BP(1)
投下乙です。
センとスワンさん、合流できたのに、残ったのは不幸のみ……。
ブドーの己の信念を捨てきれない未練の描写もうまかったです。
一つ目のライフルの効果を忘れたのでスワンさんがどうなったのか、興味深いです……。
GJ!

473:名無しより愛をこめて
08/08/20 23:42:03 z0jAU51jO
投下&代理投下乙です!
うわぁぁっ、スワンさん。
不思議な事が起こってしまったか……。センちゃんに感情移入してしまって胸が痛い。
そしてなんという速さでの投下、クオリティの高さ、面白かったです。
GJ!

474:名無しより愛をこめて
08/08/21 00:17:56 UQPKm8NLO
投下GJです!
ああ、スワンさん…
せめてもの救いはセンや理央を手にかけずにすんだ事でしょうか。
目の前でスワンさんが消え、そしてこれからウメコの死を知るセンの気持ちを思うと切なくなりました。
それにしても相変わらずの速筆、そして細やかな描写、お見事でした。
GJです!

475:名無しより愛をこめて
08/08/23 19:08:29 bh7A0uwJO
保守

476:お知らせ
08/08/24 02:10:55 5jXc+o19O
いよいよ第一回放送ですね。
そこで>>439で提案していだだいたように放送案を募集します。
放送案のある方は、今日から一週間をめどに仮投下スレへ放送案を投下してください。
(複数の場合は投票にて決定)
以上、よろしくお願いいたします。

477:名無しより愛をこめて
08/08/25 16:50:56 PaosJpMQO
保守

478:名無しより愛をこめて
08/08/27 08:32:34 YNsZL0IXO
保守

479:名無しより愛をこめて
08/08/28 08:07:09 5DQT7hWI0
板違いです
二次創作は以下の板でどうぞ
URLリンク(namidame.2ch.net)

480:名無しより愛をこめて
08/08/29 17:32:12 BqhgT1H8O
保守

481:名無しより愛をこめて
08/08/30 10:50:24 BCLS6gbs0
保守

482:名無しより愛をこめて
08/08/30 12:58:40 SQf4bP2YO
保守

483:名無しより愛をこめて
08/09/01 18:00:06 8oP/HPTd0
保守をするのも私だ。

484:名無しより愛をこめて
08/09/01 19:46:34 4VAGz0NT0
散ればこそ 華美しく 名を残し 今一度の……保守

485:名無しより愛をこめて
08/09/02 23:40:32 yywW76vgO
保守……それは聖なる力。
保守……それは未知への冒険。
保守…そして、それは勇気の証!

486: ◆Z5wk4/jklI
08/09/03 00:14:10 XbiX5QOPO
保守乙ですw
放送案を本投下させて頂きます。

487: ◆Z5wk4/jklI
08/09/03 00:15:40 XbiX5QOPO
定刻六時00分00秒、頭と胴を分かたれたバンキュリアの首輪から、にわかに金色のもやが放たれた。
吐き出されたもやは一つ所に集まると、ある男の姿を映し出した。
このバトルロワイアルの主催者にして、悪趣味な児戯の仕掛け人たる無間龍、ロン。
彼は、捉えどころなくゆらゆらと揺れる写し身の向こう側で軽く咳払いをした。
『皆さんおはようございます。この六時間いかがお過ごしだったでしょうか?
さて、定時の放送です。
皆さんの命に関わる事もお話しますのでよーく耳を傾けて下さいね。
まずは亡くなられた方からお知らせいたしましょう。
伊能真墨、ウルザード、小津麗、小津深雪、胡堂小梅、白鳥スワン、冥府神スフィンクス、妖幻密使バンキュリア、以上の八名になります。
皆さん、大変お楽しみのようで私としても嬉しい限りです。
お嘆きの方もいらっしゃるでしょうが、ご心配なく。
貴方が最後のお一人になればちゃーんと生き返らせて差し上げますよ。
そう、あの小津勇のようにね。
お察しの方もいらっしゃるでしょうが、ええ、その通りです。
ウルザード、いえ、小津勇は私が生き返らせました。
皆さんの殺し合いをより楽しく進める為の役割を期待していたのですが、早々にやられてしまったようで少しばかり残念です。
まあ、もっともこれで私の力もお分かり頂けた事でしょうが。
ああ、それからこれより二時間ごとに禁止エリアを設けさせていただきます。
会場の中をただ逃げ回る、というのも一興かもしれませんが少々面白みにかけますし、少しばかり趣向を凝らせていただきました。
まず、七時に都市Fー4、九時に都市Gー5、十一時に都市Fー6が禁止エリアになります。
足を踏み入れれば、二十秒で首輪が爆発するように仕掛けを施させていただいていますので、うっかり首輪と一緒に首を飛ばさないよう重々お気をつけ下さい。
残る人数は三十四人、皆さんのご健闘をお祈りいたします。
それでは、また六時間後にお会いいたしましょう』
その言葉を合図にしたように、もやはまるで何もなかったように掻き消える。
後には、言葉を発する事も動く事も出来ないバンキュリアの姿と、参加者達の抱くそれぞれの思いだけが残された。

488:名無しより愛をこめて
08/09/03 03:11:33 gObES/cIO
第一回放送 投下乙でした。
内容も解りやすくて助かります。

さて、これを聞いた参加者たちどうするかな。
今後の展開を楽しみにしつつ、投下した氏に盛大なGJを送ります。
GJ!

489:名無しより愛をこめて
08/09/03 21:58:12 36KOgPql0
板違いです
二次創作は以下の板でどうぞ
URLリンク(namidame.2ch.net)

490:◇5h3T6s3PXc氏へ業務連絡
08/09/05 14:55:27 m/ccudCd0
◆5h3T6s3PXc氏
放送まで時間がかかってしまいました。
まだ見ていて下さると良いのですが……

連絡事項は氏が以前投下なさった「奇妙な二人」についてです。
放送案が投下されたので、仮投下・一時投下専用スレッドの>>111>>116までを
再投下なさるかどうかの意思表示をお待ちしております。
出来れば週明けまでに本スレかしたらばのどちらかにレスを下さい。
週明けというのはあくまで目安ですが、週が明けた時点で氏からのご連絡がなく、
他の書き手氏が予約を申し出た際は、他の書き手氏の予約を優先させて頂くことをご了承下さい。

なお、投下の際には指摘点の修正をお願い致します。


491:名無しより愛をこめて
08/09/06 23:12:45 lXGjU8eS0
持続戦隊ホシュレンジャー参上

492:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/09/08 01:45:19 Z9Q5TBIY0
人差し指に灯した炎に口に咥えた煙草を近づける。
そのままゆっくりと息を吸い、紫煙を燻らせていく。
表情のないはずの顔に思考を満たした満足げな表情が僅かなりとも見えるのは気のせいだろうか。
辺りに広がる煙草独特の匂いに西堀さくらは露骨に顔をしかめて見せた。
「ここがどこだか分かっているんですか! 敵に気づかれたらどうするんです!?」
さくらの非難を聞いているのか、聞いていないのか、グレイはもう一度大きく息を吸い込んだ。
「隠れる必要などない。戦って奪い返せばいい…それだけのことだろう?」
事も無げにややくぐもった低い声を上げる。
二本の指の間に煙草を挟んだまま視線をさくらと合わせようともしない。
眉間にきつく皺を寄せ、さくらは目の前の黒い装甲の男を睨み付けた。
両者の間に流れる険悪なムードからは、二人が殺し合いを始めないのが不自然にすら思えてくる。
全ては1時間ほど前にはじまった。

「絶対に俺は助けに行くぞ! 絶対だ!!」
グレイの索敵により、何者かが『メガブルー』を呼び出し、殺し合いをはじめようとしていることはほぼ間違いがない事実であった。
あろうことか、そのための人質を用意して。
陣内恭介はすぐにでも助けに行くべきだと主張した。
人質はどちらも面識のない人物であったが、囚われの身で死と隣り合わせの恐怖を味わうものを見捨てておけるはずはなかった。
特に恭介はメガブルー…並木瞬を知っている。友の危機を見過ごすわけにはいかなかった。
「駄目だ。戦いには私が行く。お前たちはここに残れ」
先ほどまで黙していたグレイが急に口を開いた。
「おい! 貴様!! 戦いに行くんじゃない! 人質となったものたちを救出に行くんだ!! 


493:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/09/08 01:49:01 Z9Q5TBIY0
履き違えるな!!!」
傷の痛みを押してドギーがグレイを牽制する。
両者の視線が交わる。
「……どちらにしても貴様がいては足手まといだ。ここに残ってもらおう。異論は聞くつもりはない」
「なんだと!!」
「止めてください、二人とも!! 今ここで争っても仕方がないでしょう!?」
一触即発の雰囲気に耐え切れずシオンが場を収めようと必死で二人を説き伏せにかかる。
だが。両者の間の溝は埋まりそうもなかった。
それに、傍らの恭介はいまにも飛び出していきそうな雰囲気だ。
「守る…か…しかし、合って間もない連中をよくそこまで信頼できたものだな。
一人になったあの男にシオンとやつが二人掛かりで襲い掛かるとは思わなかったのか?」
グレイの問いかけにさくらは立ち止まらずに答えた。
「それはありえません。ドギー署長は怪我を負っています。なのにシオンさんは彼を見捨てることはせず、労わり共に行動しています。
こんな状況下でいくら実力者とはいえ怪我人を抱え込む決断はそうそうできるものではありません。そんな彼が今更恭介さんを襲う理由なんてあるはずがない…私はそう判断しました」
さくらもまたグレイの問いかけに目線をあわせようともしない。
「…むしろ、分からないのはあなたです。グレイ」
さくらは立ち止まりグレイと始めて正面から向き合った。
「…………―」
「私たちの星は様々な勢力の侵攻を受けてきました…宇宙、地底……そして異次元。
中でも激しかった戦いとして記録に残るのが私たちの住む三次元と隣り合わせに存在する裏次元からの侵略者…『次元戦団バイラム』」

494:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/09/08 01:50:00 Z9Q5TBIY0
「………………――」
「バイラムの詳細なデータはその根拠が我々人類をしていまだ立ち入れぬ領域の異次元にあること…それに組織壊滅後の今となっては殆どが謎のままです…直接相対した鳥人戦隊でさえ、その全貌を知るには至らなかった……
ですが、その戦いを生き抜いた者の僅かな証言から、人間を虫けらのように冷徹に処理する漆黒の殺戮マシーンが存在していたとの記録が後世の私たちに伝えられています…その者の名は…“グレイ”」
「…知っていたのか……」
正体を看破されても動じる素振り一つ見せない。刺す様なさくらの眼差しを一身に受けてもグレイは身じろぎもしなかった。
「何が目的なんです?! なぜ、あの二人と行動をともにしていたんです!!」
目的。
天を仰ぎながらグレイはその言葉の響きをひどく空虚に感じていた。

『次はあなたです…グレイ』

始まりの空間。全てが黒に包まれたその場所で。
『あなたがその気になれば…バイラムの再興もまたかなうでしょう…場合によってはその領袖となることも……―』
「…政治に興味はない。生身の連中の気苦労を散々見てきたものでな…」
『失礼。あなたはそんなことに関心を抱くような方ではありませんでしたね……それでは…
マリアを甦らせると言うのはいかがでしょう? あなたの腕の中で崩れた女の身体と心を今一度
現世に甦らせるのです……今度はあなたの永久の伴侶として』
―マリア。彼女の温もりが腕の中から消えていくその刹那までをグレイは克明に記憶している。
機械のグレイに忘却はありえない。恐らく何百年、何千年たってもあの瞬間を昨日のように鮮明に思い出すのだろう。それは、確かに痛みといえるのかもしれなかった。
「いかがです?」

495:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/09/08 01:50:49 Z9Q5TBIY0
男の誘いは甘美に満ちていた。男はグレイに期待していた。
無論、ゲームを率先して盛り上げるマーダーとして。
ガイ、ネジブルーに並ぶ純粋に戦いを愉しむ者として。
そのために彼がもっとも強い目的意識を持ってゲームに臨めるタイミングを選んだのだ。
だが。

「そうした誘いならばレッドホークを呼ぶべきだったな…ロンとやら。餌で釣るならばブラックコンドルでも用意してもらったほうが有難かったぞ」

グレイの返答はロンにとってひどく意外なものだった。
これまで、ロンの誘いに迷いを見せなかったのは明石暁をはじめほんの数人だけだったからだ。
「…フフ…だが安心しろ。私は戦いに乗ってやる……精々、貴様の始めたこの馬鹿げたゲームの駒として立ち回ってやろう…私は戦えさえすれば…後は……どうでもいい」
呆気にとられるロンを横目にグレイは人間で言う“笑み”に近い感情を見せた。
グレイにとってロンが何を画策しようがどうでもいいことだった。
参加者の多くが脅威を感じている金色の首輪も生命に関する執着が限りなく薄らいだ、今のグレイにはどうというものでもない。
「目的は何だと聞いているんです!! バイラムの再興ですか!?」
さくらの穿つ問いかけにグレイは淡々と答えた。
「組織はもう、関係ない。ラディゲはまだやるつもりらしいが、バイラムはもう終わりだ。
それは後の時代の貴様らの存在が証明している」
「時間軸のずれに気づいていたんですか!」
グレイの意外な返答にさくらは思わず聞き返していた。
「当然だ。あれだけ話の噛み合わない連中と喋っていれば馬鹿でも気づく。
加えて戦闘力の発揮にも制限が加えられているな。最初は身体の故障かと思ったが、
十分ほどの戦闘後、全身のあらゆる武装にきっかり二時間なんの反応もなかった。
シオンは私をそのままに修復したといった。
やつの腕は確かだ。原因は恐らくはこの首輪の効果だと考えて間違いあるまい」
「二時間…それが時間制限の正確な時間だと?」
「お前たち生身より時間には正確なはずだ」
確かにロボットであるグレイの時間を計る正確さは参加者の間でも随一だろう。
「それをなぜ私に?」
「…理由はない」
「納得できません」
再び両者の間に緊張が走る。

496:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/09/08 01:52:52 Z9Q5TBIY0
「お前の目的は私と争うことか? 人質の救出とやらが最大の目的だろう。私をやつらから遠ざける意図も合ったように感じられるな」
「それともう一つ…あなたを霧払いに人質を救出する腹です。異論はありませんよね?」
「無論」
その時だった。
天空に高揚した男の声が轟いたのは。

『皆さんおはようございます。この六時間いかがお過ごしだったでしょうか?
さて、定時の放送です。
皆さんの命に関わる事もお話しますのでよーく耳を傾けて下さいね―…』

「これは…!」
「あぁ…奴の声だ」
間違いなかった。このゲームの主催者ロンの丁寧だが陰湿な響きを持つ声が四方全てから聞こえてくる。

『皆さんの命に関わる事もお話しますのでよーく耳を傾けて下さいね。
まずは亡くなられた方からお知らせいたしましょう。
伊能真墨、ウルザード、小津麗、小津深雪、胡堂小梅、白鳥スワン、冥府神スフィンクス、妖幻密使バンキュリア、以上の八名になります。
皆さん、大変お楽しみのようで私としても嬉しい限りです。
お嘆きの方もいらっしゃるでしょうが、ご心配なく。
貴方が最後のお一人になればちゃーんと生き返らせて差し上げますよ…』

どこから聞こえてくるのか、全く方向がつかめない。参加者全員の頭に直接メッセージを流し込んでいるらしい。
その時だった。
「うっ!」
さくらの視界に一瞬歪が生まれ、こことは別の光景が現れる。

497:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/09/08 01:55:12 Z9Q5TBIY0
「これは…“ブラック”!?」
「!?」
ブラック。その言葉にグレイも一瞬反応する。
視界一杯に繰り広げられるボウケンブラック…伊能真墨の戦う姿。
やがて彼は変身を解かれ、地面へ這い蹲る。
必死でアクセルラーを起動させようともがく彼の頭上に迫る大きな足。
「そんな…!! 真墨…!!」
真墨の頭が強い圧迫を受けて徐々にひしゃげていく。そして、鮮血と共に爆ぜた。
「そんな…そんな……! 真墨が…真墨が……!!」
先ほどまでの冷静な態度をかなぐり捨てて叫ぶ。慟哭に支配され、我を失った。
「どうした?」
さくらのただならぬ様子にグレイが声をかけるが、茫然自失のさくらはそれに反応しない。
愕然とした。膝の力が抜ける。
そのまま地面に座り込んだ。あれほど警戒していたグレイに背を向けても全く意に介さない。
「そんな…本当に…死んでしまうなんて…」
「今の放送…仲間が混ざっていたのか?」
グレイはボウケンブラックを知らない。
だが、“黒を纏う戦士”の死に様は聞いていてあまり気持ちのいいものではなかった。

『……残る人数は三十四人、皆さんのご健闘をお祈りいたします。
それでは、また六時間後にお会いいたしましょう―…』

先ほどまでとは打って変わってさくらには強い動揺が生まれている。
とても戦いに臨める状態ではないのは明白だ。
「…行きましょう……」
さくらが小さく言葉を発する。
「何だと…?」
「行きましょう…私たちには人質となった方の救出という“目的”があります。こんなところで立ち止まっている暇はありません」

498:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/09/08 01:56:19 Z9Q5TBIY0
振り向いた顔は既に先ほどの毅然としたさくらだった。
仲間の死をまざまざと見せ付けられたショックなどおくびにもださない。
「…いいのか」
何に、対してなのか口にしたグレイにも分からない。
だが、さくらは自らに課せられたミッションに対しどこまでも忠実だった。
本物の機械であるグレイが驚くほどの冷静さで。
だが、その手は僅かに震えている。グレイはさくらのかすかな、ほんのかすかに残った恐怖を見てみぬ振りをした。

放送を終え、ロンは参加者全体に広がる、怒り、悲しみ、困惑に身を浸していた。
いつまでもそうしていたかった。
なんという心地よさだろう。これだから、他者を弄ぶのは止められない。
箱庭の憐れな囚われ人たちが迎えた最初の朝日。
しばしば生命誕生の象徴に例えられるその輝きを彼らはどのような思いでみつめているのか。
誰があの日輪に希望を見出せるだろう。
過ぎ去った命が夜と共に永遠に彼岸の向こうへ誘われるのを、とめることも出来ずにいるというのに―
「さぁて…蒔いた種が次の6時間でどのように成長するか…楽しみですねぇ……」
不敵な笑みを浮かべながら、金色のローブで自らの愉悦の表情を覆っていく。
これから、更に凄惨な死が満ちる予感に心を躍らせながら。

「最も惨めで残酷な死をあなたに…その約束きちんと果たさせて頂きましょう……―」

龍の悪意は、底を知れない―



499:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/09/08 01:57:35 Z9Q5TBIY0
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G5エリア 1日目 早朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり)
[装備]:アクセルラー
[道具]:ガラスの靴、虫除けスプレー、虹の反物の切れ端
[思考] 基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
    第一行動方針:恭介たちと共闘して仲間を増やす。このゲームのルールを把握する。
    ※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
     ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。

【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G5エリア 1日目 早朝
[状態]:健康?
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残弾数4発) 支給品一式
[思考] 基本行動方針:未定。第一行動方針を果たした後の行動は決めていない
    第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す。
    現在はさくらと共に人質を救出すべくネジブルーの元へ。


500:◇8ttRQi9eks氏の代理投下
08/09/08 01:58:22 Z9Q5TBIY0
お待たせしました。改めましてはじめまして。トリバレしたとのご意見を伺い、今後はこの名前で書かかて頂きます。
修正版をお送りします。内容も若干放送に合わせて変えました。
実は全員参加の放送SSも書いていたのですが、いかんせん構想が実力を超えていて間に合いませんでしたw
このままだと誰も書かないのかと思っていたので、◆Z5wk4/jklIの投下は安心しました。
最後のロンは未練たらしく没案を一部流用してますw
どなたかにおすがりする事になりますが、本スレへの投下を頂くと幸いです。
本当にお待たせして申し訳ありませんでした。



代理投下終了。

501:名無しより愛をこめて
08/09/08 12:09:53 N6iSQMOp0
投下&代理投下GJです。
ハードボイルドなグレイと、平静を装うさくら姐さんの描写が素晴らしいです。
さくら姐さんはついにカウントダウン開始!?
というか、ロン怖い、ロン怖いよw


502:名無しより愛をこめて
08/09/08 17:40:38 SlmZ4/hJ0
代理&投下乙!
グレイのロンの誘いを蹴るときの台詞がかっこいい。
さくらさんはロンの魔力から逃れられるのか……。
GJ!

503:名無しより愛をこめて
08/09/08 21:33:33 sZ86diIZ0
GJ!
放送が終わり、新展開!
さくらとグレイのクールコンビがネジブルーの野望を打ち砕けるのか?
普通なら安心してみていられるコンビですが、ロンの暗示で果たしてどう転ぶのか。
続きが非常に楽しみになる作品でした。

504: ◆i1BeVxv./w
08/09/09 00:20:46 t/ysGjtu0
ただいまより投下いたします。

505:龍と悪魔の契約 ◆i1BeVxv./w
08/09/09 00:22:20 t/ysGjtu0
ズシャン!!

 何かが砕ける音。何かが潰れる音。交じり合った二つの音は空気を震わせ、映士の鼓膜を震えさせた。
「ウメコ!!」
 映士は音の発生源となった女性の名前を叫び、彼女の元へと急ぎ駆け寄る。
 瞬く間にウメコの側へと移動する映士。だが、そのあまりにも無残な姿に助け起こそうとした映士の手は彼女に触れることなく止まる。
 倒れ伏すウメコの頭からは赤い鮮血が勢いよく噴き出し、大地を浸食していた。血の広がりは頭部を中心としたものだ。
 うつ伏せに倒れたウメコから彼女の表情をうかがい知ることはできないが、その顔が表情など作れないものであることは容易に想像ができる。
 映士は伸ばした手を肩口から首筋へと移動させ、脈を確認した。予想されたことだが、既に脈は途絶えている。
「ウメコ……」
 ボソリと死んでしまった仲間の名前を呟き、映士は呆然と佇む。
 思い出されるのはウメコの笑顔。極限状態でありながらも、恐怖に負けず、周りを元気にしてくれる強い笑顔。
 その笑顔を映士はおろか、彼女が語ったデカレンジャーの仲間たちも、もう二度と見ることができないと思うと、怒りと悲しみが心の底からこみ上げてくる。
「ちくしょ……ちくしょーーー!」
 映士はこみ上げる感情の赴くままに、空に向けて叫んでいた。



 映士はウメコから自分が貸していた銀色のジャケットを脱がす。
 そして、彼女の身を正すと、顔を隠すようそのジャケットを彼女へと掛けた。
 それが今、映士ができる精一杯の葬りだった。
「すまねぇな。この戦いが終わったら、必ず墓を造りに来る」
 手と手を合わし、黙祷を捧げる。
「……さて」
 やがて、ゆっくりと開かれた映士の眼。その眼は一刻前と比べ、鋭さが増していた。

―怪しいのはあの人形だ。―

 壬琴の言葉が頭によぎる。
 始めは壬琴に殴られたこともあり、冷静に考えられなかったが、今は違う。


506:龍と悪魔の契約 ◆i1BeVxv./w
08/09/09 00:23:12 t/ysGjtu0
(転送機能を持ったプレシャス。人形のような生命体。どちらもありうる話だぜ)
 映士はディパックから悪魔の姿を模した人形を取り出す。
(チマチマしたのは性に合わねぇ)
「おい、お前!お前がウメコを殺したのか!」
 人形に激しく詰問する映士。だが、人形は微動だにしない。
「答えろ!」
 声を張り上げるが、一切反応を返さない人形。だが、その程度のことは折込済みだ。
 映士は懐からスコープショットを取り出し、仕込まれたナイフを顕にする。
「いいか、今から3つ数える。それまでに動かないなら、お前をバラバラに切り裂いてやる!
 これは脅しじゃねぇ、お前が本当に人形であっても、それならそれで八つ当たりには丁度いいしな。
 いくぜ!……いーち!」
 映士はナイフをゆっくりと振り上げる。
「にーーー」
 左手は逃げられるようしっかりと人形の身体に食い込んでいる。
「さーーー」
 そして、映士は人形の額目掛け、ナイフを―
「ま、待つデビ。ビビデビが殺したわけじゃないデビ。ナ、ナイフを下ろすデビ~」
「やっぱりテメェ動けやがるのか」
 映士は力の限り、人形―ビビデビを地面に叩きつけた。
「ぐぇ」
 続けざまに、逃げようとするビビデビを踏みつけ、その動きを封じる。
「さて、話してもらうぜ。お前の目的をな」
「い、言うから少し緩めて欲しいデビ。これじゃあ、苦しくて喋られないデビよ」
「心配しなくても、しっかりと俺様には聞こえてる。さっさと洗いざらい喋りやがれ」
 更に体重を加える映士に、ビビデビは蛙が潰れたような悲鳴を上げた。
「ぐぇぇぇっ~、わ、わかったデビ~」
 ポツリとポツリと喋り始めるビビデビ。
 自分がネジレジアという組織の一員だったこと。
 組織崩壊の折に死んだと思ったが、気づくとロンの元に居たこと。
 ロンに命令され、殺し合いを円滑に進ませることができれば、ネジレジアの復興を約束されたこと。


507:龍と悪魔の契約 ◆i1BeVxv./w
08/09/09 00:24:14 t/ysGjtu0
 そして、隙を見て、ウメコと菜摘を適当な場所へ移動させたこと。
「なるほどな」
「ビビィ~、全部話したデビ。早く解放するデビ~」
「ふざけるんじゃねぇ!直接手を下したわけじゃねぇが、それでもお前はウメコの仇には違いねぇ」
 益々、足に力を込める映士。ビビデビの身体が大地へとめり込みはじめる。
 その時、映士の脳内に声が鳴り響いた。

―皆さんおはようございます。この六時間いかがお過ごしだったでしょうか? ―

(これはロンの声か。あの野郎、こんな術まで使いやがる)
 それはロンが参加者全員へと語りかける定時の放送。
 語られるは死者の名前と禁止エリア。
「なっ!」
 死者として挙がった聞き覚えのある名前に、ビビデビを拘束する足の力が緩まった。
 それ幸いとビビデビは飛び上がり、何事かショックを受けているような映士の顔を見た。
「まさか真墨まで」
「知り合いが死んだデビか?」
「うるせっ!」
 ロンの放送はしっかりとビビデビの耳にも届いていた。
 誰が生きようと死のうと、ビビデビにはどうでもいいことだが、それを聞いたであろう映士の様子は非常に滑稽で笑えた。
「ビビィ~!なら、お前が優勝すればいいデビ。優勝すれば、ロンが願い事を叶えてくれるデビ。どうしてもというなら、ビビデビが協力してやってもいいデビよ」
 ビビデビにとって、誰かを優勝させることが目的。それが映士でもビビデビには構わないのだ。
 しかし、それは映士にとって、魅力的な提案ではなく、火に油を注いだようなものだった。
「なら、お望み通り、ぶっ殺してやるぜ!」
 ナイフを手に、映士はビビデビへと襲いかかる。
「ちょ、ちょっと待つデビ。ビビデビは参加者に含まれていないデビ。ビビデビを殺しても仕方ないデビ」
「うるせぇ!」
 激昂しながらも映士の動きは洗練されていた。
 ビビデビの動きの先を読み、あっという間に彼の身体を、文字通り手中に収める。
「わ、わ、わ、わかった、わかったデビ。なら、お前らの脱出の手助けをしてやるデビ。だから、ビビデビを殺さないで欲しいデビ」


508:龍と悪魔の契約 ◆i1BeVxv./w
08/09/09 00:25:57 t/ysGjtu0
「脱出の手助けだ?お前に何ができる」
「ビビデビには女に使ったように転送能力があるデビ。それを使えば、お前たちを脱出させることができるデビ~」
 ビビデビの言葉に自然と映士の顔が引き締まる。
 ここがどこかわからなかったが、映士は今までの経験からここが結界を張られたような特殊な空間ではないかと感じていた。
 ビビデビは何かを知っている。そう確信した映士は話を合わせることにする。
「おい、それは本当か?」
「本当デビ。ここはロンが作った特殊な空間デビ。この中では外との繋がりは完全に絶たれているデビ。
 だから、この中から外への移動は流石のビビデビ様でも出来ないデビ~。けど……」
「けど?」
 言うべきかどうか迷うビビデビ。だが、今にも襲い掛かりそうな映士の怒りが込められた眼に、やがて意を決して言葉を紡いだ。
「けど、ひとつだけ、外界と繋がっている場所があるデビ。そこがお前達が最初にいたホールデビ。そこになら、ビビデビは飛ばすことができるデビ」
「つまり、お前の力を使えば、ここから脱出することは無理だが、高みの見物を決め込んでいるロンの野郎と戦うことは出来るってわけか。なるほどな。なら、さっさと俺様をホールまで転送しやがれ!」
「今は駄目デビ。転送には多大なエネルギーを消費するデビ。さっき、女を飛ばしたばかりだから、そうデビね……あと、2……いや、3時間は必要デビ」
 参加者たちと同様、首輪ならぬ足輪が付けられているビビデビには能力制限がある。
 今、転送能力を使うのは不可能だ。もっとも3時間というのは少しでも時間を稼ぎたいビビデビの嘘だが。
「テメェ、口から出任せ言ってるわけじゃねぇだろうな?」
「信じる信じないは勝手デビ。でも、ビビデビを殺したら、きっと後悔するデビ~」
「……ちっ、今はお前を信じるしかねぇってことか」
(ふぅ~、助かったデビ。隙を見て、逃げ出してやるデ……)
「ビビィーーーー!?」
 映士の放ったスコープショットのアンカーロープにより、ぐるぐる巻きに拘束されるビビデビ。
「何するデビか!?」
「まだ、完全に信じたわけじゃないからな。とりあえず、その状態でディパックの中に入ってな」
 映士は抗議の言葉を口にするビビデビを無視して、ディパックへと詰める。

509:龍と悪魔の契約 ◆i1BeVxv./w
08/09/09 00:26:47 t/ysGjtu0
「さて、あいつらと合流しねぇとな」
 壬琴と合流するため、東へと身体を向ける映士。
 ウメコと真墨のことで頭に血が昇り、思わずホールへと飛ばすよう言ってしまったが、考えてみれば、今の映士には首輪という枷がある。
 今のままで戦ってはホールで殺された男の二の舞だ。それにビビデビの言っていることが嘘ならば、そのまま逃げられてしまうところだった。
(冷静にならねぇとな。無駄死にじゃあ、死んでいった二人に申し訳が立たねぇ)
 映士は空を見上げ、そして、後ろを振り向き、横たわるウメコを見た。
 ここがロンの造った空間だというのなら、もうウメコには会えないかも知れない。
「……じゃあな」
 様々な想いを込めた別れの言葉を告げ、映士はその場から去っていった。



 映士のディパックの中、ビビデビは二重の意味で命拾いしたことにとりあえず胸を撫で下ろしていた。
 ビビデビは参加者に明らかにされていない首輪の機能の内、盗聴の機能についてはロンから聞かされていた。
 つまり、今までの会話はロンに筒抜けということは理解していたのだ。
(あいつは中々聡い奴デビ。本当に裏切るつもりなら、口に出して会話しないと分かってくれるはずデビ)
 強がりながらも、内心は冷や汗ものだ。ビビデビが映士に話した転送能力の詳細はロン自身がビビデビに話したものだ。
 その気になれば、ビビデビは脱出するための鍵になることができるとロンは言った。
 だが、ディパックに詰められる前にロンはこう付け加えた。

―好きに行動してもらって構いません。誰を贔屓しても、誰を陥れてもいいですよ。
  あなたは支給品として、参加者たちがよりよく殺し合いが出来るように手助けして上げてください。
  もし、頑として殺し合いに乗らない参加者がいたとしたら、その時は仕方ありませんがね。
  私は参加者の意志は最大限尊重するつもりですから。参加者の意志はね。―

 強調される参加者という言葉。ビビデビはロンが何が言いたいか理解していた。
 ビビデビは―参加者ではないということ。


510:龍と悪魔の契約 ◆i1BeVxv./w
08/09/09 00:28:41 t/ysGjtu0
【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:スコープショット、ボウケンチップ、ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:壬琴たちと合流し、ビビデビの処遇を決める。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。

【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:星獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:映士のディパックの中
[状態]:健康。1時間強の間、能力発揮不可。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまでおとなしくしておく。


511:龍と悪魔の契約 ◆i1BeVxv./w
08/09/09 00:29:52 t/ysGjtu0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想などありましたら、宜しくお願いします。

512:名無しより愛をこめて
08/09/09 14:38:23 C2EOfpB90
投下GJです!!
ふつふつとした映士の怒りが伝わってくる作品でした。
無駄死にはしないと誓う映士の決意がかっこよかったです。
映士の怒りを買ったビビデビと、脱出の為の鍵を握った映ちゃんが今後どうなって行くのか、
先の展開が楽しみです。
それにしても、相変わらずの速筆、お見それします。
GJでした。

513:名無しより愛をこめて
08/09/09 22:53:53 UAVSN1gO0
投下乙です。
映士の怒りはロンに届くのか。
ビビデビに対する脅しが余裕を感じさせました。
GJ!

514:名無しより愛をこめて
08/09/10 01:56:23 ke1TxT1mO
まさかもう投下していたなんて!
GJ!
う~む、辛いな映士。
ウメコの死体を無残な形のままにしておかず自分なりに葬う映士。
映士とともに改めてウメコに黙祷。
そしてただの支給品で終わりそうもなく面白い存在になったビビデビ。
すごく面白かったです!

515:名無しより愛をこめて
08/09/10 02:41:45 Or0AiJZmP
個人的にはこのスレはここで続いてほしいが、
他のロワ系スレの大半が創作発表板に移転してしまったので
このスレもスレストされてしまう前に移転準備進めた方がいいと思うんだぜ

516:名無しより愛をこめて
08/09/10 05:03:18 4zF4pcjz0
>>515
sfx:特撮![スレッド削除]
スレリンク(saku板:23番)


517:名無しより愛をこめて
08/09/10 06:49:53 ke1TxT1mO
そしてまとめ更新乙です!

518:名無しより愛をこめて
08/09/10 21:57:12 Ex89c7H10
板違いです
二次創作は以下の板でどうぞ
URLリンク(namidame.2ch.net)

519:名無しより愛をこめて
08/09/11 12:10:20 PQs9nq7T0
定期保守ご苦労様です

520: ◆MGy4jd.pxY
08/09/11 19:10:22 P5/huDd2O
大変申し訳ありません。
今日が期限ですが、もう少しかかりそうです。
前回のようなことは絶対にしませんので延長させて頂けないでしょうか。
よろしくお願いいたします。

521:名無しより愛をこめて
08/09/11 21:36:55 Gsa4tJQtO
>>520
了解です。楽しみにお待ちしています。

522:名無しより愛をこめて
08/09/12 03:44:58 M5DaaAbj0
>それに、傍らの恭介はいまにも飛び出していきそうな雰囲気だ。
>「守る…か…しかし、合って間もない連中をよくそこまで信頼できたものだな。
したらば投下版だと「奇妙な二人」は間にもう少し話があるんですが…まとめの方も本スレを踏襲している
のでここが省略されちゃってますね。


523: ◆MGy4jd.pxY
08/09/12 07:03:48 33lXipR/O
>>522
本当にすみません。
代理投下の際に抜けてしまったのだと思います。
確認不足でした。
ご指摘ありがとうごさいます。
作者氏は不快な思いをされたでしょう。申し訳ありませんでした。

まとめ氏にもお手数をおかけしますが、該当箇所の修正をお願いいたします。

すみませんでした。

524: ◆i1BeVxv./w
08/09/12 20:10:23 cM/ch8CR0
>>523
私もうっかりしてました。
該当箇所を修正いたしましたので、ご確認をお願いします。

525: ◆8ttRQi9eks
08/09/13 23:18:53 sjmzbMzO0
お二方ともそんなにお気になさらないでください。
拙作を代理でアップして本筋に加えて頂けて、本当にありがたいことだと思っています。
なのにお礼が遅れて申し訳ない。なかなかこれないんですよね…今日は超8だってのもあったんですがw
とにかく不快な気持ちは一切ありません。自身でアップできないのに522さんも含めて様々フォローをしてもらって
ありがたいと思いこそすれ、です。

526: ◆MGy4jd.pxY
08/09/14 23:39:43 5M6ESeZw0
>>525
温かいお言葉ありがとうございます。

もう少ししたら投下致します。


527:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:00:28 /Anf5pos0
遅くなりましたが投下します。

528:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:01:38 /Anf5pos0
   Q:ネジブルーのネジトマホークはどうしてそんなに鋭いの?
       A:メガブルーの頭を勝ち割るためだよ。
   Q:ネジブルーは誰に殺されたの?
       A:メガブルーだよ。
   Q:メガブルーと出合ったらどうやって殺すの?
       A:あぁ、そうだな~……




矛先をメガブルーに定め、凍てつく青き怒りを乗せ、ネジトマホークを縦横に振るう。
スーツの回路が火を吹いて破裂する音、それと共に耳を打つメガブルーの苦痛の声。
その声にネジブルーの奥底から表しようもない歓喜が沸き上がる。
さらにフルスイングでもう一撃。
かろうじて持ちこたえたメガブルーは、よろけながらも倒れまいと足を踏ん張る。
それでいい。簡単に倒れてしまっては面白みに欠ける。
「ほんと、楽しいよ、楽しいよ~。メガブルゥ~」
すぐには殺さない。いや、すぐに殺してなどなるものか。
少しでも多く、少しでも長い間苦しんでもらわなきゃね。
そう、俺の味わった悔しさや苦痛は、こんなものじゃ全然足りないんだよ。

メガブルーに苦痛を!メガブルーに屈辱を!!

ネジトマホークから放たれた青き光の刃が乱舞し、メガブルーの胸を、四肢を、胴体を切り裂く。
「ぐっ!あぁ~」
全身で苦痛を表現するように、メガブルーは体を折り曲げのた打ち回る。
「まず、仮面を割らなきゃね」
その脳天目掛けてネジトマホークを振り下ろした。
「が……ハッ」

529:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:02:32 /Anf5pos0
苦しげな声と、差し出した手が助けを求め虚空にさまよう。
ネジブルーはゆっくりと近づき、右足のつま先をメガブルーの顎へ引っ掛け蹴り起す。
「寝たふりなんてやってくれるねぇ」
まだ意識はある。仮面を通していても驚愕に満ちた視線をはっきりと感じる。
「メガブルー、これからだよ」
脳天に突き立てたネジトマホークを引き抜いた。
パキパキと音を立て、メガブルーの仮面が壊れていく。
どんな顔してるんだい?見せてくれよ~。
割れた仮面の断片を一つ一つ取り除く作業は、プレゼントの包みを開けるような期待と喜びをネジブルーに与えてくれた。
ようやく見えた。仮面の隙間から覗く、恐怖、苦痛、絶望を湛え、黒曜石のように輝く瞳が。
ヤメテクレ……殺サナイデクレ。
メガブルーの瞳が切に訴えていた。
「止めてくれ?殺さないでくれ?それじゃぁ足りないぜ。もっと必死に懇願しなきゃだめだよ」
指をクルクル回しながら仮面の隙間へ潜らせた。
「苦しみの声だって、もっともっと聞かせてくれ。絶望のこもった断末魔は絶対に忘れないでくれよ~」


§


いつまで笑っているつもりだろう。
放っておけば笑い死にするんじゃないかと思うほど、ネジブルーは気違いじみた笑い声をけたたましく上げ続けている。
「もういいわよ、ネジブルー」
「ヒャハハハハッハハハハッ、ヒャハハハヒャハハハハッ。メガブルー、お前は死んじゃうんだ!ヒャハハハハハハハハッ!!」
聞いていない。
美希だけでなく、誰が話かけたところできっと同じだろう。
思ったより、使えないかもしれない。
あわよくばネジブルーとメガブルーの戦いに何人か巻き添えになってくれればと思っていたが期待しない方が良さそうだ。
それはそれで構わない。
美希の狙いは他にもある。

530:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:03:42 /Anf5pos0
まず、利用できる人間の選定。
そして、血の着いた忍者刀の始末。
事をスムーズに運ぶために、疑われるのは極力避けたい。
味方同士となれば、名刺交換代わりに支給品を確認するだろう。
まさか私の支給品には最初から血が着いていたんです。と言うわけにもいかない。
だから隙を見てネジブルーのデイバックとすり替えようと思っていた。
おそらくネジブルーは倒される。
スフィンクスの支給品を美希が奪ったのと同じように、ネジブルーの支給品も有効利用と言う名の元に誰かに奪われる。
すり替えたデイバックの中には血の着いた忍者刀。
ただ、そこで問題なのが目の前のネジブルー様子だ。
メガブルーに異様な執着を抱いているだけで、ネジブルーは殺し合いに乗っているわけではない。
それにネジトマホークと言う立派な武器も持っているのに、わざわざ慣れない忍者刀で殺害するメリットがない。
では誰に支給された物なんだ?となれば、疑われるのは美希。
どうしようかしら。
参加者はまだ大勢いるし、ここに集まる人間を利用すると限らなくてもいいのよね。
拡声器といえど全エリアに伝わっている訳ではないだろうし。
都市は人が集まりやすいと踏んで選んだが、むしろ殺し合いに乗るつもりがないなら他のエリアで様子を伺っている可能性もある。
一つ仕掛けておいた方がいいかもしれない。
時計とあれを使えば……。
そうなると、ドロップにも手伝ってもらうことになるわね。

美希はクルリと身を翻し、ドロップの方を向いた。
この子といれば、この場を逃れてもしばらくは怪しまれずに誰かに近づける。
ドロップと手を組んでいる限り、美希は幼い子を守る優しい女性の皮を被っていられる。
ただいつ手を噛まれるかわからない。
なぜならドロップの望みは美希と同じ『最後の一人になる』だからだ。
「ドロップ」

531:名無しより愛をこめて
08/09/15 01:05:20 UVqGj+aWO





532:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:06:19 /Anf5pos0
美希が声をかけるとドロップはトコトコとこちらに歩いて来た。
「ちょっと下に降りてくるわ」
ドロップはコクンと頷き、少し眉をひそめネジブルーを見た。
「あれ……」
ドロップのさす『あれ』に目を向けると、まだメガブルーを殺す妄想の世界にどっぷり浸かっている。
「うるさいのは我慢してくれる?好きなようにさせておくといいわ。それより……」
美希はそっとドロップに囁いた。


§ 


「だめだよ~、我慢できない!なぁ、メガブルーはまだ来ないのかい?
さっきから俺のネジトマホークが叫んでしょうがないんだ。メガブルー、メガブルー、 メガブルーってね!……?」
美希の姿が見えない。ネジブルーの傍らにいるのはドロップだけだった。
資材の影でボンヤリと朝日を見つめているドロップに問い質す。
「あの女、どこへ行ったんだい?」
「偵察……」
ネジブルーを見ようともせずドロップは答えた。
「偵察ぅ?そりゃいいな」
待ちきれないネジブルーには、ある意味それは朗報だった。
「だけど見付かったらどうするんだ?」
「……ネジブルーに命令されたって言うって。メガブルーを連れて戻らなければドロップを殺すって」
「へぇ、そうか。ならメガブルーをどうやって殺すか、あの女が帰ってくるまでに考えておかなきゃね……」

 
§


瞬は地図を手に必死で身を隠す場所を探す。

どうする、砂漠を渡ってエリアの外れまで行くか?

533:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:08:23 /Anf5pos0
無理だ。ペットボトル2本の水で渡りきれっこない。
採石場で隠れようか?
いや、一箇所にいるのは危険だ。
逃げ続けるしかない。
誰かに見付かったらメガブルーに変身してでも逃げ切ってやる。


『皆さん――――』


瞬の思考を中断するようにロンの声が頭に流れ込んできた。
ハッと瞬は顔を上げる。
声を聞いているうちに肩が震えた。
自分ではその震えを抑えることが出来ない。

禁止エリア?だんだん逃げ場が無くなって行くのか!?
それに8人?8人ってなんだよ。
なんでそんなに死んでるんだ!
……ダメだ。逃げるなんて無理だ。
誰かに助けを求める?
人質を助けなかった俺を誰が助けてくれるっていうんだ。

殺し合いはとっくにもう始まっている。
その中で瞬はいわば指名手配状態。
瞬が描いたビジョン、無罪放免の道は閉ざされた。
「クッ、ハハハハッ」
涙と笑いがごちゃごちゃになる。
「どうするんだよ、俺。もう死んじまった8人みたいに、逃げられない。自分を狙うヤツから……」
砂の上に転がり、悔しさをぶつけるように何度も地面を叩く。
ちくしょう!ちくしょう!!
なんで俺なんだ?

534:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:10:32 /Anf5pos0
だいたいメガレンジャーに選ばれたのは健太じゃないか。
俺はなりたくてメガブルーになったんじゃない。
不公平だ……。
こんなの、俺はまだ17なんだ。
個展だって開いてない。デザイナーにだって手が届きそうだったのに。
なんで俺だけこんな目に合わなきゃならないんだよ。
冗談じゃない……。

― 殺るしかないんだ。そうじゃないと、次に名前を呼ばれるのは俺だ。

よろよろと立ち上がり瞬はタワーを目指した。
瞬が狙うのは漁夫の利。
人質など、所詮罠だ。
集まってくるのはどうせ殺し合いに乗ったヤツばかりだろう。
双方戦って傷ついたところで駆け付ける。
後は制限を逆手にとり邪魔な参加者を一掃する。
瞬は深く息を吐き出した。
「やってやるさ」
歩みを再開した瞬に恐怖はなかった。


§


「ドロップ、この兄が今お前を助けに行く」
ジルフィーザはひたすらドロップを目指し、タワーの外壁をよじ登る。
このタワーの外壁は幾つものキューブブロックを積み重ねた形状。
充分とはいえないが登るための足場にはなる。
そのわずかな足場で足を支え手に力を込め、ジルフィーザは頂を目指した。
すでに完成された数十階部分まで、タワー内の昇降機を使おうかとも考えたが、そこに罠が仕掛けてあるとも限らない。
戦力の温存と愛する弟のため、ジルフィーザはあえてロッククイラミングを決行した。

535:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:12:02 /Anf5pos0
ジルフィーザが登る一面は、朝日の当たらないビル全体の死角。
頂上付近まで下からはもちろん、上からも見つかりにくい一面だった。

手探りでぐらつく身体を支えながら、ジルフィーザは先程頭に流れ込んできたロンの声を反芻する。
告げられた8人の死者。
その中にドロップの名が無かったことはジルフィーザに束の間の安堵をもたらした。
だが、となればやはりドロップはここで捕らわれている。
おのれ!忌々しい制限など無ければ!!
そう、制限さえなければ、飛行してすぐにでも駆けつけている。
この怒り、頂上にたどり着いた暁にドロップを浚った相手に存分に返す。
全身全霊、己が持つすべての力を発揮し、塵一つとして残さぬわ!!

ジルフィーザの怒りが極限に達した頃、ロッククライミングも終了となる。
この階からは上階は未完成。
剥き出しの鉄骨と打ちっ放しのコンクリートの外壁を土台に鉄製の階段が設置されていた。
上を仰ぐと、九十九折りの鉄の階段の遙か上に揺らめく人影が見える。
「ドロップ!!」
ジルフィーザは階段を駆け上がった。それと同時に
「お前、メガブルーじゃないね~」
突然、ふざけた調子の声が聞こえた。
「墜ちろ!」
声の途端、不可視の力でジルフィーザの身体は階段から突き放された。
咄嗟に掴んだ階段の手すりがメキメキと土台から剥がれジルフィーザは宙づりになる。
「回れ!」
身体が回転を始める。
やむなく手を離したジルフィーザは地上へ向け急速に落下していく。
「おのれ!!」
風に逆らい翼を拡げた。
落下速度は強風となりジルフィーザの翼が軋む。
二、三度大きく羽ばたかせ体制を整える。
「うぬぅ!」
再びドロップの元へ羽ばたこうと旋回し上昇する。

536:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:15:47 /Anf5pos0
タワーの最上部でこちらを見ながらブルーのメガホンを構える男がいた。
かまわず目を凝らし、ドロップの姿を捜す。
「ドロップ、どこにいるのだ?」
兄の声に答えたのか、資材の影から小さな姿が現れた。
違う。
ジルフィーザの眼が憤怒の色に染まる。
あれはドロップでは無い。
無駄足を踏まされ男を縊り殺したいところだが、ここは本物のドロップの行方を捜さなければならない。
もし、次にこの男が目の前に現れれば生かしてはおかぬ。
射抜くように男を睨み付けた。
男はジルフィーザの視線を真っ向から受け再びメガホンを構えた。
「メガブルーを連れてこいよ~。墜ちろ!」
再び不可視の力がジルフィーザを包む。
ジルフィーザはその力に逆らわず、風に乗り地上へ降りていった。


§


「瞬の代わりにあの声の主を倒す、これは俺の役目だ。誰だって初出場の時は怖い。俺だって腰を抜かしたぐらいだ。
それなのに、えらそうに説教なんてしちまった。瞬を傷つけちまった責任。そいつを果たすには俺がやるしかねぇ」
「ならば、私も一緒に戦おう。あの者を傷つけたのは……俺の方だ」
「ティターン。じゃあ一つ頼みがある。お前には俺が戦ってる間に、人質を助け出してくれ」

タワーの入り口付近、そこで人目をはばからずに話す男が二人。
一人は黒装束に身を包み、銀色の犬を引き連れた大男。

537:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 01:17:29 /Anf5pos0
もう一人は痩躯ながら鍛えられた鋼のような精悍さを持つレスキュー服姿の男。
積み上げられた資材に隠れ、その二人を数分前から覗いている二人組。
青い長羽織を小粋に着こなす女、日向おぼろと、高き冒険者ボウケンブルーこと最上蒼太である。
「あの黒装束は見るからに怪しい、っちゅう感じで思わず隠れたけど……」
「人質を助ける相談をしてるみたいですね」
蒼太とおぼろは顔を合わせて頷きあった。

二人がJ-10エリア『叫びの塔』を目指している途中、メガブルーなる人物を呼ぶ声がエリアに轟いた。
ひとまずバリサンダーをFー5エリアの外れに隠しタワーへ急いだ二人。
一足先にいたのが、レスキュー服の男と黒装束。
「救出作戦とあれば……よし、うちらも合流しよう」
腕をまくって勇むおぼろ。蒼太は慌てて止める。
「もう一人。あそこのビルの上、学生服を着ています。こっちの彼は狙いが違うんじゃないかな」
蒼太はおぼろにスコープショットを握らせビルの上を示した。
ビルの上の少年の思い詰めた表情が蒼太には気がかりだった。
彼、高校生くらいかな?
人質救出のわりには怯えたように周りを警戒している。
野次馬には相応しくない切羽詰まった様子。
明らかに人為的につけられた頬の怪我。
そこから受ける印象は『彼は殺し合いに乗ろうとしている』
漁夫の利を狙うか、思いとどまるか。
できれば後者であって欲しい。

蒼太は死者を告げるロンの声を思い返す。

『皆さん―― まずは亡くなられた方からお知らせいたしましょう。伊能真墨……』

伊能真墨、ボウケンブラック。

538:名無しより愛をこめて
08/09/15 01:20:39 UVqGj+aWO



539:名無しより愛をこめて
08/09/15 01:21:56 G8zk/JmxO



540: ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 02:15:28 UVqGj+aWO
さるさんのため、残りは仮投下スレに投下致しました。


541:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 09:38:52 /Anf5pos0
彼のひねた笑顔と声が脳裏に浮かぶ。
『手を貸すぜ。金庫から頂くんだろ?』
先日の三国覇剣の一件ではこっそり先回りしてハイパープログラム社で蒼太を待っていてくれた。
まだ付き合いは浅かったが、それなりに上手くやっていけそうだった。
その真墨が、殺し合いの犠牲になった。
彼の死を確かめるすべもなく、一方的に薄笑いを浮かべたロンから告げられた。
中途半端な、やり場のない苛立ちと憤り。
あんな思いはもう味わいたくないし、誰にも味わわせたくない。
気持ちを落ち着けるように蒼太は右手の指輪に触れた。

おぼろがスコープを覗きながら蒼太の袖を引いた。
「あの子、メガブルーなん違うかな?なんや怪我もしてるし、一人でどうしようか思い詰めてるんちゃう?」
「彼がメガブルーか。う~ん、そうかもしれないけど」
少し考えてから
「僕には殺し合いに乗るかどうかで迷っているように見える」
と正直に言ってみる。
スコープショットを蒼太に渡しながら、おぼろは困り顔で言った。
「もしそうやったら、何とか思いとどまらせる事はできんやろか。
鷹介たちもそうやけど、あの年代の子らは良い意味でも悪い意味でも真っ直ぐやから、方向を間違えたらえらいことになる」
確かに、ブレーキのきかない年代。
思いとどまって欲しいと願うのではなくて、思いとどまらせる。
なるほどね。それが良い道標なのだろう。
「彼がメガブルーだとして、二人の話と彼の様子をみると。何か行き違いがあってあの二人が彼を傷つけてしまった。
そして二人はその償いをしようとしている。それを彼は知らないんでしょうね。下手したらあの二人も自分を狙ってると思っているかもしれませんね」
「そんな風に思ってるとしたら、余計良い結果にはならんな」
「まっ、直接本人に聞いてみましょう。おっと、おぼろさんはここを動かないで」
おぼろはここに残ってもらうつもりだ。男同士の方が話しやすいと思ったからだ。
「蒼太くん、あの子が殺し合いに乗ってしまってたらその時はどうするん?」
蒼太は二人の男を見遣る。

542:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 09:41:05 /Anf5pos0
自分を助けようとしている二人を知ったら思いとどまるかもしれない。そう思っている。
だが、それが彼に伝わらなければ……。
デイバックの上からヒュプノピアスに触れる。
「その時はちょっと荒っぽいやり方も必要かもしれませんね」
「荒っぽいやり方って……ちょっと蒼太くん!」
「危険なことはしませんよ」
そう言っておぼろに片手を振り、蒼太は少年のいるビルへ向かった。



§


ここを動かないでと言われたけど……。
蒼太がビルに入っていった後、おぼろは二人の男の様子を伺っておこうとそっと近付いた。
おぼろとしてはそっと近付いたつもりなのだが、すぐに男達に見つかってしまった。
「誰だ。出てこい!」
「バウ!バウ!」
銀色の犬がおぼろの後ろに回り込んで、足下にまとわりつく。
「うちは、べつに。ちょっとやめて!ほんまに」
「マーフィー。やめろ」
黒装束の男の声に銀色の犬はちょこんと座り込んだ。
「あんたは?」
レスキュー服の男がおぼろに厳しい視線を向ける。
おぼろはおずおずと口を開いた。
「うちは日向おぼろ。自分で言うのもなんやけど怪しい者じゃないで。
もちろん殺し合いなんか乗ってないし。今はここにはおらんけど、最上蒼太くん、ボウケンブルーと一緒にあの声を聞いて、急いで駆けつけたんや」
「そいつはどこへ行ったんだ?」
レスキュー服の男の眼がさらに厳しくなる。

543:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 09:45:41 /Anf5pos0
「そこのビルの上に学生服の男の子がたっとって……。あんたら話してた瞬て言う子やと思う。その子の所へ」
「何だって?瞬が来てるのか!どこだ」
おぼろが指を指すが、隠れてしまったのか距離があるからか人影があるかもはっきりしない。
「瞬、来ないと思ってたぜ」
表情を弛めレスキュー服の男が呟いた。
この人はあの子が殺し合いに乗ったかもしれないなんて考えてもいない。
本当にそうならそれでいい。
この二人には余計なことは言わずに蒼太を待とう。
「最上ってヤツ、信用できるんだよな」
声を穏やかにレスキュー服の男が尋ねてきた。
「うちは蒼太くんに命を助けてもらったから、信用するも何も……。もう少ししたら瞬って子連れてここに戻ってくると思う」
「そうか。それはそうと、いつから聞いてたんだ」
おぼろはほっとした。男は表情も穏やかになっている。
「黙って聞いてたんわ謝るわ。すんません。
でもあんたらも信頼できるかどうか解らんかったし。失礼やけど、特に黒装束の人なんか見るからに、なぁ」
おぼろは本人に同意を求めるように黒装束を見た。
黒装束の男は笑っているようで傷ついているような表情を浮かべた。
とりあえず、会話は掴んだ。本題を切り出そう。
「人質を助けようとしてるんやろ。それうちらにも手伝わせてくれる?」


§


話の腰を折るように、マーフィーは大きく遠吠えした。
「バウ!バウバオォォーーン!」
「マーフィー、どうしたのだ?」
「バウ!」
走り出したマーフィーを追いかけていったティターン。
戻ったティターンは纏に話を始める。

「ジルフィーザの話では白い服を着た少年で、ドロップではないと言っていた」

544:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 09:49:48 /Anf5pos0
ティターンがジルフィーザと行動を共にし、ジルフィーザが必死の思いでドロップを捜しているのはすでに聞いていた。
白い服の子供。何か引っかかる。纏は記憶をたぐり寄せる。
いや、確かマツリが一度連れていた炎を操る子供。
ドロップからサラマンデス変わる前、そんな姿をしていた。
また戻ったのか?わけがわからねぇ。
ティターンの話ではジルフィーザは俺を覚えちゃいなかった。ありえなくもねぇかもな。
いや、覚えてないんじゃねぇ。
それじゃ、辻褄が合わない。
「ティターン。何かのまじないで俺を忘れたんなら納得できる。だけどよ、ドロップまでわからねぇのは変だろ?」
「確かに」
「俺の考えはこうだ。ジルフィーザも俺もドロップも、違う時間ていうか、時代というかとにかくずれた時間から連れて来られたんだ。
さっき話しただろ。タイムレンジャーのヤツラ、あいつらと一緒に戦ったとき原始時代に飛ばされた。
そんな感じでジルフィーザは地球に来る前、ドロップはサラマンデスになる前、俺は平和が戻った時。なぁ、わかるか」
「信じられぬ話ではない、ならば、その子供がドロップだというのか?!」
「あぁ、ドロップだろう。瞬と声の主も、俺たちとおそらく同じだ。だから瞬はコイツを知らないんだ」
纏の言葉に深く頷くティターン。
「ただ、メガブルーを連れてこなければ上には上がれないようだ。呪文か何かでジルフィーザも近寄れなかったらしい」
「瞬を行かせるわけにはいかねぇ」
良策は浮かばない、上にも上れないとなれば、万事休す。
「こっちも人質を立てたらどうやろう。交換させるために下まで降りてこいって」
おぼろが進言する。
「メガブルーご指名のあいつが、人質になんか興味示すと思うか?」
「本人になってもろたら……」
「ダメだ!」
「ほんまに引き渡すわけやない。うちも含めて4人がかりならなんとかなるやろ。あの声の主さえ引きずり下ろしたら良いだけの話や」
その時、聞くはずのない声が割って入った。
「僕なら構いません。名案だと思いますけど……」
青いジャケットの男に連れられて、瞬がそこに立っていた。

纏を無視するように青いジャケットの男と言葉を交わす瞬。
「瞬、手紙読まなかったのか?」
なんとなくすっきりしない思いで纏は尋ねる。

545:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 10:02:47 /Anf5pos0
「手紙?」
瞬は怪訝な顔で纏を見つめた。
俺が守ると、安心させてやりたかったんだが……。
読んでもらえなかったのなら、行動で示せばいい。
ティターンも気持ちは同じなのだろう。
視線を合わせた二人は頷き会った。
纏は皆に告げる。
「まずは情報交換させてくれ。その後、俺とティターンで要救助、出場する」


§

再びマーフィーと共にジルフィーザを探し当てたティターン。
ドロップは本物であると、纏の考えをジルフィーザは半信半疑ながら信じたようだった。

「頼む!ジルフィーザ!!声の主に伝えてきてはくれないか。お前しか上空へたどり着けぬのだ」
「上空までまだおそらく飛べるであろう……忌ま忌ましい制限のお陰でドロップの身はお前に預けるしかないようだ」
ジルフィーザはそのまま空へ舞い上がりタワーの上部へ向かう。
「行ってくれるのか!」
安堵するティターンを振り返らずに、ジルフィーザは言った。
「弟のためだ……。先程別れた場所、そこで待とう」


§


朝日がタワーのガラスブロックを照らす。

546:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 10:06:36 /Anf5pos0
キラキラと煌めく光の中を、纏とティターンが立っていた。
暫時の間を経て、回転扉から声の主が姿を表した。

「お前、何者なんだ?なぜメガブルーを狙う」
纏は声の主に名を問う。
「俺の名かい?ネジブルーだよ。だけどそんなのどうだっていいだろ~。言うことを聞いてわざわざ降りてきてやったんだ。さぁ」
『いっちまってる』直接耳にしたネジブルーの声は、期待と興奮の混じった嫌な声色だった。瞬でなくても聞けば鳥肌の立つような。
「さぁ、人質を交換するんだろう~。俺の人質は、ほらあそこにいるよ」
ネジブルーは得物の先でタワーの三階辺りを差した。
窓ガラスの向こうに黒いスーツの女と子7、8才ぐらいの子どもの姿が見えた。
これでうまい具合に、人質とネジブルーに距離が出来た。
あそこなら自分が戦っている間に隙を見て救出してもらう事は可能だ。
「おい、聞いてるのか?メガブルーはどこだい」
痺れを切らしたネジブルーが催促を始めた。
さてと……。
一呼吸置いて纏はティターンと目配せを交わす。
ティターンは頷き、纏の横に並んだ。
「残念だけどな。メガブルーはここにはいねぇよ」
「何だって~。じゃあどこにいるんだい。早く教えろよ~」
ネジブルーは手にしたメガホンと斧をちらつかせるようにゆったりと手を動かした。
纏は脅しに屈しない強い眼差しでネジブルーを見据える。
要救助者は女性1名、子供1名、そして並樹瞬の合計3名。
一刻も早く救助しなければならない。
人の命は、地球の未来だ。
「メガブルーに手出しはさせねぇ。あいつは俺たちが守る!」
握り締めた拳をネジブルーへ向ける。
「手出しはさせないだって?」
「あぁ、お前の相手はこの俺だ!」
腕を組んだネジブルーは頷きながら、考えるような素振りを見せた。

547:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 10:09:45 /Anf5pos0
「へぇ~、そういうことか。最初から人質を交換する気なんてなかったんだな」
そう呟いたネジブルーの肩が小刻みに震えだした。
「もう少し、ましなことを思い付かなかったのか? ムカつき過ぎて笑っちゃうよ 。
フヒャハハハハッフヒャハハハハッ、ヒャハハハハッハッ !!」


§


俺がどんな思いでこの瞬間を待ってたと思うんだ?
なぁ、Dr.ヒネラー。
この気持ちは何なんだ?メガブルーだけじゃねぇ。ここにいるやつら、全員殺してやりたいよ。

ネジブルーは心の中でDr.ヒネラーに問いかける。
無論、心の中のDr.ヒネラーは答えない。
ネジブルーはDr.ヒネラーにより生み出された狂気の生命体だった。
メガブルーを敵視し、倒すためにプログラムされた存在。
こうして再び蘇るまで、ネジブルーを殺すという意志は所詮組み込まれたプログラム。
ネジブルーは、ただの操り人形だった。
だがここに来てからは違う。
メガブルーへの復讐。その確固たる意思はネジブルーだけの物だ。
そう、Dr.ヒネラーなどもういない。自分を縛る枷などないのだ。
作戦も、指示も、帰還命令もない。
ネジブルーは悟った。好きなようにやって構わないのだ、と。

「よってたかって、俺の楽しみを邪魔しやがって……」

メガブルー以外の存在に対する憎悪が湧き上がる。
その感情はより率直に、果たして彼の意思に破壊的に働きかける。

548:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 10:11:52 /Anf5pos0
「へぇ~、そういうことか。最初から人質を交換する気なんてなかったんだな」
そう呟いたネジブルーの肩が小刻みに震えだした。
「もう少し、ましなことを思い付かなかったのか? ムカつき過ぎて笑っちゃうよ 。
フヒャハハハハッフヒャハハハハッ、ヒャハハハハッハッ !!」


§


俺がどんな思いでこの瞬間を待ってたと思うんだ?
なぁ、Dr.ヒネラー。
この気持ちは何なんだ?メガブルーだけじゃねぇ。ここにいるやつら、全員殺してやりたいよ。

ネジブルーは心の中でDr.ヒネラーに問いかける。
無論、心の中のDr.ヒネラーは答えない。
ネジブルーはDr.ヒネラーにより生み出された狂気の生命体だった。
メガブルーを敵視し、倒すためにプログラムされた存在。
こうして再び蘇るまで、ネジブルーを殺すという意志は所詮組み込まれたプログラム。
ネジブルーは、ただの操り人形だった。
だがここに来てからは違う。
メガブルーへの復讐。その確固たる意思はネジブルーだけの物だ。
そう、Dr.ヒネラーなどもういない。自分を縛る枷などないのだ。
作戦も、指示も、帰還命令もない。
ネジブルーは悟った。好きなようにやって構わないのだ、と。

「よってたかって、俺の楽しみを邪魔しやがって……」

メガブルー以外の存在に対する憎悪が湧き上がる。
その感情はより率直に、果たして彼の意思に破壊的に働きかける。

549:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 10:22:07 /Anf5pos0
ネジブルーは己の意志を、すべてに対する憎悪という感情を手に入れた。


§


「邪魔する奴は皆殺しだ!!」

獣じみた咆哮を上げ、ネジブルーが光を放った。
それと同時にティターンの掌から光弾が走り攻撃を相殺する。
「チッ」
憎憎しげに舌打ちを鳴らし、ネジトマホークを構えるネジブルー。
カンマ数秒遅れて変身コードを入力した纏。
威勢と気迫を拳に載せ、クロスした腕を真っ直ぐ突き出し引く、さらに突き出し引き寄せた拳を胸の前で固く合わせ、叫んだ。

「着装!」

その身に纏うは火消しの心意気。
ゴーレッドが着装完了と共に己の信じる正義に敬礼する。

「よし!一気にカタをつけるぜ。ファイブレーザー!スティックモード!!」
大きく踏み込んで間合いを詰めるゴーレッドへ、ネジブルーが突進。
「お前も仮面を割ってやろうか~!?」
ゴーレッドはネジブルーの力強い斧の衝撃を剣で受けるも弾き飛ばされた。
続くティターンが組み手に持ち込もうとするが、スピードではネジブルーが上、軽くかわされ背中に手刀を叩き込まれる。
「グッ!」
「ティターン!」
ティターンへ気を取られたゴーレッドの顔面にネジトマホークが迫る。
上体を屈してかわし、報復とばかりに脇腹を切りつける。

550:名無しより愛をこめて
08/09/15 10:23:31 k605bzNV0
支援

551:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 10:27:36 /Anf5pos0
ステップを踏むように、数歩後退したネジブルー。
傍らに転がるソニックメガホンを手に取った。
「ヒャハハハハッ!回れ~回れ~」
ゴーレッドとティターンはぐるぐるとコマのように回り出した。
「うわぁぁぁっ!」
「くっ、ぐぁ!」
回りながらもゴーレッドはレスキューロープを手に取る。
「ヤァ!」
ソニックメガホン目掛けレスキューロープを伸ばす。
「無駄だよ~殴り合え!」
届かず。突如、身体は急激にティターン目掛けて突進する。
磁石が引き寄せられるように拳を突き出したお互いの身体がぶつかり合う。
鈍い音と衝撃がゴーレッドの脳を揺らした。
「このままじゃ埒があかねぇ」
その時。
「バウ!」
銀色の弾丸の如く駆けたマーフィーがネジブルー腕に飛びついた。
マーフィーを振り払おうとソニックメガホンを放したネジブルー。
「マーフィーすまねぇ!よし。ファイブレーザー、ガンモード」
ゴーレッドの銃撃に続き、ウラノスとガイアの怒りを手にティターンが追撃する。
ネジブルーは慌てる様子もなく、マーフィーの足を掴む。
「こいつはいい盾になるぜ~」
「何!」
「バャウーーーー!!」

552:名無しより愛をこめて
08/09/15 10:28:25 k605bzNV0
支援

553:Chance or Death ◇MGy4jd.pxY 代理
08/09/15 10:36:09 k605bzNV0
数発の光弾を受け火花を散らすマーフィー。
咄嗟に駆け寄るティターンへネジブルーは容赦なくネジトマホークを振り下ろした。



§


外では纏とティターンが苦戦しているようだった。
瞬は外が見えない位置に座り、時間が経つのをじっと待っていた。
どっちでもいい。どちらが勝とうが負けようが。
制限があるのは知ってる。
ただそれが時間なのか回数なのかわからない。
相打ちに近い状態になった時、出て行けばいいのだ。
人質もおぼろも、きっと蒼太が手に掛けるのだろう。
それとも手伝わされるのだろうか。
ゾッと恐怖が込み上げる。
自分が救われる代わりに他の人間が死ぬ。
瞬はその時のことを心待ちに出来るほど冷酷ではない。
まだ何もしていないのに、罪悪感で押しつぶされそうだ。

普通におぼろと話している蒼太の神経を正直、疑う。
瞬を見つけ出した時……

蒼太は――



「おっと、なんで逃げるんだい?」
瞬の行く手に男が立ちはだかる。

554:Chance or Death ◇MGy4jd.pxY 代理
08/09/15 10:36:59 k605bzNV0
掌にじっとり汗が滲む。
「逃げるなんて……俺は」
「そう。逃げる必要は無いんだ。心配はいらないよ。僕の目的は君と同じだからね」
再び男と視線が合う。
「言わなきゃわからないかな?」
自白を強いられるような酷薄な眼が瞬を見つめる。
「俺は生きて帰って、夢を叶えるんだ……」
瞬は思わずそう漏らしていた。
「そのために手段は必要だ。仲間も、ね」
酷く冷たい声で男は言った。スリルを楽しんでいるような声だった。


――こいつが俺の仲間。
どのみち一人でもやろうと思ってたんだ。
そうじゃなきゃ、帰れない。

ふと、おぼろと蒼太の会話が耳に飛び込んでくる。
その話を聞いて瞬は唖然とした。

「蒼太くん。気を付けて」
「おぼろさんも人質と合流したら打ち合わせたビルまで速く逃げてください」
出口へ向かう蒼太に瞬が駆け寄る。
「助けに行くって話が違うじゃないか」
蒼太の胸ぐらを掴む瞬。
「あんた。あほか!」
パン!おぼろが瞬の頬をひっぱたいた。
「……あんたのために、纏さんら必死に戦ってるっちゅうのに」
キッと睨み付けるおぼろを蒼太が片手で制す。
「話が違うって何のことだい。悪いジョークだよね?」
「なっ?!ジョーク?」
瞬は言葉をつまらせる。

555:Chance or Death ◇MGy4jd.pxY 代理
08/09/15 10:37:45 k605bzNV0
「あぁ、悪いジョークだ。『君は夢を叶えるために生きて帰る』そう言ったけど、その手段が僕たちと違うなら本気で洒落にならないね」
蒼太は笑顔を見せた。だが眼は笑っていない。
「さっきから二人のことを一度も見ようとしないけど、一回よく見てみたらどうかな」
瞬は蒼太に窓辺まで引っ張られた。
それでも目を背ける瞬に、蒼太は溜息混じりで言った。
「君の願いは『最後の一人になって夢を叶える』か。
42人の屍と、その家族や仲間、悲しみで心を失った人たちの上でみる夢。そんな夢が本当にいいものだと思うかい?」
蒼太はそう言って部屋を出て行った。おぼろも後に続いた。

一人になって、初めて瞬は纏とティターンを見た。
ネジブルーの声と纏の怒声が瞬の耳を打った。

『馬鹿な奴らだ。メガブルー一人渡せば命を落とさずにすんだのにね』

『黙れ、たとえ、たった一つの命でも守らなきゃいけねぇ。
その未来を守るのが俺の責任なんだ。俺は絶対あきらめねぇ!!!』

次の瞬間、瞬は走り出していた。


「待ってください。……さっきのは悪いジョーク、です」
階段を降りる蒼太とおぼろに追いつくことが出来た。
おぼろは頷いてくれたが、蒼太は聞こえていないように瞬を無視して階段を駆け下りる。
瞬もそれに続く。
瞬の方針は決まった。
それをわかってもらいたかった。
「でも、夢は叶える。生きて返って、必ず……。

556:Chance or Death ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 10:38:24 /Anf5pos0
数発の光弾を受け火花を散らすマーフィー。
咄嗟に駆け寄るティターンへ、ネジブルーは容赦なくネジトマホークを振り下ろした。



§


外では纏とティターンが苦戦しているようだった。
瞬は外が見えない位置に座り、時間が経つのをじっと待っていた。
どっちでもいい。どちらが勝とうが負けようが。
制限があるのは知ってる。
ただそれが時間なのか回数なのかわからない。
相打ちに近い状態になった時、出て行けばいいのだ。

ゾッと恐怖が込み上げる。
自分が救われる代わりに他の人間が死ぬ。
瞬はその時のことを心待ちに出来るほど冷酷ではない。
まだ何もしていないのに、罪悪感で押しつぶされそうだ。

普通におぼろと話している蒼太の神経を正直、疑う。
瞬を見つけ出した時……

蒼太は――



「おっと、なんで逃げるんだい?」
瞬の行く手に男が立ちはだかる。
掌にじっとり汗が滲む。
「逃げるなんて……俺は」

557:Chance or Death ◇MGy4jd.pxY 代理
08/09/15 10:38:32 k605bzNV0
CGデザイナーになったら、個展の招待状は最上さんとおぼろさん、それとあの二人にも送ります」
振り返った蒼太が笑顔で頷く。蒼太の笑った顔を初めて見た気がした。
「オッケー。じゃ行こうか」
「はい」
返事をしたものの、瞬は考える。
ここで二人で飛び出すのが最善なのかと。
「いや、最上さんたちはもう少しここで待っていてください。俺達には制限がある。それが時間制限だとしたら少しでも戦力は温存しておいた方がいい」
ヒューゥ、蒼太が口笛を鳴らした。
「いい読みだね。CGデザイナーなんて辞めて卒業したらボウケンジャーに入らない?」
照れながら、低調に返した。
「遠慮しときます」
瞬は纏とティターンの元へ駆け出した。


愛情とか友情とか、夢の前なら後回しで構わないと思ってた。
ホントはそう言うの嫌いじゃないしな。
誰かを犠牲にして叶える夢なんて、俺の夢じゃない。
夢はあきらめさえしなきゃ叶えられるんだから。


「インストール、メガレンジャー!」

―3・3・5・Enter―

デジタイザーが輝き、粒子となった光が瞬の身体を廻る。

「あの刃のねじれ具合、もしかしてネジレシアか?トマホークスナイパー!!」
狙いは肩、マーフィーを盾に出来ない位置に銃弾を撃ち込む。
「メガブルゥ~。やっと来たね!」

558:Chance or Death ◇MGy4jd.pxY 代理
08/09/15 10:39:17 k605bzNV0
待っていたかのようにネジトマホークを振るい銃弾を薙ぎ払う。
ゴーレッドは銃撃で応戦しながらメガブルーに顔を向ける。
「瞬、何できたんだ!ここは俺が……」
「わかったんです。俺、戦う責任も、あきらめないって意味も。でも話は後で。今は戦いに集中してください!」
「そうだな。後でゆっくり聞かせてもらうぜ!」
トマホークスナイパーとファイブレーザーの連射。
一方的な銃撃にネジブルーは防御に徹し、攻撃を繰り出せない状態に追い込む。
「ティターン!任せたぜ!!」
ゴーレッドが叫ぶ。
ティターンが天に向け高く伸ばした掌より出現した淡い光は、瞬く間に巨大な光源と化した。
ネジブルーへ向け光源を撃ち放つティターン。
轟く雷鳴が耳を劈き、逆巻く散光はネジブルーを焼き尽くしたかに思えた。
「遅いよ~」
爆風にのって、嘲笑を浮かべたネジブルーが飛び出した瞬間。
「今だ!」
ティターンが大きく両手を広げた。
「おう!」「はい!」
メガブルーが右、ゴーレッドが左から、ティターンの肩を踏台に跳ね上がる。
「シュート!」
空中でクロスし、前面に躍り出たゴーレッドが放つエネルギー光弾が、流星の如くネジブルーへ降り注ぐ。
メガブルーは数発くらい後退しながらも、ネジトマホークを縦横に振るい光弾を裁く。
そこへ後方から大きく一回転し反動を付けたメガブルーがネジブルーへ迫る。
「メガトマホーク!」
メガトマホークの鋭い刃がメガブルーの右肩を切り裂く。
そのまま左方へ回転し、次の一撃を横腹に打ち込む。
「遅いのはネジブルーお前だぜ!」

559:代理投下感謝 ◆MGy4jd.pxY
08/09/15 10:39:56 /Anf5pos0
   

560:Chance or Death ◇MGy4jd.pxY 代理
08/09/15 10:40:04 k605bzNV0
わざと冷静な声で嘲笑を浴びせ、勝ち誇ったように高く跳躍する。
ネジブルーは悔しさに身を震わせ、右腕をメガブルーに向け吼えた。
「メガブルゥゥッ!!」
咆哮と共に放った青い光弾がメガブルーを追う。
冷静になれ。
メガブルーは光弾から眼を逸らさない。
そうだ。冷静になれば避けられないスピードじゃない!
着弾の寸前、空中で身を翻し体に回転させながら避けた。
頬を掠めた光弾が空しく中に散った。
「これで終わりだ!トマホークハリケーン!!」
そのまま降下のスピードと遠心力で破壊力を増した渾身の連撃を放つ。
その時、上空か稲光のような黄金の光が走った。

―ガキンッ!

ぶつかり合う金属音。
「ウァァァッ!!!」
一瞬の拮抗。弾かれたのはメガブルーだった。
上空より投擲された一振りの黄金の剣がメガブルーを止めた。
その剣を放ったのは……。

「楽しそうね~。ワタシも仲間に入っちゃおうかな♪」
ネジブルーに微笑みかけたのはコギャル風の怪人。
「助けてくれたのかい?」
「べつに~ワタシは何とかブルーに用があるだけよ」
「へぇ~気が合うねぇ」
「さぁ~どうかしら?」
ネジブルーをはぐらかすような言葉の後、コギャル風の怪人はぴょこんとゴーレッド達の方へ向きを変えた。

「せーの、どっか~ん!!」

561:Chance or Death ◇MGy4jd.pxY 代理
08/09/15 10:40:57 k605bzNV0
ピンク色の閃光がの足下へ走る。
ゴーレッド達は爆風と轟音に包まれた。


§


フラビージョの姿を認めた蒼太はフォローに回るべく動いた。

爆風の中、眼を凝らす。
フラビージョが黄金の刀を振り上げメガブルーへ駆け寄っていた。
「間に合ってくれ!」
ダッシュで距離を詰める。
「た~め~し~ぎ~り~!!」
フラビージョの前に立ちはだかる蒼太。
振り下ろされた黄金の刀をアクセルラーのタービンで受け止めた。

「レディ、ボウケンジャー!」

そのまま下から突き上げるようにタービンを滑らせ刀を弾き返す。
迸る火花と高まるタービンの回転音。
今、蒼太の胸を打つのは冒険に対する期待ではなく、悪を排除する決意。
不適な笑みを浮かべ蒼太は叫ぶ。

「スタートアップ!!」

目も眩む光が蒼太を包み、瞬時にブルーのアクセルスーツへと姿を変える。
黄金の刀を弾き返されふらふらとよろけるフラビージョ。
「言ったよね?女の子がそんなもの振り回してたらダメだって」
ボウケンブルーはパンッと手を叩きステップを踏むように間合いを取った。
「女性相手にこういう事やりたくないだけど、ごめんね」

562:Chance or Death ◇MGy4jd.pxY 代理
08/09/15 10:41:43 k605bzNV0
右腕を後方へ退き、力強く突き出す。
拳に装着したブロウナックルから、旋風が渦を巻きフラビージョの体を舞い上げた。
「いやーん!って、そ~んな簡単にやられるフラビージョ様じゃないわよ♪」
フラビージョは蜂のように白い4枚の羽を高速で羽ばたかせ空中で止まった。
小刻みに羽音を鳴らしながら、ボウケンブルーを標的にシュシュッと高速で針を吐き出す。
「なかなかやるね」
蒼太は回転しながらブロウナックルを地へ向け出力を前回にする。
同じ高さに舞い上がる。
「なにそれ~。飛べるなんて聞いてな~い」
「サバイブレード!」
ボウケンブルーはサバイブレードで袈裟懸けに斬りつける。
「ぎゃ~~」
フラビージョはくるんくるんと二回転回り墜落。
そのすぐ横にはゴーレッド、メガブルー、ティターンと対峙するネジブルーがいた。


§


ゴーレッドの耳におぼろからの声が届く。
「こっちは大丈夫やで~。人質は無事やで!」
瞬が立っていたビルの上から聞こえるその声にゴーレッドは安堵した。

敵はすでに追いつめた。
ネジブルーとフラビージョはタワーを背に隣合わせで4人と対峙する。
時折言葉を交わしているのは最後の悪あがきだろう。
ゴーレッド、メガブルー、ティターン、ボウケンブルーの配置で囲んだ包囲網を少しずつ狭めていく。
メガブルーが前へ進みゴーレッドと並んだ。

たった数時間でいっぱしの戦士になったな。


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