スーパー戦隊 バトルロワイアル Part2at SFX
スーパー戦隊 バトルロワイアル Part2 - 暇つぶし2ch350:名無しより愛をこめて
08/08/01 18:18:55 DuncU2za0
保守

351: ◆MGy4jd.pxY
08/08/04 22:35:33 HQjpkM3dO
大変申し訳ございません。
今日が延長後の期限ですが今回は期限内に投下することが出来ないかもしれません。

ですがもし日付が変わるまでに完成したら投下させていただければ、と思っています。
間に合わなければ、予約破棄が妥当かと考えております。
長期間のキャラ拘束、心からお詫び致します。







352:名無しより愛をこめて
08/08/05 16:38:42 6ovHbmLt0
了解しました。楽しみにお待ちしております。

353: ◆MGy4jd.pxY
08/08/05 17:47:20 wMmU+oqOO
遅レスを重ねてお詫び申し上げます。
やはり期日に間に合いませんでした。
けじめとして予約を破棄します。
度重なる延長と今回の期限切れを鑑み、次回以降は延長しない事と致します。
また書き手として受け入れて頂ければありがたいです。

354:名無しより愛をこめて
08/08/05 18:22:54 PwkYixha0
>>353
了解いたしました。
次回のご予約を楽しみにお待ちしております。

355: ◆MGy4jd.pxY
08/08/05 18:37:47 wMmU+oqOO
>>352、354
暖かいお言葉ありがとうごさいます。


356: ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:36:00 4c687ghx0
遅くなりましたが、投下いたします。

357:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:37:13 4c687ghx0
「もう少しで街に着きそうですね、理央様」
「目的の方が見つかるといいですね、理央様」
 ナイとメアは理央を伴い、市街地エリアへを目指し、道なき道を進んでいた。
 理央との交渉は思いの他、順調に進んだ。
 サンヨに襲われながらも、なんとか応戦し、命からがら逃げてきたと伝えると、理央はあっさりとふたりの同行を許可したのだ。 
 支給品のライフルも護身用に持っていていいと言われ、どうやって篭絡してやろうかと考えていたナイとメアにとって、拍子抜けもいいところだ。
 もし殺し合いに乗っていれば容赦はしないと一応の釘は刺されたが、ナイとメアの中で理央に対する認識は確固たるものになった。
 ロンと対峙していたことといい、人をあっさりと信じることといい、インフェルシアに刃向かう魔法使いたちのような甘ちゃん。
 仲間にするには虫唾が走るが、利用するにはこれ以上適した人物はいない。
 ナイとメアは理央が戦闘不能に陥るまで、骨の髄まで利用しつくすつもりだった。
 もっとも、理央には理央なりの思惑がある。
 理央は殺し合いの場でありながら、初対面であるスワンを信じた。結果、裏切られたわけだが、そのことは理央にとっていい教訓になった。
 千言万語を尽くしたとしても、この殺し合いの場において、敵か味方かを見極める材料にはなり得ない。
 それならば、選ぶべき道はふたつ。誰とも合流せず、ひとりだけで行動するか、同行する相手に隙を見せず、決して信じないか。
 理央は後者を選んだ。
 助けを求める者が寝首をかかんとする獅子身中の虫である可能性もあるが、同時に、炎に巻かれ焼死した哀れな参加者のように、弱者である可能性も捨てきれないからだ。
(強き者はいついかなる時も隙を見せない。猛き者は弱き者を決して見捨てない)
 臨獣拳使いとしての荒々しさは残しつつも、幻気を解き放った理央の信念は確かに変わっていた。



「理央様はさっき聞きましたけど、メレって方を探してるんですよね」

358:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:38:38 4c687ghx0
「ですよね」
 街を目指す道すがら、暇を持て余したのか理央に質問を投げかける。
「そうだ。メレと合流し、ここからの脱出方法を見つけ出し、ロンを倒す。それでこの馬鹿げた遊びは終わりだ」
「でもでも理央様~、首輪はどうするつもりなんですか?」
「そうですよ。これが填められている限り、ロンと戦うことすら出来ませんよ?」
 首輪がもたらす効果。10分戦えば2時間の制限を与え、無理矢理外そうとすれば爆発し、ロンに逆らっても爆発する。
 この首輪を何とかしない限り、ロンに逆らおうなど、夢のまた夢だ。
「首輪か……俺も気になっていた。どうしてロンは俺に首輪など填めたのかと」
「え?それは理央様のお力を封じるためじゃないんですか?」 
「ですか?」
「俺はその気になれば首輪など、いつでも外せる」
「「!?」」
 ナイとメアのふたりは揃って絶句した。この殺し合いを乗り切る上で最も大きな障害として立ちはだかる物。それが首輪だ。
 それを理央は外せるというのだ。
「首輪を外すって」
「どうやるんですか、理央様」
 当然、ナイとメアは理央に答えを求める。それがわかれば、ナイとメアの目的は達成され、生き残る可能性もぐんと上がる。
「簡単なことだ。例えこの首輪がどんな爆発を起こそうが、それを上回る臨気で防御すればいい」
「えっ?」
「はっ?」
 ナイとメアは呆けた顔をするが、理央は自分の考えに絶対の自信があった。
 理央は自分に填められた首輪が幻獣ケルベロス拳ゲンギ『迅愚流』のようなものだろうと予想していた。
 ゲンギで作られた首輪と仮定するならば、通常ならば解除はロン以外には不可能。
 だが、この首輪は無理矢理外そうとすれば、爆発するという特性を持っている。
 ならば、臨獣ジェリーフィッシュ拳リンギ『羅封掌握』を破った時のように、幻気の爆発に負けない強い臨気をぶつければ無効化できるはずだ。
「しかし、ロンなら俺が首輪を外せることなど、わかっているはずだ。それなのになお俺に首輪を填めるとは、俺の考えが間違っているのか。あるいは……」

359:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:39:17 4c687ghx0
 真剣な顔でロンの裏を考える理央。その横でナイとメアの呆けた顔は不満の顔へと変化を遂げていた。
 『臨気』と言われても、その単語に聞き覚えのないナイとメアにとっては何を指しているのかわからない。
 よしんば、それが理解できたとしても、自分が実行できない解除方法など、ふたりにはどうでもいいことだった。
(理央様って案外……)
(使えないかもね……)
 ナイとメアは落胆し、理央を追い越し、先へと進んだ。
「っ!」
 突然、理央はナイとメアの前へと出ると、ディパックを振り回す。
「と、突然どうしたんですか」
 理央はその問いかけにディパックを見せることで応える。
 ディパックには鋭利な手裏剣がふたつ刺さっていた。
「誰だ、出て来い!」
「ふふっ、ようやく骨のありそうな奴に出会えたようだ」
 声の主は木陰からゆっくりと姿を現す。
 青白い皮膚に鋭い白眼。腰に刀を携え、その武士の如き風貌から発せられる殺気は彼が殺し合いに乗っていることを如実に示していた。
「それはほんの挨拶代わりでござる」
「貴様、何者だ」
「拙者の名は剣将ブドー。散っていった我がブドー軍団の悲願のため、お命頂戴つかまつる」
「ふっ、殺し合いに乗っている奴に……俺は容赦しない」
 理央はナイとメアへとディパックを投げる。そして、ふたりに下がっているよう促す。
 それに従ったナイとメアは理央たちから幾許かの距離を取った。
「戦う前にふたつ。お主、この武器を知っているか」
 ブドーはディパックから腰に携えたものとは形状も種別も違う剣を取り出す。
 それは理央が見覚えのある武器であった。
「ゲキセイバー。何故、お前がそれを」
「拙者の支給品だ。だが、拙者には不要の物。もし、これの持ち主が殺し合いに参加しているのなら、返却の後、是非とも勝負を挑みたい」
「残念だが、それの持ち主はこの殺し合いには参加していない」
「左様か。ならば、お主はどうだ?見たところ丸腰の様子」
「不要だ。お前を倒すのに武器は必要ない。この拳があれば充分だ」


360:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:39:54 4c687ghx0
 理央の力強い言葉にブドーは不適な笑みを浮かべた。
 話せば話すほど、眼の前の相手が自分と戦うに相応しい骨のある漢だと分かっていくのが嬉しかった。
 早く戦いたい。ブドーの身体は来たるべき時に向けて打ち震えていた。
「もうひとつ。拙者の剣の錆になる、お主の名前を聞いておこう」
 ブドーは鞘から妖刀ギラサメを抜き、構える。
「臨獣ライオン拳使い、黒獅子リオ」
 対して理央も臨獣拳の構えをとった。
「リオ。その名前、覚えておこう……蘇った拙者の最初の相手として」
 ブドーは大地を蹴ると、理央との間合いを一瞬の内に詰める。そして、理央の首目掛け、ギラサメを振り下ろす。
「てぇぇぇい」
 だが、理央はギラサメが振り下ろされるより早くブドーの外側へと回りこみ斬撃を避ける。
 しかし、ブドーも一撃が外れた程度で隙は見せない。直ぐに体制を建て直し、ニ撃目を横薙ぎに振るった。
「ふっ」
 理央はそれも跳躍し避けると、そのままブドーの顔を目掛け、蹴りを放つ。
「ぐっ」
 怯んだブドーに続けざまに上段蹴り、右正拳突き、左正拳突きを放つ理央。そして、止めとばかりに回し蹴りをブドーの腹へと叩き込む。
「ぐぉ」
 溝に入り、苦しそうな呻き声を上げるブドー。
「どうしたこの程度か」
 その様子に早くも理央は勝利を確信し始めていた。
「ふっふっふっふっ、そう来なくては戦い甲斐がない」
「ほざけ」
 理央は腹から足を抜くと、次は顔面に向けて、蹴りを放った。ブドーはそれを正面から受け止める。
「ふっふっふっふっ、浅いな。この程度の攻撃では、このブドーには蚊ほどのダメージも与えられん!」
 ブドーは一度顔を引くと、理央の足へと頭突きを見舞う。その予想以上の破壊力に理央の足に痺れが走った。
「せぇぇぇい!」
 袈裟切りに振るわれるギラサメ。理央は後ろに跳び、避けるが、足の痺れが理央の動きを一瞬遅くする。
「理央様!」
「ちっ」

361:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:40:41 4c687ghx0
 理央の肩から脇の下に掛けて、袈裟切りの名の通り、袈裟懸けを着たかのような切り傷が理央の体へと刻まれる。
 致命傷ではないもののその傷からは血がたらりと流れ落ちた。
「確かにお主の拳法は大したものだ。だが、所詮それは人間レベル。拙者を倒すには決定的に殺傷力が足りん。
 今からでも遅くない。ゲキセイバーを握るがいい。さすればその差は埋められよう」
 ブドーを睨みつける理央。対してブドーからは余裕の笑みを浮かべている。
 その様を見て、ナイとメアは小声で相談を始めた。
「ねぇねぇ、どうしようメア。なんか理央様負けそうな感じ」
「だよね~。期待はずれもいいところ。どうするあのブドーって奴に取り入っちゃおうか?」
「でもー、結構頭固そうだよ」
「じゃあいざって時はふたりとも」
 それ以上ナイとメアは口に出さなかったが、彼女達の腹は決まった。
「さあ、どうする。ゲキセイバーで拙者との戦いに勝機を見出すか、それともそのまま意地を貫き通すか」
「………ふっ、考えるまでもない。無論、後者だ」
「そうか。己の意地を貫き通し、そのまま死ぬのもよかろう」
「何を言っている。死ぬのはお前だ」
 理央は右手を翳すとギュッと拳を握り締める。すると、理央の身体からたちまち黄金色の闘気が立ち昇っていく。
 やがて、闘気は獣の姿を形づくる。彼の獣拳の名前通り、ライオンの姿を。
「ぬぅ、なんだそれは」
「なるほど、制限は2、3時間というところらしいな」
「制限?まさか、お主、制限された状態で戦っていたというのか」
 理央はブドーの問いに行動で応じる。
「臨気凱装」
 理央の背中に浮かんだ獅子が分離し、装甲となり、理央の身体へと次々と装着していく。
 そして、獅子の頭部が理央の頭部と合わさった時、理央は黒獅子リオへと変身を終えた。
「猛きこと獅子の如く。強きことまた獅子の如く。剣を断ちし者。我が名は黒獅子リオ」
「!!!」
 黒獅子になりより一層激しく、強くなっていく闘気。ブドーは気圧され、無意識の内に一歩、後ろへと下がっていた。
「ブドー、お前の腕は見せてもらった。今度は逆に俺が言おう。俺を倒すには決定的に実力が足りん。
 もしお前がこの殺し合いで誰もその手に掛けていないなら、今すぐ剣を折れ。そうすれば命だけは助けよう」


362:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:41:48 4c687ghx0
「ふん、このブドーには無用の情け。それにまだ拙者よりお主が強いと決まったわけではない」
 リオへと特攻をかけるブドー。先程までの小手調べとは違い、渾身の力を込めた最速の一撃をブドーは見舞った。
 だが、リオの身体は刃が届く寸前でまるで軟体生物の如く、形を変え、その一撃を受け流した。
「なに!?」
 その光景が信じられず、ブドーは続けて斬撃を放つ。しかし、その全てが最初の一刀と同じく、受け流されていく。
「臨獣ジェリー拳……ふん!」
 幾度目かの斬撃。リオは避けるのを止め、その一閃を握り締めた。
「くっ、放せ」
 ブドーが押せど、引けど、リオの手からギラサメは離れない。
「はっ」
 お返しとばかりに今度はリオが拳を打ち込んでいく。ただブドーの時とは異なり、リオの拳は確実にブドーへと当たり、その体力を奪っていく。 
「剣を放さぬとは大した執念だ。だが、それすらも俺には無意味……ハァァァ!」
 リオの拳に集まっていく臨気。それが極限にまで高まったとき、リオの握力はギラサメの硬度を超え、その刀身を粉々にする。
「馬鹿な、一度ならず二度までも」
 ギンガレッドとの戦いの時と同じく刀を砕かれた動揺。それが勝負の分かれ目となった。
「リンギ・烈蹴拳!」
 臨気の込められた蹴りが、黄金色の弧を描き、ブドーの胸へと打ち込まれる。
「のわぁぁぁ」
 その威力にブドーの身体は宙に舞い、その勢いのまま、木へと叩きつけられた。
 勝負は決した。
「理央様、大丈夫ですか?」
「ですか?」
 リオへと駆け寄るナイとメア。
 先程まで纏っていた不穏当な空気は最初からなかったかのように霧散している。
「心配は無用だ」
「それにしても流石理央様ですね。まさか温存したまま戦っているなんて思わなかったです」
「だよね~。変身した後は圧倒的な強さ。私たち理央様に会えて本当に良かったです」
 その心とは裏腹にリオをおだてるふたり。だが、リオの視界にはナイとメアは入っていなかった。
「ぐっ、ううっ」
 呻き声を上げるブドー。まだ彼の命は絶たれてはいなかった。


363:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:42:33 4c687ghx0
「きゃっ、理央様。あいつまだ生きてますよ」
「さっさととどめ刺しちゃいましょうよ」
「………」
 息も絶え絶えにリオを睨みつけるブドー。その視線を正面から受けるリオ。
「っぅ!」
 ブドーは勢いよく立ち上がると、踵を返し、森の中へと逃げていく。
「あっ、理央様、あいつ逃げちゃいますよ」
「早く、追っかけましょう」
「放っておけ」
 急かすナイとメアにリオは態度で示した。臨気凱装を解き、人間の姿へと戻ると、森へと背を向ける。
「えっ、どうしてですか理央様~」
「理央様~」
「奴の剣は断った。あの場で向かって来れない臆病者は既に戦士ではない」
 最初に視線を交わしたときと最後に視線を交わしたときとでは、ブドーの眼は明らかに違っていた。
 最初は強い意志を感じさせる戦士の眼をブドーは見せた。だからこそ、理央は戦士として戦いに応じ、情けさえも掛けた。
 だが、最後に見たブドーの眼は自分に怯えていた。ブドーの言葉を借りるのなら、自分の意地を貫けない相手は殺すに値しない。
 それでも誰かを殺していたなら、話は別だが、ブドーは『蘇った拙者の最初の相手』と言っていた。
 少なくともこの場ではまだ誰も殺していないのだろう。そして、あの様ではもうブドーは誰も殺せない。
 既に理央はブドーへの興味を失っていた。それより、今憂慮すべきは別のこと。
(さあ、このふたり、どうでる?)
 ナイとメアにとって、制限を受けている今の自分は絶好の獲物のはずだ。
 殺し合いに乗っているのならば、この機を逃すとは思えない。
 理央は自分のディパックを横目で確認する。彼のディパックに入っているのは武器だ。
 それもひとつで五つの役割を果たす変幻自在の武器。
(こいつらの支給品は飛び道具だったな。もしもの時は使わせてもらうとするか)
 ナイとメアを警戒しつつ、街への道を再び歩き出す理央。
 その理央の後ろで、ナイとメアは内緒話を始めた。
「ねぇ、メアどうする?」
「どうしようか、ナイ?」
「今、制限中だよね」


364:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:43:21 4c687ghx0
「制限中は2時間、全力を出せないし、絶好のチャンスだよね」
「それじゃあやっちゃう?」
「「やっちゃおうか」」
 元々ひとつであるナイとメアの論議は早い。あっさりと結論を出し、計画の実行へと動き出す。
「「理央様」」
「なんだ」
 理央が不審な眼を向ける。だが、その視線の意味を知ってか知らずか、ナイとメアはあっけらかんと応えた。
「わたしたち~」
「ちょっと失礼しますね」
 理央から離れ、森へと行こうとするふたり。当然ながら、理央はより一層視線を強くする。
「待て、何処へ行く」
 それでもナイとメアはペースを崩さない。
 少し、照れくさそうに明るい声で理央へと告げた。
「やだ、理央様。女の子がちょっと失礼するって言ったんなら察してくださいよ~」
「くださいよ~」
「?」
 理央は基本的に鈍い。
「もう~、はっきり言わなきゃわからないんですか~?」
「トイレですよ、トイレ」
「本当は街まで我慢しようと思ったんですけど~」
「さっきので緊張の糸が切れたみたいで~」
「そ……そうか。なら、さっさと行け」
 動揺を押し殺し、ナイとメアを促す理央。ナイとメアはそれに従い、森へと進んでいく。
「ここで理央を殺すのは簡単だけど」
「あんな奴がごろごろいるんなら、今は早いよね」
「でも、刈り取れる芽は~」
「早めに刈らないと~」
 木々がナイとメアの姿を隠す。理央からは完全に見えなくなったことを確認すると、ふたりは頬をすり合わせた。
 たちまちふたりの身体は溶け合い、ひとつの身体を創造する。
「ほほほっ、待ってなさい。ブドー」


365:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/06 23:44:05 4c687ghx0
 バンキュリアは翼を広げると、ブドーを追った。



「………」
 無言のままブドーは森の中を歩いていた。
 胸の傷の痛みに歯を食いしばり耐えながら、ひたすらに歩く。
 だが、胸の傷より鋭く、激しく痛むのは敗北し、逃亡したという事実であった
(拙者は何故逃げたのだ)
 その答えは分かりきっている。あのまま立ち向かっても負けは確実。だから、逃げたのだ。
(しかし、拙者は戦うと決めたはずだ。悲願を果たすために戦うと。だが、あの時の拙者は……)
 今まで敬愛するゼイハブにすら抱いたことのない感情。
 絶対的な強者への恐怖。
 ブドーが逃げたのは状況的に不利だったからでも、負けることが怖かったからでもない。
 ただ命が惜しく、死にたくなかったから逃げたのだ。
 それは例え、負けることがわかっていたとしても、忠義のため、自らの命を散らしていたブドー軍団の将としてあるまじき行為。
「くっ」
 憤りを手近にある木で晴らそうと、ブドーはギラサメを抜いた。
 だが、既にギラサメの刀身は理央に砕かれ、見るも無残な姿へと変わり果てている。
 ブドーは自分の半身とも言えるその刀の有様に、頭を垂れた。
 その瞬間、銃声がブドーの耳に届いた。見ると地面には弾丸の痕が刻まれている。
「あらら、外しちゃったわね」
 ブドーが振り向けば、上空には翼を広げた黒い襲撃者―バンキュリアの姿があった。
「何者!」
「ふふっ、さっき会ったじゃない。もっとも、さっきはこの姿じゃなかったけど」
 その言い回しに、ブドーは相手が何者かを判断する。
「貴様、先程の女か」
「そうよ。わかったら、さっさと死ぬがいいわ」
 バンキュリアはライフルを構えると、ブドーを狙った。
「くっ」


366:名無しより愛をこめて
08/08/06 23:57:20 K3PWx+qH0
sien

367:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/07 00:00:12 4c687ghx0
 ブドーは一目散に逃げ出す。ギラサメもなく、制限が掛かっている今、勝ち目はない。
「はぁはぁ、はぁはぁ」
 場所は森の中。高くそびえ立つ木々が自分を守ってくれるはずと、ブドーは懸命に森の奥へと進んでいく。
 ところが―
「無駄よ」
 何時の間にかブドーの眼前へとバンキュリアは移動していた。
 そして、即座にライフルの引き金が引かれる。
「ぬぅわ」
 放たれた銃弾がブドーの肩を貫通した。白装束が彼の身体から流れ出た血に染まる。
「確かに上空から狙うのは木が邪魔くさいけど、こうやって正面からだったら、思い通りに狙えるわ。
 気づいてる?あんたの乱れた呼吸。凄く聞き取りやすいわ」
 ナイとメアの時ならいざ知らず、今ならば、相手の気配を探ることは容易い。
「き、貴様」
「あなたは終わりよ、ブドー」
 バンキュリアの姿が、ブドーの記憶の中にいる女と重なった。

―― あんたは見限られたのよ。バルバンにも、運にも ――

(メドウメドウ……)
 ライフルより銃弾が放たれる。その銃弾はまっすぐにブドーの額へと向かい、砕いた音を轟かせた。



「ふふっ、軽いわね。さて、あんまり遅くなっても不審がられるし、さっさと理央の下に戻ろうかしら」
 ブドーの死体に背を向け、ディパックにライフルを収めようとするバンキュリア。


368:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/07 00:01:50 4c687ghx0
「獲物を追う猟師は前後不覚に陥りやすい。なるほど、客観的に見れば、あの時の拙者がどれだけ愚かだったかよくわかる」
 だが、死んだはずのその男の声が森へと響いた。
 バンキュリアは急いで後ろを振り向く。そこには死んだはずのブドーが雄々しく立っていた。
「あんた死んだはずじゃ」
「どうやら拙者には運が味方しているらしい」
 ブドーの手からギラサメの破片が滑り落ちる。
 相手に止めを刺すなら、頭部か胸を狙うはず。そして、最初の一撃はブドーの後頭部を狙ったものだった。
 ブドーはバンキュリアがライフルを構えた瞬間、反射的に右手に持ったギラサメで頭部を庇った。
 その結果、先にギラサメへと命中した銃弾は弾道を変え、ブドーの頭部への着弾を防いだのだ。
「拙者は終わらぬ。汚名を返上せずに死んでは、それこそ散っていった配下の者たちに顔向けできん」
 いつの間にかブドーの左手にはビンが握られていた。
「そのためなら、信念など不要。手段など選ばぬ」
 ブドーは両手で拍手するように叩き、ビンを割ると、その中の液体を手へと染み込ませた。
「なに格好つけてるのかしら」
 生きていたことには驚いたが、所詮ブドーは制限内。恐れるに足りずとバンキュリアは再度、ライフルを構えた。
「今度こそ死にな」
 だが、銃弾はブドーには届かず、弾かれることになる。
「ゲキセイバー」
 ブドーの両手にしっかりと握られた一対の剣。
 薄刃ならではの柔軟性と高い強度を併せ持つ必殺の剣ゲキセイバー。
 ブドーはまるでオールを漕ぐように振るい、ライフルの玉を弾いたのだ。
「そんな馬鹿な。あんた、制限中でしょう」
「逞しき匠の技を托す薬。貴様のライフルと同じく、支給品によって得られた力は輝きを失わぬようだな」
「くっ」
 バンキュリアは状況の悪化を悟りながらも、逃げずにライフルを構える。一方のブドーはゲキセイバーを合身させ、一対から一本の刀にする。
「双剣合身」

369:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/07 00:02:25 4c687ghx0
 バンキュリアへと迫るブドー。だが、ライフルの引き金は一瞬早く引かれた。

―カチャ

「弾切―」
「ゲキセイバー残酷剣!」
 一閃するブドーの刃。
「貴様程度の首を落とすことなど、制限があろうとも……容易い」 
 悲鳴を上げる間もなく、バンキュリアの首はポロリと落ちた。
 それと同時に主を失った身体も力なく崩れ落ちる。
「ゲキセイバー……中々悪くのない刀だ」
 ブドーはゲキセイバーから血を振り払うと、ピクピクと小刻みに動くバンキュリアの手からライフルとディパックを奪った。
「これも使いこなしてみせよう。拙者の勝利のためにな」
 ブドーは短冊と筆を取り出し、句を記すと、それをバンキュリアの身体へと置き、その場から去っていった。

―悲願への 道程長く まず一首―



(んんっ……あれ?私は一体)
 一時間程の時が流れ、バンキュリアは意識を取り戻した。
(そ、そうだ私はブドーに首を斬られて)
 意識すれば見開かれたままの眼から自分の身体が見えた。
 首のない自分の身体に息を呑んだが、それより重要な事実にバンキュリアは考えを移す。
(首を落とされたのに生きてる。それに結構時間が経っているはずなのに分離していない)
 木々の間から差しこむ光が時間の流れを示す。
 それはバンキュリアが首輪の制限から解き放たれたことを示していた。
(ほほほっ、やはりクイーンバンパイアの私を滅ぼすなんて、無理だったようね。
 こんなことなら、最初から首輪を外しちゃえばよかったわ) 
 そんな時、バンキュリアの視界に何者かの足が映った。


370:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/07 00:02:59 4c687ghx0
 その何者かは身体を屈めると、その顔をバンキュリアの瞳へと映す。
「どうも」
(ロン!)
「そろそろ放送を行う時間ですので、死人のチェックへと参りました」
(死人?私はまだ死んでないわよ)
「厳密にはあなたはまだ死んでいません。いえ、不死身のあなたを殺すことなど誰にも出来ないでしょう。
 でも、首輪が外れた時点であなたはこのゲームから脱落したのです」
(調子に乗ってんじゃないわ。今すぐあなたを殺してあげる)
「何か反抗的なことを考えているようですが……無・駄・ですよ。だって、あなた動けないでしょ?」
 ロンの言う通り、その意識とは裏腹にバンキュリアの頭は何の反応も返さない。
(そういえば口も動かせないし、瞬きもできない)
 瞳さえも動かせない現状にようやくバンキュリアは何かおかしいことに気付く。
「あなただけにこの首輪の本当の性能を教えてあげます。内緒ですよ?」
 そんな焦りを知ってか知らずか、淡々としゃべり続けた。
「首輪の性能は5つ。まずは首輪は形状を自在に変えられます。
 これを小さくすることで小津勇を絞殺し、二つに分けることで、あなたのような特異な参加者に対応しました。
 2つ目に無理矢理外そうとすると爆発します。これはメモに書いてある通りです。
 3つ目にこの首輪の位置を私は常に知ることができます。
 ブクラテスという参加者にはその仕組みを利用した支給品を与えていますので、範囲は限定されますが、彼も知ることが出来ますよ。
 4つ目にこの首輪は音声を私に伝えてくれます。つまり、あなたたちの会話は筒抜けというわけです。
 ここまではいいですね?」
 ロンはわざわざ大地に伏すと、横になっているバンキュリアから見て、下から上へと舐めるようにバンキュリアの顔を見た。
「さて、肝心の5つ目ですが、この首輪はあなたたちへのゲンギの影響を最小限に抑え、10分間だけ一切の制限なくあなたたちの能力を使えるようにしてくれます」
(どういうことよ、それ?)

371:名無しより愛をこめて
08/08/07 00:03:24 qOBIw6mZ0
 

372:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/07 00:03:32 V5TiUR2j0
「わかりませんか。この首輪は酸素ボンベのような役割を果たしています。酸素ボンベなしに、海に長時間潜ることはできないでしょ?
 実際にあなたたちの能力を抑えているのは私がゲンギで作り出したこの空間。首輪は空間の効果をコントロールしてるに過ぎないということです。
 つまりぃ、首輪が外れたあなたはその影響をまとめに受けているということですよ」
(!!!)
 ようやくバンキュリアは自らが置かれている状況を理解した。
 バンキュリアはこの首輪を外せば自分の力は戻るものだと思っていた。だからこそ、生き続けられている自分は制限から開放されたものだと思っていた。
 だが、実際は違う。
「この空間には幻気を持つもの以外を拒み、排除しようとする瘴気が敷き詰められているのです。まあ毒みたいなものですね。
 よって、この首輪なしでは、多少の個人差はありますが、この空間では生きることは出来ない。
 ただ、あなたは幸運なことに不死身でしたので、こうして私の話を聞くことが出来ているというわけです」
(何が幸運よ。それなら死んだ方がマシじゃない!)
「苦しいでしょうね~、不死身であるが故に意識だけが自由になる今の状況は。
 そうですね、差し詰めその状況は圧縮冷凍のような状態でしょうか?」
 嘲るようなロンの声。バンキュリアはロンの例えの意味はわからなかったが、このままだと自分は一生この状態で生き続けることは嫌でもわかった。
 そして、この状況を何とかすることが出来るのが、目の前のこの男しかないことも。
(ロン、私を解放して。脱落したのなら、もう私は必要ないでしょ?)
 ロンに通じているかは定かではないが、必死に助勢を願うバンキュリア。ロンはにやりと笑うと徐に立ち上がった。
「まあ、数日待っていなさい。優勝者が決まれば、この空間は閉じられます。その時にはっきりしますよ。
 あなたがこの空間と共に消滅するか。はたまた、生き続けるかがね……ご武運を」
(待ちなさい、ロン!待ちなさいよ!)
 ロンは黄金色のもやになるとその場から消えていく。
(待って!助けて!ロン!ロン!!)
 バンキュリアは何もできず。ただ、心の中で叫び続けるしかなかった。

【バンキュリア 脱落】
残り36名

373:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/07 00:04:03 4c687ghx0
【名前】バンキュリア@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage18(ブランケン死亡)後
[現在地]:C-7森林 1日目 早朝
[状態]:首だけでなにも出来ず。不死身が故に意識だけはあり。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]:なし


【名前】剣将ブドー@星獣戦隊ギンガマン
[時間軸]:第24章(ギンガマンに敗れた)後
[現在地]:C-7森林 1日目 早朝
[状態]:胸と腹に中程度のダメージ。肩に銃弾による傷。能力発揮済。2時間戦闘不能。
[装備]:ゲキセイバー@獣拳戦隊ゲキレンジャー、一つ目のライフル銃@魔法戦隊マジレンジャー、手裏剣少々@星獣戦隊ギンガマン
[道具]:筆と短冊。サイコマッシュ@特捜戦隊デカレンジャー。予備弾装(銃弾7発、催涙弾5発、消滅の緋色1発)。支給品一式(ブドー&バンキュリア)。真墨の首輪。
[思考]
基本方針:戦い、勝利する。
第一行動方針:リオを倒せるほどに強くなる。
第二行動方針:優勝を目指す。
第三行動方針:仙一と再会時には必ず殺す。
※首輪の制限に気が付きました。


374:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/07 00:05:31 4c687ghx0
【名前】理央@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[時間軸]:修行その47 幻気を解き放った瞬間
[現在地]:D-7市街地 1日目 早朝
[状態]:健康。肩から脇の下にかけて浅い切り傷。ロンへの怒り。2時間変身不能。
[装備]:なし
[道具]:変幻自在剣・機刃、支給品一式。
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。乗った相手には容赦しない。
第一行動方針:メレと合流する。
第二行動方針:ナイとメアを待つ。


375:断 ◆i1BeVxv./w
08/08/07 00:06:22 V5TiUR2j0
投下終了。

誤字、脱字、矛盾点、感想などあればお願いします。
二点ほど、セルフ突っ込み。

>(強き者はいついかなる時も隙を見せない。猛き者は弱き者を決して見捨てない)
強き者と猛き者が逆になってました。
あと、ブドーの至急品の筆と紙ですが、筆と短冊に訂正いたします。
ご迷惑おかけして申し訳ありません。

376:名無しより愛をこめて
08/08/07 00:22:27 CIYAmjB00
投下乙!
リオとブドーの戦い、そしてブドーのゲキセイバーを使った技量の勝利が見事!
ロンの正確の悪さも出ていました。ロンこえぇぇぇぇ!!
首輪が生存装置……その発想はなかった! GJ!

377:名無しより愛をこめて
08/08/07 03:19:21 y5KQ+13gO
超GJ!
ブドー死亡!?かとおもいきや「ゲキセイバー残酷剣」でバンキュリアを断!

そして不死ゆえに向かえたバンキュリアの哀れな末路。
首輪の考察もお見事でした。


378:名無しより愛をこめて
08/08/07 11:18:01 N3Poa7V80
GJ!
やはりマジレン勢に呪いが……。
残りのマジレン勢は放送を聴いたらビックリするでしょうね。
しかし首輪を外すのが無理となると、優勝者が出る以外に終結が……。

それから、確か変幻自在剣 機刃ではなく、自在剣 機刃だった気がします。

379:名無しより愛をこめて
08/08/07 18:30:41 uZoT+Ibr0
GJです!
ナイメア、なんて哀れな姿に……
リオに敗北し、信念を捨て手段を選ばない事にしたブドーが格好良かったです。
そして、まさか制限がかかっているのは首輪ではなく空間の方とは!
意表をつかれました。お見事です!!
あー、それにしても楽しそうだなぁロン。


380:名無しより愛をこめて
08/08/07 21:40:36 Jv74o0Of0
これ、主催者が主役っていう異色のロワだよなw

381:名無しより愛をこめて
08/08/08 13:38:07 kq700wKs0
特撮好き集まれ!

「新ライダーバトルロワイヤル」
スレリンク(sfx板)l50
他の特撮ヒーローを出すかどうか議論中
一度見に来てねwww

382:名無しより愛をこめて
08/08/09 17:17:30 mgmXR7El0
保守age

383: ◆Z5wk4/jklI
08/08/10 01:52:47 TL6dYG7xO
只今より投下いたします。

384:オディール ◆Z5wk4/jklI
08/08/10 01:56:56 TL6dYG7xO
閉じた瞼に突き刺さる光と、全身を走り回る激痛に目覚めた白鳥スワンを待っていたのは悪夢の続きだった。
「な……ん、で」
血に焼かれた喉から掠れた声がこぼれ落ちる。
死んだ筈だったのに。
警察官にあるまじき過ちを犯して。
なんの罪も無い人間を殺して。
裁きを受ける事も出来ず、死んで償う事さえ許されずに。
ずたずたに引き裂かれた誇りと軋む胸の痛みを抱えて。
鳴らないSPライセンスを握り締めながら、死んでいった筈なのに。
「おや、目を覚まされましたか」
不意に視界が遮られる。目の前にはロンの楽しげな顔があった。
「……ロン!」
怒りか、憎しみか、憤りか、ないまぜになった感情のままにつかみかかった指は虚しく宙を掻き、地に落ちる。
するりと避けたロンは楽しげな表情を崩さぬまま、スワンの顔を覗き込んだ。
「ああ、急に動いてはいけません。まだ傷口は塞がっていないのですから。
なにせ、貴方の支給品には回復薬の類が一切入ってませんでしたので。
仕方なくデイバックを解かせていただきました。
まあもっとも、貴方はせっかく私が差し上げた支給品を燃やしてしまっていますから、大した物は入っていませんでしたが」
「あなたなんかに……」

385:オディール ◆Z5wk4/jklI
08/08/10 01:58:01 TL6dYG7xO
視線だけで相手を射殺せればいいとばかりに睨みつけるスワンの目を、心地よさげにロンは受け止めた。
「それにしても意外でしたよ。宇宙警察きっての科学者と名高い貴方がまさかあんな行動に走るとは。
やはりこのような場では貴方のような方でも冷静な判断力を失ってしまうものなのですね」
フフと含み笑うと得心がいったとでもいうように、ロンは何度も頷いた。
「っ……それは、貴方が……」
スワンが小さく呻く。それはいつもの彼女を知る者が聞けば驚く程力無い呟きだった。
「ええ、確かに人間香水を支給品に入れたのは私です。
ですが私は一言も申し上げていませんよ。
人間香水を燃やせ、とは」
びくりとスワンの肩が揺れる。
その様子を見たロンは口元を片方吊り上げた。
「ねえ、スワンさん。生きたまま焼かれた七海さんはどんなお気持ちだったんでしょうね。
どんなに息を吸いあげても、炎に酸素を取り込まれて呼吸さえ出来ない。
消えない炎に全身を舐め尽くされ、吸い込んだ熱風に内側から身を焼かれて、息絶えるまでの間、どれほど苦しかったか。どれほど……貴方を恨んだか」
熱病に浮かされたようにスワンはガタガタと震えだす。


386:オディール ◆Z5wk4/jklI
08/08/10 02:00:05 TL6dYG7xO
その周囲を薄い金のもやが包みだした事に彼女は気づかない。いや、気づけなかった。
「そんな苦しみを彼女に与えた貴方の罪が、たかだか自分で自分の命を絶つぐらいで許される訳がないじゃないですか」
「……許され、ない」
もはや、鋭い光も焦点も失った目でおうむ返しのように呟く。
「ええ。ですがスワンさん。罪を償う方法がたった一つだけあるんですよ。それは…」
耳元に口を寄せるとそっと囁いた。
「貴方も誰かに殺される事です。
それも貴方の仲間、特に親しい者の手に掛かるのが相応しい」
あてどなく宙をさまよっていた目が動きを止め、じっとロンを見つめ返した。
その表情にロンはいっそう笑みを深くする。
「もし、それも叶わないようでしたら、そうですね。
貴方が優勝者になり、七海さんをはじめとした全ての死者を蘇られせてはいかがでしょう。
彼女の苦しみも、死も、はじめから何も無かった事にしてしまえば。
それなら貴方の罪も帳消しになると思いませんか?」
消え失せていた目に光が再び灯る。鈍く暗い光が。
笑みを湛えるロンを押しのけるように立ち上がると、フラフラと炎の騎馬に歩み寄り、エンジンを掛けた。
ただ一言「……ドゥギー」と呟くとスワンは走り去る。
あれほど身体を苛んでいた筈の痛みは不思議な事に消え失せていた。
ただ胸の奥の痛みだけはいつまでも熱く決して消え去る事は無かった。



387:オディール ◆Z5wk4/jklI
08/08/10 02:03:02 TL6dYG7xO

††††††††††††

次第に遠ざかっていく背中を見つめながら、ロンは笑い続けた。
大義を背負う人間程、それを失えば脆いもの。
そして、警察官としての誇りを引き裂かれ、犯した罪に慄く彼女の耳に甘い毒を注ぎ込むのは赤子の手を捻るより簡単だった。
囁いた言葉はいとも容易に心の隙間に滑り込む。
呪煙土により、痛みの感覚と歯止めを奪われた彼女に、それは強固な暗示として刻み込まれた事だろう。
仕掛けを施したさくらが操り人形、滑稽な喜劇役者が理央なら、スワンはさながら思いがけない動きで舞い踊る踊り子だった。
この宴を開いてからずっと彼女はくるくると自滅の舞を踊り続けている。
吐き出した血で胸元を。殺めた者の血で足元を。
どれほど赤く染めようとも、ロンはその舞を止めさせる気は無かった。
フィナーレまで踊り上げ、力尽きた彼女はどんな顔をしているのだろうか。
思い浮かべるだけで楽しくて楽しくてたまらず、笑い声を抑える事が出来なかった。



【名前】白鳥スワン@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:第46話『プロポーズ・パニック』後
[現在地]:B-9森 1日目 早朝
[状態]:全身打撲。背中に大ダメージ。内蔵損傷。応急処置済み。呪煙土により痛みを感じない状態。
[装備]:SPライセンス
[道具]:炎の騎馬
[思考]
基本方針:罪を償いたい
第一方針:ドゥギーに殺して貰う
第二方針:それが叶わない時は、優勝して参加者を蘇られせる。
備考:七海を死なせた動揺と呪煙土により強い暗示をかけられた状態。
なおスワンの基本支給品はB-9のどこかに散らばって置き去りにされています。

388: ◆Z5wk4/jklI
08/08/10 02:06:23 TL6dYG7xO
以上です。
誤字脱字、矛盾の指摘、突っ込み、ご感想など宜しくお願いいたします。

389:名無しより愛をこめて
08/08/10 10:29:36 sOukl/IL0
ゾンビみたいだなぁスワンさん…GJ!

390:名無しより愛をこめて
08/08/10 10:49:36 5mYlWoizO
投下乙です。
スワンさんに突き付けられたのは死よりも辛い現実。
綺麗な文章の流れがスワンさんの心情とそれに追い撃ちをかけるロンを見事に表していました。
GJ!

391:名無しより愛をこめて
08/08/10 10:53:53 xfFV8d7k0
投下乙です。
追い詰められた心理描写がうまい。
ロンのいやらしさと正確の悪さもよく出ていました。
GJ!

392:名無しより愛をこめて
08/08/10 12:55:24 06Uz+p1s0
投下乙です!
追い詰められたスワンさんがこれからどうなるのか…!
言われるままに堕ちてしまうのか、それとも…何はともあれロンひでぇ!
ラストの白鳥とバレエの結びつけがきれいでした。
GJです!

393:名無しより愛をこめて
08/08/10 17:49:13 gZI4Na4c0
GJ!
死亡するやもと思われつつ生きていたスワンさん。
しかし、結果はスワンさんまで暗黒面に落ちることに。
ますます悪化していく局面でスワンさんが次に誰と会うかが木になるところです。

394: ◆i1BeVxv./w
08/08/10 18:07:05 gZI4Na4c0
>>378
ご指摘の通り、変幻自在剣・機刃ではなく、自在剣・機刃でした。
サイト更新時に修正いたします。

395:名無しより愛をこめて
08/08/11 01:28:08 wgUqKmbZO
まとめ更新乙です!

396:名無しより愛をこめて
08/08/11 12:53:38 FitYAISCO
しかしスワンさん。もし七海を解放出来てたとしても、七海は首輪してないから結局どう転んでも七海の死という悲劇からは逃げられなかったのでは。。。七海はバンキュリアみたく不死身じゃないし。

397:名無しより愛をこめて
08/08/11 14:03:39 w7VWATYH0
人間香水に気づく→七海復活→しかし、制限で結局死亡→あなたが解放しなければ~

こっちの場合は首輪がなくなったらやばいということはわかるが、どっちに転んでも状況は最悪だな。

398:名無しより愛をこめて
08/08/11 17:46:24 kcznCbZi0
多少の個人差はあるらしいから、しばらくは生きていられたのかも。
それでも遅かれ早かれってとこだろうね。
ホント外道だな、ロン。

399:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:06:16 YdAv1eUS0
胡堂小梅、志乃原菜摘、高丘映士、仲代壬琴、ドモン投下します。

400:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:08:48 YdAv1eUS0
「ウメコ!お前、何やってんだ?!」
映士は叫んだ。
ウメコは笑っていた。いたずらを見つけられた子供のように、ただ無邪気な笑顔で笑っていた。
そして……


   ▽  ▽  ▽


ウメコを捜し始めてから二時間近く経つ。
映士の後を追って菜摘、壬琴の二人は、アンキロベイルス捜索をひとまず中断し、ウメコ捜索に加わった。
言葉を交わし情報を交わし、共に行動したこの二時間で映士は『口はともかく、悪いヤツ等じゃねぇ』と感じ始めていた。
怪我をした小梅が、そう遠くには行けまい。
その三人の憶測は見事に外れ、一向に小梅は見つからなかった。
時間が立てば立つほど小梅の危険は色濃くなる。
30分ほど前から三人は海岸近くの公園を拠点とし、三方に分かれウメコを捜していた。
市街地方面を捜索した映士は空振りに終わったのを落胆しつつ。
「アイツ等が見つけてくれてりゃ、いいんだが」
そんな微かな期待を抱き、合流地点の公園へ急いだ。

「こっちにはいなかったわ。そっちも、だめだったみたいね」
公園のフェンス越しに菜摘が叫んだ。
一足先に戻っていたのは菜摘一人。壬琴の姿は見えない。
「ったく。一体どこへ行っちまいやがったんだ!」
口にした苛立ちが身体と直結。
条件反射のように、映士は公園の入り口にあったゴミ箱を思いっきり蹴飛ばした。
「ちょっと!気持ちは分かるけど大人気ないわよ」
菜摘に言われるまでもない。
ゴミ箱を蹴っ飛ばしたところで、小梅が見つかるわけでも気持ちが落ち着くわけでもない。
苛立ちが増すだけだった。

401:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:09:47 YdAv1eUS0
顔を上げると、ごみ箱の転がった先に険しい顔でこちらを見ている壬琴がいた。
そして映士は、溜まっていた汚水の飛沫が掛かった壬琴の白いスーツを見て『大人気なかった』と改めて思った。

(コイツ等には付き合ってもらった礼ぐらいは言わねぇと、と思ってたのに俺様とした事がやっちまった……。しかもよりによって白かよ)
すまなねぇな。天性の俺様気質の映士には珍しく、謝罪の言葉を素直に口に出しかけた時。
それを遮ったのは、壬琴の辛辣な視線と言葉。
「手がかりもなく走り回ったあげく、苛立ち紛れに八つ当たりか?」
純白のスーツに着いた汚れを払いながら、壬琴は映士に向け遠慮なく冷たい視線を浴びせる。
その視線に謝罪の言葉など、即座に彼方へ吹き飛んだ。
確かに悪いのは自分だ。しかし、映士に壬琴の冷たい視線を受け流す余裕はない。
小梅が見つからない焦りも拍車を掛け、映士の口から出たのは本心と掛け離れた皮肉まじりの謝罪。
「悪かったな、走り回るしか能がなくてよ。他に何か方法あんのか!」
映士はデイバックをかなぐり捨てる。
落ちた拍子に人形が「ビビィ~」と小さな音を鳴らし、パンは四方に転がり大きく形を変えた。
それに映士は構わず壬琴の前へつかつかと進み寄った。
「笑ってねぇで、答えやがれ!」
壬琴は半ば呆れたように、フンと映士を鼻先で笑っている。
その態度に映士は、さらに皮肉で返した。
「いい方法が思いつかねぇのか?ならこれ使えよ。誰でも大天才になれるぜ」
映士が壬琴に向かって投げつけたのは、葡萄によく似たプレシャス『知恵の実』
アホのアクタ神が食べて天才になった件のプレシャスである。
一緒に投げつけられた支給品詳細に目を通した壬琴の口元が見る見る歪む。
「……おもしれぇじゃねぇか」
「だろ、使えよ」
「だが自分に使おうという知恵はなかった訳か。哀れだな」
「何だと!」
映士は壬琴に掴みかかろうとしたが、菜摘がそれを許さない。
菜摘が映士と壬琴の仲裁に入るのはこれで三度目。
すっかりタイミングを掴んだ菜摘は、既のところで二人を制す。

402:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:11:02 YdAv1eUS0
「いーかげんにしなさいよ。壬琴!映士。あなたもよ」
「キロキロ~!二人ともいい加減にするキロ!」
映士は壬琴の胸倉に伸ばし掛けた手を、大きく後ろへ振り回し、溜息をついた。

「壬琴、手を洗って来たらどう?映士は、散らかした荷物片付けて」
菜摘は壬琴を遊具の向こうにある水飲み場へ追いやり、辺りに散らばったバックの中身を拾い始めた。
この人形なんだろう?とブツブツ言う声を背に、映士は心の中で言い損ねた礼を切り出すタイミングを計っていた。
そして口に出しかけた時。アンキロベイルスの呟きが聞こえた。
「きっともうその辺りにはいないキロ。こっちも早く助けに来て欲しいキロ~」
「ついでといっちゃあなんだけど、あなたの事もちゃんと捜してるでしょ。でも、どこ行ったんだろうね。もう二時間も捜してるのに……」
菜月の声が少し沈んだ。
これ以上、こいつらに付き合ってもらう訳にはいかねぇ。映士はわざとぶっきらぼうに言い放つ。
「付き合ってくれなんて頼んだ覚えはねえぜ」
「急にどうしたの?」
上手く言えないもどかしさに歯軋りした。
驚いた菜摘に背を向け『付き合わせちまって悪かった』映士は口の動きだけで言ってみた。
声には出せない。いつもそうだ。
そして次に出る一声は決まっている。周囲の人間を撥ね付ける言葉だ。
「もういい。後は俺様一人で捜す。お前らはさっさとアンキロベイルスを捜してやれよ」
映士は無意識に、傷ついた子供のように鼻にくしゃっと皺を寄せた。
「あれ?ちょっと、何拗ねてんの?映士ってほんと素直じゃないね。くくっ、あははっ」
菜摘の声に少しも嘲笑めいたものは感じられなかった。
「ねぇ、良い方へ考えようよ。三人いるんだもの。そうすればきっと良い方法だって思いつくわよ」
笑い飛ばされた事で菜摘の言葉が、気が抜けた心へ素直に沁みた。
「そうだな」
映士は呟き、照れ隠しに空を仰いだ。
白んできた空には雲一つない。
夜明け前の、まだ冷たい空気を胸いっぱいに吸い込むと、やけに清々しい気持になった。

403:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:13:46 YdAv1eUS0
「仲代のヤツを呼んでくる」
映士は空から菜摘へ、視線を落とした。
菜摘の代わりにそこに居たのは、悪魔をデフォルメした人形とコロッケパンだった。
  
「菜摘……?」
たった数秒、空を仰いでいた間に菜摘の姿が消えていた。
菜摘の居たはずの場所には人形とコロッケパンがあるだけ。
(目を離したのは一瞬だ。一体何がどうなってやがる)
人形とコロッケパン、小梅と菜摘がぐるぐる頭を駆け巡る。
放心した映士の肩を、戻って来た壬琴が掴んだ。
「おい!菜摘が……」
消えちまった。と発する前に、壬琴の拳が映士の頬を殴りつけた。
手加減なしの痛烈な一撃。映士は切れた唇を手の甲で拭った。
「何しやがる!」
「菜摘に何をした?」
壬琴は震える手で人形を掴み言った。
「俺様じゃねぇ!俺は何もしてねぇ!!」
「信じられるとでも思うか?」
壬琴が大声で怒鳴り、手にした人形を放り投げた。
人形は十数メートル後ろの雑草だらけの地面に転がった。
正直に話したとして、壬琴を納得させられるとは思えなかった。
それほどまでに壬琴は全身で怒りを表にしている。
胸倉を捕まれ引き寄せられた。
争う時間が惜しいのと疑われている悔しさとが胸で入り混じる。
「やめろ!」
映士は壬琴の手を掴み引き離そうとした。
「そのままでいい。聞け」
急に声のトーンを落とし、壬琴が言った。
「俺がお前達から目を離して、呑気に手を洗っていたとでも思っているのか?」
壬琴はそのまま胸を掴んだ力を弱めずに言葉を続ける。

404:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:15:03 YdAv1eUS0
「怪しいのはあの人形だ。お前が余程の馬鹿でない限り、わざわざ自分から疑われるような真似はしないはずだ。
俺はアンキロベイルスを捜す。今、菜摘と繋がっているのはヤツだけだからな。
二時間後、俺達はここに戻る。
お前はウメコとやらを捜し、あれがなんなのか突き止めろ」
映士は壬琴の言う『あれ』、悪魔をデフォルメした人形に目をやる。
雑草の隙間から覗く二つの目が、じっとこちらを見ているようだった。
「表情が固いぜ」
壬琴に指摘され、映士は自分の頬を撫でた。
(人形が怪しい?……なら、よく考えたら俺様の殴られ損じゃねぇか)
映士は公園を去る壬琴の背中を睨んだ。


   ▽  ▽  ▽


(ビッッ!)
ビビデビは強く頭を掴まれ、危うく声を出しそうになった。
そして頭からさかさまにバックに詰め込まれた。
映士の自分に対する扱いがぞんざいな気がしたが、それも仕方がないとビビデビは思っていた。
(ビビィ~!自棄になってるデビ~。今は我慢してやるデビ~)
ビビデビは気晴らしに、菜摘を飛ばしてやった後の二人の様子を思い出す。

405:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:18:54 YdAv1eUS0
特に傑作だったのはビビデビの横を通り過ぎる際に映士に放った壬琴の捨て台詞。
『菜摘が見つからなければ殺す』
見つからなければだと?
足を負傷した小梅は空へ向けて、菜摘は海へ向けて飛ばしてやった。
運が良ければもう死んでいるかもしれない。
もしそうだったら?
(ビビィィィ~!ビビビィィ~!)
しばらくは込み上げる笑いを押える事に専念しなければならないようだ。
まだ、笑うわけにはいかない。
こんな暗闇の中で、笑うわけにはいかない。
ビビデビには見えていた。再びネジレシアで笑う自分の姿が……
それが現実となるまでは、笑うわけにはいかないのだ。


   ▽  ▽  ▽


「ん、冷った~い。何!」
目の前に広がるのは荒々しい波と岩肌。
岩肌に当たった波しぶきが絶え間なく体に降り掛かってくる。
菜摘がいたのは頭上の岩壁にぽっかりと穴の開いた半洞窟の中。
「洞窟……って、なんでこんな所に!?」
「どうしたキロ?」「……た…ロ」
「とうしたもこうしたも、私だって解んないわよ」
たった今までいた公園とは、まったく違う景色に囲まれていたのだ。
(どういう事?さっきまで映士と喋ってて……)
菜摘は状況を思い返した。
拗ねた映士を慰めようと、わざと視線を合わせずに荷物を片付けていた。

406:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:20:27 YdAv1eUS0
怪しいのは、あの時。ウメコの人形を持ち上げ目を合わせた時、フッと意識が遠のいた。
「あの子悪魔みたいな人形が絶対怪しい。きっとウメコって子がいなくなったのもあの人形のせいね!」
そうと解ればこんな所でグズグズしてはいられない。
「早く戻らなくちゃ!」
「オイ!菜摘。何かオカシイキロ。声が二重に聞こえるキロ!」「…こ……るキロ…」
言われてみれば、アンキロベイルスの声が二重に聞こえている。
「声が反響してるんじゃない?洞窟みたいな所だから……」
ふと自分で出した答えに疑問が生じた。
なぜ、アンキロベイルスの声だけ?どうして自分の声は二重に聞こえないのか?
「ちょっと待って」
菜摘はダイノコマンダーを外し、大声で叫んだ。
「アンキロベイルス!聞こえる~?オッケー!」
「…こえ…るキロ…オ…ケ……ロ」
通信を切っても微かだが確かに声が聞こえる。
アンキロベイルスはここにいる。
菜摘は洞窟内を見渡す。
明るくなりかけた空の光を、透き通った海が反射していた。
その光にぼんやりと照らされた、怪獣のような奇怪な形をした岩の群。
この中の内の一つかしら?
菜摘は再びダイノコマンダーを装着しアンキロベイルスに話しかけた。
「ねぇ、爆竜っていうぐらいだから、相当大きな物を予想してるんだけど、あなた大きさはどれくらいなの?」
「ビルぐらいの大きさだキロ」
「……そんな大きな物が隠れられそうな場所はないわよ」
「金色の首輪をつけられて、今は人間ぐらいの大きさになってるキロ!」
「それならそうと早く言いなさい!」

407:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:21:51 YdAv1eUS0
(急がなきゃね)
足元の水位が、僅かだが上がってきている。
潮が満ちる前に、この岩の中からアンキロベイルスを見つけ出さなければならない。
菜摘はダイノコマンダーをアクセルブレスに付け替えた。


   ▽  ▽  ▽


小梅は痛む身体を引きずりながら、海岸を目指していた。
手元に地図もなく、方向が正しいのかさえも解らない。
頼りは、刑事の感と潮の香り。
挫いた足と新たに負った傷を誤魔化しのせいでのおかげで休みながら進しかなく、映士の元へ戻るのに随分時間がかかっていた。
もう少し進んでみよう。あと少し進んでから休もう。
待っていてくれるかもしれないから。
映士に、伝えなければならない。
小梅の支給品、悪魔をデフォルメした人形のことを。
(あの人形、変だよね。映士さん持ってなきゃいいけど……)
散らばった支給品の回収を始め、あの人形を手に取った時、身体が中に浮いたような感覚に囚われた。
はっと我に返ると、何故か小梅の身体は空中に浮き上がっていた。
そして次の瞬間、地面に引き寄せられるように落下し始める。
悲鳴を上げる事も出来ず、息を呑むしかなかった。
だが運よく落ちた先は木々が生い茂る場所。
交差した枝葉がネットのように身体を包み、落下速度が緩まったところで無事着地。
幸運にも負った傷といえば、擦過傷と軽い刺し傷程度。
立ち止まらなければならないほどの深い傷は負わずに済んだ。
傷が深くないとはいえ……。

408:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 21:22:36 YdAv1eUS0
「……もういないかな?映士さん」
痛む足と見覚えのない景色が弱気を誘う。
小梅はか細い声で呟く。
やがて東の空に陽光が登り始める。
不安を掻き消すように暗闇が晴れていく。
心持ち晴れやかになったところで、耳に飛び込んできたのが……
『メガブル~…… 』
狂喜として叫ぶ男の声。
(子どもを人質に取るなんてサイテー!)
『ヒャハハハハッハッ!』
リフレーンする笑い声が爽やかな空気を掻き乱す。
それに気を取られて、後ろから近づく足音に気付くのが遅れた。
少し先に見える教会の方から、男が近づいて来る。
誰?向こうは気付いたかもしれない。
咄嗟に身を隠そうとしたが……
「きゃっ」
挫いた足に力が入らず小梅は転んだ。
(痛いな~。今日、何度目だろう。そんな場合じゃないや、見つかる!)
背の高い、小梅とさほど年格好の変わらない若い男。
悲しみ、痛み、虚しさ、負の感情を凝縮した眼。
(この人、殺し合いに乗ってる……)
身体を傾け、男から見えない位置で、ポケットのシグザウエルを右手でしっかり握る。
小梅に気づいた男と、銃を構えた小梅。
視線がかち合う。
くにゃり。瞬く間に男は表情を変え、丸腰だとでもいう風に両手を上げる。

409:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 22:01:49 YdAv1eUS0
(あれ?)
危うく銃を落しかけた。
人なつこい笑顔。先程の眼差しは幻だったのだろうか。
「怪我してんのか?見せてみなよ」
それがドモンの第一声だった。

「ごめんね。ドモンさん。でもあんまり怖い顔で歩いてるから……」
「殺し合いに巻き込まれてんのにさ、へらへら笑いながら歩いてる方が変だ」
そうか、と小梅は一人納得する。
その間、ドモンは緩んでいた小梅の足のテーピングを巻き治す。
グラップラー=格闘家と名乗るだけあってケガの処置も慣れた様子。
穏やかな口調とタイムレンジャーと言う肩書きも手伝って、小梅はドモンを信用してしまった。
雑談、談笑、いつしか乗せられるように変身アイテムの話になり、小梅はSPライセンスを取り出しドモンに見せた。
「へぇ、これが?」
ドモンは小梅の手からSPライセンスを取り上げた。
「ちょっと、ドモンさん」
少しあわてて取り返そうとするとドモンはSPライセンスを小梅の手の届かない位置まで掲げた。
この人、何してるんだろう。
小梅は最初に見たドモンの眼差しを思い出した。
(まさか、ううん、からかってるだけだよね)
「ウメコさん、変身に制限があるのをもちろん知らないよな」
「制限?」
「あぁ、二時間に一度しか戦えない。さっきの話じゃまだ戦ってないみたいだし。だから、これ持ってられると困るんだ」
持ってられると困る。小梅に変身されると困る。
意図を飲み込んだ小梅は、顔から血の気が引くような気がした。
ドモンはそのまま振りかぶってSPライセンスを思いきり遠くへ投げた。

小梅は走った。
教会へ向かって走った。
一歩事に全身を激痛が走る。

410:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 22:02:33 YdAv1eUS0
後をドモンが早足で追ってくる。
ドモンは殺し合いに乗っていたのだ。
(なのに簡単に信用してしまうなんて)
カッと全身が熱くなる。
走りながらどうするべきかを考える。
まずはドモンの拘束、もしくは自分の安全の確保。
SPライセンスは後で回収するしかない。
胸の奥で警告音が鳴っている。
シグザウエルだけでは、変身したドモンに太刀打ち出来ない。
すぐに変身しないのは、制限のせいか?
小梅ぐらいなら、素手で充分だと思われているのかもしれない。
ドモンはグラップラー。接近戦なら障害物のある建物の中なら仕掛けにくい。
建物の中が有利だと思えた。
教会まであと少し。
その先は海へ続く砂浜。
(何だろう?とても嫌な感じがする)
小梅は不自然に放置された黒い物を目にした。
「深雪さん、だよ」
背後からドモンの冷たく静かな声。
「……この人、あなたが殺したの?」
慣れた手つきでシグザウエルの撃鉄を起こす。
ドモンとの距離は10メートルほど。
射撃に自信はないが、当たらない距離ではない。
生身の人間を撃たなければならないかもしれない。緊張が全身を支配した。
「俺を救うために……死んだんだ。一番愛していた男の首輪を爆発させて……」
ドモンの肩が震えていた。
「俺は決めたんだ。深雪さんに家族との幸せな生活をプレゼントするって。そのためなら 」
ドモンは悲しい決意を湛えた目で、小梅に向かって一歩踏み出した。

小梅は思う。
その時ドモンさんの心は壊れてしまったんだ。だから殺し合いに乗ったんだ。と……。

411:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 22:03:12 YdAv1eUS0
私は殺されるわけにも逃げるわけにもいかない。今、ドモンを止めなければ、ドモンはまた誰かを狙う。

それが、もし自分を捜している仲間だったら?
それが、さっき助けてくれた映士だったら?
それが、センだったなら?

(ううん、誰だろうと関係ない。危険とわかっていても、人々を守るためなら飛び込んでいく。それが私たちデカレンジャーの使命)


「だめよ、動かないで、話を聞いて!」
小梅は叫んだ。
私が止めて見せる。仲間のため、そしてドモンのために……
「命がけでドモンさんを救った人の心を踏みにじるなんてひどいよ」
「……深雪さんの心を、踏みにじるだって?」
「そうよ、あなたには生きてほしい!殺し合いなんてしないで、タイムレンジャーで、そのままでいて欲しいかったと思うよ」
とても悲しそうに笑い、ドモンが答えた。
「そうかもしれないな。もし、そうだとしても俺は殺し合いを降りない。さっきも言っただろ?深雪さんの家族の幸せは俺が必ずロンに叶えてもらう」
「だめ!目を背けないで!私たちに殺し合いをさせてるのはロンなんだよ。そんなの聞いちゃダメだよ」
ドモンは首を振った。
「ねぇ、ドモンさん。一緒にロンと戦おう。深雪さんが、愛する人が望むのがそれだったら?」
「深雪さんは死んだ!それは、もう、どうにもならないんだ。俺が勝ち残らなきゃ……。もう、どうにもならないんだよ!」
小梅にだって、ドモンの気持ちは気持ちは痛いほどわかる。
でもどんな理由があろうとも、殺し合いを許す理由には成り得ない。
「どうにもならないなんて、悲しいこと言わないでよ!ドモンさんは、タイムレンジャー、タイムイエローじゃない!」
ドモンの足が止まった。
悲痛な表情と、眼に浮かんだ迷い。小梅は祈るような思いで言葉を紡ぐ。
「もうやめよう。殺し合いなんてやめよう」
「やめろ!!!俺は……俺が、深雪さんを……」
顔つきが険しくなる。ドモンは構えるように足を踏ん張った。
(解ってもらえないの?)
くっと悔しさが小梅の胸に突き上げる。

412:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 22:04:14 YdAv1eUS0
右手が上着の胸元に触れた。
武器を取り出そうとしてる。小梅にはそう見えた。
「やめて!」

パン!

射抜かれたようにドモンが膝を突いた。右脚を押さえた指の隙間から血が滲み出る。
小梅は威嚇のつもりだった。撃った瞬間ドモンが倒れ込んできた。だから当たったのだ。
「傷が、痛んだ隙をついて撃ってくるなんて……」
「え?傷……武器は……」
「一瞬でも、ウメコさんの話を聞こうとした俺が、馬鹿だったのか?」
聞くのが怖かった。嘘をついてるのはドモンだと思いたかった。
でも、ドモンは何も手にしていない。
右脚から流れる血がドモンの両手を赤く染めていく。
「そうか、殺し合いに乗ったのはウメコさんもなのか。なら遠慮はいらねぇよな!」
「待って!違う」
もはやドモンは小梅の言葉など耳にしようとはしない。
激情に駆られ吼えるのみ。
「ちくしょう!何が殺し合いはやめてだよ。何がタイムイエローじゃないだよ!」
全身が竦み上がった。
「そんなつもりじゃ……」
「お前のようなヤツに深雪さんの幸せな未来を潰されてたまるか!」
ドモンは身を翻した。
小梅の目に、ドモンが獣を狩る肉食獣のように見えた。
ドモンの腕が小梅の首に伸びる。
振り切っても、振り切っても、真っ赤な両手が追いかけてくる。

嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!嫌!

413:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 22:05:55 YdAv1eUS0
怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!怖い!

ごく近い距離で、シグザウエルを構えた。銃口は心臓を狙っていた。狙って小梅は引き金を引いた。

パンッ!

銃弾はドモンの胸に黒い穴を開け、刹那、花火のように赤い血を撒き散らした。

「殺されそうになったんだから、これはデリートだよね。返り血、嫌…だな。早く綺麗にしなきゃ。綺麗に……」


   ▽  ▽  ▽


ふらつく足取りで小梅は教会の裏手の集会室へ回った。
まだ震える手に、張り付いたように握られたシグザウエルから指を剥がした。
小さな備え付けのキッチンで水道を捻り、丁寧に手を洗った。
血の付いた頬も流した。
水は冷たく手が痺れるようだった。
だが砕けそうな心をもう少しだけ止めておくには、その冷たさが必要だった。

私、自分で殺しておいて綺麗にしなきゃなんて……。何考えてたんだろう。

現職のスペシャル・ポリスが事態を鎮圧することも出来ず、冷静な判断を失い、剰え、まだ罪を犯していない人物を射殺。
それが白日の下にさらされれば、小梅だけでなく共に招致された仲間にまで追及が及ぶだろう。
SPDの築きあげてきた信頼は失墜。仲間達の誇りも未来も汚してしまう。

414:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 22:06:40 YdAv1eUS0
センはどうなるだろう?
(ずっと私を見守ってきてくれたセンさん。誰よりも優しくて、誰よりも温かい……私が犯してしまった罪がセンさんの未来を閉ざす。そんなの、ダメだ)
事実が伝わるのならまだいい。
進んで殺し合いに乗ったのではない、と。
生き延びるために誰かを犠牲にしたのではない、と。
誰が証明してくれるのだろう。
誰が信じてくれるのだろう。
晴れることのない疑惑を……

ならば、ドモンを殺してしまった事を隠して生きていくか。
非常事態だったと、緊急避難だったと言い聞かせて生きていけるか……
無理だ。
自分こそが正義。そんな顔をしてドモンを疑い死なせた。否、殺した。
血を迸らせながら、最後まで愛する人を思い、倒れたドモン。
撃った銃の反動、滑った血の感触、硝煙の臭い、忘れられることはない。
目を閉じるたび甦り、眠れる日は訪れないように思えた。

引き金を引いた時から、恐怖に負けた時から、決まっていたんだ。
もう私には、愛も、勇気も、正義もない。



   ▽  ▽  ▽


「足を伸ばしてみたが、この辺りにもいねぇな」
落胆の溜息をつくのも惜しいように、映士は海岸を走る。
脳裏を過ぎるのは、少し前に聞いた殺し合いを仕掛ける声。

415:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 22:09:51 YdAv1eUS0
(そんなヤツにウメコが殺されちまってたら……。そんなこと考えててもしかたがねぇ。約束まで時間はある。もう少し捜してみるか)
海岸の先に教会の十字架が見えた。
映士は目標地点に海岸沿いに建つ教会を選んだ。



   ▽  ▽  ▽


不思議だったのは、あんなに痛かった足が階段を登り切るまでちっとも痛みを感じなかった。
小梅は教会の脇に高くそびえる鐘楼の頂きに立つ。

「ウメコ!お前何やってんだ?!」

映士の声が響く。
怒っているようで、それでいてとても優しい声だった。
瞳いっぱいに溜まった涙がすぐに映士の姿を隠してくれたので決意は揺らがなかった。
ウメコは朝の空気を吸い込み瞳を閉じる。瞼の裏はオレンジ色に染まった。

「一つ、非道な悪事を恨み。二つ、不思議な事件を追って。
……三つ、未来の科学で捜査。四つ、よからぬ宇宙の悪を。五つ、一気にスピード退治。六つ、無敵が何かいい……
さよなら、デカレンジャー」

小梅は眩しい光の中へ飛び込んだ。
恐怖はなかった。
見えるのは朝日に照らされた木々の緑。
(明るい。明るいよ、センさん。光に包まれて逝けるならいい。なんて都合良すぎるかな……)
最後に見えたのが、綺麗なグリーンで良かったと思う。

416:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 22:12:05 YdAv1eUS0
センの色、鮮やかなグリーン。

「え!違っ……」

映士から死角の木の陰、シグザウエルを構えたドモンの姿が見えた。


   ▽  ▽  ▽


(深雪さん、またあなたに救われた……)
ドモンは木の陰で深雪の壊れたマージフォンを握っている。
小梅が放った二発目の銃弾は、確かにドモンの胸部に命中した。
しかし命中したのは心臓ではなく、内ポケットに入れていたマージフォン。
マージフォンが盾となり、真っ直ぐ心臓へ向かっていた弾道をそらした。
銃弾は左胸の筋肉を深く抉り、血を飛び散らせ身体を離れた。
その強い痛みと着弾時の衝撃で、そのままドモンは気を失った。
左胸の痛みで目を覚ましドモンは、落ちていたシグザウエルを拾い後を追った。
そして小梅を捜しあてた時……
小梅は空中に身体を投げた。
ドモンは小梅から目を逸らし銃を構えなおした。標的変更、撃つのなら追ってきた男だ。
銃口を向けたが焦点が定まらず視界が揺れる。
(クソ!深雪さん、もう少し待っててください)
ドモンは太陽に背を向け歩き出した。足下を伸びる黒く長い影を追うようにして。


   ▼  ▼


「どうして?!?!?!じゃあ私何のために!!!」


417:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 22:12:48 YdAv1eUS0
螺旋を描きながらウメコは落ちていく。
朝露に濡れた地面はもう目の前だった。

ズシャン!!心が砕け散る衝撃と、頭蓋骨が叩きつけられる衝撃が同時にウメコを襲った。

「あ。…嫌……ァが黒……」


   ▼


ウメコが最後に見たのは綺麗なグリーン?
いいえ、赤黒い色です。
ウメコが最後に聞いたのは映士の声?
さぁ、誰が言った言葉だったのか……

「これにて一件、コンプリート」

【胡堂小梅 死亡】

418:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 23:07:03 YdAv1eUS0
【名前】志乃原菜摘@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:最終回終了後
[現在地]:J-7海岸 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:アクセルチェンジャー、ダイノコマンダー@爆竜戦隊アバレンジャー
[道具]:キーボーン@特捜戦隊デカレンジャー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー、基本支給品一式
[思考]
基本方針:殺し合いには乗らない。仲間を集めて状況を打開したい。
第一行動方針:潮が満ちるまでに洞窟内にいるはずのアンキロベイルスを捜す。
第二行動方針:仲代、映士と合流。
第三行動方針:仲間(陣内恭介・シグナルマン)を探す。
備考:ダイノハープがないため、アバレブラックへの変身はできません。また、菜摘が変身できるほどのダイノガッツがあるかは不明です。

【名前】仲代壬琴@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:ファイナルアバレゲーム 死亡後
[現在地]:J-6海岸 1日目 早朝
[状態]:健康。菜摘に振り回され、若干調子が出ない?
[装備]:ダイノマインダー、ゲキファン@獣拳戦隊ゲキレンジャー
[道具]:基本支給品一式
[思考]
基本方針:コイン占いにより殺し合いには乗らないと決める。ロンを倒し、このゲームを破壊する。
第一行動方針:志乃原菜摘、アンキロベイルスを探す。
第二行動方針:映士と合流、
第三行動方針:人形(ビビデビ)に疑心。



419:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 23:07:35 YdAv1eUS0
【名前】アンキロベイルス@爆竜戦隊アバレンジャー
[時間軸]:第43話『アバレキラーは不滅!?』後
[現在地]:J-7海岸 1日目 早朝
[状態]:健康。
[思考]
第一行動方針:早く助けてもらう

【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-4海岸 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー、知恵の実、不明(確認済) 、基本支給品一式(映士、小梅)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:ウメコに何が?
第二行動方針:ビビデビを探る。
第三行動方針:ガイと決着を着ける。
備考:ウメコの支給品はビビデビでした。


420:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 23:13:39 YdAv1eUS0
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:J-4海岸 1日目 早朝
[状態]:左胸部に銃創。右足に銃創。全身打撲。魔法薬(気づかず治る傷治し薬)の影響で回復中。30分変身不能。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:基本支給品一式、拳銃(シグザウエル)、深雪のディパック(中身は?)
[思考]
基本行動方針:優勝して、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
備考:ドモンのデイパックは燃え尽きました。グラップラー時代のプロテクターはロンに回収されました。変身に制限があることに気が付きました。
    拳銃(シグザウエル)はウメコの支給品です。


【名前】ビビデビ@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:聖獣戦隊ギンガマンVSメガレンジャー後
[現在地]:映士のディパックの中
[状態]:健康。2時間の間、能力発揮不可。
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンに協力し、ネジレジアの復興。
第一行動方針:チャンスが来るまで人形のフリ。

ウメコのSPライセンスはJ-4海岸のどこかで放置されています。

421:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 23:15:17 YdAv1eUS0
以上です。
放送前の大事な時期に申し訳ありませんでした。
指摘、矛盾、感想等よろしくお願いします。

422:さよなら、デカレンジャー ◆MGy4jd.pxY
08/08/11 23:18:38 YdAv1eUS0
以上です。
放送前の大事な時期に申し訳ありませんでした。
指摘、矛盾、感想等よろしくお願いします。

423:名無しより愛をこめて
08/08/11 23:48:07 7xTonC4aO
投下GJです。
ウメコ、なんて報われない…
これでこそロワという感じでした。
間に合わなかった映士の心境やいかに。
鬼気迫るドモンが恐ろしくも悲しかったです。
ウメコへの合掌も兼ねて。重ねてGJです!!

424:名無しより愛をこめて
08/08/12 13:55:46 XkF5aLv30
投下乙
ウメコもそうですが、ドモンの追い詰められっぷりも描写が凄かったです。
映示を待つのはウメコの死体。
最後にジャッジメントを持ってくる演出もよかった。
GJ!

425:名無しより愛をこめて
08/08/13 11:46:54 hc/SCWLH0
投下乙。
戦隊ロワ初の自殺。しかも勘違いというのが悲惨さに拍車をかけました。
GJです。
矛盾点かどうかは微妙なんですが、拡声器を使ったとはいえ、ネジブルーの声って20km?先にも届くものなのでしょうか。


426: ◆MGy4jd.pxY
08/08/13 13:05:15 nLozXAYOO
皆様感想ありがとうごさいます。

拡声器……確かに届くのかと言われると現実的にはありえない距離ですよね。
流れに関係ある部分でもないので、修正したほうがよろしいでしょうか?


427:名無しより愛をこめて
08/08/13 21:45:45 C8vcQ9My0
遅ればせながらGJ!
菜摘にはアンキロとの出逢いとプラスに働いたビビデビの能力でしたが、ウメコが見事に悲惨な目に。
誤殺のショックによる自殺。結果的にドモンが手を汚さなかったのが唯一の幸いでしたが、果たしてこの状態で戻れるのかどうなのか。
何気に映士と壬琴がいいコンビっぽいのも面白かったです。
各々の人物描写を見事に描ききった作品だと思いました。

>>426
拡声器の範囲の件ですが、今回の放送が届くかどうかはさておき、聞こえた範囲をはっきりさせておいた方がいいかも知れません。
ここで聞こえたのにここで聞こえないのはおかしいという矛盾点が生まれるかも知れませんし。
場所はここか、議論版でどうでしょうか?


428:名無しより愛をこめて
08/08/14 04:44:34 xDLyywroO
まとめ更新乙です。
>>427
感想ありがとうごさいます。

ではとりあえず本スレにて。
意見が割れたら移動しますか。

ネジブルーの声が聞こえたのは都市全域ぐらいが妥当でしょうか?
拡声器の効果=使った地域全体(都市ならば都市全体、森なら森。砂漠とオアシスは一つと考える)に聞こえる。


429:428 ◆MGy4jd.pxY
08/08/14 09:47:52 qq663jFO0
ageてしまったorz
申し訳ありません。

430:名無しより愛をこめて
08/08/14 10:31:28 6rbOfWWCO
>>429
ドンマイですw
自分は地域全域ぐらいが妥当かなと思います。

431:名無しより愛をこめて
08/08/14 17:47:16 6rbOfWWCO
と、肝心な事を。
遅くなりましたが、投下乙です。
この状況下でも冷静な壬琴と、明るく振る舞う菜摘、
素直に感謝を言葉に出来ない映士の描写がとても彼ららしいと思いました。
追い詰められたウメコとドモンの鬼気せまる描写も素晴らしかったです。
GJ!!

432:名無しより愛をこめて
08/08/16 09:33:39 9zSmMFR+0
それでは他に意見もないようなので、拡声器の範囲は地域全体ということにしたいと思います。
お手数ですが、MGy4jd.pxYさん、修正をお願いできますでしょうか?

433:名無しより愛をこめて
08/08/16 15:48:39 OIrCG3ar0
そろそろ放送か……

434:名無しより愛をこめて
08/08/16 15:57:59 ++Tgpk/+0
めちゃめちゃやられる戦隊モノヒロイン 
URLリンク(www.yourfilehost.com)
URLリンク(www.yourfilehost.com)
URLリンク(www.yourfilehost.com)


435: ◆MGy4jd.pxY
08/08/16 16:27:25 D8fk+3Y20
>>432
了解しました。修正版を一時投下スレに投下いたします。

>>433
いよいよですね。


436:名無しより愛をこめて
08/08/16 16:33:01 D8fk+3Y20
死者スレ投下の方、キャラ支給品紹介してくれている方、お二人ともGJ!

437:名無しより愛をこめて
08/08/16 16:51:55 90Odm/XT0
>>433
結局誰が書くんだ?
さくらとグレイ関係を動かしたいからそろそろあげて欲しい。

438:名無しより愛をこめて
08/08/16 17:33:15 X7A0rYr4O
>>435
修正版投下乙でした。

439:名無しより愛をこめて
08/08/16 17:45:48 X7A0rYr4O
放送に関しては、放送案のある方に仮投下スレに投下して頂いて、
複数の場合は、投票で決定するというのはいかがでしょうか?

440:名無しより愛をこめて
08/08/16 18:41:43 bnubp8+DO
具体的な話は、現在の予約が投下されてからするのが筋ではないでしょうか?


441:名無しより愛をこめて
08/08/16 18:54:56 X7A0rYr4O
>>440
それは勿論ですね。
現在のご予約が投下されてから、どなたのご予約も入らないようでしたらということで。
期間やルールなど細かな事はそれから決めていければと思います。
失礼しました。

442:名無しより愛をこめて
08/08/16 19:17:13 bnubp8+DO
>>>441
こちらこそ失礼致しました。
書き込みの仕方が悪かったです。
申し訳ありません。
放送案の投票には賛成致します。


443:名無しより愛をこめて
08/08/16 19:21:35 X7A0rYr4O
>>442
いえこちらこそ、書き方が悪かったです。
ご指摘ありがとうございました。

444:名無しより愛をこめて
08/08/18 10:44:18 BYoA9mNw0
保守

445:名無しより愛をこめて
08/08/19 00:04:39 YAJtg14dO
保守

446: ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:10:41 lJnQFy6y0
ただいまより投下いたします。

447:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:12:13 lJnQFy6y0
 砂漠エリアを渡り、採石場エリアを捜索したジルフィーザであったが、結局、ドロップを探し出すことはできなかった。
 空を見れば、日が昇り、黒から青へとその色を変えようとしている。
(一体、どこへいるというのだ、ドロップ)
 平静を装ってはいるが、内心、ジルフィーザは焦りを感じ始めていた。



 ジルフィーザ、ティターン、マーフィーの二人と一匹は都市エリアへと到着する。
 G-7エリア。砂漠、採石場、海岸、3つのエリアに隣接しているそこは、まるで林のようにビルが立ち並んでいた。
 しかし、その建物のどれもが掃除という言葉を知らないのか、汚れで真っ黒に染まっている。
「なんだこれは」
 その中のひとつの建物の前でジルフィーザは思わず足を止めた。
 まるで隕石でも直撃したかのように瓦礫の山と化したビル。
 ボロボロといっても建物の外面を残している他の建物と違い、原形を留めず破壊されている。
「何者かが、ここで戦ったのか」
 ジルフィーザは適当な破片を拾い上げる。その破片は一部が黒く焼け焦げていた。
(焦げ……炎……ドロップか?いや、これは炎の痕というより……)
 ドロップが関わっているか、否か、判断しようとするジルフィーザにティターンの声が掛けられる。
「その……ひょっとして、これにドロップが関わっているのか、疑っているのか?」
「そうだ。ドロップは子供とはいえ、まったくの無力というわけでもない。ドロップは炎を使う。もしやと思ってな」
 それを聞いたティターンは苦虫を噛み潰したかのような表情を浮かべた。
「ジルフィーザ、じ、実は……これをやったのは俺なんだ」
 この場所はメガブルーに襲われたティターンが反撃に雷光を落とした場所。
 思わずやってしまったが、改めてこの有様を見ると、明らかにやり過ぎだ。
「どういうことだ?貴様、殺し合いには乗っていないのではなかったのか」
「乗ってはいない。この時は、このビルの屋上から撃たれたので、つい、反撃してしまった。今は反省している」
「つい……か」

448:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:13:02 lJnQFy6y0
 言葉でいくら取り繕うとも、攻撃した事実は変わらない。ティターンはジルフィーザが疑惑の眼を向けていると感じ、萎縮した。
 しかし、ジルフィーザはまったく別のことを考えていた。
 ビルの破壊を『つい』というなら、ティターンはどれほどの力を秘めているというのか。
 少なくとも、自分と一戦交えた時は実力の半分、いや、三分の一も出していなかったのではないか。
(伊達に冥府の神を名乗っているわけではないということか)
 ジルフィーザはティターンに興味を持つ。ティターンが一体何者なのかと。
 だが、今は一刻を争う。頭を垂れるティターンを一瞥すると、ジルフィーザは踵を返した。
「もう、ここに用はない。先を急ぐぞ」
「ああ、わかっ……ちょっと待ってくれ、ジルフィーザ!」
「どうした」
 若干、嘆息混じりながら、ジルフィーザはティターンに視線を戻す。何やら慌てているようだが。
「いつの間にかマーフィーがいないんだ。さっきまでは一緒にいたのに」
 確かに言われて見れば、その場からマーフィーは消え去っていた。
 しかし、ジルフィーザには微々たる問題。気にせずに歩みを再開する。
「待ってくれ、ジルフィーザ」
 ティターンが制止の声を上げるが、ジルフィーザは止まらない。
 元々、ティターンが同行することを許しただけで、共に行動すると約束したわけではない。
 ジルフィーザは振り返らず、北へと進んで行った。



 ティターンは離れていくジルフィーザの背中を無念ながらも見送り、いなくなったマーフィーの捜索を始める。
 思えば、マーフィーには出会った頃から何かを探しているかの様子が見て取れた。
 ジルフィーザがドロップを捜索しているかのように、マーフィーにも探している誰かがいるのかも知れない。
 そして、マーフィーはその誰かを探しに行った。
「マーフィー!」
 ティターンは大声でマーフィの名を叫ぶ。マーフィーの俊足なら、もはやこの場にはいないかも知れない。
 しかし、ティターンは駄目元でも叫ばずにはいられなかった。
「バウ!」
 だが、意外にもその声に呼応する声が聞こえる。この声は紛れもなくマーフィーの声。

449:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:14:07 lJnQFy6y0
 ティターンは声が聞こえた方向へと走り出す。
「マーフィー!」
「バウ!」
 再び、名を呼べば、またもそれに応える声。
(近い。この角を曲がれば……)
 だが、ティターンが角を曲がるより先に、銀色の塊がティターンの胸へと飛び込んでくる。
 勿論、その銀色の塊はマーフィーだ。
「マーフィー、無事だったか。心配したんだぞ」
 ティターンはじゃれつくマーフィーをなだめながら、無事を確認する。
「勝手に離れちゃあ駄目じゃないか。さあ、ジルフィーザを追おう」
 大地へとマーフィーを降ろし、移動を促すティターン。
 だが、マーフィーはティターンが示す方向とは逆方向へと視線を向けた。
「やっぱりお前も誰かを探しているのか?」
「バウ」
 肯定とも取れる鳴き声と共に、マーフィーは歩き出す。
 ティターンはマーフィーの後を追いながら、思考をめぐらせていた。
(探している誰かがいるのなら、マーフィーに協力したい。だが、ジルフィーザの探し人も一刻を争う。俺はどちらを優先すべきか)
「バウ!」
 ティターンの思考を遮り、またも鳴き声を上げるマーフィー。
 見れば、その視線の先にはティターンらに支給されたものと同じディパックが鎮座していた。
「これは……お前、ひょっとして、これを知らせたかったのか?」
「バウ」
 ティターンはディパックを手に取り、状態を確認した。見れば、微かに焦げが見て取れる。
 場所も考慮すれば、自ずとこれが誰のディパックかは見当がつく。
「あの時、俺を撃った人間のものか」
 再び刺激されるティターンの罪悪感。
 ディパックの中身には幾日か分の食料が入っていることは自分のディパックで確認済みだ。
 冥府神である自分は長い期間、栄養補給を行えなくても平気だが、人間はそういうわけにはいかないだろう。
「できれば、あの人間に返したいが」
 ティターンとしては何気ない一言のつもりだった。

450:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:15:04 lJnQFy6y0
 だが、マーフィーはその言葉に反応し、顔を北西へと向け、吠えた。
「もしかして、お前、あの二人がどこにいるのかわかるのか?」
「バウ!」
 小気味よい返事。
 ジルフィーザも気になる。怪物の姿をした自分からは届けたとしても受け取ってもらえないかも知れない。
 だが、マーフィーの返事がティターンに勇気をくれた。
「よし、案内してくれ」



 とあるビルの一室。瞬とマトイの二人はそれぞれソファーの上に身を横たえていた。
 鋭気を養うための休憩だったが、それは瞬には逆効果だった。
(眠れない)
 仮初めとはいえ、マトイという仲間を得たことで、瞬は落ち着きを取り戻した。
 だが―
 瞬は隣でぐうすかと眠るマトイを見る。
(こんな状況だっていうのに、よく眠れるもんだ)
 レスキュー隊員であるマトイにとって、どんな状況下でも眠れるのは必須スキルなのだが、瞬は知る由もない。
(こいつ、本当に信用していいのか?) 
 冷静になった瞬はマトイに疑惑を持つ。
 レスキュー隊と思わしき服と、自分を助けたことで疑いもなく信用してしまったが、マトイが殺し合いに乗っていないという保障はない。
 確かに助けられはしたが、後々利用するために生かしているのかも知れない。手負いの参加者なら、もし自分の仲間にならなかった場合の処理も簡単に終わる。
 大体、黒装束との経緯も不可解だ。マトイは黒装束に手当てを頼むと言われたと瞬に説明した。
 だが、そんな奴が、生きていたことが奇跡と思えるほどの攻撃を行うだろうか?身を案じるなら、同行するのが筋ではないのか?
(本当はこいつと黒装束はグルなんじゃないか?片方が適当に痛めつけて、片方が甘い言葉で篭絡する。ありえる手だ)
 時間は瞬にマトイに対する疑心暗鬼を育てていく。
 瞬はデジタイザーを見た。考えてみれば、やたらむやみに変身するなというのも下手に反抗されるのを恐れているからかも知れない。
 首輪のせいとは言っていたが、自分で直接確認したわけでもない。
(やっぱりこいつはここで……)

451:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:15:51 lJnQFy6y0
 瞬は決意し、デジタイザーのキーに手を添えた。

―ガチャ!

 押そうと瞬間、耳に届く、不審な物音。
「誰だ!」
 思わず、瞬は大声を上げ、音のした方向を見た。その声にマトイも身を起こした。
「どうした」
「今、誰かいたんだ。窓の方から物音が聞こえて」
 一瞬だが、瞬は窓に映る人影を見ていた。身の丈2mはある大男の影を。
「ホントか。……よし」
 マトイは瞬が示した先へと、レスキューロープを手に、慎重に近づいていく。
「瞬、もしもの時は俺を置いて逃げろ。いいな」
(言われなくても、そうするさ)
 本音は口には出さず、瞬は頷くことで返答する。
 マトイはそれを確認して、ゆっくりと窓を開け、外の様子を確認した。
「……おい、ちょっと来て見ろ」
「何ですか、何があったんですか」
「いいから来い!」
 罠かと警戒しながらも、渋々マトイに従い、移動する瞬。
「これを見ろ」
 マトイは窓の外にあったものを手に取り、瞬に押し付ける。
「見覚えはあるか?」
 已む得ず手に取り、恐る恐る中身を確認すると、以前確認したものとまったく同じものが入っていた。
「……たぶん、俺のディパックです」
「なら、あいつが見つけて返しに来たのかも知れねぇなぁ」
「あいつって、黒装束の奴ですか」
「ああ。おっと、こうしちゃいられねぇ。おい!まだ近くにいるんだろ!出て来いよ!!」
 エリア全体に届きそうなほどの大声を上げるマトイ。
「ちょっと、大声を上げるなんて、何考えてるんですか!」

452:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:16:46 lJnQFy6y0
「瞬が聞こえた物音があいつなら、まだ遠くには行ってないはずだろ。もしかしたら、ちゃんと受け取るか、様子を見てるかも知れねぇしな。合流するなら絶好のチャンスってやつだ」
 瞬に意図を伝えると、再び大声を上げるマトイ。
(ふざけるなよ。あいつが友好的な奴とも知れないし、他の奴に気づかれるかも知れない)
 マトイの警戒心のなさに危機感を覚える瞬。その時、マトイを超える大声がエリア全体に響き渡った。
「メガブルウゥゥゥゥッ~!どこにいるんだ?早く出て来いよ~」
「な、なんだこれ……」
 瞬は呆気にとられていた。内容は理解できる。
 どっかのイカレタ殺戮者が人質をとって、自分の最も殺したい相手を誘き寄せようとしている。
 それは瞬にとって、別にどうでもいい。見知らぬ誰かが、人質を捕られようが、殺されようが、それはテレビで見るニュースと同じでどうでもいいこと。
 問題は殺戮者が呼び出しているのが自分ということ。
「おい、瞬!このメガブルーって、お前のことだよな!!」
「………」
「おい、瞬!」
「知らない……俺は知らない!」
 瞬は部屋のドアを開けると、一目散にその場から逃げ出した。
 マトイが制止の声を上げるが、関係ない。とにかく誰の声も聞こえないところまで、逃げ出したかった。
 傷の痛みも気にせずに瞬は走って走って走った。
 やがて、身体が限界を向かえた頃、瞬は足をもつれさせて転んだ。
「っわ!」
 頭から大地へと突っ込む瞬。幸いにして、転んだ場所は砂地だったため、身体へのダメージは少ない。
 だが、例え転んだ場所がコンクリートの上だったとしても、今の瞬には関係なかっただろう。
「わけがわからねぇよ。俺がメガブルーになって、まだ数週間しか経っていない。戦ったのだって、たったの二回じゃないか。
 なんで、なんで俺だけこんな目に合うんだよ。メガレンジャーは他にもいる。なんで、俺なんだよ」
 瞬は声に出して、自分の身に起きた不条理を嘆き、呪い、そして、俯きながら涙を流した。



 部屋にひとり残されたマトイは、自分の対応を後悔していた。
「戦士としての心構えを説くより、要救助者として守ってやった方が良かったかも知れねぇな」

453:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:17:43 lJnQFy6y0
 メガブルーという戦士に変身できることから、この場から脱出するための仲間としてマトイは瞬を見てしまった。
 しかし、瞬との話の内容を顧みれば、瞬はメガブルーを辞めたがっていた。戦いも数える程度しかしていない。
 そんな奴に、こんな切迫した状況で、いきなり戦えというのは酷な話だ。
「危険な場所に飛び込むんだ。誰だって、最初の頃は怖ぇし、信念とか、守りたいものがはっきりしてない時は勇気だって出せねぇからな」
 マトイは自分の失敗をひとりごちつつも、これからの行動に思いを馳せていた。
 瞬を追いたいのは山々だが、メガブルーを呼び出す声もマトイの興味を引いた。人質として名前を連ねたドロップの名前。しかも聞き間違いじゃなければ、子供と言っていた。
 名簿を確認した時から気になっていたことだが、ドロップは成長してサラマンデスと名乗っていたはずだ。
 それなのになぜドロップとなっているのか。それにそもそもサラマンデスは死んだはず。
「同姓同名の別人って線もありえるかもな」
 マトイは自分のディパックを担ぐ頃には、声のした方へと向かうことを決めていた。
 もし、人質に捕られたのが自分の知っているドロップなら罠という可能性も充分ある。
 だが、もし1%でも要救助者がいる可能性があるのなら、向かうべきだ。
 それに、メガブルーはいつまで待っても現れることはない。ならば、それを知る自分がメガブルーの代わりに向かうべきだ。
 そして、声の主を倒し、瞬にもう安心だと伝えてやれば、瞬も安心して戻ってくるはずだ。
「待ってろよ、瞬」
 瞬が戻ってきたときのために、簡単なメモを記し、マトイは外へと出た。
 そんなマトイにふと影が差す。マトイが振り向くとそこには銀色の犬を引き連れた黒装束の男が立っていた。
「お前は……まあ、いいや。今は一刻を争う。進みながら話すぞ」
 黒装束の男は肯くと、マトイと共に走り出した。



「待っていろ、ドロップ」
 ティターンと別れた後、当てもなく彷徨っていたジルフィーザにもメガブルーを呼ぶ殺戮者の声は届いていた。
 最初は血に飢えた殺戮者の戯言と気にも留めなかったが、ドロップの名前が聞こえた途端、彼の瞳は怒りに染まった。

454:蠢くモノ ◆i1BeVxv./w
08/08/19 00:18:49 lJnQFy6y0
 本来なら翼を広げ、一刻も早く駆けつけたかったが、小癪な能力制限がある。
 抑えられていた力が身体の中に戻っているのはわかるが、今その力を発揮することは本末転倒だ。
 血が滲みそうなほど歯を食い縛り、ジルフィーザは愛する弟のために走った。


 
 太陽が昇る。
 冷たい夜は終わりを告げ、温かい朝が来る。
 だが、降り注ぐ太陽の光はある参加者にとって、導火線へ火を点ける行為であった。
 ディパックの奥底でそれは蠢き始める。
 密閉されたカプセルの中、それは凍らせられながらも恐るべき生命力を見せていた。
 それはロンが戯れに入れた支給品。一度暴れだせば、何者の命令も聞かず、ただ殺戮のみを行う存在。
 裏次元よりもたらされし虫がゆっくりと目覚めようとしていた。


【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:F-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康。怒り心頭。
[装備]:杖
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:ドロップを探し、ロンを殺す。
第一行動方針:ドロップの救出と、人質に捕った相手の殺害。
備考:首輪の制限があることに気が付きました。


455:蠢くモノ ◇i1BeVxv./w:代理
08/08/19 00:25:00 sQtFlk5f0
【名前】巽マトイ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:未来戦隊タイムレンジャーvsゴーゴーファイブ後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーブレス、レスキューロープ
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:みんなを救う、気合いで乗り切る
第一行動方針:メガブルーの代わりに人質を助ける。
第二行動方針:仲間を見付けてロンを倒す
備考:変身制限があることに気が付きました。

【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:マトイと行動する。
第二行動方針:ジルフィーザと合流する。
第三行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。首輪の制限があることに気が付きました。

456:蠢くモノ ◇i1BeVxv./w:代理
08/08/19 00:26:08 sQtFlk5f0
【名前】マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:不明
[現在地]:G-7都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:???
第一行動方針:ティターンと行動する。
第二行動方針:知り合いを探す。

【名前】並樹瞬@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:第2話後
[現在地]:G-8砂漠 1日目 早朝
[状態]:全身打撲、応急処置済。どうしようもない恐怖。
[装備]:デジタイザー
[道具]:支給品一式(個別支給品は確認済)
[思考]
基本行動方針:元の世界に戻って、夢を叶える
備考:瞬はマトイから、×ドロップ、△冥王ジルフィーザ、○浅見竜也、○シオン、○ドモンの情報を得ました。
 変身制限があることを知りました。

備考:冥王ジルフィーザ、巽マトイ、並樹瞬のいずれかの支給品にバイオ次元虫入りカプセルが含まれています。

457:蠢くモノ ◇i1BeVxv./w:代理
08/08/19 00:26:53 sQtFlk5f0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、感想などがあれば、ご指摘宜しくお願いします。



458:名無しより愛をこめて
08/08/19 05:39:04 YAJtg14dO
保守したあと寝てしまったorz

GJ!
マトイの思い、瞬の恐怖、ティターンの優しさ、ジルフィーザの怒り……
そして誰かのバックの中でひっそりとうごめく次元虫。
それぞれの丁寧な心理描写と展開の練り上げ、おかしな言い方かもしれませんが「手に汗握る繋ぎ」でした。
もう一度GJ!


459:名無しより愛をこめて
08/08/19 17:02:57 Kdb40E5T0
投下&代理投下GJです!
疑心暗鬼と恐怖に駆られる瞬の姿が哀れでした。
ジルフィーザは果たしてドロップを救う事ができるのか・・・
レスキューとしてのマトイ兄さんの想いが熱かったです。
最後の次元虫には得体の知れない恐ろしさを感じました。
相変わらず描写が秀逸で、思わずハラハラしました。
重ねてGJです!

460:名無しより愛をこめて
08/08/19 17:14:40 ekDXHqw10 BE:163438823-2BP(1)
投下及び代理投下乙!

各人動き出し、放送後の動きが期待持てます。
ティターンとマーフィに期待ですが、ネジブルーの拡声器が物語のキーとなって興味深いです。
次元虫……誰につくのか、どちらにしろ波乱が……

GJ!

461: ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:44:45 GPP7HuUn0
ただいまより投下いたします。

462:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:45:32 GPP7HuUn0
「これは」
 理央は森の中、首と胴が分かれた死体と対峙していた。
 トイレに行ったナイとメアの帰りがあまりに遅く、探しに出た結果、見つけたものだ。
「鋭利な刃物で落とされたか」
 切り口を見れば、どのような方法で殺されたかは一目瞭然。
 だが、ただ刃物を使っただけではこうも見事には切れない。
 それなりの腕を持ったものが迷いを持たず、鋭利な刃物を振り下ろした。
 その切り口は殺し合いに乗った者が確実に潜んでいることを示していた。
「ブドーの仕業か?いや、奴は心も刀も折れていた。それに、いかに奴の腕が立つとはいえ、ゲキセイバーを瞬時に扱えるとは思えん」
 実際、手を下したのはブドーなのだが、理央はそのことには気づかない。
 ブドーの支給品も、その後の顛末も知らぬ理央がそう結論付けるのは無理からぬことだが。
「それにしてもこの姿……」
 理央は死体にまったく見覚えがなかった。
 ロンから送り出された参加者全員を事細かに覚えているわけではない。だが、こんな参加者はいなかったことは断言できる。
 しかし、どことなく雰囲気が似ている参加者は知っている。
「ナイとメア、どちらかの正体といったところか。だとすれば、もう一方は襲われ、逃げたか」
 用心深く周りを観察する理央。やがて、理央は東の方角へと歩み始めた。
 その方角の木に擦ったような切り傷がいくつか見て取れたからだ。殺戮者か、ナイとメアが移動する時に擦ったものだろう。
「すまない、メレ。お前と合流するのはもう少し先になる」
 理央はナイとメアを助け、殺戮者を倒すため、森の奥へと進んで行った。



 漆黒の暗闇の中、ふと眩しい光が灯る。その光の中には、いつも明るく元気な女の子の姿があった。
「一つ、非道な悪事を恨み。二つ、不思議な事件を追って。
 ……三つ、未来の科学で捜査。四つ、よからぬ宇宙の悪を。五つ、一気にスピード退治。六つ、無敵が何かいい……」
 女の子はお馴染みの口上を述べる。だが、その口調はいつもの彼女とは違い、どことなく覇気がない。
 そのことを疑問に思っていると、彼女はどことなく湿った声で呟いた。
「さよなら、デカレンジャー」
 その言葉と同時に、溶ける様に光へと女の子は消えていく。


463:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:46:38 GPP7HuUn0
「ウメコー!」
 センは思わず、大声を張り上げていた。



「はっ!」
 センが眼を開けると、そこには光に照らされた木々たち。
 意識が急速に覚醒する。思い出されるブクラテスとの邂逅、サンヨとの戦い。
 センは自分が夢を見ていたことを自覚した。
「夢か……それにしてもなんて夢だ」
 自分の仲間であるウメコがデカレンジャーに別れを告げる夢。
 いつもなら笑い飛ばせなくもないが、今、この場で見る夢としてはこれ以上ない悪夢だ。
 センは上体を起こし、首を振って、嫌な考えを振り払う。
 そこでふと、自分の身体に施された処置に気づいた。
 打撲は水を含ませた布が当てられ、左肘の骨折は副え木で固定されている。
「気がついた?」
 聞き覚えのある女性の声に、センは視線を向けた。
 そこにはセンの思った通りの姿があった。
「スワンさん。無事……というわけじゃないみたいですね」
 一瞬、安堵の表情を見せたセンの顔がたちまち曇る。
 スワンのトレードマークと言うべき白衣は真っ黒に染まり、身体のいたるところに応急処置の後が見られた。
 この数時間、自分と会うまで、スワンがどれほど苦難の道を歩んだか、想像に難しくない。
「でも、スワンさんと会えてよかったです」
 自分の正直な気持ちを語るセン。まだまだ油断は出来ないが、これからは自分が守ればいい。
「私もセンちゃんに会えてよかった」
 だが、スワンの表情はどことなく沈んでいた。セン以外の誰かなら、傷を負った痛みのせいと思ったかも知れない。
 しかし、センはスワンの瞳から光さえ消えていることを見抜く。まるで死人のような眼だ。
(何かおかしい)
「……ねぇ、センちゃん。私を殺してくれないかしら」
「なっ!なにを言ってるんですかスワンさん!!」

464:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:47:39 GPP7HuUn0
「大丈夫よ。私にはきっとデリート許可が出るわ。だって私、人を殺してしまったんですもの」
 スワンは今までの経緯をセンにポツリポツリと語り始めた。
 人間香水を支給されたこと。それをロンへの反撃の狼煙として燃やしたこと。
 理央に殺人者と罵られ、殺されかけたこと。その後、シュリケンジャーと出会い、人間香水の意味を教えられたこと。
 耳を塞ぎたくなる事実にセンは苦悶の表情を浮かべた。
 だが、センは冷静さを失わなかった。
 事情はわかった。センは言葉を慎重に選び、スワンの説得を試みる。
「スワンさん。亡くなられた方には残酷かも知れませんが、あなたのせいじゃない。
 過失致死には問われるかも知れませんが、デリート許可は下りないでしょう」
「でも、殺してしまったことには変わりないでしょ」
「……っぅ…………そうですけど……裁かれる時は今じゃない。ここから脱出した後です」
「………」
「とにかく、俺はスワンさんを殺すつもりはありませんし、誰かに殺させるつもりもありません。だから、スワンさん、死んじゃ駄目です」
「そう。……じゃあ、仕方ないわね」
 うな垂れるスワンを見て、センはとりあえず死ぬことは諦めてくれたと思い、胸を撫で下ろす。
 しかし、スワンはボソリと呟いた。
「エマージェンシー」
 デカメタルに包まれ、一瞬の内にデカスワンへと変身したスワンはセンを突き飛ばした。
 そして、大地に転がっていた剣、デュエルボンドソードを手に取ると、それをセンに向けた。
「何をするんですか、スワンさん!」
「仕方ないの。私を殺してくれないなら、私は優勝するしかないの」
 センが疑問に思っている暇もなく、振り下ろされる剣。センは地面に転がり、紙一重でそれを避ける。
(スワンさんは本気だ。本気で俺を殺そうとしている)
 殺気は感じなかったが、迷いもなく振り下ろされた剣に、スワンが本気であることを悟るセン。
 考えている間にもデカスワンはセンへと次々と斬撃を放って来る。
 センはそれをなんとかそれを避け続けるが、満身創痍の状態で、変身している相手に対応するのは不可能に近い。
 已む得ず、センは自らのSPライセンスを握り締めた。
「エマージェンシー!デカレンジャー!!」

465:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:48:52 GPP7HuUn0
 センのコールを受け、転送されたデカメタルがセンの身体に装着し、センをデカグリーンへと変える。
 デカグリーンは左腰に装備されたディーロッドを手に取り、デュエルボンドソードを受け止めた。
 盛大に飛び散る火花。デカグリーンは力を込め、デュエルボンドソードを跳ね除けると、そのまま後方転回し、デカスワンと距離をとった。
「スワンさん、やめてください!」
 デカグリーンの制止の声に、前へ出ようとしていたデカスワンの動きが止まる。
「デカグリーンになったのね、センちゃん。いいわよ、やめてあげるわ」
 デカスワンはデュエルボンドソードから手を放す。カランと音を経て、地面へと転がるデュエルボンドソード。
 だが、デカグリーンが安堵したのも束の間、デカスワンはまるで白鳥が羽根を広げるように手を広げると、デカグリーンに言い放った。
「さあ、センちゃん、私を殺しなさい」
 そのまま、ゆっくりとデカスワンは前へと進む。
 隙だらけのその様は、ハッタリでもなんでもなく、スワンが死を求めていることを明確に語っている。
 確かに前へと進み、ディーロッドをその胸に突き立てれば、殺すことは容易だろう。 
 だが、デカグリーンにそんなことが出来ようはずもない。
 前へ進むデカスワンとは対照的に、デカグリーンは威圧されたかのように後ろへと下がる。
 だが、やがてデカグリーンは屹立する木に邪魔され、後ろに下がれなくなった。
 二人の距離が間近に迫った時、デカスワンはディーロッドを手に取り、自分の心臓へと導く。
「センちゃん、さあ」
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」
 荒くなるデカグリーンの呼吸。
 子供の頃、古井戸に落ち、暗闇に閉じ込められた時もここまでの恐怖を感じたことはなかった。
 だが、恐怖に溺れている暇はない。デカグリーンは勇気を振り絞り、右手を引く。
「そう、できないのね」
「ハァ、ハァ、ハァ、できません。スワンさんもわかるはずです。俺たちに人を殺すことは―」
 デカグリーンの言葉は、頭部を襲ったデカスワンの蹴りによって遮られた。脳を揺らされ、大地へと倒れこむデカグリーン。
「もういいわ。ドゥギーならきっと私を殺してくれる。センちゃんを殺せば、私は立派な犯罪者ですもの。デリートの対象にだってなるわよね」

466:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:49:42 GPP7HuUn0
 罪を償うために人を殺す。矛盾した台詞を吐きながら、デカスワンは再び、デュエルボンドソードに手を伸ばした。
「きゃっ!」
 手元から火花が飛び散り、デカスワンはデュエルボンドソードを取り落とす。
 何者かがデカスワンを攻撃したのだ。
「誰!?」
 デカグリーンではない。光弾はまったく別の方向から飛んできた。
「しぶとい奴だ。まさか生きていたとはな」
「あなたは!」
「今度こそ……止めを刺してやる」
 デカスワンの傷が疼く。太陽の光を背にして佇むのは、自分の身体にいくつもの傷を刻み込んだ男―理央。
 デカスワンは本能的に後ずさった。以前、戦った時にはまったく歯が立たなかったのだ、当然だろう。
「いくぞ」
 理央は手に持った武器、自在剣・機刃をキバショットからキバクローへと変え、デカスワンに迫る。
「っ!」
 デカスワンは理央の頭部へと向けて、ハイキックを放った。
 怯えているというのに、その蹴りは鋭く、理央でさえ昏倒させるほどの威力が込められていた。
 無論、当たればだが。
「ぐ……っぁ」
 変身している者と変身していない者には歴然とした能力の差がある。
 だが、理央の獣拳使いとしての経験はその差を埋めて有り余るものだった。
 理央はデカスワンの蹴りを身体を捻ることで避け、そのままその回転を利用し、キバクローの一撃を腹にめり込ませた。
 スーツに隠されて外観からはわからないが、デカスワンの口からは赤黒い血が吐かれる。
「ふっ」
 理央が手を離すと、デカスワンの身体は崩れ落ち、大地へと突っ伏した。
 理央はその姿を見遣り、機刃を再び、キバショットに変形させ、彼女の首輪に狙いを定める。
「同じ愚は犯さん」
「させるか!」
 理央が撃つより早く、意識を取り戻したデカグリーンが、彼を後ろから羽交い絞めにし、動きを封じた。
 先程まで、デカスワンに殺されかけていたというのに邪魔をするとは、理央にとっては予想外の行動。
 力を込めるが、流石に変身中のデカグリーンを振りほどくほどの力は、今の理央にはない。

467:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:51:07 GPP7HuUn0
「なぜ邪魔をする?あいつはロンのスパイ。助ける価値はない」
「違う!スワンさんは俺たちの仲間だ。確かにスワンさんは人を殺してしまった。それが誰かにとって、大事な人だったかも知れない。
 だけど、それはスワンさんの意思じゃない。真に裁かれるべきはスワンさんをそんな状況に陥れた人物……ロンだ!」
 振りほどこうとしていた理央の動きが止まる。
「スワンはロンに利用されていたということか」
「そうだ。スワンさんの支給品は人間香水と亡国の炎。スワンさんはこれを使うことをよしとせず、その場で破壊した。
 だけど、人間香水はその名の通り人間で作られた香水で、作られてから24時間以内なら復活は可能だったんだ。
 スワンさんはそれに気づかず、人間香水にされた人を結果的に殺してしまった」
「………」
「あなた、理央さんですよね。あなたと会ったとき、スワンさんはまだそのことに気づいていなかった。
 でも、あなたに襲われた後、スワンさんは確認に行き、そのことに気づいた。そして、後悔し、錯乱してしまった」
 理央はデカスワンを見た。先程までの厳しいものではなく、憐れみをもった視線で。
(こいつも俺と同じ……か)
 理央は自分の方が罪は深いことは承知している。だが、理央はスワンに親近感を持ち始めていた。
「……離せ。もうスワンに危害は加えない」
 デカグリーンは理央の言葉に安心し、力を緩めようとした。
「離さないで!」
 怒号が響き渡る。
 ぬるりと、まるでゾンビのように立ち上がるデカスワン。
 いつの間に拾ったのか、三度、その手にはデュエルボンドソードが握られていた。
「うん。あなたがいいわ。私を虐めたあなたなら、罪悪感なんてなさそうだもん」
 デュエルボンドソードを脇に構え、理央目掛け、身体ごと突っ込んでいくデカスワン。
 理央はデカグリーンに拘束され、動けなかった。デカグリーンも反応が遅れ、動けなかった。
 その場で動けたのはデカスワンひとり。


468:贖罪 ◆i1BeVxv./w
08/08/20 22:51:59 GPP7HuUn0
 だが、その時、不思議なことが起こった。
 唐突に無数の赤く丸い光を放ち出すデカスワンの身体。
 いや、いつの間にかその変身は解け、白鳥スワンの姿へと戻っていた。
 そして、剣が理央の身体に届こうとした頃、スワンの身体はまるで溶けるように―虚空へと消え去った。
 それは一瞬の出来事。理央もセンも何が起こったのかわからない。
 ただ、ひとつの事実として、白鳥スワンはこのバトルロワイヤルから脱落した。



「ふむ、やはりライフルは勝手が違うな。当たるには当たったが狙った箇所からは程遠い」
 理央たちから離れること数m。そこに剣将ブドーの姿はあった。忍び足で少しずつ、理央たちとの距離を離している。
 バンキュリアを殺した後、ブドーはライフルの鍛錬を行っていた。
 手裏剣や弓矢なら心得があるが、ライフルを扱うのは初めて。使い方は理解したが、果たしてどれほどの精度で撃てるものか。
 試し撃ちできるものはないかとスコープを覗いて辺りを見回していた時、思わぬものが視界に入ってきた。
「これはなんたる僥倖」
 その時、スコープに見えたのは宿敵と見定めたセンの姿。しかも、しばらく様子を窺っていれば、理央も姿を現した。
 ブドーはどちらかを仕留める絶好のチャンスと消滅の緋色をライフルに込める。
 これならば、未熟な腕でも当てさえすれば、確実に相手を仕留めることが可能。
「弾は一発。さて、どちらを狙ったものか」
 二兎を追うものは一兎をも得ない。制限もある。
 ここは確実に一人を仕留め、その後、深追いせずに撤退するのが賢い考えであろう。
 ブドーはスコープを覗き、チャンスを待った。
 すると、理央がセンに羽交い絞めにされ、動きを封じられた。しかも、ブドーの位置からは丁度正面。
 ブドーは引き金に指を掛ける。
 しかし、そこで邪魔が入る。女が理央とセンに向けて、剣を握った。このままでは理央もセンも女の犠牲になるのは明らかだった。
 そして、ブドーは引き金を引いた。
「未練よな。この歳にもなれば、性格はそう簡単には変えられぬか」
 信念など不要。手段など選ばぬ。
 そう誓ったばかりだというのに、自分以外の手で理央とセンが死ぬのが我慢ならなかった。



次ページ
最新レス表示
レスジャンプ
類似スレ一覧
スレッドの検索
話題のニュース
おまかせリスト
オプション
しおりを挟む
スレッドに書込
スレッドの一覧
暇つぶし2ch