スーパー戦隊 バトルロワイアル Part2at SFX
スーパー戦隊 バトルロワイアル Part2 - 暇つぶし2ch2:名無しより愛をこめて
08/05/15 18:12:26 dn8npiEU0
うっさいハゲ

3:名無しより愛をこめて
08/05/15 18:14:25 NmUWAVzF0
青き水の星、地球に刻まれた31の戦いの記憶。
今宵、その中から42人の戦士が選ばれた。
ロンの企みにより、宴に集められた彼らを待っているのは、
希望の明日か、絶望の明日か――

その行方を知る者は、まだいない

まとめサイト
URLリンク(homepage3.nifty.com)
したらば
URLリンク(jbbs.livedoor.jp)

前スレ
スレリンク(sfx板)

2chパロロワ事典@Wiki
URLリンク(www11.atwiki.jp)

4:名無しより愛をこめて
08/05/15 18:16:36 NmUWAVzF0
【参加者】
【ジェットマン】1/1
グレイ○
【カーレンジャー】3/3
シグナルマン○/志乃原菜摘○/陣内恭介○
【メガレンジャー】3/3
並木瞬○/ネジブルー○/早川裕作○ 
【ギンガマン】2/2
剣将ブドー○/ブクラテス○
【ゴーゴーファイブ】3/3
巽マトイ○/ドロップ○/冥王ジルフィーザ○
【タイムレンジャー】3/3
浅見竜也○/シオン○/ドモン○
【ハリケンジャー】4/4
サーガイン○/シュリケンジャー○/日向おぼろ○/フラビージョ○
【アバレンジャー】1/1
仲代壬琴○
【デカレンジャー】4/4
江成仙一○/白鳥スワン○/胡堂小梅○/ドギー・クルーガー○
【マジレンジャー】7/7
小津勇●/小津麗●/小津深雪○/スフィンクス●/ティターン○/バンキュリア○/ヒカル○
【ボウケンジャー】7/7
明石暁○/伊能真墨●/ガイ○/高丘映士○/西堀さくら○/間宮菜月○/最上蒼太○
【ゲキレンジャー】4/4
サンヨ○/真咲美希○/メレ○/理央○
 残り 40名

主催:ロン○
ジョーカー:ウルザード○

5:名無しより愛をこめて
08/05/15 18:17:31 NmUWAVzF0
訂正
【参加者】
【ジェットマン】1/1
グレイ○
【カーレンジャー】3/3
シグナルマン○/志乃原菜摘○/陣内恭介○
【メガレンジャー】3/3
並木瞬○/ネジブルー○/早川裕作○ 
【ギンガマン】2/2
剣将ブドー○/ブクラテス○
【ゴーゴーファイブ】3/3
巽マトイ○/ドロップ○/冥王ジルフィーザ○
【タイムレンジャー】3/3
浅見竜也○/シオン○/ドモン○
【ハリケンジャー】4/4
サーガイン○/シュリケンジャー○/日向おぼろ○/フラビージョ○
【アバレンジャー】1/1
仲代壬琴○
【デカレンジャー】4/4
江成仙一○/白鳥スワン○/胡堂小梅○/ドギー・クルーガー○
【マジレンジャー】7/7
小津勇●/小津麗●/小津深雪○/スフィンクス●/ティターン○/バンキュリア○/ヒカル○
【ボウケンジャー】7/7
明石暁○/伊能真墨●/ガイ○/高丘映士○/西堀さくら○/間宮菜月○/最上蒼太○
【ゲキレンジャー】4/4
サンヨ○/真咲美希○/メレ○/理央○
 残り 38名

主催:ロン○
ジョーカー:ウルザード○

6:名無しより愛をこめて
08/05/15 18:22:41 NmUWAVzF0
【ルール】

【スタート時の持ち物】
初期装備は怪人枠は武器装備有り戦隊側はスーツ有りで、変身アイテムを奪われたり、壊されたりしたら、変身不能になる(修理は可能)
ゲーム開始直前にプレイヤーは開催側からデイパックに入った以下の物を支給される。
「食料」 → 複数個のパン(丸2日分程度)
「飲料水」 → 1リットルのペットボトル×2(真水)
「開催場所の地図」 → 禁止エリアを判別するための境界線と座標も記されている。
「名簿」→全ての参加キャラの名前がのっている。
「ランダムアイテム」 → 変身アイテム以外のアイテムが1~3つ入っている。内容はランダム。
「時計」 → 時間確認用
「筆記用具」 → ペンとメモ帳

【スタート】
ゲーム開始時、プレイヤーはスタート地点からテレポートさせられMAP上にバラバラに配置される。
MAPは縦軸A~J、横軸1~10で1辺の長さが5㎞とする。



7:名無しより愛をこめて
08/05/15 18:23:52 NmUWAVzF0
【能力の制限について】
変身制限時間は10分。解除後2時間変身不可。意志あり支給品についても同様とする(会話は可能)

【放送】
放送は6時間ごとに行われる。放送内容は「禁止エリアの場所と指定される時間」「過去6時間に死んだキャラ名」「残りの人数」
禁止エリアは一度の放送で3区画ずつ(2時間ごとに1区画ずつ)増えていく。

【作中での時間表記】(0時スタート)
 深夜:0~2
 黎明:2~4
 早朝:4~6
 朝:6~8
 午前:8~10
 昼:10~12
 日中:12~14
 午後:14~16
 夕方:16~18
 夜:18~20
 夜中:20~22
 真夜中:22~24

【書き手のルール】
・書く前に必ず予約すること。投下期限は1週間。
・申請すれば延長も可。ただし、最長3日。
・自己リレーは作品投下後、1週間は禁止。ただし、書き手が豊富な時はなるべく自重しましょう。
・作品投下後の予約は24時間禁止。
・明らかな矛盾点を指摘された場合は修正しましょう

8:名無しより愛をこめて
08/05/15 18:25:33 NmUWAVzF0
【首輪と禁止エリア】
参加者は全員、ロンによって首輪を取り付けられている。
首輪は、三つの条件で命を奪う。
一つ目の条件は、首輪に過度の衝撃を与える事。衝撃を感知すれば、即座に作動する。
二つ目の条件は、禁止エリアに入る事。足を踏み入れれば、二十秒で作動する。
三つ目の条件は、主催に歯向かった場合、ロンの意思で作動する。

また、参加者には説明されないが、首輪には盗聴機能があり音声・会話は全て記録されている。

【書き手のルール】
・予約禁止事項
 ひとりリレーを防ぐため、投下した書き手は、投下終了から二十四時間一切予約禁止、投下作品に出たキャラは更に百二十時間禁止
・トリップ
 投下後、作品に対しての議論や修正要求等が起こる場合があります。
 書き手は必ずトリップをつけてください。
・トリップの付け方
 名前欄に#(半角)に続けて適当な文字列を入れて下さい。
 「◆NdQ0UM」(例)のように、文字列に対応したIDが表示されます。
・投下宣言
 投稿段階で被るのを防ぐため、投稿する前には 「投下します」 と宣言をして下さい。
 いったんリロードし、誰かと被っていないか確認することも忘れずに。
・キャラクターの参加時間軸
 このロワでは登場キャラクターがいつの時点から召集されたかは「そのキャラクターを最初に書いた人」にゆだねられます。
 最初に書く人は必ず時間軸をステータスにて明言してください。ステータスについては下記。
・ステータス
 投下の最後にその話しに登場したキャラクターの状態・持ち物・行動指針などを表すステータスを書いてください。



9:名無しより愛をこめて
08/05/15 18:26:42 NmUWAVzF0
【ステータス表例】
【キャラクター名】
【○○日目 現時刻】
【現在地】
【時間軸】:ここはキャラの登場時間軸。できるだけわかりやすく
【状態】:(ダメージの具合・動揺、激怒等精神的なこともここ)
【道具】:(変身アイテム、ランタンやパソコン、治療道具・食料といった保有している道具はここ)
【思考・状況】(ゲームを脱出・ゲームに乗る・○○を殺す・○○を探す・○○と合流など。複数可、書くときは優先順位の高い順に)

【基本ルール十ヶ条】
第1条/キャラの死、扱いは皆平等
第2条/リアルタイムで書きながら投下しない
第3条/これまでの流れをしっかり頭に叩き込んでから続きを書く
第4条/日本語は正しく使う。文法や用法がひどすぎる場合NG。
第5条/前後と矛盾した話をかかない
第6条/他人の名を騙らない
第7条/レッテル貼り、決め付けはほどほどに(問題作の擁護=作者)など
第8条/総ツッコミには耳をかたむける。
第9条/上記を持ち出し大暴れしない。ネタスレではこれを参考にしない。
第10条/ガイドラインを悪用しないこと。
(第1条を盾に空気の読めない無意味な殺しをしたり、第7条を盾に自作自演をしないこと)

10:名無しより愛をこめて
08/05/16 12:15:54 l09/ao1cO
まとめ更新乙です!

11:名無しより愛をこめて
08/05/16 19:35:03 YIhLFxSP0
同じく更新+新スレ立て乙です!

12:名無しより愛をこめて
08/05/16 21:56:49 l09/ao1cO
スレ立て乙!です。

13:名無しより愛をこめて
08/05/19 08:06:13 ylLMHuVjO
保守

14:名無しより愛をこめて
08/05/22 19:13:04 eEeXwMQ10
保守

15:名無しより愛をこめて
08/05/23 16:18:51 Lxq1M+wG0
まとめ氏更新お疲れ様です。

16:名無しより愛をこめて
08/05/23 22:11:04 8FwGoEAZ0
保守

17:名無しより愛をこめて
08/05/24 19:20:50 HfiK70k70
              _y~ーヽ,
             f ̄/^^^ヽ }
             ヽ 〉 _,y 'ーV
             ヾ|., ゚,パ.イ
              ヽ, ,石、l
               ト.ー人_
             _,.ノ| r‐   ⌒ヽ
       ,.へ   ,r''´  ⌒        l
       {三ヽ { 、   i  ,_,  彡i   |
        V三ト、{  ト  ノミ;,"   }、 ,イ
        V三三ト、√       / ヾ  i
         V三三三\   ミ /  ', ミ;
         V三三三三\  /    }  l
          V三三三三三トY    l  l
          |;V三三三三三l    |  ,'
          l三V三三三三}    l ,'
          |三 }三三三三’   ,.ノ .,'
          ||レ三三三三'´     '~'
          レ三三三'
          /三三ニ/
          V三三/
           ト三三ト、
   ┏┓┏┳┓ |ニト三;∧    ┏━┓┏┓
   ┃┗┻╋┛┏━━┓┗━┛┃┃
   ┃┏━┛  ┗━━┛┏━┛┃
   ┗┛         \ト三三l;; ┗━━┛
              \ト三l


18: ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:15:38 AdLXs98T0
遅くなりましたが、、投下致します。

19:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:16:20 AdLXs98T0
 門を潜り抜け、紫の騎士は彼の地へと降り立った。
 紫の騎士の名は魔導騎士ウルザード。だが、その姿はあくまで模倣されたものに過ぎない。
 ヴリル。意思を持たない疑似生命体であるそれこそが今のウルザードの正体である。 
 本来ならヴリルがあるひとつの姿を取り続けることはない。
 ひとつの物の分析、模倣を終えたら、またより高度なモノの分析、模倣を行い、成長を続けていく。
 それがヴリルの存在意義だ。だが、ロンにより、首輪という枷を填められたヴリルはウルザードの姿に固定されていた。
 そして、植えつけられたものは、自分と同じ首輪をした者を抹殺するという本能。
 寄せては返す波も、切り立った岸壁も、ヴリルの興味の対象にはなり得ない。
 やがて、ヴリルは十字架を頂にする建物を眼にするとその歩みを止めた。
 中に首輪をした者がいることを本能的に理解したヴリルはすぐさま木造のドアを開け、中へと入って行く。
 建物の中には一組の男女。女性は祈るように俯き、男性は女性を守るように堂々と立っていた。
 ヴリルに気付いた男性が何事か声を上げる。だが、ヴリルにとっては空気の震えでしかない。
 ヴリルは本能の赴くままに、獣の牙を模した大剣―底皇剣ヘルファングと獣の眼を宿した盾―ジャガンシールドを構え、男性に向かって行った。
 


 深雪が意識を失って数分。ドモンは身動きひとつせず、正面のドアを凝視していた。
 守るべき女性を背にしている。そのシチュエーションがドモンの使命感をどうしようもなく昂らせる。
(ここでいいところを見せれば、深雪さんの好感度は上がる。俺はやるぜ。そして、ここから脱出したら、深雪さんに告白するんだ!)
 ドモンは深雪が子持ちの人妻であることは理解した。今の深雪が自分を息子程度にしか思っていないこともわかった。
 だが、それでも深雪への恋心は衰えたりはしない。いつか必ず恋人として、深雪の隣に並んでやる。
 そのための第一歩、ドモンは深雪を守るという使命を必ず成功させる気でいた。


20:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:16:46 AdLXs98T0
(……来る)
 教会の外に誰か来たのがわかる。敵か味方かはわからない。ただ、どちらにしろ好ましくないのは確かだ。
 敵なら戦わなければならず、味方なら流石に排除する気はないが、深雪との間の邪魔者になる。
(それでも、女性ならいいか。……いかんいかん、俺は深雪さん一筋なんだ)
 そんなことを考えている内に、教会のドアが音を立てて開いた。そして、徐に何者かが教会の中へと入ってくる。
 その闖入者の姿に、ドモンの顔は自然と険しくなる。
 右手に剣を、左手に盾を持ち、紫の鎧を身に纏ったその姿は明らかに戦う者のそれだ。
「お前、殺し合いに乗っているのか?乗ってないなら、とりあえず剣と盾を下ろせ。話はそれからだ」
 ドモンは警告の言葉を発する。だが、ドモンは雰囲気から、交渉の通じる相手ではないと薄々感づいていた。
 いつでも反応できるよう足に力を入れる。瞬間、闖入者―ヴリルはヘルファングとジャガンシールドを構え、ドモンに襲い掛かった。
「やっぱり問答無用かよ!」
 正面から向かってくるヴリルに、ドモンも正面から応じた。
 剣が振り下ろされるより早く、ヴリルの懐に入り、ヘルファングが握られた右腕を取る。そして、身体全体を使って、逆関節に捻った。
「どうだ!」
 ドモンの体重がかかり、軋む関節。あまりの痛さに、ヴリルはヘルファングから手を放し、悲鳴を上げる。
 ―はずだった。
「うぉっ!」
 ヴリルの力は並外れていた。軽々とドモンの身体を引き剥がし、投げ捨てる。
 続いて、ヴリルはウーザフォンを取り出すと、8と書かれたボタンを押す。

―ザザード― 
 
 ウーザフォンに蓄積された魔力により、破壊エネルギーが生成され、呪文と共にドモンへと放たれる。
「うわぁぁっ」
 小規模な爆発が起こり、ドモンの身体を焼き、周りの装飾品を溶かしていく。
「くっ、クロノ……」

―ザザード― ―ザザード― ―ザザード― 


21:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:17:40 AdLXs98T0

「うわっ!」
 次々と間隙なく放たれる破壊エネルギーはタイムイエローに変身する暇さえ与えない。ドモンは身を起こし、防御するのが手一杯だ。
 装着しているプロテクターによりダメージは多少の軽減されているものの、限界に達するのも時間の問題だ。
「くっ、ちくしょー、これまでかよ」
 深まっていく身体の痛みに、ドモンは弱音を漏らす。
 その時、後ろからドサッと音が聞こえた。顔をわずかに回し、後ろを見ると、倒れている深雪の姿があった。
「み、深雪さん」
 おそらく飛ばしていた意識が戻ってきたのだろう。あと数分もすれば、覚醒するに違いない。
(そうだ。俺の後ろには深雪さんがいる。この程度で負けてたまるか!深雪さんは俺が守る!!)
「うぉぉぉっ!!!」
 雄叫びを上げ、ヴリルに突進していくドモン。

―ザザード― ―ザザード― ―ザザード― 

 容赦なく破壊エネルギーが放たれるが、ドモンは一切怯まない。
 先に音を上げたのはヴリル。向かってくるドモンを迎撃するため、ウーザフォンを収め、再び、ヘルファングを手にする。
 だが、それがドモンの狙い。
「はっ」
 横薙ぎ振るわれたヘルファングを跳躍してかわし、ドモンはヴリルの後方へと回りこむ。
 当然、追撃を掛けようと、ヴリルは素早く方向転換を行った。だが、それはドモンが変身するには充分な時間。
「クロノチェンジャー」
 ヴリルが振り向きざまに再びヘルファングを横薙ぎに振るった時、既にドモンはタイムイエローへと姿を変えていた。
 強化された身体能力がヴリルの動きに反応し、タイムイエローはヘルファングが身体に届くより早く、それを肘で打ち払う。
 そして、すぐさま胸へ牽制の一撃を浴びせると、怯んだヴリルの足を掴み、持ち上げた。
「さっきのお返しだ!」
 自分を支点に1回ぐるりと回り、ヴリルの身体を空中高く投げ飛ばす。
 タイムイエローの力に遠心力が付加された投げ飛ばしは、重力を無視したかのように、ヴリルの身体を教会の天井へとめり込ませた。 
「よっしゃあ、今の内にここから脱出だ」

22:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:18:25 AdLXs98T0
 タイムイエローの目的はヴリルを倒すことではなく、深雪を守ること。狭い建物の中での戦闘はいつ深雪に危害を与えるかわからない。
 タイムイエローは追撃よりも、深雪を戦いから遠ざけることを優先した。
 素早く深雪の元へと駆け寄り、彼女の身体を持ち上げる。そして、外へと出ると教会から距離をとるべく走りだす。
「んっ、んんっ」
「!、気がつきましたか深雪さん」
「ドモン……さん?」
 一瞬、深雪は怪訝な顔をするが、それが変身したドモンであることに気付くと、すぐに表情を柔和なものにした。
 だが、変身しているということが何を意味しているのかにも気付くと、表情を引き締める。
「ドモンさん、変身しているということはもしかして?」
「ええ、襲撃を受けました。でも、大丈夫。俺が撃退して……」

―ザザード―

 タイムイエローの言葉を遮るように聞こえてくる呪文。タイムイエローは反射的に飛んだ。
 刹那、今までいた場所に降り注ぐ光線。誰の仕業かなんて考えるまでもない。
「しつこい奴だ、クロノアクセス!」
 深雪を砂浜に下ろすと、クロノチェンジャーから大型バルカン砲―ボルバルカンが召喚する。
「今度はこっちにだって飛び道具はあるんだぜ」
 タイムイエローはそれを迫り来るヴリルに向けて構えた。
 しかし、ヴリルの姿を見ると、深雪は表情を変え、叫びを上げる。
「待って、ドモンさん!撃たないで!その人は勇さんなの!」
「勇さんって……深雪さんの夫の?そんな、どういうことなんですか深雪さん!!」
 深雪の言葉に動揺を隠せないドモン。その隙をヴリルは逃さない。

―ドーザ・ウル・ザザード―

 狼の雄叫びと共に放たれる狼の姿に似た2つの光弾。
「危ない!」
 タイムイエローは自らを盾にその光弾を受ける。
 先程前とは威力が明らかに違うその攻撃は、致命傷とはいかないまでも、クロノスーツを透過して、タイムイエローに激痛を与えた。
「ぐっ、うぁ」
 呻き声を上げ、タイムイエローは膝をつく。

23:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:19:07 AdLXs98T0
「ドモンさん!……マジカ」
 已む得ずマージフォンをヴリルに向けて、凍結の呪文を唱える深雪。だが、マージフォンは何の反応も返さない。
「マジカ!」
 もう一度、呪文を唱えるが結果は一緒だった。
 心を遠くへ飛ばす魔法を使ったことによって、魔法力が限界まで消耗してしまったのだろうか。
(いいえ、そんなはずはないわ。こんなこと魔法が封じられてもいない限り、起こりえない)
 呆ける深雪に向けて、ウーザフォンを向けるヴリル。
「させるか!」
 タイムイエローは気合を入れて立ち上げると、ボルバルカンを発射した。
 放たれた光弾が砂浜を削り、視界を遮る程の砂埃を巻き上がらせる。
「深雪さん、逃げてください。ここは俺が食い止めます!」
 タイムイエローは、深雪がマジマザーと呼称される姿に変身できることは聞いていたが、深雪の様子から一時期の自分と同じように変身できないことを察知していた。
 そして、眼の前の相手が深雪を連れて容易に逃げられる相手ではないことも。
「ドモンさん」
「大丈夫、時間を稼ぐだけです。深雪さんの大切な人を殺したりなんてしません。だから、逃げてください」
 タイムイエローはクロノチェンジャーから両刃剣ツインベクターを召喚し、両手に握る。
(夫が生きてたってことは深雪さんの恋人になるのは流石に無理だな。深雪さんは不貞を働くような人じゃない。だけど……)
 砂埃から掻き分け、振り下ろされたヘルファングを、タイムイエローは受け止めた。
(ここから脱出するまでは、自分の想いを貫く。深雪さんは俺が守る!)
「うぉぉぉぉっ!」
 タイムイエローはヘルファングを受け止めたまま、少しでも深雪から離そうと、ヴリルを押し込んでいく。
「深雪さん、早く!」
 急かされた深雪は、不安そうな表情を浮かべつつも指示に従い、その場から離れていく。
「よし」
 深雪の背中が見えなくなったのを確認し、タイムイエローはヴリルと距離を取った。
 タイムイエローはここで死ぬつもりはない。時間を稼いだら折を見て、逃げるつもりだ。しかし、受けた傷は明らかに自分の方が深い。
 しかも相手を殺さずに戦うとなると、真正面からやり合えば、良くて相打ちといったところだろ。ならば、奇策を用いるしかない。

24:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:20:21 AdLXs98T0
(あの携帯電話だ。あれを壊せば、飛び道具はなくなる。飛び道具さえなければ、逃げる隙も作りやすくなるはずだ)
 狙いは決まった。
 ウーザフォンを使わせるために、タイムイエローは少しずつ間合いを離していく。
(さあさあ、使って来い)
 タイムイエローの狙いを知ってか知らずか、ヴリルはヘルファングを大地へと刺し、ウーザフォンを取り出す。
(来たなぁ)
 タイムイエローはダブルベクターのバーを上げた。ビートアップ。ダブルベクターの攻撃力が高まり、刃が輝いていく。
 この高まったエネルギーを発射する技がベクターハーレー。これでタイムイエローはウーザフォンを狙い撃つつもりだ。
 勝負はヴリルが光弾を放つ時。その隙をタイムイエローは待つ。
 ヴリルがウーザフォンのボタンを押した。

―ウザーラ・ウガロ―

 耳に届いた呪文は初めて聞く呪文だった。そして、ウーザフォンはタイムイエローに向けられていない。
 その呪文が何の呪文か。タイムイエローが疑問に思ったとき、ヴリルはいつの間にか自分の眼の前にいた。
「なに!?」
 驚きの声を上げながらも反射的にツインベクターを振るうタイムイエロー。
 だが、ヴリルはツインベクターが握られた右腕を取ると、身体全体を使って、逆関節に捻った。
「ぐぁぁっ」
 ヴリルの体重がかかり、軋む関節。あまりの痛さに、タイムイエローはツインベクターから手を放し、悲鳴を上げる。
 その悲鳴に満足したのか、ヴリルはあっさりと手を放す。
 体勢を立て直そうとするタイムイエローだったが、すぐさまその胸へヴリルの牽制の一撃が入った。


25:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:20:45 AdLXs98T0
 続けて、タイムイエローの足を掴み、その身体を持ち上げる。
(これはさっき俺が掛けた技と同じ技……)
 首輪という枷により、ウルザードの姿に固定されたといっても、分析と模倣の能力は封じられたわけではない。
 ヴリルは戦いの中で、タイムイエローの能力を分析し、模倣していた。
 そして、ウーザフォンにより発動した呪文、ウザーラ・ウガロ。それは潜在能力を引き出し、身体能力の全てを向上させる呪文。
 今のヴリルはタイムイエローより、力強く、早い。
 ヴリルは自分を支点に1回ぐるりと回ると、タイムイエローの身体を空中高く投げ飛ばす。
 天井という制限があった時と違い、タイムイエローの身体は限界まで高く、高く上がり、やがて、落ちた。
 タイムイエローの身体が生々しい音を立てる。いや、もうタイムイエローではない。変身は解け、彼の姿はドモンへと戻っていた。
「くっ……そ…」
 ドモンの意識がゆっくりと闇に沈んでいく。意識を保とうとしても、より強い力に引き込まれ、逃げることができない。ドモンの瞳にヴリルの姿が映った。
(じ、じか……んかせぎはできた。み……ゆきさんをま…まもれたんだ……くい……はな…い…)
「み……ゆ…き…さん……………すきです」
 意識を失う直前、ドモンが最後に見たのものは今にもヘルファングを振り下ろそうとしているヴリルの姿だった。


26:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:21:28 AdLXs98T0


「待ちなさい!」
 止めを刺すべくヘルファングを振り上げたヴリルに制止の声が掛けられる。
 後ろを振り向くと、逃がしたはずの深雪の姿がそこにはあった。走ってきたのか息が乱れている。
 なぜ戻ってきたのか。そんなことはヴリルにはどうでもいいことだ。ただ本能のままに獲物を抹殺するだけ。
 ヴリルはヘルファングを振るう。一振り、二振り、三振り、ところが紙一重というところでかわされ、空を斬った。
 深雪の体術がそれなりに優れているとはいえ、タイムイエローと比べると雲泥の差だ。能力の強化されたヴリルに捉えられないはずはない。
 そこでヴリルは気づく。深雪が優れているのではなく、自分の能力が衰えていることを。
 ウザーラ・ウガロが発動していない状態と比べても、今の自分の動きは明らかに劣っていた。
 ならばなぜ衰えたのか、ヴリルは分析する。そして、瞬時に答えを出す。
 その答えは―首輪。
「やっぱり、変身だけじゃなくて、能力の全てが封じられるのね」
 分析という行為が生んだわずかな隙。その隙を突き、深雪はヴリルの懐へと入り、その首輪を掴んでいた。
「でも、それでも闇の呪縛転生は解けない……」
 ヴリルは首輪の効果など知らない。そして、深雪の言葉の意味も理解しない。
 ただ、懐に入りながら、言葉を紡ぐという無謀な行為をした深雪に、刃を差し向けた。
「ごめんなさい、勇さん」
 深雪がヴリルの首輪を引いたのと、ヘルファングが深雪の身体を貫いたのはほぼ同時の出来事だった。



 深雪は砂浜に身を横たえ、爆発で頭から肩口にかけてを吹き飛ばされた伴侶の姿を見ていた。
 見ていて胸が痛くなるほどの酷い死骸だ。だが、深雪は眼を背けない。
 何故ならこんな姿にしたのは自分なのだから。死ぬ最後の瞬間まで見続ける責任がある。
 深雪の身体は爆風の衝撃で所々が焼け爛れていた。特に顔は悲惨だ。
 長い髪は焼き切れ、白かった深雪の肌はその全てを黒に変え、例え家族といえども、一目で深雪と判断できない有様だ。
 そして、ヘルファングの一撃は彼女の臓器を傷つけ、致命傷を与えていた。あとわずかで深雪は死ぬ。
 そんな深雪に影が掛かる。顔を向けると、泣き顔をしたドモンがいた。

27:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:22:19 AdLXs98T0
(よかった、生きてたのね)
「深雪さん、どうしてこんなことを。逃げれたはずなのに」
「……ぁぁぃ」
 なんとかしゃべろうとする深雪の唇に耳を寄せる。
 かすかに、本当にかすかにではあるが、深雪の声は、耳に言葉として聞こえてきた。
「私たちは親ですもの。例え、私たちが犠牲になっても子供が守れれば、それでいいんです」
 勇が生きていたことは本当に嬉しかった。どんな姿でも生きていてくれたら、それでいいとさえ思った。
 だが、それでは駄目なのだと、逃げる最中に深雪は気づいたのだ。
 限定された空間にウルザードとなった勇が放たれる。それがどんな結果を生むのか。
 ドモンのように優しい人ほど、攻撃の手を緩め、その命を散らす。勇のために、深雪のために。
 そんなことは勇も、深雪も望まない。だから、この場で勇は葬らなければならなかった。
「深雪さん、そんな……うぅっ、っぁ」
 手で顔を覆い、嗚咽の声を漏らすドモン。次第にその声は手で抑えきれないほどに大きくなってくる。
「っぅっふぅっ、ぁははっ、くくくっ、はははっ、あははは」
(ドモンさん?)
「ばぁ~っ!」
 ドモンが手を開くと、そこにドモンの顔はなかった。
 その顔は忘れるべくもない。勇を殺した張本人、ロン。
「あなたの行動が不可解だったものですからね。死ぬ前に確かめようと思いまして。しかし、その理由が……くくくっ……木偶人形を命掛けで倒すことだったとは」
 ロンはヴリルの死骸に近寄っていき、懐から銀のケースを取り出すと、指を鳴らした。
 すると、途端にヴリルはゲル状の物体へとその姿を変え、銀色のケースに納まっていく。
 そして、ロンはしっかりと封をすると、愕然としている深雪の顔の前でそれを振った。
「これはヴリルと言います。こいつにはあらゆる物を模倣する能力がありましてね。今回は小津勇をコピーしてもらいました。
 わかりますか、あなたはこんなもののために命を賭けたのです」

28:名無しより愛をこめて
08/05/24 23:22:48 gVa7pC9z0
      

29:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:23:47 AdLXs98T0
 表情は焼け爛れわからないが、眼を見ていると、心が絶望に染まっていくのがわかる。
 それがたまらなく愉快だ。もっともっと愉快になるためにロンは言葉を続ける。
「ああ、でも、安心してください。もうこれは使いませんから。首輪を破壊された時点でヴリルが敗北したのは確かですし、あなたが死ぬのならウルザードを使う必要がありませんからね」
 深雪の耳に顔を近づけ、ロンは止めの言葉を囁いた。
「知ってましたか?もう麗さんはお亡くなりになりました。あなたの勇気は誰一人守れなかったのです。
 ……ヨカッタデスネ」
 ロンは再び笑う。だが、その笑い声はもう深雪の耳には届いていなかった。
 まだ心臓は動いていたが、彼女の心はその身体より先に死んでいた。



 わずかに太陽が昇り、目蓋に覆われた瞳が光を感知する。ドモンはゆっくりと眼を開けた。
 まず彼は自分の左胸に手をやる。心臓は脈動していた。
(生きてる。俺、死んだんじゃなかったのか?) 
「おや、起きましたか」
「お前!」
 太陽を遮ったロンの顔を見て、反射的にドモンは身を起こす。
 位置的にそんなことをすれば、ロンのおでこにぶつかるところだが、ロンはそれを紙一重でかわした。
「おっと、危ないですね。もう少しで当たるところでしたよ」
 飄々と言葉を放つロンに、ドモンは敵意を露にし、殴りかかっていく。
「うりゃああぁ!」
 だが、その拳が当たる直前、ロンは金色の煙となり、すり抜けていった。
 諦めず追撃を行うとするドモンだが、突如、身体に激痛が走る。
「痛ってぇ」
「当たり前ですよ。まだ傷薬は効き始めといったところなんですから。……しかし、もうそこまで動けるようになるとは、ゴキブリ並みのしぶとさですね」
「うるせぇ!」
 そこでドモンは自分の身体を改めて確認した。プロテクターは外され、身体中痛いが、それでも無理して動けないほどではない。
 経験則からいって、死んでもおかしくないほどの重症だったはずだ。それに意識を失う直前に見た光景が正しければ、止めを刺される寸前だったはずだが。
「おい、あいつはどこへ行った」
「あいつ?」
「あいつだよ。紫色した、深雪さんの夫のあいつだ!」


30:名無しより愛をこめて
08/05/24 23:24:43 gVa7pC9z0
            

31:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:25:10 AdLXs98T0
「あぁ~、小津勇ですね。彼は死にました。彼女に殺されてね」
 ロンは身を翻すと、指を指した。その指の先をドモンが見ると、何か黒いモノが転がっているのが見える。
 あれは何だと、痛みを堪えながら徐々に黒いモノへと近づいていくドモン。
(ま、まさか)
 はっきりと見えてくるにつれ、ドモンの歩みが速くなっていく。身体が悲鳴を上げるが、気にしてはいられない。
 その黒いモノの元へ辿り着いたとき、ドモンは全身の力が抜け、その場へと崩れ落ちた。
「み、深雪さん?嘘だろ」
 黒いモノは人の形をしていた。顔は酷く焼け爛れ、誰かの判別が付かないほどだ。
 だが、わずかに残った白い肌や服の切れ端は深雪のもののように思えた。
「……いや、そんなはずはない。深雪さんは無事逃げ延びたはずだ」
「残念ながら、その死体は小津深雪に間違いありませんよ」
 自分の考えを必死に否定するドモンに、後ろから無慈悲なロンの言葉が掛けられる。
「そんな、そんなぁ。うわぁぁぁっ!」
 大地に顔を埋め、ドモンは泣き崩れる。
「なんで……なんで逃げなかったんだよ、深雪さん。なんで!なんで!なんで!」
「落ち着きなさい。小津深雪がなぜ逃げなかったか、なぜ戻ってきたか、そして、なぜ死んだのか、私が説明しましょう」
 ドモンの叫びが止む。聞く気があると判断したロンは口の端を少しだけ上げると、ゆっくりと語りだした。
「感動的な場面でした。この私でもあやうく涙を流しそうになったほどに。
 あなたを心配して、この場へと戻った小津深雪はある決意を持って、小津勇と対峙しました。
 それは……あなたを救うために小津勇を殺すことです」
 ドモンが息を飲むのが解る。ロンは益々口の端を吊り上げながら、言葉を続けた。
「とはいえ、相手は熟練の騎士。まともに戦っては勝ち目はありません。そこで彼女は首輪を狙ったのです。
 ご存知の通り、この首輪は強制的に外せば爆発します。小津深雪はそこを狙い、そして、その試みは見事に成功しました。
 しかし、彼女も相応のダメージを受け、残念ながら帰らぬ人に」
「深雪さん……」

32:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:25:37 AdLXs98T0
「ドモン、小津深雪はなぜ小津勇を殺すという決断を下したかわかりますか?
 あなたを心配したといっても、小津勇は彼女の夫。普通に考えれば、見知らぬ男の死より、近しい夫の生を望むものです。
 それなのになぜ?」
 ロンは俯くドモンの耳元へ口を持っていくと囁いた。
「わかるでしょう。それは近しい夫より、見知らぬ男の方を愛してしまったからです」
 グラグラとドモンの心が揺れるのがわかる。ロンがわざわざドモンの傷を手当てしたのはこれが目的だ。
「そんな小津深雪の気持ちに応えたくありませんか?私の力をもってすれば、小津深雪の復活は可能です。
 小津深雪の家族が邪魔なら、あなたと一緒に30世紀に連れて行くことだってできますよ?どうですか、小津深雪を妻に娶り、30世紀で幸せに暮らすというのは」 
「うるせぇ……」
「えっ?」
「うるせぇって、言ってんだ!深雪さんはそんなこと望んでねぇ」
 ドモンの眼にもう涙はなかった。その眼に宿っているのは明確な決意。決意を持った眼でロンを厳しく睨みつける。
「やれやれ、まさかそこまで固い意思をお持ちだとは。まあいいでしょ。これを渡しておきます」
 ロンはどこからか、参加者全員に支給されたものと同じ型のディパックを取り出す。
「小津勇に支給される予定だったディパックです。元々、私はこれを届けに来たのですよ。
 ですが、届ける前に小津勇は小津深雪に殺され、小津深雪も死んだ。しかし、あなたは生き残った。
 だから、このディパックはあなたのものです」
 ドモンは無言でディパックを受け取ると、ディパックの中身の確認を行う。
「そのディパックの中にランダムの支給品は入っていません。元々その中に入っていた支給品はもうあなたに使ってしまいました」
 ロンの言う通り、ディパックには共通の支給品の他には説明書しかなかった。その説明書には『気づかず治る傷治し薬』とだけ書かれていた。
「深雪さんの鞄は?」
「さあ。そこら辺に転がっていると思いますが、形見にでもするつもりですか?」
 ドモンはロンの質問には答えず、身を翻し、歩きだした。ロンが制止の声を上げるが、それを無視して歩みを進めていく。
「まあ、私の言ったこと、考えておいてください」


33:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:26:08 AdLXs98T0
 ロンはその言葉を最後にいずこかへ消えた。
「そんなこと、深雪さんが望むわけないだろ」
 吐き捨てるように呟くと、ドモンは深雪のディパックを探す。ロンの言ったとおり、せめてもの形見にと思ったのだ。自分の決意を鈍らせぬように。
(そう深雪さんは俺と夫婦になることなんて望まない。深雪さんの望むことは家族との幸せな生活だ。そこに俺の姿はなくていい)
 ドモンはロンの囁きを聞き、決意していた。優勝し、自分の望みを叶えてもらうことを。
 深雪がどんな気持ちで夫を殺したのかはわからない。だが、そこに相当な決意があったことは確かだ。そして、ドモンはそれに助けられた。
(俺は結局、自分のことしか考えてなかった。深雪さんの気持ちも考えず、ただ自分の想いを告げることしか考えてなかった。
 もし、あの野郎に願いを叶える力が本当にあるなら、俺の命なんてなくなってもいい。深雪さんに幸せになって欲しい。だから、俺は……)
 やがてドモンは放置されていた深雪のディパックを見つけた。
 ドモンはそれをギュッと抱きしめた。



「どうやら成功のようですね」
 ロンは戻った広間でそんなことを呟いた。
 ロンはドモンの本心はどうあれ、彼が優勝を目指すことを確信した。
 なぜなら彼はロンが囁いた後、一切ロンに危害を加えようとしなかったのだから。
 深雪は子のために夫を殺すという極限を見せてくれた。
 今度はドモンがどれほどの極限を見せてくれるか。ロンはそれが楽しみで仕方なかった。

【魔導騎士ウルザード(ヴリル) 回収】
【小津深雪 死亡】
残り37名


34:失われた恋 ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:26:38 AdLXs98T0
【名前】ドモン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:Case File20後
[現在地]:J-4海岸 1日目 早朝
[状態]:全身打撲。魔法薬(気づかず治る傷治し薬)の影響で回復中。1時間変身不能。
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:基本支給品一式×2(勇、深雪)
[思考]
基本行動方針:優勝して、深雪に幸せな家庭をプレゼントする。
第一行動方針:?
備考:ドモンのデイパックは燃え尽きました。グラップラー時代のプロテクターはロンに回収されました。変身に制限があることに気が付きました。


35: ◆i1BeVxv./w
08/05/24 23:27:22 AdLXs98T0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想、他指摘事項などありましたら、宜しくお願いします。

36:名無しより愛をこめて
08/05/24 23:43:13 S/sPvMB/O
超GJ!
なんという熱いバトル、用意された絶望、苦しい二人の思いと決意、瞬きをするのも惜しいほど釘付けになりました。
もう一度惜しみない超GJ!を送りたい!

37:名無しより愛をこめて
08/05/25 00:25:43 XDSZVNDjO
GJです!!
深雪さんの悲壮な思い、ドモンの悲しい決意、
ヴリルの本能で人を殺める恐ろしさ、
そして何より、周到で陰湿なロンの小賢しさ、
全てに圧倒されて、息が苦しくなる程です。
深雪さんの最期は、いかばかりの絶望かと思んばかれて、涙ぐむほどでした。
本当に、言葉を尽くしても足りない程ですが、
改めてGJ!

38:名無しより愛をこめて
08/05/25 00:43:02 h7uXkT2p0
GJ!
熱いバトル……でも欝に落ちる!
ドモンの悲壮な決意、ロンの暗躍、面白かったです。
ああ、深雪さんが切ない。
もう一度GJ!

39:名無しより愛をこめて
08/05/25 00:43:58 v06K6KGR0
美しい人が醜く焼け爛れるってのはきついですが、物語上の必然性でしたね。
さくら姐さんとかもこうしてやられちゃうのかしら?
マジレン勢に何か恨みでもあるのか、ロン…

40:名無しより愛をこめて
08/05/25 01:19:57 XDSZVNDjO
やっぱり、最初に刃向かったのが小津父だから?
それにしても、最初は、ボウケンジャーと同率一位の参加者数だったのに、
いつの間にやら、半数以下に。

41:名無しより愛をこめて
08/05/25 03:31:51 w8qeQaWy0
と、いうか真墨を除けば、マジレン勢しか死んでない。
ヴリルもウルザードになってたからマジレン勢と言えなくもないし。

42:名無しより愛をこめて
08/05/25 22:51:29 XDSZVNDjO
不幸の星の元に、このロワに選ばれたのかもね。マジレン勢。
にしても、これでヒカル先生の守る対象はいなくなっちゃった事になるのか。
不謹慎だけど、放送後がちょっと楽しみ。

43:名無しより愛をこめて
08/05/26 00:27:27 GuCJzmes0
何気に仲間の死に敏感なチーフの反応も気になるがな。
あと、菜月。


44:名無しより愛をこめて
08/05/26 00:48:32 MsIGRaezO
>>43
仲間で親で兄弟みたいな存在だろうしね。真墨。

45:名無しより愛をこめて
08/05/26 01:15:22 5OeUVlvo0
放送時に菜月の側に誰がいるかで、かなり違うよな。

46:名無しより愛をこめて
08/05/26 01:20:51 GuCJzmes0
誰かが死ぬたびに暗示みたいに美希や姐さんにメッセージを送るとかあったら益々陰湿だな、ロンw
一方は早く死ななきゃと思うし、一方はもっと殺さなきゃと思うし。
そういや、放送SSはいろんなキャラをいっぺんに出してもいいもんなのか?

47:名無しより愛をこめて
08/05/26 02:12:56 MsIGRaezO
>>45
今のまま、竜也のそばならいいけど、
もし一人だったり、あまつさえ、ステルスマーダーと一緒だったりしたら、かなり危ういかもね。
>>46
事前に予約を取られていたら、大丈夫だと思いますよ。

48:名無しより愛をこめて
08/05/27 00:30:55 XjYex29kO
議論スレにて、◆eQMz0gert氏からなんら回答が得られない為、回答期限を設けておりましたが、
本日、0時に期限切れと相成りました。
その為、氏の作品は破棄となります。
ご報告が遅れまして、大変申し訳ございません。

49:名無しより愛をこめて
08/05/30 12:58:45 ePV3d3Yg0
前スレで埋めネタ代わりに、リレー感想を行っています。
もし、よろしかったらご参加下さい。

50: ◆MGy4jd.pxY
08/05/30 21:19:41 t7WgOTZ3O
大変申し訳ありません。
期日に間に合いそうもないので延長をお願い致します。

51:名無しより愛をこめて
08/05/30 22:09:31 hBJ/z2/pO
>>50
了解しました。楽しみにお待ちしております。

52:名無しより愛をこめて
08/05/31 02:51:22 IvxcLJfh0
>>50
リョウカイです。期待しております。

53: ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:31:40 kMolMV5m0
投下します

54: ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:32:17 kMolMV5m0
仲間と合流する為には、最も人の集まりそうな場所に行く必要がある。
とりあえず都市部へという事になり、北へ向かおうとした、その時だった。
支度を終え立ち上がろうとした小梅が、小さく悲鳴をもらし、その場にうずくまった。
その手は庇うように右足首にあてられている。
「挫いたか?」
訊ねると、痛みに眉を寄せながら頷く。
「ちょっと痛むなーとは思ってたんだけど・・・・・・」
察するに、先程砂に足を取られた時に挫いたという所だろうか。
小梅は顔をしかめながら、バックからペットボトルを取り出すと、足首に宛がった。
ただでさえ砂地は足に負担をかけるというのに、これでは長時間歩かせるのは、不可能に近い。
だが、このままこの場所にいるというのも問題があった。
周りは砂や流木ばかりで、殆ど遮蔽物が無い。
しかも波の音に掻き消され、人の気配を察する事さえ難しい。
これでは的にしてくれと言っているようなものだった。
考え込みながら周囲を見渡すと、少し先に岩陰が見えた。
本来は、あまり動かさない方がいいのだろうが、今はそうも言っていられない。
岩場まで移動する事に決めると、映士は小梅に手を差し伸べた。


55:桃色天然娘 ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:33:21 kMolMV5m0


移動する際にも一悶着あったが、

「ヤダ、高丘さん。胸触ったー!」
「今の胸か?」
「・・・・・・セクハラで訴えてやるー!!」
「馬鹿な事言ってないでとっとと負ぶされ!」
「バカって言うなー!」

それは、また別の話である。



「これでよしっと」
アンダーシャツの裾を細長く裂き、テーピングの要領で足首に巻きつける。
一連の作業を終え、映士は顔を上げた。
「このままじっとしてれば、朝には少しはマシになってるだろ」
「ありがとう。もう大丈夫だから、高丘さん先に行って」
これじゃ、足手まといだし。そう付け加えると小梅は笑った。
「いいや、俺様も朝までここで休憩だ」
あー、重かった。映士は真向かいに腰を下ろすと、うそぶきながら肩を叩く。

56:桃色天然娘 ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:34:05 kMolMV5m0
「えー、太ったかな。割と軽い方だと思ってたのに」
「あー、チビな分、嵩は少ないかもな」
「そう、チビな分・・・・・・って何言わせるのよ!」
笑いながら拳を振り上げ、ふと真面目な顔つきになると、小梅は静かにそれを下ろした。
ぎゅっと自分の両手を握り締める。
「仲間の事心配だったりしない?」
映士への気遣いと彼女自身の不安とがないまぜになったような声。
刑事という職務上、陰惨な現場は今までいくつも見てきた。
だが、目の前で繰り広げられたあの光景は、小梅の心に暗い波紋を落としていたのだった。
「俺様の仲間はそんな簡単にくたばったりしねーよ」
ポンと小梅の頭に手をやる。
「あんたの仲間もな。ええと、コドー・・・・・・」
「ウメコでいいよ。ありがとう。そう、だよね」
「ああ」

それからは、とりとめのない話をした。
仲間の事、それぞれの世界の事、敵の事、家族の事・・・・・・
初めのうちは、映士の方が話していたが、だんだん小梅の口数が増え、いつのまにか話す方と聞く方が逆転していた。
しばらくは相槌を打ち、時折、疑問を差し挟んでいた映士も、話がのろけめいてきた頃には、聞き流すようになっていた。
ふと、声が聞こえなくなった事に気が付き、映士が遠くにやっていた意識を戻すと、小梅は岩壁にもたれ静かに眠っていた。
かすかに寝息を立てながら上下する肩に、自分のジャケットを着せ掛けると映士は軽く溜息をついた。これで、朝までは静かに過ごせる。
こんな状況下で眠れるとは、順応力が高いと取るべきか、図太いと取るべきか悩むところだが。
その無防備とも取れる振る舞いは仲間の一人を思わせた。
――真墨も苦労してんだな――
心中で呟くと映士は薄く苦笑し、見るともなしに遠くに目をやった。


57:桃色天然娘 ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:35:13 kMolMV5m0


『・・・・・・・・・・・・す!!』

微かに聞こえてきた声に、映士は沈みかけた意識を無理やり呼び起こした。
未だ、眠り込んでいる小梅を揺り起こす。
「んん、な~に?あれ、ここどこ?」
「寝ぼけてるな、おい」
目をこすりこすり開くと、小梅は映士に微笑みかけた。
「あ、高丘さん。おはよう」
「映士でいい。いいか、しっかり目覚ましてよく聞けよ。
 こっちに誰か向かって来てるらしいから、様子を見に行く。もし、20分経っても戻らなかったら、一人で逃げろ」
「そんな・・・・・・」
「その足じゃ、とっさの時に逃げられないだろ。心配すんな。俺様はそう簡単にくたばったりしねーよ」
小梅は何か言いたげだったが、映士はあえて遮ると踵を返した。
「・・・・・・いってらっしゃい」
「おう」
後ろ手に手を振り、そのまま岩陰から足を踏み出した。


「さあて、クエスターが出るか、ロンがでるかってとこか?」

58: ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 19:47:52 sSUQWFIqO
大変申し訳ありません。
今日が期限で今から投下しようと思ったのですが、家のパソコンからネットに接続する事ができません。
なんとか日付が変わるまでにとはおもいますが、もし間に合わない場合、お許し頂けるならば、明日正午から一時までのかならず投下いたします。
ですが決まったルール上、予約を破棄した方がよければその意見に従います。
意見をお待ちしております。

59:名無しより愛をこめて
08/06/02 20:10:48 U+7TQt8Q0
>>58
了解しました。投下お待ちしております。

それでは、代理投下を始めます。

60:桃色天然娘代理
08/06/02 20:11:22 U+7TQt8Q0

【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-6海岸 1日目 黎明
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、後は不明(確認済)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:声の正体を探りに行く。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。

【名前】胡堂小梅@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回後
[現在地]:J-6海岸 1日目 黎明
[状態]:右足首を捻挫、手に軽い打撲、砂まみれ
[装備]:SPライセンス、拳銃(シグザウエル)、後は不明(確認済)
[道具]:不明(確認済)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:映士を待つ。


61:桃色天然娘代理
08/06/02 20:11:56 U+7TQt8Q0
103 : ◆Z5wk4/jklI:2008/06/02(月) 19:38:28
最後の最後で規制に引っかかってしまいました。
お願いします。
以上です。
誤字脱字、矛盾などご指摘がありましたら、お願い致します。

代理投下終了します。


62:名無しより愛をこめて
08/06/02 20:13:56 U+7TQt8Q0
読了。
投下乙!
ウメコと映士のやり取りに和みましたw
うん、ウメコはムードメイカーですね。
続きが気になる良つなぎでした。GJ!

63:名無しより愛をこめて
08/06/02 21:24:35 Afzi3F3Z0
真墨を思い出すのが切なくていいですね
既に“くたばっている”ことを知ったとき、映ちゃんはどうするんだろう?

64: ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 21:46:01 EzI7x3/H0
◆Z5wk4/jklI 氏、大変申し訳ありませんでした。
リロードせずに書き込んでしまいました。
本当に申し訳ない。
そしてGJです!
真墨を思い出す映士に涙。
そしてウメコが良いです。
「仲間の事心配だったりしない?」
の台詞はぐっと来ました。

ネットにつながらなかったのは『禁断の壺』のせいだったようです。
もう一度推敲して、一時間後には投下します。
よろしくお願いいたします。






65: ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 21:58:22 IrIke/XRO
代理投下&感想ありがとうございます。
>>64
いえいえ、お気になさらずに。投下楽しみにお待ちしております。

66: ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:03:00 EzI7x3/H0
ありがたいお言葉感謝いたします。
いつもながら遅くなりまして申し訳ありません。

ちょっと書き上げるのが苦しいSSでした。
読んで頂ければとても嬉しく思います。


67:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:05:05 EzI7x3/H0
『Trolley problem』


   あなたはトロッコに乗り、ある線路を走っている。
   砂煙を撒き散らし、スピードをぐんぐん上げ走っていく。
   流れる景色にしばし目を奪われた。
   再び前方に視線を戻したあなたの目が、線路の上にいる5人の男達の姿を捕らえた。
   あわててブレーキを掛けたが、スピードは緩まるどころか速さを増し、全く制御が効かない。
   このままでは5人を轢き殺してしまう!
   だが、幸いにも線路には支線が伸びていた。
   あなたは5人を避ける為、トロッコの進路を変えようとした。
   その時……
   支線に立つ人影に気付いた。
   1人の男が支線の上で立ちつくしている。

   このまま線路を突っ走れば、5人を轢き殺す事になる。
   進路を変えて支線へ突っ込めば、1人が死ぬ。

   分岐点は、もう目の前……





68:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:07:11 EzI7x3/H0

‡   


空を飛ぶ鳥の姿もなく、地上を駆ける生物もいない、広大な砂の海。
見渡す限りの砂地が、大きく風紋を織りなす枯れ果てた不毛の地をシュリケンジャーは走り続けた。
その代わり映えしない景色の中、走ること数時間。
長く長く続いた緩やかな砂漣の斜面を登り切った先にあったのは、それまでと同じ砂の海ではなかった。
青々と茂る緑の木々と、月明かりを一杯に受けキラキラと輝く水面が揺れている。
そこは、オアシス。
砂漠という荒野の中で唯一疲れを癒し、安らぎをもたらす場所。
滾々と湧き上がる豊かな水と美しい緑に引き寄せられるように、シュリケンジャーの足が速まった。

オアシスに辿り着いたシュリケンジャーは、不思議な程ほっとした気持ちで緑の木々を眺めた。
遙か昔、行商人たちは半月掛けて砂漠を旅したという。
やっと辿り着いた彼らに、オアシスはきっと同じ安堵を与えた。
とはいえ、同じく砂漠を旅したとて、こちらはたった数時間の旅。
心が疲弊したとはニンジャオブニンジャの名が廃る。
それとも殺し合いの場に駆り出されたのが原因なのか。
どちらにしても修行が足りない。
フッとシュリケンジャーは自嘲じみた笑みを漏らす。
心とは違い、身体に疲れは感じられなかった。
呼吸もさほど乱れてはおらず余力は充分に残っている。
ただ額から吹き出る汗と火照った頬が、ウォーミングアップとしては激しすぎたと訴えているようだった。
栗色のサラサラとしたストレートの前髪を汗が伝う。
汗が瞼を流れる前に、湧水に両手を浸し火照った顔に叩き付けた。
冷たい水が汗と火照りを洗い流す。
すっかり爽快になった顔に曇りのない笑顔が浮かんでいた。

69:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:08:15 U+7TQt8Q0
   

70:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:09:25 U+7TQt8Q0
        

71:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:09:33 EzI7x3/H0
シュリケンジャーはそっと頬に手を当て水面を覗き込む。
漣のおさまった水面が、あどけなさの残る端正な横顔を映した。
笑顔、泣き顔、怒った顔、シュリケンジャーは次々と表情を変え水面に映し確かめた。
変装は完璧だった。

「オーケー、これなら完璧だ」

水面に映るシュリケンジャーの面表はハリケンレッドたる椎名鷹介の顔そのものだ。
鷹介に変装していれば、おぼろと出会ったときの説明もしやすいだろうと考えた。
よって、いつものように口調まで変える必要は無い。
幸いにも広間にハリケンジャー、ゴウライジャーたちの姿は無かった。
ジャカンジャとの最終決戦も近い今、戦力たる彼らがこのバトルロワイヤルに巻き込まれなかったのは、せめてもの救い。
シュリケンジャーにとっても、当面の心配と護るべき対象は日向おぼろただ一人だけで良い。
おぼろを護ることを最優先とし、彼女と首輪を解除し帰還する。
ハリケンジャーたちには帰還するまでの僅かな間、一日か二日か、それまで何とか持ちこたえてさえくれればいい。
そして、その間にシュリケンジャーは自らにもう一つの密命を課すこととした。

『このバトルロワイヤルにおいて一の槍、五の槍の二槍を倒す』

シュリケンジャーはサーガインとフラビージョを人知れずこの場で始末するつもりだった。
ジャカンジャの戦力削減は地球の未来の勝利につながる。

「ミーとおぼろは無事に帰還し、ハリケンジャーたちと共に残りのジャカンジャを打ち倒す。そうと決まれば行動開始だ」

掛け声と共に水上を突っ走った。
口調と同じく、シュリケンジャーの思考は明るく楽観的だった。



72:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:11:00 U+7TQt8Q0
       

73:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:12:00 U+7TQt8Q0
          

74:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:12:31 EzI7x3/H0
‡‡

「助かっ……た、の…ね」

スワンの瞳から自然に涙が零れた。
起き上がり両手でしっかりと、身を護る鎧のように自分の肩を抱いた。
涙がとめどなく流れていた。
零れ落ちる涙の先、スワンの血を吸った黒ずんだ砂が、凄惨な戦いを明瞭に思い出させる。
『怖かった』身体が震え、唇がわなないた。
脳裏に甦る理央の侮蔑を帯びた視線。
理央はスワンに弁明する暇も与えず、話に耳を傾けようともしなかった。
戦いというには余りにも一方的。あれは、まるでリンチ。
憤りと恐怖でスワンは無意識のうちに身を固くしていた。
理央は言った。スワンが人間を燃やしたと……
いいがかりをつけ、不意打ちを食らわせたのか?
それにしては、スワンを糾弾する理央の様子は真に迫っていた。

「違う、違うわ。私は殺し合いになんか、乗っていない。私は、私はただ反撃の狼煙を……
どれもこれも、私には必要ない殺し合いの道具。それをただ壊しただけ」

スワンの思考を遮るように、砂を踏み締める足音がした。
顔をあげると、いつの間に追い越されたのか、ドギー・クルーガーが森へ向かい歩いていた。

「ドギー!」

スワンはドギーの元へ走った。
だが砂に足を取られ、思うように進めない。
数歩も進めずに倒れ込む。

75:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:13:29 U+7TQt8Q0
             

76:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:14:10 EzI7x3/H0
不意にスワンを照らしていた月明かりが翳った。
地に映るは黒獅子の影、理央がすぐ後ろに立っていた。

『お前は殺し合いに乗った』

低く唸るような声がスワンの身体を貫いた。
止めを刺しに戻って来た?恐怖に駆られスワンは、砂を掻き這いつくばり前に進んだ。
今度こそ殺される!起き上がり足を速めた。ドギーの名を呼びながら、痛む体をひきずるように、懸命に走った。
だが走っても走ってもドギーの背中に追い付かない。

「ドギー待って!行かないで」

必死の叫びが届いたのか、ドギーがこちらに振り向いた。
安堵したのはほんの一瞬、すぐに悲しみで表情が歪んだ。
ドギーがスワンに向けたのは凍り付いた視線、凶悪な犯罪者たちに向ける目でスワンを見ていた。
その目が次第に激しい怒りの色を増す。
射ぬかれたようにスワンの足が止まる。

「どうして?どうして、そんな目で私を見るの……お願い、話しを聞いて!」

駆け寄ろうとしたスワンは、後ろから羽交い締めにされた。
理央が耳元で囁いた。

『お前が燃やした人間だ。その罪を償え』

体に巻き付いた腕がプスプス音を立て、溶けだした肉が黒く焦げていく。
服が、皮膚が、爪が、黒い煤となって風に散った。
焼け爛れた顔がスワンに頬ずりした。
スワンの口から絶叫が迸った。


77:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:15:46 EzI7x3/H0

‡‡‡


悪夢から目覚めると白衣が包帯に代わりに体に巻きつけられていた。
スワンの前にいたのは理央でも無く、焼死体でもなくシュリケンジャーと名乗る若い男だった。
事の経緯を優しく訪ねてきた彼に、スワンは殺し合いに乗っていないことを説に訴えた。
シュリケンジャーは、その言葉に耳を傾けてくれた。

「私は警察官よ。それに、ここには仲間だっている。きっとどこかでこそこそ見ているロンに宣戦布告しようと、支給品を燃やして反撃の狼煙をあげただけなの。でも、理央の様子は、本当に怒りに駆られていた」
「それでユーは結局の所、理央をスパイだと思ってるのかい?」
「わからない。理央は私が殺し合いに乗ったと思ってるんでしょうけど……」

シュリケンジャーはスワンに肩を貸し、炎の騎馬まで歩いた。
スワンを後ろに乗せ、まるで自分のバイクのように軽々と操る。

「オーケー。どちらにせよ、本当に参加者の誰かが殺されているのかどうか確かめに行こう」

『どちらにせよ』シュリケンジャーの言葉が胸に引っ掛かった。



78:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:16:10 U+7TQt8Q0
          

79:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:17:55 IrIke/XRO



80:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:19:07 EzI7x3/H0
‡‡‡‡


言葉も出なかった。
理央の言った通り、無残な焼死体がそこにあった。

(きっと、これは悪い夢の続き……)

現実逃避しようとする心を、警察官の誇りが押しとどめる。
シュリケンジャーに肩を借りたまま、焼死体の側へ歩み寄った。
焼死体の側でしゃがみこんだスワンの横で、シュリケンジャーは割れた瓶の破片を手に取り見つめている。
スワンは焼死体を眺めた。
顔を庇ったのか、ボクサーがガードをするような姿勢で死んでいる。
左手には青いメダルの着いたブレスレット。
スワンは腕の間から顔を覗いた。
損傷の酷い下肢や腕に比べ、焼損は少ない。
若く綺麗な女の子。苦悶を浮かべた形相をしているが、知る人が見れば誰だか分かるだろう。
煤が鼻腔内に付着している事から、死後焼却されたものとは考えられなかった。
全体から見て、焼身自殺を図ったのと同じ、炎に包まれることにより吸気中の酸素が欠乏したのが直接の死因。
火に包まれた時に呼吸をしていた、それは生きながら焼かれたことを示す。
いやな汗が背中を伝った。
スワンが反撃の狼煙を上げた時、近くには誰もいなかった。
誰かいたとしても燃え盛る炎に飛び込んだとは考えがたい。

(まさか、人間香水の中身がこの娘?でも、参加者じゃない)

その首には参加者全員に嵌められたはずの首輪が無い。
確かに、殺したのは自分かもしれない。
しかし、この死体は首輪もしておらず、デイバックが残されている訳でもない。
参加者で無ければ、スワンの予想した通り、彼女はロンが用意したスパイ。
その事をシュリケンジャーに伝えようと彼の腕を掴んだ。
硬く力が込められた腕の感触に驚いた。

81:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:19:21 U+7TQt8Q0
        

82:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:21:44 EzI7x3/H0
シュリケンジャーが小さな声で何か呟いた。
琥珀色をした瓶の破片を握り締めたシュリケンジャーの指の隙間から血が滴り落ちる。

「シュリケンジャー?」
「この破片は何だ!ユーはいったい何を燃やしたんだ!!」

あまりの剣幕に唖然とし、すぐに背筋が寒くなった。
シュリケンジャーがスワンを見る目は、理央がスワンに向けた物と同じ。
怒りに臨気を纏いスワンに拳を振り下ろした目と同じだった。
誤解を解かなければ、頭の中はそれでいっぱいだった。

「何って私は、支給品を……キラ・コローネの人間香水を、亡国の炎に。人間で作った悪趣味な香水を投げ入れただけよ」
「ジーザス!なんて事だ。いいかいスワン、人間香水の中身は『人間』なんだ。人間香水には24時間のタイムリミットがある。つまりそれまでに瓶を開けていれば中の人間は解放されたんだ!」
「だって、そんなこと知らなかった……でも、彼女の首元を見て?彼女には首輪が無いでしょう。おそらくロンの刺客よ。うっかり開けてしまえば私が殺されていたかもしれないのよ!」

堪え切れず声を荒げた。

83:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:22:23 U+7TQt8Q0
       

84:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:23:11 KiYUvRQ70



85:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:23:57 U+7TQt8Q0
           

86:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:24:15 KiYUvRQ70
ageてスマソ

87:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:24:38 EzI7x3/H0
シュリケンジャーは大きく息を吐き出し、哀れみを湛えた上目使いでスワンを見た。

「……ユーは、とんでもない勘違いをしている。これはミーの仲間。ハリケンブルー、野乃七海さ」
「あなたの仲間?」
「そう、その焼死体がミーの仲間。キラ・コローネは宇宙忍法香水固めの術で人間を香水にするジャカンジャの中忍。ミーが倒したはずなのに!」


私が罪の無い人間を殺してしまった?
そんなつもりじゃなかった。
知らなかったんだもの。
いいえ、知らないではすまされないわ。
私が殺した。
わたしが殺した。
わたしがころした。
ワタしがコロした。
ワタシガ罪ノ無イ人間ヲ殺シテシッマタ?

「スワンさん?」

名を呼ばれスワンは我に帰った。
スワンさん?
スワンは可笑しかった。どうして犯罪者をさん付けで呼んだりするのだろう。

88:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:26:06 KiYUvRQ70



89:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:26:17 U+7TQt8Q0
        

90:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:26:48 IrIke/XRO
支援

91:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:27:18 EzI7x3/H0
渇いた笑いが漏れた。

「ごめんなさい。私が殺したのよ……」
「誰もそんな事は言っていない」
「いいえ、結果としてはそうだわ。人間香水なんて、名前の意味をよく考えれば簡単に想像は付いた」

顔を強張らせ、後ろへ退いた。
炎の騎馬へまたがりエンジンを掛けた。
咄嗟に身構えたシュリケンジャーを見て、やはり自分は犯罪者なのだと痛感した。

「どこへ?」
「罪は、自分で償うわ……でも、私は皆のために、ドギーのために。首輪を解除して脱出しようと思っただけなの。お願い、それだけはわかって」

シュリケンジャーの姿が見え無くなるまで駆けた。
振動で胃の辺りが酷く痛んだ。
構わずスピードを加速する。
ごめんなさい。
誰に言うわけでもなく、すべて人に向けて思う。
涙で滲んだ視界を、瞼で閉ざした。

衝撃音が森に響いた。

感覚は曖昧だった。
地に叩き付けられた身体よりも、むしろ身体の中、胸の奥が熱く痛かった。

92:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:27:54 U+7TQt8Q0
         

93:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:29:24 EzI7x3/H0
肩で息をしながら、薄汚れた血を吐きながら、SPライセンスをかざし最後のジャッジメントをコールする。

「チーニョ星人、白鳥スワン。殺人の罪でジャッジメント……」

警察官としての誇りは捨てない。
自分のした罪から逃れる事はしない。
抹消処分罪状は殺人罪、宇宙最高裁判所はきっとデリート許可を出す。
命が尽きる前に、ジャッジが降りるはず。
なのに、宇宙最高裁判所からの判決はいくら待っても来ない。
死んで罪を償いたいのに、いつまでも死なせてくれない。

「私には、裁きを受ける権利も無いの?」

白いSPライセンスが暗い闇の色に同化していく。
悪夢と同じく、ただスワンの前には目の眩むような絶望しかなかった。

94:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:30:22 U+7TQt8Q0
          

95:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:30:52 EzI7x3/H0

‡‡‡‡‡

シュリケンジャーはデイバックから取り出した白衣の切れ端で、爛れた七海の顔をそっと隠した。

「七海……あの時、キラ・コローネは倒したはずだったのに……生命の復活か、ロンが広間で言ったのはあながち嘘じゃなかったわけだ」

キラ・コローネを復活し、七海をもう一度香水にした。
人知れず参加者を集め、命までも操る。
とんでもない奴を相手している、そう思うと背中に薄ら寒い物を感じる。

森の奥から衝撃音が聞こえた。
だがシュリケンジャーは振り返ろうともせず、考え倦ねいていた。

ジャカンジャの地球侵攻の理由である『アレ』を出現させるわけにはいかない。
このままおぼろだけを連れて帰ったとして、七海の抜けた穴をどうする。
そうでなくとも、未熟な戦士たち。一人といえども戦力を欠いたままでは、地球の未来が、人類の存亡が危うくなる。
かといって、殺し合いに乗るならば、おぼろを含めた参加者全員を殺さなければならない。
だが最終決戦に、おぼろと七海の二人は絶対に欠かせない。

ならば、シュリケンジャーの選ぶ道は一つ。
殺し合いに乗る。
このバトルロワイヤルに勝ち残り、おぼろと七海を生き返らせ、五体満足で帰還させる。
もし、二人生き返らせるのが無理ならば、アレを消滅させるよう願い、地球を救えば……
二人の死は、無駄にはならない。

顔を捨て名を捨て、影となりて敵を討つ。
それが忍者の定め。
地球を、未来を、御前様を護る為ならば、たとえどんなに誤った選択だとしても、どれほど己の手が血で汚れようとも、使命を全うする。
ニンジャオブニンジャ、シュリケンジャーの選んだ道なのだから。


96:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:32:54 U+7TQt8Q0
    

97:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:33:11 EzI7x3/H0
【名前】白鳥スワン@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:第46話『プロポーズ・パニック』後
[現在地]:B-9森 1日目 黎明
[状態]:2時間変身不可。全身打撲。背中に大ダメージ。内蔵損傷。
[装備]:SPライセンス
[道具]:炎の騎馬、支給品一式
[思考]
基本方針:気絶中


【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:C-10森 1日目 黎明
[状態]:健康。
[装備]:シュリケンボール
[道具]:確認済み
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る。
第一行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第二行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。

備考
・シュリケンジャーは変身に制限があることに気付きましたが、具体的な時間は気づいていません。




98:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:34:05 U+7TQt8Q0
      

99:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:36:18 EzI7x3/H0
以上です。

訂正が一つありました。
>>95
誤>>二ンジャオブニンジャ、シュリケンジャーの選んだ道なのだから。


正>>それがニンジャオブニンジャ、シュリケンジャーの選んだ道なのだから。


100:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:38:11 U+7TQt8Q0
投下乙!
殺し合いに乗ったシュリケンジャー……
自分で自分をジャッジメントするスワンさん……
いずれも切なく、かつ上手く運んでおり、面白かったです。
GJ!

101:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:38:22 EzI7x3/H0
感想、指摘等をよろしくお願いします。


102:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:40:52 EzI7x3/H0
さっそくの感想ありがとうございます。


103:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:43:35 IrIke/XRO
>>101
GJです!息を飲み、言葉もでない。
まさしく圧倒される作品でした。
シュリケンジャーの決意と、自分を殺そうとするスワンさんが胸に来ます。
本当にGJでした。

104:名無しより愛をこめて
08/06/03 00:41:50 PpLlpb9Z0
つーか、本当に七海だったのか…いきなり焼死体で登場とは…!
フラビなら大喜びしそうだなぁ…そういう話かこうかしら?

105:名無しより愛をこめて
08/06/03 22:30:19 cK7hLS1o0
遅ればせながら、お二方ともGJ!

桃色天然娘>
ウメコに菜月を重ね、真墨を思い出す映士が格好よかったです。
後々それがどういう影響を与えるか不安ながら楽しみになりました。

Trolley problem>
人間香水の正体。それに伴って、シュリケンジャーのまさかのマーダー化。
そして、自暴自棄になっているスワンさんなど、鬱な方向に見所満載の作品でした。
少々指摘ですが、
>>77の一文
悪夢から目覚めると白衣が包帯に代わりに体に巻きつけられていた。
たぶん『に』が余分かと。
あと、スワンさんの変身制限時間ですが、1時間30分が妥当ではないでしょうか。


106: ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:37:39 TQjSMP470
投下します。

107:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:38:04 TQjSMP470
 シオン、ドギー、グレイの3人はG4エリアにある廃工場にいた。
 重症を負ったドギーが休息している傍らで、シオンは3人のディパックの確認を行い、グレイはライフルから取り外したスコープで窓から外の様子を窺っていた。
 シオンの支給品は元から左手に装着していたクロノチェンジャーに加え、カブトムシ型の銃―ホーンブレイカーとダイヤモンドより固いといわれる石―鬼の石のふたつ。
 一応、当たりの部類に入る支給品だろう。
 ドギーの支給品はライフバード。5つのレスキューツールを組み合わせた鳥型のマシンだ。
 ただ、レスキューツールを使用するためにはレイザーグリップが必要になる。残念ながら今のシオンたちにはガラクタでしかない。
 そして、グレイの支給品は遠距離射撃用ライフル。正式名称はM24、軍用のスナイパーライフルだ。
 30世紀から来たシオンにとっては相当古い型になるが、遠距離からの攻撃と索敵を可能とする優秀な支給品である。
 だが、結局その支給品の数々もシオンが求めていたものではなかった。
「日が昇りましたね」
 窓から入ってきた日の光に気づき、シオンは呟いた。
 今いる場所がいつで、ここがどこなのかはわからない。
 20世紀なのか、30世紀なのか。地球なのか、別の星なのか、それとも異空間なのか。
 だが、少なくとも夜があり、朝があることがわかった。
 何気ない情報だが、大きな謎を解き明かすためには、その積み重ねが重要になってくる。
(もしここが異空間だとしたら、首輪を外すだけじゃ脱出できません。ただ強力な武器があっても宝の持ち腐れです。場所を特定する手がかりがないか注意しないと)
 シオンはロンダーズファミリーの囚人、狂気の科学者ゲンブとの戦いを思い出す。
 ゲンブはゲンブゾーンという特殊空間にシオンたちを引きずりこみ、タイムレンジャー抹殺を企んだ囚人だ。
 その時は運良く脱出できた竜也とユウリの活躍により、ゲンブゾーンを破壊することが出来た。
 しかし、それはゲンブの囚人データという事前情報があったからこそ成功したことだ。
 ここに拉致されて数時間、情報はまだわずか。新たな情報を得るために使える支給品があればと思ったが、予測していたことだが武装ばかり。


108:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:38:36 TQjSMP470
(通信はできないみたいですし、あとはクロノスーツの分析機能でどこまで分析できるか……)
「朝か、この日の光が俺たちに味方してくれればいいが」
 シオンの思考を遮り、傍らにいたドギーが言葉を口にする。
「シオン、そろそろ移動しないか?傷の具合も、大分楽になった」
 シオンはドギーの言葉が強がりだとすぐにわかった。
 手当てをしてから2時間弱。その程度の時間で回復するほど浅い傷ではないのは、手当てをしたシオンが一番よくわかっている。
 だが、同時にシオンはドギーが強がるわけにも察しがついた。
 日が昇り、明るくなった今なら仲間との合流も手がかりの探索もやりやすくなる。
 しかし、それは襲撃者にも狙われやすくなるということ。ドギーには早く合流し、守りたい仲間がいるのだ。
「……そうですね。じゃあ、行きましょうか」
 シオンはドギーに手を差し伸べる。
「ああ」
 そして、ドギーはその手を握り、立ち上がった。



「邪魔だとは思わないのか?」
 移動するための身支度を整えている最中、グレイはシオンに声を掛けた。
「邪魔って、何がですか?」
「ドギー・クルーガーだ。あの様では足手まといにしかならない」
「グレイさん、僕はドギーさんと一緒に行動するって、約束しました。僕は約束を守ります」
「その結果、手遅れになることがあるかも知れんぞ」
 グレイの言いたいことはわからないでもなかった。一刻を争う今の状況で、最も効率的に動こうと思うなら、シオンひとりで動くのがベストだ。
「そうかも知れません。でも、もうドギーさんも、グレイさんも仲間ですから。
 仲間が危ない目に遭うかも知れないのに放っては置けませんよ。グレイさんがドギーさんを守ってくれるって言うなら安心なんですけど」
「断る」
「ですよね」
 困ったような笑みを浮かべるシオン。
 グレイは一瞥し、踵を返すと、スコープを手に、再び窓から外を見た。
「要はお前の代わりにドギー・クルーガーを守る奴がいればいい。そうすれば、お前は動ける……少し待っていろ」
「グレイさん、待ってろって、どこに行くんですか!?」

109:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:39:35 TQjSMP470
 制止の声を上げるシオン。だが、その声に構わず、グレイは廃工から出て行った。



「ふぅ、やっと街が見えてきたな」
 ようやく都市エリアへと辿り着いたことに、レッドレーサー、陣内恭介は安堵の溜息を吐いた。
 4時間近く歩き続けた足は棒のようだ。恭介としてはそろそろ休憩したいところだが―
「ええ、でもここからが本番です。きっと数多くの参加者がここにいるはずですから」
 同じ距離を歩いてきたというのに、同行者である西堀さくらはまったく疲れを見せない。それどころかやる気満々だ。
 その様を見ると、男のプライドというやつが邪魔して、恭介の方から休みたいとは言い出せなかった。
(ええぃ、しょうがない。仲間を見つければ情報交換という名目で休憩ができるはずだ)
「よぅーし、さっさと仲間を見つけて、ここから脱出だ!」
 恭介は自分を鼓舞するかのように腕を天に突き上げ、大声を上げた。
「早速、誰か来たようですね」
「なに?」
 恭介が視線を向けると、正面からガシャッ、ガシャッと足音を鳴らし、こちらに近づいてくる黒づくめの男が見えた。
「あれはロボット?」
 距離が狭まるにつれ、その姿が明らかになっていく。
 赤い線状の眼に、黒い硬質的な身体。胸の透明なカバーからは複雑な回路が視認でき、相手が明らかに生命体でないことを示している。
「味方なのかな?」
 問いかけると、さくらはあからさまに渋い顔をした。
「見た目で判断してはいけませんが、かなり怪しいですね」
 少なくともさくらが知る限り、SGSのデータバンクでは見てない顔だ。
 やがて、さくらたちから1メートル程度の位置に来ると、ロボット―グレイは歩みを止め、言葉を紡いだ。
「一緒に来てもらおう」
「用件は?」
「来ればわかる」
「断ったら?」
「力ずくでも連れて行く」
 さくらとグレイの間に一触即発の空気が流れる。さくらはグレイを、グレイはさくらだけを見ていた。
「おーい、俺もいるんだけど」

110:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:40:17 TQjSMP470
「………」
「………」
「無視かよ」
 恭介のツッコミを余所に緊張感は極限にまで高まっていた。後はどちらが先に動くか。
「……追ってきたか」
 しかし、その空気はグレイ自らによって破られた。グレイが振り向くや否や、聞こえてくる声。
「グレイさーん!」
「お前、何をやっている!」
「ふん」
 グレイが向いた先に視線を合わせると、駆けて来る緑色の髪の青年。そして―
「犬?」
「違います。あれはアヌビス星人です。……どうやら敵ではなかったようですね」
 さくらはひとりで納得すると、グレイと合流した二人に声を掛ける。
「はじめまして、ドギー・クルーガーさんですね」
「そうだが、君は?」
「申し遅れました。私は西堀さくら。ボウケンジャーというより、サージェス財団に所属していると言った方がわかりやすいでしょうか」
 サージェス財団と聞いて、恭介を初めとした皆は反応を示さなかったが、ドギーには通じたらしい。
 徐に頷き、意を得たりといった様子だ。
「なるほど、君は俺のことを知っているようだが」
「ええ、宇宙警察地球署のトップともなれば、SGSのデータバンクにも当然登録されています。当然、殺し合いには?」
「ああ、勿論乗っていない。もっとも……いや、なんでもない」
 ドギーは一瞬だけグレイに視線を向けたが、直ぐに視線を戻す。それをさくらは訝しげに思ったが、今は聞くべきことではないと判断し、話を続けた。
「私たちも殺し合いをするつもりはありません。ドギーさん、他の仲間たちの捜索とここからの脱出のため、協力していただけますか?」
「ああ、こちらこそ宜しく頼む」
 さくらとドギーは互いの手をがっしりと握った。
「よーし、それじゃあ早速自己紹介だ。俺は陣内恭介、レッドレーサーだ」
「僕はシオンっていいます。宜しくお願いします」
「シオンか。そっちの黒いロボはなんていう名前なんだ」
 恭介はシオンと握手を交わしながら、傍らにいるグレイに声を掛ける。誤解をした分、極めてフレンドリーに。
「グレイ……」
 グレイはそれだけ答えると、恭介たちから一定の距離を取り、大地に腰を下ろした。
 勝手にやってくれということなのだろうか。

111:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:41:11 TQjSMP470
「なんだ無愛想な奴だな」
「大丈夫、照れてるだけですよ」
「そうか」
 何にせよ、他の参加者との合流は恭介にとって休憩のチャンス。
 恭介は情報交換という名目の元、休憩をとるよう皆に勧めた。



(借りを返し損なったか)
 グレイは懐から煙草を取り出すと、ライターとなっている人差し指で、それに火を点けた。
 恭介とさくらの姿はかなり早い内から捕捉していた。それこそ、相手が何者かを分析できるほどに。
 恭介はそれなりに辺りを警戒してはいるものの要所要所で粗が目立った。
 戦闘経験はあるのかも知れないが、錆びついているか、さもなくば慣れていないか。
 どちらにせよ大したことはない。
 一方のさくらはかなり洗練された動きをしていた。
 決して隙を見せず、近場から遠方まで気を配っている。しっかりと戦闘訓練を受けた者の動きだ。
 ジェットマンのように変身すれば、それなりの好敵手になるかも知れない。
 そして、出会って間もないのだろう二人の間にはたどたどしさがあった。
 互いに相手の隙を窺っていないにも関わらずだ。二人とも殺し合いには乗っていない証だろう。
 そこまで分析をしながらも、本来ならグレイはその存在をシオンたちに知らせるつもりはなかった。
 戦士として、グレイが借りを返す最も適切な方法は戦い。
 殺し合いに乗っているのなら、数減らしにも意味があるが、殺し合いに乗っていない人間を殺したところで借りを返したことにならない。
 しかし、ドギーを守る仲間が欲しいことがシオンの願いなら、交渉にも価値があるかと接触を試みた。
 結局、成果とはいえない有様だが。
(やはり戦士とは戦いでこそ、借りを返すもの)
 そのとき、グレイの願いが天に通じたかのように、狂気に満ち溢れた声が響き渡る。
「メガブルウゥゥゥゥッ~!どこにいるんだ?早く出て来いよ~」

112:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:41:51 TQjSMP470
 それはネジブルーが獲物を求める声。
(F5エリア。タワーの頂上か)
 音声情報と事前に確認していた地図情報から、グレイの電子頭脳が場所を割り出す。
「メガブルーだと!」
 そして、それと同時に恭介の一際大きな声が聞こえた。
(どうやら借りが返せそうだ)
 グレイはこれから始まるであろう戦いに、紫煙を燻らせた。

113:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:42:14 TQjSMP470
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康?
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残段数4発) 支給品一式
[思考]
基本行動方針:未定。第一行動方針を果たした後の行動は決めていない
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す

【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー、鬼の石、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す
第一行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。
第二行動方針:グレイとドギーの仲が険悪なので、なんとか懐柔したい。

【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)グレイを警戒
[装備]:マスターライセンス
[道具]:ライフバード、支給品一式
[思考]
基本行動方針:首輪を解除して、ロンを倒す
第一行動方針:仲間と情報交換。
第二行動方針:スワンを探す。


114:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:42:44 TQjSMP470
【名前】陣内恭介@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:メガレンジャーVSカーレンジャー終了後
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康。呼ばれた知り合いの声に驚愕。
[装備]:アクセルチェンジャー
[道具]:芋ようかん×3
[思考]
基本行動方針:殺し合いから生き延びる。
第一行動方針:新たに出会った仲間と情報交換。

【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり)
[装備]:アクセルラー
[道具]:ガラスの靴、虫除けスプレー、虹の反物の切れ端
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:恭介たちと共闘して仲間を増やす。このゲームのルールを把握する。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。


115:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:44:05 TQjSMP470
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想、他指摘事項などありましたら、宜しくお願いします。

116:名無しより愛をこめて
08/06/04 00:55:09 8dsQn8zQ0
さくらと美希の邂逅はやばそうだなw
SGSバンク(おまけのアレかw)ではバイラムの情報はそんなにないのか…確かに敵の画像はあんま出てなかったな。
細かい配慮ですね。
さくらの連れてこられた時間軸的にはおそらくVSを終えているのでテツを通しても
SPDを知っているわけですね。

117:名無しより愛をこめて
08/06/04 01:00:57 BJGerHD+O
>>115
GJです。
それぞれの思惑が絡み合う、今後の展開に期待の募る作品でした。
それにしても、グレイは結構義理堅いw

118:名無しより愛をこめて
08/06/04 01:04:25 8dsQn8zQ0
マリア死亡後だしなぁ…生きるのはついでのついでって感じで死に場所求めているんだろう。
本音なら凱と戦いたいんだろうけど。

119:名無しより愛をこめて
08/06/04 01:18:21 54LCgziB0
義理というよりプライド
…もしくはゲームの中の自分ルールが近いでしょうな。

120: ◆MGy4jd.pxY
08/06/04 11:58:52 VSzdcLOo0
GJ!
グレイとさくらの緊迫した空気が伝わるようでした。
恭介の「無視かよ」に吹きました。
強力ながらも爆弾を抱えたチームの行く末はいかに?

そして、感想、ご指摘感謝します。
ご指摘の件ですが申し訳ありません。確認ミスです。
ご指摘いただいた>>77の一文 、仰る通りです。『に』が多いです。
そしてスワンの変身制限に関してですが、状態表から2時間変身不可を削除し忘れていました。
シュリケンジャーが砂漠を数時間走って、倒れているスワンとあったのが午前三時くらいとして、
SSの最終時刻は午前4時程度と仮定しており、その時点でスワンは変身可能でしたのに。
ちなみに宇宙最高裁からの判決が下りなかったのは、変身以外の機能(通信等)は制限により使用出来ないと解釈していたからです。
一時投下スレにて脱字と状態表を訂正させていただきます。




121:名無しより愛をこめて
08/06/04 18:41:34 ELVi9M9r0 BE:642637973-2BP(1)
壷の話出てるので転載~

【緊急】壷使ってる奴こい
スレリンク(ogame板:182番),189
> 189     名前:マァヴ ◆jxAYUMI09s  [] 投稿日:2008/06/04(水) 15:07:52.28 ID:N6BI44ak ?DIA(100001)
> 壷復旧方法ページ、携帯向け
> つURLリンク(ula.cc)
>
> 携帯から壷の復旧方法を見れるようにまとめました(^_^;
> 携帯から壷の不具合情報を探しているかた、こちらをごらんくださいー

122: ◆MGy4jd.pxY
08/06/04 19:58:05 DUXThJPv0
>>121
あの時は焦りました。
自分もプロバイダーに電話して解決しました。

123:名無しより愛をこめて
08/06/08 19:10:46 dnVFZyi+O
そういえば、映士って菜月と蒼太からすれば、
あんた誰?状態なんだよね。
やっぱり映ちゃんカワイソス

124:名無しより愛をこめて
08/06/08 23:18:48 hqFbSsdf0
そういや、こういった作品で時間軸から抜けた後の世界がどうなってるかって言うのは
気になるな。
歴史が滅茶苦茶になるんじゃないかっていうタイミングから来てる連中もちらほら…

125:名無しより愛をこめて
08/06/09 00:09:11 bdsjAahHO
>>124
一番やばいのはボウケン世界かな。
他は何人か残ってるけど、あそこは全員参加だし。

126:名無しより愛をこめて
08/06/09 00:12:33 az6iFwdw0
枝分かれ時空説が一番便利なんだろうが、そうするとガイが抜けた時間軸でレイが不憫すぎるなw
終盤でチーフや姐さん抜かれるのもきつそうだが。


127:名無しより愛をこめて
08/06/09 01:12:37 bdsjAahHO
逆にそんなに支障なさそうなのはどこだろう。

128:名無しより愛をこめて
08/06/09 01:48:06 az6iFwdw0
むしろ助かるのはジェットマンとか?
凱は消化不良かも知れんけど。

129:名無しより愛をこめて
08/06/09 02:01:43 bdsjAahHO
ゲキレンはその後の世界が大変な事になってるのかな。
明言はされてなかったけど。

130:名無しより愛をこめて
08/06/09 19:28:28 eEHX5FSv0
>>123
裕作さんもあてはまるな。嗚呼、追加戦士の悲哀

131:名無しより愛をこめて
08/06/09 19:33:06 az6iFwdw0
蒼太の場合、ヴリル以前から来てるから真墨はおろか、菜月に心を開いてないけどな。
姐さんとチーフは敬愛対称だろうけど。

132:名無しより愛をこめて
08/06/10 14:56:03 aGpbZwAh0
>>127
555、ギンガマン、アバレンジャーはいたって平和だな。
デカレンは層が厚いんで、なんとかなりそうな気もする。


133: ◆5h3T6s3PXc
08/06/10 23:33:13 lDO2Oxpq0
したらばでも報告しましたが、3日延長をお願いします。

134:名無しより愛をこめて
08/06/11 03:48:30 sWlSpcwiO
了解しました。
お待ちしてます。

135: ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:45:29 k0sTbOOe0
投下いたします。

136:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:46:09 k0sTbOOe0
 竜也は夜の森を疾走していた。
 全速力で相手を見失わないようにひた走る。
「おーい、待ってくれ!」
 速度を緩めてもらおうと、大声を張り上げるが、相手は意に介そうとしない。
 已むなく、竜也は体力の続く限り、走り続けるしかなかった。

 竜也が誰を何のために追っているのか。時間はシグナルマンがメレのため、墓穴を掘っていた頃にまで遡る。

「ねぇ~、なにしてるのか見える~?」
「どうやら、穴掘ってるようだニャー」
 シグナルマンの後方約10m。竜也と菜月、スモーキーの2人と1匹は木陰に隠れ、シグナルマンの動向を窺っていた。
 戦いの気配を感じ、駆けつけた竜也たちだったが、既にその場から争いの鼓動は消えていた。
 何か手がかりはないか。辺りを捜索していたところ、たまたまスコープショットを覗いていたスモーキーがシグナルマンを発見し、様子を見ることになったわけだ。
 代わる代わるシグナルマンを確認したが、その姿に見覚えはない。果たして、敵なのか味方なのか。
「スモーキー!他に何か見えないか」
 高い木に登り、より詳細にシグナルマンを観察するスモーキー。障害物がない分はっきりと見える。
「うーん、なんか隣に美人のねーちゃんが寝てるニャー。でも、ピクリとも動かないニャー?
 ………ニャ!も、も、も、もしかして、殺した娘を埋めようとしてるんじゃ」
 スモーキーは自らの予想に身体を大きく震わせ、思わず木から落ちそうになる。
「慌てるな、スモーキー。仮に女性が死んでいたとしても、彼が殺したとは限らない。
 むしろ彼が殺したのなら、すぐにこの場から離れるのが自然だ。穴を掘ってるのはもしかしたら、墓を造っているのかもしれない」
「お墓造ってるんなら、悪い人じゃないのかも」
「いや、それもわからない。今の段階で断定するのは危険だ。とりあえず、もう少し様子を見よう」
 引き続き、シグナルマンの様子を観察する竜也たち。
 もう少しはっきり見ようと、シグナルマンの傍らにいる女性が見える位置にまで距離を詰める。
 その時、竜也たちの眼前で不可思議なことが起きた。

137:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:46:31 k0sTbOOe0
 突然、死んだと思われていた女性が土を掻き分け、起き上がり、シグナルマンと交戦を始める。
「や、やっぱり、生き埋めにしようとして……」
 再び物騒な推理を行うスモーキー。だが、今は突っ込んでいる場合じゃない。
「あっ、女の人、逃げようとしているよ。どうしよう、竜也さん」
 菜月の問いかけに竜也は迷う。今まで様子を窺っていたが、両者とも敵か味方か、判別することはできなかった。
 はっきりさせるには、やはり一か八か、接触するしかない。
 問題は追うか残るか、竜也は結論が出せずにいた。
 不意に竜也の袖が引かれる。
「竜也さん……二手に分かれよう」
「菜月ちゃん」
 菜月の申し出は、竜也の望んだものだった。もし仲間になることが可能な参加者なら、折角の合流の機会を逃すことになる。
 だが、そうなれば、おのずと自分と菜月は分かれることになる。
 自分に会うまであれほど怯えていた菜月をまたひとりにして大丈夫なのだろうか。
「大丈夫!菜月頑張れるよ!」
「俺様も付いているから、大丈夫。さっさと行くニャー」
 竜也の心情を察し、強気に振舞う菜月とスモーキー。竜也の向く先は決まった。
「2時間以内には戻ってくる。もし、移動しなきゃならない事態に陥ったら、G1エリアの一番高い建物に!」
 そう言うと、竜也は走り出す。
(行っちゃった……)
 あっという間に見えなくなる竜也の背中。菜月はフッと息を吐く。
 菜月の心から恐怖はまだ取り除かれてはいない。
 それどころか、竜也のおかげで抑え付けていた恐怖が、徐々に鎌首を擡げてきている。
 心臓の鼓動が激しく高鳴り、体が小刻みに震える。
 大丈夫なんて嘘だ。本当は怖くて、不安で、どうしようもない。竜也に一緒にいて欲しい。
(だけど、あの娘ももしかして、菜月と同じ気持ちなのかも知れない)
 菜月の眼の前で、女性は気丈にも相手に立ち向かっていった。
 だが、もしかしたら彼女の心も恐怖で押し潰されそうになっているのかも知れない。
 そう思うと、彼女をひとりにしたくはなかった。
(大丈夫。菜月は強き冒険者だもん。スモーキーもいるし。アクセルラーもある)
 一歩、一歩、歩みを進める。女性との接触は竜也に任せた。


138:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:47:05 k0sTbOOe0
 その間、自分はもうひとりの人物と接触しなければならない。
 木々が開ける。掘り起こされた柔らかな土に菜月の足が沈んだ。近づいた気配に、大地に顔を埋めていたシグナルマンがこちらを振り向く。
「あ、あの」
 菜月は恐怖に負けぬよう精一杯声を絞り出した。

 そして、時間は現在に至る。

「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、見失ったか」
 時間は深夜。しかも場所が森となれば、月明かりがあるとはいえ、逃げる相手を捕獲するのは並大抵のことではない。
 竜也とて例外ではなく、右を見ても、左を見ても、相手の姿を捕捉することはできない。
(どうする、諦めて戻るか?いや、あれが使えるかも知れない)
 竜也はディパックの中から3つある支給品の1つを取り出す。それは先がU字型をした杖であった。
「魔人マグダスの杖か」
 魔人マグダスの杖。それは宇宙海賊バルバンのバットバス魔人部隊に所属する魔人マグダスが持つ杖である。
 先が特殊な磁石になっており、目盛りを操作することによって、8種類の中から選択した物体を引き寄せることができる。
 竜也は同梱されていた説明書に従い、目盛りを『人』の描かれている場所に合わせ、杖を適当な方向に向けた。
 説明書には射程距離は書かれておらず、正しい方向に向けているのかもわからない。
 だが、駄目で元々。何もしないよりはマシだ。
「吸着!」
 竜也の叫びに応じ、マグダスの杖は特殊な磁力を迸らせる。
 結論から言えば、竜也が向けた方向には誰もいなかった。当然、いくら竜也が待とうとも、マグダスの杖に吸着することはない。
「なにやってるかしら?」
 しかし、その光景は相手の興味を引きつけるには充分な効果を発揮した。
「うわっ!」
 突然の強襲、木の上に隠れていた相手は竜也の背中目掛けて渾身の蹴りを放った。なす術もなく、竜也は大地に突っ伏す。
 身を起こそうとするが、それよりも早く、相手の足がうなじを踏みしめ、動きを封じる。
「こっちを向いたら、殺すわよ?」
 威嚇しつつ、竜也の手からディパックを奪い取り、中身を漁る。
「おい、俺は戦うつもりはない。俺の話を聞いてくれないか?」
「うっさいわね。後で聞いてあげるから、ちょっと待ってなさい」


139:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:47:31 k0sTbOOe0
 敵か味方か、一刻も早く確認したい竜也を尻目にディパックを漁り続ける。
「あったわ」
 彼女が取り出したものは1リットルの水が入ったペットボトル。
 鏡を見たわけではないが、土に埋められかかった顔は汚れているに違いない。
 特に鼻にはさっきまで土が入っていたのだ。この有様で愛する人に会うには拷問に等しい。
 早速、ペットボトルの封を開けると、水を使い、顔や身体を清めていく。
「ふぅ、とりあえずこんなものかしら」
 3分後、彼女の顔からは土の汚れは完璧に落とされていた。
 その代償として、ペットボトルは空になってしまったが、特に気にすることではない。
「さて」
「ぐぇっ」
 踵で今一度うなじを強く踏むと、竜也に問いかける。
「話、聞いてあげるわ。あなた何者?」
「そ、その前に足をどけてくれないか」
「仕方ないわね」
 渋々、うなじから肩の中心に足を移動する。どうやらこの体勢を改善するつもりはないらしい。
 竜也は内心不満に思いつつも、心を落ち着け、その問いに答えた。
 自分の名前、殺し合いをするつもりはないということ、追って来た経緯。
 対して、相手はメレという自分の名前だけを告げた。これでは敵か味方か判断に困る。
 菜月と同じように怯えているのかも知れないと、竜也は懸命に説得を行った。
「だから、俺は君に敵意があるわけじゃないんだ。ここから脱出するため、協力しあえないか?」
 しかし、メレは竜也を訝しげに見ると、言葉を紡いだ。
「口だけじゃ信用できないわね。態度で示してもらわないと……理央様を見つけて、私の元に連れてきなさい」
「理央様?あのロンが最初に話しかけていた男か」
「そう、お前が理央様を連れてくれば、信用してやるわ」
 これで話し合いは終わりとばかりに、メレは竜也をもう一度強く踏みつけると、一目散に走り出した。
 手には竜也のディパックとマグダスの杖。竜也が制止の声を上げるが、メレは止まらず駆けていく。


140:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:49:59 k0sTbOOe0
 メレは元々竜也を信用するつもりはなかった。ロンに騙された経験から、メレはもう易々と誰かを信用するつもりはない。
 それこそ、理央と自分を引き合わせれば別だが、期待するつもりもない。
 奴隷として扱き使う手もあったが、ゲンギが使えない今、どのような力を持っているかも知れない相手と共に行動するのは危険すぎる。
「まあ、支給品を補充できただけでも好しとするべきよね」
 メレは愛する理央のために生き、愛する理央のために戦う。その心情に並び立つ者は必要なかった。
「おーい、見つけたらどうやって連絡すればいいんだよ!」
 そのことを知らない竜也の声が森に空しく響き渡る。追おうとも思ったが、メレの態度は明らかな拒絶。同じ結果しか生まないだろう。
 結局、竜也が得たものはメレという名前だけであった。

 一方、その頃菜月たちは

「本官はチーキュの住民は脈も心臓の鼓動もあるものだと思っていたんだ。しかし、まさか脈や心臓の鼓動が止まっていても生きていられるなんて」
「菜月には脈も鼓動もあるけど、もしかして、ない人もいるかも知れないね」
「そんなわけないニャー」
 和んでいた。 


141:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:50:19 k0sTbOOe0
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:C-5 森林 1日目 深夜
[状態]:健康。交渉に失敗して、軽く凹む。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間を探す
第一行動方針:菜月の元へ戻る
第二行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第三行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考:クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。他の参加者のバックの中か、どこかに隠されているかは不明です。

【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:健康。まだ僅かに怯えあり
[装備]:アクセルラー、スコープショット、マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:シグナルマンとスモーキーと一緒に竜也を待つ
第二行動方針:竜也の仲間を探す


142:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:50:43 k0sTbOOe0
【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:健康。マジランプの中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルと麗を探す
第一行動方針:菜月を守る

【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:健康。死んでない人を埋めてしまってショック。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(1個使用済み)数は不明、その他は不明。メレの支給品一式。メレの釵。
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第二行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。


143:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:53:03 k0sTbOOe0
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:C-5 森林 1日目 深夜
[状態]:30分獣人体への変身不可。鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷。顔を除き、体中に多少の土の汚れ
[装備]:マグダスの杖
[道具]:竜也の支給品一式(ペットボトル2本消費)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:ゲンギが使えない原因を調べる。それまで撤退。
第二行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。
備考:リンリンシーの為、出血はありません。脈や心臓の鼓動も元々ありません。支給品一式はシグナルマンに回収されました。
 また、竜也の支給品はマグダスの杖の他に2品あります。

144: ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:53:28 k0sTbOOe0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想、他指摘事項などありましたら、宜しくお願いします。

145:名無しより愛をこめて
08/06/12 00:31:22 esRXYjgGO
>>144
GJです。
うん、わかってた事ですけど、メレは存外抜けてますねw
それにしても、シグナルマンといい、竜也といい、
メレに関わると、男性陣は色々と報われないw
最後の一文には盛大に和ませて頂きました。
GJ!

146:名無しより愛をこめて
08/06/12 00:43:58 hqibyXru0
投下乙です。

竜也がメレ相手に苦労している最中なのに、
残った2人と一匹が、のほほ~んと会話している様が、脳裡にくっきりと。
力強い味方と言うより、竜也にとって頭痛のネタが増えただけような気がw
GJでした。

147:名無しより愛をこめて
08/06/12 19:51:56 jeL0RL43O
投下乙です。
ペットボトルの水で綺麗に顔を洗い、竜也に理央を捜してみろと言うメレ、彼女の純愛と強がりが意地らしい!
GJです!

148: ◆i1BeVxv./w
08/06/12 22:33:56 4ewbZAL90
感想ありがとうございます。

いくつか自己ツッコミを

>>137
「2時間以内には戻ってくる。もし、移動しなきゃならない事態に陥ったら、G1エリアの一番高い建物に!」
離れいる上に遺跡を指定するのは明らかに不自然ですので、G1エリアの箇所をD6エリアに修正いたします。

>>141-143
[現在地]:C-5 森林 1日目 深夜
メレの状態の変身時間の記載から考えて、深夜より黎明の方が適切かと思いましたので、黎明に修正いたします。

プロットに影響していましたら、申し訳ありません。。。


149:名無しより愛をこめて
08/06/13 01:37:29 ylPcNRWU0
投下乙です!
ああ、何でシグナルマンたちは和んでいるんだw
スモーキー、唯一の突っ込みとしてがんばってくれw
竜也がんばれ。超がんばれw
GJ!

150:名無しより愛をこめて
08/06/13 20:58:39 pYQ0fIrlO
◆5h3T6s3PXc氏の予約延長期限がそろそろですが、ご進行具合はいかがですか?

151: ◆MGy4jd.pxY
08/06/13 23:54:27 NrxastjC0
自分も今日が期限です。
遅くなりましたが投下いたします。

152: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:03:15 Q/3sMbKy0
「待て!闇雲に走るのは危険だ」

そこは、スラムと呼ぶに相応しい薄汚れた街だった。
ゴミ溜と汚水に塗れた路地を走るは二つの影。
冥府神ティターンは懸命にマーフィK9を追っていた。

「待てと言うのに!」

マーフィを見失わぬよう追いかければ、辺りへ払う注意が疎かになる。
ティターンの声に焦りが混じり、その手に力が篭る。
無防備に街へ踊りでれば殺してくれと言わぬばかりの状況だ。
先程の狙撃にしても弱者が我が身を守ろうとしたが為か、殺し合いに乗ったが為かは解らない。
ただ一つ学んだのは、互いに殺し合いに乗っていよういまいが、その意志に関わらず命を落としかねないと言う事。

守ると決めた命。
ティターンはその命を懸命に追っていた。
当のマーフィはティターンの声など気にかける様子もなく、泥水を跳ね上げ一目散に駆けて行く。

「どこかを目指しているようだが……」

スピードに乗ったマーフィは大きく弧を描き角を左へ曲がる。

153: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:03:52 Q/3sMbKy0
そこから先は一本道。
スラムを隔離する煉瓦の壁がマーフィの行く手を遮りその姿を見失わずに済んだ。
一歩、その先の一歩をより大きく踏み出し、巨体とは思えぬ速さでマーフィを追う。
一向に差は縮まらないが道はいつか分かれる。分かれれば見失う。
ティターンは歩を緩めず進む。

やがて左方向は砂漠、右方向は採掘場へと続く別れ道へ差し掛かる。
行く先に迷ったマーフィの足が止まるのを逃さず、一息で駆け寄り後ろから優しく抱きかかえた。
そして自分の目線まで軽々と持ち上げ、諭すように語りかけた。

「俺は無益な殺生は好まない。だがここは殺し合いの場なのだ。やみくもに走り回られては困る。どこかで朝まで身を隠そう、解るか?」

ティターンの気持ちを汲んだのか、マーフィは「バゥ」と一声鳴くと大人しくなった。


154: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:05:23 Q/3sMbKy0
§


「お前の名はマーフィと言うのか」

やっと支給品の詳細に目を通し、マーフィを従えたティターンは、採石場の方向へ足を進めた。

数十メートル切り出された岩肌と切り出した山積みの岩とが強固な城のようにそびえている。
城下町の如く点在した炭坑夫たちの休憩所も見える。
その横にもいくつか小屋があり、身を隠すに適当な、とりあえずの安息の場としては充分な地形だった。
そのうちの一つを目指し歩きながら、ティターンは胸の中でひとりごちた。

(あの人間はどうしただろう。もう一人の男の手当が間に合えばよいが……)

ティターンの思考はマーフィの唸り声で中断された。
何事かとマーフィをみやったティターンの足元が陰った。

「貴様……人の姿をしているが、人ではあるまい」

その声の主は闇を従え瓦礫の上を闊歩する。
威風堂々たるその姿は、冥府神さながらの威厳とカリスマを備えていた。
この男とやり合えば、どちらも無事ではすまない。タゴン、いやイフリートにも匹敵するとティターンは判断した。

155: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:06:07 Q/3sMbKy0
ティターンはマーフィを退かせ男と対峙した。

「我が名は冥府神ティターン」
「冥府神だと?」

ティターンの名乗りを男が嘲笑い、遮る。

「冥を司るのは、この冥王ジルフィーザただ一人!神などいらぬわ!!」

言い放つやジルフィーザは高く跳躍した。
月光を侵食する禍々しきその姿。ティターンの背を戦慄が走る。

「逃げろ!時間はこのティターンが稼ぐ」

そう叫び、マーフィを崩れ落ちる岩からディオネを守る壁で守る。
すかさず切り立つ岩盤を駆け上がり、ジルフィーザと同じ高さへ飛ぶ。

ジルフィーザは槍の上部を持ち斬りかかる。
ティターンは下方から雷型の刃先で斬り止める。
腕に伝わるズシリとした重み。

156:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:06:49 dQbTWW1i0
 

157: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:07:07 Q/3sMbKy0
空気を震わせ弾け飛ぶ火花。

ガキンッ!

金属音が耳を劈く。
ジルフィーザは衝撃をバネにより高く跳ぶ。
片やティターンは衝撃により地へ弾かれた。
ジルフィーザは片手に持ち換えた槍で円形を描き斬りを止めずにティターンの間際へ着地した。
ティターンは下がりかわす。
だが間髪いれずに次の突きが迫る。
しなる槍が獲物を狙う蛇のように追いかけてくる。
ティターンは体を右向きにして槍の刃先に左手を添えジルフィーザの一撃を捌く。

「いつまでもかわし続けられまい!」

ジルフィーザはティターンの喉元目掛け、突く。
右後ろへ飛び避けるティターン。
右肩すぐのところで切っ先の髑髏が口惜しげに空を切る。
髑髏が向こうへ引き寄せられるように遠のく。
否、遠のいたように見えただけだ。
突きを避けられたジルフィーザが腕をしならせ刃を返し横一閃に斬ってきたのだ。
しかし一瞬早くティターンは上体を低く下げ、ジルフィーザの腕の下へ滑り込む!

158:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:07:46 dQbTWW1i0
 

159: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:08:29 Q/3sMbKy0
ウラノスとガイアの怒りを背中に沿わすように逆手で握り、そのまま左足を踏ん張り左肩を突き出した。
攻撃をかわされ前方へ崩れてくるジルフィーザの腹部へ体当たりを食らわす。
ジルフィーザは素早く槍を下げそれを受けとめ、ティターンを押し戻そうと腰を落とし堪える。

「もう退け。俺は殺し合いには乗るつもりはない!」
「!」

力と力がぶつかり合う。冥府を司る王と神とのぶつかり合い。
踏みつけた小石が砕けた音を引金に、激闘を制す為ティターンは体を捻りジルフィーザの力の方向をずらす。
右腕の方の刃を下手から掬い上げ、ジルフィーザがそれを避けると共に、ティターンは数歩後退り距離をとる。
掌を空へ掲げ雷型の槍先より出現し光球を両者の間へ放った。

砂煙を上げ光球が爆ぜる。
互いの姿は煙に紛れ、しばし両者とも動けずにいた。
先に動いたのはジルフィーザ。
槍を上手に構えティターンへにじり寄る。

「マーフィを守りたいだけだ。俺は、無益な殺生は好まぬ」

緊迫した空気の中、ジルフィーザが問う。

「……誰かと出合ったか?」

切羽詰まった声にティターンは直感した。自分は試されているのだ。ジルフィーザは殺し合いに乗っていない。

160:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:09:55 dQbTWW1i0
 

161: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:10:28 Q/3sMbKy0
刺すような視線を感じながら、真正面からジルフィーザを見据え、その問いに答えた。

「二人の、若い男と……」
「ならば、もう貴様に用はない」

ジルフィーザゆっくりと槍を降ろしティターンに背を向け立ち去ろうとした。

「誰を捜している?」
「弟を、我が末弟ドロップを捜さなければならん」

振り返ったジルフィーザは巨漢に似合わぬ小さな溜息を吐いた。

「なぜ襲ってきたのだ?」
「ティターンよ、お前が血と争いを好むとしたら、手を止めず殺していた。
ドロップの身を危険にさらす芽は刈り取らねばならん。
争いに乗っていないと確実にわかるまでは、迂闊にドロップの名を明かす訳にもいかぬ」
「弟の命を守る為か……」

ジルフィーザの表情から先程までの険しさが消えていた。
冥王の比類無い威圧感をぬぐい去った、家族の無事を渇望する兄の顔だった。
兄には弟妹を支える義務がある。
命を守る その決意の源となった芳香とオニイチャンとの出会いに思いを馳せた。


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