08/05/30 21:19:41 t7WgOTZ3O
大変申し訳ありません。
期日に間に合いそうもないので延長をお願い致します。
51:名無しより愛をこめて
08/05/30 22:09:31 hBJ/z2/pO
>>50
了解しました。楽しみにお待ちしております。
52:名無しより愛をこめて
08/05/31 02:51:22 IvxcLJfh0
>>50
リョウカイです。期待しております。
53: ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:31:40 kMolMV5m0
投下します
54: ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:32:17 kMolMV5m0
仲間と合流する為には、最も人の集まりそうな場所に行く必要がある。
とりあえず都市部へという事になり、北へ向かおうとした、その時だった。
支度を終え立ち上がろうとした小梅が、小さく悲鳴をもらし、その場にうずくまった。
その手は庇うように右足首にあてられている。
「挫いたか?」
訊ねると、痛みに眉を寄せながら頷く。
「ちょっと痛むなーとは思ってたんだけど・・・・・・」
察するに、先程砂に足を取られた時に挫いたという所だろうか。
小梅は顔をしかめながら、バックからペットボトルを取り出すと、足首に宛がった。
ただでさえ砂地は足に負担をかけるというのに、これでは長時間歩かせるのは、不可能に近い。
だが、このままこの場所にいるというのも問題があった。
周りは砂や流木ばかりで、殆ど遮蔽物が無い。
しかも波の音に掻き消され、人の気配を察する事さえ難しい。
これでは的にしてくれと言っているようなものだった。
考え込みながら周囲を見渡すと、少し先に岩陰が見えた。
本来は、あまり動かさない方がいいのだろうが、今はそうも言っていられない。
岩場まで移動する事に決めると、映士は小梅に手を差し伸べた。
55:桃色天然娘 ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:33:21 kMolMV5m0
■
移動する際にも一悶着あったが、
「ヤダ、高丘さん。胸触ったー!」
「今の胸か?」
「・・・・・・セクハラで訴えてやるー!!」
「馬鹿な事言ってないでとっとと負ぶされ!」
「バカって言うなー!」
それは、また別の話である。
■
「これでよしっと」
アンダーシャツの裾を細長く裂き、テーピングの要領で足首に巻きつける。
一連の作業を終え、映士は顔を上げた。
「このままじっとしてれば、朝には少しはマシになってるだろ」
「ありがとう。もう大丈夫だから、高丘さん先に行って」
これじゃ、足手まといだし。そう付け加えると小梅は笑った。
「いいや、俺様も朝までここで休憩だ」
あー、重かった。映士は真向かいに腰を下ろすと、うそぶきながら肩を叩く。
56:桃色天然娘 ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:34:05 kMolMV5m0
「えー、太ったかな。割と軽い方だと思ってたのに」
「あー、チビな分、嵩は少ないかもな」
「そう、チビな分・・・・・・って何言わせるのよ!」
笑いながら拳を振り上げ、ふと真面目な顔つきになると、小梅は静かにそれを下ろした。
ぎゅっと自分の両手を握り締める。
「仲間の事心配だったりしない?」
映士への気遣いと彼女自身の不安とがないまぜになったような声。
刑事という職務上、陰惨な現場は今までいくつも見てきた。
だが、目の前で繰り広げられたあの光景は、小梅の心に暗い波紋を落としていたのだった。
「俺様の仲間はそんな簡単にくたばったりしねーよ」
ポンと小梅の頭に手をやる。
「あんたの仲間もな。ええと、コドー・・・・・・」
「ウメコでいいよ。ありがとう。そう、だよね」
「ああ」
それからは、とりとめのない話をした。
仲間の事、それぞれの世界の事、敵の事、家族の事・・・・・・
初めのうちは、映士の方が話していたが、だんだん小梅の口数が増え、いつのまにか話す方と聞く方が逆転していた。
しばらくは相槌を打ち、時折、疑問を差し挟んでいた映士も、話がのろけめいてきた頃には、聞き流すようになっていた。
ふと、声が聞こえなくなった事に気が付き、映士が遠くにやっていた意識を戻すと、小梅は岩壁にもたれ静かに眠っていた。
かすかに寝息を立てながら上下する肩に、自分のジャケットを着せ掛けると映士は軽く溜息をついた。これで、朝までは静かに過ごせる。
こんな状況下で眠れるとは、順応力が高いと取るべきか、図太いと取るべきか悩むところだが。
その無防備とも取れる振る舞いは仲間の一人を思わせた。
――真墨も苦労してんだな――
心中で呟くと映士は薄く苦笑し、見るともなしに遠くに目をやった。
57:桃色天然娘 ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 19:35:13 kMolMV5m0
■
『・・・・・・・・・・・・す!!』
微かに聞こえてきた声に、映士は沈みかけた意識を無理やり呼び起こした。
未だ、眠り込んでいる小梅を揺り起こす。
「んん、な~に?あれ、ここどこ?」
「寝ぼけてるな、おい」
目をこすりこすり開くと、小梅は映士に微笑みかけた。
「あ、高丘さん。おはよう」
「映士でいい。いいか、しっかり目覚ましてよく聞けよ。
こっちに誰か向かって来てるらしいから、様子を見に行く。もし、20分経っても戻らなかったら、一人で逃げろ」
「そんな・・・・・・」
「その足じゃ、とっさの時に逃げられないだろ。心配すんな。俺様はそう簡単にくたばったりしねーよ」
小梅は何か言いたげだったが、映士はあえて遮ると踵を返した。
「・・・・・・いってらっしゃい」
「おう」
後ろ手に手を振り、そのまま岩陰から足を踏み出した。
「さあて、クエスターが出るか、ロンがでるかってとこか?」
58: ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 19:47:52 sSUQWFIqO
大変申し訳ありません。
今日が期限で今から投下しようと思ったのですが、家のパソコンからネットに接続する事ができません。
なんとか日付が変わるまでにとはおもいますが、もし間に合わない場合、お許し頂けるならば、明日正午から一時までのかならず投下いたします。
ですが決まったルール上、予約を破棄した方がよければその意見に従います。
意見をお待ちしております。
59:名無しより愛をこめて
08/06/02 20:10:48 U+7TQt8Q0
>>58
了解しました。投下お待ちしております。
それでは、代理投下を始めます。
60:桃色天然娘代理
08/06/02 20:11:22 U+7TQt8Q0
【名前】高丘映士@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:J-6海岸 1日目 黎明
[状態]:健康
[装備]:ゴーゴーチェンジャー
[道具]:ボウケンチップ、後は不明(確認済)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:声の正体を探りに行く。
第二行動方針:ガイと決着を着ける。
【名前】胡堂小梅@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回後
[現在地]:J-6海岸 1日目 黎明
[状態]:右足首を捻挫、手に軽い打撲、砂まみれ
[装備]:SPライセンス、拳銃(シグザウエル)、後は不明(確認済)
[道具]:不明(確認済)
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ロンを倒す。
第一行動方針:映士を待つ。
61:桃色天然娘代理
08/06/02 20:11:56 U+7TQt8Q0
103 : ◆Z5wk4/jklI:2008/06/02(月) 19:38:28
最後の最後で規制に引っかかってしまいました。
お願いします。
以上です。
誤字脱字、矛盾などご指摘がありましたら、お願い致します。
代理投下終了します。
62:名無しより愛をこめて
08/06/02 20:13:56 U+7TQt8Q0
読了。
投下乙!
ウメコと映士のやり取りに和みましたw
うん、ウメコはムードメイカーですね。
続きが気になる良つなぎでした。GJ!
63:名無しより愛をこめて
08/06/02 21:24:35 Afzi3F3Z0
真墨を思い出すのが切なくていいですね
既に“くたばっている”ことを知ったとき、映ちゃんはどうするんだろう?
64: ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 21:46:01 EzI7x3/H0
◆Z5wk4/jklI 氏、大変申し訳ありませんでした。
リロードせずに書き込んでしまいました。
本当に申し訳ない。
そしてGJです!
真墨を思い出す映士に涙。
そしてウメコが良いです。
「仲間の事心配だったりしない?」
の台詞はぐっと来ました。
ネットにつながらなかったのは『禁断の壺』のせいだったようです。
もう一度推敲して、一時間後には投下します。
よろしくお願いいたします。
65: ◆Z5wk4/jklI
08/06/02 21:58:22 IrIke/XRO
代理投下&感想ありがとうございます。
>>64
いえいえ、お気になさらずに。投下楽しみにお待ちしております。
66: ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:03:00 EzI7x3/H0
ありがたいお言葉感謝いたします。
いつもながら遅くなりまして申し訳ありません。
ちょっと書き上げるのが苦しいSSでした。
読んで頂ければとても嬉しく思います。
67:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:05:05 EzI7x3/H0
『Trolley problem』
あなたはトロッコに乗り、ある線路を走っている。
砂煙を撒き散らし、スピードをぐんぐん上げ走っていく。
流れる景色にしばし目を奪われた。
再び前方に視線を戻したあなたの目が、線路の上にいる5人の男達の姿を捕らえた。
あわててブレーキを掛けたが、スピードは緩まるどころか速さを増し、全く制御が効かない。
このままでは5人を轢き殺してしまう!
だが、幸いにも線路には支線が伸びていた。
あなたは5人を避ける為、トロッコの進路を変えようとした。
その時……
支線に立つ人影に気付いた。
1人の男が支線の上で立ちつくしている。
このまま線路を突っ走れば、5人を轢き殺す事になる。
進路を変えて支線へ突っ込めば、1人が死ぬ。
分岐点は、もう目の前……
68:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:07:11 EzI7x3/H0
‡
空を飛ぶ鳥の姿もなく、地上を駆ける生物もいない、広大な砂の海。
見渡す限りの砂地が、大きく風紋を織りなす枯れ果てた不毛の地をシュリケンジャーは走り続けた。
その代わり映えしない景色の中、走ること数時間。
長く長く続いた緩やかな砂漣の斜面を登り切った先にあったのは、それまでと同じ砂の海ではなかった。
青々と茂る緑の木々と、月明かりを一杯に受けキラキラと輝く水面が揺れている。
そこは、オアシス。
砂漠という荒野の中で唯一疲れを癒し、安らぎをもたらす場所。
滾々と湧き上がる豊かな水と美しい緑に引き寄せられるように、シュリケンジャーの足が速まった。
オアシスに辿り着いたシュリケンジャーは、不思議な程ほっとした気持ちで緑の木々を眺めた。
遙か昔、行商人たちは半月掛けて砂漠を旅したという。
やっと辿り着いた彼らに、オアシスはきっと同じ安堵を与えた。
とはいえ、同じく砂漠を旅したとて、こちらはたった数時間の旅。
心が疲弊したとはニンジャオブニンジャの名が廃る。
それとも殺し合いの場に駆り出されたのが原因なのか。
どちらにしても修行が足りない。
フッとシュリケンジャーは自嘲じみた笑みを漏らす。
心とは違い、身体に疲れは感じられなかった。
呼吸もさほど乱れてはおらず余力は充分に残っている。
ただ額から吹き出る汗と火照った頬が、ウォーミングアップとしては激しすぎたと訴えているようだった。
栗色のサラサラとしたストレートの前髪を汗が伝う。
汗が瞼を流れる前に、湧水に両手を浸し火照った顔に叩き付けた。
冷たい水が汗と火照りを洗い流す。
すっかり爽快になった顔に曇りのない笑顔が浮かんでいた。
69:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:08:15 U+7TQt8Q0
70:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:09:25 U+7TQt8Q0
71:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:09:33 EzI7x3/H0
シュリケンジャーはそっと頬に手を当て水面を覗き込む。
漣のおさまった水面が、あどけなさの残る端正な横顔を映した。
笑顔、泣き顔、怒った顔、シュリケンジャーは次々と表情を変え水面に映し確かめた。
変装は完璧だった。
「オーケー、これなら完璧だ」
水面に映るシュリケンジャーの面表はハリケンレッドたる椎名鷹介の顔そのものだ。
鷹介に変装していれば、おぼろと出会ったときの説明もしやすいだろうと考えた。
よって、いつものように口調まで変える必要は無い。
幸いにも広間にハリケンジャー、ゴウライジャーたちの姿は無かった。
ジャカンジャとの最終決戦も近い今、戦力たる彼らがこのバトルロワイヤルに巻き込まれなかったのは、せめてもの救い。
シュリケンジャーにとっても、当面の心配と護るべき対象は日向おぼろただ一人だけで良い。
おぼろを護ることを最優先とし、彼女と首輪を解除し帰還する。
ハリケンジャーたちには帰還するまでの僅かな間、一日か二日か、それまで何とか持ちこたえてさえくれればいい。
そして、その間にシュリケンジャーは自らにもう一つの密命を課すこととした。
『このバトルロワイヤルにおいて一の槍、五の槍の二槍を倒す』
シュリケンジャーはサーガインとフラビージョを人知れずこの場で始末するつもりだった。
ジャカンジャの戦力削減は地球の未来の勝利につながる。
「ミーとおぼろは無事に帰還し、ハリケンジャーたちと共に残りのジャカンジャを打ち倒す。そうと決まれば行動開始だ」
掛け声と共に水上を突っ走った。
口調と同じく、シュリケンジャーの思考は明るく楽観的だった。
72:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:11:00 U+7TQt8Q0
73:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:12:00 U+7TQt8Q0
74:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:12:31 EzI7x3/H0
‡‡
「助かっ……た、の…ね」
スワンの瞳から自然に涙が零れた。
起き上がり両手でしっかりと、身を護る鎧のように自分の肩を抱いた。
涙がとめどなく流れていた。
零れ落ちる涙の先、スワンの血を吸った黒ずんだ砂が、凄惨な戦いを明瞭に思い出させる。
『怖かった』身体が震え、唇がわなないた。
脳裏に甦る理央の侮蔑を帯びた視線。
理央はスワンに弁明する暇も与えず、話に耳を傾けようともしなかった。
戦いというには余りにも一方的。あれは、まるでリンチ。
憤りと恐怖でスワンは無意識のうちに身を固くしていた。
理央は言った。スワンが人間を燃やしたと……
いいがかりをつけ、不意打ちを食らわせたのか?
それにしては、スワンを糾弾する理央の様子は真に迫っていた。
「違う、違うわ。私は殺し合いになんか、乗っていない。私は、私はただ反撃の狼煙を……
どれもこれも、私には必要ない殺し合いの道具。それをただ壊しただけ」
スワンの思考を遮るように、砂を踏み締める足音がした。
顔をあげると、いつの間に追い越されたのか、ドギー・クルーガーが森へ向かい歩いていた。
「ドギー!」
スワンはドギーの元へ走った。
だが砂に足を取られ、思うように進めない。
数歩も進めずに倒れ込む。
75:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:13:29 U+7TQt8Q0
76:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:14:10 EzI7x3/H0
不意にスワンを照らしていた月明かりが翳った。
地に映るは黒獅子の影、理央がすぐ後ろに立っていた。
『お前は殺し合いに乗った』
低く唸るような声がスワンの身体を貫いた。
止めを刺しに戻って来た?恐怖に駆られスワンは、砂を掻き這いつくばり前に進んだ。
今度こそ殺される!起き上がり足を速めた。ドギーの名を呼びながら、痛む体をひきずるように、懸命に走った。
だが走っても走ってもドギーの背中に追い付かない。
「ドギー待って!行かないで」
必死の叫びが届いたのか、ドギーがこちらに振り向いた。
安堵したのはほんの一瞬、すぐに悲しみで表情が歪んだ。
ドギーがスワンに向けたのは凍り付いた視線、凶悪な犯罪者たちに向ける目でスワンを見ていた。
その目が次第に激しい怒りの色を増す。
射ぬかれたようにスワンの足が止まる。
「どうして?どうして、そんな目で私を見るの……お願い、話しを聞いて!」
駆け寄ろうとしたスワンは、後ろから羽交い締めにされた。
理央が耳元で囁いた。
『お前が燃やした人間だ。その罪を償え』
体に巻き付いた腕がプスプス音を立て、溶けだした肉が黒く焦げていく。
服が、皮膚が、爪が、黒い煤となって風に散った。
焼け爛れた顔がスワンに頬ずりした。
スワンの口から絶叫が迸った。
77:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:15:46 EzI7x3/H0
‡‡‡
悪夢から目覚めると白衣が包帯に代わりに体に巻きつけられていた。
スワンの前にいたのは理央でも無く、焼死体でもなくシュリケンジャーと名乗る若い男だった。
事の経緯を優しく訪ねてきた彼に、スワンは殺し合いに乗っていないことを説に訴えた。
シュリケンジャーは、その言葉に耳を傾けてくれた。
「私は警察官よ。それに、ここには仲間だっている。きっとどこかでこそこそ見ているロンに宣戦布告しようと、支給品を燃やして反撃の狼煙をあげただけなの。でも、理央の様子は、本当に怒りに駆られていた」
「それでユーは結局の所、理央をスパイだと思ってるのかい?」
「わからない。理央は私が殺し合いに乗ったと思ってるんでしょうけど……」
シュリケンジャーはスワンに肩を貸し、炎の騎馬まで歩いた。
スワンを後ろに乗せ、まるで自分のバイクのように軽々と操る。
「オーケー。どちらにせよ、本当に参加者の誰かが殺されているのかどうか確かめに行こう」
『どちらにせよ』シュリケンジャーの言葉が胸に引っ掛かった。
78:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:16:10 U+7TQt8Q0
79:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:17:55 IrIke/XRO
80:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:19:07 EzI7x3/H0
‡‡‡‡
言葉も出なかった。
理央の言った通り、無残な焼死体がそこにあった。
(きっと、これは悪い夢の続き……)
現実逃避しようとする心を、警察官の誇りが押しとどめる。
シュリケンジャーに肩を借りたまま、焼死体の側へ歩み寄った。
焼死体の側でしゃがみこんだスワンの横で、シュリケンジャーは割れた瓶の破片を手に取り見つめている。
スワンは焼死体を眺めた。
顔を庇ったのか、ボクサーがガードをするような姿勢で死んでいる。
左手には青いメダルの着いたブレスレット。
スワンは腕の間から顔を覗いた。
損傷の酷い下肢や腕に比べ、焼損は少ない。
若く綺麗な女の子。苦悶を浮かべた形相をしているが、知る人が見れば誰だか分かるだろう。
煤が鼻腔内に付着している事から、死後焼却されたものとは考えられなかった。
全体から見て、焼身自殺を図ったのと同じ、炎に包まれることにより吸気中の酸素が欠乏したのが直接の死因。
火に包まれた時に呼吸をしていた、それは生きながら焼かれたことを示す。
いやな汗が背中を伝った。
スワンが反撃の狼煙を上げた時、近くには誰もいなかった。
誰かいたとしても燃え盛る炎に飛び込んだとは考えがたい。
(まさか、人間香水の中身がこの娘?でも、参加者じゃない)
その首には参加者全員に嵌められたはずの首輪が無い。
確かに、殺したのは自分かもしれない。
しかし、この死体は首輪もしておらず、デイバックが残されている訳でもない。
参加者で無ければ、スワンの予想した通り、彼女はロンが用意したスパイ。
その事をシュリケンジャーに伝えようと彼の腕を掴んだ。
硬く力が込められた腕の感触に驚いた。
81:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:19:21 U+7TQt8Q0
82:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:21:44 EzI7x3/H0
シュリケンジャーが小さな声で何か呟いた。
琥珀色をした瓶の破片を握り締めたシュリケンジャーの指の隙間から血が滴り落ちる。
「シュリケンジャー?」
「この破片は何だ!ユーはいったい何を燃やしたんだ!!」
あまりの剣幕に唖然とし、すぐに背筋が寒くなった。
シュリケンジャーがスワンを見る目は、理央がスワンに向けた物と同じ。
怒りに臨気を纏いスワンに拳を振り下ろした目と同じだった。
誤解を解かなければ、頭の中はそれでいっぱいだった。
「何って私は、支給品を……キラ・コローネの人間香水を、亡国の炎に。人間で作った悪趣味な香水を投げ入れただけよ」
「ジーザス!なんて事だ。いいかいスワン、人間香水の中身は『人間』なんだ。人間香水には24時間のタイムリミットがある。つまりそれまでに瓶を開けていれば中の人間は解放されたんだ!」
「だって、そんなこと知らなかった……でも、彼女の首元を見て?彼女には首輪が無いでしょう。おそらくロンの刺客よ。うっかり開けてしまえば私が殺されていたかもしれないのよ!」
堪え切れず声を荒げた。
83:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:22:23 U+7TQt8Q0
84:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:23:11 KiYUvRQ70
85:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:23:57 U+7TQt8Q0
86:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:24:15 KiYUvRQ70
ageてスマソ
87:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:24:38 EzI7x3/H0
シュリケンジャーは大きく息を吐き出し、哀れみを湛えた上目使いでスワンを見た。
「……ユーは、とんでもない勘違いをしている。これはミーの仲間。ハリケンブルー、野乃七海さ」
「あなたの仲間?」
「そう、その焼死体がミーの仲間。キラ・コローネは宇宙忍法香水固めの術で人間を香水にするジャカンジャの中忍。ミーが倒したはずなのに!」
私が罪の無い人間を殺してしまった?
そんなつもりじゃなかった。
知らなかったんだもの。
いいえ、知らないではすまされないわ。
私が殺した。
わたしが殺した。
わたしがころした。
ワタしがコロした。
ワタシガ罪ノ無イ人間ヲ殺シテシッマタ?
「スワンさん?」
名を呼ばれスワンは我に帰った。
スワンさん?
スワンは可笑しかった。どうして犯罪者をさん付けで呼んだりするのだろう。
88:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:26:06 KiYUvRQ70
89:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:26:17 U+7TQt8Q0
90:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:26:48 IrIke/XRO
支援
91:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:27:18 EzI7x3/H0
渇いた笑いが漏れた。
「ごめんなさい。私が殺したのよ……」
「誰もそんな事は言っていない」
「いいえ、結果としてはそうだわ。人間香水なんて、名前の意味をよく考えれば簡単に想像は付いた」
顔を強張らせ、後ろへ退いた。
炎の騎馬へまたがりエンジンを掛けた。
咄嗟に身構えたシュリケンジャーを見て、やはり自分は犯罪者なのだと痛感した。
「どこへ?」
「罪は、自分で償うわ……でも、私は皆のために、ドギーのために。首輪を解除して脱出しようと思っただけなの。お願い、それだけはわかって」
シュリケンジャーの姿が見え無くなるまで駆けた。
振動で胃の辺りが酷く痛んだ。
構わずスピードを加速する。
ごめんなさい。
誰に言うわけでもなく、すべて人に向けて思う。
涙で滲んだ視界を、瞼で閉ざした。
衝撃音が森に響いた。
感覚は曖昧だった。
地に叩き付けられた身体よりも、むしろ身体の中、胸の奥が熱く痛かった。
92:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:27:54 U+7TQt8Q0
93:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:29:24 EzI7x3/H0
肩で息をしながら、薄汚れた血を吐きながら、SPライセンスをかざし最後のジャッジメントをコールする。
「チーニョ星人、白鳥スワン。殺人の罪でジャッジメント……」
警察官としての誇りは捨てない。
自分のした罪から逃れる事はしない。
抹消処分罪状は殺人罪、宇宙最高裁判所はきっとデリート許可を出す。
命が尽きる前に、ジャッジが降りるはず。
なのに、宇宙最高裁判所からの判決はいくら待っても来ない。
死んで罪を償いたいのに、いつまでも死なせてくれない。
「私には、裁きを受ける権利も無いの?」
白いSPライセンスが暗い闇の色に同化していく。
悪夢と同じく、ただスワンの前には目の眩むような絶望しかなかった。
94:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:30:22 U+7TQt8Q0
95:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:30:52 EzI7x3/H0
‡‡‡‡‡
シュリケンジャーはデイバックから取り出した白衣の切れ端で、爛れた七海の顔をそっと隠した。
「七海……あの時、キラ・コローネは倒したはずだったのに……生命の復活か、ロンが広間で言ったのはあながち嘘じゃなかったわけだ」
キラ・コローネを復活し、七海をもう一度香水にした。
人知れず参加者を集め、命までも操る。
とんでもない奴を相手している、そう思うと背中に薄ら寒い物を感じる。
森の奥から衝撃音が聞こえた。
だがシュリケンジャーは振り返ろうともせず、考え倦ねいていた。
ジャカンジャの地球侵攻の理由である『アレ』を出現させるわけにはいかない。
このままおぼろだけを連れて帰ったとして、七海の抜けた穴をどうする。
そうでなくとも、未熟な戦士たち。一人といえども戦力を欠いたままでは、地球の未来が、人類の存亡が危うくなる。
かといって、殺し合いに乗るならば、おぼろを含めた参加者全員を殺さなければならない。
だが最終決戦に、おぼろと七海の二人は絶対に欠かせない。
ならば、シュリケンジャーの選ぶ道は一つ。
殺し合いに乗る。
このバトルロワイヤルに勝ち残り、おぼろと七海を生き返らせ、五体満足で帰還させる。
もし、二人生き返らせるのが無理ならば、アレを消滅させるよう願い、地球を救えば……
二人の死は、無駄にはならない。
顔を捨て名を捨て、影となりて敵を討つ。
それが忍者の定め。
地球を、未来を、御前様を護る為ならば、たとえどんなに誤った選択だとしても、どれほど己の手が血で汚れようとも、使命を全うする。
ニンジャオブニンジャ、シュリケンジャーの選んだ道なのだから。
96:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:32:54 U+7TQt8Q0
97:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:33:11 EzI7x3/H0
【名前】白鳥スワン@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:第46話『プロポーズ・パニック』後
[現在地]:B-9森 1日目 黎明
[状態]:2時間変身不可。全身打撲。背中に大ダメージ。内蔵損傷。
[装備]:SPライセンス
[道具]:炎の騎馬、支給品一式
[思考]
基本方針:気絶中
【名前】シュリケンジャー@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三後
[現在地]:C-10森 1日目 黎明
[状態]:健康。
[装備]:シュリケンボール
[道具]:確認済み
[思考]
基本方針:殺し合いに乗る。
第一行動方針:七海とおぼろを五体満足で帰還させる。
第二行動方針:それがだめならアレの消滅を願う。
備考
・シュリケンジャーは変身に制限があることに気付きましたが、具体的な時間は気づいていません。
98:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:34:05 U+7TQt8Q0
99:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:36:18 EzI7x3/H0
以上です。
訂正が一つありました。
>>95の
誤>>二ンジャオブニンジャ、シュリケンジャーの選んだ道なのだから。
正>>それがニンジャオブニンジャ、シュリケンジャーの選んだ道なのだから。
100:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:38:11 U+7TQt8Q0
投下乙!
殺し合いに乗ったシュリケンジャー……
自分で自分をジャッジメントするスワンさん……
いずれも切なく、かつ上手く運んでおり、面白かったです。
GJ!
101:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:38:22 EzI7x3/H0
感想、指摘等をよろしくお願いします。
102:Trolley problem ◆MGy4jd.pxY
08/06/02 23:40:52 EzI7x3/H0
さっそくの感想ありがとうございます。
103:名無しより愛をこめて
08/06/02 23:43:35 IrIke/XRO
>>101
GJです!息を飲み、言葉もでない。
まさしく圧倒される作品でした。
シュリケンジャーの決意と、自分を殺そうとするスワンさんが胸に来ます。
本当にGJでした。
104:名無しより愛をこめて
08/06/03 00:41:50 PpLlpb9Z0
つーか、本当に七海だったのか…いきなり焼死体で登場とは…!
フラビなら大喜びしそうだなぁ…そういう話かこうかしら?
105:名無しより愛をこめて
08/06/03 22:30:19 cK7hLS1o0
遅ればせながら、お二方ともGJ!
桃色天然娘>
ウメコに菜月を重ね、真墨を思い出す映士が格好よかったです。
後々それがどういう影響を与えるか不安ながら楽しみになりました。
Trolley problem>
人間香水の正体。それに伴って、シュリケンジャーのまさかのマーダー化。
そして、自暴自棄になっているスワンさんなど、鬱な方向に見所満載の作品でした。
少々指摘ですが、
>>77の一文
悪夢から目覚めると白衣が包帯に代わりに体に巻きつけられていた。
たぶん『に』が余分かと。
あと、スワンさんの変身制限時間ですが、1時間30分が妥当ではないでしょうか。
106: ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:37:39 TQjSMP470
投下します。
107:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:38:04 TQjSMP470
シオン、ドギー、グレイの3人はG4エリアにある廃工場にいた。
重症を負ったドギーが休息している傍らで、シオンは3人のディパックの確認を行い、グレイはライフルから取り外したスコープで窓から外の様子を窺っていた。
シオンの支給品は元から左手に装着していたクロノチェンジャーに加え、カブトムシ型の銃―ホーンブレイカーとダイヤモンドより固いといわれる石―鬼の石のふたつ。
一応、当たりの部類に入る支給品だろう。
ドギーの支給品はライフバード。5つのレスキューツールを組み合わせた鳥型のマシンだ。
ただ、レスキューツールを使用するためにはレイザーグリップが必要になる。残念ながら今のシオンたちにはガラクタでしかない。
そして、グレイの支給品は遠距離射撃用ライフル。正式名称はM24、軍用のスナイパーライフルだ。
30世紀から来たシオンにとっては相当古い型になるが、遠距離からの攻撃と索敵を可能とする優秀な支給品である。
だが、結局その支給品の数々もシオンが求めていたものではなかった。
「日が昇りましたね」
窓から入ってきた日の光に気づき、シオンは呟いた。
今いる場所がいつで、ここがどこなのかはわからない。
20世紀なのか、30世紀なのか。地球なのか、別の星なのか、それとも異空間なのか。
だが、少なくとも夜があり、朝があることがわかった。
何気ない情報だが、大きな謎を解き明かすためには、その積み重ねが重要になってくる。
(もしここが異空間だとしたら、首輪を外すだけじゃ脱出できません。ただ強力な武器があっても宝の持ち腐れです。場所を特定する手がかりがないか注意しないと)
シオンはロンダーズファミリーの囚人、狂気の科学者ゲンブとの戦いを思い出す。
ゲンブはゲンブゾーンという特殊空間にシオンたちを引きずりこみ、タイムレンジャー抹殺を企んだ囚人だ。
その時は運良く脱出できた竜也とユウリの活躍により、ゲンブゾーンを破壊することが出来た。
しかし、それはゲンブの囚人データという事前情報があったからこそ成功したことだ。
ここに拉致されて数時間、情報はまだわずか。新たな情報を得るために使える支給品があればと思ったが、予測していたことだが武装ばかり。
108:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:38:36 TQjSMP470
(通信はできないみたいですし、あとはクロノスーツの分析機能でどこまで分析できるか……)
「朝か、この日の光が俺たちに味方してくれればいいが」
シオンの思考を遮り、傍らにいたドギーが言葉を口にする。
「シオン、そろそろ移動しないか?傷の具合も、大分楽になった」
シオンはドギーの言葉が強がりだとすぐにわかった。
手当てをしてから2時間弱。その程度の時間で回復するほど浅い傷ではないのは、手当てをしたシオンが一番よくわかっている。
だが、同時にシオンはドギーが強がるわけにも察しがついた。
日が昇り、明るくなった今なら仲間との合流も手がかりの探索もやりやすくなる。
しかし、それは襲撃者にも狙われやすくなるということ。ドギーには早く合流し、守りたい仲間がいるのだ。
「……そうですね。じゃあ、行きましょうか」
シオンはドギーに手を差し伸べる。
「ああ」
そして、ドギーはその手を握り、立ち上がった。
▽
「邪魔だとは思わないのか?」
移動するための身支度を整えている最中、グレイはシオンに声を掛けた。
「邪魔って、何がですか?」
「ドギー・クルーガーだ。あの様では足手まといにしかならない」
「グレイさん、僕はドギーさんと一緒に行動するって、約束しました。僕は約束を守ります」
「その結果、手遅れになることがあるかも知れんぞ」
グレイの言いたいことはわからないでもなかった。一刻を争う今の状況で、最も効率的に動こうと思うなら、シオンひとりで動くのがベストだ。
「そうかも知れません。でも、もうドギーさんも、グレイさんも仲間ですから。
仲間が危ない目に遭うかも知れないのに放っては置けませんよ。グレイさんがドギーさんを守ってくれるって言うなら安心なんですけど」
「断る」
「ですよね」
困ったような笑みを浮かべるシオン。
グレイは一瞥し、踵を返すと、スコープを手に、再び窓から外を見た。
「要はお前の代わりにドギー・クルーガーを守る奴がいればいい。そうすれば、お前は動ける……少し待っていろ」
「グレイさん、待ってろって、どこに行くんですか!?」
109:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:39:35 TQjSMP470
制止の声を上げるシオン。だが、その声に構わず、グレイは廃工から出て行った。
▽
「ふぅ、やっと街が見えてきたな」
ようやく都市エリアへと辿り着いたことに、レッドレーサー、陣内恭介は安堵の溜息を吐いた。
4時間近く歩き続けた足は棒のようだ。恭介としてはそろそろ休憩したいところだが―
「ええ、でもここからが本番です。きっと数多くの参加者がここにいるはずですから」
同じ距離を歩いてきたというのに、同行者である西堀さくらはまったく疲れを見せない。それどころかやる気満々だ。
その様を見ると、男のプライドというやつが邪魔して、恭介の方から休みたいとは言い出せなかった。
(ええぃ、しょうがない。仲間を見つければ情報交換という名目で休憩ができるはずだ)
「よぅーし、さっさと仲間を見つけて、ここから脱出だ!」
恭介は自分を鼓舞するかのように腕を天に突き上げ、大声を上げた。
「早速、誰か来たようですね」
「なに?」
恭介が視線を向けると、正面からガシャッ、ガシャッと足音を鳴らし、こちらに近づいてくる黒づくめの男が見えた。
「あれはロボット?」
距離が狭まるにつれ、その姿が明らかになっていく。
赤い線状の眼に、黒い硬質的な身体。胸の透明なカバーからは複雑な回路が視認でき、相手が明らかに生命体でないことを示している。
「味方なのかな?」
問いかけると、さくらはあからさまに渋い顔をした。
「見た目で判断してはいけませんが、かなり怪しいですね」
少なくともさくらが知る限り、SGSのデータバンクでは見てない顔だ。
やがて、さくらたちから1メートル程度の位置に来ると、ロボット―グレイは歩みを止め、言葉を紡いだ。
「一緒に来てもらおう」
「用件は?」
「来ればわかる」
「断ったら?」
「力ずくでも連れて行く」
さくらとグレイの間に一触即発の空気が流れる。さくらはグレイを、グレイはさくらだけを見ていた。
「おーい、俺もいるんだけど」
110:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:40:17 TQjSMP470
「………」
「………」
「無視かよ」
恭介のツッコミを余所に緊張感は極限にまで高まっていた。後はどちらが先に動くか。
「……追ってきたか」
しかし、その空気はグレイ自らによって破られた。グレイが振り向くや否や、聞こえてくる声。
「グレイさーん!」
「お前、何をやっている!」
「ふん」
グレイが向いた先に視線を合わせると、駆けて来る緑色の髪の青年。そして―
「犬?」
「違います。あれはアヌビス星人です。……どうやら敵ではなかったようですね」
さくらはひとりで納得すると、グレイと合流した二人に声を掛ける。
「はじめまして、ドギー・クルーガーさんですね」
「そうだが、君は?」
「申し遅れました。私は西堀さくら。ボウケンジャーというより、サージェス財団に所属していると言った方がわかりやすいでしょうか」
サージェス財団と聞いて、恭介を初めとした皆は反応を示さなかったが、ドギーには通じたらしい。
徐に頷き、意を得たりといった様子だ。
「なるほど、君は俺のことを知っているようだが」
「ええ、宇宙警察地球署のトップともなれば、SGSのデータバンクにも当然登録されています。当然、殺し合いには?」
「ああ、勿論乗っていない。もっとも……いや、なんでもない」
ドギーは一瞬だけグレイに視線を向けたが、直ぐに視線を戻す。それをさくらは訝しげに思ったが、今は聞くべきことではないと判断し、話を続けた。
「私たちも殺し合いをするつもりはありません。ドギーさん、他の仲間たちの捜索とここからの脱出のため、協力していただけますか?」
「ああ、こちらこそ宜しく頼む」
さくらとドギーは互いの手をがっしりと握った。
「よーし、それじゃあ早速自己紹介だ。俺は陣内恭介、レッドレーサーだ」
「僕はシオンっていいます。宜しくお願いします」
「シオンか。そっちの黒いロボはなんていう名前なんだ」
恭介はシオンと握手を交わしながら、傍らにいるグレイに声を掛ける。誤解をした分、極めてフレンドリーに。
「グレイ……」
グレイはそれだけ答えると、恭介たちから一定の距離を取り、大地に腰を下ろした。
勝手にやってくれということなのだろうか。
111:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:41:11 TQjSMP470
「なんだ無愛想な奴だな」
「大丈夫、照れてるだけですよ」
「そうか」
何にせよ、他の参加者との合流は恭介にとって休憩のチャンス。
恭介は情報交換という名目の元、休憩をとるよう皆に勧めた。
▽
(借りを返し損なったか)
グレイは懐から煙草を取り出すと、ライターとなっている人差し指で、それに火を点けた。
恭介とさくらの姿はかなり早い内から捕捉していた。それこそ、相手が何者かを分析できるほどに。
恭介はそれなりに辺りを警戒してはいるものの要所要所で粗が目立った。
戦闘経験はあるのかも知れないが、錆びついているか、さもなくば慣れていないか。
どちらにせよ大したことはない。
一方のさくらはかなり洗練された動きをしていた。
決して隙を見せず、近場から遠方まで気を配っている。しっかりと戦闘訓練を受けた者の動きだ。
ジェットマンのように変身すれば、それなりの好敵手になるかも知れない。
そして、出会って間もないのだろう二人の間にはたどたどしさがあった。
互いに相手の隙を窺っていないにも関わらずだ。二人とも殺し合いには乗っていない証だろう。
そこまで分析をしながらも、本来ならグレイはその存在をシオンたちに知らせるつもりはなかった。
戦士として、グレイが借りを返す最も適切な方法は戦い。
殺し合いに乗っているのなら、数減らしにも意味があるが、殺し合いに乗っていない人間を殺したところで借りを返したことにならない。
しかし、ドギーを守る仲間が欲しいことがシオンの願いなら、交渉にも価値があるかと接触を試みた。
結局、成果とはいえない有様だが。
(やはり戦士とは戦いでこそ、借りを返すもの)
そのとき、グレイの願いが天に通じたかのように、狂気に満ち溢れた声が響き渡る。
「メガブルウゥゥゥゥッ~!どこにいるんだ?早く出て来いよ~」
112:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:41:51 TQjSMP470
それはネジブルーが獲物を求める声。
(F5エリア。タワーの頂上か)
音声情報と事前に確認していた地図情報から、グレイの電子頭脳が場所を割り出す。
「メガブルーだと!」
そして、それと同時に恭介の一際大きな声が聞こえた。
(どうやら借りが返せそうだ)
グレイはこれから始まるであろう戦いに、紫煙を燻らせた。
113:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:42:14 TQjSMP470
【名前】グレイ@鳥人戦隊ジェットマン
[時間軸]:49話(マリア死亡)後
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康?
[装備]:自らのパーツ全て
[道具]:遠距離射撃用ライフル(残段数4発) 支給品一式
[思考]
基本行動方針:未定。第一行動方針を果たした後の行動は決めていない
第一行動方針:自分の納得のいく形でシオンに借りを返す
【名前】シオン@未来戦隊タイムレンジャー
[時間軸]:50話、タツヤと別れる瞬間(20、21世紀の記憶、知識は全て残っている?)
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康
[装備]:クロノチェンジャー
[道具]:ホーンブレイカー、鬼の石、支給品一式
[思考]
基本行動方針:仲間を集めて、ロンを倒す
第一行動方針:首輪を解除するために、機械知識のある人間と接触したい。
第二行動方針:グレイとドギーの仲が険悪なので、なんとか懐柔したい。
【名前】ドギー・クルーガー@特捜戦隊デカレンジャー
[時間軸]:最終回時点
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:負傷、暫く戦闘不能(無理をした場合命に関わる)グレイを警戒
[装備]:マスターライセンス
[道具]:ライフバード、支給品一式
[思考]
基本行動方針:首輪を解除して、ロンを倒す
第一行動方針:仲間と情報交換。
第二行動方針:スワンを探す。
114:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:42:44 TQjSMP470
【名前】陣内恭介@激走戦隊カーレンジャー
[時間軸]:メガレンジャーVSカーレンジャー終了後
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康。呼ばれた知り合いの声に驚愕。
[装備]:アクセルチェンジャー
[道具]:芋ようかん×3
[思考]
基本行動方針:殺し合いから生き延びる。
第一行動方針:新たに出会った仲間と情報交換。
【名前】西堀さくら@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task42以降
[現在地]:G-4都市 1日目 早朝
[状態]:健康 (ただし、ロンによる洗脳を受けており、いつでも傀儡になる危険性あり)
[装備]:アクセルラー
[道具]:ガラスの靴、虫除けスプレー、虹の反物の切れ端
[思考]
基本行動方針:仲間と合流し、ここから脱出する。
第一行動方針:恭介たちと共闘して仲間を増やす。このゲームのルールを把握する。
※)裏行動方針:ロンの言われるままにいいように操られ、見苦しく惨めな死に様を晒す。
ただし、本人にその自覚はなく洗脳行動も全て自分の意思であると思い込む。
115:嵐の前の邂逅 ◆i1BeVxv./w
08/06/04 00:44:05 TQjSMP470
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想、他指摘事項などありましたら、宜しくお願いします。
116:名無しより愛をこめて
08/06/04 00:55:09 8dsQn8zQ0
さくらと美希の邂逅はやばそうだなw
SGSバンク(おまけのアレかw)ではバイラムの情報はそんなにないのか…確かに敵の画像はあんま出てなかったな。
細かい配慮ですね。
さくらの連れてこられた時間軸的にはおそらくVSを終えているのでテツを通しても
SPDを知っているわけですね。
117:名無しより愛をこめて
08/06/04 01:00:57 BJGerHD+O
>>115
GJです。
それぞれの思惑が絡み合う、今後の展開に期待の募る作品でした。
それにしても、グレイは結構義理堅いw
118:名無しより愛をこめて
08/06/04 01:04:25 8dsQn8zQ0
マリア死亡後だしなぁ…生きるのはついでのついでって感じで死に場所求めているんだろう。
本音なら凱と戦いたいんだろうけど。
119:名無しより愛をこめて
08/06/04 01:18:21 54LCgziB0
義理というよりプライド
…もしくはゲームの中の自分ルールが近いでしょうな。
120: ◆MGy4jd.pxY
08/06/04 11:58:52 VSzdcLOo0
GJ!
グレイとさくらの緊迫した空気が伝わるようでした。
恭介の「無視かよ」に吹きました。
強力ながらも爆弾を抱えたチームの行く末はいかに?
そして、感想、ご指摘感謝します。
ご指摘の件ですが申し訳ありません。確認ミスです。
ご指摘いただいた>>77の一文 、仰る通りです。『に』が多いです。
そしてスワンの変身制限に関してですが、状態表から2時間変身不可を削除し忘れていました。
シュリケンジャーが砂漠を数時間走って、倒れているスワンとあったのが午前三時くらいとして、
SSの最終時刻は午前4時程度と仮定しており、その時点でスワンは変身可能でしたのに。
ちなみに宇宙最高裁からの判決が下りなかったのは、変身以外の機能(通信等)は制限により使用出来ないと解釈していたからです。
一時投下スレにて脱字と状態表を訂正させていただきます。
121:名無しより愛をこめて
08/06/04 18:41:34 ELVi9M9r0 BE:642637973-2BP(1)
壷の話出てるので転載~
【緊急】壷使ってる奴こい
スレリンク(ogame板:182番),189
> 189 名前:マァヴ ◆jxAYUMI09s [] 投稿日:2008/06/04(水) 15:07:52.28 ID:N6BI44ak ?DIA(100001)
> 壷復旧方法ページ、携帯向け
> つURLリンク(ula.cc)
>
> 携帯から壷の復旧方法を見れるようにまとめました(^_^;
> 携帯から壷の不具合情報を探しているかた、こちらをごらんくださいー
122: ◆MGy4jd.pxY
08/06/04 19:58:05 DUXThJPv0
>>121
あの時は焦りました。
自分もプロバイダーに電話して解決しました。
123:名無しより愛をこめて
08/06/08 19:10:46 dnVFZyi+O
そういえば、映士って菜月と蒼太からすれば、
あんた誰?状態なんだよね。
やっぱり映ちゃんカワイソス
124:名無しより愛をこめて
08/06/08 23:18:48 hqFbSsdf0
そういや、こういった作品で時間軸から抜けた後の世界がどうなってるかって言うのは
気になるな。
歴史が滅茶苦茶になるんじゃないかっていうタイミングから来てる連中もちらほら…
125:名無しより愛をこめて
08/06/09 00:09:11 bdsjAahHO
>>124
一番やばいのはボウケン世界かな。
他は何人か残ってるけど、あそこは全員参加だし。
126:名無しより愛をこめて
08/06/09 00:12:33 az6iFwdw0
枝分かれ時空説が一番便利なんだろうが、そうするとガイが抜けた時間軸でレイが不憫すぎるなw
終盤でチーフや姐さん抜かれるのもきつそうだが。
127:名無しより愛をこめて
08/06/09 01:12:37 bdsjAahHO
逆にそんなに支障なさそうなのはどこだろう。
128:名無しより愛をこめて
08/06/09 01:48:06 az6iFwdw0
むしろ助かるのはジェットマンとか?
凱は消化不良かも知れんけど。
129:名無しより愛をこめて
08/06/09 02:01:43 bdsjAahHO
ゲキレンはその後の世界が大変な事になってるのかな。
明言はされてなかったけど。
130:名無しより愛をこめて
08/06/09 19:28:28 eEHX5FSv0
>>123
裕作さんもあてはまるな。嗚呼、追加戦士の悲哀
131:名無しより愛をこめて
08/06/09 19:33:06 az6iFwdw0
蒼太の場合、ヴリル以前から来てるから真墨はおろか、菜月に心を開いてないけどな。
姐さんとチーフは敬愛対称だろうけど。
132:名無しより愛をこめて
08/06/10 14:56:03 aGpbZwAh0
>>127
555、ギンガマン、アバレンジャーはいたって平和だな。
デカレンは層が厚いんで、なんとかなりそうな気もする。
133: ◆5h3T6s3PXc
08/06/10 23:33:13 lDO2Oxpq0
したらばでも報告しましたが、3日延長をお願いします。
134:名無しより愛をこめて
08/06/11 03:48:30 sWlSpcwiO
了解しました。
お待ちしてます。
135: ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:45:29 k0sTbOOe0
投下いたします。
136:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:46:09 k0sTbOOe0
竜也は夜の森を疾走していた。
全速力で相手を見失わないようにひた走る。
「おーい、待ってくれ!」
速度を緩めてもらおうと、大声を張り上げるが、相手は意に介そうとしない。
已むなく、竜也は体力の続く限り、走り続けるしかなかった。
竜也が誰を何のために追っているのか。時間はシグナルマンがメレのため、墓穴を掘っていた頃にまで遡る。
「ねぇ~、なにしてるのか見える~?」
「どうやら、穴掘ってるようだニャー」
シグナルマンの後方約10m。竜也と菜月、スモーキーの2人と1匹は木陰に隠れ、シグナルマンの動向を窺っていた。
戦いの気配を感じ、駆けつけた竜也たちだったが、既にその場から争いの鼓動は消えていた。
何か手がかりはないか。辺りを捜索していたところ、たまたまスコープショットを覗いていたスモーキーがシグナルマンを発見し、様子を見ることになったわけだ。
代わる代わるシグナルマンを確認したが、その姿に見覚えはない。果たして、敵なのか味方なのか。
「スモーキー!他に何か見えないか」
高い木に登り、より詳細にシグナルマンを観察するスモーキー。障害物がない分はっきりと見える。
「うーん、なんか隣に美人のねーちゃんが寝てるニャー。でも、ピクリとも動かないニャー?
………ニャ!も、も、も、もしかして、殺した娘を埋めようとしてるんじゃ」
スモーキーは自らの予想に身体を大きく震わせ、思わず木から落ちそうになる。
「慌てるな、スモーキー。仮に女性が死んでいたとしても、彼が殺したとは限らない。
むしろ彼が殺したのなら、すぐにこの場から離れるのが自然だ。穴を掘ってるのはもしかしたら、墓を造っているのかもしれない」
「お墓造ってるんなら、悪い人じゃないのかも」
「いや、それもわからない。今の段階で断定するのは危険だ。とりあえず、もう少し様子を見よう」
引き続き、シグナルマンの様子を観察する竜也たち。
もう少しはっきり見ようと、シグナルマンの傍らにいる女性が見える位置にまで距離を詰める。
その時、竜也たちの眼前で不可思議なことが起きた。
137:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:46:31 k0sTbOOe0
突然、死んだと思われていた女性が土を掻き分け、起き上がり、シグナルマンと交戦を始める。
「や、やっぱり、生き埋めにしようとして……」
再び物騒な推理を行うスモーキー。だが、今は突っ込んでいる場合じゃない。
「あっ、女の人、逃げようとしているよ。どうしよう、竜也さん」
菜月の問いかけに竜也は迷う。今まで様子を窺っていたが、両者とも敵か味方か、判別することはできなかった。
はっきりさせるには、やはり一か八か、接触するしかない。
問題は追うか残るか、竜也は結論が出せずにいた。
不意に竜也の袖が引かれる。
「竜也さん……二手に分かれよう」
「菜月ちゃん」
菜月の申し出は、竜也の望んだものだった。もし仲間になることが可能な参加者なら、折角の合流の機会を逃すことになる。
だが、そうなれば、おのずと自分と菜月は分かれることになる。
自分に会うまであれほど怯えていた菜月をまたひとりにして大丈夫なのだろうか。
「大丈夫!菜月頑張れるよ!」
「俺様も付いているから、大丈夫。さっさと行くニャー」
竜也の心情を察し、強気に振舞う菜月とスモーキー。竜也の向く先は決まった。
「2時間以内には戻ってくる。もし、移動しなきゃならない事態に陥ったら、G1エリアの一番高い建物に!」
そう言うと、竜也は走り出す。
(行っちゃった……)
あっという間に見えなくなる竜也の背中。菜月はフッと息を吐く。
菜月の心から恐怖はまだ取り除かれてはいない。
それどころか、竜也のおかげで抑え付けていた恐怖が、徐々に鎌首を擡げてきている。
心臓の鼓動が激しく高鳴り、体が小刻みに震える。
大丈夫なんて嘘だ。本当は怖くて、不安で、どうしようもない。竜也に一緒にいて欲しい。
(だけど、あの娘ももしかして、菜月と同じ気持ちなのかも知れない)
菜月の眼の前で、女性は気丈にも相手に立ち向かっていった。
だが、もしかしたら彼女の心も恐怖で押し潰されそうになっているのかも知れない。
そう思うと、彼女をひとりにしたくはなかった。
(大丈夫。菜月は強き冒険者だもん。スモーキーもいるし。アクセルラーもある)
一歩、一歩、歩みを進める。女性との接触は竜也に任せた。
138:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:47:05 k0sTbOOe0
その間、自分はもうひとりの人物と接触しなければならない。
木々が開ける。掘り起こされた柔らかな土に菜月の足が沈んだ。近づいた気配に、大地に顔を埋めていたシグナルマンがこちらを振り向く。
「あ、あの」
菜月は恐怖に負けぬよう精一杯声を絞り出した。
そして、時間は現在に至る。
「はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、はぁ、見失ったか」
時間は深夜。しかも場所が森となれば、月明かりがあるとはいえ、逃げる相手を捕獲するのは並大抵のことではない。
竜也とて例外ではなく、右を見ても、左を見ても、相手の姿を捕捉することはできない。
(どうする、諦めて戻るか?いや、あれが使えるかも知れない)
竜也はディパックの中から3つある支給品の1つを取り出す。それは先がU字型をした杖であった。
「魔人マグダスの杖か」
魔人マグダスの杖。それは宇宙海賊バルバンのバットバス魔人部隊に所属する魔人マグダスが持つ杖である。
先が特殊な磁石になっており、目盛りを操作することによって、8種類の中から選択した物体を引き寄せることができる。
竜也は同梱されていた説明書に従い、目盛りを『人』の描かれている場所に合わせ、杖を適当な方向に向けた。
説明書には射程距離は書かれておらず、正しい方向に向けているのかもわからない。
だが、駄目で元々。何もしないよりはマシだ。
「吸着!」
竜也の叫びに応じ、マグダスの杖は特殊な磁力を迸らせる。
結論から言えば、竜也が向けた方向には誰もいなかった。当然、いくら竜也が待とうとも、マグダスの杖に吸着することはない。
「なにやってるかしら?」
しかし、その光景は相手の興味を引きつけるには充分な効果を発揮した。
「うわっ!」
突然の強襲、木の上に隠れていた相手は竜也の背中目掛けて渾身の蹴りを放った。なす術もなく、竜也は大地に突っ伏す。
身を起こそうとするが、それよりも早く、相手の足がうなじを踏みしめ、動きを封じる。
「こっちを向いたら、殺すわよ?」
威嚇しつつ、竜也の手からディパックを奪い取り、中身を漁る。
「おい、俺は戦うつもりはない。俺の話を聞いてくれないか?」
「うっさいわね。後で聞いてあげるから、ちょっと待ってなさい」
139:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:47:31 k0sTbOOe0
敵か味方か、一刻も早く確認したい竜也を尻目にディパックを漁り続ける。
「あったわ」
彼女が取り出したものは1リットルの水が入ったペットボトル。
鏡を見たわけではないが、土に埋められかかった顔は汚れているに違いない。
特に鼻にはさっきまで土が入っていたのだ。この有様で愛する人に会うには拷問に等しい。
早速、ペットボトルの封を開けると、水を使い、顔や身体を清めていく。
「ふぅ、とりあえずこんなものかしら」
3分後、彼女の顔からは土の汚れは完璧に落とされていた。
その代償として、ペットボトルは空になってしまったが、特に気にすることではない。
「さて」
「ぐぇっ」
踵で今一度うなじを強く踏むと、竜也に問いかける。
「話、聞いてあげるわ。あなた何者?」
「そ、その前に足をどけてくれないか」
「仕方ないわね」
渋々、うなじから肩の中心に足を移動する。どうやらこの体勢を改善するつもりはないらしい。
竜也は内心不満に思いつつも、心を落ち着け、その問いに答えた。
自分の名前、殺し合いをするつもりはないということ、追って来た経緯。
対して、相手はメレという自分の名前だけを告げた。これでは敵か味方か判断に困る。
菜月と同じように怯えているのかも知れないと、竜也は懸命に説得を行った。
「だから、俺は君に敵意があるわけじゃないんだ。ここから脱出するため、協力しあえないか?」
しかし、メレは竜也を訝しげに見ると、言葉を紡いだ。
「口だけじゃ信用できないわね。態度で示してもらわないと……理央様を見つけて、私の元に連れてきなさい」
「理央様?あのロンが最初に話しかけていた男か」
「そう、お前が理央様を連れてくれば、信用してやるわ」
これで話し合いは終わりとばかりに、メレは竜也をもう一度強く踏みつけると、一目散に走り出した。
手には竜也のディパックとマグダスの杖。竜也が制止の声を上げるが、メレは止まらず駆けていく。
140:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:49:59 k0sTbOOe0
メレは元々竜也を信用するつもりはなかった。ロンに騙された経験から、メレはもう易々と誰かを信用するつもりはない。
それこそ、理央と自分を引き合わせれば別だが、期待するつもりもない。
奴隷として扱き使う手もあったが、ゲンギが使えない今、どのような力を持っているかも知れない相手と共に行動するのは危険すぎる。
「まあ、支給品を補充できただけでも好しとするべきよね」
メレは愛する理央のために生き、愛する理央のために戦う。その心情に並び立つ者は必要なかった。
「おーい、見つけたらどうやって連絡すればいいんだよ!」
そのことを知らない竜也の声が森に空しく響き渡る。追おうとも思ったが、メレの態度は明らかな拒絶。同じ結果しか生まないだろう。
結局、竜也が得たものはメレという名前だけであった。
一方、その頃菜月たちは
「本官はチーキュの住民は脈も心臓の鼓動もあるものだと思っていたんだ。しかし、まさか脈や心臓の鼓動が止まっていても生きていられるなんて」
「菜月には脈も鼓動もあるけど、もしかして、ない人もいるかも知れないね」
「そんなわけないニャー」
和んでいた。
141:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:50:19 k0sTbOOe0
【浅見竜也@未来戦隊タイムレンジャー】
[時間軸]:Case File 49(滝沢直人死亡後)
[現在地]:C-5 森林 1日目 深夜
[状態]:健康。交渉に失敗して、軽く凹む。
[装備]:Vコマンダー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:仲間を探す
第一行動方針:菜月の元へ戻る
第二行動方針:仲間を探し、ユウリとアヤセの安否を確認する
第三行動方針:菜月の仲間と理央を探す
備考:クロノチェンジャーは、ロンが取り上げました。他の参加者のバックの中か、どこかに隠されているかは不明です。
【名前】間宮菜月@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task14後
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:健康。まだ僅かに怯えあり
[装備]:アクセルラー、スコープショット、マジランプ+スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[道具]:未確認、竜也のペットボトル1本
[思考]
基本行動方針:仲間たちを探す
第一行動方針:シグナルマンとスモーキーと一緒に竜也を待つ
第二行動方針:竜也の仲間を探す
142:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:50:43 k0sTbOOe0
【名前】スモーキー@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:ボウケンジャーVSスーパー戦隊後
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:健康。マジランプの中
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ヒカルと麗を探す
第一行動方針:菜月を守る
【シグナルマン・ポリス・コバーン@激走戦隊カーレンジャー】
[時間軸]:第36話以降
[現在地]:B-5 森林 1日目 深夜
[状態]:健康。死んでない人を埋めてしまってショック。
[装備]:シグナイザー
[道具]:けむり玉(1個使用済み)数は不明、その他は不明。メレの支給品一式。メレの釵。
[思考]
基本行動方針:ペガサスの一般市民を保護。戦っている者がいれば、出来る限り止める。
第一行動方針:乙女(メレ)に謝りたい。
第二行動方針:黒い襲撃者(ガイ)を逮捕する。
143:強き女、愛の女 ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:53:03 k0sTbOOe0
【メレ@獣拳戦隊ゲキレンジャー】
[時間軸]:修行その46 ロンにさらわれた直後
[現在地]:C-5 森林 1日目 深夜
[状態]:30分獣人体への変身不可。鳩尾に打撲。左肩に深い刺し傷。顔を除き、体中に多少の土の汚れ
[装備]:マグダスの杖
[道具]:竜也の支給品一式(ペットボトル2本消費)
基本行動方針:理央様との合流。理央様に害を成す者は始末する。
第一行動方針:ゲンギが使えない原因を調べる。それまで撤退。
第二行動方針:青と白の鎧を身に纏った戦士(シグナルマン)とガイに復讐する。
備考:リンリンシーの為、出血はありません。脈や心臓の鼓動も元々ありません。支給品一式はシグナルマンに回収されました。
また、竜也の支給品はマグダスの杖の他に2品あります。
144: ◆i1BeVxv./w
08/06/11 22:53:28 k0sTbOOe0
投下終了。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想、他指摘事項などありましたら、宜しくお願いします。
145:名無しより愛をこめて
08/06/12 00:31:22 esRXYjgGO
>>144
GJです。
うん、わかってた事ですけど、メレは存外抜けてますねw
それにしても、シグナルマンといい、竜也といい、
メレに関わると、男性陣は色々と報われないw
最後の一文には盛大に和ませて頂きました。
GJ!
146:名無しより愛をこめて
08/06/12 00:43:58 hqibyXru0
投下乙です。
竜也がメレ相手に苦労している最中なのに、
残った2人と一匹が、のほほ~んと会話している様が、脳裡にくっきりと。
力強い味方と言うより、竜也にとって頭痛のネタが増えただけような気がw
GJでした。
147:名無しより愛をこめて
08/06/12 19:51:56 jeL0RL43O
投下乙です。
ペットボトルの水で綺麗に顔を洗い、竜也に理央を捜してみろと言うメレ、彼女の純愛と強がりが意地らしい!
GJです!
148: ◆i1BeVxv./w
08/06/12 22:33:56 4ewbZAL90
感想ありがとうございます。
いくつか自己ツッコミを
>>137
「2時間以内には戻ってくる。もし、移動しなきゃならない事態に陥ったら、G1エリアの一番高い建物に!」
離れいる上に遺跡を指定するのは明らかに不自然ですので、G1エリアの箇所をD6エリアに修正いたします。
>>141-143
[現在地]:C-5 森林 1日目 深夜
メレの状態の変身時間の記載から考えて、深夜より黎明の方が適切かと思いましたので、黎明に修正いたします。
プロットに影響していましたら、申し訳ありません。。。
149:名無しより愛をこめて
08/06/13 01:37:29 ylPcNRWU0
投下乙です!
ああ、何でシグナルマンたちは和んでいるんだw
スモーキー、唯一の突っ込みとしてがんばってくれw
竜也がんばれ。超がんばれw
GJ!
150:名無しより愛をこめて
08/06/13 20:58:39 pYQ0fIrlO
◆5h3T6s3PXc氏の予約延長期限がそろそろですが、ご進行具合はいかがですか?
151: ◆MGy4jd.pxY
08/06/13 23:54:27 NrxastjC0
自分も今日が期限です。
遅くなりましたが投下いたします。
152: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:03:15 Q/3sMbKy0
「待て!闇雲に走るのは危険だ」
そこは、スラムと呼ぶに相応しい薄汚れた街だった。
ゴミ溜と汚水に塗れた路地を走るは二つの影。
冥府神ティターンは懸命にマーフィK9を追っていた。
「待てと言うのに!」
マーフィを見失わぬよう追いかければ、辺りへ払う注意が疎かになる。
ティターンの声に焦りが混じり、その手に力が篭る。
無防備に街へ踊りでれば殺してくれと言わぬばかりの状況だ。
先程の狙撃にしても弱者が我が身を守ろうとしたが為か、殺し合いに乗ったが為かは解らない。
ただ一つ学んだのは、互いに殺し合いに乗っていよういまいが、その意志に関わらず命を落としかねないと言う事。
守ると決めた命。
ティターンはその命を懸命に追っていた。
当のマーフィはティターンの声など気にかける様子もなく、泥水を跳ね上げ一目散に駆けて行く。
「どこかを目指しているようだが……」
スピードに乗ったマーフィは大きく弧を描き角を左へ曲がる。
153: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:03:52 Q/3sMbKy0
そこから先は一本道。
スラムを隔離する煉瓦の壁がマーフィの行く手を遮りその姿を見失わずに済んだ。
一歩、その先の一歩をより大きく踏み出し、巨体とは思えぬ速さでマーフィを追う。
一向に差は縮まらないが道はいつか分かれる。分かれれば見失う。
ティターンは歩を緩めず進む。
やがて左方向は砂漠、右方向は採掘場へと続く別れ道へ差し掛かる。
行く先に迷ったマーフィの足が止まるのを逃さず、一息で駆け寄り後ろから優しく抱きかかえた。
そして自分の目線まで軽々と持ち上げ、諭すように語りかけた。
「俺は無益な殺生は好まない。だがここは殺し合いの場なのだ。やみくもに走り回られては困る。どこかで朝まで身を隠そう、解るか?」
ティターンの気持ちを汲んだのか、マーフィは「バゥ」と一声鳴くと大人しくなった。
154: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:05:23 Q/3sMbKy0
§
「お前の名はマーフィと言うのか」
やっと支給品の詳細に目を通し、マーフィを従えたティターンは、採石場の方向へ足を進めた。
数十メートル切り出された岩肌と切り出した山積みの岩とが強固な城のようにそびえている。
城下町の如く点在した炭坑夫たちの休憩所も見える。
その横にもいくつか小屋があり、身を隠すに適当な、とりあえずの安息の場としては充分な地形だった。
そのうちの一つを目指し歩きながら、ティターンは胸の中でひとりごちた。
(あの人間はどうしただろう。もう一人の男の手当が間に合えばよいが……)
ティターンの思考はマーフィの唸り声で中断された。
何事かとマーフィをみやったティターンの足元が陰った。
「貴様……人の姿をしているが、人ではあるまい」
その声の主は闇を従え瓦礫の上を闊歩する。
威風堂々たるその姿は、冥府神さながらの威厳とカリスマを備えていた。
この男とやり合えば、どちらも無事ではすまない。タゴン、いやイフリートにも匹敵するとティターンは判断した。
155: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:06:07 Q/3sMbKy0
ティターンはマーフィを退かせ男と対峙した。
「我が名は冥府神ティターン」
「冥府神だと?」
ティターンの名乗りを男が嘲笑い、遮る。
「冥を司るのは、この冥王ジルフィーザただ一人!神などいらぬわ!!」
言い放つやジルフィーザは高く跳躍した。
月光を侵食する禍々しきその姿。ティターンの背を戦慄が走る。
「逃げろ!時間はこのティターンが稼ぐ」
そう叫び、マーフィを崩れ落ちる岩からディオネを守る壁で守る。
すかさず切り立つ岩盤を駆け上がり、ジルフィーザと同じ高さへ飛ぶ。
ジルフィーザは槍の上部を持ち斬りかかる。
ティターンは下方から雷型の刃先で斬り止める。
腕に伝わるズシリとした重み。
156:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:06:49 dQbTWW1i0
157: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:07:07 Q/3sMbKy0
空気を震わせ弾け飛ぶ火花。
ガキンッ!
金属音が耳を劈く。
ジルフィーザは衝撃をバネにより高く跳ぶ。
片やティターンは衝撃により地へ弾かれた。
ジルフィーザは片手に持ち換えた槍で円形を描き斬りを止めずにティターンの間際へ着地した。
ティターンは下がりかわす。
だが間髪いれずに次の突きが迫る。
しなる槍が獲物を狙う蛇のように追いかけてくる。
ティターンは体を右向きにして槍の刃先に左手を添えジルフィーザの一撃を捌く。
「いつまでもかわし続けられまい!」
ジルフィーザはティターンの喉元目掛け、突く。
右後ろへ飛び避けるティターン。
右肩すぐのところで切っ先の髑髏が口惜しげに空を切る。
髑髏が向こうへ引き寄せられるように遠のく。
否、遠のいたように見えただけだ。
突きを避けられたジルフィーザが腕をしならせ刃を返し横一閃に斬ってきたのだ。
しかし一瞬早くティターンは上体を低く下げ、ジルフィーザの腕の下へ滑り込む!
158:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:07:46 dQbTWW1i0
159: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:08:29 Q/3sMbKy0
ウラノスとガイアの怒りを背中に沿わすように逆手で握り、そのまま左足を踏ん張り左肩を突き出した。
攻撃をかわされ前方へ崩れてくるジルフィーザの腹部へ体当たりを食らわす。
ジルフィーザは素早く槍を下げそれを受けとめ、ティターンを押し戻そうと腰を落とし堪える。
「もう退け。俺は殺し合いには乗るつもりはない!」
「!」
力と力がぶつかり合う。冥府を司る王と神とのぶつかり合い。
踏みつけた小石が砕けた音を引金に、激闘を制す為ティターンは体を捻りジルフィーザの力の方向をずらす。
右腕の方の刃を下手から掬い上げ、ジルフィーザがそれを避けると共に、ティターンは数歩後退り距離をとる。
掌を空へ掲げ雷型の槍先より出現し光球を両者の間へ放った。
砂煙を上げ光球が爆ぜる。
互いの姿は煙に紛れ、しばし両者とも動けずにいた。
先に動いたのはジルフィーザ。
槍を上手に構えティターンへにじり寄る。
「マーフィを守りたいだけだ。俺は、無益な殺生は好まぬ」
緊迫した空気の中、ジルフィーザが問う。
「……誰かと出合ったか?」
切羽詰まった声にティターンは直感した。自分は試されているのだ。ジルフィーザは殺し合いに乗っていない。
160:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:09:55 dQbTWW1i0
161: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:10:28 Q/3sMbKy0
刺すような視線を感じながら、真正面からジルフィーザを見据え、その問いに答えた。
「二人の、若い男と……」
「ならば、もう貴様に用はない」
ジルフィーザゆっくりと槍を降ろしティターンに背を向け立ち去ろうとした。
「誰を捜している?」
「弟を、我が末弟ドロップを捜さなければならん」
振り返ったジルフィーザは巨漢に似合わぬ小さな溜息を吐いた。
「なぜ襲ってきたのだ?」
「ティターンよ、お前が血と争いを好むとしたら、手を止めず殺していた。
ドロップの身を危険にさらす芽は刈り取らねばならん。
争いに乗っていないと確実にわかるまでは、迂闊にドロップの名を明かす訳にもいかぬ」
「弟の命を守る為か……」
ジルフィーザの表情から先程までの険しさが消えていた。
冥王の比類無い威圧感をぬぐい去った、家族の無事を渇望する兄の顔だった。
兄には弟妹を支える義務がある。
命を守る その決意の源となった芳香とオニイチャンとの出会いに思いを馳せた。
162:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:11:09 dQbTWW1i0
163: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:11:19 Q/3sMbKy0
姿は違えど長兄たる者、その思いは同じ。
「オニイチャン……」
無意識に呟いた。
いつの間にか側へ戻って来ていたマーフィがスッとティターン背後へ身を隠した。
一瞬の間の後、ジルフィーザの怒声が鼓膜を打った。
「黙れ!オニイチャンだと…… このジルフィーザを愚弄するか!」
ジルフィーザが再び斬りかかってきた。
後ろへ退け反り辛うじて切っ先をかわす。
「ジルフィーザ、お前の事ではない!」
ティターンは言い放ち、右足に力を込め身構えた。
ジルフィーザはそれに答えず無言のまま槍を横へ払った。
来る。見切れぬ速さではない!
思った瞬間、ジルフィーザの槍が脇腹をとらえた。
体がくの字に折れ、激痛に脇腹が痺れティターンは堪らず膝を折った。
そのまま肩を掴まれ力任せに横へ薙ぎ倒される。
素早く立ち上がるも、上から振り下ろす槍から逃げ場はなかった。
両腕をクロスに構えウラノスとガイアの怒りを盾に受ける。
164:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:11:42 dQbTWW1i0
165: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:12:43 Q/3sMbKy0
軽い、とばかりに弾き返し、回転を加えた槍裁きで攻防一体の構えをとる。
「愚弄などしているか。オニイチャンとは、俺に誰かを支えてみたいと思わせたトモダチなのだ!」
「……」
無言のまま、尚も槍を振るうジルフィーザをティターンは訝しむ。
一合、二合、絶え間なく打ち据えるジルフィーザだが攻撃に冴えが無い。
迫り合う槍の金音も、闇に散る火花も先程とは格段に相違がある。
じりじりと後退しながら、ジルフィーザの目を見据えれば、その顔には苦悶が浮かぶ。
だが、冴えが無いのはティターンも同じ。
何故か、きぐるみを着たように体が重く、見切れる攻撃もかわせずにいた。
ジルフィーザが威勢よく払った蹴りに、ティターンは横様に倒され、両者の距離が大きく開いた。
ティターンは上体だけを起こし、肩で息をつく。
両者とも力、速さ、戦闘能力の何もかもが落ちている。
「気付いたか……ティターンよ」
「うむ……」
ジルフィーザの問いに頷くと、ティターンはウラノスとガイアの怒りに気を集中し、穂先を上へ掲げた。
雷の集まる感触も熱も感じられ無かった。
166:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:13:52 dQbTWW1i0
167: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:14:52 Q/3sMbKy0
両手を握り不安げに呟いた。
「一体どういう事なのだ」
「察しつかぬか、 我らに架せられしこの首輪に仕掛けがあると……」
ティターンは首輪をさすった。ジルフィーザは頷き言葉を続けた。
「能力を封じ込めば、力なき人間でさえも我らを縊り殺す事が出来る……
急がねば。竜族の血を引くと言え、ドロップはまだ赤子なのだ」
ジルフィーザはティターンを一瞥すると背を向けた。
「待て!俺も一緒に行こう。
赤子とあらば、捨ておくなど出来ない 。俺の見知った者たちもいる 。 その者たちの手を借りれば早い。
無論赤子に刃を向けるような真似などしない」
弟を思う、ジルフィーザは命の重さを知っている。
支え合う思いは繋がっていくのだ。
「好きにするがいい」
ジルフィーザは振り返りもせず先を行く。
ティターンは出しかけた右手やり場に少し困ったが、共に歩くマーフィの頭を撫でジルフィーザ後に付いた。
『握手をすると友達になれる』
芳香とオニイチャンの声を、頭の中で辿りながら。
168:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:15:06 dQbTWW1i0
169: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:15:54 Q/3sMbKy0
【名前】冥王ジルフィーザ@救急戦隊ゴーゴーファイブ
[時間軸]:第1話前
[現在地]:H-8採石場 1日目 黎明
[状態]:2時間戦闘不可。
[装備]:杖
[道具]:確認済
[思考]
第一行動方針:ドロップを探す。
第二行動方針:ロンを殺す。
【名前】冥府神ティターン@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage46(ン・マの依り代にされた)後
[現在地]:H-8採石場 1日目 黎明
[状態]:2時間戦闘不可。
[装備]:ウラノスとガイアの怒り、黒装束(虹の反物@轟轟戦隊ボウケンジャー)
[道具]:マーフィーK-9@特捜戦隊デカレンジャー、ディパック、支給品一式
[思考]
基本行動方針:命を守る
第一行動方針:ジルフィーザと共にドロップを捜す。
第二行動方針:スフィンクスを捜す。
備考:ティターンは虹の反物の特別な能力に気付いていません。
170:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:17:17 dQbTWW1i0
171: ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:19:44 Q/3sMbKy0
以上です。途中支援ありがとうございました。
172:兄!起つ ◆MGy4jd.pxY
08/06/14 00:25:03 Q/3sMbKy0
タイトル忘れていました。「兄!起つ」でお願いします。
173:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:26:34 l9E3ljHY0
投下乙です。
兄、をきっかけにタッグを組むティターンとジルフィーザがよかったです。
マーフィーを守るために奮闘するティターンも彼らしい。
GJ!
174:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:28:34 dQbTWW1i0
GJ!
ジルフィーザとティターンのぶつかり合い。どうなるかと思いましたが、結果は戦隊ロワで1,2を争う最強タッグの誕生に安堵しました。
冥府神と冥王、そして、オニイチャンと長男ジルフィーザの対比もお見事でした。
1点。細かい指摘ですが、
>>167
ティターンは出しかけた右手やり場に少し困ったが、共に歩くマーフィの頭を撫でジルフィーザ後に付いた。
「の」が抜けていることと、「。」の前にスペースが入っていました。
175:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:32:20 1Bgl9Vn/O
>>172
GJです。
マフィーを守ろうとするティターンの優しさ、
ドロップの身を案じるジルフィーザの想いが切なかったです。
相変わらずま迫力のあるバトルもお見事でした。GJ!
176:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:35:59 Q/3sMbKy0
感想と誤字の指摘感謝いたします。
相変わらずの初歩ミスが本当に申し訳なく思っております。
177:名無しより愛をこめて
08/06/14 00:54:36 +vBHeE9m0
投下乙です。
「兄」の共通項でタッグを組むティターンとジルフィーザ。
マーフィーとドロップを守ろうとする二人ですが、
傍から見れば怪人ペアなので、誤解されそうで不安……
GJでした。
178:名無しより愛をこめて
08/06/14 01:06:57 Q/3sMbKy0
重ね重ねお詫び申し上げます。
ティターンは出しかけた右手やり場に少し困ったが、共に歩くマーフィの頭を撫でジルフィーザ後に付いた。
は
ティターンは出しかけた右手のやり場に少し困ったが、共に歩くマーフィの頭を撫でジルフィーザ後に付いた。
でした。
179:お詫びの言葉もございません
08/06/14 01:20:12 Q/3sMbKy0
○マーフィー
×マーフィ orz
後日一時投下スレに誤字を含めたすべてを投下し直しておきます。
180:名無しより愛をこめて
08/06/15 18:11:25 48spXv9k0
>>154
タゴン、いやイフリートにも匹敵するとティターンは判断した。
タゴンではなく、ダゴンですが、
イフリートとの場所が逆じゃないですかね??
181:名無しより愛をこめて
08/06/15 18:56:35 meFkQehbO
>>180
純粋な戦闘力なら、ダゴンよりはイフリートの方が上なんじゃないだろうか。
ダゴンはいつも、2対1で戦ってた印象がある。
油断があったとはいえ、ネコミミ委員長一柱にやられてるし。
182:お詫びの言葉もございません
08/06/15 20:23:13 OTDHo7A40
大変申し訳ありませんでした。修正版をしたらばに投下いたしました。
指摘の他、気づいたところを修正し、
>>180氏の指摘も
ダゴンやイフリートにも匹敵する。 と訂正しておきました。
183:名無しより愛をこめて
08/06/16 06:41:23 +gM+6n56O
更新乙です!いつもありがとうございます。
184:名無しより愛をこめて
08/06/17 13:52:07 TW+S58DR0
それにしてもある程度、集団が出来てきたなー。
なんか、チーム名とか付けれそうだ。
185:名無しより愛をこめて
08/06/17 23:09:13 l+ftShzo0
今のところ3人以上のチームになってるのは、
ドギー、シオン、グレイ、恭介、さくらの時限爆弾チーム
ドロップ、ネジブルー、美希の凶悪3大マーダーチーム
シグナルマン、菜月、スモーキーの和みチーム
ティターン、マーフィー、ジルフィーザの怪物チームの4チームか
あとは瞬と纏、サーガインと裕作、明石とヒカル、蒼太とおぼろ、仙一とブクラテス、壬琴と菜摘とタッグが6組。
ロワって集団化するほど、バラける傾向があるから、これからこのチームがどこまで残るかが見ものかな。
186: ◆i1BeVxv./w
08/06/20 02:09:26 mXBGn1+u0
投下します。
187:ニアミス ◆i1BeVxv./w
08/06/20 02:09:59 mXBGn1+u0
港町のそれなりに舗装された道を、ガラガラと音を立てながら進んで行く木造の台車。
銀色のジャンバーを着た若い男が押す台車の上には身動きひとつしない金属製の人形が座っている。
「いやぁ、なんかこうしてると、昔見ていた時代劇を思い出すな。知らないか、手押し車に子供を乗せた侍の話」
「知らぬな。俺としてはこの屈辱的な有様を誰かに見られぬよう祈るのみだ」
雑談を交わす男と人形。男の名は早川裕作。そして、人形の名はサーガイン。
この二人が何故、某時代劇のような体勢で道を進んでいるのか。それは今より2時間ほど前。
ドモンとの戦闘を終え、不意討ちを行おうとしたサーガインだったが、突如として全身の力が抜ける症状に襲われた。
彼の金属質の身体は『クグツ』と呼ばれる操り人形のようなものであり、本体はクグツの頭の中で操縦している蟻のような姿をした身長30cmにも満たない小型の宇宙人である。
通常は本体の動きをトレースして、まるで自分の身体のように扱えるクグツであったが、肝心の自分の身体を動かせなければ、丈夫な棺桶にしかならない。
サーガインは症状が治まるまで、活動できないことを覚悟した。
それを助けたのが裕作だった。
最初は失恋のショックで動けないと勘違いしていた裕作だったが、別の要因で動けないことを知ると、近場から木材を収集し、支給品のフェンダーソードを使い、簡易的な台車を造り上げた。
そして、それにサーガインを乗せると、その場からの移動を始めたのである。
(あの時出会ったのがこの男でなければ、危ないところであった)
戦場で動けなくなる。これ以上の死亡フラグはない。そういった意味では裕作と出会えたサーガインは非常に幸運といえた。
(それにこの男、最初こそ単細胞かと思ったが中々侮れん。この台車、ネジを使わず、木と木の組み合わせだけで作られている。相当の技術力を持った男だ)
発明家は発明家を知る。サーガインは本能的に裕作から同じ匂いを感じ取っていた。
思わず裕作の顔を見つめるサーガイン。
「んっ?どうした、俺の顔に何か付いてるか?」
「いや、なんでもない」
裕作に指摘され、サーガインは顔を背けた。それを見て裕作はあることに気づく。
188:ニアミス ◆i1BeVxv./w
08/06/20 02:10:25 mXBGn1+u0
「サーガイン、お前、身体動くようになってるんじゃないか?」
「そ、そういえば」
つい今しがたまでは振り向くことさえ多大な労力を用いていたというのにそれが自然と行えていた。
サーガインはゆっくりと拳を握り締めてみる。グッと力を入れれば、拳は熱を持ち、その強固さを増した。
「どうやら間違いなさそうだ。よっ!はっ!とっ!」
サーガインは勢いよく立ち上がると、跳んだり、跳ねたりを繰り返し、自らの身体の調子を確かめていく。
ほんの数分前と比べて、身体が嘘のように軽い。
「どうやらもう大丈夫のようだ、裕作殿」
「やったな。回復までおよそ2時間ってところか」
取り出した時計を見ながら、裕作は神妙に呟く。
「しかし、一体これは……」
「たぶん、殺し合いを面白くするための一要素ってところだろうな。単純な力比べとかじゃなくて、どんな奴でもチャンスがあるようにしているってところか」
「だが、ドモンは平然と離れて行ったぞ」
「おそらくお前さんは特別なんだろ。機械仕掛けのその身体は普通に動くだけで人間には脅威だ。
参加者にも色々なのがいたからな。元から標準以上の力を持っている奴にはキツイ制限が掛かるんじゃないか?
詳しいことは他の奴からも聞いてみないとわからんがな」
裕作の言っていることは推測に過ぎない。だが、これまでの状況を考えると、サーガインも同意見。当たらずとも遠からじといったところだろう。
もはや裕作に、最初に抱いた単細胞というイメージはない。
台車を作る技術力。回復までの時間を計る冷静さ。わずかな手がかりから分析を行う発想力。
裕作は自らに並び立ちかねない恐るべき男だ。
(この男、要注意。脅威にならない内に始末しておくべきか?)
サーガインの眼が怪しく光る。
(……いや、止めておくとしよう。また、動けなくなっても困るしな)
この2時間、裕作は戦闘不能だったサーガインに一切手を出さなかった。
裕作が殺し合いに乗っておらず、サーガインも殺し合いに乗っていないと信用している何よりの証だろう。
要注意人物であることも、逆に考えれば、それだけ使える男ということだ。パートナーとしては申し分ない。
189:ニアミス ◆i1BeVxv./w
08/06/20 02:10:57 mXBGn1+u0
(首輪を解除し、ロンを打倒するまでは精々利用させてもらうことにしよう)
不穏当な企てを知ってか知らずか、裕作はサーガインに進行の再開を促す。
「うむ。しかし、裕作殿には苦労を掛けた。その台車はもう不要ではないか?」
これは単なる親切心から出た言葉だ。運送する必要がなくなった以上、台車はもう邪魔だ。
「いやいや。また動けなくなると困るし、それにこれはこういう使い方も出来るんだぜ」
裕作はニヤリと笑うと、台車を前後逆に持ち、走り出す。そして、勢いを付けると、台車に飛び乗った。
慣性の法則に従い、裕作を乗せて走る台車。道に軽く傾斜が掛かっていたこともあり、速度もそれなりに上がっていく。
「どうだ!こりゃ便利……っと、うわ!」
だが、小石でも引っかかったのか、突如、車輪は止まり、裕作は放り出された。
その光景を見遣り、
「……買い被り過ぎか?」
サーガインはボソリと呟いた。
▽
幸いなことに台車は壊れず、裕作も軽いかすり傷程度で済んだ。尤も流石の裕作も懲りたのか、引き摺りながら台車を運んでいる。
それでもサーガインが乗っていない分、二人の歩みは速まり、時計の短針が4を指そうとする頃、遺跡にまで二人は辿り着いていた。
「ふむ、遺跡エリアか。どのようなものかと思っていたが、中々に壮大な光景だ」
暗く禍々しい雰囲気が場を支配していた。遺跡の中と外とでは明らかに空気の質が違う。
天井は開き、新鮮な空気は絶えず入ってきているというのに、得体の知れない息苦しさはまったく打開されない。
「地図によると、このまま進むと迷宮部に入るようだが、探索するには骨が折れそうだ」
「同感だ。誰かいるかも知れんが、ここは迂回することを提案する。深雪殿も待っていることだ、探索は合流した後にしても問題はあるまい」
「深雪さん?もしかして、小津深雪さんのことかい?」
「ぬっ、誰だ!」
突然、後方から聞こえた声に、サーガインは瞬時に反応し、両肩から剣を抜く。
裕作もサーガインに並び、声が聞こえた方向に警戒の眼を向けた。
190:ニアミス ◆i1BeVxv./w
08/06/20 02:12:25 mXBGn1+u0
「驚かせてすまない。だが、ボクは君たちに危害を加えるつもりはない。知り合いの名前が出たので、つい気が逸ってしまったんだ」
声の主がサーガインたちにゆっくりと近づいてくる。近づくにつれ、顕になっていく声の主の姿。
優雅な物腰に、紺のジャケット。六四に綺麗に分けられた長めの茶髪に、優しげながらも力強い瞳。
「深雪殿の知り合いでその姿。もしや、お前がヒカルか?」
「そうです。やっぱり、あなたは深雪さんと会ってるんですね」
たちまちヒカルの顔に笑みが浮かぶ。ヒカルにとっては、守らなければならない二人の片方の手がかりが見つけたのだ。
「うむ。互いに仲間の探索を行い、合流する約束になっている。深雪殿からは殺し合いに乗るような男ではないと聞いているが」
「勿論。ボクはブレイジェルの遺志を継ぎ、殺し合いを止めるつもりです」
そのはっきりとした物言いと、深雪からの事前情報から、二人はヒカルが殺し合いに乗っていないことを確信する。
サーガインは刀を納め、裕作は構えを解くと、ヒカルに手を差し出す。
「俺は早川裕作。宜しくな」
「ヒカルです。改めて宜しくお願いします」
がっしりと握手を交わす二人。その光景を横目で見ながら、サーガインも自らの名前を名乗った。
「さて、じゃあ遺跡は迂回して、市街地に向かうとするか」
軽い自己紹介を追え、早速深雪との合流場所へ向かおうと、遺跡から出ようとする裕作とサーガイン。
だが、ヒカルは迷ったような顔をして、遺跡の奥を見ていた。
「どうした、なにか心配事でもあるのか?」
「……実は、ボクは今まで明石と一緒に行動していたんだ。覚えてないかい?一番最初に呼ばれて、ロンに啖呵を切った男のことを」
ヒカルの問いかけに、裕作とサーガインは肯定の意思を示す。あれだけインパクトを残せば当然の反応といえるだろう。
「するってぇっと、明石もこの辺りにいるのか」
ヒカルは顔を伏せ、首を振ると、東の方角を指し示した。
「彼は気になることがあると言って、一人で向こうに行ってしまったうよ」
ヒカルはその時のことを思い出す。
塔からの光景を元に港町へと繋がる道に辿り着いたヒカルはようやく本格的な仲間探しに移れることに安堵した。
191:名無しより愛をこめて
08/06/20 02:18:33 j7Dekomu0
192:名無しより愛をこめて
08/06/20 02:23:06 j7Dekomu0
しかし、明石は港町へと繋がる道ではなく、G3エリアへの道を進み始めた。
「待ってくれ、どこへいくつもりだ」
当然、制止の声を掛けるヒカル。
「気になることがある。塔から見た時、向こうに祠のようなものが見えた。
迷宮にはセオリーがあると言ったが、祠のある場所は知っている奴は行きやすく、知らない奴は行きにくいそんな場所にあった。
妙な場所にあるとは思わないか?」
平時なら耳を傾けてもいいが、ヒカルにとって、今はどうでもいい内容だった。
出口を前にしていることが余計にヒカルの心をかき乱す。
「明石、優先すべきことは探索より仲間の捜索だ。そんなこと今は放っておいて一刻も早く進むべきだ。違うかい?」
「……なら少し待っていてくれ。すぐに確認してくる」
そう言うと今度はヒカルが止める間もなく、明石は駆け出した。
ヒカルは溜息を吐き、すぐに帰るといった明石の言葉を信じ、待つしかなかった。
一応、今の今までヒカルは待っていた。しかし、それももう限界だ。
「どうする、待つか?」
裕作の問いかけにヒカルは否定の言葉を口にする。
「……いや、行こう。明石はひとりでもなんとかする男だ。ここにはメッセージを残しておけばいい」
グリップフォンにマジチケットを挟むと、ヒカルは呪文を唱えた。魔力を込められ、輝きを放つマジチケット。
明石が来れば、メッセージを伝える仕掛けだ。
ヒカルはその場にマジチケットを残すと、裕作らと共に歩き出した。一刻も早く、麗と深雪に会いたい。その一心だった。
だが、ヒカルは気づいていない。彼らが去った10分後、マジチケットは光を失うと、弾けて消えた。
能力制限。それは魔法使いたる彼には重く圧し掛かっていた。
▽
ヒカルと分かれた明石はG3エリアにある祠への道をひた走っていた。
ヒカルの考えはもっともだった。一刻も早く戻るため、明石は速度を上げる。
いや、それは理由の2割。8割は別の理由だ。
ひとつ気づいたことがある。
少なくともこの遺跡は実際に存在しているものなのだろう。
素人がこの殺し合いのために適当にでっち上げたものではない。卓越した知識を備えた何者かが何らかの意図を持って設計したものだ。
その意図に気づいた時、明石は走らずにはいられなかった。
193:ニアミス ◇i1BeVxv./w 代理
08/06/20 02:23:48 j7Dekomu0
全ては明石の胸に宿る熱き冒険魂のため。
「この中だな」
全力で走った甲斐もあり、程なくして明石は祠の前へと佇んでいた。
祠にはその重要性を示すかのように、豪華な装飾と観音開きの扉が設けられている。
「さて、鬼が出るか、蛇が出るか」
アクセルラーを使い、トラップがないことを一通り確認した後、明石は扉に手を掛けた。
宝を確認するこの瞬間。カァーっと熱くなる瞬間だ。
開かれる扉。その奥には黒いアンモナイトの化石のようなものが置かれていた。
実際に眼にしたことはなかったが、存在が確認されているプレシャスは明石の頭脳に刻まれている。
明石はそれが何か、瞬時に判断した。
「暗黒の鎧か。ハザードレベルは……予想以上だな」
暗黒の鎧、ダイノアースからもたらされた禁断のアイテム。装着したら最後、永遠に戦い続ける凶戦士になってしまう呪われた鎧だ。
明石はアクセルラーのカバーを回し、サーチモードからコマンドモードへと変形させる。
「ボウケンジャー!スタートアップ!!」
アクセルラーのタービンを回転させることで、パラレルエンジンの力を宿したアクセルスーツを身にまとい、瞬時にボウケンレッドへと変身する明石。
本来ならプレシャスの回収がボウケンジャーたる自分の使命。だが、暗黒の鎧は相当に危険なプレシャス。
それにここにあるということはロンが殺し合いを促進させる目的で置いたものだろう。
「これはここで破壊する!アクセルテクター!!!」
ボウケンレッドの叫びに応じ、瞬く間に装着される銀色の鎧。
「デュアルクラッシャー!」
続けて、左腕を掲げるとその手にはデュアルクラッシャー・ミキサーヘッドが握られる。
ボウケンレッドは抱え込むようにデュアルクラッシャーを構え、暗黒の鎧を狙った。
「ミキサーヘッド!」
引き金を引くと同時に勢いよく回りだす三つの銃身。後は対象を固める特殊光弾が放たれるのを待つだけだ。
だが、ボウケンレッドにとって、想定外のことが起こった。
194:ニアミス ◇i1BeVxv./w 代理
08/06/20 02:26:03 j7Dekomu0
アクセルテクターを装着しているというのに、勢いよく回転する銃身の反動が抑えられない。
「くっ、これは……」
やがて、発射される特殊光弾。その反作用にボウケンレッドは弾き飛ばされ、遺跡の壁に叩きつけられる。
「どういうことだ、これは」
幸運なことに発射された光弾は暗黒の鎧に命中したが、これではデュアルクラッシャーをドリルヘッドにしての使用は行えないだろう。
「アクセルテクター解除!」
ボウケンレッドはアクセルテクターを解除し、胸部に納められた物を確認する。この症状、考えられる原因はひとつしかない。
「やはり」
本来なら火竜の鱗が収納されているはずの胸部には、ご丁寧にも『残念』という文字が書かれた紙が入っていた。
「事前に抜いておいたというわけか。やるな、ロン」
火竜の鱗がないアクセルテクターは、それなりに頑丈な鎧でしかない。デュアルクラッシャーの反動を抑えるには火竜の鱗が必須なのだ。
恐らくそのことを知り、自分への嫌がらせのつもりで鱗を抜いたのだろう。
だが、考えてみれば、今の時点で気づいたのは幸運といえるかも知れない。
(これは俺が持っておくとするか。少なくとも俺と同じミスをすることは防げるはずだ)
ディパックにアクセルテクターを入れ、ボウケンレッドは改めて暗黒の鎧に向かって構える。
デュアルクラッシャーに頼らなくても、破壊だけなら充分に可能。
「ボウケンボー!」
頭部のライトによって、形作られる赤きマジックハンド。更に内部から刃から飛び出し、瞬時にボウケンジャベリンへとそのフォルムを変える。
ボウケンレッドは、ボウケンジャベリンを天高く振り上げると、力強く振り回し始めた。
「うぉぉぉぉっ!!!」
たちまち立ち昇る真っ赤な炎。そして、その炎はボウケンジャベリンの刃へとその力を宿した。
「ジャベリンクラッシュ!」
叫びと共に袈裟懸けに振り下ろされた一撃は置かれた祠ごと、暗黒の鎧を切り裂く。
刹那、暗黒の鎧は爆発に包まれ、この世界から消滅した。
195:ニアミス ◇i1BeVxv./w 代理
08/06/20 02:27:30 j7Dekomu0
「ミッション完了だな」
満足気に煙を上げる祠を見遣ると、ボウケンレッドは徐に踵を返し、元来た道を走り始めた。
ヒカルの元へと帰るためだ。
スーツによって強化された肉体は、変身する前とは雲泥の差のスピードをボウケンレッドに与える。
5分と経たない内にボウケンレッドは遺跡の出口へと辿り着いていた。
しかし、辺りを見渡すが、ヒカルはどこにも見当たらない。
「先に行ったのか。せっかちな奴だ」
自分のことを棚に上げ、ぼやくボウケンレッド。
「書置きのひとつでもしておいて欲しかったが……追うとするか」
ボウケンレッドは変身したまま、南へと進んでいった。
その道の先に誰もいないと知らぬまま。
196:ニアミス ◆i1BeVxv./w
08/06/20 03:23:07 mXBGn1+u0
【名前】明石暁@轟轟戦隊ボウケンジャー
[時間軸]:Task46後
[現在地]:G-2遺跡 1日目 早朝
[状態]:健康。ボウケンレッドに変身中。
[装備]:アクセルラー
[道具]:ラン様カード@爆竜戦隊アバレンジャー、アクセルテクター@轟轟戦隊ボウケンジャー
[思考]
基本方針:ミッションの達成(仲間と合流し、脱出する)
第一行動方針:南下して港町へと進み、ヒカルと合流する。
第二行動方針:ヒカルとの記憶の齟齬を解決する。
【名前】ヒカル@魔法戦隊マジレンジャー
[時間軸]:Stage35後
[現在地]:H-3港町 1日目 早朝
[状態]:健康。2時間魔法の使用不可
[装備]:グリップフォン
[道具]:月間宇宙ランド(付録なし)@激走戦隊カーレンジャー、ゼニボム×3@特捜戦隊デカレンジャー
[思考]
基本方針:ブレイジェルの遺志を継ぎ、殺し合いを止める。
第一行動方針:小津深雪との合流のため市街地へ。その間、早川裕作、サーガインと情報交換。
第二行動方針:小津麗の安全を確保する。
第三行動方針:ティターンに対して警戒。
第四行動方針:冷静すぎる明石に微妙な気持ちを抱きました。
197:ニアミス ◆i1BeVxv./w
08/06/20 03:23:40 mXBGn1+u0
【名前】五の槍サーガイン@忍風戦隊ハリケンジャー
[時間軸]:巻之四十三中(ガインガイン敗北後、サンダールに敗れる前)
[現在地]:H-3港町 1日目 早朝
[状態]:健康。クグツの胸部に凹み。
[装備]:巌流剣、ドライガン@忍風戦隊ハリケンジャー
[道具]:なし
[思考]
基本行動方針:ロンの打倒
第一行動方針:首輪を手に入れて、解除方法を模索する。
第二行動方針:しばらく裕作、ヒカルと共に行動。
備考:2時間の制限に気づきました。サーガインの場合、2時間制限中はまともにクグツを操縦できません。
【名前】早川裕作@電磁戦隊メガレンジャー
[時間軸]:34話後
[現在地]:H-3港町 1日目 早朝
[状態]:健康。
[装備]:ケイタイザー、木造の台車(お手製)
[道具]:フェンダーソード@激走戦隊カーレンジャー、火竜の鱗@轟轟戦隊ボウケンジャー、他1品
[思考]
第一行動方針:サーガインの力になる
備考:2時間の制限に気づきました。自分にも適用されることを予想しています。
メガシルバーの変身制限時間は2分30秒のままです。
198:ニアミス ◆i1BeVxv./w
08/06/20 03:24:39 mXBGn1+u0
以上です。
途中の代理投下、ありがとうございます。
誤字、脱字、矛盾点、ご感想、他指摘事項などありましたら、宜しくお願いします。
199:名無しより愛をこめて
08/06/20 08:25:57 IWQO1iYcO
>>198
GJです!
裕作さんと、チーフの分析はさすがの頭脳派らしい分析力だと思いました。
離れ離れになった彼らの今後はどうなっていくのか?
今後の展開が気になります。
台車に放り出されるお茶目な裕作さんに爆笑しました。
200:名無しより愛をこめて
08/06/20 11:02:18 lL6hQbxQ0
>>198
遅ればせながらGJ!
熱き冒険魂を抑えられない明石。
ヒカルの気持ちの微妙なズレが心配なところです。
そして深雪の死を知らない彼らの今後は……
サーガインと裕作、二人の魅力を引き立てるやり取り、テンポよく読ませる構成力。
もう一度GJ!
ひとつだけ指摘させていただくと、>>190ヒカルのせりふの
「彼は気になることがあると言って、一人で向こうに行ってしまったうよ」
は
「彼は気になることがあると言って、一人で向こうに行ってしまったよ」
ではないでしょうか?
201:名無しより愛をこめて
08/06/21 00:14:56 VafjvlZS0
裕作さんが鱗持ってるのにーーーーー
まさか魔法のほうが不便だとは
202: ◆i1BeVxv./w
08/06/21 02:55:59 ScA+YyXS0
ご感想ありがとうございます。
>>200
ご指摘感謝です。
まとめサイト更新と合わせまして修正しました。
203:名無しより愛をこめて
08/06/21 11:16:17 TtlrAqmC0
投下乙です。
サーガインと裕作のコンビのやり取りが面白かったです。和みましたw
ヒカルとの合流ですが、放送が怖いグループですね。
明石とのすれ違い、今後どうなるか楽しみです。
GJ!
204: ◆MGy4jd.pxY
08/06/23 21:19:29 dfVG917vO
本文は9割完成、ですがタイトルと状態表が手付かずです。
頑張ったのですが、推考にかかる時間も入れるとおそらく今日中の投下は無理かと……
大変申し訳ありませんが延長させて下さい。
205:名無しより愛をこめて
08/06/23 21:34:53 qemrvbvp0
了解しました。
明日の投下を心待ちにしております。
206: ◆MGy4jd.pxY
08/06/24 23:58:50 BwcbRh4R0
遅くなりまして申し訳ありませんでした。
只今から投下します。
207: ◆MGy4jd.pxY
08/06/25 00:02:37 XQ2+ROsE0
「ヤバイよ~これからどうしよう。早くインフェルシアに帰りたいよ」
「……」
「あ~もう!ン・マ様が復活してたらあんな奴、ギッタンギッタンのメッタメタにしちゃうのに。ねぇ、メア」
「……」
いつもなら、メアの相槌が入る。
なのに、メアは黙ったまま。
バンキュリアが寂しさから身を二つに分けて以来、それぞれをナイとメアと呼び合い幾多の時を重ねて来た。
メアが返事を返さないのは、初めての事だった。
「メア?」
ナイはメアの顔を覗き込んだ。
メアは大きな目をギラつかせ、月明かりの下では漆黒に見える唇を噛んでいる。
「メア……」
ナイはそっとメアの肩を抱き寄せた。
ナイはメアで、メアはナイ、元々身体一つのバンキュリアなのだから、メアの抱いている不安はナイの本心。
ナイも同じ不安を抱いている。
でも不安に震えていても、状況は何一つ変わらない。
ナイは考えた。自分に与えられた称号の意味を。
208:名無しより愛をこめて
08/06/25 00:03:21 hguAVJwV0
209: ◆MGy4jd.pxY
08/06/25 00:03:51 XQ2+ROsE0
クイーンバンパイアーーーーそれが人々に畏怖され、自らのプライドの証でもある称号。
(そうよ、ワタシたちはクイーンバンパイア、妖幻密使バンキュリア)
気を奮い立たせたナイは、メアの手を握り無理矢理はしゃいだ声を出した。
「大丈夫だよ~アタシたち、不死身のクイーンバンパイアじゃん?」
「……だよね」
返事を返してくれた物の、メアの声はまだ沈んだまま。
ナイはメアの瞳を見つめ宥めた。
いつも通りの声で。
「ねぇナイ、さっき殺されたアイツいたじゃん」
「さっきの……あの黒いヤツ」
「そう、アイツの首輪取っちゃお!」
「……アイツの首輪~」
「そう、アイツの首輪取っちゃって~」
「取っちゃって~?」
「それを囮に、バカな参加者に味方のふりして近づいて」
「うん、うん」
「首輪を外す方法を探さして、こ~んな首輪、さっさと外しちゃお!」
「だね~。さっさと外しちゃお~、外しちゃお」
「だって、ワタシたちは妖幻密使!味方のふりなんて簡単」
「間単だよね~」
密使、それは密かに任務を遂行する使者。
210: ◆MGy4jd.pxY
08/06/25 00:04:33 XQ2+ROsE0
妖幻密使、それがバンキュリアに与えられたもう一つの称号だった。
ナイはメアの手を握り、二人寄り添いながら来た道を戻る。
真澄の骸に残る首輪を奪う為に。
ロンの片腕であるサンヨ、それに広間にいた憎たらしい魔法使い達、素のバンキュリアでさえも手強い者達。
制限下に於いてなら、なおの事『強敵』と呼べる存在。
それに打ち勝つ為に……
いや、それよりも何よりも自分自身の身を守る為に、まず首輪を外さなければならない。
これが首に有る限り、自分の生死はロンに左右される。
(ロン、アイツはヤバイ。もしかしたら、ン・マ様と同じぐらい……)
笑顔を浮かべながらも、ナイは背筋を走る悪寒を抑えられなかった。
ふと、メイは立ち止まり、慈しむようにそっとナイの首輪を擦った。
どうすればいい?
ナイは自分自身であるメアに問う。
「メア。首輪外した後、どうする?いつまでも、味方のふりするのもムカつくよね」
「ムカつく、ムカつく」
「そうだ、ロンに使えちゃうってのは?ハハハ……」
「アハハハ……」
ロンは、勝ち残った者の願いを叶えると言った。
211: ◆MGy4jd.pxY
08/06/25 00:05:18 XQ2+ROsE0
吸い付きたくなる、甘い蜜。
だが、甘い蜜には罠がある。
蜜で飼い慣らされても、首輪を嵌められたままであれば、生殺与奪はロン握られたまま。
最後の一人まで生き残れたとしても『元の世界に帰る』その願いさえ、叶えてくれる保証など皆無。
皆、蜜には寄ってくる。だが、その味が苦ければ離れて行くのが世の常。
ナイは視線を泳がせた後、首輪を擦るメアの手に手を重ね言った。
「なんてね。アイツ自分の仲間のサンヨってヤツにも首輪嵌めてたぐらいだし…あっ、もしかして」
「もしかして、サンヨが~」
「いらなくなっちゃったとか?」
「「ザマーミロ~」」
笑顔のメアにナイは満面の笑顔で答えた。
「アタシたちを吹っ飛ばしたサンヨ、もし今度あったら~」
「「やっちゃおうか!」」
バンキュリアはサンヨを嘲笑い、ロンに感じた恐怖を振り払った。
212:名無しより愛をこめて
08/06/25 00:06:02 ze+Kdw+O0
213: ◆MGy4jd.pxY
08/06/25 00:06:03 XQ2+ROsE0
‡
『今度あったら』
今度とお化けは滅多に遭遇できない物。
そう言った観点から見ればナイとメアは非常に運が良い。
だが、真澄の屍体のある場所まで戻った二人は、実際に遭遇した『今度』という奴に目を剥いた。
「げ、ちょっとアイツ、まだいるよ?」
「まじ?」
「ねぇ、アイツもワタシたちと同じで、まだ制限解けてないよね……」
「解けてない。解けてない」
「良い事思い付いちゃったよ。メアがアイツ目掛けて催涙弾を打って~」
「うん、うん」
「アイツが泣いてる間にアタシが首輪を取って、メイが止めを刺す」
「それ、いいね~」
メアは銃弾を催涙弾に詰めかえた。
後一時間は、サンヨも制限時間内。
力が使えないならば、武器を持つ自分たちにも勝気はある。
残弾は銃弾が11発、催涙弾が5発、消滅の緋色と説明書のある弾が1発あった。
制限下の相手ならば催涙弾で視界を奪い、銃口の先端に光るナイフで刺し殺すのは難しくないように思う。
限りある予備の銃弾は出来るだけ取って置きたい。
一発たりとも無駄にはしたくなかった。
「完璧だよね」
「だよね~」
ナイとメアは木の影からサンヨの様子を伺う。
214:名無しより愛をこめて
08/06/25 00:06:27 ze+Kdw+O0
215: ◆MGy4jd.pxY
08/06/25 00:07:29 XQ2+ROsE0
闇の中で、こちらに気付いたサンヨの頭が動くのがわかった。
「やっちゃいな!」
サンヨが立ち上がった、ナイがそう思った時、メイがライフルの弾金を引いた。
ーーパン!
銃声と火花が闇の中に散った。
サンヨは一瞬仰け反り、打たれた胸を抑え低く呻き声をあげる。
白い煙がサンヨの上半身を包む。
そして煙の中で、のた打ち回りながら激しく咳込みはじめた。
「「やったね!」」
ナイとメアの歓声がハモる。
よろめきながら闇の中へ消えて行こうとするサンヨの大柄なシルエットを逃さず、メアは突進し先端のナイフで袈裟がけに切り付ける。
ナイフは刃を煌めかせ、本能的に顔を庇ったサンヨの右手を切り裂いた。
次の攻撃を避けようと後退したサンヨは、真澄の頭であった血溜まりに足を取られよろけた。
「前…ガ、見えな……いヨ」
サンヨはぎくしゃくと腕を動かし、じゃくじゃくと骨を砕き、血に滑る足取りで奇妙なピエロのダンスを踏んでいる。
ナイとメアは可笑しくて笑い転げた。
「キャハハハハ。大成功やったね!」
「早く首輪さがしちゃお!」
「オッケー!何これ、キモ~イ」
メアはサンヨを突き飛ばし、暗がりにしゃがんで、血溜まりの中の首輪を探す。
216:名無しより愛をこめて
08/06/25 00:08:04 ze+Kdw+O0
217:名無しより愛をこめて
08/06/25 00:08:26 hguAVJwV0
218: ◆MGy4jd.pxY
08/06/25 00:09:12 XQ2+ROsE0
横で、ザシュッザシュッとリズムを刻みながら、メアはサンヨの腕、肩、体へと執拗にナイフを突き立てる。
その度に催涙弾で焼かれた喉からサンヨの掠れた声が漏れた。
「あったあった、メア!あったよ!」
「おっ、やったね」
「ついでにサンヨの支給品も、貰っちゃお」
メアはサンヨのデイバックに手を伸ばした。
一瞬、真澄の防弾チョッキを思い出し手を伸ばしかけたが、血をたっぷり吸ったそれを着たいと思わなかった。
「なになに?『マジカルチェーン』と『デュエルボンドソード』……剣によって勝負が決した時にのみ、チェーンは解消する。だって」
「何、それ?」
メアは右手で剣を持ち、両側に腕輪が着けられた数メートルほどの長さの古びた鎖を左手でシャラシャラと振り回した。
ナイの視線が鎖に動き、ナイフの切っ先がサンヨから一瞬離れる。
その隙を突いたサンヨは蜥蜴のように地を這い、必死にそこから逃げようとした。
だが、行く手をナイが先回りし塞く。
遅れてメアがマジカルチェーンの片輪をサンヨの右腕に嵌めた。
メアが血で汚れた手を黒いスカートで拭いながら、ナイが銃口を向けながら、言った。
「おっと、逃がさないよ~」
「逃がさないよ~」
「さっきは、よくもふっ飛ばしてくれたよね」
「「せーの」」
ナイとメアは鎖の反対側を力任せに引っ張った。
つんのめるようにサンヨが立ち上がると、ぐるぐると真澄の周囲を回り勢いづいた所でパッと鎖を離す。
サンヨの身体はそのまま突進し、止まる事なく大木に叩き付けられた。
219:名無しより愛をこめて
08/06/25 00:09:41 hguAVJwV0
220:名無しより愛をこめて
08/06/25 00:09:48 qXpJ6jlK0
真澄じゃなくて、真墨では
支援
221: ◆MGy4jd.pxY
08/06/25 00:10:01 XQ2+ROsE0
サンヨは「グェッ」と、かえるのような一声を発し、そのまま仰向けに倒れた。
数メートル後ろから、ナイとメアはその姿に腹を抱えて笑っている。
「アハハ、弱っち~。だからロンにも見切られるんだよ」
「だよね~」
サンヨは倒れたまま、未だ掠れた声を搾り反論した。
「ロ…ン…がサンヨを、見……切るはずな…いヨ」
その言葉に二人は堪えきれずピョンピョンと跳ねた。
「まだ気付いてないよ、コイツ。おっかし~。じゃあなんでアンタも首輪を嵌められてんの?」
「そうそう」
「違うヨ……これは、ハンデヨ~」
サンヨはムクリと上体を起こした。
立ち上がろうと膝を突き、崩れ、手を突き、崩れ、そして四つん這いになりながらナイとメアから顔を背けず、起き上がろうとしている。
「サンヨは…何故だか死なない……不死身ヨ~」
酷くおどけた口調だった。
メアは自分の心が震えるのを誤魔化すよう、歪んだ笑みをサンヨに向けた。
ナイはライフルの催涙弾を黒い銃弾に詰め換えサンヨに狙いを定めた。
「アハハ、そんなの首輪がなければの話だって。
それに不死身なのは、アタシたちだけでいいよ!」
「「逝っちまいな~」」
メアがライフルの引金に指を掛けた。