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竹中平蔵「仮面の野望」
竹中の処女作『研究開発と設備投資の経済学1経済活力を支えるメカニズム』が東洋経済新報社から出版されたのは
八四年七月だった。宇沢のもとにも竹中から献本が届けられた。
「竹中君がこんな本を送ってくれたよ」
設備投資研究所で、宇沢はそういって鈴木和志に本を見せた。鈴木との共同研究が入っていたからだ。
ところが鈴木は本を見て驚いたような顔をしている。不審におもって宇沢がたずねると、鈴木には献本はなく、
竹中の出版を鈴木はまったく知らなかった。
鈴木が激しいショックを受けたことは傍目にもわかった。宇沢や同僚たちのいる前で泣き出してしまったのである。
じつは、竹中は本を出版するかなり以前に鈴木のもとを訪れていた。共同研究の成果を竹中の名前で発表することの
承諾を求めたのである。鈴木は拒否した。
「二人で研究したのだから、発表するなら二人の名前で発表してほしい」
鈴木は竹中にそういった。結局、話し合いがつかず二人は別れた。鈴木はこのあと竹中から何も知らされず、
しかも突然出版された本には、承諾しなかった共同研究の成果が収められていた。
鈴木にとってもアメリカでの研究生活の集大成だった論文だ。
悔しさのあまり涙を流したのだろう。