08/10/26 17:39:03 gvo4FmVL0
「じゃ、あなたはお金持ちじゃない?」
「そう、金持ちじゃない」
「だったら私が働いて、あなたを助けるわ……」
少女はちらっと私を見て、赤くなり、目を伏せた。
そして二、三歩寄って来たかと思うと、とつぜん両手で私に抱きつき
私の胸に顔を押しつけた。私はぎょっとして少女を見つめた。
「私あなたが大好きよ……私、負けん気なんかじゃない」と少女は言った。
「きのう、私のこと負けん気だって言ったわね。ちがう、ちがうの……
私そんなんじゃない……あなたが大好きなの。私を可愛がってくれたのはあなただけ……」
『虐げられた人びと』
ドストエフスキー/小笠原豊樹訳/新潮文庫