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19世紀のロシア文学は異様な景観を誇る。
このロシア山脈は、いきなりプーシキンやレールモントフの高山から始まる。
中をつないだゴーゴリでヨーロッパ山脈の高さに並んだ。
ゴンチャロフ、ツルゲーネフ、ネクラソフなどの雄峰を経て、
トルストイ、ドストエフスキーという二大巨峰が現れるに至って、
ヨーロッパ山脈を完全に圧倒した。
そしてなだらかな弧を描いて美峰チェーホフに至り、
そこから急に断崖となってその先は何もない。
フランス文学の猿真似ばかりやっていたロシアが、独創の階段を駆け上がり、
気づいたら時代の最先端を走っていた。20世紀前半に登場した西ヨーロッパの
作家たちは、19世紀半ばのロシアを後追いで真似していた。
普通、ある時代に文学の潮流が起きると、それをいったん吸収して試行錯誤が
始まり、しばらく続いて、次の潮流がおきる。
19世紀のロシアで起きたことは、ヨーロッパの文芸を猿真似する無個性なロシア人が、
ヨーロッパの浪漫主義と写実主義をほぼ同時に取り込んで短期で消化し、
すぐに自然主義にホップステップし、そこから瞬く間に実存主義にジャンプした。
ヨーロッパで自然主義が花を咲かせたのが、19世紀後半になってからだったことを
考えれば、いかに神業の芸当かがわかろう。
カローラを追い掛け回していた原チャリが、突然フェラーリになって
カローラをぶっちぎり地平線の彼方に消えていったようなものだ。
19世紀ロシア文学という現象は、二度と起こらない突然変異。