08/08/21 11:09:11 v1U3sluJO
「勝たせて下さい!勝たせて下さい!○○は皆様が安心して生活できる世の中を創る為に頑張ります!どうか、どうかお願いします!」
けたたましい選挙カーが、
腰を屈めて老人の様に歩く若者の横を通り過ぎた時、
その若者は選挙カーに描かれた立候補者の顔を睨みつけた。
「獅子舞みたいな顔しやがって…何が安心だ!」
吐き捨てるように呟いた彼は、派遣された工場で腰を痛め、治療の為に通院していた。
自動車工場に派遣されていた彼は、1日8時間、残業があれば10時間は中腰で潜り込むように作業していたという。
無理な姿勢での作業は、一月も待たずして彼の腰を破壊した。
一番酷い状態の時は歩くのも困難で、トイレには這って行き、食事も取れずにトイレの水で命を繋いだ事もあった。
「その腰痛、治らないなら直ぐに寮を出て行ってね。それと初診の時に病院に自分で金払ったから今後労災認められないよ」
布団で激痛の為にうずくまる彼の枕元で、派遣会社の担当が冷たく言い放った。
そして汚い物を見るような眼で彼を見つめ
「使えねぇ奴だよなぁ…ホント病人って迷惑なんだよね。お情けで一週間置いてやっから、その間に次行く所見つけてね」
布団の中で泣きながら痛めた腰を摩った、悔しさで噛み締めた唇から血が流れていたという。
腰痛の彼を採用してくれる会社は無く、しかし明日には寮を出なくてはならない。
歩くのも困難な彼は、もはや食費も底を尽き、病院にも通えなくなっていた。
全てを諦めたように彼の顔は能面の様に無表情で、死人の様に青ざめていた。
「安心な生活って…何なんだろう…」
遠くを見つめる彼の耳には
先ほどの選挙カーの声が聞こえてくるのだった。