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始まりは、火の通りをよくするためだったらしい。ドーナツの穴である。昨今の店先
には丸い菓子パン風も並ぶが、やはり最初の一口で穴が壊れ、二つの断面から粉がこぼ
れるのが「らしく」ていい
▼その愛すべき穴は、しかし、ただの空気で満ちている。ドーナツもマカロニも、穴が
大きくなるほど腹に収まる部分は減っていく。価格が同じなら、大きい穴は生産者の利
益につながる定めだ
▼大手の水産会社が2年前から、ちくわを短く、穴を大きくしているという記事があっ
た。原料のすり身が世界的に高騰したため、1本を30グラムから25グラムに減らし
たそうだ。それでも追いつかず、結局は値上げを強いられたという
▼外地での話だが、身が両端にしか入っていない冷凍エビフライに出くわしたことがあ
る。そんなキセルもどきや、相次ぐ食品偽装の厚かましさを思えば、穴の拡張にはどこ
か哀感が漂う。万人がちくわと認める形を保ちながらの減量は、苦肉の策には違いない
▼とはいえ、ちくわ1本の重さを確かめて買う人は少ないから、体のよい値上げともい
える。こうして、妙な企業努力が、食品や日用品に広まっているらしい。バターをマー
ガリンに、小麦粉を米粉に代えた、これまた哀感あふれる新商品も登場している
▼酷暑の列島は値上げづくし。消費者は生活防衛に追われる毎日だ。なるべく買わない、
使わない、遊ばない。そうはさせまいと、メーカーや小売店も手段を選ばない。切な
い知恵比べである。広がったちくわの穴から、くらしの非常事態が見えてくる。
■ソース(朝日新聞2008年7月27日(日)付)(明日には内容変わります)
URLリンク(www.asahi.com)