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昭和17年6月25日 朝日新聞朝刊コラム「有題無題」(現在の天声人語)
東條首相が各地を行脚して、つとめて巷の声をきかうとしてゐることは、歴代宰相
にないこととして世人の注目を惹いている▼政務多忙の中をおして、まめまめしく
歩く首相の努力ぶりには敬意を表するものである▼殊に最近聞いた話だが、首相が、
ある町の木炭配給所を覗くと、煉炭が堆だかく積まれてゐるので、煉炭は剰つて
ゐるのか、ときいた、すると、配給所員の曰く「えゝこの辺では余り煉炭の需要が
ありません」▼ところが首相はその足で、その界隈の一農家へ入り
「煉炭の配給はいゝか」と訊ねた、すると、そこの老婆は「どうも煉炭の配給が
ないので困ります」と答へた▼そこで、首相は、早速さきの配給所へ引返し、
煉炭の配給不円滑を責め、直ちに、件の農家へ配給するやうに手配せしめた▼
東條首相一流のテキパキしたやり口は気持ちがいゝ。と同時に、農林、商工両相以下、
国内経済行政に関係する上下の役人連は、何故、この首相の意気に学んで率先
事にあたらぬのかといひたくなる(以下略)