08/06/24 17:47:45 uZGmPDx00
「常温核融合に首を突っ込んだばかりに、ろくなことはなかったですよ」
北海道大学の水野忠彦は、かつて本気とも冗談ともつかない表情でこう語ったことがある。
水野自身が語る。
「昇任の話は1989年から何回かありましたけど、必ず常温核融合の話が出てきます。一番
最後に言われたこともありますし、最初から『彼は常温核融合をやっているから』と言われた
こともありました。要するに踏み絵ですよ。常温核融合の研究を止めれば昇任させてやる、と。
普通の研究に戻ってくれば問題ないのにとか、さんざん言われました。しかし私としても実験
事実を曲げるわけにはいきませんからね」
口調は穏やかで他人への気配りを忘れない水野だが、見かけによらず反骨精神は強い。
教授のポストをめぐって政治的に立ち回れというのは、水野にはしょせん無理な相談だった。
水野自身、教授のポストにさほど魅力を感じていない節もある。だが教授という肩書きを持た
ないことで、満足な研究費が得られないことは苦痛にちがいない。常温核融合の実験で使わ
れるパラジウムや重水はいずれも高価で、その捻出は容易ではない。だが水野によれば、そう
した逆境も必ずしも悪いことばかりではないという。
「今では、お金がないことがかえって良かったのではないかと思っています。日本で残った
人はわずかですが、純粋に常温核反応自身に関心のある人たちです。資金が潤沢でない分、
互いに緊密な議論が十分できます。どこからも制約はないし、先駆けてやろうという人もいま
せん。実験をする場合も、ここがおかしいとか、こうすればいいといったアイディアが出てきます。
そういうのが本当に役に立つんです。それによって研究のほうも相当進みました。JCFでも
平等に一人30分の発表時間が与えられて十分な討論ができますし、本当の最先端がわかる
んです。」