08/05/27 23:42:11 UUxdMjLx0
今から２年前。カーチャンがいきなり「太極拳始める」って言い出したんだ。
近所のサークルから誘われたらしい。大会には６人いないとダメなんだそうで。
それで運動神経の良くないカーチャンに声がかかったようだった。持病の高血圧にもいいそうで。
ある日、カーチャンがオカリナ奏者の宗次郎のＣＤを持って俺のところへ来た。
カーチャンはなぜか以前からオカリナの曲が大好きだった。大会で使うので、曲を５分に編集してくれと。
ＭＤ使えばすぐ終わることなのだが、面倒だった俺は (`Д)<ﾅﾝﾃﾞｵﾚｶﾞｿﾝﾅｺﾄｼﾅｷｬｲｹﾅｲﾝﾀﾞﾖ ｼﾞﾌﾞﾝﾃﾞﾔﾚﾖ
と言ってしまった。カーチャンは古くなったカセットテープを使って夜遅くまでかかって編集していたようだった。
その週の日曜日、俺は買い物の途中の体育館で、太極拳の大会をやっていることを知った。
入ってみたら、カーチャンの番。最初のうちはまぁまぁだったが、途中で音楽が「キュッ」といって止まってしまった。
原因は何かわからんが、パニクったカーチャンは明らかに他のオバサンたちと違う動きをしてた…
俺は途中で帰ることにしたが、カーチャンがオバサンたちに囲まれて責められていた。
「曲の編集くらいちゃんとしてよね」「あんたなんて誘わなきゃよかった」なんて、ボロクソに。
カーチャン、顔真っ赤にして、いつまでもいつまでも謝りつづけてた。
俺はいたたまれなくなって、逃げるように帰ったが、病院から留守電が入っていた。
あの後、カーチャンは血圧が上がりすぎたのか、脳溢血で倒れ集中治療室に運ばれたのだそうだ。
俺は病院に急ぎカーチャンの個室に入ったが、カーチャンにいくら話しかけても返事はなかった。
ふと、荷物の中に宗次郎のテープがあることに気がついてラジカセを貸してもらい、テープを流した。
すると、無表情だったカーチャンが少し笑ったような気がした。
「一回ぐらいの失敗、気にすることないよ。またやり直せばいいじゃないか！」
俺は必死で叫んでいた。カーチャンに向かってだけではなく俺自身にも言い聞かせていた。
この間、カーチャンの一周忌を済ませた。もうすぐお彼岸が近い。
お彼岸、お盆、カーチャンの命日には決まって俺は下手なオカリナを吹く。
カーチャンがどこかで聞いてくれてるんじゃないか、そんなことを考えながら。