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■「坊ちゃんナショナリズム」
斎藤 学(精神科医)
診察室という穴蔵から見ていても、最近、ニート、フリー夕ーなどと呼ばれるオヤジ青年(団塊ジュニア)たちの間に漂うナショナリズムみたいなものにぞっとさせられる。
ある三十歳の青年は千葉県から靖国神社まで徒歩で往復し、軍人だった母方祖父の軍服などの遺品をあがめ、父母の市民的生活を批判している。
別の三十代前半オヤジの愛読書は『我が闘争』。
旧日本軍の制服を集めたりモデルガン(エアガン?)を買ったりして同好の士と戦争ゴッコをしている。
彼らは韓国と中国が大嫌いだ。仕事はろくにせず、ひきこもってばかりでネットで夢中で差別発言をしている。
彼らは、親たちが困り果てて私のところヘ相談にきているのだが、この連中と自らを対人恐怖者と自己診断して治療にやってくるような自己探索青年たちとは違う。
「政治オタク」系ニートはせっせと投票にも行く。
自民党、特に小泉・安倍・麻生といった三世議員の支持者である。この三人は祖父の代からのファシストという血統書を持ち、
小泉や安倍・麻生が韓国と中国に嫌われることをすればするほど小泉・安倍・麻生を熱狂的に支持する。
麻生による被差別部落民への差別発言にも大喜びをするのだ。
自分が弱者であることを認めず、金持ちに大減税を行い一般人に大増税をし、福祉を切り捨てた小泉純一郎を好むという不思議な傾向は単なる無知によるものだけではないのだ。
また貧乏人なのにホリエモンが好きだ。
衆院選で小泉が大勝利をおさめたことや石原慎太郎の再選については、こういう人々の支持を集めたというところがあるのではないか。
こうした「坊ちゃんナショナリズム」の潮流をなめない方がいい。
国家社会主義ドイツ労働者党(ナチス)も登場当時は変わり者の貧乏人集団だった。
もっと好きなのはサッカーの応援なので(決してプレーヤーにはならない)、ワールドカップの乗りで「ニッポン、ニッポン」とやっているのかも知れない。
(東京新聞 2006.1.11)