08/05/03 17:04:14 dwgjYNOu0
ヨシミは毎朝、離れて暮らす夫を電話で起こす。一日でもっとも心楽しい時間だ。
「おはようあなた。今朝はちゃんとお目覚めかしら?」
「おはよう、ヨシミ。もう30分も前からキミのコールを待ってたよ」
明らかに寝ぼけた声。結婚してからずっとかわらない夫の軽口が今朝も心地よく耳に響いた。
「まぁ、ずいぶん口がお上手でいらっしゃいますこと。そちらで何かあったのかしら」
「お、おいおい。僕がそんな男じゃないのは知ってるだろう。こんなこと会社の子にだって言いやしないよ」
ありきたりにすねて見せる女に、やはりにありきたりに応じて見せる男。ここ数日の、ふたりのお約束。
「はいはい、そういうことにしておきますわねー」
「まったく、朝からキミってやつは…」
このヨシミ(これを読む多くの人にとってはカミに、と言ったほうがいいかもしれない)の姿を見れば違和感を抱く人は多いだろう。
起床から1時間、それがヨシミに許された時間。一日の大半は第二の人格”カミ”が肉体を支配しているのだ。
「昨日の話だけどさ、やっぱり俺たち…」
「ごめんなさい。私ね」
こっちで一緒に暮らさないか?そう続くはずだった男の台詞は、ヨシミのしぼりだすような声にさえぎられた。
「やっぱり私、今のゼミの子たちは教員として見送ってあげたいの。もちろん私は全ての授業から外してもらうつもり。
私のせいであの子たちを苦労させるわけにはいかないものね。それでも…せめて同じキャンパスで見守ってあげたいの」
男は小さく息をついた。
「僕が心配してるのはね、キミのことだけなんだ。このままじゃキミは…キミの心は…」
「しかたないわ。カミはもう1人の私。私は私の責任から逃げたくはないのよ。…ごめんなさい。あなたには本当に…」
「おっと、そいつは言わない約束だぜおとっつぁん」
男はつまらないネタで無理矢理笑い飛ばす。
そこから先を言わせたくなかったのだ。たとえもう何度も言わせてしまった謝罪の言葉であっても。
その瞬間だった。キュムキュムとした