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『南極1号伝説』[著]高月靖
■ラブドール誕生への道
書名の南極1号とは、少なくとも中年以上の男性にとっては伝説と化している名称である。第一次南極
越冬隊が、若い隊員のため性欲処理人形=ダッチワイフを携え、しかもその開発は国家プロジェクトで
あったというものである。
このまことしやかな話と、ポルノショップで見かける風船式の異様かつキッチュなダッチワイフの外観から、
いったい特殊人形を相手にセックスを行うことは異常なのか、またどんな人がユーザーなのかといった
素朴な疑問が、しばしば艶笑話やエロ漫画における揶揄といった形で男性諸氏の好奇心をくすぐってきたのだ。
現在では、ダッチワイフはきわめて精巧なフィギュアへと変貌し(それに応じて名称もラブドールとなった)、
キッチュがシュールへと移行した趣がある。そしてその背景には、ネットの普及が大きく関与しているらしい。
評者にとって風船式の安っぽいダッチワイフから連想される言葉は「孤独」である。寒々とした、惨めさと切実さと
鬱屈とを内包した孤独である。しかし今やユーザーたちはネットを通じてメーカーへ細かい注文をつけ、
またユーザーの反響がすぐにアップされるためにメーカーもいい加減なことはできない。職人としての情熱を
傾けたメーカーがいくつも出現し、リアルなラブドール制作にしのぎを削っている。
ユーザーたちはネット上で語り合い、ときにはオフ会までもが催されるという。古典的なダッチワイフの
時代は過ぎ去ったのである。だがOLふうの、本物の眼鏡をかけたラブドールのハイパーリアルな
姿を見ていると、所詮(しょせん)は性欲処理の用途に供されることを思い起こすにつけ、虚ろな気分に
陥らずにはいられない。
南極1号の顛末はもちろん、開発者やユーザーへのインタビュー、多数の写真、行き届いた調査と
「痒いところに手が届く」項目立てが、本書をまさに快著にしている。小手先の仕事ではないところが
清々しい。 評・春日武彦(精神科医)
(2008年4月28日 読売新聞)
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