08/04/23 23:43:53 6i7I0bLU0
〈ひと日着て残る体温いとしみつ青さ薄れし囚衣たたみぬ〉島秋人。
24歳で殺人を犯し、33歳で刑死した男性が詠んだ。一日の終わりにかみしめる、命あることの喜び。深い悔いと、生への感謝が鮮烈だ
▼自分が裁判員だったらと、天を仰ぐ。山口県光市で9年前に起きた母子殺害事件である。
きのうの差し戻し控訴審判決で、裁判長は一、二審の無期懲役を覆し、犯行時に18歳だった被告に死刑を言い渡した
▼心にくっきりと結ぶ像がある。まず幼子を抱く本村弥生さん(当時23)。写真の母子に体温は戻らない。
そして死刑を求める夫の洋さん(32)。煮えたぎるものを、これほど静かに、強く語れる人を知らない。
事件のむごさを思えば、極刑も一つの判断だろう。もちろん、迷いもある
▼NHKと民放の放送倫理・番組向上機構(BPO)は、判決に先立ち、情報番組の扱い方について
「〈奇異な被告・弁護団〉対〈遺族〉の図式を作り、その映像を見て感情的な言葉を口にする」と指摘した
▼影響されていない、と言い切る自信はない。いつの間にか、洋さんと一つになっている自分がいる。
片や被告の印象は、法廷スケッチの後ろ姿だ。少年時の表情や息づかいに接していれば、別の思いに至ったかもしれない
▼1年ほどで裁判員制度が始まる。一審のみとはいえ、恐らくは証拠と感情が折り重なった部屋で、他人の人生や、時には生命までを処断することになる。
「くじ運」次第で、あなたも私も。36度の温(ぬく)みを持つ体を、茶の間ではなく目前で裁く用意はあるだろうか。