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・光市母子殺害事件の差し戻し審は予想通り死刑判決だった。厳粛に受け止めるべき判決だが、
ここに至る経緯は異常だった。
犯行当時十八歳と一カ月だった被告を一、二審が無期懲役にすると、ネットや週刊誌などで激しい攻撃が
始まった。妻を暴行され、愛児とともに惨殺された夫が、極刑を強く要求し、テレビはその顔をアップで画面に
とらえ、詳しく報じた。一部メディアは死刑を求める大合唱の場になった。
無期判決を破棄した最高裁、差し戻し審で死刑にした広島高裁の裁判官が、この影響を多少なりとも
受けたことは否定できまい。
その陰で「被害者感情と刑罰の重さの関係」「死刑存廃」それに「刑事弁護の意義」という三つの
重要問題が置き去りにされた。
愛する家族を理不尽に奪われた遺族の憤りは理解できる。だが、メディアがそれを生の形で報じると
社会の報復感情をあおり立てることになりやすい。被害感情を量刑に直接反映させると裁判が復讐の
場になりかねない。
被告は中学時代に母親が自殺、実父が若い外国人女性と再婚するなどして不安定な家庭で育った。
そうした成育環境が被告の心に与えた悪影響の論議は、最高裁以降かき消されてしまった。
国際的には死刑の廃止国数が存置国数を上回り、なお増えつつある。日本では真剣な議論が行われない
ままこの流れに抗し、死刑判決が近年、増加している。
裁判員裁判では、被害者感情への対応や死刑を含む量刑の判断を市民が迫られる。一人ひとりが
自分の責任で意見を言えるよう、考えを深めておきたい。
殺意を否認した弁護団に対する攻撃も異常だった。タレント弁護士がテレビで攻撃をあおるかのような
発言をし、弁護士会に懲戒を求める請求が殺到した。
どんな凶悪事件の被告にも適正に裁かれる権利がある。それを守る弁護活動が被害者感情、市民感覚と
合致しなくても、封じることは許されない。
犯罪への対応はその社会の成熟度を反映する。裁判員裁判に臨むにあたり、刑事司法をわがこととして
もっと関心を持ちたい。(一部略)
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