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ギリシャ神話の主神ゼウスは娘の女神アテナに、あらゆる邪悪と災厄から身を守る盾を授ける。
アテナはこれに、見た者を石に変える魔物メドゥーサの首をはめ、攻める力を重ねた。
盾の名はアイギス、英語の「イージス」である▼海の要塞(ようさい)にも例えられるイージス艦は、
数百キロ圏内にある200の目標を同時にとらえ、必要とあらば破壊する。はるか上空から海面、
水中までを見通す「全能の目」の持ち主も、平時には小舟一つに気づき遅れるものなのか
▼海上自衛隊のイージス護衛艦「あたご」が漁船に衝突し、漁師の親子が不明となった。
あたごはハワイでのミサイル試射を終えて横須賀へ、漁船はマグロ漁に向かっていた。
長さ12メートルの出船に対し、入り船は165メートル。ひとたまりもなかったろう
▼あたご乗員によると、両船とも衝突を避けようとしたそうだが、遅かった。
海は穏やかで視界も良く、暗闇でも航海灯がある。ちゃんと見張っていれば
起こりえない事故に思えてならない▼あたごは1400億円を投じた最新鋭艦で、
自衛隊でも最強の一隻といえる。国民を守るべき高価な盾が、同胞に災厄を及ぼしては悲しすぎる。
機械の目と、乗員の目。自衛隊は二つを大急ぎで磨き直すべきだ
▼現場海域は東京湾に近く、多くの漁船や貨物船が行き交う。
逃げも隠れもしない漁船を避けるのに、最先端の探知システムなどはいらない。
わが巨体の周囲には民間の船がいるだろうという想像力と、
「弱者」を見逃すまいとする海の守り手の責任感。それで足りる。
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