08/10/29 17:15:38
「あの……さ、北嶋くんの彼女、いるじゃん」
「居ますねぇ」
わたしと北嶋くんは喫茶店にて一緒にコーヒーを飲んでいる、とはいってもチェーン店。普段と変わらないつまらない味がするだけ。
けれどもわたしは、普段とは違う大切な質問を今から彼に投げかける。いつか聞かなきゃいけない大切な質問を。
「北嶋くんの彼女、ってさ、どんな子なの? わたし……女子として、気になる」
「そうなんだ。それを僕の口から聞きたい、と」
「こーんな面倒でサディスティックな北嶋くんが……付き合う、なんて……相当だと思うから」
「そっか……あの子さ、凄く強いんだよね。
僕が『時雨はメジャーに行く』って言った時だって、ちょっと寂しそうな顔はしても
『でも、徹たちが決めたことなんだよね? 私は、徹の彼女として時雨を応援するから』って言ったの。
だからこれから作るフォトブックの写真、24枚をあの子と選んだんだよ。えっと、この24枚……良い写真ばかりでしょ? あの子のセンス、凄く綺麗だよ。
で、僕がどんなに汚い言葉を叫んでもそれを受け入れてくれる。
それが、北嶋徹が彼女の好きな理由の、一部……です」
彼はとても幸せそうに微笑み、言葉を終えた。
わたしは同時に、彼が選んだ彼女には絶対に勝てないということを改めて思い知らされた。
切ないけれど、悲しくはない。彼が幸せなだけで、わたしは十分だ。きっと十分に、幸せだ。
「……ありがとう。北嶋くん、すごく幸せそう。今も笑ってるよ」
「ふふ。確かに幸せ……かもしれないね。それでさ」
「……うん」
「北嶋徹のフォトブックはあの子と一緒に選びました」
「いい写真ばっかりだよ」
「なので、残りの半分、つまりTKのフォトブックを……良ければ一緒に選んでくれませんか」
しまった。彼は人より鋭く、人より繊細で、だからこそわたしが彼を好きなのも気付かれてたんだ。
そして彼はとても優しい人だから、きっとわたしの気持ちを無碍にしない方法を考えてくれたんだろう。
……わたしは彼の彼女には勝てないけれど、どうあがいたって彼にも勝てないな。
なんとなく、いや、確実に、わたしはそう思った。
「わたしで、いいなら……選びたいです」
少し揺れた声さえきっと彼は掴み取り、そしてわたしが今笑いながら言った言葉だって本当は笑いたくなんかないことも彼はわかるんだろう。
「ありがとう。じゃあ、よろしくね」
終