08/11/05 14:18:36 Fy5hoxmd
今回発表された新作長篇『聖女の救済』は、その『容疑者Xの献身』の後日談にあたる物語だ。
扱われているのは中毒死事件である。真柴義孝という男性が自宅で毒物を口にして死亡した。
捜査に当たる刑事の内海 薫は未亡人の真柴綾音がとった行動に違和を覚え、犯人であると直感する。
だが綾音には完璧なアリバイがあった。考えあぐねた末、薫は帝都大学に湯川 学を訪ねる。
物理学者の力を借りてトリックを解明するためだ。初めは捜査協力に消極的だった湯川だが、薫の熱心な態度にほだされて
現場へと乗り出してくる―。
石神哲哉との闘争の後、湯川は警察捜査から手を引いていたようである。
名探偵が一時的に表舞台から姿を消すというのはよくある話で、コナン・ドイルが『最後の事件』でシャーロック・ホームズを
悪の天才モリアーティ教授と対決させ、ライヘンバッハの滝に転落したということにして退場させた例がもっとも有名だ。
ホームズの失踪期間は十年近くに及んでファンに多大な心労を味わわせたが、幸いなことに<ガリレオ>はもっと早く戻ってきてくれた。
ただ不在期間中は草薙との仲が疎遠になっていたらしく、今回の事件でも彼ではなくて新米刑事の内海 薫が湯川の助手を
務めることになるのである。原作の小説よりも先にTVドラマ版や映画版で柴咲コウ演じる内海 薫に親しんでいた人には、
かえってなじみやすい状況設定かもしれませんね。
こう書くと初期作品からのファンは「二人の友情にひびが入ったのか」と慌てられるかもしれないが、ご心配なく。
湯川が捜査協力を引き受けた理由のうちには、この事件が草薙俊平にとっての一大事になっているから、
というのも含まれているのである。ネタばらしになってしまうので詳しくは書けないが、『聖女の救済』は草薙俊平自身の
事件でもあるのですね。友人のため湯川は「やれやれ」とぼやきながら重い腰を上げたわけだ。
助手役が薫に代わったことの産物として、湯川が草薙に対する思いを語る場面が本書にはある。
薫に「信頼しておられるんですね」と言われた湯川は「でなきゃ、何度も捜査に協力しないさ」と「白い歯を見せ」ながら
答えるのだ(准教授の白い歯ですぞ、白い歯!)。なんでしょうね、この羨ましいほどの親密さは。