08/10/21 23:44:01 TXvZOpHv
598 :名無しさん@公演中 :2008/10/21(火) 18:27:19 ID:VfL/QWyY
小説の石神は、「ずんぐりした体型」「目は糸のように細い」と描写される冴えないルックスで、
これをそのままキャスティングすると、主演の福山につり合う登場人物にはなりにくい。
そこで、スター性を発揮しつつ、
演技力で石神の精神性を完璧に体現できる人が必要である。
つまり、原作の事情を踏まえながら高次のレベルにジャンプする方法は?という
設問から導き出された答えが、堤だったわけだ。
実際、常に虚ろな目で背を屈めて歩き、
もともと資質の違う石神に成り切った堤の演技的強度は圧巻である。
孤独な日々の中で出会った隣人の花岡靖子(松雪康子)に寄せる恋心、
そしてかつての盟友・湯川との天才同士の絆…
こういった石神を軸にした人間模様には、申し分ない重量感が備わった。
だが一方、サスペンス表現が説明的だったり、
湯川と内海のコミカルなやり取りが寄り道に見えたりなど、
小説やドラマの諸要素が映画的に昇華されていない形でゴロッと残っている感は否めない。
しかし軋みを生みつつも、石神という特異な人物像の暗い魅力を
集中して描こうとした判断と努力は、実に面白い。
2008年10月3日・朝日新聞夕刊・プレミアシート