24/11/16 21:24:42.32 1kAYuf1U0.net
夜の居酒屋。昭和の面影を残す木製のカウンターには、古びたテレビから流れるニュースがかすかに響いていた。
「マグサイサイ賞の授賞式が16日、マニラで開かれた。宮崎駿監督は『日本人は忘れるな』と語る…」
ニュースキャスターの淡々とした声が続く中、50代半ばの男、村田は力強く杯を置いた。彼は元自衛官で、若いころから愛国心を掲げ、歴史観も保守的だった。
「ふざけるな!」
静かな店内に怒号が響いた。驚いた隣席のサラリーマンが思わず振り返る。
「戦争なんてのはそういうもんだろうが!」村田は手に持った新聞を叩きつけるように広げた。そこにも宮崎監督のメッセージが大きく取り上げられている。
「何が『日本人は忘れるな』だ!戦争中に民間人が死ぬなんて当たり前だ!そんなのはどこの国でもやってることだろうが!」
周囲の客たちは一瞬、言葉を失った。
しかし村田は止まらない。「しかもあの時代、フィリピンはアメリカ領だったんだぞ!?俺たちは敵と戦ってただけじゃないか!何を謝る必要があるんだ!」
店主が困った顔をしながらも、「村田さん、少し落ち着いて…」と声をかける。だが、村田はさらに声を張り上げた。
「こうやって日本を悪者にし続けるから、若いやつらは自分達に誇りを持てなくなるんだ!何でもかんでも日本は昔『悪いことをした』で済ませて、今後誰がこの国を守るんだよ!」
沈黙が訪れた。村田の視線は怒りに燃えているが、その奥にわずかな寂しさが見え隠れする。
やがて、店の奥から初老の男が声を上げた。「村田さん、戦争を語るのは難しいよな。でも監督は責めてるんじゃなくて、ただ忘れないでくれって言ってるだけだよ。俺たちもそういうこと、知るべきだろう?」
村田は一瞬、言葉に詰まった。そして、また静かに酒をあおる。
「忘れないでって…そんなもんが一体何になるんだよ…」
彼の言葉は、店内の空気に溶けるように消えていった。