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エビデンス、魔法の道具ではない 中村良太氏 一橋大学社会科学高等研究院 准教授(医療経済学)
政府などが政策を立案する際には、透明性や説明責任が重要となる。最近、当事者の経験や勘に多くを頼るのではなく、科学的なエビデンス(証拠)に基づく政策立案(EBPM)を重視しようという動きが広がっている。
私はエビデンスを送り出す側の研究者として、EBPMの重要性が認識され始めたことを歓迎している。しかし「あらゆる政策の効果の有無は科学的に立証可能で、
効果が立証された政策のみを実施すべきだ」という考えは行き過ぎだ。誤った期待により、エビデンス重視の動きがむしろ阻害されてしまうのではないかと危惧している。科学的なエビデンスといっても、一般の人が思うより頼りないものであることが多い。
エビデンスを示すためには、実験は最も重要な手段のひとつだ。ただ、実験の対象範囲には限りがあり、すべてのケースを網羅できるわけではない。
さらに、政策決定がなされる時点で必要なデータが十分にそろっているわけでもない。喫緊の政策では、エビデンスが不十分でも、まずかたちにしなくてはならないこともある。エビデンスは判断の材料のひとつであって、意思決定をするのはあくまでも人間だ。
エビデンスとの付き合い方で参考になるのは、英国の国立医療技術評価機構(NICE)だ。英国では公的医療でカバーする薬について、
費用対効果のエビデンスを判断材料に取り入れている。NICEでは、まず費用対効果のエビデンスを検証した後、社会的な価値観も加味して判断している。例えば希少疾患を治療するための薬であれば、費用対効果が悪いというエビデンスがあったとしても推奨することがある。
現時点で得られる最良のエビデンスを参考にしながら、個々の政策の文脈や状況を踏まえ、国民的な価値観なども加味しながら意思決定するのがEBPMのあるべき姿だ。ただし、データそのものは蓄積していくので、エビデンスは時間を重ねて正確にはなっていく。
日本では、費用対効果のエビデンスを使った薬価設定の動きが出た際に「万全の体制を築けるのか」という批判があった。
しかし、どれだけエビデンスがあっても万全になることはない。限界を認めつつ、可能な限り政策立案の透明性を高め、説明責任を果たそうとする努力が重要だ。エビデンスは有用なツールであって、魔法の道具ではない。
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