「葬送のフリーレン」で二次創作at MITEMITE
「葬送のフリーレン」で二次創作 - 暇つぶし2ch150:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:11:25.34 Rl8DsUtB.net
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「あ…ああ、何だかんだで案ずるより産むがやすしだったわ」。しどろもどろに応じつつフェルンの妙に過剰な親切が、ワイにはなんだか不気味やった
「先ほどはフェルン様の昼食の席にグラナト伯爵が飛び入り参加しましてね。フェルン様がリーニエ嬢を紹介していました。和やかな雰囲気でしたよ」
不動産屋の言葉で、ワイはあらためてフリーレンの魔法の威力を思い知る。使節団員だったリーニエとは面識もあるうえ、とうぜん名前も知るはずの伯爵が、怪しまんかったのや

「では、今後のことについて詰めておきましょう。良い酒場があります。言うまでも無く、私のおごりです」

151:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:11:52.35 Rl8DsUtB.net
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翌朝、町の城門前にて。ワイはフリーレンとフェルンの出立を、町の住人とともに見送る側になっていた
もちろん、ワイの横には愛しのリーニエちゃんが寄り添っている。フェルンの見立てた服を着ていたが、公平に言って趣味の良いデザインやった
「じゃあ、元気で」と、フリーレン。「グラナト伯、街の皆様、そしてワイ…皆さんの健勝を祈っています」
「ああ、達者でな」と、グラナト伯。「まさかワイが、花嫁と共に町に残るとは思わなかったが…彼なら町の復興と拡張に役立つだろう。歓迎する」

「私どもでワイ様とリーニエさんの婚礼を準備しましょう。できればフリーレン様がたにも、それまで逗留していただきたかったのですが」と、不動産屋
ワイは照れて顔を伏せたが、リーニエちゃんは相変わらずきょとんとしとった…

152:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:12:21.62 Rl8DsUtB.net
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「いえ、先を急ぎますのでそれは出来ません。どうかワイのこと、よろしくお願いいたします」
礼儀にかなった穏やかな物言いではあったものの。そうお辞儀をするフェルンは、なぜだか元気がないというも機嫌が悪そうやった
まあ今朝限りでこいつのフキハラともお別れやと思えば、気にはならん。構うことなくワイは礼を言う
「昨日はワイがやっとくべきリーニエの紹介を、代行してくれたんやて? すまんな」
そういいつつ、買っておいた餞別の赤いネックレスを渡す。ワイの懐事情もあり高価なものとは言えんが、趣味の良いものを選んだ自信はある。ちなみにフリーレンともおそろいや

フェルンとフリーレンはうなずいて受け取り、すぐ首にかける。フリーレンは気に入った風情だったがフェルンは無表情で、お気に召さなかった模様

153:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:13:03.58 Rl8DsUtB.net
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「じゃあ、私からはこれを…」
フェルンはそういって、小さな光り物を手渡す。見れば小指用の金の指輪やった

「ピンキーリングか…」
「共に旅した、想い出のための記念と受け取ってください。ちなみに、私とおそろいです」。そういってフェルンは、おなじ指輪をはめた自分の小指をかざす

154:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:13:40.11 Rl8DsUtB.net
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「ワイ様の薬指は、リーニエの結婚指輪の居場所ですよね。でもピンキーリングは、願いをかなえる護符です。着けても構わないでしょう?」

願掛けの護符だけでなく、“約束”とか“秘密”を意味するんだっけ? なんとなく引っかかったが、フェルンの穏やかならぬ機嫌をいっそう損ねるのは愚策や
ワイは素直に礼を言い、指輪を小指にはめた。ちなみにフリーレンからの餞別は素気無くも金貨の小袋やったが、物入りの新婚夫婦にはいちばん有難い贈り物や

155:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:14:10.22 Rl8DsUtB.net
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それから、フリーレンとフェルンの後姿が見えなくなるまで見送った。二人とも、一度も振り返らんかった
「じゃあ、そろそろ行こうかリーニエ」。ワイはウキウキしてリーニエちゃんの肩を抱く。気づけばグラナト伯が、ワイらの傍に来ていた
「偶然とはいえ、お前の婚約者がよりによってお前が討ち取った魔族の娘と、同じ名前だとはな。まあ見た目は全く別人だが、こっちも中々の別嬪さんだ」

「たはは…」
ワイは我ながら引きつっていたが、幸いリーニエちゃんが如才なく、微かな笑みをこぼして会釈したのに救われた
相変わらず無口やけど、いつのまにか人なみな愛嬌を身に着けているようにも見える。これも天秤パワーのおかげやろか?
ともあれ認識阻害魔法のご利益に慣れるまで、ほかならぬワイのほうが、時間かかりそうや――

156:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:14:45.23 Rl8DsUtB.net
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その日は例の不動産屋とも今後の仕事および待遇について話を詰め、それから帰宅した
仮の住処として世話してもらった「妾宅」は、いまや正式にワイ・リーニエ夫妻のおうちや
明日からはローン払いの建売になるが、破格の条件での契約や。新婚生活の懐にはかなり優しい

早速その夜も、用意されていた夕餉を済ませて二人みずいらずで入浴して、寝室に入ったワイとリーニエ…
(でもリーニエちゃん、そもそも人間との行為に気分が乗らないマグロやしなあ…)という愚痴の気持ちは、あるものの。
(せやかて、フリーレンたちに露見したときの失言がミスなんは変らんわ。リーニエちゃんも、傷ついたに違いない。挽回のためにも今夜は、彼女を抱かなあかん)

157:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:15:28.21 Rl8DsUtB.net
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そうやで。新婚ライフですらこれからという時にセックスレスというのは、なんぼなんでも愛が無さすぎる…気分は、奮い立たせればええんやっ
努力して、お互いの肉体に馴染んでいくことで何かが変わるのに賭けるしかない!

それに正直、こわくもあった。ここまで段取りして人生を賭けてしまったというのに、よりによって魔族との“性の不一致”で台無しなんて、嫌すぎる…
ワイはエロなくして生きられぬ愛欲の戦士や。このまま砂を噛む思いの情事が続けば、いつかは耐えられぬ日が来てしまうやろう…その不安を断ち切りたい一心で、彼女を誘う
「ささ、リーニエちゃん。こっちにおいで」
服を脱いだリーニエちゃん、頷きながらベッドに滑り込んでくる
そしてその時彼女はワイの胸の中で一言小さく、こうつぶやいたんや

「エアファーゼン」

158:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:15:59.84 Rl8DsUtB.net
139
「え…? 今何と?」
そう尋ねるひまも、あらばこそ。リーニエちゃんがワイの上に覆いかぶさり、彼女の柔らか唇が、ワイの唇と重なる。舌がワイの口中に分け入ってくる!
「む…ぬぅ…」
(うぉおおおおお! すごい! なんという、なんという凄いディープキスや、リーニエちゃん!!)
実は最初、ワイはその事態に脳がうまくついていけないほどやった。これほど熱いエロい接吻は生まれて初めてで、あっという間にフル勃起しておった

159:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:16:26.56 Rl8DsUtB.net
140
「り、りぃにええええ」
ワイはキスが終わるなりもうたまらんとばかり、リーニエちゃんを組み敷いて彼女の中に押し入ってしまう
今にして思えば素人童貞そのまんまの、いささか性急な欲望の発散やったがな
とはいえリーニエちゃんと邂逅したときいらいワイが夢見ていたシチュエーションが、いきなり実現してもうたんや。ここで奮い立たねば愛のエロス戦士としての名が廃るで
果たしてたちまちリーニエちゃんのからだがびくびく反応し、その可愛すぎる喘ぎ声が響き渡る

160:◆SNuCULWjUI
24/05/30 23:16:59.25 Rl8DsUtB.net
141
(こ…これはっ! これはいったい何が…何が彼女の身に、起きたというんや?)
ワイの後頭部を抱きしめながら熱い声を上げ、自ら腰を動かし始めた彼女の大胆さに、ワイは内心で激しく驚いていた
だが驚きつつも巧みな彼女の律動で、ワイのジュニアは溶けるような悦楽に埋没してもうていたんや
興奮と感激の大波が、ワイの脳幹を何度も何度も押し寄せてくる!
その最初の二つ目までは何とか耐えたものの。三回目の大波に、ワイはあっさりさらわれてしもたんやっ

「りりり、りぃにぇええええええ!!」

161:創る名無しに見る名無し
24/05/30 23:17:27.09 Rl8DsUtB.net
7回目はここまでです。続きもハプニングが無ければ、明日22~24時くらいに投稿します

162:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:25:01.08 3nBnSDm/.net
予告通り、「奥様は美少女まぞく」の続きを投稿します。8回目は21レスです

163:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:25:45.40 3nBnSDm/.net
142
翌朝…ワイは寝不足のまま起床を余儀なくされた。寝室から出ると、包丁の音とスープの香りが漂う
リーニエちゃんは、すでにキッチンに立っていた。清掃・調理など賄いの契約は昨夜までという事は、彼女も知っていたとはいえ…
今朝は外食で済ませるつもりだったんが、なんという模範的な新妻ぶりや
昨夜のことを思い出すにつけ、気恥ずかしさが先立つ。でもこの家庭的で床上手で絶世の美少女がワイの嫁なのかと思うと改めて、鼻の下が伸びる

164:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:26:26.76 3nBnSDm/.net
143
更にワイは、リーニエちゃんの手料理が想像上に美味しいことにびっくりした。どこで覚えたんやろ…
それに、不思議と食べ慣れた味という印象もある。フェルンから、教授されたというのはありそうやが…一日じゃ無理やろうし
なにより有り合わせのものをごった煮していた旅の食事とは材料が違いすぎるわけで。食材が良ければ調理師の腕は、関係ないのやろか…?
「魔族も料理とかするんか?」
「しないけど…ワイ様の嫁になる以上は覚えることにしたの。フェルンに料理の本を買ってもらったし、あとは適当に…」

165:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:26:59.69 3nBnSDm/.net
144
それにしても、事実上の初回でこれはなかなか非凡すぎるわ。あるいは敵と言う立場ながら長年、人間と接触してきたことも何か、関係あるんやろか…?
ただしリーニエちゃんがそれ以上は喋らないので、掘り下げてたずねるのはやめにした。魔族としての前科を問いただす形になりかねん
それよりよほど、気になることがあったんや。まずそのことを聞きたかった

「昨夜は、その…ほんと良かったわ。その前までとは別人みたいやった。君、いったいどうしたんや?」
まちがいなく、処女だったとはいえ。リーニエちゃんが何がしかの手段――おそらくは魔力で人間の女の経験なり感性なりを会得しており、最初はそれを出し惜しみしていたのではないか? というのが、ワイの密かな推測やった

166:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:27:31.27 3nBnSDm/.net
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リーニエちゃんは目を伏せた。「私のこと、嫌いになりましたか? ワイ様。“ふしだらにすぎる”女を、忌む殿方も多いと聞きます…」
「ちゃう! その逆やで。まさかアッチの方まで、ワイの理想形だったとは」
「なら、それでいいのでは? それにそういうのって、たとえ相手が妻であっても女性に深掘りしないのが、人間の男なのでしょ?」

これにはさすがに詰まってしまい、ワイは何か釈然としないものを感じつつも引き下がるしかなかったんや…
さっきも言ったが、どこでどういう人間との接触に触発されたのかを問うことになりかねず、しかもそれが“捕食した相手だった”という可能性を、捨てきれないのが辛い事実やった
ならばそれはまさに知らぬが華、ワイが敢えて知らないでおくべきことなのではないか…? という気がしたんや――

167:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:28:04.06 3nBnSDm/.net
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ともあれ、それからのワイとリーニエちゃんの夫婦生活は、自分でもびっくりするくらい円満かつ幸福やった
リーニエちゃんはいつまでも可愛くて、夜の愛の交歓もめちゃくちゃ楽しいし、ワイにとって理想の伴侶や

ただし、子供はできへんかった。リーニエちゃんをものにすると決心したときから、薄々覚悟してはいたことやが…やはり魔族と人間のハーフは、無理やったらしい――

「まあ仕方ないわ。はじめからダメ元、想定範囲のことが起きたにすぎん。跡継ぎが欲しけりゃ、養子をとればええ」と、ワイは決めた。婚礼を挙げてから四年目のことや
「この町の孤児院には、アウラとの戦いで死んだ兵士の遺児がぎょうさんおるでな。男の子と女の子を、一人ずつ選ぼう」

リーニエちゃん、無表情でこくりと頷く。ワイの決めたことにはおよそ反対せんのや。ただし感情が読めんのは、相変わらずやったが

168:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:28:25.83 3nBnSDm/.net
147
いっぽう仕事の方は、順風満帆。ワイの戦士としてのパワーが土木作業で百人力となり、町の発展にも寄与できた
三十路半ばに独立して、下請け企業を立ち上げた。リーニエちゃんの内助もあって繁盛し、ついには百人を雇う大きな会社に育った

グラナト伯は、ワイが五十路半ばを過ぎた時分に亡くなった。享年八十六…その頃までに、町の規模は昔の三倍になっていた
なお伯の息子が若くして戦死していたのはご存じの通りやが、伯にはワイと同年齢の娘もいたんや
これが伯の外孫にあたる息子を生んでおり、かれが伯爵領の家督を継いだ

もちろん継承した時点でこの外孫は既婚者であり、新伯爵の嫁こそ誰あろう、ワイの養女になった娘やった

169:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:28:57.99 3nBnSDm/.net
148
こうして、押しも押されもせぬ町の名士になったワイは75才になったとき事業のすべてを養子の長男にゆずり、円満引退
85才のある日。いつものようにリーニエちゃんと屋敷の中庭で、初夏の木漏れ日を浴びながら午後のお茶していたときに、倒れたワイはそのまま病床に臥せったんや…

深夜三時。付き添いの看護師も寝静まり、壁のおもり時計だけがチクタク鳴っとる中でただ一人、老いたワイの病床に侍る美少女が居た
ツインテールの髪型、可憐な童顔。逢った時とおなじく月明かりに照らされるリーニエちゃんは当時と寸分たがわぬ、若く美しい姿のまんまや…

170:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:29:37.01 3nBnSDm/.net
149
「目を覚まされたのですね、ワイ様…」
リーニエちゃんの手が、優しくワイの手を包み込む。「倒れてからまる三日間、昏睡しておられたのです」

「そ、そうやったんか。なんかワイ、ぜんぜん痛くも苦しくもなかったんやけどな、ハハッ」。そういってから、すぐ大事なことに気づく
「ワイの書斎の机の引き出しに、遺言状が入っとる。ワイの資産目録と遺産分与その他、明らかに出来る
弁護士先生の検認も入っとるから先生を呼べば葬儀も相続も、滞りなく手続きしてくれるはずや。リーニエちゃんの手は煩わせんで」

171:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:30:03.25 3nBnSDm/.net
150
「そんなこと、言わないで」。リーニエちゃんの声、心なしかイライラしとる。「それより水差しをお持ちしましょうか? ワイ様」
「大丈夫やで。あんがとな、リーニエちゃん。君ももう、寝たらええ。君がワイの嫁になってくれて、ワイは幸福そのものやった――」

照れくさくなりつつそう答えた直後にワイの心臓が脈を打つのを止めて、視界を闇のとばりが包む。ワイは大往生を遂げたんや

172:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:30:33.98 3nBnSDm/.net
151
勇者ヒンメルの死から96年後にして、グラナト伯爵領の名士ワイが死んで半年を僅かに過ぎたある日――

大きなトランクカバンを手に下げたエルフの魔法使いが、グラナト伯爵領に向かう道を歩いていた
「この辺りもすっかり舗装されているね。アウラが死んで、ずいぶんと発展したようだ…」
「しかし85歳の身には、たとえ舗装路でも長旅は堪えますね。いまだに徒歩で旅できるフリーレン様が、羨ましいです」
そう答える声は、馬二頭に前後を支えられた輿の中から発されている。老いたフェルンの声だった

先頭の馬のくつわをとる従卒装束の男はだいぶ白髪が多めながら赤毛の男、60絡みの初老ながら体格も顔立ちも立派な男だったが、そんな声に痛ましげな顔でこう応じた
「母さん、見えてきたよ。グラナト伯爵領の街並みが…」

173:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:31:06.35 3nBnSDm/.net
152
すっかり拡張されたグラナト伯爵領の街並みに入ったフリーレンは、少なからず感慨深げであった
「舗装路のいたるところに、下水道の地下水路用マンホールがあるね。品質が均整で密閉されているから、悪臭も漏れない
どうやらワイの土木会社は、良い仕事をしている…」
「フリーレン様。市内観光は後にして、はやくワイ家のお屋敷に参りましょう。輿に揺られるのももう、限界です」

「衰えたねフェルン…馬車すら『老いた身に応える』というから、君の息子は大枚をはたいて馬用の屋形輿を用意したのに…」
「いえ、お金の方はご心配なく…」と、初老の従卒。「母はほんらい、亡き養父ハイター様の庵で臨終を迎える予定だったのですが――」

174:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:31:33.15 3nBnSDm/.net
153
「ワイ様が私より先に逝った以上、墓参りせずしては死ねません…」
輿の窓から漏れ聞こえてくる声は、弱弱しく息切れまじりではあったが決意がみなぎっていた

フェルンを乗せた輿がワイ家の前にたどり着いたのは、町に入ってから十分後のことである
「噂には聞いていたがこれはまた、結構な造りのお屋敷だ」と、フリーレン
従卒がふくろうの意匠をあつらえた真鍮製のドアノッカーをノックすると、ほどなくして十代後半とおぼしきメイドがドアを半ば開けて顔を出す
「どちら様でございますか?」
「『フリーレンたちが、半年前に急逝したダンナの墓参りに来た』と、奥さんに伝えてくれ。すでに手紙では知らせてある」
フリーレンがそう言うなりメイドはうなずき、踵を返した

175:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:32:05.07 3nBnSDm/.net
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数分後…屋内に案内されたフリーレンたちは、リーニエ自らの給仕による喫茶を楽しんでいた
「もうかれこれ68年になるのか…魔族だけあって、出会った時とまるで変わらないねリーニエ。十七歳でも、じゅうぶん通じるよ」
屋敷の中庭で初秋の木漏れ日を浴びながら、冷えた香ばしい果汁を一口飲んで、フリーレンは言う
「フリーレンも同じでしょ…」と、リーニエ。反感はないにせよ、その態度は素っ気ない
彼女は既に、黒い喪服に身を包んでいた。とはいえその表情から喜怒哀楽は、まったく見えない

「不愛想なところまで相変わらずか。それでもワイや町の住人相手には、ちょっとは愛想笑いできるようになっていたようなのに」

176:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:32:30.16 3nBnSDm/.net
155
「もう、その必要も無くなりました…」
リーニエはテーブル上のフルーツを盛られた鉢から林檎を手に取り、しゃくしゃく齧りはじめる。「今の私、未亡人ですんで。墓前に顔出すとき以外は、引きこもるだけ」
「でも、まるで元気ねリーニエ。ほんとうに羨ましい。姿も私がワイと別れた時のまま、十代の小娘だ。人間の私はこの旅で、体力を使い切ったみたいなのに――」
かつての輝く長い黒髪にかわって、短く整えた白髪。皺だらけの顔や手…フェルンはもはや、死ぬ直前のワイ以上の老衰ぶりだった。ティーカップを持つ手も、中身をこぼしかねないほど震えている
クッションを敷きつめ、半ば寝るほど背もたれに傾斜をつけた座席を備え付けた特製輿での、ゆっくりした移動だったにもかかわらず。長旅がフェルンの老いた肉体にもたらした負担は、相当なものだったようだ

静かに座っているだけでも息苦しげな、老いた弟子をそっと横目にしつつ。フリーレンの胸にはいつもの寂寥が浸食している。師匠フランメ、相棒ヒンメルに続き、弟子のフェルンもか…
みんな私よりはるかに年下なのに私を追い越して年を取り、そして此の世を去っていく…

いっぽう「思い出話の仲間外れ組」である初老の従卒だけが、三人の会話に奇妙そうな顔つきである。「あの…母さん、こちらがリーニエさん、ですよね?」

177:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:33:08.56 3nBnSDm/.net
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彼の眼には、お茶会のホステスを務めるリーニエはなるほど林檎をかじるほど歯が丈夫だが、母フェルンとおなじ80絡みの老嬢にしか見えなかった
「十代の小娘」という形容は、いかに社交辞令でも嫌みであろう。だがフリーレンがはっとして、軽く指先に青白い燐光を光らせる
「気が利かなくて済まない。認識疎外魔法を見透かす魔法を、君にかけておくのを忘れていたよ――ほら。これでどうだい?」
果たして彼の目にも、リーニエと名乗る喪服姿の痩せた老婆は、たちまち16、7の可憐な少女に…ただし角の生えた魔族の娘に変貌していたのである

「…こりゃ驚いた!」。思わず従卒は、不躾に口笛を吹いていた。「なるほど、角がある。魔族の女だ」
「君は、フェルンの息子だね?」と、リーニエが従卒に尋ねる
「はい、シュタルクと申します。今年67才になります」

178:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:33:39.31 3nBnSDm/.net
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「シュタルクか…良い名だね。それにお母さんに似て、なかなかの美形だ」
リーニエの言葉は無感情だったが素っ気ない分、まんざら世辞でもないようだった。その証拠に「まあ、人間の年齢相応に肉がついては、いるけれど…」と、欠点の指摘も忘れない
「ははは。実は六つをかしらにもう三人の孫を授かっている身でしてね。名実ともに、じじいですよ」

「ところで、暫くシュタルクは席を外してくれないか? 今日は昔を知るもの同士の、他聞をはばかる話もあってね」
フリーレンがそういうと、シュタルクは頷いて席を立つ。すかさずリーニエが卓上の鈴を鳴らしてメイドを呼び、シュタルクを客間に通すよう命じる
(あの赤髪…そして体つき…ひょっとして?)
そのときリーニエは去っていくシュタルクの背中を見送りながら何事かを察したようだったが、声には出さなかった

179:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:37:19.08 3nBnSDm/.net
158
「さて、単刀直入に言おう」とフリーレンが、性急に切り出す
「リーニエ。君は何か、これからの余生でしたいことがあるか?」
「特に何も…」と、リーニエ。「ワイ様の遺言は、手紙でお伝えしたとおりです。『自分の死後はフリーレン様を頼り、彼女と共に生きるように』、と…」
「ふむ。やはり天秤によるワイの拘束は、彼の死後も有効か」と、フリーレン。「じゃあ安心だな。この町を離れるんだ、リーニエ。私と一緒に来るがいい」
リーニエはこくりとうなずいたが、その後すぐ小首をかしげた。「今すぐ、というわけではないですよね?」

180:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:38:03.85 3nBnSDm/.net
159
「そうだね。でも、そう長くは待たないよ。認識疎外魔法で人間を偽るにしても、人間の寿命はせいぜい百年ちょっとだ」
「じゃあ、怪しまれずに暮らせるのに、まだ20年かそこらはありそうね」。リーニエは、呟くように言う。「私ももうしばらくこの屋敷で、ワイ様の想い出に浸っていたいし」
「でもあいにく20年なんて待ちませんよ。たぶんあと数か月…長くても、一年はかからないはずだわ」。息苦しそうな声で、フェルンが割って入る
リーニエは無表情のまま、フェルンの皺深く老いた顔を見つめた。彼女との再会も、かれこれ70年近くぶりのことになる

思えばかつての強敵も、ずいぶんと衰えたものだ…とはいえリーニエは彼女の態度の端々に、不可解な余裕じみたものも感じていた

181:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:38:38.47 3nBnSDm/.net
160
「リーニエ。あなたのお屋敷を、私の終の棲家にさせてもらいたいの。たぶん私の余命は、あと半年も残っていない。回復魔法の名僧もさじを投げているわ」
「…ワイ様の死んだお屋敷で、あなたも臨終を迎えたい。そういうこと?」
「そうよリーニエ。貴女は私に、借りがある…忘れてはいないわよね」
リーニエは目を逸らしつつ、いくぶん悔しそうにうなずく
「貴女の力ぞえが無ければ、私がワイ様の愛をつなぎ留めることができたかどうか、確信は持てない…それは認めるけど…」
「私がどうして貴女に力添えしたのか、理由は察しているわよね。魔族とはいえ私と同じ、女なのだから――」

フリーレンが果汁を飲み干す前までに、リーニエはフェルンの申し出を承諾していた

182:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:39:16.54 3nBnSDm/.net
161
(そうだ…68年前の借りは、確かにある。返す時が来たんだ)

――魔族の貴女が人間の男であるワイ様を、夜の営みで満たしてあげることは出来ない…貴女もワイ様も知らないようだけど、子をなすこともありえない。結局あなたとワイ様は、不幸な破局を迎えるしかない…

(あの時そういいながら彼女は、服を脱いで全裸になった。そして私を軽くハグしながら、耳元に囁いたんだ。“自分の体内の魔力を読みとれ”、と)

――私なら…私なら絶対に、ワイ様を満足させられるわ。自信があるの。だから貴女に、私を“模倣”させてあげる。彼をつなぎ留めたいのなら受け取りなさい、リーニエ…

183:◆SNuCULWjUI
24/05/31 23:40:58.58 3nBnSDm/.net
162
(彼女の魂胆を胡散臭くかつ不快、なにより不可解に思わなかったと言えば嘘になる。でも、私はワイ様のしもべ。その立場を不思議と、続けていきたいと願っていた。だから、拒む理由は無かった…)
果たしてその夜。“私の中のフェルン”を抱いたワイ様の、歓喜と感激。それに伴う私への、いっそう献身的なワイ様の愛情。それは間違いなく、自分が得た「不当な」報酬…
加えて料理のスキルをはじめとする、人間の主婦が持つべきさまざまな知識やスキルも、リーニエはフェルンから受け取ったのだ

なればこそ。今になってフェルンがリーニエに突きつけに来た「請求書」の額面も、安くはないが見合うものには違いないのだった…

――生前のワイ様は貴女のものよ、リーニエ。だからせめて死後のワイ様に寄り添う役目は、私に務めさせて――

184:創る名無しに見る名無し
24/05/31 23:41:45.64 3nBnSDm/.net
8回目はここまでです。なお、次回で最終回。ハプニングが無ければ、明日も22~24時くらいに投稿します

185:
24/06/01 23:18:45.38 jAbZOL+g.net
予告通り、「奥様は美少女まぞく」の最終回を投稿します。9回目は18レスです

186:
24/06/01 23:19:14.01 jAbZOL+g.net
163
フェルンが故ワイの屋敷に居候しはじめてから、ちょうど半年に届く七日前…
故人ワイの配偶者にして遺産相続人リーニエ未亡人の訃報が、グラナト伯爵領内を駆け巡った
「故ワイさまの奥方様が、身罷られたそうだ。それもよりによって、ワイ様の一周忌とおなじ日に…!」
さっそくワイの後継者となった養子の息子、伯の妃となった養子の娘が一家総出で、ワイ家に集まる
「ついこの前まで、かくしゃくとしていらっしゃったのに、何故…?」
「先代様を亡くして、奥方様も命数が尽き果てたのかもしれんね。先代様の後を、追われたのでしょう」

187:
24/06/01 23:19:58.40 jAbZOL+g.net
164
故人の遺志により、葬儀はごく近しい親族だけの手による、きわめてしめやかかつ簡潔なものとなった
それでも伯爵領内きっての素封家リーニエ夫人の棺は贅を尽くしたものであり、喪主である養子兄妹の心配りが随所にみられる仕切り具合ではあった
故人の遺志にもとづき、棺は亡夫であるワイの隣に納められた。ただし兄妹は葬儀を終えた後で、妙な表情を浮かべつつ語らいあったのだ
「なあ。俺たちが納棺した遺体、確かに養母(かあ)さんのものだったよな?」
「…兄さんも、おかしいと思った? 気のせいだと思ってたんだけど…体格とか肉付きとかがなんだか、ちょっと大きめだったよね」
「顔立ちは間違いなく養母さんだったし、他の人らは気づいたふうでも無かったが…遺体が水膨れでも、していたのかな?」

188:
24/06/01 23:20:26.29 jAbZOL+g.net
165
それに――養母の遺体が古ぼけた、見るからに安物の赤いネックレスを着けていたことも、些細なことかもしれないが養子兄妹には気になる点だった
わざわざ故人の遺志で着けているほどお気に入りの装身具にしては、生前のリーニエ養母さんがそれを着けた姿を、見た覚えが無いのである
しかし二人はそこで話題を変えてしまい、それ以上に疑惑を追及することはやめた
どのみち葬送は終わったのだ。すでにかれら遺族の関心は財産分与を、つまらぬ亀裂のもとにならぬよう注意深く進めることに傾いていた

189:
24/06/01 23:21:01.45 jAbZOL+g.net
166
「養母さんの屋敷は当面、おれたち兄妹の共同で管理するとして…」と、兄。
「そういえば屋敷に逗留していたフリーレンとかいう客人の一行は、今どこにいるんだ? 葬儀には、参列していたばずだが」
「間が悪くて兄さんには挨拶できずじまいだったけど、納棺に立ち会ったあとすぐ屋敷を出立したわ。兄さんによろしく、と言ってた…」と、妹
「死んだ父さんの旧知で町の恩人だと聞くけれど、それにしてもやけに長逗留だったみたいね」
「ふうん」。兄は腕を組む。「一行の一人でフェルンとかいう老女は、着くなり寝たきりだったと屋敷の使用人が言ってたな。彼女も引き払ったのか?」
「ええ。でも出発の時はひどく元気で、自分の足で歩いていたわ」

190:
24/06/01 23:21:31.86 jAbZOL+g.net
167
兄の中で、いっそう違和感が強くなった。それは名状しがたい疑念と不安も含んでいた。だがワイ家新当主の彼には、他にも考えるべき俗事が多すぎた
ゆえに養母リーニエの客人たちに関しても兄は、それ以上考えるのを止めたのである
勇者ヒンメルの死から97年後にして、グラナト伯爵領の名士ワイが死んで一年――
リーニエ未亡人の葬儀から解放され、すっかり規模の大きくなった伯爵領の都城を背に、フリーレン一行は進んでいく
伯爵領を訪問したときには、寝たきりの老いた半病人を乗せた輿馬を揺らさぬようゆっくりした歩みであったが、今は初老ながら頑健なシュタルクが、荷馬一頭を曳くだけだ
つれのフリーレンともう一人、ツインテールをした女は、ともに見た目が年頃の少女である。女ながら肉体の若さに任せ、しっかりした足取りで歩を進めている

191:
24/06/01 23:22:16.87 jAbZOL+g.net
168
「シュタルク…」。ふいにツインテールの娘が、連れに声をかける。「母親とはあんな別れ方で、本当に良かったの?」
「本人が望んだことですから」とシュタルク、妙に素っ気ない。「俺の認識阻害魔法でリーニエさんになりすまし、ワイ家の墓に納まるのが亡母の願いでした」
「完璧とまではいかなかったが、バレずに済んでまずは上出来だな。母さんもあの世で得意だろう。それに…」とフリーレン、そこでツインテールの娘の方に視線を向ける
「結果としてお前も怪しまれることなく、グラナト伯爵領から抜け出せたというわけだ、リーニエ。
お前にはフェルンの死後ただちに、老いたフェルンに見えるように認識阻害魔法をかけておいたが、それも解除しておくとしよう…他人には、角が見えないだけにする。これで自由の身というわけだ」

192:
24/06/01 23:22:51.63 jAbZOL+g.net
169
だが認識疎外魔法を更新されている間にもリーニエは特にフリーレンに注意を向けるでもなく、ひたすらシュタルクを見つめていたのである
もはや町の人間の耳目を案じずともよい無人の林道に在って、ようやく問いたいことが問えるぞと言わんばかりの、じりじりしている風情であった
リーニエの視線に、いやでも気が付くシュタルク。「どうかしましたか? 何か俺に、聞きたいことでも?」
リーニエがついに口を開く
「フェルンが死ぬまでは敢えて遠慮していたが、やはりどうしても聞きたい。フェルンの息子シュタルクよ、あなたの父親は誰? 存命している?」
「さ、さあねぇ…母は俺を身一つで育ててたんで、父親の顔は知りません。俺も母さえいれば、十分だったし…」
そう応じるシュタルクの声は気まずそうというも、どこかぎこちない
「じゃあ、父親の名も知らないんだ」
「手がかりは、あるといえばあるんです」。そういいつつ、シュタルクはふと右手をかざした。その小指に、指輪が鈍く光る

193:
24/06/01 23:23:26.60 jAbZOL+g.net
170
「これ。もうすっかり古びていますけど、母の魔法が込められた形見でね。俺の父親との想い出が、ぜんぶ封じてあるそうです…
生前の母は『自分の口からお前の父についてあれこれ言いたくないが、黙秘するつもりもない。知りたければ、これを使え』と、言ってました」
「シュタルクは母からひと通り魔法の手ほどきを受けているから、解読呪文を詠唱すれば指輪から記憶情報を得ることができるはずさ」と、フリーレンが割って入る
「でもそれをやったこと、ないんです」と、シュタルク。「父親が、他の女と結婚したってことだけは聞いてるもんでね。その気になれなかった。それに…」

194:
24/06/01 23:23:57.85 jAbZOL+g.net
171
「それに『今回の旅とフェルンが埋葬された場所を見れば、おのずと答えは一つしかない』…そうだよね?」
「ええ、そうですともリーニエさん。貴女にとっても、決して愉快な話じゃないことは分かっていますけどね。でも――」
「させない…」
「え?」
シュタルクとフリーレンが驚いてリーニエを見つめる。リーニエの手に、白い魔力の光が宿っていた
「そのピンキーリングは、ワイ様がしていたものとおなじものだ。あの女は…フェルンは…」
リーニエの放った光弾が、シュタルクに向けて飛ぶ。閃光に驚いた荷馬が嘶いて走り去り、衝撃波に驚いた隕鉄鳥のつがいが、木の枝から飛びたっていく

195:
24/06/01 23:24:33.69 jAbZOL+g.net
172
シュタルクが恐る恐る目を開ける。彼の身には傷一つない。ただ、さっきまで小指にはめていたピンキーリングは跡形も無く消滅していた
「フェルンは、想い出だけをその指輪に込めたのではない…!」
リーニエは自分でも驚くほど激しく、声を荒げていた。「同じ指輪をはめた男の精を、受胎できるように魔力で小細工をしていたんだ!」
その場に居る全員が魔法使いであり、指輪の隠れた機能も、疑いをもって分析すれば察することができるものではあった。果たしてシュタルクはうつむく
「ま、そんなところだろうと察しては、いたんだけどね」と、フリーレン。「でも、シュタルクを殺すというなら私は阻止するよ。それでも殺る気かいリーニエ?」
「できない! 私は…わたしは天秤の呪縛を、ワイ様の命令を、受けている身だから」

196:
24/06/01 23:25:06.20 jAbZOL+g.net
173
フリーレンは、微笑した。「ワイの目に狂いはなかったか。リーニエ、やはりお前は生きるべきだ」
「フリーレン。貴女はシュタルクの父親がワイ様だと、知っていたんだよね?」と、なおも恨みがましいリーニエ
「フェルンの目論見も、知ってて止めなかったのね?」
暗い憎悪がリーニエの全身から尋常ならざる魔力を解放し、白い渦を巻きながらいまや林道一帯を覆っている。シュタルクは覚悟した。ここで下手を打つと命はともかく、骨の二本か三本は折られかねない…
「もしリーニエがワイの子を産めたのなら、止めてたと思うよ」とフリーレンは、肩をすくめる
「それが不可能と分かっていたからね。ならば長い目で見て、お前にも悪い話じゃないだろうと思ってさ」

197:
24/06/01 23:25:55.90 jAbZOL+g.net
174
「『悪い話じゃない』…どうして?」
「ワイが逝った後も、お前は長く生きねばならない。何百年も、あるいは何千年もだ。それもワイへの服従の呪縛を、抱えたまま」
フリーレンは目を細める。何かを思い出しながら語っているかのように、リーニエには見えた
「それでもお前はワイの血が受け継がれた人々を、これからも見続けていられるんだ。それってある意味で、フェルンの贈り物ともいえるんじゃないかな?」
「贈り物…?」
復唱するリーニエの声音に、妥協の気配はない。「そんなお為ごかしで、誤魔化さないで。ワイ様の許しも無く、彼の子をなしたフェルンの背信は明らかです!」

198:
24/06/01 23:26:35.86 jAbZOL+g.net
175
「もちろんこれが彼女の“抵抗”でもあるのは、否定しないよ」。フリーレンはリーニエのただならぬ怒りの表情を読み取り、先立った弟子の弁護を諦めた
そのかわり黙ってトランクカバンを地面に置いて中を開き、ある品物を取り出したのである。「…これ、覚えてるよね?」
すでに機能しないほど歪に変形してはいたが、忘れるはずもない。それはまぎれもなくワイとリーニエの絆を取り結んだ“運命”の呪物だった
果たして、リーニエは眉を顰める。「服従の天秤…でも、なんで壊れてるの? たとえ岩の下敷きになっても、傷一つつかないはずなのに」
「壊したのはフェルンだよ。そうとう骨折っていたけどね。一級魔法使いフェルンの生涯でも、最盛期の最大魔力ではじめて可能だった仕事さ」

199:
24/06/01 23:27:12.97 jAbZOL+g.net
176
「…なぜ、何故そんなことを。もしかして、物に八つ当たり? 確かに、その天秤無くして私とワイ様は結ばれなかっただろうけど――」
リーニエの問いに、フリーレンは首を振る。「自分が使わないためだよ。正しくは、使いたくなる思いを断ち切るため、というべきかな」
「…?」。リーニエが、怪訝そうに眉をひそめる。だがシュタルクは、何か戸惑うように目を伏せていた
「誰にでも思いつくことさ」と、フリーレン。「ワイがリーニエにしたことと同じことをフェルンがワイにしたとしたら、どうなると思う?」
リーニエが、ハッとした顔をする。フリーレンが畳みかける
「当代最高の魔法使いフェルンが天秤を使ったなら、ワイを服従させていたはずだ。だが彼女は、そうしなかった。理由は二つ。一つは、それが理に背くから――」

200:
24/06/01 23:28:39.69 jAbZOL+g.net
177
「でも。でもワイ様は、かれは私に天秤を使ったわ。“ワイは理に背いた”と、フリーレンは言うの?」と、詰問調になるリーニエ。然るにフリーレンは首を振る
「ワイがお前に天秤を使った時点で、お前は誰の部下で誰と敵対していたんだ?」
「そ、それは――」。そのときリーニエの記憶が、鮮やかによみがえっていた。「もちろん私はリュグナーの部下で、ワイ様を斃そうとしてた」
「そう。お前は魔族で、ワイとは互いに互いを討滅すべき天敵同士。いっぽうフェルンとワイは同じ人間で、ましてパーティの“戦友”…立場と言うか、関係性の違いだよ。ワイは、フェルンが天秤を使ってよい相手ではないんだ
だけどもちろん、それだけが理由ではない。もっと大事な理由がある。それは――」
「母が、“負け”を認めた。そういうことですよね?」。まだ微かに息を弾ませつつも、シュタルクが口を挟んだ
「ワイさんがリーニエさんを選んだのは、明白だった。なのに 魔族の道具を使ってワイさんを自分に従わせるなんてまねは、俺の母にできることじゃない」

201:
24/06/01 23:29:22.18 jAbZOL+g.net
178
フリーレンはうなずき、リーニエを正視する
「フェルンにはフェルンの無念があった。ワイと過ごしたかった時間の全てを、お前に奪われてしまったんだ
そしてワイの心の中には、お前しか居なかった。敗者フェルンのはかない抵抗に、お前は寛大であっていいはずだ」
リーニエの握りしめた拳が、徐々に力を失っていく。彼女の進退から湧き上がる魔力の渦が、場末の季節風が衰えるかのように急激に弱まっていく
ワイ様のぬくもりを、自分の肌は今でも鮮やかに思い出せる。それはフェルンが渇望しつつ、遂に得られなかったものではなかったか…?

202:
24/06/01 23:29:54.54 jAbZOL+g.net
179
「フリーレン…」
「それならそれで『騙して子ども作るのは、どうなんだ?』って顔だねリーニエ。でも人間の情ってのは、一筋縄ではいかないものだよ――
ま、あの世でフェルンと再会して真相を知らされたワイがどんな顔をしているかと想うと、ちょっと気の毒な気もするけどね」
暫しの沈黙があった。リーニエは、もはや何も言わなかった。だがその可憐な双眸からは、すでに怒気が去っている
シュタルクはなおも緊張を解ききれない面持ちではあったが、リーニエのぼんやりした表情に安堵してもいた
彼は口笛を吹いた。いったんは逃げた馬が、引き返してくる。シュタルクは手慣れた動作で、再びくつわを手に取る
「空模様が怪しい。一雨来るかもしれませんな。早く次の町に、向かいましょう」

203:
24/06/01 23:30:26.39 jAbZOL+g.net
180
フリーレンもうなずき、手早くカバンに壊れた天秤をしまいこむと先ほどよりやや速い歩みで、進み始めた。リーニエは黙ってその背中に、ついてゆく
「こんな必然もあるんだね…」。シュタルクの白みがかった赤毛の後頭部を凝視しながら、リーニエは小声でそうつぶやいていた
彼女の脳裡に、斧をふるうアイゼンの姿がよみがえる。ワイの放った閃天撃の衝撃が、天秤に魂を乗せ勝ったときの彼の歓喜の表情が、若き日のフェルンの思いつめた面持ちが――
「ワイ様と戦った時に、思った通りだ。つくづく運命は面白い…」。その先は、声には出なかった。それでも心の中で独り言ちる
(だけどひどく、やるせ無い…)
ぽつぽつと、小雨の粒がリーニエの顔に当たりはじめる。どうやら、濡れずに今宵の宿までたどり着くのは無理そうだ――

「奥様は美少女まぞく」 完

204:
24/06/01 23:32:44.34 jAbZOL+g.net
以上で「奥様は美少女まぞく」は完結です。9日間にわたりお付き合いいただき、ありがとうございました
リーシュタは尊い。リーニエ(cv・石見舞菜香)は可愛い。「葬送のフリーレン」でいちばん推せるキャラ、それがリーニエ
シュタルクも、もう少し余裕があったら「あ、この娘かわいいやん。殺すの勿体ない」と、考えたのではあるまいか…?
たしかに出会いの形は最悪だった。最初から対決の構図だったし実質チーム戦だから、シュタルクvsリーニエも二人の都合だけではやめにくい

205:
24/06/01 23:34:06.95 jAbZOL+g.net
だとしてもシュタルク、ちょっと朴念仁すぎる感じだった
(よく考えてみると、あの魔族って鹿目まどか似で、かわいかったよなあ…)と、惜しむ描写くらいは欲しかった
リーニエの可憐さに少しも靡くことなく、あっさり討ち取ったあげくフリーレンに手柄を褒められてドヤ顔になっているシュタルク…
リーニエファンの目にはなんとも無粋で、つまらない男に見えてしまう><
かくなるうえはワイが「葬送のフリーレン」二次創作を、やるしかない(使命感)
そう思うと矢も楯もたまらず、本作を書き上げてしまいました。
原作の世界観をなるべく継承したいという思いもあり、フェルンとリーニエでワイを半分こする展開になったのはご愛敬…
それでは、お粗末様でした(@^^)/~~~
――終わり―― 

206:
24/06/08 20:29:09.34 nfyFP/k1.net
筆のすさびで、こんなのも書いてしまいました。ご笑覧あれ…
フリーレン「アウラ、じ…」 アウラ「じ、じっ、自慰ですかっ? 公開オナニーですねっ?」
スレリンク(news4vip板)

207:創る名無しに見る名無し
24/06/11 19:16:08.92 HqZ1UIWq.net
URLリンク(i.imgur.com)
締め切り間近です     

208:創る名無しに見る名無し
24/06/11 20:09:02.69 AC38q/xW.net
>>207
まだやってたんだもう現金にしたよ

209:創る名無しに見る名無し
24/06/15 13:43:35.26 IX2SHhHF.net
>>206
そっちがおもしろかったのでこっちに来ました
おもしろかったです


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