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『勇者の剣が抜けない件1』
とある森の最奥に位置する石造りの遺跡。その遺跡の最下層にある祭壇には、選ばれし者にしか引き抜けないと言う真紅の剣が刺さっていると言う。
選ばれし者とはそうーー勇者だ。
『漆黒の闇がこの世界を覆う時、選ばれし勇者は四つの神器を用いて闇を討つだろうーー』
そんな伝承の装備の一つがここ、討魔神の遺跡にはある。そして、その祭壇の前に立つ一つの人影。彼は毅然とした態度で剣に向き合うと、一人こう呟いた。
「へぇーーこれが勇者の剣か」
◇ ◇ ◇
彼の名はジーク=スパロウ。近くの村に住んでいる青年である。勇者には程遠い貧相な体格。肌は男性のそれとは掛け離れてきめ細かく、およそ剣を引き抜けるとは考え難い見た目だ。しかしそれは幸運か、あるいは皮肉か。彼は女神より勇者の命を受けたのだ。
『世界を脅かす大厄が刹那の間にも蘇ろうとしております。そしてあなたは選ばれました。魔王を討ち滅ぼす勇者に。村の外れにある遺跡に向かうのです。そこであなたは魔王を倒すために必要な物を手に入れるでしょう』
「ーーって言われたから来てみたけど…この剣…俺じゃ絶対抜けないだろ…」
その剣は、長さにして成人男性の身長と同程度あり、少なくとも彼はとても剛腕と呼べる力もウエイトも持ち合わせてはいない辺り、とても引き抜ける様な代物には見えなかった。
彼は元々村で農業機械の開発及び研究を行っており、頭脳には長けていても畑仕事や建築等はやった事もなく、当然体力的にも乏しい。
「何かの冗談だろ?こんな馬鹿でかい鉄の塊引き抜けって。剣に物言わせる前に俺が腰言わせるわこんなの」
ふと彼は何かを思い付いたのか、首を横にブンブンと振ると、
「いや待てよ…?俺はそうだ。女神に選ばれた勇者だろ。無論神の如き力を既に持っているに違いない!」
果てもその自信はどこから湧いて来るのか。『勇者』であろう彼は剣に向き直った。
「クックック…こんな物凍った肉と変わらない…直ぐに引き抜いてやるさ!」
言葉選びのセンスはともかくとして、彼は剣の柄に力強く手を掛け、そして
「ーーーフンッ!!」