19/11/10 22:14:16.30 9klAc9p0.net
大島とグリフォンはなんやかんやで公園に行った
51:創る名無しに見る名無し
19/11/10 22:29:44 I9wH259S.net
公園にはゼムナスが居た。
~公園~
ゼムナス「クククク...」
52:創る名無しに見る名無し
19/11/10 23:26:35.28 DTdYICEA.net
大島はゼムナスを倒した
ゼムナス「貴様っ!?ぐわあぃぁぁぁあ」
ゼムナスは光の様に消えた
大島「俺、ヤクザだけど」
53:創る名無しに見る名無し
19/11/10 23:32:31.45 2eKccuoo.net
大島はとりあえず公園のベンチに座った
54:創る名無しに見る名無し
19/11/11 00:55:30.36 jZzixwiO.net
そこに青城羅綺子が現れた!
55:創る名無しに見る名無し
19/11/11 07:15:21.04 yawmso9k.net
大島「事件は会議室でおきてるんじゃない現場で起きてるんだ」
56:創る名無しに見る名無し
19/11/11 16:23:08.67 JuKyz4NX.net
その瞬間、公園が爆発した
57:創る名無しに見る名無し
19/11/11 17:57:17.48 nHy8BVxX.net
その人はピカピカのドイツ製の高級車に乗って帰って来た。
両親はバカのように嬉しがり、久し振りに会えたことを喜んだ。
自分が成長して、遠くへ仕事に出、久方振りに帰って来ても、両親がこれほど嬉しがるとはユージンには思えなかった。
きっと椿も同じことを思っていた。
見慣れないサングラス姿の精悍な顔が笑っていた。
長く伸ばした黒いストレートの髪、グレーのスーツ姿。
「メイ! お帰り!」
「メイ! メイ!」
両親が姉の名前を興奮しながら呼んだ。
58:創る名無しに見る名無し
19/11/11 19:39:10.78 reuO5AOu.net
>>56
大島「な、何だ!?爆発した!?」
突然の爆発で大島とグリフォンは動揺した。
青城「フフフフ...」
青城は不敵な笑みを浮かべている。
59:創る名無しに見る名無し
19/11/11 22:07:10.17 Ly50QJi6.net
そう、この騒動は青城が企てたのだ
60:創る名無しに見る名無し
19/11/12 02:35:49 jhK/bOz0.net
その日、大島は矢場とんでたいして旨くもない豚カツ定食を食っていた。
するとガタイはいいが低能そうな男が店に入って来た。
61:創る名無しに見る名無し
19/11/12 17:30:53.09 2sWuvP1z.net
ウンコマン「やぁ」
62:創る名無しに見る名無し
19/11/12 17:39:50.72 jhK/bOz0.net
「うわぁ、矢場とんくそマズ…」
味音痴で有名なウンコマンではあるが
さすがのウンコマンも矢場とんはくそマズかったらしい
63:創る名無しに見る名無し
19/11/12 17:54:12.25 gIny/KFn.net
「あのさ」
ハオは大島 男夫(オオシマ・ダンプと読むのかな?)を発勁で吹っ飛ばした。
「最愛の娘との再会なんだ。邪魔しないでくれる?」
64:創る名無しに見る名無し
19/11/12 18:00:39.61 gIny/KFn.net
「きゃー! パパ! 変わりないね」
メイはハオに向かって10mの距離を3歩で縮めると、勢いよく抱きついた。
「だろう? 70歳近くなってもイケメンだろう?」
ハオは慣れた体捌きでメイの突進の勢いを殺して受け止める。そして聞いた。
「ぼくとお前の旦那のヘイロンと、どっちがイカしてる?」
「きゃー! ママ! なかなか元の歳に戻らないね」
メイはララに小走りに歩み寄ると、優しくハグをした。
65:創る名無しに見る名無し
19/11/12 18:11:08.03 gIny/KFn.net
見た目2歳しか違わない母はメイをぎゅっと抱き締めると、形のいいおでこにキスをした。
「元気にやってた? 困ってることない?」
「元気だよー。ロンの会社潰しにはもう慣れたし」
「そう? まぁ、顔を見て安心したわ」
後ろからハオがララごと娘を抱き締めた。
「33歳になっても可愛いぞ~」
「パパもかっこいいよ~。どっちがとは言わないけど」
3人は暫く一つの生き物になったように抱き合っていたが、やがてぽつんと立っている椿のほうへメイが思い出したように顔を向けた。
「椿、大きくなったね」
「お帰りなさい、大姐(ダージェ)」
「中学二年かぁ。学校楽しい?」
椿は俯くと、とても小さな声で「あのね。あたしね」ともじもじしながら言った。
66:創る名無しに見る名無し
19/11/12 18:16:18 gIny/KFn.net
「メイ姐ェ、ひどい!」
椿の口を動かしてユージンが大声を出した。
「ぼくのこと忘れてたでしょ!」
「いやー、ユゥ。久しぶりー」メイは誤魔化すように笑う。
「どーせぼくは見えないもんね?」
「いやいや、ユゥも大きくなったね」
「身体ないのにどうやって大きくなんの!?」
「いやー金色の『気』がますますピカピカになって」
ハオとララが口を揃えて笑った。
メイファンは完全に忘れられていた。
67:創る名無しに見る名無し
19/11/12 18:23:22 gIny/KFn.net
しっきからハオはそわそわしていた。
「なぁ、メイ。チェンナも連れて来たん……だよな?」
「車の中?」ララがニコニコしながら聞く。
「うん。眠ってる」
ユージンとメイファンも入れて実質6人の4人は、音を立てないようにメイの車に近づいた。
後ろの席に設置されたチャイルドシートに抱かれて、メイにそっくりなちびっ子がよだれを垂らして眠っていた。
「くっ……!」ハオが大声を出しかけて慌てて駆け出した。
そして遠くまで離れてから叫んだ。「かわいい!」
68:創る名無しに見る名無し
19/11/12 18:37:22.99 gIny/KFn.net
「可愛いわぁ」
よだれを垂らして孫の寝顔を見つめるララの口を動かして、メイファンが言った。
「おい、メイ」
「あ、メイファン忘れてた!」メイは素直に謝った。
「そんなことはどうでもいい。それよりメイ、コイツに武術は教えているか?」
「教えるわけないでしょ。チェンナまだ4歳なのに」
「もう4歳だ」メイファンは叱るように言った。「遅すぎるわ」
「まーた馬鹿妹が変なこと言い出した」ララが呆れ口調で発言権を奪った。「アンタはそりゃ4歳の頃にはもう人殺してたけどね、チェンナはぶりぶり」
「ぶりのガキ……このガキなかなかいい素質を持ってるぞ」
「そりゃーね」メイは平気な顔で言った。「このあたしとあのヘイロンの子だもん。素質はあるでしょーよ」
「戦士に育てろ」
「やーだよ」
「んだと? 貴様、私の弟子の分際で……」
「チェンナはね、可愛い可愛い女の子に育てるの」
69:創る名無しに見る名無し
19/11/12 18:52:32.83 gIny/KFn.net
「そう。椿見たいな可愛い女の子になってほしいな」
そう言ってメイに顔を向けられ、椿はたじたじとなった。
「あ……あたし?」
「うん。我が妹ながら本当可愛いわー。あたしも同じぐらいの年頃なら負けてたつもりないけどねっ」
メイはそう言うと、舌を出して笑う。
「でもこのままじゃ見た目が可愛いだけのバカ子ちゃんよ」ララが言った。「メイ、あなたから何か言ってあげて」
「あー。……ま、いいんじゃない?」
「メイ!」ララがメイの背中を小突く。
「学校なんかさー、楽しくなけりゃ行かなくてもいんだよ」
明るく笑い飛ばすようにそう言うメイだったが、椿は目を逸らして聞いた。
ハオが「さすが我が最愛の娘だ」と言いたげに頷いている。
「でもさー」メイは椿にまっすぐ目を向けて言った。「学校行かないせっかくの自由な時間活かして、何かでっかいこと経験してみない?」
70:創る名無しに見る名無し
19/11/12 18:59:00 gIny/KFn.net
「あ、お腹が……」
椿はそう言うと、お腹を押さえて背を向けた。
「お腹が痛い。薬飲んで来る」
「は?」ユージンが声を出した。「お腹なんか痛くないじゃん?」
無視して椿は駆け出した。
「後で部屋行くからー!」
メイがそう言う声を背に、椿は家に入ると、まっすぐ自分の部屋に駆け込んだ。
「何なの?」ユージンが聞く。「椿が具合悪かったらぼくも……」
椿はそれを無視して枕に顔を埋め、独り言を呟いた。
「メイ姐ェとは違うもん……」
「椿?」ユージンは自分の目から熱い水が出るのを感じた。
「あたし……何も……出来ないもん」
71:創る名無しに見る名無し
19/11/12 19:41:52.98 XC/OWNlO.net
椿は皆の前で脱糞した。
「うい~スッキリしたわ」
72:創る名無しに見る名無し
19/11/13 02:19:47 dzPUqeIe.net
大島「お前...何やってんだ!?」
大島はキレた
73:創る名無しに見る名無し
19/11/13 18:19:14 J3tXA9mY.net
茨虎組長「大島...落ち着け」
組長が現れた!
大島「組長!?何故こんなトコに居る!?」
74:創る名無しに見る名無し
19/11/13 18:39:14 HIDQBQPj.net
一方、地球では…
ジュラル星人「キチガイどもが宇宙に消えて良かったでジュラル」
ハラワタモモンガ「それでは、どんどんステーキを焼くでありますよ」
ハッケヨイ「ステーキですか、今日は遠慮しませんよ」
六本足「ギャギャ!」
盛大にステーキパーティーが行われていた。
ハッケヨイ「美味い旨い!何グラムでも食べれる!」
ハッケヨイはフンドシから糞をもらしてはステーキを食い続けた 。
75:創る名無しに見る名無し
19/11/13 19:40:10 m3ZCOs6X.net
ハッケヨイ一行は自爆した
76:創る名無しに見る名無し
19/11/13 19:46:49 E7W7j+XF.net
・茨虎(いばらが)組長......茨虎組の二代目組長。長ドスを常に帯刀している。本名は「茨虎 剣太郎」。
77:創る名無しに見る名無し
19/11/13 19:59:30.30 6fLRbPqT.net
茨虎組長「大島ぁ...お前は次期組長だってのに昔から全然変わらんなぁ」
大島「ははっ、すんません」
大島は静かに笑った。
グリフォン「そんな事よりよ、青城の奴はどこ行ったんだ?」
大島「分からん...」
茨城組長「やれやれ、オカルト好きの女にはロクな奴がおらんな」
グリフォン「だな」
78:創る名無しに見る名無し
19/11/14 00:10:45.36 RgKWzvA0.net
大島達は茨虎組事務所に帰った
79:創る名無しに見る名無し
19/11/14 07:00:04 bI2KXu76.net
~茨虎組事務所~
死にかけの組員「あ...あ...」
大島「!?」
事務所に帰ると、何故か組員が瀕死の状態になっていた!!
茨虎組長「な、何があった!?」
死にかけの組員「あ...青城に...やられ...た...ぐふっ」
組員はその言葉を最期に息絶えた。
グリフォン「...またあの女か...クソッ!!」ギリッ
80:創る名無しに見る名無し
19/11/15 01:24:51.68 giBzzSby.net
刹那、巨大なダンプが事務所に突っ込んで来た。
「あ、あれれ?アクセルとブレーキ間違ったの?」
運転席の婆さんがパニクってる
「く、組長ー」
駄目だ、組長は虫の息だ。
「と、とにかくダンプを止めやがれー」
大島は婆さんに怒鳴り付けるが…
81:創る名無しに見る名無し
19/11/15 14:14:35.91 lz7uqcWD.net
婆さん「クククク...」
婆さんは大島を轢いた
82:創る名無しに見る名無し
19/11/15 17:41:23.28 Nsv9K5UP.net
大島「な、何すんだバーサン!」
大島は辛うじて生きていた
83:創る名無しに見る名無し
19/11/15 22:44:13.59 xD90nGnr.net
椿がベッドで打ちひしがれているとランからメールが入って来た。
「あ! ラン兄ィからだ」
ユージンがまずそう言い、急いで椿がメールを開く。
84:創る名無しに見る名無し
19/11/15 22:46:32.67 xD90nGnr.net
おーい元気か弟妹
やっと休暇が取れることになって、ようやくそっちに帰れる
もうすぐ帰るよ、会えるの楽しみ
85:創る名無しに見る名無し
19/11/15 22:54:04.29 xD90nGnr.net
ランからのその短いメールの文字を椿とユージンは何度も何度も繰り返し目で追った。
ベッドに伏せた椿の顔から暗い表情はすっかり消え、目も口も嬉しそうに笑っている。
「ラン兄ィ、帰ってくるって!」
「読んでるよ」
「……わぁい、……わぁい」
椿は歌うように踊るように小刻みに身体を動かした。
「よかったよ、椿が元気になって」ユージンも嬉しそうな声を出した。
「メイ姐ェ、部屋に来るって言ってたね」
「ん。ちょっとこれ片付けようよ」
ユージンはだらしなく散らかった部屋を指して言った。
86:創る名無しに見る名無し
19/11/15 23:03:22.10 xD90nGnr.net
その時、部屋のドアをノックする音が響いた。
「あ、もう来ちゃった」
「しょうがない。どうぞー」
するとすぐにドアが元気に開き、入って来たのはランだった。
二人は暫く呆気にとられ、すぐに喜びの大声を上げた。
「ラン兄ィ!」
「よっ。久しぶりー」
椿は勢いよくベッドから跳ね起きると、笑顔でランに飛びついた。
「もうすぐ帰るよって、すぐすぎ!」
「アハハ! 驚いたか?」
「全然気づかなかった! すごい!」とユージンの声。
「ユゥに気づかれないぐらい『気』を消せるようになったオレ、すげーだろ?」
ランは優しくも逞しい笑顔でそう言いながら、椿をベッドに押し倒した。
87:創る名無しに見る名無し
19/11/15 23:16:06.02 xD90nGnr.net
「あー。椿とユゥにずっと会いたかったよ~」
ランはそう言いながら椿の身体をぎゅうぎゅう抱きしめ、柔らかい髪に頬ずりをした。
椿は小鳥がさえずるように笑いながら、ランの固いけれどしなやかなくせ毛を手で優しくぽんぽんと叩く。
ランの細いのに逞しい身体から頼もしいほどの暖かさが伝わってくる。
ユージンは椿の奥のほうから何か痛みのような水の流れが溢れてくるのを感じた。
それはまるで何かを受け入れる準備をするように、身体の下のほうへ向かって流れて行き、引き潮のようにまた上へさっと戻る。
同時に自分のあそこがおねしょをしたように熱くなるのを感じた。
『何、これ……?』
椿は腰を左右にもじもじと揺らし、その動きとは反するような明るい声で言った。
「あたしも会いたかったぁ~」
「ぼ、ぼくも会いたかったよ!」ユージンが遅れをとったように慌てて言った。
88:創る名無しに見る名無し
19/11/15 23:27:28.64 xD90nGnr.net
「な、ユージンこっち来いよ」ランが言った。「久しぶりにこっち入れ」
「うん! 行きたい!」
男二人でそう決めると、ランは椿に言った。
「椿。口、開けて」
椿はこくんと頷くと、目を閉じ、口をゆっくりと開ける。
「準備オーケーだ。ユゥ、来いよ」
そう言うとランは椿の口に触れるか触れないかと距離で口を合わせた。
椿はランの熱い吐息を感じた。
椿の身体の中がきゅんきゅんという音を立てるように物凄いことになっているのを感じながら、ユージンは椿の奥から上がって行く。
喉を出て、ジャンプのために踏み切る。椿の舌が柔らかすぎて飛び出す方向を誤りそうになる。
しかしランが至近距離で迎えてくれていたため、コースアウトすることなくその口の中へ飛び込んだ。
89:創る名無しに見る名無し
19/11/15 23:34:49.98 MQ6VPEsr.net
婆さん「そなたなど、まだまだ子犬よ...」
大島「その声...ま、まさかお蝶殿!?」
婆さん「ククク...その通りさ」
婆さんの正 体はお蝶だった!
90:創る名無しに見る名無し
19/11/15 23:56:34 Np3VPaGy.net
大島「お蝶殿...何故この様な凶行に及んだ!?」
大島は声を荒げながらお蝶に問い詰めた。
お蝶「ククク...青城の指示によってね」
グリフォン「お前!なんで青城側に!?」
お蝶「あの小娘に協力すれば不死にしてくれるらしいからさ!」
91:創る名無しに見る名無し
19/11/15 23:58:53.89 PfBDFNmN.net
大島「不死のパワーに魅了されたか...下衆め。今ここで組長の仇を取ってやる!」
大島VSお蝶の戦いが始まった!
92:創る名無しに見る名無し
19/11/16 09:42:55.53 7b7XcOUm.net
3年振りだった、自分本来の性別の身体になるのは。
感覚が締まった板のように硬くなり、吸い込む空気が多く重くなったような気がした。
下のほうには身体の外まで突き出した力のシンボルがあり、なぜかそれが少し硬く大きくなっていた。
ユージンを飲み込んだランは自分の中へ向かって聞いた。
「どうだ? 久し振りにオレになった感想は?」
「すごく強くなったね、ラン兄ィ」
「まだまださ。これから世界に挑戦するんだぜ」
「世界最強の戦闘ロボに乗った気分だ」
ユージンはそう言ってはしゃいだ。
93:創る名無しに見る名無し
19/11/16 09:51:57.59 7b7XcOUm.net
「はしゃがないで、ユゥ兄ィ」目の前の椿が言った。
ランのカッコいいイメージが壊れるからやめてというように、妹が凛々しい目を自分に向けていた。
いつも鏡の中に見ていたが、生の椿を前にするのは3年振りだ。
ユージンは自分に見惚れる気分だった。
外から眺める自分の身体はいつの間にか花が咲くように鮮やかに咲いていたと気づいた。
「可愛いなぁ、椿」
「それ、どっちのお兄ちゃんの言葉?」
「ユゥ」
「……そう」
椿はがっかりしたように見えた。
94:創る名無しに見る名無し
19/11/16 10:11:43.85 7b7XcOUm.net
「あたしもラン兄ィに入りたいな」椿が呟いた。
ランは笑うと、「逆だろ」と言った。
「逆って?」
「あ、いや……」
「ラン兄ィ、今の下ネタ?」ユージンが突っ込んだ。
「あ、いや……」
「ラン兄ィ、椿に入りたいの?」ユージンがいじめる。
「すまんすまん。変なこと言ったな」
ランはそう言うと、椿の頭を撫でた。すると椿がその手を払う。
「撫でるのやめて」ランを睨むように見る。「わたし、もう子供じゃないんだから」
11歳だった少女は14歳に成長していた。ユージンから見ても確かに今の椿に「いい子いい子」するようにランが頭を撫でるのはおかしな気がした。
しかしそれ以上に何かがおかしかった。見慣れた自分の姿がやたらと眩しい。
お風呂で裸を見ても自分の身体としか思わなかったのに、今自分の目の前にいる自分は、思わず目を背けたくなるほどに眩しいのだ。
唇を結んで怒ったような顔を向ける椿の姿に、ユージンは胸がドキドキした。
95:創る名無しに見る名無し
19/11/16 10:27:30.85 7b7XcOUm.net
困惑して逃げ出したくなっているところへドアがノックされ、メイが顔を覗かせた。
「どう? 二人ともびっくりした?」
助け舟を出してもらったようにほっとすると、ユージンは答えた。
「へへっ。まんまとね。『気』を消してたからユゥも気づかなかった」
椿はランの肩に両手を乗せると、満面の笑みを見せた。それを見てメイも笑った。
「ようやく笑ったな~。やっぱり椿は笑顔が一番いーよ?」
そう言うメイの足下をすり抜けて、ちっちゃいメイが部屋に入って来た。
「チェンナちゃん、起きたか!」ランが優しく微笑みかける。「オレのこと、覚えてる? 覚えてるわけないじゃん、ラン兄ィ最後に会ったの新生児の時だよ?」
「何て言うか」メイが呆れたように言う。「ランとユゥが一緒になってると、どっちが喋ってんのかわかんないね」
96:創る名無しに見る名無し
19/11/16 10:46:28.08 7b7XcOUm.net
「劉 千哪(リウ・チェンナ)です」チェンナは自己紹介した。「よんさいです」
「もー、メイちゃん。こんな若い弟をおじさんにしないでよー」
「それ、どっち?」
「ラン」
「いちいち聞かんとわからん。めんどい。ユゥ、椿に戻れ」
「やだ。もうしばらくラン兄ィにいる。面白いもんな?」
「続けて喋んなラン、紛らわしい」
「いちいち文句つけんなー。あ、ぼくユージンね」
「さてチェンナにもみんなを紹介しようね。チェンナ、この可愛い女の子が椿おばちゃん」
「おばちゃんはやだ」椿が口を尖らせる。「椿ちゃんて呼ばせる」
「メイファンちゃんの気持ちがわかるなぁ。おばちゃんって呼んだら殺されるもんね」ランとユージンが続けて言った。
「じゃあ」メイがチェンナに紹介する。「こっちが椿ちゃん、こっちがランちゃん、そしてその中にいるのがユゥちゃん」
最後にユージンを紹介する時、チェンナは確かに胸のあたりにいる金色の『気』を見た。
「ぼくが見えるの? すごい」
「ところで」メイが部屋のドアのほうを振り返る。「何してんの、メイファン」
少し開いたドアの隙間から肌の色の黒くなったララが覗いていた。恥ずかしそうな表情で、手には色紙を持っている。
97:創る名無しに見る名無し
19/11/16 11:00:23.18 7b7XcOUm.net
「ロウガ選手だぁ」メイファンは目を輝かせながら入って来ると、ランに握手を求めた。「いつもTVで観てますぅ」
「あれがメイファン。おばあちゃんの妹だよ」メイはチェンナに紹介した。「あんまり近寄っちゃダメなひと」
「メイファンちゃん、冗談やめてよ」ランが笑う。
「いやー芸能人はやっぱいいね」メイファンはランの匂いをくんくんと嗅いだ。「いい匂いする」
「芸能人じゃねーし」
「そうだな」
「ちょっ……!」
メイが叫ぶよりも早く、メイファンが拳を繰り出し、ランがそれを受けた。部屋に破裂音のようなものが響く。
突然の攻防にチェンナが目を輝かせて叫んだ。「ひーろーだ!」
「いいね」メイファンが嬉しそうに言う。「強いヤツはやっぱいい。それを怖がらんガキも最高だ」
「っていうか」ランがからかうように言った。「メイファンちゃん、弱くなったんじゃない?」
「あ?」
「トシ取っちゃった?」
「やりてーのか、ガキ?」
メイファンは楽しそうに笑うと、黒い『気』を燃え上がらせた。
98:創る名無しに見る名無し
19/11/16 16:39:49 +q9FYHGY.net
戦いが始まった瞬間、お蝶はいきなり
クナイを投げた!
大島「(──速いっ!?)」
大島はギリギリで回避した
大島「あ、危ねぇ...」
お蝶「ククク...その程度か?茨虎のせがれ殿よ」
大島「...やれやれ、どうやら“本気”を出すしかなさそうだ」
大島はそう言いながら帯刀していた長ドスを抜刀した!!!
お蝶「何──!?」
99:創る名無しに見る名無し
19/11/16 22:31:05.19 bHwmtpZB.net
大島「うおおおおおおお!」
大島はお蝶に斬りかかった
お蝶「ぐっ...」
お蝶は深い傷を負った
お蝶「どうやら分が悪いようだねぇ...一時撤退させてもらうよ」
お蝶は幻かの様に霧へと消えていった
大島「おい、待て!」
グリフォン「くっ、逃げられたか...」
100:創る名無しに見る名無し
19/11/16 23:10:19.43 7bsImYGN.net
大島「あっ、そう言えば組長埋めないと」
茨虎組長「生きてるわい!!」
組長は生きていた。
101:創る名無しに見る名無し
19/11/16 23:39:48.57 zlHthsah.net
お蝶夫人は暗殺一家『李家』を訪ねた
102:創る名無しに見る名無し
19/11/17 01:41:32 dLgI/ZYA.net
そしてお蝶は李家の一族を惨殺した。
お蝶「よし、これで邪魔者共は消え去った。この家を“我等”の本拠地にしようぞ」
青城「フフッ、いいですね」ニヤリ
103:創る名無しに見る名無し
19/11/17 06:24:43.55 //l2YEDR.net
「コラー!」
メイの長い脚が真下から二人の間めがけて振り上げられた。
メイファンとランは同時にのけ反りかわすと、低空でぶつかり合う。
「ダメでしょー……がっ!」
高速で切り返して振りかかって来るメイの踵落としを飛び退いてかわすと、メイファンはランを殺すつもりで手刀を繰り出した。
その力を利用して受け流すと、ランも殺す気の肘をメイファンの鳩尾へ打ち込む。
「こらー!」
突然、真下から小さなメイのハイキックが襲って来たのを二人は避けきれなかった。
「ダメでちょー!」
チェンナは倒立する格好で二人の顎を足で捕らえると、そのまま身体を回転させ、プロペラのように二人を弾き飛ばした。
「ママ!」椿はメイファンに好きにされている母親の身体を心配し、叫んだ。
104:創る名無しに見る名無し
19/11/17 06:50:08.21 //l2YEDR.net
「そうだよラン兄ィ、あれ、ママの身体!」ユージンが中から叫ぶ。
しかしランには聞こえていなかった。自分を殺す気で向かって来る強者の姿しか見えていない。楽しそうに笑うと、ランは高速のジャブを繰り出した。
自分の中の血がそうさせる。リウ一族の血が闘いを止めさせない。強い奴には敬意を、悪い奴にはお仕置きを。
ジャブを全てスゥエーでかわすとメイファンは飛び退きながらサマーソルト・キックを放つ。その脚は『気』で巨大なナイフに変えられている。
3cmの距離で横にかわしながら、ランは追うように裏拳をメイファンの顔面に叩き込んだ。
「もぉっ!」
メイが横からランの腕を蹴りで薙ぎ払う。
「モーッ!」
チェンナがさらにランに飛び蹴りを喰らわせる。
ランは足捌きでダメージを受け流すと、優しく笑いながら言った。
「大丈夫? メイファンちゃん」
これだけ四人が暴れているのに椿の部屋は少しも乱れていなかった。床に散乱している鞄や本は元からだ。
「メイ姐ェの邪魔がなかったらK.Oだったね」
「運も実力のうちだボケ」
メイファンは額に青筋を立てて笑う。その腕が黒く鋭く尖りはじめる。回転しながら自分の身を巨大な手裏剣に変える。
「バカーっ!」メイがびっくりして叫ぶ。
「スゲーッ!」チェンナが喜んで叫ぶ。
「死ぬーっ!?」ユージンが恐怖に叫んだ。
高速回転しながら真っ黒な巨大手裏剣が自分めがけて飛んで来た。
105:創る名無しに見る名無し
19/11/17 06:54:20.61 //l2YEDR.net
「ふふっ」
可笑しそうに笑うとランは、母親譲りの透明の『気』を発動させた。
106:創る名無しに見る名無し
19/11/17 07:00:03.45 //l2YEDR.net
ランの透明な『気』は相手の『気』を吸う。
体力などなくすべて『気』の力で闘うメイファンにとって天敵と言えた。
斬り刻むはずが逆に吸収され、巨大な黒い手裏剣はどんどん小さくなり、回転しながらメイファンは床にどべっと落ちた。
107:創る名無しに見る名無し
19/11/17 07:04:24.70 //l2YEDR.net
「メイファンちゃん、やりすぎ」
ランは床に寝そべるメイファンを見下ろしながら微笑んだ。そしてようやくララを心配する。
「ところでママ、大丈夫?」
しかしララはすやすやと眠っていた。メイファンが感覚を遮断しているため、起こっていることに気がついてすらいないようだ。
「やるなぁ」メイファンは顔を少し起こすと、言った。「いつか殺してやんよ」
108:創る名無しに見る名無し
19/11/17 07:08:00.60 //l2YEDR.net
ランはベッドの上に立って怯えるように震えている椿に気づくと、歩み寄り、優しく声をかけた。
「ごめん、怖かったか?」
椿は何度も首を横に振ると、クスッと笑った。
「ううん、カッコよかった」
109:創る名無しに見る名無し
19/11/17 07:19:35 //l2YEDR.net
海は少し波が高かった。通る船はなく、沖から寄せて来る波の他に何の影もない。
海面は緑を湛えて黒く、曇った空は光を投げかけない。
海の底から赤が浮かび上がって来る。
小さな赤いイルカが顔を出すと、きょろきょろと辺りを珍しそうに見回した。
遠くから苦しがっている声が聞こえて来る。
赤いイルカは声の聞こえるほうへ泳ぎ出した。
110:創る名無しに見る名無し
19/11/17 15:38:18.83 rmYlZklp.net
メイファンは公園の砂場で尻を出して勢いよく脱糞した。
その様子をお蝶はiPhoneで盗撮しネットに流した。
111:創る名無しに見る名無し
19/11/17 16:17:12.87 ql/jBraB.net
その後、メイファンは自殺を決意した
112:創る名無しに見る名無し
19/11/17 17:07:11.80 DBsCzOQV.net
その夜、李氏一族は久々に家族全員が集まり食事をした。
両親、長女メイメイ、長男ランヤァ、次男ユージン、次女椿、孫娘チェンナ……
「ちょっとパパ、ウチのヘイロン忘れてるよ」長女メイが言った。
「ヘイロンはどうでもいい」父ハオは答えた。「あれは僕の義理の息子でも何でもない。離婚しなさい」
「ヘイロン兄さん会いたかったな」魚料理を口に運びながら長男ランが言う。
「それよりラン。お前は私の誇りだ」ハオは満面の笑みで言った。「私はお前の師匠としても、父としても鼻高々だ」
「ありがとう、パパ」ランは箸を置き、礼をする。「そしてありがとうございます、師父」
「……で、パパは?」メイが大盛の海鮮丼を口に運びながら言う。
「んっ?」
「お義父さんがいつも言ってるよ、『リー・チンハオは倒れたままなのか?』って」
「なっ、何の話!?」
「散打王の座、奪い返しに来いって」
「ぼっ、ボクもう67歳なんですけど!?」
「お義父さんは……現役散打王リウ・パイロンは68歳だよ」
「ロ……ロンロンは酷いよーっ」ハオは泣き出した。「いつも僕の大事なものを奪って行くんだからーっ」
113:創る名無しに見る名無し
19/11/17 17:35:04.59 DBsCzOQV.net
「まぁ、それより明日はちゃんとしてよね」メイはおかわりの海鮮丼を作りながら言った。
「任せておけ。お前に恥などかかせないよ」ハオは威厳を取り戻し、涙を拭いた。
「運転気をつけてね」ララがハオに海鮮丼を渡しながら言った。「隣町まで300kmあるんだから」
「うん。ママ、悪いけどチェンナの面倒お願いね」メイは海鮮丼を完食しながら言う。
「大丈夫よ。明日は診療所も休みにしたし。それに……」ララは膝の上のチェンナの頭を撫でた。「悪いどころか大歓迎よ」
「講演会って、何喋るの?」ランがパンを噛みちぎりながら聞く。
三杯目の海鮮丼を食べはじめながらメイが照れ臭そうに笑う。
「アメリカ生まれアメリカ育ちで散打王の父を持ち、医師でありながら太極拳チャンピオンのあたしの経歴が珍しいだけよ」
「そしてこんな素晴らしい娘をいかに育てたかを僕が語るんだ」
ハオは得意満面にそう言うと、続けて言った。
「ランが来ると知ってれば、ランにも出席して貰いたかったな」
「パニックになるよ」メイが笑う。「今や超有名人なんだから、ランは」
「ボクはどうせ行かないよ」ランはそう言って微笑んだ。「ユゥと椿に会いに帰って来たんだから」
114:創る名無しに見る名無し
19/11/17 17:58:13.18 DBsCzOQV.net
【主な登場人物まとめ】
・ユージン(李 玉金)……15歳。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。
普段は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体の支配権を交代することが出来る。
明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
誰の身体にでも自由に移動することが出来、現在は義兄ランの中に入っている。
・椿(リー・チュン)……14歳の中学生。登校拒否でずっと家にいる。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけている。
帰りを心待にしていた義兄ランが日本から帰って来、うかれ中。
・ラン(鄧 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。
リウ・パイロンとメイファンが殺した鄧 美鈴の子。四歳の時にハオが引き取った。
・ハオ(李 青豪)……67歳。ユージン達の父。元散打王。
自由な性格で椿の登校拒否を容認している。大怪我をしてもすぐに治る特異体質。
基本的にダメ人間だが愛する者のためには超人的な力を発揮し、四人の子を育てた。長女メイを特別溺愛している。
・ララ(ラン・ラーラァ)……58歳だが見た目は35歳。ユージン達の母。
息子のユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在。妹のメイファンと身体を共有している。凄腕の医者でもある。
椿の登校拒否に頭を悩ませている。
・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ララの妹。ユージン達の叔母。
ひとつの身体に姉のララと一緒に住んでいる。元殺し屋。ユージンを調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる。
・メイ(リー・メイメイ)……前スレ主人公。33歳。李家長女。結婚して北京に住んでいる。
医師であり太極拳チャンピオン。講演会に父と出席するため帰って来た。旦那はリウ・パイロンの息子ヘイロン。
・チェンナ(劉 千【口那】)……メイの娘。四歳。意外に強い。
115:創る名無しに見る名無し
19/11/17 18:29:19 aWsmD5T0.net
青城とお蝶は李家の円卓に座った。
そして突如現れた謎の男達も同様に座った。
青城「まず私達の目的をおさらいしましょうか。我等“月夜同盟”の目的はすなわち、茨虎組を潰す事...!」
謎の男A「潰すには具体的にどうすればいいんだ?」
お蝶「ククク...組員全員の首を落とせばいいのじゃよ...」
謎の男A「野蛮なやり方だな...」
116:創る名無しに見る名無し
19/11/17 18:42:48 CWPCwU+d.net
青城「お蝶さんの言う通りです。我等の手で茨虎組に所属してる者達を皆殺しにしましょう。フフッ...」
こうして?茨虎組?VS?月夜同盟?の抗争が始まった!!
光と闇の戦いの行く末は如何に──!?
117:創る名無しに見る名無し
19/11/18 09:03:24.13 ndo/K84z.net
【組織解説】
・茨虎(いばらが)組......神室町の均衡を保つ極道組織。
・月夜同盟......茨虎組の壊滅を狙う謎の団体。
【主な登場人物まとめ】
・大島 男夫(おおしま だんぷ)......このスレの主人公。『茨虎組』の若頭。冷静沈着で仲間思いな男。
・茨虎組長......『茨虎組』の二代目組長。長ドスを常に帯刀している。本名は「茨虎 剣太郎」。
・青城 羅綺子(あおぎ らきこ)......黒魔術を使う謎の美少女。『月夜同盟』の主導者。人間をカラスに変える能力を持つという。
・お蝶
クナイで戦う老婆。“不死の力”を手に入れる為、青城に協力している。
・グリフォン......軽い口調で人語を喋る謎のカラス。青城を死ぬほど恨んでる。
・鴨志田(かもしだ)先生......元メダリストの体育教師。青城にセクハラ行為を試みた結果、呪い殺された。
118:創る名無しに見る名無し
19/11/19 03:34:00.56 l0Yb1K0+.net
「ああっ……!」ユージンは思わず声が漏れた。「ううっ……!」
「ユゥ」ランは平気な声で言った。「うるさい」
「だって……ラン兄ィっ! こんな……こんな太いの……ああああ無理無理無理っ!」
ランは持参した紙を取り出すと、尻を拭いた。
「うんこぐらいで大袈裟だなぁ、ユゥは」
「だって……さすがラン兄ィ……っていうか男のうんこ太すぎ。椿のと全然違う」
「えっ」
「ん?」
「椿って、うんこするのか?」
「そりゃ、するよ」
「嘘だ!」
「小さい頃、椿のオムツ替えてやってたって、ラン兄ィよく言ってたじゃん」
「そりゃ、赤ちゃんからうんこは出るだろう。でも椿、もう赤ちゃんじゃないんだぜ? 女性になったらうんこはしないもんじゃないのか?」
「するよー! 人間だもの」
「ど、どんなうんこ?」
「ラン兄ィみたいなぶっとい一本グソの真逆」
「……と、いうと?」
「うさぎみたいに、ポロッ、ポロッ、って」
「き、聞かなかった! 今の、オレは聞かなかったぞ!」
ランは大急ぎでズボンを穿くと、トイレを飛び出した。
119:創る名無しに見る名無し
19/11/19 19:07:11.17 l0Yb1K0+.net
夜、部屋で一人きりになるとランは言い出した。
「ユゥ、ヒコーキやんぞ」
「えっ?」
「打飛機(オナニー)だよ、お前やったことないだろ」
「ラン兄ィ、日本でそんなこと覚えて来たの!?」
「タケル兄貴って人に教えて貰ったんだ」
「気持ちいいの?」
「飛べるぜ?」
「……やる」
「よし!」
そう言うとランは鞄を開け、一冊の本を取り出した。
「わっ! もしかしてそれ日本の工口書?」
「エロ本までは行かない」ランはアイドル写真雑誌を広げて見せた。「でもオレらには刺激200%」
ページをめくるたびにランと同世代ぐらいの可愛い女の子達が水着や下着姿で男の劣情を誘っていた。
「こんないやらしいの持ち込んで、逮捕されない?」
「古いな。もう共産党の時代じゃないんだぜ」ランは笑った。
120:創る名無しに見る名無し
19/11/19 19:16:25.84 l0Yb1K0+.net
「うわっ……たまんねーな」
ランは清純そうなおかっぱの女の子が下着姿でベッドに寝そべっている写真に釘付けになった。
「あぁ……すごい」
ユージンは興奮に息が荒くなっていた。
写真の女の子は何とも思わない。可愛いとは思うけれど、押し倒したいとは思わない。むしろなってみたい対象だ。
ランの手が、ランのペニスを握り、それをしごいている。
その光景とランの手から伝わって来るペニスの逞しさがユージンを夢中にさせた。
「あぁっ……イキそうだ。ユゥも気持ちいいか? いいか?」
「あぁっ……ラン兄ィっ! 何か、来る……っ!」
「よし……イクぞっ!」
ランの左手の動きが速くなる。
「ああああラン兄ィ! ラン兄ィっ!」
ユージンはなるべく声を出さないように気をつけたつもりが、その名を絶叫してしまった。
「あああ……チュン…!」
「!?」
「あああイクよ! チュン! 椿ーーーっ!!」
121:創る名無しに見る名無し
19/11/19 19:32:33.58 l0Yb1K0+.net
ユージンはランの名を絶叫し、ランは椿の名を連呼して果てた。
行為が終わって下半身丸出しで大の字に寝そべるランにユージンは聞いた。
「ラン兄ィ、椿のこと、好きなの?」
「えっ?」
「女の子として、好きなんだね」
「なんでだよ。いきなり」
「今さっき口にしてたこと覚えてないの?」
「うっ? まさか……!」
「椿の名前呼んでイッちゃってたよ」
「……まじか」
ユージンはなぜか胸にどす黒い感情が湧き上がって来るのを感じた。しかしそれを抑えつけ、明るい声で言った。
「椿と結婚したら?」
「バッ……! バカ! 椿は妹だ!」
「でも血は繋がってないじゃん」
「産まれた時から知ってんだぞ。オムツも替えてやった。本当の妹みたいなもんどころか、本当の妹だ!」
「椿もラン兄ィのこと大好きだよ?」
「そりゃ……お兄ちゃんとして……」
「椿とラン兄ィが結婚したら、ぼく、嬉しいな」
ユージンの頭の中に二人が甘い結婚生活を送る光景が浮かんだ。椿の中にはしっかり自分もいた。
「ダメだ」ランは決意のこもった口調で言った。
「どうして?」
「椿はハオ師父の娘。オレは師父に返しきれない恩がある」
「え~? そんなの……」
「オレは椿とユゥと兄弟やらせてもらってるだけで幸せなんだ」
「パパもラン兄ィなら喜ぶかもしれないのに……」
ランは首を横に振った。そして、言った。
「これ以上は望まないよ」
122:創る名無しに見る名無し
19/11/19 19:51:46.75 l0Yb1K0+.net
コンコンとドアをノックする可愛い音がした。
「うわっ!?」ランは慌ててパンツを穿く。
「ラン兄ィ」と、ドアの向こうから椿の声がした。
「ちょっ……! 待っ……!」
椿はドアを開けようとした。鍵をかけていて助かった。
大急ぎでズボンを穿き、雑誌を隠すとランはドアを開けた。
寝間着姿の椿が少し不思議そうな瞳でランを見上げた。
「なんか……あたしの名前、呼んでなかった?」
「ええっ? ああっ! ユージンが……」
「ユゥ兄ィの声……? じゃ、なかったけど……」
「ううっ!? うん。その、召還したら来るかな、って」
「そしてまんまと悪魔は現れた!」ユージンがおどけた声で言った。
「な? すげーだろ? 本当に来たな? な?」ランが必死で誤魔化す。
「ユゥ兄ィ、うざい」椿は嫌悪を顔に浮かべた。
「何をぅ!? 悪魔め!」ユージンは少しも堪えることなくさらにおどける。
「何してたの?」椿が部屋を見回す。「なんか臭いよ」
「ああっ、スルメパーティーを……」
それには答えず、椿は部屋に入って来た。
123:創る名無しに見る名無し
19/11/19 20:08:06.92 l0Yb1K0+.net
「ラン兄ィと一緒に寝たい」
そう言うと椿は背中から自分の枕を取り出した。
子供っぽい椿の仕草を見ると、ランは瞬く間に落ち着いた。
「アハハ。なんだよ中身は11歳の時のまんまか」
頭を撫でようとしたランの手から逃げながら、椿は少し強い口調で言った。
「違うもん! お話したいだけだもん」
「よっし。じゃ……」ランは椿を抱き上げると、そのままベッドに放った。「寝やがれぇっ!」
椿が無邪気に笑う。
布団をかけてやりながらランもベッドに入る。二人は顔を近づけ、あれこれと懐かしい話をした。たまにユージンが口を挟むと椿が怒った。
「ユゥ兄ィ、うざい。喋らないで」
ユージンはそれで暫く黙る。そしてまた口を挟んだ。椿が自分をうざがるのはどうでもよかった。
椿がランばかりを見ていることに焼き餅を焼くわけでもない。椿は、自分なのだ。
しかしランの目を通して見る椿はとても眩しく、ランを見ている椿の中に今、自分はいない。
そのことが少し居心地悪く感じる。それだけだった。
124:創る名無しに見る名無し
19/11/20 19:30:19.31 CW1hQqLD.net
次の朝、父と姉は300km離れた隣町へ出掛けて行った。
メイが運転するピカピカの高級車を見送ると、母はランを呼んだ。
「ラン。あなたから椿に言ってちょうだい。あなたが言えばきっと椿も学校に行ってくれるわ」
ランは椿の登校拒否のことは知っていた。しかしその理由はよくわからずにいた。
「別に、いじめられてるとかじゃないんだよね?」
「うん、ないよ」ユージンが言った。「あいつ地味だし、地味なパンツ穿いてるし、目立たないから」
「じゃ、なんで……」
「とにかく」母が口を挟む。「行かないより、行ったほうがあの子のためでしょ」
125:創る名無しに見る名無し
19/11/20 19:42:10 CW1hQqLD.net
ランは中庭に一人でやって来ると、切り株に腰掛けた。そして自分の中のユージンと会話を始める。
「ユゥ、お前も椿の登校拒否の理由、知らないのか?」
「まぁ……どーせ学校なんか行っても何にもならないとかはよく言ってるけど」
「けど?」
「それが理由で学校行かないって、変じゃない?」
「……まぁ、強い理由って感じじゃないな」
「そう。やることないんだから、意味感じられなくても行けばいい」
「学校では楽しそうにやってたか?」
「うーん。あのね」
「うん」
「ぼくが勉強嫌いだから、椿も楽しそうじゃなかった」
「何だそれ?」
「知ってるでしょ、ぼくと椿、よくシンクロしちゃって、考えたことがどっちの考えなんだかわかんなくなることがあるって」
「あぁ」
「たとえば猫かわいいなって思ったとして、それを思ったのがぼくなのか椿なのか」
「わからないことがあるんだよな?」
「そう。だから、本当は登校拒否してるのはぼくなのかもしれない」
「え」
「ぼくが勉強嫌いだから、学校行きたくない。それを椿が自分の意思だって思ってるだけかもしれない」
「難しいな……」ランは頭をかきむしった。
126:創る名無しに見る名無し
19/11/20 20:06:42.83 CW1hQqLD.net
「ところでラン兄ィ」
「ん?」
「さっき、ぼくが椿のパンツの話したのに、華麗にスルーしたよね?」
「か、関係ないだろ」
「興味ないの?」
「なっ! ……ないわけないだろ」
「だよね」
「なんだよ」
「ラン兄ィは椿のこと、いやらしいことする対象として見てるんだもんね」
「そんなんじゃない!」
「え。イク時思い浮かべて叫んだくせに?」
「違うんだ」
「どう違うの」
「あれな、オカズにする日本妹妹(リーベン・メイメイ)の名前が難しくてな」
「ん?」
「で、呼びやすい名前、絶頂ん時に言う癖がついちまった」
「ええ?」
「それだけのことだよ」
「じゃ、別に『リン・チーリ~ン!』とかでもいいんじゃ……」
「なげーよ」
「『メイファ~ン!』とかでもいいんじゃ……」
「断る」
「まぁ……。じゃあつまり、ラン兄ィは椿といやらしいことをしたくは、ないと?」
「あ、当たり前だろ~!」
「ふ~ん」
「何だよ」
「ラン兄ィ」
「何」
「今夜もヒコーキ(オナニー)、する?」
「おう」
「するの?」
「しようぜ」
「やった!」
127:創る名無しに見る名無し
19/11/20 20:12:19.73 CW1hQqLD.net
「それより椿に学校行けって……どう言おうかな……」
ランが頭を悩ませているのを見かね、ユージンは提案した。
「ねぇ、みんなで海に遊びに行こうよ!」
「え?」
「ママとチェンナも誘って、さ」
「あ……うん」
「広い空と海を見ながらだったら、きっとすんなりした話が出来るよ」
「なる……!」
128:創る名無しに見る名無し
19/11/20 20:14:31.22 CW1hQqLD.net
「椿! 海へ遊びに……」
ランはノックもせずに椿の部屋のドアを開けてしまった。
129:創る名無しに見る名無し
19/11/20 20:16:58.67 CW1hQqLD.net
猫耳のついたカチューシャを今、頭につけたばかりの椿が振り返った。
可愛い椿の顔の上にそれをさらに可愛くする猫の耳がついている。
ただそれだけで、ランは発狂した。
「ぎゃわわわわわ!」
「え?」椿はただ顔を赤らめた。
130:創る名無しに見る名無し
19/11/20 20:24:36.68 CW1hQqLD.net
「海に行くのね~。お弁当も持って行かなきゃね~」
そう言いながらララはメイファンに全員ぶんの弁当を作らせた。
「うみー! うみー!」
海のない北京育ちのチェンナは大袈裟なぐらいにはしやいだ。
「水着……地味なのしか持ってない」
椿が残念そうに俯いた。
「椿、スクール水着だ。胸に『椿』のネームの刺繍入り、むしろそれが最大の武器になる!」
ユージンがそう入れ知恵したが、結局椿はただ地味なだけの水色の水着を持って行った。
131:創る名無しに見る名無し
19/11/20 20:30:40.84 CW1hQqLD.net
しかしちょうどそこへ電話がかかって来た。
少し離れたタオさん家の奥さんが急に産気づいたというのだ。
「行かなきゃ」ララはラン達を振り返り、言った。「あなた達、海、行くの?」
「うん。チェンナはボクらが見とくから、安心して行ってあげて」
「でも……」
ララは心配だった。仲良し3人兄弟は昔から遊びに夢中になると周囲が見えなくなりがちだった。
もしチェンナが溺れていても気づかなかったら……
「ユゥ」ララはユージンに言った。「あなた、チェンナの中に入って見ててあげなさい」
「え~?」ユージンは不満そうだ。
「いや……やっぱり」ララは撤回した。「ユゥじゃ不安ね」
132:創る名無しに見る名無し
19/11/20 20:33:58.87 CW1hQqLD.net
「チェンナちゃん」
ララはチェンナの前にしゃがみこむと、にっこりと笑った。
「おばあちゃんとチューしようね」
「うん!」
元気よくそう言うと、チェンナは言われた通りに精一杯口を大きく開けた。
「行くわよ~? 入るわよ~? びっくりしないでね」
あーんと口を開けて待ち構えるチェンナの口の中へ、ララの口から飛び出した真っ黒なものがすぽんと飛び込んだ。
133:創る名無しに見る名無し
19/11/20 23:09:34.03 QdRi3t2I.net
「ククククッ」チェンナの口が笑った。
「アハハハッ!」チェンナの口が高笑いした。
「うるちゃい」チェンナが叱った。
「……すんまへん」チェンナの口が謝った。
134:創る名無しに見る名無し
19/11/20 23:14:04.89 QdRi3t2I.net
「メイファン」ララが厳しい笑いを浮かべて言った。「チェンナを守ってやってね」
「フン、任せとけ」
「信頼してるわよ。あなたもいい大人なんだから」
「ああ、もちろんだ」
「じゃあ、行って来るわね」
そう言って自転車に乗って出て行ったララの姿が遠く見えなくなると、メイファンは言った。
「よし、ラン、殺し合うぞ」
135:創る名無しに見る名無し
19/11/21 21:47:02.01 37bT0zLt.net
______
| ,.へ、__,.ヘ/
| / \ ∠ヽ
|i^|「::::::ノ=l:::::ィ / ̄ ̄ ̄ ̄
,. -‐- 、 |ヽ| r_ \l | 静粛に……!
_/ \ ____/| ∧. (二二7! < この男は今ネタに
∠ ハヾミニ.r-、\∠L:r‐-‐-、:::::::::|/ ヽ_‐__.」`ー- | マジレスをした
. /ィ ,L V∠ \l \\.)j j j j`二i\ /:|:::::::::::: | 最初に言ったはずだ
W、ゞi ,、~ __ 「 ̄∧ ヾ´´´ |. \ / |:::::::::::: | 嘘は嘘であると
,ゝし'/ ,ノ.| / i l. l \、.|:::::::::::: 見抜ける人でないと
l 、`ヾニンl\./\|l、_」 ヽ、 / ヾ:::::::::::: (掲示板を使うのは)難しい
. | l | _l\ト、 | \r─‐┐ト/ / r‐┴-、::: と……!
. |. | 7 l ヽ | /☆☆☆.| | ∨ {ニニヾヽ
136:創る名無しに見る名無し
19/11/21 21:51:02.71 8HsAuFgy.net
「やだよ」ランは言った。「チェンナちゃんの身体にそんなことさせられない」
ママの身体だったらいいのか、とユージンは思ったが黙っていた。
「ならばその気にさせてやる」
そう言うとメイファンはチェンナの小さな身体のあっちこっちを武器に変えはじめた。
左腕はドリルに。右腕は青竜刀に。胸からは3つめの腕が生え、ヌンチャクを振り回した。
「ギャー!」チェンナが叫ぶ。「おもちれー、これ!」
その後ろから肩を掴み、くるりと後ろを向かせると、怖い目をした椿は、母親譲りの厳しい口調でメイファンを叱った。
「いい加減にして、メイファン。チェンナを守るのがあなたの仕事でしょう?」
「はい……」
「私達がもし海で溺れて死んでも、あなたはチェンナだけを守りなさい。いいわね?」
「はーい……」
椿の凛々しさに見とれているランに、ユージンが小声で言った。
「ラン兄ィ」
囁くほどの小声でも、骨を伝って二人は会話出来た。
「椿に『いい加減にしろ椿、学校に行くのがお前の仕事だろ』って言うのはどうかな」
「ねーわ」
ランはそう言って笑いもしなかった。
137:創る名無しに見る名無し
19/11/22 05:38:55.72 YEwEavpm.net
まだ風は少し冷たかった。
椿は水着を着た上に学校の長袖体操着を羽織った。
「椿……」ユージンがぽつりと言った。「色気ない」
「ユゥ兄ィ、うざい」
「いや、そこに猫耳をつければ……」ランが呟いたが、椿には聞こえていなかった。
138:創る名無しに見る名無し
19/11/22 18:02:08.31 8YXCqsgb.net
李夫人の茶会に参加するメンバー
139:創る名無しに見る名無し
19/11/22 18:22:56.20 9G5VtU8W.net
そのメンバーは全員殺された。
“あの男”に─
140:創る名無しに見る名無し
19/11/23 01:18:45 lgah3XGl.net
玉金野郎に-
メンバー1人がダイイングメッセージを残して絶命している。
ユージンは死体を片付けようとするが
「およし」
李夫人がそれを制した
「ばあちゃん、だってこれまずいでしょ」
「これは見せしめだよ。天下の李一家に喧嘩を売って来たんだ。」
「でもこれじゃ役人が…」
「役人?はんっ!! あんな能無しどもに何が出来るってんだい
あたしの目の黒いうちは奴らも口を挟まないさ!!
何せ、こっちは暗殺一家なんだからね」
141:創る名無しに見る名無し
19/11/23 05:00:26.71 9Aik73B7.net
「そういえば、ぼくのおばあちゃんって誰?」
ユージンはメイファンに聞いた。
「知るかボケ」と的確な答えが返って来た。
母のララは捨て子、父のハオは勘当息子。ユージンはルーツの失われた自分を、まぁ、どーでもいっか、と思った。
142:創る名無しに見る名無し
19/11/23 05:07:25.94 9Aik73B7.net
チェンナをランが抱っこし、椿と並んで歩き、四人は二つの身体で歩いて海まで向かった。
徒歩で10分もかからない距離を、二人はわざとのようにゆっくりと歩いた。
晩春の風が下から吹き上がって来る。
椿は風に乱される髪を押さえながら「生きてるね」と言った。
ランは頷きながら「壮絶にな」と返した。
143:創る名無しに見る名無し
19/11/23 05:08:44.76 9Aik73B7.net
「お前に抱っこされるのも悪くないな」
メイファンは少し眠そうな、しかし機嫌のいい声でランに言った。
144:創る名無しに見る名無し
19/11/23 05:19:50.01 9Aik73B7.net
10分ほどで海へは着いた。崖の上を海と呼ぶならば、だが。
ここから泳ぎに海へ入るためには、30mほどの杣道を下ればある狭い砂浜まで行くか、あるいはここから飛び込むかである。
兄弟達は小さい頃からここから飛んでいた。もちろん母親のララは知らない。
しかし今日は少し寒すぎた。椿が自分の身体を抱いて震えている。
ランは寒くなかった、透明の『気』の鎧を着ているので。
チェンナも寒くなかった。メイファンが何も言わず黒い『気』の鎧を着せて、危険からも寒さからも四歳の小さなチェンナを守っていた。
145:創る名無しに見る名無し
19/11/23 05:25:45.44 9Aik73B7.net
何も言わないが寒そうにしている椿の後ろからランは近づいた。
「寒いか?」
「さっむい……」椿は振り返らずに身体を寒そうに動かしながら答えた。
「じゃあ……」
「うん、ラン兄ィ……」
ランが後ろから腕を伸ばしはじめ、抱き締めてやろうとした時、椿が言った。
「ユゥ兄ィ返して?」
ランの腕がぴたりと止まった。
146:創る名無しに見る名無し
19/11/23 05:35:26.41 9Aik73B7.net
ユージンが身体の中に入れば、椿も金色の『気』の鎧に守られ、寒くなくなる。
「そっか、それがいいな」ランは少し残念そうに言った。
「なんだと思ったの?」不思議そうに椿が振り返る。
問答無用にランは後ろから椿を抱き締めた。
「これでも寒くはないだろ?」
あっ、と驚いたような声をひとつ漏らしてから、椿は笑った。
「本当だ」
「でもこれじゃ泳げないから、後でユージン返す」
「……うん」
「その前に、少し話をしよう」
「うん!」
「楽しい話じゃなくて悪い。お前、学校行かないの、なんで?」
「あ……」椿は微かに逃げるような動作をした。
147:創る名無しに見る名無し
19/11/23 05:48:32.27 9Aik73B7.net
ユージンがランの口を借りて喋った。
「椿、もしかしてぼくが出たら学校行きたくなっちゃってない? 学校行きたくないのは、実は勉強嫌いなぼくの……」
「ユゥ兄ィ、うざい」椿は遮った。「学校行きたくないのは、純粋にあたしの意思だから」
「なんで?」ランが聞いた。「いじめ?」
椿は首を横に振った。
「楽しくないの?」
椿はさっきよりは弱いが、また首を横に振った。
ランは椿を捕まえたまま、優しい声で言った。
「椿が答えたくなかったら答えなくていい。でもオレ、心配なんだ。理由を教えてくれ」
すると椿は、弱々しい声で間を置いて答えた。
「あたし、何も出来ないからだよ」
「そんなことは……」
「何も出来ないの」
「いや、椿……」
「何も出来ないの、ラン兄ィがいないと」
148:創る名無しに見る名無し
19/11/23 06:12:15 9Aik73B7.net
「え」ランは意外だったのか声を詰まらせた。「オレのせい?」
椿はゆっくり大きく頷いた。
「ん。そっか」ランは優しく言った。「じゃ、オレが帰って来たからもう学校行けるな?」
「行かない」
「どうして?」
「……すぐまた日本に行っちゃうでしょ」
「当たり前だ!」ユージンが口を挟んだ。「ラン兄ィは日本でトップの格闘家になって、これから世界に挑戦……」
「うるさい」椿が低い声で言った。
「椿」ランが抱き締めている腕に力を込めた。「オレと一緒に日本、行こ」
「えっ」
「椿を連れて行きたい」
「中国人の転入生はいじめられるぞ!」ユージンがまた口を挟む。「日本語も喋れないし、不安がいっぱい!」
椿はユージンを無視してランに言葉を返そうとして、しかし黙っていた。
「こっちに好きな奴でもいるの?」とランが聞く。
「好きな……ひと?」
「うん」
「……いるよ」
「なんて奴?」
椿はランの腕を振りほどくと、後ろを向いたまま言った。
「ミーミー(秘密)!」
そしてそのまま崖のほうへ走り出し、飛び込みの姿勢に入った。
「バカ!」
ランは急いでその腕を掴んで引き止める。
『気』の鎧を着ずに春の冷たい海へ飛び込んでいたら、心臓が止まってもおかしくはなかった。
149:創る名無しに見る名無し
19/11/23 06:32:17 9Aik73B7.net
「あ……あたし……!」崖っぷちで振り返った椿は動転していた。「ユゥ兄ィが……もう、入ってると……勘違い……」
「まったく」ランは厳しい口調で叱った。「お前が死んだらオレも死ぬぞ!」
その言葉に椿は少し落ち着き、嬉しそうに微笑んだ。
「さ、口を開けて」
崖の上を温い春風が吹き抜けた。ランに言われるまま、椿が口を開く。
ランは椿の肩を両手で優しく掴むと、そこへ大きく開けた口を近づけて行く。
なんで唇、触れないかなぁ、とユージンは思う。
椿の小さな口から温かい吐息が入り込んで来るほとの距離なのに、唇どうしは決して触れ合わない。
自分がこのままここから出て行かなかったらどうなるんだろうなぁ。
単に何もなく、不思議そうに一旦離れちゃうんだろうなぁ、とユージンは思いながら、ランの胸から這い出すと、椿の口へ向けて飛び出した。
飛び出す時、ランがタイミングよく舌をカタパルトのように使ったので、勢いがつきすぎて、椿の喉に突き刺さるように入った。
150:創る名無しに見る名無し
19/11/23 11:07:23.56 He2rAYn8.net
,.-‐ """''''''- 、
/ \
/ ノりノレりノレノ\ i
i ノ ノ' 'ヽ ミ |
ノ | -="- , (-=" . | |
イ | "" ).●●)(""| |
ノ ! ノ u 丶. ! | あ~ん!最近男の人にすごく見られるの
彡 ! ノ^_^) ! ミ 髪型変えたからチェックされてるのかしら♪
ノ ノノノヽ ` --' /ノヽ ヽ
ー 'ヽヽヽ ソ⌒ ヽ r ⌒ '`ノー''`、
`- 、_ ノヽ _,/ ヽ
ヽ 人 / |、 ,ヽ |
,ノ _,ニ/  ̄/ .|  ̄ \ニ |
/ / / | ヽ
151:創る名無しに見る名無し
19/11/23 12:43:39 yT9OjuLa.net
ケホケホと咳き込んだ後、椿の口からユージンの声が言った。
「あっ、ラン兄ィ! 今夜、ヒコーキ……」
「ああ……」ランは約束を思い出した。「そん時、またこっち来い」
「飛行機がどうしたの?」椿が首を傾げる。
「ん。その……飛行機飛ばすゲームな。ユゥと昨日やってて……」
「あたしもやりたい」
「いや。それは……ムリ」
「なんで? あたしアクションゲーム好きだよ。やりたい」
「その……男しかやっちゃダメなやつ」
「何それ。飛飛機(飛行機を飛ばす)んでしょ?」
「いや。打飛機(オナニー)」とユージンが呟いた。
「飛行機を……やる……? って、あ!」
「さ! 泳ぐぞー!」
そう叫ぶように言うと、ランは上着を投げ捨て、飛行機が滑走路へ突っ込むように崖の上から飛んだ。
152:創る名無しに見る名無し
19/11/23 12:46:15 yT9OjuLa.net
椿は続いて飛び込まなかった。崖の上に体育座りをして、ランが泳ぐのを眺めた。その身体が寒くないよう、ユージンが金色の鎧を着せて守っている。
空にはさっきからメイファンにムササビに変えられたチェンナが、ドローンのようにくるくると飛び回っている。
ユージンが椿の口を動かした。
「椿もズーチー・モー・ズーチー(女性のオナニーのこと)ぐらい覚えてよ」
ランとの初体験に触発され、女の身体の快感のことにも興味津々になっていた。
椿が何も答えないので、ユージンは聞いた。
「ぼく、うざい?」
「うざい」椿は即答した。
「出て行こうか?」
「うざいけど、いないとなんかおかしかった」
「え?」
「ユゥ兄ィがいてくれないと、自分が半分なくなったっていうか」
誉められたわけでもないのにユージンは嬉しくなった。
「ぼくは椿の一部だもんね」
「うん。ユゥ兄ィ、必要」
「二人揃ってユゥチュン(愚蠢=まぬけ)だもんね」
「うるさい」
「椿、さっき体操着着たまま海に飛び込もうとしたよね」
「もう、本当うるさい」
「出て行こうか?」
「やだ」
153:創る名無しに見る名無し
19/11/23 13:02:25 yT9OjuLa.net
「椿、ラン兄ィと結婚する?」唐突にユージンが聞いた。
「は?」
「日本に一緒について行って」
椿は黙り込んだ。
「ラン兄ィのこと好きでしょ? 一人の男として」
「……」
「ぼく、お前らが結婚してくれたら嬉しいなぁ」
「ユゥ兄ィのほうでしょ」
「ん?」
「ラン兄ィのこと好きなのは」
「ぼく、男だけど?」
「身体がないのにどこで男だってわかるの?」
「チンコはないけど、男だもん」
「チンコないのに、どこが男なの?」
「男だもん!」
「パパとママがそう決めたから?」
「男だもん!」
「女の子より男が好きなのに?」
ユージンは言葉に詰まった。
154:創る名無しに見る名無し
19/11/23 13:21:35.83 yT9OjuLa.net
波が少し高かった。
ランは泳ぎながら、荒れはじめそうだなと気づいていた。
崖の上に目をやると、上空をブンブン飛ぶチェンナらしき黒い点が目に入った。
椿はしゃがみ込んでユージンと話をしているようだ。
椿が飛び込んで来そうにないので引き返そうとした時、目の端に何か赤いものが映った。
見ると、魚漁の仕掛け網に赤いイルカがひっかかり、ぐったりしている。
「まぬけだなぁ、お前」
ランはそう呟くと、なぜか椿を見るような気持ちがしてクスッと笑った。
「待ってろよ」
155:創る名無しに見る名無し
19/11/23 13:24:49.64 yT9OjuLa.net
近づくと赤いイルカは怯えた目をして逃げようとした。動くと絡んでいる網がさらに締まり、イルカは苦痛に顔をしかめる。
「じっとしてろ」
ランは絡まった網をほどこうとする。しかし固くイルカの身体に食い込んでしまっている。
「あ、そうだ」
ランはサザエがいたら採って帰ろうと水着にナイフを仕込んでいた。鞘からそれを抜き出し、網を切りにかかる。
「叱られるかな……構うもんか」
しかし網は予想外に固く、ナイフでもびくともしない。
「お前が抜けられないわけだな」
そう話しかける相手のイルカは、さっきからランのすることを驚いたような顔で大人しく見守っていた。
ランはナイフに透明の『気』を込めた。
「これでも切れなかったらメイファンちゃんを呼ぶよ」
そう言いながらナイフを引くと、今度は網は紙のように簡単に切れた。
156:創る名無しに見る名無し
19/11/23 13:32:33.67 yT9OjuLa.net
「さ、行けよ」
赤いイルカは自由になると、ランから慌てて逃げるように泳ぎ出した。
「もうまぬけな捕まり方するんじゃないぞ」
ランはその赤い影を優しく笑いながら見送った。
ふと気がつくと、崖の上から椿とユージンが何か叫んでいる。
沖のほうを見ると、大きな渦潮がこちらめがけて近づいて来ていた。
すぐにランは急いで泳ぎはじめる。
七歳の時からこの海で泳いで来た。
荒れそうだと思った後には大抵、渦潮がやって来ることなどよく知っていたはずだった。
157:創る名無しに見る名無し
19/11/23 16:27:02.80 yT9OjuLa.net
「ラン兄ィ!」椿は声を限りに叫んだ。
「ラン兄ィ! 急げ!」ユージンもその後に続いて叫ぶ。「バカ! さっきから何べんも知らせてんのに!」
ユージンと椿の眼下でランは速いクロールでこちらへ戻って来ていた。しかし沖まで出過ぎていた。
渦潮の速度は明らかだった。ランよりも速かった。
まるで竜巻のように、それはランを飲み込むと、海中へひきずり込んだ。
158:創る名無しに見る名無し
19/11/23 16:33:12.11 yT9OjuLa.net
事態に気づいてメイファンも空から降りて来た。
その目の前で、椿が崖から身を乗り出し、震える声で呟いた。
「ユゥ兄ィ……」そして崖を蹴った。「守って」
「おい!」とメイファンが止める間もなくユージンとともに椿は海へ飛び込んだ。
ユージンは何も言わなかった。ただ椿と気持ちは同じだった。
崖を蹴って飛んだのが椿なのか自分なのかわからないほどだった。
「任せろ、椿」ただ心の中で呟いた。「ピンチになったらきっとぼくの力が目覚めるから」
159:創る名無しに見る名無し
19/11/23 16:47:08.89 yT9OjuLa.net
メイファンはチェンナの小さな身体でとぼとぼと崖の端まで歩き、下を見た。
椿の身体が速い流れに振り回され、渦潮の中心へ引きずり込まれ、すぐに海中に見えなくなった。
「あ~あ」メイファンが呟く。「ま、チェンナさえ無事ならいいか」
チェンナはあまりのことに声を失っている。
「私まで飛び込んで、チェンナにもしものことがあったら大変だ。帰ろ、帰ろ」
渦潮は眼前で岩礁に突き当たり、方向を変えると東のほうへ去って行く。
「あ」チェンナがようやく声を出した。「あかーい」
「あ?」メイファンもそれに気づく。
暗い色を浮かべていた海が、どんどんと赤くなって来る。
血の色のようではなく、子供の好きそうなポップな赤が、すぐに海面を埋め尽くすと、凄まじい飛沫を上げてそれは海の中から飛び上がった。
景色を覆い隠すほどに巨大な赤いイルカのようなものが全身を現し、天地を揺るがす哀しげな声を放った。
160:創る名無しに見る名無し
19/11/23 16:59:20.38 yT9OjuLa.net
「どああああ!?」
「あかーい! あかーーーい!!」
目を最大に見開き、最大音量で叫ぶ二人の声も巨大イルカの声にかき消された。
「と……飛んでやがる」
その巨体が明らかに浮遊していた。約10秒、それは何かを訴えるようにメイファンをまっすぐに見つめる。
そして身を翻すと、天に轟く波音を立てて海中へ帰って行った。
161:創る名無しに見る名無し
19/11/23 17:08:32.46 yT9OjuLa.net
しばらくメイファンは声を失い、立ち尽くしていた。
「あかーい、あかかったー」チェンナが震える声で繰り返す。
「3人死のうが4人死のうが一緒か」メイファンが楽しそうに笑う。「チェンナ、行くぞ」
「うん、いく!」
「海の底にあるのは竜宮城か、はたまた海獣の巣か」
メイファンはチェンナの足で崖を蹴り、飛んだ。
「知らんが面白そうなことだけは確かだな」
チェンナの身体は黒い小さな潜水艦に変わり、海の中へと突入した。
162:創る名無しに見る名無し
19/11/23 17:24:10.87 yT9OjuLa.net
【主な登場人物まとめ】
・ユージン(李 玉金)……15歳。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。
普段は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体の支配権を交代することが出来る。
明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
・椿(リー・チュン)……14歳の中学生。登校拒否でずっと家にいる。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけている。
帰りを心待ちにしていた義兄ランが日本から帰って来、うかれ中。
・ラン(鄧 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。
リウ・パイロンとメイファンが殺した鄧 美鈴の子。四歳の時にハオが引き取った。
・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ララの妹。ユージン達の叔母。
ひとつの身体に姉のララと一緒に住んでいる。元凄腕の殺し屋。ユージンを調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる。
ランの母親を15年前に殺した。現在、ララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
・チェンナ(劉 千【口那】)……メイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
・ハオ(李 青豪)……67歳。ユージン達の父。元散打王。
自由な性格で椿の登校拒否を容認している。大怪我をしてもすぐに治る特異体質。
基本的にダメ人間だが愛する者のためには超人的な力を発揮し、四人の子を育てた。長女メイを特別溺愛している。
・ララ(ラン・ラーラァ)……58歳だが見た目は35歳。ユージン達の母。
息子のユージンと同じく身体を持たない『気』だけの存在。妹のメイファンと身体を共有している。凄腕の医者でもある。
椿の登校拒否に頭を悩ませている。
・メイ(リー・メイメイ)……前スレ主人公。33歳。李家長女。結婚して北京に住んでいる。
医師であり太極拳チャンピオン。講演会に父と出席するため帰って来た。旦那はリウ・パイロンの息子ヘイロン。
163:創る名無しに見る名無し
19/11/23 18:44:39.35 lgah3XGl.net
おっぱいモミモミ
164:創る名無しに見る名無し
19/11/24 01:30:38.47 CvmttKVq.net
椿は目を開けた。
見慣れた自分のベッドの上だった。
窓からは緑色の陽射しが差し込んでいる。
扉を開けて入って来た母が、いつも通りの優しい微笑みを浮かべ、言った。
「お帰り、椿。人間の世界はどうだった?」
そしてベッドの脇のテーブルに果実を乗せた皿を置く。
果実は青や紫や緑の色をぷるぷると震えた。
「聞いていた通りだった」椿はそう言うと、目をこすった。「汚くて、恐ろしくて、そして哀しい世界……」
「これであなたも大人の仲間入りね」母は嬉しそうに言う。「明日には成人式を開いてくださるそうよ」
「でも……」椿は自分の話を続けた。「罠にかかった私を助けてくれた、優しい人間にも出会ったわ」
「そんな人間もいるだろうね」母は落ち着いた声で言った。「その人間はお前を助けてからどうしたんだい?」
「死んだわ。渦潮に飲まれて」椿は赤いおかっぱの髪に手を埋めて、俯いた。「海底で看取ったの」
165:創る名無しに見る名無し
19/11/24 01:53:37.28 CvmttKVq.net
「そうかい。それは残念なことをしたね」母は少しだけ悲しそうな顔をした。「でもそれが自然の掟だよ」
「わたし……あの人間を助けたい」
「椿?」
「あの人の笑顔、優しかったもの」
「気持ちはわかるが、無理を言うんじゃないよ」
「生き返らせる方法は、ないの? だってわたし達は人間の生をも司る……」
「椿!」母は厳しい声で叱った。「自然の流れに逆らってはいけない。そんなことをしては必ず世界に歪みが生じるよ」
椿はわかったという風に素直に頷いた。
「さ、悲しいことは忘れて、今日はゆっくりしなさい。あなたはハナカイドウを任される神になるのよ」
そう言うと母は部屋を出て行った。
「神じゃない。わたし達は……」椿は一人、呟いた。「でも……あるんだ。自然の流れに逆らう、方法が……」
166:創る名無しに見る名無し
19/11/24 02:09:04.76 CvmttKVq.net
椿は外へ出た。
長い回廊を降りると、いつもの町だった。
火水木土金を司る仙人や神の使者達が平和に生活している。
豚の顔をした仙人が話しかけて来た。
「おぉ、椿。成人おめでとう」
「まだよ。明日なの」
「人間界への儀式は済ませたんだろう?」
「えぇ。無事に」
そこへ少し離れたところから鹿の角を生やしたおばさんが話しかけて来た。
「あ! ちょっとちょっと椿ちゃん! おじいさんにこれを持って行ってくれないかい?」
「ちょうどよかったわ」椿はにっこりと笑った。「おじいちゃんの家に行く所だったの」
167:創る名無しに見る名無し
19/11/24 02:23:37.92 CvmttKVq.net
高いクスノキを登って行くと、天辺に近い枝の上に小屋があった。
「椿か」
まだそこへ辿り着かないうちに空から威厳ある老人の声がした。
「うん、おじいちゃん」
「待ってろ。迎えをやる」
上のほうからシュルシュルと音を立てて白い蔦が降りて来る。椿はそれに掴まると、エレベーターに乗ったように上へ昇った。
部屋に入ると、背の高い白い髭に包まれた老人が椿を見て優しく微笑んだ。
「どうした。困ったことが起きたのか。お前はいつも困ったことがあると私の所へ来る」
部屋の床中に木の根のように張り巡らされた祖父の髭を踏まないように、気をつけながら椿は歩いた。
「うん、おじいちゃん。助けてほしいの」
「お前をか? 椿。見たところどこも悪そうではないが」
「おじいちゃんの医術で死んだ人間を生き返らせることは出来る?」
168:創る名無しに見る名無し
19/11/24 10:04:01.88 CvmttKVq.net
「死んだ者を生き返らせることは不可能だな」と、老人は言った。「それは自然の中にないことだ」
「そうだよね」椿は項垂れた。
「だが」と、老人は続けた。「我々の国には死者の魂を司る者もいる」
「魂?」
「その者に頼めば、あるいは」
「魂って、何?」
「人間の国で死んだ者は皆、魚に姿を変えてこの世界にいるのだ」
「魚?」
「魂には形がない。ゆえに魚の形を借りてこの世に送られて来る」
「じゃあ、あの人の魂には会えるのね?」
「ああ」
「どこへ行けば会えるの?」
「会ってどうするつもりだね?」
「わからない」椿はまた俯いた。「でも、助けられるものなら、助けたい。あの人は、死んではいけない人なの」
「それはお前が勝手に決めたことだ」
椿はさらに俯き、床を這っている老人の白髭に目を落とした。
「……と、皆は言うだろう」
はっとして椿は顔を上げる。老人は白い髭の奥で微笑んでいた。
「お前が正しいと思うことなら、しなさい。それを皆がおかしいと思うのなら、皆のほうが間違っているのだ」
椿は老人を真剣な眼差しで見つめ、ありがとうと言った。
「霊婆(リンポー)を訪ねなさい」老人は地図を渡した。「船に乗り、『気』の海を渡るのだ」
169:創る名無しに見る名無し
19/11/24 10:19:57.69 CvmttKVq.net
深夜、椿は音を殺して家を出ると、急いで回廊を下り、石畳の道を駆け出した。
自分は自然の掟を破ろうとしている。誰かに見つかれば、総出で止められるに決まっている。
高い窓際に腰掛け、鉢植えの紅葉の葉を紅くする練習をしていた少年がそれを見ていた。
「おい、椿」少年が大声を投げる。「こんな夜中にどこ行くんだ?」
椿は立ち止まり、頭上の少年を睨んだまま暫く立ち止まっていた。
しかし何も言わずに前を向くと、そのまままた駆け出して行った。
170:創る名無しに見る名無し
19/11/24 10:29:35.12 CvmttKVq.net
祖父に貰った地図の通り、森を抜け、丘を越えると港があった。
ぼんやりと大きな行灯の白い光が見えて来る。
さまざまな色の靄のような『気』の海の上に一艘の小舟が止まっており、気味の悪い船頭が待っていた。
椿が舟に乗ると、船頭は何も言わずに舟を漕ぎ出す。
『気』の海から神獣が長い身体を現し、虹をかけるように舟の上を通って行った。
やがて舟は岸に着いた。
椿はたどたどしくジャンプして岸へ渡る。
靄が深くかかり、霊の匂いがする。
歩き出すとすぐに見えはじめた大きな寺の中へ椿は入って行った。
171:創る名無しに見る名無し
19/11/24 10:48:26.53 CvmttKVq.net
「珍しいな、客人とは」
椿の姿を見る前から低く粘っこい声が響いて来た。
「霊婆?」
椿は急ぎ足でその広い部屋に入った。
部屋の中では四人が卓に腰掛け、麻雀をしていた。
大きな身体に大きな顔、一つ目の描かれた布で目を隠した性別不明の老人が四人。そのうち背中を向けていた一人が振り向いた。
「ちょうど百年暇していたとこだよ」
「あなたが霊婆?」
「そうだ」
「会いたい人間の魂がいるの」
「魂なんて一杯ありすぎて、どれがどれだかわからないよ?」
「今日、ここへ来たばかりなの」
「今日死んだ人間だって、相当ある」
「見れば……会えば、わかるわ! ……きっと」
「フン」霊婆は馬鹿にするように笑うと、立ち上がった。「ならば案内しようね」
霊婆が立ち上がると、麻雀卓に座っていた他の3人の霊婆が煙を吹いた。そしてネコの姿に戻ると、威嚇する声を上げて散って行った。
172:創る名無しに見る名無し
19/11/24 11:03:01 CvmttKVq.net
部屋の天井はとても広いのに足の踏み場は狭かった。
部屋の四隅を何重にも並べられた棚が塞ぎ、そこに夥しいほどの小さなガラス容器が並んでいた。
それぞれに水が張られ、その中には小さな赤い魚が泳いでいる。
どれもこれもがまったく同じ形をした赤い魚だった。
「今日、来たのは……」霊婆はのしのしと歩き、案内した。「ここからあそこまでの8,392匹だね」
椿はその数字に一瞬びっくりしたが、気を取り直して霊婆に聞く。
「今日のお昼、それより後に来た魂は、わかる?」
「大体あのへんからではないかなぁ」
「人間は死んだらすぐにここへ来るの?」
「知らんの。多少の時間差はあるじゃろが……」
椿は霊婆が「あのへん」と言った辺りから探し出す。
どれもこれもまったく同じ赤い魚だった。
173:創る名無しに見る名無し
19/11/24 11:24:21.16 CvmttKVq.net
291匹目の魚の前で目が止まった。
その赤い魚は優しい目をして笑っていた。
頭に柔らかい癖毛のような盛り上がりがあった。
何よりその魚を見た時、頭の中で知らない少女の叫び声が聞こえたのだった。
『ラン兄ィ!』
「この子」
椿はそのガラス容器を指差した。
「見つけたのかい?」
暇をもて余していた霊婆は嬉しそうに後ろから近づいて来た。
「わたし、この子……貰ってもいい?」
「育つよ?」霊婆は言った。「ここにいればずっとこのままだ。でも、ここから出せば育ちはじめる」
「人間に戻してあげたいの」椿は正直に相談した。「出来る?」
「そうだね」霊婆は答えた。「大きく育てれば……自然の摂理にないほどまで大きく育てれば、転生する」
「本当に!?」
「ああ」霊婆は楽しそうに言った。「その代わり……」
「その代わり?」
「ああ、いや。やめとこう。それは持って行くがいい。ただ、その代わり、お代は頂くよ?」
「何を出せばいい?」
「お前の寿命を半分貰おうか。持って行くかい?」
「いいわ」椿は即答した。
「そうかい」霊婆はヒヒヒと笑うと、椿の頭に長い爪を当て、魂を半分引き抜いた。
174:創る名無しに見る名無し
19/11/24 11:34:52.43 CvmttKVq.net
椿はガラス容器に布で蓋をし、大切に抱えて同じ道を戻った。
深夜の誰もが寝静まった道を静かに駆けて行くその姿を、高い窓から少年が見ていた。
誰にも見られないように部屋に戻ると、枕元に容器を置いた。
その中で赤い魚は、少し怖がっているような、驚いているような顔をしている。
「あなたに名前をつけよう」椿は笑顔で魚と向き合いながら、言った。「他の赤い魚と区別するためよ」
本当はぴったりの名前を考えてあった。「鯤(クン)」と呼びたかった。しかし頭の中で見知らぬ少女の声が叫んだ名前が引っ掛かっていた。
「ラン」椿は嬉しそうに笑った。「あなたの名前、ランにしよう」
175:創る名無しに見る名無し
19/11/24 13:56:12 D6Bdufpm.net
1月に稽留流産しました。 今回再び妊娠したんですが、どうもネットで調べた数値より胎芽が
小さい気がします。 4w5dでGS=1.9mm、5w3dでGS=7.3mmだったんですが、 6w5dで初めて胎芽が
確認できて、CRL=3.1mmでした。流産した前回に似た数値です。 両家にとっても初孫になりますし、
一度流産を経験しているので少々不安になりすぎているのかもしれません。もしよければ皆さんの
妊娠週数とCRL、或いはGS分かりましたら教えてください。 よろしくお願いいたします。
176:創る名無しに見る名無し
19/11/25 01:38:12.30 4Qnxnpvs.net
椿は目を開けた。
どこかわからない暗い森の中だった。
柔らかい腐葉土の上に仰向けに倒れていた。
不安にさせる獣の声などは今のところ聞こえては来ない。
「ユゥ兄ィ?」
自分の中に声をかけるが、返事はなかった。
気を失っているだけなら気配でわかる。しかしユージンの僅かな体重すら感じない。
「ユゥ兄ィ!?」
何度呼びかけても返事はない。存在を感じない。
ユージンは約束通り、椿を守って、しかし死んでしまったのかもしれない。
あるいはショックで口から飛び出しただけかもしれないが、それでも身体がなくなれば数分で窒息してしまう。
二人の兄を同時に失い、黒いおかっぱの髪に手を埋めて、椿は嗚咽した。
しかしすぐに顔を上げると、立ち上がる。
「探さなきゃ」
暗い森の中を、二人の兄の名を呼びながら、椿は歩き出した。
「ユゥ兄ィ!」
その声が木に跳ね返り、森の中に響いた。
「ラン兄ィ!」
177:創る名無しに見る名無し
19/11/25 04:10:59.60 tLXlYzEe.net
そこに長倉ヒロアキが現れた!
178:創る名無しに見る名無し
19/11/25 09:12:09 7K+4DgR9.net
「待て」誰かがヒロアキを呼び止めた。
振り返ると水龍の頭をした青い仙人が立っている。
水龍「お前、人間だな? なぜここにいる?」
ヒロアキ「え~? エヘヘ……」
水龍「どうやってここへ来たのだ?」
ヒロアキ「あの~……死んだら転生しちゃってぇ……それで」
水龍「人間がこんな所にいてはならない。お前は自然の摂理を侵している」
ヒロアキ「そうなんですか~? ハハハ……」
水龍「人間の世界へ返すしかないな。一度殺して、お前を魚にする」
ヒロアキ「え? 殺……」
水龍は問答無用でヒロアキを噛み殺した。一噛みでヒロアキは粉々になる。
粉々になったヒロアキに手をかざし、『気』を集めると、水龍の手の中に赤い魚が生まれた。
水龍「さぁ人間の世界へ帰るがよい。ただしお前はもう、死ぬまで魚のままだ」
ヒロアキだった赤い魚は知性をなくした目をして空中を泳ぎ、天からの風に吸い込まれるように人間界へ帰って行った。
「む」水龍は感覚を澄ます。「他にも人間が紛れ込んでいる気配がする」
179:創る名無しに見る名無し
19/11/25 19:44:53.54 tm9Efm7t.net
椿は森の中をあてもなくさ迷い歩いた。
足の裏を細かいトゲのような葉が容赦なく傷つけた。
やがて目の前が開けると、大きなクスノキが見えた。
椿はそこまで歩き、声を出す気力もなくクスノキの幹に凭れかかる。すると天から優しい声が聞こえて来た。
「そなた、どうした? 傷だらけではないか」
椿は声の聞こえたほうを仰ぐと、不思議がることもなく答えた。
「お兄ちゃん達がいなくなったの」
「不憫な」老人らしきその声は、情け深い色を湛えて言った。「喉が乾いたろう。薬も塗ってあげよう。上がっておいで」
上のほうから白い蔓がシュルシュルと音を立てて降りて来た。
180:創る名無しに見る名無し
19/11/25 19:47:20.12 tm9Efm7t.net
椿が蔓に掴まると、蔓は身体に優しく巻きつき、まるでエレベーターに乗るように上へと運んでくれた。
怖がる余力も、驚く余力もなく、椿は運ばれるがままにクスノキの天辺へと上がって行った。
181:創る名無しに見る名無し
19/11/25 20:05:45.12 tm9Efm7t.net
天辺に近い枝の上に木の小屋があり、椿は扉の前に椿を立たせると、扉の下へと消えた。
椿は扉をノックする。
すると中からさっきより近くで老人の声がした。
「構わんよ。遠慮なく、お入り」
扉を開けるとまるで昔映画で見た清代の診療所だった。
分厚く古めかしい医学書が本棚に重々しく並び、卓の上には豪華な陶磁器が置かれ、円形の窓には近世風の装飾が施されている。
しかし整然と片付いたそれらに反して、床はまるで森の地面のように土や葉っぱが散らかり放題だった。
その部屋の中心にまるで根を張るように、白い髭で顔の覆われた、背の高い老人がいた。
「なんと……お前は」老人は椿を見ると、穏やかな口調で言った。「人間なのか」
「おじいさんは……」椿は疲れ果てた声で言った。「神様?」
182:創る名無しに見る名無し
19/11/25 20:24:45.73 tm9Efm7t.net
老人は可笑しそうに細い身体を揺らして笑うと、言った。
「まぁ、こっちへ来なさい」
椿はフラフラと歩き出す。すぐに地面に張り巡らされた白い根のようなものに躓いて前にすっ転んでしまった。
「あぁ」老人が済まなさそうに言う。「気をつけなさい。儂(わし)の白髭が部屋中に根を張っている」
椿は顔を擦りむいた。しかし既に傷だらけの顔に傷が増えただけである。
老人はギリギリと軋むような音を立てて歩いて来ると、椿の手を取り、床に座らせた。
「森の中を何時間も歩いたな? あそこは生身を切り刻む茨が一杯だ。どれ、足の裏を見せてみなさい」
椿は座ったまま、老人の顔に向けないよう気をつけながら足の裏を見せる。
「おお……」
老人は何も言わず、絹の衣服の懐から薬を取り出すと、椿の足裏に塗った。
「あ」椿は思わず声を出した。「痛みが……引いて行くわ」
椿には何の香りかわからなかったが、部屋にはショウノウの香りが立ち込めていた。
薬臭く、決していい香りとは言えなかったが、椿はその香りに心まで癒される気持ちだった。
「そなた、兄を探していると言ったな?」老人は聞いた。「兄者達も人間なのか?」
「うん」椿は無表情に答えた。「もちろんでしょ」
「そうか」
老人はそれ以上何も言わなかったが、その顔には哀れみの色が浮かんでいた。
183:創る名無しに見る名無し
19/11/25 20:47:18 Rh29iyIk.net
「さぁ、これを飲みなさい」
そう言って老人は温かい湯気を立てる湯呑みを差し出した。
椿は何も言わず、何も疑わずにそれを受け取った。
「それを飲むと心が落ち着く。傷も癒える」
椿は躊躇うことなくその液体を飲んだ。
「忘れてしまったほうがよいことも忘れてしまえる」
「美味しい」椿は少し微笑んだ。「喉乾いてたから、何でも美味しい」
「お前の名を聞いておこう」
「椿(チュン)よ」
「椿か、いい名だ」老人は頷いた。「春を司るにはふさわしい」
184:創る名無しに見る名無し
19/11/25 20:50:47 Rh29iyIk.net
「おじいさんの名前は?」今度は椿が質問した。
「儂に名はない」老人は答えた。「強いて言うならばクスノキだ」
「仙人なの?」
「儂らを呼び現す言葉はない」老人は言った。「ここには様々な者が住む。それだけだよ」
「人間ではないのね?」
「いや、儂らも一応は人間だ」
「白いお髭が床に根を張る人間なんていないわ」
「人間に深く関わっている」老人は言葉を選び、説明しようとしたが、諦めたように言った。「人間と神の間にあるもの、と言っておこう」
「ここに人間がいるのはおかしなことなのね?」
椿がそう言うと、老人は明らかに動揺し、白い髭を忙しなく撫ではじめた。そして、言った。
「自然なことではない」
「そうなんだ」椿は少し首を傾げて言った。
「しかし、そなたからは」老人はまるで今思い付いたようなことを言い出した。「ハナカイドウの匂いがする」
「ハナカイドウって……」椿は現代の言葉に置き換えた。「ベゴニアね」
「桃色に近い赤色の、春に可憐な花を咲かせるハナカイドウの匂いがする」老人は繰り返した。「そなたは人間だが、儂らに近いのかも知れぬ」
老人が言い終えた時、椿は眠っていた。
「薬が効いたようだな」
185:創る名無しに見る名無し
19/11/25 21:03:52.73 Rh29iyIk.net
「そなたの兄らは間違いなく生きてはおらん」老人は言った。「ここへ来てしまった人間は命を取られ、魚に転生させられ、人間界へ戻される」
座ったまま眠る椿の黒い髪に老人は細い指で触れ、そこに『気』を込めた。
「そなたの記憶を消す。もう二度と記憶が戻ることはない。人間だった頃のことはすべて忘れておしまい」
眠る椿の目から一筋涙が零れ落ちた。
「そなたを儂ら海底に住むものの仲間として迎え入れよう。儂の娘に養女とするよう申しつける」
老人の指から注がれる『気』の流れが途絶えると、椿の髪はハナカイドウの花のように赤くなっていた。
186:創る名無しに見る名無し
19/11/26 07:36:02.62 mUXHwZQJ.net
メイファンは潜水艦チェンナ號に乗って渦潮に呑まれた3人を探していた、というより面白そうな赤い大魚を追っていた。
「どこ行ったんだ、アイツら」
「ブーン、ブーン」チェンナが潜水艦らしさを擬音で演出する。
「小癪なランの『気』はともかく、ユージンのピッカピカで目立ちまくりの『気』さえ感じんとは……」
「ブゥーン、ブーン」
「どうでもいいがチェンナ、潜水艦はそんな音はしない」
もうかなり潜っていた。自分の住んでいる海の底がこんなに深いとは知らなかった。
暗い海底の砂の中から、まるでワープして来たように一匹の赤い魚が現れた。
「ム?」メイファンはヒロアキの出現を見逃さなかった。「あの魚、どこから出て来た?」
187:創る名無しに見る名無し
19/11/26 11:53:29.56 mUXHwZQJ.net
ユージンは目を開けた。
見知らぬ森の中だった。
「ここはどこ?」
目覚めるなり心細くなり、ユージンは弱々しい声で呟いた。
「ぼくは誰?」
「いきなり人の口から入って来といてそれかよ」
同じ口で誰かが喋った。乱暴そうな男の声だ。
「だだだだどなた?」
「お前こそ誰だ」と男の声は言った。
「ぼぼ、ぼくは……」
「名前は?」
「ユージン」
「どっから来た?」
「あ……」
「なんだよ」
「覚えてない……」
「なんだそりゃ」
「ぼくは誰?」
「さっき名前言ったじゃねーか」
「名前しか覚えてない」
「そんなのアリかよ」
声の主は豪快に笑った。
188:創る名無しに見る名無し
19/11/26 12:06:57.15 mUXHwZQJ.net
「あなたはだ……どなた?」
「俺か? 俺はズーロー。火を司るズーロン様の弟子だ」
「ズーロー……」
「ユージンだったか? お前、変わってんな。空気でも司ってんのか?」
「空気?」
「形のない生き物なんて初めて見たぜ」
「形?」
ユージンは自分の身体を見た。逞しい男の胸筋が橙色の衣服からはだけて見えた。
「おい、勝手に俺の首動かすんじゃねぇ」
「すすすすいません」
「まぁ、いい。お前、俺が昼寝してたらいきなり口に飛び込んで来たんだぜ?」
「かかか勝手にすいません」
「虫かと思って吐き出そうとしたら、なんか俺の口が勝手に喋り出すじゃねぇか」
「なな何て言ってました?」
「なんか『守る』とか『なんとか兄ィ』とか『超天才』とか言ってたぜ?」
「な、何のことだろう……」
「最初、人間臭ぇから人間かと思ったが」
「え」
「お前みたいな人間いるわけねぇもんな、ハハハハ」
「ハァ……」
実際、自分は何なんだろうとユージンは思った。
189:創る名無しに見る名無し
19/11/26 12:16:12.02 mUXHwZQJ.net
「まぁ、いい。とりあえずお前、出ろ」
「は?」
「いつまで俺ん中いるつもりだ? 出てけよ」
「ハァ……」
「悪ィけど昼寝の邪魔だ。俺、1日22時間は昼寝しねーと眠くて活動できねんだわ」
「あ、共感」
「何?」
「大物こそよく眠るんですよね」
「あ?」
「セコセコせず、どっしりといつも寝ている奴こそ、本当の実力者なんですよ」
「てめぇ……」
「え」
「よくわかってんじゃねぇか!」
190:創る名無しに見る名無し
19/11/26 12:25:22.52 mUXHwZQJ.net
たちまち意気投合したズーローはユージンに一生自分の中にいてもいいと許可を出した。
「さぁ、ふんじゃ一緒に死ぬまで寝るぞ」
「寝よう」
同意しながらもユージンは心が落ち着かなかった。
自分が何を忘れているのかもわからない。しかし早く探し出さないといけない何かがあるような気がして仕方がなかった。
「ユージン」ズーローが言った。「お前、いくつだ」
「15です」歳はなぜか覚えていた。
「15?」ズーローはぴくりと目を開けた。「それじゃウチの弟と同い年だ」
「弟がいるんですか」
「あぁ、血は繋がってねぇけどな」ズーローは再び気持ち良さそうに目を閉じた。「チョウっていうんだ。また後で紹介するよ」
そう言うとズーローはすぐに寝息を立てはじめた。
ユージンは落ち着かず、なかなか一緒に寝つけなかった。
そう言えばズーローって人、どんな顔をしてるんだろうと思いはじめた。
さっき見えた逞しい胸は、やたら焦げたような赤い色をしていた。
191:創る名無しに見る名無し
19/11/27 06:59:59 jZu554U3.net
5階まで石の階段を昇った。
この世界ではかなり高いほうの建物だ。現代風に言えばアパートという赴きだった。
「ここだぜ」と言うとズーローは、布を垂らしただけで扉のないその一室に入って行った。
「ウチの家族を紹介するわ」
そう言われてユージンは「はい」と返事し、愛想笑いをした。
「ばあちゃん」
ズーローが指差すとやたら色の青い老婆が振り向いた。
「なんだい? ズーロー」
「ばあちゃん紹介するぜ。新しい家族のユージンだ」
老婆は濁った黄色い目で不思議そうにまばたきすると、ズーローの背後を確認した。
何も見えないし、誰もいないので首を傾げて言った。
「誰のことだえ?」
ズーローはワハハと大笑いすると、奥の部屋へ歩き出した。
「チョウ! 兄ちゃん帰ったぞ」
192:創る名無しに見る名無し
19/11/27 07:11:49 jZu554U3.net
奥の部屋にはベッドが一つ置かれ、あとは所狭しと紅葉の若木の鉢植えが占領していた。
真っ赤に紅葉した若木もあれば、緑のままのも、枯れてカサカサになったものもある。
通りを見下ろせる大きな窓があり、窓辺に座っていた背の低い、髪の白い少年が振り向いた。
「あれ? 兄ちゃん、何か身体ん中、入ってるぜ?」と開口一番チョウは言った。
顔も幼ければ声も少し幼い感じの子で、ユージンは親しみやすそうに思った。
「ユージンだ」とズーローは言った。
「ユージン?」とチョウは首をひねった。
「よ、よろしく」とユージンが言った。
「よろ~」とチョウは普通に言った。
兄の口から少年の声が出たことにも身体のない生き物がいることにも不思議がっていないようだった。
193:創る名無しに見る名無し
19/11/27 07:25:49 jZu554U3.net
「チョウは幼い時に両親を失くしてな」ズーローは言った。「ウチのばあちゃんが引き取ったんだ」
ユージンはただ相槌を打ちながら聞いた。
「お前も今日からウチの家族だ、ユージン。同い年どうしチョウと仲良くな」
「あ、ハイ」
「ちーす」チョウがテキトーに挨拶した。
「ところでユージン」ズーローが少し改まった口調で言った。「お前は俺が1日22時間寝ることを初めて褒めてくれたヤツだ」
「そうなんですか」
「皆『だらしない』だの『怠け者』だの言ってちっとも理解してくれん。弟のチョウでさえもだ」
「だって兄ちゃん修行する気ねーだろ」
「しかしだ、ユージン」チョウの言葉は無視してズーローは言った。「てめぇ、嘘つきやがったな?」
「え」
「てめぇ、俺と一緒にちっとも寝なかったじゃねーか」
「あ、あの。何かが気がかりで……」
「お陰で気が散ってちっとも眠れなかったんだよ。腹立つわ。だからてめぇ、やっぱり出てけ」
「は?」
「チョウん中入れ」
「ええ?」
「わー面白そう」チョウはあまり面白くもなさそうに言った。「いいぜ。俺ん中入れよ」
194:創る名無しに見る名無し
19/11/27 07:33:32 jZu554U3.net
ユージンはかしこまりすぎるあまり、ズーローの口から勢いよく飛び出せず、ぽてっと床に落ちた。
金色のうんこにも見えないこともない雲のようにフワフワしたユージンを見て、ズーローが言った。
「なんだお前、形あるじゃねーか」
チョウは何も言わず、表情も変えずに見守っている。
ユージンはすぐに苦しくなった。呼吸が出来ず、全身の『気』の流れが止まってしまった。
チョウの口まで飛ぼうにも力が入らない。
口がないので苦しみの言葉を発することも出来ない。
無音でのたうち回るユージンをチョウは手でつまむと、大きな口を開けて飲み込んだ。
195:創る名無しに見る名無し
19/11/27 07:44:34 jZu554U3.net
「た、助かった」チョウの口からユージンの声が出た。「ありがとう」
「どーいたしまして」チョウはテキトーに言った。
「じゃ、俺寝るわ」そう言うとズーローは立ち上がった。「お前ら仲良くな」
「兄ちゃん、頑張れよな」そう言ってチョウは兄を見送った。
196:創る名無しに見る名無し
19/11/27 07:54:16.42 jZu554U3.net
ユージンと二人きりになると、チョウはいきなり元気に明るく喋り出した。
「なぁ、俺のことはチョウでいいけど、ユージンて呼びにくいな。何て呼んだらいい?」
「あ。じゃあ、『ユゥ』で」
「ユゥか。わかった。ところでユゥ、お前、糞まっずいのな。うんこ飲み込んだ気がしたぜ。のどごしも最悪」
「えー……ひどい」
チョウは楽しそうに笑った。
ユージンは部屋を占領する小さな鉢植えの山を見た。そして、聞く。
「紅葉集めが趣味なの?」
するとチョウは明らかにムッとして、怒ったような声で言った。
「俺は修行中なんだ。秋を司るものになるんだぜ」
「秋を?」
「見てろよ」
チョウはそう言うと、緑色の紅葉の植えられたのを一つ取った。
そして集中すると、チョウの身体から橙色の『気』が放出される。
手を近づけると、紅葉は急激に紅葉し、慌ててチョウが手を離した時にはカサカサに干からびて床に散った。
「あー、またやっちまった」
それを見ていてユージンはまた違和感に襲われた。
この人達、ぼくとは違う生き物のような気がする。
そう言えばさっきチョウに入った時ちらりと見えたズーローの顔も、赤い鬼のように恐ろしく、角があった。
197:創る名無しに見る名無し
19/11/27 08:04:46.18 jZu554U3.net
「ユージンは何が出来るんだ?」チョウが聞いた。
「え」
「その色を見た感じ通りか? 金を司るものになるのか?」
「ぼく……記憶がないんだ」
「そうなのか?」
「うん。なんか……すごいことが出来た気はするんだけど」
「慌てず思い出せよ」チョウは穏やかに言った。
「でも……」
「ん?」
「誰かを探してた気がするんだ。急がなきゃいけないような気がするんだ」
「そうなのか」
「うん」
「じゃ、どうする?」
「えっ?」
チョウは鉢植えをまた一つ取ると、それに手を当てながら言った。
「慌てたってしょーがねーだろ? 心を落ち着けて待ってろ。そうすればあっちのほうからやって来てくれる。そんなもんさ」
鉢植えの紅葉は今度は最も鮮やかな色で留まり、あかるい赤と金色を並べて笑った。
198:創る名無しに見る名無し
19/11/27 08:24:03.34 jZu554U3.net
【主な登場人物まとめ】
・ユージン(李 玉金)……15歳。身体を持たない『気』だけの存在として生まれる。金色の『気』の使い手だが、特に何も出来ない。
普段は妹の椿の身体の中に住んでおり、椿と身体の支配権を交代することが出来る。
明るい性格だがダメ人間。それでいて自分は超天才だと信じている。
妹とともに渦潮に呑まれ、海底世界へやって来た。記憶のほとんどを失くしてしまっている。
・椿(リー・チュン)……14歳の中学生。登校拒否でずっと家にいる。
普通の子だが、自分はダメ人間であると決めつけている。
帰りを心待ちにしていた義兄ランが日本から帰って来、うかれていたが、義兄が渦潮に呑まれたのを助けようと海に飛び込み、自分も呑まれる。
海底世界へ落ち、クスノキの老人に助けられ、人間の記憶をすべて消される。
・ラン(鄧 狼牙)……19歳。日本で格闘家デビューし、連戦連勝を重ね、そのアイドル性からスターとなる。
細身で格闘家とは思えないほど穏やかで優しく、謙虚。透明の『気』の使い手。
リウ・パイロンとメイファンが殺した鄧 美鈴の子。四歳の時にハオが引き取った。
赤いイルカを助けた後、渦潮に呑まれて絶命する。
・メイファン(ラン・メイファン)……54歳だが子供のように好奇心旺盛。ララの妹。ユージン達の叔母。
ひとつの身体に姉のララと一緒に住んでいる。元凄腕の殺し屋。黒い『気』の使い手。ユージンを調教したがっている。
黒い『気』を操り、自分の身体も含め何でも武器に作り替えてしまえる。
ランの母親を15年前に殺した。現在、ララに命じられ、ボディーガードとしてチェンナの身体の中に入っている。
渦潮に呑まれた3人の甥っ子を探して、というより赤い巨大魚を追って海底へ潜った。
・チェンナ(劉 千【口那】)……メイの娘。ララの大事な大事な孫娘。四歳。意外に強い。
メイファンに身体を潜水艦に変えられ、喜んでいる。
・チャン……ユージンが海底世界で出会った同い年の少年。秋を司る能力を持っている。橙色の『気』を使う。
・ズーロー……チャンの義兄。寝るために生きている。火を司る修行中。
・クスノキの老人……森をさまよっていた椿が出会った白い長い髭の老人。医術と薬草を司る。
海底世界に迷い込んだ人間は殺され、赤い魚に転生させられることから椿をかばい、海底世界の住人に仕立てた。
199:創る名無しに見る名無し
19/11/27 08:42:46.86 jZu554U3.net
「あ、チョウ」
街を歩いていると、幼い頃からお世話になっているフォンおばさんに声をかけられた。
食料を調達に来ていたチョウは、野菜を選ぶ難しそうな顔をやめて、人懐っこい笑顔を浮かべた。
「やー、フォンおばさんも買い物かい?」
「ちょっと紹介するよ」
そう言うフォンおばさんの後ろから、髪の赤い女の子が現れた。
「こないだウチの娘に引き取った椿って子だ。まだ友達もいないから、仲良くしてやってくれるかい?」
椿はぺこりと頭を下げると、凛々しい目でチョウを見つめ、挨拶をした。
「椿よ。よろしくね、チョウ」
ユージンはその娘を見た時、チョウの心臓が激しい勢いで絞めつけられるのを感じた。
200:創る名無しに見る名無し
19/11/27 20:25:36 ZGA/Z+r2.net
部屋に帰ったチョウはいつものようにモミジの葉を紅くする練習を始めたが、心ここにあらずだった。
鉢植えを手に取り、手を当て『気』を込めるが、何も起こらない。
「あー、集中できねー」
「どうしたの?」ユージンが聞く。「ずっと顔の筋肉笑ってるけど……」
「笑ってねーよ」チョウは幸せそうにニコニコしながら言った。「なぁユゥ、椿ちゃんて可愛いよな」
「そう?」ユージンは答えた。「ぼくはなんかうるさそうな子だなって思った」
「あー、お前はチンコついてないからな。女の子の魅力とかわかんねーわな」
「え」ユージンはどこかで同じようなことを言われたような気がした。
椿ちゃん、椿ちゃん、と譫言のように呟きながら、チョウの練習は絶不調を極めた。
「『気』が乱れまくり」ユージンが突っ込んだ。
「いいだろ、こんな日もあるさ」チョウはそう答えるとまた呪文のようにチュンチャン、チュンチャン、と呟き出す。
201:創る名無しに見る名無し
19/11/27 20:31:51 ZGA/Z+r2.net
「あの子に恋しちゃったの?」
チョウはそのユージンの言葉にかぶせて別のことを言い出した。
「あー! なんか椿ちゃんと繋がり出来ねーかなー!」
「繋がりって?」
「たとえば……そうだユゥ! お前、誰かを探してるって言ってたよな?」
「あぁ……うん」
「それ、もしかして椿ちゃんなんじゃないか? お前もあの子も最近出現した新顔だし」
ユージンは黙って考え込んだ。続けてチョウが言う。
「なぁ、お前、記憶なくしてるだけで、椿ちゃんが実はお前が探してる人、たとえば、生き別れのお前の妹とか。ほら、思い出せ」
「それはない」ユージンは即答した。
「なんで言い切れんだよ? 記憶ないくせに」
「だって」ユージンは言った。「あんな赤い髪、ぼく嫌いだもん」
202:創る名無しに見る名無し
19/11/27 20:57:45.11 ZGA/Z+r2.net
毎日椿に会いたいというチョウの願いはしかし、すぐに叶えられた。
チョウが毎朝参加している川での染め物に、次の朝から椿もレギュラーで加わることになったのである。
そんなことは聞かされていなかったチョウは眠そうな顔つきで布を川の流れにさらしていた。
「おはよう、チョウ」
名前を呼ばれて振り向くと、赤いおかっぱの少女の微笑みが朝日より眩しく輝いていた。
思わずチョウは水音を派手に立てて身を起こした。が、顔は笑っていなかった。
「おー、昨日会ったな。えーと……名前何だったっけ」
「椿よ」
「あー、そだそだ」
「今日から染め物に参加するの。教えて?」
「おう、いいぜ。来なよ」
椿は清代風の赤い無地の旗袍(チーパオ、いわゆるチャイナドレス)の上だけに、黒いスカートを穿いていた。
長いスカートを捲り上げると上のほうで結び、川に入って来る。
「そんなチャラチャラした格好じゃ仕事になんないぜ」チョウは目をそむけながらぶっきらぼうに言った。
「どんな格好がよかったのかな」
「え? えーと……いや、別に、それでいいわ」
そう言い終えたチョウの口でユージンが思いきり吹き出した。
203:創る名無しに見る名無し
19/11/27 21:10:57.01 ZGA/Z+r2.net
「何笑ってるの?」椿の表情が険しくなった。「失礼な人ね」
「あ、いや。今の俺じゃない!」チョウは慌てて立ち上がり、弁解した。「ほら、見えない? 俺ん中に金ピカの奴がいるだろ?」
「何言ってるの?」椿はさらに機嫌を悪くした。「そんな変なものいるわけないでしょ」
「あ、見えないのか」チョウはそこでうっかり椿の生足をモロに見てしまい、挙動不審になった。
それで思わず悪口のようなことを言ってしまった。
「『樹の一族』の養女にしちゃ大したことないんだな」
椿はチョウに暫く憎らしそうな目を向けると、背中を向けた。
「も、いい。別の誰かに教えて貰うから」
「待てよ」
向こうへ行きかける椿の腕をチョウは思わず掴んだ。
「何よ」椿はその手を振り払おうとする。
「俺に教わるよう言われたんだろ?」チョウは手を離さなかった。「俺、こう見えて責任感強ぇーんだ。任されたからには意地でも教える」
204:創る名無しに見る名無し
19/11/27 21:31:42.41 ZGA/Z+r2.net
チョウは大きな白い布を綺麗に伸ばして広げ、投げ放つように川にさらして見せた。
まるで魔法のようにそれは川面に広がると、朝陽を浴びて瞬く間に橙色に変わって行く。
その神秘的ともいえる光景を見て、椿の機嫌は一瞬にして直ってしまった。
「どうだ、簡単なもんだろ? やってみて」
「うん」
椿は頷くと、麻の敷物の上に積まれた白い布の一枚を手に取り、構えると、チョウに聞いた。
「ばっと広げるのね?」
「そう。一気に、ばっと」
椿は勢いをつけてばっと布を広げたが、広げたつもりが棒のように一直線になってしまい、川面に落ちた時には皺くちゃだった。
布は橙色に染まりはじめるが、ムラのある失敗作になってしまった。
「笑う?」椿は泣きそうな顔で言った。
「笑わない」チョウは真面目な顔で答えた。「最初はそんなもん」
続けて椿はもう一枚白い布を取ると、さっきよりも勢いをつけて川へ投げ放った。
布は椿の手を離れ、雲のように飛んで行き、しかしそんなに遠くないところに落ちた。
言葉を失ってぽかんと口を開けている椿にチョウは優しく笑いながら言った。
「力、入りすぎ」
205:創る名無しに見る名無し
19/11/27 22:02:23 ZGA/Z+r2.net
朝陽はもう既に高くなっていた。
チョウは根気強く指導し、椿は諦めることなく初歩の染め物を練習していた。
もう30枚もの白い布が無駄になっていた。
「ちゃんと『気』を込めてるか?」チョウが真剣な口調で指導する。「もっと力は抜いて、布全体に『気』を行き渡らせんの」
「込めてるもん」椿は泣きそうな顔で言った。「気力全開でばっと広げてるもん」
「うーんなんでうまく行かねーんだ」チョウは頭をかきむしった。「こんなことぐらい出来るだろ? 『力』のない人間じゃあるまいし」
「『こんなことぐらい』って言ったわね?」椿がむくれる。「バカにしないで」
「ねぇ、チョウ」ユージンが小声で囁いた。「後ろからさ、手取り足取りで教えてあげたら?」
「で、出来るか!」
「出来るわよ!」
椿は怒ったように叫ぶと、仕切り直した。息を整え、心を落ち着ける。
「……おじいちゃん、力を貸して」
そう呟くと、椿は初めて薄紅色の『気』に包まれた。
それを白い布に行き渡らせる。布は生き物のように前のほうへ伸びると、そのまま皺一つなく川面に着いた。
「あ」
「わっ」
「出来たー!」
思わずチョウは椿に抱きつきに行った。
寸前で気づいて手を引っ込めかけたチョウに椿のほうから抱きついた。
「ありがとう、チョウ!」
「あ、あぁ……」
206:創る名無しに見る名無し
19/11/28 12:39:22.69 GoH91J/1.net
「うー」
部屋に帰ったチョウは修行もせずにベッドに伏せ、病気のように唸っていた。
「痛い。胸が痛い」
チョウはそう言うものの、ユージンはちっともチョウの身体の痛みなど感じず、不思議がった。
強いて言えば胸に甘酸っぱい締めつけを感じるが、痛いというよりは何だか気持ちいいぐらいだ。
「そんなに痛いもんなの?」ユージンは思わず聞いた。「恋の病って」
「そんなんじゃねー。そんなんじゃねーよ。うー」
207:創る名無しに見る名無し
19/11/28 12:53:45.96 GoH91J/1.net
次の朝、チョウが川へ行くとまだ誰も来ていなかった。
「いくら何でも早すぎたか」
身体の中でユージンもまだすやすやと寝ている。
暫くそのへんの草で遊んでいると、皆が集まって来た。
そわそわしていると少し遠くから椿がやって来るのが見えたので、慌てて背中を向けて支度を始める。
「おはよう」
後ろから椿に声をかけられ、ようやくチョウは振り向いた。
「お、おう」
今日も椿は赤い無地の旗袍だが、膝上まで丈のあるワンピースのものを着ていた。
チョウはそれを褒めもせず、せかせかと仕事の手を動かしながら、言った。
「悪ィ。名前、何だったっけな」
「椿よ」
「あー、そだそだ。チュン、チュンね」
「覚えた?」
「あぁ、今、覚えた」
208:創る名無しに見る名無し
19/11/28 13:03:29.51 GoH91J/1.net
「出来るか?」
「もう大丈夫よ」
そう言うと椿は白い布を取り、皺一つなく広げると、川面にさらして見せた。
「へぇ。物覚えいいな」チョウは初めて椿のことを褒めた。「努力家なんだな」
「エヘヘ」
「もう一人で……大丈夫……かな」
チョウが少し残念そうに言うと、椿は首を横に振った。
「まだこれ一つ出来るようになっただけよ。もっと沢山教えてね、チョウ」
「そ、そうか」チョウは思わず顔が笑ってしまった。「俺、教えるの好きだし、頑張る娘もす」
チョウは慌てて言葉を切って自分の口を押さえた。
聞いていなかったのか、椿は黙々と染め物を続けていた。
209:創る名無しに見る名無し
19/11/28 13:09:22.08 GoH91J/1.net
昨日染めた布を台に掛けて小屋の中に干してあったものが乾いていた。
皆でそれを取り込み、畳んで牛の背中の籠に乗せると、解散となった。
「じゃ、俺、牛に乗ってくから」
「うん。じゃ、またね。チョウ」
「またな、椿」
椿は背を向け、逆方向へと一人で歩いて行った。
「家、同じ方向だったらよかったのにね」ユージンが言う。
「バーカ」
チョウは明るい笑顔でそう答えながら、何度も後ろを振り返った。
210:創る名無しに見る名無し
19/11/28 19:16:09.12 bLXAmv0H.net
いよいよチョウは修行が手につかなくなってしまった。
帰るとベッドに寝転び、ため息ばかり吐いている。
「チョウ」ユージンが言った。「ヒコーキとかしないの?」
「何だって?」チョウはため息まじりに言った。
「打飛機(飛行機をやる=オナニーの隠語)だよ、知らないの?」
「飛行機って、人間の世界の乗り物だろ? 神の領域を侵すあの、汚いやつ。それを……どうするって?」
「いや、手で、こうやって……」
ユージンはそう言うとチョウの手を動かし、股間に持って行った。
「勝手に俺の身体動かすな!」
「あ……はい」
予想外なほどの剣幕でチョウに怒鳴られ、ユージンは思わず萎縮してしまった。
「なんだよ。手淫のことか? 知ってるよ。知ってるけどやらねー。そんなことしてる暇があったら他にやることあるし……」
「修行、してないくせに……」
「とにかく」チョウはごまかすように言った。「勝手に俺の身体動かすな。あと、椿の前では絶対に喋るなよ?」
「とにかく、椿の下着姿、想像してみようよ」
「ハァ!? お前……」
「あいつ下着、絶対地味だよ。あれは絶対綿とか着けてる。フリフリのついた麻のとか、セクシーな絹のとかはつけないタイプ」
「意味わかんねーけど、お前……」
「よっ!」と言ってそこへ兄のズーローが入って来た。
今まで怒っていたチョウは兄を見ると、たちまち力が抜け、口数が少なくなった。
211:創る名無しに見る名無し
19/11/28 21:03:09.08 w9H0pbOF.net
ズーローは冷やかすように言った。
「聞いたぜ、チョウ。お前、彼女出来たんだって?」
「は?」チョウはテキトーに答えた。「ねーよ」
「なぁユージン、どんな女だ?」
「え」ユージンは答に困った。
「はぐらかせ」とチョウが小声で囁いた。骨を伝ってユージンにはよく聞こえた。
「さ、さぁ……。いないと思う」
「なんだ? つまんねぇ」
ズーローはそう言うとせっかちな動きでさっさと部屋から出て行った。
ズーローが出て行くと、ユージンは済まなさそうに言った。
「ごめん。変な答になっちやった」
「別にいいよ」
暫く二人とも沈黙した。いつもは何時間でも黙っていられるのだが、ユージンはなんだかこの沈黙に耐えられなかった。
「チョウさ、お兄さん来るといつも無口になるっていうか……態度変わるよね?」
「あー……そうかも」
「なんで?」
「あいつ、ゲスだし。何より怠け者だろ? やる気のない奴とは会話したくねーんだ。やる気のなさがうつりそうで」
「え」
ユージンは自分がズーローの1日22時間睡眠を褒めたことに思い当たり、言葉を詰まらせた。
暫くまた二人とも黙った。
ふいにチョウが口を開く。
「ユージン」
「はい」
「お前、きくらげ臭いな」
「は!?」
「いや……何でもない」そう言うとチョウはまたベッドにごろんと寝転んだ。「変なこと言った。悪ィ」
「本当だよ~」
ユージンは意味がわからず、笑うしかなかった。
212:創る名無しに見る名無し
19/11/29 19:55:18 NyNhIBN0.net
スズちゃんとエッチしたい
213:創る名無しに見る名無し
19/11/29 22:42:25 WDLWDOdg.net
次の朝も同じようだった。
朝から川へ出掛け、女達に混じって染め物に従事する。
ユージンは段々と同じ毎日の繰り返しが退屈になって来ていた。
しかしチョウは違うようで、修行そっちのけで染め物に張り切っていた。
「チョウ」椿が話しかけて来た。
「おう」チョウは仕事から目を話さず、ぶっきらぼうに返事をする。
「おこわでおにぎり作って来たんだけど、終わったら一緒に食べない?」
「えっ!」チョウは思わず顔を上げた。
「食べようよ」
そう言いながら穏やかに微笑む椿の顔が朝陽に照らされていた。
「お、おう。腹減るからな」そう言いながらチョウは顔を背けた。
「じゃ、仕事終わらせちゃうね」
そう言って椿が向こうへ行ってもチョウはずっと顔を背けていた。
「誰にも見せられない顔してるもんね」ユージンが言った。