あなたの文章真面目に酷評します Part106at MITEMITE
あなたの文章真面目に酷評します Part106 - 暇つぶし2ch412:arks
18/01/30 02:06:19.05 InHeRtqV.net
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女の子は、ただ純粋にそれを訊きたかっただけのようだった。話し相手が欲しかったわけでもないだろう。
何か話したいだけならば、僕ではなく彼女の隣に座るおそらく弟と思われる男の子に話しかけたほうがいいに決まっている。
一方で、僕の方では彼女たちに対する興味が湧いてきた。
平日のこんな時間に子供だけで電車に乗っているということもそうだし、何よりも僕は彼女とは対照的に、純粋に話し相手が欲しかった。
誰かと喋ってさえいれば、とりあえず目の前の現実に目を向けなくてすむ。
「どこから来たの?」
僕がそう言うと、女の子はまた同じ目で僕を見た。疑っているわけでもないし、見下しているわけでもなく、ただしっかりと僕の目を見ていた。
僕の目の奥の、僕の意識の尻尾のようなものを捕まえようとしているような目だった。
「あっち」
そう言って、女の子は僕と目を離さないまま、電車が来た方向を腕をぴんと伸ばして指差した。
そりゃあ、この電車に乗っている人はみんなあっちから来ているだろう、と思ったけれど、別に元々この質問に大した意味があったわけでもないし、それについてはそれ以上訊かないことにした。
「どこに行くの?」
そう質問してから、この子はきっとまた、あっち、とか言って電車の進行方向を指すに違いない、と思った。
「お母さんのところよ」
意外にも素直に答えてくれたけれど、どう反応していいのか迷った。
それは彼らの家庭における彼らに対する母親の存在の大きさを表しているとも言えるような気がしたし、住環境としての家と、
母親の住む場所が分かれているような、凡庸な言い方をすれば「複雑な家庭」に彼らが属しているのかもしれなかった。
「お母さんはね、一年前の今日死んだの。毎月会いに行ってるけど、今日は特別」
僕の予想はまるで的を外していたらしかった。
僕は側からみてもどぎまぎしていたと思う。してはいけない話を振ってしまったと思った。どう言えばこの場が収まるのかを考えていた。
「あなた、お母さんはいるの?」
彼女はまだ僕の目を見ていた。予想外の質問だった。いないということはない。
「いるよ」
とりあえず僕はそう答えた。それ以外に答えようがない。長い沈黙が車内を満たした気がした。
「そう」
彼女はそれだけ言って、はじめて僕から目を逸らし、僕の後ろの窓の外の景色を眺め始めた。そして一言だけ、
「幸せね」
と言った。僕は彼女の目の奥に、静かな、ある種の強さを認めた。
体が左に振られた。電車が動き出したようだった。
僕と彼女たちは、それ以上になにも言葉を交わさなかった。彼女は僕の後ろの窓から見える景色をずっと眺めていた。彼女には美しい景色が見えているのだろうと思った。
札幌駅について、僕はまっすぐ大学に向かった。迷いも躊躇も既になかった。


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