17/02/24 18:01:23.56 vS4leVsa.net
>「……無茶な事しちゃ、駄目ですよ。あなたが欲しがった平和な居場所は、この戦いの先にあるんだ」
ラテさんがそっと肩に手を添え、あたしを後ろへと引かせる。
>「そういうのは私がやりますから」
役に立てたようで嬉しいと同時に、寂しくもあった。
「分かったわ。無駄死にするな、とここの学長さんにも言われているし、なるべく援護に回るようにします。
敵が見えています。私には。それを皆さんで共有しましょう」
「≪エーテルサーチ!≫」
ケイジィの姿がエーテルの力で露になり、ステルス効果が打ち消される。
実際には見えているようにしているだけで、打ち消しているという訳でもないのだけれど。
あたしはさらに魔力のチャージを続け、せめてもの一撃を放てるようにした。
相手は強敵だ。このまま市街や学長側の援護にもいきたいけど、彼らは“友達”なのだから。
が、状況は変わった。
ラテさんが先走ったようで、アルゲノドンを撃ち落とすと、その力を吸収しはじめた。
ラテさんの毛皮がみるみるうちに禍々しい羽根や皮膜に変わる。そしてその目は―既に人間のそれを超越していた。
「どうして、こんなことに…!」
飛び掛ってくるノーキンの部下たちに蹴りを入れ、柱や魔法陣を利用して一人ずつ無力化していく。
この人たちにも人生があるのだから、優しくしなきゃ。
柱の一本が倒れて崩れ、その一人を潰して、内蔵が出てるけど、きっと終われば何とかしてくれる。
ケイジィの背後をついたラテは禍々しいオーラをまとっている。
あたしは混乱した。とりあえず離れた場所でジャンさんと一緒にノーキンと対峙するティターニア師を見る。
>「退け、今はそれどころではない!」
>「―ピュリフィケーション」
「あっ…毒が…」
今まであたしを蝕んで動きを鈍らせていた毒が除去された。
これはエーテルの力による「中和」だ。あたしには使えないこともないが、この速度で出すことはできない。
ティターニア師が急にあたしに近づくと、背伸びをしながら耳元で囁く。
>「頼む、ラテ殿を助けて……救ってやってくれ……! 我ではもう救えぬ……」
それは真剣そのものの懇願だった。
先ほどまでは余裕の表情をしていた師が、これほどまでに追い詰められるとは。
逆にその師の友情、仁義というものに痛切に感動した。
404:パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA
17/02/24 18:02:10.64 vS4leVsa.net
「わかりました。きっとこれも運命なのでしょう。
エーテリアル世界が分裂したのも、ここであたしがラテさんのために身を張るのも」
杖を構え、大魔法をなおも詠唱しながら、残りの魔力を賭けて飛び上がり、ラテさんを後ろから羽交い絞めにする。
「…“無色の抱擁”≪エーテルクルセイド≫…!!」
ラテさんを羽交い絞めにしたあたしは、短時間でラテさんに宿った禍々しい属性を吸収していく。
そこには地や風、闇といった様々な属性が交錯し、禍々しい姿を像造っていたに違いない。
「あたしが、全部吸い込んでやる…!」
エーテルの器と化したあたしは、ラテさんからその能力を奪わないように、その禍々しい姿を、
ラテさんの人間の姿に完全に戻した。
つまり、ラテさんの攻撃能力を損なわないまま、侵食を食い止めたのだ。
全身に痛みが走り、彼女が今まで感じてきていた苦痛のようなものが走る。
「今だ…!!」
それを素早く大魔法詠唱の方へと上乗せする。そして研ぎ澄まされた魔力は、
濁流をもって敵をターゲッティングし、巨大な竜巻となって襲い掛かる。それは目の前にいるケイジィと、魔法陣で多段反射しながら、
突如遠く離れたノーキンを襲った。
「いきます。―“黄昏の大旋風”≪セフィア・トルネード≫…!!」
たちまち「無」属性の大魔法が放たれ、それは旋風状になって敵を襲った。
強烈な破壊力は鎧や岩も砕き、同時に相手の精神力を潰滅させる、絶対的な「虚無」の魔法。
―
―そのときだった。
『―ムーアテーメンより。敵襲じゃ!こやつらは今街を襲っている連中とは訳が違う。わしらで対抗してみるが、
余裕があったら援護頼む』
学長さんからウィンドボイス、いや、エーテルボイスのようなものが放たれた。
発信源は空中というより、この建物そのものに魔法がかけられ、それが発信源になっているみたい。
「今、助けにいきます…!」
あたしはノーキン&ケイジィと対峙する師たち三人にその場を任せると、いち早く
先ほどラテさんから「吸収した」能力の一部である浮遊能力を利用して、残る魔力を全力で消耗しながら学長のいる一号棟へと向かった。
「三人とも、うまく打ち負かしてくれてるといいな…でも、これはあたしの仕事だから。
本に書いてあった。メイドさんっていうのは、ご主人の危機が迫ったら何が何でも駆けつけなきゃならないから。
だって、この服装をくれたのは、学長さんだし…!」
405:パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA
17/02/24 18:06:53.05 vS4leVsa.net
あたしがこの前学長さんと一緒にお話した場所あたりに駆けつけると、
フードを被った男たちが魔術学院の学生や護衛の兵士さんたちと戦っていた。
数が多すぎるし、あの身のこなし、まるで戦闘のプロみたい。
―少なくとも冒険者ギルドから派遣されてきたメンバーではない…!
でもこの服装の集団、どこかで見たことが…
まだ建物の外だし、学長さんの姿は見えないけど、やれるだけやってみせる。
あたしが足止めして、流れを変えて撃退してやる!
「ほう…こいつもここの兵の一人か? どうする?」
「始末しろ。あの方の命令だ。女でも容赦するな」
「させないっ!」
背後に回りこむ敵のフードを被った兵を杖で殴り、そのまま精神力を破壊して気絶させる。
気絶してるだけ…だよね?
次に横から飛び掛ってきた相手がいたけど、何とか魔法陣を展開して、それを使って一度弾き飛ばすと、
思い切り頭を踏んづけて、動かなくなったのを確認する。
「あれは強敵だ。二人か、三人以上でかかれ!」
少しずつ押し返してくれればいいな、と思ったけど、もう学院の人達は逃げるか、やられるかで、
気がついたら周りにはあたししかいなかった。
あ、魔力が尽きた。それでも戦う。そろそろ向こうでの戦闘が終わって、師やラテさんたちが助けに来てくれるから。
兄さまに教えられた。
昔のある組織の兵は槍が使えなくなったら剣を抜いて戦い、剣が仕えなくなったら拳で戦い、拳で戦えなくなったら歯で戦った―と。
腕をやられ、杖を遠くに弾き飛ばされた。もう取りに行くのは難しい。
大事なのは、どうやって敵を一人でも多く減らすか。教えられた通りに、人間の体の弱点は知り尽くしてる。
倒れた敵さんから剣を貸してもらうと、それで兄さまと訓練した頃を思い出しながら、剣で相手の頭や首、胸のあたりを狙い、
そして後ろに回りこまれたら回し蹴りで目や鳩尾や脚を狙った。
弓や魔法を相手には敵さんの体を使って盾にして、その場を凌いだ。
そうして何分経っただろう。
406:パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA
17/02/24 18:10:45.49 vS4leVsa.net
―目の前が倒れた人間で一杯になっていた。
あちこちが真っ赤に染まっている。あたしの視界は真っ赤だ。
全身が痛い。あちこちに刺さった矢や傷があるから、神経毒や麻痺毒が回ってきてるんだろう。
意識が落ちる。あたしもう駄目かも。
せっかく貰った服装もボロボロに破けて、もう裸も同然だ。
これじゃ、学長やティターニア師たちに見せられないや。
意識が飛びかける寸前のこと。
建物の中から大事そうに何かを抱えて出てくる黒い鎧の男の人を見た。
どこかで、何かの本を見て知ったことがある。あれは…
「―それは…“無の水晶”≪エーテル・クォーツ≫…
まさか、貴方は、あの“クリスタルドラゴン”を…そんな…」
その“黒騎士”は口の端を吊り上げて答えた。笑っているようにも聞こえる。
「さぁな。これは“器”に過ぎん。“種”がなくてはただのガラクタだ。
と、お前がまさかここにいるとはな。とりあえず…」
そんな、まさかここで貴方に…!?
「―死ね」
ドン、と強く重い一撃が放たれると同時に、あたしはついに地面に倒れ伏した。
最後にあたしはその見知った黒騎士の姿を目に焼き付けた。彼が踵を返す光景が最期になった。
(ティターニア師、ラテさん、ジャンさん、学長…あたしは、ここが最後の場所で良かったのかな…?
皆さん、どうかご無事で…!)
殆ど動かなくなった両腕を前に組んだところで大勢の敵が群がってきた。
「殺されたホセたちのカタキだ!」「被害状況は? 何人殺された!?」「くそっ、俺の目が…」
「その女を殺せ!!」「いや、もっと、もっと苦しめてから殺してやれ……」
敵の殺気に満ちた声を聴き終わらないうちに、意識はそこで途切れた。
そして―あたしは死んだ。
【パトリエーゼ死亡で退場です】
【まず、ノーキンさんには途中割り込みになったことをお詫びします。
急な多忙の関係で途中退場することになり、本当に残念ですが、ありがとうございました。
大魔法の効果、学長の安否、黒騎士の正体などについては後は全て皆さんのご判断にお任せします】
【では、素晴らしい物語になることを期待して、さようなら】
407:ティターニア@時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
17/02/24 23:27:12.73 oXpkJgdQ.net
>ラテ殿
スレ立てかたじけない!
>パトリエーゼ殿
またもや古より続く送りバントポジションの伝統の犠牲者が出てしまったか……
短い間だったがお疲れ様であった。
急な多忙とのこと、落ち着いたらまたいつでもお待ちしておる。
408:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/27 00:38:08.79 uRSb5gPs.net
【>パトリエーゼさん
領海です。ようやく絡めるところでの脱退、とても残念です
またここでお会いできることを祈っています】
【容量オーバーしそうだったので次スレにレスを投下致しました】
409: ◆ejIZLl01yY
17/02/28 04:01:51.67 H4NM+4pA.net
射かけ損ねたショートスピアは、ぎりぎりのところで人形の足を射抜けなかった。
ぐらりと足元が揺らぐ……屋上から落ちそうになって慌てて踏み留まる。
思考が纏まらない。あの人形を仕留め損ねた。居場所もバレた。だから次の手を考えて、動き出すべきなのに。
>『愉しそうだねおねえさん。そっちの方がさっきまでのしかめっ面よりずっと良いよ』
さっき、人形が私へと投げかけた言葉が脳裏に蘇る。
「違う……私は楽しんでなんか、いない」
声に出してそう言ってみても……その言葉を私自身すら、信じられない。
これはきっと……いや、間違いなく、魔物の血の、私の奥の手の副作用。
>「…“無色の抱擁”≪エーテルクルセイド≫…!!」
「っ、何を……!」
いつの間にか傍に来ていたパトリエーゼさんが、私を羽交い締めにする。
それだけじゃない。これは……私の、魔物の力が……吸い取られていく?
「や……やめて下さい!離して!」
思わず、私は叫んでいた。
だって、そんな事をされたら……後に残るのは、ただの弱い私だけじゃないか。
魔法が使えて、魔物の力を宿した私の戦いに、簡単に割り込める格闘センスもあって……私よりも、ずっと強いくせに。
「……離せ!なんであなたが、私からそれを奪うんだ!」
腕を思い切り振り回す。
肘がパトリエーゼさんの頬に当たって、私はようやく彼女を振り解けた。
いや……もう、私を捕まえておく理由がなくなっただけだ。
両手を見る……猛禽の羽毛は消えてなくなり、ただのか細くて、弱そうな、小娘の手がそこにはあった。
「……誰がこんな事を頼んだ!私が、あなたにこんな事をしろといつ頼んだ!こんなの、ただ……惨めなだけだ!」
振り返って、私はパトリエーゼさんに怒鳴っていた。
パトリエーゼさんは私を助けようとしてくれたんだ。
こんな事言っていい訳ない。そう思っても、止まらなかった。
「私に、あなたに助けてもらう義理なんてない!
あなたがあなたじゃなくたって、私は誰にだって、親切にしてた!」
嫌だ、嫌だ、嫌だ。こんな事、言いたくないのに……なのに止められない。
「その程度だったんだ!これ以上、余計な事をしてくれるな!」
もう、魔物の姿は失っているのに……いや、そんな事、関係ないんだ。
魔物の力を奪われても、私の心と記憶までもが奪われた訳じゃない。
ただ私の体よりも先に、心が魔物に染まった……ただそれだけの事。
いや……それすらも、言い訳なのかな。
元々私の中にいた獣が、たまたま今、目を覚ましただけなのかもしれない。
「……もう、私を助けないで下さい。弱い私を、これ以上惨めにさせないで」
パトリエーゼさんは私に小さく頭を下げると、身を翻してユグドラシアの援護へ向かった。
謝らなきゃと思っても……どうしても、ごめんなさいと口にする事が出来なかった。
あんなに言いたくないと思っていた言葉は、最後まで止められなかったのに。
410: ◆ejIZLl01yY
17/02/28 04:02:38.63 H4NM+4pA.net
>「……奪うとか殺すとか、威勢の良いこと言うけどさ、おねえさん」
パトリエーゼさんが戦線を離れたのを認めて、人形が私に話しかけてくる。
>「殺すのにどうしてそんなに理由が必要なの?
警告を無視したから。取り合わず退かなかったから。アスガルドの罪なき人たちを脅かしたから。
―言い訳探してばっかりじゃん。全部受け身なんだよね、おねえさんの殺意って」
それは……図星だった。
だって私は、人を殺したくなんかなかったんだ。
でも私は弱いから、手段を選んで事態を収める事が、出来ないから……これすらも、言い訳だ。
私は、何も言えなかった。
>「おねえさんはどうして冒険者なんかやってるのさ。
冒険者なんて遺跡からモノは盗むし魔物を殺して死体は売るし、お金を積まれれば人だって殺すよ?
ギルドの後ろ盾がなかったら犯罪者と殆どなにも変わらない、薄汚い商売だよね」
それも、違わない。
違わないけど……それだけじゃないんだ。
テッラ洞窟に潜って、あの古代都市に辿り着いた時の、
金銀と、古代の魔法技術と、大地の竜の加護が織り成す光景を見た時の感動は、決して薄汚くなんかなかった。
否定しなきゃ。そんなものは、ただの一つの側面だ。
それだけじゃないんだって言ってやりたい……のに、声が出ない。
だって……私は弱いから。
息の根を止められてしまえば、言葉は潰える。
弱い私の言葉には、何の意味も力もない。
殺したくないなんて説得しても、兵を退けと脅しても、冒険の中で得られる感動を語っても、全ては無意味なんだ。
「冒険者が人を殺す理由はお金と名誉、この二つだけでじゅーぶんなんだよ。
それ以上の理想があるならわざわざ冒険者じゃなくたっていくらでも高尚なお仕事はあるもん。
……薄汚い人殺しのケイジィの、これは持論だけどね。だから―」
不意に、足場に亀裂が走る。
辛うじて倒壊を免れていただけの建物だ。
元からあった亀裂にでも、ナイフを強烈に打ち込めば……それが最後のひと押しになる。
急速に不安定になる足場によろめく私めがけ、人形がナイフを放つ。
毒が塗ってある事は間違いない。
避けるか、弾くかしないと……なのに、体が、精神が、鈍い。
「っ……!」
殆ど倒れ込むような形で、辛うじてナイフを躱す。
だけど……駄目だ、踏み留まれない。落ちる。
頭から落っこちれば間違いなく死ぬ。
せめて……なんとか、崩れる屋上の縁に指をかけ、落下の体勢を正す。
足を下にして落下して……着地と同時に前転。反動を全身に分散させる。
同時に周囲から感じる、淀んだマナの流れ……毒だ。
毒霧の中に追い込まれた。
咄嗟に呼吸を押さえ……レンジャーの解毒法を使う。
>「―おねーさん向いてないよ。冒険者辞めたら?」
生物じゃないこの人形は、自分の毒の影響を受けはしない。
この場で戦えば……ただでさえ薄かった勝ち目は、まったくのゼロになる。
411: ◆ejIZLl01yY
17/02/28 04:03:05.19 H4NM+4pA.net
私は離脱しようと後ろに跳んで……その更に背後を人形に取られた。
ナイフが一閃……石版の盾でなんとか弾く。
速い。けどそれ以上に……私が遅くなっているんだ。
パトリエーゼさんは、私に魔物の力は残して、その姿、血肉だけを奪っていった。
だけど……あの人は分かってないんだ。
単純に身体能力を向上させるだけなら、そういうポーションだって私は作れる。
魔物の血に火薬や銀を合成して、魔の部分を浄化すれば、市販品と同じようなポーションになる。
なのに、なんで私が魔物の血をそのまま飲んで、魔物と自分を合成するのか。
私に才能がないからだ。
ただの村娘に筋力増強のポーションを飲ませたって、非力な剣士に勝てるようになる訳じゃない。
体の動かし方、戦い方が、私はそもそも下手くそなんだ。
だから魔物の血肉が必要だった。
研ぎ澄まされた獣の感覚が。狩りのセンスが。
魔法にも白兵にも才能のあるパトリエーゼさんには、そんな事、分かる訳がなかったんだ。
「……私に、向いてるものなんてないんですよ」
解毒し切れないほどの毒を吸い込まない為の、浅い呼吸の中、呟いた。
……嫌だ。何の意味もないと分かっているのに、それでも言い訳がましくこんな事を呟く私が嫌だ。
戦いが長引くほど、私は不利になる。だから、なんとかしなきゃ……でも、凌ぐだけで精一杯。
策を巡らせる余裕がない。
……嫌だ。魔法の才能も、剣の才能もない私が嫌だ。
パトリエーゼさんが、あんな事をしなければ……。
……嫌だ。あんなに酷い事を言ったのに、それでもまだ彼女を責めようとしてる私が嫌だ。
ただの時間稼ぎの攻めすら凌ぎきれずに……耐えられずに、私は深く息を吸い込んでしまった。
神経毒が、私の天地を歪ませる。
せめて距離を取ろうと、最後の力を振り絞って大きく跳んだ。
そんな事をしても、稼げる時間なんてほんの数秒なのに。
……私は、私が嫌だ。私が嫌いで仕方がない。
お父さんお母さんの期待に応えられる才能のなかった私が嫌だ。
私が応えるべきだった期待を、全部弟に押し付けた私が嫌だ。
それでも優しくしてくれる皆に、甘える事しかしなかった私が嫌だ。
……古神降神術。
古い古い、この世界よりも、更に前にあった世界……エーテリアル世界。
そこで崇められいた、今では名前すら残っていない神を降ろす、降神術。
私の家は、その研究をしていた。
目的は神の力じゃなくて、その記憶と知識。
もし、それを人の身に降ろす事が出来れば……かつて栄えていたその文明の全容をも、明らかに出来るかもしれない。
代々続く、誇りある研究だった。
なのに……才能のない私が先に生まれたせいで、お父さんもお母さんも言葉には出さなくても焦っていた。
才能のない私が責任を感じないように、弟は一日でも早く後継者になろうと、無理をしていた。
だから……弟は死んでしまった。
降ろした神の力が暴走して、虚無の中に消えてしまった。
そして私は、家から逃げ出した。
412: ◆ejIZLl01yY
17/02/28 04:03:24.96 H4NM+4pA.net
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。
惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。
だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど私には、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。
……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。
毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。
私が、強ければ。
……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。
……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。
その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。
取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。
私はそれを、周りにばら撒いた。
私の、すぐ傍に。
これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。
いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。
だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。
……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。
炎の中に、弟の幻が見えた。
「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」
そして、私は宝箱を漁る。
取り出すのは、ポーション瓶。
その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。
この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。
凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。
そう、これはフェンリルの血。
あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。
都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。
413: ◆ejIZLl01yY
17/02/28 04:03:59.06 H4NM+4pA.net
大地を震わせるような、狼の咆哮が聞こえる。
『……愚かな』
……あれ?ここは……あの、テッラ洞窟の奥の、古代都市?
ていうか今の声は……フェンリル?
『言った筈だ。貴様はただの、舞台に迷い込んだ小鼠だと。鼠の器に我が力を注ぎ込んで、何になる』
「やっぱり……あなた、生きてたんですか?テッラさんは?助かったんですか?」
『溢れるか、器が砕けるか……だが貴様は砕けるよりも、なお悪い末路を辿るだろう。
我にもなれず、貴様を保つ事も出来ず……何者でもない、何かになる』
あら、完全に無視されちゃってる。
……うーん、どうなってるんだろ。
多分ここ、あの古代都市だけど、古代都市じゃないよね。
ティターニアさんの、ドリームフォレストと同じような場所、なのかな。
「……その、私じゃない私は、強いんですか?」
フェンリルが神をも畏れさせる眼光で、私を見下す。
『……強い。何もかもを、奪い取れるほどに』
そしてその大きな口を開けて……私に、喰らいついた。
……気が付けば、私はまたアスガルドにいた。
だけど、変だな。まだ、狼の咆哮が聞こえている。
……あぁ、いや、やっぱり何も変じゃないや。
なんて事はない。少し考えてみれば、分かる事だ。
この大地を震わせるような遠吠えは……私の喉から、肺腑の奥から、放たれているんだ。
銀の毛皮に包まれた両腕。
舌を這わせればそのまま切れてしまいそうなほど鋭い牙。
このままいつまででも吠えていられそうな心肺。高揚感。
体中に滾るこの大地の力。
これが……フェンリルの力。
いや、違う。私の力だ。
……それに、私はまだ私を保てている……よね?
脅かされただけ、なのかな?
テッラさんに対する愛情表現も、なんだかすごく不器用そうだったしなぁー。あり得るかも。
爪先で、地面を軽く叩く。
大地の力が軽銀の炎を掻き消した。
そして大地の属性は鍛冶を象徴する。
ほら、ノームとかドワーフとか、彼らは土の精霊なんだよね。
石畳から短剣の切っ先が生えてきて……人形へと襲いかかる。
414: ◆ejIZLl01yY
17/02/28 04:04:25.38 H4NM+4pA.net
同時に私も姿を消す。土は何かを埋めて、隠す為のもの。
また石像を彫ったり、砂や石に物を描いたり、何かを模る為のものでもある。
つまり土の属性と、レンジャーのスキルは相性抜群だ。
さて、どこから仕掛けようかな。
また頭上を取ろうか。今度はもう外さない。外す気がしない。
それとも今度こそ後ろから首を切り落としてやろうか。
うーん悩むなぁ。
けど決めた。
真正面から食らわせてやろう。
私は強くなったんだって分からせてやる。
地を蹴る。魔狼の脚力は、私を今まで感じた事のない加速の中へと連れ去った。
私が飛ばしたナイフに、簡単に追い付いちゃった。
丁度いいや、これを目くらましに、人形の目の前にまで距離を詰めよう。
やっほう、私の姿、見えてますか?
ま、見えててももう遅いけどね。
飛ばしたナイフに向かって、蹴りを放つ。
さっきから散々おいたをしてくれた人形の右腕、その付け根に、ナイフを深く突き刺すように。
そしてそのまま蹴りを振り抜く。
蹴っ飛ばす先は……あの筋肉男だ。
別に動きを阻害しようって訳じゃない。
「そのお人形に愛着があるなら……今の内に抱き締めてやる事ですよ」
これはただの、私の優しさ。
「左腕も駄目にしちゃったら、もう抱き返せなくなっちゃいますからね」
だって失くす前にその大切さを噛み締めてもらわないと、奪う意味がないもんね。
お互いがお互いを、掛け替えのないものだと理解して、それから奪ってやれば……
きっとあの二人も、自分達がどんなにひどい事をしようとしていたのか、分かってくれるはず。
楽しみだなぁ。
【パトリエーゼさんお疲れ様でした。最後のパスはおいしく使わせて頂きます
……パトリエーゼさんが離脱しちゃいましたし、とりあえず2on3にも出来る感じにしときました。
ケイジィちゃんとのお喋りは楽しいのでこのままでも構いませんがね!】
415: ◆ejIZLl01yY
17/02/28 04:06:32.09 H4NM+4pA.net
あちゃー!全部こっちに投下出来ちゃった!
埋めてそのまま次スレに持ち込もうと思ったんですけど……読みにくくなっちゃってすみません!
416:創る名無しに見る名無し
17/03/08 13:12:49.91 mOe1dyVa.net
同時に私も姿を消す。土は何かを埋めて、隠す為のもの。
また石像を彫ったり、砂や石に物を描いたり、何かを模る為のものでもある。
つまり土の属性と、レンジャーのスキルは相性抜群だ。
さて、どこから仕掛けようかな。
また頭上を取ろうか。今度はもう外さない。外す気がしない。
それとも今度こそ後ろから首を切り落としてやろうか。
うーん悩むなぁ。
けど決めた。
真正面から食らわせてやろう。
私は強くなったんだって分からせてやる。
地を蹴る。魔狼の脚力は、私を今まで感じた事のない加速の中へと連れ去った。
私が飛ばしたナイフに、簡単に追い付いちゃった。
丁度いいや、これを目くらましに、人形の目の前にまで距離を詰めよう。
やっほう、私の姿、見えてますか?
ま、見えててももう遅いけどね。
飛ばしたナイフに向かって、蹴りを放つ。
さっきから散々おいたをしてくれた人形の右腕、その付け根に、ナイフを深く突き刺すように。
そしてそのまま蹴りを振り抜く。
蹴っ飛ばす先は……あの筋肉男だ。
別に動きを阻害しようって訳じゃない。
「そのお人形に愛着があるなら……今の内に抱き締めてやる事ですよ」
これはただの、私の優しさ。
「左腕も駄目にしちゃったら、もう抱き返せなくなっちゃいますからね」
だって失くす前にその大切さを噛み締めてもらわないと、奪う意味がないもんね。
お互いがお互いを、掛け替えのないものだと理解して、それから奪ってやれば……
きっとあの二人も、自分達がどんなにひどい事をしようとしていたのか、分かってくれるはず。
楽しみだなぁ。
417:創る名無しに見る名無し
17/03/08 13:13:25.02 mOe1dyVa.net
同時に私も姿を消す。土は何かを埋めて、隠す為のもの。
また石像を彫ったり、砂や石に物を描いたり、何かを模る為のものでもある。
つまり土の属性と、レンジャーのスキルは相性抜群だ。
さて、どこから仕掛けようかな。
また頭上を取ろうか。今度はもう外さない。外す気がしない。
それとも今度こそ後ろから首を切り落としてやろうか。
うーん悩むなぁ。
けど決めた。
真正面から食らわせてやろう。
私は強くなったんだって分からせてやる。
地を蹴る。魔狼の脚力は、私を今まで感じた事のない加速の中へと連れ去った。
私が飛ばしたナイフに、簡単に追い付いちゃった。
丁度いいや、これを目くらましに、人形の目の前にまで距離を詰めよう。
やっほう、私の姿、見えてますか?
ま、見えててももう遅いけどね。
飛ばしたナイフに向かって、蹴りを放つ。
さっきから散々おいたをしてくれた人形の右腕、その付け根に、ナイフを深く突き刺すように。
そしてそのまま蹴りを振り抜く。
蹴っ飛ばす先は……あの筋肉男だ。
別に動きを阻害しようって訳じゃない。
「そのお人形に愛着があるなら……今の内に抱き締めてやる事ですよ」
これはただの、私の優しさ。
「左腕も駄目にしちゃったら、もう抱き返せなくなっちゃいますからね」
だって失くす前にその大切さを噛み締めてもらわないと、奪う意味がないもんね。
お互いがお互いを、掛け替えのないものだと理解して、それから奪ってやれば……
きっとあの二人も、自分達がどんなにひどい事をしようとしていたのか、分かってくれるはず。
楽しみだなぁ。
やっぱり埋まってないやん
ちゃんと埋めとけよ
418:創る名無しに見る名無し
17/03/10 17:21:59.28 rTTFPp5m.net
0359 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28 04:03:24
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。
惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。
だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど私には、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。
……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。
毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。
私が、強ければ。
……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。
……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。
その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。
取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。
私はそれを、周りにばら撒いた。
私の、すぐ傍に。
これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。
いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。
だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。
……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。
炎の中に、弟の幻が見えた。
「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」
そして、私は宝箱を漁る。
取り出すのは、ポーション瓶。
その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。
この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。
凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。
そう、これはフェンリルの血。
あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。
都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。
419:創る名無しに見る名無し
17/03/10 17:22:22.50 rTTFPp5m.net
0359 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28 04:03:25
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。
惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。
だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど私には、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。
……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。
毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。
私が、強ければ。
……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。
……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。
その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。
取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。
私はそれを、周りにばら撒いた。
私の、すぐ傍に。
これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。
いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。
だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。
……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。
炎の中に、弟の幻が見えた。
「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」
そして、私は宝箱を漁る。
取り出すのは、ポーション瓶。
その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。
この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。
凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。
そう、これはフェンリルの血。
あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。
都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。
420:創る名無しに見る名無し
17/03/10 17:22:58.15 rTTFPp5m.net
0359 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28 04:03:27
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。
惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。
だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど�
421:рノは、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。 ……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。 毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。 私が、強ければ。 ……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。 ……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。 その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。 取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。 私はそれを、周りにばら撒いた。 私の、すぐ傍に。 これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。 いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。 だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。 ……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。 炎の中に、弟の幻が見えた。 「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」 そして、私は宝箱を漁る。 取り出すのは、ポーション瓶。 その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。 この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。 凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。 そう、これはフェンリルの血。 あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。 都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。 さあ埋めろよ有志
422:創る名無しに見る名無し
17/03/10 17:23:26.41 rTTFPp5m.net
0359 ◆ejIZLl01yY 2017/02/28 04:03:28
私の才能がなかったせいで。
私が弱かったせいで。
弟は死んでしまった。
惨めだった。
弱くて、弱くて、弱いせいで、弟を死なせてしまって、それでも自分の惨めさが気になる私が、すごく惨めだった。
だからカッコよくなりたくて。
お父さんお母さんの夢を、ダンジョンの奥底から掘り起こしたくて、冒険者に、トレジャーハンターになった。
だけど私には、それを成すだけの才能が、やっぱりなかった。
……私が強ければ、誰も殺さなくて済んだのに。
毒なんて撒かなくても、力でねじ伏せて、脅しつけて……ソルタレクの冒険者ギルドだって、やっつけて。
私が、強ければ。
……私は、弱い私が嫌だ。弟も、ミライユさんも、私の弱さが死なせたんだ。
……最後の力を振り絞って跳んで、稼いだ数秒。
その中で私は、宝箱に手を突っ込んだ。
取り出すのは両手いっぱいの軽銀爆弾。
私はそれを、周りにばら撒いた。
私の、すぐ傍に。
これで稼いだ数秒は、もうちょっと長くなる。
いくらあの人形でも炎のど真ん中を突っ切って私を殺しには来れないだろう。
だけど私もこの炎の檻からは抜け出せない。
……弱い私のままじゃあ、抜け出せない。
炎の中に、弟の幻が見えた。
「……見てて。私、今度こそ上手にやってみせるから」
そして、私は宝箱を漁る。
取り出すのは、ポーション瓶。
その中で揺れる真紅の液体は……オオネズミの血じゃない。
この血が秘めた力は、例え魔法の素養がなくたって、誰にでも感じ取れるだろう。
凄まじい大地の力と、世界をも呑み込むと謳われた魔獣の気配を。
そう、これはフェンリルの血。
あの古代都市で、フェンリルとテッラは私達が来る前から戦っていた。
都市のそこかしこにあった血溜まりから汲んできたそれを……私は、喉に流し込んだ。
さあ埋めろよ有志
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