90: ◆ejIZLl01yY
17/01/14 23:16:38.65 Zx5dZlfu.net
さておき、これでマナ濃度の違う、別の空間の存在があるとはっきりした。
後はマナの風が示す道に沿って進んでいけば……ほーら。
アスガルドで見たオオネズミよりも更にデカいネズミの群れが!
ってなんでやねーん!
中にはなんか二足歩行になってるのもいるし……これは良くない。
人間の姿に近づいてるって事は、力だけでなく知性をも手に入れようとしているって事。
洞窟を封鎖するのも納得だね。学生さんが食べられでもしたら、色んな意味で厄介だ。
えー、マナの風は確かにこの奥から吹いてきてるんだけど……私一人ならともかく、全員気づかれずに抜けるってのはリスキーかな。
「……始末しちゃいましょう。もしかしたら、何かを守っているのかも」
何らかの要因で知性を得た魔物や獣が、その源を崇め、守ってるってケースはたまにある。
それは別にマジックアイテムとかじゃなくて……この先の空間そのものかもしれない。
ていうかそうだったら嬉しいんだけどなー。
「私が仕掛けますね。仲間を呼ばれても面倒ですし、上手い事全部仕留めてみます。まぁ、ミスったらフォローお願いしますね」
ラテちゃん特製爆弾を使えばこれくらいはイチコロなんだけどね。
流石に洞窟の中でぶっぱなすのはなぁ。そんなリスクを冒すほど状況も差し迫ってないし。
と言う訳で宝箱から取り出しましたるは、ピックを数本と、ヘブンスパイダーの毒を一瓶と、ショートソードと、んふふふー。
そして私は周囲の風景に自分の気配を同化させた。
先端の鋭いピックは獣の分厚い皮を貫いて、塗りつけた毒を体内に届ける。
一応頚椎を狙ってはいるけど、毛皮で手元が狂っても良くないしね。
ちなみにヘブンスパイダーってのは麻痺毒に長けた蜘蛛のモンスター。
噛まれた獲物は痛みすら感じず、全身がリラックスしたように弛緩して死んでいくからヘブンスパイダー。
この毒は濃縮したり効能を強めるよう調合すれば大型のモンスターにも通用するから結構便利。
刺したピックは抜かない。血の臭いが強くなったらバレちゃうからね。
とは言え……抜かなくても、時間の問題ではある。
……気付かれた。私の居場所はまだバレていないけど、仲間を呼ばれたらそれだけで私としては仕事は失敗だ。
「まぁ、もう遅いけどね」
そして私は、分厚い皮の鞘に収めたままのショートソードを【不銘】に番え……後方に向かって射ち放った。
あ、勿論ジャンさん達から狙いは外してありますよ……っと、血の噴き出す音。
既にネズミ達の首に括り付けてあったヘブンスパイダーの糸が、ショートソードに強烈に引っ張られ、首を切断したのだ。
さっきのんふふふーはこの糸をぼかしてたのです。
なんでかって?だってその方がカッコよく決まるし……あと、ほら、ネタバレとかよくないし……。
ちなみにヘブンスパイダーの麻痺毒が優れている理由は、糸が強靭だけど伸縮性がなくて、獲物を捕まえるのに向かないから。
だけどこういう用途には大変便利で、毒も糸も優秀だからと、レンジャーの中には捕まえてきて飼育してる人もいるくらい。
私?実はこの宝箱の中には……ふふふ、なーんて。
91: ◆ejIZLl01yY
17/01/14 23:17:57.79 Zx5dZlfu.net
さておきショートソードも回収して、これで道は開けた。
「ちょっと前をお願いします。私は一旦、後ろに警報程度の罠を張っときます。
血の臭いで何か集まってくるかもしれませんので」
そんな訳で脆い糸と薄い金属板で鳴子を作り……私は首を失ったネズミ達の死体を見る。
そして未だにその断面から溢れる血を、宝箱から取り出したポーション瓶で回収する。
……いや、魔物の血って魔法薬の素材として優秀なんですよ。
こんだけ強化された魔物なら、それはそれは強い効能が期待出来るんです。
私にはそれ以外にも、別の用途があるしね。
でも私みたいな小娘が魔物から血を抜いてると大抵の人は変な目でこっちを見てくるの。
つらい。
だからちょっとこそこそとさせてもらいました。
ともあれ、マナの匂いもかなり濃くなってきてる。
「そろそろ、何かありそうな気がするんですけどね。壁とか床とか、
古代都市を隠してるなら魔法的な仕掛けがあるのかも……どれどれ」
【てけとーに話を進める下準備だけしときましたので後はよろでーす】
さーて!またもや余白が沢山だ!純度100パーセントの落書きを見せてやる!
……って意気込んだ時に限ってなんだか書く事が思いつかない。
うーん、うーん……あ、じゃあ今回は魔力を使うレンジャーについてでも。
昨日ティターニアさんがなんか珍しそうに見てたし、
もしかしたら以前に身体的素質だけでやってるレンジャーでも見た事あるのかもね。
さっきも書いたけど、素質がある人は生まれつき魔力をまるで体力のように使う事が出来る。
その結果生まれるのは強烈な身体能力。
言い方は悪いけど、生まれつき体の作りが魔物にちょっと似ている、と表現すると分かりやすいかな。
でも私はそんな才能はこれっぽっちもない村娘Aだったので、色々と訓練を積んだのです。
では本題。そもそもレンジャーと魔力、魔法って、そんなにかけ離れたものなのかな?って所から。
例えばアサシン。
その由来は古くに栄え今でも密教としてどこかに残っていると言われる、とある宗教。
そこでは老人が若者を攫い、山中の楽園で秘薬を振る舞い、極楽を味わわせ……目が覚めたら若者は下界にいる。
そして懐には人名と、「楽園に戻りたくば使命を果たせ」と記された紙切れ、それに短剣……
宗教を拠り所にして、人界から離れた地に住まい、極秘の薬物で人を惑わし、操る……これなーんだと言われて。
魔女ですって言われたら、あーって納得しそうじゃない?
それに狩りを司る神様って結構いるんだけど、その中でも超有名な女神アルテミス様。
彼女の従姉妹には魔術を司る女神ヘカテー様がいるのです。解釈によっては同一神と扱われたりもするけど。
まぁつまり狩猟者と魔術師ってかなり属性的に近いところにいるの。
狩人も自分達だけの毒薬を作り出したり、あらゆる自然と命を崇め、その恩恵を求めたりするしね。
トレジャーハンターも、古代の遺跡に挑むなら魔術や呪いへの知識が不可欠だ。
そう、私も色々と勉強してるのです。例えば……レンジャーズギルドでも教えてもらえない、古代魔法とかね。
なんか良さげなタイミングがあったら、ティターニアさんに振ってみたいなぁ。
誰もが忘れた、なのに皆が覚えてる、三つの古代魔法……どう?面白そうでしょ?でしょ!
……あれ?なんか話が脱線してるような気も。まぁいっか!
92:創る名無しに見る名無し
17/01/15 12:18:28.11 zYFqe272.net
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93:創る名無しに見る名無し
17/01/15 12:44:47.33 zYFqe272.net
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94:創る名無しに見る名無し
17/01/15 12:46:00.63 zYFqe272.net
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95: ◆BRRt8qoQM4qo
17/01/15 12:49:31.03 S9Ls+HXP.net
名前:シュマリ・シズカリ
年齢:17
性別:女
身長:162
体重:53
スリーサイズ:87/61/90
種族:獣人(狐系)
職業:ギルドメンバー・ハイ(上級)
性格:直情型
能力:スピード特化型の爪による攻撃、精霊術
武器:アイアンファング
防具:臍出し型のレザー・アーマー
所持品:マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:髪はボサボサの銀髪。狐耳が出ている。
簡単なキャラ解説:タイザン2世の店の従業員から急遽ギルド員にされた少女。
タイザンの亡き親友、ワッカの娘であり、妹と共にタイザンの元に引き取られた過去がある。
タイザンの事を心から尊敬しており、恋心に近い感情を持っている。それなりにギルドの特殊任務の経験あり。
名前:ホロカ・シズカリ
年齢:15
性別:女
身長:155
体重:46
スリーサイズ:81/59/86
種族:獣人(狐系)
職業:ギルドメンバー・コモン
性格:穏やかな性格であるが真面目で忠実
能力:精霊術を生かした補助系能力が中心
武器:小型のボウガン、ナイフ
防具:民族衣装のローブ
所持品:マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:銀髪の混じる黒髪で直毛
簡単なキャラ解説:姉・シュマリと同じでタイザン2世の店の従業員から急遽ギルド員にされた少女。
ギルド員としての訓練を積んでおり、才能はあるが、破壊を嫌い、人殺しなどの仕事を毛嫌いしている。
96:創る名無しに見る名無し
17/01/15 12:50:04.48 zYFqe272.net
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97:創る名無しに見る名無し
17/01/15 12:50:22.09 zYFqe272.net
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98: ◆6Nqsyb3PfY
17/01/15 12:50:24.32 S9Ls+HXP.net
名前:タイザン・シモヤマ2世
年齢:51
性別:男
身長:177
体重:68
スリーサイズ:痩せ型に見えるが引き締まっている
種族:人間
職業:ギルドマネージャー/料理人
性格:非常に奇を衒うが中身は常識人
能力:火を操る能力・刀剣術
武器:秘刀「カムイ」
防具:鎖帷子の上に白い独特の模様の衣服と帽子
所持品:食材やレシピ、マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:東国系。髪は黒で長く、頭頂部が禿げている。
簡単なキャラ解説:ハイランド連邦共和国の自治都市インカルシペの出身。
父・タイザンの酒場兼ギルドを引き継ぎ、酒場とギルドのマスターをしていたが、
突如ソルタレクのギルドにより併合され、マネージャーに抜擢される。
本人は旅に出て帰らぬ人となった父が考案した「カレー」を究極のものにすることに余念がない。
マトイという一人娘がいる。インカルシペの仲間たちならず、仲間をとても大切にする性格
名前:シュマリ・シズカリ
年齢:17
性別:女
身長:162
体重:53
スリーサイズ:87/61/90
種族:獣人(狐系)
職業:ギルドメンバー・ハイ(上級)
性格:直情型
能力:スピード特化型の爪による攻撃、精霊術
武器:アイアンファング
防具:臍出し型のレザー・アーマー
所持品:マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:髪はボサボサの銀髪。狐耳が出ている。
簡単なキャラ解説:タイザン2世の店の従業員から急遽ギルド員にされた少女。
タイザンの亡き親友、ワッカの娘であり、妹と共にタイザンの元に引き取られた過去がある。
タイザンの事を心から尊敬しており、恋心に近い感情を持っている。それなりにギルドの特殊任務の経験あり。
名前:ホロカ・シズカリ
年齢:15
性別:女
身長:155
体重:46
スリーサイズ:81/59/86
種族:獣人(狐系)
職業:ギルドメンバー・コモン
性格:穏やかな性格であるが真面目で忠実
能力:精霊術を生かした補助系能力が中心
武器:小型のボウガン、ナイフ
防具:民族衣装のローブ
所持品:マジックアイテム等
容姿の特徴・風貌:銀髪の混じる黒髪で直毛
簡単なキャラ解説:姉・シュマリと同じでタイザン2世の店の従業員から急遽ギルド員にされた少女。
ギルド員としての訓練を積んでおり、才能はあるが、破壊を嫌い、人殺しなどの仕事を毛嫌いしている。
99:創る名無しに見る名無し
17/01/15 12:51:00.23 zYFqe272.net
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100:創る名無しに見る名無し
17/01/15 12:51:37.00 91gubEOg.net
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101: ◆6Nqsyb3PfY
17/01/15 13:29:38.25 S9Ls+HXP.net
―<アルガルドのとある宿にて>
ミライユから放たれた通信石は光状になり、アスガルドの宿の壁を貫通してタイザンの元へと届いた。
それはタイザンが持つ通信板と呼応し、空中で内容を伝える。
「んー……」
既に義�
102:ットって訳ね。ミライユは頭は良いんだけど…… 色々余計なことしてないと良いけどなぁ) 鎖帷子を着込んで身支度をしながらもブツブツと文句を言う。
103:創る名無しに見る名無し
17/01/15 13:31:22.62 SSDttvr/.net
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104: ◆6Nqsyb3PfY
17/01/15 13:32:54.71 S9Ls+HXP.net
タイザンは、あまり現状について満足していない。まるでミライユの下請けのような扱い。
それも酒場のマスターとしてギルド支部を仕切っていたら、突然ソルタレク側から合併の話が来た。
彼は料理以外のことはオマケのようなものだと思っている。父は全てを尊敬するほどの人物ではなかったが、
父と同じぐらい料理についてのプライドは高い。よって武器は常に料理用具になるものを持ち歩いている。
それも親友から預かった娘を勝手に配属されてしまった。せめて片方ぐらいは残したかったのだが。
ホロカに残れと言えば、泣いて嫌がるものだから、店は臨時休業で大打撃だ。
大体、タイザンという名前を受け継ぐのも嫌だったのだ。自分には「ナオユキ」という名前がある。
父も元々は「ヤスユキ」という名前だったのが、勝手に「タイザン」を名乗って代々継がせるらしいのだ。困ったものだ。
そして、さらに困ったことがあった。
「なあ、マスター。任務が来たんだろ? 内容をオレたちにも教えてくれよ!」
これだ。元々の肩書きが「マスター」なために「マネージャー」にして「マスター」と呼ばれる。
「あのさ、シュマリ。僕のことをマスターって呼ぶのはやめてくれない? 任務中はせめてね。向こうのマスター怖いのよ。
タイザンとか、マネージャーとか、あるでしょ他に」
「りょーかい、タイザンマスター!」
ホロカが脚をパタパタさせながら答える。二人とも向かいのベッドに並んで腰掛け、
早く行きたいとばかりに張り切っているようだ。シュマリは獲物の爪を磨いている。
タイザンは頭を抱えながら、渋々と立ち上がった。
「……じゃあ、朝ごはんにしようか。二人とも、鍋の用意して。
食材は、昨日の昼から決めてる。調理方法はは僕に任せてもらっていいよ。
食べ終わったら胃を悪くしないように、ゆっくり行こう。徒歩で。地図はあるからね」
各地で集めてきた食材・出汁とアスガルドの食材を合わせた鍋は、予想以上に美味だったようで、
特に食べ盛りの娘二人は迷わずおかわりをした。その間にタイザンは今回の任務について説明をする。
「ってことでさ、ギルドの資料によると入り口を封鎖して念のため一人見張りを置くのがベストみたいだけど、
そこは見張りを片付けてから決めようか。ミライユはああ言ってるけど、逃がしさえしなければ、殺す必要なんてないからね」
タイザンがコック帽を被っていたことに気付き、慌てて道具入れに畳んで仕舞う。
こんなものが見られてしまったらギルドマネージャーとしての面目がたたない。
その代わりに、下手をすればそれ以上に目立つ禿げ上がった頭頂部が丸出しになったが……
(……やっぱり朝食にカレー用のスパイスは拙かったかな……!?)
このようにゆっくりと朝食を味わった三人は、ミライユの予想よりも遅れて洞窟へと向かっていった。
【以上、支援の三人組登場シーンでした。このキャラたちはタイミングを見ながら
ミライユのターンで出していきますのでよろしく!】
105:創る名無しに見る名無し
17/01/15 13:33:14.29 SSDttvr/.net
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106:創る名無しに見る名無し
17/01/15 13:43:50.02 0w6xqI+N.net
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107:創る名無しに見る名無し
17/01/15 13:44:05.03 0w6xqI+N.net
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108:創る名無しに見る名無し
17/01/15 13:44:28.53 0w6xqI+N.net
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109:創る名無しに見る名無し
17/01/15 13:45:35.21 0w6xqI+N.net
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110:創る名無しに見る名無し
17/01/15 15:26:54.60 oDnZgUGE.net
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111:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:08:42.03 aWeqpg4N.net
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112:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:09:31.56 aWeqpg4N.net
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113:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:13:26.39 aWeqpg4N.net
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114:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:15:01.93 aWeqpg4N.net
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115:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:35:27.37 AQ8gJxjo.net
埋め
116:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:35:40.16 AQ8gJxjo.net
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117:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:38:38.4
118:9 ID:AQ8gJxjo.net
119:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:39:17.36 AQ8gJxjo.net
埋
120:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:39:27.64 AQ8gJxjo.net
め
121:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:39:46.86 AQ8gJxjo.net
ま
122:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:39:59.82 AQ8gJxjo.net
す
123:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:40:29.61 b50VSs0c.net
埋め
124:創る名無しに見る名無し
17/01/15 19:40:54.18 WKTyiryX.net
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125:創る名無しに見る名無し
17/01/15 20:14:40.12 OFMGNHHr.net
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126:創る名無しに見る名無し
17/01/15 20:15:58.99 OFMGNHHr.net
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127:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/01/16 21:09:25.55 gdIl8BgC.net
ジャンの朝は他種族に比べ、やや遅い。
それはジャン個人の体質というわけではなく、単純にオーク族そのものがそういった体質なのだ。
オーク族の神話が語るところによると、かつて夜に生きていたオーク族は戦争において
夜襲や見張り、両方に重宝されていたが昼に生きる他種族によって絶滅の危機に追い込まれた。
しかし、少数のオークが昼に目を覚まし、見張りをすることで無事に絶滅を防ぐことができたという。
今では他種族との交流が進んでいるためオーク族も夜行性の者が減りつつあるが、神話の名残として
夜遅く寝て、朝遅く起きるというオーク族の数は多い。
だからこそ、ミライユとラテの行動にも気づいていた。
ジャンにはよく分からなかったが、二人は寝る直前にあまり好意的でないやりとりをしていたようだ。
(ミライユの部下かもしれなかったが……こりゃ揉めるかもな)
朝起きたとき、二人は特におかしい様子はなかった。
両方とも賊の襲撃に備えてか警戒をしてくれていたようなので、もしかしたら勘違いをしていたかもしれない。
ジャンは市場で買った焼き野菜串と焼肉串を朝飯代わりに食べつつ、ティターニアの三歩後ろについてテッラ洞窟へと向かう。
洞窟の入口には警備兵が立っていた。学生が肝試し代わりに入るには少々物々しい雰囲気だが、
これも最近続いている魔物の活性化のせいだろう。
>「ユグドラシア導師、ティターニアだ。近頃強いモンスターが出現するようになったと聞き馳せ参じた」
「その護衛兼助手、ジャン・ジャック・ジャンソンだ」
ティターニアが学園の身分証を見せるのに続いて、ジャンもギルドの身分証を見せる。
根無し草とか浮浪者扱いされることも多い冒険者にとって、ギルド公認というのはとてつもなく大事なものだ。
もしここで身分証がなければジャンは警備兵に警戒され、一人だけ確認のために足止めを受けていたことすらありえる。
(だからまあ、ミライユが勧めてくる気持ちも分からなくもないんだけどよ……
そりゃ首府にあるギルドの方が有名だろうしな)
(でも、俺を初めて冒険者として受け入れてくれたのはあそこだ。その恩義に反することはできねえよ)
改めてスクリロの冒険者ギルドマスターに感謝しつつ、ジャンも洞窟へと入っていく。
128:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/01/16 21:10:17.55 gdIl8BgC.net
だが、入っていく途中、妙なことに気がついた。いつの間にかミライユが後ろにいる。
「取材の報告でもしてんのか?俺の話がネタになると嬉しいけどな」
取材という目的をジャンはあまり信じていなかったが、それでももしジャンやティターニアたちの冒険が
文字になり、詩になり、物語となれば、ジャンの旅の目的は達せられたようなものだ。
だからこそ、せめて本当であってほしいと一縷の望みをかけてミライユに言った。
>「……うん、風を感じます。濃いところから薄いところへ流れる、マナの風を」
さて、洞窟に入ってしばらく進んでいるとラテが何かに気づいたようだ。
ラテのすぐ後ろを歩くジャンはミスリル・ハンマーを短く持ち、狭い洞窟内でも最小限の動きで戦えるように構える。
通路をさらに進んだところで、街で見たものよりさらに大きいオオネズミの群れに出くわした。
>「……始末しちゃいましょう。もしかしたら、何かを守っているのかも」
>「私が仕掛けますね。仲間を呼ばれても面倒ですし、上手い事全部仕留めてみます。まぁ、ミスったらフォローお願いしますね」
その言葉に無言でジャンは頷き、ラテを邪魔することがない通路の端へ移動する。
いつでも飛び出せるよう、リーダー格であろう二足で歩いているオオネズミへ狙いを定めることも忘れずに。
結局、ジャンが出る必要はなかった。オオネズミたちの首が音もなく吹き飛び、噴き出した血が地面や壁を染めていく。
ついでにジャンはオオネズミの肉も確保しておくことにした。
他種族が食べても平気かどうかは知らないが、ジャンはこの大きく締まったもも肉が好きなのだ。
というわけで干し肉の材料にするべく手早く解体していると、ジャンが解体しようとしたオオネズミをラテが血抜きしてくれている。
「お前……オオネズミ食うのか?わざわざ血まで抜く辺り、さては無類のオオネズミ好きなんだな…」
自分と同じオオネズミ食いが仲間にいたことに感動し、干し肉を作ったら分けてやろうとジャンは決意していた。
>「そろそろ、何かありそうな気がするんですけどね。壁とか床とか、
古代都市を隠してるなら魔法的な仕掛けがあるのかも……どれどれ」
「そうだな、見たところこいつらがいた広間が行き止まりみたいだが…あっおい!」
干し肉に使えそうなオオネズミの部位を専用の革袋に入れ、解体を終えたところで気がついた。
飛び散った血がこびりつく地面をよく見てみると、ジャンには読めない文字で紋様が円状に刻まれている。
死体の残骸をどかしてみれば、そこには刻まれた文字にオオネズミの血が流れ込み、血の魔法陣とも言うべき形を成していたのだ。
「……古代都市への入口というより、これじゃ冥界への入口だな」
129:創る名無しに見る名無し
17/01/17 10:00:51.90 oaiL8x7o.net
埋め
130:創る名無しに見る名無し
17/01/17 10:01:17.98 Ab3qDE8c.net
埋め
131:創る名無しに見る名無し
17/01/17 10:01:38.19 qRwMSOtR.net
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132:創る名無しに見る名無し
17/01/17 22:38:34.39 XjYYaH2o.net
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133:創る名無しに見る名無し
17/01/17 22:38:53.36 XjYYaH2o.net
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134:創る名無しに見る名無し
17/01/17 22:39:11.94 XjYYaH2o.net
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135:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/18 02:06:01.92 6K4Y6PbZ.net
昨日の夜ミライユがラテにちょっかいを出していたようだが、あれは何だったのだろうか―と思うティターニア。
魔力が大きく動いた気配がしたのでうっすら目が覚めたのだが、ラテが気に留めていない様子だったのでそのまま寝てしまった。
本人があの様子だったということは、おおかた他愛のない悪戯なのだったのであろうが……。
>「……ユグドラシア導師!?えっ、嘘、めちゃくちゃ偉い人じゃないですか!」
>「という事はもしかして、この洞窟に潜るのもフィールドワークの一環とか!?」
>「専門は……確か考古学でしたよね!それって環境魔法学とか、古代魔法とかについても調べたりするんですか?」
ラテが興味津々といった感じで食いついてきた。
あからさまに顔には出さないものの、満更でもなさそうな様子で応えるティターニア
「何、確かに人間で導師になった者は物凄い天才揃いだがエルフの導師連中はおおかた年の功といったところだ。
お主勘が良いな、概ね正解だ。実際に様々なところに行って忘れ去られた真実への扉を開く……それが我々の仕事となる。
もちろん詳細な解析は個々の専門の者に委ねることになるがな。
この前行った遺跡ではな……おっと、長くなるゆえ帰ってから話すとしよう。
ミライユ殿、どうしたのだ? 行くぞ」
思わずヴォルカナやステラマリスのことを普通に話してしまいそうになるが流石に思いとどまり
いつの間にか後ろの方にいたミライユに声をかけて、洞窟へと入っていく。
夜目が効く種族補正の無いラテやミライユが困らぬように杖の先に明かりの魔術を灯す。
>「じゃ、先行しますね……って言っても、まぁとりあえずは普通に奥を目指す事になりますけど。
……くんくん。うーん、マナの流れはまだ感じ取れないかな」
しかし、どうやら魔力の流れが読めるラテには必要なかったようだ。
レンジャーとして積極的に先行するラテの後姿を見ながら、まだ少女であろう若さで大したものだな―思う。
これは天性の素質があったか……もしそうでなければ余程の努力を積み重ねたかのどちらかであろう。
>「……うん、風を感じます。濃いところから薄いところへ流れる、マナの風を」
>「あ、ちょっと待って下さいね。もうちょっと匂いを分かりやすくします」
ラテがマジックアイテムの力を借りて、魔力の流れをティターニアにも分かるようにして見せる。
そこに存在する魔力を感じ取る力自体は本業の魔術師であるティターニアの方が上かもしれないのだが
どちらからどちらへ流れている等の動きを感じ取るにはまた別の訓練が必要のようだ。
>「……うん、風を感じます。濃いところから薄いところへ流れる、マナの風を」
マナの風に沿って進んでいくと、そこは巨大ネズミやら二足歩行のネズミが闊歩するネズミーランドと化していた。
確かに魔力には溢れているがあまり夢のある光景とは言えない。
>「……始末しちゃいましょう。もしかしたら、何かを守っているのかも」
>「私が仕掛けますね。仲間を呼ばれても面倒ですし、上手い事全部仕留めてみます。まぁ、ミスったらフォローお願いしますね」
杖を構えるティターニアだったが、ラテがそう言うのでお手並み拝見ということで、ジャンと共に下がっておく。
数瞬後―
136:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/18 02:08:14.55 6K4Y6PbZ.net
「す、すごい……!」
高出力の魔力で吹っ飛ばす良く言えばシンプル悪く言えば力押しの戦法が中心のティターニアは
ラテのトリッキー且つ鮮やかな手腕にテンプレ驚き役のごとく感心していた。
>「ちょっと前をお願いします。私は一旦、後ろに警報程度の罠を張っときます。
血の臭いで何か集まってくるかもしれませんので」
>「お前……オオネズミ食うのか?わざわざ血まで抜く辺り、さては無類のオオネズミ好きなんだな…」
前を警戒しながら、ジャンの小さな勘違いにくすりと笑う。
魔物の血が魔法薬の素材になることを皆が皆知っているわけではないのだ。
「ジャン殿、それは……まあ良いか。食べてみれば新たな扉が開けるかもしれぬ」
>「そろそろ、何かありそうな気がするんですけどね。壁とか床とか、
古代都市を隠してるなら魔法的な仕掛けがあるのかも……どれどれ」
>「そうだな、見たところこいつらがいた広間が行き止まりみたいだが…あっおい!」
ジャンが何かを発見したようだ。
見れば、偶然にもオオネズミの血が染み込んだことにより、普通なら気付かなかったであろう魔法陣が露わになっていた。
>「……古代都市への入口というより、これじゃ冥界への入口だな」
「ああ、そういえばここにあると噂されておるのは地底都市アガルタ―各伝承によって楽園とも地獄とも謳われておるな。
これは形からいって転送魔術陣のようなものかもしれぬ―この文字……ラテ殿の盾の文字に少し似ておらぬか?」
おおかた雰囲気が似ているだけだったのだろうが、もしかしたら本当に同じ種類の文字だったのかもしれない。
しかしそれを確かめることは出来なかった。
間近で魔法陣の文様を検めようとしたところ―轟音と共に地面が大きく揺れた。
おそらく洞窟に入る前にあったものと同じものだが、震源が近いために遥かに大きい。
天上から礫がパラパラと落ちてくる。
「まずいな……崩落でもしたら……」
そう言いながら上を見上げていると、間髪入れずに次の激震―
今度は立っていることすらかなわぬほどの揺れ。反射的に頭を庇うような姿勢を取るティターニア。
そんな中で、魔法陣から眩い光が迸ったかと思うと、そこから風景が塗り替わっていく―ように見えた。
転移魔法陣が発動したのか、あるいは―それは空間を隔てる結界を繋ぎとめる杭のようなものだったのかもしれなかった。
137:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/18 02:09:56.31 6K4Y6PbZ.net
*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*
気が付くと一行は、黄の宝石で彩られた古代都市に立っていた。
しかしゆっくりと周囲を見回している場合ではなく、まず最初に目に飛び込んできたのは、激しい戦いの様子。
≪何故扉を開き奴らを招き入れた!?≫
「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者―何故分からぬのですか!?」
≪我は認めぬ―奴らは昔から甘いのだ! 非情になれぬ者達に世界を変える事など出来ぬ!≫
黄金色にも近い黄色の竜の翼を生やした金髪の女性―大地の竜テッラと
巨大な狼の姿をした獣、アガルタの守護聖獣フェンリルが、地を揺らし礫巻き上げる戦いを繰り広げていた。
フェンリル、その名の意味は「地を揺らす物」―地震の正体は、この戦いの余波だったらしい。
彼らはジャンとティターニア達に指環を託すかどうかを巡って争っているようだった。
「まさか……内輪もめか……?」
ティターニアの呟きに、大地の竜テッラが答える。
「ジャン様、ティターニア様、お仲間の皆様……お見苦しいところを大変申し訳ありません―とにかく今は加勢をお願いします!
この分からず屋に貴方達の力を見せてやって下さい!」
「仕方あるまい、行くぞ―!」
ティターニアが加勢に入ろうとしたときだった。
荒れ狂っていたフェンリルがはたと動きを止め、一行の方に歩み寄ってくる。
その瞳は、ミライユの方を真っ直ぐと見つめていた。
≪そなた、他の者達とは違うな―冷酷で無慈悲で何よりも純粋―
我は思うのだ、世界を変え得るのはそなたのような者だと。
もしもそなたが指環を欲するなら、力を貸そう―娘よ、力が欲しいか―!≫
ミライユに向けて唐突に発せられた荘厳な問いかけ―
あまりの展開に、ティターニアは息を飲んでミライユの返答を待つしかなかった。
【一応ジャン・ラテ・ティターニア・テッラVSミライユ・フェンリル・(増援3名)
の対戦カードを組んでみたつもりだがもちろんここからどういう流れになるかは皆次第だ!】
138:創る名無しに見る名無し
17/01/18 19:59:44.16 ilVEVhxz.net
埋め
139: ◆6Nqsyb3PfY
17/01/19 13:36:39.22 BUszQBJk.net
「これでいいのかなぁ?」
タイザンら3名はテッラ洞窟の見張りを不意をついて沈黙させ、処遇について話していた。
「二人ほど殺っちゃったけど……残りはどうすんだ? マスター」
「仕方ないなぁ……シュマリは手加減できないの、直した方がいいよ。じゃあさ、そこらの木まで運んで縛ってもらえるかな。
シュマリ、ホロカ。特製スパイスで眠らせておいたから、後は頼める?」
タイザンは二人に倒れた警備兵たち四名の処遇を任せて、二名の犠牲者の処理をしながら、
一人娘、マトイのことについて思い出していた。
懐からメモを取り出し、マトイのギルドNoを確認する。
(『No.1012 マトイ・シモヤマ』 マトイは最近おかしかったね……
向こうのマスターが凄く良い人だとか言ってた。最後に会ったときも笑顔だったけど、
本当に無事なんだろうか……)
死体を埋め、形跡を消して、入り口を封鎖する準備をしている間に、二人が戻ってくる。
「はーい、ありがと。ところでホロカ、ちょっとここで警備兵の服装に着替えて、残ってもらえる?
すぐ終わるからさぁ、どうせ誰も来ないと思うよ」
「えぇ~!? 嫌だぁ、わたしもお姉ちゃんと行く~」
「……仕方ないなぁ、じゃあ、完全に入り口封鎖しとくから、できるだけ前出ないように注意して。行くよ」
タイザンは最後に会ったときのミライユの顔を浮かべながら、僅かに寒気がするのを感じた。
(あの子は有無を言わせないところがあるから……本当に気をつけないと)
―一方、ミライユは―
>「……これは、いよいよ怪しいですね。匂いますよ、お宝の匂いがします」
既にミライユも感じているのだ。この洞窟の奥底にある魔力の流れを。
(しかし、このラテという女もなかなかの使い手のよう。マスター、私、頑張ります!)
「むっ!? あれはオオネズミ! しかも結構大きいですよ……!」
あくまで後方支援とばかりに安全な位置を確保しながら近づいていくミライユ。
ラテの様子を観察する。そうやらピックと毒と剣を使い、何やら仕掛けているようだ。
アサシンギルドの視察でみたようなものだ。
(あんな仕掛けじゃすぐバレちゃいますよ……って……!)
巨大なネズミの首が一瞬で切断され、既にラテはその死骸の片付けやら採集やらをしている。
どうやら侮れない相手であるころは間違いないらしい。
140: ◆6Nqsyb3PfY
17/01/19 13:55:37.56 BUszQBJk.net
「へぇー、ラテさん、これは、大手柄ですよ!
141:!」 適度にラテを褒めておく。 驚きを悟られないように、ジャンと共にオオネズミの肉の処理をした。結構な肉量になりそうだ。 やがて血が魔方陣になるなどの紆余曲折あって、洞窟の床は崩落、 一行は下のフロアに立っていた。 「古代都市……!?」 ティターニアの知識ではアガルタというらしい。 正直、殺しの経験ばかりはあるが、ミライユはこういった遺跡などの知識は殆ど無いに等しい。 彼女がいなかったら自分が何をすれば良いのかも分からないだろう。轟音のような叫び声のような音が響いてくる。 (深入り、し過ぎましたかね……) ミライユは身体を起こすと、ハネた髪に付いた土を払いながら、髪の隙間から見開いた目を覗かせていた。 魔力の居場所が目の前に迫っているのだ。 正直なところ、これだけの深追いをしている自分に驚愕している。 あくまで自分の目的は「ティターニアの監視」なのだから。しかし、指環の在り処の特徴と一致する部分はいくつかある。 恐る恐る様子を見ると、どうやら竜の翼を生やした女と、巨大な狼が戦っているようだ。 自分が必死であることを周囲の三人に悟られないように、集中力を凝らして他の魔力や精霊力を検地する。 と、増援のタイザンたちがこちらに向かってきているのが分かった。 あと二人もいればこの状況で自分の手足になるにはこと足りるだろう。 「……って、三人!?」 泥や土まみれになりながら、タイザン、シュマリ、ホロカがそこには居た。 ティターニア、ジャン、ラテもほぼ同時に彼らが登場したことに気付いていた。 いや、ティターニアあたりは既に感知していたかもしれない。 タイザンたちにはティターニアについては「取材と護衛」ということで表面上は済ませると 伝えてある。ただし裏ではギルドにとっての危険人物であると周知されているのだ。 手っ取り早く紹介を済ませる。 「タイザンさん、お久しぶりです。こちらの方が導師ティターニア様。 あ、ティターニア様。私が急遽増援としてソルタレクから派遣した護衛のタイザンさんです。 ってことでタイザンさん。主に、護衛を、よろしくお願いしますね! ところで……」 「あぁ、うん、ミライユちゃん、よろしく頼むよ」 「"連絡役"は一人用意してあるんですよね?」 「あぁ、それは必要無かったよ」「タイザンマスターがいらないって言ったから!」 「タイザン、"マスター"? あのですね、No.1188・ホロカ・シズカリ。タイザンさんはマネージャーですよ? マスターはソルタレクのギルドマスター一人だけ。分かった?」 ミライユがホロカの黒髪の頭を撫でるようにして、内側から力を加える。 ホロカはやがて涙目になって、その場を素早く離れ、シュマリの後ろに隠れた。 タイザンがため息をつく。 「ほら、だから言ったでしょ。僕はただのタイザンだから。ここからはとりあえず ミライユちゃんの指示に従って」 「怖いよ、お姉ちゃん……」 ホロカがシュマリの後ろに隠れ、ミライユを遠巻きに見る。 (お姉ちゃん……? うっ、頭が……) ミライユは過去の思い出したくもない出来事を思い出していた。
142: ◆6Nqsyb3PfY
17/01/19 14:22:31.22 BUszQBJk.net
「お母様!」
首府ソルタレク。当時まだ12歳だったミライユの屋敷はローブを着た集団によって襲われていた。
魔術師でもあった母はそれらに応戦していた。敵の頭は空中を浮遊する、露出度の高い服装をした魔女だった。
何度かミライユも会ったことがある。それは父の不倫相手でもあったのだ。
いずれはこうなるだろうと予想はしていたものの、あまりにもそれは早くきた。
「ミライユ、護衛のいるメルセデスの部屋に下がってなさい。あなたは脱出するの!
あれは"指環の魔女"よ。私たちを裏切った化け物! あぁっ!」
母が魔女の炎によって焼かれていく。屋敷でも護衛とフードの集団が戦っていたが、流れは見えていた。
メルセデス……ミライユの最愛の姉はギルドに所属していた。15歳ながら剣の腕は確かだった。
「お姉さま、私、どうしたら良いんですか?」
「ミライユ、ここには護衛の騎士もいるし、お父様がきっと私たちのことは助けてくれるわ。
だから、指示があるまで待ってて。あなたはまだ戦えないんだから」
やがて父が現れた。その姿は何かに取り付かれたようで、何も見ていなかった。
「お父様!!」
ミライユが叫んでいる間に、父は次々と見張りの騎士たちを殺していった。
「ミライユ、下がって!」
姉・メルセデスが剣を抜く。そして迫り来る父にその切っ先を向ける。
ミライユの顔に生暖かい何かが大量に散った。
―それは姉の血液だった。どろりとそれを浴びたミライユは、落ちている槍を拾い、振り回していた。
「お姉さま! 嫌アァァァァァァ!!!!――」
そこから先は覚えていない。父は死体となって発見され、いつの間にかミライユは
冒険者ギルドのメンバーのよって助けられていた。
後から聞いた話によると、母が父と不倫相手である"指環の魔女"との関係を察し、
先に冒険者ギルドにも増援を寄越したらしい。魔女の組織はギルドと敵対しており、調度それらは駆逐された。
その後、ミライユは冒険者ギルドの一員となって少しでも強くなるために非正規メンバーとして様々な任務をした。
既に12歳にして「人殺し」になっていたミライユは比較的活躍したが、それでもベテランには到底及ばないものだった。
時には裏通りに呼び出され、収穫物を取られたり、理不尽な暴力を受けたりもした。それはエスカレートした。
当時の冒険者ギルドはまとまりが無く、ギルド員と荒くれ者が混在している状態だった。
任務が終われば取り分をめぐって争いが起こることもしばしばであり、ついに目をつけられたミライユは、
何か気に入らないことがある度に荒くれの男女に取り囲まれ、暴力を振るわれてはモノを奪われた。そしてミライユは心を壊した。
ただ笑うことで感情を押し殺し、我慢するようになっていた。
―しかし、それもある男の登場で変わる。
それが今の「マスター」だった。彼は裏通りの荒くれや、冒険者ギルドに片足を掛ける狼藉者を次々粛清していった。
やがてミライユもその一員になり、報復を行った。そして殺しの快感を覚えてしまった。
そこからは当然のような流れだ。ミライユが受けた分の嫌がらせを相手に対してすることで、自分の気を紛らわす毎日だった。
服を脱ぎ、自分の身体に刻まれた暴力の傷を見るたびに、それを誰かになすり付けたくなる。ミライユの心は荒んでいた―
143:ミライユ ◆6Nqsyb3PfY
17/01/19 16:08:12.87 BUszQBJk.net
(はッ、何を考えているんでしょう……私は、今から大事なことが、起こりそうなのに……)
目の前では竜女とフェンリルが言い争いをしていた。
>「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者―何故分からぬのですか!?」
>≪我は認めぬ―奴らは昔から甘いのだ! 非情になれぬ者達に世界を変える事など出来ぬ!≫
アガルタとティターニアが呼ぶ遺跡の住人たちの会話の内容を、冷静になって分析する。
女は恐らく竜……指環を持っているのだろう。そしてフェンリルの方は会話内容からすると、
ついさっきまで仲間として共に行動していたということで間違いない。
「いいですか……彼らが何を話しているか、落ち着いて聞いていてくださいね」
後ろにいるタイザンたちに目配せする。
>「ジャン様、ティターニア様、お仲間の皆様……お見苦しいところを大変申し訳ありません―とにかく今は加勢をお願いします!
この分からず屋に貴方達の力を見せてやって下さい!」
>「仕方あるまい、行くぞ―!」
「お知り合い……ですか?」
ジャン、ティターニアの名前、それを知るタイミングといえば、警備兵に名前を告げたあたりだろう。と普通は思う。
少なくともミライユにはアクアの件を知る由は無かった。
(となると、警備兵を始末するときに、タイザンは持ち物や仕掛けの確認を怠っていた……と)
チッ、と舌打ちが思わずミライユからこぼれる。
頭を抱えていると、何やらフェンリルの方がこちらに向かっている。ミライユの方だ。
あっさり女と停戦するあたりは、未だに交渉の余地があることと思われた。
急過ぎる。さすがの戦闘慣れしたミライユもこれには後ずさる。これだけの高位の魔物はそういまい。
144:ミライユ ◆6Nqsyb3PfY
17/01/19 16:13:15.43 BUszQBJk.net
≪そなた、他の者達とは違うな―冷酷で無慈悲で何よりも純粋―
我は思うのだ、世界を変え得るのはそなたのような者だと。
もしもそなたが指環を欲するなら、力を貸そう―娘よ、力が欲しいか―!≫
(力……? 欲しいに決まっているでしょう。
そして世界を変えられるのも、この中には私しかいません。しかし……)
「シュマリ。あなたにこの任務をお任せします。"インカルシペ最高の守護戦士"と呼ばれるあなたにこそ相応しい力。
獣人の誇りというものを、見せてあげなさい! 故郷を助けたのはどこでしたか?」
シュマリは面食らったような表情でタイザンや他の面々の方を見渡した。
タイザンは汗をかきながら、とりあえずといった様子で首を縦に振る。ホロカは混乱していて返事ができる状態ではない。
ティターニアたちの表情からは初対面のシュマリからは何も分からない。
ただ、ミライユの有無を言わさぬ表情が、シュマリを睨んでいる。
「シュマリ。大丈夫、必ず助けてあげるから」
タイザンのその一言が決定打となり、シュマリの覚悟を決めた。
「分かったよ。マスター。オレ、力、欲しい。オレがこの場を動かしてやる。くれよ、力ってやつを……!」
≪仕方あるまい。言われてみればこちらの娘も心は違えど"資質"は持っている様子。
では獣人の娘よ。我が敵、地竜テッラを討ち滅ぼしてみせよ。オォォォ―≫
「ふっ、ぐぁっ、フオォォォォォォ……―ン!!
あぁっ、すげぇよ……すっげぇ力だよぉ、オォォォ……!!」
巨大なフェンリルが雄叫びを上げると、その巨体がオーラの塊になり、シュマリを襲う。
雄たけびのような声と共に、それを受け入れたシュマリの髪が伸び、全身から禍々しいオーラと衝撃波を放った。
思わずミライユたちは吹き飛ばされる。
目は真っ赤に染まり、それはただ一点、大地の竜である女の方を見ていた。
「愚かな……そのような娘に力を与えても、操れる力ではない―」
テッラは突如襲いかかるシュマリの猛烈な攻撃を受け止めた。しかし、フェンリルの強力な打力と魔力にシュマリの速度と鋭さが相まって、
もはや人間形態だけではその攻撃を受け止めきれないようだ。
一撃、一撃がテッラに入るごとに、皮膚が破れ鮮血が舞い、やがて翼の皮膜にも穴が空きはじめた。
限界を察したテッラは呪文のようなものを唱えると、一同へと言い放つ。
「どうやらフェンリルの力を侮っていたようですね。私はこれより真の姿にならねばなりません―
私の能力もやはり理性が飛びかねない膨大な力を要するものです。先にお伝えします。
そこから現れる指環、ティターニア様とお仲間の方々に託します。私がフェンリルを止めている間に指環を取ってそこの
魔方陣から脱出なさい。それと、その娘は―グゴッ、ゴゴゴオゴ……」
145:ミライユ ◆6Nqsyb3PfY
17/01/19 16:17:22.92 BUszQBJk.net
テッラが両手を天にかざすと、まばゆい光とともに脇の祭壇が崩れ、そこから
一本の柱がせり出してきた。それは初めは人間の背丈四方ほどだったが、徐々にピラミッド状に伸び、一番天辺に
まさに黄金色に輝く"指環"が現れた。同時に魔方陣も出現する。
巨大な黄金のドラゴンとなったテッラは徐々に押し返し、シュマリをブレスや爪により傷つけていく。
シュマリは何の因縁もないテッラに攻撃することを強要され続けており、既に身体は悲鳴を上げていた。
あばらの何本かは折れているだろう。出血も相当だが、痛みも感じないらしく、尚もテッラに向き直る。
「シュマリ……! もういいから退きなさい、まだやり直せるから……!」
「『助けて』ってずっと言ってる……! お姉ちゃん! もうやめて……!」
ホロカはシュマリの精霊力の変化を感じ取ったようだ。
しかしミライユはそんなものには構わず指環だけを見て詠唱し、指環に向けて勢い良く駆ける。
この点においてはミライユが誰よりも有利だった。
射程内に入ると同時に空間操作魔法が発動し、あっという間に指環はミライユの手に渡った。
アハハ、と高笑いし、それを大事そうに握ったまま、声を荒げてタイザンたちや"ギルド員"たちに指示を出す。
「タイザンさんとホロカは、とりあえず私が魔方陣まで行くのを支援してください!」
「ジャンさん、ラテさん、あなた方もギルド員なら、シュマリの支援にでも向かったらどうです?
彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?」
口の端を吊り上げながら、ミライユは"テッラが用意した脱出用の魔方陣"めがけて一直線に駆けた。
(あの三人も用済みですね……マスター、必ず指環を持ち帰って、そして、貴方の望みを……!)
【竜化したテッラと獣化して限界突破したシュマリが戦闘中。テッラが有利。
ミライユは"指環"を奪って魔方陣へ。タイザンとホロカがそれを護衛。
ジャンとラテには不利になっているシュマリを守るように指示。】
【捉え方、選択肢は多いと思いますが、お好きな展開をどうぞ。シュマリはこのままいけば死ぬまで戦います。
タイザンとホロカはこれ以降は好きなように動かしてもらって大丈夫です。】
146:創る名無しに見る名無し
17/01/19 23:24:26.73 h/PzmiO7.net
埋め
147:創る名無しに見る名無し
17/01/19 23:24:44.72 h/PzmiO7.net
埋め
148:創る名無しに見る名無し
17/01/19 23:25:04.72 h/PzmiO7.net
埋め
149:創る名無しに見る名無し
17/01/19 23:25:33.96 h/PzmiO7.net
埋め
150:創る名無しに見る名無し
17/01/19 23:25:47.41 h/PzmiO7.net
埋め
151:創る名無しに見る名無し
17/01/19 23:32:58.20 g3jlfOTj.net
埋め
152: ◆ejIZLl01yY
17/01/20 14:18:29.92 KSHQ0kvW.net
>「お前……
「ひゃいっ!?」
ぎゃー見られた!
洞窟の暗がりの中こそこそとオオネズミの血を採取する所を見られてしまった!
しかもびっくりして変な声まで出た。絶対変な奴と思われたよこれ。
陰気で根暗なレンジャーのくせに黒魔術にも手を出してるヤバイ奴だと思われるに違いないんだぁ。
もうだめだぁ。
>オオネズミ食うのか?わざわざ血まで抜く辺り、さては無類のオオネズミ好きなんだな…」
「へっ?……あ、あぁ、そうなんですよ!
レンジャーやってるとやっぱりお世話になりがちでして……
そのまま癖になっちゃったんですよねー、あはは……」
と思ったらセーフ!いや、これはアウトかも!
少なくともネズミのお肉が大好きな奴と思われて女の子的には完全アウトです!
よく見るとジャンさんもオオネズミの解体してるし。
これは今更「いや、私はオオネズミとか食べませんよ。オークじゃあるまいし、ははんっ」とか言えそうにない雰囲気。
>「ジャン殿、それは……まあ良いか。食べてみれば新たな扉が開けるかもしれぬ」
まぁ良くないです……駄目だ、これはもう誤解を解けるような雰囲気じゃない……詰んだ……
諦めて私も食肉として幾らか回収しておこう……
そして回収したからには食べなきゃと口に運ぶんだろうなぁ。
「あっ、首にピックが刺さってるのは麻痺毒打ち込んでますから、気をつけて下さいね」
いや、まぁ、不味い訳じゃないんだけどね。
ん?食べた事あるのかって?
そりゃあるでしょ、レンジャーですよ私。
森や遺跡や敵陣で、たった一人で何日も過ごす事を前提とした職業なんですよ。
訓練時代、食べられる虫から魔物まで実践も含めて教わりましたとも。
オオネズミなんて余裕でもりもり食べられますよ。
ただオオネズミってどこにでもいるじゃん?どこにでもいるって事は、雑食性って事じゃん?
味がすごいまばらなんだよね。
だけど草食べてようが肉食べてようが、まず間違いなく臭みがある。
この洞窟の場合は……虫とか?
虫って結構栄養があるし、美味しいお肉になったり……してたらいいなぁ。
実際の重量以上に重く感じるオオネズミのお肉を蝋紙で包んで宝箱に収め……さて、探検再開と行きますか。
と言っても、ここで行き止まりみたいだけど、マナの風�
153:ヘ確かにここから感じる。 「そろそろ、何かありそうな気がするんですけどね。壁とか床とか、 古代都市を隠してるなら魔法的な仕掛けがあるのかも……どれどれ」 > 「そうだな、見たところこいつらがいた広間が行き止まりみたいだが…あっおい!」 「ん、何かありました……」 とりあえず壁を検めようかと思っていたら、ジャンさんが驚きの声を上げた。 私はそちらを振り返って、松明代わりの灯火の杖を掲げ……思わず、言葉と呼吸を忘れた。 灯火に照らされた地面に、ネズミの死体から流れた血が魔法陣を描いていた。
154: ◆ejIZLl01yY
17/01/20 14:19:32.69 KSHQ0kvW.net
地面に小さな溝……これは、古代文字?が刻まれていたんだ。
灯火からの明かりを受けて、魔法陣は妖しい紅の輝きを放っている。
>「……古代都市への入口というより、これじゃ冥界への入口だな」
「ちょっとやめてくださいよ。今からそこに潜るかもしれないって時に」
>「ああ、そういえばここにあると噂されておるのは地底都市アガルタ―各伝承によって楽園とも地獄とも謳われておるな。
これは形からいって転送魔術陣のようなものかもしれぬ―この文字……ラテ殿の盾の文字に少し似ておらぬか?」
「あー……この盾ですか?そう言われてみれば確かに……でもこの石版、なんて書いてあるか読めないんですよね。
あ、あ、待って。読んじゃ駄目ですよ。読めなくていいんです。読めない方がいいんです。
見ての通りこの盾、呪われてるみたいで……多分、完全に解読すると……最悪死ぬかも」
なんでそんなもん盾にしてんだって聞かれたら、頑丈だったからとしか……
「ただ……この盾、どうも世界滅亡の予言が記されてるみたいで。
かつて世界の滅びを予言した、古代文明の魔法陣……うーん、穏やかじゃない」
と……また地震だ。今のは結構激しく揺れたなぁ。
>「まずいな……崩落でもしたら……」
ここは自然に出来た洞窟だし、滅多な事じゃ崩れないとは思うけど……怖い事には変わりない。
「ティターニアさん。この魔方陣、解析出来ますか?……もし解析が難しいとして、起動ならどうです……」
っと……言い終わらない内からとんでもない激音!
うわわまた揺れてるよ!ちょっと、これは、立ってられないくらい大きい……!
瞬間、足元の魔法陣から眩い光。
これは……真っ暗な洞窟の景色が、眩く塗り変わっていく。
石とも金属ともつかない、継ぎ目一つなく艶やかな、淡く光を放つ街路。
連なる建物さえもが地面と繋がっている……いや違う。天井にさえも、同じように建物が並んでいる。
そしてそれらを彩る、太陽を封じ込めたかのように煌めく宝石。
私はその光景に目を奪われ、そしてトレジャーハンターとしての感性が、一瞬にも満たない内に理解した。
ここが……古代都市なんだ。
凄まじく高度な魔法技術と、恐らくは大地の竜の加護が、こんな幻想的な街並みを……って、なんかまだ揺れてる!
一体何が……
>≪何故扉を開き奴らを招き入れた!?≫
>「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者―何故分からぬのですか!?」
>≪我は認めぬ―奴らは昔から甘いのだ! 非情になれぬ者達に世界を変える事など出来ぬ!≫
と顔を上げたその先で、竜の翼を生やした女の人と、めちゃくちゃでっかい狼が戦ってた。
えっ、えっ?なにこれ、ちょっと私ついてこれてない。
>「まさか……内輪もめか……?」
ティターニアさんなんでそんな冷静なの?
いや、待って。少し頭が追いついてきた。
冷静になって、状況から事実を逆算すれば、すぐに分かる事だ。
この人達は古代都市が実在する事を、ずっと前から知っていたんだ。
そして恐らくは、指環や、その守護者の存在も。
だからこんなに冷静でいられる。
155: ◆ejIZLl01yY
17/01/20 14:20:48.41 KSHQ0kvW.net
>「ジャン様、ティターニア様、お仲間の皆様……お見苦しいところを大変申し訳ありません―とにかく今は加勢をお願いします!
この分からず屋に貴方達の力を見せてやって下さい!」
>「仕方あるまい、行くぞ―!」
あぁ、もう、色々聞いてみたいけどなんかそういう状況じゃないっぽい!
まずは目の前の状況に集中するしかない……
>≪そなた、他の者達とは違うな―冷酷で無慈悲で何よりも純粋―
我は思うのだ、世界を変え得るのはそなたのような者だと。
もしもそなたが指環を欲するなら、力を貸そう―娘よ、力が欲しいか―!≫
……そうして私が【不銘】を構えたところで、巨大な狼はそう言った。
ミライユさんに向けて。
そして状況は目紛るしく二転、三転と動き回る。
>「ジャンさん、ラテさん、あなた方もギルド員なら、シュマリの支援にでも向かったらどうです?
彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?」
ろくに言葉も行動も挟む間もなく、ミライユさんとその増援は脱出の魔法陣へと駆け出した。
その光景に私は……
「……いやいや、おかしいでしょ」
思わず、胸の中に渦巻く暗い感情を、そのまま声にして零してしまった。
なんて言えばいいんだろ。
あー、だめだ。あんまり言葉を飾り立てる余裕もないや。
めちゃくちゃムカついた。
「止めてきます」
ジャンさん達の返事も待たずに、私は腰の宝箱を開いた。取り出すのは爆弾。
魔物の血肉から抽出した魔力を固めて、その過程で軽銀を合成した物。
左手いっぱい、優に十を超えるそれらを【不銘】で放つ。
狙いはミライユさん達じゃない……脱出用の魔法陣だ。
その真上にも周囲にも爆弾が落ちて、爆ぜる。
軽銀が高濃度のマナと反応して、その場に業火の壁を残す。
ただの業火じゃない。魔力を燃料にして燃える炎だ。
排除する為の魔法すら、その魔力を燃やして更に燃え上がる。
優秀な魔法使いであっても、短時間でどうにか出来る代物じゃない。
身体能力増強のポーションも飲めば、十も地面を蹴る頃には、三人に追いついた。
「おや、どうやら道が混んでるみたいですね」
後ろから声をかける。
「……で、いつ助けに行くんですか?」
振り返った、タイザンとか呼ばれてたおじさんを、強く睨む。
「『必ず助けてあげるから』なんでしょう?
『彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?』。いつ助けに行くんですか?」
肺腑から喉を通って出て来る声は、自分でも驚くくらい冷たい。
156: ◆ejIZLl01yY
17/01/20 14:23:54.58 KSHQ0kvW.net
「私達を倒さずにってのは、ちょっと無理がありますね。それにその炎、魔法を使ってもそうそう消せませんよ。
私達を倒して、炎を消して、ミライユさんを見送って、目減りした戦力であの狼を倒して、助ける。……出来ますかね。
おっと、ついでに私はレンジャーです。のらりくらりと戦うのはお手の物ですよ」
だけど、これくらいで丁度よかった。
自分でも驚くほどの、この冷たさでも……もう長くは抑えきれそうにない。
「まぁ、もしかしたら私達もあの狼も、あなた達よりずっと弱い、かもしれないですよね。
その炎も、そうそう消せないってのはただの私のハッタリ、かもしれない。
ミライユさんは指環をどこかに隠したら、すぐに戻ってきてくれる、「かもしれない」……」
この、腸が煮えくり返るような怒りは。
「……そんな曖昧な言葉に委ねられるほど、あの子の命は軽いものなのか!なんで助けにいかないんだ!」
私は怒りのままに、声を張り上げた。
「家族なんだろう!?今更ミライユさんに義理立てして何が残る!あの子の命よりも重くて尊い物が手に入るのか!」
宝箱から装備を取り出す。
煙幕、閃光弾、毒を塗ったダガー……持久戦にはどれも役に立つ。
道具はまだまだ沢山ある。全部使ってやるぞ。
「今すぐ私の目の前から消えろ。でなければ、あの子が死ぬまでここで粘ってやる。
あの子が少しずつ力に蝕まれ、弱り、己を失いながら死んでいく、その一部始終を見させてやるぞ」
おじさんと、女の子は、まだ迷っている。
あぁ、もう、本当に……腹が立つ!
「助けに行けって言ってるんだよ!さっさと行け!まだ踏ん切りが付かないなら、こっちから仕掛けてやるぞ!」
感情に任せて怒鳴り上げる。
そして弾かれたように、まず妹が身を翻して走り出した。
おじさんは、一瞬だけミライユさんを見て、だけどすぐに妹ちゃんの後を追った。
……深い溜息が漏れる。怒るのって、めちゃくちゃ疲れるなぁ。
ん?……あぁ、違う違うよ。今のはヒュミントなんかじゃない。
ただの、めちゃくちゃカッコ悪いおじさんと妹への、本心からの怒りだったよ。
もし今のでまだもじもじしてるようだったら、私はさっき言った事全部実行に移すつもりだったさ。
……いや、多分、半分くらいは……まぁ……逃げ出したら追いかけるまではしなかったかも。
でも本当に、それくらいムカついたんだ。
仲間が、家族が、苦しんでるのに、死のうとしてるのに、それに背を向けて走り出す奴があるかよ。
そして……そうなるように仕向けたミライユさんにも、腹が立った。
絶対に懺悔させてやる。償わせてやる。
私は彼女を睨みつける。
「これ」
懐から取り出すのは、武器でも道具でもない。
彼女から押し付けられたギルドの会員証……あの人と、私の、唯一の接点。
157: ◆ejIZLl01yY
17/01/20 14:28:37.13 KSHQ0kvW.net
「やっぱりお返ししておきますね。私には私の家があるんです。あなたとの繋がりは、いらない」
鎖を巻きつけて丸めたそれを、ミライユさんへと投げる。
「……あなたは、生まれた時からずっとそうなんでしょうね。人の情なんて理解出来ない。
だからあなたの傍には誰の心もありやしない。
あぁ、マスターさんとやらは傍に置いてくれているんでしたっけ?」
違う。人を利用し、いたぶり、踏みにじれる人間は……本当は、人の情をよく知っている。
それこそ人一倍に。ゴーレムは好き好んで人をいたぶったりしない。
残酷な事が出来るのは、その人の中にそれを残酷と感じる情があるからだ。
間違いないと断言出来る訳じゃない。そうじゃない可能性だって十分にあり得る。
それでも私は、ミライユさんが「心の中にボタンの掛け違いがあるだけの、普通の女の人」だと信じる。
そう決めた。
「でもそれは、きっとあなたの力に価値を感じているだけ。あなたという人間には、何の価値もない」
そしてだからこそ、私はそれを否定する。
人間は、否定されれば、否定し返したくなる生き物だから。
私は彼女に懺悔させたい。自分の非道の償いをさせたい。
だから、私は彼女の中の「真心」を引きずり出す。
なぜかって?
歪んだ心で懺悔し、罪を償う事なんか出来やしないからだよ。
精々、自分の犯した罪の重さに苦しめばいい。
……別に昨日の夜ご飯とお喋りが、少し楽しかったなんて、そんな理由じゃない。
さぁて、これでどれくらい怒るかな。どれくらい「素」を見せてくれるかな?
仮にめちゃくちゃ怒って襲いかかってきたとしても、まぁ私には当たらないんだけどね。
だって彼女が見ている私は、ただの【ファントム】だから。
つまり【スニーク】の逆。
魔力のハリボテを置き残して、まるで自分がそこにいるかのように見せるスキル。
スニークと併用する事で、まったく別の場所にこっそり移動する事も出来る。
例えばミライユさんの背後に回って、麻痺毒を塗ったダガーで斬りつけるなんて事も出来る。
さっき飲んだポーションの効能で、体の感覚は研ぎ澄まされている。
感覚が鋭くなっているという事は、精神もそれに引っ張られる。
精神が鋭くなれば、魔力の操作も鋭くなる。
見切れるもんか。
気配は絶っていても姿は見せているから、きっとジャンさん達も合わせてくれる……はず!
あ、いや、さっき勝手にブチ切れて先行しちゃったからちょっとヤバイような気も……だ、大丈夫だよね!
【分身の術&バックスタブ】
【NPC3人はどうやってもグダる未来しか見えなかったのでカッコつけついでに隔離させてもらいました
でもお喋りするにしろバトルするにしろミライユさん本人との方がお互い楽しいんじゃないかなぁ】
158:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/01/20 21:44:11.35 Xq0kz3CE.net
刻まれた魔法陣が血によって鮮明となり、ティターニアが魔法陣を調べようとした直後。
洞窟全体が崩れそうな勢いで激震が続く中、魔法陣は閃光を放ちながらその力を発動した。
気がつけばジャンたちは、黄土色や橙の宝石で彩られた古代都市の中に佇んでいる。
地底にあるせいか、宝石だけではなく金や銀の割合も多いようにジャンは感じていた。
>≪何故扉を開き奴らを招き入れた!?≫
>「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者―何故分からぬのですか!?」
だが、装飾品の回収は後になりそうだった。
ジャンが近くの家で早速探索しようとした瞬間、その家がどこからともなく聞こえてきた
言い争いと共に落ちてきた岩塊に押し潰されたからだ。
振り返ってみれば竜の翼を持つ女性と、巨大な狼がお互いに凄まじい力を振るいながら口論している。
きっとこの都市の竜と守護聖獣なのだろうが、今までに出会ったそれとは様子がかなり違った。
>「彼らはアクアとクイーンネレイドが認めた指環の勇者―何故分からぬのですか!?」
>≪我は認めぬ―奴らは昔から甘いのだ! 非情になれぬ者達に世界を変える事など出来ぬ!≫
どうやら指環を渡すかどうかで揉めているようだが、先ほどの岩塊のようにとばっちりがこっちに飛んでこないとも限らない。
それに、決着がつく頃にはこの都市が丸ごと壊されかねない惨状だ。
>「まさか……内輪もめか……?」
「口論で手を出すなって親父に教育されなかったみてえだな、あいつらしつけがなってねえ」
一人と一匹に聞こえないようこっそりとティターニアに耳打ちした。
このままでは指環をもらってもそれ以外の儲けが出ない。できる限り早くあの一人と一匹を止めるべく、ジャンはミスリル・ハンマーを構える。
>「ジャン様、ティターニア様、お仲間の皆様……お見苦しいところを大変申し訳ありません―とにかく今は加勢をお願いします!
この分からず屋に貴方達の力を見せてやって下さい!」
口論の内容とこの言い分から察するに、あの狼が指環を渡すことに反対しているようだ。
どうやら世界を変えるような人間に指環を渡したいようだが、ジャンにその気はまったくなかった。
>「仕方あるまい、行くぞ―!」
「ああ、俺の稼ぎが減る前にとっとと止めちまおう」
ティターニアと共にジャンが駆けだそうとしたとき、狼が動きを止めた。
>≪そなた、他の者達とは違うな―冷酷で無慈悲で何よりも純粋―
我は思うのだ、世界を変え得るのはそなたのような者だと。
もしもそなたが指環を欲するなら、力を貸そう―娘よ、力が欲しいか―!≫
159:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/01/20 21:44:48.68 Xq0kz3CE.net
この言葉で、全てが狂っていく。
ミライユが連れてきた護衛に狼の力を与え、地竜へと襲わせた。
地竜が真の姿を現し、指環を持って魔法陣へ逃げるよう伝えた。
残った護衛が泣きながらミライユを守ろうとしている。
ミライユは、全てを無視して指環へ走った。ジャンたちへ煽るように一言を残して。
>「ジャンさん、ラテさん、あなた方もギルド員なら、シュマリの支援にでも向かったらどうです?
彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?」
信じたくはなかったが、ミライユもまた指環を狙う刺客だった。
その声にまず、ラテが動く。
魔法陣を塗りつぶすように爆炎が広がり、ミライユたちへ脅しをかけて分断する。
さらに一撃を叩きこむべく、どうやったのかは分からないが分身までやってのけた。
おそらく身体強化のポーションも使ったのだろう、凄まじい速さで行われた一連の動作。
その流れの中、ジャンはただ走っていた。鉄の鞘から聖短剣サクラメントを引き抜きながら。
いかなる守りをも貫き、確実に標的へと刃を届かせる教会の必殺武器。
かつて戦った強敵からもらったそれを殺すべき者へと向けた。
(ギルドの一員なら…か。そうだな、ギルドの者どうし助け合わないとな。
だから―あんなことにしちまった元凶を潰さねえとなァ!)
オーク族は傭兵や軍人になる者が多いが、それは生まれ持った体の頑強さや腕力だけではない。
彼らの戦士階級が持つ『戦の掟』と呼ばれるルールが傭兵や軍人にとって大事なものなのだ。
一つ、いかなる理由でも隣に立つ者を見捨てることなかれ。
二つ、いかなる理由でも死は生より恥である。
三つ、ただし一つ目を守るとき、二つ目は恥ではない。
ジャンもまた、冒険の途中において戦うときは常に戦の掟に従っていた。
だからこそ生き抜くために全力を尽くし、味方を守ってきた。
ミライユのとった行動は、それら全てに反するものだ。
隣に立つ者を見捨て、死なせるつもりで連れてきた。
ジャンからしてみれば恥の塊、ここにオーク族の会議があれば両腕切り落としか両足切り落としの
どちらにするかで揉めていただろう。
だからジャンは、真っ先にミライユを狙った。
サクラメントにて心臓を貫き、ミスリル・ハンマーで頭を潰すために。
そしてミライユがサクラメントの投擲距離に入った瞬間、ジャンは吼えた。
「グオォ……グガアアアァァァ!!!」
ウォークライによって怯ませ、増幅された腕力でサクラメントを心臓へ向け思い切りぶん投げる。
続けざまにミスリル・ハンマーもぶん投げ、両の拳で顎をかち割るべく、ミライユへと突進した。
【殺意MAXでハーフといえどマジ切れしたオークが突っ込んできます
NPCと殴り合うのは一方的になりすぎても互角でもつまらないのでこっちに向かわせてもらいました!】
160:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/21 11:42:44.74 QkbALjB6.net
>「口論で手を出すなって親父に教育されなかったみてえだな、あいつらしつけがなってねえ」
単にしつけがなってないだけだったらまだいいのだが―とティターニアは思う。
クイーンネレイドはアクアに忠誠を誓っていたようだが、アクアはイグニスとベヒーモスが一枚岩ではなかった可能性を示唆していた。
もしくは、風の竜ウェントゥスすらご乱心するご時世だ、このフェンリルも何らかの理由で乱心してしまったのかもしれない。
>「シュマリ。あなたにこの任務をお任せします。"インカルシペ最高の守護戦士"と呼ばれるあなたにこそ相応しい力。
獣人の誇りというものを、見せてあげなさい! 故郷を助けたのはどこでしたか?」
フェンリルに白羽の矢を立てられたミライユは、何故かシュマリにその役を任せテッラを迎え撃たせる。
シュマリは戸惑いながらも承諾―というより、もとより彼らに拒否権などなかったのだ。
タイザンとホロカも内心では反対だがミライユに意見することができないという感じであった。
最初にこの3人が追い付いてきた時から違和感があったが、これで確信した。
増援の3人はミライユの絶対的な権力―もしくは、彼女自身の残虐性に怯えているのだ。
こうして、フェンリルの力を得たシュマリとテッラとの壮絶な戦いが始まった。
>「どうやらフェンリルの力を侮っていたようですね。私はこれより真の姿にならねばなりません―
私の能力もやはり理性が飛びかねない膨大な力を要するものです。先にお伝えします。
そこから現れる指環、ティターニア様とお仲間の方々に託します。私がフェンリルを止めている間に指環を取ってそこの
魔方陣から脱出なさい。それと、その娘は―グゴッ、ゴゴゴオゴ……」
人間形態のままではどうにもならないと悟ったテッラは、指環を一行に託し、真の姿を現した。
イグニスやアクアが人間形態のままだったのはこういうわけか―と思うティターニア。
竜の姿になると、人間形態の時のような理性を保てなくなるようだ。
指環が現れた途端に、空間を操作できるミライユがいち早く指環を手に入れてしまった。
そしてこんな指示を飛ばす。
>「タイザンさんとホロカは、とりあえず私が魔方陣まで行くのを支援してください!」
>「ジャンさん、ラテさん、あなた方もギルド員なら、シュマリの支援にでも向かったらどうです?
彼女、このままじゃ死んじゃいますよ?」
タイザンとホロカはミライユに恐怖によって支配されていて、彼女に逆らうことができない。
こうなってしまってはシュマリを放っては置けないが、そちらに加勢に行ってはミライユが指環を持ち去ってしまう。
ティターニアが逡巡している間に、ラテが飛び出した。
>「助けに行けって言ってるんだよ!さっさと行け!まだ踏ん切りが付かないなら、こっちから仕掛けてやるぞ!」
シュマリは見事な啖呵で、最終的に二人をシュマリの加勢に向かわせることに成功した。
ティターニアはその普段との違いっぷりに少々驚きつつ、少し考える。
これが素なのか、それともこれも熟練したレンジャーとしての高度な技術なのか―
まあどちらにせよ同じことか、ミライユに恐怖によって支配された二人の呪縛を見事に解いてみせたのだから。
161:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/21 11:45:34.36 QkbALjB6.net
「……これで3対1だ。そなたに勝ち目はない、大人しく指環を渡すのだ。ここで渡せば悪いようにはせぬ」
何はともあれ指環を回収するのが先決だ。おそらく聞く耳持たないとは思いつつも、降伏を勧告する。
>「あぁ、マスターさんとやらは傍に置いてくれているんでしたっけ?」
>「でもそれは、きっとあなたの力に価値を感じているだけ。あなたという人間には、何の価値もない」
ラテがミライユを煽ってみせる。敢えて怒らせて、本心を引き出して対話しようとしているのだ。
功を奏してくれればいいが―と思いつつミライユの反応を見守っていた時だった。
オークの攻撃性を露わにしたジャンが殺意をむき出しにして襲い掛かっていくのが目に入った。
「ジャン殿……相手は指環を持っておるのだ!」
そう声をかけるも、ジャンが止まるはずはない。
これはまずい―と思うティターニア。何せ大地の指環は今はミライユの手中にある。
この初撃で首尾よく仕留められればいい、しかしミライユは空間を操作する魔術師でもある。
初撃で終わる可能性は低い。
そうなったら、追い詰められたミライユは相当に高い確率で指環を嵌める、という行為に出るだろう。
そうなってしまえば、もう何が起こるか分からない。
それに、ミライユ個人ではなく冒険者ギルドとしてティターニアを狙っているのであれば、縛り上げて情報を聞き出す必要もある。
それにしてもジャン殿―最初は見ていて心配になる程のどこまでも平和主義者のお人よし、といった印象だったが
最近少し、ほんの少しだけ攻撃的になってはいまいか、とティターニアは思う。
普段ならミライユがジャンの譲れない信念に触れてしまったのだろう、で終わるところだが、ティターニアには一つ気にかかっている事があった。
それはジャンに水の指環を持たせていることだ。あれ程の力を持つ指環、持ち主の精神に影響を及ぼしても何ら不思議はない。
見れば、竜化したテッラのごとく完全に理性が吹っ飛んでいる様子。
もともと優しい性格のジャンのことだ、我に返ってから後悔することはないだろうか―
「―ホールド!」
瞬時に以上の思考を経てティターニアが放ったのは、このフィールドでは威力が出やすい地属性の拘束術。
大地から魔力の土がせりあがり、それが相手の全身を覆い拘束する魔術だ。
今回は少しアレンジが加えてあり、拘束土自体の強度を最大まで強化してある。
つまり拘束すると同時に、どこまで通用するかは分からぬが、ジャンの攻撃に対しての防御にもなるということだ。
それは前述のように、諸般の事情を総合勘案した合理的理由によるものである。
こう見えてもティターニアは学者。
決して、昨日の晩餐を美味しそうに食べる様が目に焼き付いているからでも
年甲斐も無く修学旅行の夜のガールズトークに巻き込まれたのが楽しかったからでもない。
少なくとも本人はそう思っているのだ。
【>ミライユ殿
怒涛の展開で予期せぬ1対3になってしまったが中ボスということで遠慮せず派手に暴れてやってくれ!
>ジャン殿
指環が精神に影響、はそういうネタもアリかな、程度なので気にしないでもらっても大丈夫だ!】
162:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/21 11:54:24.34 QkbALjB6.net
【誤植申し訳ない
>146 下から四行目
×シュマリは見事な啖呵で、最終的に二人をシュマリの加勢に向かわせることに成功した。
○ラテは見事な啖呵で、最終的に二人をシュマリの加勢に向かわせることに成功した。
それとホールドを放ったのは当然ながらミライユ殿に対してだ!】
163:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:05:45.20 88unqtu9.net
卯
164:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:06:14.29 88unqtu9.net
目
165:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:06:49.03 88unqtu9.net
右
166:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:07:22.92 88unqtu9.net
馬
167:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:07:59.14 88unqtu9.net
宇
168:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:08:23.81 88unqtu9.net
目
169:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:08:54.54 88unqtu9.net
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170:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:09:20.13 88unqtu9.net
埋め
171:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:09:54.14 88unqtu9.net
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172:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:10:13.23 88unqtu9.net
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173:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:10:53.92 Qv9tlQKT.net
生め
174:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:11:13.93 Qv9tlQKT.net
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175:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:11:49.59 Qv9tlQKT.net
産め
176:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:12:10.70 Qv9tlQKT.net
膿め
177:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:12:42.35 Qv9tlQKT.net
倦め
178:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:13:11.20 Qv9tlQKT.net
績め
179:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:13:59.76 Qv9tlQKT.net
熟め
180:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:14:19.56 Qv9tlQKT.net
うめ
181:創る名無しに見る名無し
17/01/21 13:58:43.37 +7hkJdi6.net
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182:創る名無しに見る名無し
17/01/21 14:02:02.24 +7hkJdi6.net
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183:創る名無しに見る名無し
17/01/21 20:57:46.36 twErGvaq.net
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184:創る名無しに見る名無し
17/01/21 20:58:03.47 twErGvaq.net
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185:創る名無しに見る名無し
17/01/21 20:58:22.50 twErGvaq.net
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186:創る名無しに見る名無し
17/01/21 21:00:23.04 zFavUGZS.net
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17/01/21 21:00:39.65 zFavUGZS.net
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17/01/21 21:00:57.07 zFavUGZS.net
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189:創る名無しに見る名無し
17/01/21 21:01:16.92 EVgN+d7k.net
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190:創る名無しに見る名無し
17/01/21 21:01:31.77 EVgN+d7k.net
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191:創る名無しに見る名無し
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192:創る名無しに見る名無し
17/01/21 22:01:30.93 PNKoyV/2.net
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195:創る名無しに見る名無し
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197:創る名無しに見る名無し
17/01/22 00:35:38.59 a9Hn9Vu1.net
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198:創る名無しに見る名無し
17/01/22 00:41:36.62 vlEzVIn6.net
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199:創る名無しに見る名無し
17/01/22 00:50:54.23 RUfuTQ+n.net
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200:ミライユ ◆6Nqsyb3PfY
17/01/23 14:24:21.77 UYM1vaS0.net
転移魔方陣へと素早く駆ける。
使い方は知っている。テッラが出したものとはいえ、ある程度汎用性のある魔術だ。
魔方陣は目の前だ。
しかし―
後ろからようやく現れたタイザンは汗だくで血眼になっており、もはや自分の判断や意思はなさそうだ。
惰性で動かされ、シュマリの身を案じている方に心が動かされているのが丸分かりだ。
その後ろから来るホロカはさらに遅い。それまでに何らかの妨害がある可能性は高いだろう。
(残念ですが……ゴミどもは残して、一人で帰りますね。待っていてください、マスター……!)
そのときだった。
ドゴオォォン…… シュゴォォォ……!!!
魔法爆弾。それも高魔力のものが大量に。
「なっ…… もう少しのところで……っ!!」
魔力の動きから察知し、ラテの行動であることを確認すると、ミライユは
目を見開き、ラテをギロリと睨みつけた。もはや笑顔の彼女の面影はない。
>「……そんな曖昧な言葉に委ねられるほど、あの子の命は軽いものなのか!なんで助けにいかないんだ!」
「家族なんだろう!?今更ミライユさんに義理立てして何が残る!あの子の命よりも重くて尊い物が手に入るのか!」
「助けに行けって言ってるんだよ!さっさと行け!まだ踏ん切りが付かないなら、こっちから仕掛けてやるぞ!」
タイザンが踵を返す。ホロカもそれに続く。
動きが、流れが変わる! ミライユが先ほど命令した仲間たちに、次々と裏切られていった瞬間だ。
>「これ、やっぱりお返ししておきますね。私には私の家があるんです。あなたとの繋がりは、いらない」
「……あなたは、生まれた時からずっとそうなんでしょうね。人の情なんて理解出来ない。
だからあなたの傍には誰の心もありやしない。
あぁ、マスターさんとやらは傍に置いてくれているんでしたっけ?」
「あぁ、やっぱりお前も裏切るんですか……」
目の前にはラテの幻影がおり、斜め後ろに向かってその気配が進んでいるのが分かる。
今から突っ込んで魔方陣の炎を消し、ラテの攻撃を全て弾くことは不可能ではない。
ただし、死ぬ可能性もある大怪我、大火傷を負う覚悟があればの話だが。
(皆殺しにしてあげましょう…… ここでノコノコ逃げるなんて、私とギルドのプライドが許さない……!)
振り返ることなく、投げつけられた会員証を空間操作で弾き、移動していくラテを追尾するように弾き返す。それも高速度で。
さらに、魔方陣全体を覆う炎の壁からも、ラテの居る方向へと火弾を飛ばし、挟み撃ちにする。
裏切られたトラウマを沢山背負っているミライユにとって、ラテの行動は油に火を注ぐように効いた。額に青筋が浮かんでいる。
「丸見えですよ。ラテ。お前は特別に最後に殺してあげます…… いや、これは"粛清"……
不要なギルド員は、始末される定めにあるんです。じっくりと、甚振ってからね……!」
201:ミライユ ◆6Nqsyb3PfY
17/01/23 14:25:01.19 UYM1vaS0.net
素早くラテの動きを振り切ると、まずは会員証を一枚スカートから抜き取り、操作して飛ばした。
「待ってなさい、シュマリ、今助けに行くからね!」
その標的は刀を抜き、殆ど狼と化してテッラと戦うシュマリへと向かう、タイザンの腕へと突き刺さった。
思わぬ後方からの不意打ちに、タイザンは刀を落とす。
そして、タイザンの目にはその目に入れても痛くないほど大切な、あの娘の名前とナンバーが飛び込んできた。
『No.1012 マトイ・シモヤマ』
「あぁっ……! マトイ…… そんな、これがあるということは、ミライユが、僕の娘を……!?」
「せいか~い! 『罪状:マスターの部屋に入った』です。彼女、美人でしたもんね。
何があったのか知りませんが、私の聖域に入った女は、死刑……! ハハ、それがソルタレクギルド本部の"裏の"掟なんですよ~
そしてマスターも二人は要りません。あなた、二回も約束、破りましたよね? 殺しますよ?」
グサリ、と刀がタイザンの腹にめり込み、腹からは柄と鍔だけが見えるほどまでになった。
血の滴る長い刀身を背中から生やし、揺らしながら、タイザンは涙を流し、歯を食いしばって、ミライユの方を見た。
「ギィェェェッ……!!」≪グォォォォゥ……!!≫
向こうではテッラの翼の付け根にほぼフェンリルと一体化したシュマリが一撃を放ち、テッラの右翼と肩口からおびただしい量の血液が飛び散るところだった。
大怪我を負わせると同時にテッラの一撃をもろに食らったシュマリはついに倒れ、フェンリルと分離してついに力尽きる。
フェンリルは臓腑が脇から飛び出しており、シュマリもまた、裸で全身に大小の傷を負って倒れている。既に死んでいるか、もしくは瀕死だろう。
タイザンがその姿を見て、口から血を吐き出しながら、ミライユに訴えかける。
「おのれ……マトイのことは死んでも許さないぞミライユ。 僕はこのまま死んでも構わない……
頼みがある……シュマリと、ホロカの命だけは助けてくれないか……!?
それとみんな仲良く…… 僕はね……戦いが嫌いなん……ごほッ!!」
ミライユはタイザンの口を塞ぐように脚で何度も何度もタイザンの腹や頭を蹴り付けた。
「アッハッハッハ! 私ね、そういうの嫌いなんですよ。目の前でこれだけの連中がケンカして、裏切りあって、
勝手に殺し合ってるじゃないですか? 命乞いしてみせなさいよ。クズ、ハゲ! あ、死んじゃったかな?」
やがて事切れたのか、頭を割られて脳漿を流しながら動かなくなったタイザンに、ホロカが涙を流して抱きつこうとした。
「あら、獣っ子、まだ生きてたんですか? ねぇ、お馬鹿、何で言うこと聞かなかったの?……ってことで、あなたも殺します」
ホロカをつまみ上げ、首を締め上げながら操作魔法の力を使い持ち上げる。
「返してよ! マスターと……お姉ちゃんを返してぇぇー!!」
ズキリ、とミライユの心が痛む。この痛みはどれぐらい振りだろうか……
殺戮と裏切り合いの興奮で心が昂揚しているところを、何か鋭く冷たいナイフのようなもので、突き刺されたような気持ちになった。
「うぅ……うわぁぁー!!」
思わず心を揺さぶられたミライユはホロカの腹部に蹴りをかまし、そのまま壁へと吹き飛ばした。ホロカがガクリと動かなくなる。
「さて、大体片付きましたね。次は、テッラ、大物から片付けてしまいましょう。
横に転がっている犬っころも一緒に潰してしまいますね。はい、さようなら……」
タイザンを空間操作で持ち上げ、刀の飛び出している切っ先をテッラに向ける。
そして、魔力を込めてテッラ目掛けて投げ、同時に駆け出そうとした―
202:ミライユ ◆6Nqsyb3PfY
17/01/23 14:37:54.19 UYM1vaS0.net
その時だった。横からジャンが物凄い勢いで突っ込んできた。
これまでにこの男のこのような表情を見たことがない。それはまさにオークそのものともいえた。
「グオォ……グガアアアァァァ!!!」
ついに、ジャンまで敵に回ったのだ。
ハーフオークには、昔、酷く痛めつけられたことがある。
(『女を殴んのって楽しいなァおい!』『チビのガキの癖に調子乗りやがって、ほら、立てよオラァ!』
『チッ、もう終わりなのか? 死にたくなかったら四つん這いになってこっちにケツ向けろよ、ゴラァ』)
嫌なことを思い出し、耳や脳裏に声が響いてくる。あれだけ優しそうだったジャンが、今はあの鬼どもに見える。
短剣が物凄い勢いで飛んでくる。それは魔力を帯びたものだった。
「くッ……!」
素早くかわそうとするも、思わぬウォークライの威力でミライユは動きが鈍くなり、
それは脇腹を貫通し、ローブと腰に巻いていたチェインが弾き飛ばされた。当然、その衝撃でミライユ自身の肉体もダメージを受ける。
「うっ……!」
倒れた拍子にスカートの中から会員証やら針、魔法の爆薬やらが飛び散った。
さらにフラついたところに重厚なミスリルハンマーまでもがミライユを襲う。
「ふん、この程度の動きで、ソルタレクの管理者の私を仕留めたつもりですか!?」
ミライユもジャンを睨みながらその攻撃を魔法の浮力で避けようと試みる。
(なっ……この�
203:凾ヘ……!) しかし、困ったことにこのハンマーは飛来する速度が不規則で、おまけに棘までついており、リーチは予想を超えた。 ただでさえラテが後方を攪乱しており、動きを制限されているのだ。 さらにジャン本人が両腕に力を込め、突っ込んでくる。無傷では済まされまい。
204:ミライユ ◆6Nqsyb3PfY
17/01/23 14:40:17.72 UYM1vaS0.net
――その瞬間だった。
>「ジャン殿……相手は指環を持っておるのだ!」
ティターニアが不意に動いた。
>「―ホールド!」
これは拘束系の魔法だ。地面から土が盛り上がり、相手の全身を拘束する。
「しめた……!」
ミライユは咄嗟に空間操作を行い、地面から発現する魔力を素早くジャンの移動経路へと操作した。
ゴゴゴ……バシュウゥッ……!
瞬く間にジャンが強力な土の魔法により<ホールド>され、動きを完全に封じられる。
思わぬ同士討ちにミライユは助けられた。
「……ええと、残りは一、二匹……あ、一応三匹だったかな?」
ミライユが起き上がる。と、いうのも、先ほどのジャンの投擲自体は完全に避けきれなかっためだ。
右目はハンマーの柄で潰され、身体を覆うチェインも脇に棘が引っかかってが裂けてスカートごとボロボロになり、傷を負っている。
額や右目、そして脇腹に傷を負いながらも立ち上がり、いつもの調子で言葉を続ける。
「……まさかこの私がこれだけの目に遭うとは……痛いです。女の子の柔肌を痛めて、到底許されることじゃないですよ?
マスターに会ったら、何て言い訳をしたら良いのやら……。
しかも、ティターニアや竜じゃなく、その周りの虫ケラどもにここまで手傷を負わされるなんて……ねぇ……?」
動けなくなっているテッラ、ジャン、そしてラテの居る方向を見比べるミライユ。
「決めた。最初はこのオークにします。ティターニア、ソルタレクのギルド本部の名において命じます。
最後まで仲間割れの好きな人たちで、私、今、凄く楽しいですよ? あなたが言えば聞くでしょ?
とりあえずこの男とあの竜、そして私の後ろにいる羽虫を黙らせて、ギルドに降伏なさい。でないと、この男から殺します。
ま、愛する人を殺されて怒ってるあなた方の顔を見るのも、楽しみなんですけどねッ、アハハハッ!」
口の端を吊り上げて高笑いをするミライユ。その手には血のついたミスリルハンマーが握られ、
背後には魔力により、魔法の短剣、刀が飛び出したタイザンの死体、そして、多数の針と爆薬が浮かんでいた。
「私の傷のことは構いません……フェンリルと私については確かにその女の言う通り内輪揉め……我らの。
あなた方は私を反面教師として……悪しき者を正しいと思うとおりに罰しなさい。ティターニア、あなたに申しているのですよ……!!」
テッラはグォォと呻き、魔方陣の上の炎も徐々に弱まりつつあった。
【タイザン死亡、フェンリル・シュマリ・ホロカ生死不明、テッラ重傷】
【ということで、遠慮せずにどうぞやっちゃってください】
205:ミライユ ◆6Nqsyb3PfY
17/01/23 14:42:04.58 UYM1vaS0.net
【ちなみに指環はミライユのもう片方の腕に握られています】
206:創る名無しに見る名無し
17/01/23 16:56:53.81 oPrgYVAn.net
頑張れ
207: ◆ejIZLl01yY
17/01/23 22:47:47.77 SeUu6PQj.net
>「丸見えですよ。ラテ。お前は特別に最後に殺してあげます…… いや、これは"粛清"……
不要なギルド員は、始末される定めにあるんです。じっくりと、甚振ってからね……!」
そんな……これでも、見切られるなんて。
驚いている暇すらなく、銀の閃きが私に迫る。背後からは熱波も感じる。
……避けられない。
「あ、が、あぁああああああああああああああああああああ!」
自分のものとは思えない、思いたくない悲鳴が聞こえる。体が思うように動かせない。地面に倒れ込む。
どこか他人事のように感じてしまうのは、意識が飛びかけているからだ。
駄目だ……あんだけ大口叩いておいて、こんなところで寝てられるか……!
私は歯を食いしばって、顔を上げ……そして惨劇を見た。
>「アッハッハッハ! 私ね、そういうの嫌いなんですよ。目の前でこれだけの連中がケンカして、裏切りあって、
勝手に殺し合ってるじゃないですか? 命乞いしてみせなさいよ。クズ、ハゲ! あ、死んじゃったかな?」
なんて……事を……。
私は……ミライユさんが、普通に戻れる人だと信じた……。
今でも、信じたい……だけど、その結果が、これだ……。
あの人は、きっと哀れな人だ。
助けたいと思ってた。
心の底から、本心から。
だけど、こうなってしまっては……もう、腹を決めろ、私。
私は、冒険者をしてても冷徹になれない私の事が、なんだかんだ言って嫌いじゃなかった。
それでも……生きていれば、何かを選ばなきゃいけない時が来る。
二度と元には戻れないかもしれない、運命を決定付ける選択をする時が。
私は自分に言い聞かせる。
『分かっていただろう。またこういう時が来るって。あの時と同じだ。今度は、失敗するな』
>「決めた。最初はこのオークにします。ティターニア、ソルタレクのギルド本部の名において命じます。
最後まで仲間割れの好きな人たちで、私、今、凄く楽しいですよ? あなたが言えば聞くでしょ?
ジャンさんとティターニアさんを助けろ。例え、ミライユさんを殺す事になっても。
立ち上がり、胸に突き刺さった会員証を引っこ抜いた。
運良く肋骨で止まってなかったら、死んでたかもなぁこれ。
208: ◆ejIZLl01yY
17/01/23 22:50:11.77 SeUu6PQj.net
よろめく体をなんとかまっすぐ立たせると、私は宝箱から鎖を取り出す。
鎖の先端には小さな鉄球が付いている。
それ以外は特筆すべき事もない。何か魔力が篭っているなんて事もない。
だけど空間を操るミライユさんの魔法にとっては、この武器はきっと厄介だろう。
だって放たれた鉄球の軌道を決めるのは、鎖を掴む私の手元。彼女の魔法の射程外。
跳ね返されても逆手に取られても対応出来る。
鎖を振り回し、鉄球を飛ばす。
ジャンさんの攻撃で大怪我を負っているとは言え、これがミライユさんに当たるとは思っていない。
ただ気を引ければそれでいい。
「……裏切り者は、あなただ。ミライユさん」
さっき引っこ抜いたばかりの会員証を再びミライユさんへ投げる。
次跳ね返されたら今度こそ死にかねないから、少し手前に。
「いらないって……言いましたよね。あなたみたいな臆病者との繋がりなんていらない。
裏切られるのが怖いのなら……誰とも関わらなければいいのに。
あなたは……弱いからそれすら出来ない」
……っと、足から力が抜けて、体がふらつく。
「勝手に関わってきて……裏切られる前に裏切る……すごく、みじめだ」
語気だけは強く保とうと思っていたけど、正直もうしんどい。
「出し惜しみは……やめだ。
……誰もが忘れ、だけど皆が覚えている、三つの古代魔法。
その一つを……見せてあげますよ」
だけど、もう少しだけ堪えないと……ちょっと謎かけをしようか。
「それは古の時代から……今まで人を生かし続けてきた魔法。
時に知恵を、時に強さを、時には不死さえもを、人に与えてきた魔法……。
これなーんだ……なんてね」
宝箱から二つの物を取り出す。
さっき洞窟で回収してきた、魔物の血と肉。
209: ◆ejIZLl01yY
17/01/23 22:51:35.46 SeUu6PQj.net
ポーション瓶に詰められたその赤黒い血液を……私は一息に煽った。
自分の中に巡る魔力と、魔物の血に宿る魔力が、混ざり合っていく。
魔物の肉も、口に放り込み、ろくに噛まずに飲み込んだ。うげえ、まずい……。
これが、誰もが忘れ、だけど皆が覚えている古代魔法……。
つまり……食事。食べる事だ。
人は禁断の果実を口にして、知恵と自由を得た。
アンブロシアとネクタルは口にすれば、神々と同じ時を生きられると言われている。
竜の血は舐めればあらゆる動物達の声が聞こえるようになり、浴びれば無敵の戦士と化し、
心臓を食べればこの世で最も優れた魔術師になれるそうだ。
人魚の肉とか、ニンニクとか、ナツメヤシとか、オレンジとか、葡萄とか、ザクロとか、他にも色々。
人は古の時代から、食べるという行為に栄養補給以上の価値を見出してきた。
食べる事で力を取り込み、己を塗り替え、苦難を乗り越えるという儀式的な価値を。
そう、『食事』とは本来、儀式であり、最も古くから存在する魔法。
誰もがそれを忘れてしまっているだけ
210:で。 そして価値を忘れられてしまえば、それはもう儀式たり得ない。 もし人々が神々への信仰を忘れれば、聖水だってただの塩水だ。 体が、変化していくのを感じる。体中に魔物の力がたぎる。 ふと見た自分の手がネズミの毛に覆われつつあるのを見て、少し肝が冷える。 けどこれくらいで済むならマシな方だ。 自分じゃ見えないけど、きっと火傷も酷かったろうしね。 ……え?それはレンジャーのスキルなのかって? そりゃ勿論。 命を奪い、食し、取り込むという信仰は、元を辿ればハンターとしての訓練を通して学んだ事。 アサシンは古来、秘薬をもって人を操り、殺す教団だった。これも、私だけが知る秘薬とその使い方。 今を生き、しかし古の時代を学び、果てはその時代へと手を伸ばすのは……そう、私トレジャーハンターの業。 これは私の、私だけの、レンジャーとしての奥義だ。 「あなたを、殺したくない。傷つけたくもない。だけど……あなたを止めます」
211: ◆ejIZLl01yY
17/01/23 22:52:54.62 SeUu6PQj.net
鎖を、鉄球を、振り回す。
普段の私じゃ絶対に出せない、風をも置き去りにするような鋭さ。
鉄球は、ミライユさんには届かない。鎖の長さをそう調整したからだ。
手加減?そうじゃない。
私が手元の鎖を掴む力を少し弱めれば、鉄球の間合いは振り回した後からでも伸びる。
つまり「え?防御しないの?じゃあ鎖伸ばしますね。これは痛いぞー……」ってプレッシャーをかけ続け、防御を強いる事が出来るって事。
超高速で振り回される鉄球は、当たれば手足の骨くらい簡単に、帷子なんか関係なしに折れる。
っていうか最悪砕ける。そんな事にするつもりはないけど。
ジャンさん達と挟み撃ちの形が取れるよう動きつつ牽制を続け、私は魔力の糸を二人へ飛ばす。
『仕切り直しましょう。ミライユさんの魔法は強力ですが、神の奇跡って訳じゃない』
糸電話だ。
糸を伝って二人の届く声が、ミライユさんに聞こえる事はない。
『言ってしまえば魔力を、別の力に作り変えて、物を動かしているだけ。
だから他の魔法と同じように、限界がある』
もしあの魔法を無制限に使えるなら、彼女は空間のねじれの中に閉じこもって、一方的にこちらを攻撃出来るはず。
でもそうはしてこない。
つまりあの魔法は、ちょっと見た目が奇抜なだけで、破る術は他の防御魔法と同じだ。
『力でぶち破る事も、手数で切り開く事も出来るはず。……手数は、私が稼ぎます』
鉄球を縦横無尽に振り回す。
一度鎖が胴体や足に巻きついて、それを空間魔法で解くのが先か、私が鎖を引っ張ってすっ転ばせるのが先か。
試してみるのは、ミライユさんにとってはリスクが高いだろう。
鉄球による嵐の中に、左手でスローイングナイフも織り交ぜる。
鉄球を放つタイミングと、ナイフを投げるタイミングは、ずらしてある。
ナイフを跳ね返せば、その隙に鎖を叩き込めるように。
けど、これだけじゃミライユさんの防御を崩し切る事は出来ない。
だから私は牽制を繰り返しつつ、徐々に間合いを詰めて……ネズミの瞬発力で、まっすぐ一気に切り込んだ。
鎖は利用されないように投げ捨て、煙幕を地面に叩き付ける。
右手には麻痺毒を塗ったダガー。
こいつで、殺してしまわぬように斬りつける!
……そう見えるように、【ファントム】を作り出した。
212: ◆ejIZLl01yY
17/01/23 22:54:30.84 SeUu6PQj.net
野生の力を身に宿し、殺気を乗せ投擲したダガーに、虚像を被せた。
今度こそ、見切れるもんか。
同時に【スニーク】を纏い、地を蹴る。
ネズミの瞬発力は、ほんの一瞬で私をミライユさんの懐へ運
213:んだ。 右手には、森での活動に使う大振りのマチェット。 私はそれを、渾身の力で振り抜いた。 ミライユさんが指環を握り締めた、その手を斬り落とすように。 殺したくないと言った。アレは私の本心だ。 傷つけたくもないと言った。 アレは……嘘だ。 こうなった以上、傷つけずに終わらせるなんて不可能だ。 私はお人好しだけど、そこまで馬鹿じゃない。 わざわざ火傷でめちゃくちゃしんどい思いをしながら古代魔法をアピールしたのも、それ以外のスキルへの警戒を薄れさせる為。 虚実を織り交ぜるからこそ、嘘ってのはバレにくくなる。 つまり……これは【ヒュミント】だ。 ま、奥義もいいけど、どんな事だって基礎が大事だよね。 それに古代魔法なんてカッコつけても、所詮私は凡人。 こういう事をしないと、決められないのだ。 と言うか、ここまでやっても決められないかもしれない……。 だけどそれでもいい。 だっていつもと違って、今の私には仲間がいるからね。 【不意打ち手首ズバー】
214:創る名無しに見る名無し
17/01/24 00:45:21.82 0zKrx5aG.net
埋め
215:創る名無しに見る名無し
17/01/24 00:48:35.03 0zKrx5aG.net
埋め
216:創る名無しに見る名無し
17/01/24 00:52:09.33 0zKrx5aG.net
埋め
217:創る名無しに見る名無し
17/01/24 00:53:26.37 0zKrx5aG.net
埋め
218:創る名無しに見る名無し
17/01/24 00:53:51.58 0zKrx5aG.net
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219:創る名無しに見る名無し
17/01/24 00:58:40.48 EiQyCJxo.net
埋めますか
220:創る名無しに見る名無し
17/01/24 07:41:26.53 ffMphuE7.net
埋め
221:創る名無しに見る名無し
17/01/24 07:52:04.77 ffMphuE7.net
埋め
222:創る名無しに見る名無し
17/01/24 07:53:18.54 FpGlBBCa.net
埋め
223:創る名無しに見る名無し
17/01/24 13:36:50.29 vsp79v7Q.net
埋め
224:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/01/24 21:34:09.96 oB1r/UUP.net
>「ジャン殿……相手は指環を持っておるのだ!」
後ろからティターニアが止めようとしてきたが、もはや遅い。
今のジャンはミライユを潰すことしか頭になかった。
「―黙ってろッ!!」
そうティターニアに吐き捨て、二度の投擲で怯んだであろうミライユへとさらに突進する。
ティターニアが援護のつもりか、ミライユの周りの土が盛り上がって体を拘束するように動き始めた。
ジャンにとっては都合がよかった。これなら顎をかち割りやすい。
右の拳を振りかぶり、体勢を崩したままのミライユへ一撃を叩きつけんとした瞬間、ミライユの策は成った。
発動した拘束魔術はジャンの位置へと反転して発動し、ジャンは足を取られて転倒する。
振り上げた拳は地面へと叩きつけられたが、ミライユはわずかに届かない数歩先だ。
ジャンを見下しながら悠然と立ち上がるミライユを、魔力で固められた土に覆われながら眺めるジャンの形相は
もはや悪鬼のようであったが、何も手出しができなければそれは強がり以外の何物でもなかった。
>「……ええと、残りは一、二匹……あ、一応三匹だったかな?」
>「……まさかこの私がこれだけの目に遭うとは……痛いです。女の子の柔肌を痛めて、到底許されることじゃないですよ?
マスターに会ったら、何て言い訳をしたら良いのやら……。
しかも、ティターニアや竜じゃなく、その周りの虫ケラどもにここまで手傷を負わされるなんて……ねぇ……?」
ジャンの処理は終わったと言わんばかりに喋るミライユを前に、ジャンは体を突き動かす怒りが
さらに増すのを感じる。土壁に覆われたこの体でできることは何があるか、ジャンは必死に体を動かした。
そして気づいた。腰の紐に括ってある小袋の一つ、その中に入れてあったアクアの指環。
ミライユが長々と喋っている間にどうにか両腕を背中に回し、指環を右手の中指に嵌めた。
(指環をこのまま取られちまうぐれえなら……いっそ今嵌めてやる!)
指環はジャンの太い指に触れたとたん、その見事な装飾を変化させてぴったりと嵌まるように広がる。
225:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/01/24 21:34:38.01 oB1r/UUP.net
そして完全に中指に嵌まった瞬間にジャンは、気がつけば海の上に立っていた。
波立つことのない静かな海と、雲一つない見事な晴天。
薄暗い洞窟からの突然現れた爽やかな天候に、ジャンは戸惑い辺りを見回す。
すると声がした。明るい少年のような声だ。
「―指環を嵌めたということは時が来たのか、それとも」
声の主はジャンの目の前に、空間からぬるりと姿を現した。
「君は、力を求めるだけの愚か者だったのか」
青い髪の少年にして水を司る竜。アクアだった。
「……ここはどこだ。外に出ちまったのか?」
「この場所は指環が見せている幻だよ。ボクは指環の一部分。瞬きする時間より短い時間の中にボクたちはいる」
「そうかよ、なら早速言わせてもらうけどよ」
指環の力をくれ。そうジャンが言おうとしたところでアクアが口を開いた。
「ダメだ。時が来るまで渡すことはできない。ましてや怒りに我を忘れるような間抜けでは力に取り込まれ、
ただの竜ですらない、もっと醜悪なおぞましいものになるだろうね」
まるで煽るようなアクアの口調に、ジャンは反論が思いつかず、ただ詰め寄った。
だがジャンはその怒りゆえに土壁に閉じ込められ、今こうして指環の力をもらうことができずにいる。
「このままだとあのクソ女に指環を奪われちまうぞ、それでもいいのかよ!」
「それでも構わない。指環の力は善悪にこだわらない、ただ決意のみを必要とする。
彼女の決意は本物だろうね。使いこなせるかどうかは別として」
ジャンは焦りからか、さらに詰め寄った。
「ティターニアたちが追いつめられてるんだ!仲間になったばかりのラテも!」
「君は仲間の危機という大層なお題目を掲げて自分の怒りを相手にぶつけたいだけだ。
指環の力は半端なものではない。この海を丸ごと君一人に押し込むような凄まじい力だ」
そう言うとアクアは指を軽くパチンと鳴らした。
すると海と空が一瞬にして変貌する。海はあっという間に時化り、空は暗雲が立ち込め風と雨が激しい勢いでジャンを襲う。
「海は決して収まらない。今の君に荒れ狂うこの力を与えても無意味だろう」
暴風に吹き飛ばされ、激しい雨に打たれ、時折やってくる津波に揉まれながら、ジャンは呟く。
「だったら……だったらどうしろってんだよ……」
「君は既に力があることを示している。次に必要なものは決意だ。
ただその身を怒りに任せるのではなく、君がするべきことはなんだろうね」
226:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/01/24 21:35:29.90 oB1r/UUP.net
怒りのまま走るのではなく、仲間と一緒に歩く。
ただそれだけでよかった。ジャンは思い出す。この指環を巡る旅を始めてから、ずっと仲間に助けられてきた。
一時の怒りで自分を見失い、仲間よりも先走って思うがままに力を振り回すなんてこと、あってよかったのか?
「ダメだよな……それじゃあ、格好よくねえ。
歴史に名を残すんだったら、もっと格好よくいかねえとな……!」
「―気づいたようだね。なら行くといい」
気づけば嵐は止み、海は再び凪いでいた。ジャンは静かな海の上で大きく息を吸い込み、目を閉じた。
目を開ければ、そこは地面だった。
相変わらず土壁に取り込まれた自分と、ティターニアたち。そして傷だらけのまま狂ったように高笑いするミライユ。
そこに、ラテが突っ込んだ。
>「それは古の時代から……今まで人を生かし続けてきた魔法。
時に知恵を、時に強さを、時には不死さえもを、人に与えてきた魔法……。
これなーんだ……なんてね」
生き物の血肉を食らい、己が物とする秘術。
ある暗殺者一族に伝わると噂されていたそれを、ラテはためらいなく使った。
傷だらけのその身体に魔物の力を滾らせながら、鎖付き鉄球を勢いよく振り回す。
ジャンでも止められるかどうかわからないその一撃は、ミライユにとって脅威だろう。
>『仕切り直しましょう。ミライユさんの魔法は強力ですが、神の奇跡って訳じゃない』
>『言ってしまえば魔力を、別の力に作り変えて、物を動かしているだけ。
だから他の魔法と同じように、限界がある』
鉄球が嵐のごとく振り回される中、ラテから伸びてきた糸が情報を伝えてくる。
魔力で編まれたそれは、魔法が使えない者にも情報を伝達できるとあって戦場では重宝される技の一つ。
>『力でぶち破る事も、手数で切り開く事も出来るはず。……手数は、私が稼ぎます』
「なら俺は、力で試してみようかね……頭も冷えたしな!」
右手の中指に嵌めた指環が蒼く輝き、指環から水が溢れ始める。
やがて土壁を押し流すように水は形作られ、ジャンの腕力が土壁にひびを入れたと共に、水流の圧力で土壁が砕け散る。
「指環の力よ!」
ジャンのその言葉に応えるように
227:飛び散った水流が右手に集い、やがて大剣の形を成した。 そして、ジャンがそれを一振りすれば荒波の如き波紋が刀身に浮かぶ、見事な大剣が出来上がる。 「ティターニア、さっきは悪かった!ラテと一緒に、あいつをやっちまおう!」 大剣を肩に担ぎ、ラテが切り込むと同時にジャンも突撃した。 異なる二つの方向からの襲撃に加え、ジャンは大剣に秘められた力を放つ。 「そのハンマーと短剣はよ、お前が持っていいもんじゃねえんだよ!」 大剣を思い切り突き出し、刀身から凄まじい激流が放たれる。 その勢いはミライユを狙うのではなく、背後に浮かべられた武器や爆薬だ。
228:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/25 22:55:06.64 PfG98e+1.net
>「丸見えですよ。ラテ。お前は特別に最後に殺してあげます…… いや、これは"粛清"……
不要なギルド員は、始末される定めにあるんです。じっくりと、甚振ってからね……!」
>「あ、が、あぁああああああああああああああああああああ!」
「ラテ殿……!」
ついに残酷で無慈悲な本性を現したミライユ。
額に青筋を立てたその姿は、ティターニア達に見せていた快活な娘の面影は無く、まさに物語に出てくる悪の魔女そのものだ。
タイザンを、娘を殺した事実を知らしめ絶望させた上でじっくり甚振ってから葬る。
>「返してよ! マスターと……お姉ちゃんを返してぇぇー!!」
>「うぅ……うわぁぁー!!」
さらに、ホロカも壁に叩きつけて気絶に追い込んだ。
お姉ちゃんを返してと言われた時に何故か動揺したように見えたが、今は考えている余裕はない。
>「グオォ……グガアアアァァァ!!!」
理性を失い荒れ狂うジャンがミライユにダメージを与えていく。
>「くッ……!」 「うっ……!」
何故こんなことを思ってしまったのか自分でも分からないが、ジャンに追い詰められていくミライユを見て
ほんの一瞬だけ、野蛮なハーフオークがうら若き娘を蹂躙しているように見えてしまって―
そんな違和感を振り払い、このまま殺してしまう前に拘束して終わらせようと、ホールドを発動させるティターニア。
しかし―それは裏目に出てしまった。
ミライユが空間操作の魔術を行使し、ティターニアの放った魔術を使ってジャンを拘束してしまったのだ。
>「決めた。最初はこのオークにします。ティターニア、ソルタレクのギルド本部の名において命じます。
最後まで仲間割れの好きな人たちで、私、今、凄く楽しいですよ? あなたが言えば聞くでしょ?
とりあえずこの男とあの竜、そして私の後ろにいる羽虫を黙らせて、ギルドに降伏なさい。でないと、この男から殺します。
ま、愛する人を殺されて怒ってるあなた方の顔を見るのも、楽しみなんですけどねッ、アハハハッ!」
>「私の傷のことは構いません……フェンリルと私については確かにその女の言う通り内輪揉め……我らの。
あなた方は私を反面教師として……悪しき者を正しいと思うとおりに罰しなさい。ティターニア、あなたに申しているのですよ……!!」
ジャンを人質にして脅迫しティターニアに降伏を迫るミライユと、誑かされるなと訴える重傷を負ったテッラ。
「戯言を―外道の行動パターンなど大体予測は付くぞ。
仮に降伏したとて降伏したら助けるとは言ってない等と言って結局殺すのだろう?」
229:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/25 22:59:57.81 PfG98e+1.net
ティターニアは不敵な笑みを作って応じながら、時間稼ぎをする。
次の一手を考える時間を……だ。
実を言えば自分が放った魔術なのでジャンを解放することはいつでも可能なのだが
理性を失った状態のジャンにこのままミライユを葬らせて本当にいいのか。
そして、殺す事が本当にテッラの言う“悪しき者を正しく罰する”ことになるのか。
そしてもちろん、この状態のジャンを解放して今度こそミライユに指環を嵌められては一巻の終わりだというのが一番の問題だ。
まだミライユが自分の方が優位と認識していて嵌める気になっていない今のうちに不意打ち等で指環を奪取してしまいたいところだが……。
そんな事を考えていると、ラテが動いた。
>「それは古の時代から……今まで人を生かし続けてきた魔法。
時に知恵を、時に強さを、時には不死さえもを、人に与えてきた魔法……。
これなーんだ……なんてね」
魔物の血を飲むことによって獣の力をその身に宿し、鉄球を振り回してミライユを牽制し始めるラテ。
>「あなたを、殺したくない。傷つけたくもない。だけど……あなたを止めます」
ラテは交渉術を使いこなす凄腕のレンジャー、この言葉の全てが真実ではないだろう。
しかし同時に、全てが嘘ではないように、ティターニアには思えた。
魔力の糸を伝わり、ラテの声が聞こえてくる。
>『仕切り直しましょう。ミライユさんの魔法は強力ですが、神の奇跡って訳じゃない』
>『言ってしまえば魔力を、別の力に作り変えて、物を動かしているだけ。
だから他の魔法と同じように、限界がある』
>『力でぶち破る事も、手数で切り開く事も出来るはず。……手数は、私が稼ぎます』
そうは言ってもジャン殿がこの状態では―そう思い、思わず歯噛みした時だった。
ジャンの力強い声が響き渡る。
>「なら俺は、力で試してみようかね……頭も冷えたしな!」
>「指環の力よ!」
水流が土壁を打ち破る―!
なんとジャンは水の指環をはめ、その力を使いこなしていたのだ。
そうか、彼は水竜アクアに試されていたのかもしれない―そんなことを思う。
>「ティターニア、さっきは悪かった!ラテと一緒に、あいつをやっちまおう!」
ああいつものジャン殿だ、そう思った時、ティターニアは自分のローブを掴んでいる者がいることに気付いた。
先程壁に叩きつけられ気絶したように見えたホロカだ。
230:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/25 23:02:55.46
231:PfG98e+1.net
232:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/01/25 23:06:14.53 PfG98e+1.net
重傷を負い倒れているシュマリからは、しかしまだ魔力が感じられる。大丈夫、まだ息はある。
ティターニアはやおら眼鏡を外した。
彼女が近眼なのは、精神世界を見る能力に偏り過ぎて、物質世界を見る能力が割を食っているためだ。
そのため普段は特殊な魔術が付与された眼鏡を通し調整をかけている。
その眼鏡を外したということは、これから行使するのは精神世界を顕現する特殊な術だということ。
ティターニアはエーテルセプターを構え、横からホロカにも手を添えさせる。
そして高らかに詠唱を始めた。
「ティターニア・グリム・ドリームフォレストの名において乞う―
其は 何処より遠く何より近い場所 生命の生まれる場所にして何時か帰る場所
果て無く巡る魂の�
233:~環 忘れ去られた記憶に刻まれた聖痕 我が声に応え暫し顕現せよ――」 やがて訪れる決着の時―― >「そのハンマーと短剣はよ、お前が持っていいもんじゃねえんだよ!」 ジャンが大海の力を宿す見事な大剣を振るい、ミライユの背後の武器に向かって激流を放つ。 そして、ラテがマチェットを振りぬきミライユに斬りかかると同時―― 「――夢の森《ドリームフォレスト》」 ティターニアとホロカ、二人掛かりの大魔術は発動した。 そもそもドリームフォレストとは――神樹ユグドラシルを擁するエルフ達の住まう森。 物質世界と精神世界を繋ぐと言われるユグドラシルの周囲に広がるこの森は、物質世界にありながら、精神世界の影響を強く受ける。 この森と同じ名を冠するこの奥義は、その名の通り精神世界を映す夢の森を顕現する魔術だ。 ここが、森の名を冠するこの魔術とは相性がよい土のフィールドであったことも幸いした。 周囲に魔力によって顕現された草や木が生い茂り、一瞬にして風景が塗り替わっていく―― 「ミライユ殿、ここは現在と過去が入り混じり、死した者とも対話できる場所―― 我に出来るのはここまで……後はそなた次第だ」 ティターニアのその言葉の通り、ここで何を見て何を聞き何を得るかはミライユ次第。 それがミライユの記憶を基に再現される幻覚のようなものか、本物の降霊術に近い物なのかは、各々の解釈に委ねることとしよう。 それは大した問題ではない、どちらにせよミライユにとっては紛れもない真実であるのだから。 ただ一つ、まず間違いなく言えるのは、ミライユはここで最愛の姉、メルセデスと邂逅することとなるだろう。 そして彼女は、ミライユが、自分の死をはじめとする過去の呪縛から解き放たれ立ち直り、真実の愛を知ることをただ願うのだ―― たとえどんなに罪を重ねたとしても、ミライユはメルセデスにとって、たった一人の最愛の妹なのだから。 【>ミライユ殿 結構な無茶振りだが自由に演出してやってくれ!】