【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】at MITEMITE
【ファンタジー】ドラゴンズリング2【TRPG】 - 暇つぶし2ch294:パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA
17/02/02 23:40:56.25 zo2xLeN/.net
「ゆぐどらしあ…?」
ここはどこだろう? それにしてもどうやってここまで辿りついたのか。
少しだけあった食料も尽き、あたしはもう腹ぺこだ。
冒険者ギルドからは騙されて変な女に殺されかけるわで、命からがら逃げてきたというのに。
運もよく、どうやらここは話が分かりそうな人たちが揃っているらしい。
どこかの学校? 教団とは違う、研究施設のようだ。
「ねえ、ちょっとそこの方、このあたりに食料の配給は…」
「うわっ!」
学生らしい少年に驚かれ、逃げられた。
下手に体格が良いから、あたしはどうしても避けられることが多いんだ。
そうこうしている間に、どこかの建物に入った。
周りもあたしもローブに杖の姿だから不思議じゃない。開放的な場所みたいだ。
>「襲撃の編成等の情報は入っておるのか?」
「質より量のコモンクラスの集団らしい」
「コモンクラスの冒険者など束になって来ようとも我々の敵ではあるまい。率いている者が何者かは分かるか?」
「それが……適当に臨時で雇われたフンドシ一丁とゴスロリの二人組のモグリの冒険者だと……」
「……。ギルド員ですらないと。ソルタレクの冒険者ギルドは一体何を考えておるのだ……?」
「仕方があるまい、ジャン殿、ラテ殿、付き合ってくれるか?」
「ひっ! ソルタレク、ギルドぉ……」
うわぁ。つい嫌ぁな単語に反応してしまった。
中にいた研究者らしいエルフと、その助手らしい少年、
他に冒険者らしい大男と人間の女が一斉に振り向いた。
「あっ、いやいや、怪しい者ではないんですぅ、その、食事を少々恵んでもらえれば。
いや本当に、お腹が空いて死にそうなんです。お金もないし。…何でもしますから!
名前はパト、パトリーヌ。とりあえず。ところで冒険者ギルドの人達ではないですよ…ね?」
と、言いながらいつでも逃げられるようにあたしは一歩後ずさった。

【よろしくお願いします。即参加でも、もし都合が悪ければ飛ばしちゃってもいいです。】

295:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/02/02 23:52:41.07 DPQixAXK.net
【ようこそ、歓迎するぞ!
では折角なので前章の順番を元にラテ殿→ジャン殿→我→パトリエーゼ殿という感じで開始しよう!
ノーキン殿は遭遇した時点で上のローテーションのどこかに入る感じで!】

296: ◆ejIZLl01yY
17/02/03 23:47:53.81 idk0E4bQ.net
「十二、十三、十四……」
あの古代都市への短い冒険が終わって数日。
私はこないだ放火騒ぎを起こし……放火騒ぎが起きてた宿屋の屋上にいた。
いや違います。放火魔が現場に戻ってきた訳じゃないです。
トレーニングをしにきたんですぅー。
今はティターニアさんの計らいでユグドラシアに泊めてもらっているけど、
走り込みとかはあそこじゃちょっとやりにくいんだよね。
で、今は逆立ち腕立て二十回セットの五回目なんだけど……。
「十八、十九……二十」
……出来ちゃったよ。しかもまだまだ余裕がある。
これは……と、私は振り返って、通りを挟んで向こう側の建物を見た。
高さは、少し向こうが低いけど、大体同じくらい。
この辺は安い宿や食堂が建ち並ぶ通りで、道は狭め……だけどそれでも馬二等分くらいの道幅はある。
私は今いる屋上の、真ん中に立った。
そして……向かいの建物めがけて走り出す。
何の為って?そりゃ、飛ぶ為に。
床を一蹴りする度に、体がぐんと加速する。
だけどまだまだだ。もっと速く走れる。もっと、もっと、もっと速く!
「っ、ふっ……!」
そして屋上の縁を思いっきり蹴っ飛ばして、私は跳んだ。
落ちれば大怪我間違いなし……極限の緊張感が、私の時間感覚を少しだけゆっくりにする。
通りで朝の掃除をしている宿屋のおじさんと、目が合った。
っと、いけない。よそ見をしてる場合じゃない。
私はめいっぱいに腕を伸ばし……うん、届く。
屋上の縁に、指を引っ掛ける。
体が壁にびたーんって叩き付けられるけど、こういう時の受け身の取り方は訓練済み。
足の裏でしっかり衝撃を受け止め、全身の関節を使ってそれを緩和。
そのまま壁を蹴りつつ体を引っぱり上げて、屋上に登りきった。
「……届いちゃったかぁ、この距離」
さっきまでいた屋上を振り返って、呟く。
熟練のレンジャーならわりとぴょーんと渡っちゃう距離なんだけどね。
少なくともちょっと前までの私なら、背伸びしても届かなかった距離。
それが届いちゃったのは、きっと、日頃の訓練の成果……だけじゃない。
ミライユさんとの戦いで使った、私の奥の手。
あれのせいでまた少し、私の体は魔物に近づいちゃったんだと思う。
「……やっぱり、使い続けたらとんでもない事になるよなぁ、アレ」
具体的には顔だけネズミの怪人ネズミ女になっちゃいかねない。絶対嫌だ。
でも使わざるを得なかったんだよなぁ。
だって私みたいな村娘Aがいきなり伝説の指環を巡る戦いに放り込まれたんだよ!?
普通に戦ってたら間違いなく死んでたんだもん!

297: ◆ejIZLl01yY
17/02/03 23:49:09.64 idk0E4bQ.net
え?余計な事に首を突っ込むな?はい、ごもっともです……。
けどもう手遅れ……ではないんだけど。
正直、今からでもジャンさん達に人間やめるの怖いし降ります、って言う事は出来る。
出来るんだけど……あれ、出来ちゃうじゃん。
……私がジャンさん達に近づいたのは、元はと言えばミライユさんが原因だ。
放っておけば、二人がミライユさんに殺されちゃうのではと思って、私は声をかけた。
でもその脅威はもう去ったし……お二人は、私よりずっと強かった。
……あれ?私、なんでジャンさんティターニアさんに付いていこうと思ったんだろ。
ミライユさんや、あの古代都市で出会った皆の事を忘れない為?
いや、指環を巡る旅に同行しなくたって忘れない事は出来る。
トレジャーハンターとして、指環のロマンには逆らえない?
うーん……確かにすっごい魅力的だし心惹かれるけど……。
人間やめて、命投げ打って……そんなリスクを冒す事ばかりが冒険じゃない。
いやね、私の冒険の書をちょっと読み返してもらえば分かると思う。
基本的に旅先で見た魔法やアイテム、魔物やダンジョンについて雑学や雑感を述べてるだけでしょ。
ここ数日で、ミライユさんと事を構えるまで、倒した魔物なんて多少強くなってたとは言えオオネズミだけ。
いざまともな戦闘が始まったら
「絶対見切られたりしないっ!」
って言った直後にミライユさんに【ファントム】を見切られて反撃をもらう始末。
そう!そもそも私は切った張ったとは遠い位置にいる冒険者だったの!
散々書き散らかしてる余白の雑感コーナーとか、正直入れ替えたいもん。戦闘とかなんやかんやと。
余白で戦って後はひたすら解説でもしていたい……。
でも……今までもダンジョン内の魔物や罠が原因で死ぬかと思う事はあったよなぁ。
あの奥の手も、別に使ったのは初めてじゃない。
旅に同行しなくても皆を忘れない事は出来るけど、逆に付いていったら忘れちゃうって訳でもない。
うーん、うーん、と考え込んで……ふと、気が付いた。
私は、ジャンさん達に付いていく理由を探して悩んでるんじゃない。
ジャンさん達に付いていかない理由を探して、悩んでるんだ。
ついこないだまでの私なら、カッコよさとか、ロマンとか、
それだけで後は何も考えず、二人に付いていってたはずだ。
だけど……あの古代都市で、私は人を殺した。
ミライユさんを、殺したんだ。
人の死を見るのが初めてだった訳じゃない。
トレジャーハンターをしていれば、選択を誤った人達の亡骸は何度も目にする事になる。
時には、その瞬間だって。
だけど……自分の手で誰かの命を奪うのは、今まで見てきたそれらとは全然違った。
もっと、もっと、恐ろしいものだった。
指環を巡る冒険に乗れば……きっとまた、人を殺す時が来る。
私は……それが怖いんだ。
手が、震えてる。
「……今からやっぱり降りるって言ったら、怒られるかな」
気が付けば、私はそう呟いていた。

298: ◆ejIZLl01yY
17/02/03 23:50:07.97 idk0E4bQ.net
 

……それから私は、暗くぼんやりした気分で、ユグドラシアに帰ってきた。
ティターニアさん達は……この時間なら、研究室かな。
研究室を訪れると、ティターニアさんは何やら薄めの冊子を読んでいた。
「あ……あの、ティターニアさん」
>「ジャン殿ラテ殿も見てみるか? なかなか面白いぞ」
「え?あ、あぁ……絵物語ですか?じゃあ、お言葉に甘えて……」
……出鼻を挫かれてしまった。
えっと、とりあえず受け取っちゃったからには読んでみよう……あ、これ面白い。
エルフの戦闘者って聞くと、大抵の人はまず魔法使いを連想すると思う。
そして次に弓使いや、流麗な技を扱う剣士とか、かな?
でも彼らの適性はあくまでも魔法一辺倒。
全体的に器用ではあるけど、別に剣や弓をあえて使うほどの種族的素質はないんだよね。
ただ魔法ばかりに頼っていては、他種族との戦いで対策を取られた時、
それがそのまま絶滅の危機に繋がりかねない。
だからやむを得ず、剣や弓の技術も磨いてきたってだけ。
でも、やむを得ず使われてきたから優れていない……って訳じゃない。
むしろ逆。やむを得ず使わなきゃならないからこそ、その技は研鑽され続けてきた。
森に生きる彼らが特に得意とする風や水の魔法。
それらを用いた身体操作や技の数々は、冴え渡るという表現がまさしく相応しい。
私も一度エルフの剣士さんとご一緒した事があったんだけど、いやホント見事なもんだったよ。
水の力を身に宿して繰り出される流れるような動きは、剣技の「起こり」が感じ取れないの。
遠目から見てる私ですら、気が付いたら魔物が斬り伏せられていた、って感じだったもん。
……でも、それらはあくまで魔法を剣技に流用しているからこその代物。
この絵物語の主人公であるエルフさんは違う。
「……面白かったです」
生まれながらにして一切の魔法が使えないエルフが、肉体を極限まで鍛え上げ、連邦の宮廷武官にまで上り詰める。
しかもそれが、実在した人物の話だって言うんだから……私みたいな小娘にはもう、感服するしかない。
もし、この人が今の私を見て、この心の内を明かしたのなら……なんて思うんだろう。
いや……詮無い事を考えるのはやめよう。
「ティターニアさん……あの、指環の勇者御一行の、話なんですけど」
>「ティターニア様、大変大変!」
……うぅ、また何か邪魔が入ってしまった。
言い出すのが遅くなれば遅くなるほど気まずくなるし、困ったなぁ……。
>「魔術師ギルドから情報が入ったらしくて……主府の冒険者ギルドの一団がここを襲撃しに向かってるらしい!」
私は思わず、後ろを振り返った。
ホビットの助手さんは慌てて走ってきたのか息も絶え絶え。顔色


299:は蒼白だ。 どう見たって嘘をついている様子じゃない。 ……ミライユさんの言葉は、嘘じゃなかったのか。



300: ◆ejIZLl01yY
17/02/03 23:50:34.09 idk0E4bQ.net
私はティターニアさんへは向き直らず、そのまま助手さんの更に奥を見た。
研究室の扉の外。私がさっき、ぼんやりと通ってきた道のり。
アスガルドの発展を導いてきた導師様方。
これから先を作り上げていく大勢の学生達。
彼らとすれ違った廊下を。
そして……アスガルドそのものと言ってもいい、この都市に住まう人達。
高度な魔法技術と、それが見せてくれる夢を求めて集まった商人や冒険者達。
彼らが築く、賑やかな街並みを。
……指環を巡る戦いの中では、きっとまた、人を殺す時が来る。
それは、私じゃなくてもそう。
私じゃない誰かが、人を殺すんだ。
舞台から降りてしまえば、その時……私はそこに居合わせられない。
いや、違う。
>「仕方があるまい、ジャン殿、ラテ殿、付き合ってくれるか?」
冒険をやめてしまえば、今この瞬間、この場に居合わせる権利だってない。
今回は大勢死にそうだから手を貸して、後はさよならなんて……そんなのは傲慢で、無責任だ。カッコ悪過ぎる。
覚悟を決めろ、私。
そう自分に言い聞かせて……私は思いっきり、自分の両頬を引っ叩いた。
「……新生指環の勇者御一行の、初クエストって訳ですね。やってやりますよ」
私はティターニアさんへ向き直って、会心の笑みを見せつけた。
さて……じゃあ早速、情報を整理しよう。
向こうは首府から大軍を引き連れてアスガルドへ向かってきている。
となれば到着にはまだ数日かかるはず。守りを固める時間は十分。
その殆どはコモンクラス。率いているのはギルドメンバーですらないモグリ二人。
ティターニアさんがなんかすごい微妙そうな顔をしている……。
うん、正直私も気合入れて思っきしほっぺ叩いてちょっと後悔してる。
……とは言え、相手を舐めていい事なんかない。仮にも相手はソルタレクの冒険者ギルドなんだ。
「……ミライユさんの言葉を全て信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは」
>「ひっ! ソルタレク、ギルドぉ……」
……なんかすごく情けない感じの声が聞こえた。
振り向いてみると、うわ、でっかい女の人。
ゆったりしたローブと、持ってる杖が物差し代わりになって、ものすごく大きく見える。
でもなんか、意識朦朧というか……ふらふらしてる。
その場から一歩も動いてないのにまっすぐ立ててないし。
学生さん?……じゃなさそうかな。ローブも結構汚れてるし、行き倒れ寸前の冒険者とか?
この人こんな調子でここまで入ってきたの?
いや、まぁ、これだけ大きい人が虚ろな感じで歩き回ってたら私もまず導師様を呼びに行くかも。

301: ◆ejIZLl01yY
17/02/03 23:51:37.21 idk0E4bQ.net
>「あ、いやいや、怪しい者ではないんですぅ、その、食事を少々恵んでもらえれば
うーん、残念ながらものすごく怪しいです。
ていうかこっそり逃げ出す準備をしている辺り、自覚があるんだろう。
ふらふらしてるのが演技とは思えないし食べ物をあげるのは構わないんだけど、変に疑られても面倒。
なので、
「お食事が欲しいなら、部屋から離れてどうするんです?」
はい、毎度おなじみの【スニーク】アンド【ファントム】で背後に回らせて頂きました。
そのままふらっふらの背中を押して、研究室の中へ。
「はいはい、とりあえず壁に体預けて、座って。ふらふらじゃないですか」
体格差はかなりあるけど、どうやらご飯が必要なのは本当のようで、簡単に座らせる事が出来た。
よし、それじゃあ腰の宝箱をがさごそ、と。
テッラ洞窟の探索用に買い込んで、結局食べずじまいの保存食が残ってるんだよね。
でも長い間ご飯を食べてないなら……あんまり硬い物はよくないよなぁ。
なら……うーん、これだ。
干しスライムのベーコンと野菜詰めコンソメ風味。
どういう料理かって言うと、名前のまんま。
瀕死にして消化


302:能力を失ったスライムにベーコンと野菜と濃縮したコンソメを無理矢理詰め込んで、そのまま日光や火の魔法で乾燥させた物。 作り方はえげつないけど、これは保存食として優秀なんだよね。 宝箱から小さな鍋、それと低レアリティのファイアソードを取り出す。 この剣、戦闘に使うには火力が無さすぎるんだけど、鍋で料理を温めるくらいは出来る。 床に直置きする訳にもいかないから、今回は口を開けた宝箱の上で固定。零したら悲惨な事になる……。 鍋に入れて熱した事でスライムが溶けて、そのままスープ状になる。 スライムって生命を宿した液体じゃん。つまり栄養抜群なんだよね、彼ら。具材を変えれば飽きも来ない。 その上作るのも簡単で、ダンジョンに保存食として持ち込める温かいスープは、レンジャーの間では結構人気。 鍋のまま渡す訳にもいかないので、追加で取り出したマグカップに注いで……あとビスケットも付けちゃおう。 肉に野菜に穀物、水分……うん、栄養バランスは完璧! 「落ち着いて、ゆっくり食べて下さいね」 それで、えーと……何の話をしてたんだっけ。 ……あぁ、戦争が始まるんでしたね。またしばらく余白に落書きする暇も無くなりそう。いやだー。 「話を戻しますね。ミライユさんの言葉を信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは、アサシンギルドを併合してます。  ……ま、どうせ少しばかしレンジャーの技術を齧っただけの、ちゃちな殺し屋集団でしょうけどね」 前にも書いた気がするけど、アサシンってのは元々は神に仕え平和の為に戦う戦士達だったんだ。 今じゃ金をもらって人を殺せばアサシンみたいな認識になってるけど、そんなんじゃあないんですよ! 私は常々思ってますよ。いつか冒険者として有名になって、何の信念もない人殺しはアサシンじゃありませんって世の人々に言ってやりたいと!



303: ◆ejIZLl01yY
17/02/03 23:53:31.43 idk0E4bQ.net
……と、閑話休題。
「つまり……もしかしたら、既に刺客はアスガルドに到着して、潜んでいるのかも。
 本隊が到着して都市を包囲したら、中で騒ぎを起こして、侵攻のきっかけを作る。
 私が作戦を練るなら、そうします」
アスガルドは、ユグドラシアで扱われる魔法技術や知識の危険性から、結構強固な外壁がある。
だけどそれも、外壁の上に立って攻撃を行う者がいなければただの飾りだ。
意識が完全に外敵に向いていれば……例えユグドラシアの導師であろうと、暗殺は不可能じゃない。
他にも井戸に毒を入れたり、風説の流布を行ったり……。
「まぁ、刺客がいるかもしれないと思っていれば、ここの導師様方なら遅れは取らないでしょう。
 ホロカちゃんが早速活躍出来るかもしれませんね。
 疲れを知らない精霊達を刺客の警戒に当てれば、外への攻撃に集中出来る。そう、外への攻撃です」
……ティターニアさんは、どういう反応をするだろうか。
外への攻撃……私は、した方がいいと思う。
正直アスガルドの防御と兵力を考えれば、籠城してるだけでも負けはないはず。
だけど……
「……一発、大きなのをぶちかましてやった方がいいと私は思います。
 何人か、為す術もなくやられれば、それが見せしめになる。
 相手の士気が落ちて、さっさと退却してくれるかもしれない。そうなれば、ソルタレク冒険者ギルドの面子を潰せる」
面子が潰れれば、支配力が失われる。人が離れていく。
次は兵力を用意するのが難しくなる。
後々の事を考えれば、敵にはそれなりの被害を受けてもらった方がいい。
これは、命を天秤にかける行為だ。
アスガルドの人達をより確実に助ける為に、ソルタレクの冒険者達に、死ぬかもしれない攻撃を仕掛ける。
「……もし、ここの導師様方が難色を示したら。いえ


304:、示さなくても……攻撃は私が……あるいは私も、やります。  私には手製の爆弾と、この【不銘】がある。尻尾巻いて逃げ出すまで、爆撃してやりますよ」 ……だけど、私はそれが傲慢な事とは思わないぞ。思ってやるもんか。 人の命を奪いに、平和を壊しに来ているなら、向こうにだってそれ相応の覚悟があるはず。 もし覚悟も思慮もなしに、やってきているなら……それこそ、最低だ。 「それでも万が一の時の為、住人の皆さんにはユグドラシアに避難してもらった方がいいかもですね。  可能なら土魔法が得意な魔術師を集めて、内壁を築いて街を幾つかの層に区切っておきたいですし。  やれる事は、全部やりましょう。何をしてでも、人命だけは絶対に守り抜かないと」 こんな、顔も名前も知らない誰かの私欲が引き起こした戦いで奪われていい命なんて、ここにはないんだ。 【警戒さえしとけば暗殺者なんか怖くないよね!外壁の上からちょっと爆撃すれば皆ビビって帰りますよ!】      うぅ、もうすぐまた余白に落書きする暇もなくなるのに、今回は余白が少ない……つらい……かなしい……。 えっと、それじゃ今回は【二つのレンジャー】についてでも。 今回、私は結構あれこれ喋ってたけど、レンジャーって実は戦術についても勉強させられるんだよね。 何故なら……レンジャーって二つの意味があるんだよ。 一つは『徘徊者』。 これはアサシンやシーフ、トレジャーハンターとか、それら全てを包括するベースクラスとしての『レンジャー』だね もう一つは……『猟兵』。戦場において遊撃や奇襲を任せられる、こっちは一つのクラスとしての『レンジャー』。 こっちは兵士としての性質が強い。つまり大抵の時勢、地域で仕事として機能するって事。 全ての『徘徊者』がまず『猟兵』の勉強をさせられるのは、それが一番食いっぱぐれな……あぁもう余白がない!くそう!ちくしょう!



305: ◆ejIZLl01yY
17/02/03 23:54:01.35 idk0E4bQ.net
【パティさんよろしくお願いします!
 私は「なんでもする?じゃあ戦力に追加な!」とかいうキャラじゃないので浅めに絡ませて頂きました。
 なんかいい感じに恩に感じて下さい】

306:オークの集団 ◆ceap50eg.2
17/02/04 08:28:19.50 UPvCiZV/.net
それと時を同じくして、ユグドラシアにオークの集団現る!!
既にユグドラシア魔法学院内は「敵の斥候」の一人によって仕掛けが作られていた。
転送陣(いわゆるH×Hのノヴさんのアレみたいなやつ)が各地に張られ、「敵」は
まず残虐で屈強な破壊者を送り込んできた。
ヒュン・・・・・ヒューイ!
妙な音とともに徐々に具現化されたのは、身の丈2m以上はあろうかというオークの集団だった。
肉体は鍛え上げられており、三人の戦士と一人の魔術師の計四名で構成されている。「敵」の斥候部隊だ。
ほぼ全裸で緑色の皮膚を持つ彼らは「ただただ破壊しつくし、略奪しつくし、逃げろ」という命令に従い、まずは
近くにいた研修生の少女二人を襲った。
「おっ、女だゼ」「女、女、女~♪」「もしかして俺らに≪ヤられたいんじゃないの~♪≫」
少女は魔法で抵抗するも、その攻撃は効かず、屈強な肉体で一撃、一撃を受けると、あっという間に少女は倒れた。
「なんかハラがバチバチすんなァ」「なんか股間がムラムラすんなァ」「ひっ!!」
あっという間に少女たちは怪我を負って倒れると丸裸にされ、オークたちに犯されていった。
薄着なのは戦闘で獲物をすぐに犯すためでもある。ものの2分か3分の間に少女たちは汚物塗れになり全裸で地


307:面に放置された。 生死は定かではないが、助かったとしてもはやまともな精神状態には戻れまい。 「はい、次、次!」 次に目を付けたのは入り口に「ティターニア!」と書かれた部屋だった。 「ティターニア!これ女の名前じゃねェノ~♪」「いちいち叫ぶなってのうるせェ、一応任務だ静かにやんゾ」 部屋から出てきたホビットはあっという間に巨大な棍棒の餌食になり、頭蓋骨をパックリ割られて無残な死骸となった。 オークたちがティターニア!部屋へと入っていく。 中にはエルフの女が一人、他に女が二人、オーク風の男が一人。 「女、女、女~♪」「おゥ!強盗ダァ!お前ら女は武器を捨てて壁に手を付けェ!モノ盗だァ、殺しやシネェ」 「ティターニア!っテェのは「天国」ミテェな意味カァ?」 オークたちの装備はそれぞれ棍棒、剣、巨大なボウガン、杖だ。 「聞こえネェのカ?壁に手をついてケツこっち向ケロ、できればパンツも脱いどケ。あ、そこの男はこっち来ナ」 オークの中の棍棒を持った一人は早速勝った気分で宝箱を物色し始める。勿論棍棒を持つその肉体に隙はほとんどない。 頭は悪いが盛況な連中が選ばれているのがよく分かる。 剣のオークは早速女の品定めか股間を触りながら三人の女たち(ティターニア、ラテ、パトリエーゼ)の全身を嘗め回すように眺め、 ボウガンのオークは四人に対して順番にボウガンを構える。 杖を持ったオーク(オークシャーマンか!)は全員に強化魔法をかけて部屋の扉を閉めるか?!と思ったら違った。 剣のオークと同じように股間を触りながら女たちを眺め、そして雷の攻撃魔法を遠慮なく一発、男であるジャンに対して放った。 「ヒャッハー! 女と財宝ヨコセ。命だけは助けてやル」 言っていることとやっていることが猛烈に違う。 (斥候の雑魚が乱入。適当に倒しちゃって、どうぞ)



308:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/02/04 16:08:37.32 5t5RArOu.net
地底都市での指環を巡る戦いから数日。
ジャンとラテはティターニアの紹介でユグドラシアに賓客として迎えられたが、
冒険者として長く過ごしてきたジャンにとっては、もてなされるという経験はどうにも慣れなかった。
せっかくなので、ジャンにもできるような頭を使わない仕事がないか探してみると
この学園にある大図書館の蔵書点検手伝いという仕事があった。
地底都市で拾った装飾品や宝石を売った金で新しく防具を買い揃え、少々財布が軽くなっていた
ジャンにとってこれはちょうどいい小銭稼ぎだ。
早速大図書館へと続く渡り廊下を渡っていると、ふと外の景色が目についた。
ユグドラシアを囲む街並みは活気に溢れ市場は人で賑わう中、何故かその上の風景に。
健全な発展と言える景色の中、ラテが建物の屋上で一人、トレーニングをしている。
飛び跳ねては建物の屋上から屋上に移り、空に浮くかのような軽やかな挙動はレンジャーというより軽業師のそれだ。
(あいつ、ここにいねえと思ったらあそこに……トレーニングにしちゃちょっと危ねえな)
迷いを振り切るようなその動きは、軽やかというより何かから逃げているような―そんな気がした。
そうしてそれぞれが己のやるべきことをやっていたある日、蔵書点検が終わって
暇になったジャンがティターニアの研究室で本を読んでいた。
「基本属性理論 第三章」と書かれたそれは新入生向けの入門書。指環を巡る戦いの中で
魔術を使う敵が多かったことを考えたジャンは、付け焼き刃とはいえ学ばないよりはマシだろうと思い
蔵書点検手伝いのついでに図書館で魔術の初歩的な勉強をしていた。
それがきっかけで一緒に点検をしていた学生とも知り合い、授業の課題で作ったというアミュレットをもらった。
特定の属性を吸収するというそのアミュレットは、ジャンの首にかけられ黄色の輝きを見せている。
(黄色なら雷の属性が引き寄せられ、吸収する。アミュレットの色が多ければ多いほど優秀な魔術師の証である……)

309:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/02/04 16:08:57.86 5t5RArOu.net
そう書かれた一文を見て、ふとティターニアを見る。
ジャンはハイランドで使われている文字はある程度読めるが、すらすらと読むことは難しい。
そのためややこしい言い回しや面倒な文法をところどころ見つけては、ティターニアに教えてもらっていた。
>「ジャン殿ラテ殿も見てみるか? なかなか面白いぞ」
視線が合った瞬間、ティターニアから冊子を渡された。
魔術が生まれつき使えないエルフが肉体を徹底的に鍛え、その筋肉であらゆる敵をなぎ倒すというストーリーだ。
中盤で主人公が故郷に帰り、森にある木を片っ端から粉砕して修業しているところを読んでいたところで、
>「ティターニア様、大変大変!」
ジャンは、読書の時間は終わったと直感で理解した。
二人の話を聞きながら研究室に置いてあった鉄の篭手と鉄兜を装備して、ミスリル・ハンマーを腰のベルトに留め具で固定。
聖短剣サクラメントが同じく留め具でベルトに固定された鉄鞘にあるかどうか確認し、いつでも戦える態勢となった。
>「仕方があるまい、ジャン殿、ラテ殿、付き合ってくれるか?」
>「……新生指環の勇者御一行の、初クエストって訳ですね。やってやりますよ」
「ソルタレクの連中業を煮やしたみてえだな、一つ決戦といこうじゃねえか」
暗殺と指環の強奪が失敗したと見るや、即座に次の手を仕掛けてくる辺り
ソルタレクの冒険者ギルドは失敗を前提に動いていたと見るのが正しいだろう。
つまり相手の準備が十分に整っているとみるべきだが、どうにも相手がおかしい。
率いている相手が臨時で雇われたモグリの冒険者二人組なのだ。
はて、これはどういうことだろうとジャンが考えていると、悲鳴にも似た声が聞こえた。
>「ひっ! ソルタレク、ギルドぉ……」
>「あっ、いやいや、怪しい者ではないんですぅ、その、食事を少々恵んでもらえれば。
いや本当に、お腹が空いて死にそうなんです。お金もないし。…何でもしますから!
名前はパト、パトリーヌ。とりあえず。ところで冒険者ギルドの人達ではないですよ…ね?」
手入れのしていない長い黒髪に、ジャンよりは低いが人間の女性にしては大きめな身長。
そしてそれを隠すような地味な服装。パッと見て学生か助手に見えたが、どうも様子がおかしい。
襲撃に巻き込まれて錯乱してしまったのだろうと思い、ラテに加えてジャンも食料を渡すことにした。
「ほれ、黒パンだ。さっき食堂からもらってきた」
といってもラテほど立派なものではないが、こういう時は食べることに集中させて落ち着かせた方がいい。
少々硬くなってはいるが、スープに浸せばまだ食べられるだろう。
>「話を戻しますね。ミライユさんの言葉を信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは、アサシンギルドを併合してます。
 ……ま、どうせ少しばかしレンジャーの技術を齧っただけの、ちゃちな殺し屋集団でしょうけどね」
「俺たちがにカルディアにいたときもそれっぽいのに襲われたな。もしかしたらあの時から狙われてたのか?」

310:ジャン ◆9FLiL83HWU
17/02/04 16:09:21.54 5t5RArOu.net
それからしばらくラテの話を聞き、強烈な一撃を見舞って退かせた方がいいという結論になった。
>「……もし、ここの導師様方が難色を示したら。いえ、示さなくても……攻撃は私が……あるいは私も、やります。
 私には手製の爆弾と、この【不銘】がある。尻尾巻いて逃げ出すまで、爆撃してやりますよ」
「そう急ぐんじゃねえ。こういう時は大体勝つこと前提で動いてるもんだ、冒険者って奴はな。
 斥候やら暗殺者のことも気になるが、指揮官を捕まえて城壁にでも吊るしてやれば逃げるだろうよ」
地底都市での戦いから、ラテが戦闘の話になるとどうも様子がおかしい。
殺人を割り切ることができたと思っていたのだが、悩んだ末にまずい方向に動いてしまったのかもしれない。
ラテも落ち着かせる必要があるのかとジャンが考えた矢先、研究室のドアが乱暴に開かれた。
>「聞こえネェのカ?壁に手をついてケツこっち向ケロ、できればパンツも脱いどケ。あ、そこの男はこっち来ナ」
いかにも世間の噂通りといった風情のオーク四人がこちらへ向かって露骨に脅してくる。
おそらく今起きている襲撃と関係がある連中だろう、好き勝手に暴れさせて注意をそらすための囮だ。
>「ヒャッハー! 女と財宝ヨコセ。命だけは助けてやル」
「―黙ってろッ!」
留め具を外して引き抜いたミスリル・ハンマーを棍棒を持ったオークに思い切り叩きつけ、防ごうとした棍棒ごと頭をかち割った。
おそらく戦士階級でない、ただ生まれ持った力を振るうだけの連中はオークの中でも唾棄すべき存在だ。
頭をかち割ったオークを蹴り飛ばし、残った三人のオークにぶつける。
反撃として飛んできた電撃は、首にかけていたアミュレットが吸収してくれた。
だが、使い捨てかもしくは質が悪かったのか、吸収しきったアミュレットはあっさりと砕け散ってしまう。
(これをくれたあいつ、巻き込まれてなきゃいいんだけどよ……!)
剣を構えたオークと派手に打ち合う中、散っていくアミュレットの破片を見てジャンは一人奥歯を噛みしめ、さらに腕に力を込めた。

311:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/02/04 21:11:27.29 XGgG/LDW.net
学園での滞在中、ラテは街に出てはトレーニングに勤しみ、ジャンは図書館の手伝いをしたり研究室で勉強をしたりしていた。
ジャンにいつものように本の文章を教えていたところ、彼の首で光る物に気付く。
「おや、そのアミュレットは授業の課題のものではないか。貰ったのか、お主なかなか隅に置けぬな」
と軽口を叩いていると、ラテがどことなく思いつめたような様子で帰ってきた。
>「あ……あの、ティターニアさん」
ラテは地底都市での戦い以来、どこか様子がおかしい。
やはりミライユを救えなかったのが彼女の心に影を落としているのだろう、とティターニアは推察する。
ラテは元々トレジャーハンターで、人間相手にドンパチするような類の冒険者ではない。
自ら人を手にかけたのは初めてだったのだろう。
ミライユは本気でこちらを殺す気で向かってきていて、殺らなければ殺られていた。正当防衛だ。
そもそも、ラテはミライユがもう助からないと判断して介錯しただけで、
肉体的な大怪我を負わせたのはジャンで、精神的に引導を渡すことになったのはティターニアだ。
理論的にそなたは何も悪くないと根拠を述べて慰めることはいくらでもできる。
しかしそんなことはおそらくラテ自身も分かっている、それに感情が付いて来るかは別問題ということなのだろう。
故に、敢えて自分からは何も触れず、せめて気でも紛れれば、と一緒に絵物語を見ようと誘うティターニアであった。
>「ティターニアさん……あの、指環の勇者御一行の、話なんですけど」
ああ、やはり―と思う。
自分たちの旅に付いて来れば、また人を殺さなければならなくなる時がきっとある。
そこにまだ自分なりの落としどころを見つけられていないラテに、同行を無理強いは出来ない。
そう思いラテの次の言葉をじっと待っていたところに、襲撃の知らせが舞い込んできたのであった。
>「……新生指環の勇者御一行の、初クエストって訳ですね。やってやりますよ」
>「ソルタレクの連中業を煮やしたみてえだな、一つ決戦といこうじゃねえか」
おそらく指環の勇者一行を辞退しようとしていたラテは、しかしこの襲撃の知らせを前にして覚悟を決めたようで。
ティターニアはそんなラテを見て頼もしくも思い、反面無理をしているようで危うくも思うのだった。
>「……ミライユさんの言葉を全て信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは」
ラテの言葉を遮るように、突然の闖入者が現れた。
>「ひっ! ソルタレク、ギルドぉ……」
>「あっ、いやいや、怪しい者ではないんですぅ、その、食事を少々恵んでもらえれば。
いや本当に、お腹が空いて死にそうなんです。お金もないし。…何でもしますから!
名前はパト、パトリーヌ。とりあえず。ところで冒険者ギルドの人達ではないですよ…ね?」
見たところ人間のようだが、純粋な人間だとしたたら男性でもかなりの長身の部類、増して女性なのだから猶更だ。
服装は魔術師風だが、学園の生徒にしては随分地味なローブを着ていて、なんだかフラフラしている。
怪しくはあるが、とりあえず危険性はなさそうだ。

312:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/02/04 21:15:10.87 XGgG/LDW.net
>「はいはい、とりあえず壁に体預けて、座って。ふらふらじゃないですか」
>「ほれ、黒パンだ。さっき食堂からもらってきた」
素早いラテがいち早く動いた。
ジャンもパンを差出し、一緒に食堂に来るか、と聞くまでも無くあれよあれよという間に食事が用意された。
「そなたもソルタレクのギルドのごたごたに巻き込まれたのか? 全く仕方のないギルドだ。
安心せい、ここはあの冒険者ギルドとは無縁……むしろどうやら今のところ敵対している組織だ」
>「落ち着いて、ゆっくり食べて下さいね」
パトリエーゼが食べている間、暫し元の話題に戻るティターニア達。
>「話を戻しますね。ミライユさんの言葉を信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは、アサシンギルドを併合してます。
 ……ま、どうせ少しばかしレンジャーの技術を齧っただけの、ちゃちな殺し屋集団でしょうけどね」
ラテは、刺客がすでに潜んでいる可能性を示唆し、防衛専念ではなく外への積極的な攻撃を提案するのだった。
>「……一発、大きなのをぶちかましてやった方がいいと私は思います。
 何人か、為す術もなくやられれば、それが見せしめになる。
 相手の士気が落ちて、さっさと退却してくれるかもしれない。そうなれば、ソルタレク冒険者ギルドの面子を潰せる」
>「……もし、ここの導師様方が難色を示したら。いえ、示さなくても……攻撃は私が……あるいは私も、やります。
 私には手製の爆弾と、この【不銘】がある。尻尾巻いて逃げ出すまで、爆撃してやりますよ」
やはりラテは何かに追い立てられているような様子。その様子を察したジャンがそれとなく制する。
>「そう急ぐんじゃねえ。こういう時は大体勝つこと前提で動いてるもんだ、冒険者って奴はな。
 斥候やら暗殺者のことも気になるが、指揮官を捕まえて城壁にでも吊るしてやれば逃げるだろうよ」
最初に人を殺したショックのあまり、人殺しなんて大した事ないと振り切れて、逆に必要性もなく人を殺すようになる者もいる。
まさかラテがそうなるとは思わないが、飽くまでも殺すのは他にどうしようもない時の最終手段で
殺す以外に方法があるならそちらを選ぶに越したことはない。
「ジャン殿の言うとおりだ。しかし一発ぶちかましてやるのはいい考えかもしれぬな。
安心せいラテ殿、目的が面子を潰すことなら―何も殺す必要はない」
一見矛盾しているようなことを言い出すティターニア。そして不敵な笑みを作ってこう続ける。
「忘れてはおらぬか、ここは紙一重の者達が集う魔境ぞ?
そなたの爆弾を使わずとも魔法薬学研究室や魔法化学研究室がわんさか出してくれるわ。
殺さずに、しかも一発ぶちかまして面子を丸潰しに出来るような爆弾や魔法薬をな!」

313:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/02/04 21:26:11.86 XGgG/LDW.net
一説には共和国最強勢力とも噂されるユグドラシアだが
強さを敵を殲滅する殺傷力という尺度で測ると、もっと強い組織がたくさんある。
普通に考えれば、戦闘を本業とする組織に学者集団であるユグドラシアが敵うはずはないのだ。
むしろユグドラシアが得意とするのはその逆。
いかに相手を殺さずに、更には傷つけずに戦意喪失に持ち込むかとか
集団戦においてはいかに敵陣に大混乱を巻き起こして有耶無耶にして終わらせるか、等を日夜研究しているのだ。
ティターニアがいつぞやの宿屋の主人に使った黒板超音波の魔術などはその一例である。
また、その戦術も他の組織とは一線を画し、良く言えば特異、実も蓋も無く言えば非常識なものが頻繁に飛び出る。
魔術師ギルドですら冒険者に共通する戦闘のセオリーというのに則っていたりするものだが
ユグドラシアはどこまでいっても本質は戦士ではなく学者集団、そんなものは知ったこっちゃないのだ。
ティターニアがいきなり魔術書をぶん回してみたり、紙で神を迎え撃ったりしたのにもその一端が現れていると言えるだろう。
>「それでも万が一の時の為、住人の皆さんにはユグドラシアに避難してもらった方がいいかもですね。
 可能なら土魔法が得意な魔術師を集めて、内壁を築いて街を幾つかの層に区切っておきたいですし。
 やれる事は、全部やりましょう。何をしてでも、人命だけは絶対に守り抜かないと」
「そうだな、人命だけは絶対に守り抜こう―言うまでも無くこちら側は全員。
敵も殺すのは出来る限り最小限に―面子を丸潰しにして将来に渡る被害も防いでみせようぞ」
これから先の旅では敵も殺さずなんて甘い事は言っていられないかもしれない。
しかしここユグドラシアの防衛戦なら、完璧に防衛した上で更にそれが出来る―と踏んだからこその言葉。
この戦いを通してラテが自分は自分のままでいい、お人よしのままでいいと
自信を取り戻してくれればいいのだが―とティターニアは密かに思っているのだ。
何はともあれ、“死んではいけない魔術学園防衛戦”の始まりである―!
そう決意を固めた矢先、オークの一団が雪崩れ込んできた。
>「ティターニア!これ女の名前じゃねェノ~♪」「いちいち叫ぶなってのうるせェ、一応任務だ静かにやんゾ」
真っ先に飛び出していったパックが殴られて無残な死骸になった。
人命を守り抜くと決意を固めた瞬間にあまりにあまりな展開だが、ティターニアは動じない。
実は死骸になったのはレンジャーの技能【ファントム】による幻影で、本物の彼は伝令のためにその横をすりぬけて部屋から飛び出していったのだ。
(死骸のリアルな表現には幻影の魔術等も併用しているのかもしれない)
見た目弱そうとはいえ腐ってもユグドラシアの助手、雑兵オークにやられるほど弱くは無かった。

314:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/04 21:27:07.67 RTchBiuy.net
【この土日のうちに導入書き入れます。遅くなってすみません!】

315:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/02/04 21:28:23.86 XGgG/LDW.net
>「聞こえネェのカ?壁に手をついてケツこっち向ケロ、できればパンツも脱いどケ。あ、そこの男はこっち来ナ」



316:ティターニアはドン引きと呆れと物珍しさが合わさったような複雑な表情で杖を取る。 「お主ら……我のような者でもいいとはオークとしては随分ゲテモノ趣味なのではないか?」 オーク女性に相手にされなくてこうなったのか、それとも元々特殊性癖なのか、疑問は尽きない。 ジャンを見ていれば分かるように、当然この世界のオークが一般的にこんな感じではないわけで…… “何故か広まってしまった間違ったオークのイメージ”の理想的なフォルムを体現し過ぎていて、逆にこんなの実在したのか、と思ってしまう。 >「ヒャッハー! 女と財宝ヨコセ。命だけは助けてやル」 >「――黙ってろッ!」 ジャンがまず棍棒を持ったオークを撃破し、他の三人にも攻撃を加える。 ジャンとしては、このようなオークの間違ったイメージを流布する元凶は営業妨害極まりないことだろう。 杖を持ったオークから放たれた電撃の魔術はアミュレットが防いでくれたようだ。 ジャンが剣のオークと打ち合い始める一方、ティターニアは魔術を使う敵を早く片付けておこうと、杖を持ったオークに魔術戦を挑む。 その最中、ボウガンのオークがパトリエーゼ(ティターニアの中ではパトリーヌ)にボウガンを向けて狙っている事に気付く。 しかし魔術オークの相手で手が離せず、思わず叫ぶしかなかった。 「パトリーヌ殿! 危ない!」 *☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*゚・*:.。. .。.:*・*☆*



317:ティターニア ◆KxUvKv40Yc
17/02/04 21:30:20.09 XGgG/LDW.net
一方、オークに襲われて地面に放置された研修生らしき少女に追いすがり泣いている眼鏡の男がいた。
「うええええええええん! メアリーちゃぁああああああん! スーちゃぁあああああああん!!」
そこに同僚らしきやはり眼鏡の男が歩み寄り、そっと肩に手を置く。
「彼女たちは犠牲になったのだ、生徒を守るための尊い犠牲に、な……」
魔術工学研究室―ただでさえ紙一重な者が集うユグドラシアの中でも更に一際異彩を放つ、眼鏡率が異常に高い集団である。
彼らは飛空艇以外にも様々な物を同時並行して開発しており
このメアリー&スーは彼らがあふれ出る煩悩を研究への熱意に変換して開発した美少女型ゴーレムのプロトタイプだった。
どうも研究室が男ばかりでむさくるしいということで、最近は研修生の中に紛れ込ませて楽しんでいたのだ。
転送陣が開く気配を、早速精霊を使っての警戒にあたっていたホロカが感知し、見張りとして配置していたのだが―
見た目等に力を傾け過ぎ、戦闘力が疎かになっていたのが敗因であった。
ちなみに他の場所は美少女型ではなくもう少しまともなやつが配置されている事であろう。
「許さん! 総力を結集して殺す、じゃなくて生き恥を晒してやるわああああああああ!!」
眼鏡のオタク集団が本気になってしまった。このままではとんでもない兵器が世に放たれてしまうかもしれない。
一方―魔法薬学導師や魔法化学導師達は早速爆撃に使う物の算段をしているようだ。
「これなんかどうでしょう、爆発したら最後、笑いが止まらなくなって戦闘どころではなくなる笑い弾(しょういだん)」
「これを見てください!
毒性は無いがただひたすら強烈な悪臭にのた打ち回る恐怖のガス兵器、シュールストレミングガス」
こんな感じでユグドラシア導師総員、敵を迎え討つ気満々である―

318:ティターニアin時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
17/02/04 21:52:49.55 XGgG/LDW.net
>283
実は1週間ルールなので気にする事はないぞ、よろしく頼む!
早速バトルが始まっておるがもしギルドの組織絡みが難しかったら個人的に指環奪いに来る感じでも何でも大丈夫!
ギルドの側がその動きを感知して勝手にリーダーに仕立て上げている事にするとか割と色々できるので



319:とりあえず気楽に登場してみてくれ!



320:オークの集団 ◆ceap50eg.2
17/02/05 01:39:03.86 Ks3d7Hrx.net
ジャンがオークたちの方へと歩を進める。
「なんだァ? このオーク風、状況が分かってネェみてえだなア」「おう、こいつ殺すカ?」
「それよりこいつ雷が効かねェ! どうなってやがル!」
>「―黙ってろッ!」
「ブキャピ・・・」
そのミスリルハンマーの一撃を棍棒で受けるも、一気に食い込んで棍棒を破壊、
そのままオークの頭を勝ち割った。
拉げた音がして、オークの頭がハンマーに捥ぎ取られる。
首無しの死体が床へと落ちた。
「おォオ・・・」
残り二人の攻撃はジャンの方へと向かう。
しかし、
>「お主ら……我のような者でもいいとはオークとしては随分ゲテモノ趣味なのではないか?」
ティターニアが応戦し、オークのシャーマンは撃ち合いになる。
しかし、あっさりと片付いた。
「ギャァァァ!!!」
ティターニアの攻撃魔法で杖ごと焼け焦げてその場で死臭を放つオークシャーマン。
そして、その傍では剣を持っているオークもジャンによって
オークの頭部のついたハンマーで剣ごと頭を潰されていた。
ジャンのハンマーには二つのオークの頭が首の皮をぶら下げ、目玉や脳漿を垂らしながら引っ付いていた。
「クソォ、せめてあの女だけでもォォ!!」

>「パトリーヌ殿! 危ない!」
パトリエーゼをボウガンで狙った最後の一人、ゴロドフは異変に気付いた。
「な、なんなンだ、これハ・・・」
頭をキィィンとした痛みが襲う。
何となくゴロドフは思い出した。「そういや俺らを雇った連中は、なんか強化魔術とか言って俺らに仕掛けをしてたなぁ」と。
ゴロドフはボウガンを置き、開き放たれている扉から勢いよく脱出する。
「あぁァ! 死にだくねエエエ!!!」
パァァァン!!!
爆発音とともに、オークの頭が破裂した。
同時に残りの三つのオークの頭に仕掛けられていた何かも爆発する。
魔法の爆薬だ。
何者かが遠隔操作で操っていたのだ。
これにて、ささやかな「斥候」によるユグドラシア襲撃は終わった。

(雑魚退場。ありがとナス)

321:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:41:14.58 NJZYvVHR.net
ハイランド連邦共和国首府・ソルタレク。
大陸における主要国家の一つ、その中心に相応しい繁華な目抜通りを、奇異の視線で見送られる一台の馬車が通る。
石畳を蹴立てるは四頭立ての普遍的な荷馬車。奇異の理由は積荷にあった。
客車に連結された荷台に縛り付けるように、巨大な竜の死体が載せられている。
大人が四人手を繋いでようやく比肩し得る広さの両翼、眼窩の上に位置する二本の禍々しく捻れた角。
殊更に特徴的なのは陽光を受けて星のように乱反射する無数の黄金の鱗。
ハイランド連邦の北部に在するアラキア台地、その峻険たる奥地に生息する金剛竜オリハロドンだ。
鱗の一片が4kgにも達する過重量で荷馬車の車輪は一回転ごとに悲鳴を上げ、石畳に真新しい轍を刻む。
ハイランドの山間部を踏破する頑健な車引の馬達が、四頭がかりで滝のような汗を流しながら運搬する重量だ。
本来の半分程度のスピードで進む馬車は、やがて大通りに軒を連ねる一軒の店の前に停車した。
冒険者や傭兵が仕留めてきた魔物を腑分けし買い取り、値段を付けて市場に流す『解体屋』と呼ばれる店だ。
通常、冒険者が収入目的で魔物を狩る場合は仕留め�


322:スその場で魔物を解体し価値のある部位のみを持って帰る。 角や希少臓器など高値のつく部位を取り出した後に残る大量の屍肉は、多くの場合飼育された牛や豚より硬くて不味く不要だからだ。 しかし魔物の中にはその身体の大部分が有用であったり、あるいは解体に専門技術や機材の必要なものもいる。 そうした場合に死体を丸のまま持ち帰って解体と値付けを任せる専門家が解体屋なのである。 「久々に大物が来たな!」 予め伝書の使い魔により連絡を受けていた解体屋の店主が飛び出して来て、建屋の横にある搬入口へ馬車を誘導する。 大型の魔物の解体はその先の専用工房で行うのだ。 解体屋は弟子に指示を飛ばしながら、手際よく死体にロープを巻きつけ大型の吊り機の鋼鉄鈎に引っ掛けた。 「こりゃ派手にやったな。大砲でも使ったのかい」 吊り機を軋ませながら運ばれていくオリハロドンの、胸郭に空く乾いた大穴を眺めて解体屋は感慨深げに呟いた。 向こう側に宮廷の尖塔が窺える円形の虚空は、そこにあったはずの心臓を綺麗に消し飛ばしていた。 荷降ろしの済んだ馬車の客車が開き、一人の男が解体屋の隣に飛び降りる。 何気なくその方へ視線を遣った解体屋はぎょっと肩を竦めた。 「なんつう格好してんだあんた!」 巌のような大男だった。若い頃は武闘派の冒険者で鳴らした解体屋でさえ見上げるほどの偉丈夫。 そして男は半裸であった。手足の先まで分厚い筋肉に覆われた四肢に上等な外套を纏い、他には何も着ていない。 唯一衣服と言える物は外套と同じ材質の褌と、何故か貴族が身分を隠すのに用いるドミノマスクを装着している。 男は威容を漂わせる胸板を拳で一つ叩いて笑う。 「ふはは!この磨き抜いた肉体こそが我が具足よ!鋼鉄よりも硬き素肌があれば鎧など必要なし!」 「鎧は要らなくても服くらい着とけよ……あんたは良くてもパーティ組んだ連中が可哀想だろ。  もしかしてお仲間もみーんなそういう趣味の集まりなのか?」 「我輩に同行者など居らぬし要らぬ。寝食を共にするはこの拳、そして愛と勇気だけが友朋である!」 「……まさか一人でこいつを仕留めたってのか?そりゃ流石に冗談だろう、オリハルコン並の甲殻を持つ金剛竜だぞ」 解体屋は今度こそ訝しげに眉を顰めた。 オリハロドンはギルドの定める指標において最上位の討伐難度を誇る"金級標的"と呼ばれる竜種だ。 一介の冒険者が入り込むには過酷すぎる生息域もさることながら、単純に極めて頑丈な装甲鱗を持ち鋼の剣程度では傷も付けられない。 その鱗は優れた物理耐久と魔法耐性を兼ね備え、加工すればオリハルコンの代用として最上級の鎧や建材に用いられるものだ。 高位の武芸者が十人単位のパーティを組んで、それこそ大砲やバリスタでも持ち出さなければ敵わぬ相手である。 如何にこの大男が優れた武人であろうとも、装甲貫徹可能な大型兵器を持ち込む人手は必ず必要になる。 兵器とその使い手を現地まで護衛する人手に、それらの糧秣を補給する人手も。 単独での討伐がそもそも不可能であるからこその"金級"だ。



323:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:42:16.90 NJZYvVHR.net
「然り。それが何か?」
「何かってあんた……」
閉口してしまった解体屋の代わりに抗議の声は別の場所から上がった。
「然り。じゃ……ないでしょーっ!」
大男が胸を叩いたポーズのままガクっと膝から崩れ落ちた。
解体屋が目を合わせたままの視線を反射的に下げると、大男の足元で彼の膝に蹴りを入れた人影を発見した。
男の巨躯と存在感のせいで気付かなかったが、傍にもう一人いたのだ。
「一人じゃないじゃん!ケイジィも一緒に戦ったじゃん!なんで分けわかんない見栄張るの!」
男の腰ほども背丈のない小柄な少女が仮借ない蹴りを入れ続けながら憤っていた。
陶磁器のように白い肌、それに劣らぬ白さの瀟洒な衣服。霞の中にいれば見失ってしまうであろう銀の髪。
半裸の大男の隣に立つには水と油のような取り合わせだ。
「おおケイジィ、そこにいたのか。吾輩こんなマスク付けてるから下方向の視界が狭くてな!うっかり踏み潰すところであった!」
「外せばいいじゃん!その変なマスク!そのマジで変なマスク!形から入りすぎでしょ!見栄っ張りさんだなもー!」
「見栄ではないとも、吾輩は一人でこの首級を挙げた。貴様は人ではないからな。吾輩の用いる道具に過ぎぬ!」

二人のやりとりを黙って見ていた解体屋は、不穏な言葉にケイジィと自分を呼ぶ少女を眺めた。

「人じゃないってこの子、もしかして魔導人形か?」

「そだよ。肌とか触ってみる?すごいかたいよ」

「はー、うちでも魔導人形の扱いはあるけどここまで精巧なものは初めて見たな。ほとんど人じゃないか」

解体屋が鼻を鳴らして感嘆する通り、ケイジィは完璧に近い精度で人間を模していた。
露出した肌や眼球にこそ生物本来の瑞々しさはないが、髪などは一般的な人形のような合成繊維ではなく艶やかな人髪だ。
ハイランドの技術水準が大陸諸国家に劣るわけではないが、それでもこの国で可能な人造品の限界を遠く超えている。
自律意志を持つ魔導人形は数多く存在するものの、今ケイジィがしているような『誇らしげ』という複雑な表情までは再現不可能だ。

「とーぜんっ!なんてったってケイジィは人間から造られぎゃんっ!!」

調子よく喋っていた魔導人形の頭上に大男の手刀が落とされ、『舌を噛んだ』彼女は目を瞑って黙った。

「如何に精巧であろうとも所詮は人に似せただけの模造品よ。技術の誇示の為だけに造られた哀しき器物である」

「うう……まぁその通りだけどさぁ!デリカシーがないよねノーキンは!あと足も臭いよね!本当に!」

「そうか……あんたも事情があるんだろう。詮索はしないでおくよ」

見たところ中年に差し掛かったこのノーキンという男が少女の人形を持ち歩く『事情』に思い当たるフシがないわけでもないが、
なんというか精神の闇のようなものに触れそうだったので解体屋は生温かくこれをスルーすることに決めた。
後に残ったのは人形とお話する半裸のおっさんという心の歪みの塊みたいな印象だけでありやはり闇だ。

「仕事の話に戻ろう。このオリハロドンはうちで解体して見積り出すよ。あんたのギルドは?」

竜種のような高価かつ希少な魔物の素材にはそれを仕留めた冒険者のギルドを刻印するのが通例だ。
これは品質の保証も兼ねる。錬金術を使ってそれっぽい死体をでっち上げる詐欺師が横行したころの名残だ。
『どこそこのギルドが討伐した』という情報はそのまま素材に対する信用になる。
しかしノーキンとケイジィは二人で顔を見合わせるばかりで何も答えない。

「おいおい、手形とか印章とか、なんかあるだろう。竜種の討伐なら狩猟権を持ってるギルドの依頼だろ?」

324:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:42:46.61 NJZYvVHR.net
やおら怪しくなってきた雲行きに解体屋が怪訝な顔をすると、応答はノーキンではなく工房の出入り口から聞こえた。

「手形ならここにあるぜ……!」

大通りから差し込む逆光に照らされるは3つの人影。
剣士風の男と、魔導師風の女、そしてリーダーと思しき盗賊風の男だった。
盗賊風は右手に首府ソルタレクの冒険者ギルドの印章を掲げ足早に工房の中へと歩みを進める。

「金剛竜を仕留めたデカい冒険者ってのはてめえだな?ようやく追いついたぜ。
 仲間集めてアラキア台地に出向いてみりゃ竜の巣穴は蛻の殻、巣の主はとっくに解体屋に持ち込まれたって話だしよ」

盗賊風は疲れを伺わせる双眸でノーキンを睨み据えた。
その身に纏うレザーアーマーは魔獣ダイアサルクスの革で織られた軽鎧としては最上級の防御力を誇るもの。
お供の二人もそれぞれその職種における上級防具に身を包んでいて、三人ともが相当に高位の冒険者であることを伺わせる。

「困るんだよなぁ勝手なことされると。狩猟協定を知らねえわけじゃねえだろう」

冒険者稼業とは基本的に投資と回収のサイクルだ。何をするにも金がかかる。
例えばダンジョン一つ潜るにしたって、探索期間中の食糧やポーション、探索に適した仲間の雇用、松明やテントの手配。
魔物の討伐なら武具や兵器の調達整備、殲滅力の高い人材の雇用、道中の移動手段や宿泊費、獲物の引き上げに関わる手配。
共通して、事前に街でかけておく状態異常防止の祝福や身体能力向上の加護に支払う布施。
必要経費と言ってしまえばそれまでだが、とにかく費用が嵩むことは確かだ。

無論それらの負担を分散する為にギルドという制度があるわけだが、
高額の経費を支払って万全の準備を整えことに臨む冒険者たちにとって最も遭遇しやすく最悪の事態とは、
準備をしている間に狙った獲物が他の冒険者によって狩られてしまうことである。
そうなればまさに骨折り損のくたびれ儲け、現地に赴いてから先を越されたと知った日にはもう手配のキャンセルも効かない。
資金繰りのサイクルは破綻し、最悪破産して装備も売り払って露頭に迷うことになる。

そうした事態を回避する為の制度が、ギルド同士が取り決める『狩猟協定』だ。
やっていることは至極単純、希少価値のある獲物は事前にギルド間で競札を行い『狩猟権』を落札する。
狩猟権のないギルドは傘下の冒険者たちに該当する魔物を狩猟しないよう通達し、依頼も取り扱わない。
要は『この獲物はウチがツバ付けたんだから他は手を出すなよ』をより事務的に取り決める制度だ。
この場合金剛竜の狩猟権を持った盗賊風達のギルドを無視して、ノーキン達が勝手にそれを討伐した形となる。

「余計な争いを防ぐ為の狩猟協定だ。破ったからには戦争だよ戦争。この街に骨埋めてもらうぜ」

「ふはは!模範的なギルド付きの能書きだな若造よ!協定など大手が高額標的を囲い込む題目に過ぎん!
 既得権益を侵されるのは初めてか?もっと力を抜いて楽しむがよい、意外と法悦至極かも知�


325:黷ハぞ!」 盗賊風はそれまでの揶揄するような態度を一変、両眼を細めてノーキンを見る。 腰を落とした戦闘態勢から放たれる威圧感は、やはり熟達した戦闘者の持つそれだ。 「……言うじゃねえかオッサン。代紋出せよ、どこのギルドだ?」 「我輩に寄る辺などない!この肉体と拳だけが己を構成する全てよ!」 「ああ?モグリかあんた。ギルドの支援もなしに冒険者やるたぁ随分金持ちなんだな」 「おうとも!自営は良いぞ!貴様らのように上納金を徴収されることもなく獲物は丸獲りだからな!  社会の歯車共は毎日毎日身をすり減らして大変なことだな?吾輩同情しちゃう」 「税金も納めてないよねノーキンは。老後どうするつもりなの?生涯現役なの?やだよケイジィこんなデカい老人の介護なんて」 「老いてからのことは老いた吾輩がなんとかするであろう!今を生きる我輩の知ったことではない!!」 「社会のガラクタ過ぎる……」 盗賊風の男はノーキンが無所属と知るや臨戦態勢を解いた。 張り詰めていた一触即発の空気が嘘のように霧散する。



326:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:43:25.97 NJZYvVHR.net
「なんだ。あんたがどこのギルドにも属してない金持ちの道楽で冒険者やってるんなら話はもっと簡単になるぜ。
 まずその死体をこっちに引き渡せ。その上で然るべき『報酬』を正確に算盤弾いてあんたらに支払ってやるよ。
 あんたらには依頼を受けた俺たちが現地で雇った無頼の冒険者ってことになってもらう」

「はぁー?戦ってもないのに後から来てピンハネしてくの!?」

「こっちも支度に山ほど金突っ込んでんだ。平和的な解決だと思うぜ?たったの二人でギルド丸ごと敵に回すよかよっぽどな」

腕組みしながら盗賊風の提案を聞いていたノーキンは顎を手でさすって答える。

「それには及ばぬよ若輩。より簡便に始末をつける方法ならたった今我輩がピコンと閃いた!
 貴様ら三人が今ここで消えれば利害に関わる者は一方のみになる!平穏無事なる日常の回帰であるな!」

弾かれるように噛み付いたのは盗賊風の後ろで黙っていた剣士風と魔導師風の手下二人だった。

「なんだとテメーギルド舐めてんのか!おおん?先輩がせっかく譲歩してくれてんだろうが!」
「もうヤっちゃいましょうよ先輩!たかがデカブツとジャリガキの二人、うちら三人で始末じゅーぶん出来ますよ!」

今にも飛びかからんとする後輩達を片手で制する盗賊風は油断のない目で対峙する二人を見ていた。

「見た目で侮るなよお前ら。いかにも強者ってツラしてるあの筋肉ダルマはともかくガキの方も易くはねぇぞ。
 あんなフリフリおべべでアラキアの奥地まで行って帰って来てるんだ。しかも砂塵の一つもついてねえ。
 術式防御か移動魔法か……なにがしかのカラクリがあるんだろうよ」

「なるほどたしかに!」「流石先輩!」

盗賊風の知見にノーキンはドミノマスクの奥で眉を開く。

「ほう、賢しいな。こやつの容姿は油断を誘うよう『造られて』いるのだがな。有望な若造である」

腰の位置にあるケイジィの頭にポンと右の手のひらを乗せて、ノーキンは犬歯を見せた。

「だがその賢しさも無�


327:モ味だ。知力など所詮は肉体弱者による膂力の代替品に過ぎぬ。  世渡りの未熟な若輩共に教えてやろう。圧倒的なパワーがあれば……頭が悪くても生きていけるということを!!」 瞬間、ノーキンの右腕がブレた。同時にその下にあったケイジィの身体がそこから消える。 ノーキンが恐るべき速度でケイジィの頭を掴んでぶん投げたことを、盗賊風は歴戦の勘ばたらきで理解した。 「死角から来るぞ、構えろ!」 リーダーに言われるまでもなく手下二人が動き始めたのは歴戦の練度が為し得た連携だ。 戦闘態勢に入った五感は時間を凝縮し、解体屋の「おい!店の中だぞ!」という抗議の声すら間延びする。 研ぎ澄まされた聴覚によって接敵を察知した剣士風が、何もない空間へ向けて背の大剣を薙ぎ払った。 けたたましい金属音が響き、大剣が阻むものなどあるはずもない空中で弾かれた。 「ええっ!今の分かっちゃう!?」 次いで虚空からケイジィの驚く声が上がった。 「古典的な視覚迷彩っす、先輩!こっちは自分が抑えときますよ!」 「頼んだ」 剣士風と短いやり取りで意思疎通を終えた盗賊風が、魔導師風と共にノーキンと対峙する。 対するノーキンは呑気にケイジィと剣士風が始めた不可視の剣戟を眺めていた。 「なんだ貴様らは戦闘に参加しなくても良いのか?吾輩が言うのもなんだがあやつは並の冒険者で歯の立つ相手ではないぞ」 「並の冒険者じゃねえから任せてんだ、信頼があんだよ俺たちには」



328:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:43:50.18 NJZYvVHR.net
「理性はそう言っていても肉体はどうだ。我輩には聞こえるぞ!貴様らの筋肉の声が!
 一度己の筋肉に耳を傾けその叫びを聞いてみよ!力というものは使われて初めて意味を獲得する!」

「は……?」

「騙されたと思って耳を傾けるが良い!戦いたい、その抑圧された力を振るいたいと言う声が聞こえて来ぬか?」

「…………」

いよいよ意味不明な妄言に盗賊風と魔導師風は鼻白んだ。
混乱を誘う繰り言にしてもあまりに稚拙。戦闘において需要なウエイトを占める聴覚をわざわざ割く馬鹿はいない。
出方を伺うばかりの沈黙が、剣戟音を背景に数秒続いた。

「耳を傾けよと……言っておろうがぁぁぁ!!!」

ノーキンはいきなりキレた。
丸太のような大腿筋が倍ほども膨らみ、繰り出された踏み込みが一瞬にして盗賊風との距離を詰める。
そのすぐ後方で魔導師風が詠唱破棄での魔術行使を間に合わせた。

「『プロテ……『タービュランス』!!」

唸りをつけて振り抜かれたノーキンの右拳が、盗賊風の胴を穿ち貫いた。
巨大質量の蠕動に巻き込まれた空気が突風を産み、床の埃を残らず洗い工房の張り紙まで吹き飛ばす。
しかし確かに胴に一撃を見舞われたはずの盗賊風は、一滴の血も零さず二歩ほど離れた場所へ着地する。
ノーキンの右腕で力なく項垂れる大穴ぶち抜かれた身体が、陽炎のような余韻を残して掻き消えた。

「ぬ……?」

「危ねえ……!」

一瞬にして高度な連携だった。
魔導師風は防御障壁の魔法を唱えるまさにその最中、ノーキンの拳の威力を見極め強引に回避の呪文を唱え直した。
盗賊風は瞬間的にそれを理解し、防御態勢を解いて自らの幻影『ファントム』を作り出し回避行動まで追従してのけた。
彼らのうちどちらの判断が瞬き一つ分遅れても、盗賊風の胴には本物の穴が空いていただろう。

「こいつがオリハロドンの鱗をぶち抜いた一撃ってわけか!頭おかしい威力してんな!」

「ほう。吾輩の拳を受けて生きているとは……いや受けてはいないのか……ぬん……?」

やはり三人が三人ともに手練。彼らもまた最難度対象・金剛竜を狩ることのできる高位冒険者だ。
しかしノーキンはまるで動じた様子もなく己の拳を眺めた。

「まずは一つ、解き放っておいたぞ。貴様の腹筋をな」

ノーキンは手の中にあるものを盗賊風へ向けて弾く。
凄まじい速度で発射され、床に突き刺さったそれは、硬質な革の一片であった。
盗賊風の鎧のちょうど胴体の部分が、五指の形に千切り取られその向こうのよく鍛えられた腹筋が見えていた。

「………………ッ!?」

盗賊風の鎧の材質、魔獣ダイアサルクスの皮革は軽い革素材でありながら鍛錬鋼の強度を持つ最上級素材だ。
革の特性として特に引っ張る力に強く、竜種の顎ですら食い千切ることは不可能な靭性を誇る。
それをほんの一瞬掠っただけで、紙のように容易く引き千切られた。
滝のような汗が背中を流れ落ちていった。

「さあ今度こそ、貴様の腹筋と愉快痛快な力比べの祭りといこうではないか。案ずるな、痛と快は紙一重であるぞ」

「てめえの脳内奇祭に付き合うわけねえだろ……だがこれで"留めた"ぜ」

329:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:44:30.67 NJZYvVHR.net
いざ二撃目を放とうとしたノーキンは、己の身体が動かないことにようやく気付く。
彼の足元には金色の太い針が三本突き刺さり、地面と影とを縫い止めていた。
アサシンのスキルが一つ、『影縫い』。対象の影に魔力を込めた刃物を突き刺すことで動きを縛る術だ。
盗賊は恐るべき反射神経で、回避と同時に針の投擲まで済ませていた。

「あ、あれっ?」

同時、けたたましく剣戟音を立てていた不可視のケイジィが困惑の声を上げた。
見えない何かが空を切ったらしくポテっと床に落下する音が聞こえる。
ケイジィと切り結んでいたはずの剣士風の姿が消えていた。

「おおっ!」

剣士が出現したのはノーキンの背後だった。既に担う大剣を直上に振り上げた姿勢だ。
剣士のスキルが一つ、『剣重ね』と『縮地』。
実体を伴う殺気を残して一度に二撃を振るう剣技『剣重ね』の片割れでケイジィを押さえ込み、
短距離を一瞬にして移動する歩法『縮地』でノーキンの背後へと回り込んだのだ。
呼吸一つの暇もなく、影を縛られ動けないノーキンの無防備な背後を袈裟斬りに大剣で打ち下ろした。

有無を言わさぬ瞬時の連携、魔獣の牙から削り出されたミスリルをも断つ大剣の一撃。
為す術もなくそれを受けたノーキンは一刀両断―されなかった。

「……うむ。なかなか敬老精神のある見上げた若輩であるな。だが気遣いのしすぎというのも良くない」

分厚い筋肉の載った肩は、刃筋の立った大剣をその弾力で受け止めきった……!!

「もっと強く叩いてくれねば……肩の凝りが取れぬであろう!」

瞬間的に肩の筋肉を膨張させ、その圧力だけで上に乗った大剣を弾き飛ばす。
柄を握った剣士も合わせて床を転がった。受け身すらとることができない。身体に力が入らない。

「きっつい麻痺ガスしこたまぶち込んだんだけどねー。やっぱ異常防御の祝福受けてるよね」

仰向けのまま何が起きたか理解できず目を白黒させる剣士風の胸の上に、ケイジィが姿を現した。
祝福を受けた冒険者の肉体すらも侵す毒ガスの出処は、彼女の指先に小さく開いたスリットだ。

「針治療もなっておらんな。影の凝りをとってどうする!」

ノーキンはサイドチェストと呼ばれる筋肉を美しく見せるポーズを影縫いに縛られたまま強引に決めた。

「ウッソだろ……影縫い三本入れてんだぞ……」

ポージングを決めたノーキンが筋肉にグっと力を入れると、足元の金の針が三本とも弾け飛んだ。
僅かな傷跡として凹んでいた肩の筋肉も、間をおかずにもとの形に戻ってしまう。
盗賊風は笑った。もう笑うしかなかった。

「簡便してくれよ。ミスリルの鎧だってぶった切れる剣なんだぜアレ」

「鎧などという"重石"を指標に評価されるのは甚だ心外であるな。
 ミスリルよりも強靭なる我が素肌なれば、何も着ないのが最も道理に合致している」

「その格好は伊達や酔狂じゃねえってわけか」

「あと磨き抜いたこの肉体を衆目に晒すとスカっというかムラっというかとにかく気持ちが良い」

「伊達や酔狂だったかぁ……」

盗賊風はがっくりと項垂れて膝を折る。

330:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:45:05.04 NJZYvVHR.net
戦意の喪失を確認したノーキンは踵を返し、鉄扉の向こうに引っ込んでいた解体屋の元へ向かおうとして、

「ノーキン!まだそいつ諦めてないよ!」

ケイジィの警告に振り向いた彼の分厚い胸板に5本の金針が突き立った。
投じた盗賊風は項垂れたままこちらを見ていないが、その手指だけは真っ直ぐにノーキンを指していた。

「お望み通り本体の方に針打ってやったぜ」

盗賊風の男は剣を弾かれた時点で既に次善の策を打っていた。
諦めたように笑い、項垂れ、戦意を喪失した―ように見せかけた。
心情を偽り隙を作り出すアサシンのスキルが一つ、『ヒュミント』だ。

「こいつはギルドの威信としての問題だ。俺一人が諦めて良い話じゃねえ―社会の歯車、舐めんなよ」

ノーキンの胸筋に突き刺さった針は、『十字括り』と呼ばれる影縫いの上位スキルだ。
対象に直接5本撃ち込むという難条件と引き換えに、より強固に地面に足を縛りつける術。
如何にノーキンが人間離れした膂力を持とうとも、抗えぬ強制力を持っている。

盗賊風は懐から一枚の術符を抜いた。刻まれた魔法陣を指で擦って起動する。
複数の念動魔法の組み合わせからなるその術式は、バラバラのものをその場に『組み立てる』魔法。
工房の外、表通りのノーキンの馬車に横付けされた盗賊風達の荷馬車から、無数のパーツが飛んできてひとりでに組み上がった。

「金かけて準備したって言ったろ。準備したんだよ―金剛竜の装甲をぶち抜ける大砲をな」

完成したのは馬車一台ほどもある魔導砲だった。
炸裂魔法による起爆で巨大な鉄塊を砲弾として撃ち出す、連邦軍が城門破りに使う攻城砲だ。

「安心しろよオッサン。こいつを喰らえば肩の凝りなんか肩ごと消し飛ぶぜ」

その威力は想像に違わず、息を潜めていた解体屋が泡を食って叫んだ。

「こんな街中でぶっ放して良いモンじゃないだろそれ!店を壊す気か!?」

「弁償はそこの金剛竜でしてやるよ。丸ごと売りゃあもう一軒店が建つ」

「アレは流石にマズいよノーキン!解呪するからとっとと逃げよ!」

「ううむ」

ノーキンは唯一自由な両腕をぐりぐりと回して今更ながらの準備運動をしていた。

「費用だの、弁償だの、煩わしいことだな。いつから闘争の世界はかくも金で回るようになってしまったのか。
 実に嘆かわしい、大砲を買う金で何本の鶏ササミが買える?その金を稼ぐ時間で、何回腕立て伏せができると思っている!」

「筋トレだけして飯が食えるなら誰だってそうしてる」

「吾輩はそうしたぞ」

閉口する盗賊風に、ノーキンはなおも語りかける。

「吾輩は鍛えた!生まれながらに何も持たぬ者が、後天的に獲得できるものがあるとすればその最たるものが筋肉だ!
 どれだけ筋肉を付けても大砲には勝てない?軍勢に囲まれれば負ける?誰が決めたのだそれは!我輩ではないぞ!
 強力な武器、統率された組織、そんなものは筋肉のない者が追い詰められて見つけ出した逃げ道に過ぎぬ!
 真に磨き上げた肉体ならば!鍛え上げた拳ならば!数の利を覆し砲弾だって跳ね返せる!!」

331:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:45:44.66 NJZYvVHR.net
「……妄言だな。歴史があんたを否定してる」

「ならばこれから証明して見せよう。砲弾よりも強き拳。その為に、吾輩は今日まで鍛えてきたのだ」

ノーキンは拳を引いた。
腰を深く落とし、肉体のバネを全て一振りの拳に注ぎ込む正拳突きの構え。

「そうかよ。なら良い夢見てくたばりな」

盗賊風は眩しそうに両眼を歪めて、攻城砲の引き金を引いた。
瞬間、音が消え、光が瞬く。炸裂術式が起動し、その爆圧が鉄塊を砲身から追い出した。
吐き出された砲弾は音を置き去りにして飛翔し、狙い過たずノーキンへと迫る。
着弾の刹那、限界まで引き絞られた偉丈夫の拳が迎え撃つように伸び、二つの質量は重なった。

「ノーキン・エクスプロージョン☆フィストォォォォォオオオオッ!!」

置き去りにされた音が追いついた時、爆風の嵐が工房内を駆け巡った。
風はやがて一点の出口を見つけて外へと吐き出される。余波で工房の壁に空いた大穴だ。
耳鳴りを残す爆音と、息も据えない砂埃とが途絶えたあと、耳障りな金属音と共に何かが崩れ落ちた。
それは砲身のへしゃげた攻城砲。握る手を弾き飛ばされた盗賊風は、ただ呆気にとられて床に尻をつけていた。

ノーキンは五体満足で立っていた。
十字括りの金針は全て吹き飛ばされ、自由の戻った今も動くことができないでいる。
その右腕は、拳を中心に夥しい裂傷が刻まれその全てからの出血がひび割れた床を赤く染めた。

「ノーキン!!」

ケイジィが叫ぶ、その声に答えるようにノーキンは首だけの動きでこちらを向いた。

「ううむ。まだまだ鍛え方が足りぬようだ。吾輩も修行のし直しだな」

指先の骨が残らずひしゃげて、原型を保っているのが奇跡のような右拳を見ながら彼はそう呟いた。
そして首を戻した視線の先には、拳の形に大きく潰れた砲弾の成れの果てが転がっていた。

「これで一つの事象が証された。我が拳と攻城砲の砲弾は……今のところ、互角であるな。
 そしてもう一つ私見として明らかになったことがある。―砲弾は、素手で殴ると、超痛い」

「空気呼んで黙ってたけどホントに馬鹿じゃないのノーキン!あっ今引いてる!今ケイジィすごいドン引きしてるよ!どーしよ!」

「ドン引きという感情まで再現するとは人形の分際で僭越である」

「デリカシいいいいいい!」

豪風は彼の纏っていた外套をも吹き飛ばし、固められていた髪が乱れている。
固めた髪の中にしまっていた耳がぴょこりと顔を出した。
長く、尖った耳。エルフの耳だ。

「え、エルフ……?あんた、その筋肉で、エルフ……!?」

盗賊風はこの世の終わりでも見たような表情でノーキンの耳を指差した。
平静を装うヒュミントを試みたがあまりの驚愕に正気度を削られファンブルした。

「おうとも、我が名はノーキン・ソードマン!ハイランド連邦旧家が一つ、ソードマン家の嫡子!
 由緒正しきエルフの血筋であるぞ!!」

「そしてその相棒、殺戮の魔導人形ケイジィちゃん!二人合わせて……なんて呼ぼっかノーキン」

「決まったら教えろ」

332:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:46:29.50 NJZYvVHR.net
盗賊風は巨大な何かに打ちのめされたようなショックで暫し放心し、歴戦の戦士としての才覚が気絶を押し留まった。
とりあえず自分の中に起きようとしているとてつもないセンセーションを押さえ込む為に、
「世界って広いな」という身も蓋もない結論で自我を保つことに成功した。

「ああああ!?なんてことしてくれてんだあんた!」

解体屋が少女のような悲鳴を上げた。
何事かと見てみれば、工房に備えてあった解体用の機材が押し花のように綺麗に潰れていた。
その上には、ノーキンの拳跡がくっきり残った砲弾の残骸が我が物顔で鎮座している。

「機材がめちゃくちゃじゃないか!どうしてくれるんだこれ専門機器だから一品モノなんだぞ!」

「む。これは相済まないことをした。しかしそこの金剛竜を売り払えば釣りが出るだろう。弁償はそこから差っ引いてくれ」

「だから!その金剛竜を解体する機材が潰れてるんだよ!オリハルコン並の強度を解体できるのはうちの機材だけだぞ!!」

「むむ……」

「それ以前にな!機材壊れちまったからいつ終わるかも分からない修理完了までうちは閉鎖だ!
 この街で一日何億の金が動いてると思ってんだ!この経済損失!休業補償!!どうしてくれる!?」

「むむむ……」

解体屋の怒号に押されて大砲相手にすら退かなかったノーキンはじりじりと後ずさった。

「は、半分はこやつらのせいであろう!弁済義務を負うのは吾輩だけではないはずだ!」

「ええ……」

ケイジィが再びドン引きしているのを尻目に、中年エルフは冷や汗を流しながら盗賊風達を指差す。

「あ、うちはギルドから補償出るんで」

「なんだと……!」

盗賊風は我が意を得たりとばかりに口角を上げた。
これもヒュミントではない(念の為)。

「自営はこーいうときつれーよなぁオッサン。ギルドは儲けが等分なら責任も等分!
 分かるかこいつが素晴らしき社会のシステムって奴だ。歯車ライフサイコー!」

ノーキンは解体屋の射殺すような目付きと、ケイジィの白眼視、盗賊風の嘲笑に挟まれて子犬のように縮こまった。
しばらく両面焼きの卵のような気分を味わいながら黙考して、盗賊風の方を首だけの動きで向いた。

「うわ、その動きやめろよ気持ちわるいな」

「貴様の提案に乗ろう」

「ああ?いつの話まで遡ってんだそれ」

ノーキンは今まで見たこともないような苦渋の表情で言った。

「……仕事を紹介してくれ」

ハイランド連邦首府・ソルタレクの冒険者ギルドがユグドラシア襲撃へ向けて兵を挙げる三日前。

ノーキン・ソードマン(143)。


就職。

333:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:47:10.80 NJZYvVHR.net
とても簡単なキャラ解説:
どこからか指環の情報を聞きつけ入手を狙う二人組の冒険者。
魔法を使えない中年筋肉エルフのノーキンと荒野もゴスロリで旅する謎の少女ケイジィ。
冒険者ギルドに所属しないいわゆるモグリの二人だが、独自の情報網で指環の在り処を追跡している。
豪快かつ後のことを全く考えない戦い方の為、彼らの通った後は台風一過のように滅茶苦茶。


名前:ノーキン・ソードマン
年齢:143  性別:男
身長:195  体重:100
スリーサイズ:筋骨隆々マッチョマン
種族:エルフ
職業:冒険者/元ハイランド連邦宮廷武官
性格:豪放磊落ハイテンションおじさん
能力:魔力と拳法を組み合わせた全く新しい格闘術『能筋拳(マジックマッチョアーツ)』
武器:エーテルメリケンサック
防具:世界樹の植物繊維で織ったフンドシ
所持品:上記フンドシと同じ材質の意志によって形を変えるマント
容姿の特徴・風貌:フンドシ一丁にマント、ドミノマスクとかなりヤバげな見た目の大男

簡単なキャラ解説:
エルフに生まれながら魔法を一切使えず代わりに己の肉体を極限まで鍛え込んでいる筋肉エルフ。
元はハイランド連邦の高官だったがある事件を境に出奔、富と名声を求めて冒険者に転身する。
細かいことを気にしないガハハタイプの豪快な男に見えて、名家の生まれで教養もあるそれなりのエリート。
人間の妻と一人娘がいたが、娘とは死別しておりその件で妻とも別居中。娘は生きていれば18歳になる。
魔法は使えないもののエルフの魔力は健在で、鍛え上げた身体を更に強化し老いを防ぎ傷を癒やすことに特化している。
独自に編み上げた『能筋拳』は通常の拳打や関節技に加え、拳に纏った魔力の塊を常軌を逸した拳速で打ち出すことにより、
大砲並の威力と射程を持つ強烈な必殺技と化している。
その戦闘能力は高官時代に敵国から送り込まれた暗殺者を後詰めの部隊ごと叩き潰すほど。
古竜の復活に際し、指環の強大な力を我が物とせんと相棒の魔導人形ケイジィと共に旅をしている。
好物は猪の肉だが野菜ばっか食ってるエルフの貧弱な消化器官ではお腹を壊すので整腸のポーションを愛飲。


名前:ケイジィ
年齢:起動から3年  性別:女性型
身長:145  体重:65
スリーサイズ:細身の少女(15歳相当)
種族:骸装式魔導人形
職業:冒険者/元ダーマ王属特務"SOR"所属暗殺者
性格:純粋無垢かつ残虐非道
能力:身体の各所に仕込まれた魔術武装、ステルス魔術
武器:仕込み短砲、仕込み毒ナイフ、火炎放射器、ワイヤー他
防具:防御魔術の施された瀟洒な衣服、肌も特別製なので頑丈
所持品:魔術によって巨大化したり自律駆動するウサギの人形
容姿の特徴・風貌:銀髪に白いゴスロリ衣装の少女。耳がヒトより少しだけ長い

簡単なキャラ解説:
ダーマ魔法王国の外法によって死体から造られた『骸装式』の魔導人形。
同国の暗部で汚れ仕事を請


334:け負う特務機関"SOR(太陽の聖典)"が敵国要人の暗殺用に製造した。 容姿及び人格は元となった死体に準拠するが、記憶の殆どは封印され文字通りダーマの傀儡人形である。 機関におけるコードネームは『KG-03(キラーガイスト三号)』。 華奢で可憐な容姿と純粋な性格で油断させ相手の懐に潜り込み、対象を殺害した後はステルス魔術で身を隠し脱出する設計。 特にステルス魔術は強力で、魔力の気配さえも隠蔽できる為に普通に戦ってもそこそこ強い。 ハイランド連邦の政府高官を暗殺すべくノーキンの元に送り込まれたが返り討ちに遭い、その際の戦闘でSORも壊滅している。 拠り所を喪ったKG-03はノーキンによって"ケイジィ"の名前を与えられ、その後は彼と行動を共にする。 自分の出自は理解しているが生前の記憶がないため割りとあっけらかんと第二の人生を歩んでいる。 好物はハイランドの元気な魔鋼蟲を澄んだ機械油でカリカリになるまで揚げたもの。



335:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:48:28.66 NJZYvVHR.net
【魔術学園都市アスガルド近郊】

冒険者ギルドの命によりアスガルドに出立したユグドラシア襲撃部隊(本隊)は、馬車編成10車にもなる大規模な集団だった。
実働要員としては数にして実に100人。その殆どがギルドの最下層で燻っていたゴロツキ紛いの冒険者達だ。
練度はともかく職種には富んでおり、剣士に魔導師、レンジャーハンターシーフから遊び人まで、
どこのパーティにも及びがかからなかったお茶引き同然の連中に雇用を創出する為の公共事業とさえ揶揄されていた。
主に揶揄していたのはケイジィである。

ギルドマスターより特別に仕立てられた長距離仕様の馬車に溢れんばかりに詰め込まれた冒険者達が、
己が暴力を思う様振るうときを今か今かと待ち続け、そのボルテージは最高潮に達していた。

「ヒャッハー!戦争だあああ!」「殺せ奪ええええ!」「男は殺せ!女は犯せ!」「どっちでもない奴は?」「お友達になりたい!」

「すごいねあの人たち!3日間ずっと同じことで盛り上がってるよ!ユグドラシア着く前に疲れちゃわないかなあ!!」

舗装の行き届いていない馬車道を車輪が跳ねる度にガタガタ揺れる車内。
騒音まみれの環境に、隣で喋っているケイジィの声もだんだん怒鳴るようなテンションになっている。

「……はぁー」

対照的にノーキンはずっと車内で巨大な身体を丸めながらため息をついていた。

「ちょっとノーキン!3日間ずっと同じことで盛り下がってるじゃん!ため息つくと幸運逃げるよ!?
 もうだいぶため息つきまくってるから幸運逃げ切って幸運気圧に差が生じて幸運大嵐が起きちゃうよ!すごいね気象学!」

「吾輩、なにをやってるんだろうか……」

「それ三年くらい前に考えるべきことだったよね!ホントこの三年間半裸で大陸ぐるぐる旅しかしてなかったもんね!」

「己の拳のみに頼みを置く無頼にして孤高の風来人、それが吾輩だったはずだ……それが何故ギルドの下働きなど……」

「しょーがないじゃん!借金返済しなきゃでしょ!ほぼほぼノーキンのチョンボだもん!解体屋さんカンカンだったよ!」

「それにしたって何故ユグドラシアなのだ……吾輩あそこすごく苦手であるぞ……」

解体屋粉砕事件の後、盗賊風の冒険者によって紹介された仕事がこのユグドラシア襲撃だった。
エルフ族にとってユグドラシアは単なる学術機関以上の意味を持つ、言わば宗教上のアンタッチャブルに近い場所だ。
当然ノーキンは反駁し、辞退しようとしたが、直近で大きく稼げる仕事はこれしかないとのことであり彼に拒否権はなかった。
それどころかギルドの幹部に近しい盗賊風がかなり好意的に(あるいは悪意を持って)ノーキンに高評価を付けて紹介した為、
あれよあれよという間に彼はこのごろつき愚連隊の音頭取りにまで祭り上げられてしまった。

「もー!いい加減切り替えなよノーキン。それにユグドラシアに行くのは仕事だけじゃないでしょ」

「……『指環』か」

如何なるギルドにも属さない彼らが冒険者として探索や魔物討伐をこなせるのは、ギルドとは別口の情報源があるからだ。
そしてノーキン達は何も無軌道に大陸をブラブラしていたわけでは……まあちょっとはあるが、明確な理由がある。
古竜復活に際し、世界各地で目覚めた7つの『指環』。所有する者に人知を超えた超越者としての力を約束する伝説の魔導具。
彼らはそれを求めて三年の間旅をして、しかしその一つも手に入れることは叶わなかった。

現在、ノーキン達が捕捉している指環の所在は4つ。
ヴィルトリア帝国南部はイグニス山脈に眠ると言われる古代都市の炎の指環。
帝国領海の深く海の底に沈んだ都市ステラマリスの水の指環。
ハイランド連邦アスガルド近郊に在するテッラ洞窟の大地の指環。
残る一つはソルタレクのギルドが保有していると噂されているが、詳細は掴めていない。

いずれにせよ、ノーキンとケイジィはどの指環においてもタッチの差で獲得を逃している。
ステラマリスに至っては海底遺跡探索中(素潜り)にいきなり海溝が隆起して危うく巻き込まれて死にかけた。
だが指環が精霊と共に在所から消えているということは、それを持ち去った者が確かにいるはずなのだ。

336:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:49:13.47 NJZYvVHR.net
盗掘者か、あるいは正当なる継承者か。
まだチャンスはある。ようは全て揃う前に持ってるところから買い取るなり……奪ってしまえば良い。
盗掘品の獲った盗られたなど冒険者の間ではよくある話だ。同様の手段に訴えることに呵責はなかった。
そして、テッラ洞窟の指環に関しては地理的にも近い学術機関のユグドラシアが保有している可能性は極めて高い。
仮に現物がなくとも、なんらかの手掛かりは掴めるはずだ。

「ソルタレクのマスターが指環持ってるっていうのがマジバナなら、ここで功を立てて恩を売っとこうよ」

「うーむ、うむむむ……」

ノーキンは暫く腕組みして唸っていた。そうしている間にもごろつき共を積んだキャラバンはアスガルドに近付いていく。
やがて、街の城門が見えてきた頃、ノーキンはやおら立ち上がりそのまま屋根を突き破って首から上を外に出した。

「うわっ!その図体で極端な動きすんのびっくりするからやめてよホント!」

「吾輩やる気が出てきたぞ!そうとも、何を迷う必要あらん!
 この拳で全てを打ち砕き、然るのちに瓦礫の中から指環を掘り出せば良い!」

ノーキンはそのままぐるりと反転、馬車から生えた生首が後続の全隊へ向けて号令する。

「全隊へ告ぐ!実働隊は事前の取り決め通り三隊に別れ行動せよ!
 第三隊(40人)!アスガルド市内にて敵地上戦力の漸減にあたれ!敵は術士集団、対魔法機動を怠るな!
 第二隊(30人)!飛翔魔獣に騎乗し航空支援!アスガルド上空から敵勢力への弓射を行え!街と農地は国家の財産だ、傷を付けるな!
 まずは上下の波状攻撃によりユグドラシアを丸裸とするのだ!
 そして第一隊(30人)!―他2隊の陽動を得て吾輩と共に地上から街を突っ切り、ユグドラシアを制圧する!」

飛翔魔獣アルゲノドンはギルドマスターがこれも特別に用意した騎乗クラスの為の航空戦力だ。
速度はそれほどでもないがとにかくタフであり、長く飛べる為に正規軍の航空騎兵にも採用されている非常に高価な獣畜である。
追従する馬車の一つから僧侶風の冒険者が顔を出して問うた。
彼は第一隊の隊長ザギン。優れたプリーストでありながらおっさんという理由で色ボケパーティ共から爪弾きを食らった男だ。

「総隊長、市内へ進軍ったってどうやって街に入るんスか?
 先んじて潜入した斥候部隊も全滅したって言うし、内部から開けてもらうこともできないっスよ」

「案ずるな。出入り口は吾輩が作る」

「ええ?アスガルドの外壁ってユグドラシアの魔法防御でとんでもない頑丈さらしいじゃないスか。どうやるんスか?」

「殴って壊す」

ノーキンは馬車の内側で両拳を合わせる。金属音が鳴り響いた。
前回素手で砲弾殴ってすごく痛かった教訓から、裸拳を身上とする彼が信念を曲げてまで用意した武器。
拳を保護するエーテルメリケンサックだ。

「……はぁ。まぁ期待しとります」

ザギン


337:はそれだけ言って馬車の中に引っ込んだ。 前方、アスガルドの町並みが森の奥に見えた。しかしここで馬車隊は左へ舵を切る。 街道を逸れ、馬車が辛うじて通れる程度の獣道へと入っていく。 「総隊長!城門あっちッスよ!?」 「門など不要!街に入るには門を潜るなどと決めたのはどこの誰だ?我輩ではない!!」 やがて馬車隊は森を抜ける。一気に視界の開けたここはアスガルド外苑の農業地帯だ。 眼前には見上げるだけで首の痛くなりそうな巨大な白磁の外壁がそびえ立っていた。 ノーキンは首を抜き、馬車の上へとよじ登る。全力疾走する幌の上に驚くほどブレない体幹で仁王立ちした。 「吾輩にとってはこの壁の全てが扉よ!そして鍵は――我が拳だ!!」



338:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:50:07.77 NJZYvVHR.net
腰を落とし、重心を低く、握った拳を胸より後ろに引き絞る。
嵌められたメリケンサックに輝きが灯る。無論これも単なる鋼鉄の保護具ではない。
マスターから支給された支度金で買った、装用者の魔力で仮想の装甲を作り出す魔道具・エーテルメリケンサック。
無論常人が用いれば単に武闘家が防御範囲を広げる為の防具に過ぎないが、ノーキンの拳速と合わされば。

「ノーキン・マスターキー☆スラッガァァァァァアアアアアッ!!!!」

―装甲部分があまりの拳圧に切り離され、魔力の塊として飛んでいく、すなわち砲弾である。
吹き付ける走行風の全てを巻き込み常軌を逸した速度で打ち出された魔力の塊が、白磁の壁に激突する。
轟音と共に外壁の破片が飛び散り、巨大なクレーターが生まれた。
しかしげに恐ろしきはユグドラシアの建築技術、アスガルド外壁は一度や二度の砲撃で破れるものではない。

「さらにもう一発!」

なのでもう一発撃った。

「さらにさらにさらに!!」

何度も撃った。

「さらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらさらぁぁぁぁにッ!!!」

都合50発近い間断なき砲撃に、数百年もの間外敵ついに外壁の向こう側が見えた。
開いた穴は馬車が一台どうにかして通れる規模。正規軍ならともかく、この愚連隊には十分だ。

「我が拳!完☆全☆勝☆利ィィィィィッ!!」

「うーんこれ拳かな……?拳って言っていいのかなこれ……?」

トップスピードに乗ったまま縦列に並んだ馬車はそのまま街の中へと侵入を成功させた。

「うそだろ……ホントに外壁破っちまいやがった」
「あんぐりしてる場合じゃねえ!第三隊、出るぞ!」

外壁の内側で停車した馬車から、40人の冒険者達が次々と飛び出して行く。
それぞれが手に剣や槍、戦斧にメイスを持ち、雄叫びを挙げて大通りへと進撃していく。

「ボサっとしてんな!第二隊出撃!!」

馬車の幌が取り去られ、格納されていた飛翔魔獣アルゲノドンが耳障りな鳴き声を上げる。
その背に取り付けられた鞍に弓兵クラスの冒険者達がまたがり、町並みを超えて飛び立っていく。
彼らには火矢の他用意できた少量の爆弾を持たせてあり、ゴーレムが出てきても対抗は可能だろう。

「では諸君、健闘を祈る!第一隊、吾輩の後についてくるが良い!」

遠く、街の大通り方面では既に交戦の声が聞こえる。
対応が早い。ユグドラシアの術士の優秀さは無論、斥候部隊が全滅したことで敵も既に臨戦態勢を完成させていたようだ。
ノーキン以下30人からなる潜入部隊は、地上部隊が敵をひきつけてくれている間にユグドラシアへと向かう算段だ。

339:ノーキン&ケイジィ ◆AOGu5v68Us
17/02/05 14:51:48.26 NJZYvVHR.net
「おお懐かしき街の灯よ!彼方に見えるユグドラシアの威容よ!この神聖なる学び舎はこれより蹂躙されるのだ!
 こんなにも悲しく心躍ることが�


340:るだろうか?多分たくさんある。吾輩は山ほど知っているぞ!羨ましいかね!!」 ノーキンは支離滅裂な謎の勝利宣言をしながら、ユグドラシアへ向けて両の拳を掲げるファイティングポーズをとった。 「何やってんのノーキン。見えない敵でもそこにいるの?」 「見えない敵はどちらかと言えば貴様のほうだろうケイジィ」 「そーでした。ステルスあるもんね」 「これは吾輩なりの儀礼だ。昨日までに死んだ者達、今日この戦いで死ぬ者達、明日死ぬかも知れない者達。  彼らに対し吾輩は生存競争を仕掛け、そして今日まで勝ってきた。今日も勝つ。明日も勝つ。明後日もだ」 「なるほど。じゃあケイジィもやるね」 「貴様がする必要はない」 「ええー?なんでなんで?」 「指環が全て集まれば理由を教えてやろう」 「そか。じゃあ頑張んないとね」 「うむ」 ポーズを取り終えたノーキンは麾下の部隊へと再び号令し、ユグドラシアへ向けて進撃を始めた。 アスガルドはユグドラシアを中心に発展した街だ。全ての道はユグドラシアへ通じている。 歩けばそこへ辿り着く。いつかは、そして必ず。 『待て!表通りに現れた武装集団と同じ装備、仲間だな!?』 いくつかの目貫通りを超えたところで、家屋ほども背丈のあるゴーレムが立ちはだかった。 岩造りの巨人からは若い声が響く。おそらくこれを操っている学生か何かであろう。 『ユグドラシアに近づけさせるものか!お前はここで止める!』 接敵にいきり立つ部隊の冒険者達を片手で制して、ノーキンは一歩踏み出した。 「よかろう、吾輩を止めてみせよ!ゴーレムの出力と我輩の筋力、力比べをしようではないか!」 ゴーレムの主はおそらく初めての戦闘なのだろう。 もはや言葉による警告をすることなく、ゴーレムの豪腕――馬一頭分はあるそれを打ち下ろした。 ノーキンはそれを片手で止めた。 『な……!』 「貴様に足りぬものは二つ。一つは上腕二頭筋の筋繊維量、そして――」 そのままゴーレムの腕を掴み、あろうことか自らの肩を梃子として投げ飛ばした。 「――腕橈骨筋だァァァッ!!!」 「どっちも筋肉じゃん!!」 ケイジィの指摘も虚しくゴーレムは宙を舞い、路面に激突して砕け散った。 ノーキンは意味もなく自分の裸体をはたき、汗で張り付いて落ちるわけもない埃を気にしながら前方の学び舎へ向き直す。 「さぁ、征くぞユグドラシア、魔法の殿堂。あらゆる知慧の集う場所よ。  頭でっかちの貴様らに――吾輩が肉の付け方を教えてやる」 【お待たせしました!】 【ノーキン&ケイジィ、そしてソルタレク麾下の冒険者集団100名がアスガルドへ侵攻】 【表通りで40名が陽動の為に交戦中、30名が航空戦力として上から矢と時々爆弾落としてます】 【ノーキンは30名の部下達と表通りの戦闘を避ける形でユグドラシアへずんずん向かってます】



341:ティターニアin時空の狭間 ◆KxUvKv40Yc
17/02/06 23:30:25.46 fUcyikt3.net
ノーキン殿大作導入大変乙であった! 指環がなんか途中で増えそうだな~という予想通り当初の想定より増えて草
オークの集団殿も支援かたじけない。今章は特にあんな感じで単発ネタ振りもしやすそうなので歓迎するぞ
こちらは次はパトリエーゼ殿だがまだパーティーに正式加入もしてない状態でノーキン殿のレスを直接拾うところまでもっていきにくいようなら
とりあえず自キャラ周りの出来事で回してもらっても大丈夫だ。皆でもってい�


342:ュので!



343:パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA
17/02/07 15:32:01.22 YVxtoF6L.net
>「はいはい、とりあえず壁に体預けて、座って。ふらふらじゃないですか」

あ、なんか人柄の良さそうな子があたしを椅子に座らせてくれた。

「う、うっそ……これ美味しい! おかわりは? おかわりはある?」

恥ずかしいことにものの数十秒で平らげてしまった。
これであたりが大食らいなのがバレる!

おまけに一番壊そうだったハーフオークのジャンさんも、黒パンを差し出してくれた。
スープがなくなってからも、あたしは図々しくも黒パンをおねだりして、沢山食べた。
まだお腹が空いてたけど、そろそろ眠くなってきたし、いいや。

ラテさん。世話をしてくれた女の子は、背は頭一つ小さいけど、
大体あたしと同じぐらいの年齢だろう。
と、他に食料が無いかどうかキョロキョロしている間に、聞きたくもない言葉が飛び込んできた。

>「話を戻しますね。ミライユさんの言葉を信じるなら、ソルタレクの冒険者ギルドは、アサシンギルドを併合してます。
 ……ま、どうせ少しばかしレンジャーの技術を齧っただけの、ちゃちな殺し屋集団でしょうけどね」

「み、ミライユ、アサシン、ソルタレク、ギルドぉ……」

それを聞いただけであたしの脳裏にはあの日の光景が蘇ってくる。
エーテル教団、黒犬騎士団から逃げ出し、当てもなくソルタレクの街中を彷徨っていたところ。
冒険者ギルドというものの存在を知った。

そうだ、あたしは今まで姉さんや兄さんによって“鍛えられ”ている。
きっとここにいれば稼いで凌ぐことぐらいはできる。

そう思ったのが間違いだった。
ギルドの内部はブラック化が進み、内部組織は腐りかけていて、それを更に間違った方向に修整しようとしている勢力もいた。
そして、“鬼”をそこで見た。

ミライユ。思い出したくもない名前。聞いただけでも背筋が震えてくる。
謎のギルドマスター崇拝は下手なエーテル教団の狂信者にも優り、その二重人格は
あたしにとって三度目のトラウマを植え付けさせられることになった。

目の前でなすすべもなく一撃、一撃が骨を折り、脳天をかち割り、命を奪っていく。
あたしはそこからただ逃げることで精一杯だった。そして、もう“組織”というのを信じるのを止めた―

344:パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA
17/02/07 15:33:00.00 YVxtoF6L.net
―『無限に広がるエーテリアル世界』―

エーテル教団では国境の存在自体を忌み嫌い、「世界は一つ!」という信念を大事にする。
分かり易い教義は子供でも幼少期から洗脳しやすい。
姉さんたちの教えは理解はできた。でも、教団はそのために各地で暗殺を行ってきた。

あたしは姉さんによって沢山の薬を飲まされ、そして魔法の撃ち合いによって鍛えられた。
それを「エーテル力の強化」と姉さんは言ってた。姉さんは優しかったけど、周囲はあたしの信仰への葛藤を見逃さず、
陰口や暴力を振るった。それでもあたしは逆らわなかった。姉さんが傷つくから。

教団の任務では圧倒的な魔力によりその集団一つの存在を葬り去る。酷い場合は村ごと無かったことにする。
そして教団の支部を立ち上げるためにあらゆる手段を使う―それにあたしは……えっと。

目が覚めた。

>「女、女、女~♪」「おゥ!強盗ダァ!お前ら女は武器を捨てて壁に手を付けェ!モノ盗だァ、殺しやシネェ」
「ティターニア!っテェのは「天


345:国」ミテェな意味カァ?」 「聞こえネェのカ?壁に手をついてケツこっち向ケロ、できればパンツも脱いどケ。あ、そこの男はこっち来ナ」 「…んー、……あっ、えぇぇっ!!?」 テーブルに突っ伏して寝ていたら、突然部屋にオークが。 それも明らかにさっきまで居たジャンさんとは雰囲気が違う。まさか、敵? パンツを脱がせるような連中が敵じゃない訳がない。 あたしは……とりあえず後ずさりして、壁に手をついた。オークの一人が早速あたしのところに来る。 薄汚く欲望を爆発させながら……! この光景には見覚えがある。――兄さんのところだ。 黒犬騎士団では兄さん――アドルフの周囲以外はいわゆるならず者の集まりだったんだ。 兄さんは冷たかったけど、必ず危なくなったら助けてくれた。 あたしに殺人に関する任務はさせなかったし、ならず者たちに暴力を受けていると、必ず助けてくれた。 それによって何人かが目の前で殺されていった。 あたしはそこまでして生き残りたくはなかった。 できればあそこで終わっておけばよかったんだ。 でも―― あぁ、また…あたし、意識が飛んでる。



346:パトリエーゼ ◆.ioWGZt2uA
17/02/07 15:35:40.57 YVxtoF6L.net
>「―黙ってろッ!」
>「パトリーヌ殿! 危ない!」

ジャンさんとティターニア師の叫び声で再び目を覚ますと、
さっき襲おうとしていたオークたちがあっという間に死体になって転がっていた。
そしてその頭が爆発。
あたしの衣服にも、その血しぶきや脳漿が降りかかって汚れる。

「あぁ……あ、ありがとう、皆さん」

情けなくもうつ伏せの格好で、ジャンさんたちの方を見上げる。
またここでも助けられてしまった。

ドゴオォォォォン…!

外で物凄い轟音が聞こえ、こちらに響く。あたしは「ティターニア!」と書かれた扉の外に出た。
まるで「スティッチ!」のような響きでティターニア師がこの学園内でマスコット的なキャラクター扱いされているのかは分からなかったけど、
きっとこの人は人望があるんだ。

と、その扉から見える中庭では、多くの導師や学生たちが空中にいる何かに対抗して魔力を増幅させている。
飛翔魔獣アルゲノドン。この魔獣は単独でも中位の魔物以上と言われているけど、人が使役することによって
その能力を爆発的に上昇させる。
「エーテル教団」でも見たことがあった。

これは…間違いなく“戦争”だ。

ふと、その近くに協力なエーテルの気配に気付く。杖を振りかざしてみると、
そこには空中に浮遊する直径2メートル以上の大きな透明の魔方陣があった。
それは「エーテル教団」でも何度か見たことがある。

「ワールドノット! これは、それにオークの臭い……!」

この仕掛けからオークが潜入してきたことは確かなようだ。とりあえずこれだけでもと思い、
あたしはなけなしの魔力をエーテル力に置き換え、その魔方陣を“相殺”した。
エーテルの力は火・水・風・地・光・闇のどの属性にも含まれない、「虚無(ヴォイド)」の属性と言われている。

そちらに集中していると、さっきあたしを助けてくれた三人が、「ティターニア!」の看板のところから顔を出し、
様子を見ているところだった。
とりあえず第一報を報告しなくちゃ。
教団が何らかの形で関わっているのは間違いない。
私の考えは当てずっぽうでしかないけど。

「敵の集団がここを襲撃しているみたい! 「エーテル教団」の名前を知りませんか?
ティターニア師、恐らくは彼らはその構成員じゃないかと思います!
上からだけじゃなく、建物の方からも…数は、たぶん100人近く!」

そしてもう四回目だ。今度こそは命が無いかもしれない。本当のことを話さなくては。
まだこうして自由が利くうちに。

「あたしの本名はパトリエーゼ�


347:Eシュレディンガー。 教団の幹部で“黒曜のメアリ”と呼ばれたあのメアリ・シュレディンガーの妹です。 怖くって教団から逃げ出してきたの。お願い、何でもするから、あたしに居場所をください。 そして…みんな、“友達”になって! 裏切られてばかりで怖いの!」 涙を流しながら、あちこちで悲鳴が上がる中で、あたしは膝をついて三人にお願いした。 【パトリエーゼが仲間になりたそうに三人の方を見ています。仲間にしてあげますか?】



348: ◆ejIZLl01yY
17/02/08 03:07:25.38 onk2pPi/.net
……ジャンさんとティターニアさんは、私の心境の変化を察しているようだった。
確かに……自分でも少し、過激な方向に傾いている……そんな気はする。

でも……このアスガルドの平穏と、それを壊そうとする人達の命。
それらを天秤にかけるなら、どちらを重んじるべきかは明白だ。

命を天秤にかけるなんて、と思うと……胸が苦しくなる。
だけど、指環を巡る戦いに挑むのなら、それは避けられない。
究極的には、自分の命か、敵の命か……その二つを天秤にかける事になる。

だから私は、殺してしまっても構わないと、覚悟を決めた。
それは……間違っているのかな。

ジャンさんとティターニアさんは……もう少しだけ、私に悩んでいられる時間をくれた。
それはすごく、ありがたい事だ。
だけどこの時間は……少しだけ、重くて、息苦しい。

>「ティターニア!これ女の名前じゃねェノ~♪」「いちいち叫ぶなってのうるせェ、一応任務だ静かにやんゾ」

不意に聞こえる、扉を破る音。品性を感じさせない喋り声。
オークの集団……内部で混乱を起こさせる為の、工作員か。

扉のすぐ傍にいた助手さんに棍棒が振り下ろされる……。
だけど彼らホビットは大河に生まれ、山に生きる民。
決して好戦的な訳ではなく、むしろ戦いを好まない種族だけど……だからこそその視力は、敵の接近と動きを見逃さない。

流れるような動きで棍棒を躱し、【スニーク】で身を隠し、オーク達の脇をすり抜ける。
更に【ファントム】の置き土産……流石ティターニアさんの助手さん、お見事な体捌き。

オーク達は……いや、私もオークの外見とか体格とかよく分からないけど、多分あんまり鍛えてないんだろう。
何故なら同じオークのジャンさんが三対一……もうニ対一だけど、圧倒してるから。

あとジャンさんの攻めがとんでもなく苛烈。
この人、結構怒りが動きに出やすいよね。
けどそれが隙ではなく、純粋な爆発力として表れているからすごいんだよなぁ。

と……なんだかお二人だけで軽くのせちゃいそうで、私は動き出すタイミングを逃していた。

……いや、ホントは違う。私は、迷ったんだ。
いざ敵を目の前にして……殺すべきか、倒すべきか、迷った。
だから動き出せなかった。

……こんな調子じゃ、駄目だ。
しっかりしろ私。守るどころか足手まといになっちゃうぞ。

>「パトリーヌ殿! 危ない!」

襲撃者の一人がパトリーヌさんにクロスボウを向ける。
私は……流石に、もう呆けてはいない。
後ろ腰から【秘刀カムイ】を抜き、一振り。

その切っ先から伸びる、白昼のように眩い炎の剣閃は……まるで『流れ星』《ブルームスター》
この長く、質量を伴わない刃なら、私でも軽く矢を切り払えちゃう。

カムイを手に入れるまでは?予言の石版(盾)が大活躍してました!
これも間違いなく呪われたアイテムだけど、長く使ってるとなんか愛着湧くよね。
この子最近いいとこなしだし、使ってあげないとなぁ。

349: ◆ejIZLl01yY
17/02/08 03:10:04.48 onk2pPi/.net
ともあれこれで、襲撃者は全員無力化……

>「うええええええええん! メアリーちゃぁああああああん! スーちゃぁあああああああん!!」

不意に、扉の外から叫ぶような慟哭が聞こえた。
慌てて廊下に飛び出す……そして振り向いた私の視線の先に、二人の少女が横たわっていた。
その傍らには、二人に縋り付いて泣く、男の人……。

気が付けば私は『カムイ』を抜いて、オーク達を振り返っていた。
頭が爆ぜ、無残に転がったオーク達の死体を。

「よくも……!」

何を、何をお前達は死んでいるんだ。
自分達が犯した罪の償いもせずに……いや、今からでも償わせてやる。
死体を傷めつけて、首と一緒に外壁に吊るして、そして外に放り捨ててやる。
そうすればソルタレクから来る本隊の指揮も大きく削げる。一石二鳥だ。

私は手元のカムイに視線を落とし……そこに映る私の両眼は、赤い光を宿していた。

驚いて、カムイを取り落とす。
慌てて拾い上げて再び両眼を映す……普通の、眼だ。

気のせい、だったのか?
あの、まるでネズミのような赤い眼は……ジャンさん達には、見られただろうか。

確認する勇気は出なかった。

さっき見た、廊下で横たわる少女は、ゴーレムだった。
血は流れていなかったし潤滑油の独特な臭いもしてたけど、少し距離があったから、一目でゴーレムとは確信出来なかった。
一瞬、もしかしたら本当に人なのかもと思った。

その一瞬で……私は我を忘れていた。
……どうしちゃったんだ、私。

>「敵の集団がここを襲撃しているみたい! 「エーテル教団」の名前を知りませんか?
ティターニア師、恐らくは彼らはその構成員じゃないかと思います!
上からだけじゃなく、建物の方からも…数は、たぶん100人近く!」

不意にパトリーヌさんが大声を上げた。

「……落ち着いて下さい。首府からアスガルドまでは、かなりの距離があります。
 大軍で来るとなれば、時間はもっとかかりますよ」

どうやら錯乱しているみたいだ。
……さっきの襲撃だけが原因じゃなさそう。
こんな若い女の人が行き倒れ寸前の、物乞いみたいな事をしているのは、それなりの理由があるんだろう。

>「あたしの本名はパトリエーゼ・シュレディンガー。
 教団の幹部で“黒曜のメアリ”と呼ばれたあのメアリ・シュレディンガーの妹です。
 怖くって教団から逃げ出してきたの。お願い、何でもするから、あたしに居場所をください。
 そして…みんな、“友達”になって! 裏切られてばかりで怖いの!」

エーテル教団……大陸各地で執拗なテロ活動を繰り返している邪教だっけ。
表向きは穏やかな信仰を掲げてるけど……
ある日突然、一つの組織や村が破壊工作を受け、暫くするとそこに教団の支部が立つ。

そんな事を何度も繰り返してるみたいだから……まぁ、アイツらヤバいって子供でも分かるよね。
最近じゃ各国当局の監視対象になっているとか。

350: ◆ejIZLl01yY
17/02/08 03:12:41.29 onk2pPi/.net
黒曜のメアリ……私も名前は聞いた事がある。
もしパトリーヌ……パトリエーゼさんの言っている事が本当なら、彼女は今まで異常な環境で生きてきた……のかもしれない。

……友達に、裏切り、か。
なんとなくだけど、私はこの人にミライユさんの面影を見出してしまった。
そして、だからこそ……

「……裏切られるのが怖いなら、誰とも関わっちゃ駄目ですよ。
 誰かの期待に、ずっと答え続けられる人間なんていないんですから。
 私がまさに今、あなたの期待を裏切ったように」

私はミライユさんに言った事と、同じ言葉をこの人にも言おう。
……ついこないだまでの私なら、何も考えずに快諾していたかもしれないけど。

「だけど……居場所なら、ここにありますよ。何もしなくたっていい。
 ここは皆優しいし、安全です。
 ずっといようと思ったら……流石にちょっとは働かなきゃ、駄目でしょうけど」

まぁ、ユグドラシアにお世話になってるだけの私がこんな事を言うのは、なんというか大変恐縮なのですが……。
ティターニアさんならきっと同じ事を言ってくれるはず。

……居場所が欲しい。その為ならなんでもする。
それはきっと今まで生きてきた環境から、出てきた言葉なんだろう。

だけどその考え方は、健全じゃない。
間違ってる……と、私は思う。

「何かをするから、居場所があるんじゃない。
居場所があるから、その為に何かをする。世の中の、大部分は、きっとそうやっと回ってます。
何かをしようと思えるまで……この居場所にいてみたら、どうですか」

そうだ。居場所があるから、その為に何かをする。
パトリエーゼさんみたいな、普通の人は……きっとそうあるべきだ。

351: ◆ejIZLl01yY
17/02/08 03:14:12.72 onk2pPi/.net
 
 
 
……あれから三日が経って、私はアスガルドを囲う外壁の上に立っていた。
今朝、とうとうソルタレク冒険者ギルドの軍団と思しき集団が見えたと、伝令が入った。
地平の奥に見える、十を超える馬車が、ゆっくりと近づいてくる。

……あれくらいの規模なら、門を破る事すら出来ずに退却させられるかもしれない。
門の前にはユグドラシアの皆さんが用意した非殺傷爆弾が仕掛けてある。
攻城兵器などを持ち出して、門に近づけば……きっと愉快な光景が見れる。
ずっと落ち込んだままの私の気持ちも、晴れるかもしれない。

……けど、どうやらそう上手くはいかないらしい。
罠を読んでいたのか他の目的があるのか、馬車隊は門を避けて外壁の周囲を迂回する。

……私もそれを追うように走る。
何にせよ、こちらがする事は変わらない。
どうせ城壁を破る事なんて出来ないんだ。城壁から徹底的に嫌がらせをしてやれば……

不意に、凄まじい衝撃音が響いた。
思わず足を止めて外壁の下を見る。
停止した馬車の上に……半裸でムキムキの……いや、なんだアレ。

見た目のインパクトが凄すぎて一瞬思考が止まっちゃったけど、今の衝撃音はあの人の仕業っぽい。
防御魔法を施されたこの外壁を揺るがすほどの……え?あの、もしかして……殴ったの?

……恐ろしい威力だけど、流石にこの壁を破る事は出来なかったみた……うわぁ!また揺れた!
ま、まさか……この一撃、奥義とかそういうのじゃなくて……れ、連発してる!

……一際大きな衝撃音。
そして……石が砕け、崩れ落ちる音。

う、嘘でしょ……い、いや、呆けてる場合じゃない!
敵が市街へと雪崩れ込んでる!

「外壁班!二班一組で上空からの攻撃を凌ぎつつ追走を!
 空からの攻撃を肩代わりして、迎え撃つんです!地上班を孤立させるな!」

ユグドラシア謹製の伝言のオーブにそう叫び、私は城壁から飛び降りる。
まっさかさまに地上に落ちたら死は免れないけど……私はレンジャーだ。
既に「道」は見えている。

飛び渡る先は、最も近い建物の屋根。
そして一歩、二歩、三歩と走るが……傾斜が急過ぎる。
走り続けられない。私は背中から倒れ込み、屋根を滑り落ちる。

この先は……数多くの露店が建ち並ぶ、いつ訪れても賑やかな白夜通り。
最も今は皆、ユグドラシアへ避難してる。けど、露店を片付けてる暇なんて無かった。
私は滑り落ちる勢いのまま、露店のオーニング……布屋根に飛び移る。

猛烈な速さで流れていく景色、強烈な落下の感覚……・そして布が私の体を跳ね返す反動。
よし……五体満足。

上手く距離も稼げた。追いかけよう。
……何かまた、とんでもない破壊音が聞こえた。
あの筋肉男が何かまたやってくれたとすれば……もっと急がないと。

私は街路を走りながら、空を見上げる。
上空を飛ぶアルゲノドン……厄介な物を持ってきてくれた。
だけど……利用する分には、すごく便利だ。


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