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料理、他含む創作小説 - 暇つぶし2ch134:青空町耳嚢 ~創作発表板五周年企画SS~  ◆ftPUzYFINd55
13/08/28 NY:AN:NY.AN QKyBoSbx.net
青空町耳嚢 第11/21話
【バナナ大福】

 うちの和菓子屋のうりは変わり種の大福だ。
 イチゴ、みかん、トマト、ぶどう……。思いついたらとりあえず作ってから考える、というのがうちのモットーである。
 そこそこ売れるものもあり、見向きもされないものもあり。
 旬の素材と活きのよいアイデアを大事にしたいので、定番商品というのは基本的にもうけないことにしている。
 その唯一の例外が『バナナ大福』だ。
 こればかりは、毎日、たとえ仕入れが難しくても店においている。

 それにはこんなわけがある。

 数年前、バナナ大福を一時期だけ売り出した。
 そこそこ人気で、毎日のように買いに来てくれる常連さんもできたが、そのうち自分が飽きたので作らなくなった。
 なかには惜しむ声や再販を求む声もあったが、そのうち気が向いたら作ると答えただけだった。

 ある朝、店のシャッターをあけに外へでると、店のちょうど前にバナナが一本おかれていた。
 その日は、誰かが落としたか酔って置いていったかでもしたのだろうと、気にも留めなかったが、バナナは次の日も、その次の日も、そのまた次の日も、朝、店の前に置かれるようになった。
 10日ばかり続いたころから、これは誰かのいたずらに違いないと思い始めた。
 うちは一階が和菓子屋の店舗で、二階がうちの家族の寝室等住まいになっている。
 そこで二階の窓をうっすらあけて、誰がバナナを置きにきているのか、確かめることにした。
 幸い、一階と二階のあいだには軒もビニール製の日よけなどもないので、二階からの視界をさえぎるものは何もない。
 
 夕方、店を閉める時、バナナはなかった。
 夕食後、バナナはない。
 風呂上り、バナナはない。
 それからしばらく窓にはりついて外を見ていたのだが、結局、就寝時刻0時になっても、バナナをおくものは現れなかった。
 朝はやくに置いているのかもしれない、と、とりあえず監視はあきらめて眠りについてしばらくののち。
 なにかの気配に、はっと目が覚めた。
 時計をみれば夜3時。
 世界は真っ暗闇だ。
 ふと、バナナが置かれているか、気になった。
 妙に置かれているような気がした。
 窓辺に近寄る。

 バナナは……あった。
 窓の隙間にはさみこまれていた。
 
 ここは二階である。
 軒もビニール製の日よけも、足がかりになるものがなにもない、二階の窓に、誰がどうやってバナナをはさめるというのか……。
 それを考えた時、もうこれはバナナ大福をつくれという和菓子の神かなにかの思し召しなのだろう、と直感した。
 次の日から、バナナ大福はうちのはじめての定番商品となった。
 それ以来、バナナが店の前に置かれることはなくなった。

 いや、今年に入って一度だけ。
 町の交通機関全体がまひしてバナナを仕入れられなかった日に、ふと気づくと店先にバナナが房ごとおかれていた。
 普通の店先にならんでいる4本や5本の房ではない。
 まるで南国で実っているのをそのままもぎとってきたかのような、両手で抱きかかえなくてはいけないほどの、大きな房だった。


【終】

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【8/27】創作発表板五周年【50レス祭り】
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【雑談】 スレを立てるまでもない相談・雑談スレ34
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